IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧

特許7223366表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体
<>
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図1
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図2
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図3
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図4
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図5
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図6
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図7
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図8
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図9
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図10
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図11
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図12
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図13
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図14
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図15
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図16
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図17
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図18
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図19
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図20
  • 特許-表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/16 20060101AFI20230209BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20230209BHJP
   C09J 5/02 20060101ALI20230209BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20230209BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20230209BHJP
   C08J 5/12 20060101ALI20230209BHJP
   B32B 37/12 20060101ALI20230209BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20230209BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
C08J7/16 CEZ
C09J5/00
C09J5/02
C09J11/06
C09J163/00
C08J5/12
B32B37/12
B32B7/12
B32B27/38
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019014814
(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公開番号】P2020122080
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 章雄
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 清嘉
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 剛一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】高原 淳
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105435658(CN,A)
【文献】国際公開第2010/074238(WO,A1)
【文献】特開昭63-223043(JP,A)
【文献】特開昭52-098720(JP,A)
【文献】特表2011-523986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/24
C08J 7/00- 7/18
B29C 71/04
B29B 11/16、15/08-15/14
C09J 1/00- 5/10、 9/00-201/10
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維にケトン基を有する高分子化合物を含浸させて形成した複合材料の表面を改質する方法であって、
前記複合材料の表面の高分子化合物に、エポキシ基と不飽和結合含有基とを有する有機化合物を接触させる接触ステップと、
前記有機化合物を接触させた状態で前記高分子化合物に光エネルギーを照射することで、前記高分子化合物のケトン基を構成する炭素原子をラジカル化させて、ラジカル化させた前記高分子化合物のケトン基を構成する炭素原子と二重結合を形成していた酸素原子をヒドロキシ基に変化させて、ラジカル化させた前記高分子化合物のケトン基を構成する炭素原子を前記有機化合物の不飽和結合含有基と反応させることにより、前記有機化合物に基づくエポキシ基を有する有機化合物鎖を前記高分子化合物のケトン基があった箇所にグラフティングして、前記複合材料の前記高分子化合物がある前記表面を接着可能に改質するグラフティングステップと、
を含むことを特徴とする表面改質方法。
【請求項2】
前記高分子化合物は、ケトン基を含む芳香族ケトン基を有し、
前記グラフティングステップでは、前記有機化合物に基づくエポキシ基を有する有機化合物鎖を前記高分子化合物の芳香族ケトン基があった箇所にグラフティングすることを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項3】
前記有機化合物は、エポキシ基を含むグリシジル基を有し、
前記グラフティングステップでは、前記有機化合物に基づくグリシジル基を有する有機化合物鎖を前記高分子化合物にグラフティングすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面改質方法。
【請求項4】
前記有機化合物は、不飽和結合含有基を含むメタクリル酸基を有し、
前記グラフティングステップでは、ラジカル化させた前記高分子化合物のケトン基を前記有機化合物のメタクリル酸基と反応させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の表面改質方法。
【請求項5】
強化繊維にケトン基を有する高分子化合物を含浸させて形成した複合材料に部材を接着する方法であって、
前記複合材料の表面の高分子化合物に、エポキシ基と不飽和結合含有基とを有する有機化合物を接触させる接触ステップと、
前記有機化合物を接触させた状態で前記高分子化合物に光エネルギーを照射することで、前記高分子化合物のケトン基を構成する炭素原子をラジカル化させて、ラジカル化させた前記高分子化合物のケトン基を構成する炭素原子と二重結合を形成していた酸素原子をヒドロキシ基に変化させて、ラジカル化させた前記高分子化合物のケトン基を構成する炭素原子を前記有機化合物の不飽和結合含有基と反応させることにより、前記有機化合物に基づくエポキシ基を有する有機化合物鎖を前記高分子化合物のケトン基があった箇所にグラフティングして、前記複合材料の前記高分子化合物がある前記表面を接着可能に改質した前記複合材料を得るグラフティングステップと、
改質した前記複合材料の前記高分子化合物がある前記表面に、前記部材を接触して配置する部材配置ステップと、
前記高分子化合物にグラフティングされたエポキシ基を開環反応させることにより、前記部材を前記複合材料の前記高分子化合物がある前記表面に接着する接着ステップと、
を含むことを特徴とする接着方法。
【請求項6】
強化繊維にケトン基を有する高分子化合物を含浸させて形成した複合材料同士を接着する方法であって、
前記複合材料の表面の高分子化合物に、エポキシ基と不飽和結合含有基とを有する有機化合物を接触させる接触ステップと、
前記有機化合物を接触させた状態で前記高分子化合物に光エネルギーを照射することで、前記高分子化合物のケトン基を構成する炭素原子をラジカル化させて、ラジカル化させた前記高分子化合物のケトン基を構成する炭素原子と二重結合を形成していた酸素原子をヒドロキシ基に変化させて、ラジカル化させた前記高分子化合物のケトン基を構成する炭素原子を前記有機化合物の不飽和結合含有基と反応させることにより、前記有機化合物に基づくエポキシ基を有する有機化合物鎖を前記高分子化合物のケトン基があった箇所にグラフティングして、前記複合材料の前記高分子化合物がある前記表面を接着可能に改質した前記複合材料を得るグラフティングステップと、
改質した前記複合材料の前記高分子化合物がある前記表面同士を対向して重ね合わせて配置する対向配置ステップと、
前記高分子化合物にグラフティングされたエポキシ基を開環反応させることにより、前記複合材料の前記高分子化合物がある前記表面同士を接着する接着ステップと、
を含むことを特徴とする接着方法。
【請求項7】
前記接着ステップの前に、接着する面に、前記高分子化合物にグラフティングされたエポキシ基の開環反応を促すアミン基を有する硬化剤を添加することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の接着方法。
【請求項8】
前記接着ステップの前に、接着する面に、さらに、エポキシ基を有する接着剤を添加することを特徴とする請求項7に記載の接着方法。
【請求項9】
強化繊維にケトン基を有する高分子化合物が含浸され、前記高分子化合物のケトン基を構成する炭素原子がラジカル化されて、ラジカル化された前記高分子化合物のケトン基を構成する炭素原子と二重結合を形成していた酸素原子がヒドロキシ基に変化した複合材料と、
前記複合材料の表面の高分子化合物において、前記高分子化合物のケトンを構成する炭素原子のある箇所に、不飽和結合含有基に含まれる不飽和結合がラジカル反応してグラフティングされた、エポキシ基を有する複数の有機化合物鎖と、
を含み、
複数の前記有機化合物鎖により、前記複合材料の前記高分子化合物がある前記表面が接着可能に改質されていることを特徴とする表面改質材料。
【請求項10】
強化繊維にケトン基を有する高分子化合物が含浸され、前記高分子化合物のケトン基を構成する炭素原子がラジカル化されて、ラジカル化された前記高分子化合物のケトン基を構成する炭素原子と二重結合を形成していた酸素原子がヒドロキシ基に変化した複合材料と、
前記複合材料の表面の高分子化合物において、前記高分子化合物のケトンを構成する炭素原子のある箇所に、不飽和結合含有基に含まれる不飽和結合がラジカル反応してグラフティングされた、エポキシ基の開環反応によって生じるヒドロキシ基を有する複数の有機化合物鎖と、
前記有機化合物鎖を介して前記複合材料と結合された部材と、
を含むことを特徴とする接合体。
【請求項11】
強化繊維にケトン基を有する高分子化合物が含浸され、前記高分子化合物のケトン基を構成する炭素原子がラジカル化されて、ラジカル化された前記高分子化合物のケトン基を構成する炭素原子と二重結合を形成していた酸素原子がヒドロキシ基に変化し複数の複合材料と、
前記複合材料の表面の高分子化合物において、前記高分子化合物のケトンを構成する炭素原子のある箇所に、不飽和結合含有基に含まれる不飽和結合がラジカル反応してグラフティングされた、エポキシ基の開環反応によって生じるヒドロキシ基を有する複数の有機化合物鎖と、
を含み、
一対の有機化合物鎖を介して複数の前記複合材料が結合されていることを特徴とする接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機、自動車、車両、船舶等の構造物を構成する構造体に、軽量でかつ耐久性を持つ高分子材料が用いられ始めている。この高分子材料の表面には、塗料、接着剤、床材、封止剤等としてエポキシ樹脂硬化剤が塗布されて用いられることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/175740号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高分子材料の性質によっては、特許文献1のエポキシ樹脂硬化剤に例示される種々の化合物を塗料、接着剤、床材、封止剤等として用いることができない場合がある。すなわち、高分子材料の性質によっては、高分子材料の表面には、上記したような種々の化合物を塗布することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、特にケトン基を有する高分子材料について、この高分子材料の表面を改質する表面改質方法、接着方法、表面改質材料及び接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、表面改質方法は、ケトン基を有する高分子材料の表面を改質する方法であって、前記高分子材料に、エポキシ基と不飽和結合含有基とを有する有機化合物を接触させる接触ステップと、前記有機化合物を接触させた前記高分子材料に光エネルギーを照射することで、前記高分子材料のケトン基をラジカル化させて、ラジカル化させた前記高分子材料のケトン基を前記有機化合物の不飽和結合含有基と反応させることにより、前記有機化合物に基づくエポキシ基を有する有機化合物鎖を前記高分子材料のケトン基があった箇所にグラフティングするグラフティングステップと、を含むことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、高分子材料の表面のケトン基と、エポキシ基と不飽和結合含有基とを有する有機化合物とをラジカル反応させることにより、この有機化合物に基づくエポキシ基を有する有機化合物鎖をこの高分子材料のケトン基があった箇所にグラフティングすることで、この高分子材料の表面を改質することができる。
【0008】
この構成において、前記高分子材料は、ケトン基を含む芳香族ケトン基を有し、前記グラフティングステップでは、前記有機化合物に基づくエポキシ基を有する有機化合物鎖を前記高分子材料の芳香族ケトン基があった箇所にグラフティングすることが好ましい。この構成によれば、表面にあるケトン基が芳香族ケトン基となっているような、反応性が低く表面改質が困難に思える高分子材料であっても、同様にこの高分子材料の表面を改質することができる。
【0009】
これらの構成において、前記有機化合物は、エポキシ基を含むグリシジル基を有し、前記グラフティングステップでは、前記有機化合物に基づくグリシジル基を有する有機化合物鎖を前記高分子材料にグラフティングすることが好ましい。この構成によれば、エポキシ基がグリシジル基となっている場合であっても、同様にこの高分子材料の表面の改質に寄与させることができる。
【0010】
これらの構成において、前記有機化合物は、不飽和結合含有基を含むメタクリル酸基を有し、前記グラフティングステップでは、ラジカル化させた前記高分子材料のケトン基を前記有機化合物のメタクリル酸基と反応させることが好ましい。この構成によれば、メタクリル酸基により、より好適にラジカル化させた高分子材料のケトン基と反応させることができるので、より好適にこの高分子材料の表面を改質することができる。
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、接着方法は、ケトン基を有する高分子材料に部材を接着する方法であって、前記高分子材料に、エポキシ基と不飽和結合含有基とを有する有機化合物を接触させる接触ステップと、前記有機化合物を接触させた前記高分子材料に光エネルギーを照射することで、前記高分子材料のケトン基をラジカル化させて、ラジカル化させた前記高分子材料のケトン基を前記有機化合物の不飽和結合含有基と反応させることにより、前記有機化合物に基づくエポキシ基を有する有機化合物鎖を前記高分子材料のケトン基があった箇所にグラフティングして、表面を改質した前記高分子材料を得るグラフティングステップと、改質した前記高分子材料の前記表面に、前記部材を接触して配置する部材配置ステップと、前記高分子材料にグラフティングされたエポキシ基を開環反応させることにより、前記部材を前記高分子材料の前記表面に接着する接着ステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、高分子材料の表面のケトン基と、エポキシ基と不飽和結合含有基とを有する有機化合物とをラジカル反応させることにより、この有機化合物に基づくエポキシ基を有する有機化合物鎖をこの高分子材料のケトン基があった箇所にグラフティングすることで、この高分子材料の表面を部材との接着が可能なように改質でき、このエポキシ基を開環反応させることでこの高分子材料の表面に部材を接着することができる。
【0013】
あるいは、接着方法は、ケトン基を有する高分子材料同士を接着する方法であって、前記高分子材料に、エポキシ基と不飽和結合含有基とを有する有機化合物を接触させる接触ステップと、前記有機化合物を接触させた前記高分子材料に光エネルギーを照射することで、前記高分子材料のケトン基をラジカル化させて、ラジカル化させた前記高分子材料のケトン基を前記有機化合物の不飽和結合含有基と反応させることにより、前記有機化合物に基づくエポキシ基を有する有機化合物鎖を前記高分子材料のケトン基があった箇所にグラフティングして、表面を改質した前記高分子材料を得るグラフティングステップと、改質した前記高分子材料の前記表面同士を対向して重ね合わせて配置する対向配置ステップと、前記高分子材料にグラフティングされたエポキシ基を開環反応させることにより、前記高分子材料の前記表面同士を接着する接着ステップと、を含むことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、高分子材料の表面のケトン基と、エポキシ基と不飽和結合含有基とを有する有機化合物とをラジカル反応させることにより、この有機化合物に基づくエポキシ基を有する有機化合物鎖をこの高分子材料のケトン基があった箇所にグラフティングすることで、この高分子材料の表面同士の接着が可能なように改質でき、このエポキシ基を開環反応させることでこの高分子材料の表面同士を接着することができる。
【0015】
これらの構成において、前記接着ステップの前に、接着する面に、前記高分子材料にグラフティングされたエポキシ基の開環反応を促すアミン基を有する硬化剤を添加することが好ましい。この構成によれば、添加した硬化剤のアミン基がエポキシ基の開環反応を促すことで、高分子材料の表面における接着性を高めることができる。
【0016】
アミン基を有する硬化剤を添加する構成において、前記接着ステップの前に、接着する面に、さらに、エポキシ基を有する接着剤を添加することが好ましい。この構成によれば、添加した接着剤のエポキシ基により、高分子材料の表面における接着性を高めることができる。
【0017】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、表面改質材料は、ヒドロキシ基を有する高分子材料と、前記高分子材料の表面において、前記高分子材料のヒドロキシ基のある箇所にグラフティングされたエポキシ基を有する複数の有機化合物鎖と、を含むことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、改質前の高分子材料の表面のケトン基に由来するヒドロキシ基と、このヒドロキシ基の箇所にグラフティングされたエポキシ基を有する複数の有機化合物鎖と、を含むので、ケトン基を有する高分子材料の表面を改質した表面改質材料を提供することができる。
【0019】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、接合体は、ヒドロキシ基を有する高分子材料と、前記高分子材料の表面において、前記高分子材料のヒドロキシ基のある箇所にグラフティングされた、エポキシ基の開環反応によって生じるヒドロキシ基を有する複数の有機化合物鎖と、前記有機化合物鎖を介して前記高分子材料と結合された部材と、を含むことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、改質前の高分子材料の表面のケトン基に由来するヒドロキシ基と、このヒドロキシ基の箇所にグラフティングされたエポキシ基を有する複数の有機化合物鎖と、を含む表面改質材料において、このエポキシ基を開環反応させることでこの高分子材料の表面に部材を接着した接合体を提供することができる。
【0021】
あるいは、接合体は、ヒドロキシ基を有する複数の高分子材料と、前記高分子材料の表面において、前記高分子材料のヒドロキシ基のある箇所にグラフティングされた、エポキシ基の開環反応によって生じるヒドロキシ基を有する複数の有機化合物鎖と、を含み、一対の有機化合物鎖を介して複数の前記高分子材料が結合されていることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、改質前の高分子材料の表面のケトン基に由来するヒドロキシ基と、このヒドロキシ基の箇所にグラフティングされたエポキシ基を有する複数の有機化合物鎖と、を含む、ケトン基を有する高分子材料の表面を改質した表面改質材料において、このエポキシ基を開環反応させることでこの高分子材料の表面同士を接着した接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、第1の実施形態に係る表面改質方法の一例を示すフローチャートである。
図2図2は、図1の表面改質方法及び図1の表面改質方法で得られる表面改質材料を説明する説明図である。
図3図3は、図1の表面改質方法で使用される材料と、図2の表面改質材料20と、のそれぞれにおけるATR-FTIRスペクトルを示すグラフである。
図4図4は、第2の実施形態に係る接着方法の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、図4の接着方法を説明する説明図である。
図6図6は、図4の接着方法で得られる接合体を説明する説明図である。
図7図7は、図4の接着方法で使用される表面改質材料において、エチレンジアミンを晒して熱処理する条件を変更した場合のATR-FTIRスペクトルを示す第1のグラフである。
図8図8は、図4の接着方法で使用される表面改質材料において、エチレンジアミンを晒して熱処理する条件を変更した場合のATR-FTIRスペクトルを示す第2のグラフである。
図9図9は、第3の実施形態に係る接着方法の別の一例を示すフローチャートである。
図10図10は、図9の接着方法を説明する説明図である。
図11図11は、図9の接着方法で得られる接合体を説明する説明図である。
図12図12は、実施例及び比較例に用いられる試料片を説明する説明図である。
図13図13は、比較例1に係る試料の作製方法を説明する説明図である。
図14図14は、実施例1に係る試料の作製方法を説明する説明図である。
図15図15は、実施例1及び比較例1における破壊試験の結果を示すグラフである。
図16図16は、図15の破壊試験から得られた実施例1及び比較例1に係る各試料の破壊応力の値を示すグラフである。
図17図17は、比較例1の破壊後の試料を示す写真である。
図18図18は、実施例1の破壊後の試料を示す写真である。
図19図19は、実施例2及び比較例2における破壊試験の結果を示すグラフである。
図20図20は、比較例2の破壊後の試料を示す写真である。
図21図21は、実施例2の破壊後の試料を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0025】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る表面改質方法の一例を示すフローチャートである。第1の実施形態に係る表面改質方法は、図1に示すように、接触ステップS11と、グラフティングステップS12と、を含む。第1の実施形態に係る表面改質方法は、さらに、図1に示すように、洗浄ステップS13を含むことが好ましい。なお、グラフティング(Grafting)とは、一定の形状を有する材料と分子鎖とが、分子間力等による弱い接着ではなく、共有結合によって強い結合が形成されることを指す。
【0026】
図2は、図1の表面改質方法及び図1の表面改質方法で得られる表面改質材料20を説明する説明図である。第1の実施形態に係る表面改質方法は、図2の(A)に示すケトン基を有する高分子材料10の表面10aを改質することにより、図2の(C)に示す表面改質材料20を得る方法である。なお、高分子材料10は、図2の(A)では、板状のものが採用されているが、本発明はこれに限定されることなく、任意の形状のものが適宜採用される。
【0027】
図1の表面改質方法に用いられる、図2の(A)に示す高分子材料10の具体的様態について、以下に説明する。高分子材料10は、高分子材料10に含まれて高分子材料10の構成に寄与する高分子化合物が、ケトン基を有し、具体的には、下記化学式(1)で表される化合物を含んで構成されたものが例示される。なお、下記化学式(1)におけるnは、二価の置換基R及びRの繰り返し数を示している。
【0028】
【化1】
【0029】
ここで、上記化学式(1)中のR及びRは、二価の置換基であり、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基、ネオペンチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基等のアルキレン基、シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基、ビニレン基、アリレン基、プロペニレン基等のアルケニレン基、エチニレン基、プロパルギレン基等のアルキニレン基、フェニレン基、トリレン基、キシリレン基、ナフチレン基等のアリーレン基、ベンジレン基、フェニルエチレン基、フェニルプロピレン基等のアラルキレン基等の二価炭化水素基、並びに、これらの二価炭化水素基にエーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、チオカルボニル基が介在した置換基が挙げられる。
【0030】
上記化学式(1)中のR及びRは、少なくともいずれか一方がアリーレン基またはアラルキレン基であることが好ましい。さらに、上記化学式(1)中のケトン基を構成する炭素原子と、R及びRのアリーレン基またはアラルキレン基に含まれるベンゼン環を構成するいずれか1つの炭素原子とが結合していることにより芳香族ケトン基が形成されていることがより好ましい。
【0031】
高分子材料10は、高分子材料10に含まれて高分子材料10の構成に寄与する高分子化合物が、ケトン基を含む芳香族ケトン基を有する場合、高い耐熱性、耐疲労性、耐薬品性、及び絶縁性に優れる構造材料として適したものとなるとともに、第1の実施形態に係る表面改質方法を含む本発明に係る表面改質方法で表面10aを改質することが可能なものとなる。また、高分子材料10は、さらに、高分子材料10に含まれて高分子材料10の構成に寄与する高分子化合物において、この芳香族ケトン基がベンゾフェノン基である場合、これらの特性により優れ構造材料としてより適したものとなるため、より好ましい。
【0032】
高分子材料10は、高分子材料10に含まれて高分子材料10の構成に寄与する高分子化合物が、ベンゼン環がエーテルとケトンにより結合した直鎖状ポリマー構造を持つ芳香族ポリエーテルケトンであることが、さらに好ましい。より具体的には、高分子材料10に含まれて高分子材料10の構成に寄与する高分子化合物が、下記化学式(2)で表されるポリエーテルエーテルケトン (Poly Ether Ether Ketone、PEEK) 、下記化学式(3)で表されるポリエーテルケトン (Poly Ether Ketone、PEK) 及び下記化学式(4)で表されるポリエーテルケトンケトン (Poly Ether Ketone Ketone、PEKK)のいずれかであることが好ましいものとして例示される。
【0033】
【化2】
【0034】
【化3】
【0035】
【化4】
【0036】
ここで、ポリエーテルエーテルケトンは、上記化学式(2)に示すように、各ベンゼン環の間の結合がエーテル結合、エーテル結合、ケトン結合の順で配されている。ポリエーテルケトンは、上記化学式(3)に示すように、各ベンゼン環の間の結合がエーテル結合とケトン結合とが交互に配されている。ポリエーテルケトンケトンは、上記化学式(4)に示すように、各ベンゼン環の間の結合がエーテル結合、ケトン結合、ケトン結合の順で配されている。
【0037】
高分子材料10は、高分子材料10に含まれて高分子材料10の構成に寄与する高分子化合物が、芳香族ポリエーテルケトンである場合、より高い耐熱性、耐疲労性、耐薬品性、及び絶縁性に優れる構造材料として適したものとなるとともに、第1の実施形態に係る表面改質方法を含む本発明に係る表面改質方法で表面10aを改質することが可能なものとなるため、さらに好ましい。
【0038】
高分子材料10は、強化繊維をさらに含有し、強化繊維に上記した高分子化合物を含浸させて形成した複合材料であることが好ましく、この場合、強化繊維により強度が向上する。ここで、高分子材料10に用いられる強化繊維は、5μm以上7μm以下の基本繊維を数100本から数1000本程度束ねたものが例示され、この強化繊維を構成する基本繊維は、カーボン繊維、ガラス繊維、プラスチック繊維、アラミド繊維及び金属繊維が好適なものとして例示される。
【0039】
接触ステップS11は、図2の(B)に示すように、高分子材料10の表面10aに、エポキシ基と不飽和結合含有基とを有する有機化合物12を接触させるステップである。接触ステップS11では、具体的には、液体の有機化合物12を注ぎ込んで満たした容器14に、高分子材料10を投入することで、高分子材料10の表面10aに有機化合物12を浸す。
【0040】
図1の表面改質方法の接触ステップS11で用いられる、図2の(B)に示す有機化合物12の具体的様態について、以下に説明する。有機化合物12は、エポキシ基と不飽和結合含有基とを有する化合物、すなわち、下記化学式(5)で表される化合物が例示される。
【0041】
【化5】
【0042】
この有機化合物12は、上記化学式(5)に示すように、エポキシ基にさらにメチレン基が加えられて構成されたグリシジル基を有することが好ましい。有機化合物12は、このようにエポキシ基を含むグリシジル基を有する場合であっても、後述するグラフティングステップS12で、好適に高分子材料10の表面10aを改質することを可能にする。
【0043】
また、上記化学式(5)中のRは、不飽和結合を含有する一価の置換基であり、具体的には、ビニレン基、アリレン基、プロペニレン基等のアルケニレン基、エチニレン基、プロパルギレン基等のアルキニレン基等の二価炭化水素基、並びに、これらの二価炭化水素基にエーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、チオカルボニル基が介在した置換基が挙げられる。
【0044】
上記化学式(5)中のRは、エーテル基及びカルボニル基を1つずつ介在したイソプロペニレン基であるメタクリル酸基であることが好ましい。有機化合物12は、上記化学式(5)中のRがメタクリル酸基である場合、下記化学式(6)で表される。有機化合物12は、このように不飽和結合含有基を含むメタクリル酸基を有する場合、後述するグラフティングステップS12で、このメタクリル酸基が、より好適にラジカル化させた高分子材料10のケトン基と反応することができるので、より好適にこの高分子材料10の表面10aを改質することを可能にする。
【0045】
【化6】
【0046】
以上により、有機化合物12は、一方側がグリシジル基であり、他方側がメタクリル酸基である上記化学式(6)で表されるメタクリル酸グリシジル(Glycidyl Methacrylate、GMA)のモノマーが、特に好ましい具体的様態として挙げられる。
【0047】
接触ステップS11を実行した後に実行されるグラフティングステップS12は、まず、図2の(B)に示すように、接触ステップS11で有機化合物12を接触させた高分子材料10の表面10aに光エネルギー16を照射させることで、高分子材料10のケトン基をラジカル化させる。グラフティングステップS12におけるこのラジカル化の化学式は、高分子材料10がポリエーテルエーテルケトンである場合、下記化学式(7)で表される。
【0048】
【化7】
【0049】
この化学反応では、hνで示されている光エネルギー16を照射することで、高分子材料10のケトン基を構成する炭素原子をラジカル化し、この炭素原子と二重結合を形成していた酸素元素を、この炭素原子と単結合を形成するヒドロキシ基に反応させる。より具体的には、高分子材料10がポリエーテルエーテルケトンである場合の上記化学式(7)では、ベンゾフェノン基におけるケトン基の部分を構成する炭素原子をラジカル化してセミベンゾピナコールラジカル(Semi Benzopinacol Radical)を形成し、この炭素原子と二重結合を形成していた酸素元素を、この炭素原子と単結合を形成するヒドロキシ基に反応させる。なお、上記化学式(7)におけるMは、系内にある任意のモノマーを示している。
【0050】
光エネルギー16は、その波長領域が、高分子材料10のケトン基の化学的性質に応じて適宜定められる。光エネルギー16は、高分子材料10がポリエーテルエーテルケトンである場合、波長領域が紫外線域であることが好ましく、詳細には、波長領域が290nm以上360nm以下であることが好ましい。もしくは、光エネルギー16は、高分子材料10がポリエーテルエーテルケトンである場合、高圧水銀灯を用いて、波長が253.7nmの紫外線と、波長が365.0nmの紫外線とを照射する形態を採用することが好ましい。
【0051】
また、光エネルギー16は、その照射時間についても、高分子材料10のケトン基の化学的性質に応じて適宜定められる。光エネルギー16は、高分子材料10がポリエーテルエーテルケトンである場合、上記した種々の紫外線の照射時間が、90分以上であることが好ましく、120分以上であることがより好ましい。光エネルギー16は、高分子材料10がポリエーテルエーテルケトンである場合、照射時間を制御することで、グラフティングする有機化合物鎖20c(図2の(C)参照)の密度及び長さを制御することができる。
【0052】
グラフティングステップS12は、次に、図2の(B)に示すように、ラジカル化させた高分子材料10のケトン基を有機化合物12の不飽和結合含有基と反応させることにより、有機化合物12に基づくエポキシ基を有する有機化合物鎖20c(図2の(C)参照)を、高分子材料10のケトン基があった箇所10bにグラフティングするステップである。グラフティングステップS12におけるこのラジカル化させた高分子材料10のケトン基と有機化合物12の不飽和結合含有基との間で起こる化学反応式は、高分子材料10がポリエーテルエーテルケトンであり、有機化合物12がメタクリル酸グリシジルである場合、下記化学式(8)で表される。
【0053】
【化8】
【0054】
この化学反応では、まず、上述したようにラジカル化することにより高分子材料10においてケトン基からヒドロキシ基に変化した箇所にあるラジカル化した炭素原子が、有機化合物12の不飽和結合含有基に含まれる不飽和結合に対してラジカル反応を引き起こす。これにより、有機化合物12の不飽和結合が1つ開かれ、有機化合物12の不飽和結合を構成する一方の炭素原子と高分子材料10のこのヒドロキシ基を構成する炭素原子との間に共有結合を形成するとともに、有機化合物12の不飽和結合を構成していた他方の炭素原子がラジカル化する。
【0055】
さらに、有機化合物12の不飽和結合を構成していたラジカル化した他方の炭素原子が、有機化合物12の不飽和結合含有基に含まれる不飽和結合に対してラジカル反応を引き起こすことで、有機化合物12の不飽和結合含有基に含まれる不飽和結合においてラジカル重合反応が進行する。このようにして、高分子材料10においてケトン基からヒドロキシ基に変化した箇所にある炭素原子を起点として、有機化合物12に基づくエポキシ基を有する有機化合物鎖20c(図2の(C)参照)を伸長することができる。
【0056】
より具体的には、高分子材料10がポリエーテルエーテルケトンであり、有機化合物12がメタクリル酸グリシジルである場合の上記化学式(8)では、高分子材料10のセミベンゾピナコールラジカルが、有機化合物12のメタクリル酸基の二重結合に対してラジカル反応を引き起こし、セミベンゾピナコールラジカルを構成していた炭素原子とメタクリル酸基の一方の炭素原子との間に共有結合を形成するとともに、メタクリル酸基の他方の炭素原子がラジカル化する。そして、ラジカル化したメタクリル酸基の他方の炭素原子が、有機化合物12のメタクリル酸基の二重結合に対してラジカル反応を引き起こすことで、有機化合物12のメタクリル酸基の二重結合においてラジカル重合反応が進行する。このようにして、高分子材料10であるポリエーテルエーテルケトンのベンゾフェノン基におけるケトン基の部分を構成する炭素原子を起点として、有機化合物12であるメタクリル酸グリシジルに基づくグリシジル基を有する有機化合物鎖20c(図2の(C)参照)を伸長することができる。なお、上記化学式(8)におけるmは、有機化合物鎖20cにおけるメタクリル酸グリシジルに基づく二価の置換基の繰り返し数を示している。
【0057】
このグラフティングステップS12を経ることによって得られる表面改質材料20は、図2の(C)に示すように、ヒドロキシ基を有する高分子材料20´と、高分子材料20´の表面20aにおいて高分子材料20´のヒドロキシ基のある箇所20bにグラフティングされたエポキシ基を有する複数の有機化合物鎖20cと、を含む。表面改質材料20は、表面20aにポリマーである有機化合物鎖20cがブラシのようにグラフティングされたものであることから、ポリマーブラシと称されることもある。
【0058】
ここで、高分子材料20´は、高分子材料10に由来するものであり、高分子材料10のケトン基がグラフティングステップS12を経て、炭素原子と酸素原子との間の二重結合の一方が同じ炭素原子と酸素原子との間の単結合として残存することでヒドロキシ基を形成した状態となり、他方が同じ炭素原子と有機化合物鎖20cとの間の共有結合を形成することでグラフティングを形成した状態となったものである。このため、有機化合物鎖20cは、高分子材料20´の表面20aにおいて、高分子材料10のケトン基のあった箇所10bを由来とする高分子材料20´のヒドロキシ基のある箇所20bに、グラフティングされる。
【0059】
洗浄ステップS13は、グラフティングステップS12を経て得られた表面改質材料20を洗浄するステップである。洗浄ステップS13では、具体的には、得られた表面改質材料20を容器14から取り出し、テトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran、THF)で高分子材料20´を含む表面改質材料20の全体を洗浄した後、真空乾燥する。表面改質材料20は、この洗浄ステップS13を経ることで、グラフティングされずに高分子材料20´の表面20aを含む全面に残存していた有機化合物12を好適に除去することができる。
【0060】
図3は、図1の表面改質方法で使用される材料である高分子材料10及び有機化合物12と、図2の表面改質材料20と、のそれぞれにおけるATR-FTIRスペクトルを示すグラフである。ここで、ATR-FTIRスペクトルとは、多重反射型全反射減衰フーリエ赤外分光測定(Attenuated Total Reflectance Fourier Transform Infrared Spectroscopy、ATR-FTIR)によって得られる表面組成を表すスペクトルのことであり、一般的には、波長の逆数を基準としたエネルギーの単位の1種であるカイザー(Kayser、単位;cm-1)を横軸としてグラフに表示される。
【0061】
図3のグラフには、図3の(A)に示す高分子材料10であるポリエーテルエーテルケトンのATR-FTIRスペクトルと、図3の(B)に示す有機化合物12であるメタクリル酸グリシジルのATR-FTIRスペクトルと、図3の(C)に示す洗浄ステップS13で十分に洗浄された表面改質材料20であるメタクリル酸グリシジルのポリマーがグラフティングされたポリエーテルエーテルケトンのATR-FTIRスペクトルと、が横軸を揃えて、縦軸方向にずらして配列して描かれている。なお、以下において、説明の都合上、適宜、ポリエーテルエーテルケトンをPEEKと、メタクリル酸グリシジルをGMAと、メタクリル酸グリシジルのポリマーがグラフティングされたポリエーテルエーテルケトンをPGMA-g-PEEKと、それぞれ略記する。
【0062】
図3に示す各ATR-FTIRスペクトルにおける、グリシジル基のエポキシ環の環伸縮に帰属される特異なピークが観測される横軸が908cm-1の位置、及び、エステル基のC=O伸縮振動に帰属される特異なピークが観測される横軸が1730cm-1の位置において、PEEKからはピークが観測されず、GMA及びPGMA-g-PEEKからはピークが観測された。
【0063】
図3に示す各ATR-FTIRスペクトルにおける、エーテル基のC-O伸縮振動に帰属される特異なピークが観測される横軸が1225cm-1の位置、芳香環のC=C伸縮振動に帰属される特異なピークが観測される1490cm-1の位置及び1600cm-1の位置、並びに、ベンゾフェノン基のC=O伸縮振動に帰属される特異なピークが観測される1651cm-1の位置において、GMAからはピークが観測されず、PEEK及びPGMA-g-PEEKからはピークが観測された。
【0064】
これらの図3に示す各ATR-FTIRスペクトルの結果に基づき、PGMA-g-PEEKからは、PEEKから観測される特異なピークと、GMAから観測される特異なピークが観測されることから、PGMA-g-PEEKは、PEEKの表面に対してGMAのポリマーがグラフティングされて表面が改質されたものであることがわかる。
【0065】
第1の実施形態に係る高分子材料10の表面改質方法は、以上のような構成を有するので、高分子材料10の表面10aのケトン基と、エポキシ基と不飽和結合含有基とを有する有機化合物12とをラジカル反応させることにより、この有機化合物12に基づくエポキシ基を有する有機化合物鎖20cをこの高分子材料10のケトン基があった箇所10bにグラフティングすることで、この高分子材料10の表面10aを改質することができる。
【0066】
また、これによって得られる第1の実施形態に係る表面改質材料20は、改質前の高分子材料10の表面10aのケトン基に由来するヒドロキシ基と、このヒドロキシ基の箇所20bにグラフティングされたエポキシ基を有する複数の有機化合物鎖20cと、を含むので、ケトン基を有する高分子材料10の表面を改質したものとして提供することができる。
【0067】
第1の実施形態に係る高分子材料10の表面改質方法は、さらに、高分子材料10が、ケトン基を含む芳香族ケトン基を有し、グラフティングステップS12では、有機化合物12に基づくエポキシ基を有する有機化合物鎖20cを高分子材料10の芳香族ケトン基があった箇所にグラフティングしている。このため、第1の実施形態に係る高分子材料10の表面改質方法は、表面にあるケトン基が芳香族ケトン基となっているような、反応性が低く表面改質が困難に思える高分子材料10であっても、同様にこの高分子材料10の表面10aを改質することができる。
【0068】
第1の実施形態に係る高分子材料10の表面改質方法は、さらに、有機化合物12が、エポキシ基を含むグリシジル基を有し、グラフティングステップS12では、有機化合物12に基づくグリシジル基を有する有機化合物鎖20cを高分子材料10にグラフティングしている。このため、第1の実施形態に係る高分子材料10の表面改質方法は、エポキシ基がグリシジル基となっている場合であっても、同様にこの高分子材料10の表面10aを改質に寄与させることができる。
【0069】
第1の実施形態に係る高分子材料10の表面改質方法は、さらに、有機化合物12が、不飽和結合含有基を含むメタクリル酸基を有し、グラフティングステップS12では、ラジカル化させた高分子材料10のケトン基を有機化合物12のメタクリル酸基と反応させている。このため、第1の実施形態に係る高分子材料10の表面改質方法は、メタクリル酸基により、より好適にラジカル化させた高分子材料10のケトン基と反応させることができるので、より好適にこの高分子材料10の表面10aを改質することができる。
【0070】
[第2の実施形態]
図4は、第2の実施形態に係る接着方法の一例を示すフローチャートである。第2の実施形態に係る接着方法は、第1の実施形態に係る表面改質方法において、その後ろに部材配置ステップS21と接着ステップS22とを追加する変更をしたものである。第2の実施形態に係る接着方法の詳細な説明では、第1の実施形態に係る表面改質方法と同様の構成については第1の実施形態と同様の符号を用い、その詳細な説明を省略する。
【0071】
部材配置ステップS21は、グラフティングステップS12を経て改質した高分子材料20´の表面20aに、部材30(図5参照)を接触して配置するステップである。
【0072】
図5は、図4の接着方法を説明する説明図である。部材配置ステップS21では、詳細には、まず、図5に示すように、表面改質材料20の高分子材料20´において、複数の有機化合物鎖20cがグラフティングしている側の表面20aに、部材30の接着したい側の面である表面30aを対向させる。部材配置ステップS21では、そして、表面20aに、有機化合物鎖20cを介して、部材30の表面30aを接触して配置する。
【0073】
なお、部材配置ステップS21では、次のステップである接着ステップS22の前に、表面20aと部材30の表面30aとの間に、上記した有機化合物鎖20cに加えて、有機化合物鎖20c中のエポキシ基の開環反応を促すアミン基を有する硬化剤を添加することが好ましい。より具体的には、ここで添加する硬化剤が、下記化学式(9)で表されるエチレンジアミン(Ethylenediamine)であることが好ましいものとして例示される。
【0074】
【化9】
【0075】
アミン基を有する硬化剤が添加される場合、硬化剤のアミン基がエポキシ基の開環反応を促すことで、高分子材料20´の表面20aにおける接着性を高めることができる。また、上記化学式(9)で表されるエチレンジアミンが硬化剤である場合、アミン基がエポキシ基にアプローチする際の立体障害が小さいため、より適切に硬化剤のアミン基がエポキシ基の開環反応を促すことができる。
【0076】
また、部材配置ステップS21では、次のステップである接着ステップS22の前に、表面20aと部材30の表面30aとの間に、上記した有機化合物鎖20c及び硬化剤に加えて、さらに、エポキシ基を有する接着剤を添加することが好ましい。より具体的には、ここで添加する接着剤が、下記化学式(10)で表されるエポン(Epon、登録商標)レジン(Resin)828であることが好ましいものとして例示される。なお、下記化学式(10)におけるpは、鍵括弧内に係る二価の置換基の繰り返し数を示している。
【0077】
【化10】
【0078】
さらにエポキシ基を有する接着剤が添加される場合、エポキシ基を有する接着剤が、グラフティングされた有機化合物鎖20cのエポキシ基のエクステンションとしての役割を果たすことで、1箇所でも多くの有機化合物鎖20cのエポキシ基を接着に寄与させることができるため、これにより、高分子材料20´の表面20aにおける接着性を高めることができる。また、上記化学式(10)で表される化合物が接着剤である場合、化合物の鎖が長いため、より適切に有機化合物鎖20cのエポキシ基のエクステンションとしての役割を果たすことができる。
【0079】
接着ステップS22は、表面改質材料20の高分子材料20´にグラフティングされた有機化合物鎖20c中のエポキシ基を開環反応させることにより、部材30を高分子材料20´の表面20aに接着するステップである。接着ステップS22では、詳細には、一定時間加熱、例えば、70℃で12時間加熱することで、有機化合物鎖20c中のエポキシ基の開環反応を促すことで、有機化合物鎖20cのエポキシ基の開環反応によって生じるヒドロキシ基が結合されている炭素原子と部材30の表面30aにある分子等との間に、直接または他の原子を介して、共有結合を形成することにより、表面改質材料20の表面20aと部材30の表面30aとを接合する。
【0080】
図6は、図4の接着方法で得られる接合体40を説明する説明図である。上記した接着ステップS22を経ることによって得られる接合体40は、図6に示すように、ヒドロキシ基を有する高分子材料20´と、高分子材料20´の表面20aにおいて高分子材料20´のヒドロキシ基のある箇所20b(図2及び図5参照)にグラフティングされた、エポキシ基の開環反応によって生じるヒドロキシ基を有する複数の有機化合物鎖20c´と、有機化合物鎖20c´を介して高分子材料20´と結合された部材30´と、を含む。
【0081】
ここで、有機化合物鎖20c´は、表面改質材料20の有機化合物鎖20cに由来するものであり、有機化合物鎖20cのエポキシ基が接着ステップS22を経て開環反応を起こすことでヒドロキシ基を形成し、部材30の表面30aにある分子等との間に、直接または他の原子を介して、共有結合を形成した状態となったものである。また、部材30´は、部材30に由来するものであり、表面30aにある分子等が有機化合物鎖20c´との間に、直接または他の原子を介して、共有結合を形成した状態となったものである。
【0082】
図7は、図4の接着方法で使用される表面改質材料20において、エチレンジアミンを晒して熱処理する条件を変更した場合のATR-FTIRスペクトルを示す第1のグラフである。図8は、図4の接着方法で使用される表面改質材料20において、エチレンジアミンを晒して熱処理する条件を変更した場合のATR-FTIRスペクトルを示す第2のグラフである。
【0083】
図7のグラフには、横軸が2200cm-1以上4000cm-1以下の領域において、曲線61と、曲線62と、曲線63と、が重ねて描かれている。曲線61は、エチレンジアミンを意図的に全く晒していない状態のPGMA-g-PEEKのATR-FTIRスペクトルであり、接着ステップS32を全く施していないPGMA-g-PEEKのATR-FTIRスペクトルに相当する。曲線62は、エチレンジアミンを意図的に晒した状態で、70℃で30分間加熱処理したPGMA-g-PEEKのATR-FTIRスペクトルであり、実質的に接着ステップS32を30分間施したPGMA-g-PEEKのATR-FTIRスペクトルに相当する。曲線63は、エチレンジアミンを意図的に晒した状態で、70℃で120分間加熱処理したPGMA-g-PEEKのATR-FTIRスペクトルであり、実質的に接着ステップS32を120分間施したPGMA-g-PEEKのATR-FTIRスペクトルに相当する。
【0084】
図7に示す各ATR-FTIRスペクトルにおける、ヒドロキシ基に帰属される特異なピークが観測される横軸が3300cm-1の位置において、曲線61ではピークが観測されず、曲線62では緩やかなピークが観測され、曲線63では曲線62よりも高い緩やかなピークが観測された。
【0085】
図8のグラフには、横軸が720cm-1以上1000cm-1以下の領域において、曲線71と、曲線72と、曲線73と、が重ねて描かれている。曲線71は、エチレンジアミンを意図的に全く晒していない状態のPGMA-g-PEEKのATR-FTIRスペクトルであり、接着ステップS32を全く施していないPGMA-g-PEEKのATR-FTIRスペクトルに相当する。曲線72は、エチレンジアミンを意図的に晒した状態で、70℃で30分間加熱処理したPGMA-g-PEEKのATR-FTIRスペクトルであり、実質的に接着ステップS32を30分間施したPGMA-g-PEEKのATR-FTIRスペクトルに相当する。曲線73は、エチレンジアミンを意図的に晒した状態で、70℃で120分間加熱処理したPGMA-g-PEEKのATR-FTIRスペクトルであり、実質的に接着ステップS32を120分間施したPGMA-g-PEEKのATR-FTIRスペクトルに相当する。
【0086】
図8に示す各ATR-FTIRスペクトルにおける、グリシジル基のエポキシ環の環伸縮に帰属される特異なピークが観測される横軸が908cm-1の位置において、曲線71ではピークが観測され、曲線72では曲線71よりも低いピークが観測され、曲線73ではピークが観測されなかった。
【0087】
これらの図7及び図8に示す各ATR-FTIRスペクトルの結果に基づき、エチレンジアミンを意図的に晒した状態で加熱した時間を長くすればするほど、ヒドロキシ基に帰属される特異なピークが生じて高く観測されるようになるとともに、グリシジル基のエポキシ環に帰属される特異なピークが低く観測されて消滅するようになることから、PGMA-g-PEEKは、エチレンジアミンを意図的に晒した状態で加熱することで、グリシジル基のエポキシ環がエチレンジアミンとの反応に用いられてヒドロキシ基を生成していることが十分に推察される。このことは、接着ステップS22において、硬化剤としてエチレンジアミンを添加した場合に、上記したように、有機化合物鎖20cのエポキシ基の開環反応によってヒドロキシ基が生成する化学反応が起きているということを支持している。
【0088】
第2の実施形態に係る接着方法は、以上のような構成を有するので、第1の実施形態に係る表面改質方法と同様の方法で、この高分子材料10の表面10aを部材30との接着が可能な状態である高分子材料20´に改質でき、このエポキシ基を開環反応させることでこの高分子材料20´の表面20aに部材30を接着することができる。
【0089】
また、これによって得られる第2の実施形態に係る接合体40は、改質前の高分子材料10の表面10aのケトン基に由来するヒドロキシ基と、このヒドロキシ基の箇所にグラフティングされたエポキシ基を有する複数の有機化合物鎖20cと、を含む表面改質材料20において、このエポキシ基を開環反応させることでこの高分子材料20´の表面20aに部材30を接着したものとして提供することができる。
【0090】
第2の実施形態に係る接着方法は、さらに、接着ステップS22の前に、接着する面に、高分子材料20´にグラフティングされたエポキシ基の開環反応を促すアミン基を有する硬化剤を添加している。このため、第2の実施形態に係る接着方法は、添加した硬化剤のアミン基がエポキシ基の開環反応を促すことで、高分子材料20´の表面20aにおける接着性を高めることができる。
【0091】
第2の実施形態に係る接着方法は、さらに、接着ステップS22の前に、接着する面に、エポキシ基を有する接着剤を添加している。このため、第2の実施形態に係る接着方法は、添加した接着剤のエポキシ基により、高分子材料20´の表面20aにおける接着性を高めることができる。
【0092】
[第3の実施形態]
図9は、第3の実施形態に係る接着方法の別の一例を示すフローチャートである。第3の実施形態に係る接着方法は、第2の実施形態に係る接着方法において、部材配置ステップS21を対向配置ステップS31に変更し、この変更に伴い接着ステップS22を接着ステップS32に変更したものである。第2の実施形態に係る接着方法の詳細な説明では、第2の実施形態に係る接着方法と同様の構成については第2の実施形態と同様の符号を用い、その詳細な説明を省略する。
【0093】
対向配置ステップS31は、グラフティングステップS12を経て改質した高分子材料20´の表面20a同士を対向して重ね合わせて配置するステップである。
【0094】
図10は、図9の接着方法を説明する説明図である。対向配置ステップS31では、詳細には、まず、図10に示すように、一対の表面改質材料20を準備し、一方の表面改質材料20の高分子材料20´において、複数の有機化合物鎖20cがグラフティングしている側の表面20aと、他方の表面改質材料20の高分子材料20´における同様の表面20aとを、表面20aに直交する方向に沿って互いに対向させる。対向配置ステップS31では、そして、一対の表面改質材料20を、双方の有機化合物鎖20cを介して、互いの表面20aを接触させた状態に配置する。
【0095】
接着ステップS32は、両方の表面改質材料20について、表面改質材料20の高分子材料20´にグラフティングされた有機化合物鎖20c中のエポキシ基を開環反応させることにより、一対の高分子材料20´の表面20a同士を接着するステップである。接着ステップS32では、詳細には、一定時間加熱、例えば、70℃で12時間加熱することで、有機化合物鎖20c中のエポキシ基の開環反応を促すことで、有機化合物鎖20cのエポキシ基の開環反応によって生じるヒドロキシ基が結合されている炭素原子同士の間に、直接または他の原子を介して、共有結合を形成することにより、一対の表面改質材料20の表面20a同士を接合する。
【0096】
接着ステップS32におけるエポキシ基の開環反応の化学式は、高分子材料10がポリエーテルエーテルケトンであり、有機化合物12がメタクリル酸グリシジルであり、アミン基を有する硬化剤としてエチレンジアミンが添加されている場合、下記化学式(11)で表される。
【0097】
【化11】
【0098】
上記化学式(11)では、アミン基を形成する一方の窒素原子が、一方の表面改質材料20にグラフティングされているグリシジル基のうちエポキシ基を形成する2つの炭素原子のうち、立体障害の小さい端側の炭素原子に求核攻撃をすることで、このエポキシ基を開環させる。また、アミン基を形成する他方の窒素原子が、他方の表面改質材料20にグラフティングされているグリシジル基のうちエポキシ基を形成する2つの炭素原子のうち、立体障害の小さい端側の炭素原子に求核攻撃をすることで、このエポキシ基を開環させる。そして、求核攻撃に関与した窒素原子と炭素原子との各間に、それぞれ共有結合を形成する。このようにして、一方の表面改質材料20にグラフティングされているエポキシ基に由来するヒドロキシ基のある炭素原子と、他方の表面改質材料20にグラフティングされているエポキシ基に由来するヒドロキシ基のある炭素原子とを、エチレンジアミンに由来する二価の置換基を介して、結合する。なお、第2の実施形態で図7及び図8を用いて示した各ATR-FTIRスペクトルの結果が、上記化学式(11)に従った化学反応が起きていることを支持している。
【0099】
図11は、図9の接着方法で得られる接合体80を説明する説明図である。上記した接着ステップS32を経ることによって得られる接合体80は、図11に示すように、ヒドロキシ基を有する複数、すなわち一対の高分子材料20´と、高分子材料20´の表面20aにおいて高分子材料20´のヒドロキシ基のある箇所20b(図2及び図5参照)にグラフティングされた、エポキシ基の開環反応によって生じるヒドロキシ基を有する複数の有機化合物鎖20c´´と、を含み、一対の有機化合物鎖20c´´を介して複数の高分子材料20´が結合されたものである。
【0100】
ここで、有機化合物鎖20c´´は、表面改質材料20の有機化合物鎖20cに由来するものであり、有機化合物鎖20cのエポキシ基が接着ステップS32を経て開環反応を起こすことでヒドロキシ基を形成し、このヒドロキシ基を形成した炭素原子同士の間に、直接または他の原子を介して、共有結合を形成した状態となったものである。
【0101】
第3の実施形態に係る接着方法は、以上のような構成を有するので、第1の実施形態に係る表面改質方法と同様の方法で、この高分子材料10の表面10a同士の接着が可能な状態である高分子材料20´に改質でき、このエポキシ基を開環反応させることでこの高分子材料20´の表面20a同士を接着することができる。
【0102】
また、これによって得られる第3の実施形態に係る接合体80は、改質前の高分子材料10の表面10aのケトン基に由来するヒドロキシ基と、このヒドロキシ基の箇所にグラフティングされたエポキシ基を有する複数の有機化合物鎖20cと、を含む表面改質材料20において、このエポキシ基を開環反応させることでこの高分子材料20´の表面20a同士を接着したものとして提供することができる。
【実施例
【0103】
以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0104】
[第1の実施例]
図12は、実施例及び比較例に用いられる試験片100を説明する説明図である。第1の実施例用いられる試験片100は、図12に示すように、板状であり、長手方向において長さL、長手方向に直交する一方の方向である幅方向において幅W、並びに、長手方向及び幅方向に直交する厚さ方向において厚さTの各パラメータを用いて説明される。
【0105】
図13は、比較例1に係る試料211の作製方法を説明する説明図である。試料211は、次のようにして作製した。まず、図13に示すように、2枚の高分子材料10としてのPEEKの表面10aを互いに長手方向にずらして厚さ方向に対向させた。ここで、採用した2枚の高分子材料10は、長さ15mm、幅15mm、厚さ1.1mmとした。また、この際の表面10aの対向している領域は、長さ9mm、幅15mmとした。
【0106】
次に、図13に示すように、2枚の高分子材料10の表面10aの間に、硬化剤としてのエチレンジアミンと上記化学式(10)の接着剤とを互いに均一となるように十分に混合したペースト剤112を塗布することにより添加した。そして、図13に示すように、2枚の高分子材料10の表面10aが互いに対向している領域をおもり114により厚さ方向に加圧した状態を形成した。ここで、おもり114は、500gとした。最後に、図13に示す状態下で、70℃で1時間加熱処理をし、その後に120℃で4時間加熱処理をすることで、比較例1に係る試料211を作製した。
【0107】
図14は、実施例1に係る試料111の作製方法を説明する説明図である。試料111は、次のようにして作製した。まず、図14に示すように、2枚の表面改質材料20としてのPGMA-g-PEEKの有機化合物鎖20cがグラフティングされた側の表面20aを互いに長手方向にずらして厚さ方向に対向させた。ここで、採用した2枚の表面改質材料20は、比較例1で用いた高分子材料10と同様に、長さ15mm、幅15mm、厚さ1.1mmとした。また、この際の表面20aの対向している領域は、比較例1の表面10aの対向している領域と同様に、長さ9mm、幅15mmとした。
【0108】
次に、図14に示すように、2枚の表面改質材料20の表面20aの間に、比較例1で用いたものと同様のペースト剤112を塗布することにより添加した。そして、図14に示すように、2枚の表面改質材料20の表面20aが互いに対向している領域を、比較例1で用いたものと同様のおもり114により、厚さ方向に加圧した状態を形成した。最後に、図14に示す状態下で、比較例1と同様の条件の加熱処理をすることで、実施例1に係る試料111を作製した。
【0109】
比較例1に係る試料211と、実施例1に係る試料111とをそれぞれ作製した後、これらの試料211と試料111とについて、2枚が重ねられていない長手方向の両端部を所定の引張試験装置の把持部で把持し、これらの両端部を引き離す方向に引張応力を付加し、一定時間ごとにこの引張応力を増加させていき、引張応力がどの値になったときにこれらの試料211と試料111とが破壊するかを調査することで、引張応力に対する耐性を調査するという破壊試験をした。
【0110】
図15は、実施例1及び比較例1における破壊試験の結果を示すグラフである。図15は、横軸が破壊試験を開始した時点における両端部の把持部の間隔の初期値を基準とした、両端部の把持部の間隔を表すパラメータ[単位;mm]であり、縦軸が各試料に対して付加している引張方向の力[単位;N]であるグラフであり、曲線115と、曲線215と、を有する。
【0111】
曲線115は、実施例1に係る試料111に対して上記した破壊試験をした時の結果を表す曲線であり、試料111の両端部の把持部の間隔が初期値に対して約2.5mm広くなり、試料111に約900Nの引張力が付加された時点で、試料111が破壊したことを示している。曲線215は、比較例1に係る試料211に対して上記した破壊試験をした時の結果を表す曲線であり、試料211の両端部の把持部の間隔が初期値に対して約0.3mm広くなり、試料211に約150Nの引張力が付加された時点で、試料211が破壊したことを示している。
【0112】
図16は、図15の破壊試験から得られた実施例1及び比較例1に係る各試料の破壊応力の値を示すグラフである。比較例1に係る試料211は、図16に示すように、図15の曲線215に示す結果に基づき、2枚の高分子材料10の接着部分が破壊した時のせん断応力が0.68MPaであることがわかった。実施例1に係る試料111は、図16に示すように、図15の曲線115に示す結果に基づき、2枚の表面改質材料20の接着部分が破壊した時のせん断応力が3.91MPaであることがわかった。
【0113】
図15及び図16に示す結果から、実施例1に係る試料111は、比較例1に係る試料211に比して、接着部分のせん断応力に対する耐性が約6倍に向上したことがわかった。すなわち、同じペースト剤112を用いて接着する前に、高分子材料10としてのPEEKに対して第1の実施形態に係る表面改質方法を用いて処理をして表面改質材料20としてのPGMA-g-PEEKとすることで、接着部分のせん断応力に対する耐性を約6倍に向上させることができることが分かった。このため、高分子材料10としてのPEEKに対して第1の実施形態に係る表面改質方法を用いて処理をすることで、接着面積1cmあたりに換算すると約40kgの荷重に対する耐性を向上させることができることが分かった。
【0114】
図17は、比較例1の破壊後の試料211を示す写真である。図17の写真は、破壊後の試料211の接着面側を撮影したものである。破壊後の試料211は、図17に示すように、接着領域217において、きれいに剥離して、元々の高分子材料10に近い状態となっていることが分かった。また、比較例1の試料211に対する破壊試験から得られた図16に示す0.68MPaという値は、接着部分の剥離に対する耐性を表すせん断応力値であることが分かった。
【0115】
図18は、実施例1の破壊後の試料111を示す写真である。図18の写真は、破壊後の試料111の接着面側を撮影したものである。破壊後の試料111は、図18に示すように、左側に写っている元々の表面改質材料20が、接着領域117において破断していることが分かった。また、実施例1に係る試料111に対する破壊試験から得られた図16に示す3.91MPaという値は、接着部分の剥離に対する耐性を表すせん断応力値ではなく、表面改質材料20の引張力に対する耐性を表す引張応力値であることが分かった。
【0116】
第1の実施例では、以上により、高分子材料10としてのPEEKに対して第1の実施形態に係る表面改質方法を用いて処理をして表面改質材料20としてのPGMA-g-PEEKとすることで、接着性を大幅に改善することができ、少なくとも接着部分のせん断応力に対する耐性を約6倍以上にするとともに、その耐性を高分子材料10としてのPEEK自体が持っている引張力に対する耐性よりも高くまで引き上げることができることが分かった。
【0117】
[第2の実施例]
比較例2に係る試料221(図20参照)を、比較例1に係る試料211と同様の方法で作製した。比較例2に係る試料221は、比較例1に係る試料211において、採用した2枚の高分子材料10の大きさを長さ40mm、幅5mm、厚さ1mmと変更し、表面10aの対向している領域の大きさを長さ10mm、幅5mmと変更したものであり、その他の作製条件は比較例1に係る試料211と同じとした。
【0118】
実施例2に係る試料121(図21参照)を、比較例1に係る試料211と同様の方法で作製した。比較例2に係る試料221は、比較例1に係る試料211において、採用した2枚の高分子材料10の大きさを長さ40mm、幅5mm、厚さ1mmと変更し、表面10aの対向している領域の大きさを長さ10mm、幅5mmと変更したものであり、その他の作製条件は比較例1に係る試料211と同じとした。
【0119】
比較例2に係る試料221と、実施例2に係る試料121とをそれぞれ作製した後、これらの試料221と試料121とについて、第1の実施例と同様の破壊試験をした。
【0120】
図19は、実施例2及び比較例2における破壊試験の結果を示すグラフである。図19は、横軸が破壊試験を開始した時点における両端部の把持部の間隔の初期値を基準とした、両端部の把持部の間隔を表すパラメータ[単位;mm]であり、縦軸が各試料に対して付加している引張方向の応力[単位;MPa]であるグラフであり、曲線125と、曲線225と、を有する。
【0121】
曲線125は、実施例1に係る試料121に対して上記した破壊試験をした時の結果を表す曲線であり、試料121の両端部の把持部の間隔が初期値に対して約2.0mm広くなり、試料121に約7.28MPaの引張応力が付加された時点で、試料121が破壊したことを示している。曲線225は、比較例2に係る試料221に対して上記した破壊試験をした時の結果を表す曲線であり、試料221の両端部の把持部の間隔が初期値に対して約1.0mm広くなり、試料221に約2.20MPaの引張応力が付加された時点で、試料211が破壊したことを示している。
【0122】
図19に示す結果から、実施例2に係る試料121は、比較例2に係る試料221に比して、接着部分のせん断応力に対する耐性が約3.3倍に向上したことがわかった。すなわち、同じペースト剤112を用いて接着する前に、高分子材料10としてのPEEKに対して第1の実施形態に係る表面改質方法を用いて処理をして表面改質材料20としてのPGMA-g-PEEKとすることで、接着部分のせん断応力に対する耐性を約3.3倍に向上させることができることが分かった。このため、高分子材料10としてのPEEKに対して第1の実施形態に係る表面改質方法を用いて処理をすることで、接着面積1cmあたりに換算すると約62.5kgの荷重に対する耐性を向上させることができることが分かった。
【0123】
図20は、比較例2の破壊後の試料221を示す写真である。図20の写真は、破壊後の試料221の接着面側を撮影したものである。破壊後の試料221は、図20に示すように、接着領域227において、きれいに剥離して、元々の高分子材料10に近い状態となっていることが分かった。また、比較例2の試料221に対する破壊試験から得られた図19に示す2.20MPaという値は、接着部分の剥離に対する耐性を表すせん断応力値であることが分かった。
【0124】
図21は、実施例2の破壊後の試料121を示す写真である。図21の写真は、破壊後の試料121の接着面側を撮影したものである。破壊後の試料121は、図21に示すように、右側に写っている一方側の元々の表面改質材料20には、左側に写っている他方側の元々の表面改質材料20に由来する小片が接着領域127において接着したままであり、左側に写っている他方の元々の表面改質材料20が、接着領域127において破断していることが分かった。また、実施例2に係る試料121に対する破壊試験から得られた図19に示す7.28MPaという値は、接着部分の剥離に対する耐性を表すせん断応力値ではなく、表面改質材料20の引張力に対する耐性を表す引張応力値であることが分かった。
【0125】
第2の実施例では、以上により、第1の実施例と同様に、高分子材料10としてのPEEKに対して第1の実施形態に係る表面改質方法を用いて処理をして表面改質材料20としてのPGMA-g-PEEKとすることで、接着性を大幅に改善することができ、少なくとも接着部分のせん断応力に対する耐性を約3.3倍以上にするとともに、その耐性を高分子材料10としてのPEEK自体が持っている引張力に対する耐性よりも高くまで引き上げることができることが分かった。
【符号の説明】
【0126】
10,20´ 高分子材料
10a,20a,30a 表面
10b,20b 箇所
12 有機化合物
14 容器
16 光エネルギー
20 表面改質材料
20c,20c´、20c´´ 有機化合物鎖
30,30´ 部材
40,80 接合体
61,62,63,71,72,73,115,125,215,225 曲線
100 試験片
111,121,211,221 試料
112 ペースト剤
114 おもり
117,127,217,227 接着領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21