(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】スイング解析装置
(51)【国際特許分類】
A63B 69/36 20060101AFI20230209BHJP
【FI】
A63B69/36 541P
(21)【出願番号】P 2019088258
(22)【出願日】2019-05-08
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 弘祐
(72)【発明者】
【氏名】中村 佑斗
(72)【発明者】
【氏名】辻内 伸好
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰人
(72)【発明者】
【氏名】松本 賢太
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-530047(JP,A)
【文献】特開2016-150107(JP,A)
【文献】特開2019-37409(JP,A)
【文献】特開2016-140558(JP,A)
【文献】特開2014-023769(JP,A)
【文献】米国特許第10569133(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2003/0040380(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 69/36
A63B 69/00
A63B 71/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレイヤーが打具をスイングする時のスイング挙動の特徴量の時系列データを、周波数領域のデータに変換する変換部と、
前記周波数領域のデータ
のうち、特定の周波数帯域の値を変更する変更部と、
前記変更後の周波数領域のデータを、時間領域のデータに逆変換する逆変換部と
を備え
、
前記変更部は、前記周波数領域のデータのうち、前記特定の周波数帯域の値と、前記特定の周波数帯域に連続する周波数帯域の値との連続性を維持するように、前記特定の周波数帯域の値を変更する、
スイング解析装置。
【請求項2】
前記特定の周波数帯域は、ピーク値を含む、
請求項
1に記載のスイング解析装置。
【請求項3】
前記スイング挙動を計測装置により計測した計測データに基づいて、逆動力学計算により前記特徴量としてのトルク、力、エネルギー及びパワーの少なくとも1つの前記時系列データを導出するデータ取得部
をさらに備える、
請求項1
または2に記載のスイング解析装置。
【請求項4】
前記逆変換後の時間領域のデータに基づいて、前記スイング挙動を再構成する再構成部
をさらに備える、
請求項1から
3のいずれかに記載のスイング解析装置。
【請求項5】
前記再構成部は、前記特徴量としてのトルク、力、エネルギー及びパワーの少なくとも1つの前記逆変換後の時間領域のデータに基づいて、順動力学計算により前記スイング挙動を再構成する、
請求項
4に記載のスイング解析装置。
【請求項6】
プレイヤーが打具をスイングする時のスイング挙動の特徴量の時系列データを、周波数領域のデータに変換する変換部と、
前記周波数領域のデータを変更する変更部と、
前記変更後の周波数領域のデータを、時間領域のデータに逆変換する逆変換部と、
前記逆変換後の時間領域のデータに基づいて、前記スイング挙動を再構成する再構成部と
を備える、
スイング解析装置。
【請求項7】
プレイヤーが打具をスイングする時のスイング挙動の特徴量の時系列データを、周波数領域のデータに変換することと、
前記周波数領域のデータ
のうち、特定の周波数帯域の値を変更することと、
前記変更後の周波数領域のデータを、時間領域のデータに逆変換することと
を含
み、
前記変更することは、前記周波数領域のデータのうち、前記特定の周波数帯域の値と、前記特定の周波数帯域に連続する周波数帯域の値との連続性を維持するように、前記特定の周波数帯域の値を変更することを含む、
スイング解析方法。
【請求項8】
プレイヤーが打具をスイングする時のスイング挙動の特徴量の時系列データを、周波数領域のデータに変換することと、
前記周波数領域のデータを変更することと、
前記変更後の周波数領域のデータを、時間領域のデータに逆変換することと、
前記逆変換後の時間領域のデータに基づいて、前記スイング挙動を再構成することと
を含む、
スイング解析方法。
【請求項9】
プレイヤーが打具をスイングする時のスイング挙動の特徴量の時系列データを、周波数領域のデータに変換することと、
前記周波数領域のデータを変更することと、
前記変更後の周波数領域のデータ
のうち、特定の周波数帯域の値を、時間領域のデータに逆変換することと
をコンピュータに実行させ
、
前記変更することは、前記周波数領域のデータのうち、前記特定の周波数帯域の値と、前記特定の周波数帯域に連続する周波数帯域の値との連続性を維持するように、前記特定の周波数帯域の値を変更することを含む、
スイング解析プログラム。
【請求項10】
プレイヤーが打具をスイングする時のスイング挙動の特徴量の時系列データを、周波数領域のデータに変換することと、
前記周波数領域のデータを変更することと、
前記変更後の周波数領域のデータを、時間領域のデータに逆変換することと、
前記逆変換後の時間領域のデータに基づいて、前記スイング挙動を再構成することと
をコンピュータに実行させる、
スイング解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレイヤーが打具をスイングする時のスイング挙動を解析するスイング解析装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~4では、ゴルフスイングを計測した計測データに基づいて逆動力学解析により関節トルクのデータが導出され、これに基づいてスイングモデルが作成される。その後、計測時に使用されたゴルフクラブとは異なるゴルフクラブの仕様をスイングモデルに与え、順動力学計算により新たなゴルフスイングがシミュレーションされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-034468号公報
【文献】特開2016-019718号公報
【文献】特開2016-054984号公報
【文献】特開2011-115250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のゴルフスイングのシミュレーションでは、計測されたスイング挙動の上述した関節トルクのような特徴量は一定と仮定し、ゴルフクラブの仕様のみを変更して、新たなゴルフスイングが推定される。しかし、このような方法は、計測されたゴルフスイングと特徴量が異なるゴルフスイング、例えば、別人が行うゴルフスイングをシミュレーションすることはできない。かといって、やみくもに計測されたスイング挙動の特徴量を変更すると、ゴルフスイングらしいゴルフスイングすら再現できなくなる。よって、計測データに基づく新たなゴルフスイングのシミュレーションの幅は、極めて制限されていた。なお、同様のことは、ゴルフスイングに限らず、テニスや野球等のスイングにも当てはまる。
【0005】
本発明は、計測されたスイング挙動の特徴量を変更した上で、スイング挙動の再構成を可能にするスイング解析装置、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1観点に係るスイング解析装置は、プレイヤーが打具をスイングする時のスイング挙動の特徴量の時系列データを、周波数領域のデータに変換する変換部と、前記周波数領域のデータを変更する変更部と、前記変更後の周波数領域のデータを、時間領域のデータに逆変換する逆変換部とを備える。
【0007】
第2観点に係るスイング解析装置は、第1観点に係るスイング解析装置であって、前記変更部は、前記周波数領域のデータのうち、特定の周波数帯域の値を変更する。
【0008】
第3観点に係るスイング解析装置は、第2観点に係るスイング解析装置であって、前記変更部は、前記周波数領域のデータのうち、前記特定の周波数帯域の値と、前記特定の周波数帯域に連続する周波数帯域の値との連続性を維持するように、前記特定の周波数帯域の値を変更する。
【0009】
第4観点に係るスイング解析装置は、第2観点又は第3観点に係るスイング解析装置であって、前記特定の周波数帯域は、ピーク値を含む。
【0010】
第5観点に係るスイング解析装置は、第1観点から第4観点のいずれかに係るスイング解析装置であって、前記スイング挙動を計測装置により計測した計測データに基づいて、逆動力学計算により前記特徴量としてのトルク、力、エネルギー及びパワーの少なくとも1つの前記時系列データを導出するデータ取得部をさらに備える。
【0011】
第6観点に係るスイング解析装置は、第1観点から第5観点のいずれかに係るスイング解析装置であって、前記逆変換後の時間領域のデータに基づいて、前記スイング挙動を再構成する再構成部をさらに備える。
【0012】
第7観点に係るスイング解析装置は、第6観点に係るスイング解析装置であって、前記再構成部は、前記特徴量としてのトルク、力、エネルギー及びパワーの少なくとも1つの前記逆変換後の時間領域のデータに基づいて、順動力学計算により前記スイング挙動を再構成する。
【0013】
第8観点に係るスイング解析方法は、以下のことを含む。また、第9観点に係るスイング解析プログラムは、以下のことをコンピュータに実行させる。
・プレイヤーが打具をスイングする時のスイング挙動の特徴量の時系列データを、周波数領域のデータに変換すること
・前記周波数領域のデータを変更すること
・前記変更後の周波数領域のデータを、時間領域のデータに逆変換すること
【発明の効果】
【0014】
以上の観点によれば、計測されたスイング挙動の特徴量を変更した上で、スイング挙動の再構成を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスイング解析装置を含むスイング解析システムの全体構成を示す図。
【
図2】
図1のスイング解析システムの電気的構成を示す機能ブロック図。
【
図3】本発明の一実施形態に係るスイング解析方法の流れを示すフローチャート。
【
図4A】肩周りのトルクの変更前後のゴルファーの腕及びシャフトの軌跡を示すグラフ。
【
図4B】
図4Aに対応する、肩周りのトルクの変更前後のヘッド速度の時系列データを示すグラフ。
【
図4C】
図4A及び
図4Bに対応する、変更前後の肩回りのトルクの時間領域のデータを示すグラフ。
【
図4D】
図4A~
図4Cに対応する、変更前後の肩周りのトルクの空間領域のデータを示すグラフ。
【
図5A】手首周りのトルクの変更前後のゴルファーの腕及びシャフトの軌跡を示すグラフ。
【
図5B】
図5Aに対応する、手首周りのトルクの変更前後のヘッド速度の時系列データを示すグラフ。
【
図5C】
図5A及び
図5Bに対応する、変更前後の手首回りのトルクの時間領域のデータを示すグラフ。
【
図5D】
図5A~
図5Cに対応する、変更前後の手首回りのトルクの空間領域のデータを示すグラフ。
【
図6A】手首周りのトルクの変更前のゴルファーの腕及びシャフトの軌跡を示す別のグラフ。
【
図6B】
図6Aに対応する、変更前後の手首回りのトルクの時間領域のデータを示すグラフ。
【
図6C】
図6A及び
図6Bに対応する、手首周りのトルクの変更後のゴルファーの腕及びシャフトの軌跡を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係るスイング解析装置、方法及びプログラムについて説明する。
【0017】
<1.スイング解析システムの概要>
図1に、本実施形態に係るスイング解析装置1を含むスイング解析システム100の全体構成図を示す。スイング解析装置1は、ゴルファー7がゴルフクラブ4をスイングする時のスイング挙動を計測した計測データに基づいて、ゴルフスイングをシミュレーションする装置である。本実施形態では、スイング挙動の計測は、計測装置2により行われ、スイング解析装置1は、計測装置2とともに、スイング解析システム100を構成する。ここでのシミュレーションは、ゴルフクラブの開発や、ゴルフのレッスン、ゴルファーに対するゴルフクラブのフィッティング等の様々な場面で活用することができる。以下、計測装置2及びスイング解析装置1の構成について説明した後、スイング解析方法の流れについて説明する。
<2.各部の詳細>
<2-1.計測装置>
計測装置2は、ゴルファー7がゴルフクラブ4をスイングする時のスイング挙動を計測する。ここで計測される挙動には、ゴルファー7及びゴルフクラブ4の少なくとも一方における1又は複数の部位の挙動が含まれ得る。計測装置2は、ゴルファー7がゴルフクラブ4を使用してゴルフスイングを行う間、スイング挙動を所定のサンプリング周波数で計測する。本実施形態では、少なくともアドレスから、トップ、インパクトを順に経て、フィニッシュまでの期間において、ゴルフスイングが計測される。よって、計測装置2により計測される計測データは、少なくともアドレスからフィニッシュまでの解析期間におけるスイング挙動を表す時系列データとなる。
【0018】
本実施形態に係る計測装置2は、
図1に示すように、ゴルフクラブ4のグリップ42に取り付けられた慣性センサユニットである。ただし、慣性センサユニットは、ゴルフクラブ4のシャフト40やヘッド41等の任意の箇所に取り付けることができ、さらに複数の箇所に取り付けることもできる。
図2に示すように、計測装置2としての慣性センサユニットには、加速度センサ21、角速度センサ22及び地磁気センサ23が搭載されている。本実施形態に係る加速度センサ21、角速度センサ22及び地磁気センサ23はそれぞれ、これらのセンサ21~23の取付位置の加速度、角速度及び地磁気のデータを検出する三軸センサである。
【0019】
ただし、計測装置2は、慣性センサユニットに限らず、例えば、距離画像センサ又はモーションキャプチャシステムであってもよいし、慣性センサユニット、距離画像センサ及びモーションキャプチャシステムからなる群から選択される2つ以上の機器を任意に組み合わせたものであってもよい。計測装置2の構成は、ゴルフスイングのシミュレーションに適した計測データを取得することができる限り、特に限定されない。
【0020】
計測装置2には、計測データを外部のスイング解析装置1に送信するための通信装置24も搭載されている。なお、通信装置24は、スイング動作の妨げにならないように無線式であってもよいし、ケーブルを介して有線式にスイング解析装置1に接続するようにしてもよい。本実施形態では、計測データは、通信装置24を介してリアルタイムにスイング解析装置1に送信される。しかしながら、例えば、計測装置2内の記憶装置(図示されない)に計測データを格納しておき、ゴルフスイングの終了後に当該記憶装置から計測データを取り出して、スイング解析装置1に受け渡すようにしてもよい。
【0021】
<2-2.スイング解析装置>
スイング解析装置1は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、デスクトップコンピュータや、ラップトップコンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン等として実現される。
図2に示すとおり、スイング解析装置1は、コンピュータで読み取り可能なCD-ROM等の記録媒体30から、或いはインターネットやLAN等の通信ネットワーク上に存在する外部機器から、スイング解析プログラム3を汎用のコンピュータにインストールすることにより製造される。スイング解析プログラム3は、計測装置2から送られてくる計測データに基づいて、ゴルフスイングの挙動を解析するソフトウェアであり、スイング解析装置1に後述する動作を実行させる。
【0022】
スイング解析装置1は、表示部11、入力部12、記憶部13、制御部14及び通信部15を備える。これらの部11~15は、互いにバス線16を介して接続されており、相互に通信可能である。表示部11は、液晶ディスプレイ等で構成することができ、ゴルフスイングの解析結果等をユーザに対し表示する。入力部12は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、スイング解析装置1に対するユーザからの操作を受け付ける。ここでいうユーザとは、ゴルフクラブの開発者、ゴルファー7自身又はそのインストラクター、或いはゴルファー7に適したゴルフクラブのフィッティングを行うフィッター等、ゴルフスイングの解析結果を必要とする者の総称である。
【0023】
記憶部13は、ハードディスク等で構成することができる。記憶部13内には、スイング解析プログラム3が格納されている他、計測装置2から送られてくる計測データが保存される。制御部14は、CPU、ROMおよびRAM等から構成することができる。制御部14は、記憶部13内のスイング解析プログラム3を読み出して実行することにより、仮想的にデータ取得部14a、変換部14b、変更部14c、逆変換部14d、再構成部14e、及び画面作成部14fとして動作する。各部14a~14fの動作の詳細については、後述する。通信部15は、計測装置2等の外部機器との間でデータを送受信する通信インターフェースとして機能する。
【0024】
<3.スイング解析方法>
以下、
図3を参照しつつ、スイング解析システム100によるスイング解析方法について説明する。本方法では、ゴルファー7によるゴルフスイングが計測され、このときのゴルフスイングが再現されるとともに、これに基づく新たなゴルフスイングがシミュレーションされる。以下、詳細に説明する。
【0025】
まず、ステップS1では、ゴルフクラブ4が用意され、ゴルファー7によりゴルフクラブ4がスイングされる。このとき、計測装置2による計測が行われ、少なくともアドレスからフィニッシュまでの解析期間において、ゴルファー7がゴルフクラブ4をスイングする様子を時系列に表す計測データが収集される。計測装置2により計測された計測データは、通信装置24からスイング解析装置1に送信される。スイング解析装置1側では、データ取得部14aが通信部15を介して計測データを取得し、記憶部13内に格納する。
【0026】
続くステップS2では、データ取得部14aが、計測装置2からの計測データを解析し、ゴルファー7及びゴルフクラブ4に含まれる様々な部位の位置、速度、加速度、角速度、及び角加速度等の挙動の時系列データを導出する。これらの挙動は、少なくともアドレスからフィニッシュまでの解析期間に含まれる、計測データのサンプリング周波数に対応する時間間隔刻みの各時刻について導出される。このとき、適宜、記憶部13内に予め記憶されている、又は通信部15を介して外部から取得されるゴルフクラブ4の仕様情報(例えば、全体重量、ヘッド41の重量、シャフト40の重量、シャフト40の長さ、シャフト40のフレックス等の情報)が参照され、このことは、以下の処理でも同様である。
【0027】
続くステップS3では、データ取得部14aは、ステップS2で導出された位置、速度、加速度、角速度、及び角加速度等の挙動の時系列データに基づいて、逆動力学計算により、スイング挙動の特徴量の時系列データを導出する。このような特徴量も、少なくともアドレスからフィニッシュまでの解析期間に含まれる、計測データのサンプリング周波数に対応する時間間隔刻みの各時刻について導出される。
【0028】
本実施形態では、スイング挙動の特徴量として、トルク、力、エネルギー及びパワー(仕事率)が導出される。このとき、本実施形態では、ゴルフスイングは、ゴルフクラブ4及びゴルファー7の腕をリンクとし、ゴルファー7の肩(右肩又は左肩、或いはこれらを代表する点)及び手首を節点とする2リンクモデルで解析される。なお、肘をさらなる節点として、ゴルファー7の腕を上腕及び前腕に対応する2つのリンクで表す3リンクモデルで解析することもできる。より具体的には、本実施形態では、スイング挙動の特徴量として、肩や手首、肘等の各関節(節点)で発揮される当該関節周りのトルク、並びに、腕(上腕、前腕)やゴルフクラブ等の各部位(リンク)で発揮される当該部位の重心周りのトルクが導出される。また、スイング挙動の特徴量として、腕(上腕、前腕)やゴルフクラブ等の各部位(リンク)で発揮される力、エネルギー及びパワーが導出される。
【0029】
以上のステップS2及びS3により、ステップS1で計測されたゴルフスイングが再現される。例えば、
図4A及び
図5Aに実線で示されるような、ゴルファー7の腕及びシャフト40の軌跡が導出される。これらの図は、トップからインパクトまでの軌跡を示している。また、
図4B及び
図5Bに実線で示されるような、ヘッド41側のシャフト40の先端部の速度(以下、ヘッド速度ということがある)の時系列データ等も算出される。また、
図4C及び
図5Cに実線で示されるような、肩及び手首周りのトルクの時系列データ等も算出される。なお、
図4B及び
図5B、並びに
図4C及び
図5Cの時間軸の0は、インパクトのタイミングに対応する。
【0030】
続くステップS4~S8では、ステップS2及びS3で再現されたゴルフスイングが修正され、新たなゴルフスイングがシミュレーションされる。まず、ステップS4では、再構成部14eが、ステップS3で導出されたスイング挙動の特徴量は変更せずに、ゴルフクラブ4を変更したときの新たなスイング挙動を導出する。より具体的には、ステップS3で導出された特徴量に基づく以上の解析モデル(上記の例では、2リンクモデル又は3リンクモデル)に、計測時とは異なるゴルフクラブ4の仕様情報を与える。すなわち、ステップS3で導出された特徴量をそのまま用いて、順動力学計算により、位置、速度、加速度、角速度、及び角加速度等の挙動を導出し、スイング挙動を再構成する。
【0031】
一方、続くステップS5~S8では、ステップS3で導出された特徴量が変更され、新たなスイング挙動が導出される。このとき、ステップS3で導出された全ての特徴量が変更されてもよいし、一部のみが変更されてもよい。また、変更される特徴量は、適宜選択することができ、例えば、ユーザが指定してもよいし、最終的に再構成されるスイング挙動が目標の挙動に近づくように最適化により決定されてもよい。
【0032】
ステップS5では、変換部14bが、ステップS3で導出されたスイング挙動の特徴量のうち、変更の対象となる特徴量の時系列データを、周波数領域のデータに変換する。より具体的には、特徴量の時系列データがフーリエ変換され、特徴量のPSD(パワースペクトル密度)値が導出される。
図4C及び
図5Cには、それぞれ肩及び手首周りのトルクの時系列データが実線で示されている。また、
図4D及び
図5Dには、それぞれ
図4C及び
図5Cに実線で示される肩及び手首周りのトルクの時系列データをフーリエ変換したときのPSD値のグラフが実線で示されている。
【0033】
続くステップS6では、変更部14cが、ステップS5で導出された特徴量の周波数領域のデータを変更する。このとき、本実施形態では、ステップS5で導出された特徴量の周波数領域のデータのうち、特定の周波数帯域のPSD値が変更される。変更の対象となる特定の周波数領域及びPSD値の変更量は、適宜設定することができ、例えば、ユーザが指定してもよいし、最終的に再構成されるスイング挙動が目標の挙動に近づくように最適化により決定されてもよい。
【0034】
図4D及び
図5Dには、肩及び手首周りのトルクのPSD値をそれぞれ変更したときのグラフが点線で例示されている。これらの図に示されるように、本実施形態では、特定の周波数帯域のPSD値と、特定の周波数帯域に連続する周波数帯域のPSD値との連続性が維持されるように、特定の周波数帯域のPSD値が変更される。また、特定の周波数領域は、ピーク値を含むように設定される。なお、ゴルファーにもよるが、一般的な傾向として、5ヘルツ近傍のピークには、コックの溜めの特性が表れる。よって、
図4D及び
図5Dの例では、このようなコックのための特性が変更される。
【0035】
PSD値は、元の値に所定の倍率を掛け合わせることにより変更される。このとき、特定の周波数帯域とその前後の周波数帯域との間でのPSD値の連続性を維持するために、特定の周波数帯域内での倍率は、周波数に応じて異なるように設定される。すなわち、特定の周波数帯域の境界では、倍率が1倍に設定される。また、特定の周波数帯域の境界から中央に向かう程、値が大きくなる又は小さくなるように倍率が設定される。このとき、サインカーブや放物線等に沿って値が連続的に変化するように、倍率を設定することができる。
【0036】
続くステップS7では、逆変換部14dが、ステップS6で変更された特徴量の周波数領域のデータを、時間領域のデータに逆変換する。より具体的には、特徴量の周波数領域のデータが逆フーリエ変換され、特徴量の時系列データが復元される。
図4C及び
図5Cには、それぞれ
図4D及び
図5Dに点線で示される肩及び手首周りのトルクの変更後のPSD値を逆フーリエ変換したときのグラフが点線で示されている。
【0037】
続くステップS8では、再構成部14eが、ステップS7で導出された特徴量の時間領域のデータに基づいて、スイング挙動を再構成する。より具体的には、ステップS7で導出された特徴量に基づくステップS3と同様の解析モデル(上記の例では、2リンクモデル又は3リンクモデル)を作成し、順動力学計算により、位置、速度、加速度、角速度、及び角加速度等の挙動を導出する。
【0038】
以上のステップS8により、ステップS1で計測されたゴルフスイングが修正され、新たなゴルフスイングがシミュレーションされる。
図4A及び
図5Aには、それぞれ
図4C及び
図5Cに点線で示される変更後のトルクに基づくゴルファー7の腕及びシャフト40の軌跡が点線で示されている。これらの図は、トップからインパクトまでの軌跡を示している。また、
図4B及び
図5Bには、それぞれ
図4C及び
図5Cに点線で示される変更後のトルクに基づくヘッド速度が点線で示されている。ここでは、新たなスイング挙動として、例えば、
図4A、
図4B、
図5A及び
図5Bに点線で示されるような挙動が導出される。
【0039】
以上により、
図3のフローチャートに係る処理は終了する。なお、画面作成部14fは、
図4A~
図5Dに示すようなグラフを表示する画面を作成し、適宜、表示部11上に表示させることができる。また、ステップS4の結果も、適宜グラフ化して、画面上に表示させることができる。
【0040】
<4.特徴>
上記実施形態のステップS5~S8によれば、計測されたスイング挙動の特徴量を変更した上で、スイング挙動を再構成することができる。これに対し、従来の手法では、ステップS4のように、計測されたスイング挙動の特徴量は一定と仮定し、ゴルフクラブの仕様情報のみを変更して、新たなゴルフスイングが推定されてきた。しかし、このような手法は、計測されたゴルフスイングとスイング挙動の特徴量が異なるゴルフスイング、例えば、別人が行うゴルフスイングを適切にシミュレーションすることができない。この点、上記実施形態によれば、トルク、力、エネルギー及びパワーのようなゴルファーに依存する特徴量を変更したとしても、ゴルフスイングらしいゴルフスイングを再現することができる。
【0041】
図6Aは、あるゴルフスイングをステップS1及びS2のとおりに解析したときの、トップからインパクトまでのゴルファーの腕及びシャフトの軌跡を示している。
図6Bは、
図6Aに示されるゴルフスイングをステップS3のとおりに解析したときの、特徴量(手首周りのトルク)の時系列データを示している。
図6Cは、
図6Bの特徴量の時系列データを時間領域のまま変更したデータに基づき順動力学計算により導出した、トップからインパクトまでのゴルファーの腕及びシャフトの軌跡を示している。このとき、特徴量の時系列データは、
図6Bに示されるとおりに修正された。より具体的には、トルクの総発揮量を時間帯ごとに一定と仮定し、トルクをパターン化して修正した。
【0042】
図6Cに示すように、特徴量のデータを時間領域のまま変更すると、ゴルフスイングらしいゴルフスイングすら再現できなくなることが分かる。なお、発明者らは、様々なパターンで時間領域の特徴量のデータを変更したが、いずれもゴルフスイングらしいゴルフスイングを再現することができなかった。この点、上記実施形態のように周波数領域の特徴量のデータを変更した場合には、ゴルフスイングらしいゴルフスイングを再現することに成功する。このような新しい手法によれば、ゴルフスイングのシミュレーションの幅を広げることができる。
【0043】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0044】
<5-1>
上記実施形態では、スイング挙動の特徴量として、トルク、力、エネルギー及びパワー(仕事率)が導出され、さらに変更の対象とされたが、これらの一部のみを導出及び/又は変更の対象としてもよいし、別の指標を導出及び/又は変更の対象としてもよい。
【0045】
<5-2>
上記実施形態では、ゴルフスイングが解析されたが、ゴルフクラブ以外の打具、例えば、テニスラケットやベースボールバット等のスイングを解析の対象とすることもできる。
【0046】
<5-3>
上記実施形態のステップS5~S8では、スイング挙動の特徴量のみが変更されたが、スイング挙動の特徴量と同時に、ステップS4のようにゴルフクラブの仕様情報も変更して、新たなゴルフスイングを導出してもよい。
【0047】
<5-4>
上記実施形態のステップS6では、ステップS5で導出された特徴量の周波数領域のデータのうち、特定の周波数帯域のPSD値のみが変更されたが、周波数帯域全体のPSD値を変更してもよい。また、ピーク値を含まない周波数帯域のPSD値を変更してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 スイング解析装置(コンピュータ)
100 スイング解析システム
14a データ取得部
14b 変換部
14c 変更部
14d 逆変換部
14e 再構成部
2 計測装置
3 スイング解析プログラム
4 ゴルフクラブ(打具)
7 ゴルファー(プレイヤー)