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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】加熱剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/18 20060101AFI20230209BHJP
   A47J 36/28 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
C09K5/18 J
A47J36/28
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019043795
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2020147625
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】500067606
【氏名又は名称】株式会社協同
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幸治
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 駿夫
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 秀樹
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-241418(JP,A)
【文献】特開2008-231392(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0960811(KR,B1)
【文献】特開平03-091588(JP,A)
【文献】国際公開第2008/041542(WO,A1)
【文献】特開2013-243071(JP,A)
【文献】特開2003-194762(JP,A)
【文献】特開昭50-118292(JP,A)
【文献】特開2005-193455(JP,A)
【文献】特開2001-238906(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050796(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00- 5/20
A47J 27/00~ 36/42
A61F 7/00~ 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化マグネシウムおよび酸化カルシウムを少なくとも有する第一の発熱剤と、
酸化カルシウムおよび粉体アルミニウムを少なくとも有する第二の発熱剤と、
塩化ナトリウム溶液およびエタノール溶液を少なくとも有する発熱溶液と、を有して構成され、
前記発熱溶液は、該発熱溶液の総重量当たり、前記塩化ナトリウム溶液が23乃至25%、前記エタノール溶液が50乃至60%の割合で配合される、
ことを特徴とする加熱剤
【請求項2】
請求項1に記載の加熱剤において、
前記第一の発熱剤は、該第一の発熱剤の総重量当たり、塩化マグネシウムが20乃至30%、酸化カルシウムが70乃至80%からなり、
前記第二の発熱剤は、該第二の発熱剤の総重量当たり、酸化カルシウムが22.5乃至33.3%、粉体アルミニウムが45乃至66.75%の割合で配合される、
ことを特徴とする加熱剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温の環境下においても十分な発熱効果を得ることができる発熱剤、これを用いた加熱剤、および加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化カルシウムの水和反応に伴う発熱を利用した発熱剤が広く知られている(例えば、特許文献1参照)。このような従来の発熱剤は、通常の環境下においては、加熱温度や保持時間等に関して十分な性能を維持することが可能である(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平3-91588号公報
【文献】特許第3467729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の発熱剤は、寒冷地等の低温の環境下においては、発熱効果が得られないか、得られたとしても十分な発熱量を得ることが難しく、改善の余地がある。また、近年では、発熱剤は防災やアウトドア等において食品や飲料等の被加熱物を加熱する用途にも幅広く利用されており、寒冷地等の低温の環境下においても十分な加熱効果を得ることができる加熱剤が求められている。
【0005】
本発明の目的は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、寒冷地等の低温の環境下においても十分な発熱効果を得ることができる発熱剤、これを用いた加熱剤、および加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る発熱剤は、塩化マグネシウムおよび酸化カルシウムを少なくとも有する第一の発熱剤と、酸化カルシウムおよび粉体アルミニウムを少なくとも有する第二の発熱剤と、を有して構成される、ことを特徴とする発熱剤である。
【0007】
また、本発明に係る加熱剤は、塩化マグネシウムおよび酸化カルシウムを少なくとも有する第一の発熱剤と、酸化カルシウムおよび粉体アルミニウムを少なくとも有する第二の発熱剤と、塩化ナトリウム溶液およびエタノール溶液を少なくとも有する発熱溶液と、を有して構成される、ことを特徴とする加熱剤である。
【0008】
また、本発明に係る加熱方法は、塩化マグネシウムと水または水溶液とを反応させる第一段階反応において反応熱を発生させて酸化カルシウムおよび/または粉体アルミニウムの少なくとも一部を加熱し、前記酸化カルシウムと水または水溶液とを反応させる第二段階反応において反応熱を発生させるとともに水酸化カルシウムを生成させ、前記第二段階反応で生成された水酸化カルシウムと前記粉体アルミニウムとを反応させる第三段階反応において反応熱を発生させる、ことを特徴とする加熱方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る発熱剤、これを用いた加熱剤、および加熱方法によれば、寒冷地等の低温の環境下においても十分な発熱効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】冷凍庫内で発熱反応させた本発明の発熱剤と従来の発熱剤の温度変化を時系列で示したグラフである。
図2】冷凍庫内で発熱反応させた本発明の発熱剤と、この発熱剤で加熱した主菜(ご飯)および副菜(レトルト食品)の温度変化を時系列で示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて、本実施形態に係る発熱剤、これを用いた加熱剤、および加熱方法について、詳細に説明する。
【0012】
<発熱剤>
本実施形態に係る発熱剤は、塩化マグネシウムおよび酸化カルシウムからなる第一の発熱剤(以下、「点火剤」という場合がある。)と、酸化カルシウムおよび粉体アルミニウムからなる第二の発熱剤(以下、「主発熱剤」という場合がある。)と、を有して構成される。
【0013】
なお、本発明に係る発熱剤は、塩化マグネシウムおよび酸化カルシウムを少なくとも有する第一の発熱剤と、酸化カルシウムおよび粉体アルミニウムを少なくとも有する第二の発熱剤と、を有して構成されるものであればよく、第一の発熱剤および第二の発熱剤以外の組成物(例えば、反応助剤等)を添加した発熱剤であってもよい。
【0014】
<発熱剤/第一の発熱剤(点火剤)>
本実施形態に係る第一の発熱剤(点火剤)は、塩化マグネシウムと発熱溶液(詳細は後述)とを反応させる第一段階反応において反応熱を発生させて酸化カルシウムおよび/または粉体アルミニウムの少なくとも一部を加熱するために使用する。
【0015】
本発明に係る第一の発熱剤は、塩化マグネシウムおよび酸化カルシウムを少なくとも有する発熱剤であればよく、塩化マグネシウムおよび酸化カルシウム以外の組成物(例えば、反応助剤等)を添加した発熱剤であってもよい。
【0016】
また、第一の発熱剤を充填する物や方法は、特に限定されないが、例えば、発熱溶液を浸透させることが可能な所定の目付量の不織布、和紙、合成紙等の袋に充填することが好ましく、さらに、アルミ箔等非透水性の袋に包装して、酸化カルシウムが空気中の水分を吸収して反応するのを防止することが好ましい。また、第一の発熱剤は、第二の発熱剤が充填された袋等に一緒に充填してもよいし、第二の発熱剤が充填された袋等とは別体の袋等に充填してもよい。
【0017】
また、第一の発熱剤における塩化マグネシウムおよび酸化カルシウムの配合割合も、特に限定されないが、例えば、第一の発熱剤の総重量当たり、塩化マグネシウムが20乃至30%、酸化カルシウムが70乃至80%からなるものが好ましく、特に、第一の発熱剤の総重量当たり、塩化マグネシウムが25%、酸化カルシウムが75%からなるものが最も好ましい。
【0018】
<発熱剤/第二の発熱剤(主発熱剤)>
本実施形態に係る第二の発熱剤(主発熱剤)は、酸化カルシウムと発熱溶液とを反応させる第二段階反応において反応熱を発生させるとともに水酸化カルシウムを生成させ、第二段階反応で生成された水酸化カルシウムと粉体アルミニウムとを反応させる第三段階反応において反応熱を発生させるために使用する。
【0019】
本発明に係る第二の発熱剤は、酸化カルシウムおよび粉体アルミニウムを少なくとも有するものであればよく、酸化カルシウムおよび粉体アルミニウム以外の組成物(例えば、反応助剤等)を添加した発熱剤であってもよい。
【0020】
また、第二の発熱剤を充填する物や方法は、特に限定されないが、例えば、発熱溶液を浸透させることが可能な所定の目付量の不織布、和紙、合成紙等の袋に充填することが好ましく、さらに、アルミ箔等非透水性の袋に包装して、酸化カルシウムが空気中の水分を吸収して反応するのを防止することが好ましい。また、第二の発熱剤は、第一の発熱剤が充填された袋等に一緒に充填してもよいし、第一の発熱剤が充填された袋等とは別体の袋等に充填してもよい。
【0021】
また、第二の発熱剤における酸化カルシウムおよび粉体アルミニウムの配合割合も、特に限定されないが、例えば、第二の発熱組成剤の総重量当たり、酸化カルシウムが22.5乃至33.3%、粉体アルミニウムが45乃至66.7%の割合で配合されたものが好ましい。
【0022】
<発熱剤/塩化マグネシウム>
塩化マグネシウム(MgCl2)は、第一の発熱剤(点火剤)の組成物の一つとして使用する。
【0023】
塩化マグネシウムの粒度分布等は、特に限定されないが、微粉末の塩化マグネシウムを使用することができる。塩化マグネシウムは、水に溶解する際に大きな溶解熱が発生するという特性を有することから、本発明に係る発熱剤では、この塩化マグネシウムの溶解熱を、第二の発熱剤(主発熱剤)の発熱反応を開始(促進)させるための導火線として使用することを特徴としている。
【0024】
具体的には、低温(例えば、-40℃)の環境下においては、酸化カルシウムと発熱溶液との発熱反応(第二段階反応)、および/または、この発熱反応(第二段階反応)で生成される水酸化カルシウムと粉体アルミニウムとの発熱反応(第三段階反応)が妨げられることがある。このため、塩化マグネシウムの溶解熱を、言わば「点火剤」として利用し、第二段階反応および/または第三段階反応を開始(促進)させる。
【0025】
本願の発明者は、塩化マグネシウムの溶解熱は、継続性が無く瞬間的に発生するものであるが、低温の環境下において妨げられた発熱反応を促進させるには十分であることに着目し、創意工夫の結果、第一の発熱剤(点火剤)の塩化マグネシウムの溶解熱を、第二の発熱剤(主発熱剤)の発熱反応を開始させる「点火剤」として利用するという発明に至った。
【0026】
なお、塩化マグネシウムは、第二段階反応および第三段階反応の少なくとも一方の反応を開始(促進)させるものであればよく、第一の発熱剤(点火剤)および第二の発熱剤(主発熱剤)の組成物の一つである酸化カルシウムに働いて、第二段階反応を開始(促進)させるものであってもよいし、第二の発熱剤(主発熱剤)の組成物の一つである粉体アルミニウムや、第二段階反応で生成される水酸化カルシウムに働いて、第三段階反応を開始(促進)させるものであってもよい。
【0027】
<発熱剤/酸化カルシウム>
酸化カルシウム(CaO,生石灰)は、第一の発熱剤(点火剤)および第二の発熱剤(主発熱剤)の組成物の一つとして使用する。
【0028】
酸化カルシウムの純度は、特に限定されないが、反応速度を高め且つなるべく大量の反応熱を得るためには、不純物が少ないものが好ましい。したがって、例えば、
Ca0含量が90%以上で不純分が3.2%以下、CO2が2.0%以下のもの、が好ましく、
CaO含量が93%以上で不純分が3.2%以下、CO2が2%以下のもの、がより好ましく、
CaO含量が95%以上で不純分が1.8%以下、CO2が0.9%以下のもの、が最も好ましい。
【0029】
また、酸化カルシウムの粒度も、特に限定されないが、小さければ小さい程、反応速度は向上するが、逆に取り扱いが難しくなる。したがって、酸化カルシウムの粒度は、例えば、100メッシュ(-150μm90%以上)乃至200メッシュ(-75μm95%以上)の間のものが好ましい。
【0030】
<発熱剤/粉体アルミニウム>
粉体アルミニウム(Al)は、第二の発熱剤(主発熱剤)の組成物の一つとして使用する。
【0031】
粉体アルミニウムの純度は、特に限定されないが、反応速度、取り扱いが容易であること、コスト等を考慮する必要がある。従って、例えば、
純度99.7%以上のもので、見掛密度が0.8乃至1.1g/cmの範囲で、-330メッシュ(-45μm)が35乃至60,+330メッシュ(+45μm)が15乃至30,+235メッシュ(+63μm)が5乃至15,+140メッシュ(+106μm)が7>の粒度分布を有するもの、または、
純度99.7%以上のもので、見掛密度が0.8乃至1.1g/cmの範囲で、-330メッシュ(-45μm)が40乃至60,+330メッシュ(+45μm)が15乃至30,+235メッシュ(+63μm)が15>、+200メッシュ(+75μm)が10>の粒度分布を有するもの、または、
純度99.7%以上のもので、見掛密度が0.8乃至1.1g/cmの範囲で、-330メッシュ(-45μm)が70乃至90,+330メッシュ(+45μm)が30>、+235メッシュ(+63μm)が3>、+200メッシュ(+75μm)が2>の粒度分布を有するもの、が好ましく
純度99.7%以上のもので、見掛密度が0.8乃至1.1g/cmの範囲で、-330メッシュ(-45μm)が40乃至60,+330メッシュ(+45μm)が15乃至30,+235メッシュ(+63μm)が15>、+200メッシュ(+75μm)が10>の粒度分布を有するもの、が最も好ましい。
【0032】
<加熱剤>
本実施形態に係る加熱剤は、上述の発熱剤(第一の発熱剤および第二の発熱剤)と、発熱溶液と、を有して構成される。なお、本発明に係る加熱剤は、発熱剤(第一の発熱剤および第二の発熱剤)と発熱溶液を有して構成されるものであればよく、発熱剤(第一の発熱剤および第二の発熱剤)と発熱溶液以外の組成物(例えば、反応助剤等)を添加した加熱剤であってもよい。
【0033】
また、加熱剤は、非常食、携帯食用加熱調理容器や加熱袋等に予め組み込んで使用することができ、そのような容器や袋等は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリ酸メチル、ナイロンおよびポロメチルペンテン等合成樹脂製、合成樹脂加工アルミニウム、合成樹脂加工紙、金属缶、ビン、金属と合成樹脂のうちの一つまたは複数の組合せからなる各種容器を採用することができる。
【0034】
<加熱剤/発熱溶液>
本実施形態に係る発熱溶液は、塩化ナトリウム溶液およびエタノール溶液からなる発熱溶液である。従来の加熱剤では、発熱溶液として、水を使用するのが一般的であるが、本発明に係る加熱剤では、低温(例えば、-40℃)の環境下においても発熱溶液が凍結しないように、塩化ナトリウム溶液とエタノール溶液を混合した不凍液を、発熱溶液として使用する。
【0035】
なお、本発明に係る発熱溶液の一つは、塩化ナトリウム溶液およびエタノール溶液を少なくとも有する発熱溶液であればよく、塩化ナトリウム溶液およびエタノール溶液以外の水溶液(例えば、防腐剤等)を添加したものであってもよい。また、本発明に係る発熱溶液として、塩化ナトリウム溶液およびエタノール溶液を少なくとも有する発熱溶液に代えて、水および不凍液からなる発熱溶液を使用してもよい。
【0036】
また、発熱溶液における塩化ナトリウム溶液およびエタノール溶液の配合割合は、特に限定されない。したがって、例えば、発熱溶液の総重量当たり、塩化ナトリウム溶液が23乃至25%、エタノール溶液が50乃至60%の割合で配合されたものが好ましいが、発熱溶液の総重量当たり、塩化ナトリウム溶液が50%、エタノール溶液が50%からなるものであってもよい。
【0037】
また、加熱剤を使用する際には、第二の発熱剤(主発熱剤)の総重量に対して、少なくとも2倍量の発熱溶液を添加することが好ましく、例えば、第二の発熱剤(主発熱剤)の総重量が45gの場合には、100gの発熱溶液を添加すると良い。
【0038】
<加熱方法>
本発明の最も好ましい実施の形態は、塩化マグネシウムと酸化カルシウムで第一の発熱剤(点火剤)を製造し、酸化カルシウムと粉体アルミニウムで第二の発熱剤(主発熱剤)を製造し、塩化ナトリウム溶液とエタノール溶液で発熱溶液を製造することである。
【0039】
そして、第一の発熱剤(点火剤)の塩化マグネシウムと発熱溶液とを反応させる第一段階反応において反応熱を発生させて酸化カルシウムおよび/または粉体アルミニウムの少なくとも一部を加熱する。
【0040】
続いて、酸化カルシウム(第一の発熱剤(点火剤)の酸化カルシウムおよび/または第二の発熱剤(主発熱剤)の酸化カルシウム)と発熱溶液とを反応させる第二段階反応において反応熱を発生させるとともに水酸化カルシウムを生成させる。
【0041】
最後に、第二段階反応で生成された水酸化カルシウムと第二の発熱剤(主発熱剤)の粉体アルミニウムとを反応させる第三段階反応において反応熱を発生させ、これらの第一段階反応、第二段階反応、および第三段階反応で発生した反応熱の総和を、被加熱物の加熱に利用する。
【0042】
本発明に係る加熱方法によれば、従来の発熱剤では発熱反応を得ることができない低温の環境下においても発熱反応を得ることができる上に、第一段階反応、第二段階反応、および第三段階反応で発生した反応熱の総和を効率よく利用することができ、被加熱物を効率的に加熱することができる。
【0043】
また、低温の環境下においては、第二の発熱剤(主発熱剤)の発熱反応が妨げられる場合があるが、本発明の加熱方法によれば、塩化マグネシウムの溶解熱を言わば「点火剤」として利用し、第一の発熱剤(点火剤)の塩化マグネシウムを、第二の発熱剤(主発熱剤)の発熱反応を開始(促進)させるための導火線として使用することができ、低温の環境下においても、酸化カルシウムと発熱溶液との発熱反応(第二段階反応)、および/または、この発熱反応(第二段階反応)で生成される水酸化カルシウムと粉体アルミニウムとの発熱反応(第三段階反応)を開始(促進)させることができる。
【0044】
<実施例>
以下、実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。なお、実施例で使用した第一の発熱剤(点火剤)の塩化マグネシウムは、丸安産業社製の無水塩化マグネシウムであり、第一の発熱剤(点火剤)の酸化カルシウムは、秩父石灰工業社製の生石灰 QA 0-3mmである。また、第二の発熱剤(主発熱剤)の酸化カルシウムは、秩父石灰工業社製の生石灰 QA POWであり、第二の発熱剤(主発熱剤)の粉体アルミニウムは、SKMP社製のインド産アトマイズアルミ粉末である。また、実施例で使用した不織布は、目付重量60g/m,厚さ0.14mm,通気度20cm/cm秒,ヒートシール強度60N/5cm(at205℃)のものである。
【0045】
<実施例1>
<本発明の発熱剤>
上述した塩化マグネシウムおよび酸化カルシウムを25%:75%の配合割合で混合して40g用意し、これを不織布製の袋に充填して第一の発熱剤(点火剤)を製造した。また、上述した酸化カルシウムおよび粉体アルミニウムを30%:70%の配合割合で混合して90g用意し、これを不織布製の袋に充填して第二の発熱剤(主発熱剤)を製造するとともに、この第二の発熱剤(主発熱剤)の中心に挿入されるように温度センサーをセットした。さらに、上述した塩化ナトリウム溶液およびエタノール溶液を50%:50%の配合割合で混合して200gの発熱溶液を製造した。
【0046】
第一の発熱剤(点火剤)と第二の発熱剤(主発熱剤)を、設定温度-40℃の冷凍庫内に置いて、発熱溶液を添加したところ、図1において実線「本発明の発熱剤」で示すように、約40秒後に第二の発熱剤(主発熱剤)において発熱反応が開始した。その後、第二の発熱剤(主発熱剤)から発生する水蒸気温度を30分間連続して測定して、水蒸気の平均温度、最高温度、最低温度をそれぞれ測定した。
【0047】
その結果、本発明の発熱剤の平均温度は53.4℃(測定時の冷凍庫内温度は-36.6℃)、最高温度は74.3℃(測定時の冷凍庫内温度は-31.9℃)、最低温度は-32.7℃(測定時の冷凍庫内温度は-41.0℃)であった。
【0048】
<従来の発熱剤>
比較例(従来の発熱剤)として、酸化カルシウムおよび粉体アルミニウムを30%:70%の配合割合で混合して35gの発熱組成物を用意し、これを不織布製の袋に充填して発熱剤を製造するとともに、この発熱剤の中心に挿入されるように温度センサーをセットした。
【0049】
この発熱剤を、設定温度-40℃の冷凍庫内に置いて、90gの水を添加したところ、図1において点線「従来の発熱剤」で示すように、少なくとも30分間、発熱反応が開始されることが無かった。また、発熱剤内の温度を30分間連続して測定して、発熱剤内の平均温度、最高温度、最低温度をそれぞれ測定した。
【0050】
その結果、従来の発熱剤の平均温度は-32.1℃(測定時の冷凍庫内温度は-36.6℃)、最高温度は-27.2℃(測定時の冷凍庫内温度は-31.9℃)、最低温度は-33.9℃(測定時の冷凍庫内温度は-41.0℃)であった。
【0051】
以上の通り、低温(平均温度-36.6℃)の環境下においては、従来の発熱剤では発熱反応を得ることができなかったが、本発明の加熱剤(発熱剤および発熱溶液)では、約40秒後に発熱反応が開始され、約10分後には60℃に到達し、60℃以上の温度を少なくとも20分間維持し、最高温度は74.3℃に到達した。すなわち、本願の加熱剤(発熱剤および発熱溶液)によれば、従来の発熱剤では発熱反応を得ることができない低温の環境下においても発熱反応を得ることができる。
【0052】
また、低温の環境下においては、第二の発熱剤(主発熱剤)の発熱反応が妨げられる場合があるが、本発明の加熱剤(発熱剤および発熱溶液)によれば、塩化マグネシウムの溶解熱を言わば「点火剤」として利用し、第一の発熱剤(点火剤)の塩化マグネシウムを、第二の発熱剤(主発熱剤)の発熱反応を開始(促進)させるための導火線として使用することができ、低温の環境下においても、酸化カルシウムと発熱溶液との発熱反応(第二段階反応)、および/または、この発熱反応(第二段階反応)で生成される水酸化カルシウムと粉体アルミニウムとの発熱反応(第三段階反応)を開始(促進)させることができる。
【0053】
また、塩化マグネシウムと水または水溶液とを反応させる第一段階反応において反応熱を発生させて酸化カルシウムおよび/または粉体アルミニウムの少なくとも一部を加熱し、酸化カルシウムと水または水溶液とを反応させる第二段階反応において反応熱を発生させるとともに水酸化カルシウムを生成させ、第二段階反応で生成された水酸化カルシウムと粉体アルミニウムとを反応させる第三段階反応において反応熱を発生させることで、第一段階反応、第二段階反応、および第三段階反応で発生した反応熱の総和を効率よく利用することができ、十分な発熱量を得ることが可能となる。
【0054】
<実施例2>
本発明の発熱剤の食品加熱能力を測定するために、被加熱物として主菜(ご飯)と副菜(レトルト食品、約680g)を用意し、それぞれの天面に温度センサーをセットした。そして、これらを第一の発熱剤(点火剤)および第二の発熱剤(主発熱剤)とともに加熱袋(パウチ袋)に収納した。なお、加熱剤(発熱剤および発熱溶液)に関する条件は、実施例1と同様である。
【0055】
冷凍庫内に置いた加熱袋内に発熱溶液を添加して加熱袋の開口部を閉じたところ、図2において実線「発熱剤」で示すように、約40秒後に発熱反応が開始し、約2分後には発熱剤の温度が約55℃に到達した。この発熱剤の温度上昇により加熱袋内の温度が上昇し、加熱袋内の主菜(ご飯)と副菜(レトルト食品)が加熱され、図2において点線「ごはん天面」および一点鎖線「レトルト天面」で示すように、それぞれの温度が上昇し始めた。
【0056】
その後、発熱剤の温度は一時的に20℃以下まで低下したが、再び温度が上昇し、発熱溶液の添加から約9分後には約80℃に到達した。この発熱剤の温度上昇により加熱袋内の温度がさらに上昇し、加熱袋内の主菜(ご飯)と副菜(レトルト食品)が加熱され、発熱溶液の添加から約15分後には、それぞれの温度が約60℃近くまで上昇した。その後、この状態が約15分間維持された。
【0057】
発熱剤が発生する水蒸気温度の温度を測定したところ、本発明の発熱剤の平均温度は64.6℃(測定時の冷凍庫内温度は-25.1℃)、最高温度は79.3℃(測定時の冷凍庫内温度は-15.5℃)、最低温度は-33.0℃(測定時の冷凍庫内温度は-40.8℃)であった。
【0058】
また、主菜(ご飯)および副菜(レトルト食品)の天面の温度を測定したところ、主菜(ご飯)の平均温度は33.6℃(測定時の冷凍庫内温度は-25.1℃)、最高温度は65.0℃(測定時の冷凍庫内温度は-15.5℃)、最低温度は-30.4℃(測定時の冷凍庫内温度は-40.8℃)であり、副菜(レトルト食品)の平均温度は28.8℃(測定時の冷凍庫内温度は-25.1℃)、最高温度は60.0℃(測定時の冷凍庫内温度は-15.5℃)、最低温度は-26.9℃(測定時の冷凍庫内温度は-40.8℃)であった。
【0059】
以上の通り、本発明の加熱剤(発熱剤および発熱溶液)では、発熱溶液の添加から約40秒後に発熱反応が開始され、発熱溶液の添加から約9分後には80℃に到達し、これにより主菜(ご飯)および副菜(レトルト食品)の温度を発熱溶液の添加から約15分後に約60℃近くまで上昇させ、この状態が約15分間維持された。すなわち、本願の加熱剤(発熱剤および発熱溶液)によれば、従来の発熱剤では発熱反応を得ることができない低温の環境下においても発熱反応を得ることができ、食品や飲料等の被加熱物を加熱することができる。
【0060】
しかも、塩化マグネシウムと水または水溶液とを反応させる第一段階反応において反応熱を発生させて酸化カルシウムおよび/または粉体アルミニウムの少なくとも一部を加熱し、酸化カルシウムと水または水溶液とを反応させる第二段階反応において反応熱を発生させるとともに水酸化カルシウムを生成させ、第二段階反応で生成された水酸化カルシウムと粉体アルミニウムとを反応させる第三段階反応において反応熱を発生させることで、第一段階反応、第二段階反応、および第三段階反応で発生した反応熱の総和を効率よく利用することができる。
【0061】
なお、図示は省略するが、本発明の加熱剤(発熱剤および発熱溶液)を、環境温度20℃で使用したところ、主菜(ご飯)および副菜(レトルト食品)の加熱に要する時間は約20分であり、環境温度0℃で使用したところ、主菜(ご飯)および副菜(レトルト食品)の加熱に要する時間は約30~45分であった。すなわち、本発明に係る加熱剤(発熱剤および発熱溶液)では、少なくとも20℃~-40℃の温度範囲内で発熱反応が得られ、被加熱物が十分に加熱できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る発熱方法、発熱剤およびこれを用いた加熱剤は、米,非常食,携帯食,レトルト食品等の食品や、水,お茶等の飲料等を含む被加熱物の加熱に広く適用することができる。
図1
図2