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特許7223448機能性大脳皮質細胞への分化を誘導するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】機能性大脳皮質細胞への分化を誘導するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/079 20100101AFI20230209BHJP
【FI】
C12N5/079
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020553533
(86)(22)【出願日】2019-04-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 CN2019081156
(87)【国際公開番号】W WO2019192504
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】201810298488.9
(32)【優先日】2018-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520353190
【氏名又は名称】ジョージアン フゥオデ バイオエンジニアリング カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン、ジン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、アンシン
(72)【発明者】
【氏名】ヅォウ、タン
【審査官】加藤 幹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/132596(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/117139(WO,A1)
【文献】特表2008-546385(JP,A)
【文献】特開2008-278842(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159177(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/020234(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性大脳皮質細胞への分化を誘導するための培地であって、ニューロン培地および栄養サプリメントを含み、前記栄養サプリメントが、FGF/VEGFシグナル伝達経路の阻害剤およびcAMPの活性化剤を含み、
前記FGF/VEGFシグナル伝達経路の阻害剤が、SU5402およびBIBF1120であり、ならびに、
前記cAMPの活性化剤が、IBMXおよびグルコースである培地。
【請求項2】
前記栄養サプリメントが、前記FGF/VEGFシグナル伝達経路の阻害剤として80nM~100μMのSU5402および1~500ng/mLのBIBF1120を含み、ならびに、前記cAMPの活性化剤として1~100μMのIBMXおよび1~10mMのグルコースを含む請求項1記載の培地。
【請求項3】
機能性大脳皮質細胞への分化を誘導するための方法であって、
神経幹細胞または神経前駆細胞が、分離後に細胞培養プレート上に蒔かれ、第1日目から神経細胞分化培地A中で培養され、そしてその後、第7日目から神経細胞分化培地B中で培養される
ことを含み;
前記神経細胞分化培地Aが、レチノイン酸、BDNF、GDNF、アスコルビン酸、栄養サプリメント、neurobasal medium、およびビタミンAを含まないB27サプリメントのうちの一またはそれ以上を含み;
前記神経細胞分化培地Bが、BDNF、GDNF、アスコルビン酸、栄養サプリメント、neurobasal medium、およびビタミンAを含まないB27サプリメントのうちの一またはそれ以上を含み;
前記栄養サプリメントが、FGF/VEGFシグナル伝達経路の阻害剤およびcAMPの活性化剤を含み、
前記FGF/VEGFシグナル伝達経路の阻害剤が、SU5402およびBIBF1120であり、
前記cAMPの活性化剤が、IBMXおよびグルコースの組み合わせである方法。
【請求項4】
前記栄養サプリメントが、前記FGF/VEGFシグナル伝達経路の阻害剤として80nM~100μMのSU5402および1~500ng/mLのBIBF1120を含み、ならびに、前記cAMPの活性化剤として1~100μMのIBMXおよび1~10mMのグルコースを含む請求項記載の方法。
【請求項5】
前記栄養サプリメントが、前記FGF/VEGFシグナル伝達経路の阻害剤として80nM~10μMのSU5402および150~250ng/mLのBIBF1120を含み、ならびに、前記cAMPの活性化剤として5~15μMのIBMXおよび3~8mMのグルコースを含む請求項記載の方法。
【請求項6】
前記栄養サプリメントが、100nMのSU5402、200ng/mLのBIBF1120、10μMのIBMX、および5mMのグルコースを含む請求項記載の方法。
【請求項7】
前記栄養サプリメントが、10μMのSU5402を含む請求項記載の方法。
【請求項8】
前記栄養サプリメントが、5μMのSU5402および50μMのIBMXを含む請求項記載の方法。
【請求項9】
前記栄養サプリメントが、5ng/mLのBIBF1120および50μMのIBMXを含む請求項記載の方法。
【請求項10】
前記神経細胞分化培地Aが、2μMのレチノイン酸、20ng/mLのBDNF、20ng/mLのGDNF、および0.2mMのアスコルビン酸、100nMのSU5402、200ng/mLのBIBF1120、10μMのIBMX、5mMのグルコース、neurobasal medium、およびビタミンAを含まないB27サプリメントを含み、前記neurobasal mediumの前記ビタミンAを含まないB27サプリメントに対する比が50:1であり;
前記神経細胞分化培地Bが、20ng/mLのBDNF、20ng/mLのGDNF、および0.2mMのアスコルビン酸、100nMのSU5402、200ng/mLのBIBF1120、10μMのIBMX、5mMのグルコース、neurobasal medium、およびビタミンAを含まないB27サプリメントを含み、前記neurobasal mediumの前記ビタミンAを含まないB27サプリメントに対する比が、50:1である請求項記載の方法。
【請求項11】
培養が、第1日目から前記神経細胞分化培地A中で、前記培地の半量が3~5日毎に交換されながら行われ;
培養が、第7日目から、前記神経細胞分化培地Bを用いて、前記培地の半量が3~5日毎に交換されながら継続される請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記神経幹細胞または前記神経前駆細胞がアキュターゼによって分離され、および、5×105細胞/cm2の密度で、ポリ-D-リシン/ラミニンコートプレート上に蒔かれる請求項11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性大脳皮質細胞への分化を誘導するという技術分野に関し、および、特には、ヒト神経幹細胞の機能性大脳皮質細胞への迅速な分化を誘導するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2008年(Dimosら、2008)以来、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)またはヒト胚性幹細胞(hESC)は、in vitroでヒト神経細胞への分化が誘導されてきた;分化された細胞は、神経性疾患の研究、薬剤スクリーニング、医薬の神経毒性試験に応用され得たであろう。移植の試みは、研究および薬剤開発における注目の話題であり、そして、関連する文献の数は増え続けている。その中で、分化を誘導する方法は、次々と登場しているものの、脳に近い組成および割合をもち、かつ成熟した機能性を有している神経細胞集団を得ることは、依然として大きな課題である。
【0003】
ヒト神経前駆細胞が大脳皮質細胞へ分化誘導されるためには、通常30~60日を要し、そして、それらが、例えば、シナプスにおける神経伝達物質レセプターの分布、自発的で強力な、高頻度の興奮性および抑制性電気生理学的シグナルなどといった真に成熟した神経構造および機能性を保有することは困難である。さらに、神経細胞は、ハイスループット薬剤スクリーニングマルチウェルプレート上で長期間、安定的および健全に培養することができず、そして、培地交換にも適さない。したがって、より長いインキュベーション時間および不十分な成熟性が、細胞障害研究、薬剤スクリーニング、および毒性試験への大規模な応用を制限し、そして、得られるデータの代表性および信頼性にも影響を与えている。
【発明の概要】
【0004】
上記に鑑み、本発明は、機能性大脳皮質細胞への分化を誘導するための方法を提供する。主に機能的であり、および安定かつ健全な神経細胞が本発明の方法によって短時間で得られ得る。
【0005】
本発明は、機能性大脳皮質細胞への分化を誘導するための方法であって、以下を含む方法を提供する:
神経幹細胞または神経前駆細胞が、分離後に細胞培養プレート上に蒔かれ、第1日目から神経細胞分化培地A(neural differentiation medium A)中で培養され、そしてその後、第7日目から神経細胞分化培地B(neural differentiation medium B)中で培養される;
神経細胞分化培地Aは、レチノイン酸、BDNF、GDNF、アスコルビン酸、栄養サプリメント、neurobasal medium、およびビタミンAを含まないB27サプリメントのうちの一またはそれ以上を含む;
神経細胞分化培地Bは、BDNF、GDNF、アスコルビン酸、栄養サプリメント、neurobasal medium、およびビタミンAを含まないB27サプリメントのうちの一またはそれ以上を含む;
栄養サプリメントは、SU5402、BIBF1120、IBMX、およびグルコースのうちの一またはそれ以上を含む。
【0006】
本発明において、神経幹細胞または神経前駆細胞が様々な神経細胞へと分化するように誘導される時、神経細胞の分化および成熟を加速させることのできる、例えば、FGFおよびVEGFシグナル伝達経路の阻害剤、cAMPの活性化剤などの、特定の因子が、特定の時間に添加される。興奮性および抑制性ニューロンなどの、主要な機能を有する安定かつ健全な神経細胞が、ヒト神経前駆細胞が約7~14日誘導された後に得られ得、したがって、in vitroでのヒト神経細胞培養が真に薬剤スクリーニングなどに応用され得る。本方法は、製造コストを低減させ、および、生産期間を短縮し得る。本発明において、神経幹細胞または神経前駆細胞は、まず、分離後に細胞培養プレート上に蒔かれる。具体的には、神経幹細胞または神経前駆細胞は、アキュターゼによって分離され、5×105/cm2の密度で、ポリ-D-リシン/ラミニンコートプレート上に蒔かれ、次いで、第1日目から神経細胞分化培地A中で培養され、そしてその後、第7日目から神経細胞分化培地B中で継続的に培養される。
【0007】
本発明において、神経細胞分化培地Aは、レチノイン酸、BDNF(脳由来神経栄養因子)、GDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子)、アスコルビン酸、栄養サプリメント、neurobasal medium、およびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)のうちの一またはそれ以上を含む。
【0008】
神経細胞分化培地Bは、BDNF、GDNF、アスコルビン酸、栄養サプリメント、neurobasal medium、およびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)のうちの一またはそれ以上を含む。
【0009】
本発明において、ニューロン培地に添加される栄養サプリメントは、神経細胞の分化および成熟を加速させることができ、そして、栄養サプリメントは、SU5402、BIBF1120、IBMX、およびグルコースのうちの一または複数を含む。
【0010】
SU5402およびBIBF1120は、FGFおよびVEGFレセプターシグナル伝達経路ならびに細胞凝集を阻害するために、成熟ニューロンの遊走を増進させるために、ならびに、神経突起の成長および真に機能的なニューロンへの成熟を促進するための充分な空間をニューロンがもつことを可能とするために、使用される。細胞の凝集は、高密度のニューロンを導き、これは、細胞が神経突起を伸長させることを困難にし、そして、細胞が成熟することを妨げる。分化および神経培養の現在存在する方法は、一般的に、神経細胞の凝集に起因する、細胞の健全性、成熟、均一性、および成熟前の細胞集団死にも影響を及ぼす問題を含んでいる。SU5402およびBIBF1120の添加は、細胞凝集を減少させることによって、健全性および均一な密度を維持しながら、これらの状況を効率的に防止することができ、神経細胞がより早期に成熟されることを可能とし、および、大規模および機能的リサーチおよび産業のニーズを満たすように死亡率を低下させる。培養された細胞は、ハイスループットスクリーニングのために使用され得る。さらに、SU5402およびBIBF1120のサプリメントを含む培地中で培養された神経細胞は、3年以上のあいだ維持され得るが、他の方法によるヒト神経幹細胞の分化によって得られる神経細胞は、たった1~2か月のあいだin vitroで培養された後、大量に死んでしまうであろう。
【0011】
IBMXは、細胞内でcAMPを分解する酵素-ホスホジエステラーゼ(PDE)の非特異的阻害剤であり、cAMPの分解を阻害することによって細胞内cAMPのレベルを増加させることができる。IBMXの役割は、その効果を発揮するためにグルコースの関与を必要とする。ニューロンの分化および成熟は、エネルギーの供給のために大量のcAMPを必要とし、そして、cAMPの消費およびそのコストは非常に高い。しかしながら、IBMXは、cAMP分解酵素-ホスホジエステラーゼの活性を阻害することによって細胞内cAMPの濃度を間接的に増大させ得る。大量のcAMPと置き換えるためのIBMXおよびグルコースの使用は、神経細胞の早期の成熟を可能にするだけでなく、細胞培養のコストを低減させ、これは、科学的リサーチおよび産業の大規模性および機能的なニーズに合致し、そして、ハイスループットスクリーニングに適切である。
【0012】
本発明はまた、ニューロン培地(neuronal medium)および栄養サプリメントを含む、機能性大脳皮質細胞への分化を誘導するための培地を提供する。
【0013】
一実施形態において、栄養サプリメントは、SU5402、BIBF1120、IBMX、およびグルコースのうちの一またはそれ以上を含む。
【0014】
一実施形態において、栄養サプリメントはSU5402を含む。
【0015】
一実施形態において、栄養サプリメントは、100nM~100μMのSU5402、1~500ng/mLのBIBF1120、1~100μMのIBMX、および1~10mMのグルコースのうちの一またはそれ以上を含む。
【0016】
一実施形態において、栄養サプリメントは、100nM~100μMのSU5402、1~500ng/mLのBIBF1120、1~100μMのIBMX、および1~10mMのグルコースを含む。
【0017】
一実施形態において、栄養サプリメントは、80nM~120nMのSU5402、150~250ng/mLのBIBF1120、5~15μMのIBMX、および3~8mMのグルコースを含む。
【0018】
一実施形態において、栄養サプリメントは、100nMのSU5402、200ng/mLのBIBF1120、10μMのIBMX、および5mMのグルコースを含む。
【0019】
本発明において、ニューロン培地は、例えば脳ニューロン細胞培地などの基礎培地から選択され、そして、種々の因子の組み合わせが任意に添加され得る。一実施形態において、ニューロン培地は、レチノイン酸、BDNF、GDNF、アスコルビン酸、neurobasal medium、およびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)を含み、一実施形態において、ニューロン培地は、BDNF、GDNF、アスコルビン酸、neurobasal medium、およびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)を含む。
【0020】
神経幹細胞または神経前駆細胞の誘導分化が行われる場合、細胞は、第1日目からニューロン分化培地A中で培養され、そしてその後、第7日目からニューロン分化培地B中で継続的に培養される。
【0021】
具体的には、神経細胞分化培地Aは、ニューロン培地Aおよび栄養サプリメントを含む。ニューロン培地Aは、レチノイン酸、BDNF、GDNF、アスコルビン酸、neurobasal medium、およびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)を含む。一実施形態において、神経細胞分化培地Aは、2μMのレチノイン酸、20ng/mLのBDNF、20ng/mLのGDNF、0.2mMのアスコルビン酸、100nMのSU5402、200ng/mLのBIBF1120、10μMのIBMX、および5mMのグルコース、補充されたneurobasal medium、およびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)含み、ここで、neurobasal mediumのB27サプリメント(ビタミンAを含まない)に対する比は、50:1である(他に特定されていない限り、「比(ratio)」は、「質量比(mass ratio)」を意味する)。
【0022】
具体的には、神経細胞分化培地Bは、ニューロン培地Bおよび栄養サプリメントを含む。ニューロン培地Bは、BDNF、GDNF、アスコルビン酸、neurobasal medium、およびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)を含む。一実施形態において、神経細胞分化培地Bは、20ng/mLのBDNF、20ng/mLのGDNF、0.2mMのアスコルビン酸、100nMのSU5402、200ng/mLのBIBF1120、10μMのIBMX、および5mMのグルコース、補充されたneurobasal medium、およびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)含み、ここで、neurobasal mediumのB27サプリメント(ビタミンAを含まない)に対する比は、50:1である。
【0023】
本発明において、神経細胞分化培地Aは、第1日目から37℃、5%CO2のインキュベーター中での培養のために使用され、ここで培地の半量が3~5日毎に交換され、そして、神経細胞分化培地Bは、第7日目から、37℃、5%CO2のインキュベーター中での培養を継続するために使用され、ここで培地の半量が3~5日毎に交換される。第7日目から、神経細胞の成熟度が、電気生理学的および免疫蛍光染色によって検出され得る。目的とする機能性指標が実現された時、神経細胞は、次の工程のために使用され得る。
【0024】
本発明において、神経細胞の分化および成熟を加速させることのできる、例えば、FGFおよびVEGFシグナル伝達経路の阻害剤、cAMPの活性化剤などの特定の因子が、神経幹細胞または神経前駆細胞が様々な神経細胞へと分化するように誘導される特定の時間に添加される。興奮性および抑制性神経細胞などの、主要な機能を有する安定かつ健全な神経細胞が、ヒト神経前駆細胞が約7~14日のあいだ誘導された後に得られ得る。したがって、in vitroでのヒト神経細胞培養が薬剤スクリーニングなどに真に適用され得、これは、製造コストを減少させ、そして、製造期間を短縮する。加えて、本発明において提供される培地は、血清を含まない、および、動物起源のものを含まない培地であり、したがって、臨床的移植試験のためにもまた適切である。
【0025】
本発明の実施形態、または従来存在する技術への技術的解法をより明確に示すために、実施形態の記載または従来技術において使用される図面が簡単に説明される。明らかに、以下の記載における図面は、本発明の実施形態にのみ関する。他の添付の図面はまた、当該技術分野における通常の技術者によっていかなる創造的な努力もすることなしに、本発明で提供されている図面から、得られ得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明において提供される機能性大脳皮質細胞への分化を誘導するための方法の図示的なフローダイアグラムを示す図である。
図2図2は、本発明の実施例1で提供される、第1、7、14および84日目における誘導分化されたヒト神経細胞の明視野像を示す図である。
図3図3は、実施例1で提供される、14日間の誘導分化後のシングルセルパッチクランプによって記録された、ヒト神経細胞のminiIPSC(抑制性シナプス後電流)およびminiEPSC(興奮性シナプス後電流)の活動電位を示す図である。
図4図4は、実施例1で提供される、14日間の誘導分化後に記録された、細胞の興奮性および抑制性シナプス後電流の振幅および周波数の統計値を示す図である。
図5図5は、14日間の誘導分化後のヒト神経細胞のシングルセルパッチクランプで記録されたsEPSC(自発性の興奮性シナプス後電流)の例を示す図である。
図6図6は、実施例1で提供される、14日間の誘導分化後のヒト神経細胞の自発性のシナプス後電流の例を示す図である。
図7図7は、第14日目における分化のMAP2蛍光免疫染色像を示す図である。
図8図8は、第14日目における分化のMAP2蛍光免疫染色ヒストグラムを示す図である。
図9図9は、第14日目における分化のシナプシン蛍光免疫染色像を示す図である。
図10図10は、第14日目における分化のシナプシン蛍光免疫染色ヒストグラムを示す図である。
図11図11は、第21日目における分化のvGlut蛍光免疫染色像を示す図である。
図12図12は、第21日目における分化のvGlut蛍光免疫染色ヒストグラムを示す図である。
図13図13は、実施例2および比較例1の、第21日目における分化のヒト神経細胞の明視野像を示す図である。
図14図14は、実施例2および比較例1の、第21日目における分化のヒト神経細胞の分散度の統計的ヒストグラムを示す図である。
図15図15は、実施例2および比較例1の、第21日目における分化のシナプシン蛍光免疫染色ヒストグラムを示す図である。
図16図16は、実施例2および比較例1の、第21日目における分化のFOXG1蛍光免疫染色ヒストグラムを示す図である。
図17図17は、実施例2および比較例1の、第7日目における分化のヒト神経細胞の平均の自発的発火頻度のヒストグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態における技術的解法は、以下に明確かつ完全に記載されるであろう。明らかに、本発明の実施形態の一部分のみが本明細書中には記載されている。当該技術分野における通常の技術者によっていかなる創造的な努力もすることなしに本発明の実施形態に基づいて取得される全ての他の実施形態は、本発明の保護の範囲内である。
【0028】
実施例1
工程1:ヒト人工多能性幹細胞株DYR0100の分化により得られるヒト神経前駆細胞(hNPC)が、アキュターゼによって分離され、そしてその後、5×105/cm2の密度で、ポリ-D-リシン/ラミニンコートプレート上に蒔かれた。
【0029】
工程2:第1日目以降、hNPCは、細胞培養インキュベーター中、37℃、5%CO2で、神経細胞分化培地Aで、3日毎に半量の培地が交換されながら、第7日目まで培養された。神経細胞分化培地Aは、neurobasal mediumおよびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)を含み、そして、neurobasal mediumは、2μMのレチノイン酸、20ng/mLのBDNF、20ng/mLのGDNF、0.2mMのアスコルビン酸、100nMのSU5402、200ng/mLのBIBF1120、10μMのIBMX、5mMのグルコースを含み(全ての濃度は、終濃度である)、ここで、neurobasal mediumのB27サプリメント(ビタミンAを含まない)に対する比は、50:1であった。
【0030】
工程3:hNPCは、第7日目以降、細胞培養インキュベーター中、37℃、5%CO2で、神経細胞分化培地Bで、3日毎に半量の培地が交換されながら、培養された。神経細胞分化培地Bは、neurobasal mediumおよびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)を含み、そして、neurobasal mediumは、20ng/mLのBDNF、20ng/mLのGDNF、0.2mMのアスコルビン酸、100nMのSU5402、200ng/mLのBIBF1120、10μMのIBMX、5mMのグルコースを含み(全ての濃度は、終濃度である)、ここで、neurobasal mediumのB27サプリメント(ビタミンAを含まない)に対する比は、50:1であった。第7日目以降、神経細胞の成熟度が、電気生理学的および免疫蛍光染色によって検出され得た。目的とする機能性指標が実現された場合、神経細胞は、次の工程のために使用され得た。
【0031】
図1を参照して、図1は、本発明で提供される機能性大脳皮質細胞への分化を誘導するための方法の図示的なフローダイアグラムである。hNSCおよびhNPCは、分離された後、分化誘導され、第1日目から神経細胞分化培地A中で培養され、そして、第7日目から培地B中で培養される。基本的なニューロン機能および成熟マーカーが、第14日目以降、検出され得、そして、ヒト脳神経細胞がさらなる成熟後に得られ得る。ここで、神経細胞分化培地Aは、neurobasal mediumおよびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)を含み、そして、neurobasal mediumは、2μMのレチノイン酸、20ng/mLのBDNF、20ng/mLのGDNF、0.2mMのアスコルビン酸、100nMのSU5402、200ng/mLのBIBF1120、10μMのIBMX、5mMのグルコースを含む(全ての濃度は、終濃度である)。神経細胞分化培地Bは、neurobasal mediumおよびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)を含み、そして、neurobasal mediumは、20ng/mLのBDNF、20ng/mLのGDNF、0.2mMのアスコルビン酸、100nMのSU5402、200ng/mLのBIBF1120、10μMのIBMX、5mMのグルコースを含む(全ての濃度は、終濃度である)。
【0032】
図2~4を参照して、図2は、実施例1の第1、7、14および84日目における誘導分化されたヒト神経細胞の明視野像を示す図であり、図3は、実施例1の第14日目の誘導分化後の、シングルセルパッチクランプによって記録された、ヒト神経細胞のminiIPSC(抑制性シナプス後電流)およびminiEPSC(興奮性シナプス後電流)の活動電位を示す図であり、図4は、実施例1の第14日目に記録される、分化された細胞の興奮性および抑制性シナプス後電流の振幅および周波数の統計値を示す図である。図2~4に示されるように、興奮性および抑制性ニューロンを有する神経細胞が、本発明の方法によって、第14日目において得られ得、それらは、電気生理学的機能を有し、そして、長い期間にわたって培養され得る。
【0033】
比較例1
実施例1との違いは、神経細胞分化培地Aおよび神経細胞分化培地Bが神経細胞培養用基礎培地(Neurobasal mediumおよびB27)と置き換わったことであった。
【0034】
比較例2
実施例1との違いは、神経細胞分化培地Aおよび神経細胞分化培地Bが、神経細胞の神経生理学的成熟を促進させる培養培地(BrainPhys)と置き換わったことであり、培養培地(BrainPhys)は、著名な幹細胞試薬会社である、カナダ国のStemCell technologies社(CompA)によって製造されている。
【0035】
比較例3
実施例1との違いは、神経細胞分化培地Aおよび神経細胞分化培地Bが、神経細胞の成熟を促進する培地サプリメントによって置き換わったことであり、ここで、培地サプリメントは、幹細胞神経分化の技術分野において広く知られているアメリカ国の教授によって運営されている会社、BrainXell社(CompB)によって製造されている。
【0036】
図5~6を参照して、図5は、14日間の誘導分化後のシングルセルパッチクランプで記録されたヒト神経細胞のsEPSC(自発性の興奮性シナプス後電流)の例を示しており、そして、比較例1~3および実施例1が上から下にそれぞれ示されている。図6は、実施例1で提供される、14日間の誘導分化後のヒト神経細胞の自発性のシナプス後電流の例を示しており(Axion Bioscience社のMEA(マルチ電極アレイ)によって記録された)、複数電極間でのクラスター様協調活動電位の連関がソフトウェア分析を通じて見出され得る。これは、第14日目において、ある種のネットワーク結合(より成熟した機能的性能)が実施例1で提供される分化方法によって得られる神経細胞によって形成されていたことを示している。しかしながら、この現象は、他の分化方法によって得られた神経細胞(第14日目)においては観察されない。そして、報告されている文献によれば、他の分化方法によると、2か月の間をも培養されたヒト神経細胞においてもこのような現象を観察することは困難である。
【0037】
図7図8を参照して、図7は、第14日目における分化のMAP2蛍光免疫染色像であり、比較例1、比較例2、比較例3、および実施例1の像が左から右にそれぞれ示されている。そして、明視野像、DAPI染色像、およびMAP2染色像が、上から下へとそれぞれ示されている。図8は、比較例1~3および実施例1(左から右に示されている)の第14日目における分化のMAP2蛍光免疫染色ヒストグラムである。
【0038】
図9および図10を参照して、図9は、第14日目における分化のシナプシン蛍光免疫染色像であり、比較例1、比較例2、比較例3、および実施例1の像が左から右にそれぞれ示されている。そして、結合された像、MAP2染色像およびシナプシン染色像が、それぞれ上から下へと示されている。図10は、第14日目における分化のシナプシン蛍光免疫染色ヒストグラムであり、比較例1、比較例2、比較例3、および実施例1の像が左から右にそれぞれ示されている。
【0039】
図11および12を参照して、図11は、第21日目における分化のvGlut蛍光免疫染色像であり、比較例1、比較例2、比較例3、および実施例1の像が左から右にそれぞれ示されている。そして、結合された像、DAPI染色像およびvGlut染色像が、それぞれ上から下へと示されている。図12は、第21日目における分化のvGlut蛍光免疫染色ヒストグラムであり、比較例1、比較例2、比較例3、および実施例1の像が左から右にそれぞれ示されている。
【0040】
図7~12に示されているように、興奮性および抑制性ニューロンを有する神経細胞が本発明において提供される方法によって迅速に得られ得る。
【0041】
実施例2
工程1:ヒト人工多能性幹細胞株DYR0100の分化により得られるヒト神経前駆細胞(hNPC)が、アキュターゼによって分離され、そしてその後、5×105/cm2の密度で、ポリ-D-リシン/ラミニンコートプレート上に蒔かれた。
【0042】
工程2:第1日目以降、hNPCは、細胞培養インキュベーター中、37℃、5%CO2で、神経細胞分化培地Aで、3日毎に半量の培地が交換されながら、第7日目まで培養された。神経細胞分化培地Aは、neurobasal mediumおよびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)を含み、そして、neurobasal mediumは、2μMのレチノイン酸、20ng/mLのBDNF、20ng/mLのGDNF、0.2mMのアスコルビン酸、100μMのSU5402を含み(全ての濃度は、終濃度である)、ここで、neurobasal mediumのB27サプリメント(ビタミンAを含まない)に対する比は、50:1であった。
【0043】
工程3:hNPCは、第7日目以降、細胞培養インキュベーター中、37℃、5%CO2で、神経細胞分化培地Bで、3日毎に半量の培地が交換されながら、培養された。神経細胞分化培地Bは、neurobasal mediumおよびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)を含み、そして、neurobasal mediumは、20ng/mLのBDNF、20ng/mLのGDNF、0.2mMのアスコルビン酸、10μMのSU5402を含み(全ての濃度は、終濃度である)、ここで、neurobasal mediumのB27サプリメント(ビタミンAを含まない)に対する比は、50:1であった。第7日目以降、神経細胞の成熟度が、電気生理学的および免疫蛍光染色によって検出され得た。目的とする機能性指標が実現された場合、神経細胞は、次の工程のために使用され得た。
【0044】
図13および14を参照して、図13は、実施例2および比較例1の、第21日目における分化のヒト神経細胞の明視野像であり、図14は、実施例2および比較例1の、第21日目における分化のヒト神経細胞の分散度の統計的ヒストグラムである。
【0045】
図15および16を参照して、図15は、実施例2および比較例1の、第21日目における分化のシナプシン蛍光免疫染色ヒストグラムであり、図16は、実施例2および比較例1の、第21日目における分化のFOXG1蛍光免疫染色ヒストグラムである。
【0046】
図17を参照して、図17は、実施例2および比較例1の、第7日目における分化のヒト神経細胞の平均の自発的発火頻度のヒストグラム(Axion BioscienceのMEA社によって記録された)であり、そして、神経細胞用培地中で培養された細胞の電気生理学的シグナルは、第7日目において検出されなかった。
【0047】
図13~17から、細胞凝集の阻害、およびニューロン成熟の促進が、ニューロンに充分な距離および空間を与えており、これは、本発明において提供される方法によって、神経突起を成長させ、そして、機能的ニューロンへとさらに成熟させるために好適である。
【0048】
実施例3
工程1:ヒト人工多能性幹細胞株DYR0100の分化により得られるヒト神経前駆細胞(hNPC)が、アキュターゼによって分離され、そしてその後、5×105/cm2の密度で、ポリ-D-リシン/ラミニンコートプレート上に蒔かれた。
【0049】
工程2:第1日目以降、hNPCは、細胞培養インキュベーター中、37℃、5%CO2で、神経細胞分化培地Aで、3日毎に半量の培地が交換されながら、第7日目まで培養された。神経細胞分化培地Aは、neurobasal mediumおよびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)を含み、そして、neurobasal mediumは、2μMのレチノイン酸、20ng/mLのBDNF、20ng/mLのGDNF、0.2mMのアスコルビン酸、5μMのSU5402、50μMのIBMXを含み(全ての濃度は、終濃度である)、ここで、neurobasal mediumのB27サプリメント(ビタミンAを含まない)に対する比は、50:1であった。
【0050】
工程3:hNPCは、第7日目以降、細胞培養インキュベーター中、37℃、5%CO2で、神経細胞分化培地Bで、3日毎に半量の培地が交換されながら、培養された。神経細胞分化培地Bは、neurobasal mediumおよびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)を含み、そして、neurobasal mediumは、20ng/mLのBDNF、20ng/mLのGDNF、0.2mMのアスコルビン酸、5μMのSU5402、50μMのIBMXを含み(全ての濃度は、終濃度である)、ここで、neurobasal mediumのB27サプリメント(ビタミンAを含まない)に対する比は、50:1であった。結果は、実施例3によって提供される方法が、比較例1、比較例2、および比較例3と比較して、効果的に細胞凝集を抑制し得たことを示していた。
【0051】
実施例4
工程1:ヒト人工多能性幹細胞株DYR0100の分化により得られるヒト神経前駆細胞(hNPC)が、アキュターゼによって分離され、そしてその後、5×105/cm2の密度で、ポリ-D-リシン/ラミニンコートプレート上に蒔かれた。
【0052】
工程2:第1日目以降、hNPCは、細胞培養インキュベーター中、37℃、5%CO2で、神経細胞分化培地Aで、3日毎に半量の培地が交換されながら、第7日目まで培養された。神経細胞分化培地Aは、neurobasal mediumおよびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)を含み、そして、neurobasal mediumは、2μMのレチノイン酸、20ng/mLのBDNF、20ng/mLのGDNF、0.2mMのアスコルビン酸、5ng/mLのBIBF1120、50μMのIBMXを含み(全ての濃度は、終濃度である)、ここで、neurobasal mediumのB27サプリメント(ビタミンAを含まない)に対する比は、50:1であった。
【0053】
工程3:hNPCは、第7日目以降、細胞培養インキュベーター中、37℃、5%CO2で、神経細胞分化培地Bで、3日毎に半量の培地が交換されながら、培養された。神経細胞分化培地Bは、neurobasal mediumおよびB27サプリメント(ビタミンAを含まない)を含み、そして、neurobasal mediumは、20ng/mLのBDNF、20ng/mLのGDNF、0.2mMのアスコルビン酸、5ng/mLのBIBF1120、50μMのIBMXを含み(全ての濃度は、終濃度である)、ここで、neurobasal mediumのB27サプリメント(ビタミンAを含まない)に対する比は、50:1であった。結果は、実施例3によって提供される方法が、比較例1、比較例2、および比較例3と比較して、効果的に細胞凝集を抑制し得たことを示していた。
【0054】
上述の実施例は、本発明の好ましい実施形態にすぎない。当該技術分野における通常の技術者であれば、本発明の原理の範囲から逸脱することなしに改変および修飾がなされ得ることが指摘されるべきであり、これら改変および修飾はまた、本発明の保護の範囲であると考えられるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17