(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】光学式内面測定装置及び光学式内面測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/24 20060101AFI20230209BHJP
G01B 11/12 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G01B11/24 B
G01B11/12 Z
(21)【出願番号】P 2021558435
(86)(22)【出願日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2020043111
(87)【国際公開番号】W WO2021100792
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2019210166
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山崎 大志
(72)【発明者】
【氏名】成田 憲士
(72)【発明者】
【氏名】舘山 拓也
(72)【発明者】
【氏名】森本 正人
(72)【発明者】
【氏名】淺田 隆文
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-321034(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168628(WO,A1)
【文献】特開2015-232539(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0260590(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の穴の内周面の観察、測定を行う光学式内面測定装置であって、
円形以外の異形断面を有する透明パイプの内部に、回転可能な光学測定系を配置し、
前記被測定物の測定マスターの内周面と前記透明パイプとの間の半径ギャップ(ΔRn)を測定した結果から、
透明パイプの半径寸法=〔マスターまでの半径距離〕-〔半径ギャップ(ΔRn)〕の式により、前記透明パイプの絶対寸法校正値を求め、
前記絶対寸法校正値をコンピュータに保存している光学式内面測定装置。
【請求項2】
前記透明パイプは、被測定物の穴に対して、すっぽりと入り、
前記被測定物の穴の内周面と前記透明パイプとの間の半径ギャップを3ミリメートル以下になるよう、前記透明パイプの寸法を設定した請求項1記載の光学式内面測定装置。
【請求項3】
前記被測定物を固定し、前記被測定物の穴に前記透明パイプを挿入し、前記光学測定系により被測定物の内周面と透明パイプの半径ギャップ(Δrn)を測定し、
被測定物までの半径距離=〔透明パイプの絶対寸法校正値〕+〔半径ギャップ(Δrn)〕の式により、前記被測定物の内周面の形状寸法を求める請求項1または2に記載の光学式内面測定装置。
【請求項4】
光学測定系は、非回転光ファイバーの先端側に一体的に設けられた集光部材と、前記集光部材の先端側に配置され、前記透光性パイプの内部に設けられた回転自在な光路変換手段を有するものであり、
前記光路変換手段を回転駆動させるモータを備える請求項1~3何れか1項記載の光学式内面測定装置。
【請求項5】
測定対象の穴の内周面の観察、測定を行う光学式内面測定装置であって、
円形以外の異形断面を有する透明パイプの内部に、回転可能な光学測定系を配置し、
前記透明パイプは、被測定物の穴に対して、すっぽりと入り、
前記被測定物の穴の内周面と前記透明パイプとの間の半径ギャップを3ミリメートル以下になるよう、前記透明パイプの寸法を設定した光学式内面測定装置。
【請求項6】
前記被測定物を固定し、前記被測定物の穴に前記透明パイプを挿入し、前記光学測定系により被測定物の内周面と透明パイプの半径ギャップ(Δrn)を測定し、
被測定物までの半径距離=〔透明パイプの絶対寸法校正値〕+〔半径ギャップ(Δrn)〕の式により、前記被測定物の内周面の形状寸法を求める請求項5記載の光学式内面測定装置。
【請求項7】
光学測定系は、非回転光ファイバーの先端側に一体的に設けられた集光部材と、前記集光部材の先端側に配置され、前記透光性パイプの内部に設けられた回転自在な光路変換手段を有するものであり、
前記光路変換手段を回転駆動させるモータを備える請求項5または6に記載の光学式内面測定装置。
【請求項8】
非円形の内周面を有する穴に、円形以外の異形断面を有する透明パイプを挿入し、
前記透明パイプの内側に配置した回転光学測定系から前記内周面に向けて光線を回転放射し、
前記透明パイプを基準として前記内周面の形状寸法及び幾何学精度を測定する光学式内面測定方法。
【請求項9】
前記内周面の絶対値測定を行うための基準となる測定マスターを準備するステップと、
前記測定マスターを用いて前記透明パイプを校正するステップと、
前記校正後の前記透明パイプの外周面又は内周面を基準として、前記内周面までの半径ギャップを測定するステップと、を含む請求項8記載の光学式内面測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の例えば自動車用ロータリーエンジン用ハウジングの繭型形状の内周面や、ギヤポンプの楕円形状等、円以外の断面形状を有する内周面に、光プローブを進入させ内周面に光線を放射し、反射光を取り込んで内周面形状の観察、及び寸法及び幾何学精度を測定するための光学式内面測定装置および測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用ロータリーエンジン用ハウジングの内周面や、ギヤポンプの内周面の加工仕上がり寸法や幾何学精度の良否はそれぞれの機器の性能に大きく影響する物であるが、これら精度の検査は従来、三次元測定機等接触式測定機を用いて検査されていた。しかし近年、被測定物に傷を付けず、さらにナノメートルレベルの高精度な測定を行う目的から干渉光学法等の非接触式測定機が望まれている。
【0003】
機械装置や機械部品の内周面に光線を照射して内周面の観察または測定を行う技術を適用した観察装置の代表的な構造は、例えば、特許文献1および2に示す通りである。
【0004】
特許文献1に記載される発明では、断面が略円筒形状の管内に光ビームを螺旋状に走査し、非接触で管の内径寸法と、該文献中
図10に示されるように三次元の形状データを取り込んで表示している。
しかしながら該文献においては、放射ビームの回転モータが高速回転すると回転軸に振れまたは非再現振れが生じ、収集された被測定物の内周面の断面形状データにノイズが乗っていたり、またはデータに歪みが生じていたりするため、真の測定値が得られていなかった。
【0005】
特許文献2に記載される発明では、該文献中
図5に示されるように、円筒パイプ状の透光部材(21)の内部に回転光学系(3)が設けられ、被測定物(9)の略断面丸穴の内周面に光線(26)を放射し、反射光から内周面の形状を走査している。
しかしながら、従来のこの測定機は、使用する光プローブは円筒状透光性パイプを用意し、その内部にミラー等の回転光学系を内蔵していた為、
図19に示されるように被測定物(9)の内周面は、ほぼ円形断面、または円筒の内周面に限定されており、被測定物の内周面が楕円や多角形の場合は、パイプから半径距離が大きい部分で反射光が取得できず、測定が行えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-180627号公報
【文献】特開2015-232539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来事情に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、例えば自動車用ロータリーエンジン用ハウジングの内周面等、円形以外の断面形状の内周面に、光プローブを進入させ内周面に光線を回転放射し、反射光を取り込んで内部形状の観察、及び寸法及び幾何学精度の測定を可能にした光学式内面測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための一手段は、断面形状が楕円や繭型や多角形の、円形以外の断面形状を有する被検査対象物の穴の中に入る異形断面の透明パイプを作り、この透明パイプの内部に回転光学測定ユニットを内蔵する。これにより、透明パイプと被測定物内周面の半径ギャップがほぼ一定になり、干渉光学法(各種光計測法の中でも最も高精度な光干渉法、分光干渉法等)による測定を可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、楕円や繭型や多角形の、円形以外の内周面に、光線を回転放射し、高精度な干渉光学法により反射光を立体的に取り込んで内部形状の観察、及び寸法及び幾何学精度を測定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明実施の形態に係る光学式内面測定装置の光プローブの図
【
図3】同光学式内面測定装置を用いた測定に係る測定マスターの一例を示す図
【
図4】同光学式内面測定装置の透明パイプの一例を示す図
【
図6】同光学式内面測定装置を用いた測定方法のフロー図
【
図8】同光学式内面測定装置の透明パイプが無い場合の説明図
【
図9】同光学式内面測定装置の透明パイプが無い場合の特性図
【
図10】同光学式内面測定装置の半径ギャップ説明図
【
図16】従来の光学式内面測定装置の光プローブ部断面図
【
図17】従来の光学式内面測定装置の測定原理説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施の形態の光学式内面測定装置及び光学式内面測定方法によれば、非接触測定方法の中でも高精度な測定が可能となる干渉光学法を用いて、被検対象物である楕円や多角形の内周面等、円形以外の内周面を高精度に観察および測定を行える。
【0012】
第1の特徴は、光学式内面測定装置について、円形以外の異形断面を有する透明パイプの内部に、回転可能な光学測定系を配置したことにある。
この構成により、測定対象の穴の中に透明パイプをすっぽりと入るように入れて、円形以外の断面形状の内周面を高精度に観察および測定を行うことができる。
【0013】
第2の特徴としては、異形断面の透明パイプについて、被測定物の測定マスターの内周面と透明パイプとの間の半径ギャップ(ΔRn)を測定した結果から、透明パイプの半径寸法=〔マスターまでの半径距離〕-〔半径ギャップ(ΔRn)〕の式により、透明パイプの絶対寸法校正値を求めてコンピュータに保存したことにある。すなわち、透明パイプを第1の測定基準値を有する測定マスターの中に挿入して、回転光学ユニットにより被測定部内面と透明パイプの間の半径ギャップを測定した結果から、透明パイプの絶対寸法を求めて、これを第2の基準値としてコンピュータに保存したものである。
この構成により、被測定物の測定をこの透明パイプの半径寸法を基準に行うことができる。測定は都度、透明パイプを基準に行えるため、測定値の繰り返し再現性が極めて良好になる。
【0014】
第3の特徴としては、透明パイプは、被測定物の穴に対して、すっぽりと入り、被測定物の穴の内周面と透明パイプとの間の半径ギャップを3ミリメートル以下になるように透明パイプの寸法を設定したことにある。
この構成により、被測定部内面と透明パイプの間に十分良好な干渉縞を発生することが可能になり、安定した測定結果が得られる。
【0015】
第4の特徴としては、被測定物を固定し、被測定物の穴に透明パイプを挿入し、回転光学ユニットにより被測定物の内周面と透明パイプの半径ギャップを測定し、被測定物までの半径距離(rn)=(コンピュータに保存した、透明パイプ半径第2の基準値:Rn)+(半径ギャップ:Δrn)の式により被測定物の内周面の形状寸法(rn)をもとめるものである
この構成によれば、円形以外の断面形状の内周面に光線を回転放射し第2の測定基準となる透明パイプを基準に毎回の測定が行える為、内周面形状の寸法及び幾何学精度を高精度に測定することができる。
【0016】
第5の特徴としては、光学式内面測定装置の光学測定系は、非回転光ファイバーの先端側に一体的に設けられた集光部材と、集光部材の先端側に配置され、透光性パイプの内部に設けられた回転自在な光路変換手段を有している。そして、光路変換手段を回転駆動させるモータを光学式内面測定装置に備えていることにある。
この構成によれば、放射される光線の回転制御を精度良く行うことができる。
【0017】
第6の特徴は、光学式内面測定方法について、非円形の内周面を有する穴に、円形以外の異形断面を有する透明パイプを挿入し、この透明パイプの内側に配置した回転光学測定系から穴の内周面に向けて光線を回転放射し、透明パイプを基準として内周面の形状寸法及び幾何学精度を測定することにある。
この構成によれば、円形以外の異形断面形状の内周面を高精度に観察および測定を行うことができる。
【0018】
第7の特徴としては、同じく光学式内面測定方法について、更に、非円形の内周面の絶対値測定を行うための基準となる測定マスターを準備するステップと、測定マスターを用いて透明パイプを校正するステップと、校正後の透明パイプの外周面又は内周面を基準として、内周面までの半径ギャップを測定するステップと、を含むことにある。
この構成によれば、繰り返し測定を行う場合に、測定値の再現性が極めて良好になる。
【0019】
次に本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0020】
本発明に関わる光学式内面測定装置の実施形態について説明する。
図1~
図7は本発明に係る光学式内面測定装置の実施形態を示している。
【0021】
図1は本発明光学式内面測定装置の光プローブ13の正面断面図である。
図1において、非回転の光ファイバー1は、その先端にレンズ等の集光部材が一体的に設けられ、中空回転軸2の穴に挿通されている。中空回転軸2にはロータ磁石7が取り付けられ、第1軸受8aおよび第2軸受8bにより回転支持されている。ロータ磁石7はチューブ5に内蔵され固定されモータコイル6に対向し、電線9から交番電流が供給され、中空回転軸2、モータコイル6、ロータ磁石7、軸受8a、8bでモータ10を構成する。中空回転軸2にはミラー等からなる光路変換手段3が取り付けられ一体的に回転する。光ファイバー1の後方から送られてきた光線は光ファイバー1と、集光部材1aを通過し、光線21は、モータ10により回転する光路変換手段3により、異形透明パイプ4を透過して被測定物31の被測定穴32の内周面の360度全周に回転放射される。被測定物で反射した光線21は再び異形透明パイプ4、光路変換手段3、集光部材1aを透過し光ファイバー1に戻される。
【0022】
図2は同光プローブの下方断面図である。
図2において被測定物は、一例としてロータリーエンジンであり、エンジンハウジング33に繭型穴34が加工されている。本発明の光プローブ13の異形透明パイプ4の断面形状は円形ではなく、繭型、三角形型、多角形等の色々な形状に設計され石英やガラス等の透光性材料により製作される。
図2において繭型の異形透明パイプは、被測定物の繭型穴34にすっぽり入る大きさに加工されている。尚、異形透明パイプ4の内周面4aまたは外周面4bと繭型穴34表面からの半径ギャップは3ミリメートル以下に設計し製作している。
図2に示すミラー等からなる光路変換手段3が光線21を回転放射し繭型穴34の内周面までの距離を高精度に測定し360度全周の形状データを取得する。
【0023】
図3は、同光プローブを用いた異形内周面の測定に係る測定マスターの一例を示す図である。測定マスター29にはマスター基準穴30が形成されており、光学式内面測定装置の絶対値測定の基準として使用する。
【0024】
図4は、同光プローブの一部を構成するの透明パイプ4の一例を示す図である。透明パイプ4は、測定マスター29のマスター基準穴30或いは被測定物31の被測定穴32に光プローブを挿入するとき、マスター基準穴30或いは被測定穴32にすっぽりと収まるように形成されている。そのため、透明パイプ4の内周及び外周断面の輪郭は、マスター基準穴30及び被測定穴32の内周断面の輪郭よりも小さい略相似形状となっている。また、透明パイプ4は完全な無色透明である必要はなく、透光性があればよい。
【0025】
図5は本発明定装置のシステム構成図である。ベース80にスタンド81が固定され、スライダ用モータ83によりスライダ82が光ローブ13と共に上下に移動する。被測定物31は固定治具90にセットされており、光プローブ13は被測定物31の被測定穴32に出入りする。光プローブ13の光ファイバーに入光した被測定物31からの反射光は測定機本体86の接続部84を通過して、光干渉解析部85に入り、コンピュータ86で解析してモニタ89に画像を表示する。
また、
図5に示すスライダ用モータ83が光プローブ13を被測定穴32の内部を軸方向に移動させることで光線21は回転放射しつつ軸方向にスライド可能であるため、被測定穴32全体の三次元形状の形状データを収集する事ができる。
尚、
図5に示すスライド用モータ83によりスライダ82が移動する直線性精度は0.1マイクロメートル(μm)以下の精度を維持している。
【0026】
図6は同光学式内面測定装置の測定フローを示している。本発明測定装置のフローにおいては、〔1〕測定機の絶対値測定の基準となる測定マスター29を設ける事、〔2〕異形パイプ4の寸法を測定マスター29を用いて校正する事、〔3〕校正後は毎回の測定において常に校正した異形パイプ4を被測定物33の穴34に挿入し、被測定穴34内周面までの半径ギャップを異形透明パイプ4の内周面4aまたは外周面4bを基準に測定する事が特徴であり、このフローにより異形測定穴32内周面の高精度な測定が可能になるものである。
【0027】
以下に測定フローを詳細に説明する。
【0028】
〔1〕異形測定マスターの準備
被測定物29の異形被測定穴30の形状と寸法を、例えば三次元形状測定機等の従来の測定機で測定しコンピュータに保存し、この被測定物をマスター30と認定し保管する。従来の測定機の測定精度は1マイクロメートル程度しかなく本発明の0.01マイクロメートル以下が測れる精密な測定機にとっては明らかに不十分である為、従来の測定機を用いる場合は複数回、例えば10回程度繰り返し測定を行い、その平均値を求めて0.1マイクロメートル以下の数値を表示し、これをマスター29の基準寸法値と定義しコンピュータに「第1マスター数値」として保存する。
【0029】
〔2〕異形測定用光プローブの準備
図1および
図2において、被測定物31の異形被測定穴32に挿入可能であり、被測定穴32の内周面との半径ギャップは 3.0mm以下の透明パイプ4を製作し、その内部に回ミラー等からなる光路変換手段3を内蔵する。
【0030】
〔3〕異形測定マスターと光プローブのセッティング
異形測定マスター29のマスター基準穴30に異形透明パイプ4を有する光プローブ13を挿入し、測定マスター29と光プローブ13の間をX-Y-Z方向に移動および振れが生じないようにする。
【0031】
〔4〕測定マスターのデータ取得
異形測定マスター29の基準穴30の内表面と異形透明パイプ4の半径ギャップ寸法(
図2中、ΔR1~ΔR8)を光プローブ13で360°全周測定する。
【0032】
〔5〕異形パイプの校正
異形パイプ内周面4aまでの半径距離(Rn)=(コンピュータに保存した測定マスター基準穴30表面までの半径(r))-(今測定した半径ギャップ(ΔRn))である。
360°全周の異形透明パイプ4の半径距離を求め、コンピュータに「第2マスター数値」として記憶させる。この手順は手法こそ従来と異なるが、一般に光プローブの校正と呼ばれる作業である。
【0033】
〔6〕被測定物のセッティング
図5に示す本発明測定機に異形穴を有する被測定物31をセットする。
【0034】
〔7〕光プローブのセッティング
図2に示すように被測定物31の異形の被測定穴32に光プローブ13の異形透明パイプ4を挿入する。この際、異形透明パイプ4と被測定穴32は接触していない必要がある。接触した場合は異形透明パイプの外周面にキズや汚れができて反射光が減衰して測定できない場合がある。
【0035】
〔8〕ギャップ測定
光プローブ13の光路変換手段3を回転し、異形透明パイプ4と被測定物31の異形の被測定穴32表面のギャップ(半径距離)を360度に渡り測定する。
【0036】
〔9〕被測定穴までの半径距離計算
被測定物31の異形穴32内面までの半径距離(rn)=(測定したギャップ半径(ΔRn))+(透明パイプ4校正値、即ち「第2マスター保存値(Rn)」)であり、360°全周にわたり半径距離(rn)を計算し、断面寸法デジタルデータとし、「実測数値」としてコンピュータに保存する。
【0037】
〔10〕実測値の表示
取得した360度各位置での「実測数値(半径)」の断面デジタルデータから必要な測定値(内周面曲線形状線図、内径、真円度、等)をコンピュータで算出し表示する。
【0038】
また、
図5に示すスライダ82をスライダ用モータ83により、例えばピッチ高さが100マイクロメートルで間欠的に上下にスライドさせながら、光プローブ13で被測定穴32の断面を全体に測定することで、被測定穴32内周面の三次元形状データが収集でき、円筒度、真直度等の数値を算出することができる。
【0039】
このように
図6の測定フローに基づき、測定マスター32と光プローブ13の異形透明パイプ4を用いて、非測定穴32内周面の測定を行うことにより、断面形状が円以外の異形断面の内周面の寸法と形状が高精度に数ナノメートル(nm)の繰り返し再現性で高精度に測定することができる。
【0040】
尚、異形透明パイプ4の材質は石英、ガラス等であるが、石英が線膨張係数の小ささ、表面硬度の高さ等の点で有利である。
【0041】
また、前記測定フローの〔4〕測定マスターのデータ取得において、異形透光性パイプ4の内周面11aと外周面11bのどちらを測定基準面に選ぶかは、測定機の使用環境によって選ぶ事ができる。例えば外周面4bにキズや汚れが生じやすい使用環境では内周面4aを測定基準面に選び、その他の場合は、透明パイプ4の表面加工が容易で表面粗さが小さく加工できるパイプ外周面4bを測定基準面に選ぶものである。
【0042】
尚、
図1に示す固定側光ファイバー1は、屈曲自在なグラスファイバーであり直径は0.1~0.4ミリメートル(mm)程度のものを使っている。
【0043】
図1に示される第1光路変換手段3は平滑な反射面を有するミラーかプリズムからなり、反射率を高めるため、その表面粗さと平面度は一般の光学部品と同等以上の精度に磨きあげられている。
【0044】
また、異形パイプの内周面4a又は外周面4bの表面は、必要に応じて表面に数ナノメートル厚さの透光性がある金属コーティングを施しておき、表面からの収集波形の輪郭をより確実に検出するよう設計することができる。
【0045】
また、光路変換手段3は回転ミラー、回転プリズム、回転レンズ等が適宜使われる。
【0046】
図7は本発明光学式内面測定装置の測定原理説明図である。
図7において横軸は回転角(度)、縦軸は半径距離(ミリメートル)を示している。
図2に示す繭型穴34の測定事例では、透明パイプ内周面11aのコンピュータに保存された図中「第2マスター数値」が略正弦波上であり、この時測定した「ギャップ」は光線の放射回転角度が0度から360度までほぼ一定数値である。被測定物の半径は と「ワーク」は、被測定物31の異形穴32内面までの半径距離(rn)=(測定したギャップ半径:ΔRn)+(透明パイプ4の校正値、即ち「第2マスター保存値:Rn」)であり、被測定物の半径線図も略正弦波形状になっている。
【0047】
図8は、光学式内面測定装置において仮に異形透明パイプ4が無い場合を仮定した場合の説明図、
図9は光学式内面測定装置において仮に異形透明パイプ4が無い場合を仮定した場合の特性図である。
図8では、光線21はミラー等の変換手段から放射され異形透明パイプを介さないで被測定穴32に回転照射し半径距離の測定を行う。従ってこの場合、測定基準となる異形透明パイプが無いために、光路変換手段3の回転振れ量が温度や振動の影響で変化する。
【0048】
図9において、異形透明パイプ4が無い場合取得できるデータは、図中ワーク内周面半径線図(原波形)に示すように、半径距離データにばらつきが大きいものであり、例え平均化しても真の値とは異なる物になる場合がある。
【0049】
一方、
図1に示す本発明においては、毎回の想定を異形透明パイプ4の「第2マスター数値」を基準に、被測定穴32内周面までのギャップ半径の測定を行うため、光プローブ13の光路変換手段3の回転振れの影響が完全に排除され、測定精度に全く影響しない事が特徴であり、高精度な測定が行える。また、同時に、光干渉解析部86に内蔵される光源の光量や波長のゆらぎの影響も、本発明による測定法では完全に排除され、高精度な測定が可能である。
【0050】
図10は本発明光学式内面測定装置の半径ギャップ説明図であり、横軸は
図2において被測定穴32の内周面と異形透明パイプまでの半径ギャップ(ミリメートル)、縦軸は
図5に示す光干渉解析部85に得られる光出力(%)である。
図10により、本発明の光干渉式測定機は被測定穴32の内周面と異形透明パイプまでの半径ギャップが3ミリメートルまでは高精度に測定できるが、それ以上では出力が低下し測定精度が悪化することがわかった。
【0051】
本発明測定機は
図5の光干渉解析部85に入光した光をコンピュータ部86で解析すると
図15に示すような半径距離解析図が得られる。
図15において3箇所の出力ポイントがそれぞれ左から、透明パイプ内面出力、透明パイプ外周面出力、右が被測定物内周面出力である。本発明に示す異形透明パイプ4と被測定穴32の間の半径ギャップ距離とは、図中A又はBのいずれかの距離である。
【0052】
図16と
図17は光学式内面測定装置の特徴をより明らかにするため、従来例について補足したものであり、
図16は従来の光学式内面測定装置の光プローブ部断面図、
図17は、従来の光学式内面測定装置の測定原理説明図である。
【0053】
図16において透明パイプは円形透明パイプ39である。この場合、円形透明パイプ39と被測定穴32の間の半径ギャップ距離は図中ΔR1からΔR8に示されるように、大きい部分では3ミリメートルを超える場合が多く生じる。
図17に、図中ギャップ半径大(ΔR=3mm以上)の場合の被測定内周面半径線図を破線に示している。この破線部分では十分な干渉光が得られていないため、測定結果は高精度なものではない。
【0054】
図11は本発明の光学式内面測定装置の繰り返し測定精度を示している。本発明の光学式内面測定装置においては0.01マイクロメートル以下の数値を得ている。一方、
図16に示すように、被測定穴が円形以外の異形の場合に、透明パイプに円形39を使用した場合は0.50マイクロメートル程度の繰り返し再現性しか得られない。
【0055】
図12は本発明光学式内面測定装置の光線傾斜角説明図であり、
図13は、同光学式内面測定装置の三角断面測定事例である。
図13においてはポンプハウジング35に被測定穴に該当する三角穴36が加工されている。36aは半径大部、36bは半径小部である。三角透明パイプ11の内部にミラー等からなる光路変換手段3が設けられている。
【0056】
図13においては、図中θ1に示すように、光線21が、被測定物31の内周面に対してθ1の角度だけ傾斜して照射される為、十分な戻り光が検出されない場合が生じる。
図12図の横軸は光線21が、被測定物31の内周面に対して傾斜して照射される場合の傾斜角θ(deg)を示し、縦軸は
図5に示す光干渉解析部85に得られる光出力(%)である。
図12から光線21の傾斜角(θ)は20度までは適正な出力が得られるが、これを超えると十分な戻り光が検出できず、高精度な測定が行えない場合が生じることが分かった。
【0057】
図14は同光学式内面測定装置の四角断面測定事例である。金型ハウジング37に四角穴38が加工され、内部に回転ミラー等からなる光路変換手段3が内蔵された四角形透明パイプ12が挿入される。その他の動作は
図13の三角断面測定事例と同じである。
【0058】
本発明によれば、断面形状が楕円や多角形の穴に、その中にすっぽり入る異形断面の透明パイプを設け、この内部に回転光学測定径を内蔵し、被測定物内面と透明パイプ間の半径ギャップを干渉光学法で測定し、被測定物までの半径距離=(透明パイプの半径寸法+半径ギャップ)の式により被測定物の内周面の形状寸法をコンピュータで計算する為、光プローブ13の光路変換手段3の回転振れの影響が完全に排除され、また、光干渉解析部86に内蔵される光源の光量や波長のゆらぎの影響も完全に排除された高精度な測定が、断面が円形以外の異形断面の被測定物においても行える。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の干渉光学法を用いて被検対象物の観察と測定を行う光学式内径測定装置は、異形断面形状の穴を有する多くの工業用製品の内周面を高精度に測定できるとともに、従来は不可能であった深穴の三次元観察をおこなうこともでき、広い活用が期待される。
【符号の説明】
【0060】
1 光ファイバー(非回転)
1a 集光部材(レンズ)
2 中空回転軸
3 光路変換手段(ミラー)
4 異形透明パイプ
4a 透明パイプ内周面
4b 透明パイプ外周面
5 チューブ
6 モータコイル
7 ロータ磁石
8a 第1軸受
8b 第2軸受
9 電線
10 モータ
11 三角形透明パイプ
11a 透明パイプ内周面
12 四角形透明パイプ
12a 透明パイプ内周面
13 光プローブ
21 光線
29 測定マスター(マスターゲージ)
30 測定マスター基準穴
31 被測定物
32 被測定穴
33 エンジンハウジング
34 繭型穴
34a 半径大部
34b 半径小部
35 ポンプハウジング
36 三角穴
36a 半径大部
36b 半径小部
37 金型ハウジング
38 四角穴
38a 半径大部
38b 半径小部
39 円形透明パイプ
80 ベース
81 スタンド
82 スライダ
83 スライダ用モータ
84 接続部
85 光干渉解析部
86 コンピュータ路
87 モータドライバ回路
88 測定機本体
89 モニタ
90 固定治具