(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】TRPV4活性抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/216 20060101AFI20230209BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230209BHJP
C07C 69/732 20060101ALI20230209BHJP
C07C 69/736 20060101ALI20230209BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20230209BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20230209BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
A61K31/216 ZNA
A23L33/10
C07C69/732 Z
C07C69/736
A61P1/00
A61P13/10
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2018191980
(22)【出願日】2018-10-10
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩下 真純
(72)【発明者】
【氏名】北村 尚也
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-272362(JP,A)
【文献】特表2005-526040(JP,A)
【文献】特表2003-521511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
C07C 69/732
C07C 69/736
A61P 1/00
A61P 13/10
A61P 43/00
A23L 33/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を有効成分とするTRPV4活性抑制剤。
【化1】
【請求項2】
過活動膀胱の予防又は改善のために使用される、請求項1記載の剤。
【請求項3】
過敏性腸症候群の予防又は改善のために使用される、請求項1記載の剤。
【請求項4】
下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を有効成分とするTRPV4活性抑制用食品
。
【化2】
【請求項5】
過活動膀胱の予防又は改善のために使用される、請求項4記載の食品。
【請求項6】
過敏性腸症候群の予防又は改善のために使用される、請求項4記載の食品。
【請求項7】
下記式(Ia)又は(Ib)で表されるロズマリン酸誘導体又はその塩。
【化3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過活動膀胱や過敏性腸症候群等の予防又は改善に有用な、ロズマリン酸誘導体又はその塩に関する。
【背景技術】
【0002】
TRPV4(Transient receptor potential cation channel subfamily V member 4)は、温度感受性TRPチャネルを構成するタンパク質の1つである。TRPV4は、腎、肺、膀胱、心臓、皮膚、脳、消化管など幅広い組織で発現しており、異なった幅広い生理的役割を果たしていると考えられている。
【0003】
腎の遠位尿細管上皮細胞には特に強くTRPV4が発現しており、TRPV4の作用により尿の浸透圧や流量が感知されることが示唆されている(非特許文献1)。また、TRPV4は膀胱の機能に関与することが報告されている(非特許文献2)。すなわち、膀胱内側の膀胱上皮細胞にはTRPV4が存在し、尿が溜まって膀胱上皮細胞が伸展した場合に、TRPV4などにより構成されるTRPVチャネルを介して、細胞内にカルシウムが流入する。このカルシウムの流入によってATPが細胞から放出され、膀胱の膨らみが神経に伝わる。また、TRPV4が排尿間隔に及ぼす影響は、TRPチャネルを構成する他のタンパク質よりも大きいことが報告されている(非特許文献3)。
【0004】
また、過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は、細菌やウイルスの感染による腸炎や、潰瘍性大腸炎・大腸がん等の病気とは異なり、検査を行っても炎症や潰瘍といった器質的疾患が認められないにもかかわらず、下痢や便秘、腹痛、ガス過多による下腹部の張りなどの腹部不快感が生じる疾患である。IBS患者ではTRPV4アゴニストである多価不飽和脂肪酸の代謝産物(5,6-エポキシエイコサトリエン酸;5,6-EET)量が結腸で多いこと、当該5,6-EETを含む結腸の破砕液をマウス結腸へ投与した場合に腸運動反応が増加して腸が過剰反応するが、この場合においてTRPV4の発現を抑制すると当該過剰反応が抑制されることが報告されている(非特許文献4)。
【0005】
したがって、TRPV4活性を阻害することにより、過活動膀胱や過敏性腸症候群を予防又は改善することが期待される。
【0006】
一方、下記構造式で表される3’-O-メチル-ロズマリン酸(i)、4’-O-メチル-ロズマリン酸(ii)、または3,3’-O-ジメチル-ロズマリン酸(iii)等の特定のロズマリン酸誘導体がシクロオキシゲナーゼ2の誘導抑制活性を有し、抗炎症作用があることが報告されている(特許文献2)。
【0007】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-24809号公報
【文献】特開2005-272362号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Tian W.,Am.J.Physiol.Renal.Physiol.,2004,287,p.F17-F24
【文献】Nilius B.,Physiol.Rev.,2007,87,p.165-217
【文献】Gevaert T.,J.Clin.Invest.,2007,117,p.3453-3462
【文献】Nicolas Cenac et al., Gastroenterology 2015 149, 433-444
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、TRPV4の活性を抑制し、過活動膀胱や過敏性腸症候群等の予防又は改善に有用な化合物を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、ロズマリン酸誘導体について検討を行った結果、下記式(Ia)~(Id)で示されるロズマリン酸誘導体が、優れたTRPV4活性抑制作用を有し、過活動膀胱や過敏性腸症候群等の予防又は改善のために有用であることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の1)~7)に係るものである。
1)下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を有効成分とするTRPV4活性抑制剤。
2)下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を有効成分とする過活動膀胱の予防又は改善剤。
3)下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を有効成分とする過敏性腸症候群の予防又は改善剤。
4)下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を有効成分とするTRPV4活性抑制用食品。
5)下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を有効成分とする過活動膀胱の予防又は改善用食品。
6)下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を有効成分とする過敏性腸症候群の予防又は改善用食品。
7)下記式(Ia)又は(Ib)で表されるロズマリン酸誘導体又はその塩。
【0013】
【発明の効果】
【0014】
本発明のロズマリン酸誘導又はその塩は、TRPV4活性を効果的に抑制することができ、TRPV4チャネルが活性化されることによって生じる疾患、例えば過活動膀胱や過敏性腸症候群の予防又は改善に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のロズマリン酸誘導体は、下記式(Ia)~(Id)で示されるものであり、(Ia)で示される化合物は4,3’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、(Ib)で示される化合物は4,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、(Ic)で示される化合物は3、4-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、(Id)で示される化合物は3’,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸である。このうち、(Ia)又は(Ib)で示される化合物は、これまでに単離又は合成されたことがない、新規化合物である。
なお、化合物(Ia)は(E)-3-(3-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-2-{[3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)アクリロイル]オキシ}プロピオン酸、(Ib)は(E)-3-(3-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-2-{[3-(3-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)アクリロイル]オキシ}プロピオン酸、(Ic)は(E)-3-(3,4-ジメトキシフェニル)-2-{[3-(3、4-ジヒドロキシフェニル)アクリロイル]オキシ}プロピオン酸、(Id)は(E)-3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-2-{[3-(3、4-ジメトキシフェニル)アクリロイル]オキシ}プロピオン酸と表記することもできる。
【0016】
【0017】
本発明のロズマリン酸誘導体には光学異性体が存在するが、いずれかの光学異性体であっても、光学異性体の混合物であってもよい。本発明ではR体又は光学異性体混合物が好ましい。
【0018】
本発明のロズマリン酸誘導体の塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン等のアミン類との塩等を挙げることができる。
【0019】
本発明のロズマリン酸誘導体又はその塩は、未溶媒和型のみならず、水和物又は溶媒和物としても存在することができる。従って、本発明においては、その全ての結晶型及び水和若しくは溶媒和物を含むものである。溶媒和物の好ましい例としては、水和物、アルコール和物、アセトン和物などが挙げられる。
【0020】
本発明のロズマリン酸誘導体は、例えば後記製造例に示す方法により製造できる。以下に、(Ia)~(Id)の合成スキームを例示する。
【0021】
1. 4,3’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(Ia)の合成例
【0022】
【0023】
2. 4,4’-ジ-メチル-ロズマリン酸(Ib)の合成例
【0024】
【0025】
3. 3、4-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(Ic)の合成例
【0026】
【0027】
4. 3’,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(Id)の合成例
【0028】
【0029】
後記実施例で示すように、本発明のロズマリン酸誘導体は、TRPV4活性を抑制する。すなわち、TRPV4刺激物質(TRPV4作動薬、アゴニスト)の存在下で、TRPV4遺伝子導入により、TRPV4が機能的に発現している形質転換細胞(TRPV4発現細胞)と当該ロズマリン酸誘導体とを接触させた場合、TRPV4刺激物質による細胞内の陽イオン量の流入を抑制するという、TRPV4活性抑制作用を有する。
したがって、本発明のロズマリン酸誘導体又はその塩は、TRPV4活性抑制剤となり、TRPV4活性抑制のため、或いはTRPV4活性抑制剤を製造するために使用できる。
【0030】
前述のとおり、TRPV4は、膀胱内側の膀胱上皮細胞に存在する。尿が溜まって膀胱上皮細胞が伸展した場合、TRPV4チャネルを介して細胞内にカルシウムが取り込まれ、これによってATPが細胞表面から放出され、膀胱の膨らみが神経に伝達される。したがって、TRPV4の活性を抑制することにより、過活動膀胱を予防又は改善することができる。また、過敏性腸症候群患者の結腸においては、多価不飽和脂肪酸の代謝産物である5,6-EET(TRPV4アゴニスト)の量が多いこと、また当該5,6-EETを含む結腸の破砕液をマウス結腸へ投与した場合に腸が過剰反応し、当該過剰反応はTRPV4の発現を抑制することにより抑制されることが報告されている(前記非特許文献1)ことから、TRPV4活性を抑制することにより、過敏性腸症候群を予防又は改善することができる。
したがって、本発明のロズマリン酸誘導体又はその塩は、過活動膀胱の予防又は改善剤、過敏性腸症候群の予防又は改善剤となり、過活動膀胱や過敏性腸症候群の予防又は改善のため、或いは過活動膀胱や過敏性腸症候群の予防又は改善剤を製造するために使用できる。
【0031】
本発明において「TRPV4」とは、「Transient receptor potential cation channel subfamily V member 4」を意味する。TRPV4は、ヒトにおいてTRPV4遺伝子によってコードされているタンパク質である。
また、「TRPV4の活性抑制」とは、受容体であるTRPV4の活性を抑制することを指す。具体的には、TRPV4刺激物質がTRPV4に結合することによって発現する活性、例えばイオン流束の調節能(例えば、細胞外から細胞内へのカルシウムイオン、ナトリウムイオンなどの陽イオンの輸送能など)、膜電位の調節能(例えば、電流の発生能など)を抑制又は阻害することを意味する。
【0032】
本発明において、「過活動膀胱」とは尿意切迫感を必須とした症状症候群であり、通常頻尿や切迫性尿失禁を伴うものを指す。また、「過敏性腸症候群」とは、主として大腸の運動および分泌機能の異常で起こる疾患の総称であり、細菌やウイルスの感染による腸炎や、潰瘍性大腸炎・大腸がん等の病気とは異なり、検査では異常が見当たらないが下痢や便秘を繰り返す症状が続く場合に診断される疾患を意味する。
【0033】
本発明において、TRPV4活性抑制のため、過活動膀胱或いは過敏性腸症候群の予防又は改善のための「使用」は、ヒトを含む動物への投与又は摂取であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0034】
なお、本明細書において「予防」とは、個体における疾患若しくは症状の発症の防止若しくは遅延、又は個体の疾患若しくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。また、「改善」とは、疾患、症状若しくは状態の好転、疾患、症状若しくは状態の悪化の防止若しくは遅延、又は疾患、症状若しくは状態の進行の逆転、防止若しくは遅延をいう。
【0035】
本発明のTRPV4活性抑制剤、過活動膀胱若しくは過敏性腸症候群の予防又は改善剤は、ヒトを含む動物に摂取又は投与した場合に、TRPV4活性抑制効果、過活動膀胱或いは過敏性腸症候群の予防又は改善効果を発揮する医薬品、医薬部外品、サプリメント又は食品となり、或いはこれらへ配合するための素材又は製剤となり得る。
また、本発明の食品には、一般飲食品のほか、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示食品、サプリメントが包含される。
【0036】
本発明のロズマリン酸誘導体又はその塩を含む上記医薬品(医薬部外品を含む)は、任意の投与形態で投与され得るが、経口投与が好ましい。投与に際しては、有効成分を経口投与、直腸内投与、注射等の投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬品製剤の形態で投与することができる。
【0037】
このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥剤等が挙げられる。これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、賦形剤等の慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0038】
また、本発明のロズマリン酸誘導体又はその塩を配合した上記食品の形態は、清涼飲料水、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、炭酸飲料、ゼリー、ウエハース、ビスケット、パン、麺、ソーセージ等の飲食品や栄養食等の各種食品の他、さらには、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、トローチ剤等の固形製剤)の栄養補給用組成物が挙げられる。なかでも、錠剤が好ましく、チュアブル錠がより好ましい。
種々の形態の食品を調製するには、本発明のロズマリン酸誘導体又はその塩を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0039】
上記の医薬品(医薬部外品を含む)や食品中の本発明のロズマリン酸誘導体又はその塩の含有量は、その使用形態により異なるが、通常、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、また、好ましくは100質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。また、好ましくは0.01~100質量%、より好ましくは0.1~90質量%、更に好ましくは1~70質量%である。
【0040】
本発明のロズマリン酸誘導体又はその塩を医薬品や食品として、或いは医薬品や食品に配合して使用する場合のヒトへの投与量は、対象者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、経口投与の場合の成人1人当たりの1日の投与量は、通常、当該ロズマリン酸誘導体又はその塩として、好ましくは0.1mg以上、より好ましくは1mg以上、更に好ましくは10mg以上であり、また、好ましくは2000mg以下、より好ましくは500mg以下、更に好ましくは200mg以下である。また、好ましくは0.1~2000mg、より好ましくは1~500mg、更に好ましくは10~200mgである。
また、上記製剤は、任意の投与計画に従って投与され得るが、1日1回~数回に分け、数週間~数ヶ月間継続して投与することが好ましい。
【0041】
投与又は摂取対象としては、TRPV4活性抑制、過活動膀胱、過敏性腸症候群の予防又は改善を必要とする若しくは希望するヒトを含む動物であれば特に限定されないが、過活動膀胱又は尿意切迫感及び切迫性尿失禁等の排尿障害などの症状を呈するヒト、ストレス等により下痢や便秘、腹痛、ガス過多による下腹部の張りなどの症状を呈するヒトへの投与又は摂取が有効である。
【0042】
上述した実施形態に関し、本発明においては以下の態様が開示される。
<1>下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を有効成分とするTRPV4活性抑制剤。
<2>下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を有効成分とする過活動膀胱の予防又は改善剤。
<3>下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を有効成分とする過敏性腸症候群の予防又は改善剤。
<4>下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を有効成分とするTRPV4活性抑制用食品。
<5>下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を有効成分とする過活動膀胱の予防又は改善用食品。
<6>下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を有効成分とする過敏性腸症候群の予防又は改善用食品。
<7>下記式(Ia)又は(Ib)で表されるロズマリン酸誘導体又はその塩。
【0043】
<8>TRPV4活性抑制剤を製造するための、下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩の使用。
<9>過活動膀胱の予防又は改善剤を製造するための、下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩の使用。
<10>過敏性腸症候群の予防又は改善剤を製造するための、下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩の使用。
<11>TRPV4活性抑制用食品を製造するための、下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩の使用。
<12>過活動膀胱の予防又は改善用食品を製造するための、下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩の使用。
<13>過敏性腸症候群の予防又は改善用食品を製造するための、下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩の使用。
【0044】
<14>TRPV4活性抑制に使用するための、下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩。
<15>過活動膀胱の予防又は改善に使用するための、下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩。
<16>過敏性腸症候群の予防又は改善に使用するための、下記式(Ia)~(Id)から選ばれるで表されるロズマリン酸誘導体又はその塩。
【0045】
<17>TRPV4活性を抑制するための、下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩の非治療的使用。
<18>過活動膀胱を予防又は改善するための、下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩の非治療的使用。
<19>過敏性腸症候群を予防又は改善するための、下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩の非治療的使用。
【0046】
<20>下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を、それらを必要とする対象に有効量で投与又は摂取するTRPV4活性抑制方法。
<22>下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を、それらを必要とする対象に有効量で投与又は摂取する過活動膀胱の予防又は改善方法。
<23>下記式(Ia)~(Id)から選ばれるロズマリン酸誘導体又はその塩を、それらを必要とする対象に有効量で投与又は摂取する過敏性腸症候群の予防又は改善方法。
【0047】
<24><1>及び<8>のTRPV4活性抑制剤、<2>及び<9>の過活動膀胱の予防又は改善剤、<3>及び<10>の過敏性腸症候群の予防又は改善剤、<4>及び<11>のTRPV4活性抑制用食品、<5>及び<12>の過活動膀胱の予防又は改善用食品、<6>及び<13>の過敏性腸症候群の予防又は改善用食品における、前記有効成分の含有量は、総量中好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、また、好ましくは100質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは70質量%以下であるか、又は好ましくは0.01~100質量%、より好ましくは0.1~90質量%、更に好ましくは1~70質量%である。
【0048】
<25><14>~<23>において、成人1人当たりの1日の投与量は、下記式(Ia)~(Id)で表されるロズマリン酸誘導体又はその塩として、好ましくは0.1mg以上、より好ましくは1mg以上、更に好ましくは10mg以上であり、また、好ましくは2000mg以下、より好ましくは500mg以下、更に好ましくは200mg以下であるか、又は好ましくは0.1~2000mg、より好ましくは1~500mg、更に好ましくは10~200mgである。
【0049】
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<試薬>
フェルラ酸、イソフェルラ酸、イソバニリン、N-アセチルグリシン、3,4-ジメトキシベンズアルデヒド、3,4-ジメトキシけい皮酸、カフェ酸は東京化成工業株式会社より購入して用いた。臭化アリル(Allyl-Br)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、テトラブチルアンモニウムヨージド(TBAI)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)錯体([Pd(PPh3)4])、モルホリン、3,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド、水酸化ナトリウム(NaOH)、炭酸カリウム(K2CO3)、1,4-ジオキサン、ジクロロメタン(CH2Cl2)、テトラヒドロフラン(THF)は富士フィルム和光純薬株式会社より購入して用いた。1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)は株式会社同仁化学研究所より購入して用いた。酢酸ナトリウム(NaOAc)はシグマアルドリッチジャパン合同会社より購入して用いた。無水酢酸(Ac2O)、塩酸、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、ぎ酸、メタノール(MeOH)、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、クロロホルム(CHCl3)は関東化学株式会社より購入して用いた。
【0051】
製造例1 4,3’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(Ia)の合成
1)化合物1の合成
【0052】
【0053】
300mLナスフラスコにイソバニリン(15.22g、100mmol)とN-アセチルグリシン(15.22g、130mmol)、無水酢酸(50mL)を加えた後、酢酸ナトリウム(10.66g、130mmol)を加え、120℃加熱下2日間攪拌した。室温まで冷やした後、酢酸エチル(300mL)にて希釈、不溶物をろ紙を用いてろ過した。得られた溶液を、イオン交換水、飽和食塩水(各200mL)にて2回ずつ洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n-ヘキサン-酢酸エチル(2:1、v/v))により精製し、化合物1(14.54g、52.8mmol、53%)を得た。
【0054】
1H-NMR (600MHz、CDCl3) δ 7.81(d、J=8.6Hz、1H)、7.05(s、1H)、7.00(d、J=8.6Hz、1H)、3.89(s、3H)、2.39(s、3H)、2.35(s、3H).
13C-NMR(150MHz、CDCl3) δ 168.84、167.96、165.38、153.67、139.92、132.22、131.20、130.41、126.40、126.17、112.14、56.06、20.70、15.67.
【0055】
2)化合物2の合成
【0056】
【0057】
300mLナスフラスコに化合物1(3.85g、13.99mmol)を加えた後、1,4-ジオキサン(70mL)、3mol/L塩酸(70mL)を順次加え、90℃加熱下、6時間攪拌した。室温まで冷やした後、酢酸エチルで希釈、得られた有機層を1mol/L塩酸、飽和食塩水(各200mL)で2回ずつ洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:クロロホルム-メタノール(90:10→60:40、v/v))により精製した。得られた目的物(3.12g)は、粗精製物として、次の反応に用いた。
【0058】
3)化合物3の合成
【0059】
【0060】
200mLナスフラスコに化合物2(1.58g、7.5mmol)と25体積%メタノール/イオン交換水(80mL)を加え懸濁させた後、氷浴で冷却した。続いて1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(8mL)を加え、澄明な溶液を得た。この時、溶液のpHは12.0であった。水素化ホウ素ナトリウム(0.43g、11.25mmol)を加えた後、氷浴を除去し、室温にて17時間攪拌した。攪拌後、氷浴での冷却下3mol/L塩酸(30mL)を加え、反応溶液を酸性化することで反応を停止した。引き続き、酢酸エチル(100mL)にて3回抽出、得られた有機層を1mol/L塩酸と飽和食塩水(各100mL)により洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:0.1体積%ぎ酸/クロロホルム-メタノール(95:5→70:30、v/v))により精製した。得られた目的物(1.05g)は、粗精製物として、次の反応に用いた。
【0061】
4)化合物4の合成
【0062】
【0063】
200mLナスフラスコに、化合物3(972.2mg、4.58mmol)、テトラブチルアンモニウムヨージド(506.0mg、1.37mmol)を加えた後、アセトン(50mL)を加え攪拌し、澄明な溶液を得た。引き続き、炭酸カリウム(1.90g、13.74mmol)と臭化アリル(1.66g、13.74mmol)を順次加え、50℃加熱下16時間攪拌した。その後室温まで冷却し、アセトン(100mL)により希釈し、不溶物をろ過した後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去し反応残渣(1.78g)を得た。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n-ヘキサン-酢酸エチル(80:20→50:50、v/v))により精製し、化合物4(952.3mg、3.26mmol、50%(3工程))を得た。
【0064】
1H-NMR(600MHz、CDCl3) δ 6.80(d、J=7.9Hz、1H)、6.75(m、2H)、6.07(m、1H)、5.90(m、1H)、5.39(dd,J=17.2、1.6Hz、1H)、5.34(dd、J=17.2、1.3Hz、1H)、5.29(dd、J=10.5、1.2Hz、1H)、5.28(dd、J=10.6、1.3Hz、1H)、4.65(m、2H)、4.59(m、2H)、4.44(dt、J=6.4、4.4Hz、1H)、3.85(s、3H)、3.07(dd,J=14.0、4.5Hz、1H)、2.92(dd、J=14.1、6.5Hz、1H)、2.72(d、J=6.3Hz、1H).
13C-NMR(150MHz、CDCl3) δ 173.83、148.47、147.74、133.30、131.41、128.50、122.01、119.25、118.03、114.86、111.52、71.32、69.82、66.25、55.94、40.01.
【0065】
5)化合物5の合成
【0066】
【0067】
200mLナスフラスコに、フェルラ酸(0.97g、5.00mmol)とテトラブチルアンモニウムヨージド(0.59g、1.58mmol)を加えた後、アセトン(50mL)を加え攪拌し、澄明な溶液を得た。引き続き、炭酸カリウム(2.13g、15.4mmol)、臭化アリル(3.08g、25.41mmol)を加え、50℃加熱下で7時間攪拌した。攪拌後吸引ろ過を行い、不要物を除去した。得られた溶液を酢酸エチル(200mL)で希釈、1mol/L塩酸と飽和食塩水(各100mL)により洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n-ヘキサン-酢酸エチル(95:5→70:30、v/v))により精製し、化合物5(1.10g、4.01mmol、80%)を得た。
【0068】
1H-NMR(600MHz、CDCl3) δ 7.65(d、J=15.9Hz、1H)、7.07(m、2H)、6.86(d、J=8.1Hz、1H)、6.34(d、J=15.8Hz、1H)、6.08(m、1H)、6.00(m、1H)、5.42(dd、J=17.3、1.4Hz、1H)、5.38(dd、J=17.3、1.5Hz、1H)、5.31(dd、J=10.5、1.2Hz、1H)、5.27(dd、J=11.5、1.4Hz、1H)、4.70(m、2H)、4.65(m、2H)、3.90(s、3H).
【0069】
13C-NMR(150MHz、CDCl3) δ 166.86、150.12、149.50、144.99、132.73、132.39、127.51、122.47、118.48、118.23、115.57、112.76、109.93、69.73、65.12、55.12.
【0070】
6)化合物6の合成
【0071】
【0072】
100mLナスフラスコに化合物5(829.5mg、3.02mmol)を入れた後、テトラヒドロフラン(20mL)、メタノール(20mL)、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(15mL)を加え、室温で15時間攪拌した。その後酢酸エチルを加えた後、得られた有機層を1mol/L塩酸と飽和食塩水(20mL)で2回ずつ洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:0.1体積%ぎ酸/クロロホルム-メタノール(100:0→70:30、v/v))により精製し、化合物6(678.5mg、2.90mmol、97%)を得た。
【0073】
1H-NMR(600MHz、DMSO-d6) δ 12.25(br s、1H)、7.52(d、J=15.9Hz、1H)、7.33(d、J =1.9 Hz、1H)、7.18(dd、J =8.3、1.9Hz、1H)、6.98(d、J=8.4Hz、1H)、6.45(d、J =16.0Hz、1H)、6.04(m、1H)、5.40(dd、J=17.3、1.7Hz、1H)、5.27(dd、J=10.4、1.6Hz、1H)、4.60(d、J=5.4Hz、1H)、3.82(s、3H).
【0074】
13C-NMR (150 MHz, DMSO-d6) δ 168.39、150.00、149.60、144.56、133.98、127.72、122.97、118.30、117.30、113.36、110.98、69.26、56.08.
【0075】
7)化合物7の合成
【0076】
【0077】
50mLナスフラスコに、化合物4(217.2mg、0.74mmol)、ジクロロメタン(10mL)、4-ジメチルアミノピリジン(187.1mg、1.52mmol)を加え攪拌し、澄明な溶液を得た。引き続き、化合物6(234.3mg、1.00mmol)を添加した後、氷浴を用いて冷却しつつ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(287.6mg、1.50mmol)を加え、室温にて18時間攪拌した。攪拌後、酢酸エチル(50mL)で希釈、1mol/L塩酸と飽和食塩水(各50mL)により洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n-ヘキサン-酢酸エチル(90:10→50:50、v/v))により精製し、化合物7(308.4mg、0.606mmol、81%)を得た。
【0078】
1H-NMR(600MHz、CDCl3) δ 7.64(d、J=15.9Hz、1H)、7.06(m、2H)、6.86(d、J=8.1Hz、1H)、6.81(m、3H)、6.33(d、J=16.0Hz、1H)、6.06(m、2H)、5.86(m、1H)、5.42(dd、J=17.2、1.4Hz、1H)、5.34(m、4H)、5.25(dd、J=10.5、1.2Hz、1H)、5.24(dd、J=10.5、1.2Hz、1H)、4.65(m、4H)、4.58(m、2H)、3.91(s、3H)、3.91(s、3H)、3.18(dd、J=14.5、4.7Hz、1H)、3.13(dd,J=14.4、8.4Hz、1H).
【0079】
13C-NMR(150MHz、CDCl3) δ 169.64、166.36、150.34、149.52、148.51、147.76、146.02、133.22、132.67、131.48、128.26、127.31、122.79、121.89、118.83、118.53、118.05、114.71、114.66、112.71、111.55、109.92、73.02、69.88、69.73、65.96、55.95、55.94、37.08.
【0080】
8)4,3’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(Ia)の合成
【0081】
【0082】
30mLナスフラスコに化合物7(90.2mg、0.177mmol)、テトラヒドロフラン(5mL)、モルホリン(542.3mg、6.23mmol)を加え、氷浴を用いて冷却しつつ攪拌し、澄明な溶液を得た。続いて、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)錯体(48.5mg、0.42mmol)を加え、室温下24時間攪拌した。その後、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)錯体(47.6mg、0.41mmol)を加え、室温下2時間攪拌した。更にその後、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)錯体(45.8mg、0.40mmol)を加え、室温下24時間攪拌した。続いて、氷浴下酢酸エチル(50mL)で希釈した後に1mol/L塩酸と飽和食塩水(各30mL)により洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:0.1体積%ぎ酸/クロロホルム-メタノール(100:0→70:30、v/v))により精製し、4,3’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(Ia、90.2mg、0.241mmol、57%)を得た。
1H-NMR(600MHz、CD3OD) δ 7.64(d、J=15.9Hz、1H)、7.11(d、J=1.9Hz、1H)、7.09(dd、J=8.2、1.9Hz、1H)、6.97(d、J=8.1Hz、1H)、6.83(d、J=8.2Hz、1H)、6.81(d、J=2.1Hz、1H)、6.76(dd、J=8.2、2.1Hz、1H)、6.38(d、J=16.0Hz、1H)、5.23(dd、J=8.5、4.2Hz、1H)、3.91(s、3H)、3.83(s、3H)、3.15(dd、J=14.4、4.2Hz、1H)、3.06(dd、J=14.4、8.5Hz、1H).
【0083】
製造例2 4,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(Ib)の合成
1)化合物8の合成
【0084】
【0085】
アルゴン雰囲気下、イソフェルラ酸(1.50g、7.72mmol)にテトラヒドロフラン7mLを加えた。さらに、55%水素化ナトリウム(1.01g、23.2mmol)、臭化アリル(16.8mL、139mmol)、TBAI(285mg、0.77mmol)を順次加え、70℃加熱環流条件下、24時間撹拌した。その後、反応系に8mol/L水酸化ナトリウム水溶液16mLおよびイオン交換水100mLを加え、クロロホルム 100mLで3回抽出した。無水硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶出溶媒:n-ヘキサン-酢酸エチル(85:15,v/v))、化合物8 1.88g(89%)を得た。
【0086】
1H-NMR(600MHz、CDCl3) δ 7.64(d、J=15.9Hz、1H)、7.11(dd、J=8.3、2.1Hz、1H),7.06(d、J=1.7Hz、1H)、6.87(d、J=8.5Hz、1H)、6.30(d、J=15.8Hz、1H)、6.09(ddd、J=22.6、10.8、5.3Hz、1H)、6.00(ddd,J=22.7、10.8、5.5Hz、1H)、5.40(dddd、J=31.2、17.1、2.8、1.7Hz、2H)、5.30(dddd、J=27.0、10.3、2.5、1.1Hz,2H)、4.71(dt、J=5.5、1.3Hz、1H)、4.64(dt、J=5.3、1.4Hz、1H)、3.91(s,3H).
【0087】
2)化合物9の合成
【0088】
【0089】
アルゴン雰囲気下、化合物8(1.88g、6.86mmol)に1,4-ジオキサン34mLおよび0.4mol/L水酸化ナトリウム水溶液34mLを加え、50℃、7時間撹拌した。その後、反応系にイオン交換水100mLを加え、クロロホルム100mLで2回洗浄した。さらに、水層に1.5mol/L塩酸水溶液を10mL加えた後、クロロホルム100mLで3回抽出した。無水硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥させた後、溶媒を減圧留去し、化合物9 1.40g(84%)を得た。
【0090】
1H-NMR(600MHz,CDCl3) δ 7.71(d,J=15.8Hz,1H),7.14(dd,J=8.3,1.9Hz,1H),7.09(d,J=1.9Hz,1H),6.89(d,J=8.3Hz,1H),6.29(d,J=15.8Hz,1H),6.09(ddd,J=22.6,10.5,5.3Hz,1H),5.44(ddd,J=17.3,3.0,1.5Hz,1H),5.33(ddd,J=10.5,2.6,1.1Hz,1H),4.65(dt,J=5.7,1.6Hz,2H),3.92(s,3H).
【0091】
3)化合物10の合成
【0092】
【0093】
50mLナスフラスコに、化合物4(161.9mg、0.55mmol)、ジクロロメタン(10mL)、4-ジメチルアミノピリジン(184.8mg、1.50mmol)を加え攪拌し、澄明な溶液を得た。引き続き、化合物9(234.3mg、1.00mmol)を添加した後、氷浴を用いて冷却しつつ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(287.6mg、1.50mmol)を加え、室温にて18時間攪拌した。攪拌後、酢酸エチル(50mL)で希釈、1mol/L塩酸と飽和食塩水(各50mL)により洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n-ヘキサン-酢酸エチル(90:10→50:50、v/v))により精製し、化合物10(282.5mg、0.555mmol、74%)を得た。
【0094】
1H-NMR(600MHz、CDCl3) δ 7.63(d、J=15.9Hz、1H)、7.10(dd、J=8.4、1.9Hz、1H)、7.05(d、J=1.9Hz、1H)、6.87(d、J=8.4Hz、1H)、6.81(m、3H)、6.30(d、J=15.9Hz、1H)、6.08(m、2H)、5.86(m、1H)、5.42(dd、J=17.3、1.5Hz、1H)、5.35(m、3H)、5.30(dd、J=10.7、1.3Hz、1H)、5.25(dd、J=10.5、1.3Hz、1H)、5.24(dd、J=10.2、1.2Hz、1H)、4.64(m、4H)、4.59(d、J=5.3Hz、1H)、3.91(s、3H)、3.85(s、3H)、3.18(dd、J=14.3、4.8Hz、1H)、3.13(dd、J=14.4、8.4Hz、1H).
【0095】
13C-NMR(150MHz、CDCl3) δ 169.64、166.38、151.78、148.50、148.14、147.76、146.03、133.21、132.83、131.48、128.28、127.01、123.18、121.89、118.82、118.43、118.06、114.71、114.56、111.79、111.55、111.29、73.03、69.87、65.95、56.01、55.94、37.07.
【0096】
4)4、4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(Ib)の合成
【0097】
【0098】
30mLナスフラスコに化合物10(101.7mg、0.200mmol)、テトラヒドロフラン(5mL)、モルホリン(542.3mg、6.23mmol)を加え、氷浴を用いて冷却しつつ攪拌し、澄明な溶液を得た。続いて、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)錯体(50.1mg、0.44mmol)を加え、室温下24時間攪拌した。その後、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)錯体(45.7mg、0.40mmol)を加え、室温下2時間攪拌した。更にその後、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)錯体(45.8mg、0.40mmol)を加え、室温下24時間攪拌した。続いて、氷浴下酢酸エチル(50mL)で希釈した後に1mol/L塩酸と飽和食塩水(各30mL)により洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:0.1体積%ぎ酸/クロロホルム-メタノール(100:0→70:30、v/v))により精製し、4、4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(化合物Ib、73.9mg、0.197mmol、99%)を得た。
1H-NMR(600MHz、CD3OD) δ 7.59(d、J=15.9Hz、1H)、7.08(m、2H)、6.96(d、J=8.2Hz、1H)、6.87(d、J=8.2Hz、1H)、6.81(d、J=1.9Hz、1H)、6.76(dd、J=7.9、2.0Hz、1H)、6.33(d、J=15.9Hz、1H)、5.22(dd、J=8.5、4.4 Hz、1H)、3.91(s、3H)、3.84(s、3H)、3.15(dd、J=14.3、4.2Hz、1H)、3.05(dd、J=14.3、8.4Hz、1H).
【0099】
製造例3 3,4-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(Ic)の合成
1)化合物11の合成
【0100】
【0101】
300mLナスフラスコにイソバニリン(16.62g、100mmol)とN-アセチルグリシン(22.25g、190mmol)、無水酢酸(70mL)を加えた後、酢酸ナトリウム(10.66g、130mmol)を加え、120℃加熱下2日間攪拌した。室温まで冷やした後、酢酸エチル(300mL)にて希釈、不溶物をろ紙を用いてろ過した。得られた溶液を、イオン交換水、飽和食塩水(各200mL)にて2回ずつ洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n-ヘキサン-酢酸エチル(2:1、v/v))により精製し、化合物11(7.73g、31.3mmol、31%)を得た。
【0102】
1H-NMR(600MHz、CDCl3) δ 7.94(d、J=2.0Hz、1H)、7.51(dd、J=8.5、2.0Hz、1H)、7.12(s、1H)、6.96(d、
J=8.3Hz、1H)、3.96(s、3H)、3.95(s、3H)、2.42(s、3H).
【0103】
13C-NMR(150MHz、CDCl3) δ 168.18、164.90、151.91、149.10、131.70、130.50、127.36、126.44、113.78、110.83、56.01、55.95、15.74.
2)化合物12の合成
【0104】
【0105】
300mLナスフラスコに化合物11(3.92g、15.85mmol)を加えた後、1,4-ジオキサン(50mL)、3mol/L塩酸(50mL)を順次加え、90℃加熱下、6時間攪拌した。室温まで冷やした後、酢酸エチルで希釈、得られた有機層を1mol/L塩酸、飽和食塩水(各200mL)で2回ずつ洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:クロロホルム-メタノール(90:10→60:40、v/v))により精製し、化合物12(3.59g)を定量的に得た。
【0106】
1H-NMR(600MHz、CD3OD) δ 7.59(d、J=1.9Hz、1H)、7.28(dd、J=8.3、2.1Hz、1H)、6.94(d、J=8.4Hz、1H)、6.46(s、1H)、3.86(s、3H)、3.86(s、3H).
【0107】
13C-NMR (150 MHz, CD3OD) δ 167.23、148.61、148.58、139.60、128.37、122.99、112.82、111.06、110.25、54.92、54.90.
【0108】
3)化合物13の合成
【0109】
【0110】
200mLナスフラスコに化合物12(1.57g、7.0mmol)と25体積%メタノール/イオン交換水(60mL)を加え懸濁させた後、氷浴で冷却した。続いて1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(6mL)を加え、澄明な溶液を得た。この時、溶液のpHは12.0であった。水素化ホウ素ナトリウム(0.40g、10.50mmol)を加えた後、氷浴を除去し、室温にて17時間攪拌した。攪拌後、氷浴での冷却下3mol/L塩酸(30mL)を加え、反応溶液を酸性化することで反応を停止した。引き続き、酢酸エチル(100mL)にて3回抽出、得られた有機層を1mol/L塩酸と飽和食塩水(各100mL)により洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:0.1体積%ぎ酸/クロロホルム-メタノール(95:5→70:30、v/v))により精製し、化合物13(1.10g、69%)を得た。
【0111】
1H-NMR(600MHz、CD3OD) δ 6.90(d、J=1.9 Hz、1H)、6.87(d、J=8.2Hz、1H)、6.82(dd、J=8.2、2.0Hz、1H)、4.33(dd、J=7.4、4.7 Hz、1H)、3.83(s、3H)、3.81(s、3H)、3.05(dd、J=14.0、4.3Hz、1H)、2.87(dd、J=14.0、7.8 Hz、1H).
【0112】
13C-NMR(150MHz、CD3OD) δ 175.77、148.72、147.80、130.30、121.58、113.12、111.46、71.46、55.07、54.93、39.76.
【0113】
4)化合物14の合成
【0114】
【0115】
200mLナスフラスコに、化合物13(766.5mg、3.39mmol)、テトラブチルアンモニウムヨージド(373.1mg、1.01mmol)を加えた後、アセトン(40mL)を加え攪拌し、澄明な溶液を得た。引き続き、炭酸カリウム(1.40g、10.16mmol)と臭化アリル(2.05g、16.94mmol)を順次加え、50℃加熱下16時間攪拌した。その後室温まで冷却し、アセトン(100mL)により希釈し、不溶物をろ過した後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去し反応残渣(1.78g)を得た。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n-ヘキサン-酢酸エチル(80:20→50:50、v/v))により精製し、化合物14(946.6mg、3.55mmol)を定量的に得た。
【0116】
1H-NMR(600MHz、CDCl3) δ 6.79(d、J=8.6Hz、1H)、6.76(m、2H)、5.91(m、1H)、5.36(dd、J=17.2Hz、1.4Hz、1H)、5.29(dd、J=10.6Hz、1.2Hz、1H)、4.66(m、2H)、4.45(m、1H)、3.86(s、3H)、3.85(s、3H)、3.09(dd、J=14.0Hz、4.3Hz、1H)、2.94(dd、J=14.0Hz、6.6Hz、1H)、2.75(d、J=6.3Hz、1H).
【0117】
13C-NMR(150MHz、CDCl3) δ 173.86、148.76、148.00、131.40、128.65、121.58、119.26、112.68、111.08、71.34、66.25、55.87、55.82、40.08.
【0118】
5)化合物15の合成
【0119】
【0120】
200mLナスフラスコに、カフェ酸(1.80g、10.0mmol)とテトラブチルアンモニウムヨージド(0.74g、2.00mmol)を加えた後、アセトン(100mL)を加え攪拌し、澄明な溶液を得た。引き続き、炭酸カリウム(6.91g、50.0mmol)、臭化アリル(6.06g、50.0mmol)を加え、50℃加熱下で16時間攪拌した。攪拌後吸引ろ過を行い、不要物を除去した。得られた溶液を酢酸エチル(200mL)で希釈、1mol/L塩酸と飽和食塩水(各100mL)により洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n-ヘキサン-酢酸エチル(95:5→70:30、v/v))により精製し、化合物15(1.77g、58.9mmol、59%)を得た。
【0121】
1H-NMR(600MHz、CDCl3) δ 7.63(d、J=16.0Hz、1H)、7.09(m、2H)、6.87(d、J=8.8Hz、1H)、6.30(d、J=16.0Hz、1H)、6.07(m、2H)、5.98(m、1H)、5.43(m、2H)、5.37(dd、J=17.3、1.5Hz、1H)、5.30(m、2H)、5.27(dd、J=10.3、1.2Hz、1H)、4.70(m、2H)、4.63(m、4H).
【0122】
13C-NMR(150MHz、CDCl3) δ 166.85、150.62、148.49、144.94、133.04、132.85、132.37、127.46、122.72、118.22、118.03、117.96、115.54、113.30、112.50、69.90、69.69、65.10.
【0123】
6)化合物16の合成
【0124】
【0125】
100mLナスフラスコに化合物15(1.21g、4.03mmol)を入れた後、テトラヒドロフラン(10mL)、メタノール(10mL)と1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(15mL)を加え、室温で15時間攪拌した。その後酢酸エチルを加えた後、得られた有機層を1mol/L塩酸と飽和食塩水(各20mL)で2回ずつ洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:0.1体積%ぎ酸/クロロホルム-メタノール(100:0→70:30、v/v))により精製し、化合物16(1.10g)を定量的に得た。
【0126】
1H-NMR(600MHz、DMSO-d6) δ 12.25(br s、1H)、7.51(d、J=15.9Hz、1H)、7.35(d、J=1.7Hz、1H)、7.20(dd、J=8.4、1.7Hz、1H)、7.00(d、J=8.4Hz、1H)、6.43(d、J=15.9Hz、1H)、6.05(m、2H)、5.42(m、2H)、5.27(m、2H)、4.62(m、4H).
【0127】
13C-NMR(150MHz,DMSO-d6) δ 168.36、150.28、148.40、144.51、134.26、134.01、127.68、123.21、118.00、117.89、117.32、113.74、112.69、69.33、69.21.
【0128】
7)化合物17の合成
【0129】
【0130】
50mLナスフラスコに、化合物14(202.1mg、0.76mmol)、ジクロロメタン(10mL)、4-ジメチルアミノピリジン(184.4mg、1.50mmol)を加え攪拌し、澄明な溶液を得た。引き続き、化合物16(234.9mg、1.00mmol)を添加した後、氷浴を用いて冷却しつつ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(290.9mg、1.52mmol)を加え、室温にて18時間攪拌した。攪拌後、酢酸エチル(50mL)で希釈、1mol/L塩酸と飽和食塩水(各50mL)により洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n-ヘキサン-酢酸エチル(90:10→50:50、v/v))により精製し、化合物17(384.4mg、0.76mmol、100%)を得た。
【0131】
1H-NMR(600MHz、CDCl3) δ 7.62(d、J=15.8Hz、1H)、7.06(m、2H)、6.86(d、J=8.8Hz、1H)、6.80(m、3H)、6.30(d、J=15.9Hz、1H)、6.07(m、2H)、5.88(m、1H)、5.42(m、2H)、5.34(m、1H)、5.30(m、3H)、5.24(m、1H)、4.64(m、6H)、3.86(s、3H)、3.85(s、3H)、3.20(dd、J=14.3、4.7Hz、1H)、3.15(dd、J=14.4、8.4Hz、1H).
【0132】
13C-NMR(150MHz、CDCl3) δ 169.65、166.37、150.87、148.77、148.51、148.05、146.00、133.02、132.82、131.47、128.36、127.27、123.02、121.49、118.84、118.09、118.00、114.64、113.26、112.57、112.48、111.12、73.04、69.95、69.70、65.95、55.87、55.86、37.15.
【0133】
8)3、4-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(Ic)の合成
【0134】
【0135】
30mLナスフラスコに化合物17(99.9mg、0.196mmol)、テトラヒドロフラン(5mL)、モルホリン(522.6mg、6.00mmol)を加え、氷浴を用いて冷却しつつ攪拌し、澄明な溶液を得た。続いて、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)錯体(46.8mg、0.41mmol)を加え、室温下24時間攪拌した。その後、氷浴下酢酸エチル(50mL)で希釈した後に1mol/L塩酸と飽和食塩水(各30mL)により洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:0.1体積%ぎ酸/クロロホルム-メタノール(100:0→70:30、v/v))により精製し、3、4-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(化合物Ic、56.5mg、0.151mmol、77%)を得た。
【0136】
1H-NMR(600MHz、CD3OD) δ 7.45(d、J=15.9Hz、1H)、6.93(d、J=2.1Hz、1H)、6.83(m、2H)、6.78(d、J=8.2Hz、1H)、6.74(dd、J=8.1、2.9Hz、1H)、6.68(d、J=8.2Hz、1H)、6.16(d、J=15.9Hz、1H)、5.14(dd、J=8.5、4.1Hz、1H)、3.72(s、3H)、3.70(s、3H)、3.10(dd、J=14.3、4.2Hz、1H)、3.01(dd、J=14.3、8.7Hz、1H).
【0137】
製造例4 3’,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(Id)の合成
1)化合物18の合成
【0138】
【0139】
200mLナスフラスコに3,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド(6.91g、50mmol)とN-アセチルグリシン(7.61g、65mmol)、無水酢酸(50mL)を加えた後、酢酸ナトリウム(5.33g、65mmol)を加え、120℃加熱下16時間攪拌した。室温まで冷やした後、酢酸エチル(300mL)にて希釈、不溶物をろ紙を用いてろ過した。得られた溶液を、イオン交換水、飽和食塩水(各200mL)にて2回ずつ洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n-ヘキサン-酢酸エチル(2:1、v/v))により精製し、化合物18(9.78g、37.4mmol、75%)を得た。
【0140】
1H-NMR(600MHz、CDCl3) δ 8.06(d、J=2.0Hz, 1H)、7.88(d、J=8.0、2.0Hz、1H)、7.27(d、J=8.0Hz、1H)、7.06(s、1H)、2.40(s、3H)、2.32(s、3H)、2.31(s、3H).
【0141】
13C-NMR(150MHz、CDCl3) δ 168.05、167.80、167.46、166.71、144.16、142.33、133.24、131.84、130.71、129.12、126.70、123.81、20.68、20.62、15.68.
【0142】
2)化合物19の合成
【0143】
【0144】
300mLナスフラスコに化合物18(1.42g、7.2mmol)とメタノール(50mL)とテトラヒドロフラン(50mL)を添加し、室温で攪拌し、澄明な溶液を得た。本溶液に炭酸カリウム(2.90g、21.0mmol)を入れ、1時間攪拌した。続いて、臭化アリル(3.39g、28.0mmol)とテトラブチルアンモニウムヨージド(0.77g、2.10mmol)をいれ、90℃加熱下で4時間攪拌した。その後、得られた溶液を酢酸エチル(200mL)で希釈、1mol/L塩酸と飽和食塩水(各100mL)により洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n-ヘキサン-酢酸エチル(70:30→30:70、v/v))により精製し、化合物19(708.2mg、2.37mmol、34%)を得た。
【0145】
1H-NMR(600MHz、CDCl3) δ 7.40(s、1H)、7.07(m、2H)、6.90(m、2H)、6.07(m、2H)、5.40(m、2H)、5.31(m、2H)、4.62(m、4H)、2.16(s、3H).
【0146】
3)化合物20の合成
【0147】
【0148】
100mLナスフラスコに化合物19(680.0mg、2.27mmol)を加えた後、1,4-ジオキサン(25mL)、3mol/L塩酸(25mL)を順次加え、90℃加熱下、6時間攪拌した。室温まで冷やした後、酢酸エチルで希釈、得られた有機層を1mol/L塩酸、飽和食塩水(各100mL)で2回ずつ洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:0.1%ぎ酸/クロロホルム-メタノール(90:10→80:20、v/v))により精製し、化合物20(466.5mg)を得た。得られた化合物20は、粗精製物として、次の反応に用いた。
【0149】
4)化合物21の合成
【0150】
【0151】
100mLナスフラスコに化合物20(366.5mg、1.33mmol)と25%メタノール/イオン交換水(20mL)を加え懸濁させた後、氷浴で冷却した。続いて1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(2mL)を加え、澄明な溶液を得た。この時、溶液のpHは12.0であった。水素化ホウ素ナトリウム(75.7mg、2.00mmol)を加えた後、氷浴を除去し、室温にて17時間攪拌した。攪拌後、氷浴での冷却下3mol/L塩酸(10mL)を加え、反応溶液を酸性化することで反応を停止した。引き続き、酢酸エチル(30mL)にて3回抽出、得られた有機層を1mol/L塩酸と飽和食塩水(各30mL)により洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:0.1体積%ぎ酸/クロロホルム-メタノール(100:0→70:30、v/v))により精製し、化合物24(250.4mg)を得た。得られた化合物21は、粗精製物として、次の反応に用いた。
【0152】
5)化合物22の合成
【0153】
【0154】
200mLナスフラスコに、化合物21(242.4mg、0.87mmol)、テトラブチルアンモニウムヨージド(62.8mg、0.17mmol)を加えた後、アセトン(30mL)を加え攪拌し、澄明な溶液を得た。引き続き、炭酸カリウム(360.7mg、2.61mmol)と臭化アリル(315.8mg、2.61mmol)を順次加え、50℃加熱下2時間攪拌した。その後室温まで冷却し、酢酸エチル(100mL)により希釈し、得られた有機層を1mol/L塩酸と飽和食塩水(各30mL)により洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去し、反応残渣(389.5mg)を得た。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n-ヘキサン-酢酸エチル(80:20→50:50、v/v))により精製し、化合物22(203.6mg、37%(3工程))を得た。
【0155】
1H-NMR(600MHz、CDCl3) δ 6.81(d、J=8.2Hz、1H)、6.78(d、J=1.9Hz、1H)、6.73(dd、J=8.2、2.1Hz、1H)、6.07(m、2H)、5.90(m、1H)、5.39(m、2H)、5.29(m、4H)、4.65(d、J=5.8Hz、2H)、4.58(m、4H)、4.43(dd、J=10.8、6.3Hz、1H)、3.05(dd、J=14.1、4.4Hz、1H)、2.91(dd、J=14.1、6.7Hz、1H)、2.69(d、J=6.2Hz、1H).
【0156】
6)化合物23の合成
【0157】
【0158】
50mLナスフラスコに、化合物22(192.4mg、0.604mmol)、ジクロロメタン(15mL)、4-ジメチルアミノピリジン(226.5mg、1.85mmol)を加え攪拌し、澄明な溶液を得た。引き続き、3,4-ジメトキシけい皮酸(249.8mg、1.20mmol)を添加した後、氷浴を用いて冷却しつつ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(347.6mg、1.81mmol)を加え、室温にて3時間攪拌した。攪拌後、酢酸エチル(50mL)で希釈、1mol/L塩酸と飽和食塩水(各50mL)により洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:n-ヘキサン-酢酸エチル(90:10→60:40、v/v))により精製し、化合物23(288.2mg、0.57mmol、94%)を得た。
【0159】
1H-NMR(600MHz、CDCl3) δ 7.64(d、J=15.8Hz、1H)、7.09(dd、J=8.3、1.8Hz、1H)、7.04(d、J=1.8Hz、1H)、6.86(d、J=8.3Hz、1H)、6.84(m、2H)、6.79(d、J=8.1Hz、1H)、6.33(d、J=15.9Hz、1H)、6.06(m、2H)、5.86(m、1H)、5.31(m、7H)、4.64(m、2H)、4.57(m、4H)、3.91(s、3H)、3.91(s、3H)、3.17(dd、J=14.4、4.7Hz、1H)、3.12(dd、J=14.4、8.5Hz、1H).
【0160】
13C-NMR(150MHz、CDCl3) δ 169.61、166.33、151.43、149.29、148.44、147.73、145.99、133.56、133.44、131.51、128.90、127.22、122.96、122.03、118.76、117.56、117.51、115.69、114.69、114.29、111.07、109.72、72.99、70.08、70.05、65.91、56.00、55.94、37.09.
【0161】
7)3’、4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸Id)の合成
【0162】
【0163】
50mLナスフラスコに化合物23(101.7mg、0.200mmol)、テトラヒドロフラン(5mL)、モルホリン(522.6mg、6.00mmol)を加え、氷浴を用いて冷却しつつ攪拌し、澄明な溶液を得た。続いて、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)錯体(46.6mg、0.41mmol)を加え、室温下24時間攪拌した。その後、氷浴下酢酸エチル(50mL)で希釈した後に1mol/L塩酸と飽和食塩水(各30mL)により洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:0.1体積%ぎ酸/クロロホルム-メタノール(100:0→90:10、v/v))により精製し、3’、4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(化合物Id、87.2mg、0.233mmol)を得た。
【0164】
1H-NMR(600MHz、CD3OD) δ 7.52(d、J=15.9Hz、1H)、7.11(d、J=1.9Hz、1H)、7.08(dd、J=8.3、2.0Hz、1H)、6.89(d、J=8.3Hz、1H)、6.67(d、J=2.1Hz、1H)、6.61(d、J=8.1Hz、1H)、6.53(dd、J=8.0、2.0Hz、1H)、6.31(d、J=15.9Hz、1H)、5.09(dd、J=8.7、4.1Hz、1H)、3.78(s、3H)、3.77(s、3H)、3.01(dd、J=14.4、4.2Hz、1H)、2.91(dd,J=14.4、8.8Hz、1H).
【0165】
試験例1 TRPV4活性抑制作用の評価
(1)試薬
ヒト十二指腸由来細胞(Hutu-80細胞)、ヒト子宮頸癌由来細胞株(HeLa細胞)はAmerican Type Culture Collectionより、High Pure PCR Product Purification Kitはロッシュより、pcDNA3.1 Directional TOPO Expression Kit、DMEM/F12培地はインビトロジェンより、TransIT-HeLaMONSTER Transfection KitはMirusより、DetachinはGenlantisより、96well Optical bottom plateはNuncより、Calcium Kit II - fluo 4はDOJINDOより、Hanks’balanced salt solution、牛胎児血清はGibcoより、GSK1016790aはSigma Aldrichより、5x PrimeSTAR GXL Buffer、dNTPs mixture、PrimeSTAR GXL DNA Polymeraseはタカラバイオより、それぞれ購入して用いた。
【0166】
(2)ヒトTRPV4遺伝子発現ベクターの作製
Hutu-80細胞から抽出したtotalRNAを逆転写して得られたcDNAを鋳型にして、公開されているヒトTRPV4遺伝子配列を参考に合成した、下記に示す塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用いて、下記の条件下でポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。
【0167】
<プライマーセット>
フォワードプライマー;5’-CACCATGGCGGATTCCAGCGAAGGCCC-3’(配列番号1)
リバースプライマー;5’-CTAGAGCGGGGCGTCATCAGTCC-3’(配列番号2)
【0168】
<PCR条件>
a)PCR溶液組成
cDNA(Template) 15μL
5x PrimeSTAR GXL Buffer 10μL
dNTPs mixture(2.5mM) 4μL
PrimeSTAR GXL DNA Polymerase 1μL
Forward Primer(10μM) 1μL
Reverse Primer(10μM) 1μL
Water 18μL
b)温度とサイクル条件
95℃ 2min
↓
98℃ 10sec, 70℃ 2min, 33cycles
【0169】
得られたPCR産物を、High Pure PCR Product Purification Kitを用いて精製した。精製したPCR産物と、pcDNA3.1 Directional TOPO Expression Kitを用いて、ヒトTRPV4遺伝子発現ベクターを作製した。
【0170】
(3)ヒトTRPV4発現細胞の作製
10%牛胎児血清を含むDMEM/F12培地を用いて、HeLa細胞の培養を行った。HeLa細胞をT-75細胞培養用フラスコに5×105cells/Flaskで播種した。培養3日後、前記(2)で作製したヒトTRPV4遺伝子発現用ベクター(8μg)をTransIT-HeLaMONSTER Transfection Kitを用いて細胞にトランスフェクションし、1日培養した。
Detachinで細胞をはがし96well Optical bottom plateに10%牛胎児血清を含むDMEM/F12培地で1.5×104cells/90μL/wellの細胞密度で播き、さらに1日培養した。
【0171】
(4)細胞内カルシウムイオン流入活性の測定
細胞内カルシウムイオン流入活性の測定は、Calcium Kit II - fluo 4を用いて行った。Fluo4-AMを含有したLoading buffer及びHanks’balanced salt solutionを1:1で混合した後、前記(3)で作製したヒトTRPV4発現細胞に180μL/well添加し、37℃で1時間インキュベートした。その後、37℃で蛍光プレートリーダーFDSS3000(浜松ホトニクス)を用いて蛍光強度(励起波長:488nm、蛍光波長:524nm)を2秒毎に測定した。測定開始30秒後にTRPV4作動薬であるGSK1016790aと検体として前記製造例で調製した4,3’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、3’,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、4,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、3,4-ジ-O-メチル-ロズマリン酸溶液をそれぞれHanks’balanced salt solutionで希釈し、それらの混合溶液(添加直前に混合)を20μL/well添加し、300秒まで2秒毎に蛍光強度変化を測定した。なお、GSK1016790aは終濃度3nMとなるように添加した。
また、TRPV4活性抑制の陽性対照として、TRPV4の拮抗薬であるHC067047を終濃度10μMで添加した。
検体のTRPV4活性は、TRPV4作動薬であるGSK1016790aの処理によるカルシウムイオン流入率を100%として、次式により算出した。
【0172】
(数1)
カルシウムイオン流入率(%)=[(Fmax/F0)-(FmaxC2/F0C2)]/[(FmaxC1/F0C1)-(FmaxC2/F0C2)]×100
【0173】
Fmax:測定開始0~300秒のGSK1016790aと検体を添加したウェルの最高蛍光強度
FmaxC1:測定開始0~300秒のGSK1016790aと溶媒を添加したウェルの最高蛍光強度
FmaxC2:測定開始0~300秒の溶媒のみを添加したウェルの最高蛍光強度
F0:測定開始直後のFmaxと同じウェルの蛍光強度
F0C1:測定開始直後のFmaxC1と同じウェルの蛍光強度
F0C2:測定開始直後の溶媒のみを添加したウェルの蛍光強度
【0174】
検体を添加した場合のカルシウムイオン流入率(各群n=3)を、GSK1016790a+溶媒添加時と比較しDunnett’s testを用いて検定した。4,3’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(Ia)、3’,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(Id)、4,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(Ib)、3,4-ジ-O-メチル-ロズマリン酸(Ic)を添加した場合の結果を表1に示す(表中、GSK1016790a、4,3’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、3’,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、4,4’ -ジ-O-メチル-ロズマリン酸、3,4-ジ-O-メチル-ロズマリン酸は、それぞれGSK、4,3’-DiMe-RA、3’,4’-DiMe-RA、4,4’-DiMe-RA、3,4-DiMe-RAと略記)。尚、結果は平均値(Mean)±標準誤差(S.E.)として表記した。
【0175】
【0176】
表1より、陽性対照であるTRPV4の拮抗薬と同様、4,3’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、3’,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、4,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、3,4-ジ-O-メチル-ロズマリン酸はTRPV4作動薬によるカルシウムイオン流入を有意に低下させた。
【0177】
以上の結果から、4,3’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、3’,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、4,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、3,4-ジ-O-メチル-ロズマリン酸は、TRPV4の活性を抑制することを示している。さらに、TRPV4活性を抑制する作用を有する4,3’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、3’,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、4,4’-ジ-O-メチル-ロズマリン酸、3,4-ジ-O-メチル-ロズマリン酸は、過敏性腸症候群又は過活動膀胱の予防又は改善に有効であることを示している。
【配列表】