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特許7223482異常自然現象検知システム、及び異常自然現象検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】異常自然現象検知システム、及び異常自然現象検知方法
(51)【国際特許分類】
   G08B 21/10 20060101AFI20230209BHJP
   G01D 21/00 20060101ALI20230209BHJP
   G01H 3/00 20060101ALI20230209BHJP
   G08B 31/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G08B21/10
G01D21/00 D
G01H3/00 Z
G08B31/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018207065
(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公開番号】P2020071794
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 匠
(72)【発明者】
【氏名】本間 信一
【審査官】永田 義仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-161886(JP,A)
【文献】特開2001-351183(JP,A)
【文献】特開平02-162495(JP,A)
【文献】特開平10-304329(JP,A)
【文献】特開2008-059530(JP,A)
【文献】特開2005-077341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D17/00-17/20
G01D18/00-21/02
G01H1/00-17/00
G08B19/00-31/00
G08C13/00-25/04
H04R3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土石流や雪崩を含む異常自然現象を検知するシステムにおいて、
前記異常自然現象の音響振動のパターンである異常音響振動パターンを記憶する異常パターン記憶手段と、
指向性を有するマイクフォンである主録音手段と、
無指向性のマイクフォンである副録音手段と、
前記副録音手段で取得された音響振動パターンをノイズとし、前記主録音手段で取得された音響振動パターンから該ノイズを除去して目的音響振動パターンを得るノイズ処理手段と、
前記ノイズ処理手段で得られた前記目的音響振動パターンと、前記異常パターン記憶手段に記憶された前記異常音響振動パターンと、を照らし合わせることで前記異常自然現象の発生を推定する推定手段と、
前記推定手段によって前記異常自然現象の発生が推定されると、警報を発信する警戒情報出力手段と、を備え、
前記主録音手段は、前記異常自然現象が生じると予測された発生予測個所から離れた下流位置に設置され、該発生予測個所の方向の音響振動を取得するように該発生予測個所に向けて設置され、
前記副録音手段は、前記主録音手段の設置位置周辺の音響振動を取得するように、該主録音手段の設置位置周辺に設置された、
ことを特徴とする異常自然現象検知システム。
【請求項2】
前記異常パターン記憶手段は、土石流が生じたときの前記異常音響振動パターンと、雪崩が生じたときの前記異常音響振動パターンと、を記憶し、
前記推定手段は、土石流と雪崩を区別して前記異常自然現象の発生を推定し、
前記警戒情報出力手段は、土石流と雪崩を区別して警報を発信する、
ことを特徴とする請求項1記載の異常自然現象検知システム。
【請求項3】
前記推定手段は、前記目的音響振動パターンにおける振幅の大きさと、前記異常音響振動パターンにおける振幅の大きさと、を照らし合わせることで前記異常自然現象の発生を推定する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の異常自然現象検知システム。
【請求項4】
前記推定手段は、前記目的音響振動パターンにおける周波数と、前記異常音響振動パターンにおける周波数と、を照らし合わせることで前記異常自然現象の発生を推定する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の異常自然現象検知システム。
【請求項5】
前記異常パターン記憶手段は、土石流が生じる前の音響振動のパターンである前兆音響振動パターンを記憶し、
前記推定手段は、前記目的音響振動パターンと、前記異常音響振動パターン又は前記前兆音響振動パターンと、を照らし合わせることで前記異常自然現象の発生を推定する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の異常自然現象検知システム。
【請求項6】
土石流や雪崩を含む異常自然現象を検知する方法において、
指向性を有するマイクフォンである主録音手段を、前記異常自然現象が生じると予測された発生予測個所から離れた下流位置であって、該発生予測個所の方向の音響振動を取得するように該発生予測個所に向けて設置する主録音手段設置工程と、
無指向性のマイクフォンである副録音手段を、前記主録音手段の設置位置周辺の音響振動を取得するように、該主録音手段の設置位置周辺に設置する副録音手段設置工程と、
前記副録音手段で取得された音響振動パターンをノイズとし、前記主録音手段で取得された音響振動パターンから該ノイズを除去して目的音響振動パターンを得るノイズ処理工程と、
前記ノイズ処理工程で得られた前記目的音響振動パターンと、前記異常自然現象の音響振動のパターンである異常音響振動パターンと、を照らし合わせることで前記異常自然現象の発生を推定する推定工程と、
前記推定工程で前記異常自然現象の発生が推定されると、警報を発信する警報工程と、
を備えたことを特徴とする異常自然現象検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、土石流や雪崩など災害につながる自然現象(以下、「異常自然現象」という。)を検知する技術であり、より具体的には、異常自然現象の音響振動を取得することによって異常自然現象を検知するシステムと、これを用いた方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国の国土は、その2/3が山地であるといわれており、したがって斜面を背後とする土地に住居を構えることも多く、道路や線路などは必ずといっていいほど斜面脇を通過する区間がある。そして、土石流や雪崩、斜面崩壊、地すべりなど、山腹や斜面から発生する異常自然現象によって、これまで住居や道路等がたびたび甚大な被害を被ってきた。
【0003】
このうち土石流は時速20~40kmで、表層雪崩は時速100~200kmで移動することが知られており、ひとたび発生すると避難することが難しいという点において、土石流や雪崩は極めて脅威となる異常自然現象といえる。
【0004】
また土石流や雪崩は、一度発生するとその後も断続的に生じることがあり、すなわち2次災害にも留意しなければならない異常自然現象である。過去には、キルギス共和国の幹線道路において雪崩が発生し、この復旧活動に当たっていた者が後続の雪崩の被害に合うといった事故も発生している。
【0005】
このような土石流や雪崩に伴う災害から免れるため、あるいは被害を軽減するため、さらには2次災害を回避するためには、土石流や雪崩の発生をできるだけ早い段階でしかも的確に検知することが極めて重要である。そして、これまでにも土石流や雪崩を検知する種々の技術が提案され、実際にその技術を用いて検知する取り組みが行われてきた。
【0006】
例えば、土石流の発生を検知するため、振動検知式センサやワイヤセンサが利用されている。振動検知式センサを利用する検知手法は、土石流の動きを振動検知式センサで検出するものであるが、土石流が発生すると予測される場所に振動検知式センサを設置する必要があり、土石流発生の予測技術が求められるうえ、発生後に設置することができないことから2次災害を回避する目的では採用することができない。一方、ワイヤセンサを利用する検知手法は、ワイヤが切断することで土石流の発生を検出するものであるが、やはり土石流が発生すると予測される場所にワイヤセンサを設置する必要があり、土石流発生の予測技術が求められるうえ、2次災害を回避する目的では採用することができない。また、これら振動検知式センサやワイヤセンサを利用する検知手法は、一度土石流を経験すると継続して使用することができず、すなわち土石流が発生するたびに繰り返し設置しなければならないという問題もある。
【0007】
そこで特許文献1は、土石流の発生後にセンサ等を再設置することなく、すなわち継続して検知することができる土石流の検知技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-205433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示される技術は、振り子状に吊り下げられるセンサー棒の振れを計測することによって土石流の発生を検知するものであり、条件が整えば土石流発生後も継続して検知することができる。しかしながら、大規模な土石流や急速で移動する土石流を経験したケースでは、特許文献1の装置が破壊されることもあり、その場合は新たな装置の設置が強いられる。また、特許文献1の装置は、土石流が発生すると予測される場所に設置する必要があり、土石流発生後に設置することができないことを考えると、2次災害の回避目的には採用することができない。
【0010】
本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち土石流が発生すると予測される場所にセンサ等を設置することなく、2次災害を回避する目的にも採用することができる異常自然現象検知システムと、これを用いた検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、土石流や雪崩などの異常自然現象が生じると予測された箇所(以下、「発生予測個所」という。)から離れた下流位置に指向性マイクフォンを設置し、この指向性マイクフォンで取得した音響振動パターンと、指向性マイクフォンの周辺に設置した無指向性マイクフォンで取得したノイズを利用して異常自然現象の発生を検知する、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0012】
本願発明の異常自然現象検知システムは、異常自然現象を検知するシステムであって、異常パターン記憶手段と主録音手段、副録音手段、ノイズ処理手段、推定手段、警戒情報出力手段を備えたものである。このうち異常パターン記憶手段は、異常音響振動パターン(異常自然現象の音響振動のパターン)を記憶する手段である。また主録音手段は、指向性を有するマイクフォンであり、副録音手段は、無指向性のマイクフォンである。ノイズ処理手段は、副録音手段で取得された音響振動パターンをノイズとし、主録音手段で取得された音響振動パターンからノイズを除去して目的音響振動パターンを得る手段である。推定手段は、ノイズ処理手段で得られた目的音響振動パターンと、異常パターン記憶手段に記憶された異常音響振動パターンとを照らし合わせることで、異常自然現象の発生を推定する手段である。そして警戒情報出力手段は、推定手段によって異常自然現象の発生が推定されたときに警報を発信する手段である。なお主録音手段は、発生予測個所(異常自然現象が生じると予測された箇所)の方向の音響振動を取得するように発生予測個所に向けて設置され、副録音手段は、主録音手段の設置位置周辺の音響振動を取得するように主録音手段の設置位置周辺に設置される。
【0013】
本願発明の異常自然現象検知システムは、土石流と雪崩を区別して警報を発信するものとすることもできる。この場合、異常パターン記憶手段は、「土石流が生じたときの異常音響振動パターン」と「雪崩が生じたときの異常音響振動パターン」を記憶し、推定手段は、土石流と雪崩を区別して異常自然現象の発生を推定する。
【0014】
本願発明の異常自然現象検知システムは、目的音響振動パターンにおける振幅の大きさと、異常音響振動パターンにおける振幅の大きさとを照らし合わせることで、異常自然現象の発生を検知することもできる。
【0015】
本願発明の異常自然現象検知システムは、目的音響振動パターンにおける周波数と、異常音響振動パターンにおける周波数とを照らし合わせることで、異常自然現象の発生を検知することもできる。
【0016】
本願発明の異常自然現象検知システムは、目的音響振動パターンと前兆音響振動パターンとを照らし合わせることで、異常自然現象の発生を検知することもできる。この場合、異常パターン記憶手段は、土石流が生じる前の音響振動のパターンである「前兆音響振動パターン」を記憶する。
【0017】
本願発明の異常自然現象検知方法は、異常自然現象を検知する方法であって、主録音手段設置工程と副録音手段設置工程、ノイズ処理工程、推定工程、警報工程を備えた方法である。このうち主録音手段設置工程では、発生予測個所の方向の音響振動を取得するように、主録音手段を発生予測個所に向けて設置する。また副録音手段設置工程では、主録音手段の設置位置周辺の音響振動を取得するように、副録音手段を主録音手段の設置位置周辺に設置する。ノイズ処理工程では、副録音手段で取得された音響振動パターンをノイズとし、主録音手段で取得された音響振動パターンからノイズを除去して目的音響振動パターンを得る。推定工程では、ノイズ処理工程で得られた目的音響振動パターンと、異常音響振動パターンとを照らし合わせることで、異常自然現象の発生を推定する。そして警報工程では、推定工程で異常自然現象の発生が推定されたときに警報を発信する。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の異常自然現象検知システム、及び異常自然現象検知方法には、次のような効果がある。
(1)非接触方式であり、土石流や雪崩が発生した後でも繰り返し使用することができる。
(2)大掛かりな機材は不要で、可搬性に優れていることから、設置個所の自由度が高く、災害時でも速やかに設置し運用することができる。この結果、2次災害を回避する目的にも好適に採用することができる。
(3)夜間や濃霧時など視界が不良な状況でも利用することができる。
(4)副録音手段として市販の携帯端末機(スマートフォンなど)を利用すれば、ノイズ処理手段(ノイズ処理工程)や推定手段(推定工程)などに用いるソフトウェアの開発や更新が容易となり、また機械学習を取り込むことで異常自然現象の検知制度をさらに向上させることもできる。
(5)通信手段として市販の携帯端末機(スマートフォンなど)を利用すれば、ネットワークを通じ多岐にわたって警報を発信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本願発明の異常自然現象検知システムの主な構成を示すブロック図。
図2】主録音手段と副録音手段の配置関係を模式的に示すモデル図。
図3】本願発明の異常自然現象検知システムの主な処理の流れを示すフロー図。
図4】種々の異常音響振動パターンや前兆音響振動パターンを記憶する異常パターン記憶手段を示すモデル図。
図5】本願発明の異常自然現象検知方法の主な工程を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明の異常自然現象検知システム、及び異常自然現象検知方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0021】
はじめに、本願発明の概要について説明する。本願発明は、「発生予測個所」に向けて設置した「主録音手段」が取得する「音響振動パターン」に基づいて異常自然現象を検知するものであり、主録音手段の周辺に設置した「副録音手段」が取得する「音響振動パターン」をノイズとして処理することをひとつの特徴としている。主録音手段は、目的とする発生予測個所の音響振動だけでなく設置周辺の音響振動も取得してしまう。そこで、主録音手段周辺の音響振動を主に取得する副録音手段を利用することとした。すなわち、主録音手段で取得する音響振動パターンから、副録音手段で取得する音響振動パターンをノイズとして除去し、その結果得られる目的の音響振動パターン(以下、「目的音響振動パターン」という。)に基づいて異常自然現象を検知するわけである。そのため、主録音手段は指向性を有するマイクフォンとし、一方の副録音手段は無指向性のマイクフォンとするとよい。ここで「発生予測個所」とは、既述したとおり異常自然現象(土石流や雪崩など災害につながる自然現象)が生じると予測された箇所のことであり、「音響振動パターン」とは所定時間内に取得した音響振動の時刻変動のことである。
【0022】
目的音響振動パターンが得られると、「異常音響振動パターン」と照らし合わせ、目的音響振動パターンと異常音響振動パターンが合致あるいは近似していると判断されたきに異常自然現象の発生を推定する。なお「異常音響振動パターン」は、実際に異常自然現象が発生したときに取得された音響振動パターンであり、あらかじめ用意されるものである。
【0023】
以下、本願発明の異常自然現象検知システム、及び異常自然現象検知方法について詳しく説明する。なお、本願発明の異常自然現象検知方法は、本願発明の異常自然現象検知システムを用いて異常自然現象を検知する方法であり、したがってまずは本願発明の異常自然現象検知システムについて説明し、その後に本願発明の異常自然現象検知方法について説明することとする。
【0024】
2.異常自然現象検知システム
図1は、本願発明の異常自然現象検知システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の異常自然現象検知システム100は、主録音手段101と副録音手段102、ノイズ処理手段103、推定手段104、異常パターン記憶手段105、警戒情報出力手段106を含んで構成される。
【0025】
異常自然現象検知システム100を構成する各手段のうち、ノイズ処理手段103と推定手段104、警戒情報出力手段106に関しては、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、パーソナルコンピュータ(PC)や、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末、あるいはPDA(Personal Data Assistance)などによって構成することができる。コンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもある。
【0026】
異常パターン記憶手段105は、例えばデータベースサーバに構築することができ、ローカルなネットワーク(LAN:LocalAreaNetwork)でノイズ処理手段103と接続(画像データ通信)することもできるし、インターネット経由(つまり無線通信)で保存するクラウドサーバとすることもできる。また異常自然現象検知システム100は、主録音手段101で取得された音響振動を記憶する「主音響振動記憶手段」や、副録音手段102で取得された音響振動を記憶する「副音響振動記憶手段」を含んで構成することもできる。この主音響振動記憶手段と副音響振動記憶手段、そして異常パターン記憶手段105は、それぞれ別のデータベースサーバに構築することもできるし、同じデータベースサーバに含めて構築することもできる。
【0027】
既述したとおり主録音手段101は、発生予測個所の音響振動を取得するものであり、そのため図2に示すように発生予測個所に向けて設置される。また主録音手段101は、できるだけ発生予測個所方向の音響振動を取得するように、パラボラ集音器や音響測距機であるアコースティックロケーションなど指向性を有するマイクフォンを利用するとよい。
【0028】
一方、副録音手段102は、主録音手段101の設置個所周辺の音響振動を取得するものであり、そのため図2に示すように主録音手段101の周辺に設置(配置)される。また副録音手段102は、できるだけ主録音手段101周辺の音響振動を漏れなく取得するように、スマートフォンの録音機能を利用するなど無指向性のマイクフォンを利用するとよい。
【0029】
図3は、本願発明の異常自然現象検知システム100の主な処理の流れを示すフロー図であり、中央の列に実施する処理を示し、左列にはその処理に必要な入力情報を、右列にはその処理から生まれる出力情報を示している。以下、この図を参照しながら異常自然現象検知システム100の主な処理の流れについて説明する。
【0030】
主録音手段101と副録音手段102を図2に示すような配置で設置すると、主録音手段101によって音響振動(以下、「主音響振動」という。)を取得し(Step101)、並行して副録音手段102によって音響振動(以下、「副音響振動」という。)を取得する(Step102)。主録音手段101が連続して主音響振動を取得していくと、主音響振動で構成される音響振動パターン(以下、「主音響振動パターン」という。)を生成し、同様に副録音手段102が連続して副音響振動を取得していくと、副音響振動で構成される音響振動パターン(以下、「副音響振動パターン」という。)を生成する。これら主音響振動パターンと副音響振動パターンは、定期的(例えば、音響振動パターンを構成する所定期間ごと)に生成してもよいし、連続して(例えば、毎秒や毎分など)生成してもよい。短い間隔で定期的に生成する場合、あるいは連続して生成する場合は、主音響振動や副音響振動が部分的に重複使用されながら主音響振動パターンや副音響振動パターンが生成されることとなる。なお、主音響振動パターンや副音響振動パターンの生成は、図2に示すコンピュータ107を利用して行うことができる。
【0031】
主音響振動パターンと副音響振動パターンが生成されると、副音響振動パターンをノイズとし、主音響振動パターンからノイズ(つまり、副音響振動パターン)を除去する(Step103)。具体的には、主音響振動パターンの波形から副音響振動パターンの波形を差し引くなど、主音響振動パターンの波形に含まれるノイズ分を取り除く。そして、主音響振動パターンからノイズを除去することによって、目的音響振動パターンが得られる。
【0032】
目的音響振動パターンが得られると、異常パターン記憶手段105に記憶された異常音響振動パターンを読み出す(Step104)。異常パターン記憶手段105には、土石流が生じたときの異常音響振動パターンや雪崩が生じたときの異常音響振動パターンなど、種々の異常自然現象に関する異常音響振動パターンを記憶させておくとよい。さらに、実際に異常自然現象が発生した後の異常音響振動パターンのほか、異常自然現象が発生する前のいわゆる前兆現象としての音響振動パターン(以下、「前兆音響振動パターン」という。)を記憶することもできる。後述するように、異常パターン記憶手段105が種々の異常音響振動パターンを記憶することによって、異常自然現象の種別(土石流や雪崩など)を推定することができ、異常パターン記憶手段105が前兆音響振動パターンを記憶することによって、迅速に(あるいは事前に)異常自然現象の発生を察知することができるわけである。
【0033】
異常音響振動パターンを読み出すと、目的音響振動パターンと異常音響振動パターンを照らし合わせることによって異常自然現象の発生を推定する(Step105)。具体的には、目的音響振動パターンと異常音響振動パターンが合致するか、あるいは近似していると判断されたときに異常自然現象の発生を推定し、目的音響振動パターンと異常音響振動パターンが異なるものと判断されたときは異常自然現象の発生はないと推定する。この近似判断は、最小二乗法をはじめ従来から用いられている種々の手法を用いることができる。
【0034】
目的音響振動パターンと異常音響振動パターンとの照合判断(合致や近似の判断)は、波形全体に着目して行うこともできるし、音響振動パターンにおける振幅の大きさや周波数に着目したうえで行うこともできる。例えば、目的音響振動パターンにおける振幅の大きさと、異常音響振動パターンにおける振幅の大きさとを照らし合わせ、一定期間、振幅の大きさが近似(あるいは一致)していれば、目的音響振動パターンと異常音響振動パターンが近似(あるいは合致)していると判断する。もしくは、目的音響振動パターンにおける周波数と、異常音響振動パターンにおける周波数とを照らし合わせ、一定期間、周波数が近似(あるいは一致)していれば、目的音響振動パターンと異常音響振動パターンが近似(あるいは合致)していると判断することもできる。
【0035】
また、異常パターン記憶手段105が種々の異常自然現象に関する異常音響振動パターンを記憶しているときは、それぞれの異常音響振動パターンを読み出したうえで、その種別とともに異常自然現象の発生を推定するとよい。例えば、土石流の異常音響振動パターンと雪崩の異常音響振動パターンが異常パターン記憶手段105に記憶されているケースでは、それぞれ土石流の異常音響振動パターンと雪崩の異常音響振動パターンを読み出し、目的音響振動パターンと土石流の異常音響振動パターンが近似(あるいは合致)する場合は土石流の発生を推定し、目的音響振動パターンと雪崩の異常音響振動パターンが近似(あるいは合致)する場合は雪崩の発生を推定するわけである。
【0036】
さらに、異常パターン記憶手段105が前兆音響振動パターンを記憶しているときは、前兆音響振動パターンを読み出したうえで、異常自然現象の発生を推定(予測)するとよい。例えば、土石流の前兆音響振動パターンと雪崩の前兆音響振動パターンが異常パターン記憶手段105に記憶されているケースでは、それぞれ土石流の前兆音響振動パターンと雪崩の前兆音響振動パターンを読み出し、目的音響振動パターンと土石流の前兆音響振動パターンが近似(あるいは合致)する場合は土石流の発生を推定(予測)し、目的音響振動パターンと雪崩の前兆音響振動パターンが近似(あるいは合致)する場合は雪崩の発生を推定(予測)するわけである。
【0037】
異常自然現象の発生が推定されたときは、警戒情報出力手段106がディスプレイやプリンタ、音声出力装置といった出力手段に「警戒情報」を出力するよう指令する(Step106)。このとき、1台の音声出力装置等に「警戒情報」を出力させることもできるし、図2に示すように同時に複数(図では3つ)の端末機器108(例えば、スマートフォンなど)に「警戒情報」を出力させることもできる。
【0038】
2.異常自然現象検知方法
次に、本願発明の異常自然現象検知方法ついて図を参照しながら説明する。なお、本願発明の異常自然現象検知方法は、ここまで説明した異常自然現象検知システム100を使用して異常自然現象を検知する方法であり、したがって異常自然現象検知システム100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の異常自然現象検知方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.異常自然現象検知システム」で説明したものと同様である。
【0039】
図5は、本願発明の異常自然現象検知方法の主な工程を示すフロー図である。この図に示すように、はじめに主録音手段101と副録音手段102を設置する(Step201、Step202)。既述したとおり、主録音手段101は発生予測個所に向けて設置され、一方の副録音手段102は主録音手段101の周辺に設置(配置)される。
【0040】
主録音手段101と副録音手段102を設置すると、主録音手段101が取得した主音響振動に基づいて主音響振動パターンを生成し(Step203)、副録音手段102が取得した副音響振動に基づいて副音響振動パターンを生成する(Step204)とともに、主音響振動パターンからノイズである副音響振動パターンを除去して目的音響振動パターンを生成する(Step205)。
【0041】
目的音響振動パターンが得られると、異常パターン記憶手段105から異常音響振動パターンを読み出すとともに、この異常音響振動パターンと目的音響振動パターンを照らし合わせる(Step206)。その結果、目的音響振動パターンと異常音響振動パターンが、近似(あるいは合致)していると判断されたときに異常自然現象の発生を推定し(Step206のYes)、目的音響振動パターンと異常音響振動パターンが異なるものと判断されたきは(Step207のNo)、引き続き主録音手段101で主音響振動を取得し、副録音手段102で副音響振動を取得していく。そして、異常自然現象の発生が推定されたときは、例えば、複数の端末機器108に対して同時に「警戒情報」を出力させる(Step208)。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本願発明の異常自然現象検知システム、及び異常自然現象検知方法は、土石流や雪崩のほか、自然斜面の表層崩壊や地すべり等にも利用することができ、2次災害の回避を目的とするときに特に有効に利用することができる。災害発生時に、早期の避難を促し、その結果多くの人々の安全が確保できることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献が期待できる発明といえる。
【符号の説明】
【0043】
100 異常自然現象検知システム
101 (異常自然現象検知システムの)主録音手段
102 (異常自然現象検知システムの)副録音手段
103 (異常自然現象検知システムの)ノイズ処理手段
104 (異常自然現象検知システムの)推定手段
105 (異常自然現象検知システムの)異常パターン記憶手段
106 (異常自然現象検知システムの)警戒情報出力手段
107 (異常自然現象検知システムの)コンピュータ
108 (異常自然現象検知システムの)端末機器
図1
図2
図3
図4
図5