(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/553 20060101AFI20230209BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20230209BHJP
A61K 47/62 20170101ALI20230209BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230209BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
A61K31/553
A61K9/107
A61K47/62
A61P35/00
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2018030208
(22)【出願日】2018-02-22
【審査請求日】2020-11-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム「スマートライフケア社会への変革を先導するものづくりオープンイノベーション拠点」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願;平成28年度、29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん医療創生研究事業「DDS技術を基盤とした革新的がん治療法の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514299594
【氏名又は名称】公益財団法人川崎市産業振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】片岡 一則
(72)【発明者】
【氏名】喜納 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】カダール サビーナ
(72)【発明者】
【氏名】カブラル オラシオ
(72)【発明者】
【氏名】林 光太朗
(72)【発明者】
【氏名】西山 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】武元 宏泰
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/024595(WO,A1)
【文献】特表平10-501526(JP,A)
【文献】特表2009-506000(JP,A)
【文献】CONSEIL G. et al.,Protein Kinase C Effectors Bind to Multidrug ABC Transporters and Inhibit Their Activity,Biochemistry,2001年,40(8), 2564-2571,DOI: 10.1021/bi002453m, アブストラクト、
図1-8
【文献】SONG X. et al.,Staurosporine scaffold-based rational discovery of the wild-type sparing reversible inhibitors of EG,J Mol Recognit.,2017年,30(4),doi: 10.1002/jmr.2590, アブストラクト、表1
【文献】KONG L. et al.,Structural pharmacological studies on EGFR T790M/C797S,Biochem Biophys Res Commun.,2017年,488(2), 266-272,doi: 10.1016/j.bbrc.2017.04.138, アブストラクト、
図1、表1
【文献】SHI Z. et al.,S-Phase arrest by nucleoside analogues and abrogation of survival without cell cycle progression by,Cancer Res.,2001年,61(3), 1065-1072,
図3-6
【文献】YAO J. et al.,Systematic profiling of chemotherapeutic drug response to EGFR gatekeeper mutation in non-small cell,Comput Biol Chem.,2016年,64, 126-133,doi: 10.1016/j.compbiolchem.2016.05.009, 表4
【文献】LEE H. et al.,Noncovalent Wild-type-Sparing Inhibitors of EGFR T790M,Cancer Discov.,2012年,3(2), 168-181,doi: 10.1158/2159-8290.CD-12-0357,
図1-3
【文献】LAI P. et al.,Lestaurtinib is Cytotoxic to Oxaliplatin-resistant Transitional Cell Carcinoma Cell Line T24 In Vitr,Tzu Chi Medical Journal,2010年,22(3), 125-130,https://doi.org/10.1016/S1016-3190(10)60056-0,
図1、3
【文献】FESTUCCIA C. et al.,Uncoupling of the epidermal growth factor receptor from downstream signal transduction molecules gui,Oncol Rep.,2007年,18(2), 503-511,
図5、6
【文献】UTZ I. et al.,The protein kinase C inhibitor CGP 41251, a staurosporine derivative with antitumor activity, revers,Int J Cancer.,1994年,57(1), 104-110,
図1-9
【文献】MIYAMOTO K. et al.,Inhibition of multidrug resistance by a new staurosporine derivative, NA-382, in vitro and in vivo,Cancer Res.,1993年,53(7), 1555-1559,表1-3、
図3,4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/553
A61K 9/107
A61K 47/62
A61P 35/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に許容されるポリマーに、下記一般式(S)で表される化合物(S)若しくはその薬学的に許容される塩が結合した薬物複合体を含み、
前記薬物複合体が、下記一般式(Ia)で表される繰り返し単位(Ia)、及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマーを含む、
抗がん剤耐性のがんを治療又は予防するための医薬組成物。
【化1】
[式中、mは1又は2を表す。L
は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、
又は脂肪族炭化水素
基を表す。BMは化合物(S)
が下記一般式(S)中のR
13
又はR
18
におけるヒドラジド基により結合して誘導される基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【化2】
[式中、
X及びYは、それぞれ独立に、H、OH、Cl、プロポキシ、又はエチルチオメチルであり;
R
6は、H、C
1-3アルキル
、NH
2、ベンジル、
【化3】
又は
【化4】
であり;
R
7及びR
8は、それぞれ独立に、H
、OH、又はメトキシであるか、或いは一緒になってO=を形成してもよく;
R
9及びR
10は
、一緒になって、以下の
一般式(a)又は(b)で表される基を形成し:
【化5】
【化6】
ここで、
前記一般式(a)中、
R
11は、メチルであり;
R
12は、Hであり;
R
13
は、
【化7】
であり;
R
41
は
、H、メトキシ、-OH、ヒドロキシメチル、メチルカルボキシレート、メチルアミノ、メチルアミノメチル、プロピルアミノメチル、ジメチルアミノメチル、メトキシカルボニル、
又は
【化8】
であり;
R
15及びR
16は、それぞれ独立に、H、OH、又は
【化9】
であり;
前記一般式(b)中、
R
11
は、メチルであり;
R
12
は、Hであり;
R
13
及びR
14
は、それぞれ独立に、H、メトキシ、-OH、ヒドロキシメチル、メチルカルボキシレート、メチルアミノ、メチルアミノメチル、プロピルアミノメチル、ジメチルアミノメチル、メトキシカルボニル、又は
【化10】
であり;
R
15
及びR
16
は、それぞれ独立に、H、OH、又は
【化11】
であり;
R
17
は、H、OH、メチルアミノ、ジメチルアミノ、
又はオキシム
であり;
R
18
は、下記の式で表される基
【化12】
であり、ここで、
R
19は
、NH-NH
2
である。]
【請求項2】
前記抗がん剤が、ゲフィチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲムシタビン、シスプラチン、ペメトレキセド、及びミドスタウリンからなる群より選択される少なくとも1種の抗がん剤である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記抗がん剤が、キナーゼを標的とする分子標的薬である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記キナーゼが、EGFR、ABL1、ALK1、HER2、c-Kit、FGFR1、FGFR2、FGFR3、c-Src、PDGFRa、RET、DDR2、TRKA、及びFlt-3からなる群より選択される少なくとも1種のキナーゼである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記抗がん剤耐性のがんが、ゲートキーパー変異を有するキナーゼを発現するがんである、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記キナーゼが、d746-750、T790M、及びC797Sの変異を有するEGFRである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記化合物(S)が
、K252aヒドラジ
ドである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記繰り返し単位(Ia)が、下記一般式で表される繰り返し単位である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【化13】
[式中、mは1又は2を表す。L
は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、
又は脂肪族炭化水素
基を表す。]
【請求項9】
前記繰り返し単位(Ia)が、下記一般式(ka)で表される繰り返し単位である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【化14】
[式中、mは1又は2を表す。L
は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、
又は脂肪族炭化水素
基を表す。
Rk
1及びRk
2は、それぞれ独立に、H、OH、Cl、プロポキシ、又はエチルチオメチルであり;
Rk
3は、H、C
1-3アルキル
、NH
2、ベンジル、
【化15】
又は
【化16】
であり;
Wk
1およびWk
2は、それぞれ独立に、H
、OH、又はメトキシであるか、或いは一緒になってO=を形成してもよい。]
【請求項10】
前記繰り返し単位(Ia)が、下記一般式(ka-1)で表される繰り返し単位である、請求項9に記載の医薬組成物。
【化17】
[式中、mは1又は2を表す。L
は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、
又は脂肪族炭化水素
基を表す。]
【請求項11】
前記薬物複合体がミセルを形成している、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物に関する。特に、抗がん剤耐性のがんを治療又は予防するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤による治療を行うと、一時的にはがんの消失が確認できるものの、現在までに開発されている抗がん剤では全てのがん細胞を根絶することは難しい。抗がん剤に耐性を獲得したごく少数のがん細胞が生存することにより、がんが再発・転移することが知られている。
【0003】
例えば、ゲフィチニブは、上皮成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼ活性を阻害する抗がん剤であり、非小細胞肺癌治療薬として用いられている。ゲフィチニブは、L858R変異を有するEGFRを発現する非小細胞肺癌に有効であるが、T790M変異が生じると、ゲフィチニブ耐性癌となる。T790M変異を有するEGFRを発現するゲフィチニブ耐性癌には、オシメルチニブが有効性を示す。しかし、さらに、C797S変異が生じると、オシメルチニブにも耐性の癌となる。現在のところ、L858R、T790M、及びC797Sの3つの変異を有するEGFRを発現する癌に有効な薬剤は開発されていない。
【0004】
一方、スタウロスポリン(Staurosporine)は、ストレプトマイセス属の放線菌から単離された天然物であり(非特許文献1)、抗腫瘍作用を有することが知られている(例えば、特許文献1)。現在までに、K252a等のスタウロスポリン類縁体が報告されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭62-220196号公報
【文献】米国特許第8673347号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Omura S, et al., A new alkaloid AM-2282 OF Streptomyces origin. Taxonomy, fermentation, isolation and preliminary characterization. J Antibiot (Tokyo). 1977 Apr;30(4):275-82.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、遺伝子変異によりがんが抗がん耐性を獲得すると、既存の抗がん剤では治療が困難になるという問題がある。そのため、抗がん剤耐性のがんに有効な薬剤の開発が求められている。一方、スタウロスポリン及びその類縁体は、抗腫瘍活性を有することが知られていたが、抗がん剤耐性のがんに対する有効性は示されていなかった。また、安全域が極めて狭いためにがん治療に有効な投与方法が求められている。さらに、スタウロスポリン及びその類縁体は、難溶性であるため静注が困難であった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、抗がん剤耐性のがんの治療又は予防に利用可能な医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を含む。
〔1〕下記一般式(S)で表される化合物(S)、若しくはその薬学的に許容される塩、又は薬学的に許容されるポリマーに前記化合物(S)若しくはその薬学的に許容される塩が結合した薬物複合体を含む、抗がん剤耐性のがんを治療又は予防するための医薬組成物。
【0009】
【化1】
[式中、
X及びYは、それぞれ独立に、H、OH、Cl、プロポキシ、又はエチルチオメチルであり;
R
6は、H、C
1-3アルキル、-NH
2、ベンジル、
【0010】
【0011】
【化3】
であり;
R
7及びR
8は、それぞれ独立に、H、-OH、又はメトキシであるか、或いは一緒になってO=を形成してもよく;
R
9及びR
10は、それぞれ独立に、H、メチル、β-D-グルコピラノシル、4-O-メチル-β-D-グルコピラノシル、シアノエチル、又は
【0012】
【0013】
【0014】
【化6】
を形成してもよく、ここで
R
11は、メチルであり;
R
12は、Hであり;
R
13及びR
14は、それぞれ独立に、H、メトキシ、-OH、ヒドロキシメチル、メチルカルボキシレート、メチルアミノ、メチルアミノメチル、プロピルアミノメチル、ジメチルアミノメチル、メトキシカルボニル、
【0015】
【0016】
【化8】
であり;
R
15及びR
16は、それぞれ独立に、H、OH、又は
【0017】
【化9】
であり;
R
17及びR
18は、H、OH、メチルアミノ、ジメチルアミノ、オキシム、又は下記のいずれかの式で表される基
【0018】
【化10】
であり、ここで、
R
19は、メトキシ、ヒドロキシ、-NH-NH
2、又は活性エステルを含む基である。]
〔2〕前記抗がん剤が、ゲフィチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲムシタビン、シスプラチン、ペメトレキセド、及びミドスタウリンからなる群より選択される少なくとも1種の抗がん剤である、〔1〕に記載の医薬組成物。
〔3〕前記抗がん剤が、キナーゼを標的とする分子標的薬である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔4〕前記キナーゼが、EGFR、ABL1、ALK1、HER2、c-Kit、FGFR1、FGFR2、FGFR3、c-Src、PDGFRa、RET、DDR2、TRKA、及びFlt-3からなる群より選択される少なくとも1種のキナーゼである、〔3〕に記載の医薬組成物。
〔5〕前記抗がん剤耐性のがんが、ゲートキーパー変異を有するキナーゼを発現するがんである、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔6〕前記キナーゼが、d746-750、T790M、及びC797Sの変異を有するEGFRである、〔5〕に記載の医薬組成物。
〔7〕前記化合物(S)が、スタウロスポリン、7-ヒドロキシスタウトスポリン、KT5926、スタウロスポリン・アグリコン、SF2370、KT5823、4’-N-ベンゾイルスタウロスポリン、Go6976、N,N-ジメチルスタウロスポリン、NA 0359、N-エトキシカルボニル-7-オキソスタウロスポリン、KT-6124、CGP42700、4’-デメチルアミノ-4’,5’-ジヒドロキシスタウロスポリン、7-オキソスタウロスポリン、CEP751、NA0346、NA0359、3’-デメトキシ-3’-ヒドロキシスタウロスポリン、KT 6006、7-O-メチル-UCN 01、TAN 999、NA 0346、NA 0345、NA 0344、CGP 44171A、SCH 47112、N,N-ジメチルスタウロスポリン、TAN 1030A、レスタウルチニブ、4’-デメチルアミノ-4’-ヒドロキシスタウロスポリン、AFN941、エドテカリン、ベカテカリン、K252a、及びK252aヒドラジドからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔8〕前記化合物(S)が、スタウロスポリン、K252a、及びK252aヒドラジドからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、〔7〕に記載の医薬組成物。
〔9〕前記薬物複合体がミセルを形成している、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、抗がん剤耐性のがんの治療又は予防に利用可能な医薬組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、芳香族アルデヒド基含有ポリマー及び脂肪族アルデヒド基含有ポリマーの合成スキームである。
【
図2】
図2は、芳香族アルデヒド基含有ポリマーの中間体であるアセタール基含有ポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図3】
図3は、芳香族アルデヒド基含有ポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図4】
図4は、脂肪族アルデヒド基含有ポリマーの中間体であるアセタール基含有ポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図5】
図5は、本発明の1実施形態にかかる脂肪族アルデヒド基含有ポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図6】
図6は、芳香族ケトン基含有ポリマー及び脂肪族ケトン基含有ポリマーの合成スキームである。
【
図7】
図7は、脂肪族ケトン基含有ポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図8】
図8は、K252a及びK252aヒドラジド(K252a-H)の
1H-NMRスペクトルである。
【
図9】
図9は、K252a及びK252a-HのHPLC分析結果である。
【
図10】
図10は、、本発明の1実施形態にかかる脂肪族ケトン基含有ポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図11】
図11は、、本発明の1実施形態にかかる芳香族アルデヒド基含有ポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図12A】
図12Aは、本発明の1実施形態にかかる薬物複合体(K252a-H結合芳香族ポリマーミセル)のミセルサイズと、分散度(Polydispersion index:PDI)の解析結果である。
【
図12B】
図12Bは、本発明の1実施形態にかかる薬物複合体(K252a-H結合脂肪族ポリマーミセル)のミセルサイズと、分散度(Polydispersion index:PDI)の解析結果である。
【
図13】
図13は、本発明の1実施形態にかかる薬物複合体の紫外吸収スペクトルである。
【
図14】
図14は、本発明の1実施形態にかかる薬物複合体をpH1水性緩衝液処理後のサンプルのHPLC分析結果である。
【
図15】
図15は、本発明の1実施形態にかかるK252a、K252a-H、K252a-H結合脂肪族ポリマー、K252a-H結合芳香族ポリマー(K252a類)の肺癌細胞に対する細胞毒性試験の結果を示すグラフである。
【
図16】
図16は、本発明の1実施形態にかかるK252a類の肺癌細胞に対する細胞毒性試験の結果を示すグラフである。
【
図17】
図17は、本発明の1実施形態にかかるK252a類の膵癌細胞に対する細胞毒性試験の結果を示すグラフである。
【
図18】
図18は、本発明の1実施形態にかかるK252a類の頭頸部癌細胞に対する細胞毒性試験の結果を示すグラフである。
【
図19】
図19は、本発明の1実施形態にかかるK252a類の悪性中皮腫細胞に対する細胞毒性試験の結果を示すグラフである。
【
図20】
図20は、第1~第3世代TKIと、その耐性変異を示す図である。
【
図21】
図21は、第1~第3世代TKIと、その耐性変異を示す図である。
【
図22】
図22は、EGFR変異に対するK252a-Hのキナーゼアッセイ結果を示す図である。
【
図24】
図24は、K252a-Hによりキナーゼ活性が30%以下に抑制された突然変異キナーゼの一覧を示す図である。
【
図25】
図25は、キナーゼプロファイリングの結果を示す図である。
【
図26】
図26は、キナーゼプロファイリングの結果を示す図である。
【
図27】
図27は、キナーゼプロファイリングの結果を示す図である。
【
図28】
図28は、キナーゼプロファイリングの結果を示す図である。
【
図29】
図29は、キナーゼプロファイリングの結果を示す図である。
【
図30】
図30は、キナーゼプロファイリングの結果を示す図である。
【
図31】
図31は、キナーゼプロファイリングの結果を示す図である。
【
図32】
図32は、キナーゼプロファイリングの結果を示す図である。
【
図35】
図35は、スタウロスポリンのIC50が0.2nmであるキナーゼの一覧を示す図である。下線で示すキナーゼは、癌(特に薬剤耐性癌)の治療標的として重要とされるキナーゼである。
【
図36】
図36は、本発明の1実施形態にかかるスタウロスポリン及びK252a類の非小細胞肺癌に対する細胞毒性試験の結果を示すグラフである。
【
図37】
図37は、本発明の1実施形態にかかるスタウロスポリン及びK252a類の膵臓癌に対する細胞毒性試験の結果を示すグラフである。
【
図38】
図38は、本発明の1実施形態にかかるスタウロスポリン及びK252a類の頭頸部癌に対する細胞毒性試験の結果を示すグラフである。
【
図39】
図39は、本発明の1実施形態にかかるスタウロスポリン及びK252a類の悪性中皮腫に対する細胞毒性試験の結果を示すグラフである。
【
図40】
図40は、本発明の1実施形態にかかるK252a類のin vivo抗腫瘍試験の結果を示すグラフである。
【
図41】
図41は、本発明の1実施形態にかかるK252a類のin vivo抗腫瘍試験の結果を示すグラフである。
【
図42】
図42は、本発明の1実施形態にかかるK252a類のin vivo抗腫瘍試験の結果を示すグラフである。
【
図43】
図43は、本発明の1実施形態にかかるスタウロスポリン及びK252a類の自然発症膵癌に対する細胞毒性試験の結果を示すグラフである。
【
図44】
図44は、本発明の1実施形態にかかるK252a類のin vivo抗腫瘍試験の結果を示すグラフである。
【
図45】
図45は、本発明の1実施形態にかかるK252a類のin vivo抗腫瘍試験の結果を示すグラフである。
【
図46】
図46は、本発明の1実施形態にかかるK252a類のリンパ腫に対する細胞毒性試験の結果を示すグラフである。
【
図47】
図47は、本発明の1実施形態にかかるスタウロスポリン及びK252a類のMDR-1に対する阻害活性試験の結果を示すグラフである。
【
図48】
図48は、本発明の1実施形態にかかるK252a類の細胞毒性に対するヒトα1-acid glycoprotein(hAGP)の影響を評価した試験の結果を示すグラフである。
【
図49】
図49は、スタウロスポリンにリンカー試薬(L1)を結合する反応の一例を示す図である。
【
図50】
図50は、リンカー試薬(L1)を結合したスタウロスポリンの
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図51】
図51は、リンカー試薬(L1)から誘導されたリンカーを介して、スタウロスポリンとポリマーとの薬物複合体を調製するスキームを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書及び本特許請求の範囲において、化学式で表される構造によっては不斉炭素が存在し、エナンチオ異性体(enantiomer)やジアステレオ異性体(diastereomer)が存在し得るものがあるが、その場合は一つの式でそれら異性体を代表して表す。それらの異性体は単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
[第1の態様]
<医薬組成物>
一実施形態において、本発明は、下記一般式(S)で表される化合物(S)、若しくはその薬学的に許容される塩、又は薬学的に許容されるポリマーに前記化合物(S)若しくはその薬学的に許容される塩が結合した薬物複合体を含む、抗がん剤耐性のがんを治療又は予防するための医薬組成物を提供する。
【0022】
(化合物(S))
本実施形態の医薬組成物は、下記一般式(S)で表される化合物(S)、若しくはその薬学的に許容される塩、又は薬学的に許容されるポリマーに前記化合物(S)若しくはその薬学的に許容される塩が結合した薬物複合体を含む。
【0023】
【化11】
[式中、
X及びYは、それぞれ独立に、H、OH、Cl、プロポキシ、又はエチルチオメチルであり;
R
6は、H、C
1-3アルキル、-NH
2、ベンジル、
【0024】
【0025】
【化13】
であり;
R
7及びR
8は、それぞれ独立に、H、-OH、又はメトキシであるか、或いは一緒になってO=を形成してもよく;
R
9及びR
10は、それぞれ独立に、H、メチル、β-D-グルコピラノシル、4-O-メチル-β-D-グルコピラノシル、シアノエチル、又は
【0026】
【化14】
であるか、或いは一緒になって、以下の:
【0027】
【0028】
【化16】
を形成してもよく、ここで
R
11は、メチルであり;
R
12は、Hであり;
R
13及びR
14は、それぞれ独立に、H、メトキシ、-OH、ヒドロキシメチル、メチルカルボキシレート、メチルアミノ、メチルアミノメチル、プロピルアミノメチル、ジメチルアミノメチル、メトキシカルボニル、
【0029】
【0030】
【化18】
であり;
R
15及びR
16は、それぞれ独立に、H、OH、又は
【0031】
【化19】
であり;
R
17及びR
18は、それぞれ独立に、H、OH、メチルアミノ、ジメチルアミノ、オキシム、又は下記のいずれかの式で表される基
【0032】
【化20】
であり、ここで、
R
19は、メトキシ、ヒドロキシ、-NH-NH
2、又は活性エステルを含む基である。]
【0033】
上記化合物(S)の好ましい例としては、下記一般式(S-1)及び(S-2)でそれぞれ表される化合物(S-1)及び化合物(S-2)が挙げられる。
【0034】
【化21】
[式中、X、Y、R
6~R
8、R
11~R
18は上記で定義するとおりである。]
【0035】
上記一般式(S-1)又は(S-2)中、X、Y、及びR6は、Hであることが好ましい。
【0036】
上記一般式(S-1)又は(S-2)中、R13及びR14は、それぞれ独立に、H、メトキシ、-OH、ヒドロキシメチル、メトキシカルボニル、又は下記式(h1)で表される基であることが好ましい。
【0037】
【0038】
上記(S-1)中のR13及びR14は、それぞれ独立に、H、メトキシカルボニル、又は上記式(h1)で表される基であることがより好ましい。上記(S-2)中のR13及びR14は、それぞれ独立に、H、又はメトキシであることがより好ましい。
【0039】
上記一般式(S-1)又は(S-2)中、R15及びR16は、それぞれ独立に、H、OHであることが好ましい。
【0040】
上記一般式(S-2)中、R17及びR18は、H、OH、メチルアミノ、ジメチルアミノ、オキシム、又は下記式(l1)で表される基であることが好ましく、H、メチルアミノ又は式(l1)で表される基であることがより好ましい。
【0041】
【化23】
[R
19は、メトキシ、ヒドロキシ、-NH-NH
2、又は活性エステルを含む基である。]
【0042】
上記式(l1)中の活性エステルを含む基は、活性エステル化剤(N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)、ペンタフルオロフェノール、p-ニトロフェノール等)を用いて誘導することができる。
【0043】
上記化合物(S-1)としては、下記一般式(S-1-1)で表される化合物(S-1-1)が好ましく例示される。また、上記化合物(S-2)としては、下記一般式(S-2-1)で表される化合物(S-2-1)が好ましく例示される。
【0044】
【化24】
[式中、
R
7はH又はOHであり、
R
13及びR
14は、それぞれ独立に、H、メトキシ、-OH、ヒドロキシメチル、メトキシカルボニル、又は下記式で表される基である。]
【0045】
【0046】
上記化合物(S)として、例えば以下の化合物:スタウロスポリン、7-ヒドロキシスタウトスポリン、KT5926、スタウロスポリン・アグリコン(staurosporine aglycone)、SF2370、KT5823、4’-N-ベンゾイルスタウロスポリン、PKC412、Go6976、N,N-ジメチルスタウロスポリン、NA0359、N-エトキシカルボニル-7-オキソスタウロスポリン、KT-6124、CGP42700、4’-デメチルアミノ-4’,5’-ジヒドロキシスタウロスポリン、7-オキソスタウロスポリン、CEP751、NA0346、NA0359、3’-デメトキシ-3’-ヒドロキシスタウロスポリン、KT6006、7-O-メチル-UCN01、TAN999、NA0346、NA0345、NA0344、CGP44171A、SCH47112、N,N-ジメチルスタウロスポリン、TAN1030A、レスタウルチニブ、4’-デメチルアミノ-4’-ヒドロキシスタウロスポリン、AFN941、エドテカリン、ベカテカリン、K252a、及びK252aヒドラジドからなる群より選択され化合物が挙げられる。
【0047】
上記化合物(S-1-1)の具体例としては、K252a及びK252aヒドラジド(以下、「K252a-H」ともいう。)が例示される。上記化合物(S-2-1)の具体例としては、スタウロスポリンが例示される。
【0048】
【0049】
化合物(S)の薬学的に許容される塩の形態であってもよい。本明細書において、「薬学的に許容される塩」とは、化合物(S)の薬理作用(抗がん活性、キナーゼ阻害活性など)を阻害しない塩を意味する。薬学的に許容される塩は、生体に投与した場合に、副作用を生じないものであることが好ましい。薬学的に許容可能な塩は、特に制限されず、例えば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)との塩;アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)との塩;有機塩基(ピリジン、トリエチルアミンなど)との塩、アミンとの塩、有機酸(酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸など)との塩、及び無機酸(塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸など)との塩等が挙げられる。
【0050】
また、化合物(S)は、後述する[第2の態様]に記載の化合物(K)又は化合物(K)の薬学的に許容される塩であってもよい。
【0051】
化合物(S)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
(薬物複合体)
本実施形態の医薬組成物は、薬学的に許容されるポリマーに前記化合物(S)が結合した薬物複合体を含んでいてもよい。なお、「薬物複合体」とは、薬理作用を有する分子(薬物)が、他の分子(例えば、ポリマー)に結合したものをいう。「薬学的に許容されるポリマー」とは、化合物(S)と薬物複合体を形成したとき、化合物(S)の薬理作用(抗がん活性、キナーゼ阻害活性など)を阻害しないポリマーを意味する。薬学的に許容されるポリマーは、生体に投与した場合に、副作用を生じないものであることが好ましい。
ポリマーとの薬物複合体とすることにより、化合物(S)の安全域を広くすることができる。また、化合物(S)の可溶性を高め、静注等も可能となる。
【0053】
化合物(S)と薬物複合体を形成するポリマーは、化合物(S)の薬理作用を阻害しないものであれば特に限定されない。ポリマーは、親水性ポリマーであってもよく、疎水性ポリマーであってもよく、親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとを含む共重合体であってもよい。
【0054】
親水性ポリマーセグメントの具体例としては、例えば、ポリアルキレングリコール、ポリ(2-オキサゾリン)、ポリサッカライド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリ(2-メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン)、ポリ(N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)(PHPMA)及びそれらの誘導体等が挙げられる。中でも、ポリアルキレングリコール、ポリ(2-オキサゾリン)等が好ましく、ポリアルキレングリコールがより好ましい。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールのコポリマー等が挙げられ、ポリエチレングリコール特にが好ましい。
【0055】
疎水性ポリマーセグメントの具体例としては、例えば、アミノ酸及び/又はその誘導体から誘導される繰り返し単位を有するポリマーが挙げられる。より具体的には、ポリアミノ酸又はその誘導体が挙げられる。ポリアミノ酸及びその誘導体としては、例えば、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリ(ベンジルアスパラギン酸)、ポリ(ベンジルグルタミン酸)等が挙げられる。
また、疎水性ポリマーセグメントは、例えば、アルキル基側鎖又はアラルキル基側鎖を有するアミノ酸から誘導される繰り返し単位を含んでいてもよい。アルキル基側鎖を有するアミノ酸としては、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンが挙げられる。また、アラルキル基側鎖を有するアミノ酸としては、フェニルアラニンが挙げられる。2以上のアルキル基側鎖アミノ酸及び/又はアラルキル基側鎖アミノ酸から誘導される繰り返し単位を有する場合、それらの側鎖は同一であってもよく、異なっていてもよい。疎水性ポリマーセグメントの全繰り返し単位に対するアルキル基側鎖アミノ酸又はアラルキル基側鎖アミノ酸から誘導される繰り返し単位の比率は、特に限定されず、例えば、20%以上、35%以上、40%以上、50%以上、80%以上、95%以上、99%以上、又は100%であってよい。
【0056】
化合物(S)と薬物複合体を形成するポリマーとしては、例えば、下記のポリマー(Pが好ましく例示される。
【0057】
≪ポリマー(P)≫
ポリマー(P)は、下記一般式(I)で表される繰り返し単位(I)、及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマーである。
【0058】
【化27】
[式中、mは1又は2を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0059】
前記一般式(I)及び(II)中、mは1又は2であり、1が好ましい。
前記一般式(I)中、Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。
Lの2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ベンジレン基等が挙げられる。
Lの2価の芳香族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。該置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、ニトロ基、ハロゲン化物等が挙げられる。
Lの2価の脂肪族炭化水素基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。Lの2価の脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
該置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基、ハロゲン化物等が挙げられる。
中でも、Lとしては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ベンジレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基又はベンジレン基がより好ましい。Lは、抗腫瘍活性の観点からは、2価の脂肪族炭化水素基が好ましく、メチレン基、エチレン基、又はプロピレン基より好ましく、メチレン基又はエチレン基がさらに好ましい。
【0060】
前記一般式(I)中、R1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
R1の脂肪族炭化水素基としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。R1の脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。該置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、シクロヘキシル基、トリハロメチル基等が挙げられる。
R1の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、ピリジル基、ナフチル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、キシリル基、メチルフェニル基、ニトロフェニル基、クロロフェニル基、フロオロフェニル基、ヨードフェニル基、ブロモフェニル基等が挙げられる。
なかでも、R1としては、水素原子又は脂肪族炭化水素基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0061】
前記一般式(II)中、XはORx、SRx又はNRx1Rx2を表す。
Rxは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Rxの脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
Rxの芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、ピリジル基、ナフチル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、キシリル基、メチルフェニル基、ニトロフェニル基、クロロフェニル基、フロオロフェニル基、ヨードフェニル基、ブロモフェニル基等が挙げられる。
Rx1及びRx2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
Rx1及びRx2の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、シクロヘキシル基、トリハロメチル基挙げられる。
Rx1及びRx2の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、ピリジル基、ナフチル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、キシリル基、メチルフェニル基、ヒトロフェニル基、クロロフェニル基、フロオロフェニル基、ヨードフェニル基、ブロモフェニル基等が挙げられる。
中でも、XとしてはORxが好ましく、OH(ヒドロキシ基)がより好ましい。
【0062】
ポリマー(P)は、前記繰り返し単位(I)及び(II)以外の他の繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(III)」という場合がある)を有していてもよい。
繰り返し単位(III)としては、親水性の繰り返し単位が好ましく、例えば、ポリエチレングリコールから誘導される繰り返し単位、ポリ(エチルエチレンホスフェート)から誘導される繰り返し単位、ポリビニルアルコールから誘導される繰り返し単位、ポリビニルピロリドンから誘導される繰り返し単位、ポリ(オキサゾリン)から誘導される繰り返し単位、ポリ(N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)(PHPMA)から誘導される繰り返し単位等が挙げられる。中でも、繰り返し単位(III)としては、ポリエチレングリコールから誘導される繰り返し単位が好ましい。
【0063】
ポリマー(P)において、繰り返し単位(I)~(III)の含有量は特に限定されない。
繰り返し単位(I)の含有量は、ポリマー(P)を構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対し、5~100モル%が好ましく、10~80モル%がより好ましく、20~50モル%が更に好ましい。
繰り返し単位(II)の含有量は、ポリマー(P)を構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対し、0~80モル%が好ましく、10~60モル%がより好ましく、20~40モル%が更に好ましい。
繰り返し単位(III)の含有量は、ポリマー(P)を構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対し、0~95モル%が好ましく、20~90モル%がより好ましく、50~80モル%が更に好ましい。
【0064】
ポリマー(P)の分子量は、2000~1000000Dが好ましく、5000~100000Dがより好ましく、10000~40000Dがさらに好ましい。
【0065】
〔ポリマー(P)の製造方法(1)〕
ポリマー(P)の製造方法(以下、「製造方法(1)」という場合がある)は、下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P1)と下記一般式(1a)で表される化合物(1a)とを反応させて、下記一般式(I’)で表される繰り返し単位及び前記繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P2)を得る工程(1)と、前記ポリマー(P2)を弱酸性条件下で加水分解して、下記一般式(I)で表される繰り返し単位(I)及び下記一般式(II-1)で表される繰り返し単位(II-1)を有するポリマー(P)を得る工程(2)と、を含む。
【0066】
【化28】
[式中、mは1又は2を表す。R
2は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Ra
11及びRa
12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
11及びRa
12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0067】
前記式一般式(I’)、(II’)、(I)及び(II-1)中、m、L、R1及びRxは前記一般式(I)及び(II)中のm、L、R1及びRxと同様である。
前記一般式(1a)及び(I’)中、Ra11及びRa12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa11及びRa12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。Ra11及びRa12が相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す場合、化合物(1a)は環状アセタール又は環状ケタールとなる。
前記一般式(1a)中、n1及びn2はそれぞれ独立に0又は1であり、1が好ましい。
【0068】
・工程(1)
製造方法(1)の工程(1)は、ポリマー(P1)と化合物(1a)とのアミノリシス反応である。工程(1)により、ポリマー(P1)の側鎖に化合物(1a)のアセタール構造又はケタール構造が導入される。
工程(1)の反応温度は、ポリマー(P1)の側鎖に化合物(1a)のアセタール構造又はケタール構造が導入される条件であれば特に限定されないが、通常4℃~100℃であり、室温~40℃が好ましい。
工程(1)の反応時間は、ポリマー(P1)の側鎖に化合物(1a)のアセタール構造又はケタール構造が導入される条件であれば特に限定されず、反応時間、化合物(1a)の種類や量によって選択できるが、通常4時間~5日間である。
【0069】
・工程(2)
製造方法(1)の工程(2)において、ポリマー(P2)を中性条件下又は弱酸性条件下で加水分解し、ポリマー(P2)の繰り返し単位(I’)のアセタール構造をアルデヒド、又はケタール構造をケトンに変換する。
加水分解は、ポリマー(P2)の繰り返し単位(I’)のアセタール構造をアルデヒド、又はケタール構造をケトンに変換できる条件であれば特に限定されない。例えば、(i)0.1N塩酸で30分程度処理する方法、(ii)アセトン及びインジウム(III)トリフルオロメタンスルホネート(触媒)の存在下で処理する方法、(iii)30℃の水中で触媒量のテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ホウ酸ナトリウムを用いる方法、(iv)室温でウェットニトロメタン中、1~5モル%のEr(OTf)3を用いる方法、(v)ほぼ中性のpH条件下、室温でウェットニトロメタン中、触媒量のセリウム(III)トリフレートを用いる方法等、公知の方法が挙げられる。
【0070】
〔ポリマー(P)の製造方法(2)〕
ポリマー(P)の製造方法(以下、「製造方法(2)」という場合がある)は、下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P1)と下記一般式(1a)で表される化合物(1a)とを反応させて、下記一般式(I’)で表される繰り返し単位及び前記繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P2)を得る工程(1)と、
前記ポリマー(P2)をアルカリ条件下の加水分解、エステル交換反応、アミノリシス、並びにアルカリ条件下の加水分解及びアミドカップリングからなる群より選ばれる少なくとも1種の処理に付し、下記一般式(I’)で表される繰り返し単位(I’)及び下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P3)を得る工程(2a)と、
前記ポリマー(P3)を中性条件下又は弱酸性条件下で加水分解して、下記一般式(I)で表される繰り返し単位(I)及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマー(P)を得る工程(2b)と、
を含む。
【0071】
【化29】
[式中、mは1又は2を表す。R
2は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Ra
11及びRa
12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
11及びRa
12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0072】
前記一般式(I’)、(II’)、(I)及び(II)中、m、L,X、Rx、Rx1及びRx2は、前記一般式(I)及び(II)中のm、L,X、Rx、Rx1及びRx2と同様である。
前記一般式(1a)及び(I’)中、R1、Ra11、Ra12は前記と同様である。
【0073】
・工程(1)
製造方法(2)の工程(1)は、製造方法(1)の工程(1)と同様である。
【0074】
・工程(2a)
製造方法(2)の工程(2a)では、ポリマー(P2)を所定の処理に付すことにより、繰り返し単位(I’)がアセタール構造で保護された状態で、繰り返し単位(II’)の側鎖に所望の官能基を導入することができる。
アルカリ条件下の加水分解は、例えば、0.5NのNaOH溶液とDMSOとの混合物(体積比:50/50)中、室温で30分処理する方法、DMSO中トリエチルアミンで室温にて1時間処理する方法、DMSO中ジイソプロピルエチルアミンで室温にて1時間処理する方法等が挙げられる。アルカリ条件下の加水分解により得られるカルボン酸残基は、後述するミセルのコア中のプロトンを引き寄せ、ヒドラゾン結合の加水分解を容易にし、低pH条件下において生体材料の放出を可能とする。
アミノリシスは、例えば、エチレンジアミン又はジアミノプロパンによりエステルを開裂してアミノ官能基を導入することができる。アミノ基導入により、蛍光色素と結合させることができる。また、他のカルボン酸基を有する画像診断剤と、公知のアミノカップリングに付すこともできる。アセタール構造及びケタール構造は、このようなアミノ基導入条件下では安定なので、ポリマーの多官能ナノキャリアデザインに供することができる。
アルカリ条件下の加水分解及びアミドカップリングは、例えば、アルカリ条件下の加水分解によりエステル残基を処理後、生成したカルボン酸をエステル交換反応もしくは公知のカップリング剤を用いたアミドカップリングに付すことができる。ヒドロキシ/アミン官能基による適切な構造モチーフにより、ポリマーの親水性/疎水性のバランスを所望のものとすることができ、極性又は非極性溶媒中での自己組織化に寄与する。
【0075】
・工程(2b)
製造方法(2)の工程(2b)において、ポリマー(P3)を弱酸性条件下で加水分解し、ポリマー(P3)の繰り返し単位(I’)のアセタール構造をアルデヒドに変換する。加水分解の条件は、製造方法(1)の工程(2)と同様である。
【0076】
≪ポリマー(P)と化合物(S)との薬物複合体≫
ポリマー(P)と化合物(S)との結合は、化合物(S)にアルデヒド基又はケトン基とシッフ塩基を形成し得る窒素原子含有基(以下、「シッフ塩基形成基」という場合がある)がある場合には、当該シッフ塩基形成基と、ポリマー(P)の繰り返し単位(I)に含まれるアルデヒド基又はケトン基とを反応させることにより行うことができる。そのようなシッフ塩基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、ヒドラジド基等が挙げられる。また。化合物(S)がシッフ塩基形成基を有しない場合には、シッフ塩基形成基を化合物(S)に導入すればよい。シッフ塩基形成基の導入は、公知の方法により行うことができる。
【0077】
例えば、K252aにはシッフ塩基形成基が存在しないため、後述する実施例で示すように、ヒドラジド基を導入してK252a-Hとすることにより、ポリマー(P)に結合させることができる。ポリマー(P)とK252aとの薬物複合体としては、後述する[第2の態様]に記載の繰り返し単位(ka-1)及び繰り返し単位(II)を有するポリマーが挙げられる。
【0078】
ポリマー(P)と化合物(S)との薬物複合体は、下記一般式(Ia)で表される繰り返し単位(Ia)、及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマーであることが好ましい。
【0079】
【化30】
[式中、mは1又は2を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。BMは化合物(S)から誘導される基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0080】
前記一般式(Ia)及び(II)中、m、L、R1、X、Rx、Rx1及びRx2は、前記一般式(I)及び(II)中のm、L、R1、X、Rx、Rx1及びRx2と同様である。
前記一般式(Ia)中、BMは化合物(S)から誘導される基を表す。化合物(S)から誘導される基としては、K252a-Hから誘導される基が好適に例示される。
【0081】
ポリマー(P)では、導入するアルデヒド基又はケトン基の量を制御することができ、アルデヒド基又はケトン基に結合させる薬物の量も制御することができる。そのため、化合物(S)の投与量を適切に制御することができる。
また、ポリマー(P)においては、導入するアルデヒド基又はケトン基を、芳香族アルデヒド基、脂肪族アルデヒド基、芳香族ケトン基、脂肪族ケトン基から選択することができる。
芳香族アルデヒド基又は芳香族ケトン基のシッフ塩基は、脂肪族アルデヒド基又は脂肪族ケトン基のシッフ塩基よりも安定であるため、芳香族アルデヒド基を導入した場合には、化合物(S)がより安定に保持される。そのため、疾患の状態や薬物の種類により、導入するアルデヒド基又はケトン基の種類を選択することにより、薬物の徐放性を制御することができる。さらに、ポリマー(P)と化合物(S)との薬物複合体では、化合物(S)がポリマー(P)に保持されている間、化合物(S)は安定に維持され、毒性も緩和されるため、副作用を軽減して治療効果を高めることができる。
ポリマー(P)と化合物(S)との薬物複合体においては、生体内に投与したときの抗腫瘍効果の観点から、脂肪族ケトン基を導入することが好ましい。すなわち、上記一般式(Ia)中、Lは2価の脂肪族炭化水素基(好ましくはメチレン基又はエチレン基)であることが好ましく、R1は脂肪族炭化水素基(好ましくはメチル基)であることが好ましい。
【0082】
また、公知のリンカー試薬を用いて、化合物(S)とポリマー(P)とを結合させてもよい。リンカー試薬がシッフ塩基形成基を含む場合には、当該シッフ塩基形成基を用いて、ポリマー(P)に化合物(S)を結合させることができる。
【0083】
一方、リンカー試薬が、シッフ塩基形成基を有しない場合には、化合物(S)にリンカーを結合させた化合物に、シッフ塩基形成基を導入してもよい。利用可能なリンカー試薬は、特に限定されないが、例えば、下記式(L1)で表されるグルタチオン(GSH)/グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)感応性リンカー試薬(リンカー試薬(L1);国際公開第2012/039499号、Huang CH et al., ChemMedChem. 2017 Jan 5;12(1):19-22.; Zhang J et al., J Am Chem Soc. 2011 Sep 7;133(35):14109-19.)が挙げられる。
【0084】
【0085】
例えば、下記一般式(SL1)で表される化合物(SL1)は、化合物(S-2-1)に前記リンカー試薬(L1)を反応させて得た化合物である。下記化合物(SL1)を、無水ヒドラジン又はヒドラジン水和物の存在下、無溶媒で還流することにより、シッフ塩基形成基を含む下記化合物(SL1-H)を得ることができる。あるいは、化合物(SL1-H)は、例えば、化合物(SL1)をメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、アセトニトリル、トルエン等の溶媒に溶解し、無水ヒドラジンに添加して反応させることによっても製造することができる。反応温度及び反応時間は、特に限定されないが、例えば室温~50℃で30分~15時間が例示される。
【0086】
【化32】
[式中、R
7、R
13、及びR
14は、前記一般式(S-2-1)におけるR
7、R
13、及びR
14と同様である。]
【0087】
上記化合物(SL1-H)をポリマー(P)に結合させた薬物複合体は、下記一般式(Ia-S)で表される繰り返し単位(Ia-S)、及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有する。
【0088】
【化33】
[式中、m、L、R
1及びXは、前記一般式(Ia)及び(II)におけるm、L及びR
1及びXと同様である。R
7、R
13、及びR
14は、前記一般式(S-2-1)におけるR
7、R
13、及びR
14と同様である。]
【0089】
上記薬物複合体は、pH感応性の結合(I)及びGSH/GST感応性の結合(II)を含む。そのため、上記薬物複合体を生体内に投与すると、まず、低pH環境の腫瘍組織周辺で結合(I)が切断し、化合物(SL1-H)が放出される。さらに、化合物(SL1-H)が腫瘍細胞に取り込まれ、GSH/GSTの作用により、結合(II)が切断し、化合物(S-2-1)が放出される。そのため、生体内においけるポリマー(P)からの化合物(S)の放出を、2段階で制御することができる。
【0090】
≪他のポリマーとの薬物複合体≫
化合物(S)は、上記ポリマー(P)以外のポリマーとの薬物複合体としてもよい。その場合、化合物(S)とポリマーとの結合は、化合物(S)及びポリマーが含む官能基に応じて、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、化合物(S)をポリマーに直接結合させてもよく、化合物(S)にポリマーに結合可能な官能基を導入し、前記官能基を介してポリマーに結合させてもよい。また、公知のリンカー試薬を用いてもよい。リンカー試薬は、特に限定されないが、例えば、上記リンカー試薬(L1)が挙げられる。また、化合物(S)にリンカーを導入した後、活性エステル化剤により活性エステルを導入し、ヒドロキシ基又はアミノ基を有するポリマーに結合させてもよい。また、逆に、ポリマーに活性エステルを導入してもよい。
【0091】
例えば、化合物(S)にリンカー試薬(L1)を結合させて、上記化合物(SL1)を得た後、化合物(SL1)を脱メチル化し、活性エステル化剤(N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)、ペンタフルオロフェノール、p-ニトロフェノール等)を反応させて、下記式(SL2)で表される活性エステルを含む化合物(SL2)を得てもよい。
【0092】
【化34】
[式中、R
7、R
13、R
14は、上記で定義するとおりである。Eは、活性エステル化剤からヒドロキシ基を除いた基を表す。]
【0093】
上記活性エステルを含む化合物(SL2)を、アミノ基又はヒドロキシ基を有する任意のポリマーと反応させることにより、化合物(S-2-1)と当該ポリマーとの薬物複合体を得ることができる。
【0094】
【化35】
[上記反応式中、R
7、R
13、R
14、Eは、上記で定義するとおりである。Pxは任意のポリマーを表し、Exはヒドロキシ基又はアミノ基を表す。Ex’はエステル結合又はアミド結合を表す。]
【0095】
≪薬物複合体のミセル≫
本実施形態の医薬組成物に含有される化合物(S)とポリマーとの薬物複合体は、ミセルを形成していてもよい。薬物複合体がミセルを形成する場合、薬物複合体が含むポリマーは、親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとを有することが好ましい。化合物(S)とポリマーとの薬物複合体のミセルは、公知の手法により調製することができる。例えば、薬物複合体を親油性又は親水性の溶媒に溶解又は懸濁し、当該溶解液又は懸濁液を親水性又は親油性の溶媒に滴下して撹拌することにより、薬物複合体のミセルを調製することができる。
【0096】
(任意成分)
本実施形態の医薬組成物は、化合物(S)に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、薬学的に許容される担体が挙げられる。「薬学的に許容される担体」とは、有効成分の生理活性を阻害せず、且つ、その投与対象に対して実質的な毒性を示さない担体を意味する。「実質的な毒性を示さない」とは、その成分が通常使用される投与量において、投与対象に対して毒性を示さないことを意味する。薬学的に許容される担体としては、医薬分野において常用されるものを特に制限なく使用することができ、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、DMSO、ジメチルアセトアミド、エタノール、グリセロール、ミネラルオイル等を挙げることができる。
また、他の成分としては、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、pH調整剤、賦形剤、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、防腐剤、着色剤、香料等が挙げられる。
また、本実施形態の医薬組成物は、化合物(S)以外の抗がん剤、又は抗がん剤以外の活性成分を含んでいてもよい。抗がん剤以外の活性成分としては、抗炎症剤、鎮痛剤、解熱剤、消炎剤、血行促進剤、刺激緩和剤、抗生物質、生薬等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
化合物(S)は、リポソームやミセル等の公知のドラッグデリバリー用粒子に封入又は担持されたのもであってもよい。ドラッグデリバリー用粒子への封入や担持は、公知の方法により行うことができる。本実施形態の医薬組成物は、そのようなドラッグデリバリー用粒子もまた任意成分として含み得る。
【0098】
(抗がん剤耐性のがん)
本実施形態の医薬組成物は、抗がん剤耐性のがんを治療又は予防するために用いることができる。「抗がん剤耐性のがん」とは、1種以上の抗がん剤に対して耐性を示すがんを意味する。がんが耐性を有する抗がん剤は、好ましくは、当該がんの治療用として開発された抗がん剤である。より好ましくは、抗がん剤は、当該がんの治療用として承認された抗がん剤である。例えば、当該がんの標準治療に用いられている抗がん剤である。
そのような標準治療に用いられる抗がん剤に対する耐性を獲得したがんは、有効な薬物療法を行なうことができず、難治性である。しかしながら、後述する実施例に示すように、化合物(S)は、抗がん剤耐性のがんに対し、高い抗腫瘍活性を示す。そのため、本実施形態の医薬組成物は、抗がん剤耐性のがんを治療又は予防するために有効に用いることができる。
【0099】
がんが抗がん剤耐性であるか否かは、例えば、抗がん剤非存在下でのがん細胞の増殖と比較して、抗がん剤存在下におけるがん細胞の増殖が抑制されるか否かにより判定し得る。抗がん剤非存在下のがん細胞増殖率と比較して、抗がん剤存在下のがん細胞の増殖抑制率が、例えば50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である場合に、当該がんは当該抗がん剤に対して耐性であると判定し得る。
あるいは、がんが抗がん剤耐性であるか否かは、例えば、抗がん剤のIC50により評価してもよい。例えば、がん細胞に対する抗がん剤のIC50が、例えば、10nM以上、好ましくは10nM以上、より好ましくは30nM以上、さらに好ましくは50nM以上である場合に、当該がん細胞は当該抗がん剤に対して耐性であると判定し得る。
【0100】
本実施形態の医薬組成物を適用するがんは、抗がん剤耐性のがんであれば、がんの種類は特に限定されない。がんとしては、例えば、肺癌、膵臓癌、頭頸部癌、中皮腫、神経芽腫、肝臓癌、悪性黒色腫、子宮癌、膀胱癌、胆道癌、食道癌、骨肉腫、精巣腫瘍、甲状腺癌、急性骨髄性白血病、脳腫瘍、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、大腸癌、腎癌、卵巣癌、及び乳癌等が挙げられる。例えば、肺癌、膵臓癌、頭頸部癌、中皮腫を好ましく例示できる。
【0101】
本実施形態の医薬組成物を適用し得るのがんが耐性を示す抗がん剤の具体例としては、ゲフィチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲムシタビン、シスプラチン、ペメトレキセド、及びミドスタウリン等が挙げられる。
【0102】
本実施形態の医薬組成物を適用し得る抗がん剤耐性のがんの具体例を以下に例示する。
(1)ゲフィチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲムシタビン、シスプラチン、ペメトレキセド、及びミドスタウリンからなる群より選択される少なくとも1種の抗がん剤に耐性を示すがん。
(2)ゲフィチニブ、アフィチニブ、オシメルチニブ、及びダサチニブからなる群より選択される少なくとも1種の抗がん剤に耐性を示す肺癌(特に非小細胞肺癌)。中でも、オシメルチニブに耐性を示す肺癌(特に非小細胞肺癌)。
(3)ゲムシタビン、及びエルロチニブからなる群より選択される少なくとも1種の抗がん剤に耐性を示す膵臓癌(特に非小細胞肺癌)。
(4)シスプラチン、エルロチニブ、ゲフィチニブ、及びミドスタウリンからなる群より選択される少なくとも1種の抗がん剤に耐性を示す頭頸部癌。
(5)シスプラチン、ペメトレキセド、及びミドスタウリンからなる群より選択される少なくとも1種の抗がん剤に耐性を示すがん。
(6)キナーゼを標的とする分子標的薬に耐性を示すがん。前記分子標的薬としては、ゲフィチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、及びミドスタウリン等が例示される。
(7)EGFR、ABL1、ALK1、HER2、c-Kit、FGFR1、FGFR2、FGFR3、c-Src、PDGFRa、RET、DDR2、TRKA、及びFlt-3からなる群より選択される少なくとも1種のキナーゼを標的とする分子標的薬に耐性を示すがん。
(8)ゲートキーパー変異を有するキナーゼを発現するがん。「ゲートキーパー変異」とは、ゲートキーパー部位の変異をいう。「ゲートキーパー部位」とは、キナーゼのATP結合ポケットの一番奥に位置するアミノ酸残基の部位をいう。
(9)d746-750、T790M、C797S、及びL858Rからなる群より選択される少なくとも1種の変異を有するEGFRを発現するがん。中でも、d746-750及びT790Mの変異を有するEGFR;d746-750、T790M、及びC797Sの変異を有するEGFR;T790M及びL858Rの変異を有するEGFR;又は、T790M、C797S、及びL858Rの変異を有するEGFRを発現するがん。
(10)T315I及びG1269Aからなる群より選択される少なくとも1種の変異を有するABL1を発現するがん。
(11)L1196M及びG1269Aからなる群より選択される少なくとも1種の変異を有するALK1を発現するがん。
(12)P780_Y781insGSPの変異を有するHer2を発現するがん。
(13)D816E、D816F、D816H、D816I、D816V、D816Y、T670I、及びV559Dからなる群より選択される少なくとも1種のc-Kitを発現するがん。中でも、T670I及びV559Dからなる群より選択される少なくとも1種のc-Kitを発現するがん。
(14)V561Mの変異を有するFGFR1を発現するがん。
(15)V564Fの変異を有するFGFR2を発現するがん。
(16)V565Mの変異を有するFGFR3を発現するがん。
(17)T341Mの変異を有するc-Srcを発現するがん。
(18)T674Iの変異を有するPDGFRaを発現するがん。
(19)V804Lの変異を有するRETを発現するがん。
(20)T654Mの変異を有するDDR2を発現するがん。
(21)G667Cの変異を有するTRKAを発現するがん。
(22)D835Yの変異を有するFlt-3を発現するがん。
(23)
図24に記載の少なくとも1種の変異を有するキナーゼを発現するがん。
(24)後述の表3に記載のキナーゼの少なくとも1種を発現するがん。中でも、AuroraA、AuroraB、CAMK2a、CAMK2d、CyclinC、CyclinA、CyclinA1、CHK1、DDR1、DYRK3、AK3、MEK3、MEK5、PDK1、PIM3、PKCmu、PKC nu、TRKB、及びTRKCからなる群より選択される少なくとも1種のキナーゼを発現するがん。
(25)
図35に記載の少なくとも1種のキナーゼを発現するがん。
【0103】
抗がん剤耐性のがんは、上記(1)~(25)からなる群より選択される少なくとも1つの特徴を有していることが好ましく、上記(1)~(25)からなる群より選択される複数の特徴を有していることがより好ましい。
【0104】
本実施形態の医薬組成物の剤型は、特に限定されず、公知の製剤方法を適用することができる。本実施形態の医薬組成物の剤型としては、例えば、乳剤、エマルション剤、液剤、ゲル状剤、カプセル剤、軟膏剤、貼付剤、バップ剤、顆粒剤、錠剤等を例示できるが、これらの限定されない。
【0105】
本実施形態の医薬組成物の投与経路は、特に限定されず、経口又は非経口経路で投与することができる。非経口経路は、経口以外の全ての投与経路、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、鼻腔内、皮内、点眼、脳内、直腸内、腟内及び腹腔内等への投与を包含する。また、投与は、局所投与であってもよく、全身投与であってもよい。
本実施形態の医薬組成物は、単回投与又は複数回投与を行うことが可能であり、その投与期間及び間隔は、疾患の種類及び状態等、投与経路、投与対象の年齢、体重及び性別等によって、適宜選択することができる。投与間隔としては、例えば、1日1~3回、2~3日に1回、週1~3回、10日1回等が例示できるが、これらに限定されない。
本実施形態の医薬組成物の投与量は、その投与期間及び間隔は、薬物の種類、疾患の種類及び状態等、投与経路、投与対象の年齢、体重及び性別等によって、適宜選択することができる。本実施形態の医薬組成物の投与量は、化合物(S)の治療的有効量とすることができる。「治療的有効量」とは、抗がん剤耐性がんの治療又は予防のために有効な化合物(S)の量を意味する。例えば、投与1回につき、化合物(S)の投与量として、体重1kgあたり0.01~1000mg程度、0.1~100mg程度、0.5~50mg程度、1~10mg程度とすることができる。
【0106】
[第2の態様]
<化合物>
他の態様において、本発明は、下記一般式(k1)で表される化合物を提供する。
【0107】
【化36】
[式中、Rk
1及びRk
2は同じまたは異なる残基であり、
(a)水素、ハロゲン、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、アシル、ニトロ、カルバモイル、低級アルキルアミノカルボニル、-NR
5R
6[ここで、R
5およびR
6は、水素、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のアラルキル、置換もしくは非置換の低級アルキルアミノカルボニル、置換もしくは非置換の低級アリールアミノカルボニル、アルコキシカルボニル、カルバモイル、アシルからそれぞれ独立に選択されるか、またはR
5およびR
6は、ヘテロ環式基由来の窒素原子と結合している]、
(b)-CO(CH
2)
jR
4[ここで、jは1から6であり、R
4は、
(i)水素、ハロゲン、-N
3、
(ii)-NR
5R
6(ここで、R
5およびR
6は上記に定義されたとおりである)、
(iii)-SR
7(ここで、R
7は、水素、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のアラルキル、-(CH
2)
aCO
2R
10(ここで、aは、1または2であり、R
10は、水素および置換もしくは非置換の低級アルキルからなる群から選択される)および-(CH
2)
aCO
2NR
5R
6、
(iv)-OR
8、-OCOR
8(ここで、R
8は、水素、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリールから選択される)
からなる群から選択される]、
(c)-CH(OH)(CH
2)
jR
4(ここで、jおよびR
4は、上記に定義したとおりである);
(d)-(CH
2)
dCHR
11CO
2R
12または-(CH
2)
dCHR
11CONR
5R
6(ここで、dは、0から5であり、R
11は、水素、-CONR
5R
6、または-CO
2R
13であり、R
13は、水素または置換もしくは非置換の低級アルキルであり、R
12は、水素または置換もしくは非置換の低級アルキルである);
(e)-(CH
2)
kR
14[ここで、kは2から6であり、R
14は、ハロゲン、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、-COOR
15、-OR
15(ここで、R
15は、水素、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリールまたはアシルである)、-SR
7(ここで、R
7は、上記に定義したとおりである)、-CONR
5R
6、-NR
5R
6(ここで、R
5およびR
6は、上記に定義したとおりである)または-N
3である];
(f)-CH=CH(CH
2)
m1R
16[ここで、m1は、0から4であり、R
16は、水素、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、-COOR
15、-OR
15(ここで、R
15は上記に定義したとおりである)、-CONR
5R
6または-NR
5R
6(ここで、R
5およびR
6は上記に定義したとおりである)];
(g)-CH=C(CO
2R
12)
2(ここで、R
12は、上記に定義したとおりである);
(h)-C≡C(CH
2)
nR
16(ここで、nは0から4であり、R
16は、上記に定義したとおりである);
(i)-CH
2OR
22(ここで、R
22は、3個の低級アルキル基が同じかもしくは異なっているトリ-低級アルキルシリルであるか、またはR
22は、R
8と同じ意味を有する);
(j)-CH(SR
23)
2および-CH
2-SR
7(ここで、R
23は、低級アルキル、低級アルケニルまたは低級アルキニルであり、R
7は、上記に定義したとおりである)
からなる群から、それぞれ独立して、選択され;
Rk
3は、水素、ハロゲン、アシル、カルバモイル、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換のアルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニルまたはアミノであり;
Wk
1およびWk
2は、独立して、水素、ヒドロキシであるか、またはWk
1およびWk
2は一緒に酸素を表す。]
【0108】
用語「低級アルキル」は、単独で用いられるかまたは他の基と合わせて用いられる場合、1~6個の炭素原子、好ましくは1~5個、より好ましくは1~4個、特に好ましくは1~3個または1~2個の炭素原子を含む直鎖または分岐の低級アルキル基を意味する。これらの基には、特に、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、アミル、イソアミル、ネオペンチル、1-エチルプロピル、ヘキシルなどがある。「低級アルコキシ」、「低級アルコキシカルボニル」、「低級アルキルアミノカルボニル」、「低級ヒドロキシアルキル」および「トリ-低級アルキルシリル」の低級アルキル部分は、上記に定義した「低級アルキル」と同じ意味を有する。
【0109】
「低級アルケニル」基は、直鎖または分岐であってもよく、Z型またはE型であってもよいC2~C6アルケニル基として定義する。このような基には、ビニル、プロペニル、1-ブテニル、イソブテニル、2-ブテニル、1-ペンテニル、(Z)-2-ペンテニル、(E)-2-ペンテニル、(Z)-4-メチル-2-ペンテニル、(E)-4-メチル-2-ペンテニル、ペンタジエニル、例えば、1,3または2,4-ペンタジエニルなどがある。より好ましいC2~C6-アルケニル基は、C2~C5-、C2~C4-アルケニル基、さらにより好ましくはC2~C3-アルケニル基である。
【0110】
用語「低級アルキニル」基は、直鎖または分岐であってもよいC2~C6-アルキニル基を意味し、エチニル、プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、1-ペンチニル、2-ペンチニル、3-メチル-1-ペンチニル、3-ペンチニル、1-ヘキシニル、2-ヘキシニル、3-ヘキシニルなどがある。より好ましいC2~C6-アルキニル基は、C2~C5-、C2~C4-アルキニル基、さらにより好ましくはC2~C3-アルキニル基である。
【0111】
用語「アリール」基は、6から14個までの環状炭素原子を含むC6~C14-アリール基を意味する。これらの基は、単環式、二環式、または三環式であってもよく、縮合環である。好ましいアリール基には、フェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナンスレニルなどがある。「アリールカルボニル」基および「アリールアミノカルボニル」基のアリール部分は、上記定義と同じ意味を有する。
【0112】
用語「ヘテロアリール」基は、窒素、硫黄または酸素から独立して選択される1から3個のヘテロ原子を含み得、C3~C13-ヘテロアリール基をいう。これらの基は、単環式、二環式または三環式であってもよい。本発明のC3~C13ヘテロアリール基には、ヘテロ芳香族、ならびに飽和および部分飽和ヘテロ環基などがある。これらのヘテロ環は、単環式、二環式、三環式であってもよい。好ましい5または6員ヘテロ環基は、チエニル、フリル、ピロリル、ピリジル、ピラニル、モノホリニル、ピラジニル、メチルピロリル、およびピリダジニルである。C3~C13-ヘテロアリールは、二環式ヘテロ環基であってもよい。好ましい二環式ヘテロ環基は、ベンゾフリル、ベンゾチエニル、インドリル、イミダゾリル、およびピリミジニルである。最も好ましいC3~C13-ヘテロアリールは、フリルおよびピリジルである。
【0113】
用語「低級アルコキシ」には、1から6個の炭素原子、好ましくは1から5個、より好ましくは1から4個、特に好ましくは1から3個または1から2個の炭素原子を含むアルコキシ基が含まれ、直鎖または分岐であってもよい。これらの基には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、イソプロポキシ、tert-ブトキシ、ペントキシ、ヘキソキシなどがある。
【0114】
用語「アシル」には、1から6個の炭素原子、好ましくは1から5個、1から4個、1から3個または1から2個の炭素原子を含む低級アルカノイルが含まれ、直鎖または分岐であってもよい。これらの基には、好ましくは、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、tert-ブチリル、ペンタノイルおよびヘキサノイルなどがある。「アシルオキシ」基のアシル部分は、上記定義と同じ意味を有する。
【0115】
用語「ハロゲン」には、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨードなどがある。
【0116】
用語「アラルキル」基は、アルキル基がアリールによって置換されているC7~C15-アラルキルをいう。該アルキル基およびアリールは、上記に定義したC1~C6-アルキル基およびC6~C14-アリール基から選択することができ、ここで、炭素原子の総数は7から15個である。好ましいC7~C15-アラルキル基は、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、フェニルイソプロピル、フェニルブチル、ジフェニルメチル、1,1-ジフェニルエチル、1,2-ジフェニルエチルである。「アラルキルオキシ」基のアラルキル部分は、上記定義と同じ意味を有する。
【0117】
置換低級アルキル基、置換低級アルケニル基、および置換低級アルキニル基は、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、カルボキシル、低級アルコキシカルボニル、ニトロ、ハロゲン、アミノ、モノまたはジ低級アルキルアミノ、ジオキソラン、ジオキサン、ジチオラン、およびジチオンなどの独立して選択される1から3個の置換基を有する。置換低級アルキル基、置換低級アルケニル基および置換低級アルキニル基の低級アルキル置換部分、ならびに置換低級アルキル基、置換低級アルケニル基および置換低級アルキニル基の低級アルコキシ置換基、低級アルコキシカルボニル置換基、モノまたはジ低級アルキルアミノ置換基の低級アルキル部分は、上記に定義した「低級アルキル」と同じ意味を有する。
【0118】
置換アリール基、置換ヘテロアリール基および置換アラルキル基はそれぞれ、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、ニトロ、アミノ、モノまたはジ低級アルキルアミノ、およびハロゲンなどの独立して選択される1から3個の置換基を有する。
【0119】
窒素原子と結合したR5およびR6によって形成されるヘテロ環基には、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペリジノ、モルホリニル、モルホリノ、チオモルホリノ、N-メチルピペラジニル、インドリル、およびイソインドリルなどがある。
【0120】
α-アミノ酸基には、グリシン、アラニン、プロリン、グルタミン酸およびリジンなどがあり、L-型、D-型またはラセミ体の型であってもよい。
【0121】
好ましくは、Rk1およびRk2は、水素、ハロゲン、ニトロ、-CH2OH、-(CH2)kR14、-CH=CH(CH2)mR16、-C≡C(CH2)nR15、-CO(CH2)jR4(ここで、R4は-SR7である)、CH2O-(置換または非置換の)低級アルキル(ここで、置換低級アルキルは、好ましくは、メトキシメチル、メトキシエチルまたはエトキシメチルである)、-NR5R6からなる群から独立して選択される。より好ましくは、Rk1およびRk2は、水素である。
【0122】
Rk1およびRk2の上記好ましい意味において、残基R14は、好ましくは、フェニル、ピリジル、イミダゾリル、チアゾリル、テトラゾリル、-COOR15、-OR15(ここで、R15は、好ましくは、水素、メチル、エチル、フェニルまたはアシルから選択される)、-SR7(ここで、R7は、好ましくは、置換または非置換の低級アルキル、2-チアゾリンおよびピリジルから選択される)および-NR5R6(ここで、R5およびR6は、好ましくは、水素、メチル、エチル、フェニル、カルバモイルおよび低級アルキルアミノカルボニルから選択される)から選択される。さらに、残基R16は、好ましくは、水素、メチル、エチル、フェニル、イミダゾール、チアゾール、テトラゾール、-COOR15、-OR15および-NR5R6(ここで、残基R15、R5およびR6は、上記した好ましい意味を有する)から選択される。Rk1およびRk2の上記好ましい意味において、残基R7は、好ましくは、置換または非置換の低級アルキル、置換または非置換のフェニル、ピリジル、ピリミジニル、チアゾールおよびテトラゾールからなる群から選択される。さらに、kは、好ましくは2、3または4であり、jは、好ましくは1または2であり、m1およびnは、独立して、好ましくは0または1である。
【0123】
好ましくは、Rk3は、水素またはアセチル、最も好ましくは水素である。
【0124】
好ましくは、それぞれのWk1およびWk2は水素である。
【0125】
前記化合物(K)は、下記式(k1-1)で表されることが好ましい。
【0126】
【0127】
<化合物(K)の製造方法>
化合物(K)は、例えば、下記一般式(k0)で表される化合物を、無水ヒドラジン又はヒドラジン水和物の存在下、無溶媒で還流して製造することができる。また、例えば、下記一般式(k0)で表される化合物をメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、アセトニトリル、トルエン等の溶媒に溶解し、無水ヒドラジンに添加して反応させることにより製造することができる。反応温度及び反応時間は特に限定されないが、例えば室温~50℃で30分~15時間反応させることができる。
【0128】
【0129】
<薬物複合体>
本発明の第二の態様は、下記一般式(ka)で表される繰り返し単位(ka)、及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマーを含有する薬物複合体(以下、「薬物複合体(K)」という場合がある。)である。
【0130】
【化39】
[式(ka)中、m、L及びR
1は、前記一般式(I)中のm、L及びR
1と同様である。Rk
1、Rk
2、Rk
3、Wk
1及びWk
2は、前記一般式(k1)中のRk
1、Rk
2、Rk
3、Wk
1及びWk
2と同様である。式(II)中、X及びmは、前記一般式(II)のX及びmと同様である。]
【0131】
前記一般式(ka)中、mは1が好ましい。
前記一般式(ka)中、Lはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ベンジレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基又はベンジレン基がより好ましい。
前記一般式(ka)中、R1は水素原子又は脂肪族炭化水素基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
前記一般式(ka)中、Rk1およびRk2はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、ニトロ、-CH2OH、-(CH2)kR14、-CH=CH(CH2)mR16、-C≡C(CH2)nR15、-CO(CH2)jR4(ここで、R4は-SR7である)、CH2O-(置換または非置換の)低級アルキル(ここで、置換低級アルキルは、好ましくは、メトキシメチル、メトキシエチルまたはエトキシメチルである)又は-NR5R6であることが好ましく、水素であることがより好ましい。
前記一般式(ka)中、Rk3は、水素またはアセチルであることが好ましく、水素であることがより好ましい。
前記一般式(ka)中、Wk1およびWk2は水素であることが好ましい。
前記一般式(II)中、mは1が好ましい。
前記一般式(II)中、XはORxが好ましく、OH(ヒドロキシ基)がより好ましい。
【0132】
前記薬物複合体(K)は、下記一般式(ka-1)で表される繰り返し単位(ka-1)、及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマーを含有することが好ましい。
【0133】
【化40】
[式(ka-1)中、m、L及びR
1は、前記一般式(I)中のm、L及びR
1と同様である。式(II)中、X及びmは、前記一般式(II)のX及びmと同様である。]
【0134】
前記一般式(ka-1)中、mは1が好ましい。
前記一般式(ka-1)中、Lはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ベンジレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基又はベンジレン基がより好ましい。
前記一般式(ka-1)中、R1は水素原子又は脂肪族炭化水素基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0135】
前記一般式(II)中、XはORxが好ましく、OH(ヒドロキシ基)がより好ましい。
【0136】
化合物(K)又は薬物複合体(K)は、既存の癌治療薬が有効性を示さない悪性癌や転移癌に対して、有効性を示す。そのため、化合物(K)及び薬物複合体(K)は、既存の癌治療薬に対して耐性である癌の治療薬として有用である。
【0137】
化合物(K)は、薬物複合体(K)とすることにより、第1の態様の薬物複合体と同様に、化合物(K)の徐放性を制御することができる。化合物(K)がポリマーに保持されている間、化合物(K)は安定に維持され、毒性も緩和されるため、副作用を軽減して治療効果を高めることができる。
また、薬物複合体(K)を含有するミセルを調製することにより、第1の態様のミセルと同様に、生体内のpH環境に依存して、薬物複合体(K)からの化合物(K)のリリースを制御することができる。薬物複合体(K)を含有するミセルの調製は、第1の態様の薬物複合体のミセルと同様に、公知の方法により調製することができる。例えば、薬物複合体(K)を親油性又は親水性の溶媒に溶解又は懸濁し、当該溶解液又は懸濁液を親水性又は親油性の溶媒に滴下して撹拌することにより、薬物複合体(K)を含有するミセルを調製することができる。
なお、薬物複合体(K)は、第1の態様の薬物複合体において、薬物が化合物(K)である態様であり、第1の態様の薬物複合体に包含される。また、薬物複合体(K)は、第1の態様における一般式(Ia)において、BMが化合物(K)である態様であるということもできる。
【0138】
化合物(K)及び薬物複合体(K)は、それぞれ、上記第1の態様の医薬組成物における化合物(S)及びその薬物複合体としてそれぞれ用いることができる。
【0139】
[他の態様]
他の態様において、本発明は、抗がん剤耐性のがんを治療又は予防するための医薬組成物の製造における、化合物(S)又は薬学的に許容されるポリマーに前記化合物(S)が結合した薬物複合体の使用、を提供する。
他の態様において、本発明は、化合物(S)又は薬学的に許容されるポリマーに前記化合物(S)が結合した薬物複合体を対象(例えば、抗がん剤耐性のがんに罹患した患者)に投与することを含む、抗がん剤耐性のがんを治療又は予防する方法、を提供する。
他の態様において、本発明は、抗がん剤耐性のがんの治療又は予防に使用するための化合物(S)又は薬学的に許容されるポリマーに前記化合物(S)が結合した薬物複合体、を提供する。
他の態様において、本発明は、抗がん剤耐性のがんを治療又は予防するための化合物(S)又は薬学的に許容されるポリマーに前記化合物(S)が結合した薬物複合体の使用、を提供する。
【実施例】
【0140】
本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明の実施態様は、これら実施例の記載に限定されるものではない。
【0141】
<ポリマーの合成>
[ポリマー合成例1]メトキシ-ポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(β-ベンジル-アスパルタミド)の合成
α-メトキシ-ω-アミノ ポリ(エチレングリコール)の末端第一級アミノ基によって開始される、β-ベンジルアスパラギン酸 N-カルボキシアルデヒドの開環重合により、メトキシ-ポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(β-ベンジル-アスパルタミド)(MeO-PEG-PBLA;PEG分子量=12kDa;PBLAの重合度=40)コポリマーを合成した。ω-アミン基は、アセチル化によりブロックした。
【0142】
[ポリマー合成例2]芳香族アセタール基導入ポリマーの合成
PEG-PBLAポリマー(220mg、0.011mmol)をDMF(2mL)で溶解し、{〔4-(ジメトキシメチル)フェニル〕メタンアミン}(100μL、0.58mmol)を添加して、徐々に温度を上げて40℃で4日間撹拌した。特性分析のために、反応混合物の一部をエーテル沈殿し、芳香族アセタール基導入ポリマーを回収した。
反応スキームを
図1に示す。また、得られた芳香族アセタール基導入ポリマーの
1H-NMR解析結果を
図2に示す。
1H-NMR解析により25個のベンジルエステルユニットのアミドへの置換が、確認された。残りのベンジルエステル(40-25=15)は、おそらくエーテル沈殿操作中に、加水分解された。
【0143】
[ポリマー合成例3]芳香族アルデヒド基含有ポリマーの合成
アミノリシス反応後、反応混合物を酸性化し(0.1N HCl、100μL、30分)、その後、水で透析し、ポリマーを凍結乾燥することにより、透析袋からアルデヒド基導入ポリマーを回収した。反応スキームを
図1に示す。また、得られた芳香族アルデヒド基含有ポリマーの
1H-NMR解析結果を
図3に示す。27個のアルデヒドユニットが
1H-NMRスペクトラムで確認された。
【0144】
[ポリマー合成例4]脂肪族アルデヒド基含有ポリマーの合成
脂肪族アルデヒド基含有ポリマーの合成は、{〔4-(ジメトキシメチル)フェニル〕メタンアミン}に替えて、1-アミノ-3,3-ジエトキシプロパンを使用した以外は、芳香族アルデヒド基含有ポリマーの合成と同様の方法で行った。反応スキームを
図1に示す。また、中間体である脂肪族アセタール基含有ポリマーの
1H-NMR解析結果を
図4に示す。また、得られた芳香族アルデヒド基含有ポリマーの
1H-NMR解析結果を
図5に示す。23個のアルデヒドユニットが
1H-NMRスペクトラムで確認された。
【0145】
[ポリマー合成例5]脂肪族ケトン基含有ポリマーの合成
PEG-PBLAポリマー(318mg、0.016mmol)をDMF(3mL)で溶解し、得られた溶液に3,3-ジメトキシブタン(200μL)を添加した。反応液を40℃で72時間撹拌し、HCl溶液(100μL、0.1N)添加して1時間撹拌した。水で透析し、ポリマーを凍結乾燥することにより、側鎖に脂肪族ケトンが導入されたポリマーを回収した。
反応スキームを
図6に示す。また、得られた脂肪族ケトン基含有ポリマーの
1H-NMR解析結果を
図7に示す。35個の脂肪族ケトンユニットがポリマーに導入されていることが確認された。
【0146】
[実施例1]K252a-ヒドラジド(K252a-H)の合成
K252aは、BOC Science(US)から購入した。K252a(20mg)を無水メタノール(200μL)に溶解し、無水ヒドラジン(300μL)に添加した。反応混合物を40℃で15時間撹拌した。反応混合物をエバポレートして乾燥体を得た。エバポレーションでは、トルエンを共エバポレーション溶媒として用いた。得られた生成物を、さらなる精製を行うことなく、薬物複合体とミセルの調製に使用した。得られた生成物の
1H-NMR解析結果を
図8に示す。得られた生成物では、K252aのメチル基が消失し、ヒドラジド基プロトンのピークが確認されたことから、K252a-Hが得られたことが確認できた。また、K252a-HをHPLCで分析した。分析結果を
図9に示す。K252a-HとK252aとは、リテンションタイムが異なっていることから、両者は異なる構造であることが確認された。なお、HPLC解析の条件は以下の通りである。
TSK-GEL ODS-100Vカラム 4.6×150mm、粒子径5μm(東ソー株式会社)
カラム圧:10.7MPa
カラム温度:40℃付近の一定の温度
移動相:メタノール/ギ酸緩衝液(pH3.0)混液(3:2)
流速:1.2mL/分、20~30分
UV検出:波長290nm
K252aからのK252a-Hの合成スキームを以下に示す。
【0147】
【0148】
[実施例2]K252a-Hとポリマーとの薬物複合体の調製
芳香族アルデヒド基含有ポリマー又は脂肪族ケトン基含有ポリマー、及びK252a-Hを、質量比2:1で混合し、DMSOに溶解した(1mLのDMSOあたり、15mgの薬物/ポリマー混合物を溶解)。芳香族アルデヒド基含有ポリマーとK252a-Hとの結合反応は、反応混合物を、40℃で一晩攪拌することにより行った。脂肪族ケトン基含有ポリマーとK252a-Hとの結合反応は、反応混合物を、96時間攪拌することにより行った。反応を
1H-NMRでモニターし、K252a-Hがポリマーに完全に結合したことを確認した。脂肪族ケトン基含有ポリマーとK252a-Hとの結合を確認した
1H-NMRの解析結果を
図10に示す。脂肪族アルデヒド基含有ポリマーとK252a-Hとの結合を確認した
1H-NMRの解析結果を
図11に示す。
【0149】
[実施例3]K252a-H結合ポリマーミセルの調製
(ミセルの調製)
DMSO中の反応混合物をジメチルアセトアミド(DMAc)で透析し、DMSOからDMAcへの溶媒交換を行った(4時間透析、透析溶媒は1度交換)。また、透析により、遊離のK252a-Hを除去した。上記のように得られたポリマーとK252a-Hとの薬物複合体のDMAc溶液をミセルの調製に使用した。前記DMAc溶液を、容量比で水10に対して1の割合で、水に滴下してボルテックスし、ミセルを調製した。この溶液を、分画分子量(MWCO)3500Daの透析バッグで24時間、水で透析した。透析媒体は、透析中に5回交換した。透析バッグ中の溶液をフィルター(0.22μm)ろ過し、100kDa MWCOのフィルターメンブラン(Amicon)を用いた限外濾過により濃縮した。なお、K252a-Hと上記ポリマーとの薬物複合体のミセルを、「K252a-H結合ポリマーミセル」ということがある。
【0150】
(ミセルサイズとPDIの測定)
ミセルのサイズと多分散指数(PDI)を、動的光散乱(DLS)手法により求めた。測定は、入射ビームとして緑色レーザー(532nm)を用い、173°の検出角度で、Zetasizer nano ZS(Malvern instruments,UK)を使用して、25℃の温度条件で行った。結果を
図12A及び
図12Bに示す。
図12Aは、芳香族アルデヒド基含有ポリマーとK252a-Hとの薬物複合体のミセル(以下、「K252a-H結合芳香族ポリマーミセル」という。)であり、
図12Bは、脂肪族ケトン基含有ポリマーとK252a-Hとの薬物複合体のミセル(以下、「K252a-H結合脂肪族ポリマーミセル」という。)である。K252a-H結合脂肪族ケトン基含有ポリマーミセルは、K252a-H結合芳香族アルデヒド基含有ポリマーミセルと比較して、ミセルサイズが小さいことが確認された。そのため、K252a-H結合脂肪族ケトン基含有ポリマーミセルは、K252a-H結合芳香族アルデヒド基含有ポリマーミセルよりも、癌への集積性が高いと予想される。
【0151】
[実施例4]K252a-Hと薬物複合体ミセルの水に対する可溶化試験
K252a-H粉末を、蒸留水又はメタノールに1mg/mLで溶解し、よく混合した。その後、孔径22μmのフィルターでろ過した。前記のように調製したろ液について、分光光度計(ジャスコ V670)を用いて紫外吸収スペクトルを測定した。結果を
図27に示す。
図13の結果から、K252a-Hは、水には1μg/mL以下でしか溶解しないことが確認された。
一方、K252a-H結合芳香族ポリマーミセル及びK252a-H結合脂肪族ポリマーミセルを、水に溶解し、HPLCでK252a-Hの濃度測定を行ったところ、水に対して2mg/mL以上の溶解性を示すことが確認された(図示せず)。以上の結果より、K252a-Hのような水に難溶の化合物であっても、ミセル化することによって、水に対する溶解性を増大できることが示された。
【0152】
[実施例5]K252a-H結合ポリマーミセルからのK252a-Hの放出
K252a-H結合脂肪族ポリマーミセルを、pH1の水性緩衝液(メタノール:ギ酸緩衝液(pH3)=3:2)中で、37℃で1時間インキュベートした。その後、HPLC解析を行った。HPLC条件は、実施例1と同様である。結果を
図14に示す。pH1水性緩衝液処理後のサンプルで、K252a-Hと同一のピークが確認されたことから、酸性条件下で、K252a-H結合脂肪族ポリマーミセルからK252a-Hが放出されることが示された。
【0153】
[実施例6]K252a類の肺癌細胞に対する細胞毒性試験
表1に示す肺癌細胞株を用いて、K252a、K252a-H、K252a-H結合芳香族ポリマーミセル及びK252a-H結合脂肪族ポリマーミセル(以下、まとめて「K252a類」ということがある。)の細胞毒性試験を行った。
なお、以下の実施例において、使用した細胞株はアメリカン・タイプ・. カルチャー・コレクション(American Type Culture. Collection, ATCC)もしくはJCRB(医薬基盤研)の細胞バンクより購入した。PC14 PE6は、法正先生(鳥取大学)より分与してもらった。培地は、特に記載していない限り、DMEM、RPMI又はE-MEMを使用した。Gefetinib、Afatinib、Erlotinib、Cisplatin、Pemetrexed、Gemicitabineは、フナコシ株式会社より購入した。Osimertinib は Selleck Chemicals社より購入した。
【0154】
【0155】
2000細胞/50μLの細胞溶液を適量調整し、96ウェルプレートの列2から2まで50μLずつ播種した。列1に培地(10% FBSを含むDMEM培地)のみを加えた。播種後、24時間インキュベートした。
24ウェルプレートの10個の各ウェルに、300μLの培地を加えた。薬物溶液100μLを24ウェルプレートのウェル1Aに加え、ピペッティング(10回程度)で撹拌した後、そこから100μLをウェル2Bへ移し、同様に撹拌した。同様の操作を10回繰り返し、10種類の濃度の薬物溶液を調整した。
上記で調整した薬物溶液を、癌細胞を播種した96ウェルプレートの列3から列12までミセル濃度の高い順に50μLずつ加えた。列1と2には、培地のみを50μL加えた。その後、48時間インキュベートした。
48時間後に、cell-counting kit-8溶液(DOJINDO)を各ウェルに10μLずつ添加した。再びインキュベーターし、30分後、1時間後、及び2時間後に、450nmの吸光度を測定した。
【0156】
結果を
図15に示す。Gefenitib、Afatinib、及びOsimetinibは、現在FDAに認可されている肺癌の分子標的治療薬である。
図15の結果から、K252a類(特に、K252a、K252a-H、及びK252a-H結合脂肪族ポリマーミセル)は、既存の肺癌治療薬耐性の肺癌に対して、高い細胞傷害活性を示すことが示された。
【0157】
図15のPC14株とPC14・PE6株とを抽出したものを
図16に示す。PC14・PE6株は、PC14株をマウスの尾静脈に投与し、胸腔内に転移した癌細胞を樹立する作業を6回行った癌細胞株である(Yano et al., Oncology Research 9:573-579 (1997))。そのため、PC14・PE6株は、極めて転移能が高く、悪性化した癌細胞株である。
図15及び
図16に示すように、PC14株に対しては、Gefenitib、Afatinib、及びOsimetinibは高い細胞傷害活性を示した。しかし、悪性化したPC14・PE6株に対しては、これらの既存の分子標的薬は、細胞傷害活性が著しく低下した。一方、K252a類(特に、K252a-H及びK252a-H結合脂肪族ポリマーミセル)では、PC14・PE6株に対する細胞傷害活性の方が高くなった。これらの結果は、K252a類は、悪性化した転移癌に対して、より有効であることが示している。なお、K252a-H結合芳香族ポリマーミセルとK252a-H結合脂肪族ポリマーミセルとでは、K252a-H結合脂肪族ポリマーミセルの方が癌細胞に対する細胞傷害活性が高い傾向にあった。
【0158】
[実施例7]K252a類の膵癌細胞に対する細胞毒性試験
各種膵癌細胞株を用いて、上記と同様に、K252a類の細胞毒性試験を行った。結果を
図17に示す。BXPC3-F3株は、マウスへの同所移植後、肝転移した癌細胞株を樹立することを3回繰り返して悪性化させた転移株である。また、KP-3Lは、ヒト肝転移膵臓癌をヌードマウスの脾臓に移植後、肝転移した癌細胞株を樹立した転移株である(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 JCRB細胞バンクより入手)。また、Gemcitabine及びErlotinibは、現在認可されている膵癌治療薬である。
図17に示すように、K252a類は、Gemcitabine及びErlotinibの効果が低いK-ras変異株及び悪性化転移株に対して、有効であることが確認された。なお、K252a-H結合芳香族ポリマーミセルとK252a-H結合脂肪族ポリマーミセルとでは、K252a-H結合脂肪族ポリマーミセルの方が癌細胞に対する細胞傷害活性が高い傾向にあった。
【0159】
[実施例8]K252a類の頭頸部癌細胞に対する細胞毒性試験
各種頭頚部癌細胞株を用いて、上記と同様に、K252a類の細胞毒性試験を行った。結果を
図18に示す。なお、CDDPは、頭頸部癌の標準治療薬であるシスプラチンを示す。SAS株、FaDu株、HSC2株はいずれもシスプラチン耐性の細胞株である。
図18に示すように、K252a類は、いずれの頭頸部癌細胞株に対しても、シスプラチン及びErlotinibよりも高い細胞傷害活性を示した。特に、FaDu株では、K252a-H結合脂肪族ポリマーミセルの細胞傷害活性が高かった。この結果は、K252a類が、シスプラチン耐性株に対して、有効性があることを示す。
【0160】
[実施例9]K252a類の中皮腫細胞に対する細胞毒性試験
中皮腫細胞株MSTO-211Hを用いて、上記と同様に、K252a類の細胞毒性試験を行った。結果を
図19に示す。なお、CDDPはシスプラチンを示し、中皮腫の標準治療薬である。Pemetrexedも中皮腫の標準治療薬である。
図19に示すように、K252a類は、シスプラチン、Pemetrexed及びMidostaurinよりも高い細胞傷害活性を示した。
【0161】
[実施例10]K252a-Hのホットスポットキナーゼプロファイリング
Rection Biology社に委託して、Monthly 202 mutant kinase panelを用いて、K252a-Hのキナーゼプロファイリングを行った。キナーゼアッセイの条件は、以下の通りである。K252aは、DMSOに溶解し、100nMでアッセイを行った。
バッファー条件:20mM HEPES、pH7.5、10mM MgCl2、1mM EGTA、(適用可能であれば、2mM MnCl2)
ATP濃度:10μM
反応時間:2時間
【0162】
参考として、第1世代、第2世代、及び第3世代のチロシンキナーゼ阻害剤(tyrosine kinase inhibitor:TKI)と、その耐性変異を
図20及び
図21に示す。
図20及び
図21に示されるように、第1~第3世代TKIは、C797S変異に有効ではないため、C797S変異に有効なTKIが求められている。
【0163】
EGFR変異に対するK252a-Hのキナーゼアッセイ結果を
図22に示す。
図22に示すように、K252a-Hは、多くのTKIが有効性を示さないゲートキーパー変異(d746-750/T790M、d746-750/T790M/C797S、L858R,T790Mなど)に対して、特異的に高い活性を示した。
図23A~Cに、K252a-Hのキナーゼプロファイリングの結果を示す。
図24に、K252a-Hに対するキナーゼプロファイリングの結果、キナーゼ活性が30%以下に抑制された突然変異キナーゼの一覧を示す。K252a-Hは、癌遺伝子であるc-kit/Flt3/RETの強力な阻害剤であることが確認された。
【0164】
[実施例11]K252a-H及びスタウロスポリンのキナーゼプロファイリング
Rection Biology社に委託して、K252a-H及びスタウロスポリンのキナーゼプロファイリングを行った。キナーゼアッセイにおけるK252a又はスタウロスポリンの濃度は、指定した各濃度で行った。キナーゼパネルには、Monthly wild type kinase pannel又はMonthly Mutant kinase pannelを用いた。アッセイは、各濃度でduplicateで行った。試験した各薬物濃度のキナーゼ活性及びIC50のデータを取得し、duplicateで3回行うことによりN=6で平均値をもとめた。各薬物濃度のキナーゼ活性を活性阻害率(%)に変換し、Prism7により解析してグラフ化した。
【0165】
Monthly Mutant kinase pannelを用いたキナーゼプロファイリング結果を
図25~34に示す。
図25~32中、実線で囲んだキナーゼは、薬剤耐性に関与する変異を有し、試験した薬剤による阻害活性が高いものを示す。これらの変異を表2にまとめた。スタウロスポリン及びK252aは、表2に記載の変異を有するキナーゼの阻害活性が高いことが示された。また、EGFRのオシメルチニブ耐性の3重変異(d746-750/T790M/C797S,L858R/T790M/C797S)に対して、高い阻害効果を有することが示された。また、HER2のゲートキーパー変異(T798I)を有するキナーゼは、アッセイに用いたキナーゼパネルにはなかったが、HER2はEGFRのホモログであるため、EGFRのゲートキーパー変異と同じくスタウロスポリン及びK252aによる阻害効果が高いと予想される。
図33は、500nMのK252a-Hによるキナーゼプロファイリングの結果を示す。
図34は、20nMのスタウロスポリンによるキナーゼプロファイリングの結果を示す。
【0166】
【0167】
Monthly wild type kinase pannelを用いたキナーゼプロファイリングの結果から、各wild typeキナーゼに対するK252a-HのIC50を求めた。その結果、K252a-HのIC50が5nM以下であったキナーゼを表3に示す。表3中、下線で示すキナーゼは、薬剤耐性に関与するとされるキナーゼである。
【0168】
【0169】
Monthly wild type kinase pannelを用いたキナーゼプロファイリングの結果から、各wild typeキナーゼに対するスタウロスポリンのIC50を求めた。その結果、スタウロスポリンのIC50が0.2nM以下であったキナーゼを
図35に示す。
図35中、下線で示すキナーゼは、癌(特に薬剤耐性癌)の治療標的として重要とされるキナーゼである。スタウロスポリンは、CaMK2a、CaMK2b、JAK3、ROS1、RSK4、STK22、TRKBに対しするIC50が0.1nM以下であり、特に高い阻害効果を示した。これらの結果は、低濃度のスタウロスポリンが、これらのキナーゼを発現するがんに対して、特異性が高いことを示している。
【0170】
[実施例12]K252a-H及びスタウロスポリンのがん細胞に対する細胞毒性
(細胞株)
PC14、A549、H358、H2228、PancI、Mia-Paca2、SAS、FaDU、及びHSC2は、ATCCより購入した。H460、NCI-1650、H1975、H520、BxPC3、KP3L、及びAsPC-1は、JCRB細胞バンクより購入した。
PC14-PE6は、PC14をマウスに尾静脈投与し、胸腔内へ転移した細胞を樹立する作業を6回行った極めて転移能の高い、悪性化した細胞株(Yano et al , Oncology Research 9:573-579 (1997))を用いた。PC14-PE6に対して、さらに、Cignal Lenti positive control(Luc)(Qiagen)をtransductionし、クローニングを行い、PC14-PE6-Lucを作製した。
BxPC3 F3は、BxPC3を悪性化させた肝転移株である。BxPC3 F3は、マウスの膵臓にBxPC3を同所移植後、肝転移した細胞を肝臓からトリプシン処理によって、細胞株化を樹立し、その作業(細胞株樹立)を3回繰り返すことにより作製した。
【0171】
(抗癌剤)
抗癌剤(Gefetinib、Afetinib、Osimertinib、Gemicitabine、Cisplatin、Erlotinib、Pemetrexed、Midostaurin)は、フナコシより購入した。
【0172】
(細胞毒性の測定方法)
試験薬剤の細胞毒性は、cell counting kit8(DOJINDO,JAPAN)を用いて、以下の方法で測定した。1~3×103cell/ウェルで癌細胞株を播種した。翌日、培地を交換し、50μLの培地を加えた。さらに、試験薬剤の希釈シリーズを作製し、50μLをウェルに添加して攪拌した。72時間後、10μLのcell counting kit 8を加え、1時間経過後、マイクロプレートリーダー(TECAN)で450nmの吸光度を測定した。測定した吸光度に基づき、下記の式(1)により、試験薬剤毎に各希釈率における細胞生存率を算出した。前記算出された細胞生存率に基づき、試験薬剤のIC50を算出した。
【0173】
【0174】
(非小細胞肺癌)
非小細胞肺癌細胞株に対する細胞毒性試験の結果を
図36に示す。各細胞株の特徴は、上記表1に示すとおりである。公知の肺癌治療薬(Gefetinib、Afatinib、Osimertinib、Dasatinib)は、PC14に対して高い細胞毒性を示したが、Gefetinib、Afatinib、及びOsimertinibは、PC14の悪性転移株であるPC14 PE6に対しては、細胞毒性が低かった。
一方、スタウロスポリン、K252a、及びK252a-Hは、PC14よりもPC14 PE6に対して、より高い効果を示した。
PC14は、公知の肺癌治療薬(Gefetinib、Afatinib、Osimertinib、Dasatinib)
に対して感受性を示したが、PC14 PE6、A549、H358、NCI1650、及びH520は、公知の肺癌治療薬薬全てに耐性であった。一方、スタウロスポリン、K252a、及びK252a-Hは、これらの肺癌治療薬耐性株に対しても高い細胞毒性を示した。
【0175】
(膵臓癌)
膵臓癌細胞株に対する細胞毒性試験の結果を
図37に示す。
図37中、BxPC3 F3は、BxPC3の悪性化肝転移株である。KP-3Lは、ヒトの肝転移膵臓癌をヌードマウス脾臓に移植後、マウス肝臓に転移した転移株である。膵臓癌の標準治療薬(Gemicitabine、Erlotinib)は、BxPC3に対して高い細胞毒性を示したが、BxPC3 F3及びKP3Lに対しては、細胞毒性が低かった。
一方、スタウロスポリン、K252a、及びK252a-Hは、これらの膵臓癌治療薬耐性株に対しても高い細胞毒性を示した。
【0176】
(頭頸部癌)
膵臓癌細胞株に対する細胞毒性試験の結果を
図38に示す。
図38中、「CDDP」は、シスプラチンを表す。いずれの細胞株においても、スタウロスポリン、K252a、及びK252a-Hは、公知の頭頸部癌治療薬(Midostaurin、シスプラチン、Erlotinib、Gefetinib)よりも高い細胞毒性を示した。特に、Midostaurin耐性株であるSASに対しても、スタウロスポリン、K252a、及びK252a-Hは、高い細胞毒性を示した。
【0177】
(悪性中皮腫)
悪性中皮腫細胞株に対する細胞毒性試験の結果を
図39に示す。
図39中、「CDDP」は、シスプラチンを表す。スタウロスポリン、K252a、及びK252a-Hは、公知の悪性中皮腫治療薬(Midostaurin、シスプラチン、Pemetrexed)よりも高い細胞毒性を示した。
【0178】
[実施例13]K252a-Hのin vivo抗腫瘍活性
(非小細胞肺癌)
Balb/cヌードマウスにイソフルラン麻酔を行い、5x105 cells/20%マトリゲル 50μLの非小細胞肺癌細胞株(PC14 PE6-luc:PC14 PE6にルシフェラーゼ遺伝子を導入した細胞)を、直接、前記マウスの肺に注入した。注射針の先端から5mmの位置に目印をつけ、肋骨の3~4番目の位置から肺の下葉に向かって、前記目印まで注射針を差し込み、非小細胞肺癌細胞株の20%マトリゲル懸濁液50μLを、直接、肺に細胞を注射した。このようにして、ヒト非小細胞肺癌同所移植モデルマウスを作製した。
癌細胞注入の5日後から、ヒト非小細胞肺癌同所移植モデルマウスに、1mg/体重kgの投与量で、週に2回、薬剤を尾静脈注投与した。週2回、イソフルラン麻酔下で、IVISスペクトル(Xwnogen Corporation)を用いて、腫瘍の成長をモニタリングし、薬剤の抗腫瘍効果を評価した。腫瘍の大きさ及び生存日数の統計処理は、Prism7を使用して行った。試験薬剤には、K252a―H、及びK252a-H結合脂肪族ポリマーミセル(実施例3で調製)を用いた。陰性対照としてPBSを用いた。
【0179】
結果を
図40及び
図41に示す。
図40は腫瘍の成長を示し、
図41はマウスのカプランマイヤー法による生存曲線を示す。K252a-H結合脂肪族ポリマーミセルを投与した場合、PBSを投与した場合と比較して、腫瘍の成長が有意に抑制され、生存期間も有意に延長した。K252a-Hを投与した場合、PBSを投与した場合と比較して、生存期間が延長する傾向があった。これらの結果から、K252a類(特に、K252a-H結合脂肪族ポリマーミセル)が、オシメルチニブ耐性肺癌に対して、in vivoでも抗腫瘍効果を示すことが確認された。
【0180】
(膵臓癌:同所移植モデルマウスを用いた試験)
癌細胞株としてBxPC3 F3-luc(BxPC3 F3にルシフェラーゼ遺伝子を導入した細胞)を用い、癌細胞株を膵臓に調節注入したこと以外は、上記「(非小細胞肺癌)」で記載した方法と同様の方法で、ヒト膵癌同所移植モデルマウスを作製した。
上記のように作製したヒト膵癌同所移植モデルマウスに、薬剤の種類と薬剤の投与量以外は、上記「(非小細胞肺癌)」で記載した方法と同様の方法で、薬剤の投与を行った。薬剤として、K252a-H、K252a-H結合脂肪族ポリマーミセル、K252a-H結合芳香族ポリマーミセル(実施例3で調製)、及びゲムシタビンを用いた。陰性対照としてPBSを用いた。各薬剤の1回あたりの投与量は、K252a-H、K252a-H結合脂肪族ポリマーミセル、及びK252a-H結合芳香族ポリマーミセルについては、3mg/体重kgとし、ゲムシタビンについては、5mg/体重kgとした。
【0181】
結果を
図42に示す。ゲムシタビンを投与した場合には、PBSを投与した場合と同様に腫瘍が成長した。一方、K252a類(K252a-H、K252a-H結合脂肪族ポリマーミセル、K252a-H結合芳香族ポリマーミセル)を投与した場合には、PBSを投与した場合と比較して、腫瘍の成長が抑制された。特に、K252a-H結合脂肪族ポリマーミセルを投与した場合には、腫瘍の成長が有意に抑制された。これらの結果から、K252a類(特に、K252a-H結合脂肪族ポリマーミセル)が、ゲムシタビン耐性膵臓癌に対して、in vivoでも抗腫瘍効果を示すことが確認された。
【0182】
(膵臓癌:膵癌自然発症マウスを用いた試験)
膵癌を自然発症するトランスジェニックマウス(Capiler corp)を購入し、膵癌自然発症モデルマウス(EL-1-luc/TAg)を作製した(Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Jul 9; 110(28): 11397-11402.)。膵癌が発生する13~15週令から、薬剤の投与を開始した。薬剤の投与方法は、「(非小細胞肺癌)」で記載した方法と同様とした。薬剤として、K252a-H結合脂肪族ポリマーミセル及びK252a-H結合芳香族ポリマーミセルを用いた。陰性対照としてPBSを用いた。各薬剤の1回あたりの投与量は、1mg/体重kgとした。
【0183】
図43は、自然発症膵癌EL1-luc/TAg細胞をマウス膵臓より取りだし、細胞株化したものに対するスタウロスポリン及びK252a類のIC50を示す。IC50は、実施例12に記載の方法と同様の方法で算出した。
図43に示すように、EL-1/TAgは、ゲムシタビン及びエルロチニブに耐性を有する。一方、EL-1/TAgは、スタウロスポリン及びK252a類に対して感受性であった。
【0184】
図44及び
図45は、膵癌自然発症モデルマウスを用いた抗腫瘍効果評価試験の結果を示す図である。
図44は腫瘍の成長を示し、
図45はマウスのカプランマイヤー法による生存曲線を示す。K252a-H結合脂肪族ポリマーミセル及びK252a-H結合脂肪族ポリマーミセルのいずれを投与した場合も、PBSを投与した場合と比較して、腫瘍の成長が有意に抑制された。K252a-H結合脂肪族ポリマーミセルを投与した場合は、PBSを投与した場合と比較して、生存期間が有意に延長した。K252a-H結合芳香族ポリマーミセルを投与した場合も、PBSを投与した場合と比較して、生存期間が延長する傾向があった。これらの結果から、K252a類(特に、K252a-H結合脂肪族ポリマーミセル)が、ゲムシタビン及びエルロチニブ耐性膵癌に対して、in vivoでも抗腫瘍効果を示すことが確認された。
【0185】
[実施例14]K252a類のリンパ腫に対する細胞毒性
実施例12に記載した方法と同様の方法で、リンパ腫細胞株に対するK252a類のIC50を算出した。
結果を
図46に示す。リンパ腫細胞株に対しても、K252a類(特に、K252a、K252a-H、K252a―H結合脂肪族ポリマーミセル)は、高い細胞毒性を示した。
【0186】
[実施例15]ABCトランスポーター(MDR-1)の薬剤排出阻害効果
ヒト腎癌細胞株である780-0は、MDR-1(ABCB-1,p-gp)を高発現している細胞株である(データは示さず)。そこで、780-0を用いて、MDR-1の薬剤排出活性に対するスタウロスポリン及びK252a類の影響を評価した。
薬剤排出活性の評価は、eFluxx-IDTM Green Multidrug Resistance Assay kit(Enzo Life Science)を用いて行った。780-0細胞をウェルプレートで培養後、トリプシン・EDTA溶液を加えてインキュベートし、細胞をウェルから剥がした。剥がした細胞を回収して培地で洗浄した後、1x106cell/mLの濃度で細胞を培地に懸濁して、細胞懸濁液を得た。細胞懸濁液を37℃で10分間以上予備加温しておき、250μLの細胞懸濁液(2.5x105 cell)に対して、希釈系列の薬剤を添加した。
薬剤として、スタウロスポリン、K252a、K252a-H、及びスニチニブを用いた。陽性対照としてMDR-1阻害剤であるベラパミル(終濃度30μM)を用いた。
薬剤添加後、eFluxx-IDTM Green検出試薬を加えて、37℃で30分間インキュベートし、終濃度0.5μg/mLのDAPIを加えて、フローサイトメーター(BD,Cell Analyzer LSRFortessa X-20)で解析した。フローサイトメータによる解析結果から、eFluxx-GFPの排出量が半分になる薬剤濃度としてLD50を算出した。
【0187】
結果を
図47に示す。スタウロスポリン、K252a、及びK252a-Hは、最もよく用いられるMDR-1阻害剤であるベラパミルよりもLD50が低く、MDR-1阻害効果が高いことが確認された。
【0188】
[実施例16]ヒトα1-AGPの影響
ヒト血清蛋白質であるヒトα1-AGP(acid glycoprotein)の影響を評価するため、ヒトα1-AGP(以下、「hAGP」とも記載する。)の存在下で、K252a-H及びK252a-H結合脂肪族ポリマーミセルの細胞属性を評価した。
細胞毒性の評価は、cell counting kit8(DOJINDO,JAPAN)を用いて行った。1~3×103cell/ウェルで、肺癌細胞株であるH460をウェルに播種し、培養を行った。翌日、培地を交換し、終濃度0.5mg/mLとなるようにhAGPを加えた。対照として、hAGPを含まない培地を50μL加えたものも用意した。次いで、1μMとなるように薬剤(K252a-H又はK252a-H結合脂肪族ポリマーミセル)を添加した。48時間後、10μLのcell counting kit 8を加えた。1時間経過後、マイクロプレートリーダー(TECAN)で450nmの吸光度を測定した。測定した吸光度に基づき、上記式(1)により、細胞生存率を算出した。
【0189】
結果を
図48に示す。K252a-H結合脂肪族ポリマーミセルでは、hAGP存在下でも細胞生存率が低く維持されていた。この結果より、K252a-H結合脂肪族ポリマーミセルでは、K252aと比較してhAGPに対する親和性が低くなり、hAGPによる不活性化を回避して、癌細胞に対する細胞毒性を維持することが確認された。
【0190】
[実施例17]スタウロスポリン内包ミセルの調製
スタウロスポリン内包ミセルを調製するため、スタウロスポリンに下記式(L1)で表されるリンカー試薬(L1)を結合させた。リンカー結合反応のスキームを
図49に示す。
図49中、「DIC」は、ジイソプロピルカルボジイミドを表す。
図49中の活性化エステルとしては、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)、ペンタフルオロフェノール、p-ニトロフェノール等から誘導される活性エステルが挙げられる。
【0191】
【0192】
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中で、上記結合反応を行い、反応終了後、分液により水溶成分を除去した。薄層クロマトグラフィーにより、スタウロスポリンの完全な消費と新フラクションの生成を確認した。有機相成分の1H NMR解析結果を
図50に示す。芳香族成分の増加と、エステル成分(~4.0 ppm)の出現により、スタウロスポリンにリンカーが結合していることが示唆された。
【0193】
活性エステルリンカーを結合したスタウロスポリンは、ポリエチレングリコール(PEG)等のポリマーに結合させて、ポリマーとの薬物複合体を形成させることができる。
図51上図は、リンカーを介して、スタウロスポリンに、ポリエチレングリコールを結合させる反応である。
図51下図は、リンカーを介して、スタウロスポリンにPEG-ポリアミノ酸ブロックコポリマーを結合させる反応である。(
図51下図)。
【0194】
ポリマー-リンカー-スタウロスポリン複合体は、細胞内で、グルタチオントランスフェラーゼ(GST)によりグルタチオン(GSH)と反応し、スタウロスポリンが放出される。下記に、PEG-リンカー-スタウロスポリン複合体から、グルタチオントランスフェラーゼ(GST)により、スタウロスポリンが放出される反応を示す。
【0195】
【0196】
スタウロスポリンに、リンカー試薬(L1)を反応させて得られた化合物(S’L1)は、実施例1と同様に、無水メタノール溶媒下で、無水ヒドラジンと反応させることにより、ヒドラジド基を導入することができる(化合物(S’L1-H))。当該スキームを下記に示す。
【0197】
【0198】
さらに、実施例2と同様に、化合物(S’L1-H)を、ポリマー合成例1~5で合成したポリマーに結合させることができる。化合物(S’L1-H)を、芳香族アルデヒド基含有ポリマーに結合させた薬物複合体を下記に例示する。下記式において、結合(I)は、pHは、pH感受性の結合を表す。結合(II)は、GST存在下でGSHと反応するGSH感受性の結合を表す。
【0199】
【0200】
化合物(S’L1-H)を、脂肪族ケトン基含有ポリマーに結合させた薬物複合体を下記に例示する。
【0201】
【0202】
上記結合(I)及び結合(II)を含む薬物複合体を生体に投与すると、まず、腫瘍組織周辺の低pH環境下で、結合(I)が切断され、化合物(S’L1-H)が放出される。次に、化合物(S’L1-H)が腫瘍細胞内に取り込まれ、GSTによりGSHと反応して、結合(II)が切断され、スタウロスポリンが生じる。当該スタウロスポリンにより、腫瘍細胞が殺傷される。