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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】有機よう素捕集装置
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/02 20060101AFI20230209BHJP
   G21C 9/004 20060101ALI20230209BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G21F9/02 521A
G21C9/004 100
B01D53/14 210
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018132298
(22)【出願日】2018-07-12
(65)【公開番号】P2020008517
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 宗平
(72)【発明者】
【氏名】田中 基
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢彰
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 文夫
(72)【発明者】
【氏名】橋本 義大
(72)【発明者】
【氏名】富永 和生
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-223535(JP,A)
【文献】特開2017-223563(JP,A)
【文献】特開2012-127716(JP,A)
【文献】国際公開第2016/045980(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/02
G21C 9/004
B01D 53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機よう素を捕集する有機よう素捕集装置であって、
有機よう素を含む流体が通される容器を備え、
前記容器内に、有機よう素を溶解する第1液体と、有機よう素を分解する第2液体と、からなる多層液体が保持され、
前記第1液体と前記第2液体は、互いに相分離する液体の組み合わせからなり、
前記第1液体は、親水性物質からなる液体であり、
前記第2液体は、疎水性物質からなる液体であり、
前記親水性物質及び前記疎水性物質は、イオン液体、又は、界面活性剤溶液である有機よう素捕集装置。
【請求項2】
有機よう素を捕集する有機よう素捕集装置であって、
有機よう素を含む流体が通される容器を備え、
前記容器内に、有機よう素を溶解する第1液体と、有機よう素を分解する第2液体と、からなる多層液体が保持され、
前記第1液体と前記第2液体は、互いに相分離する液体の組み合わせからなり、
前記第1液体は、疎水性物質からなる液体であり、
前記第2液体は、前記第1液体とは比重が異なる疎水性物質からなる液体であり、
前記疎水性物質は、イオン液体、又は、界面活性剤溶液である有機よう素捕集装置。
【請求項3】
有機よう素を捕集する有機よう素捕集装置であって、
有機よう素を含む流体が通される容器を備え、
前記容器内に、有機よう素を溶解する第1液体と、有機よう素を分解する第2液体と、からなる多層液体が保持され、
前記第1液体と前記第2液体は、互いに相分離する液体の組み合わせからなり、
前記第1液体は、親水性物質からなる液体と疎水性物質からなる液体との組み合わせであり、
前記第2液体は、前記第1液体とは比重が異なる疎水性物質からなる液体であり、
前記親水性物質及び前記疎水性物質は、イオン液体、又は、界面活性剤溶液である有機よう素捕集装置。
【請求項4】
有機よう素を捕集する有機よう素捕集装置であって、
有機よう素を含む流体が通される容器を備え、
前記容器内に、有機よう素を溶解する第1液体と、有機よう素を分解する第2液体と、からなる多層液体が保持され、
前記第1液体と前記第2液体は、互いに相分離する液体の組み合わせからなり、

前記第1液体は、親水性物質からなる液体であり、
前記第2液体は、互いに比重が異なる疎水性物質からなる液体の組み合わせであり、
前記親水性物質及び前記疎水性物質は、イオン液体、又は、界面活性剤溶液である有機よう素捕集装置。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の有機よう素捕集装置において、
前記容器内に保持される液体は、相分離により形成される最上層が前記第2液体である有機よう素捕集装置。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の有機よう素捕集装置において、
液体を貯蔵するための保管容器と、
前記保管容器と前記容器との間を接続する注入管と、を更に備え、
前記第1液体及び前記第2液体は、前記流体が前記容器に通されるとき、前記保管容器から前記容器内に注入されて保持される有機よう素捕集装置。
【請求項7】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の有機よう素捕集装置において、
前記流体は、原子炉内で発生した蒸気であり、
前記容器は、放射性物質を除去するためのフィルタベント容器である有機よう素捕集装置。
【請求項8】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の有機よう素捕集装置において、
前記流体は、原子炉内で発生した蒸気であり、
前記容器は、原子炉のウェットウェルである有機よう素捕集装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉から放出される放射性有機よう素をはじめ、蒸気等の流体中に含まれる有機よう素を捕集する有機よう素捕集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉施設には、原子炉から放出された放射性物質が環境中に漏洩するのを防止するために、フィルタベント装置が設置されている。原子炉の事故で炉心が損傷したり、格納容器内の圧力が異常上昇したりすると、格納容器が破損して大規模漏洩に至るため、格納容器内の蒸気が未然にベントされる。高温・高圧の蒸気は、原子炉から格納容器内に放出されると、フィルタベント装置に通され、大気中に放出される前に主要な放射性物質を除去される。
【0003】
原子炉の事故時に発生する放射性物質としては、希ガス、エアロゾル、無機よう素、有機よう素等がある。フィルタベント装置によると、希ガスを除くこれらの放射性物質が容器内に捕集され、環境への放出が防止される。一般に、フィルタベント装置は、特許文献1に記載されるように、湿式フィルタとしての水(スクラビング水)を容器内に保持している。また、乾式フィルタとしての金属フィルタを容器内に内蔵している。
【0004】
スクラビング水は、チオ硫酸ナトリウムと水酸化ナトリウム等を溶解した水溶液であり、ベントされた蒸気は、スクラビング水中に放出される。チオ硫酸ナトリウムとの反応でイオン化した無機よう素(元素状よう素)や、エアロゾルを形成する親水性の粒子は、スクラビング水に溶解することで捕集される。また、気相に放出されたエアロゾルは、金属フィルタに付着・衝突して捕集される。有機よう素は、特許文献2に記載されるように、銀ゼオライトや活性炭等の乾式フィルタで捕集されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2015-522161号公報
【文献】特開平7-209488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
原子炉から放出される有機よう素は、よう化メチルをはじめとして、水に難溶であり、ベント時に圧力抑制室のプール水やスクラビング水に導入されても、十分には溶解しない。また、よう化メチル等の有機よう素は、原子炉からの排気過程で、元素状よう素の反応によって新生することもある。これらの理由で有機よう素は漏洩を阻止するのが難しい放射性物質となるため、有機よう素を高い捕集効率で捕集できるフィルタベント装置が求められている。
【0007】
有機よう素を捕集するための捕集材としては、銀ゼオライトや活性炭が知られている(特許文献2参照)。しかし、これらの捕集材は、水分が付着した場合に捕集効率が低下するため、特許文献2のように湿分を除去する機構を必要とし、フィルタベント装置の装置構造を複雑化させる。また、これらの捕集材は大量に必要なため、特許文献2のように、特別な装置設計や複雑な装置構造を要したり、捕集材自体のコストが嵩んだりすることも課題となる。
【0008】
そこで、本発明は、有機よう素を簡易な構造で効率的に捕集可能な有機よう素捕集装置を提供することを目的とする。
【0009】
前記課題を解決するために本発明に係る有機よう素捕集装置は、有機よう素を含む流体が通される容器を備え、前記容器内に、有機よう素を溶解する第1液体と、有機よう素を分解する第2液体と、からなる多層液体が保持され、前記第1液体は、親水性物質からなる液体、疎水性物質からなる液体であり、前記第2液体は、疎水性物質からなる液体であり、前記親水性物質及び前記疎水性物質は、イオン液体、又は、界面活性剤溶液である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、有機よう素を簡易な構造で効率的に捕集可能な有機よう素捕集装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る有機よう素捕集装置の一例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明に係る有機よう素捕集装置の一例を模式的に示す断面図である。
図3】本発明に係る有機よう素捕集装置の一例を模式的に示す断面図である。
図4】本発明に係る有機よう素捕集装置の一例を模式的に示す断面図である。
図5】本発明に係る有機よう素捕集装置の一例を模式的に示す断面図である。
図6】本発明に係る有機よう素捕集装置の一例を模式的に示す断面図である。
図7】本発明に係る有機よう素捕集装置の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る有機よう素捕集装置について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0013】
本実施形態に係る有機よう素捕集装置は、有機よう素を含むガス(流体)が通される容器を備える。容器内には、有機よう素を溶解する溶解用液体(第1液体)と、有機よう素を分解する分解用液体(第2液体)と、が少なくとも保持される。この有機よう素捕集装置は、ガス中の有機よう素や、有機よう素を分解して解離させたよう素イオンを、溶解用液体と分解用液体とを湿式フィルタとして用いて容器内に捕集する。
【0014】
溶解用液体(第1液体)としては、有機よう素を易溶するイオン液体、界面活性剤溶液、これらの混合液等を用いることができる。有機よう素は、水やスクラビング水に難溶である。また、銀ゼオライト、活性炭等の捕集材は、容積当たりの捕集効率が低く、大量に必要であり、水分の混入によっても捕集効率が低下する。これに対し、イオン液体等の溶解用液体に、有機よう素を含むガスを通すと、有機よう素が容易に溶解し、有機よう素が液相から揮発し難くなるため、高い捕集効率で捕集することができる。
【0015】
分解用液体(第2液体)としては、有機よう素を分解する作用を示すイオン液体、界面活性剤溶液、これらの混合液等を用いることができる。このような作用を示す分解用液体としては、一般的な化学薬品としてルイス酸性が強い液体が挙げられる。このような液体は、通常、有極性の非水系液体であり、有機よう素を易溶する作用も有している。このような分解用液体に、有機よう素を含むガスを通すと、有機よう素が分解してよう素イオンとして解離する。よう素イオンは、有機よう素と比較して、液相中でより安定なため、溶解による捕集効率を高めることができる。
【0016】
溶解用液体や分解用液体としては、特に、イオン液体が好ましく用いられる。原子炉の事故時には、フィルタベント装置に160℃前後の高温の蒸気が流入すると想定されている。イオン液体によると、160℃以下で実質的に揮発しない不揮発性、160℃前後の高温に耐える耐熱性、高い耐放射線性、高い化学的安定性、高い電気的安定性等が得られる。また、極性分子や非極性分子との相溶性の制御や、液体同士の比重の制御を、多種多様なイオンの組み合わせに基づいて容易に行うことができる。
【0017】
イオン液体を構成するカチオンとしては、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム、ピロリジニウム、ピぺリジニウム等の有機カチオンが挙げられる。
【0018】
また、イオン液体を構成するアニオンとしては、例えば、ハロゲン、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート等の無機アニオンや、アセテート、スルホネート、イミデート等の有機アニオンが挙げられる。アニオンとしては、熱分解や加水分解を起こし難い点、併用されることがあるスクラビング水のpHを変化させ難い点等から、ハロゲン、イミデート又はテトラフルオロボレートがより好ましい。
【0019】
溶解用液体として用いるイオン液体としては、特に、ルイス酸性が強いカチオンとルイス塩基性が強いアニオンとの組み合わせからなる種類が好ましい。このようなイオン液体を溶解用液体として用いると、有機よう素の溶解度がより高くなると共に、有機よう素が液相中の相互作用でより安定になる。そのため、溶解による捕集効率をより高めて、揮発による環境への放出を阻止することができる。
【0020】
分解用液体として用いるイオン液体としては、一般的な化学薬品としてルイス酸性が強い有機カチオンで構成される種類が特に好ましい。このようなイオン液体としては、ホスホニウム、アンモニウム、ピロリジニウム、ピぺリジニウム等の有機カチオンで構成される種類が挙げられる。有機カチオンは、鎖状の炭素鎖を有する種類や、環状の炭素鎖を有する種類等のいずれであってもよいが、炭素数が6以上の炭素鎖を有する種類が好ましい。このようなイオン液体を分解用液体として用いると、分解の反応速度がより高くなる。そのため、分解用液体に接触した有機よう素を確実にイオン化して液相に溶解させることができる。
【0021】
溶解用液体及び分解用液体のそれぞれは、15~25℃の常温、且つ、大気圧と同等の常圧下において互いに相分離する液体の組み合わせで構成されることが好ましい。このような組み合わせであると、溶解用液体と分解用液体とが二相に分かれて容器内に保持される。そのため、単一相として存在する分解用液体が、有機よう素を高い反応速度(反応率)で分解することができる。溶解用液体及び分解用液体のそれぞれは、160℃以上の高温、且つ、大気圧を超える高圧下においても互いに相分離することがより好ましい。
【0022】
以下、有機よう素捕集装置を原子炉施設に適用し、原子炉で発生した有機よう素を捕集する形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明に係る有機よう素捕集装置の一例を模式的に示す断面図である。
図1には、有機よう素捕集装置を原子炉施設のフィルタベント装置に適用し、原子炉から放出された蒸気(流体)に含まれる有機よう素をフィルタベント容器に捕集する例を示す。
【0024】
図1に示すように、本実施形態に係るフィルタベント装置(有機よう素捕集装置)100は、フィルタベント容器1と、入口配管7と、金属フィルタ8と、出口配管9と、排気筒10と、を備えている。フィルタベント装置100は、ドライウェルベント配管3、ウェットウェルベント配管4と入口配管7を介して、原子炉格納容器2と管路で接続されている。
【0025】
原子炉格納容器2は、原子炉圧力容器が収納されたドライウェル21と、圧力抑制プールが形成されたウェットウェル22と、を有している。ウェットウェル22は、ドライウェル21中の蒸気や、主蒸気系から過圧で逃された蒸気が、不図示のベント管を介して流入するようになっている。
【0026】
ドライウェル21には、ドライウェル21のガスのベントに使用するドライウェルベント配管3の一端が接続している。ドライウェルベント配管3には、常閉型の隔離弁5が設けられている。ドライウェルベント配管3の他端は、入口配管7に接続している。
【0027】
また、ウェットウェル22には、ウェットウェル22のガスのベントに使用するウェットウェルベント配管4の一端が接続している。ウェットウェルベント配管4には、常閉型の隔離弁6が設けられている。ウェットウェルベント配管4の他端は、入口配管7に接続している。
【0028】
入口配管7は、一端が、ドライウェルベント配管3とウェットウェル配管4に接続しており、他端が、フィルタベント容器1内の底部付近まで延びている。入口配管7の他端には、例えば、多連のベンチュリノズル等で形成される不図示のスクラバノズルが取り付けられる。スクラバノズルは、原子炉の事故時、原子炉格納容器2内に放出された高温・高圧の蒸気を、フィルタベント容器1に保持される液体中に噴出させる。
【0029】
図1に示すフィルタベント容器1の容器内には、親水性の溶解用液体(第1液体)L10と、疎水性の分解用液体(第2液体)L20と、が保持されている。溶解用液体L10及び分解用液体L20は、入口配管7の先端が冠水する高さ、且つ、容器内の上部に気相が残る高さまでフィルタベント容器1に注入されている。
【0030】
溶解用液体L10と分解用液体L20とは、互いに混じらずに、フィルタベント容器1内に多層液体(L10,L20)を形成している。親水性の溶解用液体L10は、下層を形成し、疎水性の分解用液体L20は、上層を形成している。多層液体(L10,L20)は、液体同士の相分離により形成される最上層が分解用液体L20である。
【0031】
溶解用液体L10としては、分解用液体L20よりも比重が大きい液体であって、親水性物質からなる液体、又は、親水性物質を水に溶解させた水溶液を用いることができる。液体の親水性物質としては、親水性(易水溶性)であり、常温・常圧下において液体であるイオン液体、界面活性剤溶液等を用いることができる。液体の親水性物質は、脱塩水、スクラビング水等に溶解させて用いてもよい。
【0032】
水に溶解させる親水性物質としては、親水性(易水溶性)であり、常温・常圧下において固体であるイオン液体、界面活性剤等を用いることができる。親水性物質を溶解させる水としては、脱塩水、スクラビング水等が挙げられる。スクラビング水は、水にチオ硫酸ナトリウムと水酸化ナトリウム等のアルカリとを溶解させて得られる。
【0033】
溶解用液体L10の具体例としては、常温・常圧下において液体である1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヨージドや、常温・常圧下において液体である1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロほう酸塩や、常温・常圧下において固体(融点:約40℃)である1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムヨージド等が挙げられる。
【0034】
分解用液体L20としては、溶解用液体L10よりも比重が小さい液体であって、疎水性物質からなる液体を用いることができる。疎水性物質としては、疎水性(難水溶性)であり、常温・常圧下において液体であるイオン液体、界面活性剤溶液等を用いることができる。疎水性物質としては、特に、イオン液体が好ましい。
【0035】
分解用液体L20の具体例としては、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムクロリドや、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムジシアナミド等が挙げられる。
【0036】
フィルタベント容器1は、液体中に噴出させた高温・高圧のガス(蒸気)に対して抵抗を及ぼす不図示のバッフルを備えてもよい。バッフルとしては、例えば、オリフィス状の邪魔板や、螺旋板や、金属メッシュ、パンチングメタル等の多孔板や、セラミック等の多孔質体等を容器内に設けることができる。バッフルは、容器内に保持される液体のうち、少なくとも上層が位置する高さに設けることが好ましい。
【0037】
フィルタベント容器1に流入する有機よう素は、ガス状であると推定されるが、ガス状の有機よう素の溶解及び分解は、気泡内での拡散泳動、熱泳動、ブラウン拡散、対流等で進行すると考えられる。フィルタベント容器1内にバッフルを設けると、液体中に噴出させた気泡の滞留時間が長くなり、有機よう素と液体との接触時間が長くなるため、有機よう素の捕集効率をより高めることができる。
【0038】
図1に示すように、フィルタベント容器1は、容器内の上部に金属フィルタ8を備えている。金属フィルタ8は、金属繊維、金属メッシュ等が積層されて形成される。金属フィルタ8によると、容器内の気相に放出されたエアロゾルが、金属への付着、衝突等によって捕集される。
【0039】
出口配管9は、一端が、金属フィルタ8の二次側に接続しており、他端が、排気筒10に接続している。排気筒10は、フィルタベント容器1に通されて放射性物質が除去されたガスを環境中に放出するために備えられる。
【0040】
次に、フィルタベント装置100を用いた有機よう素の捕集方法について具体的に説明する。
【0041】
原子炉において、圧力容器が破損するような重大事故が発生したとき、格納容器内には、冷却水等の蒸発による高温・高圧の蒸気と共に、種々の放射性物質が放出される。原子炉の出力や事故のシナリオにもよるが、格納容器が破損する過酷事故時には、約1kg程度の放射性有機よう素が放出されると試算されている。有機よう素の主成分としては、揮発性を有するよう化メチル(CHI)が想定されている。
【0042】
原子炉に重大事故が発生し、格納容器内の圧力が過度に高くなると、格納容器が破損し、放射性物質の大規模漏洩が生じる。そのため、このような事象を防ぐ措置として、ベントが実施される。図1に示す原子炉格納容器2で、ベントが必要であると判断されると、隔離弁5,6が開放される。
【0043】
隔離弁5が開放されると、ドライウェル21に放出された放射性物質や高温・高圧の蒸気は、ドライウェルベント配管3と入口配管7を通じて、フィルタベント容器1に流入する。また、隔離弁6が開放されると、ウェットウェル22に流入した放射性物質や高温・高圧の蒸気は、ウェットウェルベント配管4と入口配管7を通じて、フィルタベント容器1に流入する。そして、放射性物質を含む蒸気は、フィルタベント容器1内に噴出し、下層側の溶解用液体L10に導入される。
【0044】
フィルタベント容器1では、蒸気に含まれる放射性物質のうち、親水性のエアロゾル、無機よう素、有機よう素は、親水性の溶解用液体L10に溶解して捕集される。そして、溶解した有機よう素は、分解用液体L20に接触すると、よう素イオンと有機物とに分解される。解離したよう素イオンは、溶解用液体L10等に溶解して捕集される。捕集されず気相に放出されたエアロゾルは、金属フィルタ8に捕集される。その後、放射性物質が除去されたガスは、排気筒10を通じて環境中に放出される。
【0045】
以上のフィルタベント装置100によると、親水性の溶解用液体L10で、親水性のエアロゾル、無機よう素、有機よう素を溶解させて捕集することができる。そして、微粒子や異分子等から遊離した有機よう素を、分解用液体L20と良好な反応率で反応させることができる。有機よう素が揮発性であるのに対し、よう素イオンは有極性の液相中で安定であるところ、多層液体(L10,L20)の最上層が分解用液体L20であり、最上層の分解用液体L20が効率的に有機よう素をイオン化するため、有機よう素の揮発を阻止しながら、よう素イオンのかたちで確実に捕集することができる。また、捕集を行うにあたって、一般的なフィルタベント容器を利用することが可能であり、大容量の捕集材・乾式フィルタや、特別な装置設計・装置構造を必要としない。したがって、有機よう素を簡易な構造で効率的に捕集することができる。
【0046】
また、以上のフィルタベント装置100によると、親水性の溶解用液体L10と疎水性の分解用液体L20とが併用されるため、親水性の溶解用液体L10で、親水性であることが多いエアロゾルの大半を溶解して捕集し、疎水性の分解用液体L20で、疎水性のエアロゾルを凝集させて捕集することができる。また、親水性の溶解用液体L10を使用するため、原子炉冷却水の水蒸気に含まれる放射性物質を容易に液相に捕捉することができる。
【0047】
また、以上のフィルタベント装置100においては、溶解用液体L10や分解用液体L20として、アニオンが非放射性のよう素イオンであるイオン液体を用いることで、放射性物質の漏洩を更に抑制することができる。非放射性のよう素イオンであれば、捕集後に、よう素イオンが元素状よう素を生成したとしても、放射性の元素状よう素になる確率が低くなる。そのため、元素状よう素の揮発による放射性物質の漏洩を更に抑制することができる。
【0048】
図2は、本発明に係る有機よう素捕集装置の一例を模式的に示す断面図である。
図2には、有機よう素捕集装置を原子炉施設のフィルタベント装置に適用し、原子炉から放出された蒸気(流体)に含まれる有機よう素をフィルタベント容器に捕集する例を示す。
【0049】
図2に示すように、本実施形態に係るフィルタベント装置(有機よう素捕集装置)200は、フィルタベント容器1と、入口配管7と、金属フィルタ8と、出口配管9と、排気筒10と、を備えている。フィルタベント装置200の構成は、フィルタベント容器1に保持される液体の種類を除いて、フィルタベント装置100と同様である。
【0050】
図2に示すフィルタベント容器1の容器内には、疎水性の溶解用液体(第1液体)L11と、疎水性の分解用液体(第2液体)L20と、が保持されている。
【0051】
溶解用液体L11と分解用液体L20とは、互いに混じらずに、フィルタベント容器1内に多層液体(L11,L20)を形成している。疎水性の溶解用液体L11は、下層を形成し、疎水性の分解用液体L20は、上層を形成している。多層液体(L11,L20)は、液体同士の相分離により形成される最上層が分解用液体L20である。
【0052】
溶解用液体L11としては、分解用液体L20よりも比重が大きい液体であって、疎水性物質からなる液体を用いることができる。疎水性物質としては、疎水性(難水溶性)であり、常温・常圧下において液体であるイオン液体、界面活性剤溶液等を用いることができる。疎水性物質としては、特に、イオン液体が好ましい。
【0053】
溶解用液体L11の具体例としては、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド等が挙げられる。
【0054】
分解用液体L20としては、溶解用液体L11よりも比重が小さい液体であって、疎水性物質からなる液体を用いることができる。疎水性物質としては、有機よう素を分解する作用を有し、疎水性(難水溶性)であり、常温・常圧下において液体であるイオン液体、界面活性剤溶液等を用いることができる。疎水性物質としては、特に、イオン液体が好ましい。分解用液体L20としては、フィルタベント容器1の使用温度条件において、蒸気として流入する水よりも比重が小さい液体がより好ましい。
【0055】
分解用液体L20の具体例としては、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムクロリドや、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムジシアナミド等が挙げられる。
【0056】
図2に示す原子炉格納容器2において、ベントが必要であると判断されると、フィルタベント装置100と同様、隔離弁5,6が開放される。そして、放射性物質を含む蒸気は、フィルタベント容器1内に噴出し、下層側の溶解用液体L11に導入される。
【0057】
フィルタベント容器1では、蒸気に含まれる放射性物質のうち、疎水性のエアロゾルは、疎水性の溶解用液体L11に沈殿して捕集される。また、無機よう素、有機よう素は、疎水性の溶解用液体L11に溶解して捕集される。そして、溶解した有機よう素は、分解用液体L20に接触すると、よう素イオンと有機物とに分解される。解離したよう素イオンは、溶解用液体L11等に溶解して捕集される。捕集されず気相に放出されたエアロゾルは、金属フィルタ8に捕集される。その後、放射性物質が除去されたガスが、排気筒10を通じて環境中に放出される。
【0058】
以上のフィルタベント装置200によると、疎水性の溶解用液体L11で、エアロゾルの一部を沈殿させて捕集し、無機よう素、有機よう素を溶解させて捕集することができる。そして、微粒子や異分子等から遊離した有機よう素を、分解用液体L20と良好な反応率で反応させることができる。有機よう素が揮発性であるのに対し、よう素イオンは有極性の液相中で安定であるところ、多層液体(L11,L20)の最上層が分解用液体L20であり、最上層の分解用液体L20が効率的に有機よう素をイオン化するため、有機よう素の揮発を阻止しながら、よう素イオンのかたちで確実に捕集することができる。また、捕集を行うにあたって、一般的なフィルタベント容器を利用することが可能であり、大容量の捕集材・乾式フィルタや、特別な装置設計・装置構造を必要としない。したがって、有機よう素を簡易な構造で効率的に捕集することができる。
【0059】
また、以上のフィルタベント装置200においては、溶解用液体L11や分解用液体L20として、アニオンが非放射性のよう素イオンであるイオン液体を用いることで、フィルタベント装置100と同様に、放射性物質の漏洩を更に抑制することができる。
【0060】
図3は、本発明に係る有機よう素捕集装置の一例を模式的に示す断面図である。
図3には、有機よう素捕集装置を原子炉施設のフィルタベント装置に適用し、原子炉から放出された蒸気(流体)に含まれる有機よう素をフィルタベント容器に捕集する例を示す。
【0061】
図3に示すように、本実施形態に係るフィルタベント装置(有機よう素捕集装置)300は、フィルタベント容器1と、入口配管7と、金属フィルタ8と、出口配管9と、排気筒10と、を備えている。フィルタベント装置300の構成は、フィルタベント容器1に保持される液体の種類を除いて、フィルタベント装置100と同様である。
【0062】
図3に示すフィルタベント容器1の容器内には、二種類の溶解用液体(第1液体)L10,L11と、疎水性の分解用液体(第2液体)L20と、が保持されている。溶解用液体L10,L11は、親水性の溶解用液体L10と疎水性の溶解用液体L11との組み合わせで構成されている。このように、溶解用液体は、互いに相分離する複数の液体の組み合わせで構成することが可能である。
【0063】
溶解用液体L10,L11と分解用液体L20とは、互いに混じらずに、フィルタベント容器1内に多層液体(L11,L10,L20)を形成している。疎水性の溶解用液体L11は、下層を形成し、親水性の溶解用液体L10は、中間層を形成し、疎水性の分解用液体L20は、上層を形成している。多層液体(L11,L10,L20)は、液体同士の相分離により形成される最上層が分解用液体L20である。
【0064】
溶解用液体L10としては、溶解用液体L11よりも比重が小さく、分解用液体L20よりも比重が大きい液体であって、親水性物質からなる液体、又は、親水性物質を水に溶解させた水溶液を用いることができる。液体の親水性物質としては、親水性(易水溶性)であり、常温・常圧下において液体であるイオン液体、界面活性剤溶液等を用いることができる。液体の親水性物質は、脱塩水、スクラビング水等に溶解させて用いてもよい。
【0065】
水に溶解させる親水性物質としては、親水性(易水溶性)であり、常温・常圧下において固体であるイオン液体、界面活性剤等を用いることができる。親水性物質を溶解させる水としては、脱塩水、スクラビング水等が挙げられる。
【0066】
溶解用液体L10の具体例としては、常温・常圧下において液体である1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヨージドや、常温・常圧下において液体である1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロほう酸塩や、常温・常圧下において固体(融点:約40℃)である1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムヨージド等が挙げられる。
【0067】
溶解用液体L11としては、溶解用液体L10や分解用液体L20よりも比重が大きい液体であって、疎水性物質からなる液体を用いることができる。疎水性物質としては、疎水性(難水溶性)であり、常温・常圧下において液体であるイオン液体、界面活性剤溶液等を用いることができるが、イオン液体が特に好ましい。
【0068】
溶解用液体L11の具体例としては、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド等が挙げられる。
【0069】
分解用液体L20としては、溶解用液体L11や分解用液体L20よりも比重が小さい液体であって、疎水性物質からなる液体を用いることができる。疎水性物質としては、有機よう素を分解する作用を有し、疎水性(難水溶性)であり、常温・常圧下において液体であるイオン液体、界面活性剤溶液等を用いることができる。疎水性物質としては、特に、イオン液体が好ましい。
【0070】
分解用液体L20の具体例としては、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムクロリドや、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムジシアナミド等が挙げられる。
【0071】
図3に示す原子炉格納容器2において、ベントが必要であると判断されると、フィルタベント装置100と同様、隔離弁5,6が開放される。そして、放射性物質を含む蒸気は、フィルタベント容器1内に噴出し、下層側の溶解用液体L11に導入される。
【0072】
フィルタベント容器1では、蒸気に含まれる放射性物質のうち、疎水性のエアロゾルは、疎水性の溶解用液体L11に沈殿して捕集される。また、親水性のエアロゾルは、親水性の溶解用液体L10に溶解して捕集される。また、無機よう素、有機よう素は、疎水性の溶解用液体L11や親水性の溶解用液体L10に溶解して捕集される。そして、溶解した有機よう素は、分解用液体L20に接触すると、よう素イオンと有機物とに分解される。解離したよう素イオンは、溶解用液体L10,L11等に溶解して捕集される。捕集されず気相に放出されたエアロゾルは、金属フィルタ8に捕集される。その後、放射性物質が除去されたガスが、排気筒10を通じて環境中に放出される。
【0073】
以上のフィルタベント装置300によると、疎水性の溶解用液体L11で、エアロゾルの一部を沈殿させて捕集し、無機よう素、有機よう素を溶解させて捕集することができる。また、親水性の溶解用液体L10で、親水性のエアロゾル、無機よう素、有機よう素を溶解させて捕集することができる。そして、微粒子や異分子等から遊離した有機よう素を、分解用液体L20と良好な反応率で反応させることができる。有機よう素が揮発性であるのに対し、よう素イオンは有極性の液相中で安定であるところ、多層液体(L11,L10,L20)の最上層が分解用液体L20であり、最上層の分解用液体L20が効率的に有機よう素をイオン化するため、有機よう素の揮発を阻止しながら、よう素イオンのかたちで確実に捕集することができる。また、捕集を行うにあたって、一般的なフィルタベント容器を利用することが可能であり、大容量の捕集材・乾式フィルタや、特別な装置設計・装置構造を必要としない。したがって、有機よう素を簡易な構造で効率的に捕集することができる。
【0074】
また、以上のフィルタベント装置300によると、親水性の溶解用液体L10と疎水性の溶解用液体L11や疎水性の分解用液体L20とが併用されるため、親水性の溶解用液体L10で、親水性であることが多いエアロゾルの大半を溶解して捕集し、疎水性の溶解用液体L11や疎水性の分解用液体L20で、疎水性のエアロゾルを凝集させて捕集することができる。また、親水性の溶解用液体L10を使用するため、原子炉冷却水の水蒸気に含まれる放射性物質を容易に捕捉することができる。
【0075】
また、以上のフィルタベント装置300においては、溶解用液体L10,L11や分解用液体L20として、アニオンが非放射性のよう素イオンであるイオン液体を用いることで、フィルタベント装置100と同様に、放射性物質の漏洩を更に抑制することができる。
【0076】
図4は、本発明に係る有機よう素捕集装置の一例を模式的に示す断面図である。
図4には、有機よう素捕集装置を原子炉施設のフィルタベント装置に適用し、原子炉から放出された蒸気(流体)に含まれる有機よう素をフィルタベント容器に捕集する例を示す。
【0077】
図4に示すように、本実施形態に係るフィルタベント装置(有機よう素捕集装置)400は、フィルタベント容器1と、入口配管7と、金属フィルタ8と、出口配管9と、排気筒10と、を備えている。フィルタベント装置400の構成は、フィルタベント容器1に保持される液体の種類を除いて、フィルタベント装置100と同様である。
【0078】
図4に示すフィルタベント容器1の容器内には、親水性の溶解用液体(第1液体)L10と、二種類の分解用液体(第2液体)L20,L21と、が保持されている。分解用液体L20,L21は、互いに比重が異なる液体の組み合わせで構成されており、溶解用液体L10よりも比重が小さい疎水性の分解用液体L20と溶解用液体L10よりも比重が大きい疎水性の分解用液体L21との組み合わせで構成されている。このように、分解用液体は、互いに相分離する複数の液体の組み合わせで構成することが可能である。
【0079】
溶解用液体L10と分解用液体L20,L21とは、互いに混じらずに、フィルタベント容器1内に多層液体(L21,L10,L20)を形成している。疎水性の分解用液体L21は、下層を形成し、親水性の溶解用液体L10は、中間層を形成し、疎水性の分解用液体L20は、上層を形成している。多層液体(L21,L10,L20)は、液体同士の相分離により形成される最上層が分解用液体L20である。
【0080】
溶解用液体L10としては、分解用液体L21よりも比重が小さく、分解用液体L20よりも比重が大きい液体であって、親水性物質からなる液体、又は、親水性物質を水に溶解させた水溶液を用いることができる。液体の親水性物質としては、親水性(易水溶性)であり、常温・常圧下において液体であるイオン液体、界面活性剤溶液等を用いることができる。液体の親水性物質は、脱塩水、スクラビング水等に溶解させて用いてもよい。
【0081】
水に溶解させる親水性物質としては、親水性(易水溶性)であり、常温・常圧下において固体であるイオン液体、界面活性剤等を用いることができる。親水性物質を溶解させる水としては、脱塩水、スクラビング水等が挙げられる。
【0082】
溶解用液体L10の具体例としては、常温・常圧下において液体である1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヨージドや、常温・常圧下において液体である1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロほう酸塩や、常温・常圧下において固体(融点:約40℃)である1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムヨージド等が挙げられる。
【0083】
分解用液体L20としては、分解用液体L21や溶解用液体L10よりも比重が小さい液体であって、疎水性物質からなる液体を用いることができる。疎水性物質としては、有機よう素を分解する作用を有し、疎水性(難水溶性)であり、常温・常圧下において液体であるイオン液体、界面活性剤溶液等を用いることができる。疎水性物質としては、特に、イオン液体が好ましい。
【0084】
分解用液体L20の具体例としては、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムクロリドや、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムジシアナミド等が挙げられる。
【0085】
分解用液体L21としては、溶解用液体L10や分解用液体L20よりも比重が大きい液体であって、疎水性物質からなる液体を用いることができる。疎水性物質としては、有機よう素を分解する作用を有し、疎水性(難水溶性)であり、常温・常圧下において液体であるイオン液体、界面活性剤溶液等を用いることができる。疎水性物質としては、特に、イオン液体が好ましい。
【0086】
分解用液体L21の具体例としては、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド等が挙げられる。
【0087】
図4に示す原子炉格納容器2において、ベントが必要であると判断されると、フィルタベント装置100と同様、隔離弁5,6が開放される。そして、放射性物質を含む蒸気は、フィルタベント容器1内に噴出し、下層側の分解用液体L21に導入される。
【0088】
フィルタベント容器1では、蒸気に含まれる放射性物質のうち、疎水性のエアロゾルは、疎水性の分解用液体L21に沈殿して捕集される。また、親水性のエアロゾルは、親水性の溶解用液体L10に溶解して捕集される。また、無機よう素、有機よう素は、疎水性の分解用液体L21や親水性の溶解用液体L10に溶解して捕集される。そして、溶解した有機よう素は、分解用液体L20,L21に接触すると、よう素イオンと有機物とに分解される。解離したよう素イオンは、溶解用液体L10等に溶解して捕集される。捕集されず気相に放出されたエアロゾルは、金属フィルタ8に捕集される。その後、放射性物質が除去されたガスが、排気筒10を通じて環境中に放出される。
【0089】
以上のフィルタベント装置400によると、疎水性の分解用液体L21で、エアロゾルの一部を沈殿させて捕集し、無機よう素、有機よう素を溶解させて捕集することができる。また、親水性の溶解用液体L10で、親水性のエアロゾル、無機よう素、有機よう素を溶解させて捕集することができる。そして、微粒子や異分子等から遊離した有機よう素を、分解用液体L20,L21と良好な反応率で反応させることができる。有機よう素が揮発性であるのに対し、よう素イオンは有極性の液相中で安定であるところ、多層液体(L21,L10,L20)の最上層が分解用液体L20であり、最上層の分解用液体L20が効率的に有機よう素をイオン化するため、有機よう素の揮発を阻止しながら、よう素イオンのかたちで確実に捕集することができる。また、捕集を行うにあたって、一般的なフィルタベント容器を利用することが可能であり、大容量の捕集材・乾式フィルタや、特別な装置設計・装置構造を必要としない。したがって、有機よう素を簡易な構造で効率的に捕集することができる。
【0090】
また、以上のフィルタベント装置400によると、親水性の溶解用液体L10と疎水性の分解用液体L20,L21とが併用されるため、親水性の溶解用液体L10で、親水性であることが多いエアロゾルの大半を溶解して捕集し、疎水性の分解用液体L20,L21で、疎水性のエアロゾルを凝集させて捕集することができる。また、親水性の溶解用液体L10を使用するため、原子炉冷却水の水蒸気に含まれる放射性物質を容易に捕捉することができる。
【0091】
また、以上のフィルタベント装置400においては、溶解用液体L10や分解用液体L20,L21として、アニオンが非放射性のよう素イオンであるイオン液体を用いることで、フィルタベント装置100と同様に、放射性物質の漏洩を更に抑制することができる。
【0092】
図5は、本発明に係る有機よう素捕集装置の一例を模式的に示す断面図である。
図5には、有機よう素捕集装置を原子炉施設のフィルタベント装置に適用し、原子炉から放出された蒸気(流体)に含まれる有機よう素をフィルタベント容器に捕集する例を示す。
【0093】
図5に示すように、本実施形態に係るフィルタベント装置(有機よう素捕集装置)500は、フィルタベント容器1と、入口配管7と、金属フィルタ8と、出口配管9と、排気筒10と、保管容器11,21と、注入管12,22と、自動開閉弁13,23と、を備えている。フィルタベント装置500は、ドライウェルベント配管3、ウェットウェルベント配管4と入口配管7を介して、原子炉格納容器2と管路で接続されている。
【0094】
保管容器11,21は、溶解用液体や分解用液体をベント時まで保管する目的で備えられる。保管容器11,21としては、液体毎に複数の容器が備えられている。フィルタベント装置500では、容器内に注入されて保持される二種類の液体毎に、第1保管容器11と第2保管容器21の二個が備えられている。
【0095】
注入管12,22は、一端が、保管容器11,21に接続しており、他端が、フィルタベント容器1に接続している。注入管12,22としては、保管容器毎に複数の配管が設けられている。
【0096】
第1注入管12は、第1保管容器11内とフィルタベント容器1内とを連通しており、フィルタベント容器1内の底部側に開口している。第1注入管12の中間部には、常閉型の第1自動開閉弁13が備えられている。また、第2注入管22は、第2保管容器21内とフィルタベント容器1内とを連通しており、フィルタベント容器1内の第1注入管12の開口よりも高い位置に開口している。第2注入管22の中間部には、常閉型の第2自動開閉弁23が備えられている。
【0097】
フィルタベント装置500を使用するとき、第1保管容器11には、例えば、比重が大きい親水性の溶解用液体L10、又は、比重が大きい疎水性の溶解用液体L11を用意する。また、第2保管容器21には、例えば、比重が小さい疎水性の分解用液体L20を用意する。フィルタベント容器1は、空の状態としておく。第1保管容器11には、親水性の溶解用液体L10として、液体の親水性物質を用意してもよいし、固体の親水性物質を溶解させた水溶液を用意してもよい。
【0098】
フィルタベント装置500では、ベントを実施するとき、隔離弁5,6の開放の直前に、自動開閉弁13,23を開放する。第1自動開閉弁13と第2自動開閉弁23の開放の先後は、特に制限されるものではないが、開放の時期をずらし、第1自動開閉弁13、第2自動開閉弁23の順に開放することが好ましい。フィルタベント容器1内に液体の比重順に注液すると、液体同士の相分離が早期に完了して捕集に適した状態になる。そのため、適切なフィルタベントを迅速に開始することができる。
【0099】
第1自動開閉弁13や第2自動開閉弁23が開放されると、第1保管容器11に用意された溶解用液体L10,L11や、第2保管容器21に用意された分解用液体L20は、それぞれ、フィルタベント容器1内に注入される。注液には、例えば、水頭圧や窒素ガス等のガス圧を利用することができる。
【0100】
図5に示すフィルタベント容器1は、容器内に保持される液体が、図1に示した多層液体(L10,L20)、又は、図2に示した多層液体(L11,L20)となる。隔離弁5,6が開放されると、放射性物質を含む蒸気は、フィルタベント容器1内に噴出し、下層側の溶解用液体L10,L11に導入される。そして、蒸気に含まれる有機よう素等が容器内に捕集される。
【0101】
以上のフィルタベント装置500によると、溶解用液体L10,L11や分解用液体L20が、フィルタベント容器1とは異なる保管容器に用意されるため、ベントを実施する直前まで、溶解用液体L10,L11や分解用液体L20を適切に保管することができる。イオン液体等を大気や水分から遮断して保管すると、ベントを実施するまで、加水分解等による劣化が抑制されるため、液体の品質の保持に必要な検査・管理を削減することができる。
【0102】
図6は、本発明に係る有機よう素捕集装置の一例を模式的に示す断面図である。
図6には、有機よう素捕集装置を原子炉施設のフィルタベント装置に適用し、原子炉から放出された蒸気(流体)に含まれる有機よう素をフィルタベント容器に捕集する例を示す。
【0103】
図6に示すように、本実施形態に係るフィルタベント装置(有機よう素捕集装置)600は、フィルタベント容器1と、入口配管7と、金属フィルタ8と、出口配管9と、排気筒10と、保管容器11,21,31と、注入管12,22,32と、自動開閉弁13,23,33と、を備えている。フィルタベント装置600は、ドライウェルベント配管3、ウェットウェルベント配管4と入口配管7を介して、原子炉格納容器2と管路で接続されている。
【0104】
フィルタベント装置600の構成は、容器内に注入されて保持される三種類の液体毎に、保管容器、注入管及び自動開閉弁からなる系統が、3個備えられている点を除いて、フィルタベント装置500と同様である。フィルタベント装置600には、第3保管容器31と、第3注入管32と、第3自動開閉弁33と、からなる系統が追加されている。第3注入管32は、第3保管容器31内とフィルタベント容器1内とを連通しており、フィルタベント容器1内の第2注入管22の開口よりも高い位置に開口している。
【0105】
フィルタベント装置600を使用するとき、第1保管容器11には、例えば、比重が大きい疎水性の溶解用液体L11、又は、比重が大きい疎水性の分解用液体L21を用意する。また、第2保管容器21には、例えば、比重がより小さい親水性の溶解用液体L10を用意する。また、第3保管容器31には、例えば、比重が更に小さい疎水性の分解用液体L20を用意する。フィルタベント容器1は、空の状態としておく。第2保管容器21には、親水性の溶解用液体L10として、液体の親水性物質を用意してもよいし、固体の親水性物質を溶解させた水溶液を用意してもよい。
【0106】
フィルタベント装置600では、ベントを実施するとき、隔離弁5,6の開放の直前に、自動開閉弁13,23,33を開放する。第1自動開閉弁13と第2自動開閉弁23と第3自動開閉弁33の開放の先後は、特に制限されるものではないが、開放の時期をずらし、第1自動開閉弁13、第2自動開閉弁23、第3自動開閉弁33の順に開放することが好ましい。フィルタベント容器1内に液体の比重順に注液すると、液体同士の相分離が早期に完了して捕集に適した状態になる。そのため、適切なフィルタベントを迅速に開始することができる。
【0107】
第1自動開閉弁13や第2自動開閉弁23や第3自動開閉弁33が開放されると、第1保管容器11に用意された溶解用液体L11又は分解用液体L21や、第2保管容器21に用意された溶解用液体L10や、第3保管容器31に用意された分解用液体L20は、それぞれ、フィルタベント容器1内に注入される。注液には、例えば、水頭圧や窒素ガス等のガス圧を利用することができる。
【0108】
図6に示すフィルタベント容器1は、容器内に保持される液体が、図3に示した多層液体(L11,L10,L20)、又は、図4に示した多層液体(L21,L10,L20)となる。隔離弁5,6が開放されると、放射性物質を含む蒸気は、フィルタベント容器1内に噴出し、下層側の溶解用液体L11や分解用液体L21に導入される。そして、蒸気に含まれる有機よう素等が容器内に捕集される。
【0109】
以上のフィルタベント装置600によると、溶解用液体L10,L11や分解用液体L20,L21が、フィルタベント容器1とは異なる保管容器に用意されるため、ベントを実施する直前まで、溶解用液体L10,L11や分解用液体L20,L21を適切に保管することができる。イオン液体等を大気や水分から遮断して保管すると、ベントを実施するまで、加水分解等による劣化が抑制されるため、液体の品質の保持に必要な検査・管理を削減することができる。
【0110】
図7は、本発明に係る有機よう素捕集装置の一例を模式的に示す断面図である。
図7には、有機よう素捕集装置を原子炉格納容器内に適用し、原子炉から放出された蒸気(流体)に含まれる有機よう素をウェットウェルに捕集する例を示す。
【0111】
図7に示すように、本実施形態に係るフィルタベント装置(有機よう素捕集装置)700は、原子炉格納容器2のウェットウェル22が、有機よう素を捕集する容器として機能するように構成されている。
【0112】
ウェットウェル22は、原子炉圧力容器が収納されたドライウェル21と不図示のベント管を介して連通している。また、ウェットウェル22には、主蒸気系から分岐した不図示のベント管が、逃がし弁を介して接続される。ドライウェル21及びウェットウェル22は、管路を介してフィルタベント容器1と接続されている。
【0113】
図7に示すウェットウェル22には、溶解用液体(第1液体)L10と、分解用液体(第2液体)L20と、が保持されている。ウェットウェル22は、ドライウェル21中の蒸気や、主蒸気系から過圧で逃された蒸気が、不図示のベント管を介して流入し、フィルタベント容器1に向けて通されるようになっている。一方、フィルタベント容器1の容器内には、例えば、スクラビング水L30が保持される。
【0114】
ウェットウェル22に保持する溶解用液体L10としては、例えば、親水性(易水溶性)であり、常温・常圧下において固体である親水性物質をプール水に溶解させた水溶液を用いることができる。また、ウェットウェル22に保持する分解用液体L20としては、例えば、疎水性(難水溶性)であり、常温・常圧下において液体である疎水性物質からなる液体を用いることができる。
【0115】
フィルタベント装置700では、ドライウェル21に放出された放射性物質や高温・高圧の蒸気、或いは、主蒸気系から過圧で逃された放射性物質や高温・高圧の蒸気が、ベントを実施するか否かにかかわらず、ウェットウェル22に流入する。
【0116】
例えば、放射性物質を含む蒸気は、ドライウェル21に放出されると、フロアを貫通して圧力抑制プールに連通している不図示の水平ベント管を介して、下層側の溶解用液体L10に導入される。また、放射性物質を含む蒸気は、主蒸気系から過圧で逃されると、先端が圧力抑制プールに水没している不図示のベント管を介して、下層側の溶解用液体L10に導入される。
【0117】
ウェットウェル22では、蒸気に含まれる有機よう素等が、溶解用液体L10と分解用液体L20とによって、ウェットウェル22の圧力抑制プールに溶解して捕集される。捕集されず気相に放出されたエアロゾル、元素状よう素等は、ウェットウェルベント配管4と入口配管10を通じてフィルタベント容器1に流入し、スクラビング水L30や金属フィルタ8によって捕集される。
【0118】
以上のフィルタベント装置700によると、ウェットウェル22に保持される溶解用液体L10と分解用液体L20とによって、ベントを実施するか否かにかかわらず、格納容器バウンダリ内で有機よう素等を捕集することができる。揮発性の有機よう素は、排気過程の初期で分解されることになり、分解によって解離した有機物も捕集されるため、有機系の放射性物質の漏洩を低減することができる。液相に捕集したよう素イオンについては、元素状よう素を生成して再揮発したとしても、フィルタベント容器1で再捕集することができる。また、フィルタベント容器1を、イオン液体等ではなく、通常のスクラビング水を使用して、通常の条件で運転することができる。
【0119】
以上、本発明に係る有機よう素捕集装置の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、技術的範囲を逸脱しない限り、様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成に他の構成を加えたりすることが可能である。また、或る実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、構成の削除、構成の置換をすることも可能である。
【0120】
例えば、前記のフィルタベント装置100,200,300,400の構成と前記のフィルタベント装置700の構成とを組み合わせて、ウェットウェル22とフィルタベント容器1の両方で捕集を行ってもよい。また、前記のフィルタベント装置500,600の構成と前記のフィルタベント装置700の構成とを組み合わせて、別途保管している液体を必要時にウェットウェル22に注液してもよい。保管容器は、全部の液体のために設置してもよいし、一部の液体のために設置してもよい。
【0121】
また、前記のフィルタベント装置300,400において、親水性の溶解用液体L10に代えて、スクラビング水を使用してもよい。また、前記のフィルタベント装置600において、フィルタベント容器1の容器内に、水、又は、スクラビング水を、予め注入しておいてもよい。また、前記のフィルタベント装置700において、フィルタベント容器1の容器内に、スクラビング水L30と共に、又は、スクラビング水L30に代えて、溶解用液体L10及び分解用液体L20のうち、一種以上を保持させてもよい。
【0122】
また、前記の実施形態において、有機よう素を溶解する作用がある溶解用液体と、有機よう素を分解する作用がある分解用液体との、少なくとも二種類の液体を用いる限り、液体の種類や数、液体の親水性/疎水性、液体の密度(液体の積層順)等は、特に制限されるものではなく、適宜の液体を組み合わせて用いることができる。例えば、溶解用液体や分解用液体として、3種類以上の液体を用いてもよいし、最上層に溶解用液体が配置されてもよい。
【0123】
また、前記の実施形態において、原子炉の形式は、特に制限されるものではない。原子炉としては、沸騰水型原子炉(Boiling Water Reactor:BWR)、改良型沸騰水型原子炉(Advanced Boiling Water Reactor:ABWR)、加圧水型原子炉(Pressurized Water Reactor:PWR)等の各種の形式に適用することができる。放射性物質で汚染されたイオン液体等は、例えば、特表2003-507185号に記載された方法等で処理・再生することができる。
【0124】
また、本発明に係る有機よう素捕集装置は、フィルタベント装置や、ウェットウェルの他に、原子炉施設に備えられる他のオフガス装置、未使用核燃料や使用済み核燃料等を含む核燃料物質の保管容器や輸送容器、取り替え又は解体された炉内構造物の保管容器や輸送容器等に適用することもできる。
【符号の説明】
【0125】
1 フィルタベント容器
2 原子炉格納容器
21 ドライウェル
22 ウェットウェル
3 ドライウェルベント配管
4 ウェットウェルベント配管
5 隔離弁
6 隔離弁
7 入口配管
8 金属フィルタ
9 出口配管
10 排気筒
100 有機よう素捕集装置
L10 溶解用液体(第1液体)
L20 分解用液体(第2液体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7