(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】顔料含有樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20230209BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20230209BHJP
C08K 13/02 20060101ALI20230209BHJP
C09C 3/10 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
C09D11/322
C08L101/02
C08K13/02
C09C3/10
(21)【出願番号】P 2018177244
(22)【出願日】2018-09-21
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【氏名又は名称】佐々木 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100200469
【氏名又は名称】大竹 有美子
(72)【発明者】
【氏名】長野 智彦
(72)【発明者】
【氏名】植田 泰史
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-126551(JP,A)
【文献】特開2013-124356(JP,A)
【文献】特開2011-137102(JP,A)
【文献】特開2011-127064(JP,A)
【文献】特開2011-021055(JP,A)
【文献】特開2010-143962(JP,A)
【文献】特開2014-058591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 3/00-3/12
C09D 11/00-11/54
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と樹脂(A)とを含有する顔料含有樹脂組成物であって、下記条件1から条件4を満たす、インクジェット記録用インクに用いる、顔料含有樹脂組成物。
条件1:樹脂(A)が、
酸価が220mgKOH/g以上320mgKOH/g以下であるアニオン性基を有する樹脂(a)と、該アニオン性基と反応する架橋性官能基を2以上有する架橋剤(c)と、により架橋構造を形成されてなる樹脂であり、該樹脂のアニオン性基の少なくとも一部が塩基性化合物(b)としてアルカリ金属化合物で中和されてなる。
条件2:顔料含有樹脂組成物は、該顔料含有樹脂組成物中の揮発性物質の含有量が1質量%以下の固体である。
ここで、「揮発性物質」は、25℃における蒸気圧又は昇華圧が1kPaより大きい物質であり、水を含むものである。
条件3:顔料含有樹脂組成物の濃度が2×10
-4質量%になるように該顔料含有樹脂組成物を水で分散させた水分散体(α)の、動的光散乱法で測定されるキュムラント法解析で求めた平均粒径が150nm以下である。
条件4:顔料含有樹脂組成物の濃度が0.25質量%になるように該顔料含有樹脂組成物を水で分散させた水分散体(β)の、個数カウント法で測定される該顔料含有樹脂組成物の固形分20質量%の水分散体1ml当たりに換算した、粒径0.5μm以上の粒子数が1.00×10
9個以下である。
【請求項2】
樹脂(A)がスチレン-アクリル系樹脂である、請求項1に記載の顔料含有樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂(A)に対する顔料の質量比〔顔料/樹脂(A)〕が60/40以上90/10以下である、請求項1又は2に記載の顔料含有樹脂組成物。
【請求項4】
架橋剤(c)が炭素数3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物である、請求項1~3のいずれかに記載の顔料含有樹脂組成物
。
【請求項5】
下記工程I及び工程IIを含む、請求項1~4のいずれかに記載の顔料含有樹脂組成物の製造方法。
工程I:水と、顔料と、アニオン性基を有する樹脂(a)と、該アニオン性基を中和する塩基性化合物(b)と、該アニオン性基と反応する架橋性官能基を2以上有する架橋剤(c)とを混合分散し、水系顔料分散体(D)を得る工程
工程II:工程Iで得られる水系顔料分散体(D)を乾燥処理し、揮発性物質の含有量が1質量%以下の固体である顔料含有樹脂組成物を得る工程
ここで、水系顔料分散体(D)は、顔料と樹脂(A)とを含有し、かつ動的光散乱法で測定されるキュムラント法解析で求めた平均粒径が150nm以下である。
【請求項6】
工程IIにおける乾燥処理が凍結乾燥である、請求項
5に記載の顔料含有樹脂組成物の製造方法
。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の顔料含有樹脂組成物を含有し、下記工程I~IIIを含む
、インクジェット記録用インクの製造方法。
工程I:水と、顔料と、アニオン性基を有する樹脂(a)と、該アニオン性基を中和する塩基性化合物(b)と、該アニオン性基と反応する架橋性官能基を2以上有する架橋剤(c)とを混合分散し、水系顔料分散体(D)を得る工程
工程II:工程Iで得られる水系顔料分散体(D)を乾燥処理し、揮発性物質の含有量が1質量%以下の固体である顔料含有樹脂組成物を得る工程
工程III:工程IIで得られる顔料含有樹脂組成物と液体化合物とを混合して、インクジェット記録用インクを得る工程
ここで、水系顔料分散体(D)は、顔料と樹脂(A)とを含有し、かつ動的光散乱法におけるキュムラント法解析で求めた平均粒径が150nm以下である
。
【請求項8】
工程IIにおける乾燥処理が凍結乾燥である、請求項7に記載のインクジェット記録用インクの製造方法。
【請求項9】
液体化合物が、水及び水溶性有機溶媒(B)である、請求項7又は8に記載のインクジェット記録用インクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料含有樹脂組成物及びその製造方法、並びに該顔料含有樹脂組成物を含有するインクジェット記録用インク及び該インクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式による印刷は、非常に微細なノズルからインク液滴を印刷媒体に直接吐出し、付着させて、文字や画像を記録する印刷である。この方式は、低消費電力、印刷媒体に非接触というメリットがあり、近年普及が著しい。その中でも記録を必要とする時にのみインク液滴を吐出する、ドロップ オン デマンド方式のものが主流となってきている。
更に、近年、環境への負荷が少ないインクとして水系インクが主流になってきている。そして、印刷物に耐候性や耐水性を付与するために、着色剤として顔料が広く用いられている。水系インクの着色剤として顔料を用いる場合、インクの調製には顔料を水系媒体に微分散させた水系顔料分散体(以下、「水系顔料分散体」ともいう)と保湿剤として水溶性有機溶媒とを混合することがあるが、水系顔料分散体は水を多く含み、水分活性が高いため、菌類等の微生物の発生による変質が問題となる。この問題に対して、水系顔料分散体に殺菌剤を添加する方法、水系顔料分散体を加熱処理する方法による試みもなされている。しかしながら、一般的に殺菌剤はヒトに対する刺激性を有し、水系顔料分散体をインクに用いた場合にインクへの殺菌剤の持ち込みから、最終使用者が直接触れた場合に皮膚トラブルを起こす可能性がある。また、水系顔料分散体の加熱処理にはコストがかかり、また水系顔料分散体中の成分が変質する懸念があり、一時的に微生物の発生が抑制されても、その後の保管で新たに微生物が発生するおそれもある。
【0003】
そこで、微生物の問題を克服するため、水系顔料分散体中の水の含有量を低減する方法が知られている。
例えば、特許文献1には、加温冷却試験後であっても粗大粒子が発現せず、長期保存安定性が良好な水性顔料分散体を得る製造方法として、顔料と、アニオン性基を有する樹脂と、アニオン性基を中和する中和剤とを混合し、水または水を主成分とする液媒体中でスラリー化した後噴霧乾燥もしくは凍結乾燥して複合顔料を得る工程と、該工程で得た複合顔料と水溶性有機溶剤と、アニオン性基を有する樹脂を含む混合物を混練する工程とを有する顔料混練物の製造方法が記載されている。
特許文献2には、再分散性等を有する顔料配合物として、顔料および/またはカーボンブラックおよびポリマーおよび/または界面活性剤を含有し、凍結乾燥により水性分散液から製造される顔料配合物が記載されている。
特許文献3には、着色剤と、光によって硬化する硬化性液体とを含有する光硬化型液体インクが記載され、該インクに用いる着色樹脂粒子が凍結乾燥により得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-58591号公報
【文献】特開2001-152072号公報
【文献】特開2011-178948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年主流のドロップ オン デマンド方式のインクジェットヘッドは通常20μm程度のノズル径を有しており、粒径が極端に大きな粗大粒子はたとえその含有量が少なくてもインクの吐出性不良の原因となる。そのため粒径が1μm~5μm程度の粗大粒子数の低減が求められている。特許文献1~3の技術では、水系顔料分散体を調製しても顔料の分散性が十分でなく、粗大粒子が多く含まれることがあるため、顔料の分散性の向上及び粗大粒子数の低減が望まれる。
本発明は、微生物の発生による変質のおそれがなく、水系顔料分散体に用いた際に、顔料の分散性に優れ、かつ粗大粒子が少ない顔料含有樹脂組成物及びその製造方法、並びに、インクの吐出性に優れるインクジェット記録用インク及び該インクの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、顔料と樹脂とを含有する顔料含有樹脂組成物であって、該樹脂が、アニオン性基を有し、該アニオン性基の少なくとも一部が塩基性化合物で中和されてなり、かつ架橋構造を有することとすれば、該顔料含有樹脂組成物中の揮発性物質の含有量を1質量%以下としても、該顔料含有樹脂組成物を水系顔料分散体に用いた際に顔料の分散性に優れ、かつ粗大粒子数を低減できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の[1]~[4]を提供する。
[1]顔料と樹脂(A)とを含有する顔料含有樹脂組成物であって、下記条件1から条件4を満たす顔料含有樹脂組成物。
条件1:樹脂(A)が、アニオン性基を有し、該アニオン性基の少なくとも一部が塩基性化合物(b)で中和されてなり、かつ架橋構造を有する。
条件2:顔料含有樹脂組成物中の揮発性物質の含有量が1質量%以下である。
条件3:顔料含有樹脂組成物の濃度が2×10-4質量%になるように該顔料含有樹脂組成物を水で分散させた水分散体(α)の、動的光散乱法で測定されるキュムラント法解析で求めた平均粒径が150nm以下である。
条件4:顔料含有樹脂組成物の濃度が0.25質量%になるように該顔料含有樹脂組成物を水で分散させた水分散体(β)の、個数カウント法で測定される該顔料含有樹脂組成物の固形分20質量%の水分散体1ml当たりに換算した、粒径0.5μm以上の粒子数が1.00×109個以下である。
[2]前記[1]に記載の顔料含有樹脂組成物を含有する、インクジェット記録用インク。
[3]下記工程I及び工程IIを含む、前記[1]に記載の顔料含有樹脂組成物の製造方法。
工程I:水と、顔料と、アニオン性基を有する樹脂(a)と、該アニオン性基を中和する塩基性化合物(b)と、該アニオン性基と反応する架橋性官能基を2以上有する架橋剤(c)とを混合分散し、水系顔料分散体(D)を得る工程
工程II:工程Iで得られる水系顔料分散体(D)を乾燥処理して、揮発性物質の含有量が1質量%以下である顔料含有樹脂組成物を得る工程
ここで、水系顔料分散体(D)は、顔料と樹脂(A)とを含有し、かつ動的光散乱法で測定されるキュムラント法解析で求めた平均粒径が150nm以下である。
[4]下記工程I~IIIを含む、前記[2]に記載のインクジェット記録用インクの製造方法。
工程I:水と、顔料と、アニオン性基を有する樹脂(a)と、該アニオン性基を中和する塩基性化合物(b)と、該アニオン性基と反応する架橋性官能基を2以上有する架橋剤(c)とを混合分散し、水系顔料分散体(D)を得る工程
工程II:工程Iで得られる水系顔料分散体(D)を乾燥処理して、揮発性物質の含有量が1質量%以下である顔料含有樹脂組成物を得る工程
工程III:工程IIで得られる顔料含有樹脂組成物と液体化合物とを混合して、インクジェット記録用インクを得る工程
ここで、水系顔料分散体(D)は、顔料と樹脂(A)とを含有し、かつ動的光散乱法で測定されるキュムラント法解析で求めた平均粒径が150nm以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、微生物の発生による変質のおそれがなく、水系顔料分散体に用いた際に、顔料の分散性に優れ、かつ粗大粒子が少ない顔料含有樹脂組成物及びその製造方法、並びに、インクの吐出性に優れるインクジェット記録用インク及び該インクの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[顔料含有樹脂組成物]
本発明の顔料含有樹脂組成物(以下、「顔料含有樹脂組成物」ともいう)は、顔料と樹脂(A)とを含有する顔料含有樹脂組成物であって、下記条件1から条件4を満たす。
条件1:樹脂(A)が、アニオン性基を有し、該アニオン性基の少なくとも一部が塩基性化合物(b)で中和されてなり、かつ架橋構造を有する。
条件2:顔料含有樹脂組成物中の揮発性物質の含有量が1質量%以下である。
条件3:顔料含有樹脂組成物の濃度が2×10-4質量%になるように該顔料含有樹脂組成物を水で分散させた水分散体(α)の、動的光散乱法で測定されるキュムラント法解析で求めた平均粒径が150nm以下である。
条件4:顔料含有樹脂組成物の濃度が0.25質量%になるように該顔料含有樹脂組成物を水で分散させた水分散体(β)の、個数カウント法で測定される該顔料含有樹脂組成物の固形分20質量%の水分散体1ml当たりに換算した、粒径0.5μm以上の粒子数が1.00×109個以下である。
本発明において「揮発性物質」とは、常温常圧で揮発する物質を意味し、具体的には25℃における蒸気圧又は昇華圧が1kPaより大きい物質であり、水を含むものである。
【0010】
本発明の顔料含有樹脂組成物は、微生物の発生による変質のおそれがなく、水系顔料分散体に用いた際に、顔料の分散性に優れ、かつ粗大粒子が少なく、更に顔料含有樹脂組成物をインクジェット記録用インクに用いた際にはインクの吐出性に優れるという効果を奏する。その理由は以下のように推測される。
まず、顔料含有樹脂組成物中の揮発性物質の含有量が前記条件2の数値範囲を充足することにより、水を含むことによる微生物の発生が抑制され、変質を防止することができる。また、顔料含有樹脂組成物に含まれる樹脂が前記条件1を満たすことにより、該樹脂のアニオン性基による静電反発力と架橋構造による顔料粒子の構造的な安定性により顔料の分散性が向上すると考えられる。更に顔料含有樹脂組成物を所定の濃度になるように水で分散した水分散体の平均粒径が前記条件3の数値範囲を充足することにより、顔料の分散性が向上すると考えられる。更に顔料含有樹脂組成物を所定の濃度になるように水で分散した水分散体において、粒径0.5μm以上の粒子数の個数が前記条件4の数値範囲であることにより、粗大粒子が少ない水系顔料分散体を得ることができ、インクの吐出性も向上すると考えられる。
【0011】
<顔料>
本発明に用いられる顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよく、レーキ顔料、蛍光顔料を用いることもできる。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、ベンガラ、酸化クロム等の金属酸化物、真珠光沢顔料等が挙げられる。ブラックインクに用いる顔料としては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料の具体例としては、アゾレーキ顔料、不溶性モノアゾ顔料、不溶性ジスアゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料類;フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ベンツイミダゾロン顔料、スレン顔料等の多環式顔料類等が挙げられる。
色相は特に限定されず、ホワイト、ブラック、グレー等の無彩色顔料;イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンから選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
顔料は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0012】
(条件1)
<樹脂(A)>
本発明の顔料含有樹脂組成物において、樹脂(A)は、アニオン性基を有し、該アニオン性基の少なくとも一部が塩基性化合物(b)で中和されてなり、かつ架橋構造を有すること(条件1)を満たすものである。
樹脂(A)は、顔料含有樹脂組成物を水系顔料分散体又はインクに用いた際に、顔料分散作用を発現する顔料分散剤としての機能と、印刷媒体への定着剤としての機能を有する。
樹脂(A)中のアニオン性基は、カルボキシ基(-COOM)、スルホン酸基(-SO3M)、リン酸基(-OPO3M2)等の解離して水素イオンが放出されることによりアニオン性を呈する基、又はそれらの解離したイオン形(-COO-、-SO3
-、-OPO3
2-、-OPO3
-M)等が挙げられる。上記化学式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを示す。これらの中でも、ポリマー骨格へのアニオン性基の導入の容易性、及びモノマーの入手性の観点から、カルボキシ基(-COOM)及びその解離したイオン形(-COO-)が好ましい。
【0013】
樹脂(A)のアニオン性基の少なくとも一部は、塩基性化合物(b)で中和されてなる。中和は、アニオン性基と反応する塩基性化合物(b)(以下、「塩基性化合物(b)」ともいう)を添加することで行う。
塩基性化合物(b)としては、アルカリ金属化合物;有機アミン化合物、アンモニア等の含窒素化合物などが挙げられる。中でも、中和による静電反発力を十分に発現させ、顔料の分散安定性を向上させる観点から、強塩基が好ましく、アルカリ金属化合物がより好ましい。すなわち、樹脂(A)の中和されたアニオン性基の対イオンは、アルカリ金属カチオンであることが好ましい。
アルカリ金属の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。中でも、入手性、及び中和により強い静電反発力を発現する観点から、ナトリウム、カリウムが好ましく、ナトリウムがより好ましい。
塩基性化合物(b)として用いるアルカリ金属化合物は、好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、該アルカリ金属水酸化物は、十分かつ均一に中和を促進させる観点から、水溶液の形態で用いることが好ましい。アルカリ金属水酸化物の水溶液の濃度は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
【0014】
樹脂(A)のアニオン性基の中和は、pHが7以上11以下になるように行うことが好ましい。
塩基性化合物(b)の使用当量は、顔料の分散性を向上させ、粗大粒子数を低減する観点、並びに顔料含有樹脂組成物を含有するインクの耐水性、保存安定性、吐出性、定着性等の観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上、より更に好ましくは18モル%以上であり、そして、好ましくは120モル%以下、より好ましくは100モル%以下、更に好ましくは50モル%以下、より更に好ましくは30モル%以下である。
ここで塩基性化合物(b)の使用当量は、中和前の樹脂(A)(以下、「樹脂(A’)」ともいう)の酸価及び質量から、次式によって求めることができる。塩基性化合物(b)の使用当量が100モル%以下の場合、中和度と同義であり、次式で塩基性化合物(b)の使用当量が100モル%を超える場合には、塩基性化合物(b)が樹脂(A’)のアニオン性基に対して過剰であることを意味し、この時の樹脂(A)の中和度は100モル%とみなす。
塩基性化合物(b)の使用当量(モル%)=〔{塩基性化合物(b)の添加質量(g)/塩基性化合物(b)の当量}/[{樹脂(A’)の酸価(mgKOH/g)×樹脂(A’)の質量(g)}/(56×1,000)]〕×100
【0015】
樹脂(A)は、顔料の分散性を向上させ、粗大粒子数を低減する観点、並びにインクの吐出性を向上させる観点から、水不溶性であることが好ましい。
ここで、「水不溶性」とは、樹脂(A)をその濃度が2×10-4質量%になるように水で分散させた水分散体が透明にならないことを意味する。本発明においては、該水分散体が目視で透明に見えたとしても、レーザー光や通常光による観察でチンダル現象が認められる場合は水不溶性であると判断する。
【0016】
樹脂(A)としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の縮合系樹脂;ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系樹脂等が挙げられる。中でも、顔料の分散性を向上させ、粗大粒子数を低減する観点、並びにインクの吐出性を向上させる観点から、ビニル系樹脂が好ましい。
【0017】
樹脂(A)は、好ましくは、(a1)アニオン性基含有モノマー(以下、「(a1)成分」ともいう)由来の構成単位と、(a2)疎水性モノマー(以下、「(a2)成分」ともいう)由来の構成単位とを含むビニル系樹脂である。該ビニル系樹脂は、(a1)アニオン性基含有モノマーと(a2)疎水性モノマーとを含む原料モノマー(以下、「原料モノマー」ともいう)からなり、更に架橋構造を有する樹脂である。
【0018】
〔(a1)アニオン性基含有モノマー〕
(a1)アニオン性基含有モノマーは、その静電反発力により、顔料含有樹脂組成物を用いて得られる水分散体又は該顔料含有樹脂組成物を含有するインクにおける顔料の分散安定性を向上させる観点から用いられる。(a1)成分におけるアニオン性基としては、前述と同様のものが挙げられる。
(a1)アニオン性基含有モノマーは、入手の容易性及び酸性度の観点から、カルボキシ基含有モノマーが好ましい。カルボキシ基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、2-メタクリロイルオキシメチルコハク酸等のカルボン酸モノマーが挙げられ、中でも、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が好ましい。
【0019】
〔(a2)疎水性モノマー〕
(a2)疎水性モノマーは、その顔料表面への吸着力により、顔料含有樹脂組成物を用いて得られる水分散体又は該顔料含有樹脂組成物を含有するインクにおける顔料の分散安定性を向上させる観点から用いられる。
本明細書において「疎水性」とは、モノマーを25℃のイオン交換水100gへ飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であることをいう。(a2)疎水性モノマーの25℃におけるイオン交換水100gへの溶解量は、顔料の分散安定性の観点から、好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。
(a2)疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート;アリール(メタ)アクリレート、アルキルアリール(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー等の芳香族基含有モノマー;炭素数3以上のアルキレンオキシド単位を2以上30以下含有するポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートから選ばれる1種以上を意味する。以下における「(メタ)」も同義である。また、芳香族基含有モノマーの分子量は、500未満が好ましい。
【0020】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1以上22以下、好ましくは炭素数6以上18以下のアルキル基を有するものが好ましい。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート;イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の分岐鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
アリール(メタ)アクリレートとしては、炭素数6以上14以下、好ましくは炭素数6以上10以下のアリール基を有するものが好ましい。例えば、フェニル(メタ)アクリレート、1-ナフチル(メタ)アクリレート、2-ナフチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
アルキルアリール(メタ)アクリレートとしては、炭素数7以上15以下、好ましくは炭素数7以上8以下のアルキルアリール基を有するものが好ましい。例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
スチレン系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレン、α-メチルスチレンがより好ましい。
【0022】
また、(a2)疎水性モノマーは、ヘテロ原子を有する官能基を有してもよい。該官能基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基等が挙げられ、これらが前述のアルキル(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート、アルキルアリール(メタ)アクリレート、又はスチレン系モノマーの任意の位置に結合したものを意味する。例えば、アルキル(メタ)アクリレートの場合、エトキシ基がエチルアクリレートのエチル基の2位に結合した2-エトキシエチルアクリレート、ブトキシ基がエチルアクリレートのエチル基の2位に結合した2-ブトキシエチルアクリレート、フェノキシ基がエチルアクリレートのエチル基の2位に結合した2-フェノキシエチルアクリレート等が挙げられる。
また、アリール(メタ)アクリレートの場合、フェニルアクリレートのフェニル基の4位にエチル基が結合した4-エチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
また、アルキルアリール(メタ)アクリレートの場合、ベンジルアクリレートのフェニル基の4位にエチル基が結合した4-エチルフェニルメチルアクリレート等が挙げられる。
【0023】
炭素数3以上のアルキレンオキシド単位を1以上30以下含有するポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとしては、樹脂(A)の顔料表面への吸着力を向上させ、インクに有機溶媒が含まれる場合には該有機溶媒との親和性により顔料の分散安定性を向上させる観点から、ポリプロピレングリコール(n=2~30、nは当該アルキレンオキシドの繰り返し単位数を示す。以下も同様である。)(メタ)アクリレート、オクトキシ(エチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合)(n=1~30、その中のプロピレンオキシド繰り返し単位数=1~29)(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合)(n=1~30、その中のプロピレンオキシド繰り返し単位数=1~29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、ポリプロピレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレートが好ましい。
(a2)成分として用いられるポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの市販品としては、ブレンマーPP-500、同800、同1000、同50PEP-300、同50POEP-800B、同43PAPE-600B(以上、日油株式会社)等が挙げられる。
(a2)疎水性モノマーは、前記モノマーを単独で又は2種以上併用してもよい。
【0024】
〔(a3)マクロモノマー〕
(a3)マクロモノマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500以上100,000以下の化合物であり、顔料含有樹脂組成物を用いて得られる水分散体又は該顔料含有樹脂組成物を含有するインクにおける顔料の分散安定性を向上させる観点から、樹脂(A)を構成するモノマー成分として用いてもよい。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
(a3)マクロモノマーの数平均分子量は1,000以上10,000以下が好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
(a3)マクロモノマーとしては、顔料含有樹脂組成物を用いて得られる水分散体及びインクにおける顔料の分散安定性を向上させる観点から、芳香族基含有モノマー系マクロモノマー及びシリコーン系マクロモノマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロモノマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロモノマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前述の(a2)疎水性モノマーで挙げられる芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロモノマーの具体例としては、AS-6(S)、AN-6(S)、HS-6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
シリコーン系マクロモノマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0025】
〔(a4)ノニオン性モノマー〕
(a4)ノニオン性モノマーは、顔料含有樹脂組成物を用いて得られる水分散体中の水への親和性を向上させ、顔料の分散安定性を向上させる観点から用いてもよい。
(a4)ノニオン性モノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(a4)ノニオン性モノマーとして用いられるポリエチレングリコール(メタ)アクリレートの市販品としては、ブレンマーPE-90、同200、同350、同PME-100、同PME-200、同PME-400、同PME-1000(以上、日油株式会社)等が挙げられる。
【0026】
本発明において樹脂(A)は、架橋構造を有する。これにより、顔料粒子の構造的な安定性が向上し、顔料の分散性が向上し、粗大粒子数を低減することができる。また、顔料含有樹脂組成物をインクジェット記録用インクに用いる場合には、インクの吐出性が向上する。
本発明において「架橋構造」とは、2本以上のポリマー鎖が共有結合で結合した構造を意味する。樹脂(A)は、顔料の分散性の向上及び粗大粒子数の低減の観点から、ポリマー鎖が架橋された3次元網目構造を含むことが好ましい。樹脂(A)は、架橋前の樹脂を溶解する溶媒に溶解しないが膨潤する状態をとる。
【0027】
本発明における架橋構造は任意の方法で形成されてなる。例えば、樹脂(A)の製造において、直鎖状のポリマー骨格を形成する原料モノマーに加えて、2以上の重合性官能基を有するモノマーを併用して重合することにより、架橋構造を形成する方法(i);直鎖状のポリマー骨格が形成する原料モノマーのみを用いて、重合条件を高温にすることで主鎖から分岐構造を発生させて架橋構造を形成する方法(ii);直鎖状のポリマー骨格を形成する原料モノマーのみを用いて、過酸化物等の水素引抜能を有する化合物を用いることで主鎖から分岐構造を発生させて架橋構造を形成する方法(iii);直鎖状のポリマー骨格を有し、かつ架橋可能な官能基を有する樹脂と、該樹脂中の該官能基と反応する架橋性官能基を2以上有する架橋剤とを用いて、架橋構造を形成する方法(iv)等が挙げられる。中でも、方法(iv)により架橋構造を形成することが好ましい。
方法(iv)により架橋構造を形成した樹脂(A)としては、好ましくはアニオン性基を有する樹脂(a)(以下、「樹脂(a)」ともいう)と該アニオン性基と反応する架橋性官能基を2以上有する架橋剤(c)(以下、「架橋剤(c)」ともいう)とにより架橋構造を形成されてなるものが好ましい。
【0028】
方法(iv)により架橋構造を形成した樹脂(A)を得る場合、樹脂(a)は、好ましくは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上の(a1)アニオン性基含有モノマー由来の構成単位と、アルキル(メタ)アクリレートモノマー及び芳香族基含有モノマーから選ばれる1種以上の(a2)疎水性モノマー由来の構成単位とを含むアクリル系樹脂であり、より好ましくは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上由来の構成単位とスチレン系モノマー由来の構成単位とを含むスチレン-アクリル系樹脂である。すなわち、樹脂(A)は、好ましくはアクリル系樹脂であり、より好ましくは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上由来の構成単位とスチレン系モノマー由来の構成単位とを含むスチレン-アクリル系樹脂である。
【0029】
(原料モノマーにおける各成分又は構成単位の含有量)
樹脂(A)の製造時における、上記(a1)及び(a2)成分の原料モノマー中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)、樹脂(A)中における(a1)及び(a2)成分に由来する構成単位の含有量は、顔料含有樹脂組成物を用いて得られる水分散体又は該顔料含有樹脂組成物を含有するインクにおける顔料の分散安定性を向上させる観点から、次のとおりである。
(a1)成分の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは75質量%未満、より好ましくは60質量%未満、更に好ましくは55質量%未満である。
(a2)成分の含有量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%未満、より好ましくは80質量%未満、更に好ましくは75質量%未満である。
【0030】
(アニオン性基を有する樹脂(a))
樹脂(a)のアニオン性基は、前述の樹脂(A)と同様のものが挙げられ、それらの中でも、ポリマー骨格へのアニオン性基の導入の容易性、及びモノマーの入手性の観点から、カルボキシ基(-COOM)及びその解離したイオン形(-COO-)が好ましい。
ここで、Mは前記のとおりである。
樹脂(a)を構成する原料モノマーは、前述の樹脂(A)を構成する原料モノマーと同様のものが挙げられる。
樹脂(a)は架橋後には水不溶性となるものが好ましい。樹脂(a)は合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
樹脂(a)の市販品としては、アロンAC-10SL(東亜合成株式会社製、商品名)等のポリアクリル酸;ジョンクリル(JONCRYL)67、同611、同678、同680、同690、同819(BASFジャパン株式会社製、商品名)等のスチレン-アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0031】
樹脂(a)を合成により得る場合には、前述の樹脂(A)を構成する原料モノマーを塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に特に制限はないが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、炭素数3以上5以下のケトン類、エーテル類、酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中でも、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましく、メチルエチルケトン又はそれと水との混合溶媒が好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができる。
重合開始剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;t-ブチルペルオキシオクトエート、ベンゾイルパーオキシド等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤の量は、原料モノマー1モルあたり、好ましくは0.001モル以上5モル以下、より好ましくは0.01モル以上2モル以下である。
重合連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、2-メルカプトエタノール等のメルカプタン類;チウラムジスルフィド類等の公知の連鎖移動剤を用いることができる。
また、重合モノマーの連鎖の様式に制限はなく、ランダム、ブロック、グラフト等のいずれの重合様式でもよい。
【0032】
好ましい重合条件は、使用する重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、通常、重合温度は、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは80℃以下である。重合時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、そして、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下である。また、重合雰囲気は、好ましくは窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気である。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
【0033】
樹脂(a)の酸価は、好ましくは200mgKOH/g以上、より好ましくは220mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは320mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/g以下、更に好ましくは270mgKOH/g以下である。酸価が前記の範囲であれば、静電反発力を発現するアニオン性基の量は十分であり、顔料の分散安定性が確保される。
樹脂(a)の酸価は、構成するモノマーの質量比から算出することができる。また、適当な有機溶剤(例えば、MEK)にポリマーを溶解又は膨潤させて滴定する方法でも求めることができる。
【0034】
樹脂(a)の重量平均分子量は、好ましくは2,000以上、より好ましくは5,000以上であり、そして、好ましくは20,000以下、より好ましくは18,000以下である。樹脂(a)の重量平均分子量が前記の範囲であれば、顔料への吸着力が十分であり分散安定性を発現することができる。
なお、重量平均分子量の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0035】
(架橋剤(c))
架橋剤(c)は、樹脂(a)のアニオン性基と反応する架橋性官能基を2以上有する。
架橋剤(c)としては、多官能カルボジイミド化合物、多官能オキサゾリン化合物、多官能イソシアネート化合物、多官能エポキシ化合物が挙げられる。中でも、多官能カルボジイミド化合物、多官能エポキシ化合物が好ましく、多官能エポキシ化合物がより好ましい。
【0036】
本発明で用いられる多官能エポキシ化合物は、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物である。多官能エポキシ化合物のエポキシ基の数は、効率よくアニオン性基と反応させて顔料の分散安定性及びインクの吐出性を向上させる観点から、1分子あたり2以上6以下が好ましく、反応性と経済性の両立の観点から、1分子あたり2以上4以下がより好ましい。
多官能エポキシ化合物は、顔料の分散安定性及びインクの吐出性の観点から、好ましくは分子中に2以上のグリシジルエーテル基を有する化合物であり、より好ましくは、炭素数3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物である。
多官能エポキシ化合物の水溶率は、水を主成分とする水系媒体中で効率よく樹脂(a)のアニオン性基と反応させる観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。ここで、水溶率とは、室温25℃にて水90質量部に多官能エポキシ化合物10質量部を溶解したときの溶解率(質量%)をいう。水溶率は、具体的には実施例に記載の方法により測定される。
【0037】
多官能エポキシ化合物の分子量は、反応容易性、顔料の分散安定性及びインクの吐出性の観点から、好ましくは120以上、より好ましくは150以上、更に好ましくは200以上であり、そして、好ましくは2,000以下、より好ましくは1,500以下、更に好ましくは1,000以下である。
多官能エポキシ化合物のエポキシ当量は、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは110以上であり、そして、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは150以下である。
【0038】
多官能エポキシ化合物の具体例としては、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(水溶率31質量%)、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(水溶率27質量%)、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが好ましい。
【0039】
(顔料含有樹脂組成物における質量比〔顔料/樹脂(A)〕)
顔料含有樹脂組成物における、樹脂(A)に対する顔料の質量比〔顔料/樹脂(A)〕は、顔料の分散性の向上及び粗大粒子数の低減の観点、並びにインクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは60/40以上、より好ましくは65/35以上、更に好ましくは70/30以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは85/15以下、更に好ましくは80/20以下である。
なお、本発明において、樹脂(A)に対する顔料の質量比の算出に用いる樹脂(A)の質量には塩基性化合物(b)由来の元素又は化合物の質量は含めないものとする。
【0040】
(条件2)
本発明の顔料含有樹脂組成物は、該顔料含有樹脂組成物中の揮発性物質の含有量が1質量%以下である(条件2)。揮発性物質の含有量が1質量%以下であることにより、微生物の発生が抑制され、変質を防止することができる。当該観点から、揮発性物質の含有量は、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下である。
揮発性物質の含有量は、実施例に記載の方法で測定される。
【0041】
(条件3)
顔料含有樹脂組成物の濃度が2×10-4質量%になるように顔料含有樹脂組成物を水で分散させた水分散体(α)の、動的光散乱法で測定されるキュムラント法解析で求めた平均粒径(以下、「水分散体(α)の平均粒径」ともいう)は、150nm以下である(条件3)。水分散体(α)の平均粒径が150nm以下であると、顔料含有樹脂組成物を含有するインクジェット記録用インクにおいても、動的光散乱法で測定されるキュムラント法解析で求めた平均粒径が150nm以下となり、インクの吐出性が向上する。当該観点から、水分散体(α)の平均粒径は、好ましくは140nm以下、より好ましくは130nm以下、更に好ましくは120nm以下である。
水分散体(α)の平均粒径は、実施例に記載の方法で測定される。
【0042】
(条件4)
顔料含有樹脂組成物の濃度が0.25質量%になるように顔料含有樹脂組成物を水で分散させた水分散体(β)の、個数カウント法で測定される顔料含有樹脂組成物の固形分20質量%の水分散体の1ml当たりに換算した、粒径0.5μm以上の粒子数(以下、「水分散体(β)の粒径0.5μm以上の粒子数」ともいう)は、1.00×109個以下である(条件4)。これにより、水系顔料分散体に用いた際に、顔料の分散性に優れ、かつ粗大粒子が少ない顔料含有樹脂組成物となり、該顔料含有樹脂組成物をインクジェット記録用インクに用いる場合には、インクの吐出性に優れる。当該観点から、水分散体(β)の粒径0.5μm以上の粒子数は、好ましくは5.00×108個以下、より好ましくは3.00×108個以下、更に好ましくは2.00×108個以下である。
水分散体(β)の粒径0.5μm以上の粒子数は、実施例に記載の方法で測定される。
【0043】
顔料含有樹脂組成物の濃度が0.25質量%になるように顔料含有樹脂組成物を水で分散させた水分散体(β)の、個数カウント法で測定される顔料含有樹脂組成物の固形分20質量%の水分散体の1ml当たりに換算した、粒径1μm以上の粒子数(以下、単に「水分散体(β)の粒径1μm以上の粒子数」は、好ましくは1.00×107個以下、より好ましくは5.00×106個以下、更に好ましくは3.00×106個以下である。
【0044】
[顔料含有樹脂組成物の製造方法]
本発明の顔料含有樹脂組成物は、顔料及び樹脂(A)を含有し、顔料を樹脂(A)で水系媒体に分散した水系顔料分散体(D)(以下、「水系顔料分散体(D)」ともいう)から揮発性物質を揮発させて除去する方法により製造することが好ましい。水系顔料分散体(D)を得る方法としては、樹脂(A)で顔料を分散させる方法、架橋構造を有さないアニオン性基を有する樹脂(a)で顔料を分散させてから架橋構造を形成する方法等が挙げられる。中でも、製造効率の観点から、下記の工程I及び工程IIを含む方法がより好ましい。ここで、「水系媒体」とは、水を主成分とする液体媒体を意味する。
【0045】
工程I:水と、顔料と、アニオン性基を有する樹脂(a)と、該アニオン性基を中和する塩基性化合物(b)と、該アニオン性基と反応する架橋性官能基を2以上有する架橋剤(c)とを混合分散し、水系顔料分散体(D)を得る工程
工程II:工程Iで得られる水系顔料分散体(D)を乾燥処理し、揮発性物質の含有量が1質量%以下である顔料含有樹脂組成物を得る工程
【0046】
(工程I)
工程Iは、水と、顔料と、樹脂(a)と、塩基性化合物(b)と、架橋剤(c)とを混合分散し、水系顔料分散体(D)を得る工程である。工程Iにおいて、各成分の混合順序に特に制限はないが、顔料の分散安定性の観点から、樹脂(a)で顔料を分散させた後、架橋剤(c)を添加して架橋構造を形成する方法が好ましい。樹脂(a)を用いて顔料を分散する方法としては、任意の公知の方法を用いることができる。中でも、下記工程I-1及び工程I-2を含むことが好ましい。
工程I-1:顔料、樹脂(a)、有機溶媒、塩基性化合物(b)及び水を含む顔料混合物を分散処理して顔料分散液(d)を得る工程
工程I-2:工程I-1で得られる顔料分散液(d)に架橋剤(c)を添加し、架橋処理して水系顔料分散体(D)を得る工程
【0047】
〔工程I-1〕
工程I-1では、まず、樹脂(a)を有機溶媒と混合し、次に塩基性化合物(b)、水、顔料、及び必要に応じて界面活性剤等を加えて混合して顔料混合物を得た後、該混合物を分散処理して顔料分散液(d)を得る方法が好ましい。
工程I-1で用いる有機溶媒に特に制限はないが、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、顔料への濡れ性、樹脂(a)の溶解性、及び樹脂(a)の顔料への吸着性を向上させる観点から、炭素数4以上8以下のケトンがより好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが更に好ましく、メチルエチルケトンがより更に好ましい。
樹脂(a)を溶液重合法で製造した場合には、生産性の観点から、重合反応に用いた有機溶媒を除去せずに工程I-1に樹脂(a)の有機溶媒溶液として用いてもよい。樹脂(a)の有機溶媒溶液の固形分濃度は、生産性の観点から、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0048】
(顔料混合物中の各成分の含有量)
顔料混合物中の各成分の含有量は、顔料の分散性の向上及び粗大粒子数の低減の観点、並びにインクの吐出性及び生産性の向上の観点から、以下のとおりである。
顔料混合物中の顔料の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12.5質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
顔料混合物中の樹脂(a)の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは8質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは6質量%以下である。
顔料混合物中の有機溶媒の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
顔料混合物中の水の含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
【0049】
顔料混合物中における、樹脂(a)に対する顔料の質量比〔顔料/樹脂(a)〕は、顔料の分散性の向上及び粗大粒子数の低減の観点、並びにインクの安定性の向上の観点から、好ましくは60/40以上、より好ましくは65/35以上、更に好ましくは70/30以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは85/15以下、更に好ましくは80/20以下である。
【0050】
(分散処理)
工程I-1において分散処理は、顔料の粒径や形状を整える観点、及び樹脂(a)を顔料表面に強固に吸着させ、顔料の分散性を向上させる観点から、顔料混合物に剪断応力を加えて顔料分散液(d)を得ることが好ましい。顔料混合物に剪断応力を加える方法に特に制限はない。1種の分散方法だけで顔料分散液(d)の平均粒径が所望の粒径となるまで微細化することもできるが、好ましくは顔料混合物を予備分散させた後、更に剪断応力を加えて本分散を行い、顔料分散液(d)の平均粒径が所望の粒径となるように制御することが好ましい。
工程I-1の予備分散における温度は、好ましくは0℃以上であり、そして、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは25℃以下である。
工程I-1における予備分散の分散時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは0.8時間以上であり、そして、好ましくは30時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは5時間以下である。
顔料混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができるが、中でも高速撹拌混合装置が好ましい。
【0051】
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidic社製)等の高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア分散機等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中でも、顔料を微細化する観点から、メディア分散機が好ましい。
市販のメディア分散機としては、ウルトラアペックスミル(株式会社広島メタル&マシナリー製)、ピコミル(淺田鉄工株式会社製)等が挙げられる。
【0052】
メディア分散機を用いる場合、分散メディア粒子の材質としては、ジルコニア、チタニア等のセラミックス;ポリエチレン、ナイロン等の高分子材料;金属等が好ましく、摩耗性の観点からジルコニアが好ましい。分散メディア粒子の直径は、顔料粒子への過大な損傷の付与を抑制しつつ、顔料の粒径や形状を整える観点、及び樹脂(a)を顔料表面に強固に吸着させ、顔料の分散性を向上させる観点から、好ましくは0.1mm以下、より好ましくは0.07mm以下であり、そして、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.03mm以上である。
メディア分散機の回転数は、製造効率の観点から、好ましくは1,000rpm以上、より好ましくは2,000rpm以上であり、そして、好ましくは5000rpm以下、より好ましくは3,000rpm以下である。
メディア分散機は、循環方式、連続方式のいずれも採用することができるが、生産効率の観点から、循環方式が好ましい。
工程I-1の本分散の温度は、好ましくは0℃以上であり、そして、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは25℃以下である。
工程I-1の本分散の分散時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは0.8時間以上であり、そして、好ましくは30時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは5時間以下である。
【0053】
工程I-1により得られる顔料分散液(d)は、分散処理した後、更に分散処理物から有機溶媒を除去して得ることが好ましい。有機溶媒を除去する方法としては公知の方法を用いることができる。得られる顔料分散液(d)中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散処理物を加熱撹拌処理することもできる。
ここで、顔料分散液(d)は、少なくとも顔料と樹脂(a)により粒子が形成された顔料含有樹脂(a)粒子の水分散体であることが好ましい。顔料含有樹脂(a)粒子の形態は、例えば、樹脂(a)に顔料が内包された粒子形態、樹脂(a)中に顔料が均一に分散された粒子形態、樹脂(a)の粒子表面に顔料が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
【0054】
〔工程I-2〕
工程I-2は、工程I-1で得られる顔料分散液(d)に架橋剤(c)を添加し、架橋処理して水系顔料分散体(D)を得る工程である。
本発明においては、顔料含有樹脂組成物を用いて得られる水分散体又は該顔料含有樹脂組成物を含有するインクにおける顔料の安定性を高める観点、及び顔料含有樹脂組成物をインクジェット記録用インクに用いる場合にはインクの吐出性を向上させる観点から、工程1-2で用いる架橋剤(c)は、前述のとおり、好ましくは多官能エポキシ化合物である。これにより、アニオン性基を有する樹脂(a)のアニオン性基の一部と多官能エポキシ化合物とが反応し、架橋構造が形成される。
【0055】
(架橋処理)
架橋処理の温度は、反応の完結と経済性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下である。
架橋処理の時間は、反応の完結と経済性の観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、そして、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下である。
樹脂(A)の架橋度は、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である。架橋度は、架橋剤(c)の架橋性官能基のモル数を、樹脂(a)が有する架橋剤(c)と反応できるアニオン性基のモル数で除したものである。
【0056】
架橋処理は、顔料分散液(d)の固形分濃度が5質量%以上50質量%以下の範囲で行うことが好ましい。5質量%以上であると生産効率が向上し、50質量%以下であると顔料の凝集を抑制することができる。当該観点から、架橋処理は、顔料分散液(d)の固形分濃度が、より好ましくは10%以上、更に好ましくは15%以上であり、そして、より好ましくは40%以下、更に好ましくは30%以下の範囲で行うことが好ましい。
また、架橋処理は、顔料分散液(d)の分散媒中の揮発性有機溶媒の含有量が5質量%以下の範囲で行うことが好ましい。これにより、顔料の凝集を抑制することができる。当該観点から、架橋処理は、顔料分散液(d)の分散媒中の揮発性有機溶媒の含有量が、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下の範囲で行うことが好ましく、分散媒として水100質量%で行うことが好ましい。
【0057】
工程Iで得られる水系顔料分散体(D)は、顔料が樹脂(A)により水を主成分とする水系媒体中に分散されてなる。
ここで、水系顔料分散体(D)の形態は特に制限はなく、少なくとも顔料と樹脂(A)により粒子が形成されていることが好ましい。例えば、樹脂(A)に顔料が内包された粒子形態、樹脂(A)中に顔料が均一に分散された粒子形態、樹脂(A)の粒子表面に顔料が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
【0058】
(水系顔料分散体(D)の平均粒径)
水系顔料分散体(D)の平均粒径は、インクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは70nm以上であり、そして、好ましくは150nm以下、より好ましくは140nm以下、更に好ましくは130nm以下、より更に好ましくは120nm以下である。
水系顔料分散体(D)の平均粒径は、固形分濃度が2×10-4質量%になるように水系顔料分散体(D)を水で希釈し動的光散乱法により測定されるキュムラント法解析で求めた平均粒径を意味する。具体的には実施例に記載の方法により測定される。
【0059】
(工程II)
工程IIは、工程Iで得られる水系顔料分散体(D)を乾燥処理して、揮発性物質の含有量が1質量%以下である顔料含有樹脂組成物を得る工程である。
工程Iで得られる水系顔料分散体(D)には、水、及び必要に応じて用いられる有機溶媒等の揮発性物質が含まれる。そこで、工程IIにより、水系顔料分散体(D)に含まれる揮発性物質が除去され、揮発性物質の含有量が1質量%以下である固体の顔料含有樹脂組成物が得られる。乾燥処理は、顔料含有樹脂組成物中の揮発性物質の含有量が、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下となるまで行うことが好ましい。
顔料含有樹脂組成物中の揮発性物質の含有量は、実施例に記載の方法により測定される。
【0060】
乾燥処理としては、例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥、熱風乾燥、送風乾燥、真空又は減圧乾燥、遠赤外線加熱乾燥、除湿空気乾燥等が挙げられる。乾燥処理は、市販の任意の装置を用いることができる。これらの中でも、顔料の分散安定性及びインクの吐出性の観点から、凍結乾燥又は噴霧乾燥が好ましく、顔料や樹脂(A)の熱による劣化を抑制する観点、及び顔料の凝集を抑制する観点から、凍結乾燥が好ましい。
噴霧乾燥は、例えば、噴霧乾燥装置内で水系顔料分散体(D)を噴霧し、例えば入口温度200℃以下、出口温度110℃以下にて乾燥させることが好ましい。
凍結乾燥は、水系顔料分散体(D)を予備凍結させた後、1次乾燥及び2次乾燥を行うことが好ましい。
予備凍結は、好ましくは、常圧下、-40℃以上-20℃以下の温度で急速凍結することが好ましい。そして、好ましくは0.1Pa以上100Pa以下の真空下、かつ-20℃以上-5℃以下の温度で予備凍結物中の氷を昇華させる1次乾燥を行い、次いで0.1Pa以上100Pa以下の真空下、かつ20℃以上40℃以下の温度に昇温して2次乾燥を行うことが好ましい。
工程IIにおいては、更に、乾燥処理後に得られる着色固形物を粉砕処理する工程を有してもよい。
【0061】
(平均粒径比〔水分散体(α)/水系顔料分散体(D)〕)
水系顔料分散体(D)の平均粒径に対する顔料含有樹脂組成物を水で分散させた水分散体(α)の平均粒径の比(以下、「平均粒径比〔水分散体(α)/水系顔料分散体(D)〕」ともいう)は、好ましくは2以下である。平均粒径比〔水分散体(α)/水系顔料分散体(D)〕は、再分散性の指標であり、該平均粒径比が2以下であると、再分散性に優れ、インクの吐出性を向上させることができる。当該観点から、平均粒径比〔水分散体(α)/水系顔料分散体(D)〕は、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.3以下、より更に好ましくは1.1以下である。
【0062】
本発明の顔料含有樹脂組成物は、顔料の分散性に優れ、粗大粒子数が低減されているため、良好な印刷物を得ることができ、フレキソ印刷インキ、グラビア印刷インキ、インクジェット記録用インク等の印刷用インクに好適に用いることができる。また、インクジェット記録におけるインクの吐出性に優れるため、特にインクジェット記録用インクに用いることが好ましい。
前記印刷用インクには、必要に応じて、界面活性剤、湿潤剤、浸透剤、粘度調整剤、消泡剤、防黴剤、防錆剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤を添加することができる。
本発明の顔料含有樹脂組成物を印刷用インクに用いる場合は、顔料含有樹脂組成物に液体化合物を添加、混合して製造することが好ましい。液体化合物の具体例としては、水、有機溶媒、界面活性剤、殺菌剤等が挙げられる。
【0063】
[インクジェット記録用インク]
本発明のインクジェット記録用インク(以下、「インクジェット記録用インク」ともいう)は、前記顔料含有樹脂組成物を含有する。
インクジェット記録用インク中の顔料の含有量は、インクの印刷濃度を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上であり、そして、液体媒体揮発時のインクの増粘を抑制し、インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましく7質量%以下である。
インクジェット記録用インクにおける、樹脂(A)に対する顔料の質量比〔顔料/樹脂(A)〕は、インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、好ましくは60/40以上、より好ましくは65/35以上、更に好ましくは70/30以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは85/15以下、更に好ましくは80/20以下である。
【0064】
インクジェット記録用インクは、水系インクであっても非水系インクであってもよい。
また、インクジェット記録用インクは、液体化合物として重合性化合物を含むことにより、紫外線、電子線等の活性エネルギー線の照射により硬化する硬化系インクとして用いることもできる。
インクジェット記録用インクは、インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、水を含有することが好ましく、水系インクであることがより好ましい。本明細書において「水系インク」とは、インクにおいて水の質量比が液体媒体中で最も高いことを意味する。
インクジェット記録用インク中の水の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0065】
インクジェット記録用インク中での顔料及び樹脂(A)の存在形態は、樹脂(A)が顔料に吸着している状態、樹脂(A)が顔料を含有している顔料内包(カプセル)状態、及び樹脂(A)が顔料を吸着していない形態があり、これらの中から選ばれる1種単独の形態であってもよく、2種以上の形態が混在する状態であってもよい。
【0066】
インクジェット記録用インクは、インク媒体の蒸発を抑制し、インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、液体媒体として、水に加えて更に水溶性有機溶媒(B)を含有することが好ましい。
水溶性有機溶媒(B)は、沸点90℃以上の有機溶媒を1種以上含むことが好ましい。
インク中に含まれる水溶性有機溶媒(B)の沸点の加重平均値は、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下、更に好ましくは220℃以下、より更に好ましくは200℃以下である。
水溶性有機溶媒(B)としては、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物等が挙げられる。これらの中でも、多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、及びジエチレングリコールジエチルエーテルから選ばれる1種以上がより好ましく、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、グリセリン、トリエチレングリコール、及びトリメチロールプロパンから選ばれる1種以上が更に好ましい。
インクジェット記録用インク中の水溶性有機溶媒(B)の含有量は、インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは47質量%以下、更に好ましくは43質量%以下である。
【0067】
インクジェット記録用インクは、インクの印刷媒体に対する濡れ広がり性を向上させる観点から、界面活性剤(C)を含有することが好ましい。界面活性剤(C)としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。中でも、非イオン性界面活性剤が好ましい。
非イオン性界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤から選ばれる1種以上が好ましく、シリコーン系界面活性剤がより好ましい。
インクジェット記録用インク中の界面活性剤(C)の含有量は、インクの印刷媒体に対する濡れ広がり性を向上させる観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0068】
[インクジェット記録用インクの製造方法]
インクジェット記録用インクは、前述の工程I及び工程IIに加えて、更に下記工程IIIを含む方法により、製造することが好ましい。
工程III:工程IIで得られる顔料含有樹脂組成物と液体化合物とを混合して、インクジェット記録用インクを得る工程
工程IIIにおける液体化合物は、前述のとおり、水、水溶性有機溶媒(B)、界面活性剤(C)、殺菌剤等が挙げられ、好ましくは水であり、より好ましくは水及び水溶性有機溶媒(B)である。液体化合物は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
工程IIIにおいて混合方法は任意の公知の手法をとることができる。
混合温度は、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、そして、好ましくは40℃以下である。
界面活性剤、殺菌剤、又は保湿剤が固体の場合は、水等に溶解させ、液体状態にしてから顔料含有樹脂組成物と混合することが好ましい。
【0069】
インクジェット記録用インクの平均粒径は、好ましくは150nm以下である。該平均粒径が150nm以下であると、300nm程度の粗大粒子数を低減することができ、インクの吐出性を向上させることができる。当該観点から、インクの平均粒径は、より好ましくは140nm以下、更に好ましくは130nm以下である。インクの平均粒径は、固形分濃度が2×10-4質量%になるようにインクジェット記録用インクを水で希釈し、動的光散乱法により測定されるキュムラント法解析で求めた平均粒径である。具体的には、実施例に記載の水系顔料分散体(D)の平均粒径と同様の方法で測定することができる。
【0070】
インクジェット記録用インクにおいて、固形分濃度が0.25質量%になるようにインクジェット記録用インクを水で希釈し、個数カウント法により測定されるインクの有姿の状態に換算した、1mL当たりの粒径0.5μm以上の粒子数は、インクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは5.00×107個以下、より好ましくは3.00×107個以下である。
【0071】
(インクジェット記録用インク物性)
インクジェット記録用インクの32℃の粘度は、インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更に好ましくは5mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9mPa・s以下、更に好ましくは7mPa・s以下である。前記粘度は、実施例に記載の方法で測定される。
インクジェット記録用インクのpHは、インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、好ましくは7以上、より好ましくは7.2以上、更に好ましくは7.5以上である。また、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、好ましくは11以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは9.5以下である。前記pHは、実施例に記載の方法で測定される。
【0072】
[インクジェット記録方法]
インクジェット記録用インクは、公知のインクジェット記録装置に装填し、印刷媒体にインク液滴として吐出させて画像等を記録することができる。
インクジェット記録装置としてはサーマル式及びピエゾ式があるが、ピエゾ式のインクジェット記録用インクとして用いることがより好ましい。
用いることができる印刷媒体としては、高吸水性の普通紙、低吸水性のコート紙、樹脂フィルムが挙げられる。コート紙としては、汎用光沢紙、多色フォームグロス紙等が挙げられる。樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等が挙げられる。
【実施例】
【0073】
以下の実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。
【0074】
(1)樹脂(a)の重量平均分子量の測定
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolum Super AW-H)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製〕を用いて測定した。
測定試料は、ガラスバイアル中に樹脂(a)0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(DISMIC-13HP PTFE 0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0075】
(2)水系顔料分散体(D)の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いて、動的光散乱法により粒径を測定し、キュムラント法解析により算出した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定サンプルには、水系顔料分散体(D)をスクリュー管(マルエム株式会社製No.5)に計量し、固形分濃度が2×10-4%になるように水を加えてマグネティックスターラーを用いて25℃で1時間撹拌したものを用いた。
【0076】
(3)固形分濃度の測定
赤外線水分計「FD-230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させた後、測定試料の水分(%)を測定し、下記式により固形分濃度を算出した。
固形分濃度(%)=100-(測定試料の水分(%))
【0077】
(4)揮発性物質の含有量の測定
直径10mmのガラスシャーレに顔料含有樹脂組成物を10.0g量り取り、質量を測定した。その後、40℃で12時間放置し、再度質量を測定した。放置前後の質量の差分を放置前のサンプル質量で除して揮発性物質の含有量とした。
【0078】
(5)多官能エポキシ化合物の水溶率の測定
室温25℃にてイオン交換水90質量部及び多官能エポキシ化合物10質量部をガラス管(25mmφ×250mmh)に添加し、該ガラス管を水温25℃に調整した恒温槽中で1時間静置した。次いで、該ガラス管を1分間激しく振とうした後、再び恒温槽中で10分間静置した。次いで、未溶解物を秤量し、水溶率(質量%)を算出した。
【0079】
(6)インクの粘度の測定
E型粘度計(東機産業株式会社製、型番:TV-25、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)にて32℃におけるインクの粘度を測定した。
【0080】
(7)インクのpHの測定
pH電極「6337-10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F-71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、20℃におけるインクのpHを測定した。
【0081】
<顔料含有樹脂組成物の製造>
実施例1-1
(工程I)
(工程I-1)
ガラス製容器に樹脂(a)としてスチレン-アクリル共重合体(商品名:ジョンクリル(JONCRYL)690、重量平均分子量:16,500、酸価:240mgKOH/g、BASF社製)25部をメチルエチルケトン(富士フイルム和光純薬株式会社製 試薬)(以下、「MEK」ともいう)78.6部と混合し、更に塩基性化合物(b)として5N水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム固形分16.9%、富士フイルム和光純薬株式会社製、容量滴定用)5.1部を加え、樹脂(a)のアニオン性基のモル数に対する水酸化ナトリウムのモル数の割合が20%になるように中和した(中和度20モル%)。更にイオン交換水400部を加え、その中にブラック顔料(カーボンブラック、商品名:MONARCH 717、キャボット製)75部を加え、顔料混合物を得た。
得られた顔料混合物をディスパー(商品名:ウルトラディスパー、淺田鉄工株式会社製)を用いて、20℃でディスパー翼を7,000rpmで回転させる条件で60分間撹拌して予備分散を行った後、ビーズ径0.05mmのジルコニアビーズ(商品名:YTZボール、株式会社ニッカトー)を充填率85%となるように充填したウルトラアペックスミル(型式:UAM-05、広島メタル&マシナリー社製)を用いて回転数2,350rpmで1時間本分散を行った。この時円筒容器(ベッセル)内の温度は10℃以上15℃以下になるように調整した。次いで、ロータリーエバポレータを用いて、減圧下、60℃でMEKを除去し、更に一部の水を除去して固形分を測定し、イオン交換水を加えて20%に調整し、顔料分散液(d1)を得た。
(工程I-2)
得られた顔料分散液(d1)のうち100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、架橋剤(c)としてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX-321、エポキシ当量:140、水溶率27質量%、ナガセケムテックス株式会社製)(以下、「EX-321」ともいう)を0.96部加えて密栓し、マグネティックスターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。次いで、室温まで降温し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、イオン交換水を加えて固形分濃度が20%になるように調整し、水系顔料分散体(D1)を得た。
【0082】
(工程II)
凍結乾燥機(型式:FDU-2110、東京理化器械株式会社製)に接続したドライチャンバー(型式:DRC-1000、東京理化器械株式会社製)に工程Iで得られた水系顔料分散体(D1)100gを入れ、予備凍結(常圧、-25℃、1時間)、1次乾燥(5Pa、-10℃、9時間)、2次乾燥(5Pa、25℃、5時間)を行い、凍結乾燥した。得られた着色固形物を粉砕し、顔料含有樹脂組成物1を得た。
【0083】
実施例1-2
実施例1-1において、ブラック顔料75部の代わりにシアン顔料(PB15:3、商品名:CFB6338JC、大日精化工業株式会社製)75部を用いて同様の手順で水系顔料分散体(D2)を得た以外は同様にして顔料含有樹脂組成物2を得た。
【0084】
実施例1-3
実施例1-1において、ブラック顔料75部の代わりにマゼンタ顔料(PR122、商品名:CFR6114JC、大日精化工業株式会社製)75部を用いて同様の手順で水系顔料分散体(D3)を得た以外は同様にして顔料含有樹脂組成物3を得た。
【0085】
実施例1-4
実施例1-1において、ブラック顔料75部の代わりにイエロー顔料(PY74、商品名:FY7414、山陽色素株式会社製)75部を用いて同様の手順で水系顔料分散体(D4)を得た以外は同様にして顔料含有樹脂組成物4を得た。
【0086】
実施例1-5
実施例1-1の工程1において、ブラック顔料75部の代わりにブルー顔料(PB60、商品名:Paliogen Blue L6482、BASF社製))75部を用いて同様の手順で水系顔料分散体(D5)を得た以外は同様にして顔料含有樹脂組成物5を得た。
【0087】
比較例1-1
実施例1-1の工程I-1と同様の操作を行い顔料分散液(d1)を得た後、工程I-2を行わずに実施例1-1の工程IIにおいて水系顔料分散体(D1)に代えて顔料分散液(d1)を用いて顔料含有樹脂組成物C1を得た。
【0088】
比較例1-2
実施例1-1の工程Iにおいて、ビーズ径0.05mmのジルコニアビーズの代わりにビーズ径0.3mmのジルコニアビーズ(商品名:YTZボール、株式会社ニッカトー製)を用いて同様の手順で水系顔料分散体(DC2)を得た以外は同様にして顔料含有樹脂組成物C2を得た。
【0089】
比較例1-3
実施例1-2の工程Iにおいて、ビーズ径0.05mmのジルコニアビーズの代わりにビーズ径0.3mmのジルコニアビーズ(商品名:YTZボール、株式会社ニッカトー製)を用いて同様の手順で水系顔料水分散体(DC3)を得た以外は同様にして顔料含有樹脂組成物C3を得た。
【0090】
比較例1-4
(工程I’)
(工程I’-1)
ガラス製容器に樹脂(a)としてスチレン-アクリル共重合体(商品名:ジョンクリル(JONCRYL)690、重量平均分子量:16,500、酸価:240mgKOH/g、BASF社製)25部をMEK78.6部と混合し、更に塩基性化合物(b)として5N水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム固形分16.9%、和光純薬工業株式会社製、容量滴定用)5.1部を加え、樹脂(a)のアニオン性基のモル数に対する水酸化ナトリウムのモル数の割合が20%になるように中和した(中和度20モル%)。更にイオン交換水400部を加え、その中にブラック顔料(カーボンブラック、商品名:MONARCH 717、キャボット社製)75部を加え、顔料混合物を得た。
得られた顔料混合物をディスパー(商品名:ウルトラディスパー、淺田鉄工株式会社製、)を用いて、20℃でディスパー翼を7,000rpmで回転させる条件で60分間撹拌した後、ロータリーエバポレータを用いて、減圧下、60℃でMEKを完全に除去し、更に一部の水を除去して固形分を測定し、イオン交換水を加えて20%に調整し、顔料分散液(dC4)を得た。
得られた顔料分散液(dC4)のうち100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、架橋剤(c)としてEX-321を0.96部加えて密栓し、マグネティックスターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。5時間経過後、室温まで降温し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、固形分濃度が20%の水系顔料分散体(DC4)を得た。
【0091】
(工程II)
実施例1-1の工程IIにおいて水系顔料分散体(D1)に代えて水系顔料分散体(DC4)を用いて顔料含有樹脂組成物C4を得た。
【0092】
比較例1-5
比較例1-4において、ブラック顔料75部の代わりにシアン顔料(PB15:3、商品名:CFB6338JC、大日精化工業株式会社製)75部を用いて同様の手順で水系顔料分散体(DC5)を得た以外は同様にして顔料含有樹脂組成物C5を得た。
【0093】
(水分散体(α)の動的光散乱法による平均粒径の測定)
実施例及び比較例で得られた各顔料含有樹脂組成物と水とを、固形分濃度が2×10-4%になるようにスクリュー管(型番:No.5、マルエム株式会社製)に計量し、マグネティックスターラーを用いて25℃で1時間撹拌し、各水分散体(α)を得た。得られた水分散体(α)を用いて、レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いて、動的光散乱法により粒径を測定し、キュムラント法解析を行い、平均粒径を算出した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
顔料の分散性に優れるほど水分散体(α)の平均粒径が小さくなる傾向にある。また、前述の水系顔料分散体(D)の平均粒径に対する水分散体(α)の平均粒径の比〔水分散体(α)/水系顔料分散体(D)〕が1に近いほど再分散性に優れる。結果を表1に示す。
【0094】
(個数カウント法による粒径0.5μm以上又は1μm以上の粒子数の測定)
実施例及び比較例で得られた各顔料含有樹脂組成物と水とを、固形分濃度が0.25%になるようにスクリュー管(型番:No.5、マルエム株式会社製)に計量し、マグネティックスターラーを用いて25℃で1時間撹拌し、各水分散体(β)を得た。得られた水分散体(β)を、5mLシリンジを用いて「アキュサイザー780APSシステム」(株式会社ピーエスエスジャパン製)に注入して、測定温度25℃にて粒子数を測定した。
粒子数は、顔料含有樹脂組成物の固形分20%の水分散体1mlに当たりに換算した、0.5μm以上の粒子数と、1.0μm以上の粒子数として算出した。これらの粒子数の値が小さいほど、粗大粒子が少なく、インクジェット記録用インクの吐出性に優れる。結果を表1に示す。
【0095】
なお、表1中の各表記は以下のとおりである。
CB:ブラック顔料(カーボンブラック、商品名:MONARCH 717、キャボット製)
PB15:3:シアン顔料(PB15:3、商品名:CFB6338JC、大日精化工業株式会社製)
PR122:マゼンタ顔料(PR122、商品名:CFR6114JC、大日精化工業株式会社製)
PY74:イエロー顔料(PY74、商品名:FY7414、山陽色素株式会社製)
PB60:ブルー顔料(PB60、商品名:Paliogen Blue L6482、BASF社製)
*1:顔料含有樹脂組成の固形分20%の水分散体1ml当たりに換算した、0.5μm以上の粒子数
*2:顔料含有樹脂組成物の固形分20%の水分散体1ml当たりに換算した、1.0μm以上の粒子数
【0096】
【0097】
表1より、実施例の顔料含有樹脂組成物は、比較例のものと比較して、顔料の分散性に優れ、粗大粒子数が低減されていることが分かる。
【0098】
(微生物の繁殖)
実施例1-1~1-5及び比較例1-1~1-5で得られた各顔料含有樹脂組成物を40℃で1か月保存した後、微生物の繁殖の有無について、顔料含有樹脂組成物の外観を目視により確認し、更に臭気の有無を確認した。
実施例1-1~1-5及び比較例1-1~1-5で得られた顔料含有樹脂組成物は、殺菌剤の成分を含有していないのにもかかわらず、40℃で1か月保存しても外観に変化はなく、異常な臭いの発生も無いことを確認した。
【0099】
<インクジェット記録用インクの製造>
実施例2-1
(工程III)
実施例1-1で得られた顔料含有樹脂組成物1 8.3g、水溶性有機溶媒(B)としてプロピレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)35.0g及びジエチレングリコールモノブチルエーテル(富士フイルム和光純薬工業株式会社製、試薬)5.0g、シリコーン系界面活性剤(商品名:KF6011、信越化学工業株式会社製、ポリエーテル変性シリコーン)0.50g、及びイオン交換水51.2gをガラス容器に加えてマグネティックスターラーで1時間撹拌した後、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、インクジェット記録用インクI1を得た。
【0100】
実施例2-2~2-5及び比較例2-1~2-5
実施例2-1において、実施例1-1で得られた顔料含有樹脂組成物1に代えて実施例1-2~1-5で得られた顔料含有樹脂組成物2~5及び比較例1-1~1-5で得られた顔料含有樹脂組成物C1~C5をそれぞれ用いた以外は実施例2-1と同様の手順でインクジェット記録用インクI2~I5及びIC1~IC5を得た。
【0101】
<インクジェット記録用インクの評価>
(吐出性)
温度25±1℃、相対湿度50±5%の環境で、インクジェットプリンター(株式会社リコー製、型番:SG-2010L、ピエゾ方式)に実施例及び比較例で得られたインクジェット記録用インクを装填し、普通紙に10cm×10cmのベタ印刷を行った。次いでプリンターにインクを充填したまま、インクジェットノズル面を保護することなく30分放置した後、同様の印刷を行い印字部の欠けの有無及び放置前の画質との比較を目視にて確認し、以下の評価基準で吐出性を評価した。結果を表2に示す。
〔評価基準〕
3:印字部の欠けは見られず、画質の悪化も確認されなかった。
2:印字部の欠けは見られるが、画質の悪化は確認されず、実用上使用できる。
1:印字部の欠けが見られ、画質が顕著に悪化し、実用上使用できない。
【0102】
(再分散性)
実施例および比較例で得られたインクジェット記録用インクを、マイクロピペットを用いてスライドグラス上に10μL滴下し、60℃40%RHの環境下で24時間放置し、該インクを蒸発乾固させて固形物を得た。
別途、プロピレングリコール35.0g、ジエチレングリコールモノブチルエーテル5.0g、シリコーン系界面活性剤(KF6011)0.50g、及びイオン交換水51.2gをガラス容器に加えてマグネティックスターラーで1時間撹拌し、再分散性評価用のインクビヒクルを調製した。
上記で得られたスライドグラス上の固形物に、前記インクビヒクルを200μL滴下し、該固形物の再分散性を目視で観察し、下記の評価基準で評価した。結果を表2に示す。
〔評価基準〕
3:固形物が均一に再分散した。
2:固形物が再分散したが、残渣があった。
1:固形物が再分散しなかった。
【0103】
【0104】
表2より、実施例のインクジェット記録用インクは、比較例のものと比較して、吐出性に優れることが分かる。また、実施例のインクジェット記録用インクは、比較例のものと比較して、再分散性にも優れるため、インクが固化した場合であっても、インクビヒクルにより速やかに再分散することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の顔料含有樹脂組成物は、微生物の発生による変質のおそれがなく、顔料の分散性に優れ、かつ粗大粒子が少ないため、良好な印刷物を得ることができ、フレキソ印刷インキ、グラビア印刷インキ、インクジェット記録用インク等の印刷用インクに好適に用いることができる。また、インクジェット記録におけるインクの吐出性に優れるため、特にインクジェット記録用インクに用いることができる。