(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】産業用機械の振動抑制構造
(51)【国際特許分類】
B23Q 1/00 20060101AFI20230209BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230209BHJP
B23Q 1/01 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
B23Q1/00 U
F16F15/02 S
B23Q1/01 H
(21)【出願番号】P 2019057085
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】浜口 顕秀
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-312234(JP,A)
【文献】特開昭63-047535(JP,A)
【文献】実開昭59-149093(JP,U)
【文献】再公表特許第2018/078891(JP,A1)
【文献】特開昭51-036686(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0042424(US,A1)
【文献】特開2003-062735(JP,A)
【文献】特開平05-228707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/00 - 1/76
B23Q 11/00
B23B 27/00 - 27/24
B24B 41/00
F16F 15/00 - 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部を有する構造体を含む産業用機械の振動抑制構造であって、
前記構造体に2つの中空部が隔壁を介して並んで形成されており、前記構造体の前記
2つの中空部に、前記構造体を形成する材料よりも高い振動減衰性を有する減衰材が、前記
両中空部内に
それぞれ前記減衰材の熱膨張を吸収しうる膨張吸収空間を残した状態で充填されて
おり、前記構造体における前記両中空部を外部から隔てる壁の少なくとも一部が、それぞれ変形が抑制されることが要求される変形抑制面部が外面に設けられた変形抑制壁部となっており、前記変形抑制壁部の内面の少なくとも一部が、前記膨張吸収空間に臨んでいることを特徴とする産業用機械の振動抑制構造。
【請求項2】
前記構造体における前記両中空部を外部から隔てる壁に、それぞれ前記膨張吸収空間を前記構造体の外部に通じさせる貫通穴が形成されている請求項1記載の産業用機械の振動抑制構造。
【請求項3】
前記両中空部における前記隔壁を挟んで反対側の位置に、前記減衰材が前記両中空部における前記隔壁寄りの部分に当該隔壁と密着するように充填されており、当該減衰材と前記変形抑制壁部との間に前記膨張吸収空間が形成されている請求項2記載の産業用機械の振動抑制構造。
【請求項4】
前記隔壁に前記両中空部を相互に通じさせる連通穴が形成されている請求項3記載の産業用機械の振動抑制構造。
【請求項5】
前記膨張吸収空間に圧縮性物体が入っている請求項1~4のうちのいずれかに記載の産業用機械の振動抑制構造。
【請求項6】
前記減衰材が、固化する材料からなる請求項1~5のうちのいずれかに記載の産業用機械の振動抑制構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば工作機械のように、中空部を有する構造体を含んでおり、かつ高剛性、低熱膨張性でありながら、高振動減衰性も要求される産業用機械において、特殊な装置や制御を用いることなく、それらの要求される特性を得られる振動抑制構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械のような産業用機械において、要求される加工精度が満たすことができるように、産業用機械を構成する構造体には部品精度が高く高剛性な金属材料が用いられることが多かった。
【0003】
一方で、一般的に金属材料の振動減衰性はレジンコンクリート(以下、RECと称する)等に比べて低いので、高い振動減衰性が必要な場合には、材料を振動減衰性の高い素材に変更して、産業用機械を構成する構造体を製作することがある。しかしながら、RECの場合、金属に比べて剛性が低い、高い部品精度が出し難い、線膨張係数が大きいといった点が課題の一つとなっている。
【0004】
これまでに、それらの課題を解決した上でRECを活用して、その高い振動減衰性を利用するために、たとえば特許文献1のように、芯金構造部の周囲にRECを充填させる方法や、特許文献2のように、金属等で構成された小部屋にRECを充填させる方法などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭58-102638
【文献】特開昭62-84943
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2の方法では、高剛性を保有しつつ高い振動減衰性を得られる可能性が高いものの、構造体の全域にわたり線膨張係数が大きいRECが構造体同士の接触面まで充填されているため、温度変化が生じた際にRECが金属よりも大きく膨張して構造体の外形が変形することがあり、当該構造体が接している他の構造体に比較的大きな力が加わる。その結果、前記他の構造体に傾きが発生したり、従来よりも大きな熱変形が生じたりする短所がある。また、金属とRECとで比熱や熱伝導率が異なることから、予測が難しい複雑な熱変形を生じ、制御による熱変位の補正も難しくなるといった短所もある。
【0007】
そこで、本発明は上記問題に鑑みなされたものであって、RECの熱特性が機械に与える悪影響を抑えつつ、その高減衰性による振動抑制効果を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、中空部を有する構造体を含む産業用機械の振動抑制構造であって、
前記構造体に2つの中空部が隔壁を介して並んで形成されており、前記構造体の前記2つの中空部に、前記構造体を形成する材料よりも高い振動減衰性を有する減衰材が、前記両中空部内にそれぞれ前記減衰材の熱膨張を吸収しうる膨張吸収空間を残した状態で充填されており、前記構造体における前記両中空部を外部から隔てる壁の少なくとも一部が、それぞれ変形が抑制されることが要求される変形抑制面部が外面に設けられた変形抑制壁部となっており、前記変形抑制壁部の内面の少なくとも一部が、前記膨張吸収空間に臨んでいることを特徴とする産業用機械の振動抑制構造である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記構造体における前記両中空部を外部から隔てる壁に、それぞれ前記膨張吸収空間を前記構造体の外部に通じさせる貫通穴が形成されている産業用機械の振動抑制構造である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記両中空部における前記隔壁を挟んで反対側の位置に、前記減衰材が前記両中空部における前記隔壁寄りの部分に当該隔壁と密着するように充填されており、当該減衰材と前記変形抑制壁部との間に前記膨張吸収空間が形成されている産業用機械の振動抑制構造である。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記隔壁に前記両中空部を相互に通じさせる連通穴が形成されている産業用機械の振動抑制構造である。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1~4うちのいずれかに記載の発明において、前記膨張吸収空間に圧縮性物体が入っている産業用機械の振動抑制構造である。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1~5のうちのいずれかに記載の発明において、前記減衰材が、固化する材料からなる産業用機械の振動抑制構造である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1~6に記載の発明によれば、前記構造体に2つの中空部が隔壁を介して並んで形成されており、前記構造体の前記2つの中空部に、前記構造体を形成する材料よりも高い振動減衰性を有する減衰材が、前記両中空部内にそれぞれ前記減衰材の熱膨張を吸収しうる膨張吸収空間を残した状態で充填されているので、温度上昇が生じた際に、前記構造体よりも線膨張係数の高い前記減衰材が膨張したとしても、前記減衰材の膨張が膨張吸収空間において吸収される。したがって、前記両中空部を前記構造体の外部から隔てる壁のうちの少なくとも一部が外側に膨らむように変形することが抑制される。
【0015】
また、前記構造体における前記両中空部を外部から隔てる壁の少なくとも一部であり、かつ外面に、変形が抑制されることが要求される変形抑制面部が設けられた変形抑制壁部の外側に膨らむような変形が抑制される。したがって、変形抑制面部を、たとえば産業用機械の他の構造体に接する面としておけば、当該他の構造体が変形抑制部により比較的大きな力で押されることを防止することができる。その結果、振動抑制構造が設けられた構造体、および当該構造体の変形抑制面部に接する他の構造体の変形が防止され、両者に、傾きや複雑な熱変形が生じることでの精度悪化をなくすことができる。さらに、前記構造体には剛性の高い金属材料が使われるが、減衰材はそれよりも剛性が低いため、膨張しても構造体が大きく変形することなく、内部の減衰材の変形が膨張吸収空間に吸収されるので、減衰材の熱特性による精度などへの悪影響を抑えつつ高い減衰性を持たせることで、産業用機械に、従来と同様の加工精度を保たせながら高い加工能力を与えることが可能となる。
【0016】
さらに、外面に変形抑制面部が設けられた変形抑制壁部の外側に膨らむような変形が効果的に抑制される。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、減衰材を、構造体の中空部内に膨張吸収空間を残した状態で、比較的簡単に充填することができる。
【0018】
請求項3に記載された発明によれば、たとえば減衰材が固化したレジンコンクリートからなる場合、構造体を、一方の変形抑制壁部が上方に来るとともに他方の変形抑制壁部が下方に来るような姿勢にしておき、この姿勢で上側に位置する貫通穴を通して固化する前の減衰材を上側に位置する一方の中空部内に流入させて固化させた後に、構造体を上下逆向きの姿勢にし、この姿勢で上側の貫通穴を通して固化する前の減衰材を他方の中空部内に流入させて固化させることにより、各中空部内に、減衰材を、減衰材の熱膨張を吸収しうる膨張吸収空間を残した状態で充填することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、たとえば減衰材が固化したレジンコンクリートからなる場合、構造体を、一方の変形抑制壁部が上方に来るとともに他方の変形抑制壁部が下方に来るような姿勢にしておき、下側に位置する中空部の下部に、必要とする膨張吸収空間を確保するための量の砂を入れた状態で、上側に位置する貫通穴を通して上側の中空部内に、両中空部に必要な量の減衰材を流入させると、減衰材は、隔壁の連通穴を通って下側の中空部内に流入した後に、上側の中空部内に流入する。したがって、構造体の姿勢を変えることなく、2つの中空部内に、必要量の減衰材を充填することができる。しかも、両中空部内の減衰材が一体化しているので、減衰材と構造体の中空部内面との接合が脆弱な場合であっても、隔壁がくさびのように働き、構造体の中空部内面からの減衰材の剥離が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明による振動抑制構造を含む産業用機械としてのマシニングセンタの概略構成を示す斜視図である。
【
図3】
図1のマシニングセンタの振動抑制構造の変形例の構成を示す
図2相当の図である。
【
図4】本発明による振動抑制構造の他の実施形態を示す水平断面図である。
【
図5】本発明による振動抑制構造のさらに他の実施形態を示す水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態は、本発明による振動抑制構造を、産業用機械としてのマシニングセンタに適用したものである。
【0022】
図1は振動抑制構造を含むマシニングセンタ(産業用機械)の全体構成を示し、
図2はその要部の構成を示す。
【0023】
図1において、マシニングセンタ(1)は門形形状を有する門形マシニングセンタであって、ベッド(11)、ベッド(11)に取り付けられたテーブル(12)、ベッド(11)に固定状に設けられたコラム支持部(13)、コラム支持部(13)に取り付けられた1対のコラム(14)、両端部が両コラム(14)に支持されたトップビーム(15)、両コラム(14)に跨って取り付けられたクロスレール(16)、クロスレール(16)に移動自在に取り付けられたサドル(17)、およびサドル(17)に取り付けられた主軸頭(18)を含み、ここではコラム(14)が、金属材料により形成されている。この構成のマシニングセンタ(1)では、大型になるほどコラム(14)の長さが長くなって低剛性となる傾向があるために、その変形や振動が加工に大きな影響を与えることがあり、剛性を高めるという要望がある。また、コラム(14)の熱膨張が工具-ワーク間の相対変位に影響を与えることが多く、膨張量を極力抑えたいといった要望がある。そこで、これらの要望に応えるために、コラム(14)に振動抑制構造が設けられている。
【0024】
図2に示すように、コラム(14)が、中空部(21)を有するとともに振動抑制構造(2)を備えた構造体である。コラム(14)には、2つの中空部(21)が隔壁(22)を介して上下に並んで形成されており、振動抑制構造(2)は、各中空部(21)内に、コラム(14)を形成する材料よりも高い振動減衰性を有する減衰材(23)、ここでは固化したレジンコンクリートが、減衰材(23)の熱膨張を吸収しうる膨張吸収空間(24)を残した状態で充填されたものである。減衰材(23)としては、固化したレジンコンクリートからなるものが用いられているが、これに限定されるものではなく、固化する材料からなるものであれば、適宜変更可能である。
【0025】
コラム(14)の各中空部(21)は、上端壁(14a)、下端壁(14b)および周壁(14c)によって外部から隔てられている。コラム(14)における各中空部(21)を外部から隔てる壁の一部、ここでは上端壁(14a)外面に中空状のトップビーム(15)の下面が接した状態で取り付けられ、下端壁(14b)外面に中空状のコラム支持部(13)が接した状態で取り付けられるようになっており、上端壁(14a)外面および下端壁(14b)外面が、変形が抑制されることが要求される変形抑制面部(25)である。したがって、上端壁(14a)および下端壁(14b)が、変形抑制面部(25)が外面に設けられた変形抑制壁部(26)となっており、両変形抑制壁部(26)は、隔壁(22)を挟んで反対側の位置に、それぞれ隔壁(22)と対向するように設けられている。
【0026】
減衰材(23)は、各中空部(21)における隔壁(22)寄りの部分に、隔壁(22)および周壁(14c)と密着接合するように充填されており、減衰材(23)と変形抑制壁部(26)との間、すなわち上側中空部(21)内の上部、および下側中空部(21)内の下部に膨張吸収空間(24)が形成され、両変形抑制壁部(26)の内面、すなわち上端壁(14a)内面および下端壁(14b)内面が膨張吸収空間(24)に臨んでいる。また、両変形抑制壁部(26)に、膨張吸収空間(24)をコラム(14)の外部に通じさせる貫通穴(27)が形成されている。膨張吸収空間(24)は、たとえば空気などの圧縮性を有する物体で満たされている。
【0027】
なお、図示は省略したが、膨張吸収空間(24)を水などの非圧縮性物体で満たしておくとともに、膨張吸収空間(24)に連なった逃げ空間を設けておき、減衰材(23)が膨張した際に非圧縮性物体が逃げ空間に逃げ、減衰材(23)が収縮した際に非圧縮性物体が膨張吸収空間(24)に戻るように構成されていても良い。
【0028】
振動抑制構造(2)において、コラム(14)の各中空部(21)内への減衰材(23)の充填は、次のようにして行われる。
【0029】
すなわち、コラム(14)をマシニングセンタに組み込む前の段階において、一方の変形抑制壁部(26)が上方に来るとともに他方の変形抑制壁部(26)が下方に来るような姿勢にしておき、この姿勢において、上側に位置する変形抑制壁部(26)の貫通穴(27)を通して固化する前の減衰材(23)を上側に位置する一方の中空部(21)内に流入させて固化させる。ついで、コラム(14)を上下逆向きの姿勢にし、この姿勢において上側に位置する変形抑制壁部(26)の貫通穴(27)を通して固化する前の減衰材(23)を他方の中空部(21)内に流入させて固化させる。こうして、各中空部(21)内に、減衰材(23)が、減衰材(23)の熱膨張を吸収しうる膨張吸収空間(24)を残した状態で充填される。
【0030】
上述した振動抑制構造(2)が設けられたコラム(14)を有するマシニングセンタ(1)において、温度上昇が生じた際に、コラム(14)を形成する材料よりも線膨張係数が高く熱膨張が大きい減衰材(23)が熱膨張したとしても、減衰材(23)の膨張が膨張吸収空間(24)において吸収されるので、上下の変形抑制壁部(26)が外側に膨らむように変形することが抑制される。したがって、変形抑制壁部(26)外面の変形抑制面部(25)が接しているトップビーム(15)およびコラム支持部(13)が、変形した変形抑制壁部(26)により比較的大きな力で押されることを防止することができ、コラム(14)、ならびにトップビーム(15)およびコラム支持部(13)の傾きや複雑な熱変形が生じることが防止される。その結果、マシニングセンタ(1)の変位の増大が防止され、マシニングセンタ(1)の加工精度の悪化をなくすことが可能になる。さらに、コラム(14)には剛性の高い金属材料が使われるが、減衰材(23)はそれよりも剛性が低いため、膨張しても構造体が大きく変形することなく、内部の減衰材(23)の変形が膨張吸収空間(24)に吸収されるので、減衰材(23)の熱特性による精度などへの悪影響を抑えつつ高い減衰性を持たせることで、マシニングセンタ(1)に、従来と同様の加工精度を保たせながら高い加工能力を与えることが可能となる。
【0031】
図3はコラム(14)に設けられる振動抑制構造の変形例を示す。
【0032】
図3に示す振動抑制構造(30)の場合、コラム(14)の2つの中空部(21)を隔てる隔壁(31)に、両中空部(21)を通じさせる連通穴(32)が形成されている。
【0033】
その他の構成は、
図2に示す振動抑制構造(2)と同様である。
【0034】
図3に示す振動抑制構造(2)において、コラム(14)の各中空部(21)内への減衰材(23)の充填は、次のようにして行われる。
【0035】
すなわち、コラム(14)をマシニングセンタに組み込む前の段階において、コラム(14)を、一方の変形抑制壁部(26)が上方に来るとともに他方の変形抑制壁部(26)が下方に来るような姿勢にしておき、下側に位置する中空部(21)の下部に、必要とする膨張吸収空間(24)を確保するための量の砂を入れる。ついで、この姿勢で上側に位置する中空部(21)内に、貫通穴(27)を通して両中空部(21)に必要な量の減衰材(23)を流入させる。すると、減衰材(23)は、必要量が隔壁(31)の連通穴(32)を通って下側の中空部(21)内に流入した後に、必要量が上側の中空部(21)内に流入する。したがって、コラム(14)の姿勢を変えることなく、2つの中空部(21)内に、必要量の減衰材(23)を充填することができる。しかも、両中空部(21)内の減衰材(23)が一体化しているので、減衰材(23)と構造体の中空部(21)内面との接合が脆弱な場合であっても、隔壁(31)がくさびのように働き、コラム(14)の中空部(21)内面からの減衰材(23)の剥離が防止される。
【0036】
図1および
図2に示す実施形態、ならびに
図3に示す変形例において、コラム(14)の変形抑制壁部(26)に貫通穴(27)が形成されているが、これに限定されるものではなく、変形抑制壁部(26)を除いた部分、たとえばコラム(14)の周壁(14c)に、膨張吸収空間(24)を外部に通じさせる貫通穴が形成されていてもよい。また、上端壁(14a)および下端壁(14b)が、変形抑制面部(25)が外面に設けられた変形抑制壁部(26)となっており、両変形抑制壁部(26)は、隔壁(22)を挟んで反対側の位置に、それぞれ隔壁(22)と対向するように設けられているが、これに限定されるものではなく、変形抑制面部(25)が外面に設けられた変形抑制壁部(26)は、周壁(14c)に設けられていてもよい。さらに、コラム(14)を一つの部品としているが、充填作業を容易にするために、複数部材に分割して充填作業を行ってから、同様の構成となるように接合してもよい。
【0037】
図4は中空部を有する構造体を含む産業用機械の振動抑制構造の他の実施形態を示す。
【0038】
図4に示す振動抑制構造(40)では、金属材料からなる構造体(41)に1つの中空部(42)が形成されており、中空部(42)内に、構造体を形成する材料よりも高い振動減衰性を有する減衰材(43)、ここでは固化したレジンコンクリートが、減衰材(43)の熱膨張を吸収しうる膨張吸収空間(44)を残した状態で充填されたものである。
【0039】
構造体(41)の中空部(42)は、周壁(41a)および上下両端壁(図示略)によって外部から隔てられている。構造体(41)における中空部(42)を外部から隔てる壁の一部、ここでは周壁(41a)外面に産業用機械の他の構造体が接した状態で取り付けられるようになっており、周壁(41a)外面が、変形が抑制されることが要求される変形抑制面部(45)である。したがって、周壁(41a)が、変形抑制面部(45)が外面に設けられた変形抑制壁部(46)となっている。
【0040】
減衰材(43)は、中空部(42)における周壁(41a)寄りの部分に、周壁(41a)全体に密着接合するように充填されており、膨張吸収空間(44)は全体が減衰材(43)に囲まれるように形成されている。膨張吸収空間(44)には、たとえば空気などの圧縮性を有する物体で満たされている。
【0041】
上述した振動抑制構造(40)が設けられた構造体(41)を有する産業用機械において、温度上昇が生じた際に、構造体(41)を形成する材料よりも線膨張係数が高く熱膨張が大きい減衰材(43)が熱膨張したとしても、減衰材(43)の膨張が膨張吸収空間(44)において吸収されるので、周囲の変形抑制壁部(26)が外側に膨らむように変形することが抑制される。したがって、変形抑制面部(45)が接している他の構造体が変形した変形抑制壁部(46)により比較的大きな力で押されることを防止することができ、両構造体(41)に複雑な熱変形が生じることが防止される。さらに、構造体(41)には剛性の高い金属材料が使われるが、減衰材(43)はそれよりも剛性が低いため、膨張しても構造体が大きく変形することなく、内部の減衰材(43)の変形が膨張吸収空間(44)に吸収されるので、構造体の周壁の変形を抑制することが可能になる。
【0042】
図5は中空部を有する構造体を含む産業用機械の振動抑制構造の他の実施形態を示す。
【0043】
図5に示す振動抑制構造(50)では、金属材料からなる構造体(41)に1つの中空部(42)が形成されており、中空部(42)内に、構造体(41)を形成する材料よりも高い振動減衰性を有する減衰材(51)、ここでは固化したレジンコンクリートが、減衰材(51)の熱膨張を吸収しうる膨張吸収空間(52)を残した状態で充填されたものである。
【0044】
構造体(51)における中空部(42)を外部から隔てる壁の一部、ここでは周壁(41a)における互いに対向する2つの第1壁部(41a1)の外面に産業用機械の他の構造体が接した状態で取り付けられるようになっており、2つの第1壁部(41a1)外面が、変形が抑制されることが要求される変形抑制面部(53)である。したがって、互いに対向する2つの第1壁部(41a1)が、変形抑制面部(53)が外面に設けられた変形抑制壁部(54)となっている。
【0045】
減衰材(51)は、中空部(42)における周壁(41a)の互いに対向する2つの第2壁部(41a2)寄りの部分に、当該第2壁部(41a2)全体および第1壁部(41a1)の一部に密着接合するように充填されており、膨張吸収空間(52)は全体が両側の減衰材(51)に挟まれるように形成され、変形抑制壁部(54)の一部が膨張吸収空間(52)に臨んでいる。膨張吸収空間(52)には、たとえば空気などの圧縮性を有する物体で満たされている。
【0046】
上述した振動抑制構造(50)が設けられた構造体(41)を有する産業用機械において、温度上昇が生じた際に、構造体(41)を形成する材料よりも線膨張係数が高く熱膨張が大きい減衰材(51)が熱膨張したとしても、減衰材(51)の膨張が膨張吸収空間(52)において吸収されるので、2つの変形抑制壁部(54)が外側に膨らむように変形することが抑制される。したがって、変形抑制面部(53)が接している他の構造体が変形した変形抑制壁部(54)により比較的大きな力で押されることを防止することができる。さらに、構造体(41)には剛性の高い金属材料が使われるが、減衰材(51)はそれよりも剛性が低いため、膨張しても構造体が大きく変形することなく、内部の減衰材(51)の変形が膨張吸収空間(52)に吸収されるので、構造体(41)の周壁(41a)の変形を抑制することが可能になる。
【0047】
なお、本発明の振動抑制構造に係る構成は、上記実施の形態に記載した態様に何ら限定されるものではなく本発明の趣旨を逸脱しない範囲で必要に応じて適宜変更することができる。
【0048】
図4および
図5に示す振動抑制構造(40)(50)において、減衰材(43)(51)としては、固化したレジンコンクリートからなるものが用いられているが、これに限定されるものではなく、固化する材料からなるものであれば、適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
この発明による振動抑制構造は、たとえばマシニングセンタのコラムに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0050】
(2)(30)(40)(50):振動抑制構造
(14):コラム(構造体)
(21):中空部
(22)(31):隔壁
(23):減衰材
(24):膨張吸収空間
(25):変形抑制面部
(26);変形抑制壁部
(27):貫通穴
(32):連通穴
(40)(50):振動抑制構造
(41):構造体
(42):中空部
(43)(51):減衰材
(44)(54):膨張吸収空間
(45)(53):変形抑制面部
(46)(54):変形抑制壁部