IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プライムアースEVエナジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ニッケル水素蓄電池の製造方法 図1
  • 特許-ニッケル水素蓄電池の製造方法 図2
  • 特許-ニッケル水素蓄電池の製造方法 図3
  • 特許-ニッケル水素蓄電池の製造方法 図4
  • 特許-ニッケル水素蓄電池の製造方法 図5
  • 特許-ニッケル水素蓄電池の製造方法 図6
  • 特許-ニッケル水素蓄電池の製造方法 図7
  • 特許-ニッケル水素蓄電池の製造方法 図8
  • 特許-ニッケル水素蓄電池の製造方法 図9
  • 特許-ニッケル水素蓄電池の製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】ニッケル水素蓄電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/30 20060101AFI20230209BHJP
   H01M 10/28 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
H01M10/30 Z
H01M10/28 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019216738
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021086799
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】室田 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】須藤 良介
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-294219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/00-10/04
H01M10/06-10/34
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ニッケルを活物質に含む正極と、水素吸蔵合金を活物質として含む負極を備えたニッケル水素蓄電池の製造方法であって、
電池ケースに極板群とアルカリ電解液とを収容した後、前記極板群の活物質を充放電により活性化させる活性化工程を含み、
前記活性化工程は、開弁領域未満となる範囲の高SOC状態になるように充電する充電工程と、
前記高SOC状態の範囲における持続時間が管理されるように放電レートを調整する放電工程と、を備え、
前記放電工程は、前記高SOC状態から、これより低いSOCの値の低SOC状態となったら、それまでの放電レートより、より大きな放電レートで放電するとともに、
前記放電工程において、一定時間放電した後、SOCが予め設定した下限の閾値より下回った場合には、再度充電工程として、予め設定した数値までSOCを上げることを特徴とするニッケル水素蓄電池の製造方法。
【請求項2】
前記持続時間は、活性化工程後の前記ニッケル水素蓄電池の内部抵抗が予め定めた抵抗値より低くなるように設定され、かつ前記負極の寿命が予め定めた時間より短縮しないように設定されることを特徴とする請求項1に記載のニッケル水素蓄電池の製造方法。
【請求項3】
前記高SOC状態が、80~120%の範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のニッケル水素蓄電池の製造方法。
【請求項4】
前記高SOC状態における放電レートが、2C以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のニッケル水素蓄電池の製造方法。
【請求項5】
前記放電工程において、所定時間放電を中止することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のニッケル水素蓄電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル水素蓄電池の製造方法に係り、詳細には、負極の活性をより好ましく行うニッケル水素蓄電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポータブル機器や携帯機器などの電源として、また電気自動車やハイブリッド自動車用の電源として、アルカリ蓄電池が注目されている。その中でも特に、ニッケル水素蓄電池は、水酸化ニッケルを主体とした活物質からなる正極と水素吸蔵合金を主材料とした負極とを備える蓄電池であり、エネルギー密度が高く信頼性にも優れている等々の理由から、それら用途の電源として急速に普及している。
【0003】
ただし、こうしたニッケル水素蓄電池は、電池組立直後の水素吸蔵合金の活性が低く、その初期出力が低下してしまう不都合がある。
そこで、水素吸蔵合金を活性化させる技術が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の技術は、ニッケル水素蓄電池の正極中の水酸化ニッケルの活性化を含む正極活物質の活性化を行い、正極活性された蓄電池に対する1乃至複数回の充放電サイクルの実行によって負極の活物質である水素吸蔵合金の活性化を行う。そしてこの水素吸蔵合金の活性化に際し、1乃至複数回の充放電サイクル中、少なくとも1サイクルは、当該蓄電池の充電状態が過充電状態になるSOCまで充電を行う。
【0005】
特許文献1に記載の技術では、負極活性工程に際し、電池の充電状態が過充電状態になるまで充電することによって、負極中の水素吸蔵合金表面にいわゆる割れ(クラック)が生じるようになる。そしてこれにより、負極中の水素吸蔵合金表面が微粉化されてその表面積が拡大されるようになり、電解液との接触面積、すなわち電極材料としての反応面積(活性点)を拡大することができるようになる。上記製造方法ではこのように、負極中の水素吸蔵合金の活性点が拡大されることによって、ニッケル水素蓄電池としての初期のDC-IR(内部抵抗)を低減させることが可能となり、初期出力性能をより高く確保することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-153261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された発明では、どのように充電するかについては言及されているが、放電についての知見はなく、適宜放電されていただけであるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、ニッケル水素蓄電池としての初期の内部抵抗(DC-IR)を低減させることを可能とし、初期出力性能をより高く確保するニッケル水素蓄電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のニッケル水素蓄電池の製造方法では、水酸化ニッケルを活物質に含む正極と、水素吸蔵合金を活物質として含む負極を備えたニッケル水素蓄電池の製造方法であって、電池ケースに極板群とアルカリ電解液とを収容した後、前記極板群の活物質を充放電により活性化させる活性化工程を含み、前記活性化工程は、開弁領域未満となる範囲の高SOC状態になるように充電する充電工程と、前記高SOC状態の範囲における持続時間が管理されるように放電レートを調整する放電工程と、を備え、前記放電工程は、前記高SOC状態から、これより低いSOCの値の低SOC状態となったら、それまでの放電レートより、より大きな放電レートで放電することを特徴とする。
【0010】
従来は、低レート放電に比較して高レート放電の方が負極の水素吸蔵合金内の水素を放出する速度が速いため、水素放出に伴う水素吸蔵合金の体積収縮のエネルギーが大きく水素吸蔵合金割れを促進し、その結果、負極の表面積が増大し、負極の内部抵抗を低減させることが可能となり、初期出力性能をより高く確保することができるようになると考えられていた。しかしながら、本発明者は、高SOC状態である場合では、高い水素平衡圧の状態となり、速やかに水素放出を促進するより、高い水素平衡圧の状態を維持することでより水素吸蔵合金割れを促進し、その結果、負極の表面積が増大し、負極の内部抵抗を低減させること知見を見出した。
【0011】
本発明は、このような発明者の知見に基づき従来の常識を覆すニッケル水素蓄電池の製造方法となっている。
このような製造方法によれば、高SOC状態での放電工程における放電レートを管理することで、水素平衡圧に起因して水素の応力集中による負極の水素吸蔵合金割れが所望の状態となるように管理することができ、ニッケル水素蓄電池としての初期の内部抵抗を低減させることが可能となり、初期出力性能をより高く確保することができる。
【0012】
さらに前記放電工程は、前記高SOC状態から、これより低いSOCの値の低SOC状態となったら、それまでの放電レートより、より大きな放電レートで放電する。
前述のように、高SOC状態での水素吸蔵合金の割れと、低SOC状態での水素吸蔵合金の割れは、その機序が異なることから、高SOC状態での放電レートと、低SOC状態での放電レートを変化させることで、さらに初期出力性能をより高く確保することができる。
【0013】
なお、本発明は、SOCの数値に応じて放電レートを適切に変化させることが発明の技術的思想の本質であり、実施形態に示すような高低2つの放電レートを用いるだけでなく、3つ以上の放電レートを用いたり、放電レートをSOCに応じて漸次連続的に変化させるような構成でもよい。
【0014】
また、前記持続時間は、活性化工程後の前記ニッケル水素蓄電池のDC-IR(内部抵抗)が予め定めた抵抗値より低くなるように設定され、かつ前記負極の寿命が予め定めた時間より短縮しないように設定されることが好ましい。
【0015】
このような製造方法であれば、初期出力性能をより高く確保することができるとともに、寿命の長いニッケル水素蓄電池を製造することができる。
また、前記高SOC状態が、80~120%の範囲であることが望ましい。実際に、負極の水素吸蔵合金が実質的にβ相に占められているかどうか、製造現場で確認することは容易ではない。また、同様にSOCがどの程度で開弁が必要になるかも確認が容易ではない。この場合、本発明者の知見からSOCを80~120%の範囲とすることで、水素平衡圧が高くなるように負極が実質的にβ相に占められる状態で、かつ開弁領域未満となることを見出したものである。すなわち、SOCをこの範囲とすることで、容易にニッケル水素蓄電池の初期出力性能をより高く確保することができる。
【0016】
さらに、前記高SOC状態における放電レートが、2C以下であることが望ましい。これも、本発明者が、ニッケル水素蓄電池の放電工程において、放電レートを2C以下にすることで水素吸蔵合金割れが十分になることを見出した知見に基づくものである。当業者は放電レートを2C以下とすることで容易にニッケル水素蓄電池の初期出力性能をより高く確保することができる。
【0017】
なお、前記放電工程において、所定の放電レートでは水素吸蔵合金割れが十分とはならない場合には、所定時間放電を中止することも望ましい。中止するタイミングは、放電工程の最初でも中途でもよい。
【0018】
また、同様に所定の放電レートでは、水素吸蔵合金割れが十分とはならない場合には、前記放電工程において、一定時間放電した後、SOCが予め設定した下限の閾値より下回った場合には、再度充電工程として、予め設定した数値までSOCを上げることも望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のニッケル水素蓄電池の製造方法によれば、ニッケル水素蓄電池としての初期の内部抵抗を低減させることを可能とし、初期出力性能をより高く確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ニッケル水素蓄電池の製造方法で製造されるニッケル水素蓄電池の一実施形態について部分断面構造を含む斜視図。
図2】同実施形態における蓄電池の製造方法の手順を示すフローチャート。
図3】活性化工程の手順を示すフローチャート。
図4】活性化工程における負極のSOCの変化を時系列で示すグラフ。
図5】負極SOCと内部抵抗DC-IRの関係を模式的に示すグラフ。
図6】放電レートCと内部抵抗DC-IRの関係を模式的に示すグラフ。
図7】従来の活性化工程と本実施形態の活性化工程の効果を比較するグラフ。
図8】活性化工程の別例における負極のSOCの変化を時系列で示すグラフ。
図9】活性化工程の別例における負極のSOCの変化を時系列で示すグラフ。
図10】従来の活性化工程における負極のSOCの変化を時系列で示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1図6を参照して、本発明のニッケル水素蓄電池の製造方法の一実施形態について説明する。
<実施形態のニッケル水素蓄電池の製造方法の概要>
まず、本発明においてニッケル水素蓄電池としての初期の内部抵抗を低減させることを可能とした原理について説明する。従来は、電池組立直後の水素吸蔵合金の活性化工程において、低レート放電に比較して高レート放電の方が負極合金内の水素を放出する速度が速い。このため、水素放出に伴う合金の体積収縮のエネルギーが大きく、このエネルギーにより水素吸蔵合金割れ(クラック)を促進し、その結果微粉化するなどして負極の表面積が増大し、負極の内部抵抗(DC-IR)を低減させることが可能となる。その結果初期出力性能をより高く確保することができるようになると考えられていた。そこで、図10に示すように、従来は、所定の過充電のSOC(例えば120%)になるように充電した後は、直ちに高い放電レート(例えば4.6C)で放電をしていた。
【0022】
しかしながら、本発明者の知見によれば、そのような作用は、SOCが80%程度までの比較的SOCが低いとき(「低SOC状態」という。)の作用であり、SOCが80%~120%の範囲(「高SOC状態」という。)では、作用が異なることを見出した。
【0023】
すなわち、高SOC状態である場合では、例えば水素吸蔵合金内のNiやMm(ミッシュメタル)間に吸蔵した水素占有率が高い状態となり、高い水素平衡圧[MPa]の状態となる。この状態では、水素の応力集中(ここでは「水素脆弱」という。)の状態となり、この状態を維持することでより水素吸蔵合金割れを促進し、その結果微粉となった負極の表面積が増大し、負極のDC-IRを低減させる知見を新たに見出した。
【0024】
したがって、SOCが80~120%の高SOC状態では放電を急速にせず、高SOC状態を維持した方が水素脆弱により水素吸蔵合金割れをより促進するため、放電工程のSOC,放電レート、時間管理の適切化により、従来の方法より初期出力性能をより高く確保することができることを見出した。
【0025】
以下、このような活性化工程を含む本発明のニッケル水素蓄電池の製造方法の一実施形態について詳細に説明する。
<ニッケル水素蓄電池の構成>
図1に示すように、本実施形態のニッケル水素蓄電池は、密閉型電池であり、電気自動車やハイブリッド自動車等の車両の電源として用いられる電池である。車両に搭載されるニッケル水素蓄電池としては、所要の電力容量を得るべく、複数の単電池30を電気的に直列接続して構成された電池モジュール11からなる角形密閉式の蓄電池が知られている。
【0026】
電池モジュール11は、複数の単電池30を収容可能な角形ケース13と同角形ケース13の開口部16を封止する蓋体14とによって構成される直方体状の電池ケースとしての一体電槽10を有している。また、角形ケース13の表面には電池使用時の放熱性を高めるべく複数の凹凸(図示略)が形成されている。
【0027】
一体電槽10を構成する角形ケース13及び蓋体14は、アルカリ性の電解液に対して耐性を有する樹脂材料であるポリプロピレン(PP)及びポリフェニレンエーテル(PPE)を含んで構成されている。そして一体電槽10の内部には、複数の単電池30を区画する隔壁18が形成されており、この隔壁18によって区画された部分が、単電池30毎の電槽15となる。一体電槽10は、例えば、6つの電槽15のそれぞれが単電池30を構成している。
【0028】
こうして区画された電槽15内には、極板群20と、その両側に接合された正極の集電板24及び負極の集電板25とが水酸化カリウム(KOH)を主成分とする水系電解質であるアルカリ電解液とともに収容されている。
【0029】
極板群20は、矩形状の正極板21及び負極板22がセパレータ23を介して積層して構成されている。このとき、正極板21、負極板22及びセパレータ23が積層された方向が積層方向である。極板群20の正極板21及び負極板22は、極板の面方向であって互いに反対側の側部に突出されることで構成される正極板21のリード部の側端縁に集電板24がスポット溶接等により接合され、負極板22のリード部の側端縁に集電板25がスポット溶接等により接合されている。
【0030】
また、隔壁18の上部には各電槽15の接続に用いられる貫通孔32が形成されている。貫通孔32は、集電板24の上部に突設されている接続突部、及び集電板25の上部に突設されている接続突部の2つの接続突部同士が該貫通孔32を介してスポット溶接等により溶接接続されることで、各々隣接する電槽15の極板群20を電気的に直列接続させる。貫通孔32のうち、両端の電槽15の各々外側に位置する貫通孔32は、一体電槽10の端側壁上方で正極の接続端子29a又は負極の接続端子(図示略)が装着される。正極の接続端子29aは、集電板24の接続突部と溶接接続される。負極の接続端子は、集電板25の接続突部と溶接接続される。こうして直列接続された極板群20、すなわち複数の単電池30の総出力が正極の接続端子29a及び負極の接続端子から取り出される。
【0031】
一方、蓋体14には、一体電槽10の内部圧力を開弁圧以下にする排気弁141と、極板群20の温度を検出するためのセンサを装着するセンサ装着穴142とが設けられている。排気弁141は、隔壁18の上部の図示しない連通孔で連通される一体電槽10の内部圧力の値が許容される閾値を超えた開弁圧以上になった場合には、開弁されることで一体電槽10内部に発生したガスを排出する。
【0032】
<極板群の構成>
正極板21は、金属多孔体である発泡ニッケル基板と、発泡ニッケル基板に充填された水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル等のニッケル酸化物を主成分とする正極活物質、添加剤(導電剤等)を有する。導電剤は、金属化合物であり、ここではオキシ水酸化コバルト(CoOOH)等のコバルト化合物であってニッケル酸化物の表面を被覆している。
【0033】
導電性の高いオキシ水酸化コバルトは、正極内において導電性ネットワークを形成し、正極の利用率(「放電容量/理論容量」の百分率)を高める。
負極板22は、パンチングメタルなどからなる電極芯材と、電極芯材に塗布された水素吸蔵合金(MH)とを有する。水素吸蔵合金は、電極芯材に塗布されている。
【0034】
セパレータ23は、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の不織布、もしくは必要に応じてこれにスルホン化などの親水処理を施したものである。
こうした正極板21及び負極板22及びセパレータ23が使用されて電池モジュール11が製造される。
【0035】
<電池モジュール11>
製造された電池モジュール11の充電率は、がSOC(State Of Charge)[%]で示される。SOCは、電池モジュール11の満充電に対する割合として算出される。SOCは、電池モジュール11に実際に充電されている電気量の定格容量に対する割合である。SOCは、電池モジュール11に対する充放電履歴に基づいて算出可能である他、解放された端子間の端子間電圧(OCV等)やインピーダンス、起電圧の推定等の周知の方法でも算出することができる。
【0036】
また、ニッケル水素蓄電池の正極及び負極における充電反応は、活物質の反応が半反応式(1)、(3)のようになり、水の電気分解が半反応式(2)、(4)のようになる。放電時には、逆方向に反応が進行する。負極では、充電時には水素吸蔵合金が水素化し、放電時には水素吸蔵合金が脱水素化する。
【0037】
・正極
Ni(OH)+OH→NiOOH+HO+e…(1)
OH→1/4O+1/2HO+e…(2)
・負極
M+HO+e→MH+OH…(3)
O+e→1/2H+OH…(4)
半反応式(2)、(4)を合わせると、反応式(5)に示すように、水の電気分解で酸素ガス(酸素分子:O)と水素ガス(水素分子:H)とが生じる反応となる。このとき、酸素ガスと水素ガスとの比率(H/O比率)であるガス比率は「2」となる。
【0038】
2HO→2H+O…(5)
<電池モジュール11の製造方法>
図2及び図3を参照して、電池モジュール11の製造方法について説明する。
【0039】
電池モジュール11の製造方法では、電池モジュール組立工程(S10)と、活性化工程(S11)と、不良品判定工程(S12)と、組電池組立工程(S13)とを備える。
<電池モジュール組立工程S10>
図2に示す電池モジュール組立工程(S10)では、図1に示す極板群20と電解液とが収容された角形ケース13の開口部16が蓋体14で封止されることで電池モジュール11が組み立てられる。
【0040】
詳しくは、極板群20は、正極板21及び負極板22及びセパレータ23が、正極板21のリード部と負極板22のリード部とを互いに反対側に突出する態様でセパレータ23を介して交互に積層されることで直方体状に構成される。
【0041】
2つの集電板24,25の溶接された極板群20は、角形ケース13内の各電槽15に収容されて、隣接する極板群20の正極の集電板24と負極の集電板25とがそれらの上部に突設された接続突部同士で接続されることで、互いに隣接する極板群20が電気的に直列接続される。
【0042】
各電槽15内には、アルカリ電解液が所定量注入された状態で、蓋体14で角形ケース13の開口部16が封止されることで、複数の単電池30からなる例えば定格容量「6.5Ah」の電池モジュール11が組み立てられる。
【0043】
これにより、電池モジュール11の製造が終了する。
<後工程S11~S13>
次に、活性化工程(S11)では、正極及び負極の活性化を行う。
【0044】
その後、不良品判定工程(S12)では、電池モジュール11の初期不良についての判定を行う。蓄電池の不良品判定は、例えば、OCV検査、又は、カレントインタラプタ法に基づいて行われる。
【0045】
そして、組電池組立工程(S13)で、こうして製造された複数の電池モジュール11から図示しない組電池が組み立てられる。組電池は、使用先である車両等に設置される電池パックを構成する。組電池は、不良品ではない活性化済みの複数の電池モジュール11を電気的に直列又は並列に接続させるとともに、機械的に固定連結させることで構成される。
【0046】
これで製品としてのニッケル水素蓄電池が完成する。
<活性化工程S11>
ここで、図3を参照して活性化工程(図2のS11)について、その手順を詳細に説明する。活性化工程(S11)は、電池ケースに極板群とアルカリ電解液とを収容した後、前記極板群の活物質を充放電により活性化させる工程である。活性化工程(S11)は、水素平衡圧[MPa]が高くなるように負極が実質的にβ相に占められる状態となると考えられる。かつ、開弁領域未満となる範囲の高SOC状態になるように充電する充電工程(S111)を備える。また、水素平衡圧[MPa]に起因して水素の応力集中による負極の水素吸蔵合金割れが生じるように高SOC状態の範囲における持続時間tが管理されるように放電レート[C]を調整して放電する第1の放電工程(S113)を含む。また、高レート放電の方が負極合金内の水素を放出する速度が速いため、水素放出に伴う合金の体積収縮のエネルギーが大きく水素吸蔵合金割れを促進する低SOC状態の範囲での第2の放電工程(S115)を含む。
【0047】
活性化工程(S11)では、まず充電工程(S111)が行われる、充電工程(S111)では、所定の充電レート、例えば0.05C~0.2Cの範囲内の電流で充電される。充電工程(S111)は、負極のSOCを80~120%の高SOC状態にするための工程である。そのため、SOCが120%を超えないように判断し(S112)、SOCが120%を越えたら(S112:YES)、第1の放電工程(S113)に移行する。第1の放電工程(S113)では、放電レートが2C以下、例えば、0.8Cに設定される。放電をしながら負極のSOCが80%未満になるまで監視し(S114)、SOCが80%未満になったら(S114:YES)、第2の放電工程(S115)に移行する。第2の放電工程(S115)では、放電レートが2Cを超えるレート、例えば、4.6Cに設定される。放電をしながら負極のSOCが所定の値になるまで監視し(S116)、SOCが所定の値になったら(S116:YES)、活性化工程(S11)を終了し、図2に示す不良品判定工程(S12)に移行する。
【0048】
<活性化工程におけるSOCの変化>
図4は、この活性化工程(S11)における負極のSOCの時系列的な変化を概略的に示すグラフである。まず充電工程(S111)においては、SOCは時間の経過とともに直線的に上昇する。そして時間t1において所定の高SOC状態H(ここでは120%)になったら、第1の放電工程(S113)を行う。ここで、グラフに2点鎖線で示すものは、図10に示す従来の高い放電レート(例えば4.6C)の放電工程におけるSOCの変化を示す。従来の放電工程と比較して、第1の放電工程(S113)は、従来より低い放電レート(例えば0.8C)で放電しているため、SOCは緩やかに低下している。そのため、従来はt1-t3間の持続時間しか高SOC状態でなかったのが、本実施形態では、t1-t2間の長時間の持続時間で、高SOC状態となっている。
【0049】
また、時間t2においてSOCが所定の低SOC状態L未満となったら、第2の放電工程(S115)に移行する。ここでは放電レートを高く(例えば4.6C)して、水素放出に伴う合金の体積収縮のエネルギーを大きくして水素吸蔵合金割れを促進する。
【0050】
(実施形態の作用)
次に、このような製造方法により製造されたニッケル水素蓄電池の作用について、説明する。
【0051】
<SOCと水素平衡圧の関係>
ニッケル水素蓄電池は、SOCに依存して水素吸蔵合金が水素の吸蔵、放出をする。SOC20%以下ではNiOOHは、「α相」が支配的であり、SOC20~80%では「α相」と「β相」が混在し、SOCが80%を超えると「β相」が支配的になるものと思われる。その結果「α相」が支配的であるSOC20%以下では水素平衡圧が0.01MPaの低い値から0.1MPaに急増する。「α相」と「β相」が混在するSOC20~80%では水素平衡圧が0.1MPa近傍で安定する。さらに、「β相」が支配的になるSOCが80%を超える領域では、水素平衡圧が0.1MPaから1MPaに急増する。
【0052】
このため、SOCが80%超え、β相が支配的になると思われる領域では、水素吸蔵合金の水素平衡圧が高い値を示す。
<水素脆弱>
水素吸蔵合金は、NiやMm(ミッシュメタル)の間に水素を吸蔵する。水素を吸蔵すると水素吸蔵合金は、体積が膨張する。SOCが80%以上の高SOC状態である場合では、高い水素平衡圧[MPa]の状態となり、割れ(クラック)を生じ、さらにそのクラックの先端に応力が集中する。そのため、0.1MPa以上の高い水素平衡圧の状態を維持することでより水素脆弱による水素吸蔵合金割れを促進する。
【0053】
<高SOC状態>
上記のような理由から、本実施形態の第1の放電工程では、高SOC状態下の置く必要がある。そして、本発明者は高SOC状態の下限は、水素平衡圧に起因する水素脆弱が生じる80%以上であることを見出した。SOCが80%を超えると「α相」と「β相」とが混在する状態から、「β相」が支配的になると考えられ、水素平衡圧が0.1~1MPaに急増し、水素脆弱が生じる。
【0054】
<開弁範囲>
高SOC状態は、本実施形態のようなニッケル水素蓄電池においては、上述のとおりSOCが80%以上が条件となる。
【0055】
ここで、開弁範囲は、電池モジュール11の電池ケース内のガス圧が、排気弁141を開弁させるガス圧となる範囲である。高SOC状態では、水素の気体の発生により、電池モジュール11の電池ケース内のガス圧が高まる。本実施形態では、SOCが120%を超えると、排気弁141を開弁させるガス圧となる。したがって、SOCが120%を超える過充電は、電解液の減少など悪影響があるため避ける必要がある。そのため、本実施形態の充電工程では、SOCの上限を120%に設定している。
【0056】
そこで、本実施形態の高SOC状態は、80~120%の範囲が選択されている。
<負極SOCと内部抵抗DC-IR>
図5は、負極SOCと内部抵抗DC-IRの関係を模式的に示すグラフである。上述のような理由から、25°Cの条件で高SOC状態を80~120%として、第1の放電工程を、放電レートを変えて実験をした。内部抵抗DC-IRは、前述のように負極の表面積が増大することで、良好になる。高レート放電(例えば4.6C)を行った場合と、低レート放電(例えば0.8C)を行った場合の25°Cにおける内部抵抗DC-IRを、従来を100として比較した場合のグラフである。高レート放電を行った場合には、SOCが80%では、水素脆弱に起因する抵抗値の低減は認められないが、SOCが120%に近づくほどに抵抗値が下がり、SOCが120%では、概ね98%まで改善した。
【0057】
一方、低レート放電を行った場合には、SOCが80%では、水素脆弱に起因する抵抗値の低減は認められないが、SOCが120%に近づくほどにさらに抵抗値が下がり、SOCが120%では、概ね95%まで改善した。
【0058】
この結果から、低レート放電を行った場合には、高レート放電を行った場合と比較して顕著に内部抵抗DC-IRが低減することが認められた。
<放電レートC>
負極が高SOC状態下に存在する持続時間は、放電レートCに依存している。放電レートCが小さければ、負極が高SOC状態下に存在する時間が長くなり、上記水素脆弱に起因する負極の表面積の増大が促進される。
【0059】
図6は、SOC120%の状態から放電を開始し、SOC80%まで放電を続けた場合の、放電レートCとDC-IRとの関係を示すグラフである。図6に示すように、例えば、活性化工程を行わない従来の製造方法のDC-IRを100%として、放電レートCが1Cの場合は概ね97%までDC-IRが下がっている。また、放電レートCが2Cの場合は概ね98%までDC-IRが下がっている。放電レートCが2C~8Cの場合は、放電レートが大きいほど100%に近づくDC-IRになっており、抵抗値の改善の効果が少なくなっている。ここで、本実施形態では、DC-IRの改善の効果が顕著であると認められたな放電レートCが2C以下に放電レートCを設定している。なお、もちろん製造効率などを考慮して、放電レートCを2C以上の上限とすることも可能である。
【0060】
<持続時間t>
図4の高SOC状態の持続時間t1-t2は、活性化工程後のニッケル水素蓄電池のDC-IRが予め定めた抵抗値より低くなるように設定される。
【0061】
なお、高SOC状態の持続時間t1-t2は、放電レートCに依存するが、あまり長時間高SOC状態下に置くと、前述した水素脆弱による水素吸蔵合金の割れが進み、負極の寿命に影響を与える。そのため、高SOC状態の持続時間t1-t2は、負極の寿命が予め定めた時間より短縮しないように設定される。
【0062】
<従来技術との内部抵抗(DC-IR)の低減効果の差>
図7は、過充電しない従来の比較例1と、過充電を行う従来の活性化工程を行った比較例2と、本実施形態の活性化工程を行った場合の実施例のDC-IRを比較するグラフである。比較例1では、過充電を行わず、SOC100%から高レート放電を行った例である。また、比較例2は、SOC120%まで過充電したうえで、放電レート4.6Cの高放電レートで放電工程を行った例である。また、実施例では、上述のとおりSOC120%まで過充電したうえで、放電レート0.8Cの低放電レートでSOC80%まで第1の放電工程を行ない、さらに放電レート4.6で第2の放電工程を行った例である。
【0063】
比較例1のDC-IRを100とした場合、比較例2のDC-IRは概ね99%となり、実施例のDC-IRは概ね98%となった。このように、本実施形態のニッケル水素蓄電池の製造方法では、初期のDC-IRを低減させることを可能とし、初期出力性能をより高く確保することができることが確認できた。
【0064】
(本実施形態の効果)
以下本実施形態の検査方法の効果を列記する。
(1)ニッケル水素蓄電池としての初期の内部抵抗(DC-IR)を低減させることを可能とし、初期出力性能をより高く確保するニッケル水素蓄電池の製造方法を提供することができる。
【0065】
(2)発明の実施に当たっては、第1の放電工程での放電レートCを変更するだけで容易に実施することができる。
(3)第1の放電工程のSOCの下限を、例えば80%に設定することで、確実に水素脆弱の起因する内部抵抗(DC-IR)の低減を可能とすることができる。
【0066】
(4)SOCの上限を、例えば120%とすることで、排気弁141の開放を回避でき、電解液の減少を回避できる。
(5)また、第1の放電工程の時間を制限するように放電レートCを設定することで、負極の過度の割れを防止して、ニッケル水素蓄電池の寿命の短縮を回避することができる。
【0067】
(6)また、第2の放電工程で、第1の放電工程と異なる高い放電レートとすることで、SOCに適応した放電レートとし、より効率的に内部抵抗(DC-IR)を低減させることができる。
【0068】
(7)放電レートCを例えば2C以下に設定するだけで、第1の放電工程の持続時間を確保し、効率的に内部抵抗(DC-IR)を低減させることができる。
<変形例>
本発明は、上記実施形態には限定されず、下記のように実施することもできる。
【0069】
○例として説明した電池モジュール11は、一例であり、目的などに応じて変更したり、新たな材料や構成のものに変更したりして実施できる。
○高SOC状態を80~120%としたのは、上記実施形態での一例であり、材料や構造により変化するため、実際に試験により内部抵抗(DC-IR)の改善や、開弁範囲を確認し、上限を120%以上の値にしたり、あるいは80%未満の値にしたりすることができる。
【0070】
図3で説明した活性化工程においてS112、S114、S116において、負極のSOCの値を測定若しくは推定して判断しているが、例えば、経過時間など別の根拠で判断するようにしてもよい。
【0071】
<実施例1>
図8は、活性化工程のさらに別例における負極のSOCの変化を時系列で示すグラフである。上記実施形態では、充電工程S111の完了後、直ちに第1の放電工程S113を行っていたが、本実施例では、充電工程S111の完了後一定時間放電をしない状態を継続する保持工程S200を設けてもよい。なお、放電を停止するのは、第1の放電工程S113の最初でも、その中途でもよい。
【0072】
このように構成することで、負極の水素吸蔵合金は、高SOC状態下で、水素脆弱に起因する負極の内部抵抗(DC-IR)の低減を実現することができる。
また、この保持工程S200の持続期間t1-t4は、第1の放電工程S113の持続時間t1-t2よりも短縮することができる。すなわち、保持工程S200においては、第1の放電工程S113よりも高いSOC状態下で水素脆弱に起因する負極の内部抵抗(DC-IR)の低減を図ることができるからである。そのため、それに続く第4の放電工程S201における放電レートCを、第1の放電工程における放電レートより高くすることができる。
【0073】
そのため、活性化工程S1自体に係る時間を短縮することが可能である。
<実施例2>
図9は、活性化工程のさらに別例における負極のSOCの変化を時系列で示すグラフである。上記実施形態では、充電工程S111の完了後、直ちに第1の放電工程S113を行って、高SOC状態下で、同一の放電レートCで、高SOC状態の下限であるSOCが80%となるまで放電をしている。図9に示す実施例では、充電工程S111の後の時間t1に、本実施形態の第1の放電工程S113と同様の第5の放電工程S300を行う。そして、負極のSOCが80%になった時間t5で、再度充電する第2の充電工程S301を行う。充電の条件は充電工程S111と同じでもよいし、変更してもよい。第2の充電工程301により負極のSOCが再び120%になった時間t6に第2の充電工程301を終え、再び放電する第6の放電工程S302を行う。その後は、本実施形態と同じように、放電レートCを変えた第2の放電工程S115としてもよいし、そのままの放電レートCで放電を続けてもよい。第2の充電工程S301と同様の充電工程を繰り返してもよい。
【0074】
このように構成することで、放電レートCの条件が限定されている場合であっても、このように制御することで、高いSOC状態下で水素脆弱に起因する負極の内部抵抗(DC-IR)の低減を図ることができる。
【0075】
○以上、本実施形態と実施例1、2により、本発明の実施形態を説明したが、放電レートCや時間t、SOCの上限や下限など、状況に応じて負極の内部抵抗(DC-IR)が目標値まで低減するように設定を変えることができる。
【0076】
また、本発明は、SOCの数値に応じて適切な放電時間や放電レートを適切に変更することが本発明の本質的な技術的思想である。したがって、本実施形態と実施例1,2では、2つの放電レートを用いたが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、3つ以上の放電レートを用いたり、放電レートをSOCに応じて連続的に変化させたりするような構成でもよい。
【0077】
○また、当業者であれば、特許請求の範囲を逸脱しない限り、構成を付加し、削除し、変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0078】
10…一体電槽、
11…電池モジュール、
13…角形ケース、
14…蓋体、
141…排気弁、
142…センサ装着穴、
15…電槽、
16…開口部、
18…隔壁、
20…極板群、
21…正極板、
22…負極板、
23…セパレータ、
24…正極の集電板、
25…負極の集電板、
29a…正極の接続端子、
29b…負極の接続端子(図示略)、
30…単電池、
32…貫通孔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10