(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】導電糸
(51)【国際特許分類】
D02G 3/04 20060101AFI20230209BHJP
B60C 19/08 20060101ALI20230209BHJP
D02G 3/12 20060101ALI20230209BHJP
D02G 3/48 20060101ALI20230209BHJP
D07B 1/02 20060101ALI20230209BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
D02G3/04
B60C19/08
D02G3/12
D02G3/48
D07B1/02
D07B1/06 A
(21)【出願番号】P 2019501611
(86)(22)【出願日】2017-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2017066537
(87)【国際公開番号】W WO2018011001
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-06-26
(32)【優先日】2016-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502385850
【氏名又は名称】エンベー ベカルト ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】NV Bekaert SA
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴ ヴェルストラエテン
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-190194(JP,A)
【文献】特開平04-194040(JP,A)
【文献】米国特許第03938313(US,A)
【文献】特開2015-123900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D07B1/00-9/00
B60C1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気式ゴムタイヤを通る導通経路を作るための導電糸であって、
- 第1の糸であって、前記第1の糸は、複数のステンレス鋼繊維を含む、または複数のステンレス鋼繊維から構成される、第1の糸と、
- 有機繊維を含む第2の糸と、
を備え、
前記第1の糸と前記第2の糸とが一緒に撚り合わせられる、もしくはケーブル状にさ
れ、
前記第1の糸の断面は、少なくとも40本のステンレス鋼繊維を含み、
前記第1の糸と前記第2の糸とは、1メートル当たり20巻き超の撚り合わせで、一緒に撚り合わせられる、またはケーブル状にされる、導電糸。
【請求項2】
前記有機繊維は、綿繊維、レーヨン繊維、またはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、パラ系アラミド繊維などの熱可塑性ポリマー繊維である、請求項1に記載の導電糸。
【請求項3】
前記第2の糸は、綿繊維糸である、請求項1に記載の導電糸。
【請求項4】
前記複数のステンレス鋼繊維は、前記第1の糸を形成するために、一緒に撚り合わせられる、および/またはケーブル状にされる、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電糸。
【請求項5】
前記ステンレス鋼繊維は、30μm未満の相当直径を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の導電糸。
【請求項6】
前記ステンレス鋼繊維は、集束引き抜きにより作られる、請求項1~5のいずれか一項に記載の導電糸。
【請求項7】
前記ステンレス鋼繊維は、フィラメントである、請求項1~6のいずれか一項に記載の導電糸。
【請求項8】
前記ステンレス鋼繊維は、不連続な長さの繊維である、請求項1~6のいずれか一項に記載の導電糸。
【請求項9】
電動車両のための空気式ゴムタイヤであって、
- ビード部分であって、前記ビード部分は、鋼線ビード補強体と導電粒子を含むゴム部品とを備える、ビード部分と、
- カーカス部分であって、ゴム部品と高強度ポリマー繊維コードを含むカーカス補強プライとを備える、カーカス部分と、
- 導電粒子を含むゴム部品を備えるトレッド部分と、
- 請求項1~
8のいずれか一項に記載の少なくとも1本の導電糸であって、
前記少なくとも1本の導電糸は、ゴムに埋設され、
前記少なくとも1本の導電糸は、前記タイヤの前記ビード部分から、前記カーカス部分を通って、前記タイヤの前記トレッド部分まで延びる、少なくとも1本の導電糸と、
を備える、電動車両のための空気式ゴムタイヤ。
【請求項10】
前記少なくとも1本の導電糸は、
- カーカス補強プライの外面上において、前記カーカス補強プライとサイドウォールゴム層との間、
- カーカス補強プライの内面上において、前記カーカス補強プライとタイヤゴム内側ライナー層との間、または
- 2枚のカーカス補強プライ間
に配置される、請求項
9に記載の空気式ゴムタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電糸の分野に関し、タイヤを通る導通経路を作るために、そのような糸を備える空気式ゴムタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
静電気を逃すために、空気式ゴムタイヤのビードとトレッドとの間には導電性が必要とされる。この導電性は、高強度ポリエステル繊維などの高強度ポリマー繊維によってカーカス補強体が形成されているために、また、カーボンブラックを、タイヤのカーカスのゴム化合物中の他の添加剤に置き換える傾向にあるために、配慮が求められる。
【0003】
米国特許出願公開第2005/0087275A1号明細書は、最も電気抵抗の小さい経路を提供するために、自身のビード部分と自身のトレッド部分との間に延びる少なくとも1本の導電コードを備える、空気式ゴムタイヤを開示している。導電コードは、少なくとも1本の有機繊維の中心に配置された芯の周囲に螺旋状に巻かれた少なくとも1本の導電性金属フィラメントを含む。導電性コードは、上記導電コードがタイヤの外面まで延びておらず、したがってタイヤの外面を含まないように、比較的導電性のあるタイヤのビード部分におけるゴム部品から、比較的導電性のあるタイヤのトレッド部分におけるゴム部品まで延びる。そのため、タイヤのビード領域におけるタイヤの取り付け面とタイヤトレッドの走行面との間に導通経路が設けられる。導電コードは、少なくとも1本の有機繊維の芯の周囲に螺旋状に巻かれた、導電性金属フィラメント、導電性炭素繊維、またはこれらの組み合わせを含み得る。コードの有機繊維芯は、アラミド、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)もしくは綿またはこれらの繊維を混合したものなどの様々な有機繊維、特に合成繊維の少なくとも1本のフィラメントを含み得る。芯の周囲に螺旋状に巻かれた導電性金属フィラメントは、例えば、鋼(鉄の合金であり、ステンレス鋼を含む)、銅および真鍮などの様々な金属、およびそれらの合金の導電性金属フィラメントであり得る。
【0004】
特開2016-078742号公報は、導電コードの耐久性を向上させた空気入りタイヤを説明している。空気入りタイヤは、2つのビードと、少なくとも1層のカーカス層と、ベルト層と、トレッドゴム層と、一対のサイドウォールゴム層と、を備える。空気入りタイヤは、少なくともビード部分からベルト層まで連続的に延びる、導電コードを備える。
【0005】
欧州特許出願公開第1621365A1号明細書は、外側タイヤ車輪-リム取り付け面と内部タイヤトレッド基層との間に導通経路を設けるために、タイヤの車輪-リム取り付け面ゴム部品の外部外面から、内部導電性トレッド基層ゴム部品まで延びる少なくとも1本の導電コードを含む、空気式ゴムタイヤを開示している。導電コードは、少なくとも1本の有機繊維の中心に配置された芯の周囲に螺旋状に巻かれた少なくとも1本の導電性金属フィラメントを含む。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、第1の糸と第2の糸とを備える導電糸である。第1の糸は、複数のステンレス鋼繊維を含み、好ましくは、複数のステンレス鋼繊維から構成される。第2の糸は、有機繊維を含み、好ましくは、有機繊維から構成される。本発明の第1の実施形態では、第1の糸と第2の糸とは、一緒に撚り合わせられる、またはケーブル状にされる。本発明の第2の実施形態では、第2の糸は、第1の糸が芯糸として設けられるように、かつ第1の糸が導電糸の表面の一部分を提供するように、第1の糸の周囲に巻き付けられる。
【0007】
タイヤのビードとトレッドとの間に導通経路を得るために空気式ゴムタイヤにおいて使用される場合に、導電糸の曲げ疲労抵抗に優れていること、およびタイヤのゴムに対する導電糸の粘着性が十分であることと相まって、優れた導電性が得られることが、本発明の導電糸の利益である。組み合わされた相乗作用の結果、タイヤのビードとトレッドとの間の導通経路としての機能に関して導電糸の寿命に優れる。導電糸は、タイヤにおけるガス抜きコードとしての機能をさらに提供し得る。優れた曲げ疲労抵抗は、1本以上のワイヤが使用される場合よりも小さい直径を有する導電性繊維を使用することによって提供される。導電性をもたらす第1の糸が導電糸の表面の一部分を提供することから、導電糸が空気式ゴムタイヤにおいて使用される場合、一方でビード部分およびトレッド部分のゴム部品と、他方で導電糸と、の間に、またはタイヤにおいて互いに接触している場合、タイヤにおけるスチールコードと導電糸との間に、良好な導電性がもたらされる。少量のステンレス鋼繊維が破断しても導電糸の導電性に対してさほど影響がないことから、複数のステンレス鋼繊維を使用することは、機能寿命に優れることに相乗的に寄与する。
【0008】
好ましくは、ステンレス鋼繊維は、オーステナイト系ステンレス鋼合金から作られる。好ましいステンレス鋼合金は、16重量パーセント超のクロムを含み、かつ好ましくは28重量パーセント未満のクロムを含む。好ましい合金は、ASTM A313の300シリーズから作られた合金である。特に好ましい合金は、(ASTM A313による)316L合金である。
【0009】
本発明の好ましい実施形態では、有機繊維は、綿繊維、レーヨン繊維、またはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、例えばパラ系アラミド繊維などの熱可塑性ポリマー繊維である。このような繊維の混合を使用することもできる。
【0010】
本発明の好ましい実施形態では、第2の糸は、綿繊維糸である。綿糸を使用することが好ましいのは、ゴムに対する粘着性を導電糸にもたらすためである。
【0011】
好ましくは、複数のステンレス鋼繊維は、第1の糸を形成するために、一緒に撚り合わせられる、および/またはケーブル状にされる。
【0012】
好ましくは、第1の糸の断面は、少なくとも40本のステンレス鋼繊維を含み、より好ましくは、少なくとも100本のステンレス鋼繊維、さらにより好ましくは、少なくとも150本のステンレス鋼繊維、さらにより好ましくは、少なくとも250本のステンレス鋼繊維を含む。
【0013】
好ましくは、ステンレス鋼繊維は、30μm未満の相当直径を有し、より好ましくは、25μm未満、さらにより好ましくは、22μm未満、さらにより好ましくは、15μm未満、さらにより好ましくは、13μm未満、さらにより好ましくは、10μm未満の相当直径を有する。かつ好ましくは、5μm超の相当直径を有する。繊維の相当直径は、必ずしも円形ではない繊維断面の面積と同じ表面積を有する円の直径を意味する。このような細い繊維は、導電糸に優れた疲労抵抗を与える。
【0014】
好ましくは、ステンレス鋼繊維は、集束引き抜き(bundled drawing)により作られる。集束引き抜きは、例えば、米国特許第2050298号明細書、米国特許第3277564号明細書および米国特許第3394213号明細書において説明されている。集束引き抜きにより製造されるステンレス鋼繊維は、繊維が集束引き抜きによって製造されたことを識別することを可能にする、典型的な多角形の断面を有する。
【0015】
好ましい実施形態では、ステンレス鋼繊維は、フィラメントである。フィラメントは、事実上無限長の繊維を意味する。集束引き抜きされたステンレス鋼フィラメントの束を製造するための技術は、例えば、米国特許第2050298号明細書、米国特許第3277564号明細書および米国特許第3394213号明細書に説明されている。より好ましくは、第1の糸は、その断面に、少なくとも40本のフィラメントを含み、より好ましくは、少なくとも100本のフィラメント、さらにより好ましくは、少なくとも150本のフィラメント、またさらにより好ましくは、少なくとも250本のフィラメントを含む。好ましくは、本発明で使用するためのステンレス鋼フィラメントの相当直径は、30μm未満であり、より好ましくは、25μm未満、かつ好ましくは、5μm超である。本発明で使用するためのステンレス鋼フィラメントの好ましい相当直径は、例えば、8μm、12μm、14μmまたは22μmである。ステンレス鋼繊維がフィラメントである第1の糸は、不連続な長さのステンレス鋼繊維が使用される場合よりも高い導電率を有するという利益を有する。
【0016】
好ましい実施形態では、ステンレス鋼繊維は、不連続な長さの繊維である。好ましくは、本発明で使用するための不連続な長さの繊維の相当直径は、20μm未満であり、より好ましくは、15μm未満であり、例えば、12μmまたは8μmである。好ましい実施形態では、不連続な長さのステンレス鋼繊維は、集束引き抜きの後、繊維の束を不連続な長さの繊維に切断または牽切することによって製造される。その後に、不連続な長さのステンレス鋼繊維を紡いで糸にする。好ましい実施形態では、第1の糸は単糸である。別の好ましい実施形態では、第1の糸は双糸である。不連続な長さのステンレス鋼繊維を含む、または不連続な長さのステンレス鋼繊維から構成される導電糸は、曲げ疲労寿命が向上している。
【0017】
第1の糸が、不連続な長さのステンレス鋼繊維を含む、または不連続な長さのステンレス鋼繊維から構成される場合、好ましい番手は、50テクス~300テクスである。より好ましい番手は、100~220テクスである。
【0018】
第1の糸が、不連続な長さのステンレス鋼繊維を含む、または不連続な長さのステンレス鋼繊維から構成される場合、好ましくは、第1の糸の断面は、少なくとも50本のステンレス鋼繊維を含み、より好ましくは、少なくとも75本のステンレス鋼繊維、さらにより好ましくは、少なくとも100本のステンレス鋼繊維、さらにより好ましくは、少なくとも150本のステンレス鋼繊維を含む。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、第1の糸は、複数のステンレス鋼繊維と有機繊維とを含む混合糸である。使用され得る有機繊維の例としては、綿繊維、レーヨン繊維、またはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、パラ系アラミド繊維などの熱可塑性ポリマー繊維である。好ましくは、混合糸は、複数のステンレス鋼繊維と有機繊維とを含む均一繊維混合を含む。好ましい混合糸は、少なくとも40重量%のステンレス鋼繊維を含む。このような実施形態による第1の糸の例は、それぞれ50重量%の綿繊維とステンレス鋼繊維との均一混合からの20テクスのリングスパン糸である。第1の糸が混合糸である実施形態では、導電糸は、第1の糸が第2の糸と撚り合わせられた撚糸であり得、好ましくは、第2の糸は、第1の糸と同じ組成を有する。このような導電糸の例は、それぞれ50重量%の綿繊維とステンレス鋼繊維との均一混合からの、両方の糸がリングスパン糸である20*2テクスの糸である。
【0020】
本発明の好ましい実施形態では、1本または2本の第2の糸が、第1の糸が芯糸として設けられるように、かつ第1の糸が導電糸の表面の一部分を提供するように、第1の糸の周囲に巻き付けられる。導電糸においてまっすぐな向きに第1の導電糸が設けられ、導電糸の導電性が良好であることに寄与することが、このような実施形態の利益である。好ましくは、2本の第2の糸が使用される場合、両方の第2の糸が同じ構造を有する。このような実施形態に好ましい第2の糸は綿繊維糸である。
【0021】
1本または2本の第2の糸が第1の糸の周囲に巻き付けられる好ましい実施形態では、1本または2本の第2の糸は、第1の糸の周囲に1メートル当たり1000巻き未満巻き付けられ、好ましくは、1メートル当たり700巻き未満、より好ましくは、1メートル当たり500巻き未満巻き付けられる。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、2本の第2の糸が第1の糸の周囲に巻き付けられる。一方の第2の糸は、第1の糸の周囲にZ方向に巻き付けられ、他方の第2の綿糸は、第1の糸の周囲にS方向に巻き付けられる。好ましくは、両方の第2の糸が、第1の糸の周囲に同じ巻き数巻き付けられる。バランスのとれた構造のために導電糸の安定性が向上することにより、タイヤにおいて糸をより正確に配置できるために、機能の向上がもたらされ、タイヤにおける導電糸の機能寿命の点で相乗的利益につながることが、このような実施形態の利益である。好ましくは、2本の第2の糸が使用される場合、両方の第2の糸が同じ構造を有する。
【0023】
1本または2本の第2の糸が第1の糸の周囲に巻き付けられる好ましい実施形態では、第1の糸は、導電糸の表面の少なくとも10%、より好ましくは、少なくとも25%、より好ましくは、少なくとも50%を提供する。タイヤのビードおよびトレッドにおける導電性ゴム化合物と、導電糸と、の間における導電性接触が良好であるおかげで、ならびに/またはタイヤにおける導電糸とスチールコードとの間における導電性接触が良好であるおかげで、導電糸がタイヤで使用される場合に良好な導通経路が提供されるため、第1の糸によって提供される導電糸の表面のパーセンテージがより高い実施形態が好ましい。
【0024】
第1の糸と第2の糸とが一緒に撚り合わせられる、またはケーブル状にされる好ましい実施形態では、1メートル当たり20巻き超、好ましくは、1メートル当たり100巻き超撚り合わされることによって、かつより好ましくは、1メートル当たり700巻き未満、好ましくは、1メートル当たり600巻き未満、より好ましくは、1メートル当たり300巻き未満撚り合わされることによって、第1の糸と第2の糸とが一緒に撚り合わせられる、またはケーブル状にされる。
【0025】
本発明の第2の態様は、電動車両のための空気式ゴムタイヤである。タイヤは、ビード部分と、カーカス部分と、トレッド部分と、本発明の第1の態様に記載の少なくとも1本の導電糸と、を備える。ビード部分は、鋼線ビード補強体と導電粒子を含むゴム部品とを備える。カーカス部分は、ゴム部品と、高強度ポリマー繊維コード、例えばポリエステル繊維またはポリアミド繊維の高強度コードを含むカーカス補強プライと、を備える。トレッド部分は、導電粒子を含むゴム部品を備える。トレッド部分のゴムの全体は、導電粒子を含むことができるが、トレッドゴム部品の円周条片のみがカーボンブラックなどの導電粒子を含むこともできる。少なくとも1本の導電糸は、ゴムに埋設されている。少なくとも1本の導電糸は、タイヤのビード部分から、カーカス部分を通って、タイヤのトレッド部分まで延びる。導電糸は、電気抵抗が最も小さい経路を提供するために、タイヤに設けられ、それによって、タイヤのビード領域においてタイヤの取り付け面とタイヤトレッドの走行面との間に導通経路を提供する。
【0026】
ビードゴム部品および/またはトレッドゴム部品における導電粒子は、カーボンブラックとすることができる。
【0027】
本発明の第2の態様による好ましい空気式ゴムタイヤでは、少なくとも1本の導電糸は、カーカス補強プライの外面上において、カーカス補強プライとサイドウォールゴム層との間に配置される。
【0028】
本発明の第2の態様による好ましい空気式ゴムタイヤでは、少なくとも1本の導電糸は、カーカス補強プライの内面上において、カーカス補強プライとタイヤゴム内側ライナー層との間に配置される。
【0029】
本発明の第2の態様による好ましい空気式ゴムタイヤでは、少なくとも1本の導電糸は、2枚のカーカス補強プライ間に配置される。
【0030】
別の態様は、空気式ゴムタイヤのカーカス部分を通る導通経路を形成するための導電糸である。導電糸は、不連続な長さのステンレス鋼繊維と有機繊維との均一混合を含み、均一混合は、少なくとも40重量%のステンレス鋼繊維、より好ましくは、少なくとも50重量%のステンレス鋼繊維を含む。オーステナイト系ステンレス鋼繊維が好ましい。使用され得る有機繊維の例は、綿繊維、レーヨン繊維、またはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、パラ系アラミド繊維などの熱可塑性ポリマー繊維またはこれらの繊維の混合である。好ましくは、導電糸は、スパン糸である。一例は、不連続な長さの50重量%の(例えば、316L合金から作られた)ステンレス鋼繊維と50重量%の綿繊維との均一混合から作られた40テクスのリングスパン糸である。別の例は、20*2テクス(双糸)の導電糸であり、各糸が、不連続な長さの50重量%のステンレス鋼繊維と50重量%の綿繊維との均一混合から作られたリングスパン糸である。
【0031】
さらに、電動車両のための空気式ゴムタイヤが提供される。タイヤは、ビード部分と、カーカス部分と、トレッド部分と、本段落のいずれかの実施形態に記載の少なくとも1本の導電糸と、を備える。ビード部分は、鋼線ビード補強体と導電粒子を含むゴム部品とを備える。カーカス部分は、ゴム部品と、高強度ポリマー繊維コードを含むカーカス補強プライと、を備える。トレッド部分は、導電粒子を含むゴム部品を備える。トレッド部分のゴムの全体は、導電粒子を含むことができるが、トレッドゴム部品の円周条片のみがカーボンブラックなどの導電粒子を含むこともできる。少なくとも1本の導電糸は、ゴムに埋設されている。少なくとも1本の導電糸は、タイヤのビード部分から、カーカス部分を通って、タイヤのトレッド部分まで延びる。導電糸は、電気抵抗が最も小さい経路を提供するために、タイヤに設けられ、それによって、タイヤのビード領域においてタイヤの取り付け面とタイヤトレッドの走行面との間に導通経路を提供する。少なくとも1本の導電糸は、例えば、
- カーカス補強プライの外面上において、カーカス補強プライとサイドウォールゴム層との間、
- カーカス補強プライの内面上において、カーカス補強プライとタイヤゴム内側ライナー層との間、または
- 2枚のカーカス補強プライ間
に配置され得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の第2の態様に記載の空気式ゴムタイヤを示す。
【
図2】本発明の第1の態様に記載の導電糸の実施形態を示す。
【
図3】本発明の第1の態様に記載の導電糸の実施形態を示す。
【
図4】本発明の第1の態様による導電糸の断面を示す。
【
図5】本発明の第1の態様に記載の導電糸の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明の第2の態様に記載の空気式ゴムタイヤ100の断面を示す。タイヤ100は、ビード部分120と、カーカス部分130と、トレッド部分140と、本発明の第1の態様に記載の、例えば以下の段落で説明される例に記載の、少なくとも1本の導電糸170と、を備える。ビード部分120は、鋼線ビード補強体124と導電粒子を含むゴム部品122とを備える。カーカス部分130は、ゴム部品132と、高強度ポリマー繊維コードを含むカーカス補強プライ134と、を備える。トレッド部分140は、導電粒子を含むゴム部品142と、ベルトプライ144と、を備える。少なくとも1本の導電糸170は、ゴムに埋設され、タイヤのビード部分120から、カーカス部分130を通って、タイヤのトレッド部分まで延びる。
【0034】
図2は、本発明の第1の態様による導電糸200の一例を示す。導電糸200は、第1の糸262と1本の第2の糸264、例えば綿糸と、を備える。第1の糸262は、複数のステンレス鋼繊維から構成される。第2の糸264は、第1の糸262が芯糸として設けられるように、かつ第1の糸が導電糸の表面の一部分を提供するように、第1の糸の周囲に巻き付けられる。
【0035】
図3は、本発明の第1の態様による導電糸300の一例を示す。導電糸300は、第1の糸362と2本の第2の糸364、例えば綿糸と、を備える。第1の糸362は、複数のステンレス鋼繊維から構成される。第2の糸364は、第1の糸が芯糸として設けられるように、かつ第1の糸が導電糸の表面の一部分を提供するように、第1の糸362の周囲に巻き付けられる。一方の第2の糸は、第1の糸の周囲にS方向に巻き付けられ、他方の第2の綿糸は、Z方向に巻き付けられる。
図4は、
図3の導電糸のA-A’断面を示し、多角形の断面を有する集束引き抜きされたステンレス鋼繊維463から構成される第1の糸462と、2本の第2の糸464と、を示している。
【0036】
図5は、本発明の第1の態様による導電糸500の一例を示す。導電糸500は、第1の糸562と1本の第2の糸564、例えば綿糸と、を備える。第1の糸562は、複数のステンレス鋼繊維から構成される。第1の糸562と第2の糸564とは、一緒に撚り合わせられる。あるいは、第1の糸と第2の糸とは、ケーブル状にされ得る。第1の糸と第2の糸とが一緒に撚り合わせられる、またはケーブル状にされる撚り合わせは、好ましくは、導電糸の長さ1メートル当たり10~600巻きである。
【0037】
綿繊維糸に加えて、第2の糸として他の糸、例えばレーヨン繊維糸、ポリエステル繊維糸、ポリアミド繊維糸もしくはパラ系アラミド繊維糸またはこのような繊維を含む混合糸を使用することもできる。
【0038】
本発明で使用され得る第1の糸の例は、12μmの相当直径の275本の集束引き抜きされたステンレス鋼フィラメントを含み、Z方向に1メートル当たり100巻きで撚り合わされた、撚り合わされたステンレス鋼フィラメント糸である。
【0039】
本発明で使用され得る第1の糸の別の例は、12μmの相当直径の550本の集束引き抜きされたステンレス鋼フィラメントを含み、S方向に1メートル当たり175巻きで一緒に撚り合わされた、撚り合わされたステンレス鋼フィラメント糸である。
【0040】
本発明で使用され得る第1の糸の別の例は、12μmの相当直径の275本の2倍の集束引き抜きされたステンレス鋼フィラメントを含み、1メートル当たり175巻きで一緒にケーブル状にされた、ケーブル状にされたステンレス鋼フィラメント糸である。
【0041】
本発明で使用され得る第1の糸の別の例は、14μmの相当直径の90本の集束引き抜きされたステンレス鋼フィラメントを含み、Z方向に1メートル当たり100巻きで一緒に撚り合わされた、撚り合わされたステンレス鋼フィラメント糸である。
【0042】
本発明で使用され得る第1の糸の別の例は、不連続な長さのステンレス鋼繊維から構成された、撚り合わされた90*2テクスのステンレス鋼繊維糸である。糸は、12μmの相当直径の牽切された集束引き抜きされたステンレス鋼繊維から紡がれる。
【0043】
本発明による導電糸の例では、第1の糸は、12μmの相当直径の275本の集束引き抜きされたステンレス鋼フィラメントを含み、Z方向に1メートル当たり100巻きで撚り合わされた、撚り合わされたステンレス鋼フィラメント糸である。第1の糸には、33テクスの綿糸が1メートル当たり300巻き、S方向に巻き付けられている。導電糸の表面の約60%が第1の糸によって提供される。
【0044】
本発明による導電糸の別の例は、12μmの相当直径の275本の集束引き抜きされたステンレス鋼フィラメントを含み、Z方向に1メートル当たり100巻きで撚り合わせた、撚り合わされたステンレス鋼フィラメント糸である。第1の糸には、33テクスの2本の綿糸が巻き付けられている。第1の綿糸は、第1の糸の周囲にS方向に1メートル当たり300巻き巻き付けられ、第2の綿糸は、第1の糸の周囲にZ方向に1メートル当たり300巻き巻き付けられている。導電糸の表面の60%超が第1の糸によって提供される。
【0045】
本発明による導電糸の別の例では、第1の糸は、不連続な長さのステンレス鋼繊維から構成された、撚り合わされた90*2テクスのステンレス鋼繊維糸である。第1の糸は、8μmの相当直径の牽切された集束引き抜きされたステンレス鋼繊維から紡がれる。第1の糸には、33テクスの綿糸が1メートル当たり300巻き、S方向に巻き付けられている。導電糸の表面の60%超が第1の糸によって提供される。
【0046】
本発明による導電糸の別の例では、第1の糸は、不連続な長さのステンレス鋼繊維から構成された、撚り合わせた90*2テクスのステンレス鋼繊維糸である。第1の糸は、8μmの相当直径の牽切された集束引き抜きされたステンレス鋼繊維から紡がれる。第1の糸には、20テクスの2本の綿糸が巻き付けられている。第1の綿糸は、第1の糸の周囲にS方向に1メートル当たり600巻き巻き付けられ、第2の綿糸は、第1の糸の周囲にZ方向に1メートル当たり600巻き巻き付けられている。