(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】前処理コーティング組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/19 20170101AFI20230209BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20230209BHJP
C25B 1/135 20210101ALI20230209BHJP
C01B 32/225 20170101ALI20230209BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20230209BHJP
【FI】
C01B32/19
C23C26/00 C
C25B1/135
C01B32/225
C01B32/194
(21)【出願番号】P 2019526370
(86)(22)【出願日】2017-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2017068924
(87)【国際公開番号】W WO2018019905
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-07-20
(32)【優先日】2016-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519031759
【氏名又は名称】タルガ アドバンスド マテリアルズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】TALGA ADVANCED MATERIALS GMBH
【住所又は居所原語表記】Burgstrasse.12,80331 Munich, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【氏名又は名称】下田 昭
(72)【発明者】
【氏名】ボーム、シバサムブ
(72)【発明者】
【氏名】アネジャ、カランベール シン
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/074752(WO,A1)
【文献】特表2015-507320(JP,A)
【文献】PARVEZ, Khaled et al.,Exfoliation of Graphite into Graphene in Aqueous Solutions of Inorganic Salts,Journal of the American Chemical Society,米国,2014年03月31日,Vol.136/No.16,pp.6083-606091
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/19
C23C 26/00
C09D 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の前処理コーティング組成物を製造する方法であって、以下の工程:
i.黒鉛鉱体から黒鉛鉱を採掘し、
ii.前記黒鉛鉱を電解処理して膨張黒鉛材料を得て、
iii.前記膨張黒鉛材料を剥離処理して単層グラフェン及び数層のグラフェンを得て、
iv.任意の残留黒鉛材料から、前記剥離処理から得られた前記グラフェンを分離し、及び
v.グラフェンを前記金属基材にカップリングするためのカップリング剤で前記グラフェンを官能化すること、
を含み、
前記剥離処理が、前記
膨張黒鉛材料の化学処理及び高圧処理の組み合わせであり、
前記化学処理が、隣接するグラファイト層間の距離を増大させるための挿入工程を含む、方法。
【請求項2】
前記電解処理が、アンモニウムイオン、好ましくはアンモニウムイオン及び硫黄含有イオン、より好ましくは硫酸アンモニウムを含む電解質の存在下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記硫黄含有イオンが前記膨張黒鉛材料から分離される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記
膨張黒鉛材料を、水と混和しない液体、好ましくは炭化水素を含む有機溶媒と混合することによって、前記
膨張黒鉛材料から前記硫黄含有イオンを分離する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記
水と混和しない液体が灯油を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記挿入工程が、前記
膨張黒鉛材料を、0.5~7質量%、好ましくは0.5~2質量%の挿入剤を含有する溶液と混合することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記挿入剤が、四級アンモニウム塩又は過硫酸アンモニウム塩を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記挿入剤を含む前記溶液が、最大10質量%の界面活性剤、好ましくは1~6質量%の界面活性剤、より好ましくは1~4質量%の界面活性剤を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記カップリング剤がオルガノシロキサンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記カップリング剤が、アミノシロキサン又はアミノアルキルシロキサンを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記カップリング剤が、少なくとも第1のオルガノシロキサンオリゴマー及び第2のオルガノシロキサンオリゴマーを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のオルガノシロキサンオリゴマーの前記第2のオルガノシロキサンオリゴマーに対する体積比が1.2:1~1.8:1である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記グラフェンを官能化する工程の前に、前記オルガノシロキサンが、(i)前記前処理コーティング組成物が軟鋼又は亜鉛めっき鋼に塗布するためのものである場合に、酸性pHで加水分解され、(ii) 前記前処理コーティング組成物がアルミニウムに塗布するためのものである場合に、5.5~9.0のpHで加水分解され、(iii) 前記前処理コーティング組成物が銅に塗布されるためのものである場合に、7.0~12.0のpHで加水分解され、(iv) 前記前処理コーティング組成物がマグネシウムに塗布されるためのものである場合に、11.5~14.0のpHで加水分解され、(v) 前記前処理コーティング組成物がステンレス鋼に塗布するためのものである場合に、中性pHで加水分解される、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能化グラフェンを含む前処理コーティング組成物(pre-treatment coating composition)及びその製造方法に関する。本発明はまた、前処理コーティング組成物を含むコーティングされた金属基材、及び金属又は合金基材を保護するための前処理コーティング組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
防食前処理コーティングは、保護コーティング又は装飾コーティングを施す前に、金属基材、特に鋼などの鉄を含有する金属基材に施されることが多い。前処理コーティングは、金属基材が湿気及び酸素にさらされる場合には、金属基材に対する腐食量を最小限に抑える。
【0003】
本件の(present)前処理コーティングの多くは金属リン酸塩及びクロム酸塩をベースとしており、それぞれリン酸塩処理及びクロメート処理から得られる。
【0004】
リン酸塩処理は、金属基材がリン酸及びリン酸塩の希薄溶液で浸漬又はスプレーされ、金属表面に実質的に不溶性のリン酸塩被膜を形成する処理である。リン酸塩処理は通常、鉄、軟鋼、亜鉛めっき鋼、亜鉛及びアルミニウムの表面を腐食から保護するために使用される。
【0005】
クロメート処理は通常、金属のストリップ又はシートをクロム酸溶液に浸して金属表面に化成被膜を形成することを含む。化成被膜は、典型的には黄色がかった色であり、金属基材を腐食から保護することを可能にする、金属基材とは異なる化学的及び物理的特性を示す。クロメート前処理コーティングは通常、軟鋼、軽合金及び亜鉛めっき表面を保護するために使用される。
【0006】
クロメート処理された金属基材に対する防食のメカニズムは以下に説明される。
陽極側(anodic site)で金属は溶解して金属イオンと電子を生成する。
M (s) → M+2
(aq) + 2e-
陰極側(cathodic site)では、酸素と水が電子と反応してヒドロキシルイオンを生成する。
O2 (g) + H2O (aq) + 4e- → 4OH-
(aq)
金属イオンはクロム酸イオンと反応し、陽極で金属クロム酸塩腐食防止層(metal chromate corrosion inhibiting layer)を生成する。
M+2
(aq) + 2CrO4
2-
(aq) → MCrO4
(s)
【0007】
その代わりに、六価クロムはCr+3に還元されると、カソード腐食プロセス(cathodic corrosion process)を抑制することができる。
Cr+3 + OH-
(aq) → Cr(OH)3
(s)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
六価クロム(Cr (VI))がカソード腐食及びアノード腐食の両方の防止を提供できるという事実は、クロム酸塩ベースの前処理コーティングの広範な使用を説明する。しかしながら、知られている欠点は、Cr(VI)が発がん性で有毒であり、それが人の健康及び環境にとって危険であることである。 欧州連合のREACH法はCr(VI)の使用の禁止を求めている。
【0009】
これを考慮して、Cr(VI)を含まないコーティングシステムを開発するためにかなりの努力がなされてきた。 リン酸塩溶液の使用は当面の代替案であったが、成功裏に実施するための酸性条件が実行可能な代替案としての主要な障害であることが判明した。
【0010】
Cr (III)ベースのコーティングは注目され始め、Cr (VI)ベースのコーティングに代わる環境に優しい代替品として表されているが、それらのCr(VI)対応物に対するCr (III)ベースのコーティングの腐食性能はこれまでのところ劣っている。
【0011】
複合フッ素ベース化合物(complex fluoro-based compound)を形成するジルコニア及びチタンベースのコーティングは、加速腐食条件下でのCr(VI)ベースの前処理と比較して満足のいく性能を示したが、フッ素ベースの化合物の使用もまた、健康と環境の観点から重要な関心事である。
【0012】
ゾル - ゲル保護コーティングは、金属基材に対して優れた化学的安定性及び改善された耐食性を実証してきたが、残念ながら可使時間(pot life time)及び耐久性に対する課題に直面している。
【0013】
近年、その優れた耐薬品性、機械的強度、ならびにガス及び腐食性イオンに対する不透過性のために、1原子又は数層(few-layer)の厚さの結晶質黒鉛シートであるグラフェンを防食コーティングに組み込むことに焦点が当てられている。グラフェンの利点、及び従来のコーティングシステムのそれを超えて防食コーティングの腐食性能を改善するその可能性にもかかわらず、グラフェンの大規模大量生産を容易にする既知の方法はない。 これはまた、グラフェンを含む防食組成物及びコーティングを製造するための製造コストを増大させ、それによって、グラフェンを含む防食組成物を大量に製造する商業的実現可能性を低下させる。
【0014】
グラフェンを製造するための技術は、「ボトムアップ」又は「トップダウン」という2つの広いカテゴリに分類することができ、それぞれに特定の製造方法論がある。しかしながら、これらの方法は、グラフェン製造プロセスのための供給原料として高純度黒鉛又は高度に調製された炭素材料を必要とし、そのすべてはグラフェンのコストを増大させる。
【0015】
ボトムアップ法は、グラフェンが、典型的には純粋な炭化水素源からの炭素分子を用いて製造(成長)されることを意味する。グラフェンは原子1つずつ組み立てられている(assembled atom by atom)。 薄いグラフェン膜(数層のグラフェン又はFLG)が基板上に析出され、それによって非常に少数の層及び低欠陥の膜が保証される。 しかしながら、重要なことは、最終用途のためにそれを損傷することなくグラフェン膜を基板から除去する能力である。 グラフェンを成長させるのに必要とされる高温高圧の複雑な装置及び取扱いの複雑さは、これを非常に高コストの方法にする。具体的なボトムアップ方法としては、化学気相成長(CVD)、炭化ケイ素上での成長(エピタキシャル成長)、金属上での析出(precipitation)による成長、分子線エピタキシー、及びビルディングブロック(building block)としてベンゼンを用いる化学合成が挙げられる。
【0016】
トップダウン方式には、既に存在するグラフェンがそのホスト、例えば黒鉛鉱物の濃縮物(concentrate)又は合成黒鉛(高配向性熱分解グラファイト-HOPG)から遊離(liberate)する方式が含まれる。グラフェンの前駆体材料として天然又は合成の黒鉛に頼る多くのプロセスがある。 これらの方法は、厚さが変化する(つまり、例えば、単層の材料が少数の割合で存在し、数層のフレークが優位に存在し、次に、所望の最終用途に応じて黒鉛(>10又は20層)とみなされる一定割合の多層の物質が存在する釣鐘曲線を見ることができる)グラフェンのフレーク(ナノ板状体(nano-platelet))を主に生成する。具体的なトップダウンプロセスは、機械的又は微小機械的剥離/へき開、超音波処理、レーザーアブレーション及び光剥離、アニオン結合技術、及び電気化学的/電解的剥離を含む。
【0017】
グラフェンを製造するための様々な黒鉛物質の剥離のための様々な電気化学的/電解的技術が先行技術から知られている。しかしながら、これらの大部分は実験室規模の方法に限定されており、商業的な量のグラフェンの製造を意図していない。重要なことに、現在のすべての方法は精製された天然濃縮物又は合成黒鉛の供給原料を必要とし、それは上述のようにグラフェン製造のコスト、ひいてはグラフェンを含むあらゆるコーティング組成物のコストを増大させる。
【0018】
上記に照らして、本発明の実施形態の目的は、グラフェンを商業的な量で製造することを可能にする方法を提供することである。
本発明の他の目的は、グラフェンを含む前処理コーティング組成物を製造するための商業的に実行可能な方法を提供することである。
本発明の実施形態の目的はまた、従来のクロメート及びリン酸塩ベースの前処理コーティングと同等又はそれ以上の防食性能を示す、Cr (VI)を含まない前処理コーティングを提供することである。
本発明の実施形態の目的はまた、人間の健康及び環境に対して危険性が少ない、Cr (VI)を含まない前処理コーティングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の態様によれば、金属基材の前処理コーティング組成物を製造する方法が提供され、この方法は以下の工程を含む。
i.黒鉛鉱体(graphite ore body)から黒鉛鉱(graphite ore)を採掘し、
ii.前記黒鉛鉱を電解処理して膨張黒鉛材料(expanded graphitic material)を得て、
iii.前記膨張黒鉛材料を剥離処理して単層グラフェン及び数層のグラフェンを得て、及び
iv.グラフェンを前記金属基材にカップリングするためのカップリング剤で前記グラフェンを官能化する。
【0020】
黒鉛鉱を電解処理に掛けることによって、防食コーティングに使用するための単層グラフェン及び数層のグラフェンの製造のための大量の膨張黒鉛材料を、容易に商業的に実行可能な方法で得ることができる。本発明に照らして、「数層の」グラフェンという用語は、2~10層の厚さのグラフェンとして定義され得る。
【0021】
有利には、グラフェンの電解製造における採掘された黒鉛材料の使用は、グラフェンを製造するための従来の方法を超える重要な利点を提示する。これに関して、電解処理において電極を形成する前駆体材料は、高度に精製され、処理され、しかも高価な天然原料又は合成原料ではなく、地面から直接提供される。これは、先行技術の方法及び競合するグラフェン製造方法と比較して、設備投資が少ないという点で大きな利点を提供する。さらに、電解処理から得られる黒鉛材料は、従来の方法を使用して製造される黒鉛と比較して、隣接するグラファイト層の層間間隔の増大を示すという点で拡張形(expanded form)である。これにより、隣接するグラファイト層間の結合が弱まり、膨張黒鉛材料のグラフェンへの剥離が促進され、単層グラフェン及び数層のグラフェンのより高い収率が得られる。これは、官能化工程の間により多量のグラフェンを官能化することができ、その結果、より多くの量のグラフェンが前処理コーティングに組み込まれることを意味する。従って、本発明の第1の態様の方法に従って得られた前処理コーティング組成物から形成された前処理コーティングは、優れた耐食性を示し、クロメート鋼、亜鉛めっき鋼、ステンレス鋼及びアルミニウム基材よりも良好に機能することがわかった。
【0022】
本発明の第1の態様の方法から得られるグラフェンは、酸化物を含まない純粋なグラフェンであり得る。還元工程の後にいくらかの酸化グラフェンが残ることが知られているので、これは酸化グラフェンから還元されたグラフェンを含まないことを理解すべきである。酸化物を含まないグラフェンが使用される場合、カップリング剤はグラフェン端部に位置する自由電子と反応して官能化グラフェンを形成することができる。酸化グラフェン(GO)又は還元型酸化グラフェン(RGO)ではなく、酸化物を含まない(oxide-free)グラフェンを使用することによって、このようにして形成されたコーティングの耐食性及び機械的性質をさらに改善することができる。コーティングがGO又はRGOを含む場合に観察される耐食性及び機械的性質の低下は、前処理コーティングの物理的性質にとって有害な欠陥として作用する酸化物の存在に起因していた。好ましくは、採掘された黒鉛は、切断、鋸引き又はワイヤを使用したスライスなどの非爆発的技術を使用して黒鉛体から得られる。好ましくは、黒鉛は鉱石ブロック全体として得られる。有利には、黒鉛鉱は、膨張黒鉛材料の製造のための電解プロセスにおいて、さらなるサイズの減少なしに使用できるサイズ及び形状に切断、鋸引き又はスライスされることができる。さらに、黒鉛鉱は十分に導電性があり、強固であるため、電解剥離による膨張黒鉛材料を製造するための電解処理において、電極として直接使用されることができる。
【0023】
好ましくは、黒鉛材料はナノ-マイクロ板状体黒鉛(nano-micro platelet graphite)を含む。 電解処理から得られるナノ-マイクロ板状体黒鉛は、黒鉛材料が機械的剥離又は他のサイズ減少プロセス、例えば大部分の粉砕及び粉砕プロセスに曝されたときに典型的に示される板状体のエッジの折り畳み又は丸み(folding or rounding)を実質的に示さない。ナノ-マイクロ板状体黒鉛はまた、高アスペクト比、比較的自然なエッジ及び大きな表面積といった特徴を組み合わせていると理解され、これらすべてが本発明のナノ-マイクロ板状体黒鉛を、適切なカップリング剤による官能化に非常に適したものにする。
【0024】
電解処理は、アンモニウムカチオンを含む電解質の存在下で行うことができる。このような塩は硫酸及びN-メチル-2-ピロリドンなどの他の一般的に使用される電解質よりも腐食性及び危険性が低いので、電解質はさらに硫黄含有アニオンを含むことができ、好ましい実施形態では電解質は硫酸アンモニウムを含む。膨張黒鉛材料の収率を高めることができるので、電解質のpHは6.0~8.5が好ましい。
【0025】
硫黄含有アニオンの存在はコーティング腐食性能に有害であることがわかったので、電解質が硫酸塩のような硫黄含有アニオンを含有する場合、これらを膨張黒鉛材料から分離することが好ましい。
【0026】
好ましくは、液-液分離(LLS)経路が、黒鉛材料を水と混和しない液体と混合することを含む、黒鉛材料から硫酸アニオンを分離するために使用される。硫黄含有アニオンは、黒鉛材料からの硫黄含有アニオンの抽出を可能にするために、不混和性の液体に対して水よりも可溶性であるべきである。好ましい実施形態では、不混和性液体は灯油などの有機溶媒を含む。灯油は、ヘキサンのような他の慣用の有機溶媒と比較して引火点が高く低コストであるために好ましい。
【0027】
膨張黒鉛材料を液-液選鉱処理にかけることにより、脈石材料(gangue material)を除去することができ、炭素含有量を鉱石中に存在する10~30質量%から80~99質量%炭素に増加させることができる。
【0028】
剥離処理は、黒鉛材料を化学処理する工程を含んでもよい。化学処理は、黒鉛材料が、挿入剤(intercalation agent)を含有する溶液と混合される挿入工程を含むことが好ましい。
【0029】
好ましい実施形態では、溶液は0.5~7質量%、好ましくは0.5~2質量%の挿入剤を含む。
【0030】
好ましくは、挿入剤は四級アンモニウムイオンを含む。四級アンモニウムイオンの挿入(intercalation)は、グラファイト層間の距離を増加させるのに特に適していることがわかった。これはグラファイト層を互いに保持する力を弱め、剥離処理後により多くの量の単層グラフェン及び数層のグラフェンを得ることを可能にする。
【0031】
好ましくは、挿入剤は、四級アンモニウム塩、より好ましくは硫酸テトラブチルアンモニウムを含む。
【0032】
挿入剤を含む溶液は、1又はそれ以上の界面活性剤をさらに含んでもよい。挿入剤を含むが界面活性剤を含まない溶液から得られるグラフェンの剥離収率に対して、挿入剤及び界面活性剤を含む溶液を提供することによって、グラフェンの剥離収率を20~40%増加させることが可能であった。
【0033】
溶液は最大10質量%の界面活性剤を含んでもよい。好ましくは、溶液は1.0~6.0質量%の界面活性剤を含み、より好ましくは、溶液は1.0~4.0質量%の界面活性剤を含む。
【0034】
剥離処理は、化学的処理及び高圧処理の組み合わせを含むことが好ましい。好ましくは、化学的に処理された黒鉛材料は、さらに200~5000barの高圧処理にかけられ、より好ましくは高圧処理は少なくとも1200barの圧力で行われる。黒鉛材料に化学処理及び高圧処理を施すことによって、単層グラフェン及び数層のグラフェンの高い収率を得ることができる。
【0035】
その代わりに、剥離処理は化学的処理と機械的処理の組み合わせを含んでもよい。この実施形態では、化学処理から得られたグラファイトが挿入された化合物(graphitic intercalated compound)は、1又はそれ以上の機械的処理を受けることができる。好ましい機械的処理としては、超音波撹拌、エアレススプレー(airless spray)処理及び高剪断ミキサー剥離処理(high shear mixer exfoliation treatment)が挙げられる。
【0036】
剥離後、本方法は、好ましくは遠心分離によって、単層グラフェン及び数層のグラフェンを任意の残留膨張黒鉛材料から分離する追加の工程を含んでもよい。
【0037】
カップリング剤は、グラフェン及び金属基材の表面上の反応種と反応することができる有機官能性シロキサン(organo-functional siloxane)を含むことが好ましい。有機官能性シロキサンの使用は、グラフェンが金属基材と強い化学結合を形成することを可能にし、そして自己組織化によるコーティングマトリックス全体にわたる高密度グラフェンの3次元ネットワークの形成を容易にする。
【0038】
カップリング剤は、モノアミン、ジアミン、アミノアルキル及びアルキルから選択される1又はそれ以上の有機官能基を含むアミノシロキサン又はシロキサンオリゴマーを含んでもよい。 アミノアルキル及びアルキル基は、1~18個の炭素原子の直鎖、分岐鎖又は環状アルキル基を含んでもよい。
【0039】
本発明に従って用いることができる適切なシロキサン系カップリング剤の例は、(3-アミノ - プロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、ポリ[ジメチルシロキサン - コ - (3-アミノプロピル)メチルシロキサン]、ポリ(ジメチルシロキサン)、ビス(3-アミノプロピル)末端、ダイナシラン(Dynasylan)(登録商標)ヒドロシル(HYDROSIL) 2627、ダイナシラン(Dynasylan)(登録商標)ヒドロシル(HYDROSIL) 2909、ダイナシラン(Dynasylan)(登録商標)シボ(Sivo)110、ダイナシラン(Dynasylan)(登録商標)シボ(Sivo)113、ダイナシラン(Dynasylan)(登録商標)シボ(Sivo) 121を含む。
【0040】
カップリング剤は、少なくとも第1の有機官能性シロキサンオリゴマー及び第2の有機官能性シロキサンオリゴマーを含んでもよい。 好ましくは、第1のシロキサンオリゴマーは、モノアミン、ジアミン、アミノ - アルキル及びアルキルから選択される1つ又はそれ以上の有機官能基を含む。
【0041】
第2のシロキサンオリゴマーの有機官能基は、好ましくは第1のオリゴマーの有機官能基と反応することができる。 好ましい実施形態では、第2のシロキサンオリゴマーの有機官能基は、モノアミン、ジアミン、アミノ - アルキル、アルキル、エポキシ及びヒドロキシルから選択されてもよい。
【0042】
好ましい実施形態では、第1の有機官能性シロキサンオリゴマーの、第2の有機官能性オリゴマーに対する比は1.2:1から1.8:1の間である。 コーティングが上記の範囲内の比で第1及び第2の有機官能性オリゴマーを含む場合、非常に良好な防食が得られることが見出された。
【0043】
金属基材が軟鋼又は亜鉛めっき鋼を含む場合、グラフェンを官能化する工程の前に、有機官能性シロキサンは、酸性pHで加水分解されるのが好ましい。例えば、オルガノシロキサンをpH4.0~6.0で加水分解することが好ましい。より好ましくは、オルガノシロキサンはpH4.5~5.5で加水分解される。オルガノシロキサンがアルカリ性pH又は上記pH範囲外のpHで加水分解されると、軟鋼又は亜鉛めっき鋼基材と官能化グラフェン系コーティングとの間の接着力が低下する可能性がある。
【0044】
プレコーティング(pre-coating)組成物がステンレス鋼の表面に塗布される場合、オルガノシロキサンを中性pHで加水分解することが好ましい。
【0045】
前処理コーティング組成物がアルミニウムと共に使用するためのものである場合、オルガノシロキサンをpH5.5~9で、より好ましくはpH7.5~8.5で加水分解することが好ましい。
【0046】
前処理コーティング組成物が銅と共に使用するためのものである場合、オルガノシロキサンをpH7~12、又はより好ましくはpH7.5~8.5で加水分解することが好ましい。
【0047】
他方、前処理コーティング組成物がマグネシウム基材と共に使用するためのものである場合、溶液pH11.5~14が好ましい。より好ましくはpHは11.5~13.5である。
【0048】
溶液のpHが上述の範囲外になると、官能化グラフェンコーティングは、アルミニウム、マグネシウム又は銅の基材に対して接着性が低下する可能性があることが分かった。
【0049】
本発明の第2の態様によれば、上記の請求項のいずれか一項に記載の方法に従って製造された前処理コーティング組成物が提供される。本発明の第2の態様による前処理コーティング組成物は、必要に応じて、本発明の第1の態様に関して説明した特徴のいずれか又はすべてを組み込んでもよい。
【0050】
本発明の第3の態様によれば、前処理コーティングが施された金属基材が提供され、ここで前処理コーティングは、本発明の第1の態様の方法に従って製造された前処理コーティング組成物から、又は本発明の第2の態様の前処理コーティング組成物から形成される。従って、前処理コーティングは、本発明の第1の態様に関して、又は本発明の第2の態様に関して説明した特徴のいずれか又はすべてを含んでもよい。
【0051】
前記前処理コーティングが施された前記金属基材は、以下の工程:
i.黒鉛鉱体から黒鉛鉱を採掘し、
ii.前記黒鉛鉱を電解処理して膨張黒鉛材料を得て、
iii.前記膨張黒鉛材料を剥離処理して単層グラフェン及び数層のグラフェンを得て、
iv.グラフェンを前記金属基材にカップリングするためのカップリング剤で前記グラフェンを官能化し、
v.官能化グラフェンを含む前処理組成物を金属基材の表面に塗布し、及び
vi.前記前処理コーティングを形成するために前記コーティングされた金属基材を熱処理すること、を含む方法によって調製することができる。
【0052】
前処理コーティングは、好ましくは0.5~5.0ミクロンの厚さを有する。コーティングの厚さが0.5ミクロン未満である場合、前処理コーティングは必要な防食特性を持たないかもしれない。一方、前処理コーティングが5ミクロンを超える乾燥膜厚を有する場合、前処理コーティングは金属基材から剥離する傾向が増大する可能性がある。本発明の一実施形態では、前処理コーティングは1~3ミクロンのコーティング厚を有してもよい。
【0053】
金属基材は、アルミニウムもしくはマグネシウムのような金属、又は軟鋼のような合金(metal alloy)でもよい。その代わりに、金属基材は亜鉛めっき鋼基材でもよい。
【0054】
本発明の第4の態様によれば、金属又は合金基材を腐食から保護するための、本発明の第1の態様に従って製造された前処理コーティング組成物、又は本発明の第2の態様の前処理コーティング組成物の使用が提供される。従って、前処理コーティング組成物は、本発明の第1又は第2の態様に関して説明した特徴のいずれか又はすべてを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】裸の軟鋼、オルガノシロキサンコーティングが施された軟鋼、及び本発明の前処理コーティングで官能化された単層及び数層のグラフェンが施された軟鋼の電解インピーダンス分光(electrolytic impedence spectroscopy)実験の結果を示す図である。
【
図2】裸の亜鉛めっき鋼、オルガノシロキサンコーティングが施された亜鉛めっき鋼及び本発明の前処理コーティングで官能化された単層及び数層のグラフェンが施された亜鉛めっき鋼の電解インピーダンス分光実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明をより明確に理解することができるように、それらの実施形態が一例としてのみ説明される。
【0057】
強固で導電性の黒鉛含有鉱である適切な黒鉛材料「ヴィタンギ(Vittangi)黒鉛」が同定され、スウェーデンのヌーナスバーラ(Nunasvaara)鉱床で本出願人に入手可能であり、主に微結晶フレークの25.3%黒鉛(Cg)で9.8Mtの鉱石埋蔵量合同委員会(Joint Ore Reserves Committee)(JORC 2012)鉱物資源である。この鉱床の等級は平均26.2%Cgで試掘され、等級は最高46.7%Cgに達した。 岩石強度(rock strength)は約120 MPaで、抵抗率は10オームメートル未満、例えば0.0567オームメートルで測定された。スウェーデンのヌーナスバーラ鉱床の黒鉛鉱の性質は、グラフェン製造のための黒鉛材料原料の適切な供給源とは考えられておらず、現在も考えられていない。ヤルクネン(Jalkunen)プロジェクトの一環としてニブラナン(Nybrannan)鉱床から得られた黒鉛含有鉱もまた、グラフェンの製造のために出願人に利用可能な適切な材料である。
【0058】
黒鉛鉱は、研磨ディスク、鋸又はワイヤを用いた既知の採石採掘(quarry mining)法、及び鉱石抽出(ore extraction)工程における他の既知の非爆発的な岩石抽出(rock extraction)法によって取り出される。得られた鉱石の塊は、運搬、移動、及びハンドリングに適した大きさを有する。塊は、電解プロセスへの提示(presentation)により適すると考えられる電極のより小さな形状又は形態にさらに切断されてもよい。塊は、立方形、円筒形、台形、円錐形、又は長方形の形状であってよく、好ましい最小寸法は50mm、最大寸法は2000mmである。とりわけ、塊は、100mmの最小寸法及び1000mmの最大寸法、又はさらにとりわけ、150mmの最小寸法及び500mmの最大寸法を有する。
【0059】
黒鉛鉱床からの鉱石塊は、ナノ-マイクロ板状体黒鉛の製造のための電気分解における電極として直接使用される。この実施形態では、取り出された黒鉛鉱が陽極として使用され、銅金属が陰極として使用され、電解処理は、6.5のpHを有する1M硫酸アンモニウム溶液の存在下で行われる。取り出された黒鉛をナノ-マイクロ板状体黒鉛に剥離するために印加された電圧は10Vであり、硫酸アンモニウム溶液は同時に1000rpmで攪拌された。
【0060】
電解処理後に得られるナノ-マイクロ板状体黒鉛は、それが製造される黒鉛鉱に対して実質的に変化しない特性を有する。さらに、得られたナノ-マイクロ板状体黒鉛は、合成黒鉛又は高配向性熱分解グラファイト(HOPG)から得られたナノ-マイクロ板状体黒鉛の観察された層間間隔と比較して、隣接するグラファイト層の層間間隔の増加を示した。
【0061】
電解処理後でかつ、ナノ-マイクロ板状体黒鉛のグラフェンへのさらなる剥離の前に、ナノ-マイクロ板状体黒鉛を含む溶液から硫酸アニオンが分離された。これは、ナノ-マイクロ板状体黒鉛を含有する溶液を、該溶液が灯油に加えられる液-液分離処理にかけることによって達成された。硫酸アニオンは水中より灯油中でより可溶性であるので、それらは容易に移動して有機溶媒中に可溶化され、それはナノ - マイクロ板状体黒鉛を含有する溶液からのそれらの除去を容易にする。この選鉱処理後に得られるナノ-マイクロ板状体黒鉛は、80~99質量%の炭素を含む。
【0062】
単層グラフェン及び数層のグラフェン層を得るために、選鉱処理から得られたナノ-マイクロ板状体黒鉛は、化学的及び高圧の剥離処理の組み合わせに曝された。化学処理は、ナノ-マイクロ板状体黒鉛(100g)をテトラブチルアンモニウム硫酸アンモニウム水溶液(0.5質量%)と混合して、ナノ-マイクロ板状体黒鉛のグラファイト層間にアンモニウムイオンを挿入することを含む。硫酸アンモニウム溶液の代わりに過硫酸アンモニウム溶液(0.5質量%)が使用できることが理解されるであろう。硫酸アンモニウム水溶液はさらに、どちらもBYKによって製造されるアンチテラ(Antiterra )250(1質量%)及びディスパーBYK(DISPERBYK )2012(2質量%)を含む。グラファイト層間に挿入される(intercalated)アンモニウムイオンの含有量を増加させるため、次いで、この溶液が7日間室温及び常圧に保たれる。
【0063】
上述したように、黒鉛鉱を電解処理にさらすことにより、層間間隔が増大したナノ-マイクロ板状体黒鉛を得ることが可能になる。これは次に、ナノ-マイクロ板状体黒鉛のインターカレーション(intercalation)を助け、隣接するグラファイト層間の結合強度を弱める。
【0064】
インターカレート(挿入)されたナノ-マイクロ板状体黒鉛及び界面活性剤を含有する溶液は、次に、相互作用混合チャンバー(interaction mixing chamber)内での高圧ジェットチャネル(high pressure jet channel)の使用を含む、M-110Y高圧空気圧ホモジナイザー中で高圧処理にかけられる。インターカレートされたナノ-マイクロ板状体黒鉛及び界面活性剤を含有する溶液は、ホモジナイザーの反対側から混合チャンバー中にポンプで送り込まれる。 これにより、2つの非常に加速された液体分散流が加圧ガス(1200bar)と衝突し、その結果、グラファイト層のデアグロメレーション(de-agglomeration)及び単層及び数層のグラフェンの剥離が高収率で生じる。
【0065】
ナノ-マイクロ板状体黒鉛の隣接するグラファイト層間の、高圧と結合強度の低下との組み合わせは、高剪断剥離経路を用いて黒鉛から剥離されたグラフェンに対して形成される単層グラフェン及び数層のグラフェンの量を増加させる。有利には、本発明の方法に従うことによって、黒鉛からグラフェンを剥離するために従来の高剪断処理を使用した場合に得られるグラフェン収率と比較して、グラフェン収率を20~40%増加させることができることが見出された。
【0066】
化学的及び高圧の組み合わせの剥離処理の後、剥離したグラフェンを任意の残留ナノ-マイクロ板状体黒鉛から実質的に分離するために、フィッシャーサイエンティフィック社(Fisher scientific)のLynx 4000遠心分離機を用いて、得られた溶液が5000~10,000rpmで60分間超遠心分離される。多層グラフェン(10層を超えるグラフェン層)を含む前処理コーティングが前処理コーティングの防食特性を低下させることが分かっているので、これは重要である。
【0067】
軟鋼用の前処理コーティング組成物を提供するために、中性のpHを有する剥離グラフェン及び界面活性剤(5%w / w)の水溶液が第1工程で提供された。次いで、pH4~5の溶液を得るために酢酸で酸性化された水(150ml)を用い、ダイナシランヒドロシル2627(100ml)、及び3-アミノプロピルトリエトキシシラン又は「アプテス(APTES)」(50ml)が、10時間個別に加水分解された。官能化グラフェンを得るため、アミノ基をベースとする加水分解シロキサン(ダイナシランヒドロシル2627)溶液が25℃に保持された後、pH中性の剥離グラフェン溶液(5%w / w)と2時間混合された。次いで、加水分解されたアプテス溶液がアミノシロキサン官能化グラフェン溶液に添加され、そして数滴の濃酢酸を添加することによってpHがpH4~5に調整された。官能化グラフェン溶液の固形分を調整するために、粘度調整剤(ボルチゲル(Borchigel)L75N又はエトキシエチルセルロースなど)及びBYK添加剤(BYK378又は 348など)が続いて加えられた(1%未満)。
【0068】
次いで、ロールツーロール(roll to roll)コーティングプロセスを模すために、この溶液がバーコーティングによって前洗浄された軟鋼基材上に塗布された。その後、塗布されたコーティングが150℃で60秒間硬化された。
【0069】
亜鉛めっき鋼用の前処理コーティング組成物を提供するために、中性のpHを有する剥離グラフェン及び界面活性剤(5%w / w)の水溶液が第1工程で提供された。次いで、pH4~5の溶液を得るために酢酸で酸性化された水(150ml)を用い、ダイナシランヒドロシル2627(100ml)、及びダイナシランヒドロシル2609(50ml)が、10時間個別に加水分解された。官能化グラフェンを得るため、アミノ基をベースとする加水分解シロキサン(ダイナシランヒドロシル2627)溶液が25℃に保持された後、pH中性の剥離グラフェン溶液(5%w / w)と2時間混合された。加水分解されたダイナシランヒドロシル2609溶液がアミノシロキサン官能化グラフェン溶液に添加され、そして数滴の濃酢酸を添加することによってpHがpH4~5に調整された。官能化グラフェン溶液の固形分を調整するために、粘度調整剤(ボルチゲル(Borchigel)L75N又はエトキシエチルセルロースなど)及びBYK添加剤(BYK378又は 348など)が続いて加えられた(1%未満)。
【0070】
次いで、ロールツーロール(roll to roll)コーティングプロセスを模すために、この溶液がバーコーティングによって前洗浄された亜鉛めっき鋼基材上に塗布された。その後、塗布されたコーティングが150℃で60秒間硬化された。
【0071】
本発明の前処理コーティング組成物の防食特性を調べるために、コーティングされた軟鋼及び亜鉛めっき鋼基材が、電気化学インピーダンス分光法(EIS)及びポテンショスタット(バイオロジック(Biologic) SP300)を用いた直線分極法(liner polarization technique)により分析された。ASTM G3-14に概説されている手順に従った。
【0072】
本発明の前処理コーティングのバリア特性を分析するためにEISが使用されたのに対し、腐食速度を決定するため直線分極が使用された。対照として、EIS及び直線分極実験が、裸の軟鋼及び亜鉛めっき鋼基材、ならびにダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2627 / アプテスで被覆された軟鋼基材、及びダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2627 /ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2609で被覆された亜鉛めっき鋼基材でも実施された。それぞれの基材上のコーティングの乾燥膜厚は1ミクロンであった。
【0073】
EIS実験の結果が
図1及び
図2に示される。高いインピーダンス値(y軸)は、優れたバリア特性を示す。
【0074】
図1は、裸の軟鋼、ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2627 / アプテスで被覆された軟鋼、及びダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2627 / アプテス官能化グラフェンコーティングが施された軟鋼の電解インピーダンス分光実験の結果を示す。被覆されていない軟鋼基材については約3.3のインピーダンス値が得られ(曲線1)、ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2627 / アプテス被覆軟鋼基材については約4.0のインピーダンス値が得られ(曲線2)、ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2627 / アプテス官能化グラフェンコーティングが施された軟鋼では、約4.8のインピーダンス値が得られている(曲線3)。 従って、軟鋼がダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2627 / アプテス官能化グラフェンでコーティング(被覆)されると、最良のバリア保護特性が得られることが結果から示される。
【0075】
図2は、裸の亜鉛めっき鋼、ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル 2627 / ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル 2609で被覆された亜鉛めっき鋼、及びダイナシラン(登録商標)ヒドロシル 2627 /ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2609官能化グラフェンコーティングが施された亜鉛めっき鋼のEIS実験の結果を示す。 被覆されていない亜鉛めっき鋼基材については約3.6のインピーダンス値が得られ(曲線1)、ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル 2627 / ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル 2609が被覆された亜鉛めっき鋼基材については約4.1のインピーダンス値が得られ(曲線2)、ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル 2627 /ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2609グラフェンコーティングが施された亜鉛めっき鋼については、約5.4のインピーダンス値が得られる(曲線3)。 従って、この結果は、亜鉛めっき鋼基材について、亜鉛めっき鋼基材がダイナシラン(登録商標)ヒドロシル 2627 /ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2609官能化グラフェンを含む組成物で被覆されたときに最良のバリア保護特性が得られることを示す。
【0076】
EISの結果はさらに、ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル 2627 /ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2609-官能化グラフェンコーティングが施された亜鉛めっき基材が、ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル /アプテス官能化グラフェンコーティングが施された対応する軟鋼よりも優れた耐食性を表すことを示す。これは、少なくとも部分的には、亜鉛めっきコーティング層によってもたらされる付加的な防食に起因するとされている。
【0077】
軟鋼及び亜鉛めっき鋼被覆基材についての直線分極実験の結果がそれぞれ表1及び表2に示される。
【0078】
表1は、ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2627 / アプテス被覆軟鋼基材(1.19x10-3)についての腐食速度(rate of corrosion)が(1.19x10-3)、対応する被覆されていない軟鋼基材について得られた腐食速度(5.79x10-1)よりはるかに低いことを示す。表1はまた、軟鋼基材にダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2627 / アプテス官能化グラフェンを含むコーティング(9.06x10-5)を施すことによって腐食速度をさらに低減できる(9.06x10-5)ことを示す。
【0079】
【0080】
同様に、表2は、ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル 2627/ ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2609被覆亜鉛めっき鋼の腐食速度が、対照の亜鉛めっき鋼より遥かに低いが、ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル 2627/ ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2609官能化グラフェン被覆亜鉛めっき鋼基材ほど高くないことを示す。これもまた、本発明の方法に従って得られたグラフェンを組み込むことが腐食速度を低下させる点で有益な効果を有することを示す。
【0081】
【0082】
表1及び表2はさらに、RGO又はGO ダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2627 / アプテス官能化グラフェンコーティングを含む軟鋼及び亜鉛めっき鋼基材が、本発明の方法に従って得られるダイナシラン(登録商標)ヒドロシル2627 / アプテス官能化グラフェンコーティングが施された基材と比較して腐食速度が増大することを示す。観測された腐食速度の増加は、コーティングマトリックス中の欠陥として作用する酸化物の存在に起因した。
【0083】
上記実施形態は単なる一例として記載されているに過ぎない。多くの変形例が、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲から逸脱することなく可能である。