(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】真空成形用樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
B29C 48/21 20190101AFI20230209BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20230209BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20230209BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20230209BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230209BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230209BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230209BHJP
B29C 51/10 20060101ALI20230209BHJP
B29C 51/14 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
B29C48/21
B29C48/305
B29C48/88
B29C48/08
B32B27/30 A
B32B27/30 D
B32B27/00 E
B32B27/18 A
B29C51/10
B29C51/14
(21)【出願番号】P 2019543739
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2018035168
(87)【国際公開番号】W WO2019059369
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2017182394
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】永岡 洪太
(72)【発明者】
【氏名】高野 敬司
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-030528(JP,A)
【文献】国際公開第2016/010013(WO,A1)
【文献】特表平02-503077(JP,A)
【文献】特開平02-151436(JP,A)
【文献】国際公開第2011/142453(WO,A1)
【文献】特開昭61-008349(JP,A)
【文献】特開2009-013418(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121868(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/024592(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96
B29C 51/00-51/46
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン系樹脂60質量%~85質量%と、メタクリル酸エステル系樹脂40質量%~15質量%とを含有する表面層と、
フッ化ビニリデン系樹脂0質量%~50質量%とメタクリル酸エステル系樹脂100質量%~50質量%を含有する裏面層を含み、
JIS K7133に基づいて測定される120℃で30分加熱したときのフィルムの流れ方向の加熱伸縮率が-15%~-2%である、
真空成形用フッ素系樹脂多層フィルム。
【請求項2】
前記JIS K7133に基づいて測定される120℃で30分加熱したときのフィルムの幅方向の加熱伸縮率が-3%~+1%である、請求項1に記載の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルム。
【請求項3】
3次元表面加飾工法用である、請求項1又は2に記載のフッ素系樹脂多層フィルム。
【請求項4】
前記裏面層は、樹脂成分100質量部に対し紫外線吸収剤0.1~10質量部を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルム。
【請求項5】
前記紫外線吸収剤は、トリアジン系化合物及びベンゾトリアゾール系化合物から選択される一種以上である、請求項4に記載の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルム。
【請求項6】
前記表面層の厚みは5~100μmであり、前記裏面層の厚みは5~300μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルム。
【請求項7】
JIS K7136に基づいて測定されるヘイズは10%未満である、請求項1~6のいずれか1項に記載の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルム。
【請求項8】
Tダイ法による請求項1~7のいずれか1項に記載の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムを製造する方法において、
Tダイのリップ間隙の幅を表すリップ開度をフィルム厚みで除した値で定義されるドラフト比を4~35、
Tダイから押し出された樹脂が接触して冷却される第一冷却ロールの表面温度を20~90℃、及び
フィルムの巻取り速度を前記第一冷却ロールの回転速度で除した値で定義されるドロー比を1.05~1.30
にして製造することを含む、前記真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムの製造方法。
【請求項9】
接着剤層、加飾基材及び請求項1~7のいずれか1項に記載の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムからなる、真空成形用加飾フィルム。
【請求項10】
前記加飾基材は、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂及びスチレン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種類の樹脂である、請求項9に記載の真空成形用加飾フィルム。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の真空成形用加飾フィルムを用いて芯材に3次元表面加飾工法を行うことを含む、自動車用部品又は電化製品用部品の製造方法。
【請求項12】
芯材と、請求項9又は10に記載の真空成形用加飾フィルムと、を備える自動車用部品又は電化製品用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成形用樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内装や外装、電化製品部材等に用いられる加飾フィルムの最外層には、耐候性、耐薬品性等の付与を目的として、フッ素系多層フィルムが用いられている。当該フッ素系多層フィルムは、表面層には、耐候性、耐薬品性等の表面性能を高めるためにフッ素樹脂含有量を高くし、裏面層には、加飾層等の他の基材とのラミネート性を高めるためにフッ素系樹脂と良好な相溶性を示すアクリル系樹脂含有量を高くする構成を採用することが多い。
【0003】
ところで、上記加飾フィルムのような成形用樹脂フィルムを被成形体に貼り付ける従来の方法としては、真空成形法、インモールド成形法、インサート成形法等がある。
【0004】
しかしながら、型の表面に成形用樹脂フィルムを配置して加熱軟化させ、型の上下を真空状態にしてから、型の上のみ空気を圧入し、その圧力で型に成形用樹脂フィルムを圧着してラミネート成形する従来の真空成形装置では、成形用樹脂フィルムの垂れ下がりを元に戻す調整が難しい等の問題があった。
【0005】
そこで、近年、3次元表面加飾工法が開発された。この方法は、TOM工法(Three dimension Overlay Method)、3次元表面被覆工法とも呼ばれる(以下、TOM工法又はTOM成形という)。
詳細は、特許文献1に記載されているが、要するに、2以上の成形室間で成形用樹脂フィルムの真空成形を行なう真空成形装置であって、加熱軟化せしめられた成形用樹脂フィルムの変形量に応じ、予め設定した一定容量の気体が必要な成形室に吸引されるようにし、成形用樹脂フィルムの変形を成形室間の差圧により補正するようにすると共に、前記一定容量の気体は複数の気体供給室に留置され、弁の開放により必要な成形室に吸引されるようにしたことを特徴とする真空成形装置を用いて行う工法である。
【0006】
上記TOM工法は、自動車外装に用いた場合の塗装代替による環境負荷低減や、深絞り成形体への適正、テーパー部分の成形や端末巻き込み成形が可能であり、圧空による成形である為、表面に凹凸をより鮮明に残すことができ、より複雑な意匠表現が可能であるとの観点から、新たな工法として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来のフッ素系多層フィルムを、上記TOM工法に適用した場合、表面層であるフッ素系樹脂層の加熱伸縮率が小さいことにより、加熱溶融時にフィルムが弛み、成形体に圧着する際にシワが生じるといった課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、上記課題解決のため鋭意検討し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
フッ化ビニリデン系樹脂60質量%~85質量%と、メタクリル酸エステル系樹脂40質量%~15質量%とを含有する表面層と、
フッ化ビニリデン系樹脂0質量%~50質量%とメタクリル酸エステル系樹脂100質量%~50質量%を含有する裏面層を含み、
日本工業規格のJIS K7133に基づいて測定される120℃で30分加熱したときのフィルムの流れ方向の加熱伸縮率が-15%~-2%である、
真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムを提供する。
また、JIS K7133に基づいて測定される120℃で30分加熱したときのフィルムの幅方向の加熱伸縮率が-3%~+1%であることが好ましい。
真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムは、3次元表面加飾工法に用いることができる。
裏面層は、樹脂成分100質量部に対し紫外線吸収剤0.1~10質量部を含有してもよい。
前記紫外線吸収剤は、トリアジン系化合物及びベンゾトリアゾール系化合物から選ばれる一種以上が好ましい。
前記表面層の厚みは5~100μmであり、前記裏面層の厚みは5~300μmであることが好ましい。
また、日本工業規格のJIS K7136に基づいて測定されるヘイズは、10%未満であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、Tダイ法による上記真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムを製造する方法において、
Tダイのリップ間隙の幅を表すリップ開度をフィルム厚みで除した値で定義されるドラフト比を4~35、
Tダイから押し出された樹脂が接触して冷却される第一冷却ロールの表面温度を20~90℃、及び
フィルムの巻取り速度を前記第一冷却ロールの回転速度で除した値で定義されるドロー比を1.05~1.30
にして製造することを含む、前記真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムの製造方法を提供する。
【0011】
更に、本発明は、接着剤層、加飾基材及び前記真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムからなり、接着剤層、加飾基材及び前記真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムの順に積層される、真空成形用加飾フィルムを提供する。
前記加飾基材は、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂及びスチレン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種類の樹脂であることが好ましい。
更にまた、本発明は、前記真空成形用加飾フィルムを用いて芯材に3次元表面加飾工法を行うことを含む、自動車用部品又は電化製品用部品の製造方法を提供する。
また更に、本発明は、前記製造方法により製造された自動車用部品又は電化製品用部品を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、積層構造を有する真空成形用加飾フィルムを加熱した際に、各層の加熱伸縮差による波打ちや、自重による垂れ下がりが発生しにくくなり、成形体に圧着されたときにシワの発生を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
[1.真空成形用フッ素系樹脂多層フィルム]
本実施形態の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムは、表面層と裏面層のみから成ってもよいが、少なくとも表面層と裏面層とを有する構成でもよい。
【0015】
1-1.表面層
表面層は、フッ化ビニリデン系樹脂60質量%~85質量%を含有し、かつメタクリル酸エステル系樹脂40質量%~15質量%を含有する。例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)が60質量%~85質量%を占め、リッチである層が挙げられる。
フッ化ビニリデン系樹脂が60質量%未満、すなわちメタクリル酸エステル系樹脂が40質量%を超えると、耐候性、光安定性、耐薬品性、防汚性、難燃性等が十分に得られないことがある。一方、フッ化ビニリデン系樹脂が85質量%を超えると、すなわちメタクリル酸エステル系樹脂が15質量%未満であると、裏面層との接着性向上の効果が十分に得られないことがある。
【0016】
好ましくは、表面層は、フッ化ビニリデン系樹脂70質量%~85質量%を含有し、メタクリル酸エステル系樹脂30質量%~15質量%を含有する。
フッ化ビニリデン系樹脂が70質量%以上、すなわちメタクリル酸エステル系樹脂が30質量%以下であると、より好ましい耐候性、光安定性、耐薬品性、防汚性、難燃性等が得られる。
【0017】
フッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンの単独重合体でもよく、また、フッ化ビニリデンと他のフッ素含有単量体との共重合体でもよい。フッ化ビニリデンと共重合体を形成するフッ素含有単量体としては、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、六フッ化プロピレン、六フッ化イソブチレン及び各種フルオロアルキルビニルエーテルなどのフッ素化されたビニル化合物や、スチレン、エチレン、ブタジエン及びプロピレンなどの公知のビニル単量体が挙げられる。
なお、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムにおける耐候性、光安定性、耐薬品性、防汚性、難燃性等を確保するため、フッ化ビニリデン系樹脂におけるフッ化ビニリデン以外の単量体の量は、50質量%以下とすることが好ましい。
【0018】
メタクリル酸エステル系樹脂を構成するメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル及びメタクリル酸ヘキシルなどが挙げられる。これらのうち、メタクリル酸メチルが好適である。また、メタクリル酸エステルにおけるプロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基などのアルキル基は、直鎖であってもよく、枝分かれしてもよい。
【0019】
また、メタクリル酸エステルと共重合可能な単量体としては、アクリル酸メチル及びアクリル酸ブチルなどの炭素数1~8のアクリル酸エステル、スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸及びその他のエチレン性不飽和モノマーなどが挙げられる。
なお、フッ化ビニリデン系樹脂との相溶性を向上させて、フィルムとしたときの透明性や機械的強度を確保する観点から、メタクリル酸エステル系樹脂におけるメタクリル酸エステル以外の単量体の量は、50質量%以下とすることが好ましい。
【0020】
また、表面層は、フッ化ビニリデン系樹脂及びメタクリル酸エステル系樹脂のみから成ってもよいが、必要に応じて、例えば、熱安定剤を、本発明の効果を損なわない程度に含有してもよい。熱安定剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、エポキシ化合物、β-ジケトン等が挙げられる。このうち、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤は、表面層の透明性を阻害せず好ましい。
【0021】
熱安定剤の添加量は、特に限定されないが、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.1~1.0質量%である。
0.001質量%以上であれば十分な熱安定性が得られ、5質量%以下であれば表面層の透明性を維持できる。
【0022】
また、前記熱安定剤の他に、後述の紫外線吸収剤や、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、流滴剤、親水剤、撥液剤等を、表面層又は後述の裏面層のどちらか一方、或いは表面層と裏面層の両方に、本発明の効果を損なわない程度に含有してもよい。
裏面層のみに添加すると、表面層へのこれらの添加剤の移行に伴う不良発生が防止できるので、特に好ましい。
【0023】
1-2.裏面層
裏面層は、メタクリル酸エステル系樹脂100質量%で成る。又は、裏面層は、フッ化ビニリデン系樹脂50質量%以下を含有し、かつメタクリル酸エステル系樹脂50質量%以上を含有する。例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)リッチ層が挙げられる。
フッ化ビニリデン系樹脂が50質量%を超えると、すなわちメタクリル酸エステル系樹脂が50質量%未満であると、加飾基材との層間接着性が低下することがある。
【0024】
好ましくは、裏面層は、フッ化ビニリデン系樹脂20質量%以下を含有し、かつメタクリル酸エステル系樹脂80質量%以上を含有する。
フッ化ビニリデン系樹脂が20質量%以下、すなわちメタクリル酸エステル系樹脂が80質量%以上であると、表面層や後述の加飾基材等の他層との接着性が向上する。
【0025】
フッ化ビニリデン系樹脂及びメタクリル酸エステル系樹脂の構成は上述と同様である。
【0026】
1-3.紫外線吸収剤
更に、裏面層には、必要に応じて紫外線吸収剤を添加することができる。紫外線吸収剤としては、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等の有機系紫外線吸収剤等が挙げられるが特に限定されない。好ましくは、トリアジン系紫外線吸収剤及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤から選ばれる一種以上である。これらの紫外線吸収剤は、湿熱環境及び紫外線に対する長期色相安定性の点、フッ化ビニリデン系樹脂との相溶性の点、紫外線遮断効果の持続性の点等から好ましい。
【0027】
トリアジン系紫外線吸収剤として、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイロキシ)エトキシ]フェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]フェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-トリデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-イソ-オクチルオキシフェニル)-s-トリアジン等やこれらの混合物、変性物、重合物、誘導体が挙げられる。
なかでも、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]フェノールが好ましい。
【0028】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として、2-(2'-ヒドロキシ-3'-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(5’-メチル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(5’-t-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α、α-ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2-(3’,5’-ジ-t-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3’-t-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3’,5’-ジ-t-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3’,5’-ジ-t-アミル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[3’-(3”,4”,5”,6”-テトラヒドロ・フタルイミドメチル)-5’-メチル-2’-ヒドロキシフェニル]ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]等やこれらの混合物、変性物、重合物、誘導体が挙げられる。
なかでも、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノールが好ましい。
【0029】
前記紫外線吸収剤の含有量は特に限定されないが、樹脂成分100質量部に対し、0.1~10質量部を含有することが好ましい。含有量を0.1質量部以上とすることにより、十分な紫外線カット性能が得られ、耐候性の更なる向上効果が期待できる。また、10質量部以下とすることにより、紫外線吸収剤が裏面層の表面にブリードアウトすることを防止し、真空成形用フッ化ビニリデン系樹脂の表面層や加飾基材との密着性低下を防止でき、更には、真空成形用フッ化ビニリデン系樹脂の透明性や加飾基材の視認性や色調の悪化を抑えられる。
【0030】
1-4.加熱伸縮率
本実施形態の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムは、日本工業規格のJIS K7133に基づいて測定される120℃で30分加熱したときのフィルムの流れ方向の加熱伸縮率が-15%~-2%である。
【0031】
JIS K7133は、プラスチックフィルム及びシートの縦方向と横方向の加熱による寸法変化の測定方法について規定している。
当該測定方法に基づいて、本実施形態の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムを120℃で30分加熱したときのフィルムの流れ方法(縦方向)の加熱伸縮率が-15%よりも小さいと、真空成形の前工程である加飾基材との熱ラミネートにおいて、熱に対する寸法安定性が悪く、更に真空成形においてもフィルムを加熱した際の収縮が大きく、加飾フィルムに穴が開いてしまい、適切でない。加熱伸縮率が-2%よりも大きいと、真空成形においてフィルムを加熱した際にフィルムが弛んでしまい、被覆する成形体表面にシワが発生してしまい、適切でない。
より好ましくは、加熱伸縮率は-4%~-3%である。加熱伸縮率が-4%以上であると、真空成形の前工程である加飾基材との熱ラミネートにおいて、熱に対する寸法安定性がより良好である為、好ましく、-3%以下であると、フィルムを加熱した際にフィルムが張る為、被覆する成形体表面にシワが入りにくく、好ましい。
【0032】
また、JIS K7133に基づいて、本実施形態の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムを120℃で30分加熱したときのフィルムの幅方向(横方向)の加熱伸縮率は-3%~+1%であることが好ましい。加熱伸縮率が-3%以上であると、真空成形の前工程である加飾基材との熱ラミネートにおいて、熱に対する寸法安定性が良好である為、好ましく、+1%以下であると、フィルムを加熱した際にフィルムが張る為、被覆する成形体表面にシワが入りにくく、好ましい。
【0033】
なお、ここでは、120℃、30分加熱条件下での収縮率を規定している。これは、長時間(30分)加熱することにより、測定の再現性を高めるためである。
実際の真空成形は、プロセス効率の観点から、加熱温度は真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムが数十秒で軟化する温度(例えば130℃)で行う。
120℃、30分加熱条件下で得られる加熱伸縮率の値は、真空成形におけるフィルムの収縮、すなわち成形性とよく相関することがわかっている。
【0034】
1-5.層の厚み
真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムの表面層の厚さは特に限定されないが、5~100μmであることが好ましい。5μm以上であれば、加飾基材の被覆フィルムとして有効な厚みとなる。100μm以下であれば、加飾基材の被覆フィルムとしての機能性を十分発揮でき、かつコストも抑えられる。
【0035】
真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムの裏面層の厚さは特に限定されないが、5~300μmであることが好ましい。5μm以上であれば、加飾基材との接着性及び紫外線防止効果を発揮できる。300μm以下であれば、加飾基材との接着性及び紫外線防止効果を保持しながら、コストを抑え、真空成形時の操作性等も良好である。
【0036】
1-6.ヘイズ
真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムは、日本工業規格のJIS K7136に基づいて測定したときに、ヘイズが10%未満であることが好ましい。
【0037】
JIS K7136は、透明で基本的には無色のプラスチックについて、光線の広角散乱に関する特定の光学的性質であるヘイズの求め方について規定している。
当該測定方法に基づいて測定した真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムのヘイズが10%未満であると、フィルムの透明性が高く、加飾基材のデザインの視認性、鮮明性が高くなる。
【0038】
1-7.その他の層
例えば、表面層を傷や酸性雨から保護するため、表面層に特定の性質を付与するため等の目的で、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、流滴剤、親水剤、撥液剤等を、表面層の上に積層することも可能である。例えばこれらの剤を本発明の効果を損なわない程度に表面層に、積層、浸漬、塗布、スプレー等をすればよい。
【0039】
[2.真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムの製造方法]
表面層と裏面層との多層フィルムの製造は、前述の表面層の原料を可塑化、溶融させ、それとは別に裏面層の原料を可塑化、溶融させ、表面層製造用の押出機(押出機A)と裏面層用の押出機(押出機B)とを用いて、Tダイの上流側(すなわち押出機の下流側)に配置させたフィードブロック内で表面層と裏面層を合流~積層化させ、Tダイで広幅化し押し出す方法により製造できる。
【0040】
このとき、Tダイのリップ間隙の幅を表すリップ開度をフィルム厚みで除した値で定義されるドラフト比を4~35にする。4未満にすると、リップ開度が大きいことによりリップ部分での圧力損失が小さくなり、フィルム幅方向の厚みの均一性が低下する為好ましくない。35を超えると、樹脂の配向が強くなりフィルム物性の異方性が強くなり、また、リップ開度が小さいことにより目ヤニ発生が著しくなる為、好ましくない。より好ましくは、ドラフト比を10~25にする。10以上であるとリップ部分での圧力損失が十分大きくなり、フィルム幅方向の厚みの均一性が向上する為、好ましく、25以下であるとフィルム物性の異方性が小さくなる為、好ましい。
別の積層方式として、マルチマニホールドダイ方式が挙げられる。この方式は、Tダイ内で各層の樹脂を広幅化した後、各層を合流させ押し出す方法であり、本実施形態の多層フィルムの製造においても好適に使用することが可能である。この手法においても、ドラフト比は先述のフィードブロックを用いる手法と同等にすることが好ましい。
【0041】
前述の方法に従って押出された溶融樹脂は、Tダイよりフィルム状に押出された後、ハードクロムメッキからなる第一冷却ロールと、シリコーンゴムからなるタッチロールで挟まれると同時に冷却され、Tダイ出口部での樹脂の速度と第一冷却ロール及びタッチロールによる引取速度差により所定の厚みに調整される。
【0042】
ここで、Tダイから押し出された樹脂が接触して冷却される第一冷却ロールの表面温度を20~90℃にする。20℃未満になると製膜後のフィルムの収縮が大きくなり、ロールの巻締りによるブロッキング、繰り出し不良が発生することがあり、90℃を超えると第一冷却ロールにフィルムが粘着し、製膜性が低下する為、好ましくない。より好ましくは、第一冷却ロールの表面温度を30~70℃にする。30℃以上にすると、製膜後のフィルムの収縮が抑えられ、ロールの巻締りによるブロッキング、繰り出し不良が発生しにくく、好ましい。70℃以下にすると、第一冷却ロールからのフィルムの剥離性が良好となり、好ましい。
【0043】
また、フィルムの巻取り速度を前記第一冷却ロールの回転速度で除した値で定義されるドロー比を1.05~1.30にする。1.05未満になるとパスライン上でフィルムが弛んでしまい搬送不良になり、1.30を超えるとパスライン上でフィルムの張力が過剰に上昇し、フィルムが破断することがあり、好ましくない。より好ましくは、ドロー比を1.08~1.20にする。1.08以上であると、フィルムが弛むことなく搬送できる為、好ましく、1.20以下であると、パスライン上でフィルムの張力が上昇することなく、フィルムが破断することが無い為、好ましい。
【0044】
[3.真空成形用加飾フィルム]
真空成形用加飾フィルムは、下から、接着剤層、加飾基材、真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムの順である積層構造を有する。この場合、一般的には真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムの裏面層側が加飾基材に接する。
【0045】
接着剤層の接着剤は、特に限定されないが、例えば、主剤としてポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、アクリル系樹脂等と、硬化剤としてイソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート等とを適宜組み合わせて用いることができる。
【0046】
接着剤層と加飾基材を積層する方法としては、加飾基材に溶剤と主剤と硬化剤を混合したものを塗布、乾燥する方法、ポリエステルフィルムに離型剤を塗布したセパレーターに、溶剤と主剤と硬化剤を混合したものを塗布、乾燥し、加飾基材とラミネートする方法等が挙げられるが、特に限定されない。
【0047】
加飾基材は、印刷、着色、シボ等のデザインを施した加飾フィルムや加飾シートが挙げられるが、特に限定されない。
前記加飾基材の材質としては、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂及びスチレン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種類の樹脂であるが、特に限定されない。
【0048】
加飾基材と真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムを積層する方法としては、各々の層の樹脂を押出機で溶融混錬し、フィードブロック内で積層してTダイから押し出す方法、各々の層の樹脂材料を押出機で溶融混錬し、マルチマニホールドダイ内部で積層して押し出す方法、Roll to Roll方式により熱ラミネートする方法、粘着剤によりラミネートする方法等が挙げられるが、特に限定されない。粘着剤としては、アクリル系感圧粘着剤、ホットメルト系粘着剤等が挙げられる。好ましくは、Roll to Roll方式により熱ラミネートする方法がある。
【0049】
接着剤層、加飾基材、真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムを積層する順番としては、まず、真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムの裏面層側と加飾基材をRoll to Roll方式により熱ラミネートし、その後、加飾基材側に溶剤と主剤と硬化剤を混合したものを塗布、乾燥する手法により接着剤層を積層するのが好ましいが、特に限定されない。
【0050】
[4.自動車用部品又は電化製品用部品の製造方法]
自動車用部品は、自動車用内装部品、外装部品を問わないが、表面層がフッ化ビニリデン系樹脂リッチ層であり、サンオイルや日焼け止め等に対する耐薬品性を有していることから、特に内装部品に適している。
電化製品用部品は、家庭用電化製品用部品、精密電気・電子機器用部品等を問わない。また、電化製品用部品は、事務所、オフィスビル、個人住宅又は集合住宅の室内機能部品及び装飾用部品として用いられ得る。
【0051】
自動車用部品又は電化製品用部品は、前記真空成形用加飾フィルムを3次元表面加飾工法にて加工することにより製造できる。当該工法で用いる真空成形装置は市販されている(布施真空株式会社、日本)。
【0052】
当該真空成形装置は、セットされた真空成形用加飾フィルムによって上下に分け隔てられる成形室を具備し、上下の成形室が接合・離反可能で、上下の成形室間で真空成形用加飾フィルムが真空成形される構造を有している。上下の成形室には、真空回路と空気回路がそれぞれ配管されている。
上の成形室と下の成形室は、上昇・下降するようになっている。また、下の成形室の内部にテーブルが配置されており、テーブルも上昇・下降できるようになっている。テーブルには、真空成形用加飾フィルムにより被覆すべき芯材を載置できるようになっている。
上の成形室内にはヒータが組み込まれており、接合した両成形室間でヒータにより真空成形用加飾フィルムを加熱する。ヒータとして、例えば近赤外線ヒータを用いることができる。好ましくは130℃に加熱する。
【0053】
自動車用部品又は電化製品用部品を製造するには、まず、真空成形装置の下の成形室内のテーブル上に芯材をセットする。真空成形用加飾フィルムを下の成形室上面にクランプで固定セットする。このとき、上の成形室内、下の成形室内ともに、大気圧状態である。
【0054】
次に、上の成形室を降下させ、上の成形室と下の成形室を接合させて閉塞状態とする。この時、上の成形室と下の成形室は、真空成形用加飾フィルムによって分け隔てられた状態になる。そして、上下の成形室内を、真空タンクにより大気圧状態から真空吸引状態にする。
【0055】
上下の成形室内は真空吸引状態となり、ヒータにより真空成形用加飾フィルムの加熱を行なう。真空成形用加飾フィルムは加熱されると自重により垂れ下がろうとする。
ここで、加熱軟化した真空成形用加飾フィルムの変形量に応じ、予め設定した一定容量の気体が、例えば真空成形用加飾フィルムが垂れ下がった下の成形室内に吸引されるようにし、真空成形用加飾フィルムの変形を上下の成形室間の差圧により補正するようにする。
また、前記一定容量の気体は、設置しておいた気体供給室に留置しておき、必要に応じて下の成形室に吸引されるようにする。このように、上下の成形室間の真空度の差圧を調整することにより、真空成形用加飾フィルムをほぼ水平状態に補正する。
【0056】
その後、下の成形室内のテーブルを上昇させる。このとき上下の成形室内は略真空状態である。
そして、上の成形室内の真空を開放し、大気圧を入れることにより、真空成形用加飾フィルムは芯材に押し付けられて、成形される。
【0057】
従来のフィルムをTOM成形すると、フィルムを加熱したときに湾曲し、自重により垂れ下がるので、フィルムの変形を上下の成形室間の差圧により補正していたが、それでも得られた成形品の表面にシワが生じていた。
しかし、本実施形態の真空成形用加飾フィルムをTOM成形に用いれば、得られた成形品表面のシワの発生を抑制することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0059】
<原材料>
(フッ化ビニリデン系樹脂)
・アルケマ社製 ポリフッ化ビニリデン Kynar “1000HD”
・アルケマ社製 ポリフッ化ビニリデン Kynar “K720”
・アルケマ社製 ポリフッ化ビニリデン Kynar “K741C”
【0060】
(メタクリル酸エステル系樹脂)
・住友化学社製 ポリメタクリル酸メチル(PMMA) スミペックス “MGSS”
・三菱ケミカル社製 メタクリル酸エステル系樹脂 ハイペット “HBS000”
【0061】
(紫外線吸収剤)
・BASF社製 トリアジン系紫外線吸収剤 “チヌビン1577ED”
・BASF社製 ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤 “チヌビン234”
【0062】
<コンパウンド工程>
2種類以上の原料を混合して使用する場合は、それぞれの原料を未溶融の状態で予備混合させた後、溶融混合設備内で溶融させ、均一に混合させた。その後、ストランド状に押し出し、冷却した後、ペレット状に切断したものを原料として使用した。
【0063】
<溶融混合設備>
・神戸製鋼社製“KTX30”二軸押出機(スクリュー長(L[mm])/スクリュー径(D[mm])=46.8)
・スクリュー混練部構成 ・・・ シリンダー内C5~C8プロセス部にVCMT混練部、ニーディング混練部有り
・スクリーンメッシュ ・・・ スクリュー側より、それぞれのメッシュの目開きが0.25mm、0.075mm、0.25mmのものを3枚重ねにしたものを使用した。
【0064】
<製膜工程>
前記コンパウンド工程により得た原料を、以下の押出機で十分に溶融させた後、フィードブロック内で各々の押出機の樹脂同士を積層させ、コートハンガータイプのTダイ内部で広幅化し、フィルム状に押し出した。前記フィルム状樹脂は、下方に吐出された後、直ちに温調されたハードクロムメッキロール(表面の算術平均粗さRa=0.2μm)とホワイトミラーロールにより挟んで引き取られながら冷却させて得た。
【0065】
このとき、Tダイのリップ間隙の幅を表すリップ開度をフィルム厚みで除した値で定義されるドラフト比を15とした。
【0066】
ここで、Tダイから押し出された樹脂が接触して冷却される第一冷却ロールの表面温度を50℃とした。
【0067】
また、フィルムの巻取り速度を前記第一冷却ロールの回転速度で除した値で定義されるドロー比を1.1とした。
【0068】
<押出機A(多層構成における表面層側)>
・田辺プラスチックス機械株式会社 単軸押出機(L/D=25)
・スクリュータイプ:フルフライトスクリュー
【0069】
<押出機B(多層構成における裏面層側)>
・株式会社プラスチック工学研究所製 単軸押出機(L/D=25)
・スクリュータイプ:フルフライトスクリュー
【0070】
<Tダイ>
・サンエンジニアリング株式会社製 コートハンガー方式 幅:550mm リップ開度:0.5mm
【0071】
<実施例及び比較例>
実施例1~10及び比較例1~4において、表1及び表2に示す組成で上述の製造方法に従って、真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムを製造した。また、加飾基材を、酸化チタンを配合したポリ塩化ビニルとし、加飾基材に真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムを、その裏面層側が加飾基材に接するように積層した。
また、各実施例及び比較例の表面層、裏面層及び加飾基材の厚み、並びに真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムの流れ方向及び幅方向の加熱伸縮率は、表1及び表2のとおりである。
【0072】
<真空成形用加飾フィルムの目視評価方法>
・真空成形用加飾フィルムの弛み
真空成形用加飾フィルムを130℃で加熱したときに、目視で観察して弛みが生じたものを×、弛みが少なかったものを○、弛みが生じなかったものを◎とした。
・真空成形用加飾フィルムの波うち
真空成形用加飾フィルムを130℃で加熱したときに、目視で観察して波うちが生じたものを×、波うちが少なかったものを○、波うちが生じなかったものを◎とした。
・真空成形用加飾フィルムの穴あき
真空成形用加飾フィルムを130℃で加熱したときに、目視で観察して穴あきが生じたものを×、穴あきが生じなかったものを○とした。
・真空成形品のシワ
真空成形品(130℃加熱)を目視で観察して、表面にシワが生じたものを×、生じなかったものを○とした。
【0073】
<下地保護性試験>
裏面層に白色塩ビフィルムを熱ラミネートしたサンプルをメタルウェザー紫外線照射試験機(ダイプラ・ウィンテス株式会社製)にて下記条件の促進試験を実施した。試験前後のサンプルについて分光色差計ZE6000(日本電色工業株式会社製)を用いて、表面層側から、黄色度の変化Δbを評価した。
照射強度:132mW/cm2
紫外線照射面:表面層
ブラックパネル温度63℃
照射/結露サイクル=6時間/2時間
【0074】
<防汚性試験>
下記の防汚材料I種試験に従って真空成形品の防汚性を検査した。
(1)試験前の明度(L0)を色差計で評価した。
(2)懸濁溶液(カーボンブラックFW-200(デグッサ社製)/脱イオン水=5質量%/95質量%)をエアスプレーにて成形品の表面が均一に隠蔽するまで塗布した。
(3)成形品を60℃で1時間乾燥させた後、室温まで放冷した。
(4)流水下にて、成形品表面の汚れ物質をガーゼ(BENCOT M-3(旭化成工業株式会社製))で落としながら洗浄した。
(5)試験後の明度(L1)を色差計で評価した。
(6)汚れの程度(明度差ΔL)を下式によって求めた。
明度差ΔL=試験後の明度L1-試験前の明度L0
【0075】
<耐薬品性>
日焼け止め(ニュートロジーナ(登録商標))、サンオイル(コパトーン(登録商標))をフィルム表面に滴下し、80℃環境に1時間投入後、エタノールを用いて表面を洗浄し、外観を評価した。
「外観変化なし」を◎、「わずかにフィルムに膨潤跡が残る」を○、「フィルムが白濁する」を×とした。
【0076】
<剥離強度試験>
真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムと加飾基材との剥離強度試験を、ストログラフVE1D(株式会社東洋精機製作所製)を用いて行った。真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムの裏面層側と、加飾基材である白色塩ビフィルムを、140℃のハードクロムメッキロール及び140℃のシリコーンゴムロールにて挟み、1m/minの速度で熱ラミネートした。幅15mm、長さ150mmの短冊状のサンプルを切り出し、端部を剥離し、真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムを装置の上部チャックに、白色塩ビフィルムを装置の下部チャックに挟み、200mm/mimの速度で180°剥離試験を行った。その時の最大荷重を剥離強度として記録した。
【0077】
【0078】
【0079】
表1及び表2の結果によれば、真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムの流れ方向の加熱伸縮率を特定の範囲にすることによって、真空成形品の弛み、波うちを抑制でき(例えば比較例1)、流れ方向の特定の加熱伸縮率だけでなく、表面層、裏面層の特定の樹脂組成との相乗効果によって、真空成形品の穴あき、シワ等も抑制できることが明らかとなった。
【0080】
本発明は、以下のような形態もとることができる。
〔1〕フッ化ビニリデン系樹脂60質量%~85質量%と、メタクリル酸エステル系樹脂40質量%~15質量%とを含有する表面層と、
フッ化ビニリデン系樹脂0質量%~50質量%とメタクリル酸エステル系樹脂100質量%~50質量%を含有する裏面層を含み、
JIS K7133に基づいて測定される120℃で30分加熱したときのフィルムの流れ方向の加熱伸縮率が-15%~-2%である、
真空成形用フッ素系樹脂多層フィルム。
〔2〕前記JIS K7133に基づいて測定される120℃で30分加熱したときのフィルムの幅方向の加熱伸縮率が-3%~+1%である、〔1〕に記載の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルム。
〔3〕3次元表面加飾工法用である、〔1〕又は〔2〕に記載のフッ素系樹脂多層フィルム。
〔4〕前記裏面層は、樹脂成分100質量部に対し紫外線吸収剤0.1~10質量部を含有する、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルム。
〔5〕前記紫外線吸収剤は、トリアジン系化合物及びベンゾトリアゾール系化合物から選択される一種以上である、〔4〕に記載の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルム。
〔6〕前記表面層の厚みは5~100μmであり、前記裏面層の厚みは5~300μmである、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルム。
〔7〕JIS K7136に基づいて測定されるヘイズは10%未満である、〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルム。
〔8〕Tダイ法による〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムを製造する方法において、
Tダイのリップ間隙の幅を表すリップ開度をフィルム厚みで除した値で定義されるドラフト比を4~35、
Tダイから押し出された樹脂が接触して冷却される第一冷却ロールの表面温度を20~90℃、及び
フィルムの巻取り速度を前記第一冷却ロールの回転速度で除した値で定義されるドロー比を1.05~1.30
にして製造することを含む、前記真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムの製造方法。
〔9〕接着剤層、加飾基材及び〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の真空成形用フッ素系樹脂多層フィルムからなる、真空成形用加飾フィルム。
〔10〕前記加飾基材は、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂及びスチレン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種類の樹脂である、〔9〕に記載の真空成形用加飾フィルム。
〔11〕〔9〕又は〔10〕に記載の真空成形用加飾フィルムを用いて芯材に3次元表面加飾工法を行うことを含む、自動車用部品又は電化製品用部品の製造方法。
〔12〕〔11〕に記載の製造方法により製造された自動車用部品又は電化製品用部品。