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特許7223715金属-セラミック基板のレーザアブレーション方法及びその基板
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  • 特許-金属-セラミック基板のレーザアブレーション方法及びその基板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】金属-セラミック基板のレーザアブレーション方法及びその基板
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/36 20140101AFI20230209BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230209BHJP
   H05K 3/08 20060101ALI20230209BHJP
   C04B 41/91 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
B23K26/36
H05K1/03 630J
H05K1/03 630H
H05K3/08 D
C04B41/91 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019571032
(86)(22)【出願日】2018-06-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 EP2018066593
(87)【国際公開番号】W WO2018234457
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2020-01-30
(31)【優先権主張番号】17177113.2
(32)【優先日】2017-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516039491
【氏名又は名称】ヘレウス ドイチュラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】ロッグ、アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】リスカ、ボグダン
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-099980(JP,A)
【文献】特表2015-511397(JP,A)
【文献】特開2003-245784(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0267774(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/36
H05K 1/03
H05K 3/08
C04B 41/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属-セラミック基板のアブレーションのための方法であって、
前記方法は、前記アブレーションの縁部付近のレーザアブレーションによって放出された金属粒子から分離することができる、前記金属-セラミック基板上の固体金属粒子の形成が本質的に回避されるプロセス条件下で使用されるレーザを用いて実行され、
前記レーザは、前記レーザの出力(W)と、前記レーザの最大加工速度(m/秒)との関係が下記式(1)に対応するように使用され
前記レーザは、IR-p秒レーザであることを特徴とする、金属-セラミック基板のアブレーションのための方法。
y≦4.7 ln x-15 (1)
上記式において、
x=レーザ出力(W)、及び
y=レーザ加工速度(有効)(m/秒)。
【請求項2】
前記レーザは、前記レーザの出力(W)と、前記レーザの最大加工速度(m/秒)との関係が下記式(2)に対応するように使用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
y≦5.0 ln x-18 (2)
上記式において、
x=レーザ出力(W)、及び
y=レーザ速度(有効)(m/秒)。
【請求項3】
前記レーザの加工速度が少なくとも0.50m/秒であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記p秒レーザは、0.10~100.00psのパルス持続時間を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記p秒レーザは、10.00~500.00μJのパルスエネルギーを有することを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記p秒レーザは、20.00~400.00Wの出力を有することを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記金属が、セラミックス基板上に塗布される銅層または銅箔であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記金属-セラミック基板がDCB基板であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
金属-セラミック基板のアブレーションのための、請求項1~のいずれか1項に記載の特徴を有するレーザの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属-セラミック基板のレーザ切断方法に関する。本発明のさらなる主題は、本発明による方法によって得られる金属-セラミック基板、及び金属-セラミック基板を切断するためのレーザの使用である。
【背景技術】
【0002】
レーザ切断はレーザ光線切断としても知られており、材料アブレーションによる連続的またはパルスレーザ放射の手段による固体の分離を指す。ほぼあらゆる種類の材料、例えば金属、誘電体および有機材料は、最新技術によるレーザ照射によって切断することができる。特に、レーザビームで金属材料を切断するときに生じる1つの問題は粒子放出であり、これは、レーザ切断線の近くに望ましくない金属堆積物をもたらす可能性がある。対応する堆積物は、電子部品における銅層の処理、例えばDCB基板、において特に厄介である。これらの堆積物は電気絶縁の減少および隔離距離の減少を引き起こす可能性があり、これは、最終的に、DCB基板上に置かれる回路の破壊を導く可能性がある。
【0003】
直接銅ボンディング基板(DCB、DBCとも呼ばれる)は、パワーエレクトロニクス用途に最も広く使用されている回路キャリアである。DCB技術は、銅(通常は銅箔)とセラミックとの間に高温で共晶結合を形成する接合技術である。DCB基板は、良好な熱デカップリングを必要とする高出力用途に適している。
【0004】
DCBは、絶縁層として作用するAl(又はZTA、AlN、窒化ケイ素(Si)などの他のセラミック材料)などのセラミック基板と、導電性を確保するための銅化合物とからなる。DCB基板はパワーエレクトロニクスモジュールのバックボーンであり、例えばプリント回路基板(PCB)と比較して極めて強力である。第1に、半導体チップを運び、熱を放散する役割を果たす。他方では、ヒートシンクおよびインバータハウジングに対する断熱を保証する。
【0005】
最適な信頼性および性能のために、モジュールは、熱分布、温度に対する耐性および負荷反転安定性に関して良好な特性を有さなければならない。このとき、個々の層の層間剥離現象は、特別な課題を提起する。
【0006】
例えばDCBプロセスによって得られる金属-セラミック基板は、通常、機能的凹部を有する。これらは、例えば、金属-セラミック基板がネジ止めによって固定される穴、またはスルーホールめっき(ビア)である。
【0007】
このような凹部の挿入は通常、金属コーティングをエッチング除去し、続いて、例えばレーザアブレーションによってセラミック基板を切断することによって行われる。これは金属-セラミック基板の縁部構造をもたらし、金属縁部はセラミック縁部に対して後退している。
【0008】
セラミック縁部に対して後退した金属縁部は、結果として得られる金属-セラミック基板の安定性が低く、温度および負荷の変化中に基板からの金属層の層間剥離が起こり得るという欠点を有する。後退する金属縁部の別の欠点はセラミック基板の機械的安定性が低下することであり、これは、例えば、亀裂の形成によって明らかになり得る。
【0009】
さらに、金属-セラミック基板への凹部の従来の導入は、上述のように金属コーティングをエッチング除去し、セラミック基板をレーザアブレーションする2段階プロセスを必要とし、これは経済的な観点から不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】PCT/EP2016/082161
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この従来技術から出発して、本発明は、最初に、金属層および/またはセラミック基板に凹部を有しかつ安定した電気絶縁を有する金属-セラミック基板を提供することができる金属-セラミック基板のレーザアブレーションのための方法を提供することを目的とする。
【0012】
本発明の別の目的は、好ましくは機械的に安定でありかつ好ましくは亀裂を有さない、金属層および/またはセラミック基板に凹部を設けた金属-セラミック基板を提供することである。
【0013】
セラミック基板およびその上に設けられた少なくとも1つの金属層を含む金属-セラミック基板のレーザアブレーションの方法は、金属-セラミック基板の経済的な製造を可能にすることを意図している。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これらの目的は、金属-セラミック基板のアブレーションのための方法によって達成される。本発明による方法は、アブレーション縁部付近のレーザアブレーションによって放出された金属粒子から分離することができる、金属-セラミック基板上の固体金属粒子の形成が本質的に回避されるプロセス条件下で使用されるレーザを用いて実施されることを特徴とする。
【0015】
さらに、前記目的は、好ましくは金属層およびセラミック基板の同時レーザアブレーションを可能にするプロセス条件下で使用されるレーザを用いて、金属-セラミック基板をアブレーションする方法によって達成される。
【0016】
本発明による方法が、アブレーション縁部付近のレーザアブレーションによって放出された金属粒子から分離することができる、金属-セラミック基板上の固体金属粒子の形成が本質的に回避されるプロセス条件下で実施される場合、金属-セラミック基板上の金属粒子の堆積によって絶縁特性が乱されないため、安定した絶縁特性を有する金属-セラミック基板が得られる。
【0017】
本発明による方法が、金属層とセラミック基板との同時レーザアブレーションが可能であるプロセス条件下で実施される場合、一方では、さらなる方法ステップを必要とする経済的な方法が回避され、同時に、メタライゼーションとセラミック基板との同一平面の縁部を有する金属-セラミック基板が得られる。その結果、機械的に安定であり、温度および負荷の変化中に基板から金属層が剥離することを回避する金属-セラミック基板が提供される。
【0018】
本発明による方法によって処理された金属-セラミック基板は、レーザアブレーションによって形成された縁部の側面上に本質的に金属粒子を含まない。本発明の文脈において、「本質的に金属粒子を含まない」という用語は、パワーエレクトロニクス用途のための回路キャリアとしての金属-セラミック基板の使用を妨げる程度まで金属-セラミック基板の絶縁特性が損なわれないほど、レーザアブレーションによって形成された金属粒子の残留物が低いことを意味すると理解されるべきである。
【0019】
特に、本発明による方法は、レーザアブレーションによって形成された縁部の側面上のレーザアブレーションによる金属粒子が本質的に回避されるという事実に基づいている。本発明の文脈において、「レーザアブレーションによって形成された縁部の側面上の」領域は特に、本発明によるプロセス条件以外が使用される場合に金属粒子の堆積が生じる金属-セラミック基板の領域として理解されるべきである。
【0020】
堆積物は、凹部内に、および/またはレーザアブレーションによって生成された凹部のそれぞれの縁部に本質的に平行な領域内に、凹部の縁部から計算して、一般的に最大200μm、好ましくは最大100μm、好ましくは最大50μm、好ましくは最大45μm、より好ましくは最大40μm、より好ましくは最大35μm、さらにより好ましくは最大30μmの幅で、延在する。
【0021】
この範囲は、レーザアブレーションによって金属-セラミック基板に形成された凹部に関連する。したがって、本発明の文脈において、用語「レーザアブレーションによって形成された縁部の側面上に金属粒子を本質的に含まない」(「アブレーション縁部付近」)は、前述の幅範囲でレーザアブレーションによって生成された金属粒子で覆われるのが、表面積の50%未満、好ましくは表面積の40%未満、より好ましくは表面積の20%未満、より好ましくは表面積の10%未満、より好ましくは表面積の5%未満であることを意味すると理解される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例の実験におけるレーザ出力(W)とレーザ速度(m/秒)との間の関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、金属-セラミック基板のレーザアブレーションでの金属粒子の形成を本質的に防止することができ、金属層とセラミック基板との同時レーザアブレーションが可能なレーザの好ましい実施形態を説明する。
【0024】
本発明の文脈において、レーザはn秒レーザ、p秒レーザまたはf秒レーザから選択され得るが、本発明によれば、p秒レーザの使用が好ましい。
【0025】
さらに、p秒レーザのパルス持続時間、すなわち、レーザパルス持続時間が、好ましくは0.1~100ps、より好ましくは0.5~50ps、さらにより好ましくは1~30psであることがさらに好ましい。選択されたパルス持続時間により、金属の残留物が本質的に発生せず、したがって金属-セラミック基板の表面上に堆積する金属粒子が本質的に形成されないように、レーザ加工を行うことが可能である。本発明の文脈では、本質的に冷たいダストのみが形成され、溶融相は形成されず、そしてビーム源から基板表面までの選択された距離が十分に大きいため、プロセスガスの使用は可能であるが、必ずしも必要ではない。
【0026】
レーザの加工速度は、好ましくは少なくとも0.2m/秒、より好ましくは少なくとも0.50m/秒、より好ましくは少なくとも0.60m/秒、より好ましくは少なくとも0.70m/秒、より好ましくは少なくとも0.80m/秒、より好ましくは少なくとも1.00m/秒である。
【0027】
レーザの加工速度は、好ましくは最大10.00m/秒、より好ましくは最大8.00m/秒、より好ましくは最大6.00m/秒、より好ましくは最大5.00m/秒、より好ましくは最大4.00m/秒である。
【0028】
レーザの加工速度は、好ましくは0.50~10.00m/秒、より好ましくは0.60~8.00m/秒、より好ましくは0.70~6.00m/秒、さらに好ましくは0.80~5.00m/秒、より好ましくは1.00~4.00m/秒である。
【0029】
本発明において、レーザ出力(W=ワット)とレーザの最大加工速度(m/秒)、ここで加工速度は有効レーザ速度として定義される、との間に技術的関係が存在することがさらに見出された(本発明において、有効レーザ速度は、(交差の数を考慮する相対レーザ速度と比較して)アブレーション中に適用される有効レーザ速度である(有効レーザ速度=相対レーザ速度/メタライゼーション上の交差))。
【0030】
本発明では有効レーザ速度(実際のレーザ速度)が定義されるが、本発明の数値結果はメタライゼーション上で2つ以上の交差が実行される場合の相対レーザ速度にも有効である。
【0031】
本発明の好ましい実施形態において、レーザの有効最大加工速度とレーザ出力が以下の関係に従うことが分かった。
y≦4.7 ln x-15 (1)
ここで、
x=レーザ出力(W)、及び
y=最大レーザ加工速度(有効)(m/秒)。
【0032】
この関係は、所定のレーザ出力によるレーザの最大加工速度yが上記(1)の条件を満たすことが好ましいことを意味する。
【0033】
本発明のより好ましい実施形態では、レーザの有効最大加工速度およびレーザ出力が一般に、以下の関係に従うことが分かった。
y≦=5.0 ln x-18 (2)
ここで、
x=レーザ出力(W)、及び
y=最大レーザ加工速度(有効)(m/秒)。
【0034】
この関係は、所定のレーザ出力によるレーザの最大加工速度yが上記(2)の条件を満たすことがより好ましいことを意味している。
【0035】
レーザの最低加工速度は、好ましくは上述の通りである:
レーザの加工速度は、好ましくは少なくとも0.20m/秒、より好ましくは少なくとも0.50m/秒、より好ましくは少なくとも0.60m/秒、より好ましくは少なくとも0.70m/秒、より好ましくは少なくとも0.80m/秒、より好ましくは少なくとも1.00m/秒である。
【0036】
したがって、本発明の好ましい実施形態は以下の表に要約される。
ここで、x=レーザ出力(W)、y=レーザの最大加工速度(有効)である。
【0037】
【表1】
【0038】
詳細には、さらなる好ましい実施形態は、種々の固定されたレーザ出力が以下のように適用される場合に、特許請求される本発明によってカバーされる。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
【表7】
【0045】
さらに、はるかに好ましい実施形態は、種々の固定されたレーザ出力が以下のように適用される場合に、特許請求される本発明によってカバーされる。
【0046】
【表8】
【0047】
【表9】
【0048】
【表10】
【0049】
【表11】
【0050】
【表12】
【0051】
【表13】
【0052】
本発明によれば、金属-セラミック基板の表面上に堆積した金属粒子の形成は一般に、低すぎる加工速度、特に0.5m/s未満のレーザの加工速度では避けることができないことが見出された。従って、本発明によれば、0.5m/sを超えるレーザの加工速度が好ましい。
【0053】
レーザアブレーションによって生成された金属粒子は、本発明の文脈ではメタライゼーション上およびセラミック基板上の両方に堆積させることができる。
【0054】
本発明による方法では、金属-セラミック基板を、レーザの1回のクロッシングまたは複数回のクロッシングで切断することが可能である。
【0055】
これにより、メタライゼーションおよび金属-セラミック基板に加えて、メタライゼーションのみを切断することが可能である。
【0056】
パルスエネルギー、すなわち単一レーザパルスのエネルギー含有量は、好ましくは10~500μJ、より好ましくは50~400μJ、さらにより好ましくは100~350μJである。
【0057】
p秒レーザは、好ましくは20~400W、より好ましくは40~200W、さらにより好ましくは50~180W、さらにより好ましくは60~160ワット、さらにより好ましくは80~130ワット、さらにより好ましくは90~120ワットの出力を有する。
【0058】
本発明の好ましい実施形態では、使用されるレーザはIRレーザである。
【0059】
本発明の基礎となる課題は特に、IRレーザ、より好ましくはp秒IRレーザの使用によって解決され、理論に束縛されることなく、p秒IRビームの光はセラミック基板の表面または金属コーティングの表面に特に有効に結合される、すなわち、それはセラミック基板または金属コーティングによって特に有効に吸収されると推測される。また、IRレーザは、エネルギー効率が高く、上記課題を解決するためにも有利である。
【0060】
金属-セラミック基板の金属材料を加工するためにIRレーザを使用することのさらなる利点は、IRレーザ光をダイオード光から直接生成することができることであるが、緑色レーザ光が最初にIRレーザ光から60%の効率で生成され、次にUVレーザ光がさらにまた60%の効率で緑色レーザ光から生成されなければならない。
【0061】
例えば、COレーザとは対照的に、p秒IRレーザは加工されるべき金属材料からかなり離れて配置されることができ、その結果、より高い焦点深度を実現することができる。
【0062】
また、IRレーザの使用により、COレーザに比べて十分に高い焦点深度を得ることができる。
【0063】
本発明においてIRレーザを用いる場合、IRレーザの周波数は、350~650kHzが好ましく、375~625kHzがより好ましく、400~600kHzがさらに好ましい。
【0064】
本発明においてIRレーザを用いる場合、IRレーザのパルスエネルギーは、100~300μJであることが好ましく、125~275μJであることがより好ましく、150~250μJであることがさらに好ましい。
【0065】
本発明による方法は、プロセスガスの存在下で実施することができる。プロセスガスは例えば、酸素である。
【0066】
本発明による方法は、好ましくはレーザ加工によって引き起こされる塵埃を吸収する吸引装置を有する装置において実行される。
【0067】
部分的には、金属-セラミック基板の金属材料に、直線とは異なる輪郭を導入する必要がある。これらは、例えば、金属材料のコーナーにおける穴または丸みである。このような輪郭は、本発明による方法においてレーザを使用して金属材料を切断することによって得ることができる。また金属材料およびセラミック材料のレーザアブレーションによって、金属-セラミック基板において対応する輪郭を形成することも可能である。
【0068】
本発明の文脈において、金属-セラミック材料の金属材料がレーザを用いて切断される場合、切断エッジは、金属層または金属-セラミック基板に対する垂線によって形成される直角から、通常最大30°、より好ましくは最大25°逸脱した角度を有する。この結果、レーザ入口の頂部の方が底部よりも大きい穴が得られる。
【0069】
IRレーザ、特にp秒-IRレーザを用いた金属-セラミック基板の金属材料とセラミック材料の本発明による分離のさらなる利点は、底部、すなわちレーザ出口側において、追加の手順ステップで除去しなければならない溶融相によって形成されるバリが生じないことである。
【0070】
上述の実施形態を考慮すると、金属コーティングとセラミック基板とを同じレーザで、及び同じプロセスパラメータの下で処理することが可能である。その結果、構造化された金属コーティングを有する金属-セラミック基板の製造を、費用効果的に実現することができる。詳細には、次の事項が可能である。
I)上部金属コーティングを部分的にのみ切除するか、またはセラミックまで切斷すること、および、例えば、エッチングプロセスでは不可能である微細構造を金属コーティングに生成すること;
II)金属コーティングおよびセラミック基板を下側金属コーティングまで切断すること(したがって、スルーホールの基礎を作ることができる。適切なブラインドホールに導電性材料を充填する場合、スルーホールが作られる。充填材料は例えば、金属ペースト、金属成形品、例えば、円筒、または電気的に生成された材料);
III)機能的凹部、例えば、ねじ止め用、を形成するために、金属コーティング及びセラミック基板を完全に切断すること。
【0071】
本発明によるプロセスパラメータは、メタライゼーションとセラミック基板の同時レーザアブレーションに適している。
【0072】
好ましい実施形態では、本発明では特に銅のメタライゼーションのみがアブレーションされる。
【0073】
金属-セラミック基板のレーザアブレーションの本発明の方法はプロセスガスの存在下で実施することができ、例えば、酸素または圧縮空気をプロセスガスとして使用することができる。上述したように、プロセスガスの使用は必須ではないが、ビーム源を汚染から保護するために使用するのが望ましい。この場合、圧縮空気の使用が好ましい代替物であろう。
【0074】
本発明による方法では、レーザ加工によって塵埃が生成されるので、使用される装置がレーザ加工によって生成される塵埃を吸収する吸引装置を有することが特に好ましい。
【0075】
吸引装置は、例えば、投射されたレーザ光を取り囲む吸引ボックス又は吸引チューブによって形成することができ、その下縁は、金属-セラミック基板の表面から好ましくは0.5~10cm、より好ましくは0.75~7.5cm、より好ましくは1~5cmの距離にある。
【0076】
本発明の文脈における金属-セラミック基板のレーザアブレーションは、例えば、金属-セラミック基板の金属表面上のレーザビームの作用によって実施することができる。上記のプロセスパラメータを選択することによって、金属-セラミック基板の表面上に堆積する金属粒子の形成が減少する。
【0077】
本発明の文脈における金属-セラミック基板のレーザアブレーションは、例えば、セラミック基板上のレーザビームの作用によって行うこともできる。この手法は、金属-セラミック基板を固定するための凹部がレーザアブレーションによって生成される場合に好ましい。何故なら、この場合は、固定に使用される手段(例えば、ねじ)が主に金属材料と接しており、したがって、固定手段の応力によるセラミック材料の剥離が低減されるからである。
【0078】
本発明の別の目的は、上記の方法によって得られる金属-セラミック基板である。この金属-セラミック基板は、特に、レーザアブレーションによって形成された凹部上に、金属層およびセラミック層に対して同一平面の縁部を有する。この場合、凹部は、金属-セラミック基板の終端縁部であってもよい。
【0079】
用語「金属層とセラミック基板の同一平面の縁部」は、本発明の文脈において、金属の縁部とセラミック基板の縁部が、好ましくは最大20μm、より好ましくは最大15μm、より好ましくは最大10μm、さらにより好ましくは最大5μmの前記縁部に平行な最大オフセットを有することを意味すると理解される。
【0080】
本発明の金属-セラミック基板は、IRレーザを用いた処理によって得られ、直線から外れた、レーザビームを用いてセラミック基板を切断することによって形成された輪郭を有していてもよい。さらに、本発明による金属-セラミック基板は、セラミック基板を貫通する切断によって生成された、角部に穴および/または丸みを呈することが可能である。
【0081】
p秒IRレーザを用いたIRレーザ法により得られる金属-セラミック基板は、直角から好ましくは30°以下、より好ましくは25°以下ずれた角度の切断エッジを有する。IRレーザ法によって金属-セラミック基板に孔を導入する場合、それらの大きさはセラミック基板の2つの面で異なっていてもよい。しかしながら、好ましくは、金属-セラミック基板は穴および/または丸みにおいてバリを示さない。
【0082】
本発明によるIRレーザ法により、セラミック基板の金属コーティング上面が符号化された金属-セラミック基板が得られる。この符号化は、好ましくはIRレーザによる金属コーティングのアブレーションによって行われる。
【0083】
さらに、本発明による方法によれば、セラミック基板上のメタライゼーションが少なくとも1つの縁部減衰を有するか、またはメタライゼーションが電子部品、特にチップを受け入れるための少なくとも1つの凹部を有し、当該凹部がレーザ処理によって生成された金属セラミック基板が得られる。
【0084】
本発明によるセラミック-金属基板は、好ましくはDCB基板(直接銅結合基板)、AMB基板(活性金属ろう付け基板)またはDAB基板(直接アルミニウム結合基板)である。本発明のさらなる実施形態では、セラミック-金属基板は本願の出願日以前には公開されていない特許文献1によるセラミック-金属基板であってもよい。
【0085】
以下では、本発明の文脈において好ましく使用されるセラミック基板について、より詳細に説明する。
【0086】
セラミック基板は、好ましくは金属酸化物、半金属窒化物および金属窒化物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含有する。
【0087】
金属酸化物および金属窒化物は、好ましくは酸化アルミニウム、窒化アルミニウムおよび窒化ケイ素からなる群から選択される。
【0088】
前記少なくとも1つの化合物は、好ましくは0.01μm~100μmの範囲の粒径を有する。
特に、前記少なくとも1つの化合物は酸化アルミニウムであり、酸化アルミニウムは、より好ましくは0.01μm~25μmの範囲の粒径を有する。
【0089】
さらに、前記少なくとも1つの化合物は好ましくは中央値d50および算術平均値darithを有する粒度の数分布を有し、d50対darithの比率は、好ましくは0.50~1.50の範囲、好ましくは0.75~1.10の範囲、より好ましくは0.78~1.05の範囲、特に好ましくは0.80~1.00の範囲である。
【0090】
より好ましくは前記少なくとも1つの化合物は酸化アルミニウムであり、酸化アルミニウムは中央値d50および算術平均値darithを有する粒度の数分布を有することが好ましく、d50対darithの比率は、好ましくは0.75~1.10の範囲、好ましくは0.78~1.05の範囲、さらにより好ましくは0.80~1.00の範囲である。
【0091】
本発明の文脈において、これらの値は、粒度分布の厳密な上限および下限とみなされるべきではなく、+/-10%だけ変化し得る。しかしながら、好ましい実施形態では、下限値はアンダーカットされないし、そして上限値は超えられない。
【0092】
当業者には周知のように、粒度分布の決定は、粒子の数(すなわち、数分布)を参照することによって、あるいは粒子の質量(すなわち、質量分布)または体積を参照することによって行うことができる。本発明の文脈において、粒度の分布は、粒子の数に基づいて決定される。
【0093】
一般に知られているように、粒度分布の特徴的な値は、そのd50値、d値、およびd95値を含む。中央値と呼ばれることが多いd50値については、粒子の50%がd50値よりも小さい径を有する。
【0094】
粒度分布の算術平均値darithは、個々の粒子の粒度を粒子の個数で割った合計から得られる。
【0095】
粒度分布の対称性はその分布の算術平均値darithに対する中央値d50の比率によって(すなわち、商d50/darithによって、また粒度数分布の対称値とも呼ばれる)表すことができる。この商の値が1.0に近ければ近いほど、粒度分布はより対称的となる。
【0096】
当業者は、例えば出発基板の製造中に、セラミック基板、特に酸化アルミニウム中の粒度分布の対称性を調節するための適切な方法に精通している。例えば、結晶粒度分布の対称性は、出発基板の製造中の焼結時間および焼結温度によって影響され得る。
【0097】
本発明はまた、金属-セラミック基板のアブレーションのための前述の特徴を有するレーザの使用に関する。
【0098】
上述の全ての実施形態において、好ましくはDCB基板が使用される。
【実施例
【0099】
本発明を説明する以下の実施例を参照して本発明をさらに説明する。
【0100】
いくつかのDCB基板は、当業者に公知の標準的な手順に従って作成される。Alセラミックスを基板として使用し、そして基板上の金属被覆を作成するために銅箔が使用される。
【0101】
Alセラミックス基板は0.25~0.40mmの厚さで使用され、一方、金属銅コーティングは0.38~0.63mmの厚さで使用される。
【0102】
本実験は、レーザのためのパラメータの以下のセットを用いて行われる:
レーザ出力: 100Wまで可変
レーザ源: IR
パルス長: 0.1~100ps
パルスエネルギー: 10~500μJ
スポット径: 30μm
周波数レーザ: 350~650kHz
【0103】
本実験では、セラミックス基板(Al)上の金属(銅)をアブレーションする。
【0104】
得られた金属セラミック基板を以下のように評価した:
【0105】
【表14】
【0106】
【表15】
【0107】
上に示した表は金属(銅)がアブレーションされた金属セラミック基板の外観が右から左へ(このことは高レーザ出力から低レーザ出力へ、および低レーザ速度から高レーザ速度へ、を意味する)改善されることを証明する。
【0108】
一方、経済的な妥当な加工は上に示した表において左から右へ(このことは金属セラミック基板上のレーザ通路の回数がより少ない場合を意味する)という結果をもたらす。
【0109】
上記値において太字で示された値が好ましい。
【0110】
上記の表に提供されたデータに基づいて、レーザ出力(W)とレーザ速度(m/秒、有効)との間の数学的関係を導出することができる。
【0111】
図1の線図はレーザ出力(W)とレーザ速度(m/秒)との間の同じ関係を示している:図1のこの線図ではレーザ出力とレーザ速度との使用不可能な組み合わせ、および好ましい範囲(+~+++および範囲外)は対数関数として示されており、これは以下のように定義される:
一般的な許容範囲: y≦4,7 ln x-15
好ましい範囲: y≦5,0 ln x-18
上記式において、
x=レーザ出力(W)、及び
y=レーザ速度(有効)。
【0112】
これは100Wのレーザ出力で、本発明によるレーザ速度は6.6m/秒未満(一般的な許容範囲)および5.0m/秒未満(好ましい範囲)であることを意味する。
【0113】
レーザ出力とレーザ速度(有効)との間のこの関係を考慮して、さらなる実施例を実施し、以下の知見を得る:
【0114】
【表16】
【0115】
上記の知見に基づいて、以下の判断を導出することができる:
(1)レーザ出力
30W以上のレーザ出力が好ましい。
さらに好ましいのは、(経済的な理由から)60W以上のレーザ出力である。
より好ましくは、80W以上のレーザ出力である。
(2)レーザ速度
好ましいのは、0.2m/秒以上のレーザ速度(有効)である。
さらに好ましいのは、0.5m/秒以上のレーザ速度である。
より好ましいのは、0.75m/秒以上のレーザ速度である。
【0116】
上記の結果は、以下の実施例に基づいている:
第1の例-本発明による
a.上記パラメータ
b.レーザ出力:70ワット
c.レーザ速度(有効):1.0m/秒
d.セラミック厚0.63mm;銅厚0.30mm
e.結果:
i.良好な光学的外観
ii.溶融相はごくわずかであり;銅酸化はごくわずかである
iii.表面の光学的粗さが低い
iv.許容可能な処理速度
【0117】
第2の例-本発明による
a.上記パラメータ
b.レーザ出力:100ワット
c.レーザ速度(有効):1.5m/秒
d.セラミック厚0.38mm;銅厚0.30mm
e.結果:
i.許容可能な光学的外観
ii.溶融相の増加と銅の酸化
iii.表面の光学的粗さがより高い
iv.処理速度が遅い
【0118】
第3の例-本発明による
a.上記パラメータ
b.レーザ出力:50ワット
c.レーザ速度(有効):3.0m/秒
d.セラミック厚0.63mm;銅厚0.25mm
e.結果:
i.非常に良好な光学的外観
ii.溶融相および銅酸化はほとんどない
iii.表面の光学的粗さはほとんどない
iv.処理速度は非常に低い;経済的な理由からこの方法はあまり適していない。
【0119】
第4の例-本発明によるものではない
a.上記パラメータ
b.レーザ出力:60ワット
c.レーザ速度(有効):6m/秒
d.セラミック厚0.38mm;銅厚0.20mm
e.結果:
i.銅は非常にゆっくりとアブレーションされる
ii.処理速度が遅すぎる
iii.残渣はほとんどない
iv.表面の光学的粗さは非常に低い
v.処理速度が低すぎて経済的な理由からこの方法を適用することができない
【0120】
第5の例-本発明による
a.上記パラメータ
b.レーザ出力:90ワット
c.レーザ速度(有効):0.25m/秒
d.セラミック厚0.63mm;銅厚0.30mm
e.結果:
i.多くの溶融相が表面に残る
ii.銅は高度に酸化される
iii.残渣はほとんどない
iv.表面の光学的粗さは非常に高い
v.品質の要求が低い用途ではパラメータ領域は高い経済効率で与えられる
【0121】
第6の例-本発明によるものではない
a.上記パラメータ
b.レーザ出力:100ワット
c.レーザ速度(有効):0.15m/秒
d.セラミック厚0.63mm;銅厚0.40mm
e.結果:
i.銅アブレーションの品質は非常に悪く、これらのプロセスパラメータの使用は期待されない
ii.材料は加工中に非常に暖かくなる
iii.プロセスパラメータは技術的に実現不可能である
図1