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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】放射能汚染検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/169 20060101AFI20230209BHJP
   G01T 1/16 20060101ALI20230209BHJP
   G01T 1/167 20060101ALI20230209BHJP
   G01T 1/18 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G01T1/169 A
G01T1/16 A
G01T1/167 K
G01T1/167 C
G01T1/18 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020129281
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022026018
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】599041606
【氏名又は名称】三菱電機プラントエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】松尾 慶一
(72)【発明者】
【氏名】西沢 博志
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-186342(JP,A)
【文献】特開2007-240467(JP,A)
【文献】特開2017-211347(JP,A)
【文献】特開昭55-146070(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0042835(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00 - 1/16
G01T 1/167 - 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射能汚染量の検査対象物の表面形状を計測する形状計測部と、
前記検査対象物から放出される放射線により電離生成される電子イオン対を収集するための電極と、
前記形状計測部による計測結果に基づいて、前記表面形状からの距離が許容距離範囲内になるように前記電極の位置合せを行うとともに、前記電極により収集した電子イオン対量に基づいて前記検査対象物の前記放射能汚染量を算出するコントローラと
を備え
前記検査対象物と前記電極は、同一の検査室に入れられており、前記電極は、α線により電離されて生成される電子イオン対を収集するα線検出器に含まれている電極であり、前記コントローラは、前記形状計測部による計測結果に基づいて、前記検査対象物の近傍の電界強度を算出し、算出した前記電界強度に応じて前記電子イオン対を効率的に収集するための印加電圧値、および前記検査対象物と前記電極との距離を決定し、決定した前記距離となるように前記電極の位置合せを行うとともに、決定した前記印加電圧値を前記検査対象物と前記電極との間または前記検査室と前記電極との間に対して印加することで、前記電子イオン対を収集し、収集結果に基づいて前記検査対象物から放出されるα線量を前記放射能汚染量として算出する
放射能汚染検査装置。
【請求項2】
前記電極の大きさは、前記検査対象物の前記表面形状の大きさと比較して小型であり、
前記コントローラは、前記検査対象物に対して複数の異なる位置で、前記表面形状からの距離が前記許容距離範囲内になるように前記電極の前記位置合せを行い、前記複数の異なる位置のそれぞれにおいて前記放射能汚染量を算出し、算出結果に基づいて前記検査対象物の汚染部位を特定する
請求項1に記載の放射能汚染検査装置。
【請求項3】
前記α線検出器は、前記形状計測部による計測結果、および決定した前記距離に応じて、前記電子イオン対を収集するために適した電極形状が選定される請求項1または2に記載の放射能汚染検査装置。
【請求項4】
前記コントローラは、決定した前記距離となるように前記電極の位置合せを行いながら、前記検査対象物の前記表面形状に沿って前記電極を走査しながら前記電子イオン対を収集することで、前記検査対象物から放出されるα線量を算出する請求項1から3のいずれか1項に記載の放射能汚染検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、形状の異なる検査対象の放射性物質による表面汚染を高精度に測定するための装置に関し、特に、α線による汚染の有無を検査することに適した放射能汚染検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電離放射線障害防止規則では、敷地境界の線量率がある値を超える放射能を取扱う場合には、管理区域を設置して、管理区域から物品を持ち出す場合には、放射能による汚染の検査を行うことが規定されている。そのため、原子力関連施設では、物品搬出モニタが用いられている。
【0003】
放射線の1つであるα線は、非常に透過力が弱く、空気中の飛程は数cm、水中での飛程は空気中の約1/500(0.5mm程度)であり、薄い材料で簡単に遮蔽されてしまうという特性がある。従って、α線放出核種の検出は、ZnS(Ag)シンチレーション検出器を、検査対象物に対してほぼ密着させることが必要となり、検査対象物の形状によっては、測定が非常に難しくなっていた。
【0004】
その一方で、検出器を検出対象物に近づけることが必要であるが、検出器を検査対象物に接触させると、検出器自体が汚染されるおそれがある。
【0005】
ここで、α線を検出対象とした放射線測定装置としては、次のような従来技術がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に係る放射線測定装置は、測定対象物が収納される測定室と、測定対象物からの放射線によって生じた電離イオンを収集するイオン収集部と、測定室とイオン収集部に気体を循環させる気体循環路と、イオン収集部に収集されたイオンのイオン電流値を測定するイオン電流測定部とを有している。
【0006】
さらに、特許文献1に係る放射線測定装置は、測定対象物の形状データが入力される形状データ入力部と、形状データに基づき測定対象物の上流側端部からイオン収集部までの電離イオンの移送時間を演算するイオン移送時間演算部と、イオンが移送時間内に気体中のイオン再結合により減少するイオン数の割合と形状データからイオン電流値を補正するための補正係数を求める補正係数算出部と、補正係数を用いてイオン電流値を放射線量に換算する放射線量換算部と、を備えている。
【0007】
このような構成を備えることで、特許文献1に係る放射線測定装置は、形状の異なる測定対象物の放射線強度を測定することができる放射線測定装置を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-127796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1では、検査室に入れた検査対象物から放出されるα線により電離生成された電子イオン対を含む空気を、測定室に導き、測定室で高電圧を印加して空気中の電子イオン対を電極に収集して電荷として集め、その電荷を計測することで汚染の有無を判定している。
【0010】
このように、電子イオン対が含まれた空気を検査室から測定室に導くのは、電圧を外部から印加することが難しい配管内部の汚染を測定するため、および電圧を印加する際に色々な形状の検査対象物があると、それにより電場の形が複雑になり、最適な電圧を選択するのが難しく、効率的に電子イオン対を集める電圧が印加できないためである。
【0011】
しかしながら、空気を測定室に導くためには、ある程度の時間がかかる。そして、時間がかかると、生成した電子イオン対が再結合をしてしまい、補正を行っても、正確な測定を行うことが難しくなる。さらに、空気を検査室から測定室に導くためには、ブロアー等の空気循環設備が必要となる課題も挙げられる。
【0012】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、電子イオン対が再結合することに伴う放射能汚染量の算出精度劣化を抑制し、形状の異なる検査対象物の放射線強度を高精度に測定することができる放射能汚染検査装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示に係る放射能汚染検査装置は、放射能汚染量の検査対象物の表面形状を計測する形状計測部と、検査対象物から放出される放射線により電離生成される電子イオン対を収集するための電極と、形状計測部による計測結果に基づいて、表面形状からの距離が許容距離範囲内になるように電極の位置合せを行うとともに、電極により収集した電子イオン対量に基づいて検査対象物の放射能汚染量を算出するコントローラとを備え、検査対象物と電極は、同一の検査室に入れられており、電極は、α線により電離されて生成される電子イオン対を収集するα線検出器に含まれている電極であり、コントローラは、形状計測部による計測結果に基づいて、検査対象物の近傍の電界強度を算出し、算出した電界強度に応じて電子イオン対を効率的に収集するための印加電圧値、および検査対象物と電極との距離を決定し、決定した距離となるように電極の位置合せを行うとともに、決定した印加電圧値を検査対象物と電極との間または検査室と電極との間に対して印加することで、電子イオン対を収集し、収集結果に基づいて検査対象物から放出されるα線量を放射能汚染量として算出するものである。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、電子イオン対が再結合することに伴う放射能汚染量の算出精度劣化を抑制し、形状の異なる検査対象物の放射線強度を高精度に測定することができる放射能汚染検査装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の実施の形態1に係る放射能汚染検査装置の全体構成を説明するための図である。
図2】本開示の実施の形態1において、電極を検査対象物の表面形状に沿って走査させる場合のイメージ図である。
図3】本開示の実施の形態1において、形状計測部として3Dスキャナーを用いた場合の検査対象物の形状把握を示したイメージ図である。
図4】本開示の実施の形態1において、形状計測部として発光素子群と受光素子群を用いた場合の検査対象物の形状把握を示したイメージ図である。
図5】本開示の実施の形態1において、電極を検査対象物の表面形状に沿って走査させる状態を示したイメージ図である。
図6】本開示の実施の形態1において、電極を検査対象物の表面形状に沿って走査させる状態を示した、図5とは異なるイメージ図である。
図7】本開示の実施の形態1における比例計数管領域を説明するための図である。
図8】本開示の実施の形態1における放射能汚染量の算出処理に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の放射能汚染検査装置の好適な実施の形態につき、図面を用いて説明する。
【0017】
実施の形態1.
[技術的特徴の概要]
まず初めに、本開示に係る放射能汚染検査装置が有している技術的特徴の概要について、図1を用いて説明する。図1は、本開示の実施の形態1に係る放射能汚染検査装置の全体構成を説明するための図である。図1に示すように、本実施の形態1に係る放射能汚染検査装置は、形状計測部11、電極12、電極駆動部13、コントローラ14、および表示器21を備えて構成されている。
【0018】
形状計測部11は、放射能汚染量の測定対象である検査対象物1の表面形状を計測する。電極12は、検査対象物1から放出される放射線により電離生成された電子イオン対を収集するための検出部である。電極駆動部13は、電極12を形状計測部11で測定した検査対象物1の形状に沿って(検査対象物1から事前に定めた距離を保って)走査させる。コントローラ14は、形状計測部11による計測結果に基づいて、表面形状からの距離が許容距離範囲内になるように、電極駆動部13に位置合せ指令を行うとともに、電極12で収集した電子イオン対量に基づいて検査対象物1から放出される放射能汚染量を算出する。
【0019】
本実施の形態1に係る放射能汚染検査装置は、先行技術の課題を解決するために、以下のような特徴1および特徴2を備えている。
【0020】
<特徴1:電子イオン対の収集方法>
本開示に係る放射能汚染検査装置では、検査対象物1を入れる検査室と、電圧を印加して電子イオン対を集める測定室とを別々に設けず、検査対象物1を置く検査室で、直接、電圧を印加して、電極12により電子イオン対を収集する構成を備えている。すなわち、電極12は、検査対象物1が入れられる検査室と同一の場所に設けられており、検査室内の検査対象物1に対して直接電圧を印加できる構成となっている。
【0021】
このよう構成を備えることで、電子イオン対が含まれた空気を検査室から測定室に導くための機構が不要となる。さらに、電子イオン対が含まれた空気を検査室から測定室に導く移送時間をなくすことで、電子イオン対が再結合することに伴う放射能汚染量の算出精度劣化を抑制することができる。
【0022】
<特徴2:検査対象物1の表面形状に応じた最適な検査条件の設定>
検査対象物1の形状により電界が変化する対策として、コントローラ14は、形状計測部11による検査対象物1の表面形状の認識結果に基づいて、検査対象物1の近辺の電界強度を計算する。
【0023】
さらに、電極駆動部13は、コントローラ14が計算した電界強度に応じて最適な電界強度位置で、電極12を検査対象物1の表面形状に沿って走査させ、電子イオン対を効率的に収集する。検査対象物1よりも小型の電極12を使用して、検査対象物1の表面を走査する方式を採用することで、コントローラ14は、検査対象物1における汚染位置を特定することができる。
【0024】
図2は、本開示の実施の形態1において、電極12を検査対象物1の表面形状に沿って走査させる場合のイメージ図である。図2に例示したように、コントローラ14からの指令に基づき、電極駆動部13は、電極12を検査対象物1の表面形状に沿って走査させ、電子イオン対を効率的に収集することができる。
【0025】
検査対象物1の材質が導電体、絶縁物、あるいは誘電物のいずれかであるかが判れば、コントローラ14は、電場の計算を行うことが可能である。ただし、検査対象物1の材質が不明、あるいは検査対象物1が混合体の場合には、コントローラ14は、検査対象物1からあらかじめ決められた距離で、電極12の走査を行うこととする。
【0026】
このようにして、コントローラ14は、検査対象物1の近傍の電場計算を行い、電子イオン対を効率的に収集するために、検査対象物1と電極との距離、および電極への印加電圧を選択することができる。
【0027】
[検査対象物1の形状認識について]
次に、形状計測部11による、検査対象物1の形状認識の具体的な手法について説明する。検査対象物1から放出されるα線をより正確に検出するに当たっては、電荷収集を行うための電極12を、検査対象物1にできる限り近づけることが重要となる。そのために、形状計測部11は、検査対象物1の表面形状を、以下のような手法1~手法3のいずれかにより認識する。
【0028】
<手法1:3Dスキャナーによる表面形状認識手法>
形状計測部11は、レーザー光を検査対象物1に照射させ、レーザー光が反射する角度を測定する三角測量法、あるいは反射光が戻ってくるまでの時間を測定するTOF法により、検査対象物1までの距離を認識できる。
【0029】
従って、形状計測部11は、このような測定を、異なる位置で連続的に行い、点のデータを合成することで、検査対象物1の3次元形状を、点群データ合成によって作り上げることができる。このような手法は、形状計測部11として3Dスキャナーを用いることで実現できる。
【0030】
図3は、本開示の実施の形態1において、形状計測部11として3Dスキャナーを用いた場合の検査対象物1の形状把握を示したイメージ図である。検査対象物1の上部で3Dスキャナーを走査することで、検査対象物1の3次元形状を取得することができる。なお、検査対象物1が長尺形状の場合には、3Dスキャナーを走査せずに、検査対象物1を一定速度で動かすことによっても、検査対象物1の3次元形状を取得することができる。
【0031】
<手法2:発光素子群と受光素子群による表面形状認識手法>
図4は、本開示の実施の形態1において、形状計測部11として発光素子群と受光素子群を用いた場合の検査対象物1の形状把握を示したイメージ図である。図4に示すように、形状計測部11は、複数の発光素子と複数の受光素子とが対向するように配置されたセンサ群を、検査対象物1を輪切りにするように走査させることで、検査対象物1の輪切りデータを得ることができる。
【0032】
このような走査をX方向およびY方向に対して行うことで、形状計測部11は、検査対象物1の表面形状を特定することができる。手法2は、手法1と比較して、安価な構成により表面形状を特定することができるメリットがある。
【0033】
<手法3:検査対象物1の画像による表面形状認識手法>
形状計測部11として画像処理装置を用いることによっても、検査対象物1の表面形状を認識することが可能である。この場合、形状計測部11は、検査対象物1の写真を撮影し、撮影画像に対して画像処理を施すことで、検査対象物1の表面形状を特定することができる。
【0034】
[検査対象物1の表面形状に基づく、電極12の位置および印加電圧の特定について]
次に、形状計測部11による、検査対象物1の表面形状の計測結果に基づいて、電子イオン対を効率的に収集するために、検査対象物1と電極12との距離、および電極12への印加電圧を決定する手法について説明する。
【0035】
コントローラ14は、形状計測部11による検査対象物1の表面形状に関する計測結果を受信する。そして、コントローラ14は、検査対象物1の材質が既知である場合には、検査対象物1のそれぞれの表面位置の近傍ごとに、電界強度を算出することができる。
【0036】
さらに、コントローラ14は、算出した電界強度に応じて、電子イオン対を効率的に収集するための印加電圧値、および検査対象物1と電極12との距離を決定することができる。そして、コントローラ14は、決定した距離となるように電極駆動部13を制御することでα線検出器に含まれる電極12の位置合せを行うとともに、決定した印加電圧値を検査対象物1と電極12との間、または検査室と電極12との間に対して印加する。
【0037】
なお、検査対象物1の表面形状が複雑で、電界強度の計算ができない場合が考えられる。この場合には、コントローラ14は、電極12を走査する際の検査対象物1と電極12との距離、および印加電圧については、効率的に電荷を収集でき、かつ検査対象物1と電極12との間で放電が発生しない距離と電圧をオフラインで決めておくことで、オフラインで決めた値を採用することができる。
【0038】
[電極12の走査方法および電荷収集方法について]
次に、電極12を走査しながら電荷を収集する具体的な手法について説明する。
コントローラ14は、電極12に対して、決定した印加電圧を印加するように電圧制御を行うとともに、電極12が検査対象物1から一定距離を保つように電極12の走査制御を行う。この結果、電極12は、それぞれの走査位置において、α線により電離された電子、イオンを収集することができる。
【0039】
図5は、本開示の実施の形態1において、電極12を検査対象物1の表面形状に沿って走査させる状態を示したイメージ図である。図5では、検査対象物1を横から見た状態として示している。コントローラ14は、図5に示したように、電極12が検査対象物1から一定距離を保つように走査する。
【0040】
検査対象物1にα線による汚染があれば、そのα線により電離された電子イオン対は、電極に集まることとなる。そこで、コントローラ14は、電圧が印加された電極を走査しながら、検査対象物1にα線による汚染があれば、電極12により集めた電荷量を計測することで、汚染の程度を検知することができる。
【0041】
図6は、本開示の実施の形態1において、電極12を検査対象物1の表面形状に沿って走査させる状態を示した、図5とは異なるイメージ図である。図6では、検査対象物1を上から見た状態として示している。検査対象物1の大きさ、および検査対象物1の表面形状に応じて、電極12のサイズを変更することができる。また、電極の走査速度、および電荷の積分時間を可変設定することにより、検出感度を調整することができる。
【0042】
電極12の走査速度については、α線により生成された電荷を効率的に収集できる収集時間に依存することとなる。ただし、電荷の移動速度は高速のため、走査速度は、電極駆動系での安全を考慮して、実現可能な走査速度として設定される。換言すると、走査速度は、検査対象物1の凹凸に対して、電極12が接触しない走査速度として選択される。
【0043】
検査対象物1を入れる検査室内は、大気圧でも構わない。ただし、大気圧では電子イオン対の収集効率が低く、安定した出力が得られない場合には、検査室内に計数ガスを封入し、ガス増幅を起こす電圧を電極に印加することが考えられる。
【0044】
図7は、本開示の実施の形態1における比例計数管領域を説明するための図である。図7において、横軸は印加電圧、縦軸は電子イオン対の数を示している。計数ガスを封入することで、電極12と検査対象物1は、比例計数管として動作し、図7に示したように、縦軸と横軸が比例関係となる比例計数管領域を有する。このため、ガス増幅を起こす電圧を電極に印加することで、電極12で収集する電子・イオン対量を増加させて出力を安定させることができる。
【0045】
[汚染の有無、および汚染濃度の計算について]
次に、収集した電荷量から、検査対象物1における汚染の位置および濃度を算出する具体的な手法について説明する。α線により電離された電子イオン対をすべて電極に収集できれば、収集結果として得られた電荷量から単位面積当たりのα線数を、検査対象物1から放出されるα線量として評価することができる。しかしながら、実際には、電子イオン対の再結合等により、収集効率は、100%とはならない。
【0046】
従って、検出効率を事前に把握して、汚染濃度(Bq/cm)を正確に算出するためには、複数の標準線源で構成された模擬汚染源を用いて、汚染源の濃度と収集電荷量との関係を事前に特定しておくことが考えられる。事前に特定した汚染源の濃度と収集電荷量との関係は、テーブルあるいは計算式としてあらかじめ設定しておくことができる。従って、コントローラ14は、あらかじめ設定されたテーブルあるいは計算式を用いることで、電極12による収集電荷量を汚染濃度に容易に変換することができる。
【0047】
[検査結果の表示について]
コントローラ14は、算出した汚染濃度を、あらかじめ決められた警報設定値と比較し、汚染濃度が警報設定値を超えている場合には、警報を発報することができる。また、コントローラ14は、算出した汚染濃度、警報メッセージ等を表示器21に表示させることができる。
【0048】
以上の内容を整理すると、本実施の形態1に係る放射能汚染検査装置によれば、以下のような効果を実現できる。
(効果1)検査対象物の近傍で発生した電子イオン対を、直接収集することができる。このため、放射能汚染の検出誤差が少なく抑えられ、さらに、再結合に伴う補正処理が不要であり、移送装置も不要とすることができる。
【0049】
(効果2)検査対象物の表面形状に沿って、比較的小型の電極を用いて、複数の異なる位置で電子イオン対を収集し、それぞれの異なる位置において放射能汚染量を算出することができる。このため、算出結果に基づいて検査対象物の汚染部位が特定でき、電荷の収集効率の高く、高精度の汚染検出が可能となる。
【0050】
(効果3)検査対象物の近傍で発生した電子イオン対を直接収集するため、検査対象物と電極との間のみがバックグランドの対象となる。この結果、バックグランドの影響を抑制した放射能汚染検査を行うことができ、検査精度の向上を実現できる。
【0051】
(効果4)電圧印加および電荷収集を行うための電極の形状、大きさを、検査対象物の表面形状の計測結果に応じて、適切に選定できる。この結果、適切に選定された電極を用いることで、種々の検査対象にも適用可能となり、形状の異なる検査対象物の放射線強度を高精度に測定することができる。
【0052】
(効果5)検査対象物の表面形状を測定することで、近傍の電界強度を計算できる。このため、放電を起こさない最大電圧まで電極に印加することができ、比例計数管領域で電荷を集めることができる。
【0053】
最後に、上述した本実施の形態1に係る放射能汚染検査装置による放射能汚染量の算出処理方法について、フローチャートを用いて説明する。
【0054】
図8は、本開示の実施の形態1における放射能汚染量の算出処理に関するフローチャートである。ステップS801において、形状計測部11は、検査対象物1の表面形状を計測する。
【0055】
次に、ステップS802において、コントローラ14は、形状計測部11による検査対象物1の表面形状の計測結果に基づいて、検査対象物1の近傍の電界強度を計算する。さらに、コントローラ14は、計算した電界強度に応じて、電極と検査対象物1との間の距離および印加電圧を決定する。
【0056】
なお、検査対象物1の表面形状の計測結果に基づいて、必要に応じて、電極の形および大きさを変更することも可能である。また、ステップS801およびステップS802の処理に関しては、オフラインとして事前にデータ処理を行っておくことも可能である。
【0057】
次に、ステップS803において、コントローラ14は、検査対象物1の表面形状に沿って小型電極を走査する。
【0058】
次に、ステップS804において、コントローラ14は、電極12を介して走査位置ごとに電荷を収集し、記憶部に検出データとして保存する。
【0059】
最後に、ステップS805において、コントローラ14は、走査位置ごとに収集した電荷量に基づいて、それぞれの走査位置での汚染濃度を算出する。この際、コントローラ14は、収集電荷量を汚染濃度に変換するためにあらかじめ設定されたテーブルあるいは計算式を用いることができる。
【0060】
さらに、コントローラ14は、算出した汚染濃度と警報設定値とを比較し、汚染濃度が警報設定値を超えている場合には、表示器21を介して警報表示を行うことができる。
【0061】
以上のように、実施の形態1によれば、電子イオン対が再結合することに伴う放射能汚染量の算出精度劣化を抑制し、形状の異なる検査対象物の放射線強度を高精度に測定することができる放射能汚染検査装置を実現できる。
【0062】
なお、上述した実施の形態においては、α線による汚染検査に適した放射能汚染検査装置を中心に説明したが、本開示による放射能汚染検査装置は、α線以外の放射線に対しても適用可能である。すなわち、検査対象物よりも小型の電極を使用して、検査対象物の表面を走査する方式を採用することで、検査対象物における汚染位置を特定する技術思想は、α線以外の放射線に対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 検査対象物、11 形状計測部、12 電極、13 電極駆動部、14 コントローラ、21 表示器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8