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特許7223759ターボ機械内壁用特性勾配付コーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】ターボ機械内壁用特性勾配付コーティング
(51)【国際特許分類】
   F01D 25/00 20060101AFI20230209BHJP
   F01D 25/24 20060101ALI20230209BHJP
   F04D 29/54 20060101ALI20230209BHJP
   F04D 29/02 20060101ALI20230209BHJP
   F04D 29/66 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
F01D25/00 S
F01D25/24 Z
F01D25/00 L
F04D29/54 F
F04D29/54 B
F04D29/02
F04D29/66 N
F04D29/66 Q
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020531076
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 FR2018053128
(87)【国際公開番号】W WO2019110934
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】1761722
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(31)【優先権主張番号】2,988,224
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(73)【特許権者】
【識別番号】516227272
【氏名又は名称】サフラン・エアクラフト・エンジンズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルジョノ,ジャッキー・ノビ
(72)【発明者】
【氏名】デュブール,アルノー
(72)【発明者】
【氏名】フォーシン,エディス-ロラン
(72)【発明者】
【氏名】ロス,アニー
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0022625(US,A1)
【文献】特表2017-503953(JP,A)
【文献】特表2015-537139(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0129494(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/00
F01D 25/24
F04D 29/54
F04D 29/02
F04D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボ機械ロータの動翼の周囲に取り付けられたケーシング(20A、46)の内壁に付加製造によって施されることを意図した特性勾配コーティングであって、前記ケーシング内壁に前記コーティングの外面の重ね合わせられた層、すなわち、内壁側から順に、
フィラメントサイズが50~250ミクロンであり且つフィラメントサイズに対する気孔率が85%より大きいチャネルまたはマイクロチャネル、の規則正しい網状組織を形成するアブレイダブル材料のフィラメント(100、102)の三次元足場構造から構成される第1の層(54)と、
- 前記コーティングの前記外面に衝突する音波からのエネルギーを消散させる機能を有し、孔径が50~400ミクロンであり且つ気孔率が60%より大きいチャネルまたはマイクロチャネル、の規則正しい網状組織を形成する第1の熱硬化性材料のフィラメント(200、202、204、206)の三次元足場構造から構成される第2の層(52)と、
を含むことを特徴とする、特性勾配コーティング。
【請求項2】
前記第1の層のフィラメントが、同じ配向方向を有するフィラメントの重ね合わせにおいてオフセットなしに、0°または90°で交互に配向されることを特徴とする、請求項1に記載の特性勾配コーティング。
【請求項3】
前記第2の層のフィラメントが、同じ角度偏差、典型的には20°と40°との間でオフセットされるかまたはオフセットされないフィラメントの配向方向で交互に配向されることを特徴とする、請求項1に記載の特性勾配コーティング。
【請求項4】
既知の幾何学的形状の堆積表面を得るように、前記内側ケーシング壁上に直接堆積された隙間補償材料の層(64)をさらに含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の特性勾配コーティング。
【請求項5】
前記コーティングを通過する流体を排出する機能を有する第3の層(50)であって250ミクロンより大きいフィラメントサイズに対する気孔率が70%より大きいチャネルまたはマイクロチャネル、の規則正しい網状組織を形成する第2の熱硬化性材料のフィラメントの三次元足場構造から構成される第3の層(50)をさらに含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の特性勾配コーティング。
【請求項6】
前記第3の層(50)が、前記コーティングを通過する流体の排出を決定された領域に導き且つ500ミクロンより大きいチャネルサイズを有するチャネル、を有する特定のパターンを有することを特徴とする、請求項5に記載の特性勾配コーティング。
【請求項7】
前記第3の層のフィラメントが、同じ配向方向を有するフィラメントの重ね合わせにおいて、オフセットなしに、0°または90°で交互に配向されることを特徴とする、請求項6に記載の特性勾配コーティング。
【請求項8】
揮発性物質の衝撃、雹の吸込み、またはさらに翼の損失から生じる衝撃エネルギーを吸収する機能を有する第4の層(48)であって400ミクロンより小さいフィラメントサイズに対する気孔率が60%より小さいチャネルまたはマイクロチャネル、の規則正しい網状組織を形成する第3の熱硬化性材料のフィラメントの三次元足場構造から構成される第4の層(48)をさらに含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の特性勾配コーティング。
【請求項9】
前記第4の層のフィラメントが、0°または90°で交互に配向され、同じ配向方向を有するフィラメントの重ね合わせにおいてオフセットを有することを特徴とする、請求項8に記載の特性勾配コーティング。
【請求項10】
前記ケーシングの非軸対称の幾何学的形状を考慮して、前記第1の層(54)上に局所的に追加されたアブレイダブル材料の少なくとも1つの追加の層をさらに含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の特性勾配コーティング。
【請求項11】
前記アブレイダブル材料が、ポリマーベースと架橋剤との重量比が1:1~2:1の、ポリマーベースおよび架橋剤と、流動促進成分、典型的には、チキソトロピー混合物の総重量の5~15重量%の間で存在するワセリンと、を含む、溶媒を含まないチキソトロピー混合物であることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の特性勾配コーティング。
【請求項12】
前記第1、第2および第3の熱硬化性材料が、前記アブレイダブル材料を含むことを特徴とする、請求項11に記載の特性勾配コーティング。
【請求項13】
前記ケーシングが、織物複合材料のターボ機械ファンケーシングであることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の特性勾配コーティング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー材料、特に熱硬化性材料、金属、合金またはセラミック部品から作られた部品の、付加製造による製造の一般的な分野に関し、特に限定されるものではないが、特に、ファンケーシングのための、吸音機能を有するアブレイダブルコーティングの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
空港周辺の航空機騒音の抑制は、公衆衛生上の問題となっている。航空機製造業者および空港管理者には、ますます厳しい基準および規制が課されている。その結果、静かな航空機を造ることは、長年にわたり強力なセールスポイントとなってきた。現在、航空機エンジンから発生する騒音は、ヘルムホルツ共振器の原理上、1~2オクターブにわたってエンジンの音響強度を低下させる局所的な吸音コーティングによって減衰されている。これらのコーティング(複数)は、典型的には、有孔外板で覆われ且つナセルまたは上流および下流伝播ダクトに配置された、ハニカムコアと結合された剛性プレートから構成される複合パネル(複数)の形態である。しかし、新しい世代のエンジン(例えばターボファンエンジン)では、超高バイパス比(UHBR)技術のように、吸音コーティングに利用できる領域はかなり減少する可能性が高い。さらに、複合ケーシングのこれらの領域は、コーティングが施される前に追加の機械加工操作によって作り上げる必要がある形状欠陥を有する可能性が高い。
【0003】
従って、エンジン性能を維持しながら、航空機エンジンによって、特に離陸および着陸段階の間に、および一般的に低周波数を含む周波数よりも広い周波数範囲にわたって生成される騒音レベルを除去するための、または大幅に低減するための、新しいプロセスおよび/または新しい材料(特に多孔質材料)を提案することが重要である。このため、この面倒なことを軽減する新しい騒音低減技術が現在求められており、加えて、燃料消費率などの他のエンジン機能への影響を最小限に抑える新しい吸音処理面も現在求められている。これは大きな商業的な利点である。
【0004】
しかしながら、航空機エンジンにおいては、ファン騒音は、これらの新世代の航空機によって求められるバイパス比の増加によって助長される騒音公害に対する主要な要因の一つである。
【0005】
さらに、複雑な三次元部品を容易に、迅速に、かつ費用効果を高めて製造するように、従来の鋳造、鍛造、または大量の機械加工の代わりに、付加製造プロセス(複数)を使用することが、現在一般的であり且つ有利である。航空分野は、これらのプロセスの使用に特によく適している。一例は、ワイヤビーム堆積(WBD)プロセスである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、航空機ターボジェットによって発生する騒音、特にファン-OGVアセンブリによって発生する騒音を大幅に低減するための新しいコーティングを提案することを目的とする。本発明の目的の1つはまた、このコーティングが施されることが意図されるケーシングの内壁の複合的性質から生じる形状欠陥を補うことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このために、ターボ機械用ロータの動翼の周囲に装着されたケーシングの内壁に付加製造によって施されることを意図された、特性勾配を有するコーティングが設けられ、コーティングは、前記ケーシング内壁に前記コーティングの外面の重ね合わせられた層(複数)すなわち、
- 孔径が50~250ミクロンであり且つ気孔率が85%より大きいチャネルまたはマイクロチャネル、の規則正しい網状組織を形成するアブレイダブル材料のフィラメントの三次元足場構造から構成される第1の層と、
- 前記コーティングの前記外面に衝突する音波からのエネルギーを消散させる機能を有し、孔径が50~400ミクロンであり且つ気孔率が60%より大きいチャネルまたはマイクロチャネル、の規則正しい網状組織を形成する第1の熱硬化性材料のフィラメントの三次元足場構造から構成される第2の層と、を含むことを特徴とする。
【0008】
その結果、コーティングの全厚さにわたって特性が完全に制御され得る、規則的で規則正しい気孔率を有する多孔質微細構造が得られる。使用する層によって、半径方向の空力損失が制限され、流体保持力が減少され、音および衝撃の吸収が最大化される。
【0009】
好ましくは、前記第1の層のフィラメントは、同じ配向方向を有するフィラメントの重ね合わせにおいていかなるオフセットもなく、0°または90°で交互に配向され、前記第2の層のフィラメントは、同じ角度偏差、典型的には20°と40°との間でオフセットされるかまたはオフセットされないフィラメントの配向方向で交互に配向される。
【0010】
想定される実施形態によれば、コーティングはまた、既知の幾何学的形状の堆積表面を得るように、前記内側ケーシング壁上に直接堆積された隙間補償材料の層を含んでもよい。
【0011】
想定される実施形態によれば、コーティングはまた、前記コーティングを通過する流体のための排出機能を有し、細孔径が250ミクロンより大きく且つ気孔率が70%より大きいチャネルまたはマイクロチャネル、の規則正しい網状組織を形成する第2の熱硬化性材料のフィラメントの三次元足場構造から構成される第3の層を含んでもよい。
【0012】
好ましくは、前記第3の層は、前記コーティングを通過する流体の排出を特定の領域に導き且つ500ミクロンより大きいチャネルサイズを有するチャネル、を有する特定のパターンを含む。
【0013】
有利には、前記第3の層のフィラメントは、同じ配向方向を有するフィラメントの重ね合わせにおいて、いかなるオフセットもなしに、0°または90°で交互に配向される。
【0014】
想定される実施形態によれば、コーティングはまた、揮発性物質の衝撃、雹の吸込み、またはさらに翼の損失から生じる衝撃エネルギーの吸収機能を有し、400ミクロン未満の孔径と60%未満の気孔率とを有するチャネルまたはマイクロチャネル、の規則正しい網状組織を形成する第3の熱硬化性材料のフィラメントの三次元足場構造から構成される第4の層を含んでもよい。
【0015】
好ましくは、前記第4の層のフィラメントは、0°または90°で交互に配向され、同じ配向方向を有するフィラメントの重ね合わせにおいてオフセットを有する。
【0016】
有利には、コーティングは、前記ケーシングの非軸対称の幾何学的形状を考慮して、前記第1の層上に局所的に追加されたアブレイダブル材料の少なくとも1つの追加の層をさらに含むことができる。
【0017】
好ましくは、前記アブレイダブル材料は、ポリマーベースと架橋剤との重量比が1:1~2:1のポリマーベースおよび架橋剤と、流動促進成分、典型的には、前記チキソトロピー混合物の総重量の5~15重量%の間に存在するワセリン(petroleum jelly)と、を含む無溶媒チキソトロピー混合物である。
【0018】
有利には、前記第1、第2および第3の熱硬化性材料は、前記アブレイダブル材料を含む。
【0019】
前記ケーシングは、織物複合材料から作られたターボ機械ファンケーシングであることが好ましい。
【0020】
本発明の他の特徴および利点は、非限定的である以下の図面を参照して、以下に与えられる詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の特性勾配コーティングが実施される航空機ターボ機械の構成を概略的に示す図である。
図2】本発明のコーティングの製造に使用されるフィラメント状材料堆積システムを示す図である。
図3図2のシステムによって得られた三次元フィラメント足場構造の分解図である。
図4A】本発明の特性勾配コーティングの異なる層の例を示す図である。
図4B】本発明の特性勾配コーティングの異なる層の例を示す図である。
図4C】本発明の特性勾配コーティングの異なる層の例を示す図である。
図4D】本発明の特性勾配コーティングの異なる層の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、航空機ターボ機械構成、この場合、ターボファンエンジンの高度に概略図である。このターボファンエンジンの一方の壁に、その本発明による特性勾配コーティングが施される。
【0023】
古典的には、このようなターボファンエンジン10は、長手方向軸12を有しており、軸12を中心とし且つエンジンの周りに同心で配置された、ガスタービンエンジン14と環状ナセル16から構成されている。
【0024】
上流から下流に向かって、ターボジェットエンジンを通過する空気又はガス流の流れの方向に応じて、エンジン14は、空気入口18、ファン20、低圧圧縮機22、高圧圧縮機24、燃焼室26、高圧タービン28、および低圧タービン30を備える。これらの各要素は長手方向軸12に沿って配置される。エンジンによって生成されたガスは、ノズルを通して噴出される。長手方向軸12を中心とする環状中央本体32と、環状一次カウルにより一次流れF1のための環状流路を画定するように中央本体を同軸的に取り囲む環状一次カウル34と、環状二次カウルにより一次流路と同軸の二次流れF2の環状流路を画定するように一次カウルを同軸的に取り囲む環状二次カウル36と、からノズルは構成される。二次流れF2のための環状流路内では、整流翼38が配置されている(図示の例示の実施形態では、ターボジェットエンジンのナセル16と二次カウル36は一体であり、同じ部品である)。一次カウルおよび二次カウルは、特に、タービン動翼を囲むタービン中間ケーシング28Aおよび30A、ならびにファン動翼を囲むファンケーシング20Aを含む。
【0025】
本発明によれば、付加製造によって、動翼に面するケーシングの内壁に、熱硬化性材料のフィラメントの3次元足場構造の形態の特性勾配コーティングを施し、それらの間にチャネルの規則正しい網状組織を形成することが提案される。想定される網状組織構成に応じて、チャネル間の相互接続は、これらの異なるチャネルを生成するように意図されたコーティングの異なる層を重ね合わせるときに、規則的に存在することができる。この壁は、優先的には、動翼の直近の周囲に取り付けられた航空機ターボジェットエンジンのようなターボ機械の壁である。この壁は、より詳細には、織物複合材料から作られたファンケーシング20Aの内壁であり、優先的に3Dであり、ファン翼の周囲に配置される。しかしながら、もちろん、金属またはセラミック基材上の熱硬化性材料が、それが次にさらされる高温環境に適合した特性を有するならば、タービンケーシング28A、30A上の堆積物も想定することができる。
【0026】
図2は、本発明の特性勾配コーティングを製造するためのフィラメント材料堆積システム40の一例の概略図である。特性勾配材料は、不連続性のない規則的な変化(例示的な実施形態は説明されていない)と、異なる特性を有するいくつかの別個の層の積層(本発明の例示的な実施形態)との両方を含む材料として定義される。
【0027】
好ましくはシステム内部の圧力および温度制御回路と関連して、較正された形状およびサイズの吐出ノズル40Aを通して押出しによって熱硬化性材料を最初に基体46上に堆積させこと、および、次いで、連続して、それぞれが明確な構造により、異なる特性を有する種々の重ね合わされた層48、50、52、54上に、このコーティングのための所望の厚さが得られるまで、連続的に堆積させることが、このフィラメント状堆積システムの目的である。
【0028】
フィラメント堆積システム40は、制御された機械的アセンブリ56、典型的には多軸(少なくとも3軸)機械または優先的にはロボットによってプリントされた堆積経路をたどり、多軸機械またはロボットは、管理ユニット58、典型的にはマイクロコントローラまたはマイクロコンピュータによって制御される。管理ユニット58は、多軸機械またはロボットに接続されて、フィラメント堆積システムの制御を確実にし、処理された表面の任意の点で、フィラメント配置および得られるコーティングの気孔率の両方を制御する。吐出ノズル40Aの近くに取り付けられた加熱ランプまたは他の同様の要素60を使用して、堆積された材料を安定化させ、堆積中のクリープを防止することができる。
【0029】
熱硬化性材料は、円錐押出スクリュー62から供給される。円錐押出スクリューは、幾つかの成分が混合されてチキソトロピー性ペースト状流体を形成することを可能にする。円錐形押出スクリューは、較正されたノズルによって堆積されるであろう高い粘度を有する流体材料を得るように、(堆積操作全体を通して)構成要素の適切で均質な混合を保証する。この操作の間、プリントされたフィラメントに非常に多くの欠陥を形成する気泡の発生および流体材料の流れの不安定性を避けなければならず、従って、材料を非常に徐々に押すことが必要である。このような円錐押出スクリューでは、堆積されて異なる層48~54を形成する熱硬化性材料の構成の変更が、円錐押出スクリューに連続的に導入される異なる成分の単純な制御によって容易に達成することができることに留意されたい。この円錐押出スクリューは、少なくとも2つの成分を同時に導入するための少なくとも2つの別個の入口62A、62Bを有する。
【0030】
図3は、フィラメント72、74、76(有利には円筒状)の熱硬化性材料の三次元足場構造70の小部分を分解図で示す。本発明のコーティングがこのコーティングの重ね合わされた層を通して所望の特性勾配を付与するような性質のチャネル(微小格子)の、規則正しい網状組織の形態で作製されることを、熱硬化性材料は可能にする。
【0031】
実際、図4A図4B図4Cおよび図4Dの異なる構成によって示されるように、本発明のコーティングは、ケーシングの内壁から異なる材料層の外面への付加製造によって重ね合わせによって形成される。異なる材料層のそれぞれは、所与の厚さおよびそれぞれに異なる特性を与える別個の構造を有する。前述のフィラメント堆積システムからプリントされたこのコーティングの各層は、チャネルの規則正しい網状組織を形成する熱硬化性材料のフィラメントの三次元足場構造から構成される。
【0032】
図4Aは、コーティングの外側層54を形成するように意図され、且つフィラメントの重ね合わされた層から構成される、フィラメント100、102の3次元足場構造を示す。ここで、所与の層のフィラメントは、同じ配向方向を有するフィラメントの重ね合わせにおいて、いかなるオフセットもなしに、0°または90°で交互に配向される。
【0033】
この第1の層54の目的は、ターボ機械の空力条件を満たしながら(特にエンジンの慣らし運転中に)動翼が通過するときのコーティングの摩耗性を確保することである。これを行うために、この第1の層に使用される熱硬化性材料は、アブレイダブル材料である。このアブレイダブル材料は、空気力学的変動(またはそれらの変化)の通過または消散を可能にするように、および/または音波の通過または消散を可能にするように、寸法決めされた気孔率(空隙の割合)を有する特定のパターンがその厚さで形成される。典型的には、50~250ミクロンの間のフィラメントサイズに対して85%より多き大きい気孔率が、この摩耗性機能に適している。これらのパターンはまた、1.5mmより小さい寸法を有する穿孔または溝からなり得、これはまた、空気力学的マージンを改善する。
【0034】
コーティングの表面層上のこの摩耗性機能の利点は、回転する動翼が空気力学的力と遠心力の和にさらされたときに受ける変形とロータケーシングアセンブリを適合させることである。
【0035】
アブレイダブル材料とは、対向する部分(低い剪断抵抗)と接触して動作中に材料が変位(または侵食)する能力を指し、および動作中に強制的に吸い込まれる粒子または異物の衝撃に続くその耐摩耗性を指す。このような材料はまた、良好な空気力学的特性を保持し、または促進さえしなければならない。このような材料はまた、十分な耐酸化性および耐腐食性、ならびにそれが堆積される層または基体(この場合、ケーシング壁を形成する織物複合材料)と同程度の熱膨張係数を有さなければならない。
【0036】
図4Bは、コーティングの層52を形成するように意図された、フィラメント200、202、204、206の三次元足場構造を示す。この三次元足場構造は、重ね合わされたフィラメントの層から構成される。これらのフィラメントは、各層において同じ角度偏差、例えば20°~40°(この傾斜値は限定することを意図しない)だけオフセットされてもされなくてもよいフィラメント配向方向を有する。
【0037】
第1の層54が堆積されるこの第2の層52の目的は、音波のエネルギーの消散を確実にすることである。これを行うために、三次元足場構造は、典型的には50~400ミクロンの間の孔径と60%より大きい気孔率とを有するチャネルまたはマイクロチャネルを有することができる。この第2の層52の製造に使用される熱硬化性材料は、第1の層54によって使用されるアブレイダブル材料である必要はない。しかしながら、コーティング全体に同じ材料を使用することが可能であり、各層間でその組成物を変化させる必要を回避することが可能である。
【0038】
この第2の層52は、もちろん、特に粒子の衝撃に関連する機械的および環境的制約に耐え、ターボ機械の空力性能を維持しなければならない。
【0039】
図4Cは、コーティングの第3の層50を形成するためのフィラメント300、302の3次元足場構造を示す。この3次元足場構造は重ね合わされた層から構成される。これらの層のフィラメントは、第1の層54の3次元足場構造におけるように、円筒形フィラメントの同じ配向方向を有する層の間でオフセットなしに、0°または90°で交互に配向される。しかし、これらの層のフィラメントは、図示の例では2倍より大きいオーダのフィラメント間隔を有する。典型的には、250ミクロンより大きいフィラメントサイズに対する70%より大きい気孔率は、この排出機能に適している。
【0040】
この第3の層50の製造に使用される熱硬化性材料は、第1の層54によって使用されるアブレイダブル材料であってもなくてもよく、第2の層52の製造に使用されるものと異なっていても異なっていなくてもよい。
【0041】
第2の層52が堆積されるこの第3の層50の目的は、ターボ機械によって吸い込まれてコーティングを通過する流体の排出を確実にすることである。これを行うために、排出機能を有するこの層は、有利には、流体の排出を好ましい領域(流れから6時に位置するドレーン)に導き且つ500ミクロンより大きいチャネルサイズを有するチャネル、を有する特定のパターンを有する。
【0042】
第2の層52と同様に、この第3の層50は、特に粒子の衝撃に関する機械的および環境的制約に耐え、ターボ機械の空力性能を維持しなければならない。
【0043】
第1の層54の下に位置する疎水性を有する層を追加することによって排出機能が有利に確保されることができるので、この第3の層50の存在は必ずしも必要ではないことに留意されたい。
【0044】
図4Dはまた、コーティングの第4および最後の層48を形成することが意図される、フィラメント400、402の三次元足場構造を示す。この三次元足場構造は、重ね合わされた層から構成される。重ね合わされた層では、所与の層のフィラメントは、0°または90°で交互に配向され、同じ配向方向を有するフィラメントの重ね合わせにおいてオフセットを有する。このオフセットは、図示のように、2本のフィラメント間の距離の半分に等しいことが好ましい。典型的には、400ミクロンより小さいフィラメントサイズに対して60%より小さい気孔率が、この衝撃機能を実施するのに適している。
【0045】
この第4の層48の製造に使用される熱硬化性材料は、第1の層54によって使用されるアブレイダブル材料であってもなくてもよく、第2の層52または第3の層50の製造に使用されるものと異なっていても異なっていなくてもよい。
【0046】
ケーシング46上に堆積されて最後の層上に第3の層50自体が堆積される、この最後の層48の目的は、コーティング全体の機械的強度を強化し、揮発性物質の衝撃、雹の吸込み、またはさらに翼の損失から生じる衝撃エネルギーの吸収を可能にすることである。この最後の層は、特に粒子の衝撃に関連する機械的および環境的ストレスにも耐えなければならない。
【0047】
第3の層50と同様に、後者の層48の存在は必ずしも必要ではないことに留意すべきである。その理由は、エネルギー吸収機能が吸音層52内に、またはケーシング46によって直接に有利に提供され得るからである。
【0048】
これらの全ての層について、前の層および/または直接ケーシングであり得る次の層への接着性(異なる層の熱膨張係数、特にケーシング材料の熱膨張係数の適合性)を確実にすることが必要である。
【0049】
追加の接続層64(図2参照)が、これらの三次元フィラメント足場構造の製造の前に付加され得ることに留意されたい。これは、ファンケーシングが織物複合材料ケーシングであり、その三次元形状が、特に使用される織りプロセス(典型的にはポリフレックスタイプ)の結果としてローブを形成する傾向に起因して、計算された理想的な表面からの偏差(形状欠陥)を一般に示すからである。これらの欠陥の修正は、現在、複雑で費用のかかる操作を伴う。従って、既知の幾何学的形状を得るために、遊び(樹脂または他のもの)を補うための材料を堆積させることが、この装置によって可能である。この予備工程の利点は、制御された堆積表面に戻すことであり、該表面は、正確に定義され、ターボ機械のエンジン領域内の良好な空力隙間を確保するために必要な形状の制約を満たす。
【0050】
コーティングの外面の軸対称性を確実にするように、アブレイダブル材料の追加の層を第1の層54上に局所的に加えることができることにも留意されたい。これは、ファンケーシングが非軸対称の幾何学的形状を有することが多いからである。
【0051】
較正されたノズルから押し出されたアブレイダブル材料は、有利には、公知のように、蒸発によって強い収縮が生じる溶媒を含まない高粘度熱硬化性材料(流体とも呼ばれる)である。この材料は、好ましくは、遅い重合反応速度およびチキソトロピー混合物の形態の安定なフィラメント流動を有する樹脂である。従って、この樹脂は、基体上のプリント(材料の押出し直後)と最終構造(一旦加熱され、重合が完了する)との間の収縮がはるかに低いという利点を有する。
【0052】
本発明のプロセスに関連して使用されるアブレイダブル材料の例は、3つの成分、すなわちポリマーベース、例えばエポキシ樹脂(青色モデリング粘土の形態の)、架橋剤または促進剤(白色モデリング粘土の形態の)および半透明着色ワセリン(例えばVaseline(商標))を含むペースト形態の材料である。促進剤/ベース成分は、ベース対促進剤の重量比1:1~2:1で分配され、ワセリンは、材料の全重量の5~15重量%(典型的には10重量%)で存在する。ベースは、プリントされた足場構造の機械的性能を高めることを可能にしながら、所望の気孔率を確保するように、決定された直径の中空ガラス微小球をさらに含むことができる。ワセリンを導入する利点は、樹脂の粘度の低下、ならびにこの摩耗性材料の反応速度にある。これは、その粘度をプリントプロセス中により安定にし、したがって材料の流動を促進する(粘度は、プリントの品質を維持するために適切な押出速度を保証するために必要とされる押出圧力に直接関連している)。
【0053】
例として、このような2:1の比は、0.7gの促進剤および1.4gのベースを含むアブレイダブル材料を生み出し、これに0.2gのワセリンが添加されるべきである。
【0054】
第1の層54以外の層であって、全ての三次元フィラメント足場構造に使用される熱硬化性材料がアブレイダブル材料ではない層については、金属またはセラミック系材料を有効に使用することができる。
【0055】
従って、本発明は、高速で安定したプリントを可能にし、航空学において遭遇する強い制約に鑑みて、特に有利である小さなフィラメントサイズおよび低重量を有する所定の機能および制御された特徴(粗さ、形態、開口率)を有する高性能構造の効率的な複製を可能にする。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D