IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ボッシュ株式会社の特許一覧 ▶ ボッシュエンジニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両の制御装置 図1
  • 特許-車両の制御装置 図2
  • 特許-車両の制御装置 図3
  • 特許-車両の制御装置 図4
  • 特許-車両の制御装置 図5
  • 特許-車両の制御装置 図6
  • 特許-車両の制御装置 図7
  • 特許-車両の制御装置 図8
  • 特許-車両の制御装置 図9
  • 特許-車両の制御装置 図10
  • 特許-車両の制御装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/18 20120101AFI20230209BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20230209BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20230209BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20230209BHJP
   B60K 6/543 20071001ALI20230209BHJP
   B60L 7/24 20060101ALI20230209BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20230209BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
B60W10/18 900
B60K6/485 ZHV
B60W20/00 900
B60K6/547
B60K6/543
B60L7/24 D
B60L50/16
B60T8/17 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020534095
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2019024080
(87)【国際公開番号】W WO2020026621
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2018145903
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517204346
【氏名又は名称】ボッシュエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】小倉 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】長岡 武史
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-204852(JP,A)
【文献】特開2009-292386(JP,A)
【文献】特開2005-329740(JP,A)
【文献】特開2000-287304(JP,A)
【文献】特開2004-278317(JP,A)
【文献】特開2013-177024(JP,A)
【文献】特開2003-304602(JP,A)
【文献】特開平08-317506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
B60T 8/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に連結されたエンジン(20)及びモータジェネレータ(30)と、油圧により作動する油圧ブレーキ(62)とを備える車両(1)に搭載され、前記モータジェネレータ(30)が発生する回生制動トルク及び前記油圧ブレーキ(62)が発生する油圧ブレーキトルクを制御する車両の制御装置(100)であって、
前記エンジン(20)への燃料の噴射を停止する燃料カット制御中に前記回生制動トルクを発生させた状態で、前記エンジン(20)の回転数に相関するエンジン回転数指標が所定の条件を満たしたときに、目標回生制動トルクを所定の勾配で直線状に減少させる回生制動トルク制御部(230)と、
前記車両(1)の運転者が要求する要求制動トルクと、前記目標回生制動トルクとの差分を目標油圧ブレーキトルクとして設定する油圧ブレーキ制御部(240)とを備え、
前記回生制動トルク制御部(230)は、
前記エンジン(20)の回転数がアイドリング回転数に到達するよりも前に前記目標回生制動トルクの値が0とならないと判断した場合に、前記所定の勾配の角度を大きくする
ことを特徴とする車両の制御装置(100)。
【請求項2】
前記回生制動トルク制御部(230)は、
前記エンジン(20)の回転数がアイドリング回転数に第2のオフセット回転数を加えた回転数となった際に前記目標回生制動トルクの値が0となっていない場合に、前記所定の勾配の角度を大きくする
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置(100)。
【請求項3】
前記エンジン回転数指標は、
前記エンジン(20)の回転数である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置(100)。
【請求項4】
前記回生制動トルク制御部(230)は、
前記エンジン(20)の回転数があらかじめ設定された基準回転数となった場合に、前記目標回生制動トルクを所定の勾配で減少させる
ことを特徴とする請求項3に記載の車両の制御装置(100)。
【請求項5】
前記基準回転数は、
前記エンジン(20)への燃料噴射を再開する基準となる燃料噴射再開回転数に第1のオフセット回転数を加えた回転数である
ことを特徴とする請求項4に記載の車両の制御装置(100)。
【請求項6】
直列に連結されたエンジン(20)及びモータジェネレータ(30)と、油圧により作動する油圧ブレーキ(62)とを備える車両(1)に搭載され、前記モータジェネレータ(30)が発生する回生制動トルク及び前記油圧ブレーキ(62)が発生する油圧ブレーキトルクを制御する車両の制御装置(100)であって、
前記エンジン(20)への燃料の噴射を停止する燃料カット制御中に前記回生制動トルクを発生させた状態で、前記エンジン(20)の回転数に相関するエンジン回転数指標としての前記車両(2)の車速が所定の条件を満たしたときに、目標回生制動トルクを所定の勾配で直線状に減少させる回生制動トルク制御部(430)と、
前記車両(1)の運転者が要求する要求制動トルクと、前記目標回生制動トルクとの差分を目標油圧ブレーキトルクとして設定する油圧ブレーキ制御部(440)とを備え、
前記回生制動トルク制御部(430)は、
前記車速が、前記エンジン(20)の回転数が前記エンジン(20)への燃料噴射を再開する基準となる燃料噴射再開回転数に到達する時点の車速に適宜のオフセット値を加えた速度となった際に、前記目標回生制動トルクの値が0となっていない場合に、前記所定の勾配の角度を大きくする
ことを特徴とする車両の制御装置(100)。
【請求項7】
前記回生制動トルク制御部(430)は、
前記車速があらかじめ設定された第1の速度となった場合に、前記目標回生制動トルクを所定の勾配で減少させる
ことを特徴とする請求項6に記載の車両の制御装置(300)。
【請求項8】
前記車両(2)は、
無段変速機構(51)を有し、
前記所定の勾配は、
前記車両(2)が所定の条件下で走行中に、前記エンジン(20)の回転数が前記エンジン(20)への燃料噴射を再開する基準となる燃料噴射再開回転数に到達するよりも前に前記目標回生制動トルクの値が0となるように設定される
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の車両の制御装置(300)。
【請求項9】
前記所定の勾配は、
前記車両(1)が所定の条件下で走行中に、前記エンジン(20)の回転数が前記車両(1)のアイドリング回転数に到達するよりも前に前記目標回生制動トルクの値が0となるように設定される
ことを特徴とする請求項1-8のいずれか1項に記載の車両の制御装置(100)。
【請求項10】
前記所定の勾配の角度は、
前記目標油圧ブレーキトルクに対して前記油圧ブレーキが追従可能な範囲で設定される
ことを特徴とする請求項1-9のいずれか1項に記載の車両の制御装置(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関であるエンジンと、発電機能を有するモータジェネレータとを搭載した車両が知られている。かかる車両の減速時に、モータジェネレータは、駆動輪側から入力される運動エネルギーを電気エネルギーに変換する発電装置として機能すると同時に、当該発電時に発生する回転抵抗を回生ブレーキとして駆動輪側に伝達する制動装置として機能する。モータジェネレータを搭載した車両に関する分野において、車両の制動力を制御するための様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、モータジェネレータの発電量に応じて変化する回生制動トルクに合わせて油圧制動トルクを変化させることにより、運転者が所望する制動力を得ることができるハイブリッド車両及び電気車両のブレーキシステムとその制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-056228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の減速時において、燃費向上のためエンジンへの燃料噴射が停止されることがある。また、燃料噴射が停止された状態において、車両の制動要求に対してモータジェネレータによる回生ブレーキが優先的に使用されることがある。
【0006】
エンジン及びモータジェネレータが直結されている(切離しできない)車両では、モータジェネレータの回生駆動による回転抵抗がエンジンの負荷となるため、減速時にエンジン回転数が低下しすぎるとエンジンストールが発生するおそれがある。
【0007】
このような場合、回生ブレーキによる制動力を徐々に減少させる一方、回生ブレーキによる制動力の減少分を油圧ブレーキによる制動力に置き換える制御を行うことが考えられる。
【0008】
回生ブレーキによる制動力を油圧ブレーキによる制動力に置き換える制御の1つとして、エンジン回転数の変化に合わせて回生ブレーキによる制動力を減少させる方法が考えられる。
【0009】
しかし、車両の減速時において、一般にエンジン回転数は上下変動を伴いながら低下するため、当該方法では、回生ブレーキによる制動力が上下変動を伴いながら減少する。一方、油圧ブレーキによる制動力は、油圧回路を流れる油圧が変化することによって制御されるため、油圧ブレーキによる制動力の制御には一定のタイムラグが生じる。
【0010】
したがって、このような制御方法を車両の減速時に適用した場合、車両全体の制動力が安定せず、車両の振動を引き起こすおそれがある。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、車両の減速時に、回生ブレーキによる制動力を油圧ブレーキによる制動力に円滑に置き換えることが可能な車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、直列に連結されたエンジン及びモータジェネレータと、油圧により作動する油圧ブレーキとを備える車両に搭載され、モータジェネレータが発生する回生制動トルク及び油圧ブレーキが発生する油圧ブレーキトルクを制御する車両の制御装置であって、エンジンへの燃料の噴射を停止する燃料カット制御中に回生制動トルクを発生させた状態で、エンジンの回転数に相関するエンジン回転数指標が所定の条件を満たしたときに、目標回生制動トルクを所定の勾配で直線状に減少させる回生制動トルク制御部と、車両の運転者が要求する要求制動トルクと、目標回生制動トルクとの差分を目標油圧ブレーキトルクとして設定する油圧ブレーキ制御部とを備え、回生制動トルク制御部は、エンジンの回転数がアイドリング回転数に到達するよりも前に目標回生制動トルクの値が0とならないと判断した場合に、所定の勾配の角度を大きくする車両の制御装置が提供される。
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、直列に連結されたエンジン及びモータジェネレータと、油圧により作動する油圧ブレーキとを備える車両に搭載され、モータジェネレータが発生する回生制動トルク及び油圧ブレーキが発生する油圧ブレーキトルクを制御する車両の制御装置であって、エンジンへの燃料の噴射を停止する燃料カット制御中に回生制動トルクを発生させた状態で、エンジンの回転数に相関するエンジン回転数指標としての車両の車速が所定の条件を満たしたときに、目標回生制動トルクを所定の勾配で直線状に減少させる回生制動トルク制御部と、車両の運転者が要求する要求制動トルクと、目標回生制動トルクとの差分を目標油圧ブレーキトルクとして設定する油圧ブレーキ制御部とを備え、回生制動トルク制御部は、車速が、エンジンの回転数がエンジンへの燃料噴射を再開する基準となる燃料噴射再開回転数に到達する時点の車速に適宜のオフセット値を加えた速度となった際に、目標回生制動トルクの値が0となっていない場合に、所定の勾配の角度を大きくする車両の制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、車両の減速時に、回生ブレーキによる制動力を油圧ブレーキによる制動力に円滑に置き換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態に係る車両の制御装置を適用可能な車両の構成例を示す模式図である。
図2】同実施形態に係る車両の制御装置の構成例を示すブロック図である。
図3】比較例に係る車両の制御装置の動作例を示す説明図である。
図4】同実施形態に係る車両の制御装置の動作例を示す説明図である。
図5】同実施形態に係る車両の制御装置の動作例を示す説明図である。
図6】同実施形態に係る車両の制御装置の動作例を示すフローチャートである。
図7】本発明の第2の実施形態に係る車両の制御装置を適用可能な車両の構成例を示す模式図である。
図8】同実施形態に係る車両の制御装置の構成例を示すブロック図である。
図9】同実施形態に係る車両の制御装置の動作例を示す説明図である。
図10】同実施形態に係る車両の制御装置の動作例を示す説明図である。
図11】同実施形態に係る車両の制御装置の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
<1.第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態に係る車両の制御装置について説明する。
【0017】
[1-1.車両の全体構成例]
まず、図1を参照して、本実施形態に係る車両の制御装置を適用可能な車両の全体構成例を説明する。図1は、車両の制御装置100を備えた車両1を示す模式図である。以下、パワーユニット10と制御装置100とに分けて、車両1の全体構成例を説明する。
【0018】
(1-1-1.パワーユニット)
図1に示すように、車両1のパワーユニット10は、動力源としてエンジン20を備える。パワーユニット10は、エンジン20の始動時にクランキングを行うスタータとして機能するモータジェネレータ30を備える。モータジェネレータ30は、車両減速時に制動装置としても機能する。
【0019】
エンジン20とモータジェネレータ30とは、例えばカップリングを介して直列に連結されている。パワーユニット10は、クラッチ機構40を介してモータジェネレータ30と連結される手動式の有段変速機構50を備える。有段変速機構50は、デファレンシャル機構等を介して駆動輪60に連結される。
【0020】
モータジェネレータ30には、インバータ34を介してバッテリ32が接続されている。インバータ34は、後述する制御装置100から入力される制御信号に応じてモータジェネレータ30を制御する。
【0021】
モータジェネレータ30がスタータとして制御される際には、バッテリ32からインバータ34を介してモータジェネレータ30に電力が供給される。モータジェネレータ30は、供給された電力を用いてクランキングを行う。
【0022】
モータジェネレータ30が制動装置として制御(回生制御)される場合、モータジェネレータ30は、駆動輪60から入力される回転エネルギーを電気エネルギーに変換する。モータジェネレータ30は、当該変換時に発生する回転抵抗を回生制動トルクとして駆動輪60に伝達する。
【0023】
モータジェネレータ30のロータに流れる励磁電流がインバータ34により制御されることにより、回生ブレーキによる制動力(回生制動トルク)が制御される。回転エネルギーから変換された電気エネルギーは、インバータ34を介してモータジェネレータ30からバッテリ32に電力として供給される。
【0024】
駆動輪60には、油圧により作動する油圧ブレーキ62が設けられている。油圧ブレーキ62としては、例えば、ディスクブレーキが用いられる。油圧ブレーキ62へ供給される油圧が制御されることによって、油圧ブレーキ62による制動力(油圧ブレーキトルク)が制御される。
【0025】
油圧ブレーキ62へ供給される油圧は、液圧ユニット70により制御される。液圧ユニット70には、図示しないマスタシリンダから油圧ブレーキ62へ油圧を供給する油路と、モータにより駆動されてブレーキ液を吐出するポンプと、油路の開閉を調節する電磁弁等の制御弁とが備えられている。当該ポンプ及び制御弁が後述するブレーキコントローラ120により駆動制御されることで油圧ブレーキ62へ供給される油圧が制御される。
【0026】
クラッチ機構40は、モータジェネレータ30と有段変速機構50との連結状態、つまりエンジン20と有段変速機構50との連結状態を切り替える。クラッチ機構40としては、例えば、湿式多板クラッチが用いられる。クラッチ機構40へ供給される油圧が制御されることによって、クラッチ機構40は締結され、又は解放される。
【0027】
クラッチ機構40が締結されることによって、エンジン20と有段変速機構50とが連結され、エンジン20及びモータジェネレータ30に対して駆動輪60が連結される。一方、クラッチ機構40が解放されることによって、エンジン20と有段変速機構50との連結が解除され、エンジン20及びモータジェネレータ30が駆動輪60から切り離される。
【0028】
なお、上記ではエンジン20及びモータジェネレータ30がカップリングを介して直列に連結されている例を挙げたが、エンジン20及びモータジェネレータ30はベルト及びプーリを介して連結されてもよい。
【0029】
(1-1-2.制御装置)
車両1の制御装置100の全体構成を説明する。図1に示すように、車両1は、パワーユニット10の作動状態を制御するため、マイクロコンピュータ等を備える各種コントローラを備える。各種コントローラとして、エンジンコントローラ110及びブレーキコントローラ120が備えられている。
【0030】
これらのコントローラは、CAN(Controller Area Network)又はLIN(Local InterNet)等の一つ又は複数の車載ネットワークを介して互いに通信可能に接続されており、互いに協調して制動力置換制御を行う。
【0031】
それぞれのコントローラの一部又は全部は、例えばマイクロコンピュータ、マイクロプロセッサユニット等で構成されていてもよい。また、それぞれのコントローラの一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0032】
また、それぞれのコントローラは、マイクロコンピュータ等により実行されるプログラムや種々の演算に用いるパラメータ、検出データ、演算結果の情報等を記憶する図示しない記憶装置を備える。
【0033】
記憶装置は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶素子であってもよく、HDD(Hard Disk Drive)やCD-ROM、ストレージ装置等の記憶装置であってもよい。
【0034】
エンジンコントローラ110には、ブレーキセンサ81、アクセルセンサ83、クラッチセンサ85及びエンジン回転数センサ87が接続されている。ブレーキコントローラ120には、ブレーキセンサ81が接続されている。
【0035】
ブレーキセンサ81は、ブレーキペダルの操作量を検出する。アクセルセンサ83は、アクセルペダルの操作量を検出する。クラッチセンサ85は、クラッチペダルの操作量を検出する。エンジン回転数センサ87は、クランク軸の回転速度であるエンジン回転数を検出する。
【0036】
エンジンコントローラ110は、エンジン20のスロットルバルブやインジェクタ等に制御信号を出力し、エンジントルクやエンジン回転数等を制御する。車両1の減速時において、エンジンコントローラ110は、燃料の噴射を停止しても駆動輪60の回転力によってエンジン20が停止することなく回転し続ける間、燃料の噴射を停止する(以下、「燃料カット制御」ともいう。)。
【0037】
また、エンジンコントローラ110は、エンジン回転数が低下してエンジンストールを生じ得る領域に近づいた場合に、燃料の噴射を再開する。
【0038】
また、エンジンコントローラ110は、モータジェネレータ30に接続されたインバータ34に制御信号を出力し、モータジェネレータ30の駆動を制御する。車両1の減速時において、エンジンコントローラ110は、ブレーキコントローラ120からの制御指令に基づいてインバータ34に制御信号を出力し、モータジェネレータ30の回生制動トルクを制御する。
【0039】
ブレーキコントローラ120は、モータジェネレータ30による回生制動トルク及び油圧ブレーキ62による油圧ブレーキトルクを制御して、車両1の制動力を制御する。
【0040】
ブレーキコントローラ120は、それぞれのセンサやエンジンコントローラ110から送信される情報に基づいてモータジェネレータ30の制御目標(目標回生制動トルク)を設定する。ブレーキコントローラ120は、設定した制御目標に基づいてエンジンコントローラ110にモータジェネレータ30に関する制御指令を出力する。
【0041】
ブレーキコントローラ120は、車両1に対して要求される制動力(要求制動トルク)からモータジェネレータ30による回生制動トルクを引いた差分を油圧ブレーキ62の制御目標(目標油圧ブレーキトルク)として設定する。ブレーキコントローラ120は、当該制御目標に基づいて液圧ユニット70に備えられたポンプ及び制御弁に制御信号を出力し、油圧ブレーキトルク等を制御する。
【0042】
本実施形態において、燃料カット制御中にドライバ等によりブレーキ操作が行われた場合、ブレーキコントローラ120は、モータジェネレータ30により回生制動トルクを発生させて車両1を減速させる。
【0043】
また、ブレーキコントローラ120は、エンジン回転数が低下して、エンジンストールを生じるおそれのある運転状態になると、回生制動トルクを徐々に油圧ブレーキトルクに置き換える制動力置換制御を行う。
【0044】
エンジン20及びモータジェネレータ30が直列に連結されている車両1において、クラッチ機構40が締結状態である場合、エンジン20及びモータジェネレータ30に対して駆動輪60が連結された状態となる。
【0045】
この状態でアクセルペダルが解放されて車両1の要求駆動トルクがゼロになった場合において、エンジン20に駆動輪60の回転力が伝達されることにより、エンジン20に燃料が噴射されなくてもエンジンストールを生じることなくエンジン20が回転できる運転領域がある。
【0046】
このようなエンジン20の運転領域では、エンジンコントローラ110は、車両1の燃費向上のためエンジン20への燃料噴射を停止する燃料カット制御を行う。
【0047】
燃料カット制御中にドライバがブレーキペダルを操作した場合、ブレーキコントローラ120は、回生制動トルクを発生させる。燃料カット制御中はエンジン20からの出力トルクがゼロであり、モータジェネレータ30による効率のよい回生発電が可能である。このため、ブレーキコントローラ120は、油圧ブレーキによらずにモータジェネレータ30の回生制御により車両1の制動力を発生させる。
【0048】
車両1が更に減速し、エンジン回転数がエンジンストールのおそれのある領域に近づいた場合、エンジンコントローラ110は、燃料カット制御を終了して燃料噴射を再開する。燃料噴射を再開した後の燃料噴射量は、エンジン回転数をエンジンストールのおそれのない最低限の回転数(例えばアイドリング回転数)に保つための必要最低限の量に制御される。
【0049】
ここで、車両1が更に減速し、エンジン回転数がアイドリング回転数に到達した際に回生制動トルクが0となっていない場合、モータジェネレータ30の回転抵抗がエンジン20の負荷となってエンジンストールが発生するおそれがある。
【0050】
したがって、ブレーキコントローラ120は、エンジン回転数がアイドリング回転数に到達するよりも前に車両1の制動トルクを回生制動トルクから油圧ブレーキトルクに置き換える。以下、制動力置換制御を実行可能とする制御装置100の具体例について説明する。
【0051】
[1-2.制御装置の具体例]
本実施形態に係る車両の制御装置100の具体例を説明する。図2は、図1に示したエンジンコントローラ110及びブレーキコントローラ120により構成される制御装置100のうち、制動力置換制御に関連する部分の機能構成を示す説明図である。
【0052】
制御装置100は、制御開始判定部210、最大回生制動トルク設定部220、回生制動トルク制御部230及び油圧ブレーキ制御部240を備える。
【0053】
また、制御装置100は、ブレーキセンサ81、アクセルセンサ83、クラッチセンサ85及びエンジン回転数センサ87から出力される信号を取得する。取得された信号が示す各種情報は、図示しない記憶装置に記憶される。
【0054】
(制御開始判定部)
例えばエンジンコントローラ110が制御開始判定部210として機能する。制御開始判定部210は、各種センサの情報に基づいて制動力置換制御を開始するか否かを判定する。
【0055】
具体的に、制御開始判定部210は、車両減速時に、エンジン回転数センサ87より取得したエンジン回転数指標としてのエンジン回転数が第1の回転数に到達したか否かを判定する。エンジン回転数が低下して第1の回転数に到達した場合、制御開始判定部210は、制動力置換制御を開始すると判定する。
【0056】
ここで、モータジェネレータ30の回生制御中に燃料噴射を行うと、回生制動トルクを付与する駆動軸に対してエンジン20の出力トルクを付与することになって燃費が低下する。このため、制動力置換制御は燃料噴射の再開よりも前に開始されることが好ましい。
【0057】
なお、第1の回転数として、アイドリング回転数よりも高い適宜の基準回転数を使用してもよい。エンジンストールの防止を目的とする場合には、エンジン回転数がアイドリング回転数に到達するまでに制動力置換制御が開始されればよいからである。
【0058】
ただし、第1の回転数が燃料噴射を再開する回転数(燃料噴射再開回転数)よりも過度に大きい場合、燃費を悪化させることがないにもかかわらず、一部の回生制動トルクが油圧ブレーキトルクに置き換えられてしまい、回生効率が低下する。このため、第1の回転数は、例えば、燃料噴射再開回転数に適宜のオフセット値を加えた回転数とすることが好ましい。
【0059】
(最大回生制動トルク設定部)
例えばエンジンコントローラ110が最大回生制動トルク設定部220として機能する。最大回生制動トルク設定部220は、制御開始判定部210が制動力置換制御を開始すると判定した場合、以下のようにモータジェネレータ30が発生可能な最大の回生制動トルクを設定する。
【0060】
なお、以下の説明では、モータジェネレータ30が発生可能な最大の回生制動トルクを最大回生制動トルクと称する。
【0061】
まず、最大回生制動トルク設定部220は、制御開始判定部210が制動力置換制御を開始すると判定した時点においてモータジェネレータ30が発生している回生制動トルクを最大回生制動トルクの初期値として設定する。
【0062】
また、最大回生制動トルク設定部220は、最大回生制動トルクを時間の経過とともに所定の勾配で単調減少させる。このとき、最大回生制動トルク設定部220は、勾配が直線状となるように最大回生制動トルクを減少させてよい。
【0063】
最大回生制動トルク設定部220は、エンジン回転数が第2の回転数に到達した際に最大回生制動トルクが0となっていない場合、勾配の角度が大きくなるように最大回生制動トルクの減少率を上げてもよい。
【0064】
つまり、エンジン回転数がアイドリング回転数に到達した後においてもモータジェネレータ30が回転駆動されると、モータジェネレータ30の回転抵抗がエンジン20の負荷となって、エンジンストールを生じるおそれがある。
【0065】
このため、エンジン回転数がアイドリング回転数に到達するまでに最大回生制動トルクが0とならないと判断される場合、最大回生制動トルクを減少させる勾配を大きくして、速やかに最大回生制動トルクを0にすることが好ましい。第2の回転数は、例えば、アイドリング回転数に適宜のオフセット値を加えた回転数であってよい。
【0066】
なお、最大回生制動トルク設定部220は、エンジン回転数が第2の回転数に到達した際に最大回生制動トルクが0となっていない場合であっても、必ずしも勾配を変更しなくてもよい。
【0067】
例えば、エンジン回転数が第2の回転数に到達した際に最大回生制動トルクが0に近い領域にあり、エンジン回転数がアイドリング回転数に到達するよりも前に最大回生制動トルクが0に到達すると判断される場合、最大回生制動トルク設定部220は、勾配を変更しなくてよい。
【0068】
(回生制動トルク制御部)
例えばエンジンコントローラ110及びブレーキコントローラ120が回生制動トルク制御部230として機能する。回生制動トルク制御部230は、最大回生制動トルク設定部220において設定される最大回生制動トルクと各種センサの情報とに基づいて、モータジェネレータ30が発生する回生制動トルクを制御する。回生制動トルク制御部230は、油圧ブレーキ制御部240と協調して車両1の全体の制動力を制御する。
【0069】
回生制動トルク制御部230は、例えば、ブレーキセンサ81より取得したブレーキペダルの操作量等に基づいて車両1要求制動トルクを算出する。また、回生制動トルク制御部230は、要求制動トルクと、最大回生制動トルクとを比較し、値が小さい方の値をモータジェネレータ30に発生させる回生制動トルクの目標値(目標回生制動トルク)として決定する。回生制動トルク制御部230は、決定された回生制動トルクに基づいてインバータ34を介してモータジェネレータ30を制御する。それにより、モータジェネレータ30の回生制動トルクが制御される。
【0070】
(油圧ブレーキ制御部)
例えばブレーキコントローラ120が油圧ブレーキ制御部240として機能する。油圧ブレーキ制御部240は、要求制動トルクと目標回生制動トルクとのトルクの差分を油圧ブレーキ62に発生させる目標油圧ブレーキトルクとして設定する。
【0071】
換言すれば、油圧ブレーキ制御部240は、目標回生制動トルクと目標油圧ブレーキトルクとのトルクの合計トルクが要求制動トルクと一致するように目標油圧ブレーキトルクを設定する。
【0072】
油圧ブレーキ制御部240は、設定された目標油圧ブレーキトルクに基づいて液圧ユニット70に備えられたポンプ及び制御弁を制御する。それにより、油圧ブレーキ62の油圧ブレーキトルクが制御される。
【0073】
[1-4.制御装置の動作例]
ここまで、制御装置100の構成例を説明した。以下、制御装置100の動作例を説明する。
【0074】
(1-4-1.概略)
まず、図3~5を参照して、制御装置100による車両1の制御方法の概略を説明する。図3は、比較例に係る車両の制御装置の動作例を示す説明図である。図4~5は、本実施形態に係る車両の制御装置の動作例を示す説明図である。
【0075】
図3を参照して比較例に係る車両の制御装置の動作例を説明する。比較例に係る車両の制御装置は、最大回生制動トルクtraを設定する際にエンジン回転数を入力パラメータとして使用する点で本実施形態に係る車両の制御装置とは異なっている。
【0076】
時刻t90において、エンジン回転数が燃料噴射再開回転数nbに適宜のオフセット値を加えた第1の回転数naに到達すると、比較例に係る制御装置は制動力置換制御を開始する。
【0077】
時刻t90以降において、比較例に係る制御装置は、エンジン回転数を入力パラメータとして用いて最大回生制動トルクtraの値を設定する。例えば、エンジン回転数に所定の係数を乗算することにより最大回生制動トルクtraの値が設定される。
【0078】
ここで、一般に、車両1の減速時にエンジン回転数は直線状に減少せず、わずかな上下変動を伴いながら減少する。したがって、エンジン回転数を入力パラメータとして用いて設定された最大回生制動トルクtraは上下変動を伴いながら減少する。
【0079】
また、比較例に係る制御装置は、ブレーキセンサ81より取得したブレーキペダルの操作量等に基づいて算出される要求制動トルクtreと、最大回生制動トルクtraとを比較し、値が小さい方の値を目標回生制動トルクとして設定する。
【0080】
最大回生制動トルクtraが要求制動トルクtreを下回る場合、目標回生制動トルクは最大回生制動トルクtraと一致する。この場合、目標回生制動トルクは、上下変動を伴いながら減少する。それにより、モータジェネレータ30が実際に発生する回生制動トルクtrbは、上下変動を伴いながら減少する。
【0081】
図3に示した例では、時刻t90以降において、要求制動トルクtreは一定であるため、目標回生制動トルクが上下変動を伴いながら減少する場合、目標油圧ブレーキトルクは上下変動を伴いながら増加する。
【0082】
ここで、モータジェネレータ30が実際に発生する回生制動トルクtrbは、回生制動トルク制御部230にて設定された目標回生制動トルクに従いインバータ34がモータジェネレータ30を制御することにより発生する。つまり、回生制動トルクtrbは、電気信号により制御される。
【0083】
一方、油圧ブレーキ62が実際に発生する油圧ブレーキトルクtrcは、油圧ブレーキ制御部240にて設定された目標油圧ブレーキトルクに従い液圧ユニット70に備えられたポンプが駆動し、制御弁が油路の開閉動作を行うことにより発生する。つまり、油圧ブレーキトルクtrcは、物理的に制御される。
【0084】
このため、回生制動トルクtrbに比べて油圧ブレーキトルクtrcの応答性及び追従性は劣る。つまり、回生制動トルクtrbと油圧ブレーキトルクtrcとの合計トルクtrdは、要求制動トルクtreと一致せず上下変動を伴う場合がある。したがって、比較例に係る制御装置は、制動力の置き換えの際に車両1の振動を引き起こすおそれがある。
【0085】
次に、図4を参照して本実施形態に係る車両の制御装置の動作例を説明する。図4は、車両1が平坦路を走行している場合の制御装置100の動作例である。
【0086】
時刻t10において、エンジン回転数が燃料噴射再開回転数nbに適宜のオフセット回転数を加えた第1の回転数naに到達すると、制御開始判定部210は、制動力置換制御を開始すると判定する。
【0087】
時刻t10において、最大回生制動トルク設定部220は、その時点の回生制動トルクtrbを最大回生制動トルクtraの初期値として設定する。そして、最大回生制動トルク設定部220は、最大回生制動トルクを時間の経過とともに単調減少させる。図4に示した例では、最大回生制動トルクが直線状に減少する。
【0088】
ところで、上述のとおり、回生制動トルクtrbに比べて油圧ブレーキトルクtrcの追従性は劣る。つまり、回生制動トルクtrbが急激に減少した場合に油圧ブレーキトルクtrcの増加が追い付かない場合がある。
【0089】
よって、最大回生制動トルクtraを減少させる際の勾配の角度は、最大回生制動トルクtraの減少に伴い減少する目標回生制動トルクと相反して増加する目標油圧ブレーキトルクに対して、油圧ブレーキ62が追従可能な角度に決定されることが好ましい。
【0090】
併せて、最大回生制動トルクtraが減少する際の勾配は、車両1が所定の条件下で走行中に、エンジン回転数がアイドリング回転数ndに到達するよりも前に最大回生制動トルクtraが0となるように決定されてもよい。所定の条件は、例えば、車両1が平坦路を走行している状態から、クラッチ機構40の締結状態で、アクセルペダル及びブレーキペダルが解放された状態であってよい。
【0091】
例えば、勾配が直線状である場合、最大回生制動トルクtraの減少率が-250N・m/secとなるように勾配の角度が設定されてよい。
【0092】
時刻t10以降において、回生制動トルク制御部230は、ブレーキセンサ81より取得したブレーキペダルの操作量等に基づいて要求制動トルクtreを算出する。また、回生制動トルク制御部230は、要求制動トルクtreと最大回生制動トルクtraとを比較し、値が小さい方の値を目標回生制動トルクとして設定する。
【0093】
図4に示した例では、時刻t10以降、最大回生制動トルクtraは要求制動トルクtreよりも小さい。このため、目標回生制動トルクの値は最大回生制動トルクtraの値と一致し、時間の経過とともに直線状に減少する。これに伴って、回生制動トルクtrbは、時間の経過とともに直線状に減少する。
【0094】
時刻t10以降において、油圧ブレーキ制御部240は、要求制動トルクtreと目標回生制動トルクとの差分を油圧ブレーキ62に発生させる目標油圧ブレーキトルクとして設定する。
【0095】
図4に示した例では、要求制動トルクtreは一定であるため、目標回生制動トルクが時間の経過とともに直線状に減少する場合、目標油圧ブレーキトルクは時間の経過とともに直線状に増加する。これに伴って、油圧ブレーキトルクtrcは、時間の経過とともに直線状に増加する。
【0096】
その後、エンジン回転数がアイドリング回転数ndに到達する時刻t13よりも前の時刻t11に回生制動トルクtrbが0となり、制動力置換制御が終了する。
【0097】
このように、本実施形態において、回生制動トルクtrbは、時間の経過とともに直線状に減少する。また、油圧ブレーキトルクtrcは、要求制動トルクtreと回生制動トルクtrbとの差分を補うように時間の経過とともに直線状に増加する。
【0098】
それにより、回生制動トルクtrbと油圧ブレーキトルクtrcとの合計トルクtrdは一定となる。つまり、本実施形態に係る車両の制御装置100は、車両減速時に、車両1の制動トルクを回生制動トルクtrbから油圧ブレーキトルクtrcへと円滑に置き換えることができる。
【0099】
また、図4に示した例では、回生制動トルクtrbは、エンジン回転数がアイドリング回転数ndに到達する時刻t13よりも前に0となっている。つまり、本実施形態に係る車両の制御装置100は、エンジンストールを防ぐ確実性を向上することができる。
【0100】
次に、図5を参照して、エンジン回転数がアイドリング回転数に到達するまでに回生制動トルクが0とならないおそれがある場合を説明する。図5は、上り坂を走行している車両1における制御装置100の動作例である。図5に示す制御装置100の動作例において、エンジン回転数の低下速度は図4に比べて速い。
【0101】
図5に示す例において、エンジン回転数が、上述した第2の回転数ncに到達する時刻t12までの車両の制御装置100の動作は、上述した図4に示した動作と同様である。
【0102】
図5に示す例では、エンジン回転数が第2の回転数ncに到達する時刻t12において、最大回生制動トルクtraが0となっていない。このような状況において、減少する最大回生制動トルクtraの勾配の角度を変更しない場合、エンジン回転数がアイドリング回転数ndに到達する時刻t13よりも前に、回生制動トルクtrbが0とならないおそれがある。
【0103】
時刻t12において最大回生制動トルク設定部220は、減少する最大回生制動トルクtraの勾配の角度が大きくなるように勾配を変更する。
【0104】
このとき、最大回生制動トルク設定部220は、変更後の最大回生制動トルクtraが時間の経過とともに直線状に減少するように勾配を変更してもよい。例えば、最大回生制動トルクtraの減少率が-500N・m/secとなるように勾配の角度が設定されてよい。
【0105】
その後、エンジン回転数がアイドリング回転数ndに到達する時刻t13よりも前の時刻t11に回生制動トルクtrbが0となり、制動力置換制御が終了する。
【0106】
このように、図5に示した例では、エンジン回転数がアイドリング回転数に到達するまでに回生制動トルクが0とならないおそれがある場合、減少する最大回生制動トルクtraの勾配の角度が途中で大きくなる。
【0107】
それにより、回生制動トルクtrbは、エンジン回転数がアイドリング回転数ndに到達する時刻t13よりも前に0となっている。したがって、本実施形態に係る車両の制御装置100は、エンジンストールを防ぐ確実性を一層向上することができる。
【0108】
(1-4-2.フローチャート)
次に、図6を参照して、制御装置100による車両1の制御方法を説明する。図6は、本実施形態に係る車両1の制御装置100の動作例を示すフローチャートである。
【0109】
まず、制御開始判定部210は、車両減速時に、エンジン回転数センサ87より取得したエンジン回転数が、上述した第1の回転数に到達したか否かを判定する(ステップS11)。
【0110】
エンジン回転数が第1の回転数に到達していない場合(S11/no)、制御開始判定部210は、制動力置換制御を開始しないと判定し、エンジン回転数が第1の回転数に到達するまでステップS11の判定を繰り返す。
【0111】
一方、エンジン回転数が第1の回転数に到達している場合(S11/yes)、制御開始判定部210は、制動力置換制御を開始すると判定する。
【0112】
制御開始判定部210が制動力置換制御を開始すると判定した場合、最大回生制動トルク設定部220は、上述したように最大回生制動トルクを時間の経過とともに減少させる(ステップS13)。最大回生制動トルク設定部220は、例えば最大回生制動トルクを直線状に減少させる。
【0113】
次いで、回生制動トルク制御部230は、最大回生制動トルクと各種センサの情報とに基づいて目標回生制動トルクを設定する。また、油圧ブレーキ制御部240は、要求制動トルクと目標回生制動トルクとに基づいて目標油圧ブレーキトルクを設定する(ステップS15)。
【0114】
目標回生制動トルクが最大回生制動トルクを上回る場合、目標回生制動トルクは直線状に減少する。これに伴って、要求制動トルクから目標回生制動トルクを引いて求められる目標油圧ブレーキトルクは、直線状に増加する。
【0115】
次いで、最大回生制動トルク設定部220は、エンジン回転数が上述した第2の回転数に到達しているか否かを判定する(ステップS17)。
【0116】
エンジン回転数が第2の回転数に到達していない場合(S17/no)、最大回生制動トルク設定部220は、エンジン回転数が第2の回転数に到達するまでステップS17の判定を繰り返す。
【0117】
一方、エンジン回転数が第2の回転数に到達している場合(S17/yes)、最大回生制動トルク設定部220は、最大回生制動トルクが0になっているか否かを判定する(ステップS19)。
【0118】
最大回生制動トルクが0になっていない場合(S19/no)、最大回生制動トルク設定部220は、減少する最大回生制動トルクの勾配の角度を大きくする。そして、回生制動トルクが0となり制動力の置き換えが終了した時点で、本実施形態に係る車両の制御装置100は制動力置換制御を終了する。
【0119】
一方、最大回生制動トルクが0になっている場合(S19/yes)、本実施形態に係る車両の制御装置100はそのまま制動力置換制御を終了する。
【0120】
なお、制動力置換制御中にドライバによりクラッチ機構40が切り離されることがある。この場合、エンジン20に対する駆動輪60の連結は解除されるため、もはやモータジェネレータ30の回生制御を行うことができない。
【0121】
このため、回生制動トルクは速やかにゼロにされ、車両1の要求制動トルクがそのまま目標油圧ブレーキトルクとなる。したがって、制動力置換制御中にドライバによりクラッチ機構40が切り離された場合、その時点で制御装置100は制動力置換制御を終了してよい。
【0122】
[1-5.制御装置の効果]
続いて、本実施形態に係る制御装置100の効果について説明する。
【0123】
本実施形態に係る車両の制御装置100によれば、制動力置換制御中、目標回生制動トルクは時間の経過とともに単調減少する。また、目標油圧ブレーキトルクは要求制動トルクと目標回生制動トルクとのトルクの差分を補うようにされる。
【0124】
それにより、本実施形態に係る車両の制御装置100は、車両減速時に、車両の制動トルクを回生制動トルクから油圧ブレーキトルクへ円滑に置き換えることができる。その結果、車両1の振動を抑制することができる。
【0125】
また、本実施形態に係る車両の制御装置100において、目標回生制動トルクは、時間の経過とともに直線状に減少する。このため、目標油圧ブレーキトルクも比較的単調に増加するようになり、車両1の振動を抑制する効果を向上させることができる。
【0126】
また、本実施形態に係る車両の制御装置100において、目標回生制動トルクは、エンジン回転数がアイドリング回転数に到達するよりも前に0となるように制御される。したがって、本実施形態に係る車両の制御装置100は、車両減速時に、エンジンストールを防ぐ確実性を向上することができる。
【0127】
また、本実施形態に係る車両の制御装置100において、エンジン回転数がアイドリング回転数に到達するまでに回生制動トルクが0とならないおそれがある場合、減少する最大回生制動トルクの勾配の角度は途中で大きくなるように変更される。
【0128】
それにより、エンジン回転数がアイドリング回転数に到達するよりも前に回生制動トルクが0となる確実性が一層向上する。したがって、本実施形態に係る車両の制御装置100は、エンジンストールを防ぐ確実性を一層向上することができる。
【0129】
<2.第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態に係る車両の制御装置について説明する。本実施形態に係る車両の制御装置は、第1の実施形態と比較して、制動力置換制御を開始するか否かを判定するエンジン回転数指標としてとして車速を使用する点で相違する。以下では、主として第1の実施形態の車両の制御装置と異なる点について説明する。
【0130】
[2-1.車両の全体構成]
まず、図7を参照して、本実施形態に係る車両の制御装置を適用可能な車両の全体構成例を説明する。図7は、車両の制御装置300を備えた車両2を示す模式図である。以下、パワーユニット11と制御装置300とに分けて、車両2の全体構成例を説明する。
【0131】
(2-1-1.パワーユニット)
車両2のパワーユニット11は、有段変速機構に代えて無段変速機構51(以下、「CVT」ともいう。)を有する自動変速機を備える。無段変速機構51はプライマリプーリ及びセカンダリプーリを有し、プライマリプーリはクラッチ機構41を介してモータジェネレータ30と連結される。また、セカンダリプーリはデファレンシャル機構を介して駆動輪60と連結される。
【0132】
無段変速機構51を備える場合、車両2の減速時に、プライマリプーリのプーリ径とセカンダリプーリのプーリ径との比率(プーリ比)を変更することにより、エンジン回転数を一定に保つことができる。このため、無段変速機構51を備える車両2では、減速時に、エンジン回転数を燃料噴射再開回転数以上に保つ制御が行われる場合がある。
【0133】
かかる場合、制動力置換制御を開始するか否かの判定を、エンジン回転数が低下して第1の回転数に到達したか否かに基づいて行うことは困難である。このため、本実施形態に係る制御装置300では、制動力置換制御を開始するか否かを判定するエンジン回転数指標として車速を使用する。
【0134】
なお、車両2の減速時に、無段変速機構51によってエンジン回転数を一定に保つことができなくなった場合(つまり、無段変速機構51のプーリ比が最大の値となった場合)、エンジン回転数は車速の低下に伴って低下する。
【0135】
クラッチ機構41は、モータジェネレータ30と無段変速機構51との締結状態を切り替え可能である。クラッチ機構41はトルクコンバータのロックアップクラッチに相当する。無段変速機構51及びクラッチ機構41以外のパワーユニット11の構成は、上述した車両1と同様である。
【0136】
(2-1-2.制御装置)
車両2の制御装置300は、エンジンコントローラ310及びブレーキコントローラ320を備える。エンジンコントローラ310には、ブレーキセンサ81、アクセルセンサ83、エンジン回転数センサ87及び車速センサ89が接続されている。
【0137】
車速センサ89は、車両2の車速を検出する。エンジンコントローラ310及びブレーキコントローラ320は、第1の実施形態におけるエンジンコントローラ110及びブレーキコントローラ120に相当する。
【0138】
制動力置換制御を開始するか否かを判定するエンジン回転数指標が車速になる点以外、制御装置300による基本的な制動力置換制御の動作は、上述した第1の実施形態と同様である。
【0139】
ただし、無段変速機構51を有する自動変速機を備える車両2では、車速が低下して、エンジン回転数を燃料噴射再開回転数以上に保つことが困難となり得る。このため、本実施形態に係る制御装置300は、エンジン20への燃料噴射が再開されるよりも前に回生制動トルクから油圧ブレーキトルクへの置き換えを終了する点で、第1の実施形態とは異なる。
【0140】
無段変速機構51を有する自動変速機を備える車両2では、車速が低下し、エンジン回転数を一定に保つことが困難になった場合、エンジンストールを防ぐために燃料噴射が再開される。このとき、エンジン20の出力トルクが駆動輪60に伝達されないようにクラッチ機構41の締結状態を解放する制御が行われることがある。クラッチ機構41の締結状態の解放時には、例えば、図示しないトランスミッションコントローラによりクラッチ解放フラグが生成される。
【0141】
この場合、駆動輪60の回転エネルギーを利用した回生効率は低下するために、ブレーキコントローラ320は、回生制動トルクを速やかにゼロにし、車両2の要求制動トルクをそのまま目標油圧ブレーキトルクとして設定する。
【0142】
また、クラッチ機構41の締結状態が解放される際に回生制動トルクが0となっていない場合、回生制動トルクが油圧ブレーキトルクに急激に切り替えられることがある。上述したように、回生制動トルクに比べて油圧ブレーキトルクの応答性及び追従性は劣る。このため、車両2の制動力が変動し、ドライバビリティに影響を与えるおそれがある。
【0143】
したがって、本実施形態において、ブレーキコントローラ320は、エンジン回転数が燃料噴射再開回転数に到達するよりも前に回生制動トルクから油圧ブレーキトルクへの置き換えを終了するように制御を行う。以下、このような制動力置換制御を実行可能とする制御装置300の具体例について説明する。
【0144】
[2-3.制御装置の具体例]
本実施形態に係る車両の制御装置300の具体例を説明する。図8は、図7に示したエンジンコントローラ310及びブレーキコントローラ320により構成される制御装置300のうち、制動力置換制御に関連する部分の機能構成を示す説明図である。
【0145】
制御装置300は、制御開始判定部410、最大回生制動トルク設定部420、回生制動トルク制御部430及び油圧ブレーキ制御部440を備える。制御装置300は、ブレーキセンサ81、アクセルセンサ83、エンジン回転数センサ87及び車速センサ89から出力される信号と、クラッチ解放状態の情報とを取得する。
【0146】
このうち、回生制動トルク制御部430及び油圧ブレーキ制御部440は、第1の実施形態に係る制御装置100の回生制動トルク制御部230及び油圧ブレーキ制御部240と同様に構成される。
【0147】
(制御開始判定部)
例えばエンジンコントローラ310が制御開始判定部410として機能する。本実施形態において、制御開始判定部410は、車両減速時に、車速センサ89より取得した車速があらかじめ設定された第1の速度に到達したか否かを判定する。車速が第1の速度に到達した場合、制御開始判定部410は、回生制動トルクから油圧ブレーキトルクへの制動力置換制御を開始すると判定する。
【0148】
上述したように、本実施形態において制動力置換処理は、エンジン20への燃料噴射の再開よりも前に終了することが好ましい。無段変速機構51を制御することによりエンジン回転数が燃料噴射再開回転数以上に保たれる本実施形態の場合、第1の速度は、プーリ比の調節によってもエンジン回転数を一定に保つことができずにエンジン回転数が低下して燃料噴射再開回転数に到達する時点における車速(以下、「燃料噴射再開時の車速」ともいう。)に、適宜のオフセット値を加えた速度であってよい。
【0149】
ただし、第1の速度が、燃料噴射再開時の車速よりも過度に大きい場合、燃費を悪化させることがないにもかかわらず、一部の回生制動トルクが油圧ブレーキトルクに置き換えられてしまい、回生効率が低下する。したがって、オフセット値は回生効率を考慮した上で決定されることが好ましい。
【0150】
(最大回生制動トルク設定部)
例えばエンジンコントローラ310が最大回生制動トルク設定部420として機能する。最大回生制動トルク設定部420は、上述した最大回生制動トルク設定部220と同様に最大回生制動トルクを設定する。
【0151】
上述したように、本実施形態において制動力の置き換え処理は、燃料噴射の再開よりも前に終了することが好ましい。このため、車速が、燃料噴射再開時の車速に到達するまでに最大回生制動トルクが0とならないと判断される場合、最大回生制動トルク設定部420は、最大回生制動トルクを減少させる勾配を大きくして、速やかに最大回生制動トルクを0にしてもよい。
【0152】
例えば、最大回生制動トルク設定部420は、車両2の車速があらかじめ設定された第2の速度に到達した際に最大回生制動トルクが0となっていない場合、勾配の角度が大きくなるように、最大回生制動トルクの減少率を上げてもよい。第2の速度は、例えば、燃料噴射再開時の車速に適宜のオフセット値を加えた速度であってよい。
【0153】
[2-4.制御装置の動作例]
(2-4-1.概略)
図9~10を参照して、制御装置300による車両2の制御方法の概略を説明する。図9~10は、本実施形態に係る車両の制御装置の動作例を示す説明図である。
【0154】
図9は、車両2が平坦路を走行している場合の制御装置300の動作例である。
時刻t30において、車速が上述した第1の速度vaに到達すると、制御開始判定部410は、回生制動トルクtrbから油圧ブレーキトルクtrcへの制動力置換制御を開始すると判定する。
【0155】
時刻t30以降において、最大回生制動トルク設定部420は、時刻t30の回生制動トルクtrbを最大回生制動トルクtraの初期値として設定するとともに、最大回生制動トルクtraを時間の経過とともに減少させる。図9に示した例では、最大回生制動トルクが直線状に減少する。
【0156】
最大回生制動トルクtraを減少させる際の勾配は、第1の実施形態と同様に、目標油圧ブレーキトルクに対して油圧ブレーキ62が追従可能な範囲内に設定されることが好ましい。
【0157】
併せて、最大回生制動トルクtraを減少させる際の勾配は、車両2が所定の条件下で走行中に、エンジン回転数が燃料噴射再開回転数nbに到達するよりも前に最大回生制動トルクtraが0となるように設定されてもよい。所定の条件は、第1の実施形態における条件と同様であってよい。
【0158】
時刻t30以降において、目標回生制動トルクの値は、最大回生制動トルクtraの値と一致し、時間の経過とともに直線状に減少する。これに伴って、目標油圧ブレーキトルクは時間の経過とともに直線状に増加する。したがって、回生制動トルクtrbは、時間の経過とともに直線状に減少し、油圧ブレーキトルクtrcは、時間の経過とともに直線状に増加する。
【0159】
その後、エンジン回転数が燃料噴射再開回転数nbに到達する時刻t33よりも前の時刻t31に回生制動トルクtrbが0となり、制動力置換制御が終了する。
【0160】
このように、本実施形態において回生制動トルクtrbは、時間の経過とともに直線状に減少する。また、油圧ブレーキトルクtrcは、要求制動トルクtreと回生制動トルクtrbとの差分を補うように時間の経過とともに直線状に増加する。
【0161】
それにより、回生制動トルクtrbと油圧ブレーキトルクtrcとの合計トルクtrdは一定となる。つまり、本実施形態に係る車両の制御装置300は、車両減速時に、車両2の制動トルクを回生制動トルクtrbから油圧ブレーキトルクtrcへと円滑に置き換えることができる。
【0162】
また、図9に示した例では、回生制動トルクtrbは、エンジン回転数が燃料噴射再開回転数nbに到達する時刻t33よりも前に0となっている。したがって、本実施形態に係る車両の制御装置300は、燃費の悪化及びドライバビリティの低下を防ぐ確実性を向上することができる。
【0163】
次に、図10を参照して、エンジン回転数が燃料噴射再開回転数に到達するまでに回生制動トルクが0とならないおそれがある場合を説明する。図10は、上り坂を走行している車両2における制御装置300の動作例である。図10に示す制御装置300の動作例において、車速の低下速度は図4に比べて速い。つまり、エンジン回転数が燃料噴射再開回転数に至るまでの時間は図4に比べて短い。
【0164】
図10に示す例において、車速が、上述した第2の速度vbに到達する時刻t32までの車両の制御装置300の動作は、上述した図9に示した動作と同様である。
【0165】
図10に示す例では、車両2の車速が第2の速度vb到達する時刻t32において、最大回生制動トルクtraが0となっていない。このような状況において、減少する最大回生制動トルクtraの勾配の角度を変更しない場合、エンジン回転数が燃料噴射再開回転数nbに到達する時刻t33よりも前に回生制動トルクtrbが0とならないおそれがある。
【0166】
このため、時刻t32において、最大回生制動トルク設定部420は、上述したように減少する最大回生制動トルクtraの勾配の角度を大きくする。
【0167】
その後、エンジン回転数が燃料噴射再開回転数nbに到達する時刻t33よりも前の時刻t31に回生制動トルクtrbが0となり、制動力置換制御が終了する。
【0168】
このように、図10に示した例では、エンジン回転数が燃料噴射再開回転数に到達するまでに回生制動トルクが0とならないおそれがある場合に、最大回生制動トルクtraを減少させる勾配の角度を途中で大きくする。
【0169】
それにより、回生制動トルクtrbはエンジン回転数が燃料噴射再開回転数nbに到達する時刻t33よりも前に0となる。したがって、本実施形態に係る車両の制御装置300は、燃費の悪化及びドライバビリティの低下を抑制する確実性を一層向上することができる。
【0170】
(2-4-2.フローチャート)
次に、図11を参照して、制御装置300による車両2の制御方法を説明する。図11は、本実施形態に係る車両の制御装置の動作例を示すフローチャートである。
【0171】
制御開始判定部410は、車両減速時に、車速センサ89より取得した車速が上述した第1の速度に到達したか否かを判定する(ステップS31)。
【0172】
車速が第1の速度に到達していない場合(S31/no)、制御開始判定部410は、制動力置換制御を開始しないと判定し、車速が第1の速度に到達するまでステップS31の判定を繰り返す。一方、車速が第1の速度に到達している場合(S31/yes)、制御開始判定部410は、制動力置換制御を開始すると判定する。
【0173】
制御開始判定部410が制動力置換制御を開始すると判定した場合、最大回生制動トルク設定部420は、上述したように最大回生制動トルクを時間の経過とともに減少させる(ステップS33)。最大回生制動トルク設定部420は、例えば最大回生制動トルクを直線状に減少させる
【0174】
次いで、回生制動トルク制御部430は、時間の経過とともに減少する最大回生制動トルクと各種センサの情報とに基づいて目標回生制動トルクを設定する。また、油圧ブレーキ制御部440は、要求制動トルクと目標回生制動トルクとに基づいて目標油圧ブレーキトルクを設定する(ステップS35)。
【0175】
目標回生制動トルクが最大回生制動トルクを上回る場合、目標回生制動トルクは直線状に減少する。これに伴って、要求制動トルクから目標回生制動トルクを引いて求められる目標油圧ブレーキトルクは、直線状に増加する。
【0176】
次いで、最大回生制動トルク設定部420は、車速が上述した第2の速度に到達しているか否かを判定する(ステップS37)。
【0177】
車速が第2の速度に到達していない場合(S37/no)、最大回生制動トルク設定部420は、車速が第2の速度に到達するまでステップS37の判定を繰り返す。一方、車速が第2の速度に到達している場合(S37/yes)、最大回生制動トルク設定部420は、最大回生制動トルクが0になっているか否かを判定する(ステップS39)。
【0178】
最大回生制動トルクが0になっていない場合(S39/no)、最大回生制動トルク設定部420は、減少する最大回生制動トルクの勾配の角度を大きくする。そして、回生制動トルクが0となり制動力の置き換えが終了した時点で、本実施形態に係る車両の制御装置300は制動力置換制御を終了する。
【0179】
一方、最大回生制動トルクが0になっている場合(S39/yes)、本実施形態に係る車両の制御装置300はそのまま制動力置換制御を終了する。
【0180】
なお、上記では無段変速機構51を有する自動変速機を備える車両2において制動力置換制御を開始するか否かを判定するエンジン回転数指標としてとして車速を使用する例を示したが、本実施形態は係る例に限定されない。
【0181】
例えば、第1の実施形態で例示したような有段変速機構50を備える車両1において制動力置換制御を開始するか否かを判定するエンジン回転数指標として車速を使用してもよい。
【0182】
[2-5.制御装置の効果]
本実施形態に係る制御装置300の効果について説明する。
【0183】
本実施形態に係る車両の制御装置300において、制動力置換制御を開始するか否かを判定するエンジン回転数指標としてとして車速が用いられる。このため、エンジン回転数を燃料噴射再開回転数以上に保つ制御が行われる車両2に対しても、制動力置換制御を適用することができ、第1の実施の形態に係る制御装置100と同様の効果を得ることができる。
【0184】
また、本実施形態に係る車両の制御装置300において、回生制動トルクはエンジン回転数が燃料噴射再開回転数に到達するよりも前に0となるように制御される。したがって、本実施形態に係る車両の制御装置300は、車両減速時に、燃費の悪化及びドライバビリティの低下を抑制する確実性を向上することができる。
【0185】
<3.むすび>
以上説明したように、本発明の実施形態に係る車両の制御装置は、燃料カット制御中に回生制動トルクを発生させた状態で、エンジン回転数に相関するエンジン回転数指標が所定の条件を満たしたときに、目標回生制動トルクを所定の勾配で減少させ、かつ、車両の要求制動トルクと目標回生制動トルクとの差分を目標油圧ブレーキトルクとして設定する。
【0186】
それにより、回生制動トルクが上下変動を伴いながら低下することがなくなって、回生制動トルクを油圧ブレーキトルクに円滑に置き換えることができる。
【0187】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、上記の実施形態を互いに組み合わせた態様も、当然に本発明の技術的範囲に属する。
【0188】
例えば、上記実施形態において車両の制御装置は2つのコントローラを備えているが、本発明はかかる例に限定されない。上記のコントローラの一部又は全部の機能が1つのコントローラに統合されていてもよく、さらに複数のコントローラに分かれていてもよい。また、2つのコントローラを互いに協調させて制御するさらに上位のコントローラが設けられていてもよい。
【0189】
また、例えば、上記実施形態においてモータジェネレータはスタータ及び制動装置としての機能を有するが、本発明はかかる例に限定されない。モータジェネレータは動力源としての機能をさらに有していてもよい。
【符号の説明】
【0190】
1,2・・・車両、10,11・・・パワーユニット、20・・・エンジン、30・・・モータジェネレータ、32・・・バッテリ、34・・・インバータ、40,41・・・クラッチ機構、50・・・有段変速機構、51・・・無段変速機構、60・・・駆動輪、62・・・油圧ブレーキ、70・・・液圧ユニット、81・・・ブレーキセンサ、83・・・アクセルセンサ、85・・・クラッチセンサ、87・・・エンジン回転数センサ、89・・・車速センサ、100,300・・・制御装置、110,310・・・エンジンコントローラ、120,320・・・ブレーキコントローラ、210,410・・・制御開始判定部、220,420・・・最大回生制動トルク設定部、230,430・・・回生制動トルク制御部、240,440・・・油圧ブレーキ制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11