(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】低減された色収差を有する多焦点レンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/06 20060101AFI20230209BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20230209BHJP
G02C 7/04 20060101ALI20230209BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20230209BHJP
A61F 2/16 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G02C7/06
G02C7/02
G02C7/04
G02B5/18
A61F2/16
(21)【出願番号】P 2021084767
(22)【出願日】2021-05-19
(62)【分割の表示】P 2019528732の分割
【原出願日】2017-11-16
【審査請求日】2021-05-19
(32)【優先日】2016-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ユーアイ リュ
(72)【発明者】
【氏名】シン ホン
(72)【発明者】
【氏名】ミョン-テク チェ
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-528718(JP,A)
【文献】特表2008-518281(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0140166(US,A1)
【文献】特開平04-254817(JP,A)
【文献】特開昭59-104622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面と;
後面と;
光学経路長内に光の波長以上および前記光の波長の2倍以下の少なくとも2つの異なるステップ高を有する複数のエシェレットを含む少なくとも1つの回折構造と、を含む多焦点眼科用レンズであって、前記少なくとも1つの回折構造は、前記前面および前記後面の少なくとも1つの上に存在し、
前記少なくとも1つの回折構造は、第0の回折次数を除いて、
第1の焦点距離に対応する第1の焦点の第1の回折次数、
前記第1の焦点距離とは異なる第2の焦点距離に対応する第2の焦点の第2の回折次数、並びに
前記第1の焦点距離および前記第2の焦点距離とは異なる第3の焦点距離に対応する第3の焦点の第3の回折次数、を提供
し、
2つの隣り合うエシェレットの物理的高さは異なる、多焦点眼科用レンズ。
【請求項2】
多色光の強度と距離との関係が単色光の強度と距離との関係と等価となるように、
少なくともベース曲面、円環、非球面、前記複数のエシェレットのアポダイゼーション及び単一の異なる物理的高さを有する一部分が開口部の回折構造の1つによって、色収差が低減される、請求項1に記載の多焦点眼科用レンズ。
【請求項3】
前記レンズは少なくとも1つのベース曲面を有する、請求項1に記載の多焦点眼科用レンズ。
【請求項4】
前記少なくとも1つの回折構造は前記前面内に取り込まれる、請求項1に記載の多焦点眼科用レンズ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの回折構造は前記後面内に取り込まれる、請求項1に記載の多焦点眼科用レンズ。
【請求項6】
次の材料、即ち、シリコーン、ヒドロゲル、及びアクリル樹脂の少なくとも1つによって形成される、請求項1に記載の多焦点眼科用レンズ。
【請求項7】
円形断面を有する、請求項1に記載の多焦点眼科用レンズ。
【請求項8】
非球面、環状体および/または双円錐形状を有する、請求項1に記載の多焦点眼科用レンズ。
【請求項9】
複数のゾーンをさらに含む請求項1に記載の多焦点眼科用レンズであって、前記複数のゾーンの各ゾーンが光軸に垂直な距離の異なる範囲に対応し、異なる前記各ゾーンが異なる回折構造を有する、多焦点眼科用レンズ。
【請求項10】
前記眼科用レンズは眼内レンズ、コンタクトレンズおよび眼鏡レンズから選択される、請求項1に記載の多焦点眼科用レンズ。
【請求項11】
前面と、後面と、光学経路長内に光の波長以上および前記光の波長の2倍以下の少なくとも2つの異なるステップ高を有する複数のエシェレットを含む少なくとも1つの回折構造であって、前記前面および前記後面の少なくとも1つの上に存在する少なくとも1つの回折構造とを含む眼科用レンズ、及び前記眼科用レンズに結合された複数の触覚、を含む多焦点眼科用装置であって、
前記少なくとも1つの回折構造は、第0の回折次数を除いて、
第1の焦点距離に対応する第1の焦点の第1の回折次数、
前記第1の焦点距離とは異なる第2の焦点距離に対応する第2の焦点の第2の回折次数、並びに
前記第1の焦点距離および前記第2の焦点距離とは異なる第3の焦点距離に対応する第3の焦点の第3の回折次数、を提供
し、
2つの隣り合うエシェレットの物理的高さは異なる、多焦点眼科用装置。
【請求項12】
前記少なくとも1つの回折構造は前記前面内に取り込まれる、
請求項11に記載の多焦点眼科用装置。
【請求項13】
前記少なくとも1つの回折構造は前記後面内に取り込まれる、
請求項11に記載の多焦点眼科用装置。
【請求項14】
複数のゾーンをさらに含む
請求項11に記載の多焦点眼科用装置であって、前記複数のゾーンの各ゾーンが光軸に垂直な距離の異なる範囲に対応し、異なる前記各ゾーンが異なる回折構造を有する、多焦点眼科用装置。
【請求項15】
少なくともベース曲面、円環
、非球面
、前記複数のエシェレットのアポダイゼーション及び単一の異なる物理的高さを有する一部分が開口部の回折構造の1つをさらに含
む、
請求項11に記載の多焦点眼科用装置。
【請求項16】
多焦点眼科用レンズを製造する方法であって、
波長に基づいて使用されるように構成された眼科用レンズを設計する工程を含んでおり、
設計される前記眼科用レンズは前面と後面と少なくとも1つの回折構造とを有し、
前記少なくとも1つの回折構造は、少なくとも2つの異なる初期ステップ高を有する複数のエシェレットを含み、前記前面および前記後面の少なくとも1つの上に存在しており、
前記少なくとも1つの回折構造は、第0の回折次数を除いて、
第1の焦点距離に対応する第1の焦点の第1の回折次数、
前記第1の焦点距離とは異なる第2の焦点距離に対応する第2の焦点の第2の回折次数、並びに
前記第1の焦点距離および前記第2の焦点距離とは異なる第3の焦点距離に対応する第3の焦点の第3の回折次数、を提供するものであり、
該方法はさらに、
少なくとも2つの最終ステップ高を提供するために、前記少なくとも2つの初期ステップ高に1波長を加算する工程と、
前記少なくとも1つの回折構造のための前記少なくとも2つの最終ステップ高を用いて前記眼科用レンズを製造する工程と、
を含
み、
2つの隣り合うエシェレットの物理的高さは異なる、多焦点眼科用レンズを製造する方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つの回折構造は前記前面内に取り込まれる、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの回折構造は前記後面内に取り込まれる、
請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記眼科用レンズが複数のゾーンをさらに含んでおり、前記複数のゾーンの各ゾーンが光軸に垂直な距離の異なる範囲に対応し、異なる前記各ゾーンが異なる回折構造を有する、
請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般的には眼科用レンズに関し、具体的には低減された色収差を有する多焦点眼科用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼内レンズ(IOL:intraocular lens)は、患者の水晶体を交換するため、または患者の水晶体を補完するためのいずれかで患者の眼に埋め込まれる。IOLは白内障手術中に患者の水晶体の代わりに埋め込まれ得る。代替的に、IOLは患者自身の水晶体の屈折力を強化するために患者の眼に埋め込まれ得る。
【0003】
いくつかの従来のIOLは単一焦点長IOLであり、一方、他のものは多焦点IOLである。単一焦点長IOLは単一焦点長すなわち単一度数を有する。眼/IOLからの焦点長における対象物は焦点が合い、一方、より近くの対象物またはより離れた対象物は焦点が合わないことがある。対象物は焦点長においてだけ完全に焦点が合うが、被写界深度内(焦点長の特定距離内)の対象物は依然として、患者が対象物の焦点が合っていると考える得る程度に焦点が合う。一方、多焦点IOLは少なくとも2つの焦点長を有する。例えば、二焦点IOLは、2つの領域内の焦点を改善するために2つの焦点長(すなわち、長い焦点長に対応する遠焦点および短い焦点長に対応する近焦点)を有する。このようにして、患者の遠方視および近方視が改善され得る。従来の回折二焦点IOLは通常、遠焦点/遠方視用に第0の回折次数をそして近焦点/近方視用に第1の回折次数を使用する。三焦点IOLは3つの焦点(すなわち遠方視のための遠焦点、近方視のための近焦点、および近焦点の焦点長と遠焦点の焦点長との間の中間焦点長を有する中間視のための中間焦点)を有する。従来の回折三焦点IOLは通常、遠方視のための第0の回折次数、中間視のための第1の回折次数、および近方視のための第2の回折次数を使用する。多焦点IOLは、遠方対象物およびすぐ近くの対象物に合焦する患者の能力を改善し得る。別の言い方をすると、患者の焦点深度が強化され得る。
【0004】
多焦点レンズは老眼などの状態に対処するために使用され得るが、欠点がある。多焦点IOLはまた縦色収差に悩まされ得る。光の様々な色は様々な波長としたがって様々な焦点とを有する。その結果、多焦点IOLは、様々な色の光を水晶体からの様々な距離に合焦する。多焦点IOLは、様々な色の光を患者の網膜に合焦することができない可能性がある。多焦点IOLの多色像コントラストは、特に遠方視に関して、悪影響を受けることがある。
【0005】
したがって、必要とされるものは、多焦点IOLにおける色収差に対処するためのシステムおよび方法である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本方法およびシステムは多焦点眼科用装置を提供する。眼科用レンズは、前面、後面、および複数のエシェレットを含む少なくとも1つの回折構造を有する。エシェレットは、光学経路長内に少なくとも1波長および2波長以下の少なくとも1つのステップ高を有する。回折構造が前面および後面のうちの少なくとも1つの上に存在する。回折構造は眼科用レンズの複数の焦点長を提供する。
【0007】
多焦点レンズは、上述の回折構造を有し、低減された色収差を有し得る。その結果、像の質が改善され得る。
【0008】
本開示およびその利点をより完全に理解するために、添付図面と併せて以下の説明が次に参照される。同様な参照符号は同様な特徴を示す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A-B】低減された色収差を有し得る多焦点眼科用装置の例示的実施形態の平面図および側面図を描写する。
【
図2】低減された色収差を有し得る眼科用装置の二焦点レンズの回折構造の例示的実施形態の側面図を描写する。
【
図3A-B】低減された色収差を有し得る二焦点レンズおよび色収差低減を考慮することなく作られたレンズの強度対距離の例示的実施形態を描写する。
【
図4】低減された色収差を有し得る眼科用装置の三焦点レンズの回折構造の例示的実施形態の側面図を描写する。
【
図5A-B】低減された色収差を有し得る三焦点レンズおよび色収差低減を考慮することなく作られたレンズの強度対距離の例示的実施形態を描写する。
【
図6】低減された色収差を有し得る眼科用装置の四焦点レンズの回折構造の例示的実施形態の側面図を描写する。
【
図7A-B】低減された色収差を有し得る四焦点レンズおよび色収差低減を考慮することなく作られたレンズの強度対距離の例示的実施形態を描写する。
【
図8】低減された色収差を有し得る眼科用装置の多焦点回折レンズの別の例示的実施形態の側面図を描写する。
【
図9】低減された色収差を有し得る眼科用装置を製作する方法の例示的実施形態を描写するフローチャートである。
【
図10】低減された色収差を有し得る多焦点レンズを含む眼科用装置を利用する方法の例示的実施形態を描写するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
例示的実施形態は、IOLおよびコンタクトレンズなどの眼科用装置に関係する。以下の説明は、当業者が本発明をなし得るようにそして使用できるようにするために提示され、特許出願とその要件に関連して提供される。本明細書で説明される例示的実施形態および一般的原理および特徴に対する様々な修正は容易に明らかになる。例示的実施形態は、特定実施形態において提供される特定方法およびシステムの観点で主として説明される。しかし、本方法およびシステムは、他の実施形態において効果的に動作することになる。例えば、本方法およびシステムは主としてIOLの観点で説明される。しかし、本方法およびシステムはコンタクトレンズおよび眼鏡レンズと共に使用され得る。「例示的実施形態」、「一実施形態」、および「別の実施形態」などの語句は複数の実施形態だけでなく同じまたは異なる実施形態も指し得る。本実施形態は、いくつかの部品を有するシステムおよび/または装置に関して説明されることになる。しかし、本システムおよび/または装置は示されたものより多いまたは少ない部品を含み得、部品の配置およびタイプの変形は本発明の範囲から逸脱することなくなされ得る。例示的実施形態はまた、いくつかの工程を有する特定方法に関連して説明されることになる。しかし、本方法およびシステムは、異なるおよび/または追加の工程、および例示的実施形態と矛盾しない異なる順番の工程を有する他の方法に関し効果的に動作する。したがって、本発明は、示された実施形態に限定されるように意図されていないが、本明細書に記載の原理および特徴に整合する最も広い範囲を与えられるようになっている。
【0011】
本方法およびシステムは多焦点眼科用装置を提供する。この眼科用装置は、波長に基づき使用されるように構成された眼科用レンズを含む。眼科用レンズは、前面、後面、および複数のエシェレットを含む少なくとも1つの回折構造を有する。エシェレットは、光学経路長内に、少なくとも1波長および2波長以下の少なくとも1つのステップ高を有する。回折構造が前面および後面のうちの少なくとも1つの上に存在する。回折構造は眼科用レンズの複数の焦点長を提供する。
【0012】
図1A~1BはIOLとして使用され得る眼科用装置100の例示的実施形態を描写する。
図1Aは眼科用装置100の平面図を描写し、一方、
図1Bは眼科用レンズ110の側面図を描写する。明確にするために、
図1A、1Bは原寸に比例しておらず、一部特徴だけが示される。眼科用装置100は眼科用レンズ110(以下「レンズ」)および触覚102、104を含む。レンズ110は、限定しないが1つまたは複数のシリコーン、ヒドロゲル、アクリル樹脂、AcrySof(登録商標)を含む多様な光学物質で作られ得る。触覚102、104は眼科用装置100を患者の眼(明示せず)内の適所に保持するために使用される。しかし、他の実施形態では、他の機構が眼科用装置を眼内の適切な位置に保持するために使用される可能性がある。したがって、触覚102および/または104は省略され得る。明確にするために、触覚は残りの添付図面では描写されない。レンズ110は
図1の平面図では円形断面を有するものとして描写されるが、他の実施形態では他の形状が使用され得る。さらに、IOLに関連して説明されるが、レンズ110はコンタクトレンズであり得る。このような場合、触覚102は省略され、レンズ110は寸法決めされ、そうでなければ眼の表面上に留まるように構成されるであろう。
【0013】
レンズ110は多焦点レンズである。レンズ110は前面112、後面114、および光軸116を有する。レンズはまた、回折構造120およびベース曲面124により特徴付けられる。レンズ110は、ベース度数、非点収差矯正、および/または他の視力矯正を提供するように判断される。レンズ110は、非球面、環状体および/または双円錐であり、表面112、114上の同じまたは異なるベース曲面、および/または簡単のために図示しないまたは詳細に論述されない他の特徴を有する。1つの回折構造120が前面112上に示されるが、回折構造120は後面114上に配置される可能性がある。さらに他の実施形態では、回折構造は前面112および後面114上に配置され得る。このような回折構造は同じであってもよいし異なってもよい。回折構造120は部分的開口回折構造であってもよいがそうである必要はない。このような実施形態では、ベース回折力を中和するために屈折力補償器が回折ゾーン内のベース曲面124に取り込まれ得る。
【0014】
レンズ110は、光軸116に垂直な距離の様々な範囲(すなわち様々な半径)に対応するゾーン111を有し得る。ゾーン111は、光軸116からの最小半径から最大半径までの面に沿った円または環状リングである。回折構造120および/またはベース曲面124は異なるゾーン内では異なり得る。例えば、いくつかの実施形態では、回折構造120はフレネル回折レンズ判断基準により設定されるゾーンのリング径を有し得る。代替的に、他の判断基準が使用され得る。他の実施形態では、これらの特徴の一方または両方はゾーン間で変化しない可能性がある。例えば、ベース曲面は前面112全体にわたって一貫し得るが、一方、回折構造120は様々なゾーン111で変化する。回折構造120は、以下に述べるように複数の焦点を生じる様々な回折次数を使用し得る。
【0015】
回折構造120は複数の焦点長を提供する。いくつかの実施形態では、例えば、回折構造120は二焦点(近方視および遠方視のための2つの焦点長)レンズ110を提供するために使用される。他の実施形態では、回折構造120は三焦点(近方視、中間視および遠方視のための3つの焦点長)レンズ110を提供し得る。四焦点または他の多焦点レンズも提供される可能性がある。回折構造120は特定波長用に構成される。例えば、回折構造120の異なるゾーン111は異なる波長の光用に構成され得る。代替的に、回折構造120は単一波長の光用に設計され得る。より多くのゾーンが無ければ、このような構造は色収差に悩まされるであろう。
【0016】
回折構造120はエシェレット122と称されるステップを含み、これらから形成される。
図1Bで分かるように、エシェレット122の物理的高さは変化し得る。他の実施形態では、エシェレット122の物理的高さは一定であり得る。エシェレット122とエシェレット122の他の特徴との間の間隔はまた、同じままであってもよく、またはレンズ110全体にわたって変化してもよい。エシェレット122の光学的ステップ高は、レンズ110の屈折率とレンズ110が使用される周囲媒体の屈折率との差を乗じた物理的高さ(
図1Bに示す)である。
【0017】
エシェレット122の光学的ステップ高は光の波長以上および光の波長の2倍以下であり得る。換言すれば、λ≦Δn・h≦2λ、ここで、hはエシェレット122の物理的高さであり、λは回折構造120の適切な領域が構成される光の波長であり、Δnは上述の屈折率の差である。いくつかの実施形態では、λ<Δn・h<2λ。エシェレット122はまた、アポダイズされ得る(低減されたステップ高を有し得る)。但し、このようなアポダイズされたエシェレット122の最小ステップ高は依然としてλである。この範囲内のステップ高を利用することで、第0の回折次数をレンズ110内の使用から排除する。
【0018】
いくつかの実施形態では、例えば、回折構造120は二焦点(近方視および遠方視の2つの焦点長)レンズ110を提供するために使用される。二焦点レンズ110は第1の回折次数および第2の回折次数を利用し得る。いくつかの実施形態では、第1の回折次数は遠方視用に利用され、一方第2の回折次数は近方視用に使用される。他の実施形態では、回折構造120は三焦点(近方視、中間視および遠方視の3つの焦点長)レンズ110を提供し得る。三焦点レンズ110は第1の回折次数、第2の回折次数および第3の回折次数を利用し得る。いくつかの実施形態では、第1の回折次数は遠方視用に使用され、第2の回折次数は中間視用に使用され、第3の回折次数は近方視用に使用される。他の実施形態では、回折構造120は四焦点レンズ110用に構成される。このような四焦点レンズ110は、第1の回折次数、第2の回折次数、第3の回折次数および第4の回折次数を利用し得る。いくつかの実施形態では、第1の回折次数は遠方視用に使用され、第2の回折次数は空きであり得、第3の回折次数は中間視用に使用され、第4の回折次数は近方視用に使用される。他の実施形態では、第1の回折次数は遠方視用に使用され、第2の回折次数は中間視用に使用され、第3の回折次数は空きであり得、第4の回折次数は近方視用に使用される。他の実施形態では、様々な回折次数が様々な焦点範囲に使用され得る。しかし、第0の次数は排除される。
【0019】
レンズ110は多焦点レンズの利点を維持する一方で改善された性能を有し得る。レンズ110は多焦点レンズであるので、眼科用装置100は老眼などの状態を治療するために使用され得る。他の状態が治療され得、レンズ110の性能は、レンズ110のベース曲面124、非球面、円環、エシェレット122のアポダイゼーション、およびレンズの他の特徴の使用により改善され得る。加えて、レンズ110は低減された色収差を有し得る。第0の回折次数(例えば、少なくとも光の波長に等しくかつ光の波長の2倍以下であるステップ高を有する)を排除するエシェレット122の構成は縦色収差を低減し得る。いくつかの実施形態では、色収差は著しく低減され得る。したがって、多色または白色光像コントラストは、多焦点レンズ110の遠方視、近方視および/または中間視用に改善され得る。こうして、レンズ110および眼科用装置100の性能は強化され得る。
【0020】
眼科用レンズ110の利点は特定二焦点、三焦点および四焦点実施形態に関しより良く理解され得る。
図2は、二焦点回折レンズ110において使用され得る回折構造130の別の例示的実施形態の側面図を描写する。
図3A、3Bは、回折構造130で作られた低減色収差二焦点レンズ110および色収差低減を考慮することなく作られた二焦点回折レンズの強度対距離の例示的実施形態をそれぞれ描写するグラフ140、150である。
図2~3Bを参照すると、回折構造130は回折構造120に代わり得る。回折構造130は、ベース曲面が除去されて示される。
図2~3Bは、原寸に比例しておらず、説明の目的のためだけのものである。
【0021】
回折構造130は、単一物理的高さhを有するエシェレット132を有する。この物理的高さはレンズ110の単一ステップ高に対応する。
図2に示すように、ステップ高は、回折構造130が構成される波長以上でありかつ回折構造130が構成される波長の2倍以下である(λ≦Δn・h≦2λ)。いくつかの実施形態では、λ<Δn・h<2λ。したがって回折構造130は第0の次数を省略する。
【0022】
図3Aは、回折構造130を使用した二焦点レンズの2つの波長の強度対距離を描写するグラフ140である。緑色光の強度対距離は破線曲線142により示され、一方、多色光の強度対距離は曲線144により示される。
図3Bは、色収差低減を考慮しない二焦点レンズの2つの波長の強度対距離を描写するグラフ150である。緑色光の強度対距離は破線曲線152により示され、一方、多色光の強度対距離は曲線154により示される。グラフ140、150間の比較により分かるように、曲線142、144のピークは曲線152、154のピークより著しく密に一致する。回折構造130は、異なる波長を有する光を同じに近い距離に合焦する。こうして回折構造130の色収差は低減された。
【0023】
図4は、三焦点回折レンズ110において使用され得る回折構造130’の別の例示的実施形態の側面図を描写する。
図5A、5Bは、回折構造130’により作られた低減色収差三焦点レンズ110および色収差低減を考慮することなく作られた三焦点回折レンズの強度対距離の例示的実施形態をそれぞれ描写するグラフ140’、150’である。したがって回折構造130’は第0の次数を省略する。
図4~5Bを参照すると、回折構造130’は回折構造120に代わり得る。回折構造130’は、ベース曲面が除去されて示される。
図4~5Bは、原寸に比例しておらず、説明の目的のためだけのものである。
【0024】
回折構造130’は、2つの異なる物理的高さh1、h2を有するエシェレット132’を有する。これらの物理的高さはレンズ110の2つのステップ高(h1≠h2)に対応する。
図4に示すように、ステップ高は、回折構造130’が構成される波長以上でありかつ回折構造130が構成される波長の2倍以下である(λ≦Δn・h1≦2λ、λ≦Δn・h2≦2λ)。いくつかの実施形態では、λ<Δn・h1<2λ、λ<Δn・h2<2λ。したがって回折構造130’は第0の次数を省略する。
【0025】
図5Aは、回折構造130’を使用する三焦点レンズの緑色光(破線曲線142’)および多色光(曲線144’)の強度対距離を描写するグラフ140’である。
図3Bは、色収差低減を考慮しない三焦点レンズの緑色光(破線152’)および多色光(曲線154’)の強度対距離を描写するグラフ150’である。グラフ140’、150’間の比較により分かるように、曲線142’、144’のピークは曲線152’、154’のピークより良好に一致する。したがって、様々な波長を有する光は同じに近い距離に合焦される。こうして回折構造130’の色収差は低減された。
【0026】
図6は、四焦点回折レンズ110において使用され得る回折構造130’’の別の例示的実施形態の側面図を描写する。
図7A、7Bは、回折構造130’’により作られた低減色収差四焦点レンズ110および色収差低減を考慮することなく作られた四焦点回折レンズの強度対距離の例示的実施形態をそれぞれ描写するグラフ140’’、150’’である。
図6~7Bを参照すると、回折構造130’’は回折構造120に代わり得る。回折構造130’’はベース曲面が除去されて示される。
図6~7Bは、原寸に比例しておらず、説明の目的のためだけのものである。
【0027】
回折構造130’’は、3つの異なる物理的高さ、h1’、h2’、h3を有するエシェレット132’’を有する。これらの物理的高さはレンズ110の3つの異なるステップ高(h1’≠h2’,h1’≠h3,h2’≠h3)に対応する。
図6に示すように、ステップ高は、回折構造130’’が構成される波長以上でありかつ回折構造130が構成される波長の2倍以下である(λ≦Δn・h1’≦2λ、λ≦Δn・h2’≦2λ、λ≦Δn・h3≦2λ)。いくつかの実施形態では、λ<Δn・h1’<2λ、λ<Δn・h2’<2λ、λ<Δn・h3<2λ。したがって回折構造130’’は第0の次数を省略する。
【0028】
図7Aは、回折構造130’’を使用する四焦点レンズの緑色光(破線曲線142’’)および多色光(曲線144’’)の強度対距離を描写するグラフ140’’である。
図7Bは、色収差低減を考慮しない四焦点レンズの緑色光(破線曲線152’’)および多色光(曲線154’’)の強度対距離を描写するグラフ150’’ある。グラフ140’’、150’’間の比較により分かるように、曲線142’’、144’’のピークは曲線152’’、154’’のピークより密に一致する。したがって、回折構造130’’は、異なる波長を有する光を同じに近い距離に合焦する。こうして回折構造130’’の色収差は低減された。
【0029】
回折構造130、130’および/または130’’を使用する二焦点、三焦点および/または四焦点レンズは改善された性能を有し得る。このようなレンズは、複数の焦点長と、患者の視力の治療を改善し得るとともに視覚的アーティファクトを低減し得る他の特徴とを有し得る。加えて、第0の回折次数を排除するための(例えば、少なくとも光の波長に等しくかつ光の波長の2倍以下であるステップ高を有する)エシェレット132、132’および/または132’’の構成は低減された縦色収差を有し得る。いくつかの実施形態では、色収差は著しく低減され得る。したがって、多色または白色光像コントラストは、回折構造130、130’および/または130’’の遠方視、近方視および/または中間視用に改善され得る。したがって、回折構造130、130’および/または130’’を使用して作られるレンズおよび眼科用装置の性能は強化され得る。
【0030】
図8は、低減された色収差を有し得るレンズ170の別の例示的実施形態の一部の側面図を描写する。
図8は、原寸に比例しておらず、説明の目的のためだけのものである。レンズ170は部分的開口回折構造である回折構造172を有する。このような実施形態では、ベース回折力を中和するために屈折力補償器が回折ゾーン内のベース曲面に取り込まれ得る。回折構造172は、単一の異なる物理的高さを有するエシェレットを有する。他の実施形態では、複数の物理的高さが使用され得る。物理的高さはレンズのステップ高に対応する。ステップ高は、回折構造170が構成される波長以上でありかつ回折構造170が構成される波長の2倍以下である。したがって部分的開口回折構造170は第0の次数を省略する。したがって、レンズ170は上に説明したように改善された性能を有し得る。
【0031】
図9は、低減された色収差を有する多焦点回折レンズを提供する方法200の例示的実施形態である。簡単のために、いくつかの工程は省略され得る、交互配置され得る、および/または組み合わせられ得る。方法200はまた、眼科用装置100、レンズ110および回折構造120に関連して説明される。しかし、方法200は1つまたは複数の他の回折構造130’および/または130’’および/または類似眼科用装置と共に使用され得る。
【0032】
レンズ110の回折構造であって色収差低減を考慮しない回折構造が、工程202を介し設計される。工程202は、ゾーンサイズおよび特徴、エシェレットの初期ステップ高、および回折構造の他の特徴を規定する工程を含み得る。これは通常、波長未満であるステップ高を有する回折構造を生じる。
【0033】
特定量が工程204を介しエシェレット毎にステップ高に加算される。工程204は通常、波長を各ステップ高へ加算する工程を含む。加算される量にかかわらず、その結果の最終ステップ高は少なくとも1波長および2波長以下である。代替的に、工程204は回折構造から第0の回折次数を除去するための別の機構を含み得る。こうして、回折構造120のステップ高が判断される。
【0034】
レンズ110は工程206を介し製作される。こうして、少なくとも1波長程度および2波長以下であるステップ高を有する所望の回折構造120が提供され得る。回折構造130、130’、130’’および/または類似回折構造が提供され、その利点が実現され得る。
【0035】
図10は、患者の眼状態を治療するための方法210の例示的実施形態である。簡単のために、いくつかの工程は省略され得る、交互配置され得る、および/または組み合わせられ得る。方法210はまた、眼科用装置100および眼科用レンズ110を使用することに関連して説明される。しかし、方法210は、1つまたは複数の回折構造130、130’、130’’および/または類似回折構造と共に使用され得る。
【0036】
患者の眼内への埋め込みのための眼科用装置100が工程212を介し選択される。眼科用装置100は、低減された色収差を有する回折構造120を有する眼科用レンズ110を含む。したがって、回折構造120、130、130’、130’’および/または類似回折構造を有するレンズが使用のために選択され得る。
【0037】
眼科用装置100は工程204を介し患者の眼内に埋め込まれる。工程204は、患者自身の水晶体を眼科用装置100で置換する工程または患者の水晶体を眼科用装置で強化する工程を含み得る。次に、患者の治療が完了され得る。いくつかの実施形態では、別の類似眼科用装置の患者の他の眼内への埋め込みが行われ得る。
【0038】
方法200を使用することにより、回折構造120、130、130’、130’’および/または類似回折構造は使用され得る。こうして、眼科用レンズ110、110’、110’’および/または110’’’のうちの1つまたは複数のレンズの利点が実現され得る。
【0039】
眼科用装置を提供するための方法およびシステムが説明された。本方法およびシステムは示された例示的実施形態に従って説明された。当業者は、実施形態に対する変形形態があり得るということと、いかなる変形形態も本方法およびシステムの精神、範囲内に入るであろうということとを容易に認識することになる。したがって、添付された請求項の精神および範囲から逸脱することなく多くの修正が当業者によりなされ得る。