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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】選択的A2A受容体アンタゴニスト
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/14 20060101AFI20230209BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20230209BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230209BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20230209BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230209BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230209BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230209BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230209BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230209BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20230209BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230209BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
C07D487/14 CSP
A61K31/519
A61P1/16
A61P1/18
A61P11/00
A61P13/12
A61P17/00
A61P31/00
A61P35/00
A61P35/04
A61P37/04
A61P43/00 105
A61P43/00 111
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021517888
(86)(22)【出願日】2019-06-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 CN2019089773
(87)【国際公開番号】W WO2019233366
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-02-03
(31)【優先権主張番号】201810561964.1
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520478758
【氏名又は名称】インクスメッド(ナンジン)カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】InxMed (Nanjing) Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】3/F, Building D-2, Building 16, Shuwu, No. 73, Tanmi Road, Jiangbei New District, Nanjing, Jiangsu 210061, China
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ザァイチィ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,リフゥ
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-511654(JP,A)
【文献】国際公開第95/001356(WO,A1)
【文献】特表2003-535094(JP,A)
【文献】特表2004-517861(JP,A)
【文献】Pier Giovanni Baraldi et al.,7-Substituted 5-Amino-2-(2-furyl)pyrazolo[4,3-e]-1,2,4-triazolo[1,5-c]pyrimidines as A2A Adenosine Receptor Antagonista: A Study on the Importance of Modifications at the Side Chain on the Activity and Solubility,J. Med. Chem.,2002年,vol.45, no.1,pp.115-126
【文献】Unmesh Shah et al.,Biaryl and heteroaryl derivatives of SCH 58261 as potent and selective adenosine A2A receptor antagonists,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2008年,vol.18, no.14,pp.4199-4203
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 487/00
A61K 31/33
A61P 1/00
A61P 11/00
A61P 13/00
A61P 17/00
A61P 31/00
A61P 35/00
A61P 37/00
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)の化合物、又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、若しくは薬学的に許容される塩。
【化10】
ただし、
n=1であり、
m=1又は2であり、
Aが炭素原子であり、
Xが-RCOORであり、
が直接結合又はC1-4アルキレン、
がH又はC1-4アルキルである。
【請求項2】
が直接結合であり、
がH、メチル、エチル又はプロピルである、請求項1に記載の一般式(I)の化合物、又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、若しくは薬学的に許容される塩。
【請求項3】
がH、メチル又はエチルである、請求項1又は2に記載の一般式(I)の化合物、又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、若しくは薬学的に許容される塩。
【請求項4】
Xが-COOHである、請求項1又は2に記載の一般式(I)の化合物、又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、若しくは薬学的に許容される塩。
【請求項5】
m=1である、請求項1又は2に記載の一般式(I)の化合物、又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、若しくは薬学的に許容される塩。
【請求項6】
前記一般式(I)の化合物が下記の化合物の一つである、請求項1に記載の一般式(I)の化合物、又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、若しくは薬学的に許容される塩。
【化11】
【請求項7】
請求項1、2及び6の何れか1項に記載の化合物又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、若しくは薬学的に許容される塩と
薬学的に許容される担体又は賦形剤と、を含む医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物は、経口医薬組成物である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
2A受容体関連疾患の治療及び予防のための医薬品の製造における、請求項1、2及び6の何れか1項に記載の化合物又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、若しくは薬学的に許容される塩の使用。
【請求項10】
前記疾患は、腫瘍、腫瘍転移、臓器線維症、又は感染症である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記臓器線維症は、肝臓、腎臓、膵臓、皮膚および肺の線維症から選ばれ、
前記腫瘍は、メラノーマであり、
前記腫瘍転移は、メラノーマ転移である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記医薬品は、経口医薬品及び/又は腫瘍免疫療法薬である、請求項9に記載の使用。
【請求項13】
SCH-58261分子のベンゼン環に1又は2個の置換基Xを導入することを含む、化合物SCH-58261の経口バイオアベイラビリティを向上させる、及び/又はその半減期を延長させる方法であって、
前記置換基Xが-RCOORであり、
ただし、
が直接結合又はC1-2アルキレンであり、
がH又はC1-4アルキルである、方法。
【請求項14】
SCH-58261分子のベンゼン環に1又は2個の置換基Xを導入することを含む、経口投与用A2A受容体アンタゴニストを製造する方法であって、
前記置換基Xが-RCOORであり、
ただし、
が直接結合又はC1-2アルキレンであり、
がH又はC1-4アルキルである、方法。
【請求項15】
前記置換基Xが-COOH、-COOCH又は-COOCである、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記置換基Xの数が1であり、且つ前記置換基Xが-COOHであり、前記ベンゼン環のパラ位又はメタ位にある、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項17】
前記置換基Xが前記ベンゼン環のパラ位にある、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小分子薬物の分野に関し、より具体的には、選択的A2A受容体アンタゴニスト、ならびに疾患の治療および製薬におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノシンA2A受容体(A2Aと略称される)は、今までに知られている4つのアデノシン受容体のA、A2A、A2BおよびAのうちの1つであり、大脳基底核、脈管系、脾臓、胸腺、白血球、血小板、冠動脈、および脳線条体には高いレベルで発現される。A2Aは、心筋血流を調節し、冠動脈循環を増加させる機能を有するとともに、免疫細胞を抑制し、免疫応答を調節することができる。アデノシンは、A2A受容体への作用を介して、肝臓、肺、皮膚などの臓器の線維症を起こす。A2Aは、脳においてグルタミン酸やドーパミンの放出を調節する重要な作用を有するため、パーキンソン病などの疾患を治療するための重要な標的となっている。近年の研究でも、A2Aは腫瘍免疫療法における重要性がさらに検証されており、腫瘍免疫療法の重要な標的となっている。
【0003】
2A受容体アンタゴニストにはパーキンソン病を治療する機能および可能性を有すると考えられている。また、A2A受容体アンタゴニストには、炎症、癌、線維症、虚血再灌流障害、鎌状赤血球症、糖尿病性腎症、感染症、認知障害および他の無中枢神経系障害、ならびに運動行動関連疾患などを治療できる可能性を有すると考えられている。
【0004】
受容体は種類により機能が違いため、A2A受容体に対する選択性の高いA2A受容体アンタゴニストは、比較的に副作用が低く、近年、パーキンソン病や腫瘍などの疾患の医学研究において注目されている。
【0005】
SCH-58261は、非キサンチン系の強力な高選択的A2A受容体アンタゴニストであり、ヒトA2Aへの選択性がアデノシン受容体Aへの45倍、アデノシン受容体A2Bへの581倍、アデノシン受容体Aへの16倍であるように、ヒトA2Aに対するアンタゴニスト活性が高い(Ki値は4nMと低い)(参照文献1:Yang et al.,Naunyn-Schmiedeberg’s Arch Pharmacol(2007) 375:133-144を参照)と考えられている。
【0006】
SCH-58261の構造は以下の通りである。
【0007】
【化1】
優れたインビトロ活性を有しながら、様々な動物モデルにおいて薬理学的効果を有することが実証されているにもかかわらず、重要な理由として、経口投与後にほとんどバイオアベイラビリティを有しないから、SCH-58261は、医薬品としてさらなる開発が進められていない。その薬理的効果は、腹腔内注射によって得られる。SCH-58261は、腹腔内投与後の血漿中濃度が高いが、脳内濃度が比較的に低く、脳内へのアクセスが困難であることが示唆された(Yang et al.,2007)。
【0008】
SCH-58261は、経口投与でほとんど吸収されないという欠点に加えて、静脈内投与後に速やかに除去され、ラット血中での半減期が僅か26.7分に過ぎない(Yang et al.,2007)。SCH-58261はA2A受容体の阻害効果と選択性に極めて優れているが、経口投与によるバイオアベイラビリティを有しないことや血漿半減期の短さによって、製薬におけるその使用が制限される。
【0009】
Preladenant(SCH 420814)は、経口投与可能な強力な高選択的A2A受容体アンタゴニストであり、その構造は以下の通りである。
【0010】
【化2】
Preladenantは、経口投与後の血漿中濃度及びバイオアベイラビリティ、並びに静脈内投与後の半減期の何れにおいてもSCH-58261よりも有意に優れているが、やはり1日に少なくとも2回の投与を必要とする上に、パーキンソン病を治療するための第III相臨床試験で失敗した (参考文献2:de Lera Ruiz et al.,2014を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本技術分野において、経口投与でバイオアベイラビリティが高く、排泄半減期が長く、且つA2Aに対して高いアンタゴニスト効力及び高い選択性を有するA2A受容体アンタゴニストの開発が緊急に必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明者らは、経口投与後にバイオアベイラビリティが高く、半減期が延長され、肝臓における血中濃度が高いが脳への透過がないため、中枢神経に影響を及ぼさない、選択的A2A受容体アンタゴニスト群を見出した。本発明の選択的A2A受容体アンタゴニストは、A2A受容体関連疾患、特にA2A受容体を介した非中枢神経系疾患の治療に用いることが好適であり、特に腫瘍免疫療法、癌の予防・治療に(他の抗癌剤と共に)使用する免疫検査阻害剤、ならびに肝臓、肺、皮膚の器官/臓器線維症、感染症、糖尿病に起因する合併症などの予防・治療に有用である。
【0013】
同時に、本発明の化合物は、特に非中枢神経系疾患、特に肝臓関連疾患、例えば非アルコール性脂肪肝(NASH)、肝線維症、肝硬変、肝癌、肝腫瘍転移の治療に好適である。本発明の化合物の肝臓に対する相対的標的化は、肝癌を含む肝臓疾患の有効な予防および治療を可能にし、同時に中枢神経系効果を有さず、全身性効果を最小限にする。
【0014】
本発明の第1の態様によれば、選択的A2A受容体アンタゴニスト、それを含む医薬組成物、製薬におけるその使用、および治療方法が提供される。
【0015】
一実施形態において、該選択的A2A受容体アンタゴニストは、一般式(I)の化合物、又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、薬学的に許容される塩、共結晶、若しくはプロドラッグである。
【0016】
【化3】

(ただし、
n=0又は1であり、好ましくは1であり、
m=1又は2であり、好ましくは1であり、
Aが窒素原子又は炭素原子であり、
Xがそれぞれ独立に-RCOOR又はテトラゾール-5-イルであり、好ましくは-RCOORであり、
が直接結合又はC1-4アルキレンであり、好ましくは直接結合又はC1-2アルキレンであり、
がH又はC1-4アルキルであり、好ましくはH又はC1-2アルキルであり、
Aが窒素原子である場合、XがAと結合しない。)
本発明の一実施形態において、一般式(I)では、n=1であり、Rが直接結合であり、RがH、メチル、エチル又はプロピルである。
【0017】
本発明の一実施形態において、一般式(I)では、n=1であり、Rが直接結合であり、RがH、メチル又はエチルである。
【0018】
本発明の一実施形態において、一般式(I)では、n=1であり、m=1であり、Rが直接結合であり、RがH、メチル又はエチルである。
【0019】
本発明の一実施形態において、一般式(I)では、n=1であり、m=1であり、Rが直接結合であり、RがHである。
【0020】
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記いずれか1つの実施形態に係る一般式(I)の化合物において、Xが-RCOORである。
【0021】
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記いずれか1つの実施形態に係る一般式(I)の化合物において、Xが-COOHである。
【0022】
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記いずれか1つの実施形態に係る一般式(I)の化合物において、Xがテトラゾール-5-イルである。
【0023】
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記いずれか1つの実施形態に係る一般式(I)の化合物において、Aが炭素原子である。
【0024】
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記いずれか1つの実施形態に係る一般式(I)の化合物において、m=1であり、Xがフェニル又はピリジルにおけるパラ位にある。
【0025】
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記いずれか1つの実施形態に係る一般式(I)の化合物において、m=1であり、Xがフェニル又はピリジルにおけるメタ位にある。
【0026】
本発明の好ましい一実施形態によれば、下記の化合物、又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、薬学的に許容される塩、共結晶、若しくはプロドラッグを提供する。
【0027】
【化4】

本発明の別の実施形態において、前記実施形態のいずれか1つに記載の一般式(I)の化合物、又は好ましい化合物、又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、薬学的に許容される塩、共結晶、もしくはプロドラッグと、薬学的に許容される担体又は賦形剤と、を含む医薬組成物が提供される。好ましくは、医薬組成物が経口医薬組成物である。
【0028】
本発明のさらに別の実施態様において、腫瘍、腫瘍転移、臓器線維症、感染症、糖尿病に起因する合併症の治療及び予防のための医薬品の製造における、前記実施態様のいずれか1つに記載の一般式(I)の化合物、又は好ましい化合物、又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、薬学的に許容される塩、共結晶、若しくはプロドラッグの使用が提供される。好ましくは、前記医薬品が経口医薬品である。
【0029】
本発明のさらに別の実施形態において、必要とされる対象に、前記実施形態のいずれか1つに記載の一般式(I)の化合物、又は好ましい化合物、又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、薬学的に許容される塩、共結晶、若しくはプロドラッグを有効量で投与することを含む、腫瘍、腫瘍転移、臓器線維症、感染症、糖尿病に起因する合併症を治療又は予防する方法が提供される。好ましくは、投与が経口投与である。
【0030】
前記実施形態において、臓器線維症は、好ましくは肝臓、腎臓、膵臓、皮膚および肺の線維症であり、前記医薬品は、好ましくは経口医薬品及び/又は腫瘍免疫療法薬であり、前記腫瘍は、好ましくはメラノーマであり、前記腫瘍転移は、好ましくはメラノーマ転移である。
【0031】
本発明の第2の態様によれば、SCH-58261の経口バイオアベイラビリティを向上させる、及び/又はその半減期を延長させる方法が提供される。
【0032】
一実施形態において、前記方法は、SCH-58261分子のベンゼン環に1~5個の置換基Xを導入することを含み、前記置換基Xが-RCOOR又はテトラゾール-5-イルから選ばれ、好ましくは-RCOORであり、ただし、Rが直接結合又はC1-4アルキレンであり、好ましくは直接結合又はC1-2アルキレンであり、RがH又はC1-4アルキルであり、好ましくはH又はC1-2アルキルである。
【0033】
前記方法の好ましい一実施形態において、前記置換基Xが-COOH、-COOCH又はCOOCである。
【0034】
前記方法の好ましい一実施形態において、前記置換基Xの数が1~2個であり、好ましくは1個である。
【0035】
前記方法の好ましい一実施形態において、前記置換基Xの数が1個であり、且つ前記置換基Xが-COOHであり、前記ベンゼン環のパラ位又はメタ位にあり、好ましくはパラ位にある。
【0036】
本発明の第3の態様によれば、経口投与用A2A受容体アンタゴニストを製造する方法が提供される。
【0037】
一実施形態において、前記方法は、SCH-58261分子のベンゼン環に1又は2個の置換基Xを導入することを含み、前記置換基Xが-RCOOR又はテトラゾール-5-イルから選ばれ、好ましくは-RCOORであり、ただし、Rが直接結合又はC1-4アルキレンであり、好ましくは直接結合又はC1-2アルキレンであり、RがH又はC1-4アルキルであり、好ましくはH又はC1-2アルキルである。
【0038】
前記方法の好ましい一実施形態において、前記置換基Xが-COOH、-COOCH又はCOOCである。
【0039】
前記方法の好ましい一実施形態において、前記置換基Xの数が1個である。
【0040】
前記方法の好ましい一実施形態において、前記置換基Xの数が1個であり、且つ前記置換基Xが-COOHであり、前記ベンゼン環のパラ位又はメタ位にあり、好ましくはパラ位にある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の例示的な化合物であるHZ10126のLC-MSのクロマトグラム及びマススペクトルである。クロマトグラムにおける2.077の保持時間を有するピークはHZ10126に該当し、マススペクトルにおけるm/z=390.9 [M+H]のピークがHZ10126に該当する。
図2】マウスに対して1日1回にHZ10126又は対照溶媒を経口投与した後の18日目のメラノーマ肺転移巣サンプルの写真である。
図3】マウスに対して1日1回にHZ10126又は対照溶媒を経口投与した後の18日目のメラノーマ肺転移巣の数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
I.定義
本開示で使用される用語は、特に反対の記載がない限り、以下の意味を有する。
【0043】
本発明に記載の基及び化合物に含まれる炭素、水素、酸素又は窒素は、それらの同位体を全て含み、本発明に記載の基及び化合物に含まれる炭素、水素、酸素又は窒素の何れも、それらの対応する1つ以上の同位体に置き換えられてもよく、炭素の同位体には12C、13C及び14Cを含み、水素の同位体にはプロチウム(H)、ジュウテリウム(D、重水素ともいう)、及びトリチウム(T、三重水素ともいう)を含み、酸素の同位体には16O、17O及び18Oを含み、窒素の同位体には14N及び15Nを含む。
【0044】
「アルキル」とは、直鎖及び分岐鎖の1価の飽和炭化水素基であり、アルキルの例としては、これらに限らないが、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、2-ペンチル、3-ペンチル、2-メチル-2-ブチル、3-メチル-2-ブチル、n-ヘキチル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、及びn-デシルなどが含まれる。前記アルキルは、任意にF、Cl、Br、Iから選ばれる1、2、3、4又は5個の置換基にさらに置換されてもよい。
【0045】
「アルキレン」とは、直鎖及び分岐鎖の2価の飽和炭化水素基であり、-(CH)v-(vが整数である。)を含む。アルキレンの例としては、これらに限らないが、メチレン、エチレン、プロピレン、及びブチレンなどが含まれる。前記アルキレンは、任意にF、Cl、Br、Iから選ばれる1、2、3、4又は5個の置換基にさらに置換されてもよい。
【0046】
「共結晶」とは、医薬品原薬(active pharmaceutical ingredient、API)とカウンター分子(co-crystal former、CCF)とが水素結合又は他の非共有結合の作用下で結合した結晶であり、APIとCCFとの間には一定の化学量論比が存在する。共結晶は、2つの中性固体の間で形成される二元共結晶と、中性固体と塩もしくは溶媒和物との間で形成される多元共結晶との両方を含む多成分系結晶である。
【0047】
「立体異性体」とは、シス-トランス異性体、鏡像異性体、又は配座異性体である。
【0048】
「医薬組成物」とは、1つ以上の本明細書に記載される化合物又はその生理学的/薬学的に許容される塩と、他の構成成分との混合物であり、他の構成成分は、生理学的/薬学的に許容される担体および賦形剤を含む。
【0049】
「担体」とは、生体に対して顕著な刺激をもたらすことなく、投与される化合物の生物学的活性および特性を解消させない担体又は希釈剤である。
【0050】
「賦形剤」とは、化合物の投与に有利するために医薬組成物に添加される不活性物質である。賦形剤の例としては、これらに限定されないが、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、各種類の糖および各タイプのデンプン、セルロース誘導体(微結晶性セルロースを含む)、ゼラチン、植物油、ポリエチレングリコール系、希釈剤、造粒剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤などが挙げられる。
【0051】
「プロドラッグ」とは、生理的条件下で、又は加溶媒分解によって、生物学的活性を有する本発明の化合物に変換され得る化合物である。本発明のプロドラッグは、本発明の化合物における官能基を修飾することによって調製され、この修飾が一般の操作によって、又はインビボで除去されることにより、親化合物を得ることができる。
【0052】
「有効量」とは、組織、系、又は治療対象の、生理学的もしくは医学的反応を引き起こす化合物の量を指し、治療対象に投与されたときに、治療されるべき疾患もしくは障害の1つ以上の症状の発生を予防するか、又はある程度まで軽減するのに十分であるように期待される量である。
【0053】
「溶媒和物」とは、分子間非共有結合された化学量論的又は非化学量論的溶媒を含んでもよい本発明の化合物又はその塩である。溶媒が水の場合、水和物となる。
【0054】
「IC50」とは、半抑制濃度であり、最大抑制効果の半分に達したときの濃度を指す。
【0055】
II.本発明の化合物:選択的A2A受容体アンタゴニスト
本発明の選択的A2A受容体アンタゴニストは、一般式(I)の化合物、又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、薬学的に許容される塩、共結晶、若しくはプロドラッグである。
【0056】
【化5】
ただし、
n=0又は1であり、好ましくは1であり、
m=1又は2であり、好ましくは1であり、
Aが窒素原子又は炭素原子であり、
Xがそれぞれ独立に-RCOOR又はテトラゾール-5-イルであり、好ましくは-RCOORであり、
が直接結合又はC1-4アルキレンであり、好ましくは直接結合又はC1-2アルキレンであり、
がH又はC1-4アルキルであり、好ましくはH又はC1-2アルキルであり、
Aが窒素原子である場合、XがAと結合しない。
【0057】
前記化合物は、優れた経口バイオアベイラビリティ及び半減期を有し、肝臓での濃度が血漿中濃度よりも有意に高いが、脳への透過がないため、中枢神経に影響を及ぼさなく、且つ全身性効果が小さい。
【0058】
一実施形態において、一般式(I)では、n=1であり、Rが直接結合であり、RがH、メチル又はエチルである。
【0059】
一実施形態において、一般式(I)では、n=1であり、m=1であり、Rが直接結合であり、RがH、メチル又はエチルである。
【0060】
一実施形態において、一般式(I)では、n=1であり、m=1であり、Rが直接結合であり、RがHである。
【0061】
好ましい一実施形態において、前記実施形態のいずれか1つに係る化合物では、Xが-RCOORである。
【0062】
好ましい一実施形態において、前記実施形態のいずれか1つに係る化合物では、Xが-COOHである。
【0063】
好ましい一実施形態において、前記実施形態のいずれか1つに係る化合物では、Xがテトラゾール-5-イルである。
【0064】
好ましい一実施形態において、前記実施形態のいずれか1つに係る化合物では、Aが炭素原子である。
【0065】
好ましい一実施形態において、前記実施形態のいずれか1つに係る化合物では、m=1であり、Xがフェニル又はピリジルにおけるパラ位にある。
【0066】
好ましい一実施形態において、前記実施形態のいずれか1つに係る化合物では、m=1であり、Xがフェニル又はピリジルにおけるメタ位にある。
【0067】
好ましい一実施形態において、一般式(I)の化合物は、下記の化合物の一つである。
【0068】
【化6】

好ましい一実施形態において、一般式(I)の化合物は、
【0069】
【化7】

(化合物HZ10126)、または
【0070】
【化8】

である。
【0071】
III.医薬組成物、製薬における使用、及び治療方法
本発明の医薬組成物は、(i)前記一般式(I)の化合物又は具体的化合物、又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、薬学的に許容される塩、共結晶もしくはプロドラッグと、(ii)薬学的に許容される担体又は賦形剤とを含む。
【0072】
前記医薬組成物は、経口投与、腹腔内投与、皮下注射、又は静脈内注射用に製剤化され得る。好ましくは、前記医薬組成物は、経口投与に用いられる。
【0073】
本発明の医薬組成物は、その選択的A2A受容体アンタゴニストの特性により、肝癌又は肝腫瘍転移を含み、腫瘍、腫瘍転移、臓器線維症、感染症、糖尿病に起因する合併症の治療又は予防に適用されることができる。
【0074】
よって、本発明の別の実施態様において、腫瘍、腫瘍転移、臓器線維症、感染症、又は糖尿病に起因する合併症の治療又は予防のための医薬品の製造における、前記一般式(I)の化合物、又は好ましい化合物、又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、薬学的に許容される塩、共結晶、若しくはプロドラッグの使用が提供される。好ましくは、前記医薬品が経口医薬品である。
【0075】
本発明のさらに別の実施形態において、必要とされる対象に、前記実施形態のいずれか1つに記載の一般式(I)の化合物、又は好ましい化合物、又はその立体異性体、水和物、溶媒和物、薬学的に許容される塩、共結晶、若しくはプロドラッグを有効量で投与することを含む、腫瘍、腫瘍転移、臓器線維症、感染症、糖尿病に起因する合併症を治療又は予防する方法が提供される。
【0076】
前記実施形態において、臓器線維症は、好ましくは、肝臓、腎臓、膵臓、皮膚および肺の線維症であり、前記医薬品は、好ましくは経口医薬品及び/又は腫瘍免疫療法薬であり、前記腫瘍は、好ましくはメラノーマであり、前記腫瘍転移は、好ましくはメラノーマ転移である。
【0077】
前記治療方法の好ましい一実施態様において、前記投与は、経口投与である。
【0078】
前記治療方法の好ましい一実施態様において、マウスに経口投与される場合、前記有効量は0.1-10mg/kg/日であり、好ましくは1-5mg/kg/日であり、より好ましくは2-3mg/kg/日である。他の動物(ヒトを含む)への投与量は、当業者によってマウスへの投与量から換算できる。
【0079】
前記治療方法の好ましい一実施態様において、前記対象は、哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【0080】
IV.SCH-58261の経口バイオアベイラビリティを向上させる、及び/又はその半減期を延長させる方法
本発明の第2の態様によれば、SCH-58261の経口バイオアベイラビリティを向上させる、及び/又はその半減期を延長させる方法が提供される。
【0081】
一実施形態において、前記方法は、SCH-58261分子のベンゼン環に1又は2個の置換基Xを導入することを含み、前記置換基Xが-RCOOR又はテトラゾール-5-イルから選ばれ、好ましくは-RCOORであり、ただし、Rが直接結合又はC1-4アルキレンであり、好ましくは直接結合又はC1-2アルキレンであり、RがH又はC1-4アルキルであり、好ましくはH又はC1-2アルキルである。
【0082】
前記方法の好ましい一実施形態において、前記置換基Xが-COOH、-COOCH又はCOOCである。
【0083】
前記方法の好ましい一実施形態において、前記置換基Xの数が1である。
【0084】
前記方法の好ましい一実施形態において、前記置換基Xの数が1であり、且つ前記置換基Xが-COOHであり、前記ベンゼン環のパラ位又はメタ位にあり、好ましくはパラ位にある。
【0085】
V.経口投与用A2A受容体アンタゴニストを製造する方法
本発明の第3の態様によれば、経口投与用A2A受容体アンタゴニストを製造する方法が提供される。前記経口投与用A2A受容体アンタゴニストは、好ましくは経口投与用選択的A2A受容体アンタゴニストである。
【0086】
一実施形態において、前記方法は、SCH-58261分子のベンゼン環に1又は2個の置換基Xを導入することを含み、前記置換基Xが-RCOOR又はテトラゾール-5-イルから選ばれ、好ましくは-RCOORであり、ただし、Rが直接結合又はC1-4アルキレンであり、好ましくは直接結合又はC1-2アルキレンであり、RがH又はC1-4アルキルであり、好ましくはH又はC1-2アルキルである。
【0087】
前記方法の好ましい一実施形態において、前記置換基Xが-COOH、-COOCH又はCOOCである。
【0088】
前記方法の好ましい一実施形態において、前記置換基Xの数が1個である。
【0089】
前記方法の好ましい一実施形態において、前記置換基Xの数が1個であり、且つ前記置換基Xが-COOHであり、前記ベンゼン環のパラ位又はメタ位にあり、好ましくはパラ位にある。
【0090】
VI.本発明の化合物による効果
本発明の化合物、特にSCH-58261を前記の方法で修飾した化合物は、著しく向上した経口バイオアベイラビリティ及び血漿中濃度、並びに著しく延長したインビボ半減期を有するため、経口投与に適している。
【0091】
具体的には、酸性置換基X、特にカルボキシル基の導入後、修飾された化合物の経口バイオアベイラビリティは10%超えまで増加する(SCH-58261にはほとんど経口バイオアベイラビリティを有しない)。一方、修飾された化合物の経口投与後のインビボ半減期は、SCH-58261の約7~11倍の3~5時間となる。さらに、このような修飾により、薬物の肝臓レベルを血漿中濃度よりもはるかに高いように有意に増加させる。さらに、これらの修飾された酸性化合物は、非脳透過剤であるため、中枢神経に影響を与えないようにする。
【0092】
従って、本発明の化合物は、脳組織に入り込むことなく、体内の薬物の重要な器官への分布を変化させることができ、且つ肝臓における薬物濃度が著しく向上させる。これにより、中枢神経系への有害反応が低減又は回避され、全身系に対する相対的な低暴露量又は無暴露量で肝臓の治療を行うことができ、その安全性が改善される。
【0093】
また、化合物HZ10126をマウスに投与した後の腫瘍転移抑制効果も優れている。
【0094】
実施例
実施例1:例示的な化合物HZ10126の合成
1.1 HZ10328の合成
【0095】
【化9】

ステップS1:化合物1(423.7g)を窒素保護下で反応器に添加し、NMP(2.1L)及びCuCN(214g)を加え、200℃まで加熱し還流させ、同温度で4時間撹拌し(この段階の生成物をIPCで分析し)、室温まで冷却し、酢酸エチル(2.1L)及び飽和NHCl水溶液(2.1L)を加え、ろ過し、有機層を分離して飽和NHCl(2.1L)で洗浄し、水層を合わせて1.2Lの酢酸エチルで抽出し、有機層を合わせて1.2Lの飽和NaCl水溶液で洗浄し、層を分離し、有機層をNaSOで乾燥させ、濃縮し、200mlの酢酸エチル及び2LのPEを加え、30分間撹拌し、ろ過し、乾燥して、化合物2(220g、収率67.9%、IPC保持時間:2.19min)を褐色固体として得た。
【0096】
ステップS2:化合物2(212g)を窒素保護下で反応器に添加し、THF(3L)及びPMHS(269g)を加え、0°Cまで冷却し、0~10°Cで撹拌しながら、NaBEtH(120.7g)を滴下し、室温まで加熱して20時間撹拌し(この段階の生成物をIPCで分析し)、0~10°Cまで冷却し、0°Cのメタノール500mlをゆっくり添加し、2Lの飽和NaCl水溶液を加え、15分間撹拌し、層を分離し、水層を1Lの酢酸エチルで抽出し、有機層を合わせてNaSOで乾燥させ、濃縮し、PE:酢酸エチル(5:1及び2:1)でカラムを通過させ、化合物3(IPC保持時間:1.61min)107gを黄色固体として得た。
【0097】
ステップS3:化合物3(92g)を窒素保護下で反応器に添加し、エタノール(276ml)を加え、次いでNaOH(75.1g)の水溶液(276ml)を20°Cでゆっくり加え、90°Cまで加熱し、同温度で10時間撹拌し(この段階の生成物をIPCで分析し)、室温まで冷却し、HClでpHを3未満に調整し、酢酸エチル(それぞれ500ml、300ml)で抽出し、有機層を合わせてNaSOで乾燥させ、濃縮し、化合物4を白色固体(120g、収率100%、IPC保持時間:1.3min)として得た。
【0098】
ステップS4及びS5:化合物4(120g)を窒素保護下で反応器に添加し、エタノール(400ml)を加え、次いでSOCl(148g)を60°Cでゆっくり加え、90°Cまで加熱し、同温度で2-3時間撹拌し、濃縮して溶媒を除去した(この段階の生成物をIPCで分析し、IPC保持時間:2.17minである新規の化合物を発見し、生成化合物5をLCMSで確認したところ、MSm/z=195。)。DCMを加え、再度濃縮して溶媒を除去し、DCM(4.0v/w)を加え、60°CでSOCl(148g)をゆっくり加え、60°Cまで加熱し、同温度で一晩撹拌した(この段階の生成物をIPCで分析し、IPC保持時間:3.2minである新規の化合物を発見した。)。室温まで冷却し、冷却したNaHCO水溶液(500ml)を10°Cでゆっくり注入し、pH7超えに調整し、MTBE(500ml)で抽出し、NaHCO水溶液(300ml)及び食塩水(300ml)で洗浄し、濃縮して溶媒を除去し、シリカゲルカラム(PE/EA=50/1)で精製し、無色油状の化合物6(105g、収率68.9%、IPC保持時間:3.2min、MSm/z=213)を得た。
【0099】
ステップS6:化合物7(80g)を窒素保護下で反応器に添加し、KCO(1.75当量)及びNMP(800ml)を加え、化合物6を等モル加え、150°Cまで加熱し、同温度で5時間撹拌した(この段階の生成物をIPCで分析し、IPC保持時間:2.84minである新規の化合物を発見した。)。160°Cで再度2時間撹拌し、室温まで冷却し、懸濁液に水(1600ml)を加え、室温で1時間撹拌し、ろ過し、乾燥して、分取HPLCで精製し、HZ10328(IPC保持時間:2.84min)を約52gを得た。
【0100】
1.2 HZ10126の合成
HZ10328(23.7g)を窒素保護下で反応器に添加し、メタノール(240ml)、THF(240ml)、水(480ml)及びLiOH(23.8g)を順次添加し、室温で16時間撹拌し、6NHClを加えpH4-5に調整し、室温で2時間撹拌し、多量の沈殿物が得られ、ろ過し、水(500ml)で洗浄し、メタノール(30ml)及び酢酸エチル(300ml)を加え、室温で4時間撹拌し、ろ過し、酢酸エチル(150ml)で洗浄し、40°Cのオーブンで16時間乾燥して、生成物のHZ10126を44.5g得た。
【0101】
IPC保持時間:2.21min
HPLC保持時間:2.218min
LC-MS保持時間:2.077min
MS:m/z=390.85[M+H]
1.3 HZ10330の合成
HZ10328(100mg)を窒素保護下で反応器に添加し、THF(2ml)およびLiAlH(5.0mg)を順次添加し、室温で1~3時間撹拌し、水でクエンチし、分取HPLCで精製し、HZ10330を50mg得た。
【0102】
IPC保持時間:2.16min
実施例2:経口投与後のバイオアベイラビリティ
HZ10126又はその他の被検化合物を2mg/kgの用量でマウスに経口投与し、経口投与後のバイオアベイラビリティ、AUC、血漿中濃度、脳透過レベル(すなわち、脳濃度)及び肝臓濃度を測定した結果を表1に示す。測定方法は、いずれも当業者に公知の方法である。
【0103】
その結果、本発明の例示的な化合物HZ10126及びそのエステルHZ10328は、SCH58261と比較して、AUC0→t及び半減期が有意に改善されたことが明らかになる。なお、例示的な化合物HZ10126は、AUC0→t、半減期および経口投与後の血漿中濃度のいずれにおいても、既知の経口A2A受容体アンタゴニストであるPreladenantよりも著しく増加したが、HZ10328は、Preladenantより、若干高いか、又は同等であるAUC0→t、半減期および経口投与後の血漿中濃度を有することがわかる。
【0104】
特に、例示的な化合物HZ10126は、経口投与後、極めて著明に肝臓に濃縮され、経口投与後1時間で肝臓濃度は血漿中濃度の7倍、経口投与後6時間で血漿中濃度の24倍に達した一方、検出可能な脳濃度を示さなかった。このように、該化合物は、A2A受容体アンタゴニストに関連する肝疾患に対して高い標的指向性を有することがわかる。
【0105】
また、化合物HZ10330についての結果から、例示的な化合物HZ10126のカルボキシル基を、同様に極性基であるヒドロキシメチル基(-CHOH)に変更しても、検出可能なバイオアベイラビリティが得られなかったことがわかる。これは、例示的な化合物の有意なバイオアベイラビリティが、極性及び親水性の向上だけによるものではないことが示唆される。
【0106】
表1:マウスに被験化合物2mg/kgを経口投与した後のバイオアベイラビリティ、及び脳濃度、肝臓濃度及び血漿中濃度
【0107】
【表1】
実施例3:化合物のA2A受容体に対するアンタゴニスト活性(IC50
例示的な化合物HZ10126及びいくつかの参照化合物のラットA2A受容体に対するIC50(nM)値を、インビトロアッセイにおいて測定した結果を表2に示す。具体的には、各被検化合物を、384ウェルプレートOpti-Plate(PerkinElmer、6007290)に所定の濃度で加え、ラップで密封した。1mlの測定緩衝液(50mM Tris-HCl、pH 7.4、10 mM MgCl、1mM EDTA、1μg/mlアデノシンデアミナーゼ(Diazyme)、4°C)に、20UA2A膜(ヒトアデノシンA2Aレセプター膜、PerkinElmer、RBHA2AM400UA)を最終濃度が25nMとなるように添加したものを、Opti-plateに50μlを添加し、25℃で90分間インキュベートした。UNIFILTER-96GF/Bフィルタープレート(PerkinElmer、6005177)に0.5%PEI溶液100μlを加え、4℃で90分間浸漬し、1ウェル当たり500μlの洗浄緩衝液(50mM Tris-HCl、pH7.4、154 mM NaCl)で2回洗浄した。Opti-plate中の混合物をUNIFILTER-96GF/Bフィルタープレートに移し、さらに洗浄緩衝液(500μl/ウェル)で9回洗浄し、55℃で10分間インキュベートした。ULTIMA GOLDシンチレーター(PerkinElmer、77-16061)を各ウェルに40μlずつ加え、TopCount(PerkinElmer、NTX)でCPM(1分あたりの放射線計測回数)値を読み取った。化合物ごとに一連の濃度勾配を作り、CPMを濃度に対してプロットし、得られた曲線からIC50値を算出した。参照化合物は、[3H]-CGS 21680、250μCi(30.7Ci/mM)(PerkinElmer、NET1021)であった。
【0108】
【表2】
その結果、本発明の例示的な化合物HZ10126は、強力なA2A受容体アンタゴニスト活性を有し、その活性が既知の経口A2A受容体アンタゴニストであるPreladenantよりも高いことが示される。
【0109】
実施例4:腫瘍治療における検討
腫瘍転移を有したマウスモデルに、例示的な化合物HZ10126を2mg/kg/日の用量で経口投与したところ、優れた腫瘍抑制効果を示した。
【0110】
4.1マウスメラノーマモデルの構築(6×10細胞/マウス)
5週齢C57BL/6Nマウスを、雄と雌とが半分ずつで、1群10匹、4群に分けた。B16-F10細胞を消化して遠心し、生理食塩水に再懸濁し、1回洗浄し、細胞数をカウントし、細胞密度を30×10細胞/mlに調整し、容量を12mlとした。各マウスに200μlの細胞懸濁液(1日目)を尾静脈内注射し、3日毎にマウスの体重を記録した。18日目に、マウスをすべて処分し、肺を摘出して腫瘍転移巣数をカウントし、重さを秤量した。肝臓、腎臓、脾臓を摘出してHE染色を行い、各臓器に対する薬物の毒性を評価した。肺をCD11b、F4/80及びCD8に対して免疫組織染色を行った。
【0111】
4.2.投与
被検薬のHZ10126について、2mgのHZ10126を80μlのDMSOに溶解し、50%PEG-400 10mlにボルテックスしながら滴下し、濃度0.2mg/mlの溶液とした。
【0112】
試験群には、HZ10126溶液をHZ10126として2mg/kg/日の用量で胃内投与した。対照群には、50%PEG-400を等容量で胃内投与した。細胞の注射から1日1回、18日間投与した。
【0113】
4.3実験結果
その結果、18日目には、試験群は、対照群に比べて肺転移巣数が明らかに少なかったことが確認され(図2及び図3)、HZ10126がマウスの体内でメラノーマの転移を有意に抑制できたことが示唆される。
参考文献
[1]. Yang et al., Characterization of the potency, selectivity, and pharmacokinetic profile for six adenosine A2A receptor antagonists; Naunyn-Schmiedeberg’s Arch Pharmacol (2007) 375:133-144
[2]. de Lera Ruiz M, Lim YH, Zheng J. (2014) Adenosine A2A receptor as a drug discovery target,J Med Chem. 2014 May 8;57(9):3623-50.
図1
図2
図3