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特許7223881調整可能な電流演算子を有する量子ビットアセンブリ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】調整可能な電流演算子を有する量子ビットアセンブリ
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/20 20220101AFI20230209BHJP
   G06F 7/38 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G06N10/20
G06F7/38 510
G06F7/38 610
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021569131
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-17
(86)【国際出願番号】 US2020032909
(87)【国際公開番号】W WO2020256864
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】16/445,889
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520128820
【氏名又は名称】ノースロップ グラマン システムズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,デイビッド ジェームズ
【審査官】関口 明紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/151929(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/14021(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/26522(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/75106(WO,A2)
【文献】特表2005-513680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/20
G06F 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ビットアセンブリであって、
第1のジョセフソン接合および第2のジョセフソン接合を含む第1の超伝導ループと、
前記第2のジョセフソン接合および第3のジョセフソン接合を含む第2の超伝導ループと、
前記第3のジョセフソン接合および第4のジョセフソン接合を含む第3の超伝導ループと、
記第2の超伝導ループに制御磁束を提供するように構成された磁束源であって、それにより、前記磁束源によって前記第2の超伝導ループに提供される制御磁束の大きさを変更することによって、前記第1の超伝導ループの電流に対応する第1の量子演算子と前記第3の超伝導ループの電流に対応する第2の量子演算子との間の有効な交換関係を変更することができる、磁束源と、
を含む、量子ビットアセンブリ。
【請求項2】
前記第1の量子演算子が、前記量子ビットアセンブリのため選択されたX軸を表しており、前記第2の量子演算子が、前記第2の超伝導ループに提供される制御磁束の大きさを変更することによって、ブロッホ球の平面内の任意の軸を表すように構成することができる、請求項1に記載の量子ビットアセンブリ。
【請求項3】
前記ループに隣接する超伝導アイランドの電圧に対応する量子演算子が、前記X軸および前記任意の軸の各々に垂直な前記ブロッホ球内の第3の軸を表している、請求項2に記載の量子ビットアセンブリ。
【請求項4】
前記制御磁束が、第1の制御磁束であり、前記量子ビットアセンブリが、第4の超伝導ループおよび第5の超伝導ループをさらに含み、前記第4のループが、前記第1のジョセフソン接合および第5のジョセフソン接合を含み、前記第5のループが、前記第5のジョセフソン接合および第6のジョセフソン接合を含み、前記磁束源が、前記第4の超伝導ループに第2の制御磁束を提供するように構成されており、それにより、前記第2の制御磁束の大きさを変更することによって、前記第1の量子演算子と前記第5の超伝導ループの電流に対応する第3の量子演算子との間の有効な交換関係を変更することができる、請求項1に記載の量子ビットアセンブリ。
【請求項5】
前記第1の超伝導ループが、前記第1のジョセフソン接合によって中断された接地への第1の経路、および前記第2のジョセフソン接合によって中断された接地への第2の経路を含み、前記第2の超伝導ループが、前記接地への第2の経路、および前記第3のジョセフソン接合によって中断された接地への第3の経路を含み、前記第3の超伝導ループが、前記接地への第3の経路、および前記第4のジョセフソン接合によって中断された接地への第4の経路を含む、請求項1に記載の量子ビットアセンブリ。
【請求項6】
前記第1のジョセフソン接合、前記第2のジョセフソン接合、前記第3のジョセフソン接合、および前記第4のジョセフソン接合のうちの少なくとも1つが、複合ジョセフソン接合である、請求項1に記載の量子ビットアセンブリ。
【請求項7】
前記第3の超伝導ループに結合され、前記第2の量子演算子の状態を測定するように構成された読み出し共振器をさらに含む、請求項1に記載の量子ビットアセンブリ。
【請求項8】
システムであって、
請求項1に記載の量子ビットアセンブリと、
前記量子ビットアセンブリが関与する複数の論理演算の各々の間に、前記第2の量子演算子によって表されるブロッホ球の軸を記録するように構成された古典的なコンピュータと、
を含む、システム。
【請求項9】
量子システムであって、
請求項1に記載の量子ビットアセンブリであって、前記磁束源が、第1の磁束源であり、前記制御磁束が、第1の制御磁束である、量子ビットアセンブリと、
第2の量子ビットアセンブリであって、
第5のジョセフソン接合および第6のジョセフソン接合を含む第4の超伝導ループと、
前記第6のジョセフソン接合および第7のジョセフソン接合を含む第5の超伝導ループと、
前記第7のジョセフソン接合および第8のジョセフソン接合を含む第6の超伝導ループと、
記第5の超伝導ループに第2の制御磁束を提供するように構成された第2の磁束源であって、それにより、前記第2の制御磁束の大きさを変更することによって、前記第4の超伝導ループのうちの1つの中の電流に対応する第3の量子演算子と前記第6の超伝導ループの電流に対応する第4の量子演算子との間の有効な交換関係を変更することができる、第2の磁束源と、
を含む、第2の量子ビットアセンブリと、
前記第3の超伝導ループを前記第6の超伝導ループに結合するように構成された結合アセンブリと、
を含む、量子システム。
【請求項10】
前記結合アセンブリが、複合ジョセフソン接合を含む調整可能なカプラである、請求項9に記載の量子システム。
【請求項11】
方法であって、
第1の量子ビットに関連付けられ、関連する第1の量子演算子を有する第1の超伝導ループを、第2の量子ビットに関連付けられ、関連する第2の量子演算子を有する第2の超伝導ループに結合することと、
前記第1の量子ビットに第1の制御磁束を提供して、ブロッホ球の軸を表すように前記第1の量子演算子を調整することと、
前記第2の量子ビットに第2の制御磁束を提供して、前記ブロッホ球の軸を表すように前記第2の量子演算子を調整し、それにより、前記第1の量子ビットおよび前記第2の量子ビットが、前記第1の量子演算子および前記第2の量子演算子に関連付けられたブロッホ球の軸に沿って結合されることと、
を含む、方法。
【請求項12】
前記第1の量子ビットに前記第1の制御磁束を提供することが、前記第1の制御磁束を、前記第1の超伝導ループと少なくとも1つのジョセフソン接合を共有する第3の超伝導ループに提供することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
第1の電流演算子によって表されるブロッホ球の軸が、
【数1】
に比例するように前記第1の制御磁束に関する(φ)とともに変化する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の超伝導ループを前記第2の超伝導ループに結合することが、前記第1の超伝導ループと前記第2の超伝導ループとの間に配置された調整可能なカプラアセンブリに第3の制御磁束を提供することを含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年6月19日に出願された米国特許出願第16/445889号の優先権を主張し、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、量子コンピューティング、より具体的には、調整可能な電流演算子を有する量子ビットアセンブリに関する。
【背景技術】
【0003】
古典的な情報は、0または1と称される2つの状態のいずれかに存在し得る。量子ビットはまた、2つの状態|0>および|1>を有するが、「重ね合わせ」で存在し得、ここで、量子ビットは、任意の時点で各状態に存在するための複雑な確率振幅を有している。状態|0>にある確率振幅はcos(θ/2)として表すことができ、状態|1>にある確率振幅はsin(θ/2)exp(i )として表すことができる。これらの角度は、単位半径の「ブロッホ球」上の点を表すものとして視覚化でき、量子ビットの状態は、球の中心からこの点まで伸びる「量子ビット偏光ベクトル」によって特徴付けることができる。量子ビットの状態が読み出されるとき、つまり古典的なビットに転送されるとき、それは通常、Z軸に沿って読み出される。かかる読み出しは、垂直な「z軸」に沿った偏光ベクトルの射影cos(θ)に関連する確率(1+cos(θ))/2で古典的なビット値0を返す。同様に、読み出しは確率(1-cos(θ))/2で1を返す。値cos(θ)はパウリZ演算子の期待値であり、この種類の読み出しは「パウリZ」方向に沿った読み出しと称される。大部分の超伝導量子ビットは、単一の軸に沿ってのみ読み出すことができ、これは通常、「パウリZ」方向と称される。
【発明の概要】
【0004】
本発明の一態様によれば、量子ビットアセンブリは、第1のジョセフソン接合および第2のジョセフソン接合を含む第1の超伝導ループと、第2のジョセフソン接合および第3のジョセフソン接合を含む第2の超伝導ループと、第3のジョセフソン接合および第4のジョセフソン接合を含む第3の超伝導ループと、を含む。磁束源は、第2の超伝導ループに制御磁束を提供し、それにより、磁束源によって第2の超伝導ループに提供される制御磁束の大きさを変更することによって、第1の超伝導ループの電流に対応する第1の量子演算子と第3の超伝導ループの電流に対応する第2の量子演算子との間の有効な交換関係を変更することができるように構成されている。
【0005】
本発明の別の態様によれば、方法は、第1の量子ビットに関連付けられ、関連する第1の量子演算子を有する第1の超伝導ループを、第2の量子ビットに関連付けられ、関連する第2の量子演算子を有する第2の超伝導ループに結合することを含む。第1の量子ビットに第1の制御磁束が提供され、ブロッホ球の軸を表すように第1の量子演算子が調整される。第2の量子ビットに第2の制御磁束が提供され、ブロッホ球の軸を表すように第2の量子演算子が調整される。
【0006】
本発明のさらに別の態様によれば、制御磁束の第1の値は、量子ビットの第1の超伝導ループに提供され、一組の基底状態を有する第2の超伝導ループ内の電流に対応する量子演算子を提供する。制御磁束の第2の値は、量子ビットの第1の超伝導ループに提供され、量子演算子に関連付けられた基底状態のセットを改変する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】調整可能な電流演算子を備えた量子ビットアセンブリを示す。
図2】調整可能な電流演算子を有する量子ビットアセンブリの例を示す。
図3】2つの量子ビットアセンブリが調整可能なカプラを介して結合されて、2つの量子ビットアセンブリ間の選択可能な結合を提供するシステムの一例を示す。
図4】量子ビットで電流演算子を提供する方法を示す。
図5】本発明の一態様による量子ビットの回転を行う方法を表す。
図6】ブロッホ球の特定の軸に沿って2つの量子ビットを結合する方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
一部の量子プラットフォームでは、測定装置を比較的容易に受動的に回転させることができるが、特に以前の形態の超伝導量子ビットを含む他の多くの量子プラットフォームでは、概して、一度に1つの有効スピン軸に沿ってしか読み出しを行うことができない。この読み出し軸は、電圧読み出し、持続電流読み出し、または分散読み出しと称されるシステムハミルトニアンに沿った軸に沿った読み出しの3つの形式のいずれかを取ることが多い。多くのシステムでは、これらの読み出し方法は、互いに同じ有効スピン軸を測定するか、構成空間の種々のポイントで情報を提供しない。例えば、複合ジョセフソン接合によってシャントされたインダクタで構成される調整可能な磁束量子ビットは、量子ビットがダブルウェル領域にあるときにインダクタを流れる持続電流によって読み出すことができる。複合ジョセフソン接合を循環する電流は、別の可能な読み出しチャネルであり、これは、複合ジョセフソン接合磁束がメインループに出入りする磁束渦のホッピングに対し支配的であるため、原理的にインダクタの持続電流に直交することができる。残念ながら、循環する複合ジョセフソン接合電流の大きさは、ダブルウェル領域で急激に低下するため、インダクタを流れる持続電流の最適な領域での直交軸の測定が不可能になる。
【0009】
本明細書で説明する量子ビットアセンブリは、調整可能な超伝導ループを利用して、一次読み出し軸に垂直な平面内の任意の軸を含む、複数の可能な方向に沿った電流演算子を表す。例えば、2つの電流演算子は、量子ビットの主要な演算子だけでなく、互いに直交するように調整でき、これにより、量子ビットは、「パウリX」方向、「パウリY」方向、「パウリZ」方向の3つの独立した直交軸に沿って読み出すことができる。電流演算子は、種々の軸に沿った量子ビットの結合を可能にするように選択でき、これにより、設計者フェーズでの物質の構築が容易になる。
【0010】
量子ビットアセンブリの1つの実装形態では、複数の電流演算子および1つの電圧演算子からの超伝導量子ビットの有効なスピン軸のセットが提供される。一般的な意味で、この量子ビット設計の概念により、ローカル量子ビット測定軸の受動的な変換が、古典的なコプロセッサで実行および連結され得る量子演算用の超伝導量子ビットで使用可能なツールボックスに追加される。電流演算子および電圧演算子は常に直交しており、低エネルギー部分空間では可換ではないが、種々の電流演算子の交換関係は、外部磁束を適用することで調整できる。この外部磁束は古典的に設定されているため、量子ビットの受動的な回転は、測定演算子を選択するか、かつ/または磁束を設定することによって実行できる。したがって、一連の回転の忠実度は、中間回転のコヒーレンス時間ではなく、一連の最後の単一測定の読み出し値によって制限される。
【0011】
図1は、調整可能な電流演算子を有する量子ビットアセンブリ100を示している。第1の超伝導ループ102は、第1のジョセフソン接合104および第2のジョセフソン接合106を含む。第2の超伝導ループ112は、第2のジョセフソン接合106および第3のジョセフソン接合114を含む。第3の超伝導ループ122は、第3のジョセフソン接合114および第4のジョセフソン接合124を含む。一実施形態では、各ループ102、112、および122は、超伝導接地への2つの接続として形成され得ることが理解されよう。一実施形態では、第1、第2、第3、および第4のジョセフソン接合104、106、112、および114の各々は、同じ臨界電流を有する。さらに、各ループは、直列または並列のいずれかに配置された複数のジョセフソン接合を含み得ることが理解されよう。
【0012】
ジョセフソン接合104、106、114、および124は、量子ビットアセンブリ100の一部を分離し、これは、本明細書では超伝導アイランド130と称される。電圧源132は、オフセット電圧を超伝導アイランド130に印加するように構成される。一実施形態では、コンデンサ(図示せず)を超伝導アイランド130に結合して、オフセット電圧を提供することができる。磁束源140は、超伝導ループ102、112、および122の各々に選択的に磁束を提供するように構成される。具体的には、第2の超伝導ループに提供される制御磁束を選択して、第1の超伝導ループ102および第3の超伝導ループ122の各々によって表されるそれぞれの電流演算子間の交換関係を調整することができる。磁束源140は、電流を運ぶインダクタなど、磁束を提供し得る種々の回路デバイスおよび要素のいずれかとして実装することができる。磁束源140は、種々の超伝導ループ102、112、および122に磁束を提供するための複数の個別の構成要素を含み得ることが理解されよう。
【0013】
磁束量子の半分の磁束がループ102、112、および122のいずれかに通されると、ループはメインノードから接地への電流を通さず、ジョセフソン接合の合計静電容量に等しい静電容量を持つコンデンサとして効果的に作用する。メインノードから接地への電流の流れを停止するために必要な磁束調整は、その要素のセットの「キャンセルポイント」と称される。同様に、電圧源132によって提供される電圧は、超伝導アイランドの充電エネルギーを縮退点にシフトするように調整することができる。
【0014】
ループの各々を通る磁束がキャンセルポイントにあり、電圧源130からの電圧が縮退点に調整されている場合、状態|n>および|n+1>を含む計算部分空間のハミルトニアンは、正確にゼロなる。このように調整すると、量子ビット100はゼロ以外の電流および電圧双極子を保持し、量子ビットのエネルギーを外部電圧または磁束によって調整し、または複数の量子ビット間の結合を可能にする。2つの電流双極子演算子JおよびJ、ならびに電圧双極子演算子Vを含む複数の演算子は、量子ビット状態への影響に従って定義できる。第1の電流双極子演算子Jは、2つの固有状態を有し、第1の超伝導ループ102内の電流のそれぞれの方向を表す。同様に、第2の電流双極子演算子Jは、2つの固有状態を有し、第3の超伝導ループ122内の電流のそれぞれの方向を表す。電圧双極子演算子は2つの固有状態を有しており、各々が超伝導アイランド130と接地との間の測定された電圧を表す。
【0015】
電流双極子演算子は、電圧双極子演算子と可換ではなく、第2の超伝導ループ112に適用される制御磁束に応じて、互いに可換でない場合がある。第2の超伝導ループ112に適用される制御磁束が磁束量子の4分の1に等しい大きさを有するとき、2つの電流双極子演算子および電圧双極子演算子は、量子ビットアセンブリ100の基底ベクトルの直交トライアドを形成し、これは、J=|J|σ、J=±|J|σおよびV=|V|σとして正規化できる。ここで、σ、σ、およびσはパウリ行列であり、|J|は、量子ビットがパウリX演算子の+1固有状態で分極されているときの持続電流であり、|J|は、量子ビットがパウリY演算子の+1固有状態で分極されているときの持続電流であり、|V|は、量子ビットがパウリZ演算子の+1固有状態にあるときに、超伝導アイランド130と接地との間で測定できる電圧である。この場合、電流演算子は直交しているため、可換ではない。第2の超伝導ループ112に適用される制御磁束の他の値については、電流演算子は並列であり得、したがって可換であり得る。
【0016】
この量子ビット設計では、恒等演算子は、電流演算子または電圧演算子の計算部分空間への射影には現れない。これは、偽の単一量子ビットハミルトニアン項を作成せずに量子ビットを結合するための有利な機能である。さらに、量子ビットがパウリZ演算子の+1固有状態にある場合、第1および第3の超伝導ループ102および122の電流の期待値はゼロである。しかしながら、それらのループのうちの1つ、例えば、第1の超伝導ループ102が測定される場合、量子ビットがパウリX演算子の固有状態の1つに射影されるとき、持続電流が現れる。この意味で、電流および電圧の測定は、量子ビット状態の量子非破壊プローブである。
【0017】
磁束源によって第2の超伝導ループ112に提供される磁束の大きさを変更することによって、第1の超伝導ループ102と第3の超伝導ループ122との間の電流演算子間の有効な交換関係を変更することができる。具体的には、第2の超伝導ループ112に供給される制御磁束Φが所定の値に設定されると、第3の超伝導ループ122内の電流は、
【数1】
に比例する演算子として接地空間で作用する。したがって、制御磁束を調整して、電圧演算子によって定義された軸に垂直な平面内のブロッホ球の任意の軸に沿って量子ビットを測定または結合できるようにすることができる。
【0018】
図2は、調整可能な電流演算子を有する量子ビットアセンブリ200の例を示している。量子ビットアセンブリは、超伝導アイランド210からの接地への複数の接続を含み、各接続は、関連するジョセフソン接合212~217によって中断される。接地への所与の接続は、直列または並列のいずれかに配置された複数のジョセフソン接合を含み得ることが理解されよう。例えば、接地への各接続は、複合ジョセフソン接合によって中断され得る。図1の量子ビットアセンブリ100と同様に、量子ビットアセンブリ200は、電圧源(図示せず)を利用して、超伝導アイランド210および磁束源(図示せず)にオフセット電圧を提供し、接地への接続によって形成された超伝導ループ(例えば、222~226)に磁束を選択的に提供する。
【0019】
本明細書で説明するように、任意の数の調整可能な電流演算子を有する量子ビットアセンブリのハミルトニアンは、次のように表すことができる。
【数2】
【0020】
式中、Eは、ジョセフソン接合容量からの全ての寄与を含む超伝導アイランドの総充電エネルギーであり、EJiは、ジョセフソン接合のi番目のジョセフソンエネルギーであり、nおよびθはメインノードの電荷および位相の演算子であり、Mはジョセフソン接合の数でありnは、例えばゲート電圧によって設定されるメインアイランドのオフセット変化であり、φはi番目のジョセフソン接合の正規化された分岐磁束である。
【0021】
より一般的には、ジョセフソン接合はN個の区間にグループ化でき、各々が少なくとも2つのジョセフソン接合のセットを含む。かかるシステムの場合、ハミルトニアンは次のように記述できる。
【数3】
【0022】
式中、{φ}は、k番目の区間の一部であるジョセフソン接合の正規化された分岐磁束のセットφを表し、関数E (k)({φ})は、k番目の区間の全てのジョセフソン接合にわたる集合ジョセフソンエネルギーを表し、関数E (k)({φ})および
【数4】
は、同じ周波数の余弦項の合計と、k番目の区間の一部であるジョセフソン接合の標準規則によって定義される。
【0023】
上記から、E (k)({φ})は正規化された分岐磁束間の差にのみ依存し得、量子ビットアセンブリ200は、全ての区間に対してE (k)({φ})=0である超伝導ループへの磁束の一貫した割り当てが存在するように設計されている。この割り当ては、各区間kに対して、同様の割り当てが利用可能な区間kのジョセフソン接合のセットから形成できるサブ区間k’がない(つまり、E (k’)({φ}k’)=0となるようなk’が存在しない)という意味で最大であると想定される。この集合ジョセフソン接合は、特定の区間内の分岐磁束間の差にのみ依存するため、ハミルトニアンを不変のままにして変化させ得るN-1個の独立した物理磁束が存在する。一例では、これらの磁束は、各区間の接合の分岐磁束の平均値
【数5】
の差として選択でき、
【数6】

【数7】
として表すことができる。ここで、
【数8】
は区間k内の接合の分岐磁束間の差のみに依存する。
【0024】
全ての区間でE (k)({φ})=0となる点では、ハミルトニアンは単純にH=E(n-nである。ゲート電荷が半整数値に調整されると、超伝導アイランドの総充電エネルギーの2倍だけ高エネルギー部分空間から分離された縮退した低エネルギー部分空間が提供される。低エネルギー部分空間内で、演算子
【数9】
を識別でき、後者の2つは、位相と電荷の自由度の交換関係から得られる。さらに、E (k)({φ})=0の場合、区間k内のある物理磁束fに共役な物理電流演算子は、
【数10】
のように与えられる。区間の一つ、kにその区間の分岐磁束の平均値を
【数11】
に設定することにより、x軸として定義でき、それにより、区間の電流がcos(θ)に比例する。他の区間の場合、計算部分空間の現在の演算子の方向は、その区間の物理磁束
【数12】
を変えることによって調整できる。例えば、区間の分岐磁束の平均値k
【数13】
に設定されている場合、区間kの循環電流はsin(θ)に比例するため、y軸に沿って整列した電流演算子が提供される。
【0025】
図示の例では、第1の電流演算子は、ジョセフソン接合212および213を含む第1の超伝導ループ222に対応する第1の区間で定義され、第2の電流演算子は、ジョセフソン接合214および215を含む第2の超伝導ループ223に対応する第2の区間で定義され、第3の電流演算子は、ジョセフソン接合216および217を含む第3の超伝導ループ224に対応する第3の区間で定義される。各区間の物理的磁束の差は、第4のおよび第5の超伝導ループ225および226に制御磁束を提供することによって制御することができ、第2のおよび第3の電流演算子の各々を第1の電流演算子に対して調整することができる。
【0026】
図示の例では、第2の超伝導ループ223における分岐磁束の平均値は、第2の電流演算子がブロッホ球のx軸を表すように、上記のように設定することができる。第1の制御磁束を、選択された大きさで第4の超伝導ループ225に適用して、第1の電流演算子の方向をブロッホ球内の所望の方向に調整することができる。実際には、第4の超伝導ループ225に提供される大きさΦの制御磁束は、
【数14】
に比例する方向に演算子を整列させる。同様に、第2の制御磁束を、選択された大きさで第5の超伝導ループ226に適用して、第3の電流演算子の方向をブロッホ球内の所望の方向に調整することができる。結果として、量子ビットアセンブリ200は、パウリZ軸に対応する電圧演算子、パウリX軸に対応する第1の電流演算子、およびパウリZ軸に垂直な平面内の任意に選択された軸に対応する2つの追加の電流演算子を含む。量子ビットアセンブリ200は、上記の原理を用いて、ジョセフソン接合によって中断された接地への追加の接続を用いて拡張して、記載された3つを超える追加の電流演算子を含み得ることが理解されよう。
【0027】
図3は、2つの量子ビットアセンブリ310および320が2つの量子ビットアセンブリ間の選択可能な結合を提供するために、調整可能なカプラ330を介して結合されるシステム300を示している。各量子ビットアセンブリ310および320は、図1に記載されたものと同様であり、それぞれ、パウリX軸に関連付けられた量子ビットの第1の電流演算子を表す第1の超伝導ループ312および322、ならびに、関連する磁束源340からの磁束を受容して、それぞれの第3の超伝導ループ316および326によって表される第2の電流演算子の方向を調整する第2の超伝導ループ314および324を備えている。
【0028】
図示の実施形態では、調整可能なカプラ330は、2つの量子ビットアセンブリ310および320の第3の超伝導ループ316および326を結合するように配置されている。図示の実施形態では、調整可能なカプラ330は、磁束源からの磁束に応答して、2つの量子ビットアセンブリの選択的結合を可能にするが、一部の実装形態では、固定された調整不可能な結合が使用され得ることが理解される。2つの量子ビットアセンブリ310および320の各々の第2の電流演算子の方向は、第2の超伝導ループ314および324に磁束を印加することによって、少なくともブロッホ球の定義された平面内で選択可能であることが理解されよう。したがって、これらの電流演算子に対して同じ方向を選択することにより、2つの量子ビット310と320との間の結合の方向を動的に選択することができる。
【0029】
この選択可能な結合は、量子スピンシステム用の量子ビットの一意の格子を作成するために使用でき、量子ビットはZ軸に沿って結合できる。これにより、量子ビットに関連付けられたそれぞれの電圧演算子の整列は、2つの電流演算子を表すループを介するだけでなく、エネルギー的にも有利となる。一例では、量子ビットのセットは、各量子ビットが3つの隣接する量子ビットのセットに結合されるように、キタエフハニカム格子に配置することができる。この例では、量子ビットは、量子ビットの超伝導アイランド間の結合を介して、Z軸に沿った第1の隣接量子ビットに結合され、量子ビットの第1の電流演算子を含む超伝導ループ間の結合を介して、X軸に沿った第2の隣接量子ビットに結合され、量子ビットの第2の電流演算子を含む超伝導ループ間の結合を介して、Y軸に沿った第3の隣接量子ビットに結合される。しかしながら、本明細書に開示される量子ビットアセンブリは、3つ以上の超伝導ループが使用される場合、2つ以上の電流演算子を有することができ、各量子ビットの第2の以降の電流演算子の向きは動的に調整可能であることが理解されよう。したがって、3つを超える結合を有するか、または軸方向以外の方向に沿った結合を有する量子ビットの格子が想定される。
【0030】
上記の図1~3に記載された前述の構造的および機能的特徴を考慮して、例示的な方法は、図4~6を参照してよりよく理解されるであろう。説明を簡単にする目的で、図4~6の例示的な方法は、連続的に実行されるように示され、説明されているが、一部の動作は、他の例では、異なる順序で、複数回、および/または本明細書に示され、説明されているものと並行して生じ得るので、本例は、図示されている順序によって制限されないことを理解および認識されたい。
【0031】
図4は、量子ビットに電流演算子を提供するための方法400を示している。402において、第1の値を有する制御磁束が、量子ビットの第1の超伝導ループに提供されて、一組の基底状態を有する第2の超伝導ループ内の電流に対応する量子演算子を提供する。404において、制御磁束の第2の値は、量子ビットの第1の超伝導ループに提供され、量子演算子に関連付けられた基底状態のセットを改変する。一例では、量子ビットに関連する一次演算子、例えば、電圧演算子は、パウリZ演算子として指定され、第3の超伝導ループに関連する1つの電流演算子は、パウリX演算子として指定される。量子演算子は、制御磁束を介して調整して、
【数15】
に比例する演算子を提供でき、ここで、 は制御磁束の値である。量子ビットは、一次演算子、電流演算子、または調整可能な量子演算子の各々に沿って測定できることが理解されよう。
【0032】
図5は、本発明の一態様による量子ビットの回転を実行するための方法500を表す。502において、第1の値を有する制御磁束が、量子ビットの第1の超伝導ループに提供されて、一組の基底状態を有する第2の超伝導ループ内の電流に対応する量子演算子を提供する。504において、論理演算が量子ビットで実行される。例えば、量子ビットは、制御された回転ゲート内のターゲットまたは制御量子ビットなど、論理ゲート操作の一部として使用できる。一実施形態では、量子演算子および論理演算子に関連する一連の基底状態の各々を、古典的なコンピュータで記録することができる。基底状態は、例えば、演算子を表すブロッホ球の軸として表すことができる。506において、制御磁束の第2の値が量子ビットの第1の超伝導ループに提供され、その結果、量子演算子に関連する基底状態のセットが変更される。記録された基底状態を使用して、後の測定結果を解釈して、量子ビットの受動的回転が表され得ることが理解されよう。
【0033】
図6は、ブロッホ球の特定の軸に沿って2つの量子ビットを結合するための方法600を示している。602において、第1の量子ビットに関連付けられ、関連する第1の量子演算子を提供する第1の超伝導ループが、第2の量子ビットに関連付けられ、関連する第2の量子演算子を提供する第2の超伝導ループに結合される。604において、第1の制御磁束が第1の量子ビットに提供されて、ブロッホ球の軸を表すように第1の量子演算子を調整する。例えば、第1の超伝導ループは、ジョセフソン接合を第3の超伝導ループと共有することができ、第1の制御磁束は、第3の超伝導ループに提供することができる。606において、第2の制御磁束が第2の量子ビットに提供されて、ブロッホ球の軸を表すように第2の量子演算子を調整する。例えば、第2の超伝導ループは、ジョセフソン接合を第4の超伝導ループと共有することができ、第2の制御磁束を第4の超伝導ループに提供することができる。
【0034】
前述のように、方法600は、図示した順序で進行しなくてもよい。例えば、602での第1の超伝導ループと第2の超伝導ループの間の結合は、調整可能なカプラアセンブリに第3の制御磁束を提供することによりループの選択的結合を可能にするように、第1の超伝導ループと第2の超伝導ループとの間に配置された調整可能なカプラアセンブリを介して実行することができる。かかる場合、第1および第2の量子演算子が604および606で調整されるまで、2つの量子ビットは602で結合されなくてもよい。
【0035】
上記したものは、本発明の例である。無論、本発明を説明する目的で構成要素または方法の想定される全ての組み合わせを説明することは不可能であるが、当業者であれば、本発明の多くのさらなる組み合わせおよび置換が可能であることを理解するであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲を含む、本出願の範囲内のかかる全ての改変、修正、および変形を包含することが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6