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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20230210BHJP
【FI】
F04C18/02 311J
F04C18/02 311F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021537270
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029259
(87)【国際公開番号】W WO2021024907
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2019146772
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】河野 博之
(72)【発明者】
【氏名】二上 義幸
(72)【発明者】
【氏名】作田 淳
【審査官】嘉村 泰光
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131910(JP,A)
【文献】特開平04-234589(JP,A)
【文献】米国特許第06139294(US,A)
【文献】米国特許第07811071(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/00- 2/077
F04C 18/00-18/077
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器と、
前記密閉容器内を高圧空間と低圧空間とに区画する仕切板と、
前記低圧空間に配置された、圧縮機構部及び前記圧縮機構部を駆動する電動機と、
を備えたスクロール圧縮機であって、
前記圧縮機構部は、
前記仕切板に隣接して配置された固定スクロールと、
前記固定スクロールと噛み合わされて圧縮室を形成する旋回スクロールと、
前記旋回スクロールの自転を防止するオルダムリングと、
前記旋回スクロールを支持する主軸受と、を有し、
前記旋回スクロールの背面に、前記低圧空間の圧力よりも高い圧力を有する圧力付与領域が配置され、
前記圧力付与領域の圧力により、前記旋回スクロールが前記固定スクロールに押し付けられ、
前記オルダムリングは、前記固定スクロールと前記旋回スクロールとの間に配置され、
前記圧力付与領域の一部が前記オルダムリングの下方に存在する、
スクロール圧縮機。
【請求項2】
前記オルダムリングは、前記低圧空間に連通する低圧領域に配置された、
請求項1記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記圧力付与領域は、高圧付与領域及び前記高圧付与領域よりも低い圧力を有する中圧付与領域の少なくともいずれかにより形成され、
前記高圧付与領域に吐出ガスの圧力が導入され、且つ、前記中圧付与領域に圧縮途中のガスの圧力が導入される、
請求項1または2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記固定スクロール外周部は、前記固定スクロールのラップ先端から前記オルダムリングの厚み分以上に段落ちされている、
請求項1~3のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記固定スクロールの前記オルダムリング側に、一直線上に無い平行な一対の第一の溝が配置され、
前記旋回スクロールの前記オルダムリング側に、一直線上に無い平行な一対の第二の溝が配置され、
前記オルダムリングの前記固定スクロール側に、前記一対の第一の溝に摺動自在に嵌合する一対の第一のキー部が配置され、
前記オルダムリングの前記旋回スクロール側に、前記一対の第二の溝に摺動自在に嵌合する一対の第二のキー部が配置され、
前記一対の第一のキー部の摺動方向と前記一対の第二のキー部の摺動方向とが直交する、請求項1~4のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、スクロール圧縮機を開示する。このスクロール圧縮機は、密閉容器内高圧型である。図9に示すように、旋回スクロール6の背面には、密閉容器内の高圧と同等の圧力の領域である油室と、圧縮途中の中圧を付与する背圧室14とが設けられている。これにより、運転条件が変わっても適正に旋回スクロール6を固定スクロール3に押し付けて、旋回スクロールが固定スクロールから離れないようにし、漏れによる性能低下を回避している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭60-69280号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示は、密閉容器内低圧型のスクロール圧縮機においても、旋回スクロールが固定スクロールから離れることを回避して、圧縮室からの圧力の漏れによる性能低下を抑制できるスクロール圧縮機を提供する。
【0005】
本開示におけるスクロール圧縮機は、密閉容器と、密閉容器内を高圧空間と低圧空間とに区画する仕切板と、低圧空間に配置された、圧縮機構部及び圧縮機構部を駆動する電動機と、を有する。圧縮機構部は、固定スクロールと、固定スクロールと噛み合わされて圧縮室を形成する旋回スクロールと、旋回スクロールの自転を防止するオルダムリングと、を有する。オルダムリングは、固定スクロールと旋回スクロールとの間に配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施の形態1におけるスクロール圧縮機の縦断面図である。
図2図2は、実施の形態1におけるスクロール圧縮機の要部断面図である。
図3図3は、実施の形態1におけるスクロール圧縮機の旋回スクロールを上面から見た斜視図である。
図4図4は、実施の形態1におけるスクロール圧縮機の旋回スクロールの断面図である。
図5図5は、実施の形態1におけるスクロール圧縮機の固定スクロールの下面図である。
図6図6は、実施の形態1におけるスクロール圧縮機の固定スクロールの断面図である。
図7図7は、実施の形態1におけるスクロール圧縮機のオルダムリングの上面図である。
図8図8は、実施の形態1におけるスクロール圧縮機の要部断面図である。
図9図9は、従来のスクロール圧縮機の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、スクロール圧縮機としては、特許文献1に示す密閉容器内高圧型スクロール圧縮機のほかに、密閉容器内が高圧の領域と低圧の領域とに仕切られ、低圧の領域に圧縮機構及び電動機が設けられた密閉容器内低圧型のスクロール圧縮機があった。この密閉容器内低圧型のスクロール圧縮機においては、旋回スクロールの背面の中心部に偏心軸受の配置される低圧領域が形成される。このため、旋回スクロールの背面側にオルダムリングを配置しようとすると、旋回スクロールの背面に圧力付与領域のために必要な面積を確保することができない。そのため、旋回スクロールを固定スクロールへ押し付ける力が不足することにより、旋回スクロールが固定スクロールから離れることで圧縮室からの圧力の漏れが発生して、性能が低下するという課題があった。発明者らはこのような課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0008】
以下、図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0009】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0010】
(実施の形態1)
以下、図1図8を用いて、実施の形態1について説明する。
【0011】
[1-1.構成]
図1は本開示の実施の形態におけるスクロール圧縮機の縦断面図であり、図2は同スクロール圧縮機の要部断面図である。
【0012】
図1および図2において、圧縮機10は、上下方向が長手方向となる円筒状の密閉容器20を外殻として備えている。なお、本実施の形態において、上下方向とは、各図におけるZ軸方向である。
【0013】
圧縮機10は、密閉容器20の内部に、冷媒を圧縮するための圧縮機構部30と圧縮機構部30を駆動するための電動機40と、を備えた密閉型スクロール圧縮機である。
【0014】
密閉容器20の内部の上方には、密閉容器20の内部を上下に仕切る仕切板50が設けられている。仕切板50は、密閉容器20の内部を、高圧空間60と低圧空間70とに区画している。高圧空間60は、圧縮機構部30で圧縮された後の高圧の冷媒で満たされる空間である。低圧空間70は、圧縮機構部30で圧縮される前の低圧の冷媒で満たされる空間である。
【0015】
密閉容器20は、密閉容器20の外部と低圧空間70とを連通させる冷媒吸込管80と、密閉容器20の外部と高圧空間60とを連通させる冷媒吐出管90とを備えている。圧縮機10には、冷媒吸込管80を介して、密閉容器20の外部に設けられた冷凍サイクル回路(図示せず)から低圧空間70に低圧の冷媒が導入される。圧縮機構部30で圧縮された高圧の冷媒は、まず、高圧空間60に導入される。その後、冷媒は、高圧空間60から冷媒吐出管90を介して、冷凍サイクル回路に吐出される。
【0016】
低圧空間70の底部には、潤滑油が貯留される油溜まり100が形成されている。
【0017】
圧縮機10は、低圧空間70に、圧縮機構部30と電動機40と、を備えている。圧縮機構部30は、少なくとも、固定スクロール110、旋回スクロール120、主軸受130及びオルダムリング140で構成されている。固定スクロール110は、仕切板50の下方に仕切板50と隣接して配置されている。旋回スクロール120は、固定スクロール110の下方に、固定スクロール110と噛み合わされて配置されている。
【0018】
固定スクロール110は、円板状の固定スクロール端板111と、固定スクロール端板111の下面に立設された渦巻状の固定渦巻きラップ112とを備えている(後述の図5及び図6参照)。
【0019】
旋回スクロール120は、円板状の旋回スクロール端板121と、旋回スクロール端板121の上面に立設された渦巻状の旋回渦巻きラップ122と、下方ボス部123とを備えている(後述の図3及び図4参照)。下方ボス部123は、旋回スクロール端板121の下面の略中央に形成された円筒状の突起である。
【0020】
旋回スクロール120の旋回渦巻きラップ122と固定スクロール110の固定渦巻きラップ112とが噛み合わされることで、旋回スクロール120と固定スクロール110との間に圧縮室150が形成される。圧縮室150は、旋回渦巻きラップ122の内壁面(後述する)側及び外壁面(後述する)側に形成される。
【0021】
固定スクロール110及び旋回スクロール120の下方には、旋回スクロール120を支持する主軸受130が設けられている。主軸受130は、上面の略中央に設けられたボス収容部131と、ボス収容部131の下方に設けられた軸受部132とを備えている。ボス収容部131は、旋回スクロール120の下方ボス部123を収納するため凹部である。軸受部132は、上端がボス収容部131に開口し、且つ、下端が低圧空間70に開口する貫通孔である。
【0022】
主軸受130は、上面で旋回スクロール120を支持するとともに、軸受部132で回転軸160を軸支する。
【0023】
回転軸160は、図1における上下方向が長手方向となる軸である。回転軸160の一端側は、軸受部132により軸支され、他端側は、副軸受170で軸支される。副軸受170は、低圧空間70の下方、望ましくは、油溜まり100内に設けられた軸受である。回転軸160の上端には、回転軸160の軸心に対して偏心した偏心軸161が設けられている。偏心軸161は、スイングブッシュ180及び旋回軸受124を介して、下方ボス部123に摺動自在に挿入されている。下方ボス部123は、偏心軸161によって旋回駆動される。
【0024】
回転軸160の内部には、潤滑油が通過する油路162が形成されている。油路162は、回転軸160の軸方向に形成された貫通孔である。油路162の一端は、回転軸160の下端に設けられた吸込口163として、油溜まり100内に開口している。吸込口163の上部には、吸込口163から油路162に潤滑油を汲み上げるパドル190が設けられている。
【0025】
回転軸160の内部には、第1分岐油路164と第2分岐油路165とが形成されている。第1分岐油路164の一端は第1給油口166として軸受部132の軸受面で開口し、第1分岐油路164の他端は油路162に連通する。また、第2分岐油路165の一端は第2給油口167として副軸受170の軸受面で開口し、第2分岐油路165の他端側は油路162に連通する。
【0026】
油路162の上端は第3給油口168としてボス収容部131の内部に開口する。
【0027】
回転軸160は電動機40に連結されている。電動機40は、主軸受130と副軸受170の間に配置されている。電動機40は、密閉容器20に固定されたステータ41と、このステータ41の内側に配置されたロータ42とを備えている。
【0028】
回転軸160はロータ42に固定されている。回転軸160は、ロータ42の上方に設けられたバランスウェイト200aと、下方に設けられたバランスウェイト200bとを備えている。バランスウェイト200aとバランスウェイト200bとは、回転軸160の周方向に180°ずれた位置に配置されている。
【0029】
回転軸160は、バランスウェイト200a及びバランスウェイト200bによる遠心力と、旋回スクロール120の公転運動により発生する遠心力とで、バランスを取って回転する。なお、バランスウェイト200a及びバランスウェイト200bは、ロータ42に設けられていてもよい。
【0030】
固定スクロール110、旋回スクロール120及びオルダムリング140は、仕切板50と主軸受130との間に配置されている。
【0031】
仕切板50及び主軸受130は密閉容器20に固定されている。固定スクロール110は、主軸受130にボルト等で締結されている。旋回スクロール120は、固定スクロール110と主軸受130との間を軸方向に移動自在に設けられている。
【0032】
主軸受130のボス収容部131の外側の、旋回スクロール120を支持する面には、複数の環状溝133(図2参照)が形成されている。環状溝133にはシール部材210が挿入されている。シール部材210が旋回スクロール120の背面に接することで、シール部材210間に空間が形成されている。この空間には低圧空間70よりも高い圧力が導入されて、圧力付与領域220が形成されている。
【0033】
本実施の形態では、圧力付与領域220はさらに、シール部材210により、高圧付与領域221と中圧付与領域222とに仕切られている。高圧付与領域221には吐出ガスと同等の圧力が導入される。中圧付与領域222には、圧縮途中のガスの圧力が導入される。これにより、圧縮圧力が高低圧の異なる種々の運転条件において最適な押付力を設定することができる。
【0034】
主軸受130には、一端がボス収容部131に開口し、他端が主軸受130の下面で開口する返送経路134が形成されている。
【0035】
オルダムリング140は、固定スクロール110と旋回スクロール120との間に設けられている。オルダムリング140は、旋回スクロール120の自転を防止し、旋回運動をする。
【0036】
圧縮機10の詳細な構成について、さらに説明する。
【0037】
図3は、本実施の形態にかかるスクロール圧縮機の旋回スクロールを上面から見た斜視図である。図4は、同旋回スクロールの縦断面図である。
【0038】
旋回渦巻きラップ122は、旋回スクロール端板121の中心側に位置する始端122aを巻き始めとし、外周側に位置する終端122bに向けて徐々に半径の拡大する、インボリュート曲線状の断面を備える壁である。旋回渦巻きラップ122は、所定の高さ(上下方向の長さ)と所定の壁厚(旋回渦巻きラップ122の径方向の長さ)とを有する。
【0039】
旋回スクロール120の略中心部には、吐出ポートへと連通する圧縮室150に吐出ザグリ125が形成されている。図4に示すように、旋回スクロール端板121には、吐出ザグリ125と高圧付与領域221とを連通する高圧導入経路126が形成されている。
【0040】
また、旋回スクロール端板121には、圧縮途中の中間圧力の冷媒が存在する領域に中圧ポート127が形成されている。中圧導入経路128は、中圧ポート127と中圧付与領域222とを連通する(図2参照)。
【0041】
図3に示すように、旋回スクロール端板121におけるオルダムリング140側には、一対の一直線上に無い平行な第2のキー溝129が設けられている。
【0042】
図5は、本実施形態にかかるスクロール圧縮機の固定スクロールの下面図である。図6は、同固定スクロールの断面図である。
【0043】
図5及び図6に示すように、固定渦巻きラップ112は、固定スクロール端板111の中心側に位置する始端112aを巻き始めとし、外周側に位置する終端112cに向けて徐々に半径の拡大する、インボリュート曲線状の断面を備える壁である。固定渦巻きラップ112は、旋回渦巻きラップ122と等しい所定の高さ(上下方向の長さ)と、所定の壁厚(固定渦巻きラップ112の径方向の長さ)とを有する。
【0044】
固定渦巻きラップ112は、始端112aから中間部112bにかけては、内壁面(中心側の壁面)と外壁面(外周側の壁面)とを有する。中間部112bから終端112cにかけては、内壁面のみを備えている。
【0045】
固定スクロール端板111の略中心部には、第1吐出ポート113が形成されている。また、固定スクロール端板111には、バイパスポート114が形成されている。バイパスポート114は、第1吐出ポート113の近傍であって、圧縮完了直前の高圧圧力の冷媒が存在する領域に配置されている。バイパスポート114としては、旋回渦巻きラップ122の外壁面側に形成される圧縮室150と連通するバイパスポートのセット、及び、旋回渦巻きラップ122の内壁面側に形成される圧縮室150と連通するバイパスポートのセットの2セットが設けられている。
【0046】
固定スクロール110の外周部には、固定渦巻きラップ112の先端に対して段差を有する外周段差部115が形成されている。外周段差部115は、固定渦巻きラップ112の先端からオルダムリング140の厚み分以上低くなる位置に配置されている。外周段差部115にオルダムリング140が配置されている。
【0047】
図5に示すように、固定スクロール110の外周部には、一対の一直線上に無い平行な第1のキー溝116が設けられている。
【0048】
固定スクロール110の周壁117には、冷媒を圧縮室150に取り込むための吸入部118が形成されている。
【0049】
図6に示すように、固定スクロール110の上面(仕切板50側の面)には、中央に上方ボス部119が設けられている。上方ボス部119は、固定スクロール110の上面から突出する円柱状の突起である。第1吐出ポート113及びバイパスポート114は、上方ボス部119の上面で開口する。上方ボス部119の上面側には、上方ボス部119と仕切板50との間に吐出空間110Hが形成される(図1参照)。第1吐出ポート113及びバイパスポート114は、吐出空間110Hと連通する。
【0050】
上方ボス部119の上面には、バイパスポート114を開閉自在とするバイパス逆止弁230と、バイパス逆止弁230の過度な変形を防止するバイパス逆止弁ストップ240とが設けられている(図1参照)。バイパス逆止弁230にリードバルブを用いることで高さ方向の大きさをコンパクトにできる。
【0051】
図7は、本実施の形態にかかるスクロール圧縮機のオルダムリングの上面図である。
【0052】
オルダムリング140は、固定スクロール110と旋回スクロール120との間に配置されている。本実施の形態においては、オルダムリング140は、固定スクロール110の外周段差部115(図6参照)に配置されている。
【0053】
オルダムリング140は、略円環状のリング部141と、リング部141の上面から突出する一対の第1のキー142及びリング部141の下面から突出する一対の第2のキー143とを備えている。第1のキー142は、一直線上に無い平行な直線上にそれぞれ配置されている。第2のキー143も、一直線上に無い平行な直線上にそれぞれ配置されている。第1のキー142の配置されている直線と、第2のキー143の配置されている直線とは、直交するように設けられている。
【0054】
第1のキー142は、固定スクロール110の第1のキー溝116と係合し、第2のキー143は、旋回スクロール120の第2のキー溝129と係合する。これによって、旋回スクロール120は、固定スクロール110に対して自転することなく旋回運動が可能となる。
【0055】
図8は、本実施の形態にかかるスクロール圧縮機の要部断面図である。
【0056】
仕切板50の中心部には、第2吐出ポート51が設けられている。仕切板50の上面には、第2吐出ポート51を開閉自在とする吐出逆止弁250と、吐出逆止弁250の過度な変形を防止する吐出逆止弁ストップ260とが設けられている。
【0057】
仕切板50と固定スクロール110との間には、吐出空間110Hが形成される。吐出空間110Hは、第1吐出ポート113及びバイパスポート114によって圧縮室150と連通する。吐出空間110Hは、第2吐出ポート51によって高圧空間60と連通する。
【0058】
吐出逆止弁250の板厚は、バイパス逆止弁230の板厚より厚い。これによって、吐出逆止弁250がバイパス逆止弁230より先に開くことを防止できる。
【0059】
第2吐出ポート51の断面積は、第1吐出ポート113の断面積よりも大きい。これによって、圧縮室150から吐出される冷媒の圧力損失を低減できる。
【0060】
また、第2吐出ポート51の流入側にテーパが形成されていてもよい。これによって、より圧力損失を低減できる。
【0061】
仕切板50の下面には、第2吐出ポート51の周りに凹部52が設けられている。固定スクロール110の上方ボス部119が凹部52に挿入されて、吐出空間110Hが形成されている。シール部材270により、吐出空間110Hと低圧空間70との間がシールされている。
【0062】
[1-2.動作]
以上のように構成された圧縮機10について、以下その動作、作用について説明する。
【0063】
電動機40の駆動により、ロータ42とともに回転軸160が回転する。回転軸160の回転に伴う偏心軸161の回転と、オルダムリング140とによって、旋回スクロール120は自転することなく回転軸160の中心軸を中心に旋回運動する。これにより、冷媒吸込管80から冷媒が低圧空間70へと導入される。低圧空間70へ導入された冷媒は、電動機40を冷却するとともに、固定スクロール110の吸入部118から圧縮室150へ吸入される。圧縮室150へ吸入された冷媒は、圧縮室150の容積が縮小していくのに伴って圧縮される。
【0064】
圧縮途中における中間圧力の冷媒は、図4に示す中圧ポート127から中圧導入経路128を通って、旋回スクロール120の背面に設けられた中圧付与領域222(図2参照)に導入される。
【0065】
また、圧縮の終了した高圧の冷媒は、図4に示す吐出ザグリ125から高圧導入経路126を通って、旋回スクロール120の背面に設けられた高圧付与領域221(図2参照)に導入される。
【0066】
ここで、本開示ではオルダムリング140が、固定スクロール110と旋回スクロール120との間に配置されている。このため、旋回スクロール120の背面に設けられた、中圧付与領域222及び高圧付与領域221を広く構成することができる。従って、旋回スクロール120を固定スクロール110に適正に押し付けるために必要な圧力付与領域220の面積が確保される。これにより、密閉容器内低圧型圧縮機においても、旋回スクロール120が固定スクロール110から離れることで圧力の漏れが発生するのを抑制して、効率の低下を防ぐことができる。
【0067】
また、本実施の形態の圧縮機10の固定スクロール110には外周段差部115が形成されており、この外周段差部115にオルダムリング140が配置されている。このため、固定渦巻きラップ112の先端と旋回スクロール端板121とのスラスト面積を縮小して、摺動損失を低減することができる。また、旋回スクロール端板121の厚みを確保できるので、旋回スクロール120の剛性を確保することができる。
【0068】
さらに、外周段差部115は吸入部118に連通しているため、外周段差部115には吸入冷媒が存在する。このため、オルダムリング140は、吸入冷媒に含まれるオイルで潤滑される。
【0069】
また、図7のように、第1のキー142及び第2のキー143は各々同一の一直線上に配置されていない。このため、固定スクロール110の第1のキー溝116及び旋回スクロール120の第2のキー溝129を、固定スクロール110及び旋回スクロール120の外径を大きくすること無く形成することができる。よって、密閉容器20の外径が大きくなるのを回避できる。
【0070】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態におけるスクロール圧縮機は、固定スクロールと噛み合わされて圧縮室を形成する旋回スクロールの自転を防止するオルダムリングが、固定スクロールと旋回スクロールとの間に配置されている。そのため、旋回スクロールの背面にオルダムリングを配置するためのスペースが不要となる。従って、旋回スクロールの背面において、旋回スクロールを固定スクロールに対して適正に押し付けるのに必要な圧力付与領域として大きな面積を確保できる。よって、密閉容器内が仕切板で高圧空間と低圧空間とに区画された密閉容器内低圧型圧縮機においても、旋回スクロールが固定スクロールから離れないようにして圧力の漏れを抑制することができるため、圧縮機の効率の低下を防ぐことができる。
【0071】
オルダムリングは、低圧空間に連通する低圧領域に配置されている。従って、オルダムリングは吸入冷媒に含まれるオイルで潤滑されるため、摺動部の信頼性を向上することができる。
【0072】
圧力付与領域は、高圧領域もしくは中圧領域もしくはその両方で形成される。そして、高圧領域に吐出ガスの圧力が導入され、中圧領域に圧縮途中のガスの圧力が導入されるように構成されている。したがって、圧縮圧力が高低圧の異なる種々の運転条件において旋回スクロールの押付力を最適な押付力に設定することができる。このため、旋回スクロールが固定スクロールから離れることによる圧力の漏れ損失、及び、旋回スクロールの固定スクロールへの過剰な押付による摺動損失をより効率よく低減できる。
【0073】
固定スクロールは、固定スクロールの外周部が固定スクロールのラップ先端よりオルダムリングの厚み分以上に段落ちして構成されている。これにより、固定スクロールと旋回スクロールとのスラスト面積を縮小して、スラスト摺動損失を低減できる。また、旋回スクロールの鏡板(端板)の厚みを確保して、旋回スクロールの剛性を確保することができる。
【0074】
固定スクロールのオルダムリング側には、一直線上に無い一対の平行な第一の溝が形成されている。旋回スクロールのオルダムリング側には、一直線上に無い一対の平行な第二の溝が形成されている。また、オルダムリングの固定スクロール側には、第一の溝に摺動自在に嵌合する第一のキー部が設けられ、オルダムリングの旋回スクロール側には第二の溝に摺動自在に嵌合する第二のキー部が設けられている。そして、第一のキー部の摺動方向と第二のキー部の摺動方向とが直交するように構成されている。これにより、固定スクロール及び旋回スクロールの外径を大きくすることなく溝を形成することができるため、密閉容器の外径を大きく構成する必要性を回避することができる。
【0075】
なお、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上のように、本開示にかかるスクロール圧縮機は、密閉容器内を仕切板で高圧空間と低圧空間とに区画した密閉容器内低圧型スクロール圧縮機に適用できる。従って、給湯機、温水暖房装置及び空気調和装置などの電気製品に利用される冷凍サイクル装置のスクロール圧縮機に有用である。
【符号の説明】
【0077】
10 圧縮機
20 密閉容器
30 圧縮機構部
40 電動機
41 ステータ
42 ロータ
50 仕切板
51 第2吐出ポート
52 凹部
60 高圧空間
70 低圧空間
80 冷媒吸込管
90 冷媒吐出管
100 油溜まり
110 固定スクロール
110H 吐出空間
111 固定スクロール端板
112 固定渦巻きラップ
112a 始端
112b 中間部
112c 終端
113 第1吐出ポート
114 バイパスポート
115 外周段差部
116 第1のキー溝
117 周壁
118 吸入部
119 上方ボス部
120 旋回スクロール
121 旋回スクロール端板
122 旋回渦巻きラップ
122a 始端
122b 終端
123 下方ボス部
124 旋回軸受
125 吐出ザグリ
126 高圧導入経路
127 中圧ポート
128 中圧導入経路
129 第2のキー溝
130 主軸受
131 ボス収容部
132 軸受部
133 環状溝
134 返送経路
140 オルダムリング
141 リング部
142 第1のキー
143 第2のキー
150 圧縮室
160 回転軸
161 偏心軸
162 油路
163 吸込口
164 第1分岐油路
165 第2分岐油路
166 第1給油口
167 第2給油口
168 第3給油口
170 副軸受
180 スイングブッシュ
190 パドル
200a,200b バランスウェイト
210 シール部材
220 圧力付与領域
221 高圧付与領域
222 中圧付与領域
230 バイパス逆止弁
240 バイパス逆止弁ストップ
250 吐出逆止弁
260 吐出逆止弁ストップ
270 シール部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9