(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】製造条件計算装置、製造条件計算方法及び製造条件計算プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230210BHJP
【FI】
G05B23/02 301Y
(21)【出願番号】P 2019103738
(22)【出願日】2019-06-03
【審査請求日】2022-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】潮田 幹生
(72)【発明者】
【氏名】石川 朋幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 成太
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-139364(JP,A)
【文献】特開2015-125559(JP,A)
【文献】特開2012-99071(JP,A)
【文献】特開2003-76414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品の製造に関する実測データを単位解析期間毎に分割し、前記実測データに含まれる計測項目及び装置並びに前記単位解析期間の組み合わせ毎に、前記実測データに含まれる計測結果のヒストグラム特徴量を算出するヒストグラム特徴量算出部と、
前記ヒストグラム特徴量をもとに、前記計測項目、前記装置及び前記単位解析期間の組み合わせ毎にマハラノビス距離を算出するマハラノビス距離算出部と、
直近の解析対象期間における前記計測項目及び前記装置の組み合わせ毎の前記マハラノビス距離の集計値に基づき集計マハラノビス距離を算出する集計マハラノビス距離算出部と、
前記計測項目、前記装置及び前記単位解析期間の組み合わせ毎に工程能力指数を算出する工程能力指数算出部と、
直近の解析対象期間における前記計測項目及び前記装置の組み合わせ毎の前記工程能力指数の集計値に基づき集計工程能力指数を算出する集計工程能力指数算出部と、
前記集計マハラノビス距離と前記集計工程能力指数を分割区分して表示する異常検知表示部と、を有する、製造条件計算装置。
【請求項2】
前記ヒストグラム特徴量算出部は、前記計測結果の中央値、標準偏差、尖度及び歪度のうち少なくともいずれか1つを、前記ヒストグラム特徴量として算出する、請求項1に記載の製造条件計算装置。
【請求項3】
前記集計マハラノビス距離算出部は、前記組み合わせ毎の前記マハラノビス距離の平均値を、前記集計マハラノビス距離として算出する、請求項1又は2に記載の製造条件計算装置。
【請求項4】
前記集計工程能力指数算出部は、前記組み合わせ毎の前記工程能力指数の平均値を、前記集計工程能力指数として算出する、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造条件計算装置。
【請求項5】
前記集計マハラノビス距離算出部は、前記計測項目、前記装置及び前記単位解析期間の組み合わせ毎に前記工程能力指数と前記集計工程能力指数を比較し、前記工程能力指数が前記集計工程能力指数を超える場合、前記工程能力指数に対応する前記マハラノビス距離に負の符号を付与し、前記工程能力指数が前記集計工程能力指数を超えない場合、前記工程能力指数に対応する前記マハラノビス距離に正の符号を付与し、正負の符号が付与された前記マハラノビス距離に基づき、前記集計マハラノビス距離を算出する、請求項1から4のいずれか1項に記載の製造条件計算装置。
【請求項6】
製品の製造に関する実測データを単位解析期間毎に分割し、前記実測データに含まれる計測項目及び装置並びに前記単位解析期間の組み合わせ毎に、前記実測データに含まれる計測結果のヒストグラム特徴量を算出するヒストグラム特徴量算出工程と、
前記ヒストグラム特徴量をもとに、前記計測項目、前記装置及び前記単位解析期間の組み合わせ毎にマハラノビス距離を算出するマハラノビス距離算出工程と、
直近の解析対象期間における前記計測項目及び前記装置の組み合わせ毎の前記マハラノビス距離の集計値に基づき集計マハラノビス距離を算出する集計マハラノビス距離算出工程と、
前記計測項目、前記装置及び前記単位解析期間の組み合わせ毎に工程能力指数を算出する工程能力指数算出工程と、
直近の解析対象期間における前記計測項目及び前記装置の組み合わせ毎の前記工程能力指数の集計値に基づき集計工程能力指数を算出する集計工程能力指数算出工程と、
前記集計マハラノビス距離と前記集計工程能力指数を分割区分して表示する異常検知表示工程と、を有する、製造条件計算方法。
【請求項7】
コンピュータに、
製品の製造に関する実測データを単位解析期間毎に分割し、前記実測データに含まれる計測項目及び装置並びに前記単位解析期間の組み合わせ毎に、前記実測データに含まれる計測結果のヒストグラム特徴量を算出するヒストグラム特徴量算出工程と、
前記ヒストグラム特徴量をもとに、前記計測項目、前記装置及び前記単位解析期間の組み合わせ毎にマハラノビス距離を算出するマハラノビス距離算出工程と、
直近の解析対象期間における前記計測項目及び前記装置の組み合わせ毎の前記マハラノビス距離の集計値に基づき集計マハラノビス距離を算出する集計マハラノビス距離算出工程と、
前記計測項目、前記装置及び前記単位解析期間の組み合わせ毎に工程能力指数を算出する工程能力指数算出工程と、
直近の解析対象期間における前記計測項目及び前記装置の組み合わせ毎の前記工程能力指数の集計値に基づき集計工程能力指数を算出する集計工程能力指数算出工程と、
前記集計マハラノビス距離と前記集計工程能力指数を分割区分して表示する異常検知表示工程と、を実行させる、製造条件計算プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学プラント、製鉄プラント、半導体製造設備、一般工業製品製造設備等の異常検知技術に関し、特に、過去の複数の稼動時の稼動結果に基づいて、プラント及び製造装置の異常検知精度を高めるための製造条件計算装置、製造条件計算方法及び製造条件計算プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学プラントでは、複数の装置(反応炉等)を使用して同一の製品を生産することが多い。この場合、生産される製品が均一となるように、各装置の稼動状態を適切に管理することが必要である。
しかしながら、複数の装置を並列に同一条件で運転している場合に、それぞれの装置のカタログスペックが同一でも実際には稼働結果に個体差があること、装置内の加工ヘッド毎に稼働結果が異なること、装置の経時変化差によって同一条件で生産していても稼働結果が異なること、前工程の影響により稼働結果が大きく変わることがある。このような装置差、加工ヘッド差、経時変化差、前工程の影響によって、生産される製品が均一となるような状態を装置ごとに精度よく管理することは難しい。
【0003】
同様の問題は、化学プラントに限らず、半導体製造設備、金属精錬プラント、水処理施設、及びガスプラント等でも生じる。また、何らかのものを製造する施設だけではなく、発電・変電施設のように非有体物の特性を変化させるための施設でもこうした問題は生じ得る。以下、本明細書では、何らかのものを製造する施設だけでなく、非有体物の特性を変化させる施設をも含めて「プラント」と呼ぶ。
また、複合的な施設だけでなく、単独の設備であって、稼動条件によって異なる挙動を示すものもここでいう「プラント」に含めるものとする。
【0004】
従来のプラント制御情報生成装置では、過去のサンプル間の関係を用いて、プラントの異常原因推定を行うことが行われている。
より具体的には、特許文献1には、デバイス製造工程や材料プロセス工程等の生産工程における異常原因を推定するための従来の方法の一つとして、例えば、マハラノビス距離を利用したパターン認識により異常原因を診断する方法が開示されている。
図10に特許文献1の異常原因診断方法のフロー図を示す。
【0005】
図10に示すように、最初に、診断しようとする機械の定常状態における適当な数量の所定のデータ(例えば、温度、圧力など)を計測して基準データとし、これらの基準データの特徴量を求める。そして、特徴量を規準化し、規準化した特徴量間の全ての組合せの相関に基づいて相関行列を求め、次いで該相関行列の逆行列(即ち、マハラノビス空間)を求める(ステップ1)。次いで、診断しようとする機械のマハラノビス距離(MD)を求める(ステップ2)。次いで、予め設定した閾値(一般的には、0~3)とMDとを比較し(ステップ3)、MDが閾値よりも大きい場合、距離要素値の最大値を特定する(ステップ4)。そして、距離要素値の最大値に対応する特徴量を基準データの特徴量の平均値で置換する(ステップ5)。次いで、置換した特徴量を用いて、再度MDを求める(ステップ2)。次いで、新たに求められたMDと閾値とを比較し(ステップ3)、MDが閾値よりも大きい場合には、距離要素値の最大値を特定する(ステップ4)。次いで、上述と同様に、置換処理を施し(ステップ5)、MDが閾値よりも小さくなるまで、繰り返す。そして、MDが閾値よりも小さくなった時点で、距離要素値の集計として、距離要素値が最大になったときの値を、その特徴量の異常原因を示す値「最終効果」とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の特許文献1の構成においては、処理フローとして個別サンプルのデータに対して処理を行う必要があるため、サンプル数が膨大になると計算に長時間を要するという課題があった。また、異常原因として推定された工程管理データと正常状態の工程管理データとの大小関係(異常の方向性)、乖離度(異常の程度)が不明であり、そのため異常の方向性及び程度の情報が不足してしまい、診断に基づいて的確な異常対策案を立案するのが困難であるという課題があった。
特に、製造プロセスを決定するパラメータが網羅的に計測されていないような、例えば一般工業製品製造設備において、前工程の非計測項目がプロセスへ支配的な影響を及ぼす場合もあり、その場合は異常と判断したものが、従来よりも装置稼動状態が良い方向に変化したことを検知することもあり、異常検知の活用が不十分となるといった問題があった。
【0008】
本発明の目的は、前記問題を解決することにあって、製造プロセスを決定するパラメータが網羅的に計測されていないような、例えば一般加工設備においても、装置異常に対する取り組み判断を定量的に実施できる製造条件計算装置、製造条件計算方法及び異常検知プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の製造条件計算装置は、製品の製造に関する実測データを単位解析期間毎に分割し、前記実測データに含まれる計測項目及び装置並びに前記単位解析期間の組み合わせ毎に、前記実測データに含まれる計測結果のヒストグラム特徴量を算出するヒストグラム特徴量算出部と、前記ヒストグラム特徴量をもとに、前記計測項目、前記装置及び前記単位解析期間の組み合わせ毎にマハラノビス距離を算出するマハラノビス距離算出部と、直近の解析対象期間における前記計測項目及び前記装置の組み合わせ毎の前記マハラノビス距離の集計値に基づき集計マハラノビス距離を算出する集計マハラノビス距離算出部と、前記計測項目、前記装置及び前記単位解析期間の組み合わせ毎に工程能力指数を算出する工程能力指数算出部と、直近の解析対象期間における前記計測項目及び前記装置の組み合わせ毎の前記工程能力指数の集計値に基づき集計工程能力指数を算出する集計工程能力指数算出部と、前記集計マハラノビス距離と前記集計工程能力指数を分割区分して表示する異常検知表示部と、を有する。
【0010】
本発明の製造条件計算方法は、製品の製造に関する実測データを単位解析期間毎に分割し、前記実測データに含まれる計測項目及び装置並びに前記単位解析期間の組み合わせ毎に、前記実測データに含まれる計測結果のヒストグラム特徴量を算出するヒストグラム特徴量算出工程と、前記ヒストグラム特徴量をもとに、前記計測項目、前記装置及び前記単位解析期間の組み合わせ毎にマハラノビス距離を算出するマハラノビス距離算出工程と、直近の解析対象期間における前記計測項目及び前記装置の組み合わせ毎の前記マハラノビス距離の集計値に基づき集計マハラノビス距離を算出する集計マハラノビス距離算出工程と、前記計測項目、前記装置及び前記単位解析期間の組み合わせ毎に工程能力指数を算出する工程能力指数算出工程と、直近の解析対象期間における前記計測項目及び前記装置の組み合わせ毎の前記工程能力指数の集計値に基づき集計工程能力指数を算出する集計工程能力指数算出工程と、前記集計マハラノビス距離と前記集計工程能力指数を分割区分して表示する異常検知表示工程と、を有する。
【0011】
本発明の製造条件計算プログラムは、コンピュータに、製品の製造に関する実測データを単位解析期間毎に分割し、前記実測データに含まれる計測項目及び装置並びに前記単位解析期間の組み合わせ毎に、前記実測データに含まれる計測結果のヒストグラム特徴量を算出するヒストグラム特徴量算出工程と、前記ヒストグラム特徴量をもとに、前記計測項目、前記装置及び前記単位解析期間の組み合わせ毎にマハラノビス距離を算出するマハラノビス距離算出工程と、直近の解析対象期間における前記計測項目及び前記装置の組み合わせ毎の前記マハラノビス距離の集計値に基づき集計マハラノビス距離を算出する集計マハラノビス距離算出工程と、前記計測項目、前記装置及び前記単位解析期間の組み合わせ毎に工程能力指数を算出する工程能力指数算出工程と、直近の解析対象期間における前記計測項目及び前記装置の組み合わせ毎の前記工程能力指数の集計値に基づき集計工程能力指数を算出する集計工程能力指数算出工程と、前記集計マハラノビス距離と前記集計工程能力指数を分割区分して表示する異常検知表示工程と、を実行させる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明の製造条件計算装置、製造条件計算方法及び製造条件計算プログラムによれば、装置異常に対する取り組み判断を定量的に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態1,2に係る製造条件計算装置のブロック図
【
図2】実施の形態1,2に係る製造条件計算装置の処理部のブロック図
【
図3】実施の形態1に係る製造条件計算装置の処理を示すフローチャート
【
図4】実施の形態1に係るデータベースに登録されたデータの例を示す図
【
図5】実施の形態1に係る変化度と健全度を同時に表す例を示す図
【
図6】実施の形態2に係る製造条件計算装置の処理を示すフローチャート
【
図7】実施の形態2に係る製造条件計算装置の処理の一部の詳細を示すフローチャート
【
図8】実施の形態2に係るデータベースに登録されたデータの例を示す図
【
図9】実施の形態2に係る変化度と健全度を同時に表す例を示す図
【
図10】従来の異常原因診断方法を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る製造条件計算装置1のブロック図である。
図2
は、製造条件計算装置1の処理部166のブロック図である。実施の形態1に係る製造条件計算装置1は、コンピュータシステムハードウェア及びコンピュータシステム上で実行されるプログラムによって実現され得る。なお、ここで示す製造条件計算装置1は単なる例であって、他の構成も利用可能である。
【0015】
<装置>
図1に示すように、製造条件計算装置1は、コンピュータ120と、全てコンピュータ120に接続された、モニタ122と、プリンタ124と、キーボード126と、マウス128と、を含む。
【0016】
コンピュータ120は、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read-Only-Memory:ディジタル多用途ディスク読出専用メモリ)のドライブ150と、半導体メモリポート152とを含む。さらに、コンピュータ120は、DVD-ROMドライブ150と半導体メモリポート152とに接続されたバス142と、全てバス142に接続された、CPU140と、コンピュータ120のブートアッププログラムを記憶するROM144とを含む。また、コンピュータ120は、RAM146と、ハードディスクドライブ148と、ネットワークインターフェイス154とを含む。RAM146は、CPU140によって使用される作業領域を提供するとともにCPU140によって実行されるプログラムの記憶領域である。ハードディスクドライブ148は、音声データ、音響モデル、言語モデル、レキシコン、及びマッピングテーブルを記憶する。ネットワークインターフェイス154は、ネットワーク164への接続を提供する。
【0017】
図2を参照して、製造条件計算装置1は、CPU140がプログラムを実行することにより構成される処理部166を含む。処理部166は、実測データ記録部168と、解析期間設定部170と、ヒストグラム特徴量算出部172と、マハラノビス距離算出部174と、集計マハラノビス距離算出部176と、工程能力指数算出部178と、集計工程能力指数算出部180と、異常検知表示部182と、を含む。
【0018】
本実施の形態1に係る製造条件計算装置1の処理部166を実現するソフトウェアは、DVD-ROM162又は半導体メモリ160等の媒体に記録されたオブジェクトコード又はスクリプトの形で流通し、DVD-ROMドライブ150又は半導体メモリポート152等の読出装置を介してコンピュータ120に提供され、ハードディスクドライブ148に記憶される。CPU140がプログラムを実行する際には、プログラムはハードディスクドライブ148から読出されてRAM146にロードされる。そして、図示しないプログラムカウンタによって指定されたアドレスから命令がフェッチされ、その命令が実行される。また、CPU140は、ハードディスクドライブ148から処理すべきデータを読出し、処理の結果をこれもまたハードディスクドライブ148に記憶する。推定された製品分子量のハードコピーが、プリンタ124により出力される。
コンピュータ120の一般的動作は周知であるので、詳細な説明は省略する。
【0019】
ソフトウェアの流通方法に関して、ソフトウェアは必ずしも記憶媒体に記録されたものでなくてもよい。例えば、ソフトウェアはネットワークに接続された別のコンピュータから分配されてもよい。また、ソフトウェアの一部がハードディスクドライブ148に記憶され、ソフトウェアの残りの部分についてはネットワークを介してハードディスクドライブ148に取込み、実行の際に統合する様にしてもよい。
また、ソフトウェアの流通形態はオブジェクトコードには限らない。前述したようにスクリプト形式でもよいし、ソースプログラムの形で供給され、コンピュータ120にインストールされた適切なコンパイラでオブジェクトコードに変換されるという流通形態もあり得る。
【0020】
典型的には、現代のコンピュータは、オペレーティングシステム(OS)によって提供される一般的な機能を利用し、所望の目的にしたがって制御された態様で機能を達成する。したがって、OS又はサードパーティから提供されうる一般的な機能を含まず、一般的な機能の実行順序の組合せのみを指定したプログラムであっても、そのプログラムが全体として所望の目的を達成する制御構造を有する限り、そのプログラムがこの発明の範囲に包含されることは明らかである。
【0021】
<フロー>
次に、製造条件計算装置1におけるデータ解析処理のフローチャートについて、
図3に基づいて説明する。
【0022】
<S1>
まず、ステップS1において、処理部166の実測データ記録部168は、実測データをコンピュータ120内に構築されたデータベース(以下単に「DB」と呼ぶ。)に追加する。被製造個体単位で登録する場合の実測データは、被製造個体の品種やシリアル番号及び各製造工程における製造時間・製造装置・製造ヘッド・製造結果を含む。
なお、製造結果とは、各製造工程における製造結果、例えば被製造物幅や被製造物長などである。
【0023】
<S2>
次いで、ステップS2において、解析期間設定部170は、解析の対象・データ・評価候補をもとに、単位解析期間を例えば6時間に設定する。ここで、単位解析期間に準じるものとして、製造ロットがある。このロットは、ある数量、例えば1,000個とか10,000個の固まりで被製造個体を流すことで、個々のロットでの前工程から後工程への搬送を行ったり、生産データを集計したりするのに使用される。この製造ロットは、各モノづくり現場の実態を反映しやすいように数量が設定されているため、今後の説明の図では、製造ロットを管理するロットNoを、単位解析期間の指標として説明する。
【0024】
<S3>
次いで、ステップS3において、ヒストグラム特徴量算出部172は、単位解析期間毎に実測データを分割し、装置・加工ヘッド・ロットNo・計測項目の組み合わせ毎に計測結果のヒストグラム特徴量を算出し、DBに登録する。
具体的には、ヒストグラム特徴量は、計測結果の平均値・中央値・標準偏差・最頻値・尖度・歪度等である。中央値・標準偏差・尖度・歪度の組合せで特徴量を算出することで、概ね良好な結果が得られることが多い。
【0025】
図4に、工程から平均までで、実測データから単位解析期間毎にヒストグラム特徴量を算出した結果の一例を示す。
実施の形態1では、対象の工程・装置・加工ヘッド・ロットNo・計測項目の組み合わせ毎に計測結果のヒストグラム特徴量を算出している。
【0026】
まず、工程とは、被製造個体を材料から完成形へ加工していく過程のことである。例えば電池の製造工程では、混錬・塗布・巻取・缶挿入・溶接・注液・封口・初期検査・エージング・出荷検査といった過程を示す。実施の形態1では、工程1から工程10で構成される製造工程を想定している中で、部分的に工程1のみ、例えば巻取工程のみを表示している。
【0027】
次に、
図4に示す装置とは、被製造個体を加工する機械に対する名前である。工程によって、装置が1台しかない工程もあれば、複数台ある工程もある。実施の形態1では、工程1において装置が4台あることを想定している中で、装置1から装置4の部分的な結果を表示している。
【0028】
そして、
図4に示す加工ヘッドとは、加工ヘッドの名前である。装置の中で生産性を上げるために、同一の加工を行う部品を複数設けることがある。実施の形態1では、工程1の各装置に加工ヘッドが2個あることを想定している中で、加工ヘッド1から加工ヘッド2の部分的な結果を表示している。
【0029】
また、
図4に示すロットNoは、ロットを一意に特定する名前である。このロットとは、ある数量、例えば1,000個とか10,000個の固まりで被製造個体を流すことで、個々のロットでの前工程から後工程への搬送を行ったり、生産データを集計したりするのに使用される単位である。この製造ロットは、各モノづくり現場の実態を反映しやすいように数量が設定されている。実施の形態1では、製造ロットを管理するロットNoを、単位解析期間に準じる指標として、説明に用いている。
【0030】
そして、
図4に示す計測項目とは、装置において加工された結果を保証することを目的に計測されている項目や、加工条件の変動を記録しておくことを目的に計測されている項目である。例えば巻取工程を想定すると、計測項目は、巻取体高・巻取体径・巻取ずれ量・巻取張力・巻取補正量などである。実施の形態1では、計測項目がAからGまであることを想定している中で、AとDの部分的な結果を表示している。
【0031】
そして、これら工程・装置・加工ヘッド・単位解析期間に準じるロットNo・計測項目の組み合わせ毎に実測データを層別した上で、ヒストグラム特徴量として構成個数N・計測結果の中央値・標準偏差・尖度・歪度・平均を算出している。なお、ヒストグラム特徴量は、中央値・標準偏差・尖度・歪度・平均のうち少なくとも1つを含まなくてもよいし、これら以外の計算値をヒストグラム特徴量として算出してもよい。
【0032】
ここで歪度は、以下の式(1)を用いて算出される。
【0033】
【0034】
また、尖度は、以下の式(2)を用いて算出される。
【0035】
【0036】
<S4>
次いで、ステップS4において、マハラノビス距離算出部174は、ヒストグラム特徴量算出部172で過去に登録されたヒストグラム特徴量も含めて、装置・加工ヘッド・ロットNo・計測項目の組み合わせ毎にマハラノビス距離MDを算出し、DBに登録する。
具体的には、ヒストグラム特徴量のうち、中央値・標準偏差・尖度・歪度の組合せで、過去1か月のデータをもとにマハラノビス距離を算出することで概ね良好な結果が得られることが多い。
【0037】
図4に、マハラノビス距離MDを算出した結果の一例を示す。
ここで、マハラノビス距離MDは、異なる変数間に相関がないp次元を想定して、以下の式(3)を用いて算出される。実施の形態1では、i=1が中央値、i=2が標準偏差、i=3が尖度、i=4が歪度として、マハラノビス距離MDを算出している。
【0038】
【0039】
<S5>
次いで、ステップS5において、集計マハラノビス距離算出部176は、マハラノビス距離算出部174で算出されたマハラノビス距離MDに対して、直近の解析対象期間における装置・加工ヘッド・計測項目の組み合わせ毎の集計マハラノビス距離A_MDを算出し、DBに登録する。
具体的には、直近の解析対象期間を3日とし、この解析対象期間における装置・加工ヘッド・計測項目の組み合わせ毎のマハラノビス距離MDの平均値を集計マハラノビス距離A_MDとして算出することで、概ね良好な結果が得られることが多い。
図4に、マハラノビス距離MDのデータを用いて、集計マハラノビス距離A_MDを算出した結果の一例を示す。例えば、解析対象期間のロットNoがAAAA001,AAAA004~AAAA008等における装置1と加工ヘッド1と計測項目Aの組み合わせのマハラノビス距離MDは、それぞれ0.91,2.43,1.71,3.72,2.32,2.14,…である。集計マハラノビス距離算出部176は、これらの平均値の2.21を集計マハラノビス距離A_MDとして算出する。
【0040】
<S6>
次いで、ステップS6において、工程能力指数算出部178は、単位解析期間毎に実測データを分割し、装置・加工ヘッド・ロットNo・計測項目の組み合わせ毎に工程能力指数を算出してDBに登録する。
具体的には、工程能力指数は、平均の偏りを考慮した工程能力指数Cpkを用いることで概ね良好な結果が得られることが多い。
図4に、計測項目の上側規格値UCL及び下側規格値LCLを用いて、工程能力指数Cpkを算出した結果の一例を示す。
ここで、工程能力指数Cpkは、各計測項目の上側規格値をUCL、下側規格値をLCLとして、以下の式(4)を用いて算出される。
【0041】
【0042】
<S7>
次いで、ステップS7において、集計工程能力指数算出部180は、工程能力指数算出部178で算出された工程能力指数Cpkに対して、直近の解析対象期間における装置・加工ヘッド・計測項目の組み合わせ毎の集計工程能力指数A_Cpkを集計し、DBに登録する。
具体的には、直近の解析対象期間を3日とし、この解析対象期間における装置・加工ヘッド・計測項目の組み合わせ毎の工程能力指数Cpkの平均値を集計工程能力指数A_Cpkとして算出することで、概ね良好な結果が得られることが多い。
図4に、工程能力指数Cpkのデータを用いて、集計工程能力指数A_Cpkを算出した結果の一例を示す。例えば、解析対象期間のロットNoがAAAA001,AAAA004~AAAA008等における装置1と加工ヘッド1と計測項目Aの組み合わせの工程能力指数Cpkは、それぞれ3.41,3.72,3.57,2.9,3,3.42,…である。集計工程能力指数算出部180は、これらの平均値の3.34を集計工程能力指数A_Cpkとして算出する。
【0043】
<S8>
次いで、ステップS8において、異常検知表示部182は、集計マハラノビス距離A_MDと集計工程能力指数A_Cpkとを組み合わせてモニタ122等に出力し、製造現場のオペレータが確認する。
図5に、変化度を表す集計マハラノビス距離A_MDを横軸とし、健全度を表す集計工程能力指数A_Cpkを縦軸としてグラフ表示した結果の一例を示す。
例えば
図5の右下領域は、健全度が低く直近変化度が大きいことから、突発異常を示しているおそれがあることを示す。このため、オペレータは、現状を早急に調査し、対策を実施するかを検討する。
一方で、左下領域は、健全度が低く直近変化度が小さいことから、慢性異常を示しているおそれがあることを示す。このため、オペレータは、取り組みの優先順位は低いが、継続的に改善案を検討していく必要がある。
さらに、右上領域は、健全度が高いが直近変化度が大きいことを示す。このため、オペレータは、突発異常化しないかを継続監視しておく必要がある。
そして、左上領域は、健全度が高く直近変化度も小さいことから、取り組みの優先順位は極めて低い。
【0044】
このようなフローを経る過程で、製造プロセスを決定するパラメータが網羅的に計測されていないような、例えば一般加工設備においても、被計測項目の変化を統計モデルとして評価しつつ、装置稼働状態の悪化に直結する関連データを表示することができる。そして、オペレータは、上記のような視点で表示結果を確認することで、測定・記録されにくい材料特性変化や前工程の影響をうけにくい異常を検知することができるようになり、装置異常に対する取り組み判断を定量的に実施することが可能となる。
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。
【0045】
本発明の実施の形態2に関して説明する。実施の形態1と実施の形態2との相違点は、集計マハラノビス距離算出部176及び異常検知表示部182の処理内容である。
【0046】
<フロー>
製造条件計算装置1におけるデータ解析処理のフローチャートについて、
図6及び
図7に基づいて説明する。なお、実施の形態2のフローは、ステップS7までは実施の形態1と同様である。ここで、実施の形態2では、ステップS5の処理を行わなくてもよい。
【0047】
<S11>
ステップS7の処理が行われた後、
図6に示すように、ステップS11において、集計マハラノビス距離算出部176は、工程能力指数Cpkと集計工程能力指数A_Cpkとに基づいて、装置・加工ヘッド・ロットNo・計測項目の組み合わせ毎に修正マハラノビス距離MD’を算出する。ステップS11の処理は、
図7に示すように、ステップS21~S23の処理を含む。
<S21>
ステップS21において、集計マハラノビス距離算出部176は、工程能力指数Cpkが集計工程能力指数A_Cpkを超えるか否かを判断する。
<S22>
集計マハラノビス距離算出部176は、工程能力指数Cpkが集計工程能力指数A_Cpkを超えると判断した場合、ステップS22において、マハラノビス距離MDに「-1」を乗じた値を修正マハラノビス距離MD’として算出する。
<S23>
集計マハラノビス距離算出部176は、工程能力指数Cpkが集計工程能力指数A_Cpkを超えないと判断した場合、ステップS23において、マハラノビス距離MDに「1」を乗じた値を修正マハラノビス距離MD’として算出する。
【0048】
<S12>
次いで、ステップS11の処理が行われた後、ステップS12において、集計マハラノビス距離算出部176は、修正マハラノビス距離MD’をDBに登録する。
図8に、マハラノビス距離MDのデータを用いて、修正マハラノビス距離MD’を算出した結果の一例を示す。
【0049】
<S13>
次いで、ステップS13において、集計マハラノビス距離算出部176は、修正マハラノビス距離MD’に対して、直近の解析対象期間における装置・加工ヘッド・計測項目の組み合わせ毎の集計修正マハラノビス距離A_MD’を算出し、DBに登録する。
具体的には、直近の解析対象期間を3日とし、この解析対象期間における装置・加工ヘッド・計測項目の組み合わせ毎の修正マハラノビス距離MD’の平均値を集計修正マハラノビス距離A_MD’として算出することで、概ね良好な結果が得られることが多い。
【0050】
図8に、修正マハラノビス距離MD’のデータを用いて、集計修正マハラノビス距離A_MD’を算出した結果の一例を示す。例えば、解析対象期間のロットNoがAAAA001,AAAA004~AAAA008等における装置1と加工ヘッド1と計測項目Aの組み合わせの修正マハラノビス距離MD’は、それぞれ-0.9,-2.4,-1.7,3.72,2.32.-2.1,…である。集計マハラノビス距離算出部176は、これらの平均値の-0.2を集計修正マハラノビス距離A_MD’として算出する。
【0051】
<S14>
次いで、ステップS14において、異常検知表示部182は、集計修正マハラノビス距離A_MD’と集計工程能力指数A_Cpkとを組み合わせてモニタ122等に出力し、製造現場のオペレータが確認する。
図9に、変化度を表す集計修正マハラノビス距離A_MD’を横軸とし、健全度を表す集計工程能力指数A_Cpkを縦軸としてグラフ表示した結果の一例を示す。
例えば
図9の右下領域は、健全度が低く直近変化度が正の方向に大きいことから、突発悪化異常を示しているおそれがあることを示す。このため、オペレータは、現状を早急に調査し、対策を実施する必要がある。
一方で、中央下領域は、健全度が低く直近変化度が小さいことから、慢性異常を示しているおそれがあることを示す。このため、オペレータは、取り組みの優先順位は低いが、継続的に改善案を検討していく必要がある。
さらに、左下領域は、健全度が低く直近変化度が負の方向に大きいことから、突発良化異常を示している可能性がある。このため、オペレータは、取り組みの優先順位は低いが、どのような変化点があったかを確認し、今後の改善案としてストックしていく必要がある。
また、上側領域は、総じて健全度が高いため、オペレータは、健全度が悪化しないかを継続的に監視しておく。
【0052】
このような視点で表示結果を確認することで、オペレータは、装置異常に対する取り組み判断を定量的に実施することが可能となる。
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る製造条件計算装置、製造条件計算方法及び製造条件計算プログラムは、製造プロセスを決定するパラメータが網羅的に計測されていないような例えば一般加工設備・ラインにおいても、測定・記録されにくい材料特性変化や装置変動の影響による変化度を定量的に評価できるようになり、製造条件の変更判断を定量的に実施することを可能とし、一般工場などでの従来取得パラメータ活用の加速を図ることなどに有用である。
【符号の説明】
【0054】
1 製造条件計算装置
120 コンピュータ
122 モニタ
124 プリンタ
126 キーボード
128 マウス
140 CPU
142 バス
144 ROM
146 RAM
148 ハードディスクドライブ
150 DVD-ROMドライブ
152 半導体メモリポート
154 ネットワークインターフェイス
160 半導体メモリ
162 DVD-ROM
164 ネットワーク
166 処理部
168 実測データ記録部
170 解析期間設定部
172 ヒストグラム特徴量算出部
174 マハラノビス距離算出部
176 集計マハラノビス距離算出部
178 工程能力指数算出部
180 集計工程能力指数算出部
182 異常検知表示部