(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】非破壊検査システム及び非破壊検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/204 20060101AFI20230210BHJP
【FI】
G01N23/204
(21)【出願番号】P 2019034642
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】塚田 央
(72)【発明者】
【氏名】永野 繁憲
(72)【発明者】
【氏名】大竹 淑恵
(72)【発明者】
【氏名】須長 秀行
(72)【発明者】
【氏名】吉村 雄一
(72)【発明者】
【氏名】井門 孝治
【審査官】小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/108709(WO,A1)
【文献】特開平11-160254(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043581(WO,A1)
【文献】特開2013-174587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N23/00-G01N23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子を照射可能な中性子照射部と、
前記中性子照射部から照射され被検査物を介した中性子
量を検出可能な中性子検出器と、
前記被検査物と前記中性子検出器との間に位置し、前記被検査物を介した中性子を所定の指向性を以って前記中性子検出器に入射するように配置されるコリメータと、
前記中性子検出器で検出する結果に基づいて演算するように構成された演算部と、
を備え、
前記中性子照射部は、中性子を照射する中心軸が前記コリメータの中心軸方向に対して交差するように中性子を照射するように構成され、
前記演算部は、前記中性子検出器の位置情報及び/又は前記中性子照射部の位置情報と、中性子を照射する中心軸と前記コリメータの中心軸方向の交差する角度に関する情報と、前記中性子検出器で検出する中性子量と、から、前記コリメータの中心軸方向の前記被検査物
の異常個所の深さに関する情報を生成可能な非破壊検査システム。
【請求項2】
前記中性子照射部は、中性子を照射する中心軸が前記コリメータの中心軸方向の交差する角度が10度から80度となるように中性子を照射するように構成される請求項1に記載の非破壊検査システム。
【請求項3】
前記非破壊検査システムは、前記中性子検出器として複数の検出部を備え、
前記演算部は、前記複数の検出部が検出する中性子量から、特異な中性子量を検出する検出部を特定する請求項1又は2に記載の非破壊検査システム。
【請求項4】
前記演算部は、前記複数の検出部が検出する中性子量からフィッティングカーブを生成し、フィッティングカーブと各検出部が検出する中性子量の差異から、前記特異な中性子量を検出する検出部を特定する請求項3に記載の非破壊検査システム。
【請求項5】
前記演算部は、前記被検査物の材質情報に応じた標準情報と各検出部が検出する中性子量の差異から、前記特異な中性子量を検出する検出部を特定する請求項3に記載の非破壊検査システム。
【請求項6】
前記中性子照射部は、前記被検査物に対して相対的に移動可能であり、
前記演算部は、前記中性子照射部の移動前に前記複数の検出部が検出する中性子量と、前記中性子照射部の移動後に前記複数の検出部が検出する中性子量と、から、前記特異な中性子量を検出する検出部を特定する請求項3に記載の非破壊検査システム。
【請求項7】
前記中性子照射部は、前記コリメータからの前記コリメータの中心軸方向の距離が異なる第1の位置および第2の位置に向けて中性子を照射可能であり、
前記中性子検出器は、前記中性子照射部が前記第1の位置に向けて中性子を照射する際に検出する第1の中性子量と、前記中性子照射部が前記第2の位置に向けて中性子を照射する際に検出する第2の中性子量を検出可能であり、
前記演算部は前記第1の中性子量と前記第2の中性子量から、前記第1の位置と前記第2の位置の間の被検査物に関する情報を生成可能な請求項1から6のいずれか一項に記載の非破壊検査システム。
【請求項8】
前記中性子照射部は、前記中性子検出器と前記中性子照射部の相対位置を変更することにより前記第1の位置および前記第2の位置への前記中性子を照射するように構成される請求項7に記載の非破壊検査システム。
【請求項9】
前記中性子照射部は、前記中性子照射部から照射する中性子の照射方向を変更することにより前記第1の位置および前記第2の位置への前記中性子を照射するように構成される請求項7に記載の非破壊検査システム。
【請求項10】
前記非破壊検査システムは、前記中性子検出器として第1の検出部と第2の検出部を備え、
前記第1の検出部と前記第2の検出部は、前記中性子照射部との相対位置を維持しながら前記被検査物に対して移動可能であり、
前記第1の検出部は、前記中性子照射部が移動前に前記第1の位置に向けて中性子を照射する際の第1の中性子量を検出可能であり、
前記第2の検出部は、前記中性子照射部が移動後に前記第2の位置に向けて中性子を照射する際に第2の中性子量を検出可能である、
請求項7に記載の非破壊検査システム。
【請求項11】
前記非破壊検査システムは、前記中性子検出器として2次元方向に配置する複数の検出部を備え、
前記中性子照射部は、照射方向の2次元方向に制限するコリメータを介して中性子を照射し、
前記演算部は、前記複数の検出部から検出された複数の中性子量に関する情報から被検査物に関する情報を生成可能な請求項7に記載の非破壊検査システム。
【請求項12】
前記演算部は前記第1の中性子量および前記第2の中性子量から、前記第1の位置と前記第2の位置の間の被検査物の組成に関する情報を生成するように構成される請求項
7から11のいずれか一項に記載の非破壊検査システム。
【請求項13】
前記中性子照射部は、パルス中性子線を照射可能であり、
前記演算部は、前記中性子照射部が照射するパルス中性子線の時間情報と、前記中性子検出器が照射するパルス中性子線が被検査物を介して検出する熱中性子を設定された検出時間において検出する請求項1から12のいずれか一項に記載の非破壊検査システム。
【請求項14】
前記演算部は、前記中性子検出器の位置情報及び/又は前記中性子照射部の位置情報と、中性子を照射する中心軸と前記コリメータの中心軸方向の交差する角度に関する情報と、前記中性子検出器で検出する中性子量と、から、前記コリメータの中心軸方向の異常個所の位置を示す距離情報を演算可能であり、前記距離情報と前記中性子が透過する構造物の減衰情報を用いて前記異常個所の量に関する情報を生成可能な請求項1から13のいずれか一項に記載の非破壊検査システム。
【請求項15】
中性子を照射可能な中性子照射部と、
前記中性子照射部から照射され被検査物を介した中性子
量を検出可能な中性子検出器と、
前記被検査物と前記中性子検出器との間に位置し、前記被検査物を介した中性子を所定の指向性を以って前記中性子検出器に入射するように配置されるコリメータと、
前記中性子検出器で検出する結果に基づいて演算するように構成された演算部と、
を用いて、
前記中性子照射部が、中性子を照射する中心軸が前記コリメータの中心軸方向に対して交差するように中性子を被検査物に向けて照射するステップと、
前記中性子検出器が中性子を検出するステップと、
前記演算部が、前記中性子検出器の位置情報及び/又は前記中性子照射部の位置情報と、中性子を照射する中心軸と前記コリメータの中心軸方向の交差する角度に関する情報と、前記中性子検出器で検出する中性子量と、から、前記コリメータの中心軸方向の前記被検査物
の異常個所の深さに関する情報を生成可能するステップと、
を備える非破壊検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を用いた被検査物の非破壊検査システム及び非破壊検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、道路、橋梁、トンネル、建築物等のインフラストラクチャー(以下、インフラ構造物という)の老朽化に対して、適切な維持管理、補修、更新が望まれている。
【0003】
このようなインフラ構造物の検査においては、物体に対して透過性を有するX線等の放射線を用いることで、被検査物を破壊することなく内部構造を解析することが可能な非破壊検査が行われている。
【0004】
特に近年においては、X線よりも透過性の高い中性子を用いた非破壊検査装置も検討されている。例えば、特許文献1には、車両に可搬型の中性子発生源を搭載して、橋梁の上を走行しつつ、当該中性子を用いて当該橋梁内部に対する非破壊検査を行う構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の中性子を用いた非破壊検査は、中性子検出器の対向する位置に欠陥があることを検査することができるが、深さ方向のどの位置に欠陥があるのかを特定することが困難であった。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、被検査物に対して中性子を用いて行う非破壊検査において、被検査物の深さ方向の状態情報を得る非破壊検査システム、非破壊検査方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明に係る非破壊検査システムは、中性子を照射可能な中性子照射部と、前記中性子照射部から照射され被検査物を介した中性子量を検出可能な中性子検出器と、前記被検査物と前記中性子検出器との間に位置し、前記被検査物を介した中性子を所定の指向性を以って前記中性子検出器に入射するように配置されるコリメータと、前記中性子検出器で検出する結果に基づいて演算するように構成された演算部と、
を備え、前記中性子照射部は、中性子を照射する中心軸が前記コリメータの中心軸方向に対して交差するように中性子を照射するように構成され、前記演算部は、前記中性子検出器の位置情報及び/又は前記中性子照射部の位置情報と、中性子を照射する中心軸と前記コリメータの中心軸方向の交差する角度に関する情報と、前記中性子検出器で検出する中性子量と、から、前記コリメータの中心軸方向の前記被検査物の異常個所の深さに関する情報を生成可能である。
【0009】
また、上記非破壊検査システムとして、前記中性子照射部は、中性子を照射する中心軸が前記コリメータの中心軸方向の交差する角度が10度から80度となるように中性子を照射するように構成してもよい。
【0010】
また、上記非破壊検査システムとして、前記非破壊検査システムは、前記中性子検出器として複数の検出部を備え、前記演算部は、前記複数の検出部が検出する中性子量から、特異な中性子量を検出する検出部を特定してもよい。
【0011】
また、上記非破壊検査システムとして、前記演算部は、前記複数の検出部が検出する中性子量からフィッティングカーブを生成し、フィッティングカーブと各検出部が検出する中性子量の差異から、前記特異な中性子量を検出する検出部を特定してもよい。
【0012】
また、上記非破壊検査システムとして、前記演算部は、前記被検査物の材質情報に応じた標準情報と各検出部が検出する中性子量の差異から、前記特異な中性子量を検出する検出部を特定してもよい。
【0013】
また、上記非破壊検査システムとして、前記中性子照射部は、前記被検査物に対して相対的に移動可能であり、前記演算部は、前記中性子照射部の移動前に前記複数の検出部が検出する中性子量と、前記中性子照射部の移動後に前記複数の検出部が検出する中性子量と、から、前記特異な中性子量を検出する検出部を特定してもよい。
【0014】
また、上記非破壊検査システムとして、前記中性子照射部は、前記コリメータからの前記コリメータの中心軸方向の距離が異なる第1の位置および第2の位置に向けて中性子を照射可能であり、前記中性子検出器は、前記中性子照射部が前記第1の位置に向けて中性子を照射する際に検出する第1の中性子量と、前記中性子照射部が前記第2の位置に向けて中性子を照射する際に検出する第2の中性子量を検出可能であり、前記演算部は前記第1の中性子量と前記第2の中性子量から、前記第1の位置と前記第2の位置の間の被検査物に関する情報を生成可能であるものとしてもよい。
【0015】
また、上記非破壊検査システムとして、前記中性子照射部は、前記中性子検出器と前記中性子照射部の相対位置を変更することにより前記第1の位置および前記第2の位置への前記中性子を照射するように構成してもよい。
【0016】
また、上記非破壊検査システムとして、前記中性子照射部は、前記中性子照射部から照射する中性子の照射方向を変更することにより前記第1の位置および前記第2の位置への前記中性子を照射するように構成してもよい。
【0017】
また、上記非破壊検査システムとして、前記中性子検出器として第1の検出部と第2の検出部を備え、前記第1の検出部と前記第2の検出部は、前記中性子照射部との相対位置を維持しながら前記被検査物に対して移動可能であり、前記第1の検出部は、前記中性子照射部が移動前に前記第1の位置に向けて中性子を照射する際の第1の中性子量を検出可能であり、前記第2の検出部は、前記中性子照射部が移動後に前記第2の位置に向けて中性子を照射する際に第2の中性子量を検出可能であるものとしてもよい。
【0018】
また、上記非破壊検査システムとして、前記中性子検出器として2次元方向に配置する複数の検出部を備え、前記中性子照射部は、照射方向の2次元方向に制限するコリメータを介して中性子を照射し、前記演算部は、前記複数の検出部から検出された複数の中性子量に関する情報から被検査物に関する情報を生成可能であるものとしてもよい。
【0019】
また、上記非破壊検査システムとして、前記演算部は前記第1の中性子量および前記第2の中性子量から、前記第1の位置と前記第2の位置の間の被検査物の組成に関する情報を生成するように構成してもよい。
【0020】
また、上記非破壊検査システムとして、前記中性子照射部は、パルス中性子線を照射可能であり、前記演算部は、前記中性子照射部が照射するパルス中性子線の時間情報と、前記中性子検出器が照射するパルス中性子線が被検査物を介して検出する熱中性子を設定された検出時間において検出するものとしてもよい。
【0021】
また、上記非破壊検査システムとして、前記演算部は、前記中性子検出器の位置情報及び/又は前記中性子照射部の位置情報と、中性子を照射する中心軸と前記コリメータの中心軸方向の交差する角度に関する情報と、前記中性子検出器で検出する中性子量と、から、前記コリメータの中心軸方向の異常個所の位置を示す距離情報を演算可能であり、前記距離情報と前記中性子が透過する構造物の減衰情報を用いて前記異常個所の量に関する情報を生成可能としてもよい。
【0022】
また、上記した目的を達成するために、本発明に係る非破壊検査方法は、中性子を照射可能な中性子照射部と、前記中性子照射部から照射され被検査物を介した中性子量を検出可能な中性子検出器と、前記被検査物と前記中性子検出器との間に位置し、前記被検査物を介した中性子を所定の指向性を以って前記中性子検出器に入射するように配置されるコリメータと、前記中性子検出器で検出する結果に基づいて演算するように構成された演算部と、を用いて、前記中性子照射部が、中性子を照射する中心軸が前記コリメータの中心軸方向に対して交差するように中性子を被検査物に向けて照射するステップと、前記中性子検出器が中性子を検出するステップと、前記演算部は、前記中性子検出器の位置情報及び/又は前記中性子照射部の位置情報と、中性子を照射する中心軸と前記コリメータの中心軸方向の交差する角度に関する情報と、前記中性子検出器で検出する中性子量と、から、前記コリメータの中心軸方向の前記被検査物の異常個所の深さに関する情報を生成可能するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0023】
上記手段を用いる本発明によれば、被検査物に対して中性子を用いて行う非破壊検査において、被検査物の深さ方向の状態情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る非破壊検査システムを示す概略構成図である。
【
図2】(a)本発明の第1実施形態に係る非破壊検査システムにおける中性子検出器の検出結果および、(b)被検査物と中性子検出ユニットの関係を示す概略構成図である。
【
図3】本発明のコントロールユニットを示すブロック図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る非破壊検査システムの動作を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る非破壊検査システムの検出タイミングのタイムチャートである。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る非破壊検査システムを示す概略構成図である。
【
図7】(a)本発明の第2実施形態に係る非破壊検査システムにおける中性子検出器の検出結果および、(b)被検査物と中性子検出ユニットの関係を示す概略構成図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る非破壊検査システムの動作を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の第3実施形態に係る非破壊検査システムを示す概略構成図である。
【
図10】本発明の第4実施形態に係る非破壊検査システムを示す概略構成図である。
【
図11】本発明の第5実施形態に係る被検査物および中性子検出ユニットの関係を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
【0026】
(第1実施形態)
まず本発明の第1実施形態について説明する。
【0027】
<全体構成>
図1は、本発明の第1実施形態に係る非破壊検査システム1の概略構成図である。以下これらの図に基づき本実施形態の非破壊検査システム1の構成について説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の非破壊検査システム1は、移動体である車両2に、コントロールユニット5、電源部10、線形加速器11、中性子照射部12が搭載され、連結部24を介して中性子検出ユニット21が接続され構成されている。車両2は例えばトラックであり、荷台に電源部10、線形加速器11、中性子照射部12が搭載され、運転席にコントロールユニット5が搭載されている。本実施形態では、車両2は主にコンクリートからなる橋101の上を走行し、橋101を被検査物とした非破壊検査を行う。
【0029】
電源部10は、各部に電力を供給する発電機である。電源部10の発電機は、少なくとも荷電粒子である陽子(プロトン)を発生可能な発電性能を備え、電圧変動が少なく、高調波電流に耐えられるものが好ましい。また、電源部10は、発電機が発電した電力を蓄電可能なバッテリを有していてもよい。
【0030】
線形加速器11は、陽子を発生するイオン源11aを有し、当該イオン源11aから円筒状の加速器11bを介して中性子照射部12に接続される。加速器11bは、イオン源11aで発生した陽子を加速し、陽子ビームとして中性子照射部12に照射する。
【0031】
中性子照射部12は、ターゲット部(不図示)と照射コリメータ(不図示)とを含んで構成される。ターゲット部は、陽子と衝突して中性子を生じるものであり、例えばベリリウムを含んで形成されている。ターゲット部には、ターゲット部から発生した中性子のうち所定方向の中性子を選択する照射コリメータが接続される。照射コリメータによって、照射される高速中性子Nhの指向性を高めることができる。なお、線形加速器11からターゲット部までは、荷電粒子の透過を妨げないようにその経路は高真空状態を維持可能な構造となっている。
【0032】
中性子検出ユニット21は、熱中性子を検出可能な中性子検出器22aから22eと、それぞれの中性子検出器に入射する熱中性子の指向性を高めるためのコリメータ23aから23eとを含んで構成される。中性子検出ユニット21は、連結部24を介して車両2に接続されている。中性子検出器22aから22eは、車両2の進行方向に平行に1列に配置されるアレイ構造である。
【0033】
図1では、非破壊検査システム1は、被検査物である橋101の上に配置されている状態である。
【0034】
中性子照射部12は、橋101に向けて照射できるように車両2の上で傾けられて配置される。中性子照射部12から照射される高速中性子は照射コリメータにより指向性が高められ、橋101に照射される。
図1では、照射される高速中性子の中心軸を点線で示しNhと表示する。照射される高速中性子は、照射コリメータにより指向性を高められているが、完全な平行ビームである必要はなく、多少の拡散角を持っていても構わない。その場合、拡散角を持って拡散する高速中性子のビームの中心軸が
図1のNhとなる。
【0035】
図1では、コリメータ23aから23eの中心軸を一点鎖線で示す。各コリメータの中心軸は、コリメータの指向性の中心を示している。中性子照射部12から照射される高速中性子は、コリメータ23aから23eの中心軸方向と高速中性子のビームの中心軸が角度θ1で交差するように照射される。具体的には、中性子照射部12は、照射する高速中性子の中心軸が前記コリメータの中心軸方向と交差する角度θ1が10度から80度となるように高速中性子を照射する。角度θ1を小さくすれば、高速中性子は橋101に深く侵入し、角度を大きくすれば、浅く侵入することになる。高速中性子Nhの各コリメータの中心軸が交差する位置を、
図1で111aから111eで示す。高速中性子は、橋101を構成する材料に衝突し、その一部が熱中性子として散乱される。位置111aで散乱した熱中性子はNsaとしてコリメータ23aを介して中性子検出器22aで検出される。同様に位置111bから111eで散乱した熱中性子は、それぞれ中性子検出器22bから22eで検出される。
【0036】
次に
図2を用いて、中性子検出器22aから22eで検出される検出結果である中性子量、および、被検査物である橋101と中性子検出ユニット21の関係を説明する。
図2(a)は、中性子検出器22aから22eで検出される検出結果である中性子量を示すグラフである。また
図2(b)は、橋101と中性子検出ユニット21の関係を示す概略構成図である。なお、
図1で説明したものについては省略する。
【0037】
図2(a)は、縦軸に中性子検出器が検出した中性子量を示し、横軸に中性子検出器の位置を示すグラフであり、実線は被対象物に異常がない場合であり、点線は被対象物に異常がある場合を示している。縦軸の中性子量は、中性子検出器が検出した熱中性子の量を示しており、検出した熱中性子の数をカウントした値である。点211aは、中性子照射部12から照射された高速中性子Nhが、被対象物である橋101を介して散乱した熱中性子Nsaを中性子検出器22aが検出した中性子量である。以下、同様に点211bから点211eは、中性子検出器22bから22eが検出した中性子量である。
【0038】
ここで、高速中性子、熱中性子の減衰について説明する。高速中性子は、空気中ではほぼ減衰することなく透過することができる。しかし、コンクリート等の物体中を透過する場合、構成元素との衝突により減衰が生じる。熱中性子は、空気中および物体中で減衰する。減衰率をβとしたときに、入射量CN0に対する減衰後の中性子量CNXは、その通過する距離Xとの関係で、下記数1で表すことができる。なお、減衰率βは、透過する中性子と透過する物質の関係により決まる値である。
【0039】
(数1)
CNx=F(β,X)・CN0
【0040】
関数Fは、例えば、指数関数を用いることができる。
【0041】
ここで、中性子照射部12から照射された高速中性子Nhが、中性子検出器22aに到達する過程における減衰について
図2(a)、
図2(b)を用いて説明する。
図2(b)において、中性子照射部12から照射される高速中性子の中心軸と、コリメータ23aの中心軸は、角度θ1で交差する。コリメータ23aの中心軸が、被検査物である橋101と直交する場合、中性子照射部12から照射される高速中性子Nhの被検査物への入射角α1は下記数2で表すことができる。
【0042】
(数2)
α1=90°-θ1
【0043】
高速中性子Nhが、橋101に位置110で入射し、位置111aに到達するまでの距離Lhaは、位置110からコリメータ23aの中心軸までの距離をXaとすると下記数3で表すことができる。
【0044】
(数3)
Lha=Xa/cosα1
【0045】
次に、高速中性子は物質中で散乱し、熱中性子を発生する。位置111aで発生した熱中性子が、位置111aから、被検査物の表面、すなわち中性子検出器側に熱中性子が透過する距離Lsaは以下の数4で表すことができる。
【0046】
(数4)
Lsa=Xa・tanα1
【0047】
また、被検査物の表面から出射した熱中性子は、空気中を透過し、コリメータ23aを介して中性子検出器22aで検出される。この際、空気中を透過する距離をZaとする。この場合、高速中性子の照射量CNhに対する減衰後の熱中性子量CNsは、下記数5の関係で表すことができる。なお、高速中性子の橋の構成物質における減衰率をβh、熱中性子の橋の構成物質における減衰率をβs、熱中性子の空気中における減衰率をβaとする。なお、位置110の位置、Za、XaからXeは、中性子照射部12の位置、中性子検出ユニット21の位置を被検査物との関係で測定することで決定することができる。
【0048】
(数5)
CNs∝F(βh,βa,βs,Lha,Lsa,Za)・CNh
【0049】
すなわち、各減衰率および高速中性子の入射角度および各中性子検出器の位置により、各中性子検出器が検出する中性子量の相対関係が定まる。
図2(a)のグラフの実線は、数5の関係が成立している。そのため、各中性子検出器22aから22eが検出した中性子量が、数5の関係から外れる検出結果がある場合、その検出結果を検出した中性子検出器のコリメータ中心軸方向に異常個所があるものと推定することができる。
【0050】
図2(a)の点線は、コリメータ23cの下異常個所121が存在する場合の中性子量を示すグラフである。異常個所121は、橋にできた欠陥である空隙に水が満たされている状態である。水に入射した高速中性子は、水により散乱され熱中性子となる。水は、橋の主要構成材料であるコンクリートに比べ、熱中性子の発生量が多い。すなわち、中性子検出器22cで検出される中性子の量は、水がない場合に比較して水がある場合は多くなる。そのため、
図2(a)では、水がない場合の中性子量を示す点211cに対して、水がある場合の中性子量を示す点211c’は大きな値となる。
【0051】
次に、異常個所121が、橋にできた欠陥である空隙に空気が満たされている場合を考える。空気は、橋の主要構成材料であるコンクリートに比べ、熱中性子の発生量が少ない。すなわち、中性子検出器22cで検出される中性子の量は、空隙がない場合に比較して空隙がある場合は少なくなる。
【0052】
このように、
図2(a)において、数5の関係を満たす実線のグラフからの差異を判定することにより、どの中性子検出器が異常を検出しているかを特定することができる。また、中性子検出器22cが検出するのは、距離Lscを透過した熱中性子である。そのため、どの中性子検出器が異常を検出したかによって、表面からの距離、すなわち深さを特定することができる。中性子検出器22cが異常を検出していることから、表面からLscの深さまでの間に異常があることを特定することができる。また、検出する中性子量が少ない場合、欠陥として空隙があることを推定することができ、検出する中性子量が多い場合、水などの軽元素を含む欠陥があることを推定することができる。
【0053】
<コントロールユニット構成>
図3は、コントロールユニット5の構成を示すブロック図である。コントロールユニット5は、制御部311と、記憶部312と、演算部313と、表示部314と、線源出力部321と、検出器入力部322と、位置入力部323とを含んで構成されるユニットであり、専用のコンピュータや、ソフトウエアがインストールされた汎用のコンピュータ等により構成される。制御部311は、コントロールユニット5全体の制御を行う。記憶部312は、中性子検出器22aから22eからの中性子量の検出結果の情報を記憶する。また、材料毎の減衰率のデータを記憶する。演算部313は、検出結果の処理を行い、また、検出結果の異常値を検出するための演算を行う。例えば、演算部313は、検出結果からフィッティングカーブを生成し、フィッティングカーブと各検出器が検出する中性子量の差異から、特異な中性子量を検出する中性子検出器を特定する。表示部314は、検出した異常値をユーザが視認できるように表示する装置である。線源出力部321は、接続される線形加速器11の制御を行う。例えば、時間的に離散したパルス中性子線を中性子照射部12から照射するように線形加速器11を制御することができる。また、検出器入力部322は、接続される中性子検出器22aから22eを構成する中性子検出ユニット21からの出力を受信する。また、位置入力部323は、中性子検出ユニット21の位置や、中性子照射部12の位置、角度等の位置情報を、接続された位置検出部31から受信する。位置検出部31は、例えばGPSや、カメラや、他の計測手段を用いても構わない。また、コントロールユニット5に含まれる構成はすべて移動体である車両2に構成されている必要はない。例えば、コントロールユニット5は通信部を備え、外部のシステム(クラウドサービス等を含む)に備えられる記憶部312、演算部313と、表示部314と、専用回線やインターネット等のネットワークを介して通信を行っても構わない。
【0054】
<処理の流れ>
次に、第1実施形態に係る非破壊検査システム1の動作について、
図4に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0055】
ステップS101において、位置入力部323は、中性子検出ユニット21、中性子照射部12の位置情報と、被対象物の位置情報を取得する。
【0056】
ステップS102において、線源出力部321は、線形加速器11を制御して、パルス中性子線を中性子照射部12から照射する。
【0057】
ステップS103において、検出器入力部322は、中性子検出ユニット21を構成する中性子検出器22aから22eで検出する中性子量のデータを取得し、記憶部312に記憶する。
【0058】
ステップS104において、演算部313は、取得したデータと、標準値データの比較を行う。標準値データは、例えば
図2(a)の実線で示すグラフのもととなる被検査物に異常がない場合のデータである。標準値データは、取得した複数のデータからフィッティングカーブを生成することができる。また、橋の複数個所を検査した際の複数の検査データから、例えば平均値や分散の中央値に近い値を抽出して導いても構わない。さらに、標準値データは、例えば橋の材質のコンクリートの減衰率等の特性(材料情報)が分かっている場合は、記憶部312に記憶されたそのコンクリートの特性に合わせて予め計算されたデータ(標準情報)を用いても構わない。
【0059】
ステップS105において、演算部313は、ステップS104で比較した結果から、特異な値を出力する中性子検査器を特定する。演算部313は、特定した中性子検査器の位置から、どの深さに異常個所が存在するのかを推定するデータ処理を行う。
【0060】
ステップS106において、表示部314は、ステップS105で処理されたデータをユーザが視認できる形で表示する。
【0061】
ステップS107において、制御部311は、ユーザの要求により、測定を終了するかどうかを判別し、終了すると判別(Y)の場合処理を終了し、終了しないと判別(N)の場合、ステップS101へ処理を戻す。
【0062】
<検出タイミング>
図5は、本発明の第1実施形態に係る非破壊検査システムの検出タイミングのタイムチャートである。横軸は時間経過を示している。縦軸は、上から中性子照射部12からの高速中性子のパルス照射のタイミング、各中性子検出器22a~22eの検出結果、各中性子検出器の検出タイミングを示している。熱中性子の速度は約2200[m/s]であり、例えば1.0[MeV]の高速中性子の速度1.4×10
7[m/s]に対してきわめて遅い。そのため、高速中性子の照射タイミングから熱中性子の検出タイミングまでの時間差は、熱中性子の透過距離による。そのため、中性子検出器22aから22eが熱中性子を検出するタイミングは徐々に遅れる。熱中性子の遅れるタイミングは、位置情報等により算出される経路長さから算出することができる。そのため、中性子照射部12からのパルス照射タイミングに対して、各中性子検出器22a~22eの検出タイミングの時間を設定することができる。パルス照射タイミングに対して、各中性子検出器22a~22eの検出タイミングを同期することで、照射する高速中性子の量に対応して発生する熱中性子を、他のノイズを含めることなく検出することができる。
【0063】
以上、説明したように、中性子照射部12が、照射する高速中性子Nhの中心軸がコリメータの中心軸方向に対して斜めに交差するように中性子を被検査物である橋101に向けて照射し、中性子検出器22aから22eが熱中性子を検出することで、中性子検出ユニット21の位置情報と、中性子照射部12の位置情報と、照射する高速中性子の中心軸とコリメータ23a~23eの中心軸方向の交差する角度に関する情報から、橋101の深さ方向の異常状態を検出することができる。
【0064】
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態に係る非破壊検査システム1を使用し、被検査物に対して非破壊検査システム1を相対的に移動させることで、異常個所の深さ方向の位置を特定可能とするものである。
【0065】
図6には本発明の第1実施形態に係る非破壊検査システム1の概略構成図が示されている。なお、第1実施形態と同じ要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0066】
図6は、実線で示す非破壊検査システム1にて移動前の検出を行い、点線で示す非破壊検査システムにて被検査物に対して相対的に移動した後の検出を行う状態を示している。中性子照射部12は、非検査物への入射角α1は維持したまま移動する。
図6での移動距離は、隣接する中性子検査部の1ピッチ分である。移動後の高速中性子Nh’の各コリメータの中心軸が交差する位置を、
図6で111a’から111e’で示す。移動後の位置111a’で散乱した熱中性子はNsa’としてコリメータ23aを介して中性子検出器22aで検出される。同様に位置111b’から位置111e’で散乱した熱中性子は、それぞれ中性子検出器22bから22eで検出される。
【0067】
次に
図7を用いて、中性子検出器22aから22eで検出される検出結果である中性子量、および、被検査物である橋101と中性子検出ユニット21の関係を説明する。
図7(a)は、移動前後において、中性子検出器22aから22eで検出される検出結果である中性子量を示すグラフである。また
図7(b)は、橋101と移動前後の中性子検出ユニット21の関係を示す概略構成図である。なお、
図6で説明したものについては省略する。
【0068】
図7(a)は、縦軸に中性子検出器が検出した中性子量を示し、横軸に中性子検出器の位置を示すグラフであり、実線は移動前の状態を示すグラフであり、点線は移動後のグラフを示している。縦軸の中性子量は、中性子検出器が検出した熱中性子の量を示しており、検出した熱中性子の数をカウントした値である。点211aは、中性子照射部12から照射された高速中性子Nhが、被対象物である橋101を介して散乱した熱中性子Nsaを中性子検出器22aが検出した中性子量である。以下、同様に点211bから点211eは、中性子検出器22bから22eが検出した中性子量である。点211b’は、中性子照射部12から照射された高速中性子Nh’が、被対象物である橋101を介して散乱した熱中性子Nsb’を中性子検出器22bが検出した中性子量である。同様に、点211d’は、中性子照射部12から照射された高速中性子Nh’が、被対象物である橋101を介して散乱した熱中性子Nsd’を中性子検出器22dが検出した中性子量である。
図7(b)は、異常個所123、124が橋101に存在する場合の図である。
【0069】
図7(a)の実線は、コリメータ23dの下に異常個所124を検出した時の中性子量を示すグラフである。異常個所124は、橋にできた欠陥である空隙である。空隙は空気で満たされており、橋の主要構成材料であるコンクリートに比べて熱中性子の発生は少ない。そのため、点211dは第1実施例における標準値に対して小さな値を示す。
【0070】
次に、移動後の中性子検出器22bの検出結果について説明する。被検査物に対して相対的に移動した後の中性子検出器22bは、被検査物に対する絶対位置は移動前の中性子検出器22aの位置に相当する。異常個所123は、点111b’の位置に存在することになる。異常個所123は、橋にできた欠陥である空隙に水が満たされている状態である。水に入射した高速中性子は、水により熱中性子となる。そのため、水は、橋の主要構成材料であるコンクリートに比べ、熱中性子の発生量が多い。すなわち、中性子検出器22bで検出される中性子の量は、
図7(a)における、水がない場合(点211b)に比較して水がある場合(点211b’)は多くなる。そのため、当該位置における、Lsbの深さの間には異常があることを検出できる。
【0071】
このように、中性子照射部12は、中性子照射部12を含む非破壊検査システム1を被検査物に対して相対的に移動させることでコリメータ23a、23bからのコリメータの中心軸方向の距離が異なる位置111a(第1の位置)と位置111b’(第2の位置)に向けて高速中性子Nh、Nh’を照射可能である。中性子検出器22aは、中性子照射部12が位置111aに向けて高速中性子を照射した際に位置111aで散乱し発生する熱中性子Nsaを検出する(第1の中性子量である
図7(a)の211a)。次に、移動後に、中性子検出器22bは、中性子照射部12が位置111b’に向けて高速中性子を照射した際に位置111b’で散乱し発生する熱中性子Nsb’を検出する(第2の中性子量である
図7(a)の211b’)。そして、演算部313は、第1の中性子量と第2の中性子量から、111aと111b’の間、すなわちLsaとLsbの間に深さに異常個所があることを特定することができる。また、中性子量から、異常個所が、空隙であるか、水であるかを特定することもできる。
【0072】
<処理の流れ>
次に、第2実施形態に係る非破壊検査システム1の動作について、
図8に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0073】
ステップS201において、非破壊検査システム1を被検査物に対して相対的に移動させる。
【0074】
ステップS202において、位置入力部323は、中性子検出ユニット21、中性子照射部12の位置情報と、被対象物の位置情報を取得する。
【0075】
ステップS203において、線源出力部321は、線形加速器11を制御して、パルス中性子線を中性子照射部12から照射する。
【0076】
ステップS204において、検出器入力部322は、中性子検出ユニット21を構成する中性子検出器22aから22eで検出する中性子量のデータを取得し、記憶部312に記憶する。
【0077】
ステップS205において、演算部313は、取得したデータと、移動前データの比較を行う。移動前データは、例えば
図7(a)の実線で示すグラフである。
図7(a)における記憶部312に記憶されている移動前の熱中性子Nsaの中性子量(第1の中性子量である
図7(a)の211a)から求められるデータと、移動後の熱中性子Nsb’の中性子量(第2の中性子量である
図7(a)の211b’)から求められるデータの比較を行う。
【0078】
ステップS206において、演算部313は、ステップS104で比較した結果から、特異な値を出力する中性子検査器を特定する。演算部313は、特定した中性子検査器の位置から、異常個所が存在する深さの範囲を推定するデータ処理を行う。
【0079】
ステップS207において、表示部314は、ステップS105で処理されたデータをユーザが視認できる形で表示する。
【0080】
ステップS208において、制御部311は、ユーザの要求により、測定を終了するかどうかを判別し、終了すると判別(Y)の場合処理を終了し、終了しないと判別(N)の場合、ステップS201へ処理を戻す。
【0081】
<検出タイミング>
第2実施形態に係る非破壊検査システム1は、被検査物に対して連続して移動しながら検査をおこなう事ができる。たとえば、中性子検出器が1[cm]の間隔で100個、1[m]のアレイとして構成し、高速中性子の入射角を35°とする。また、熱中性子の速度を2200[m/s]とする。その場合、非破壊検査システム1を搭載する車両2が30[km/h]の速度で移動する場合、1.2[ms]の間隔で高速中性子をパルス状に照射することで検出を行うことができる。
【0082】
(第3実施形態)
次に本発明の第3実施形態について説明する。
【0083】
図9には本発明の第3実施形態に係る非破壊検査システム1'の概略構成図が示されている。なお、第1実施形態と同じ要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0084】
第3実施形態における非破壊検査システム1’は、基本的に中性子検出器22およびコリメータ23が中性子検出ユニット21に一つ設けられている。また、連結部24は長さが可変である。
【0085】
車両2'を移動させ、中性子照射部12を被検査物である橋101に対して相対的に移動させる。また、連結部24は、車両2’の移動に応じて長さを伸ばすことで、中性子検出ユニット21を被検査物に対して相対位置を維持することができる。車両の移動により、高速中性子の照射位置を変え、コリメータ23の中心軸方向の異なる2点の位置113(第1の位置)と位置114(第2の位置)に対して高速中性子を照射することができる。位置113に高速中性子が照射された場合、位置113に入射する高速中性子はX1/cosα2を透過する。位置113は異常個所がないため、位置113のコンクリートにより生じる熱中性子は、距離L1、距離Zaを透過して中性子検出器22で検出される。次に、位置114に異常個所123がある場合、異常個所が満たされた場合を考える。位置114に高速中性子が照射された場合、位置114に入射する高速中性子はX2/cosα2を透過する。位置114は水で満たされた異常個所123であり、散乱されて生じる熱中性子は、距離L2、距離Zaを透過して中性子検出器22で検出される。透過距離を特定でき、また高速中性子と熱中性子の減衰率を特定可能であれば、位置113を検出した中性子量の値から、中性子検出器22が、位置114で検出が期待される中性子量を演算することができる。しかし、位置114の異常個所123は水であり、散乱により熱中性子がコンクリートに比較して多く発生するため、中性子検出器22が検出する中性子量は、期待される中性子量よりも多くなる。そのため、位置114の深さに異常個所があること特定することができる。
【0086】
(第4実施形態)
次に本発明の第4実施形態について説明する。
【0087】
図10には本発明の第4実施形態に係る非破壊検査システム1''の概略構成図が示されている。なお、第1実施形態と同じ要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0088】
第4実施形態における非破壊検査システム1''は、基本的に中性子検出器22およびコリメータ23が中性子検出ユニット21に一つ設けられている。
【0089】
非破壊検査システム1''は、中性子照射部12の照射方向を、被検査物である橋101に対する入射角度をα3からα4に変更する照射角度変更部(不図示)を有する。中性子照射部の照射方向を変更することで、コリメータ23の中心軸方向の異なる2点の位置115(第1の位置)と位置116(第2の位置)に対して高速中性子を照射することができる。それによって、位置115と位置116の深さの間の異常個所を特定することができる。
【0090】
なお、非破壊検査システム1''は、中性子照射部12や、線形加速器11の構成の全体を物理的に移動することなく、例えば中性子照射部12の中性子の照射口の位置を変更したり、また、線形加速器で加速されるプロトンビームの方向を磁力で曲げることにより、中性子の照射方向を変更しても構わない。
【0091】
(第5実施形態)
次に本発明の第5実施形態について説明する。
【0092】
図11には本発明の第5実施形態に係る非破壊検査システムの中性子検出ユニット21と被検査物の関係を示す概略斜視図である。
【0093】
第5実施形態における非破壊検査システムは、中性子照射部(不図示)の照射起点18から、照射方向が図の上下方向に規制され、幅方向の2次元の拡散角を持つ高速中性子として照射する。照射される高速中性子は、
図11のプレーン19に沿って拡散しながら被検査物である橋101の内部に侵入する。
【0094】
中性子検出ユニット21は、複数の中性子検出器(不図示)が2次元のアレイ構造で配置される。
【0095】
照射された高速中性子は、橋101の内部で散乱し熱中性子を発生する。
図11において、Ns11からNs33で示す発生した熱中性子は、中性子検出ユニット21の複数の中性子検出器で検知される。高速中性子は、拡散しながら橋101の中を進行するため、例えば熱中性子Ns31と熱中性子Ns32の散乱の元となる高速中性子は、被検査物の中で透過する距離(経路長)が異なる。そのため、熱中性子Ns31は、熱中性子Ns32に対して中性子量が減少する。演算部313は、各中性子検査器に応じて、経路長の差による中性子量の差を補正することができる。
【0096】
第5実施形態により、ある程度の面積を持った領域における深さ方向の情報を一括して得ることができる。
【0097】
以上で、本発明に係る実施形態についての説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。
【0098】
非破壊検査システムは、中性子検出器が検出する中性子量と、異常個所の深さ方向の位置を示す距離情報と、構造物の減衰率を用いて異常個所の量を演算することができる。
【0099】
第1実施形態から第5実施形態において、非破壊検査システムは、異常個所の深さ方向の位置を特定することができる。それにより、異常個所で発生した熱中性子が深さ方向の距離で減衰する減衰量を特定することができる。具体的には、構造物の材質に応じた減衰率(減衰情報)と、透過距離により減衰量を特定することができる。異常個所が水である場合、水の量に応じて高速中性子が散乱され、発生する熱中性子の量が変化する。そのため、水の量が多い場合、それに伴い発生する熱中性子は多くなる。しかし、深い位置で発生した熱中性子は、深さ方向の距離に応じた減衰により減少する。このように、演算部は、中性子検出器が検出する中性子量と、異常個所の深さ方向の位置を示す距離情報と、中性子が透過する構造物の減衰情報を用いて異常個所の量、例えば、異常個所の空隙に満たされた水の体積や、空気の体積を演算することができる。
【符号の説明】
【0100】
1、1'、1'' 非破壊検査システム
2、2’、2'' 車両
5 コントロールユニット
10 電源部
11 線形加速器
12 中性子照射部
21 中性子検出ユニット
22、22a~22e 中性子検出器
23、23a~23e コリメータ
24 連結部
31 位置検出部
101 橋
311 制御部
312 記憶部
313 演算部
314 表示部
321 線源出力部
322 検出器入力部
323 位置入力部