(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】固形状接着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 201/00 20060101AFI20230210BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230210BHJP
C09J 129/14 20060101ALI20230210BHJP
C09J 139/06 20060101ALI20230210BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J11/06
C09J129/14
C09J139/06
(21)【出願番号】P 2019093554
(22)【出願日】2019-05-17
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000134589
【氏名又は名称】株式会社トンボ鉛筆
(73)【特許権者】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】坂戸 元哉
(72)【発明者】
【氏名】阪本 昭弘
(72)【発明者】
【氏名】青木 一央
(72)【発明者】
【氏名】岸 肇
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102134460(CN,A)
【文献】特公昭47-051808(JP,B1)
【文献】特開平04-183766(JP,A)
【文献】特開2009-012193(JP,A)
【文献】特開昭53-017646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、有機溶剤、ゲル化剤、及びポリビニルホルマール樹脂を含有
し、前記ポリビニルホルマール樹脂の含有量は、固形状接着剤全量に対して0.1~5.0質量%であることを特徴とする固形状接着剤。
【請求項2】
さらに、ポリビニルホルマール樹脂以外のポリビニルアセタール樹脂から選択される、少なくとも1種のポリビニルアセタール樹脂を含有する、請求項
1に記載の固形状接着剤。
【請求項3】
ポリビニルホルマール樹脂とポリビニルアセタール樹脂の比率(質量比)が、1/99~50/50である、請求項
2に記載の固形状接着剤。
【請求項4】
ポリビニルアセタール樹脂が、ポリビニルブチラール樹脂である、請求項
2または
3に記載の固形状接着剤。
【請求項5】
さらに、上記以外の合成高分子及び天然高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種の接着成分を含む、請求項1~
4いずれかに記載の固形状接着剤。
【請求項6】
前記接着成分が、ポリビニルピロリドン樹脂である、請求項
5に記載の固形状接着剤。
【請求項7】
ゲル化剤が、5~6価の糖アルコールのジベンザル化物である、請求項1~
6いずれかに記載の固形状接着剤。
【請求項8】
請求項1~
7いずれかに記載の固形状接着剤を、繰出用容器に充填したことを特徴とする繰出式固形状接着剤。
【請求項9】
固形状接着剤の硬さが1×10
-5N/cm
2~15×10
-5N/cm
2の範囲である、請求項
8に記載の繰出式固形状接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形状接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DIY(自分で工作物を作製する)が盛んであり、紙だけでなく木材や布材なども接着できる接着剤が求められている。しかしながら、一般的な接着剤は液状であり、液だれや手を汚しやすいなど、使用面で課題がある。
【0003】
そのため、従来より固形状の接着剤が提唱されている(例えば、特許文献1参照)。主な接着成分として水溶性樹脂ポリマー(ポリビニルピロリドンとポリウレタンの混合物)を使用し、ゲル化剤には石鹸(脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩)を用いている。しかしながら、石鹸ゲル系でポリビニルピロリドンとポリウレタンを使用した固形状接着剤は、接着剤表面がパサついて被着材に接着剤を付着させにくく、また、接着剤がぼろ付いて被着材表面に塗り広げにくく、固形状の欠片が被着材表面に残ってしまうことがある。
【0004】
これに対し、末端シリル化ウレタンを用いることにより被着材への接着成分の付着性を向上させた石鹸ゲル系固形状接着剤が提案されている(特許文献2)が、しばしば塗布した際の抵抗を大きく感じることがある。また、これを含めた石鹸ゲル系固形状接着剤は、石鹸自体が白色不透明であるため、色の濃い被着材に塗布すると接着剤の白色が目立って、被着材が汚れたように見える場合がある。
さらに、石鹸ゲル系固形状接着剤のpHはアルカリ側(pH9~13)である。このアルカリ性は、塗布後に空気中の二酸化炭素などにより中和されるので通常は問題にならないが、木材を被着材とした場合には接着剤が付着した被着材表面を変色(いわゆるアルカリ汚染)させてしまうことがある。
【0005】
一方、ソルビトールのベンジリデン誘導体をゲル化剤に用いた固形状接着剤は、その成分構成により基本的に透明で、pHが中性領域であるため、接着剤が付着しても被着材が汚れて見えたり、被着材(木材)を変色させたりすることが無く、塗布面の仕上がりがキレイであるが、塗布感が硬くて重いなどの欠点がある。
【0006】
球形状の微粒子を配合した、軽い押しつけ力で良好な塗布性能と接着力を確保でき、強度及び塗布性能が低下しない固形接着剤も提案されている(特許文献3)。球形状微粒子としては、平均粒子径が0.3~30μmのベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物やガラスビーズ、接着剤成分としては、ポリビニルピロリドンなどを用い、さらに、常温で固体かつ溶剤に対する溶解度が小さいワックス類を併用することにより、長期保存あるいは使用による効果の低減を防止している。しかしながら、賦形性を保つために比較的多くのゲル化剤を使用しているため塗布感が硬く糊の縁がぼろ付きやすく、前記ワックス類や前記球形状微粒子により接着剤の透明性が低下するだけでなく、被着材(紙)への接着力も不十分となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4870260号公報
【文献】特許第3350532号公報
【文献】特開2003-049149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、被着材が汚れて見えたり、アルカリ汚染を生じさせることなく被着材の塗布面の仕上がりが良好で、かつ塗布感が軽く、紙だけでなく木材や布材なども接着できる固形状接着剤、及びそれを繰出用容器に充填した繰出式固形状接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者は鋭意検討した結果、ポリビニルホルマール樹脂を使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
1)水、有機溶剤、ゲル化剤、及びポリビニルホルマール樹脂を含有し、前記ポリビニルホルマール樹脂の含有量は、固形状接着剤全量に対して0.1~5.0質量%であることを特徴とする固形状接着剤。
2)さらに、ポリビニルホルマール樹脂以外のポリビニルアセタール樹脂から選択される、少なくとも1種のポリビニルアセタール樹脂を含有する、前記1)に記載の固形状接着剤。
3)ポリビニルホルマール樹脂とポリビニルアセタール樹脂の比率(質量比)が、1/99~50/50である、前記2)に記載の固形状接着剤。
4)ポリビニルアセタール樹脂が、ポリビニルブチラール樹脂である、前記2)または3)に記載の固形状接着剤。
5)さらに、上記以外の合成高分子及び天然高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種の接着成分を含む、前記1)~4)いずれかに記載の固形状接着剤。
6)前記接着成分が、ポリビニルピロリドン樹脂である、前記5)に記載の固形状接着剤。
7)ゲル化剤が、5~6価の糖アルコールのジベンザル化物である、前記1)~6)いずれかに記載の固形状接着剤。
8)前記1)~7)いずれかに記載の固形状接着剤を、繰出用容器に充填したことを特徴とする繰出式固形状接着剤。
9)固形状接着剤の硬さが1×10-5N/cm2~15×10-5N/cm2の範囲である、前記8)に記載の繰出式固形状接着剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被着材が汚れて見えたり、アルカリ汚染を生じさせることがなく、被着材の塗布面の仕上がりが良好で、かつ塗布感が軽く、紙だけでなく木材や布材なども接着できる固形状接着剤、及びそれを繰出用容器に充填した繰出式固形状接着剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る固形状接着剤は、水、有機溶剤、ゲル化剤、及びポリビニルホルマール樹脂を含有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の固形状接着剤では、溶媒として、水及び有機溶剤を含有する。水と有機溶剤の比率は、特に限定されるものではなく、固形状接着剤の接着性、保存安定性、及びゲル化状態などのバランスを考慮して適宜設定することができるが、水100質量部に対して有機溶剤50~200質量部の比率であることが好ましく、さらに好ましくは100~150質量部である。水と有機溶剤をバランス良く使用することにより、ゲル化剤と樹脂の双方の相溶性が良好で、固形状接着剤の透明性の確保、接着性が向上する。また、固形状接着剤を塗布した紙面がシワになることを抑制できる。
【0014】
水と有機溶剤(溶媒)の合計量は、固形状接着剤全量に対して、好ましくは50~90質量%、さらに好ましくは50~85質量%、特に好ましくは55~80質量%である。溶媒が少なすぎると樹脂が溶解できなくなり、溶媒が多すぎると適度な硬さを有する固形状接着剤の調製が困難になる。
【0015】
本発明の固形状接着剤で使用される有機溶剤としては、特に限定にされるものではなく、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール類;エチレングリコール、グリセリン、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノールなどの多価アルコール類;ヘキサン、へプタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類;などが挙げられ、これらの有機溶剤は、単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0016】
本発明の固形状接着剤は、上述のとおり、水と有機溶剤を含有するため、有機溶剤としては、水に対する溶解度が高いものが好ましく、水と自由に混合するものがさらに好ましい。さらに、ゲル化させた固形状接着剤から溶剤分が蒸発し、固形状接着剤の乾燥による塗布量低下、あるいは塗布感の悪化を防止するため、有機溶剤の常圧における沸点が100℃以上であることが特に好ましい。
【0017】
このような観点から、有機溶剤としては、多価アルコール類、グリコールエーテル類が好ましく、なかでも、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルがより好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルが特に好ましい。
【0018】
本発明の固形状接着剤において、ゲル化剤は、ポリビニルホルマールなどの樹脂と水及び有機溶剤の混合物をゲル化させるために使用する。
ゲル化剤としては、公知のものから適宜選択して用いれば良く、その具体例としては、5~6価の糖アルコールのジベンザル化物、脂肪族カルボン酸塩、脂肪酸アマイドなどの脂肪酸誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、有機ベントナイト、シリカなどの無機化合物、カラギーナンや寒天、グルコース、グルクロン酸、ラムノースを構成糖とする天然高分子多糖類などが挙げられ、これらは単独で、または2種以上併用することができる。なかでも、pHが中性付近で賦形性に優れている点、透明ゲルを形成できる点で、5~6価の糖アルコールのジベンザル化物が好ましい。
【0019】
このような糖アルコールのジベンザル化物は、例えば、マンニトール、ラムニトール、キシリトール、ソルビトールなどの5~6価の糖アルコールと、ベンズアルデヒドもしくはその核置換体と縮合物であり、単独でまたは前記の糖アルコールのモノあるいはトリベンザル化物との混合物として、使用することができる。特に、キシリトール、ソルビトールまたはこれらの混合物のジベンザル化物が良好な賦形性を示す。
【0020】
ソルビトールのジベンザル化物は市販品として入手でき、例えば、「Millad3988」(Milliken&Company製)、「ゲルオールD」(新日本理化(株)製)、「ゲルオールMD」(新日本理化(株)製)などが挙げられる。
【0021】
ゲル化剤の使用量は、有機溶剤の種類及び量、樹脂の種類及び量によって好適な範囲が異なるが、固形状接着剤全量に対して、好ましくは0.5~10質量%、さらに好ましくは1~8質量%、特に好ましくは1~5質量%である。ゲル化剤の使用量が少ないと固形状接着剤としてのゲル化が不十分で、賦形性が得られなかったり、塗布時に崩れてしまう恐れがある。一方、使用量が多いと固形状接着剤が固くなり、塗布時に接着に十分な塗布量が得られにくくなる。
【0022】
本発明において、樹脂は主として固形状接着剤に接着性を付与するために使用されるが、ポリビニルホルマール樹脂を使用することで、軽い塗布感が実現できる。下記一般式(1)で表されるポリビニルホルマール樹脂は、ポリビニルアルコールのホルマール化により得られる樹脂であり、常温の水(20±15℃)に不溶である。ポリビニルホルマール樹脂の重量平均分子量は、好ましくは10,000~250,000、さらに好ましくは20,000~200,000、特に好ましくは40,000~150,000である。分子量が小さ過ぎると塗布抵抗の低減効果(軽い塗布感)が損なわれ、一方、分子量が大き過ぎると被着材に対する粘着性(接着成分が固化する前の粘着力)が低下する傾向が見られる。
また、ポリビニルホルマール樹脂中の水酸基含有量が10質量%以下、酢酸基含有量が5~15質量%のものが好ましい。
ポリビニルホルマール樹脂は、1種単独で、または分子量あるいは水酸基含有量が異なるものを2種以上混合して使用することができる。
【0023】
【0024】
ポリビニルホルマール樹脂の使用量は、有機溶剤の種類及び量、樹脂の種類によって好適な範囲が異なるが、固形状接着剤全量に対して、好ましくは0.1~5.0質量%、さらに好ましくは0.25~3.5質量%、特に好ましくは0.5~2.5質量%である。使用量は、0.1質量%以上であれば塗布抵抗の低減効果を得ることができ、5.0質量%以下であれば溶媒や樹脂都の相溶性が悪くなることがない。
ポリビニルホルマール樹脂は市販品として入手でき、例えば、「ビニレック」(JNC(株)製)、「Vinylec-F」(SivaChemicalIndustries)などが挙げられる。
【0025】
本発明において、樹脂としては、ポリビニルホルマール樹脂と、ポリビニルホルマール樹脂以外のポリビニルアセタール樹脂から選択される少なくとも1種のポリビニルアセタール樹脂とを併用することが好ましい。
【0026】
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化した樹脂の総称である。ポリビニルアセタール樹脂としては、例えば、下記一般式(2)で表わされるビニルアセタール単位を主体とし、ビニルアルコール単位などを繰り返し単位として含む重合体が挙げられ、ポリビニルアセトアセタール樹脂(一般式(2)のR1がメチル基)、ポリビニルプロピラール樹脂(一般式(2)のR1がエチル基)、ポリビニルブチラール樹脂(一般式(2)のR1がプロピル基)などが挙げられる。
【0027】
【0028】
これらの樹脂の中でも、入手容易性、溶媒や樹脂との相溶性及び賦形性向上の観点より、ポリビニルブチラール樹脂が好ましい。ポリビニルブチラール樹脂は、ビニルブチラール、酢酸ビニル、ビニルアルコールの共重合体であり、重合度や水酸基量が異なる各種タイプのものを用いることができ、1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
ポリビニルブチラール樹脂の使用量は、有機溶剤の種類及び量、樹脂の種類によって好適な範囲が異なるが、固形状接着剤全量に対して、好ましくは1~20質量%、さらに好ましくは5~15質量%、特に好ましくは8~12質量%である。
ポリビニルブチラール樹脂は市販品として入手でき、その具体例としては、エスレックBL-1(計算分子量1.9×104、水酸基36mol%)、同BL-2(計算分子量2.7×104、水酸基36mol%)、同BM-1(計算分子量4.0×104、水酸基34mol%)、同BM-2(計算分子量5.2×104、水酸基31mol%)、同BM-S(計算分子量5.3×104、水酸基22mol%)、同BM-SZ(計算分子量5.3×104、水酸基22mol%)、同BH-3(計算分子量11.0×104、水酸基34mol%)、同BH-6(計算分子量9.2×104、水酸基30mol%)、同KX-1(計算分子量17.5×104、水酸基80mol%)、同KX-5(計算分子量10×104、水酸基80mol%)、同KW-1(計算分子量3.0×104、水酸基80mol%)、同KW-3(計算分子量3.0×104、水酸基80mol%)、同KW-10(計算分子量3.0×104、水酸基80mol%)(以上、積水化学工業(株)製)などが挙げられる。計算分子量は、原料のポリビニルアルコールの重量平均分子量から求めた重量平均分子量を示す。
【0029】
ポリビニルブチラール樹脂の重量平均分子量は、原料のポリビニルアルコールの分子量に依存する。本発明で使用するポリビニルブチラール樹脂の重量平均分子量は、好ましくは5,000~500,000、さらに好ましくは10,000~300,000、特に好ましくは20,000~100,000である。ポリビニルブチラール樹脂に関して、好ましくは、水/有機溶媒の混合溶液に可溶なものであり、最も好ましくは、20質量%水溶液の25℃における粘度が100~5000mPa・sとなるポリビニルブチラール樹脂である。
【0030】
ポリビニルホルマール樹脂とポリビニルアセタール樹脂を併用する場合における、両者の比率(質量比)は、固形分換算で、1/99~50/50の範囲が好ましく、さらに好ましくは3/97~40/60、特に好ましくは5/95~25/75の範囲である。ポリビニルホルマール樹脂の比率が高くなり過ぎると被着材に対する接着性が低下する傾向があり、反対に低すぎると塗布抵抗の低減効果が小さくなる。
【0031】
本発明の固形状接着剤では、ポリビニルホルマール樹脂とポリビニルブチラール樹脂を併用することにより、ポリビニルホルマール樹脂単独で使用した場合に比べ、軽い塗布感の効果を得つつ、さらに接着力が向上する。そのため、紙だけでなく木材や布材などの被着材にもより適した固形状接着剤となる。
【0032】
本発明では、固形状接着剤の接着性を向上させるために、さらに、公知の接着性樹脂を含んでいても良い。接着性樹脂としては、フィルム形成性の水溶性または水に分散しうる、合成高分子または天然高分子を用いることができる。
接着性樹脂の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール(部分ケン化物、完全ケン化物)、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル共重合体(共単量体;エチレン、プロピレン、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリルアミドなど)及びそのケン化物、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリビニルメチルエーテル、アクリル樹脂エマルジョン(ポリマー;アクリル酸またはメタクリル酸エステルの単独重合体または共重合体であって、具体的にはアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルを主体とし、これとメタクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニルなどとを共重合した共重合体など)、などの合成高分子、または、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダ、ローカストビーンガム、トラガントガム、アラビアゴム、ゼラチン、デキストリン、コーンスターチ、エトキシ化及びプロポキシル化澱粉、カルボキシメチル澱粉、その他の澱粉誘導体、酵素変性澱粉などの天然高分子、などが挙げられる。これらの接着性樹脂は単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0033】
接着性樹脂の使用量は、有機溶剤の種類及び量、樹脂の種類によって好適な範囲が異なるが、固形状接着剤全量に対して、好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは15~50質量%、特に好ましくは18~40質量%である。接着性樹脂の含有量が多すぎると、有機溶剤への均一混合が困難となり、一方少なすぎると、所期の接着力が得られないか或いは固形状接着剤としての充分な硬度が得られなくなる恐れがある。
【0034】
接着性樹脂のなかでも、ポリビニルピロリドンは、種々の溶媒や樹脂との相溶性が高く、粘着性が高い点で好ましい。また、水と有機溶剤中での塗膜形成能にも優れている。
ポリビニルピロリドンは市販品として入手でき、好ましい具体例としては、例えば、PVPK-15、同K-30、同K-90、同K-120(以上、(アシュランド・ジャパン株)製)、ピッツコールK-30、同K-90(以上、第一工業製薬(株)製)、ポリビニルピロリドンK-30、同K-90(以上、(株)日本触媒製)などが挙げられる。なお、ポリビニルピロリドンは、重量平均分子量5,000~3,000,000の範囲で適宜選択すれば良く、製品形状は粉末、顆粒または液体のいずれでも良い。
【0035】
固形状接着剤には、水、有機溶剤、接着成分及びゲル化剤のほかに、本発明の効果を阻害しない範囲内で、染料あるいは顔料、香料、防黴剤、防腐剤などを添加することができる。さらに助剤として、可塑剤、滑剤、湿潤剤、増量剤、保湿剤、界面活性剤、乳化剤、例えばトリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ソルビット、マンニット、グルコース、低分子量ポリエチレングリコール、グリセリン、ヒアルロン酸ナトリウムなどを添加することもできる。
【0036】
本発明に係る固形状接着剤を調製する場合は、接着成分とゲル化剤とその他成分と、残余量の水及び有機溶剤と、を40~120℃に調整された混合機に投入し、50~300rpmの撹拌速度で約10~120分間混合し、均一な混合物を得て型注入用の材料を得る。
【0037】
型に注入された材料を、冷却しながら固化させて固形状接着剤を得る。材料の冷却方法は、徐冷あるいは急冷のいずれであっても良い。
【0038】
型に注入された固形状接着剤の硬さは、固形状接着剤を装着する繰出用容器の形状に応じて設定することができる。固形状接着剤の硬さは、レオメーター(飛鳥機器社製Cardmeter-Max_ME-500)にて、先端直径1.5mmの針に0~400gfの荷重をかけていき、固形状接着剤表面に進入させたときの抵抗荷重の大きさから測定する。
【0039】
上記の方法で得られた固形状接着剤を、繰出用容器に装着することにより、繰出式固形状接着剤が得られる。固形状接着剤の硬さとしては、塗布側は、繰出用容器の開口より固形状接着剤の前端が出没するので、紙または木材、布材などの被着体に対する好適な塗布量を確保するのに必要な硬さ(柔らかさ)が求められる。スライダー側は、スライダー部分でちぎれ、結果的に固形状接着剤がスライダーから脱落して固形状接着剤を繰出用容器内に収容できなくなる現象を防止するのに必要な硬さが求められる。すなわち、繰出式固形状接着剤では、この両方を満たす硬さが必要となる。
【0040】
本発明の固形状接着剤は、硬さの程度としては23℃60%RH環境下で、1×10-5N/cm2~15×10-5N/cm2の範囲であることが好適であり、さらに好ましくは3×10-5N/cm2~11×10-5N/cm2の範囲、特に好ましくは5×10-5N/cm2~7×10-5N/cm2の範囲である。このように固形状接着剤の硬さを調整することによって、好適な塗布量を確保しつつ、スライダーから脱落し難い固形状接着剤を得ることができる。
【0041】
本発明の固形状接着剤は、紙や木材、布材などの接着用として使用できる。紙としては、上質紙、クラフト紙、写真紙、封筒紙、画用紙、コート紙、ボール紙などが挙げられる。木材としては、桐材、アサダ材、杉材、樺材、ヒノキ材などの単板、単板積層材(木材を薄くスライスして得た単板を、繊維方向を同方向に向けて複数枚重ね接着剤を介して熱圧接着した木質ボード)、合板(単板間が接着剤を介して接着されたもの)、パーティクルボード(木材の切削や破砕などにより得た小片を接着剤と混合してマット状にしたものを熱圧締めして得られる木質ボード)、ファイバーボード(木材の蒸射・解繊などにより得た小片を接着剤と混合してマット状にしたものを熱圧締めして得られる木質ボード;MDF(中比重繊維板)、ハードボード(HB)、インシュレーションボードなど)、OSB(薄い削片状にした原料を配向させて積層、接着したもの)、集成材(ひき板または小角材などを、繊維方向に互いに平行にして長さ、幅、厚さ方向に集成接着したもの)、ブロックボード(ブロック状の小片を板状に集成接着したもの)、木質複合材(木質ボードの片面または両面に、接着剤を介して、表面化粧材や繊維マットなどを接合したもの)などが挙げられる。布材としては、コットン、麻などのセルロース系繊維素材、ポリエステル、ナイロンなどの合成繊維素材をそれぞれ単独で、または、それらを混用し形成した織地、編地、不織布などが挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1~7、比較例1~6)
撹拌機を備えた混合機にて、表1に示す配合割合で各配合成分を、十分に均一な材料が得られるまで加熱撹拌した。次いで、この熱材料を内径16mmの円筒形の繰出用容器((株)トンボ鉛筆製「ピットハイパワーS」品番:PT-TPの繰出用容器)に注入した。その後、冷却して繰出式固形状接着剤を得た。
表1において使用した各成分は以下の通りである。
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
PVF-L(ポリビニルホルマール);「ビニレックKタイプ」、分子量:4,400~54,000、水酸基含有量5.75±0.75%(JNC(株)製)、
PVF-H(ポリビニルホルマール);「ビニレックEタイプ」、分子量:95,000~134,000、水酸基含有量5.75±0.75%(JNC(株)製)
PVB(ポリビニルブチラール);「エスレックKW」、分子量:30,000(積水化学工業(株)製)
PVP-K30(ポリビニルピロリドン);「ピッツコールK-30」、分子量:45,000(第一工業製薬(株)製)
PVP-K90(ポリビニルピロリドン);「ピッツコールK-90」、分子量:1,200,000(第一工業製薬(株)製)
PVA(ポリビニルアルコール);「PVA-217」、重合度:1,700((株)クラレ製)
変性デキストリン(ヒドロキシプロピル化酵素変性デキストリン):「PENON PKW」(日澱化學(株)製)
ゲル化剤(ソルビット・ベンズアルデヒド縮合物:ジベンジリデンソルビトール);「ゲルオールD」(新日本理化(株)製)
【0044】
(1)ゲル化状態
得られた固形状接着剤を繰出用容器から全量繰出した後、最後まで繰戻しできるかを目視で観察し、以下の基準で評価した。
〇;繰出し、繰戻しが正常にできる。
×;繰出し、繰戻しが最後までできない。
【0045】
(2)塗布面の状態
(a)木材の変色
桐材に固形状接着剤を塗布して一昼夜放置後、塗布面の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○;桐材の変色なし。
×;桐材の変色あり。
(b)固形状接着剤の目立たなさ
桐材に固形状接着剤を塗布・乾燥して塗布面の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○;固形状接着剤が目立たない。
×;固形状接着剤の色(白色)が目立つ。
【0046】
(3)塗布抵抗、塗布量、及び紙、木材、布材への接着力は、基準組成の評価値を100として、以下の方法で評価した。
【0047】
(a)塗布抵抗
水平の台に置いた封筒用紙(リンテック社製ハーフトーンカラー米坪104.7g/m2)を、固形状接着剤を塗布する面が力と測定する方向とが略水平になるように、プッシュプルゲージ(IMADA社製DS2-500N)に取り付ける。プッシュプルゲージを固定し、前記封筒用紙に、繰出用容器から5mm程度繰出した固形状接着剤を、荷重800~1000gf、速度10cm/秒、角度90°で、プッシュプルゲージの引張方向に塗布し、その時の最大引張力を塗布抵抗した。なお、台と封筒用紙との摩擦は無視できるほど小さい。
<評価>基準組成の評価値100に対して、90未満を好適(塗布抵抗の低減効果があり、軽い塗布感)と判断した。
【0048】
(b)塗布量
固定した被着材に、繰出用容器から5mm程度繰出した固形状接着剤を、荷重800~1000gf、速度10cm/秒、角度90°で一定の面積塗布し、塗布前後の固形状接着剤の重量差を測定し、塗布量した。被着材は、封筒用紙、MDF板を使用した。
<評価>基準組成の評価値100に対して、100以上200未満を好適(少なすぎず、多すぎない適量)と判断した。
【0049】
(c)紙への接着力
封筒用紙に、繰出用容器から5mm程度繰出した固形状接着剤を、荷重800~1000gf、速度10cm/秒、角度90°で、面積4.5cm×10cmに塗布し、すぐに固形状接着剤を塗布していない封筒用紙を1000gfの荷重で圧着して2枚の封筒用紙を貼り合わせ、8分間、10分間経過する試験片をそれぞれ作製した。
2つの試験片を、速度10cm/秒で引き剥がした際の、紙破壊した面積を、固形状接着剤を塗布した面積で除した値の平均値を紙への接着力とした。測定は、温度23℃60%RHで行った。
<評価>基準組成の評価値100に対して、100以上を好適と判断した。
【0050】
(d)木材への接着力
桐材に、繰出用容器から繰出した固形状接着剤を面積9mm×10mmに一様に塗布し、固形状接着剤を塗布していない桐材を1000gfの荷重で圧着して2枚の桐材を貼り合わせ、23℃60%RH環境下に一昼夜置いた試験片を作製した。
試験片を、速さ5mm/分で、テンシロン万能試験機(ORIENTEC社製RTC-1210A)を使って、接着面と平行方向に試験片の2枚の桐材をお互いに逆向きに引張り、接着面が破断するまでに要する力(最大値)を、固形状接着剤を塗布した面積で除した値を木材の接着力とした。
<評価>基準組成の評価値100に対して、95以上を好適と判断した。
【0051】
(e)布材への接着力
布材(ポリエステル-綿の交織織物)に、繰出用容器から繰出した固形状接着剤を面積25mm×10mmに一様に塗布し、固形状接着剤を塗布していない布材を1000gfの荷重で圧着して2枚の布材を貼り合わせ、23℃60%RH環境下に一昼夜置いた試験片を作製した。
試験片を、速さ5mm/分で、テンシロン万能試験機を使って、接着面と平行方向に試験片の2枚の布材をお互いに逆向きに引張り、接着面が破断するまでに要する力(最大値)、固形状接着剤を塗布した面積で除した値を布材の接着力とした。
<評価>基準組成の評価値100に対して、100以上を好適と判断した。
【0052】
(4)pH
付き刺し型pH電極(ニッコー・ハンセン社製pHTestr-10BNC)を、23℃の固形状接着剤に付き刺して測定した。
【0053】
得られた固形状接着剤の評価結果を、表1にまとめて示す。
【0054】
【0055】
表1の結果から、ポリビニルホルマール樹脂を使用することにより、ポリビニルブチラール樹脂とポリビニルピロリドン樹脂の併用系(基準組成、比較例2-4)に比べ、接着性などの性能を同等以上に保ちつつ、塗布抵抗の低減効果が大幅に向上することがわかる。また、ポリビニルホルマール樹脂に代えてカプロラクタムを配合した場合、塗布抵抗はやや低減するが、紙への接着力が弱くなり(比較例2)、酸化チタン、炭酸カルシウムを配合した場合には、塗布抵抗の低減効果は得られない(比較例3、4)。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る固形状接着剤は、塗布仕上がりが良好でかつ塗布感が軽いため、紙のみならず木材や布材を容易に接着することが可能である。従来の水性固形状接着剤と同様の形態でありながら、木材や布材も接着できるため、DIYをはじめ、家庭、オフィス、工場、店舗、学校、各種施設などにおいて都合よく使用されうる。