(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】腹膜線維症の予防、改善または、治療のためのCHP(シクロ-ヒスプロ)の用途
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4985 20060101AFI20230210BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230210BHJP
A61P 7/08 20060101ALI20230210BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230210BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230210BHJP
【FI】
A61K31/4985
A23L33/10
A61P7/08
A61P37/06
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2021557877
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 KR2020004343
(87)【国際公開番号】W WO2020197356
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-22
(31)【優先権主張番号】10-2019-0036269
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0037858
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517288254
【氏名又は名称】ノブメタファーマ カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】504314133
【氏名又は名称】ソウル ナショナル ユニバーシティ ホスピタル
(73)【特許権者】
【識別番号】519001383
【氏名又は名称】ソウル ナショナル ユニバーシティ アールアンドディービー ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジョン フェ ユン
(72)【発明者】
【氏名】イ ド ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イ ホン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨン ス
(72)【発明者】
【氏名】ヤン スン ヒ
【審査官】薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/012901(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/013974(WO,A1)
【文献】特表2013-537195(JP,A)
【文献】特表2011-521956(JP,A)
【文献】特表2007-500747(JP,A)
【文献】特表2004-518614(JP,A)
【文献】特表2022-528087(JP,A)
【文献】Amino Acids,2008年,Vol.35,pp.283-289
【文献】Journal of the American Society of Nephrology :Kidney Week Edition (Abstract Supplement),2019年11月,p.786
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K A61P A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、腹膜線維症の予防または治療用薬学組成物。
【請求項2】
前記腹膜線維症は、後腹膜線維症(Retroperitoneal fibrosis)および被嚢性腹膜硬化症(encapsulating peritoneal sclerosis)からなる群から選択されたいずれか一つ以上を含む、請求項1に記載の腹膜線維症の予防または治療用薬学組成物。
【請求項3】
前記シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩は、腹膜のEMT(epithelial-to-mesenchymal transition)抑制、腹膜の細胞死滅抑制および腹膜への免疫細胞浸潤抑制からなる群から選択されるいずれか一つ以上の効果を示すものである、請求項1に記載の腹膜線維症の予防または治療用薬学組成物。
【請求項4】
前記腹膜線維症は、透析により発生するものである、請求項1に記載の腹膜線維症の予防または治療用薬学組成物。
【請求項5】
シクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩を含む、腹膜線維症の予防または改善用健康機能食品組成物。
【請求項6】
前記腹膜線維症は、後腹膜線維症(Retroperitoneal fibrosis)および被嚢性腹膜硬化症(encapsulating peritoneal sclerosis)からなる群から選択されたいずれか一つ以上を含む、請求項5に記載の腹膜線維症の予防または改善用健康機能食品組成物。
【請求項7】
前記シクロ-ヒスプロまたはその食品的に許容可能な塩は、腹膜のEMT(epithelial-to-mesenchymal transition)抑制、腹膜の細胞死滅抑制および腹膜への免疫細胞浸潤抑制からなる群から選択されるいずれか一つ以上の効果を示すものである、請求項5に記載の腹膜線維症の予防または改善用健康機能食品組成物。
【請求項8】
前記腹膜線維症は、透析により発生するものである、請求項5に記載の腹膜線維症の予防または改善用健康機能食品組成物。
【請求項9】
シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む腹膜透析液。
【請求項10】
前記シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩は、腹膜のEMT(epithelial-to-mesenchymal transition)抑制、腹膜の細胞死滅抑制および腹膜への免疫細胞浸潤抑制からなる群から選択されるいずれか一つ以上の効果を示すものである、請求項9に記載の腹膜透析液。
【請求項11】
腹膜線維症を予防または治療するための薬学組成物の製造時におけるシクロ-ヒスプロ
またはその薬学的に許容可能な塩の
使用。
【請求項12】
前記腹膜線維症は、後腹膜線維症(Retroperitoneal fibrosis)および被嚢性腹膜硬化症(encapsulating peritoneal sclerosis)からなる群から選択されたいずれか一つ以上を含む、請求項
11に記載のシクロ-ヒスプロ
またはその薬学的に許容可能な塩の
使用。
【請求項13】
前記シクロ-ヒスプロ
またはその薬学的に許容可能な塩は、腹膜のEMT(epithelial-to-mesenchymal transition)抑制、腹膜の細胞死滅抑制および腹膜への免疫細胞浸潤抑制からなる群から選択されるいずれか一つ以上の効果を示すものである、請求項
11に記載のシクロ-ヒスプロ
またはその薬学的に許容可能な塩の
使用。
【請求項14】
前記腹膜線維症は、透析により発生するものである、請求項
11に記載のシクロ-ヒスプロ
またはその薬学的に許容可能な塩の
使用。
【請求項15】
腹膜透析液の製造時におけるシクロ-ヒスプロ
またはその薬学的に許容可能な塩の
使用。
【請求項16】
前記シクロ-ヒスプロ
またはその薬学的に許容可能な塩は、腹膜のEMT(epithelial-to-mesenchymal transition)抑制、腹膜の細胞死滅抑制および腹膜への免疫細胞浸潤抑制からなる群から選択されるいずれか一つ以上の効果を示すものである、請求項
15に記載のシクロ-ヒスプロ
またはその薬学的に許容可能な塩の
使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、腹膜線維症の予防、改善または治療のためのCHP(シクロ-ヒスプロ)の用途に関し、より詳細には、CHPを含む腹膜線維症の予防または治療用薬学組成物、腹膜線維症の予防または改善用健康機能食品組成物、腹膜透析液、CHPを用いた腹膜線維症の予防または治療方法、CHPを用いた腹膜透析方法、腹膜線維症を予防または治療するための薬学組成物の製造時におけるCHPの用途および/または腹膜透析液の製造時におけるCHPの用途に関する。
[背景技術]
【0002】
腹膜透析は、代表的な腎代替療法の一つであって、体内においてフィルターの役をする腹膜を用いる透析方法である。しかしながら、唯一の透析膜である腹膜機能が適切でなければ、持続できないという致命的な短所がある。
【0003】
これによって、腹膜線維症(PF,Peritoneal fibrosis)は、持続携行式腹膜透析(CAPD,Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis)患者の腹膜構造の変化および限外濾過(ultrafiltration)障害の主な原因となっている。腹膜線維化の極端な形態である被嚢性腹膜硬化症(encapsulating peritoneal sclerosis,ESP)は、腹膜透析を持続しにくくする代表的な原因であり、現在までは明確な予防法がなく、線維化硬化症の特性上、正常機能に復帰が不可能であり、このような理由から、一度診断を受けると、非常に致命的な経過を示す。
【0004】
このように、腎疾患患者において腹膜線維化を抑制しようとする試みは、社会経済学的な損失を起こす慢性腎臓病への進行を抑制すると共に、腎代替療法の持続性を決定できる重要な問題と認識されていて、その治療剤の開発が急務である。
【0005】
一方、腹膜中皮細胞(PMC,Peritoneal Mesothelial Cell)の上皮間葉移行(EMT,Epithelial-mesenchymal transition)および細胞外基質(ECM,ExtraCellular Matrix)タンパク質の腹膜蓄積が腹膜線維症の主要な特徴であり、形質転換成長因子(TGF,Transforming Growth Factor)-β1が腹膜線維症の発達において核心役割をすることが知られている。
【0006】
このようなEMTは、E-cadherin発現の減少とα-SMA(de novoα-smooth muscle actin)発現蓄積が特徴であることが知られている。EMTは、可逆的過程と知られているので、EMTを抑制することは、腹膜機能を保存するための治療的ターゲットとして考慮できる。
【0007】
このような背景下に、本発明者らは、シクロ-ヒスプロ(Cyclo-His Pro,CHP)が、腹膜線維化が誘導された動物モデルで腹膜のEMT(epithelial-to-mesenchymal transition)抑制、腹膜の細胞死滅抑制または腹膜への免疫細胞浸潤抑制効果を示すことによって腹膜線維症を効果的に治療できることを確認し、本発明を完成した。
【0008】
一方、韓国公開特許第10-2013-0006170号には、CHP(CYCLO(His-Pro)を高濃度で含有する大豆加水分解物を含む血糖調節用組成物が開示されているが、CHPの抗線維化効果については知られていない。
[発明の概要]
[発明が解決しようとする課題]
【0009】
本発明の目的は、シクロ-ヒスプロを含む腹膜線維症の予防または治療用薬学組成物を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、シクロ-ヒスプロを含む腹膜線維症の予防または改善用健康機能食品組成物を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、シクロ-ヒスプロを含む腹膜透析液を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、シクロ-ヒスプロを用いた腹膜線維症の予防または治療方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、シクロ-ヒスプロを用いた腹膜透析方法を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、腹膜線維症を予防または治療するための薬学組成物の製造時におけるシクロ-ヒスプロの用途を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、腹膜透析液の製造時におけるシクロ-ヒスプロの用途を提供することにある。
[課題を解決するための手段]
【0016】
上述した課題を解決するために、本発明は、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む腹膜線維症の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0017】
本発明は、また、シクロ-ヒスプロまたはこれの食品学的に許容可能な塩を含む腹膜線維症の予防または改善用健康機能食品組成物を提供する。
【0018】
本発明は、また、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む腹膜透析液を提供する。
【0019】
また、本発明は、シクロ-ヒスプロを有効量でこれを必要とする個体に投与する段階を含む腹膜線維症を予防または治療する方法を提供する。
【0020】
本発明は、また、シクロ-ヒスプロを有効量でこれを必要とする個体に投与する段階を含む腹膜透析方法を提供する。
【0021】
本発明は、また、腹膜線維症を予防または治療するための薬学組成物の製造時におけるシクロ-ヒスプロの用途を提供することにある。
【0022】
本発明は、また、腹膜透析液の製造時におけるシクロ-ヒスプロの用途を提供することにある。
【0023】
本発明の好ましい一実施例によれば、前記腹膜線維症は、後腹膜線維症(Retroperitoneal fibrosis)および被嚢性腹膜硬化症(encapsulating peritoneal sclerosis)からなる群から選択されたいずれか一つ以上を含んでもよい。
【0024】
本発明の好ましい他の一実施例によれば、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩は、腹膜のEMT(epithelial-to-mesenchymal transition)抑制、腹膜の細胞死滅抑制および腹膜への免疫細胞浸潤抑制からなる群から選択されるいずれか一つ以上の効果を示すことができる。
【0025】
本発明の好ましいさらに他の一実施例によれば、腹膜線維症は、透析により発生するものでありうる。
[発明の効果]
【0026】
本発明のシクロ-ヒスプロを含む組成物は、線維化が誘導された腹膜でEMT(epithelial-to-mesenchymal transition)抑制、細胞死滅抑制または腹膜への免疫細胞浸潤抑制効果を示すことによって、腹膜線維症を効果的に予防、改善または治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、CHP(それぞれ17.5および35mg/kg)を投与した腹膜線維化動物モデルの腹膜にそれぞれPAS(periodic acid Schiff)、MT(Masson’s Trichrome)およびシリウスレッド(Sirius red)染色を実施して線維化程度を確認した写真である。
【
図2】
図2は、CHP(それぞれ17.5および35mg/kg)を投与した腹膜線維化動物モデルの腹膜にICAM-1およびF4/80のタンパク質発現量をそれぞれ免疫組織化学(IHC)染色を通じて確認することによって腹膜硬化症の程度を観察した写真である。
【
図3a】
図3aは、CHP(それぞれ17.5および35mg/kg)を投与した腹膜線維化動物モデルの腹膜組織で線維化のマーカーであるcollagen 1とαSMA、そして細胞死滅マーカーであるp16、p21のタンパク質発現レベルの変化をウェスタンブロットで確認したバンド結果である。
【
図3b】
図3bは、ターゲット(collagen 1)のバンドのサイズを定量化してグラフで示した結果である。
【
図3c】
図3cは、ターゲット(αSMA)のバンドのサイズを定量化してグラフで示した結果である。
【
図3d】
図3dは、ターゲット(p21)のバンドのサイズを定量化してグラフで示した結果である。
【
図3e】
図3eは、ターゲット(p16)のバンドのサイズを定量化してグラフで示した結果である。
【
図4a】
図4aは、CHP(それぞれ17.5および35mg/kg)を投与した腹膜線維化動物モデルの腹膜組織で線維化のマーカーであるcollagen 1の遺伝子発現レベルの変化を確認したグラフである。
【
図4b】
図4bは、細胞周期遮断マーカーであるp21の遺伝子発現レベルの変化を確認したグラフである。
【
図4c】
図4cは、細胞接合マーカーであるE-cadherinの遺伝子発現レベルの変化を確認したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[発明を実施するための最良の形態]
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0029】
上述したように、腎疾患患者で腹膜線維化を抑制しようとする試みは、社会経済学的な損失を起こす慢性腎臓病への進行を抑制すると共に、腎代替療法の持続性を決定できる重要な問題と認識されていて、その治療剤の開発が急務である。
【0030】
これより、本発明者らは、シクロ-ヒスプロ(Cyclo-His Pro,CHP)が、腹膜線維化が誘導された動物モデルで腹膜のEMT(epithelial-to-mesenchymal transition)抑制、腹膜の細胞死滅抑制または腹膜への免疫細胞浸潤抑制効果を示すことによって腹膜線維症を効果的に治療できることを確認し、本発明を完成した。
【0031】
したがって、本発明は、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む腹膜線維症の予防または治療用薬学組成物および/またはシクロ-ヒスプロまたはその食品学的に許容可能な塩を含む腹膜線維症の予防または改善用健康機能食品組成物を提供する。
【0032】
本発明において「シクロ-ヒスプロ(Cyclo-HisPro;CHP)」は、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone,TRH)の代謝産物であるヒスチジン-プロリンから構成された自然的に発生する環状ジペプチド(dipeptide)またはTRH代謝過程とde novoで体内で合成されることがある生理活性ジペプチドであって、脳全般と脊髄および消化管などに広く分布する物質をいう。
【0033】
本発明の組成物において、前記CHPは、合成して使用したり、市販のものが使用できたりする。また、CHPが含有された物質、例えば、前立腺抽出物および大豆加水分解物などから精製して使用することができる。
【0034】
用語「精製された」は、CHPが前立腺抽出物のような天然由来で得ることができる形態に比べて濃縮された形態であることを意味する。精製された成分は、これらの天然源から濃縮させたり、または化学的合成方法を通じて得たりすることができる。
【0035】
本発明において「腹膜線維症」は、腹膜が線維化された状態を意味するものであって、腹膜に線維細胞が異常形成されたことを言い、例えば、後腹膜線維症(Retroperitoneal fibrosis)または被嚢性腹膜硬化症(encapsulating peritoneal sclerosis)を包括する意味として使用されるが、これに限定されない。腹膜の線維化は、例えば、透析により発生できる。
【0036】
本発明の腹膜線維症の予防、改善または治療用組成物において、シクロ-ヒスプロ、その薬学的に許容可能な塩またはその食品学的に許容可能な塩は、腹膜のEMT(epithelial-to-mesenchymal transition)抑制、腹膜の細胞死滅抑制および腹膜への免疫細胞浸潤抑制からなる群から選択されるいずれか一つ以上の効果を示すことができる。
【0037】
本発明において用語「EMT(epithelial-to-mesenchymal transition)」は、上皮細胞が間葉細胞に表現型変化することを意味する。具体的に、EMTは、細胞間の結合が緩くなり、細胞骨格が変わることで、組織が運動性を獲得する現象であって、細胞が本来の細胞表現型を喪失し、間葉細胞の表現型に転換されることを言う。EMTが誘導されると、線維芽細胞の蓄積を引き起こすことができ、EMTの誘導は、腹膜線維化の重要なメカニズムと認識される。
【0038】
これによって、本発明の具体的な一実施例では、腹膜線維化動物モデルでCHP投与によるE-cadherinおよびα-SMA(α-smooth muscle actin)のようなEMTマーカーの発現変化を確認することによって、抗線維効果を評価した。
図3a、
図3cおよび
図4cで確認されるように、CHPは、腹膜組織で線維化のマーカーであるαSMAの発現を抑制し、細胞接合マーカーであるE-cadherinの発現を増加させるので、結果的に、腹膜のEMTを抑制して抗線維効果を示すことが分かる。
【0039】
本発明の具体的な他の一実施例では、腹膜線維化が誘導された動物モデルでCHP投与による腹膜の細胞死滅を評価するために、細胞死滅マーカーであるp16およびp21の発現変化を確認した。
図3a、
図3d、
図3eおよび
図4bで確認されるように、CHP処理群でp16およびp21の発現が顕著に減少して細胞死滅が抑制されることが分かった。
【0040】
用語「線維症(fibrosis)」は、線維芽細胞の調節障害的増殖または活性、フィブロネクチンの異常蓄積および/またはコラーゲン性組織の病的あるいは過度な蓄積を特徴とする病態、疾患または障害を指す。
【0041】
したがって、本発明の具体的なさらに他の一実施例では、腹膜線維化が誘導された動物モデルでCHP投与によるcollagen 1の発現変化を確認することによって、抗線維効果を評価した。
図1(シリウスレッド染色結果)、
図3a、
図3bおよび
図4aで確認されるように、CHPは、線維化誘導により増加したcollagen 1の発現を顕著に減少させるので、優れた抗線維効果を示すことが分かる。
【0042】
本発明の具体的なさらに他の一実施例では、腹膜線維化が誘導された動物モデルでCHP投与による免疫細胞の浸潤程度を確認することによって、腹膜線維症の治療効果を評価した。
図1(PAS染色結果)および
図2で確認されるように、CHPは、線維化誘導により増加した免疫細胞の沈着を濃度依存的に減少させ、初期の免疫反応を誘発するICAM-1(Intercellular Adhesion Molecule 1)の発現量を減少させ、マクロファージ(macrophage)と樹状細胞のマーカーであるf4/80陽性細胞の発現量を減少させて、急激に免疫細胞の浸潤を減少させた。これを通じて、CHPが免疫細胞の浸潤を減少させることによって腹膜線維化の進行を妨害することが分かる。
【0043】
本発明の腹膜線維症の予防、改善または治療用組成物において、用語「予防」、「改善」および/または「治療」は、病気または病症の発病を抑制したり遅延させたりするすべての行為、病気または病症状態を好転または有益に変更するすべての行為、および病気または病症の進行を遅延、中断または逆転させるすべての行為を意味する。
【0044】
本願で、用語「薬学的に許容可能な」は、生理学的に許容され、ヒトに投与されるとき、通常、アレルギー反応またはこれと類似した反応を起こさないことを言い、前記塩としては、薬剤学的に許容可能な遊離酸(free acid)により形成された酸付加塩が好ましい。
【0045】
前記薬剤学的に許容可能な塩は、有機酸または無機酸を用いて形成された酸付加塩であってもよく、前記有機酸は、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、イソ酪酸、トリフルオロ酢酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、コハク酸、コハク酸モノアミド、グルタミン酸、酒石酸、シュウ酸、クエン酸、グリコール酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸、アントラニル酸、ジクロロ酢酸、アミノオキシ酢酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸またはメタンスルホン酸を含む。無機酸は、例えば塩酸、臭素酸、硫酸、リン酸、硝酸、炭酸またはホウ酸を含む。酸付加塩は、好ましくは、塩酸塩または酢酸塩の形態であってもよく、より好ましくは、塩酸塩の形態であってもよい。
【0046】
その他にも、更に塩が可能な形態は、ガバ塩、ガバペンチン塩、プレガバリン塩、ニコチン酸塩、アジペート塩、ヘミマロン酸塩、システイン塩、アセチルシステイン塩、メチオニン塩、アルギニン塩、リシン塩、オルニチン塩またはアスパルト酸塩などがある。
【0047】
また、本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含んでもよい。薬学的に許容される担体としては、例えば、経口投与用担体または非経口投与用担体をさらに含んでもよい。経口投与用担体は、ラクトース、デンプン、セルロース誘導体、マグネシウムステアレート、ステアリン酸などを含んでもよい。非経口投与用担体は、水、好適なオイル、食塩水、水性グルコースおよびグリコールなどを含んでもよい。また、安定化剤および保存剤をさらに含んでもよい。好適な安定化剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムまたはアスコルビン酸のような抗酸化剤がある。好適な保存剤としては、塩化ベンザルコニウム、メチルまたはプロピルパラベンおよびクロロブタノールがある。その他の薬学的に許容される担体としては、下記の文献に記載されているものを参考にすることができる(Remington’s Pharmaceutical Sciences,19th ed.,Mack Publishing Company,Easton,PA,1995)。
【0048】
本発明の薬学組成物は、ヒトを始めとする哺乳動物にいかなる方法でも投与できる。例えば、経口または非経口で投与でき、非経口的な投与方法としては、これらに制限されるものではないが、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下または直腸内投与であってもよい。
【0049】
本発明の薬学組成物は、上述したような投与経路に沿って経口投与用または非経口投与用製剤に剤形化できる。剤形化する場合には、一つ以上の緩衝剤(例えば、食塩水またはPBS)、カーボハイドレイト(例えば、グルコース、マンノース、スクロース、またはデキストランなど)、抗酸化剤、静菌剤、キレート化剤(例えば、EDTAまたはグルタチオン)、充填剤、増量剤、結合剤、アジュバント(例えば、アルミニウムヒドロキシド)、懸濁剤、濃厚剤、湿潤剤、崩解剤または界面活性剤、希釈剤または賦形剤を使用して調製できる。
【0050】
経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁液またはカプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、本発明の薬学組成物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、デンプン(とうもろこしデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプンなどを含む)、カルシウムカーボネート(Calcium carbonate)、スクロース(Sucrose)、ラクトース(Lactose)、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、セルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはゼラチンなどを混ぜて調製できる。例えば、活性成分を固体賦形剤と配合した後、これを粉砕し、好適な補助剤を添加した後、顆粒混合物に加工することによって、錠剤または糖衣錠を収得できる。
【0051】
単純な賦形剤以外に、マグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤も使用される。経口のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤またはシロップ剤などが該当するが、頻用される単純希釈剤である水またはリキッドパラフィン以外に、色々な賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤または保存剤などが含まれ得る。
【0052】
また、場合によって架橋結合ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはアルギン酸ナトリウムなどを崩解剤として添加でき、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤および防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0053】
非経口的に投与する場合、本発明の薬学組成物は、好適な非経口用担体とともに注射剤、経皮投与剤および鼻腔吸入剤の形態で当業界に公知となった方法によって剤形化できる。前記注射剤の場合には、必ず滅菌しなければならないし、バクテリアおよび真菌のような微生物の汚染から保護しなければならない。注射剤の場合、好適な担体の例としては、これらに限定されないが、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、これらの混合物および/または植物油を含む溶媒または分散媒質であってもよい。より好ましくは、好適な担体としては、ハンクス溶液、リンゲル液、トリエタノールアミンが含有されたPBS(phosphate buffered saline)または注射用滅菌水、10%エタノール、40%プロピレングリコールおよび5%デキストロースのような等張溶液などを使用できる。前記注射剤を微生物の汚染から保護するためには、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどのような様々な抗菌剤および抗真菌剤をさらに含んでもよい。また、前記注射剤は、多くの場合、糖またはナトリウムクロリドのような等張剤をさらに含んでもよい。
【0054】
経皮投与剤の場合、軟こう剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、外用液剤、パスタ(paste)剤、リニメント剤、エアロゾル剤などの形態が含まれる。前記で「経皮投与」は、薬学的組成物を局所的に皮膚に投与して、薬学的組成物に含有された有効な量の活性成分が皮膚内に伝達されることを意味する。
【0055】
吸入投与剤の場合、本発明によって使用される化合物は、好適な推進剤、例えば、ジクロロフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の好適な気体を使用して、加圧パックまたは煙霧機からエアロゾルスプレーの形態で便利に伝達できる。加圧エアロゾルの場合、投薬単位は、計量された量を伝達するバルブを提供して決定することができる。例えば、吸入器または吹込み機に使用されるゼラチンカプセルおよびカートリッジは、化合物、およびラクトースまたはデンプンのような好適な粉末基剤の粉末混合物を含有するように剤形化できる。非経口投与用剤形は、すべての製薬化学に一般的に公知となった処方書である文献(Remington’s Pharmaceutical Science,15th Edition,1975.Mack Publishing Company,Easton,Pennsylvania 18042,Chapter 87:Blaug,Seymour)に記載されている。
【0056】
本発明の薬学的組成物は、シクロ-ヒスプロを有効量で含む場合、好ましい腹膜線維症の予防、改善または治療効果を提供できる。本願において、用語「有効量」は、陰性対照群に比べてそれ以上の反応を示す量を言い、好ましくは、腹膜線維症を予防、改善または治療するのに十分な量をいう。本発明の薬学的組成物にシクロ-ヒスプロが0.01~99.9%含まれてもよく、残量は、薬学的に許容可能な担体が占めることができる。本発明の薬学的組成物に含まれるシクロ-ヒスプロの有効量は、組成物が製品化される形態などによって変わる。
【0057】
本発明の薬学的組成物の総有効量は、単一投与量(single dose)で患者に投与でき、多重投与量(multiple dose)で長期間投与される分割治療方法(fractionated treatment protocol)によって投与できる。本発明の薬学組成物は、疾患の程度によって有効成分の含量を異ならせることができる。例えば、シクロ-ヒスプロを基準として一日に体重1kg当たり好ましくは0.001~100mg、さらに好ましくは、0.01~10mgの量で投与されるように、1~数回に分けて投与できる。しかしながら、前記シクロ-ヒスプロの用量は、薬学的組成物の投与経路および治療回数だけでなく、患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食事および排泄率など様々な要因を考慮して患者に対する有効投与量が決定されることであるから、このような点を考慮して、当該分野における通常の知識を有する者なら前記シクロ-ヒスプロを腹膜線維症の予防、治療または改善のための特定の用途に応じた適切な有効投与量を決定できる。本発明による薬学組成物は、本発明の効果を示す限り、その剤形、投与経路および投与方法に特に制限されない。
【0058】
本発明の腹膜線維症の予防または治療用薬学的組成物は、単独で、または手術、放射線治療、ホルモン治療、化学治療または生物学的反応調節剤を使用する方法と併用して使用できる。
【0059】
本発明において、用語「健康機能食品」は、「機能性食品」および「健康食品」の意味を全部含む。
【0060】
本発明において、用語「機能性食品(functional food)」は、特定保健用食品(food for special health use,FoSHU)と同じ用語であって、栄養供給の他にも、生体調節機能が効率的に現れるように加工された医学、医療効果の高い食品を意味する。
【0061】
本発明において用語「健康食品(health food)」は、一般食品に比べて積極的な健康維持や増進効果を有する食品を意味し、健康補助食品(health supplement food)は、健康補助目的の食品を意味する。場合によって、機能性食品、健康食品、健康補助食品の用語は混用される。前記食品は、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液状、丸剤などの様々な形態で製造できる。
【0062】
このような機能性食品の具体的な例として、前記組成物を用いて農産物、畜産物または水産物の特性を生かして変形させると同時に、貯蔵性を良くした加工食品を製造できる。
【0063】
本発明の健康機能食品組成物は、また、栄養補助剤(nutritional supplement)、食品添加剤(food additives)および飼料などの形態で製造でき、ヒトまたは家畜を始めとする動物を取食対象とする。
【0064】
前記類型の食品組成物は、当業界に公知となった通常の方法によって様々な形態で製造できる。一般食品としては、これらに限定されないが、飲料(アルコール性飲料を含む)、果実およびその加工食品(例:果物缶詰、瓶詰、ジャム、マーマレードなど)、魚類、肉類およびその加工食品(例:ハム、ソーセージ、コンビーフなど)、パン類および麺類(例:うどん、ソバ、ラーメン、スパゲティ、マカロニなど)、果汁、各種ドリンク、クッキー、飴、乳製品(例:バター、チイズなど)、食用植物油脂、マーガリン、植物性タンパク質、レトルト食品、冷凍食品、各種調味料(例:味噌、醤油、ソースなど)などにシクロ-ヒスプロを添加して製造することができる。
【0065】
また、栄養補助剤としては、これらに限定されないが、カプセル、タブレット、丸剤などにシクロ-ヒスプロを添加して製造することができる。
【0066】
また、健康機能食品としては、これらに限定されないが、例えば、前記シクロ-ヒスプロをお茶、ジュースおよびドリンクの形態で製造して飲用(健康飲料)できるように、液状化、顆粒化、カプセル化および粉末化して摂取することができる。また、前記シクロ-ヒスプロを食品添加剤の形態で使用するためには、粉末または濃縮液の形態で製造して使用できる。また、前記シクロ-ヒスプロと腹膜線維症の予防または改善に効果があると知られた公知の活性成分と共に混合して組成物の形態で製造できる。
【0067】
本発明の食品組成物が健康飲料組成物として用いられる場合、前記健康飲料組成物は、通常の飲料のように、色々な香味剤または天然炭水化物などを更なる成分として含有できる。上述した天然炭水化物は、ブドウ糖、果糖のようなモノサッカライド;マルトース、スクロースのようなジサッカライド;デキストリン、シクロデキストリンのようなポリサッカライド;キシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールであってもよい。甘味剤は、ソーマチン、ステビア抽出物のような天然甘味剤;サッカリン、アスパルテームのような合成甘味剤などを使用できる。前記天然炭水化物の割合は、本発明の組成物100mL当たり、一般的に約0.01~0.04g、好ましくは、約0.02~0.03gである。
【0068】
シクロ-ヒスプロは、腹膜線維症の予防または改善用食品組成物の有効成分として含有でき、その量は、前記予防または改善効果を得るのに有効な量であって、例えば全体組成物の総重量に対して0.01~100重量%であることが好ましいが、これに特に限定されるものではない。本発明の食品組成物は、シクロ-ヒスプロとともに腹膜線維症の予防または改善に効果があると知られた他の活性成分と共に混合して製造できる。
【0069】
前記の他に、本発明の健康機能食品は、色々な栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン酸、ペクチン酸塩、アルギン酸、アルギン酸塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコールまたは炭酸化剤などを含有できる。その他、本発明の健康食品は、天然フルーツジュース、フルーツジュース飲料、または野菜飲料の製造のための果肉を含有できる。このような成分は、独立して、または混合して使用できる。このような添加剤の割合は、大きく重要なことではないが、本発明の組成物100重量部当たり0.01~0.1重量部の範囲で選択されることが一般的である。
【0070】
本発明は、また、シクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む腹膜透析液を提供する。前記シクロ-ヒスプロおよびその薬学的に許容可能な塩は、上記で説明した通りである。
【0071】
本発明のシクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩は、EMTおよび腹膜細胞の細胞死滅を抑制するので、腹膜透析液中に含まれて、腹膜線維化および腹膜線維症を改善、遅延、予防または治療することができる。
【0072】
本発明のシクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む腹膜透析液は、浸透圧剤、緩衝液、電解質およびこれらの組み合わせからなる群から選択されたいずれか一つ以上を含んでもよい。例えば浸透圧剤は、ブドウ糖、ブドウ糖重合体(例えば、マルトデキストリン、イコデキストリン)、ブドウ糖重合体誘導体、シクロデキストリン、変性デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ポリオール、果糖、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、アミノ糖、グリセロール、N-アセチルグルコサミン(NAG)またはこれらの組み合わせを含んでもよい。緩衝液は、重炭酸塩、ラクテート、ピルベート、アセテート、シートレート、トリス(すなわち、トリスヒドロキシメチルアミノメタン)、アミノ酸、ペプチド、またはこれらの組み合わせを含んでもよい。電解質は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムおよび塩化物を含んでもよい。
【0073】
本発明の腹膜透析液は、一つ以上の透析成分(透析溶液の要素または構成成分)および治療的有効量の有効物質を含んでもよく、腹膜線維化および腹膜線維症を改善、緩和、予防または治療するための成分としてシクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含む。前記腹膜透析液は、透析濃縮物であってもよく、透析液には、約0.1μM~約1000μMのシクロ-ヒスプロまたはその薬学的に許容可能な塩を含んでもよい。
【0074】
前記腹膜透析液は、単一容器内の単一透析溶液または別に収容されたまたは多重チャンバーを有する容器の透析部として使用でき、腹膜透析時に従前に使用される透析液と同時に、または時間差をもって患者に投与できる。
【0075】
また、本発明は、シクロ-ヒスプロを有効量でこれを必要とする個体に投与する段階を含む、腹膜線維症を予防または治療する方法に関する。
【0076】
本発明は、また、シクロ-ヒスプロを有効量でこれを必要とする個体に投与する段階を含む腹膜透析方法に関する。
【0077】
本発明の方法において、用語「個体」は、任意の動物(例えば、ヒト、馬、豚、ウサギ、犬、羊、ヤギ、非ヒト霊長類、牛、猫、ギニアピッグまたはげっ歯類)を含むが、これらに限定されない。このような用語は、特定の年齢または性別を示さない。したがって、女性/雌性、男性/雄性、成人/成体および新生対象体だけでなく、胎児が含まれるように意図される。患者は、疾患または障害にかかった対象体を指す。患者という用語は、ヒトおよび獣医学対象体を含む。
【0078】
本発明の腹膜線維症の予防または治療方法において、CHPの効果およびその投与経路、投与回数、投与量などを含む構成に関する説明は、前に述べたことと同じであるから、その記載を省略する。
【0079】
本発明の腹膜透析方法は、腎臓が損傷して自体的に水分や老廃物を排泄しないすべての患者を対象として行われ得、前記患者は、例えば、慢性腎不全患者でありうるが、これに限定されない。
【0080】
本発明の腹膜透析方法は、当該技術分野に公知となった方法で行うことができ、例えば、下腹部に腹腔につながるカテーテル(導管)を挿入し、これを通して、透析液を入れて、体内の老廃物や水分が拡散と浸透現象により透析液に移行して水分や老廃物を除去する方式で行われ得るが、これに限定されない。
【0081】
ひいては、本発明は、腹膜線維症を予防または治療するための薬学組成物の製造時におけるシクロ-ヒスプロの用途を提供する。
【0082】
本発明は、また、腹膜透析液の製造時におけるシクロ-ヒスプロの用途を提供する。
【0083】
本発明の用途において、CHPの効果、腹膜線維症を予防または治療するための薬学組成物および腹膜透析液に対韓に関する説明は、前に述べたことと同じであるから、その記載を省略する。
【0084】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。ただし、本発明は、様々な変更を加えることができ、色々な形態を有することができるところ、以下で記述する特定の実施例および説明は、本発明の理解を助けるためのものに過ぎず、本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするものではない。本発明の範囲は、本発明の思想および技術範囲に含まれるすべての変更、均等物乃至代替物を含むものと理解しなければならない。
[発明の実施のための形態]
【0085】
[準備例]
下記実施例で使用したCHP(シクロ-ヒスプロ)は、バッケム社から購入して使用した。
【0086】
[実施例1]
CHP投与による腹膜線維化動物モデルにおける腹膜硬化症の保護効果の確認
1-1.腹膜線維化動物モデルにCHPおよび陰性対照群の投与
腹膜線維化動物モデルを作製するために、7週齢のC57BL/6雄マウスをコアテック社から購入して、一定の条件(温度:22±2℃、相対湿度:55±10%、1周期:12時間)で飼育した。5匹を1つの群としてケージで水と餌を自由供給し、実験前に1週間純化を経て実験に使用した。順応期間が終わった後、30日間3日間隔で0.1%クロルヘキシジン(chlorhexidine)を腹腔内注射で投与して、腹膜線維化動物モデルを確立した。4個の群に分けて、実験動物第1グループは、リン酸緩衝食塩水を投与して、腹膜線維化を進めない対照実行群(Vehicle)に設定し、第2グループは、リン酸緩衝食塩水を投与して、腹膜線維化を進めた対照実行群(CG-PD)に設定した。第3グループおよび第4グループは、腹膜線維化を進めた群であって、第3グループは、CHPを17.5mg/kgの濃度(CG-PD+CHP(17.5))で、グループ4は、CHPを35mg/kgの濃度(CG-PD+CHP(35))で30日間毎日1ml注射器を介して経口投与した。
【0087】
1-2.腹膜線維化動物モデルマウスグループの組織採取および染色
実施例1-1で設計した実験動物のうち、30日間薬物および0.1%クロルヘキシジンを投与したグループのマウスから剣状突起(xiphoid process)から骨盤腔の直上部まで広く腹膜を得た後、全血採血で犠牲にした。皮膚から壁側腹膜層まで0.5×1.0cmのサイズでヘソの左腹部の組織を摘出して、一部は、免疫染色のために10%ホルマリンに固定後、パラフィンに包埋した。組織切片は、4μmの厚さで細切し、腹膜の線維化程度を確認するために、PAS(Periodic acid-Schiff)染色、MT(Masson’s trichrome)染色、シリウスレッド(Sirius Red)染色を施行して評価した。光学顕微鏡で観察した後、写真を撮影した(Olympus BX-50,Olympus Optical,Tokyo,Japan)。
【0088】
1-3.腹膜線維化動物モデルで抗線維効果の確認
実験結果、
図1に示されたように、PAS染色を通じて免疫細胞の沈着が陰性対照群(vehicle)より線維化対照群(CG-PD)において多くなったことを確認し、CHP投与によって濃度依存的に顕著に免疫細胞の沈着が減少したことを確認した。また、MT染色を通じて腹膜層が陰性対照群(vehicle)より線維化対照群(CG-PD)において厚くなったことが確認され、17.5mg/kg投与群に比べてCHP 35mg/kg投与群において厚くなった腹膜層が顕著に減少することを確認できた。シリウスレッド染色を通じて細胞外基質である(ECM)コラーゲン(Collagen)の蓄積がCHP投与によって濃度依存的に顕著に減少することを確認できた。
【0089】
以上の結果を通じて、腹膜線維症に対するCHPの優れた治療効果を確認できた。
【0090】
[実施例2]
腹膜線維化動物モデルで腹膜硬化症の予防効果の確認
実施例1-1の各群のマウスから腹膜組織を摘出して、免疫染色のために10%ホルマリンに固定後、パラフィンに包埋した。ストレプトアビジンビオチンペルオキシダーゼ(streptavidin biotin peroxidase)(Vector Laboratories)方法を用いて抗ICAM1抗体および抗F40/80抗体とそれぞれ4℃で16時間反応させた後、DAB(diaminobenzidine tetrahydrochloride)で発色して発現を確認した。それぞれの発現程度は、光学顕微鏡で観察した後、写真を撮影した(Olympus BX-50,Olympus Optical,Tokyo,Japan)。
【0091】
実験結果、
図2に示されたように、初期の免疫反応を誘発するICAM-1(Intercellular Adhesion Molecule 1)の発現量が、陰性対照群(vehicle)より線維化対照群(CG-PD)において増加したことを確認し、CHP投与によって腹膜硬化症の重症度が減少するほどICAM-1の発現量も共に減少したことを確認できた。また、CG-PD群において免疫細胞のうちマクロファージ(macrophage)と樹状細胞のマーカーとしてよく知られたf4/80陽性細胞の発現量が、腹膜硬化症が増加するほど共に増加するが、CHP投与によって急激に免疫細胞の浸潤が減少したことを確認できた。
【0092】
以上の結果を通じて、CHP投与が免疫細胞の浸潤を抑制し、腹膜硬化症の進行を妨害できることを確認できた。
【0093】
[実施例3]
CHPを投与した腹膜線維化動物モデルで線維化マーカーcollagen 1とαSMA、および細胞死滅マーカーp16とp21のタンパク質発現の確認
実施例1-1の各群のマウスの麻酔と解剖に必要なイソフルレン(Isoflurane)をハナ製薬から購入し、Vetequip社のRC2 Rodent Circuit Controller Anesthesia Systemを準備した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、Hyclone社から購入した。マウスの腹膜組織の分離のために、3~3.5%イソフルレンでマウスを呼吸麻酔させた。麻酔したマウスの心臓から血液を採取した後、腹膜組織を直ちに摘出して、PBSで洗浄した後、腹膜組織を50mg切り出して、プロテアーゼ(protease)およびホスファターゼ(phosphatase)阻害剤が添加されたRIPAバッファー500μlに入れ、IKA社のT10ホモジナイザー(homogenizer)を用いて粉砕した。15分間氷に放置させた後、4℃で15,000rpmで遠心分離した。上澄み液を集めて、BCA定量法でタンパク質の濃度を測定し、同量のサンプルをBoltTMタンパク質ゲル電気泳動システムを用いてタンパク質を分離させた後、ニトロセルロースメンブレン(Nitrocellulose membrane)に移した。メンブレンは、5%スキムミルク(skim milk)で常温で1時間遮断(blocking)を進めた後、1次抗体であるcollagen 1、αSMA、NRF2、p16、p21およびGAPDH抗体と4℃で一晩中反応させた。TBSTで10分ずつ3回洗った後、2次抗体と常温で1時間反応させた。TBSTで10分ずつ3回洗った後、ECLで反応させて、発現程度を測定した。現れるバンドのサイズは、ImageJプログラムを用いて定量し、各バンドのサイズ値をGAPDHバンドのサイズ値で割って補正した。統計的有意性は、腹膜線維化対照群(CG-PD)とのスチューデントt検定(Student’s t-test)統計法を使用して分析した(*p<0.05、**p<0.05、***p<0.0005)。
【0094】
実験結果、
図3a、
図3bおよび
図3cに示されたように、細胞外基質であるコラーゲンと線維芽細胞(fibroblast)のマーカーであるα-SMAが、CHP投与群において統計的に有意に減少したことが観察されて、腹膜硬化症の進行を抑制することが確認された。また、
図3a、
図3dおよび
図3eに示されたように、細胞周期遮断を誘発して、結局のところ、細胞死滅を起こすp16とp21のタンパク質が、CHP投与によって顕著に減少することを確認できた。
【0095】
このような結果は、CHPが細胞死滅を抑制し、腹膜線維化を改善させるという意味であり、腹膜線維症の治療に適用できる根拠であることが確認された。
【0096】
[実施例4]
CHPを投与した腹膜線維化動物モデルで線維化マーカーであるcollagen 1、細胞周期遮断マーカーp21および細胞接合マーカーE-cadherinの遺伝子発現の確認
実施例1-1の各群のマウスの麻酔と解剖に必要なイソフルレン(Isoflurane)をハナ製薬から購入し、Vetequip社のRC2 Rodent Circuit Controller Anesthesia Systemを準備した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、Hyclone社から購入した。マウスの腹膜組織の分離のために、3~3.5%イソフルレンでマウスを呼吸麻酔させた。麻酔したマウスの心臓から血液を採取した後、腹膜組織を直ちに摘出して、腹膜50mgを切り出して、NucleoZOL 500μLを入れ、IKA社のT10ホモジナイザー(homogenizer)を用いて粉砕した。次に、NucleoZOLのトータルRNA分離プロトコルによってRNAを抽出し、1μgのRNAをiScript cDNA合成キットを用いて逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)でcDNAを合成した。合成したcDNAは、各遺伝子に該当する正方向/逆方向プライマーセットを用いてiQ SYBR Green Supermixでリアルタイム(Real-time)PCRを進めて分析した。各遺伝子の発現値は、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHの発現値で割って補正した。統計的有意性は、腹膜線維化対照群(CG-PD)とのスチューデントt検定(Student’s t-test)統計法を使用して分析した(*p<0.05、**p<0.05、***p<0.0005)。
【0097】
実験結果、
図4aに示されたように、細胞外基質であるcollagen 1のmRNA発現がCHP投与群において減少したことが確認された。また、
図4bに示されたように、細胞周期遮断を誘発して、結局のところ、細胞死滅を起こすp21の遺伝子がCHP投与によって顕著に減少することを確認でき、
図4cに示されたように、細胞接合マーカーであるE-cadherinは、発現量がCHP投与群において顕著に増加することを確認できた。
【0098】
このような結果は、CHPが細胞死滅を防いで、腹膜線維化の進行を抑制できることを示す。