(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】管渠用の人孔と、管渠の端部の管渠結合構造、管渠用継手要素及び管渠工法
(51)【国際特許分類】
E03F 7/00 20060101AFI20230210BHJP
E03F 5/02 20060101ALI20230210BHJP
F16L 5/02 20060101ALI20230210BHJP
F16L 47/03 20060101ALI20230210BHJP
B29C 63/34 20060101ALI20230210BHJP
B29C 65/34 20060101ALI20230210BHJP
【FI】
E03F7/00
E03F5/02
F16L5/02 J
F16L47/03
B29C63/34
B29C65/34
(21)【出願番号】P 2022087799
(22)【出願日】2022-05-30
【審査請求日】2022-07-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505102360
【氏名又は名称】株式会社トラストテクノ
(73)【特許権者】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】前田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】大岡 太郎
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-040693(JP,U)
【文献】特開2016-011580(JP,A)
【文献】特開2006-097368(JP,A)
【文献】特開2005-205767(JP,A)
【文献】特開2001-065042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 7/00
E03F 5/02
F16L 5/02
F16L 47/03
B29C 63/34
B29C 65/34
E02D 29/12
E03F 3/02
E03F 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管渠用の人孔と、管渠の端部の管口の結合構造であって、当該結合構造は、
前記人孔の壁面を被覆する注入材層と、
前記注入材層の表面を覆うライナと、
前記結合構造に用いられるに設けられた継手要素であって、電熱線が埋設された前記継手要素と、
前記電熱線の外部電源の入力端子と、
前記管渠の内表面及び前記継手要素の内壁面に、表面側から、熱可塑性樹脂のアウターフィルム、中間層及びインナーフィルムを含む多層構造が構成され、
前記中間層の一方の面が前記アウターフィルムによって被覆され、
前記中間層の他方の面によってインナーフィルムが被覆されてなる、
ことを特徴とする管渠結合構造。
【請求項2】
前記継手要素は、前記人孔と、前記管渠の結合部の外周に形成されたスリーブ状部と、
この前記スリーブ状部の厚みは、少なくとも前記管渠の厚み以上とされ、
前記スリーブ状部の外周は被覆部が設けられてなることを特徴とする、請求項1に記載の管渠結合構造。
【請求項3】
前記中間層は、ガラス繊維と合成樹脂組成物からなる群から選択される1種以上からなる、請求項1に記載の管渠結合構造。
【請求項4】
前記注入材層は、少なくともモルタルを含むことを特徴とする、請求項1に記載の管渠結合構造。
【請求項5】
前記注入材層の表面を被覆するライナは、主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことを特徴とする、請求項1に記載の管渠結合構造。
【請求項6】
前記電熱線が埋設された継手要素は、主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至5に記載の管渠結合構造。
【請求項7】
継手要素は
、人孔
と管渠の端部の結合部の外周に形成されたスリーブ状部と、
この前記スリーブ状部の厚みは、少なくとも前記管渠の厚み以上とされるとともに、
この前記スリーブ状部の外周には、被覆部が設けられ
、
前記管渠とスリーブ状部には電熱線が埋設され、
当該電熱線には外部電源の入力端子が備えられてなることを特徴とする、管渠用継手要素。
【請求項8】
前記電熱線が埋設された継手要素は、主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことを特徴とする請求項7に記載の管渠用継手要素。
【請求項9】
管渠用の人孔と、管渠の端部の管口の管渠結合構造を構築するための管渠工法であって、
前記管渠結合構造は、
前記人孔の壁面を被覆する注入材層と、
該注入材層の表面を被覆するライナと
、
管渠結合構造に設けられた、継手要素であって電熱線が埋設された継手要素と、
前記管渠の内表面及び前記継手要素の内表面に、表面側から、熱可塑性樹脂のアウターフィルム、中間層及びインナーフィルムを含む多層構造が構成され、
前記中間層の一方の面が前記アウターフィルムによって被覆され、
前記中間層の他方の面によってインナーフィルムが被覆されてなり、
前記管渠工法が、
(A)前記管渠に設けられた汚水枡を取り除く工程と、
(B)前記工程(A)の後、前記人孔の壁面を注入材層で被覆する工程と、
(C)前記工程(B)の後、前記注入材層をライナで被覆する工程と、
(D)前記工程(C)の後、前記ライナ及
び結合部に継手要素を該継手要素に埋設された電熱線を外部電源からの電力を印加することで、加熱し溶着する工程と、
(E)前記工程(D)の後、溶接した継手要素及び該継手要素と結合した管渠の内壁をライニングするとともに、前記管渠の内表面及び前記継手要素の内壁面に前記中間層及びインナーフィルムを介して熱可塑性樹脂のアウターフィルムを貼付してなる、工程と、
(F)前記工程(E)の後、管渠の管内をライニングし、次いで、前記継手要素に埋設された電熱線を加熱し、前記継手要素の内壁面に設けられたアウターフィルムと中間層をライニングする工程と、
(G)前記工程(F)の後、ライナ硬化後に前記管渠及び前記継手要素の内壁を被覆するインナーフィルムを取り除く工程と、を含む管渠工法。
【請求項10】
前記継手要素は、前記人孔と前記管渠の結合部の外周に形成されたスリーブ状部と、
この前記スリーブ状部の厚みは、少なくとも前記管渠の厚み以上とされ、かつ、
前記スリーブ状部の外周は被覆部が設けられてなることを特徴とする、請求項9に記載の管渠工法。
【請求項11】
前記中間層は、ガラス繊維と合成樹脂組成物からなる群から選択される1種以上からなる、請求項9に記載の管渠工法。
【請求項12】
前記人孔の壁面を被覆する注入材層は、少なくともモルタルを含むことを特徴とする、
請求項9に記載の管渠工法。
【請求項13】
前記注入材層の表面を被覆するライナは、主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことを特徴とする、請求項9に記載の管渠工法。
【請求項14】
前記電熱線が埋設された継手要素は、主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことを特徴とする請求項9乃至13に記載の管渠工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管渠用の人孔と、管渠の端部の管渠結合構造、管渠用継手要素及び管渠工法に関する。
【背景技術】
【0002】
令和2年度末における全国の下水道管渠の総延長は約49万kmで、このうち標準耐用年数である50年を経過した管渠の延長は約2.5万km(総延長の5%)にのぼる。
これらの既設管渠は、長年の経年劣化や地盤沈下、又は交通荷重の増大による老朽化が著しく、管渠の損傷等が原因と思われる漏水事故や道路陥没、臭気問題等が多発している。
標準耐用年数を経過し更生が必要な老朽管は、10年後には8.2万km(総延長の17%)、20年後には19万km(総延長の39%)と、今後急速に増加することがわかっており、持続的な下水道機能確保のため、計画的な維持管理・改築に実施が必要である。
【0003】
また、降雨時の確実な稼働が必要な雨水ポンプ場においても、令和2年度末で全国に約1600箇所ある雨水ポンプ場のうち、設備の標準耐用年数20年を経過した施設が約1300箇所(全体の81%)と同様の傾向にある。
【0004】
さらに、台風や突発的な集中豪雨に伴う地下水位の上昇等で雨天時浸入水量を含んだ、汚水量が下水道施設の処理能力を上回る事例が多発している。雨天時浸入水は長年、降雨に伴う一時的な現象として扱われ、施設計画においても十分に考慮されてこなかった。
【0005】
しかし、近年その水量の増大が問題となり、雨天時浸入水の要因としては、気候変動に伴う、降雨量の増加、汚水管渠施設の老朽化、排水設備の誤接続などがあげられ、雨天時浸入水量の増加により、汚水管路からの溢水、宅内への逆流、処理施設の機能低下による公共用水域への影響などが問題となり、浸入水対策が必要となっている。
【0006】
特許文献1は、人孔部と管渠との結合部の管渠結合工法と、老朽化した管渠を更生する工法を開示している。熱硬化性又は光硬化性のライナを用いて連結部材を圧着する方法が記載されている。
特許文献1には、既設管渠施工時にライナを連結部材に圧着させることが記載されている。ライナの厚みや圧着方法によっては、結合部と連結部材の圧着に差異が生じ得るという問題については認識されていない。
特許文献1に記載された工法には、ライニング材の厚みを減少させると、十分な強度を持ったライナを得ることができず、結合部と連結部材の強度が低下し、浸入水を防ぐことが難しいという問題があった。
【0007】
特許文献2は、管渠を更生する際に使用する継手要素及びその製造方法を開示している。しかし、ライナの厚みや圧着方法によっては、結合部と連結部材の圧着に差異が生じ得るという問題については認識されておらず、前述の特許文献1と同じく、ライニング材の厚みを減少させると、十分な強度を持ったライナを得ることができず、結合部と連結部材の強度が安定せず、結果として、強度の弱い箇所からの浸入水を防ぐことが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2022-509049
【文献】特表2020-506349
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、管渠と人孔の結合部において、連結部材の圧着に差異が生じ得るという技術的課題と、ライニング材の厚みを減少させると、十分な強度を持ったライナを得ることができず、従って、結合部と連結部材の強度が安定しない。結果として、管口と連結部材を同一素材で一体化することができないため、強度不足等による損傷が生じ、管渠内への浸入水を防ぐことが難しいという技術的課題を解決するためになされたものである。高い止水性及び耐久性を兼ね備えた管渠のための管渠結合構造、管渠用継手構造並びにこれを用いた管渠結合構造、管渠用継手要素と管渠工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、管渠用の人孔と、管渠の結合部の管渠結合構造であって、当該管渠結合構造は、前記人孔の壁面を被覆する注入材層と、前記注入材層の表面を覆うライナと、前記結合部に設けられた継手要素であって、電熱線が埋設された継手要素と、前記電熱線の外部電源の入力端子と、前記管渠の内表面及び前記継手要素の内壁面に、表面側から、熱可塑性樹脂のアウターフィルム、中間層及びインナーフィルムを含む多層構造が構成され、前記中間層の一方の面が前記アウターフィルムによって被覆され、前記中間層の他方の面によってインナーフィルムが被覆されてなる、ことを特徴とする管渠結合構造に関する。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記継手要素は、前記人孔と前記管渠の結合部の外周に形成されたスリーブ状部と、この前記スリーブ状部の厚みは、少なくとも前記管渠の厚み以上とされ、前記スリーブ状部の外周は被覆部が設けられてなることを特徴とする、請求項1に記載の管渠結合構造に関する。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記中間層は、ガラス繊維と合成樹脂組成物からなる群から選択される1種以上からなる、請求項1に記載の管渠結合構造に関する。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記注入材層は、少なくともモルタルを含むことを特徴とする、請求項1に記載の管渠結合構造に関する。
【0014】
請求項5に係る発明は、前記注入材層の表面を被覆するライナは、主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至4に記載の管渠結合構造に関する。
【0015】
請求項6に係る発明は、前記電熱線が埋設された継手要素は、主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至5に記載の管渠結合構造に関する。
【0016】
請求項7に係る発明は、継手要素は、人孔と管渠の端部の結合部の外周に形成されたスリーブ状部と、この前記スリーブ状部の厚みは、少なくとも前記管渠の厚み以上とされるとともに、この前記スリーブ状部の外周には、被覆部が設けられ、前記管渠とスリーブ状部には電熱線が埋設され、当該電熱線には外部電源の入力端子が備えられてなることを特徴とする、管渠用継手要素に関する。
【0017】
請求項8に係る発明は、前記電熱線が埋設された継手要素は、主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことを特徴とする請求項7に記載の管渠用継手要素に関する。
【0018】
請求項9に係る発明は、管渠用の人孔と、管渠の端部の管口の管渠結合構造を構築するための管渠工法であって、前記管渠結合構造は、前記人孔の壁面を被覆する注入材層と、該注入材層の表面を被覆するライナと、結合構造に用いられる、継手要素であって電熱線が埋設された継手要素と、前記管渠の内表面及び前記継手要素の内表面に、外側から、熱可塑性樹脂のアウターフィルム、中間層及びインナーフィルムを含む多層構造が構成され、前記中間層の一方の面が前記アウターフィルムによって被覆され、前記中間層の他方の面によってインナーフィルムが被覆されてなり、前記管渠工法が、(A)前記管渠に設けられた汚水枡を取り除く工程と、(B)前記工程(A)の後、前記人孔の壁面を注入材層で被覆する工程と、(C)前記工程(B)の後、前記注入材層をライナで被覆する工程と、(D)前記工程(C)の後、前記ライナ及び結合部に継手要素を該継手要素に埋設された電熱線を外部電源からの電力を印加することで、加熱し溶着する工程と、(E)前記工程(D)の後、溶接した継手要素及び該継手要素と結合した管渠の内壁をライニングするとともに、前記管渠の内表面及び前記継手要素の内壁面に前記中間層及びインナーフィルムを介して熱可塑性樹脂のアウターフィルムを貼付してなる、工程と、(F)前記工程(E)の後、管渠内をライニングし、次いで、前記継手要素に埋設された電熱線を加熱し、前記継手要素の内壁面に設けられたアウターフィルムと中間層をライニングする工程と、(G)前記工程(F)の後、ライナ硬化後に前記管渠及び前記継手要素の内壁を被覆するインナーフィルムを取り除く工程と、を含む管渠工法に関する。
【0019】
請求項10に係る発明は、前記継手要素は、前記人孔と前記管渠の結合部の外周に形成されたスリーブ状部と、この前記スリーブ状部の厚みは、少なくとも前記管渠の厚み以上とされ、かつ、前記スリーブ状部の外周は被覆部が設けられてなることを特徴とする、請求項9に記載の管渠工法に関する。
【0020】
請求項11に係る発明は、前記中間層は、ガラス繊維と合成樹脂組成物からなる群から選択される1種以上からなる、請求項9に記載の管渠工法に関する。
【0021】
請求項12に係る発明は、前記人孔の壁面を被覆する注入材層は、少なくともモルタルを含むことを特徴とする、請求項9に記載の管渠工法に関する。
【0022】
請求項13に係る発明は、前記注入材層の表面を被覆するライナは、主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことを特徴とする、請求項9に記載の管渠工法に関する。
【0023】
請求項14に係る発明は、前記電熱線が埋設された継手要素は、主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことを特徴とする、請求項9に記載の管渠工法に関する。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に係る発明によれば、管渠用の人孔と、管渠の端部の管口の結合構造であって、当該結合構造は、前記人孔の壁面を被覆する注入材層と、前記注入材層の表面を覆うライナと、前記結合構造に設けられた継手要素であって、電熱線が埋設された前記継手要素と、前記電熱線の外部電源の入力端子と、前記管渠の内表面及び前記継手要素の内壁面に、表面側から、熱可塑性樹脂のアウターフィルム、中間層及びインナーフィルムを含む多層構造が構成され、前記中間層の一方の面が前記アウターフィルムによって被覆され、前記中間層の他方の面によってインナーフィルムが被覆されてなる、管渠結合構造を特徴とする。
本発明の特徴である管渠結合構造は、外側のアウターフィルムと注入材層の表面を覆うライナを、電熱線が埋設された継手要素により、溶着し一体化することで、管口からの浸入水を確実に防ぐことができ、水漏れの虞がない。
このため、請求項1に係る管渠結合構造は、管渠の管口において優れた止水性を備えた管渠結合構造を形成することができるという作用効果を奏する。
【0025】
請求項2に係る管渠結合構造によれば、継手要素は、人孔と、管渠結合部の外周に形成されたスリーブ状部からなり、このスリーブ状部の厚みは、少なくとも前記管渠の厚み以上であり、スリーブ状部の外周に被覆部を設けてなることを特徴としているので、スリーブ状部の外周に被覆部を設けた継手構造を有する管渠結合構造は、スリーブ状部の被覆部により覆われた管口の周囲のアウターフィルムと注入材層の表面を覆うライナを溶着するため、管口からの侵入水を防ぐことができるという作用効果を奏する。
【0026】
請求項3に係る管渠結合構造によれば、中間層は、ガラス繊維と合成樹脂組成物からなる群から選択される1種以上からなるため、より優れた性能と長期間に亘り高い耐水性を維持することができるので、管渠の内周面に高い止水性及び耐久性を備えた中間層を形成することができるという作用効果を奏する。
【0027】
請求項4に係る管渠結合構造によれば、注入材層は、少なくともモルタルを含むことを特徴としているので、優れた耐荷性能と耐圧性能を維持することができる。このため、注入材は、優れた耐荷能力を有する管渠結合構造を形成することができるという作用効果を奏する。
【0028】
請求項5に係る管渠結合構造によれば、注入材層の表面を被覆するライナは、主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことを特徴としているので、汎用性の高い塩化ビニル樹脂と比較しおよそ30倍程度の耐摩耗性や、耐薬品性に優れた管渠結合構造を形成することができるという作用効果を奏する。
【0029】
請求項6に係る管渠結合構造によれば、電熱線が埋設された継手要素は、主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことを特徴とする管渠結合構造であるため、耐薬品性や耐摩耗性に優れた管渠結合構造を形成することができる。
このため、ポリエチレン系樹脂を含む管渠結合構造は、耐久性が高く、長期間にわたり管渠の老朽化を防止することができるという作用効果を奏する。
【0030】
請求項7に係る管渠用継手要素によれば、継手要素は、人孔と、管渠の端部の結合部の外周に形成されたスリーブ状部からなり、このスリーブ状部の厚みは、少なくとも管渠の厚み以上とされているので、この前記スリーブ状部の外周は被覆部が設けられてなることを特徴としているので、管口だけでなく管口周囲も被覆することで、より広範囲にわたり、浸入水を防止する管渠用継手要素を形成することができるという作用効果を奏する。
【0031】
請求項8に係る管渠用継手要素によれば、前記電熱線が埋設された継手要素は、主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことを特徴とする管渠用継手要素であるため、耐薬品性や耐摩耗性に優れた管渠結合構造を形成することができるという作用効果を奏する。
【0032】
請求項9に係る管渠工法によれば、管渠用の人孔と、管渠の端部の管渠結合構造を構築するための管渠工法であって、前記管渠結合構造は、前記人孔の壁面を被覆する注入材層と、該注入材層の表面を被覆するライナと、結合部に設けられた、継手要素であって、電熱線が埋設された継手要素と、前記管渠の内表面及び前記継手要素の内表面に、外側から、熱可塑性樹脂のアウターフィルム、中間層及びインナーフィルムを含む多層構造が構成され、前記中間層の一方の面が前記アウターフィルムによって被覆され、前記中間層の他方の面によってインナーフィルムが被覆されてなり、前記管渠工法が、(A)前記管渠に設けられた汚水枡を取り除く工程と、(B)前記工程(A)の後、前記人孔の壁面を注入材層で被覆する工程と、(C)前記工程(B)の後、前記注入材をライナで被覆する工程と、(D)前記工程(C)の後、前記ライナ及び結合部に継手要素を該継手要素に埋設された電熱線を外部電源からの電力を印加することで、加熱し溶着する工程と、(E)前記工程(D)の後、溶接した継手要素及び該継手要素と結合した管渠の内壁をライニングする工程とともに、前記管渠の内表面及び前記継手要素の内壁面に前記中間層及びインナーフィルムを介して熱可塑性樹脂のアウターフィルムを貼付してなる、工程と、(F)前記工程(E)の後、管渠内をライニングし、次いで、前記継手要素に埋設された電熱線を加熱し、前記継手要素の内壁面に設けられたアウターフィルムと中間層をライニングする工程と、(G)前記工程(F)の後、ライナ硬化後に前記管渠及び前記継手要素の内壁を被覆するインナーフィルムを取り除く工程と、を含んでいるので耐薬品性や耐摩耗性に優れた管渠結合構造を形成することができる。
このため、これらの工程を電熱線による溶着により一体化することで、管渠の管口において優れた止水性を備えた管渠結合構造を形成することができるという作用効果を奏する。
【0033】
請求項10に係る管渠工法によれば、継手要素が人孔と、管渠の端部の結合部の外周に形成されたスリーブ状部と、このスリーブ状部の厚みは、少なくとも前記管渠の厚み以上とされ、かつ、スリーブ状部の外周は被覆部が設けられてなることを特徴としているので、スリーブ状部の外周に被覆部を設けた継手構造は、スリーブ状部の被覆部により覆われた管口の周囲のアウターフィルムと注入材層の表面を覆うライナを溶着し、管口からの侵入水を防ぐことができるという作用効果を奏する。
【0034】
請求項11に係る管渠工法によれば、中間層がガラス繊維と合成樹脂組成物からなる群から選択される1種以上から成るので、より優れた性能と長期間に亘り高い耐水性を維持することができるという作用効果を奏する。
このため、本発明の管渠工法は、管渠の内周面に高い止水性及び耐久性を備えた中間層を形成することができる。
【0035】
請求項12に係る管渠工法によれば、注入材層が、少なくともモルタルを含むことを特徴としているので、優れた耐荷性能と耐圧性能を維持することができるという作用効果を奏する。
【0036】
請求項13に係る管渠工法によれば、注入材層の表面を被覆するライナはが主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことを特徴としているので、耐薬品性や耐摩耗性に優れた管渠結合構造を形成することができるという作用効果を奏する。
【0037】
請求項14に係る管渠工法によれば、電熱線が埋設された継手要素が主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことを特徴としているので、耐薬品性や耐摩耗性に優れた管渠結合構造を形成することができるという作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明に係る管渠工法の一実施形態において、管渠の内表面及び継手要素の内表面の断面部にアウターフィルムを貼付する工程とその構造を示す図である。
【
図2】本発明に係る管渠工法の一実施形態において、電熱線が埋設された継手要素を示す斜視図である。
【
図3a】本発明に係る管渠工法の一実施形態において、管渠から汚水桝を取り除く工程の、汚水桝を取り除く前を示す図である。
【
図3b】本発明に係る管渠工法の一実施形態において、管渠から汚水桝を取り除く工程の、汚水桝を取り除いた後を示す図である。
【
図4】本発明に係る管渠工法の一実施形態において、人孔の壁面を注入材層で被覆した後、注入材層をライナで被覆させる工程を示す図である。
【
図5】本発明に係る管渠工法の一実施形態において、ライナ及び結合部に継手要素の電熱線を外部電源からの電力を印加することで、加熱し溶着する工程を示す図である。
【
図6】本発明に係る管渠工法の一実施形態において、管渠に熱可塑性樹脂のアウターフィルム、中間層及びインナーフィルムを含む多層構造を示す、斜視図である。
【
図7】本発明に係る管渠工法の一実施形態において、管渠内をライニングし、次いで、前記継手要素に埋設された電熱線を加熱し、前記継手要素の内壁面に設けられたアウターフィルムと中間層を溶着する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る実施形態に係る管口への浸入水を防止する管渠結合構造、継手要素及び管渠工法について詳述する。
【0040】
ここでは管渠(10)は、下水道管路の本管として例示しているが、これに限定されず、本発明の管渠結合構造、管渠用継手要素及び管渠工法は、例えば、工業用水用の管路、農業用水用の管路などにも適用可能である。また管渠の材料として、コンクリート管、陶管、塩化ビニル管などを採用することができるが、特定の材料に限られることはない。
【0041】
本発明に含まれるポリエチレン系樹脂には、ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖上低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンやEVA樹脂等が使用される。
【0042】
<管渠用の人孔と管渠の端部の結合部の管渠用継手構造>
図2は、本発明の一実施形態である、電熱線が埋設された継手要素を示す斜視図である。
本発明の一実施形態である、電熱線(6)が埋設された継手要素(2)は、
図2に示すように人孔(1)と管渠(10)の結合部の外周に形成されたスリーブ状部(8)からなり、スリーブ状部(8)の厚みは、少なくとも前記管渠の厚み以上であり、スリーブ状部の外周に被覆部(7)を有し、この継手要素(2)は主成分としてポリエチレン系樹脂を含む管渠用継手要素を有している。ポリエチレン系樹脂に含まれる組成物は、前述のとおりである。
【0043】
<管渠用の人孔と管渠の端部の管渠結合構造>
図1は、本発明に係る管渠工法の一実施形態において、管渠の内表面及び継手要素の内表面の断面部にアウターフィルムを貼付する工程と構造を示す図である。
本発明の実施形態である管渠用の人孔と管渠の管渠結合構造であって、当該管渠結合構造は、人孔(1)の壁面を被覆する注入材層(3)と、当該注入材層(3)の表面を覆うライナ(4)と、前記結合部に設けられた継手要素(2)であって、電熱線(6)が埋設された継手要素(2)と、電熱線(6)の外部電源の入力端子(11)と、管渠(10)の内表面及び継手要素(2)の内壁面に、外側から、熱可塑性樹脂のアウターフィルム(5)、中間層(12)及びインナーフィルム(13)を含む多層構造が構成され、中間層(12)の一方の面がアウターフィルム(5)によって被覆され、中間層(12)の他方の面によってインナーフィルム(13)が被覆されてなる中間層(12)を含む管渠結合構造を有している。
【0044】
スリーブ状部(8)の厚みは、0.8mmで調整することが望ましい。
【0045】
注入材層(3)におけるモルタル組成物のモルタル及びその他組成物の含有率は特に限定されないが、中間層(12)の厚みの耐久性を調節することができる。なお、中間層の厚みは標準で50mmであるが、人孔の構造によりその都度、厚みを調整してもよい。
【0046】
アウターフィルム(5)は、熱可塑性樹脂からなり、熱可塑性樹脂として例えば、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタラート、ポリカーボネイト、ポリブチレンテレフタラート、ポリアセタール、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー等が使用される。
アウターフィルム(5)は、厚みが0.8mmで調整することが望ましい。
アウターフィルム(5)の厚みが薄いと、管渠(10)及び継手要素(2)との密着性が高くなり、層間分離が発生する可能性は低くなる。厚みが増すと、強度は高くなるが、ライナ貼り付け後の全体が厚くなることで、補修後の管渠(10)の内径が縮小し、管内の流下能力が下がる。このため、層間分離が発生せず、強度が高く、尚且つ管渠の内径をなるべく広く確保できる管渠を得るために、アウターフィルム(5)を薄くすることが肝要である。
【0047】
図6で示すように中間層(12)は、ガラス繊維と合成樹脂組成物からなる群から成り、例えばガラス繊維は、ARガラス繊維、Cガラス繊維、Eガラス繊維やECRガラス繊維等が使用され、合成樹脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂又はビニルエステル樹脂等から選択される。
【0048】
<管渠用の人孔と、管渠の端部の管渠結合構造を構築するための管渠工法>
図1、
図3~5及び
図7は、本発明の一実施形態に係る管渠用の人孔と、管渠の端部の管渠結合構造を構築するための管渠工法を工程毎に示した図である。
【0049】
図3は、本発明の工法における一実施形態において、管渠(10)に設けられた汚水枡(9)を取り除く工程である。管渠(10)に設けられた老朽化した汚水桝(9)を撤去し、浸入水を防ぐ。
【0050】
<PML工法>
図4は、本発明に係る管渠工法の一実施形態において、人孔の壁面を注入材層で被覆した後、注入材をライナで被覆させる工程を示す図である。
人孔(1)の壁面を注入材で被覆し注入材層(3)を形成後、注入材層(3)をライナ(4)で被覆する。注入材(3)を形成する際、人孔(1)とライナ(4)の間に型枠を設置し、注入材層(3)の形状を固定しても良い。またライナは、注入材層(3)の被覆面側にV字型のアンカーを設けてもよく、前記V字型のアンカーにより、注入材層(3)の耐荷性能を向上する。また前記V字型アンカーを設けることで、注入材層(3)とライナ(4)との密着性が向上し、浸入水を防止できる。
【0051】
図5は、本発明に係る管渠工法の一実施形態において、ライナ及び結合部に継手要素の電熱線を外部電源からの電力を印加することで、加熱し溶着する工程を示す図である。
ライナ(4)と結合部に、継手要素(2)を継手要素(2)に埋設された電熱線(6)を外部電源の入力端子(11)からの電力を印加することで、加熱し溶着を行うことで、管渠の結合部に継手要素(2)を接続する。この工法をPML工法と呼ぶ。外部電源の入力端子(11)は電熱線(6)に電力を印加できれば、その他当業者が使用し得るあらゆる外部電源の入力端子が利用可能であることは言うまでもない。また外部電力の入力端子(11)に電力を印加された電熱線(6)の温度は、摂氏240度前後であることが望ましい。
【0052】
<フラッシュライニング-S工法>
図1は、本発明に係る管渠工法の一実施形態において、管渠に熱可塑性樹脂のアウターフィルム、中間層及びインナーフィルムを含む多層構造を示す、斜視図である。
管渠(10)の内表面と内壁面に、中間層(12)とインナーフィルム(13)を介して熱可塑性樹脂のアウターフィルムを貼付し、その後、管渠内をライニングし、中間層(12)を硬化する。
【0053】
図7は本発明に係る管渠工法の一実施形態において、管渠内をライニングし、次いで、前記継手要素に埋設された電熱線を加熱し、前記継手要素の内壁面に設けられたアウターフィルムと中間層を溶着する工程を示す図である。継手要素(2)に埋設された電熱線(6)を加熱し、継手要素(2)の内壁面に設けられたアウターフィルム(5)と中間層(12)をライニングする。
この工法により、管渠(10)と継手要素(2)を強固に溶着し、管口からの浸入水を防止することが可能となる。
【0054】
図示してはいないが、ライナ硬化後に管渠(10)及び継手要素(2)の内壁を被覆するインナーフィルム(13)を取り除くことで、耐薬品性や耐摩耗性に優れた管渠結合構造を形成することができる。
このため、これらの工程を電熱線による溶着により一体化することで、管渠の管口において優れた止水性を備えた管渠結合構造を形成することができる。
【0055】
本発明の管渠工法には、フラッシュライニング-S工法施工後に、管渠の開削による取付管を設置するため、取付管部分に電熱線(6)が埋設された取付管用の継手構造(2)を設ける工程と当該継手構造(2)とアウターフィルム(5)とを溶着する工程が含まれても良い。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の管渠結合構造、管渠用継手構造及び管渠工法について実施例に基づき更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
本発明の管渠工法により形成されたマンホールは、JSWAS A-11「下水道鉄筋コンクリート製組立マンホール」の規格値以上の耐荷能力を有することを外圧試験により実証した。
JSWAS A-11「下水道鉄筋コンクリート製組立マンホール」の規格値は以下のとおりである。
(1)軸方向耐圧強さが、150kN以上
(2)側方曲げ強さが、ひび割れ6.9kN/m(6.21kN/0.9m)、破壊10.4kN/m(9.36kN/0.9m)以上
これらの物理的強度について確認するため、試験体を用いた各種耐性試験をおこなった。
【0058】
試験は、以下の試験区で行った。
以下に示す表は、本発明の管渠結合構造、管渠用継手構造及び管渠工法の一実施例であるPML工法から造られた試験体を従来品から20mm減肉した試験区と、試験体の肉厚を20mm減肉した試験体との物理的強度を比較したものである。
【0059】
【0060】
試験の結果、本発明の管渠結合構造を形成する管渠工法の一実施例であるPML工法は、耐圧性及び曲げ強さにおいて、施工後の人孔は、JSWAS A-11「下水道鉄筋コンクリート製組立マンホール」の規格値以上の耐荷能力を有することが判明した。
(1)軸方向耐圧強さが、150kN以上
(2)側方曲げ強さが、ひび割れ6.9kN/m(6.21kN/0.9m)、破壊10.4kN/m(9.36kN/0.9m)以上の優れた強度を有することが判明した。
【0061】
また試験において、ライナと注入材層の優れた密着性により耐荷性が向上し浸入水をより効果的に防止できることがわかった。
【0062】
試験の結果、本発明の管渠結合構造は、下水道用強化プラスチック複合管(JSWAS K-2)と同等以上の耐久性及び耐薬品性を備えていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る管渠結合構造、継手要素及び管渠工法は、下水道用管渠から上水道用管渠、工業用水用の管路、農業用水用の管路等、幅広い種類の管渠に適用可能であり、尚且つ本発明に係る管渠の工法は、管渠の管口への浸入水を防止する管渠結合構造を形成できることから、管口への浸入水を防止するための管渠や既設管渠の更生工法として最適な管渠結合構造、継手要素及び管渠工法を提供できる。
【符号の説明】
【0064】
1 人孔
2 継手要素
3 注入材層
4 ライナ
5 アウターフィルム
6 電熱線
7 被覆部
8 スリーブ状部
9 汚水桝
10 管渠
11 外部電源の入力端子
12 中間層
13 インナーフィルム
【要約】
【課題】
結合部と連結部材の圧着に差異が生じ得るという技術的課題と、管口と連結部材を同一素材で一体化することができないため、結合部からの浸入水を防ぐことが難しいという技術的課題を解決するための、止水性及び耐久性を兼ね備えた管渠のための管渠結合構造、管渠継手要素と管渠工法の提供。
【解決手段】
人孔と、管渠の端部の管渠結合構造であって、人孔の壁面を被覆する注入材層と、当該注入材層の表面を覆うライナと、継手要素であって、電熱線が埋設された前記継手要素と、外部電源の入力端子と、前記管渠の内表面及び継手要素の内壁面に、外側から、熱可塑性樹脂のアウターフィルム、中間層及びインナーフィルムを含む多層構造が構成され、前記中間層の一方の面がアウターフィルムによって被覆され、前記中間層の他方の面によってインナーフィルムが被覆する管渠結合構造、管渠用継手要素と管渠工法。
【選択図】
図1