(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】血管径センサおよび血管径測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/04 20060101AFI20230210BHJP
A61B 8/06 20060101ALI20230210BHJP
【FI】
A61B8/04
A61B8/06
(21)【出願番号】P 2018229395
(22)【出願日】2018-12-06
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 洋一
(72)【発明者】
【氏名】松永 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 典子
(72)【発明者】
【氏名】奥田 圭
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-118394(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047585(WO,A1)
【文献】特開平07-274294(JP,A)
【文献】国際公開第2007/126069(WO,A1)
【文献】特開平09-084193(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163395(WO,A1)
【文献】米国特許第06102860(US,A)
【文献】特表2008-515557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の表皮に貼り付けられる血管径センサであって、
可撓性を有する基板と、
前記基板上に横方向に一列に配置された複数の超音波素子と、を備え、
前記複数の超音波素子は、超音波を送信し、測定対象からの反射信号を受信するものであり、
前記複数の超音波素子により形成される前記超音波の送受信面が凹であ
り、前記人体の平面でない箇所に貼り付けられた場合も、前記送受信面が貼り付け箇所に密着することを特徴とする血管径センサ。
【請求項2】
前記送受信面の前記横方向の断面形状が、前記基板側に凹であることを特徴とする請求項1に記載の血管径センサ。
【請求項3】
前記複数の超音波素子は、空隙を挟んで配置されることを特徴とする請求項1
または2に記載の血管径センサ。
【請求項4】
前記空隙は、柔軟性を有する物質にて埋められていることを特徴とする請求項
3に記載の血管径センサ。
【請求項5】
前記送受信面上に配置される可撓性膜をさらに備える請求項1~
4の何れか一項に記載の血管径センサ。
【請求項6】
前記基板と、前記複数の超音波素子との間に配置されるバッキングをさらに備えることを特徴とする請求項1~
5の何れか一項に記載の血管径センサ。
【請求項7】
前記複数の超音波素子の前記送受信面を形成する面は、縦方向の断面形状が前記基板側に凹となっていることを特徴とする請求項1~
6の何れか一項に記載の血管径センサ。
【請求項8】
前記送受信面に配置される音響レンズをさらに備えることを特徴とする請求項1~
6の何れか一項に記載の血管径センサ。
【請求項9】
前記複数の超音波素子の縦の長さが0.2~2.0mmであり、前記複数の超音波素子の前記横方向におけるピッチが0.04~4.0mmであることを特徴とする請求項1~
8の何れか一項に記載の血管径センサ。
【請求項10】
複数の前記基板と、
複数の前記基板の各々に配置される前記複数の超音波素子と、
複数の前記基板が一列に配置される可撓性シートまたは複数の前記基板を接続する接続部の何れかと、を備えることを特徴とする請求項1~
9の何れか一項に記載の血管径センサ。
【請求項11】
請求項1~
9の何れか一項に記載の血管径センサと、
前記血管径センサに駆動信号を送信し、前記血管径センサから反射信号を受信するパルサーレシーバと、
前記パルサーレシーバによる前記血管径センサの駆動を制御し、前記パルサーレシーバが受信した反射信号に基づいて血管径を求める制御装置と、を備え
前記パルサーレシーバは、前記複数の超音波素子のうち、隣り合う複数個の超音波素子を同時に、または時間差をつけて駆動することを特徴とする血管径測定装置。
【請求項12】
前記制御装置は、前記複数の超音波素子のうち、隣り合った複数個の超音波素子からなるグループを順番に駆動させ、最も強い反射信号を受信した前記グループを決定し、
決定した前記グループに含まれる複数個の前記超音波素子を駆動させることを特徴とする請求項
11に記載の血管径測定装置。
【請求項13】
一列に配置された2つの前記血管径センサを備え、
前記制御装置は、
2つの前記血管径センサの一方において最も強い反射信号を受信した位置と、2つの前記血管径センサの他方において最も強い反射信号を受信した位置とに基づき、血管の位置を推定し、
2つの前記血管径センサに対する前記血管の走行の角度を求めることを特徴とする請求項
12に記載の血管径測定装置。
【請求項14】
推定した前記血管の位置を表示する表示装置をさらに備えることを特徴とする請求項
13に記載の血管径測定装置。
【請求項15】
一列に配置された2つの前記血管径センサを備え、
前記制御装置は、
2つの前記血管径センサにより測定された前記血管径の変化から2つの前記血管径センサの各々における脈波の伝播時間を求め、
2つの前記血管径センサにおける前記脈波の伝播時間の差、および2つの前記血管径センサの距離から血管の硬さおよび血圧を求めることを特徴とする請求項
11または12に記載の血管径測定装置。
【請求項16】
一列に配置された2つの前記血管径センサを備え、
2つの前記血管径センサは、血管に対して傾いて配置され、一方が前記超音波を送信し、他方が前記反射信号を受信するものであり、
前記制御装置は、前記血管内を移動する赤血球からの反射信号のドップラ周波数偏移から前記血管内における血流速度を測定することを特徴とする請求項
11または12に記載の血管径測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いた血管径センサおよび血管径測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を用いて動脈血管などの血管径を測定する血管径センサが知られている(例えば特許文献1)。超音波を用いた測定は、CTのように放射線被ばくがなく、妊婦または胎児に対しても使用可能であること、およびリアルタイム測定が可能であること、などの多くの利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
血管径センサを用いて血管径を測定する際には、頸部または前腕などに血管径センサが貼りつけられる。このとき、測定者の熟練度または被測定者の個人差によって、血管径センサの貼り付けの位置がずれることがある。また、血管径センサで用いられる超音波素子は、圧電セラミックスなどの硬い材料で構成され、平面状の基板に配置される。これに対し、測定対象である血管の断面は円形であるため、血管径センサの位置が測定対象からずれるほど、超音波の入射角が大きくなる。貼りつける際の位置ずれの他、頸部または前腕など貼り付けた身体の部位が回転した場合にも体表に貼り付けた血管径センサと体内の測定対象がずれ、超音波の入射角が大きくなる。その結果、反射信号を受信できなくなること、または血管径の測定精度の低下が生じてしまう。
【0005】
そこで、本発明は、位置ずれによる測定精度の低下を抑制できる血管径センサおよび血管径測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る血管径センサは、人体の表皮に貼り付けられる血管径センサであって、可撓性を有する基板と、基板上に横方向に一列に配置された複数の超音波素子と、を備え、複数の超音波素子は、超音波を送信し、測定対象からの反射信号を受信するものであり、複数の超音波素子により形成される超音波の送受信面が凹であり、人体の平面でない箇所に貼り付けられた場合も、送受信面が貼り付け箇所に密着する。
【発明の効果】
【0007】
以上のように、本発明によれば、複数の超音波素子により形成される超音波の送受信面を凹とすることで、血管径センサの貼りつける際に位置ずれが生じた場合、または貼り付けた身体の部位が回転した場合にも、血管に対する超音波の入射角が大きくなることを抑制し、反射信号を受信できなくなること、および血管径の測定精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1における血管径測定装置の概略構成図である。
【
図2】実施の形態1における血管径センサの概略構成図である。
【
図3】実施の形態1における血管径センサの駆動を説明する図である。
【
図4】実施の形態1の変形例1における血管径センサの概略構成図である。
【
図5】実施の形態1の変形例2における血管径センサの概略構成図である。
【
図6】実施の形態1の変形例3における血管径センサの概略構成図である。
【
図7】実施の形態1の変形例4における超音波素子の外観斜視図である。
【
図8】実施の形態1の変形例5における超音波素子の外観斜視図である。
【
図9】実施の形態1の変形例6における血管径センサの駆動を説明する図である。
【
図10】実施の形態1の変形例7における血管径センサの駆動を説明する図である。
【
図11】実施の形態2における血管径センサの概略構成図である。
【
図12】実施の形態2における血管の位置の推定方法を説明する図である。
【
図13】実施の形態2の変形例1における血管径センサの概略構成図である。
【
図14】実施の形態2の変形例2における血管径センサの概略構成図である。
【
図15】実施の形態2の変形例3における血管径センサの概略構成図である。
【
図16】実施の形態2の変形例4における血管径測定装置の概略構成図である。
【
図17】実施の形態3における血管径センサの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1に係る血管径センサ1および血管径測定装置100について説明する。
図1は、実施の形態1における血管径測定装置100の概略構成図である。
図1に示すように、血管径測定装置100は、血管径センサ1と、パルサーレシーバ2と、制御装置3と、表示器4とを備える。
【0010】
図1に示すように、パルサーレシーバ2は、血管径センサ1に駆動信号(パルス電圧)を送信し、血管径センサ1からの反射信号を受信する。血管径センサ1は、超音波ゲルまたは超音波ゲルシートを介して人体の表皮に貼り付けられるものであり、パルサーレシーバ2により駆動されることで、超音波を人体の表皮に送信する。そして、血管径センサ1は、血管前壁の内側からの反射信号と血管後壁の内側(血液と血管内壁の境界)からの反射信号とを受信し、パルサーレシーバ2へ送信する。パルサーレシーバ2は、受信した反射信号を制御装置3に送信する。
【0011】
制御装置3は、CPUおよびメモリを備えたPCなどで構成される。制御装置3は、パルサーレシーバ2による血管径センサ1の駆動を制御するとともに、パルサーレシーバ2が受信した反射信号に基づいて血管径dを求める。なお、血管径dは血管の内径である。詳しくは、制御装置3は、血管前壁の内側からの反射信号と血管後壁の内側からの反射信号との受信時間を計測する。そして、その時間差を、下記の式(1)のように音速を用いて距離に換算し、血管径dを算出する。
【0012】
【数1】
なお、式(1)の「C」は音速であり、「t1」は血管前壁の内側からの反射信号を受信した時間であり、「t2」は血管後壁の内側からの反射信号を受信した時間である。
【0013】
パルサーレシーバ2が受信した反射信号は、オシロスコープなどで構成される表示器4に表示してもよい。なお、パルサーレシーバ2が制御装置3を兼ねる構成としてもよい。また、制御装置3が表示器4を兼ねる構成としてもよい。
【0014】
図2は、実施の形態1における血管径センサ1の概略構成図である。
図2に示すように、本実施の形態の血管径センサ1は、基板11と、基板11に配置される複数の超音波素子12とを備える。基板11は、ポリイミドまたは塩化ビニルなどの可撓性を有する材質で構成される。なお、基板11は、可撓性を有しつつ、伸縮しないものであることが望ましい。
【0015】
超音波素子12は、圧電セラミックスなどで構成され、測定対象に対して超音波を送信し、測定対象からの反射信号を受信する。複数の超音波素子12は、直方体形状を有し、空隙を挟んで横方向に一列に配置される。
図2の例では、超音波素子12は、縦長形状を有し、隣り合う超音波素子12の長辺が対向するように配置される。超音波素子12の縦の長さLは、例えば0.2~2.0mmである。また、超音波素子12の横方向のピッチPは、0.04mm~4.0mmである。ピッチPは、超音波素子12の横方向の幅と、空隙の幅とを足したものとする。超音波素子12の厚さは、印加されるパルス電圧の周波数に応じて設定される。超音波素子12の数は、
図2の例に限定されるものではなく、2個以上であればよい。
【0016】
図2に示すように、複数の超音波素子12は、可撓性を有する基板11に配置されるため、複数の超音波素子12により形成される超音波の送受信面を凹とすることができる。より詳しくは、複数の超音波素子12により形成される超音波の送受信面の横方向の断面形状を、基板側に凹とする、例えば湾曲させることができる。これにより、複数の超音波素子12により形成される送受信面が平面の場合と比べて、超音波素子12の位置に依らず、血管からの反射信号を受信することができる。
【0017】
血管径センサ1は、例えばフォトリソグラフィおよびパターニングなどの技術を用いて製造される。なお、基板11と超音波素子12との間には、図示しない接地電極が配置される。また、各超音波素子12は、パルサーレシーバ2と個別に配線接続される。これにより、各超音波素子12が個別に駆動される。
【0018】
図3は、実施の形態1における血管径センサ1の駆動を説明する図である。
図3に示すように、本実施の形態では、複数の超音波素子12a~12gのうち、隣り合う複数個の超音波素子12が同時に駆動される。
図3の例では、3つの超音波素子12c、12dおよび12eが同時に駆動される。これにより、超音波素子12が小型の場合にも、超音波ビームを生成し、測定対象の深いところまで測定することができる。駆動する超音波素子12の数および位置は、
図3の例に限定されるものではなく、測定対象に応じて設定される。
【0019】
上記のように、本実施の形態によれば、可撓性を有する基板11を備えることで、複数の超音波素子12により形成される超音波の送受信面を凹とすることができる。これにより、血管径センサ1の貼りつける際に位置ずれが生じた場合にも、血管に対する超音波の入射角が大きくなることを抑制し、血管径の測定精度の低下を抑制することができる。また、人体などの平面でない箇所に取り付けられた場合も、血管径センサ1の送受信面を密着させることができる。
【0020】
なお、血管径センサ1の構成は、
図2の例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
図4は、実施の形態1の変形例1における血管径センサ1Aの概略構成図である。
図4に示すように、隣り合う超音波素子12間の空隙を、柔軟性を有する物質13によって埋めてもよい。柔軟性を有する物質13は、例えばシリコーン樹脂またはポリウレタンである。これにより、血管径センサ1をコンポジット構造(この場合は2-2コンポジット構造)として柔軟性を持たせることができ、生体に対する超音波の送信および受信の効率を向上させることができる。
【0021】
また、隣り合う超音波素子12間の空隙を、硬い物質によって埋めてもよい。この場合は、複数の超音波素子12により形成される超音波の送受信面が、所望の凹形状となるように設定された状態で、複数の超音波素子12を固定すればよい。この場合も、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。
【0022】
図5は、実施の形態1の変形例2における血管径センサ1Bの概略構成図である。
図5に示すように、超音波素子12の送受信面を覆う可撓性膜14を設けてもよい。可撓性膜14は、例えばポリイミドで構成される。可撓性膜14を設けることにより、音響整合層としての機能を備えることができ、超音波の送信および受信を効率よく行うことができる。また、可撓性膜14にて超音波素子12の送受信面を覆うことで、超音波素子12の劣化を抑制するとともに、送受信面を拭きやすくなり、衛生面も改善されるといった効果を有する。
【0023】
図6は、実施の形態1の変形例3における血管径センサ1Cの概略構成図である。
図6に示すように、超音波素子12と基板11との間、詳しくは図示しない電極と基板11との間にバッキング15を設けてもよい。バッキング15は、
図6(a)に示すように、超音波素子12の各々に対応して設けてもよいし、
図6(b)に示すように、複数の超音波素子12に対して1つのバッキング15を設けてもよい。なお、複数の超音波素子12に対して1つのバッキング15を設ける場合は、バッキング15にも可撓性を持たせる必要がある。バッキング15は、制振材であり、例えばエポキシ樹脂とタングステン粉末を混合したものから構成される。バッキング15を備えることで、超音波素子12の不要な振動を減衰させ、超音波のパルス幅を短くすることができる。また、バッキング15により、基板11側からの超音波の戻りを抑制することができる。
【0024】
また、血管径センサ1における超音波素子12の形状は、
図2の例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
図7は、実施の形態1の変形例4における超音波素子12Aの外観斜視図である。
図7に示すように、超音波素子12の送受信面を形成する面を、縦方向の断面形状が基板11側に凹となるよう構成してもよい。
【0025】
図8は、実施の形態1の変形例5における超音波素子12Bの外観斜視図である。
図8に示すように、超音波素子12の送受信面を形成する面に、音響レンズ120を設けてもよい。音響レンズ120は、ポリフッ化ビニリデン等の超音波発振面の表面に適当な音響インピーダンスを持つ素材で構成され、超音波の送信方向に対して凸の形状を有する。
【0026】
変形例4または変形例5の構成とすることで、送信される超音波の広がりを抑制し、測定対象からより強い反射信号を得ることができる。なお、音響レンズ120は、超音波素子12をそれぞれ覆うものであってもよいし、隣り合う複数個の超音波素子12を覆うものであってもよい。
【0027】
また、血管径センサ1の駆動は、
図3の例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
図9は、実施の形態1の変形例6における血管径センサ1の駆動を説明する図である。
図3では、隣り合う複数個の超音波素子12が、同時に駆動される構成としたが、
図9に示すように、複数個の超音波素子12を、時間差をつけて駆動してもよい。
【0028】
例えば、
図9(a)に示すように、まず、外側から2番目に位置する超音波素子12bおよび12fを駆動し、所定時間経過後に、外側から3番目に位置する超音波素子12cおよび12eを駆動し、所定時間経過後に、中央の超音波素子12dを駆動してもよい。これにより、直線状の超音波を送信することができ、表皮近傍の送信幅を大きくとることができる。
【0029】
または、
図9(b)に示すように、超音波素子12bから超音波素子12fまでを時間差をつけて順番に駆動してもよい。これにより、超音波ビームの入射角度を調整することができ、深部での広角の測定が可能となる。
【0030】
さらに、血管径の測定に用いる複数個の超音波素子12を、血管との位置関係に応じて自動的に決定する構成としてもよい。
図10は、実施の形態1の変形例7における血管径センサ1の駆動を説明する図である。本変形例では、パルサーレシーバ2は、複数の超音波素子12a~12gのうち、隣り合った複数個の超音波素子からなるグループを順番に駆動させる。具体的には、まず超音波素子12a、12b、12cを駆動させ、次に超音波素子12b、12c、12dを駆動させる。そして、次に超音波素子12c、12d、12e、その次に超音波素子12d、12e、12f、と一つずつ超音波素子をずらしながら、グループ毎に駆動させる。1グループにおける超音波素子の数は、3つに限定されるものではない。そして、制御装置3によって、最も強い反射信号を受信したグループを決定し、当該グループに含まれる超音波素子12を用いて血管径を測定するよう、パルサーレシーバ2を制御する。
【0031】
例えば、
図10(a)では、超音波素子12c、12dおよび12eを含むグループG1が駆動される。
図10(b)では、超音波素子12d、12eおよび12fを含むグループG2が駆動される。ここで、グループG2は、血管の上に位置するため、グループG1よりも強い反射信号を受信する。そのため、グループG2に含まれる超音波素子12d、12eおよび12fが血管径の測定に用いられる。
【0032】
変形例7によれば、血管径センサの貼り付け位置が血管からずれてしまった場合、または貼りつけ後に位置がずれてしまった場合にも、血管の上に位置する超音波素子12を用いて血管径を測定できる。これにより、位置ずれが発生した場合でも、血管径測定装置100の測定精度の低下を抑制することができる。
【0033】
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態の血管径センサ20は、2つの血管径センサ10Aおよび血管径センサ10Bからなる点において、実施の形態1と相違する。血管径測定装置100のその他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0034】
図11は、実施の形態2における血管径センサ20の概略構成図である。
図11に示すように、血管径センサ20は、可撓性シート16と、可撓性シート16上に所定の距離をあけて一列に配置される血管径センサ10Aおよび血管径センサ10Bからなる。血管径センサ10Aおよび血管径センサ10Bは、それぞれ実施の形態1における血管径センサ1と同じ構成を有する。
【0035】
本実施の形態では、制御装置3において、血管径センサ10Aおよび血管径センサ10Bが受信した反射信号から、血管の位置を推定する。
図12は、実施の形態2における血管の位置の推定方法を説明する図である。血管の位置を推定するために、まず、制御装置3によって、血管径センサ10Aにおいて最も強い反射信号を受信する位置、および血管径センサ10Bにおいて最も強い反射信号を受信する位置が決定される。ここでは、実施の形態1の変形例7で説明したように、超音波素子12を順番に駆動させ、最も強い反射信号を受信した位置を決定する。
図12の例では、血管径センサ10Aの超音波素子12gの位置、および血管径センサ10Bの超音波素子12dの位置が、最も強い反射信号を受信したものとする。
【0036】
そして、制御装置3は、血管径センサ10Aの超音波素子12gと血管径センサ10Bの超音波素子12dとを結んだ線L1に沿って、血管が走行していると推定する。そして、血管径センサ10Aの中心と血管径センサ10Bの中心とを結んだ線L2に対する超音波素子12gと超音波素子12dとを結んだ線L1の角度を、血管径センサ10Aおよび血管径センサ10Bに対する血管の走行との角度θとする。言い換えると、角度θは、血管径センサ10Aおよび血管径センサ10Bにおける超音波素子12の縦方向に対する血管の走行の傾きである。制御装置3は、角度θを表示器4に表示してもよい。また、制御装置3は、角度θが閾値を超える場合には、測定者に血管径センサ20の位置ずれを報知する、または角度θに基づいて測定した血管径を補正してもよい。
【0037】
このように、本実施の形態では、血管径センサ20が位置ずれして貼りつけられた場合にも、位置ずれを検知するとともに、血管の位置を推定し、測定者に報知することまたは測定値を補正することができる。これにより、測定者が位置ずれを適切に修正することができ、血管径の測定精度の低下を抑制することができる。
【0038】
なお、血管径センサ20の構成は、
図11の例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
図13は、実施の形態2の変形例1における血管径センサ20Aの概略構成図である。
図13に示すように、血管径センサ10Aと、血管径センサ10Bとをそれぞれ可撓性シート16に配置し、これらをケーブルなどの接続部17にて接続する構成としてもよい。
【0039】
また、実施の形態2の血管径センサ20における可撓性シート16の裏面に、推定した血管の位置を表示するLEDアレイなどの表示装置をさらに設けてもよい。可撓性シート16の裏面とは、血管径センサ10Aおよび血管径センサ10Bが配置されない面をいう。これにより、測定者が血管径センサ20と血管との位置ずれを容易に把握することができる。
【0040】
または、血管径センサ20が貼りつけられる皮膚上に、推定される血管の位置を表示してもよい。
図14は、実施の形態2の変形例2における血管径センサ20Bの概略構成図である。
図14に示すように、本変形例の血管径センサ20Bの可撓性シート16Aは、血管径センサ10Aと、血管径センサ10Bとの間に開口18を有する。また、可撓性シート16Aの裏面の開口18の近傍には、表示装置19を備える。表示装置19は、例えば光源およびマイクロスキャナから構成され、制御装置3により制御される。表示装置19は、開口18の皮膚上に、光を照射することで、血管の走行を表示する。これにより、測定者が血管の走行を把握することができ、採血を行う際の目印とすることができる。
【0041】
図15は、実施の形態2の変形例3における血管径センサ20Cの概略構成図である。本変形例は、実施の形態2の変形例1に実施の形態2の変形例2を適用したものである。この場合は、接続部17が可撓性シート16の中央からずらして配置される。これにより、血管径センサ10Aと血管径センサ10Bとの間に血管の走行を表示する空間を確保できる。
【0042】
さらに、実施の形態2の変形例4として、制御装置3は、血管径センサ10Aおよび血管径センサ10Bが受信した反射信号に基づき、血管壁の硬さおよび血管内圧を測定してもよい。
図16は、実施の形態2の変形例4における血管径測定装置100Aの概略構成図である。
【0043】
具体的には、血管径センサ10Aおよび血管径センサ10Bにおいて測定される血管径の変化から、心臓の収縮に伴う脈波を測定することができる。そして、血管径センサ10Aと血管径センサ10Bとの距離、および血管径センサ10Aと血管径センサ10Bとにおける脈波の伝播時間の差から、脈波伝播速度Tが求められる。
【0044】
そして、下記の脈波伝播速度と動脈壁の(血圧上昇時の)増分弾性係数との関係を示すメーンズ・コルテベークの式(2)により、血管の硬さが求められる。
【0045】
【数2】
ここで、Eincは増分弾性係数(血管壁の材質としての硬さ、ヤング率に相当)、hは壁の厚さ、ρは血液の密度、Tは脈波伝播速度、dは血管径(血管内径)である。
図16に示すように、深さ方向の分解能(距離分解能)が高い場合、血管径センサ20によって、血管前壁と血管周囲組織の間の反射波、および血管後壁と血管周囲組織の間の反射波を計測することができ、血管の外径Dを測定することができる。そして、血管径(内径)dと外径Dとから、壁の厚さhを計測できる。血管密度ρは文献値を用いることができる。または、血管径センサ20装着時に一般的な血圧計であるカフ式の血圧計を一時的に用いて、血管径センサ20装着時の最高血圧と最低血圧を計測する。そして、血管径センサ20によって同時に計測した最大血管径と最小血管径の値を用いて、下記の式(3)からEincを求め、本センサにより測定したT、d、hの値を用いてρを算出しても良い。
【0046】
【数3】
ここで、ΔPは最高血圧-最低血圧、ΔRoは最大血管外半径-最小血管外半径、Riは最小血管内半径、Roは最小血管外半径、νはポアソン比で、値を0.5とする。その後は、カフ式の血圧計を外した後、求めたρの値を一定として血管径センサ20により適宜計測したT、d、hの値からEincを求めることができる。さらに求めたEincと計測した最小血管内半径、最小血管外半径および最大血管外半径の値を用いて式(3)からΔP(最高血圧-最低血圧)を求めることができる。
【0047】
血管の硬さを示す指標として上記Eincを用いる他、血管の硬さを示す簡便な方法として、血管径センサ20の装着時に一般的な血圧計であるカフ式の血圧計を一時的に用いて、血管径センサ20装着時の最高血圧と最低血圧を計測する。そして、血管径センサ20によって同時に計測した最大血管径と最小血管径の値を用いて式(4)からスティフネス(管としてみた場合の膨らみ難さ)Epを血管硬さの指標として提示してもよい。
Ep=(最高血圧-最低血圧)/{(最大血管径-最小血管径)/最小血管径}・・・(4)
【0048】
さらに、(4)を変形して得られる式(5)を用いても良い。
Ep/最小血管径=(最高血圧-最低血圧)/(最大血管径-最小血管径)・・・(5)
このとき、横軸が血管径、縦軸が血圧のグラフに最高血圧・最大血管径の点と、最低血圧・最小血管径の点を結ぶ傾き一定の線を描く。そして、脈波伝播速度から計算される血圧と血管径センサ20によって計測される血管径を上記のグラフにプロットする。その際に、上記傾き一定の線より上にプロットされた場合は交感神経優位、線より下にプロットされた場合は副交感神経優位としてもよい。そして、最低血圧・最小血管径の点と上記プロットした点を結んだ傾きを、Ep/最小血管径として血管硬さの値として提示しても良い。
【0049】
本変形例によると、血管径に加えて血管の硬さおよび血圧を求めることができる。血管の硬さは、交感神経の活動に伴う緊張を反映するものと考えられる。そのため、血管径センサ20を用いて、ストレス反応、または循環血液量の異常などを知ることができる。
【0050】
実施の形態3.
次に、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態の血管径センサ30は、2つの血管径センサ10Cおよび血管径センサ10Dが、血管に対して傾きを持って配置される点において、実施の形態2と相違する。血管径測定装置100のその他の構成は、実施の形態1と同様である。なお、血管径センサ10Cおよび血管径センサ10Dは、それぞれ実施の形態1における血管径センサ1と同じ構成を有する。
【0051】
図17は、実施の形態3における血管径センサ30の概略構成図である。なお、血管径センサ10Cおよび血管径センサ10Dにおける超音波素子12は、紙面上、奥行方向に配置される。
図17に示すように、本実施の形態では、可撓性シート16上において、2つの血管径センサ10Cおよび血管径センサ10Dの送受信面が、血管および可撓性シート16に対して45°傾いた状態となるよう配置される。また、血管径センサ10Cと血管径センサ10Dとは、互いに対向する方向へ傾くよう配置される。
【0052】
そして、本実施の形態では、一方の血管径センサ10Cが超音波を送信し、他方の血管径センサ10Dが反射信号を受信するよう駆動される。制御装置3は、血管内を移動する赤血球からの反射信号のドップラ周波数偏移から、血管内の血流速度を測定することができる。
【0053】
また、本実施の形態の血管径センサ30においても、血管径を測定することができる。この場合は、血管径センサ10Cまたは血管径センサ10Dの何れか一方を用いて、血管径が測定される。具体的には、実施の形態1と同様に、血管径センサ10Cにて超音波の送信および反射信号の受信を行う。そして、制御装置3において、血管径センサ10Cの傾き(45°)を用いて測定された血管径を補正し、血管径が求められる。また、制御装置3は、血流速度と血管径とから、血流量を求めることができる。
【0054】
また、実施の形態3の変形例1として、血管径センサ10Cおよび血管径センサ10Dを傾けて配置するのではなく、血管径センサ10Cおよび血管径センサ10Dの超音波素子12の縦方向の断面形状を三角形とし、送受信面を45°傾斜させてもよい。これにより、
図17に示す状態(血管径センサ10Cおよび血管径センサ10Dの送受信面が可撓性シート16に対して45°傾いた状態)と、同じ状態とすることができる。
【0055】
さらに、実施の形態3の変形例2として、血管径センサ10Cおよび血管径センサ10Dに加え、血管径を測定するための血管径センサ追加で設けてもよい。追加の血管径センサは、血管径センサ10Cおよび血管径センサ10Dの上流または下流に、血管径センサ10Cおよび血管径センサ10Dから所定の距離をおいて配置される。追加の血管径センサを設けることで、血管径および血流量に加え、実施の形態2と同様に血管の位置および走行を求めることができる。この場合は、追加の血管径センサを実施の形態2の血管径センサ10Aとし、血管径センサ10Cまたは血管径センサ10Dを血管径センサ10Bとみなして、血管の位置および走行を求めればよい。
【0056】
以上が本発明の実施の形態の説明であるが、本発明は、上記実施の形態の構成に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で様々な変形または組み合わせが可能である。例えば、実施の形態1~3および各変形例は、それぞれ組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1、1A、1B、1C、10A、10B、10C、10D、20、20A、20B、20C、30 血管径センサ、2 パルサーレシーバ、3 制御装置、4 表示器、11 基板、12、12A、12B、12a、12b、12c、12d、12e、12f、12g 超音波素子、13 物質、14 可撓性膜、15 バッキング、16、16A 可撓性シート、17 接続部、18 開口、19 表示装置、100、100A 血管径測定装置、120 音響レンズ。