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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】伸縮性布帛
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/20 20060101AFI20230210BHJP
   D01F 8/12 20060101ALI20230210BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20230210BHJP
   D03D 15/292 20210101ALI20230210BHJP
   D03D 15/56 20210101ALI20230210BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20230210BHJP
   D04B 1/18 20060101ALI20230210BHJP
【FI】
D04B1/20
D01F8/12 Z
D03D15/20
D03D15/292
D03D15/56
D04B1/16
D04B1/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018193165
(22)【出願日】2018-10-12
(65)【公開番号】P2019073841
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2017198904
(32)【優先日】2017-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原 健太郎
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-080717(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0072400(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F8/00-8/18
D03D1/00-27/18
D04B1/00-1/28
21/00-21/20
D06B1/00-23/30
D06C3/00-29/00
D06G1/00-5/00
D06H1/00-7/24
D06J1/00-1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜在捲縮糸を用いてなる布帛であって、前記潜在捲縮糸は、相対粘度が2.7~2.9であり、ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6とからなる樹脂組成物(成分1)と、相対粘度が2.4~3.0のポリアミド6(成分2)とからなり、前記潜在捲縮糸は、成分1と成分2との質量比率48:52~52:48である貼り合わせ型の潜在捲縮糸であり、前記成分1のポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6との樹脂比率(質量比)は45:55~55:45であり、50回繰り返し引張試験における強度保持率が70%以上であることを特徴とする伸縮性布帛。
【請求項2】
潜在捲縮糸を用いてなる布帛であって、前記潜在捲縮糸は、相対粘度が2.9であり、ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6とからなる樹脂組成物(成分1)と、相対粘度が2.4のポリアミド6(成分2)とからなり前記潜在捲縮糸は、成分1と成分2との質量比率50:50になるように貼り合わせ型の潜在捲縮糸であり、前記成分1のポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6との樹脂比率(質量比)は50:50であり、50回繰り返し引張試験における強度保持率が70%以上であることを特徴とする伸縮性布帛。
【請求項3】
潜在捲縮糸の捲縮率が50%を超えることを特徴とする請求項1または2記載の伸縮性布帛。
【請求項4】
潜在捲縮糸を用いて布帛を製造する方法であって、前記潜在捲縮糸は、相対粘度が2.7~2.9であり、ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6とからなる樹脂組成物(成分1)と、相対粘度が2.4~3.0のポリアミド6(成分2)とからなり、前記成分1のポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6との樹脂比率(質量比)は45:55~55:45であり、前記潜在捲縮糸において、成分1と成分2と質量比率48:52~52:48である貼り合わせ型の潜在捲縮糸を用いて製編織し、得られた生機を精練工程、プレセット工程、染色工程のいずれか1以上の工程で収縮して得られた生地を巾入れ率―1.9~―4.0%に熱セットするファイナル工程を含む、請求項1または3記載の布帛の製造方法。
【請求項5】
巾入れ率が、―1.9%、―2.9%又は―4.0%である請求項記載の布帛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド潜在捲縮糸を用いてなる伸縮性布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からポリアミド繊維は、ポリエステルと比べて柔らかくタッチも良好であり、衣料用途に広く用いられている。衣料用ポリアミド繊維の代表であるポリアミド6やポリアミド66等において、一種類のポリマーからなる単一糸は、繊維自体に捲縮性が殆どないため、仮撚加工等により繊維自身にトルクを持たせて捲縮性を付与し、布帛としたときに伸縮性を得ている。仮撚加工等により捲縮を付与すると、織編物とした際にシボが発生し易い。このシボ発生を防止しようと、織編物に熱水処理を施すと仮撚加工等の加工による捲縮糸のトルクが減少し、伸縮性の高い布帛を得ることが難しい。
そこで、特許文献1は、ナイロン12エラストマーと、ポリアミドやポリエステルとを、サイドバイサイド型や芯鞘型に複合した繊維を用いた、伸長回復率が良好な布帛が開示されている。
特許文献2は、ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物と、ポリアミド樹脂とからなるポリアミド潜在捲縮糸を用いることにより伸縮性に優れた布帛を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭57-193521号公報
【文献】特開2015-86504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1のようなナイロン12エラストマーを用いた共重合ポリアミドを用いた繊維からなる布帛は、樹脂が高価なため、コスト的に不利である。
また特許文献2記載のポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物と、ポリアミド樹脂とからなるポリアミド潜在捲縮糸を用いた布帛は、高価な樹脂を用いずともよいため、コスト面で有利で、伸縮性も良好であるものの、昨今、ポリアミド繊維が使用されるインナー分野においては、繰り返し使用しても優れた伸縮性を有する、よりキックバック性に優れた布帛が求められている。
したがって、本発明は上記の課題を解決し、ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物と、ポリアミド樹脂とからなるポリアミド潜在捲縮糸を用いた布帛において、よりキックバック性の改良された伸縮性布帛を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6とからなる樹脂組成物(成分1)と、ポリアミド樹脂(成分2)とからなる、貼り合わせ型の潜在捲縮糸を用いてなる布帛であって、50回繰り返し引張試験における強度保持率が70%以上であることを特徴とする伸縮性布帛である。
潜在捲縮糸の成分1と成分2の樹脂比率(質量比率)は45:55~55:45であることが好ましく、潜在捲縮糸の捲縮率は50%を超えることが好ましい。
またポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6とからなる樹脂組成物(成分1)と、ポリアミド樹脂(成分2)とからなる、貼り合わせ型の潜在捲縮糸を用いて製編織し、得られた生機を収縮させた後、ファイナルセット工程にて巾入れ率を10%以下とすることを特徴とする上記布帛の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物と、ポリアミド樹脂とからなるポリアミド潜在捲縮糸を用いた伸縮性布帛において、キックバック性が改良された伸縮性布帛を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6とからなる樹脂組成物(成分1)と、ポリアミド樹脂(成分2)とからなる2種のポリアミド成分で構成される、貼り合わせ型の潜在捲縮糸を用いてなる伸縮性布帛である。
【0008】
成分1で使用されるポリアミド6は、溶融紡糸安定性の観点から、相対粘度が2.2を超えることが好ましい。また、相対粘度に上限はないが、紡糸操業安定性の観点から相対粘度は3.5までで十分である。
【0009】
成分1で使用されるポリメタキシレンアジパミドは、溶融紡糸安定性の観点から、相対粘度が2.1を超えることが好ましい。より好ましくは相対粘度が2.6を超えることである。また、相対粘度に上限はないが、紡糸操業安定性の観点から相対粘度3.3までで十分である。
【0010】
成分1に使用されるポリアミド6、ポリメタキシレンアジパミドの水分率は、紡糸操業性の観点から、300ppm以下が好ましい。単糸繊維が細いほど、乾燥を強化して水分率を低くすることが好ましい。
【0011】
成分1の樹脂組成物の相対粘度は、紡糸操業性と高捲縮性能発現の観点から、2.6~3.0であることが好ましく、2.7~2.9であることがより好ましい。
【0012】
成分1で使用されるポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6との樹脂比率(質量比)は35:65~70:30が好ましく、45:55~55:45が特に好ましい。この範囲であれば、熱水収縮率も十分であり、高い捲縮性を備える繊維となり易い。
【0013】
成分2で使用されるポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド66等が挙げられる。なかでも、ポリアミド6が好ましい。
【0014】
成分2で使用されるポリアミド6は、溶融紡糸安定性の観点から、相対粘度が2.2を超えることが好ましい。より好ましくは2.4以上、特に好ましくは相対粘度2.7を超えることである。また、相対粘度に上限はないが、紡糸操業安定性の観点から相対粘度3.5までで十分である。
また、成分2で使用されるポリアミド6の相対粘度は、捲縮率を高く保持する点からは、相対粘度2.2~3.5であることが好ましく、2.4~3.0であることがより好ましい。
【0015】
成分2のポリアミド樹脂の水分率は、紡糸操業性の観点から、300ppm以下が好ましい。また、単糸繊維が細いほど乾燥を強化し、水分率を低くすることが好ましい。
【0016】
本発明に用いる潜在捲縮糸は、成分1と成分2で構成される2種のポリアミド成分からなる、貼り合わせ型の潜在捲縮糸である。
【0017】
成分1と成分2の樹脂比率(質量比率)は45:55~55:45が好ましく、48:52~52:48が特に好ましい。
【0018】
本発明に用いる、潜在捲縮糸の貼り合わせ方法としては、例えば、成分1と成分2を別々に溶融し、口金で貼り合わせて紡糸して、複合繊維とする方法が挙げられる。
【0019】
成分1と成分2を貼り合わせる配置としては、紡糸操業性や高捲縮性能を発現し易い点から、成分1と成分2を繊維横断面においてサイドバイサイド型に配置することが好ましい。
【0020】
成分1及び成分2のポリマーの相対粘度の差としては、(成分1)-(成分2)=-0.5~1.0の範囲が好ましい。この範囲であると、紡糸操業性を保ったまま捲縮性に優れた潜在捲縮糸を容易に得ることができる。
【0021】
本発明に用いる潜在捲縮糸の捲縮率は、50%を超えるものが好ましい。捲縮率が50%を超えれば、十分な捲縮を発現させることができる。なかでも55%以上がより好ましく、特に好ましくは60%以上である。これにより高密度な布帛でありながら、伸縮性を合わせ持った布帛が得られる。そして、染色等の後加工において、潜在捲縮糸が収縮し、高収縮の高密度布帛を得ることができる。
【0022】
本発明に用いる潜在捲縮糸の破断強度は、織編加工等で糸切れ無く、操業性を良好に保つ点から、2.7cN/dtex以上が好ましい。より好ましくは3.0cN/dtex以上である。
【0023】
本発明に用いる潜在捲縮糸の破断伸度は、織編加工等で糸切れ無く、操業性を良好に保つ点から、30%以上が好ましい。より好ましくは35%以上である。
【0024】
本発明の伸縮性布帛は、上記のポリアミド潜在捲縮糸を用いて構成される。布帛の形態としては、編物、織物、不織布等が好適に挙げられる。
編物としては、スムース編み、天竺編み、ゴム編み、ガーター編み等が好適に挙げられ、織物としては、平織、綾織、朱子織が好適に挙げられる。
【0025】
本発明の伸縮性布帛は、上記の潜在捲縮糸を一部に用いても、全部に用いて良い。キックバック性を良好に発現する点からは、50質量%以上用いることが好ましい。
【0026】
本発明の伸縮性布帛は、後述する、50回繰り返し引張試験における強度保持率が70%以上であり、より好ましくは、85%以上である。このような強度保持率とすることにより、スパッツ等のインナー等とした際に、優れたキックバック性を有するものとなる。
【0027】
本発明の伸縮性布帛の破断強力は、150N/10cm以上であることが好ましく、より好ましくは、200N/10cm以上である。
【0028】
本発明の伸縮性布帛の破断伸度は、200%以上であることが好ましく、より好ましくは、220%以上である。
【0029】
上記伸縮性布帛の破断強力および破断伸度は、巾2.5cm、長さ10cmとしたサンプルを用い、490N(50kgf)のロードセルを使用し、引張試験機において、初期試料長5cmから速度10mm/minにて伸長させて、破断したときの強力および伸度である。
【0030】
次に、本発明の伸縮性布帛を得る方法について、説明する。
本発明の伸縮性布帛を得るには、上記の潜在捲縮糸を用いて製編織等して生機を得た後、精練工程、プレセット工程、染色工程等のいずれか一以上の工程にて、潜在捲縮糸を収縮させ、次いで、ファイナルセット工程において、適切な範囲で巾入れすることが重要となる。以下、好適な方法を詳しく説明する。
【0031】
まず、本発明に用いる潜在捲縮糸の製造方法について例示する。
本発明に用いる潜在捲縮糸は、成分1と成分2を準備し、成分1と成分2とを別々に溶融混練して、口金パックに導き、所定の横断面(繊維軸に直行方向)となるようにノズルから吐出し、溶融紡糸し、冷却した後、延伸して得ることができる。
【0032】
このように紡糸および延伸して潜在捲縮糸を得る製造方法としては、コンベンショナル法や直接紡糸延伸法が好適に挙げられる。
【0033】
コンベンショナル法において、紡糸温度は、270℃以上が好ましく、より好ましくは、紡糸温度が280℃以上である。上限は、紡糸温度290℃程度が好ましい。
【0034】
コンベンショナル法において、延伸工程での熱セット温度は、140℃以下が好ましい。より好ましくは、熱セット温度が130℃以下、さらに好ましくは熱セット温度が120℃以下である。熱セット温度が140℃を超える温度にした場合、成分1と成分2単独糸の熱水収縮率の差が小さくなり、潜在捲縮糸全体の熱水収縮率も低下する傾向がある。これにより、捲縮が発現しにくくなるため、布帛としたときの高密度性、高い伸縮性が損なわれるおそれがある。
【0035】
このようにして得られたポリアミド潜在捲縮糸を製編織等して、生機を得る。
製編の際の編み組織としては、スムース編み、天竺編み、ゴム編み、ガーター編み等が挙げられ、特にスムース編みが好ましい。
製織の際の織り組織としては、平織、綾織、朱子織等が挙げられ、特に平織が好ましい。
【0036】
次に、得られた生機を、精練工程、プレセット工程、染色工程のいずれか一以上の工程において、生機を収縮させた後、仕上げ工程(ファイナルセット工程)にて、巾入れ率を10%以下にすることにより、本発明の強度保持率を有するキッバック性の優れた伸縮性布帛を得ることができる。以下、各工程の好適な例について、詳細に説明する。
【0037】
精練工程は、繊維に付着している油剤や糊剤を除いて清浄な状態とすると同時に、糸や編成組織の収縮因子を発現させて安定した状態とする工程である。この工程では、通常、生地を弛緩させ、生地が縮む。精練工程は染色工程の前に行ってもよいし、一浴で精練と染色の処理をし、精練工程と染色工程とを同時に行ってもよい。通常、精練工程の温度は、40℃~120℃の範囲が好ましく、より好ましくは60℃以上である。また精練工程の時間は、通常、10分~20分程度が好ましい。
【0038】
プレセット工程は、仕上げ密度や物性を想定して生地を引っ張り、熱を掛けて仮固定する工程である。この工程では、生地が少し伸びる。十分に仮固定し易い点から、プレセット条件は、160℃~200℃の温度範囲が好ましく、30秒~90秒程度の時間で行うことが好ましい。なお、200℃を超える温度では風合いが硬くなるおそれがある。
なお染色工程にて、皺が固定されないのであれはプレセット工程を省略してもよい。
【0039】
染色工程は、生地を指定のカラーに染色する工程である。生地を高温浴中で染色するため、この工程では、生地が少し縮む。染色条件は特に限定されるものではないが、90℃~100℃であることが好ましい。なお、染色に用いる装置は特に限定されるものではなく、液流染色機、ジッガー染色機、ウインス染色機等を好適に用いることができる。また染料は酸性染料が好ましい。
【0040】
本発明の伸縮性布帛を製造する方法は、上記のような精練工程、プレセット工程、染色工程のいずれか1以上の工程で収縮して得られた生地を、さらに熱セットするファイナルセット工程を含む。ファイナルセット工程は、目標とする密度に合わせるよう、通常は、生地を少し引っ張った上で固定する工程である。具体的には、ピンテンターで得られた生地の両端を固定し、熱セットして巾入れすることができる。熱セット温度は、130℃~170℃が好ましく、より好ましくは130~160℃である。ファイナルセット工程における巾入れ率は10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下である。下限は、-10%程度で十分である。このような巾入れ率とすることにより、キックバック性を十分に有する伸縮性布帛を得ることができる。
なお、ファイナルセット工程では、生地に仕上げ処理剤を塗布して仕上げ処理を行うことがある。この場合の仕上げ処理剤は特に限定されるものではないが、通常用いられる柔軟剤、撥水剤、制電剤等が好適に使用できる。
【0041】
以上のように、本発明に用いる潜在捲縮糸を用いて製編織した生機を、精練工程、プレセット工程、染色工程のいずれか1以上の工程で収縮させた生地とした後、得られた生地をファイナルセット工程で10%以下の巾入れ率で巾入れを行い本発明の伸縮性布帛を製造することができる。
【0042】
このようにして得られた本発明の伸縮性布帛は、キックバック性に優れているため、スパッツ等のテキスタイル用途に好適に用いることができる。
【実施例
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
物性の測定および評価は、以下の通り実施した。
【0044】
A. 相対粘度の測定
柴山科学機械製作所製の自動粘度測定装置(SS-600-L1型)を用いて測定する。溶媒に95.8%濃硫酸を用いて、ポリマーを1g/dlの濃度で溶解させて、恒温槽25℃にて測定する。
【0045】
B. 破断強度、破断伸度の測定
JIS L 1013に準じ、島津製作所製のAGS-1KNGオートグラフ引張試験機を用い、試料糸長20cm、定速引張試験20cm/minの条件で測定する。荷重-伸び曲線での荷重の最高値を繊度で除した値を破断強度(cN/dtex)とし、そのときの伸び率を破断伸度(%)とする。
【0046】
C.捲縮率の算出
糸の繊度については、単位にdtexを使用する。浅野機械株式会社製の検尺器にて、5回転の綛を作製し、綛を捩じり2重の輪状としたものに、([繊度]×20)/12000(g)のおもりを掛けたまま沸水バスに投入し、30min浸漬した後、取り出し、その状態で30min風乾する。風乾後、さらに([繊度]×20)/1000(g)のおもりを加え、30秒後の長さ(A)を測定する。次いで、さらに([繊度]×20)/40(g)のおもりを加え30秒後の長さ(B)を測定し、次の式で捲縮率を算出した。
捲縮率(%)=((B-A)/B)×100
【0047】
D.巾入れ率の算出
また染色後(収縮工程後)の生地巾を(S1)、ファイナルセット工程後の伸縮性編地巾を(S2)とし、次式によって巾入れ率(%)を求めた。
巾入れ率(%)=〔(S2-S1)/(S2)〕×100
【0048】
E. 50回繰り返し引張試験における強度保持率の算出
ファイナルセット後の伸縮性布帛を株式会社オリエンテック製の引張試験機(RTA-100)にて50回繰り返し引張試験を実施する。巾2.5cm、長さ10cmのサンプルを作製し、ロードセルは490N(50kgf)のものを使用した。初期試料長5cmから速度10mm/minにて5mm伸長させ、その時の応力値(N)を測定する。2回目引張時の応力値を(A1)、50回目引張時の応力値を(A2)として、次式によって強度保持率(%)を求めた。
強度保持率(%)=〔(A2)/(A1)〕×100
【0049】
F.風合い評価
伸縮性布帛サンプルについて、風合いを手触りにて評価した。柔らかく、良好な風合いのものを◎、風合いが良いものを○、硬い風合いのものを△、非常に風合いが硬いものを×とした。
【0050】
〔実施例1〕
成分1の相対粘度2.9のポリアミド(ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6を質量比率50:50になるようブレンダーで混合)チップと、成分2(ポリアミド6)の相対粘度2.4のチップをコンベンショナル法にて紡糸ノズルを用いて、紡糸温度280℃、捲取速度(紡糸速度)2750m/minで成分1:成分2が質量比率50:50になるよう溶融紡糸して繊維横断面がサイドバイサイドに貼り合わせた落花生型形状の未延伸糸を得た。
得られた未延伸糸を、延伸速度800m/min、スピンドル回転数7500rpm、プレートヒーター温度100℃、延伸倍率1.5倍で延伸し、潜在捲縮糸を得た。
得られた潜在捲縮糸から、編みゲージ28G、口径30インチの丸編み機でスムース編みの組織に製編し、生機を作製した。得られた生機は、目付101g/m、開反巾(生機巾)142cmであった。得られた生機に液流精練-液流染色によって精練と染色加工を95℃の温度で行った。得られた生地は、巾106cmであった。その後、温度150℃のヒートセッターにて、1分間、巾入れ率-1.9%で熱セットを施し(ファイナルセット工程)、伸縮性布帛を得た。得られた伸縮性布帛は、巾104cmであった。
【0051】
〔実施例2、3〕
延伸工程の熱セット温度、巾入れ率等を表1の通りとする以外は、実施例1と同様に伸縮性布帛を得た。
【0052】
〔比較例1〕
生機巾、巾入れ率等を表1の通りとする以外は実施例1と同様に伸縮性布帛を得た。
【0053】
〔比較例2〕
成分1と成分2の樹脂比率等を表1の通りとする以外は実施例1と同様に伸縮性布帛を得た。
【0054】
実施例1~3、比較例1、2から得られた伸縮性布帛に用いる樹脂、製造条件、潜在捲縮糸の破断強度・破断伸度・捲縮率、布帛の強度保持率・布帛の破断強力・風合い評価結果を、表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
以上のように、実施例1~3から得られた伸縮性布帛はいずれも強度保持率が70%以上で風合いも良好であった。比較例1、2から得られた布帛は強度保持率が70%未満であり、強度保持率が低いものであり、風合いにも劣っていた。
実施例1~3、比較例1、2から得られた伸縮性布帛を用いてインナーを得た。実施例1~3から得られたインナーは、5時間着用した後、1度洗濯することを1回の着用とし、30回繰り返し着用した際にも、伸縮性が優れ、キックバック性の高いものであった。比較例1~2から得られたインナーは、実施例品に比べて、キックバック性に劣り、30回繰り返し着用した際も、伸縮性に劣り、キックバック性も劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の伸縮性布帛は、キックバック性に優れていることから、スパッツ等のテキスタイル用途に好適に用いることができる。