(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】皮膚化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20230210BHJP
A61K 8/9711 20170101ALI20230210BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230210BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K8/9711
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2018247767
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】幸田 佐知子
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-104835(JP,A)
【文献】特開2004-035440(JP,A)
【文献】特開2005-206568(JP,A)
【文献】特開平11-269054(JP,A)
【文献】Premium Essence, IK Cosmetics, 2016年8月, Mintel GNPD [online],[検索日 2022.08.31], インターネット<URL:https://www.gnpd.com>, ID:4228007
【文献】トワエッセ プレミアム エッセンス、IK Cosmetics, [online],[検索日 2022.08.31], インターネット<URL:https://ikcosme.com/products/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 36/00-36/9068
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)チョウジ抽出物
0.002~0.035質量%(固形分換算)、
(B)セイヨウニワトコ抽出物
0.00001~0.003質量%(固形分換算)、
(C)ヒバマタ抽出物
0.001~0.05質量%(固形分換算)
を含有し、成分(A)及び(B)の合計量に対する成分(C)の質量割合(固形分換算)(C)/((A)+(B))が、0.5~3である皮膚化粧料。
【請求項2】
成分(A)に対する成分(C)の質量割合(固形分換算)(C)/(A)が、0.5~4である請求項
1記載の皮膚化粧料。
【請求項3】
成分(A)に対する成分(B)の質量割合(固形分換算)(B)/(A)が、0.02~0.2である請求項
1又は2記載の皮膚化粧料。
【請求項4】
成分(A)及び(B)の合計含有量(固形分換算)が、0.001~0.06質量%である請求項1~
3のいずれか1項記載の皮膚化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物や海藻の抽出物が有する皮膚に対する作用や、これを利用した化粧料などが検討されている。
例えば、チョウジは、表皮中のCML(カルボキシメチルリジン:Nε-(carboxymethyl)lysine))の形成を抑制し、表皮の老化や黄変化を予防又は改善することが知られている(特許文献1)。
また、ヒバマタ等の海藻から得られる抽出物は、真皮線維芽細胞より産生分泌されるエラスターゼの活性を抑制し、皮膚のハリや弾性の低下を予防することが知られている(特許文献2)
さらに、セイヨウニワトコ抽出物は、メラニン生成抑制効果を奏することが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-100991号公報
【文献】特開2001-181167号公報
【文献】特開2003-104835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チョウジ抽出物やセイヨウニワトコ抽出物は、表皮の黄変やメラニン生成の抑制効果があり、シミ等を抑制することはできるが、肌色を明るくする点では十分ではない。さらに、これらの抽出物を皮膚化粧料に多く配合した場合には褐変しやすく、経時安定性にも課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、肌に透明感及び明るさを付与する皮膚化粧料を開発すべく検討していたところ、チョウジ抽出物及びセイヨウニワトコ抽出物に、ヒバマタ抽出物を組み合わせることにより、肌に透明感と明るさを付与し、かつ原料由来の変色が抑制され、経時安定性に優れた皮膚化粧料が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は、次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)チョウジ抽出物、
(B)セイヨウニワトコ抽出物、
(C)ヒバマタ抽出物
を含有し、成分(A)及び(B)の合計量に対する成分(C)の質量割合(固形分換算)(C)/((A)+(B))が、0.5~3である皮膚化粧料に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の皮膚化粧料は、肌に透明感と明るさを付与し、しかも、原料由来の変色が抑制され、経時安定性に優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いる成分(A)のチョウジ抽出物において、「チョウジ」とは、フトモモ科フトモモ属(Myrtaceae Syzygium)のチョウジ(学名:Syzygium aromaticum)を指し、クローブとしても知られている。
【0009】
チョウジは、その任意の部位、例えば、花、花蕾、花穂、果皮、果実、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根、種子、全草又はそれらの組み合わせが使用され得るが、花蕾を用いるのが好ましい。
【0010】
チョウジ抽出物としては、公知の抽出方法により抽出して得られる各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末が挙げられる。公知の抽出方法としては、例えば、浸漬、煎出、浸出、固液抽出、還流抽出、超臨界抽出、超音波抽出及びマイクロ波抽出等が挙げられる。例えば、浸漬は、0℃~溶媒沸点(好ましくは15~40℃)で1時間~4週間、浸漬・浸出することが挙げられ、固液抽出は、0℃~溶媒沸点(好ましくは15~40℃)下、30~1000rpmで30分~2週間の攪拌もしくは振盪することが挙げられる。また、抽出物の酸化を防止するため、煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつつ、いわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する手段を併用してもよい。また、還流抽出の場合には、ソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて行うことができる。
【0011】
抽出のための溶媒には、極性溶媒、非極性溶媒のいずれをも使用することができる。溶媒の具体例としては、例えば、水;1価、2価又は多価のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の鎖状又は環状のエーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ヘキサン等の飽和又は不飽和の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ピリジン類;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;二酸化炭素、超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他のオイル類;ならびにこれらの混合物が挙げられる。好適には、薬理活性および汎用性の点で、水、アルコール類及びそれらの混液が挙げられる。
アルコール類としては、メタノール、エタノール、1,3-ブチレングリコール、n‐プロパノール、イソプロパノール、n‐ブタノール、イソブタノール、sec‐ブタノール、t-ブタノール等が挙げられ、エタノールがより好ましい。
【0012】
例えば、チョウジ Syzygium aromaticum Merrill et Perry(Eugenia caryophyllata Thunberg)(Myrtaceae) のつぼみを乾燥し、細切した後、50vol%エタノール溶液を加えて浸漬し、抽出液を得る。この抽出液を減圧濃縮し、その濃縮液に50vol%エタノール溶液を加えた後、活性炭で処理して、チョウジ抽出物を得ることができる。
【0013】
成分(A)のチョウジ抽出物は、例えば化粧品や医薬品上許容し得る規格に適合し、本発明の効果を発揮するものであれば粗精製物であってもよい。また、必要に応じて、液々分配、固液分配、濾過膜、活性炭、吸着樹脂、イオン交換樹脂等の公知の技術によって不活性な夾雑物の除去、脱臭、脱色等の処理を施すことができ、さらに公知の分離精製方法を適宜組み合わせてこれらの純度を高めてもよい。精製手段としては、有機溶剤沈殿、遠心分離、限界濾過膜、高速液体クロマトグラフやカラムクロマトグラフ等が挙げられる。
【0014】
また、成分(A)としては、例えば、ファルコレックス チョウジ(一丸ファルコス社製)等の市販品を用いることができる。
【0015】
成分(A)の含有量(固形分換算)は、肌への明るさ、透明感の付与、及び変色抑制、経時安定性付与の点から、全組成中に0.002~0.035質量%が好ましく、0.003~0.02質量%がより好ましい。
【0016】
成分(B)のセイヨウニワトコ抽出物において、「セイヨウニワトコ(別名:接骨木)」とは、スイカズラ科(Caprifoliaceae)ニワトコ属(Sambucus)の植物:セイヨウニワトコ(S.nigra L.)を指す。
セイヨウニワトコは、その果実、花、茎葉、又はそれらの組合せが使用されるが、その他、同属種の、ニワトコ「S.racemosa L.subsp.sieboldiana(Miq.)Hara(=S.sieboldiana (Miq.)Blumeex Graebn.)」、エゾワトコ(S.sieboldiana (Miq.)Blume ex Graebn.var.miquelii (Nakai)Hara)、アメリカニワトコ(S.candensis L.)、クサニワトコ(S.javanica Reinw.ex Bl.subsp.chinensis)、トウニワトコ(S.williamsii Hanse)の果実、花又は茎葉を用いることもできる。
【0017】
セイヨウニワトコ抽出物としては、成分(A)と同様の方法により、抽出して得られる各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末が挙げられる。
また、成分(B)としては、例えば、ニワトコ抽出液BG(丸善製薬社製)等の市販品を用いることができる。
【0018】
成分(B)の含有量(固形分換算)は、肌への明るさ、透明感の付与、及び変色抑制、経時安定性付与の点から、全組成中に0.00001~0.003質量%が好ましく、0.00005~0.002質量%がより好ましい。
【0019】
本発明において、成分(A)及び(B)の合計含有量(固形分換算)は、肌への明るさ、透明感の付与、及び変色抑制、経時安定性付与の点から、全組成中に0.001~0.06質量%が好ましく、0.003~0.03質量%がより好ましい。
【0020】
本発明において、成分(A)に対する成分(B)の質量割合(固形分換算)(B)/(A)は、変色抑制及び経時安定性の付与の点から、0.02~0.2であるのが好ましく、0.03~0.1がより好ましい。
【0021】
成分(C)のヒバマタ抽出物において、「ヒバマタ」とは、ヒバマタ科(Fucaceae)ヒバマタ属(Fucus)の褐藻を指す。
ヒバマタは、通常、ヒバマタの全草を用いるが、特定部位を用いてもよい。
【0022】
ヒバマタ抽出物としては、成分(A)と同様の方法により、抽出して得られる各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末が挙げられる。
また、成分(C)としては、例えば、ファルコレックス ヒバマタ(一丸ファルコス社製)等の市販品を用いることができる。
【0023】
成分(C)の含有量(固形分換算)は、肌への明るさ、透明感の付与、及び変色抑制、経時安定性付与の点から、全組成中に0.001~0.05質量%が好ましく、0.003~0.03質量%がより好ましい。
【0024】
本発明において、成分(A)に対する成分(C)の質量割合(固形分換算)(C)/(A)は、変色抑制及び経時安定性の付与の点から、0.5~4であるのが好ましく、0.7~3がより好ましい。
【0025】
本発明において、成分(A)及び(B)の合計量に対する成分(C)の質量割合(固形分換算)(C)/((A)+(B))は、変色抑制及び経時安定性の付与の点から、0.5~3であり、0.8~2.5がより好ましい。
【0026】
本発明の皮膚化粧料は、さらに、肌への明るさ、透明感の付与、保湿効果の点から、多価アルコールを含有するのが好ましい。
多価アルコールとしては、通常の化粧料に用いられるもので、2価又は3価の多価アルコールが好ましく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(数平均分子量1000未満)、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(数平均分子量1000未満)、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、イソプレングリコール等が挙げられる。
これらのうち、少なくともグリセリンを含むことがより好ましい。
【0027】
多価アルコールは、1種又は2種以上を組合わせて用いることができ、含有量は、全組成中に2~20質量%であるのが好ましく、5~15質量%がより好ましい。
【0028】
本発明の皮膚化粧料は、上記成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、通常化粧料に用いられる成分、例えば、界面活性剤、低級アルコール、フッ素化合物、樹脂、増粘剤、防菌防腐剤、香料、保湿剤、塩類、溶媒、酸化防止剤、昆虫忌避剤、生理活性成分等の成分を含有することができる。
【0029】
本発明の皮膚化粧料は、化粧料、医薬品、医薬部外品等に好適に用いることができる。本発明の皮膚化粧料は、保湿効果に優れる点から、洗い流さず、皮膚に保持するタイプの皮膚化粧料として用いることが好ましく、化粧水、ローション、乳液、クリーム、美容液等に適用するのがより好ましい。
【0030】
本発明の皮膚化粧料の剤形としては、液状、乳液状、クリーム状、ペースト状、固形状、多層状などに適応が可能であり、さらにシート剤、スプレー剤、ムース剤としても適用することができる。
【実施例】
【0031】
実施例1~4、比較例1~6
表1に示す組成の皮膚化粧料(化粧水)を製造し、安定性、明るさ及び透明感を評価した。結果を表1に併せて示す。
【0032】
(製造方法)
クエン酸、クエン酸ナトリウム及び精製水を80℃で加熱し、これに、プロペラで撹拌しながら80℃で加熱溶解したポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を添加した。撹拌しながら冷却した後に、他の成分を投入し、分散して化粧水を製造した。
【0033】
(評価方法)
(1)安定性:
塩化鉄(III)六水和物の1000ppm水溶液を調製し、終濃度5ppmになるよう、各化粧料に添加した。添加30分後に、分光光度計UV-2550(島津製作所社製)で吸光度(300nm~800nm)を、0.2nmピッチで測定した。得られた300nm~800nmの吸光度の合算値を求め、以下の基準で判定した。
◎;吸光度の合算値が400未満(着色はみられない)。
〇;吸光度の合算値が400以上600未満(ほとんど着色がみられない)。
△;吸光度の合算値が600以上800未満(やや着色がみられる)。
×;吸光度の合算値が800以上(顕著に着色がみられる)。
なお、植物抽出物に含まれるポリフェノール類は、生産工程や容器中に微量に含まれる鉄イオンと反応することが原因で、経時で着色することがあるため、化粧料に鉄イオンを添加して、安定性の評価を行った。
【0034】
(2)明るさ:
健常女性10名が各化粧料を朝晩1日2回、4週間連用塗布したのち、専門パネル判定者により、以下の基準に基づき目視で評価した。結果は、10名の合計点を求め、以下の判定基準で示した。
(評価基準)
2点;明るくなった。
1点;やや明るくなった。
0点;変化なし。
(判定基準;10名の合計点)
◎;16~20点。
〇;11~15点。
△;6~10点。
×;0~5点。
【0035】
(3)透明感:
健常女性10名が各化粧料を朝晩1日2回、4週間連用塗布したのち、専門パネル判定者により、以下の基準に基づき目視で評価した。結果は、10名の合計点を求め、以下の判定基準で示した。
(評価基準)
2点;透明感が出た。
1点;やや透明感が出た。
0点;変化なし。
(判定基準;10名の合計点)
◎;16~20点。
〇;11~15点。
△;6~10点。
×;0~5点。
【0036】
【0037】
処方例1~3
表2に示す組成の化粧水、表3に示す組成の乳液、表4に示す組成のクリームを、それぞれ常法により製造した。
得られた化粧料はいずれも、肌に透明感と明るさを付与し、しかも、経時での着色が抑制され、安定性に優れたものである。
【0038】
【0039】
【0040】