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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20230210BHJP
【FI】
H01L21/304 651Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019121645
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021009876
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】墨 周武
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅伸
(72)【発明者】
【氏名】折坂 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】上原 大貴
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-161165(JP,A)
【文献】特開平09-232271(JP,A)
【文献】特開2018-147945(JP,A)
【文献】特開2005-277230(JP,A)
【文献】特開2014-175669(JP,A)
【文献】特開2013-033963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面を処理流体により処理する基板処理装置において、
平板の上面に前記基板を収容するための凹部が設けられた形状の支持トレイと、
前記支持トレイの外形に対応する形状で天井面が水平面である空洞が形成され、前記凹部に前記基板が収容された前記支持トレイを水平姿勢で前記空洞内の内部空間に格納可能な格納容器と、
前記空洞に前記処理流体を供給する流体供給部と
を備え、
前記格納容器は、前記流体供給部から供給される前記処理流体を受け入れ、前記空洞の側壁面に前記空洞に臨んで開口する吐出口から前記空洞内に水平方向に前記処理流体を吐出する流路を有し、
上下方向における前記吐出口の上端位置が前記天井面の位置と同じであり、
上下方向における前記吐出口の下端位置が、前記空洞内に格納された前記支持トレイの前記上面の位置と同じまたはこれより上方である、基板処理装置。
【請求項2】
前記凹部は、収容される前記基板の表面の上下方向における位置が、前記上面の位置と同じまたはこれよりも下方となる深さを有する請求項1に記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記吐出口が、前記空洞の壁面に沿って水平に延びるスリット状に開口する請求項1または2に記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記吐出口の水平方向の開口サイズが、前記吐出口の開口と平行な水平方向における前記基板のサイズよりも大きい請求項に記載の基板処理装置。
【請求項5】
前記支持トレイが前記内部空間に格納された状態で、前記空洞の天井面と前記支持トレイの前記上面との間隔が、前記吐出口が設けられた前記側壁面と前記支持トレイの側面との間隔と等しいまたはこれより大きい請求項1ないしのいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項6】
前記空洞の天井面と前記支持トレイの前記上面との間隔が、前記空洞の底面と前記支持トレイの下面との間隔と等しいまたはこれより大きい請求項に記載の基板処理装置。
【請求項7】
前記空洞の天井面と前記支持トレイの前記上面との間隔が、前記凹部に収容される前記基板の下面と前記凹部の上面との間隔よりも大きい請求項に記載の基板処理装置。
【請求項8】
前記内部空間を挟んで前記吐出口とは反対側で、前記空洞が前記格納容器の外部空間に対して開口しており、該開口を通じて前記支持トレイが出し入れ可能である請求項1ないしのいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項9】
前記基板に対して前記吐出口とは反対側の前記内部空間に連通し、前記処理流体を排出する排出用流路が設けられている請求項1ないしのいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項10】
超臨界状態の前記処理流体により前記基板を処理する請求項1ないしのいずれかに記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板の表面を処理流体によって処理する基板処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体基板、表示装置用ガラス基板等の各種基板の処理工程には、基板の表面を各種の処理流体によって処理するものが含まれる。処理流体として薬液やリンス液などの液体を用いる処理は従来から広く行われているが、近年では超臨界流体を用いた処理も実用化されている。特に、表面に微細パターンが形成された基板の処理においては、液体に比べて表面張力が低い超臨界流体はパターンの隙間の奥まで入り込むため効率よく処理を行うことが可能であり、また乾燥時において表面張力に起因するパターン倒壊の発生リスクを低減することができる。
【0003】
例えば特許文献1には、超臨界流体を用いて基板の乾燥処理を行う基板処理装置が記載されている。この装置では、2つの板状部材が対向配置されてその隙間が処理空間となっており、その一方端部から薄板状の保持板に載置されたウエハ(基板)が搬入され、他方端部から超臨界状態の二酸化炭素が導入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-082043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者の知見によれば、このような基板の処理においては、処理流体が基板の表面に沿った層流として流れることが望ましい。このような層流が基板表面を通過することで、基板表面に形成されたパターンの隙間において流体の撹拌が促進されて処理効率が向上し、また基板から離脱した付着物が層流により一方向へ運ばれるため、基板への再付着が抑制されるからである。
【0006】
しかしながら、上記従来技術では、単に基板が設置された空間の側方から流体が供給されているだけであり、基板表面に沿って層流を形成することは考慮されていない。むしろ、供給された流体が基板または保持板の側面に衝突することで乱流が発生するおそれがあり、この点において上記従来技術には改善の余地が残されている。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、基板の表面を処理流体によって処理する基板処理装置において、処理対象の基板表面に沿って安定した層流を形成し基板を良好に処理することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一の態様は、基板の表面を処理流体により処理する基板処理装置において、上記目的を達成するため、平板の上面に前記基板を収容するための凹部が設けられた形状の支持トレイと、前記支持トレイの外形に対応する形状で天井面が水平面である空洞が形成され、前記凹部に前記基板が収容された前記支持トレイを水平姿勢で前記空洞内の内部空間に格納可能な格納容器と、前記空洞に前記処理流体を供給する流体供給部とを備えている。ここで、前記格納容器は、前記流体供給部から供給される前記処理流体を受け入れ、前記空洞の側壁面に前記空洞に臨んで開口する吐出口から前記空洞内に水平方向に前記処理流体を吐出する流路を有し、上下方向における前記吐出口の上端位置が前記天井面の位置と同じであり、上下方向における前記吐出口の下端位置が、前記空洞内に格納された前記支持トレイの前記上面の位置と同じまたはこれより上方である。
【0009】
このように構成された発明では、基板は支持トレイに収容された状態で格納容器に格納される。格納容器内には支持トレイの外形に応じて形成された空洞が設けられ、その内部空間に支持トレイおよび基板が格納される。空洞の天井面が水平面であるため、支持トレイおよび基板の上面と天井面とは平行に近接対向することになる。
【0010】
そして、空洞の側壁面に設けられた吐出口から処理流体が水平方向に供給されるが、吐出口は支持トレイの上面よりも上方に開口している。このため、吐出口から吐出される処理流体は、空洞内で支持トレイの上面に向けて吐出され、支持トレイの上面と空洞の天井面との間の空間を支持トレイの上面に沿って水平方向に流れることになる。したがって、支持トレイ上面の凹部に収容された基板の表面近傍では、支持トレイの上面に沿って流れる処理流体は基板の表面に沿う安定した層流として流れる。
【発明の効果】
【0011】
上記のように、本発明では、支持トレイの形状に対応して形成された格納容器内の空洞に、基板を収容する支持トレイが格納される。そして、空洞の側壁面のうち支持トレイの上面よりも上方に開口する吐出口から水平方向に処理流体が吐出される。このため、基板表面近傍を流れる処理流体は層流を形成し、基板を良好に処理することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る基板処理装置の一実施形態の概略構成を示す図である。
図2】処理チャンバの構造を示す分解組立図である。
図3】流体の流路を示す図である。
図4】層流による好ましい影響に関する発明者の知見を説明する図である。
図5】各部の寸法関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明に係る基板処理装置の一実施形態の概略構成を示す図である。この基板処理装置1は、例えば半導体基板のような各種基板の表面を超臨界流体を用いて処理するための装置である。以下の各図における方向を統一的に示すために、図1に示すようにXYZ直交座標系を設定する。ここで、XY平面は水平面であり、Z方向は鉛直方向を表す。より具体的には、(-Z)方向が鉛直下向きを表す。
【0014】
ここで、本実施形態における「基板」としては、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などの各種基板を適用可能である。以下では主として半導体ウエハの処理に用いられる基板処理装置を例に採って図面を参照して説明するが、上に例示した各種の基板の処理にも同様に適用可能である。
【0015】
基板処理装置1は、処理ユニット10、供給ユニット50および制御ユニット90を備えている。処理ユニット10は、超臨界乾燥処理の実行主体となるものであり、供給ユニット50は、処理に必要な化学物質および動力を処理ユニット10に供給する。
【0016】
制御ユニット90は、これら装置の各部を制御して所定の処理を実現する。この目的のために、制御ユニット90には、各種の制御プログラムを実行するCPU91、処理データを一時的に記憶するメモリ92、CPU91が実行する制御プログラムを記憶するストレージ93、およびユーザや外部装置と情報交換を行うためのインターフェース94などを備えている。後述する装置の動作は、CPU91が予めストレージ93に書き込まれた制御プログラムを実行し装置各部に所定の動作を行わせることにより実現される。
【0017】
処理ユニット10は、処理チャンバ100を備えている。処理チャンバ100は、複数の金属ブロック11,12,13が組み合わせられ、それらによって内部が空洞105となった構造を有している。この空洞105の内部空間が、基板Sに対する処理が実行される処理空間SPとなっている。処理対象の基板Sは処理空間SP内に搬入されて処理を受ける。処理チャンバ100の(-Y)側側面には、X方向に細長く延びるスリット状の開口101が形成されており、開口101を介して処理空間SPと外部空間とが連通している。
【0018】
処理チャンバ100の(-Y)側側面には、開口101を閉塞するように蓋部材14が設けられている。蓋部材14の(+Y)側側面には平板状の支持トレイ15が水平姿勢で取り付けられており、支持トレイ15の上面は基板Sを載置可能な支持面となっている。より具体的には、支持トレイ15は、略平坦な上面151に基板Sの平面サイズより少し大きく形成された凹部152が設けられている。この凹部152に基板Sが収容されることで、基板Sは支持トレイ15上で所定位置に保持される。基板Sは、処理対象となる表面(以下、単に「基板表面」ということがある)Saを上向きにして保持される。
【0019】
蓋部材14は図示を省略する支持機構により、Y方向に水平移動自在に支持されている。また、蓋部材14は、供給ユニット50に設けられた進退機構53により、処理チャンバ100に対して進退移動可能となっている。具体的には、進退機構53は、例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の直動機構を有しており、このような直動機構が蓋部材14をY方向に移動させる。進退機構53は制御ユニット90からの制御指令に応じて動作する。
【0020】
蓋部材14が(-Y)方向に移動することにより、支持トレイ15が処理空間SPから開口101を介して外部へ引き出されると、外部から支持トレイ15へのアクセスが可能となる。すなわち、支持トレイ15への基板Sの載置、および支持トレイ15に載置されている基板Sの取り出しが可能となる。一方、蓋部材14が(+Y)方向に移動することにより、支持トレイ15は処理空間SP内へ収容される。支持トレイ15に基板Sが載置されている場合、基板Sは支持トレイ15とともに処理空間SPに搬入される。
【0021】
液体の表面張力に起因するパターン倒壊を防止することを主たる目的とする超臨界乾燥処理においては、基板Sは、その表面Saが露出してパターン倒壊が発生するのを防止するために、表面Saが液膜で覆われた状態で搬入される。液膜を構成する液体としては、例えばイソプロピルアルコール(IPA)、アセトン等の表面張力が比較的低い有機溶剤を好適に用いることができる。
【0022】
蓋部材14が(+Y)方向に移動し開口101を塞ぐことにより、処理空間SPが密閉される。なお、図示を省略しているが、蓋部材14の(+Y)側側面と処理チャンバ100の(-Y)側側面との間にはシール部材が設けられ、処理空間SPの気密状態が保持される。また、図示しないロック機構により、蓋部材14は処理チャンバ100に対して固定される。このようにして処理空間SPの気密状態が確保された状態で、処理空間SP内で基板Sに対する処理が実行される。
【0023】
この実施形態では、供給ユニット50に設けられた流体供給部57から、超臨界処理に利用可能な物質の流体、例えば二酸化炭素が、気体または液体の状態で処理ユニット10に供給される。二酸化炭素は比較的低温、低圧で超臨界状態となり、また基板処理に多用される有機溶剤をよく溶かす性質を有するという点で、超臨界乾燥処理に好適な化学物質である。
【0024】
より具体的には、流体供給部57は、基板Sを処理する処理流体として、超臨界状態の流体、または、ガス状もしくは液状で供給され所定の温度・圧力が与えられることで事後的に超臨界状態となる流体を出力する。例えば、ガス状もしくは液状の二酸化炭素が加圧状態で出力される。流体は配管571およびその途中に介挿された開閉バルブ572を介して、処理チャンバ100の(+Y)側側面に設けられた入力ポート102に圧送される。すなわち、制御ユニット90からの制御指令に応じて開閉バルブ572が開成されることで、流体は流体供給部57から処理チャンバ100へ送られる。
【0025】
入力ポート102から処理空間SPに至る流体の流路17は、第1流路171、バッファ部175および第2流路172を有している。第1流路171は一定の断面積を有する流路であり、流体供給部57から入力ポート102に圧送されてくる流体をバッファ部175へ案内する。バッファ部175は、第1流路171に比べて流路断面積が急激に拡大するように形成された空間である。
【0026】
流体が液体として供給される場合であっても、流路上での圧力損失の変動等に起因して、流路内で気化し膨張することがあり得る。このような急激な膨張が基板Sの近傍で発生すると、基板Sにダメージを与えてしまうおそれがある。これを回避するため、処理空間SPに至る流路17の一部に圧力損失が大きく変動する部分を設けておき、起こり得る気化、膨張はこの部分で起こるようにする。このための空間としてバッファ部175が設けられている。また、管状の第1流路171を流通する流体を、後述するように処理空間SPに対し薄層状に供給可能とするための整流作用も有する。
【0027】
第2流路172は、バッファ部175から処理空間SPへ流体を案内する。具体的には、第2流路172はバッファ部175の内部空間と処理空間SPとを接続する流路であり、その流路断面積はバッファ部175よりも小さい。第2流路172は、上下方向(Z方向)に狭く、水平方向(X方向)に広い横長の断面形状を有している。流体がこの第2流路172を通過することで、薄層状の流れが形成される。
【0028】
第2流路172の(-X)側端部は処理空間SPに臨んで開口し、吐出口176を形成する。より具体的には、空洞105の(+Y)側側壁面に吐出口176が開口し、第2流路172は吐出口176を介して処理空間SPと連通する。吐出口176の開口形状および開口サイズは、第2流路172の開口形状および開口サイズと同一である。また、吐出口176の開口位置は第2流路172の延長線上に設けられる。したがって、第2流路172を薄層状に流れる流体は、その形状および流速を保ったまま処理空間SPに放出される。
【0029】
流路17を介して供給される流体は処理空間SPに充填され、処理空間SP内が適当な温度および圧力に到達すると、流体は超臨界状態となる。こうして基板Sが処理チャンバ100内で超臨界流体により処理される。供給ユニット50には流体回収部55が設けられており、処理後の流体は流体回収部55により回収される。流体供給部57および流体回収部55は制御ユニット90により制御されている。
【0030】
より具体的には、処理チャンバ100の上部に処理空間SPと連通する出力ポート103が設けられている。出力ポート103は、配管551およびその途中に介挿された開閉バルブ552を介して流体回収部55に接続されている。制御ユニット90からの制御指令に応じて開閉バルブ552が開成することで、処理空間SP内の流体が流体回収部55へ送られて回収される。処理空間SPから出力ポート103に至る流路は、(-Y)方向における基板Sの端部よりもさらに(-Y)側に設けられている。以下では、この流路を「第3流路」と称し符号173を付す。
【0031】
図2は処理チャンバの構造を示す分解組立図である。処理チャンバ100は、それぞれ金属ブロックにより形成された第1部材11、第2部材12および第3部材13を備えている。第1部材11と第2部材12とが図示しない結合部材により上下方向に結合され、その(+Y)側側面に、図示しない結合部材により第3部材13が結合されて、処理チャンバ100が構成される。
【0032】
第1部材11は、XY平面と平行な面を主面とする厚板状の部材であり、両主面間を上下方向に貫通して貫通孔111が設けられている。この貫通孔111が第3流路および出力ポート103を構成する。また後述するように、第1部材11の下面112が、処理空間SPを囲む空洞105の天井面として機能する。また、第3部材13はXZ平面と平行な面を主面とする厚板状の部材であり、両主面間をY方向に貫通して貫通孔131が設けられている。この貫通孔131が第1流路171および入力ポート102を構成する。
【0033】
第2部材12は、上記した流体の流路17を形成するために、より複雑な形状を有している。すなわち、第2部材12の上面121の中央部には、その上部が第1部材11により塞がれることで処理空間SPを形成する凹部122が設けられている。凹部122は支持トレイ15の形状に対応して形成されている。具体的には、平面視における凹部122の形状は支持トレイ15と略相似形であり、その平面サイズは支持トレイ15の平面サイズより僅かに大きい。また、凹部122の深さは支持トレイ15の厚さより僅かに大きい。
【0034】
凹部122は、一定の深さのまま第2部材12の(-Y)側端部まで延びている。上部が第1部材11により塞がれることで、凹部122の(-Y)側端部が、支持トレイ15を出し入れするための開口101として機能する。
【0035】
凹部122の(+Y)側端部に隣接して、上面121からの深さが凹部122よりも小さい段差部123が設けられている。段差部123の上部が第1部材11により塞がれることで生じる第1部材11と第2部材12との間の隙間が第2流路172を構成する。また、凹部121と段差部123との境界部分が吐出口176を構成することになる。
【0036】
第2部材12の(+Y)側側面124には、表面が側面124よりも(-Y)側に後退した凹部125が設けられている。この凹部125の上側が第1部材11により、また(+Y)側が第3部材13により塞がれることによって囲まれた空間が形成され、この空間がバッファ部175となる。第3部材13の貫通孔131は、こうして形成されるバッファ部175に臨む位置に設けられて、第1流路171として機能する。
【0037】
図3は流体の流路を示す図である。より具体的には、図3は上記した構造の処理チャンバ100において形成される流体の流路の形状を示す模式図であり、矢印が流体の流通方向を示している。流体供給部57から圧送されてくる処理流体(例えばガス状または液状の二酸化炭素)は、処理チャンバ100内において流路17および処理空間SPを流通し、最終的には第3流路173を経て出力ポート103からチャンバ外へ排出される。
【0038】
入力ポート102から第1流路171へ流入した流体は、第1流路171内を(-Y)方向へ流れ、バッファ部175に流入する。バッファ部175において流体はXZ平面と平行な面内で広がり、バッファ部175の上部で第2流路172に流れ込む。第2流路172において流体は薄層化され、吐出口176から処理空間SPに吐出される。処理空間SPにおいて幅方向の均一な流れを形成するために、第2流路172、吐出口176および処理空間SPの間でそれぞれの幅、つまりX方向のサイズが同じであることが望ましい。
【0039】
ここで、図1および図3からわかるように、バッファ部175を挟んで設けられる第1流路171および第2流路172における流体の流通方向は、いずれも(-Y)方向である。ただし、これらの流路はZ方向に位置を異ならせて配置されている。言い換えれば、それぞれバッファ部175に臨んで開口する第1流路171と第2流路172との間では、その開口位置がZ方向において互いに重ならない。具体的には、第1流路171は、側面視においてバッファ部175の上下方向の略中央部分に接続されている。一方、第2流路172は、バッファ部175の上端部に接続されている。
【0040】
これにより、流路17における流体の流通方向は以下の通りとなる。すなわち、第1流路171を(-Y)方向に進んだ流体は、バッファ空間175において上方、つまり(+Z)方向に進み、第2流路172に流入することで再び(-Y)方向へ流れる。したがって、バッファ部175へ流入した後、処理空間SPへ放出されるまでの間に、流体の流通方向は複数回にわたって変化することになる。このようにする理由は以下の通りである。
【0041】
前記したように、流体が液状で供給されるとき、流路17内、特にバッファ部175で気化し、急激に膨張することがあり得る。このとき、急激な膨張で生じる衝撃が処理空間SP内の基板Sに悪影響を及ぼすことがあり得る。特に、第1流路171から第2流路172に至る流路が一直線上にある、言い換えれば吐出口176から第2流路172を介して第1流路171が見通せる状態であれば、第1流路171からバッファ部175に流入した流体が膨張するときの衝撃が第2流路172を介して直接的に処理空間SPまで及ぶことは避けられない。
【0042】
本実施形態では、第1流路171と第2流路172とをZ方向に位置を異ならせて配置する、言い換えれば吐出口176から第1流路171を見通せない構造とする。こうすることで、第1流路171の出口付近で流体の急激な膨張による衝撃が直ちに処理空間SPにまで及ぶことが回避される。このように、本実施形態における流路17の構造は、液体の急激な膨張による衝撃が処理空間SPにまで伝搬するのを抑制し、衝撃による基板Sのダメージを防止する作用を有している。
【0043】
処理空間SPにおいて、流体は、処理空間SPの天井面に当たる第1部材11の下面112と、処理空間SPに収容された支持トレイ15および基板Sとの隙間を通過する。支持トレイ15の上面151、基板Sの上面(表面)Saおよび処理空間SPの天井面112がいずれも平面であるため、流体はこれらが対向することで形成されるギャップ空間を通過することになる。次に説明するように、この実施形態は、吐出口176から吐出される流体が基板Sの上面Saに沿って流れる層流を形成するように構成されている。
【0044】
図4は層流による好ましい影響に関する発明者の知見を説明する図である。図において矢印は流体の流通方向を模式的に示す。図4(a)に示すように、特に基板表面Saに微細なパターンPTが形成されているとき、処理空間SPの天井面112と基板表面Saとの間で流体が乱れの少ない層流として流通していれば、流体の一部がパターンPT間の隙間に入り込むことによってパターン内での撹拌が促進される。これにより、パターン深部に残留する処理液や付着物が表面へ掻き出されるので、これらの残留物を基板表面Saから除去するという処理の効率を向上させることが可能になる。
【0045】
また、基板表面Saから遊離した残留物は層流によって一方向、この例では(-Y)方向へ運ばれるため、基板表面Saの周辺に滞留して再付着することが防止される。このように、処理流体を基板表面Saに沿った層流として流通させることは、処理の効率を向上させ、かつ基板を良好に処理するという目的を達成する上で、大きな意義を有する。
【0046】
ここで、図4(b)に示すように、第2流路172を経て吐出口176から処理空間SPへ供給される流体の経路としては、
(1)基板表面Saと処理空間SPの天井面112との隙間、
(2)基板Sの裏面(下面)Sbと支持トレイ15の支持面152との隙間、
(3)支持トレイ15の下面153と処理空間SPの底面(凹部122)との隙間、
が考えられる。このうち基板表面Saの処理に寄与するのは(1)の流れであり、他は処理に直接寄与しない。
【0047】
したがって、処理を効率よくかつ良好に処理するためには、供給される流体をできるだけ多く(1)の経路に流れるようにし、かつその流れが層流を形成することが望ましい。本願発明者の知見では、吐出口176から吐出される流体のうち半分以上が(1)の経路を流れることが好ましい。これを実現するための各部の寸法関係について、以下に説明する。
【0048】
図5は各部の寸法関係を示す図である。上下方向における各部の位置関係について、図5(a)を参照して説明する。まず、吐出口176から流体が吐出される時点で乱流を発生させないための条件を考える。この目的のためには、吐出口176から水平方向に吐出される流体の流通方向の前方に障害物が存在しないことである。そのための条件は、図5(a)に破線で示す吐出口176の下端位置に対し、支持トレイ15の上面151がこれと等しい高さ、またはこれよりも低い位置にあることである。これにより、吐出された流体が支持トレイ15の側面に衝突して乱流が発生することが回避される。
【0049】
また、流路の天井面についても、第2流路172から処理空間SPにかけて連続的にスムーズな形状となっていることが望ましい。本実施形態では、第2流路172から処理空間SPまで連続する天井面が、第1部材11の平坦な下面112によって構成されているため、流路の天井面は単一平面となっている。このため、天井面側で乱流が発生することも防止される。
【0050】
理想的には、吐出口176の前方においても、第2流路172と同様に一様な断面形状の流路が続いていることが好ましい。このための条件は、上記のように第2流路172から処理空間SPに至る流路の天井面が単一平面であり、しかも吐出口176の下端位置と支持トレイ15の上面151の位置がZ方向において等しいことである。
【0051】
また、支持トレイ15の上面151から基板表面Saに至る流路で乱流が発生しないためには、上下方向における基板Saの位置が、点線で示す支持トレイ15の上面151の位置と同じかこれより低いことが望ましい。
【0052】
次に、上記した経路(1)~(3)における流体の流量配分を適切なものとするための各部の寸法関係について、図5(b)を参照して説明する。図5(b)に示すように各部の寸法を定義する。すなわち、第2流路172における天井面と底面との間のギャップを符号G1により表す。同様に、処理空間SPの天井面112と支持トレイ15の上面151との間のギャップを符号G2、天井面112と基板表面Saとの間のギャップを符号G3、基板下面Sbと支持トレイ15の凹部152の表面との間のギャップを符号G4、支持トレイ15の下面153と処理空間SPの底面122との間のギャップを符号G5で、それぞれ表すこととする。
【0053】
また、支持トレイ15の側面と空洞105の側壁面との間のY方向におけるギャップ、つまり支持トレイ15の(+Y)側端面と空洞105の(+Y)側壁面とのギャップを符号G6により表す。さらに、基板Sと支持トレイ15との間のY方向におけるギャップ、つまり基板Sの(+Y)側端面と、支持トレイ15の凹部152の(+Y)側端面とのギャップを符号G7により表す。
【0054】
吐出口176から吐出される流体の多くを支持トレイ15の上面側へ供給し、下面側に回り込む流体を少なくするために、G2≧G1かつG2>G6であることが望ましい。例えば、G2=G1、G2≫G6となるようにしてもよい。また、支持トレイ15の上面151に沿って流れる流体ができるだけ多く基板表面Saに供給され、基板裏面Sb側への回り込みを抑えるために、G3≧G2かつG3>G7であることが望ましい。例えば、G3=G2、G3≫G7となるようにしてもよい。また、流路を狭くすることで流体の回り込みを抑えるという観点から、G2≧G5、G3≧G4の関係が成立することが望ましい。
【0055】
寸法の一例として、G1=1.0[mm]、G2=G3=G4=G5=2.0[mm]、G6=0.5[mm]、G7=1.0[mm]としてコンピュータシミュレーションにより流量を求めたとき、上記経路(1)~(3)に流れる流体の流量比率が5:3:2となった。このように、例えばコンピュータシミュレーションを利用することで、各経路に流れる流量の配分が適切なものとなるように、各部の寸法を最適化することが可能である。本願発明者の知見では、上記寸法は数mm以下が適切である。
【0056】
基板下面および支持トレイ下面への回り込みをより抑えるという点では、上記したギャップG4、G5をより小さくすることが効果的である。ただし、処理空間SPへの出し入れや圧力印加等によって生じ得る部材同士の接触のリスクが高くなるため、あまり小さくすることは現実的ではない。一方、Y方向における部材間のギャップG6、G7については、各部材の加工精度による制限を受けるだけであるので、これらのギャップを管理することで、流量の配分を適宜に設定することが可能である。
【0057】
こうして処理空間SPを流通した流体は、その流通方向(この例では(-Y)方向)における基板Sの後端部よりも下流側に設けられた排出用の第3流路173、すなわち貫通孔111および出力ポート103を介して外部へ排出される。したがって、基板表面Saに沿って形成される流体の層流は、少なくとも基板Sの後端部までは維持される。これにより、基板表面Saを均一に処理することが可能となる。また、基板Sから遊離した残留物は層流によって基板Sよりも下流まで運ばれた後に排出されることになるので、基板Sへの再付着が抑制される。
【0058】
以上のように、本実施形態の基板処理装置1では、基板Sが平板状の支持トレイ15に載置された状態で処理チャンバ100内に格納される。処理チャンバ100内には支持トレイ15の外形より少し大きな空洞105が設けられており、その内部が処理空間SPとなっている。処理空間SPに格納された基板Sの側方から処理流体が供給されるが、その吐出口176と支持トレイ15との位置関係が、上下方向における吐出口176の開口の下端位置が支持トレイ15の上面151の位置と同じかこれよりも上方となるように設定されている。
【0059】
これにより、吐出口176から水平方向に吐出される流体が支持トレイ15の側面に衝突して乱流が発生するのを抑制し、支持トレイ15の上面151に沿った流体の層流を形成することができる。このような層流が基板表面Saに沿って流れることで、この実施形態では、基板表面Saに対する処理を効率よく、しかも良好に行うことが可能となっている。
【0060】
以上説明したように、上記実施形態においては、処理チャンバ100が本発明の「格納容器」として機能し、その内部の処理空間SPが、本発明の「内部空間」に相当している。また、貫通孔111および出力ポート103を含む第3流路173が、本発明の「排出用流路」として機能している。
【0061】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態における吐出口176は、基板Sの幅(X方向長さ)よりも幅広に形成されたスリット状の開口である。しかしながら、このような単一の開口に代えて、複数の開口がX方向に配列されて、全体として薄層状の流体を吐出する構成であってもよい。排出用の第3流路173についても同様であり、例えばX方向に延びるスリット状の貫通孔や、X方向に配列された複数の貫通孔を備えていてもよい。このようにすることで、処理空間SPを流れる層流を乱すことなくそのまま排出することが可能となる。
【0062】
また例えば、上記実施形態の流路17は、その途中にバッファ部175が設けられるとともに、バッファ部175の前後の流路において流体の流通方向が変化するように構成されている。しかしながら、少なくとも吐出口の手前側で薄層状かつ水平方向の流れが形成される限りにおいて、流路の形状はこれに限定されず任意である。
【0063】
また、上記実施形態の処理で使用される各種の化学物質は一部の例を示したものであり、上記した本発明の技術思想に合致するものであれば、これに代えて種々のものを使用することが可能である。
【0064】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る基板処理装置において、例えば凹部は、収容される基板の表面の上下方向における位置が、上面の位置と同じまたはこれよりも下方となる深さを有するものであってよい。このような構成によれば、凹部の周囲の支持トレイ上面よりも、凹部に収容される基板の上面の方が下方に位置することとなる。そのため、支持トレイの上面に沿って流れる処理流体が基板の端面に衝突して乱流が発生するのを防止することができ、基板表面に乱れの少ない層流を形成することが可能となる。
【0065】
また例えば、上下方向における吐出口の上端位置が、天井面の位置と同じであってよい。このような構成によれば、吐出口の上端付近から吐出された処理流体がそのまま天井面に沿ってスムーズに流れ、乱流の発生を抑制することができる。
【0066】
また例えば、吐出口が、空洞の壁面に沿って水平に延びるスリット状に開口する形状であってよい。このような構成によれば、スリット状の吐出口から薄層状に吐出される処理流体をそのまま基板の表面に供給することが可能となる。
【0067】
この場合、吐出口の水平方向の開口サイズが、吐出口の開口と平行な水平方向における基板のサイズよりも大きくてもよい。このような構成によれば、基板の全体に対して均一な層流として処理流体を供給することができる。
【0068】
また例えば、支持トレイが内部空間に格納された状態で、空洞の天井面と支持トレイの上面との間隔が、吐出口が設けられた側壁面と支持トレイの側面との間隔と等しいまたはこれより大きくてもよい。このような構成によれば、吐出口から吐出される処理流体の大半を支持トレイの上面に送り込み、支持トレイの下面に回り込む処理流体を少なくすることができるので、処理流体の使用量に対する処理効率を向上させることができる。
【0069】
この場合さらに例えば、空洞の天井面と支持トレイの上面との間隔が、空洞の底面と支持トレイの下面との間隔と等しいまたはこれより大きくてもよい。このような構成によれば、支持トレイの上面側の流路が下面側の流路より広くなるので、支持トレイの下面側に回り込む処理流体をより低減することができる。
【0070】
あるいは例えば、空洞の天井面と支持トレイの前記上面との間隔が、凹部に収容される基板の下面と凹部の上面との間隔よりも大きくてもよい。このような構成によれば、基板の下面側に回り込む処理流体の量を低減して、より多くの処理流体を基板の表面に供給することができる。
【0071】
また例えば、内部空間を挟んで吐出口とは反対側で、空洞が格納容器の外部空間に対して開口しており、該開口を通じて支持トレイが出し入れ可能であってもよい。このような構成によれば、開口を通じて基板の搬入、搬出が可能となる。基板の搬入、搬出のための開口が、内部空間を挟んで吐出口とは反対側に設けられることで、吐出口の周辺に可動部を配置する必要がなくなる。これにより、支持トレイまたはこれに支持される基板と吐出口との位置関係を安定させることができ、安定した層流を形成することが可能になる。
【0072】
また例えば、内部空間を挟んで吐出口とは反対側に、処理流体を排出する排出口が設けられてよい。このような構成によれば、処理流体は内部空間に格納された基板を通過した後で排出されることになるので、基板からの遊離物が処理流体の対流や乱流に起因して基板に再付着するのを効果的に抑制することができる。
【0073】
また例えば、本発明の基板処理装置は、超臨界状態の処理流体により基板を処理するものであってよい。このような構成によれば、超臨界流体を層流として基板の表面に供給して、基板を効率よくかつ良好に処理することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
この発明は、基板の表面を処理流体により処理する基板処理装置全般に適用することができる。特に、半導体基板等の基板を超臨界流体によって乾燥させる基板乾燥処理に適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 基板処理装置
10 処理ユニット
15 支持トレイ
17 流路
57 流体供給部
100 処理チャンバ
103 出力ポート
111 貫通孔
176 吐出口
S 基板
SP 処理空間
図1
図2
図3
図4
図5