(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3232 20160101AFI20230210BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20230210BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20230210BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
F16J15/18 C
F16J15/447
(21)【出願番号】P 2019123998
(22)【出願日】2019-07-02
【審査請求日】2022-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幸貴
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-100730(JP,A)
【文献】特開2016-1061(JP,A)
【文献】実開昭54-60151(JP,U)
【文献】特開2017-72240(JP,A)
【文献】特開2005-207511(JP,A)
【文献】特開平8-128533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/18
F16J 15/3204-15/3236
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と該軸が挿入される孔との間の環状の隙間の密封を図るための密封装置であって、
前記孔に取り付けられるメインシール部と、
前記メインシール部に嵌着されるダストシール部と、
前記軸に取り付けられるスリンガとを備え、
前記メインシール部は、軸線周りに環状の補強環と、該補強環に取り付けられている弾性体から形成されている前記軸線周りに環状の弾性体部とを有しており、
前記弾性体部は、前記スリンガに外周側から接触する前記軸線周りに環状のリップであるメインリップを有しており、
前記スリンガは、外周側に向かって延びる前記軸線周りに環状の部分であるフランジ部を有しており、
前記ダストシール部は、前記メインリップよりも前記軸線方向において一方の側に位置しており、前記ダストシール部は、前記フランジ部に前記軸線方向において他方の側から接触する前記軸線周りに環状のリップであるサイドリップと、前記スリンガに外周側から接触する前記軸線周りに環状の樹脂から形成されたシールリングとを有していることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記フランジ部の外周側の端縁は、環状の間隙を介して内周側から前記メインシール部に対向しており、前記間隙がラビリンスシールを形成していることを特徴とする請求項1記載の密封装置。
【請求項3】
前記ダストシール部は、前記シールリングを内周側に押す前記軸線周りに環状の部材であるバックアップリングを有していることを特徴とする請求項1又は2記載の密封装置。
【請求項4】
前記ダストシール部は、前記軸線周りに環状の部材である取付環を有しており、前記サイドリップは前記取付環に取り付けられており、
前記補強環及び前記取付環は、前記軸線方向において互いに対向する部分を有しており、
前記バックアップリングは、前記補強環及び前記取付環の前記互いに対向する部分の間に設けられており、
前記取付環は、前記軸線に沿って延びる筒状の部分である筒部と、該筒部から内周側に向かって延びる前記補強環に対向する部分である環状の部分である対向部とを有しており、
前記ダストシール部は、前記取付環の前記筒部を介して前記メインシール部に嵌着可能になっており、
前記バックアップリングは、前記取付環の前記筒部に内周側から接触することを特徴とする請求項3記載の密封装置。
【請求項5】
前記スリンガの内周面に弾性部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸とこの軸が挿入される孔との間の密封を図るための密封装置に関し、特に、泥水や土埃等に曝されることが想定される使用条件において用いられる密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、トラクタや耕耘機等の農業機械や建築機械において、車軸とこの車軸が挿入されている軸孔との間の環状の空間の密封を図るために従来から密封装置が用いられている。トラクタや耕耘機等の農業機械や建築機械の使用環境から、これらの機械において用いられる密封装置は、泥水や土埃等の異物に曝されることが想定されており、泥水や土埃等の異物がシールリップ側へ進入することを防止する異物の遮断性能が求められている。このため、トラクタや耕耘機等の農業機械や建築機械において用いられる従来の密封装置には、異物に対する遮断性能を向上させることを目的としたものがある。このような従来の密封装置には、弾性体部の有するダストリップの数を増やすことにより、異物の遮断性能の向上を図っているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような従来の密封装置は、弾性体部が複数のダストリップを有するため、異物の遮断性能の向上を図ることができる。しかしながら、より長期間の使用においても異物の遮断性能の維持を図ることができる密封装置が依然として求められている。このように、農業機械や建築機械に用いられる従来の密封装置に対しては、長期間に亘る異物の遮断性能の維持を図ることができる構成が求められている。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、長期間に亘る異物の遮断性能の維持を図ることができる密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る密封装置は、軸と該軸が挿入される孔との間の環状の隙間の密封を図るための密封装置であって、前記孔に取り付けられるメインシール部と、前記メインシール部に嵌着されるダストシール部と前記軸に取り付けられるスリンガとを備え、前記メインシール部は、軸線周りに環状の補強環と、該補強環に取り付けられている弾性体から形成されている前記軸線周りに環状の弾性体部とを有しており、前記弾性体部は、前記スリンガに外周側から接触する前記軸線周りに環状のリップであるメインリップを有しており、前記スリンガは、外周側に向かって延びる前記軸線周りに環状の部分であるフランジ部を有しており、前記ダストシール部は、前記メインリップよりも前記軸線方向において一方の側に位置しており、前記ダストシール部は、前記フランジ部に前記軸線方向において他方の側から接触する前記軸線周りに環状のリップであるサイドリップと、前記スリンガに外周側から接触する前記軸線周りに環状の樹脂から形成されたシールリングとを有していることを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記フランジ部の外周側の端縁は、環状の間隙を介して内周側から前記メインシール部に対向しており、前記間隙がラビリンスシールを形成している。
【0008】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記ダストシール部は、前記シールリングを内周側に押す前記軸線周りに環状の部材であるバックアップリングを有している。
【0009】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記ダストシール部は、前記軸線周りに環状の部材である取付環を有しており、前記サイドリップは前記取付環に取り付けられており、前記補強環及び前記取付環は、前記軸線方向において互いに対向する部分を有しており、前記バックアップリングは、前記補強環及び前記取付環の前記互いに対向する部分の間に設けられており、前記取付環は、前記軸線に沿って延びる筒状の部分である筒部と、該筒部から内周側に向かって延びる前記補強環に対向する部分である環状の部分である対向部とを有しており、前記ダストシール部は、前記取付環の前記筒部を介して前記メインシール部に嵌着可能になっており、前記バックアップリングは、前記取付環の前記筒部に内周側から接触する。
【0010】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記スリンガの内周面に弾性部材が取り付けられている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る密封装置によれば、長期間に亘る異物の遮断性能の維持を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る密封装置の概略構成を示すための、軸線に沿う断面における断面図である。
【
図2】
図1に示す密封装置の概略構成を示すための、軸線に沿う断面の一部を拡大して示す部分拡大断面図である。
【
図3】
図1に示す密封装置が取付対象に取り付けられた使用状態における密封装置の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る密封装置について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る密封装置1の概略構成を示すための、軸線xに沿う断面における断面図であり、
図2は、
図1に示す密封装置1の部分拡大断面図である。本実施の形態に係る密封装置1は、軸とこの軸が挿入される孔との間の環状の隙間の密封を図るための密封装置であり、特に、泥水や土埃等の異物に曝されることが想定される使用条件において用いられる密封装置である。密封装置1は、例えば、トラクタや耕耘機等の農業機械や建築機械において、車軸と軸孔との間の環状の空間の密封を図るために用いられる。本発明の実施の形態に係る密封装置1が適用される対象は、上記に限られない。
【0015】
以下、説明の便宜上、軸線x方向において矢印a(
図1参照)方向側を内側(他方の側)とし、軸線x方向において矢印b(
図1参照)方向側を外側(一方の側)とする。より具体的には、内側とは、密封対象空間の側(密封対象物側)であり潤滑油等の密封対象物が存在する空間の側であり、外側とは内側とは反対の側であり、大気側である。また、軸線xに直交する方向(以下、「径方向」ともいう。)において、軸線xから離れる方向(
図1の矢印c方向)を外周側とし、軸線xに近づく方向(
図1の矢印d方向)を内周側とする。
【0016】
本実施の形態に係る密封装置1は、後述する取付対象の軸孔に取り付けられるメインシール部2と、メインシール部2に嵌着されるダストシール部3と、後述する取付対象としての軸に取り付けられるスリンガ4とを備えている。メインシール部2は、軸線x周りに環状の補強環10と、補強環10に取り付けられている弾性体から形成されている軸線x周りに環状の弾性体部20とを有している。弾性体部20は、スリンガ4に外周側から接触する軸線x周りに環状のリップであるメインリップ21を有している。スリンガ4は、外周側(矢印c方向側)に向かって延びる軸線x周りに環状の部分であるフランジ部41を有している。ダストシール部3は、メインリップ21よりも軸線x方向において一方の側(矢印b方向側、外側)に位置しており、ダストシール部3は、フランジ部41に軸線x方向において他方の側(矢印a方向側、内側)から接触する軸線x周りに環状のリップであるサイドリップ31と、スリンガ4に外周側から接触する軸線x周りに環状の樹脂から形成されたシールリング32とを有している。以下、密封装置1の構造を具体的に説明する。
【0017】
メインシール部2において補強環10は、
図1,2に示すように、軸線xを中心又は略中心とする環状の金属製の部材であり、後述するハウジングの軸孔にメインシール部2が圧入されて嵌合されて取り付けられるように形成されている。補強環10は、ダストシール部3の後述する取付環34に軸線x方向において対向する部分である対向部11を有している。
【0018】
補強環10は、
図1に示すように、例えば、外周側に位置する軸線xに沿って延びる筒状の部分である筒部12と、筒部12の内側の端部から内周側及び外側に延びる部分である折り返し部13とを有している。対向部11は、折り返し部13の内周側の端部から内周側に延びている。補強環10の筒部12は、より具体的には、軸線xを中心軸とする円筒状又は略円筒状の部分である。折り返し部13は、より具体的には、筒部12の内側の端部から内周側の領域に曲がって延びる曲部13aと、曲部13aの内周側の端部から軸線xに沿って外側に延びる筒部13bとを有している。曲部13aは、補強環10の延び方向を変える部分であり、筒部12において軸線x方向において内側に向かって延びる補強環10の延び方向を、軸線x方向において外側に向かうように変える部分である。曲部13aは、例えば、
図1,2に示すように、軸線xに沿う断面(以下、単に断面ともいう。)の形状が略U字状となるように形成されている。曲部13aの形状は他の形状であってもよい。また、折り返し部13の筒部13bは、例えば、
図1,2に示すように、軸線xを中心軸とする円筒状又は略円筒状の部分である。筒部13bは、断面において、直線状に延びていてもよく、曲がって延びていてもよい。筒部13bの形状は他の形状であってもよい。対向部11は、例えば、
図1,2に示すように、軸線xを中心に径方向に延びる、円環状又は略円環状の板状の部分である。対向部11は、径方向に対して傾いていてもよい。対向部11は、断面において、直線状に延びていてもよく、曲がって延びていてもよい。補強環10において、対向部11は、筒部12の内周側の領域に位置するようになっている。
【0019】
また、補強環10は、
図1に示すように、筒部12の外側の端部から外周側及び外側に延びるラビリンス部14を有している。ラビリンス部14は、後述するようにラビリンスシールをスリンガ4のフランジ部41と共に形成する部分であり、筒部12の外側の端部から外周側に延びる環状の板状の部分であるフランジ部14aと、フランジ部14aの外周側の端部から外側に延びる筒状の部分である筒部14bとを有している。フランジ部14aは、例えば、
図1,2に示すように、軸線xを中心に径方向に延びる、円環状又は略円環状の板状の部分である。フランジ部14aは、径方向に対して傾いていてもよい。フランジ部14aは、断面において、直線状に延びていてもよく、曲がって延びていてもよい。筒部14bは、例えば、
図1,2に示すように、軸線xを中心軸とする円筒状又は略円筒状の部分である。筒部14bは、断面において、直線状に延びていてもよく、曲がって延びていてもよい。補強環10には、弾性体部20が取り付けられており、弾性体部20を補強している。
【0020】
弾性体部20は、
図1,2に示すように、補強環10の全体又は一部を覆って補強環10に取り付けられている。弾性体部20は、上述のようにメインリップ21を有しており、また、ガスケット部22を有している。ガスケット部22は、具体的には、
図2に示すように、補強環10の筒部12の外周側の表面である外周面12aに取り付けられている部分である。ガスケット部22の外径は、密封装置1(メインシール部2)の取り付け対象である軸孔の内周面の径よりも大きくなっている。このため、密封装置1が軸孔に嵌着された場合、ガスケット部22は、補強環10の筒部12と軸孔との間で径方向に圧縮され、軸孔と補強環10の筒部12との間を密封する。これにより、密封装置1と軸孔との間が密封される。ガスケット部22は、軸線x方向全体に亘って外径が軸孔の内周面の径よりも大きくなっていなくてもよく、一部において外径が軸孔の内周面の径よりも大きくなっていてもよい。例えば、ガスケット部22の外周側の面に、先端の径が軸孔の内周面の径よりも大きい環状の凸部が形成されていてもよい。
【0021】
メインリップ21は、
図1,2に示すように、補強環10の折り返し部13の筒部13bの内周側において、対向部11から筒状に延びており、内側(先端側)の部分に環状のリップ先端部23を有している。リップ先端部23は、後述するスリンガ4の筒部42に所定の締め代をもって接触するように形成された部分であり、例えば、断面形状が楔状の内周側に凸の部分である。メインリップ21は、折り返し部13の筒部13b及び対向部11から延びていてもよく、または、折り返し部13の筒部13bから延びていてもよい。
【0022】
また、メインリップ21の外周側には、
図2に示すように、リップ先端部23に背向する位置に環状の凹部24が形成されており、この凹部24にガータスプリング25が嵌着されている。ガータスプリング25は、リップ先端部23を軸線xに向かう方向に押して、リップ先端部23が軸の変位に伴うスリンガ4の筒部42の変位に対して追随するようにリップ先端部23にスリンガ4の筒部42に対する所定の大きさの緊迫力を与える。リップ先端部23は、後述するようにスリンガ4の筒部42の外周面42aに接触して、密封装置1(メインリップ部2)とスリンガ4の筒部42との間の密封を図る。
【0023】
上述のように、弾性体部20は、メインリップ21、ガスケット部22、及び他の補強環10を覆う部分を有しており、各部分は一体となっており、弾性体部20は同一の材料から一体に形成されている。
【0024】
上述の補強環10は、金属材から形成されており、この金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。また、弾性体部20の弾性体としては、例えば、各種ゴム材がある。各種ゴム材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。
【0025】
補強環10は、例えばプレス加工や鍛造によって製造され、弾性体部20は成形型を用いて架橋(加硫)成型によって成形される。この架橋成型の際に、補強環10は成形型の中に配置されており、弾性体部20が架橋接着により補強環10に接着され、弾性体部20と補強環10とが一体的に成形される。
【0026】
ダストシール部3は、上述のように、サイドリップ31とシールリング32とを有しており、また、ダストシール部3は、バックアップリング33と、取付環34とを有している。バックアップリング33は、
図1に示すように、シールリング32を内周側に押す軸線x周りに環状の部材である。取付環34は、
図1に示すように、軸線x周りに環状の部材であり、取付環34にはサイドリップ31が取り付けられている。取付環34は、補強環10の対向部11に軸線x方向において対向する部分である対向部35を有しており、バックアップリング33は、補強環10の対向部11と取付環34の対向部35の間に設けられている。
【0027】
取付環34は、具体的には、
図1,2に示すように、軸線にx沿って延びる筒状の部分である筒部34aと、筒部34aから内周側に向かって延びる対向部35とを有している。筒部34aは、例えば、
図1,2に示すように、軸線xを中心軸とする円筒状又は略円筒状の部分である。筒部34aは、断面において、直線状に延びていてもよく、曲がって延びていてもよい。対向部35は、例えば、
図1,2に示すように、軸線xを中心に径方向に延びる、円環状の板状の部分である。対向部35は、径方向に対して傾いていてもよい。対向部35は、断面において、直線状に延びていてもよく、曲がって延びていてもよい。取付環34において、対向部35は、例えば、筒部34aの外側の端部から延びており、取付環34の断面形状は略L字状となっている。
【0028】
取付環34は、筒部34aにおいてメインリップ部2に嵌着可能になっている。具体的には、筒部34aは、補強環10の筒部12の部分において、外周側に向かってメインリップ部2に押し付けられるようなっている。
図1,2に示すように、補強環10の筒部12の内周側に面する内周面12bが弾性体部20によって覆われており、筒部34aは弾性体部20を介して補強環10の筒部12に内周側から押し付けられるようになっている。補強環10の円筒部12の内周面12bは弾性体部20によって覆われておらず、筒部34aは弾性体部20を介さず直接に補強環10の筒部12に内周側から押し付けられるようになっていてもよい。また、後述するように、
図1,2に示すように、取付環34の筒部34aの外周側に面する外周面34bはサイドリップ31を形成する弾性体によって覆われており、筒部34aはこの弾性体を介して外周側からメインリップ部2に押し付けられるようになっている。また、取付環34の筒部34aの外周面34bはサイドリップ31を形成する弾性体によって覆われておらず、筒部34aは直接に外周側からメインリップ部2に押し付けられるようになっていてもよい。
【0029】
メインシール部2及びダストシール部3は、例えば、取付環34がメインリップ部2に嵌着された状態において、取付環34の対向部35が、軸線x方向において所定の間隔をおいて、補強環10の対向部11に外側から対向するようになっている。例えば、メインリップ部2に嵌着された取付環34は、筒部34aの内側の端部において、弾性体部20又は対向部11に接触するようになっており、これにより、取付環34の対向部35の補強環10の対向部11に対する軸線x方向における間隔が決まるようになっている。
【0030】
サイドリップ31は、弾性体から形成されており、上述のように、取付環34に取り付けられており、
図1に示すように、先端面31aがスリンガ4のフランジ部41の内側に面する面(内側面41a)に所定の締め代を持って接触するようになっている。
【0031】
具体的には、サイドリップ31は、サイドリップ部30の一部として形成されており、サイドリップ部30は、取付環34に取り付けられている部分である取付部30aを有している。取付部30aは、取付環34の筒部34aの外周面34b及び対向部35の外側に面する面(外側面35a)を覆うように取り付けられている。取付部30aは、筒部34aの外周面34bを覆っていなくてもよい。
【0032】
また、サイドリップ31は、根元部31bと、先端部31cとを有している。根元部31bは、取付部30aの対向部35の外側面35aを覆う部分から延びる部分であり、例えば、内周側に向かって凸となるように曲がった断面形状を有している。先端部31cは、根元部31bから外側に向かって外周側に傾いて延びており、例えば、軸線x方向において外側に向かうに連れて拡径する円錐筒状の形状を有している。先端部31cの外周側の端部に先端面31aが形成されている。サイドリップ31は、根元部31bを有しておらず、先端部31cが取付部30aから延びていてもよい。
【0033】
シールリング32は、上述のように、軸線x周りに環状の部材であり、例えば、軸線xを中心軸とする円筒面状又は略円筒面状の内周面32aと、軸線xを中心軸とする円筒面状又は略円筒面状の外周面32bとを有している。内周面32aは、シールリング32の内周側に面する面であり、外周面32bは、シールリング32の外周側に面する面である。シールリング32の内周面32aは、スリンガ4の筒部42に接触するようになっている。シールリング32は、上述のように、樹脂材料から形成されており、シールリング32の樹脂材料としては、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等がある。なお、シールリング32の樹脂材料は、PTFEに限られない。
【0034】
バックアップリング33は、上述のように、軸線x周りに環状の部材であり、
図2に示すように、例えば、軸線xを中心軸とする円筒面状又は略円筒面状の内周面33aを有している。内周面33aは、バックアップリング33の内周側に面する面であり、シールリング32の外周面32bに接触するように形成されている。バックアップリング33は、ゴム状弾性材料等の弾性材料から形成された弾性体であり、取付環34の筒部34aとシールリング32との間に径方向において挟まれて圧縮され、軸線x方向に反発力を発生するように径方向の幅が設定されている。バックアップリング33の外周側に面する外周面33bは、例えば、外周側に突出する環状の突部が形成されるように形成されている。図示の例では、外周面33bは、2つの突部を形成している。この突部により、バックアップリング33の外周側が弾性変形し易くなり、上述の反発力を高めることができる。
【0035】
バックアップリング33は、互いに対向する、補強環10の対向部11の外側面11aと、取付環34の対向部35の内側に面する内側面35bの間に設けられている。バックアップリング33は、対向部11の外側面11aと対向部35の内側面35bとに挟まれて設けられるようにしてもよく、対向部11の外側面11aと対向部35の内側面35bとに夫々隙間を空けて設けられるようにしてもよい。密封装置1において、弾性変形したバックアップリング33が対向部11の外側面11aと対向部35の内側面35bとに接触するようになっていると、軸線x方向においてバックアップリング33は締め付けられるため、上述のバックアップリング33の径方向の反発力を高めることができる。バックアップリング33の形状は図示の形状に限られず、他の形状であってもよい。例えば、バックアップリング33はXリング、Oリング、Dリング等であってもよい。
【0036】
サイドリップ部30つまりサイドリップ31は、弾性体部20と同様に同一の弾性材料から一体に形成されており、サイドリップ31の弾性材料としては、例えば、各種ゴム材がある。各種ゴム材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。また、取付環34は、金属材から形成されており、この金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。
【0037】
取付環34は、例えばプレス加工や鍛造によって製造され、サイドリップ部30は成形型を用いて架橋(加硫)成型によって成形される。この架橋成型の際に、取付環34は成形型の中に配置されており、サイドリップ部30が架橋接着により取付環34に接着され、サイドリップ部30と取付環34とが一体的に成形される。
【0038】
スリンガ4は、後述する密封装置1の使用状態において軸に取り付けられる環状の部材であり、軸線xを中心又は略中心とする環状の部材である。スリンガ4は、上述のように、フランジ部41を有しており、また、筒部42と、フランジ部41と筒部42とを接続する接続部43とを有している。
【0039】
フランジ部41は、具体的には、
図2に示すように、接続部43の外側の端部から径方向に延びる、軸線xを中心とする円環状又は略円環状の板状の部分である。フランジ部41の内側に面する面である内側面41aは、軸線xに直交する平面に平行又は略平行となるように径方向に延びている。フランジ部41の内側面41aにダストシール部3のサイドリップ31の先端31aが接触するようになっている。フランジ部41は、径方向において傾いていてもよい。
【0040】
また、フランジ部41の外周側の縁である端縁41bは、環状の間隙gを介して内周側からメインシール部2に対向するようになっており、この間隙gがラビリンスシールを形成するようになっている。具体的には、フランジ部41の端縁41bは、補強環10のラビリンス部14の筒部14bにおいて、間隙gを介して内周側からメインシール部2に対向するようになっている。
図2に示すように、ラビリンス部14の筒部14bが内周側から弾性体部20に覆われている場合は、フランジ部41の端縁41bは、この筒部14bを覆う弾性体部20との間に間隙gを形成し、ラビリンスシールを形成する。一方、ラビリンス部14の筒部14bが弾性体部20に覆われていない場合は、フランジ部41の端縁41bは、筒部14bとの間に間隙gを形成し、ラビリンスシールを形成する。
【0041】
スリンガ4の筒部42は、
図2に示すように、軸線xに沿って延びる筒状の部分であり、軸線xを中心軸とする円筒面状又は略円筒面状の外周側に面する外周面42aを有している。この外周面42aに、メインリップ21のリップ先端部23及びシールリング32の内周面32aが、全周に亘って接触するようになっている。
【0042】
スリンガ4の接続部43は、内側の端部において筒部42と接続し、外側の端部においてフランジ部41と接続し、筒部42とフランジ部41とを接続している。接続部43は、例えば、
図2に示すように、軸線x方向において外側に向かうに連れて拡径する形状となっている。
【0043】
また、スリンガ4の内周側に面する内周面4aには、弾性部材44が取り付けられている。弾性部材44は、ゴム弾性材料等の弾性材料から形成されており、内周面4aを覆っている。スリンガ4の内周面4a及び弾性部材44は、取付対象の軸がスリンガ4内に挿入された際に、軸とスリンガ4の内周面4aとの間で弾性部材44が径方向において圧縮され、弾性部材4が軸の外周面に全周に亘って密着するようになっている。これにより、密封装置1の使用状態において、スリンガ4と軸との間のシール性能を向上させることができる。弾性部材44は、スリンガ4の内周面4aの全体に設けられていなくてもよく、少なくとも筒部42の軸線x方向における一部の範囲で設けられていればよい。また、スリンガ4は内周面4aに弾性部材44を有していなくてもよい。この場合、スリンガ4の筒部42は軸に嵌着可能に形成されている。つまり、筒部42が軸に締り嵌め可能となるように、筒部42の内径が軸の外周面の径よりも小さくなっている。スリンガ4は、弾性部材44又は筒部42が軸に締り嵌めされることにより固定されるものに限られず、筒部42において軸に接着されて固定されるものであってもよく、他の公知の固定方法によって軸に固定されるものであってもよい。
【0044】
スリンガ4は、金属材料から作られており、例えば、SPCC(冷間圧延鋼)を基材とし、SPCCにリン酸塩皮膜処理が施されて防錆処理がなされて作られている。リン酸塩皮膜処理としては、例えばリン酸亜鉛皮膜処理がある。防錆性能の高いスリンガ4により、サイドリップ31に対する摺動部であるフランジ部41に錆が発生することを抑制することができ、サイドリップ31の密封機能や密封性能を長く維持することができる。スリンガ4の基材としては、ステンレス等の耐錆性、防錆性に優れている他の金属が用いられてもよい。また、スリンガ4の基材の防錆処理は、金属メッキ等の他の処理であってもよい。
【0045】
図2に示すように、密封装置1において、シールリング32は、軸線x方向における位置が決められるようになっていてもよい。具体的には、シールリング32の内側に面する内側面32cが、補強環10の対向部11の外側面11aに接触し、シールリング32の外側に面する外側面32dが、サイドリップ部30の取付部30a又は取付環34の対向部35の内側面35bに接触するようになっている。シールリング32の内側面32cは、補強環10の対向部11の外側面11aに空間を空けて軸線x方向において対向していてもよい。また、シールリング32の外側面32dは、サイドリップ部30の取付部30a又は取付環34の対向部35の内側面35bに空間を空けて軸線x方向において対向していてもよい。シールリング32を軸線x方向において位置決め可能にするこの構造により、シールリング32の形状を簡易なものにすることができ、シールリング32の製造を簡単にすることができる。
【0046】
次いで、上述の構成を有する密封装置1の作用について説明する。
図3は、密封装置1が取付対象としてのハウジング50及びこのハウジング50に形成された孔である軸孔51に挿入された軸52に取り付けられた使用状態における密封装置1の部分拡大断面図である。車軸52は、例えば、農業機械であるトラクタの車軸であり、ハウジング50は、この車軸52を支持する支持機構等を内部に収容しており、ハウジング50内で支持された車軸52は、ハウジング50の軸孔51を貫通してハウジング50の外部に出ている。
【0047】
図3に示すように、密封装置1の使用状態において、密封装置1は軸孔51に圧入されて軸孔51に嵌着されており、スリンガ4が軸52に締り嵌めされて軸52に取り付けられている。具体的には、メインシール部2の補強環10の筒部12の部分が軸孔51内に圧入され、弾性体部20のガスケット部22が軸孔51の内周面51aと補強環10の筒部12との間で径方向に圧縮され、ガスケット部22の径方向の反発力により、メインシール部2が軸孔51に固定されている。この状態において、ガスケット部22は軸孔51の内周面51aに密着しており、これにより密封装置1と軸孔51との間の密封が図られている。また、スリンガ4の中空部に軸52が圧入されて、スリンガ4の内周面4aに取り付けられた弾性部材44がスリンガ4の筒部42と軸52の外周面52aとの間で径方向に圧縮され、弾性部材44の径方向の反発力により、スリンガ44が軸52に固定されている。この状態において、弾性部材44は軸52の外周面52aに密着しており、これにより密封装置1と軸52との間の密封が図られている。
【0048】
メインシール部2は、補強環10のラビリンスシール部14において、
図2に示すように、ガスケット部22の外周側に出っ張っている。このため、上述のように軸孔51にメインシール部2が圧入されていくと、ラビリンスシール部14のフランジ部14aがハウジング50の外側面50aに弾性体部20を介して又は直接接触する。このラビリンスシール部14のフランジ部14aの接触により、ハウジング50におけるメインシール部2の軸線x方向における位置が決められる。
【0049】
密封装置1が軸52及び軸孔51に取り付けられた上述の使用状態において、メインシール部2のメインリップ21のリップ先端部23がスリンガ4の筒部42の外周面42aに接触するように、メインシール部2とスリンガ4との間の軸線x方向における相対位置が決められている。加えて、ダストシール部3のサイドリップ31の先端面31aが、スリンガ4のフランジ部41の内側面41aに接触するように、メインシール部2及びダストシール部3とスリンガ4との間の軸線x方向における相対位置が決められている。また、使用状態において、スリンガ4のフランジ部41の端縁41bとメインシール部2のラビリンスシール部14の筒部14bの部分との間に、上述の間隙gが形成されてラビリンスシールが形成されるように、メインシール部2とスリンガ4との間の軸線x方向における相対位置が決められている。
【0050】
このように、密封装置1の使用状態において、弾性体部20のガスケット部22とスリンガ4の弾性部材44とによって、密封装置1の外周側と内周側とが夫々密封されている。また、メインリップ21のリップ先端部23が、スリンガ4の筒部42の外周面42aに、スリンガ4がメインリップ21に対して摺動可能に接触しており、メインリップ21とスリンガ4との間の密封が図られている。これにより、ハウジング50内のグリース等の密封対象物のハウジング50外への漏洩の防止が図られている。また、外部からハウジング50内への泥水や土埃等の異物の進入の防止が図られている。
【0051】
また、シールリング32が、スリンガ4の筒部42の外周面42aに、スリンガ4がシールリング32に対して摺動可能に接触しており、シールリング32とスリンガ4との間の密封が図られている。また、サイドリップ31の先端面31aが、スリンガ4のフランジ部41の内側面41aに、スリンガ4がサイドリップ31に対して摺動可能に接触しており、サイドリップ31とスリンガ4との間の密封が図られている。これにより、外部からメインリップ21とスリンガ4とが接触する部分への異物の進入の防止が図られている。また、フランジ部41の端縁41bとメインリップ部2のラビリンスシール部14の部分とにおいて形成されるラビリンスシールにより、サイドリップ31及びシールリング32側への異物の進入を妨げることができ、外部からメインリップ21とスリンガ4とが接触する部分への異物の進入の防止をより図ることができる。このため、メインリップ21が異物を噛み込むことにより、メインリップ21が損傷することを抑制することができ、メインリップ21のシール性能を長期に亘って維持可能にすることができる。
【0052】
また、シールリング32は樹脂材料から形成されており、摺動によるシールリング32の摩耗を、従来のゴム製リップの摺動による摩耗よりも低減することができる。このため、シールリング32の異物の進入を防止する異物の遮断性能を従来よりも長く維持することができる。また、シールリング32は、バックアップリング33によって内周側に押されており、シールリング32の異物の遮断性能をより向上させることができる。
【0053】
また、密封装置1において、ダストシール部3は、軸線x方向においてメインリップ21と並んで設けられており、ダストシール部3をメインシール部2の径方向の幅の範囲内において設けることができる。このため、ダストシール(サイドリップ31及びシールリング32)の追加によって、密封装置1の径方向の幅がメインシール部2の径方向の幅よりも大きくなることが防止又は抑制されている。これにより、取付対象における密封装置1の取り付けスペースを、径方向において低減することができる。このため、密封装置の取り付けスペースに径方向における制約があっても、密封装置を取付対象により取り付け可能にすることができる。また、密封装置1を適用する際に、取付対象の形状を変更することなく、または、取付対象の形状を大きく変更することなく、密封装置1を取付対象に適用することができる。
【0054】
上述のように、本発明の実施の形態に係る密封装置1は、長期間に亘る異物の遮断性能の維持を図ることができる。
【0055】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記本発明の実施の形態に係る密封装置1に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における、各構成の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【0056】
本発明の実施の形態に係る密封装置1は、トラクタの車軸及び軸孔に適用されるものとしたが、本発明に係る密封装置の適用対象はこれに限られるものではなく、他の農業機械や建築機械、車両、汎用機械、産業機械等、本発明の奏する効果を利用し得るすべての構成に対して、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…密封装置、2…メインシール部、3…ダストシール部、4…スリンガ、4a…内周面、10…補強環、11…対向部、11a…外側面、12…筒部、12a…外周面、12b…内周面、13…折り返し部、13a…曲部、13b…筒部、14…ラビリンス部、14a…フランジ部、14b…筒部、20…弾性体部、21…メインリップ、22…ガスケット部、23…リップ先端部、24…凹部、25…ガータスプリング、30…サイドリップ部、30a…取付部、31…サイドリップ、31a…先端面、31b…根元部、31c…先端部、32…シールリング、32a…内周面、32b…外周面、32c…内側面、32d…外側面、33…バックアップリング、33a…内周面、33b…外周面、34…取付環、34a…筒部、34b…外周面、35…対向部、35a…外側面、35b…内側面、41…フランジ部、41a…内側面、41b…端縁、42…筒部、42a…外周面、43…接続部、44…弾性部材、50…ハウジング、50a…外側面、51…軸孔、51a…内周面、52…軸、52…外周面、g…間隙、x…軸線