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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】二元燃料燃焼強度
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20230210BHJP
   F02D 19/08 20060101ALI20230210BHJP
   F02D 41/22 20060101ALI20230210BHJP
   F02D 41/30 20060101ALI20230210BHJP
【FI】
F02D45/00 368S
F02D19/08 C
F02D41/22
F02D41/30
F02D45/00 345
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019560689
(86)(22)【出願日】2018-05-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 US2018031248
(87)【国際公開番号】W WO2018204881
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-04-30
(31)【優先権主張番号】62/502,285
(32)【優先日】2017-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503400008
【氏名又は名称】ウッドワード,インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Woodward,Inc.
【住所又は居所原語表記】1081 Woodward Way,Fort Collins,Colorado 80524 United States of America
(74)【復代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100097320
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 貞二
(74)【代理人】
【識別番号】100131820
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 俊幸
(74)【代理人】
【識別番号】100155192
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 美代子
(74)【代理人】
【識別番号】100215049
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100100398
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 茂夫
(72)【発明者】
【氏名】バルタ,ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】ハンプソン,グレゴリー ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ナイール,スラジ
(72)【発明者】
【氏名】カールソン,ジェフリー
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-110638(JP,A)
【文献】特開2002-188486(JP,A)
【文献】特開2012-021530(JP,A)
【文献】特開2015-113790(JP,A)
【文献】特開2016-020659(JP,A)
【文献】特開2017-015047(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0299609(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0010074(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0219027(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0342916(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃のエンジンにおける制御されない燃焼を検出する方法であって:
筒内圧力センサから、前記エンジンの筒内の測定圧力を表す圧力信号をサンプリングするステップと;
前記圧力信号に基づいて、制御されない燃焼状態への前記エンジンの近さの指針である燃焼強度指標を計算するステップと;を備え、前記燃焼強度指標は、少なくとも、ピーク筒内圧力、筒内圧力上昇率、筒内圧力変動、燃焼期間、及び放熱の勾配、の関数であり、前記筒内圧力上昇率は燃焼中の最大圧力上昇率であり、
前記燃焼強度指標の関数として、エンジン制御パラメータを特定するステップと;
前記エンジン制御パラメータに基づいて、前記エンジンを制御するステップと;を備える、
方法。
【請求項2】
前記内燃のエンジンは二元燃料内燃エンジンを備え、前記エンジン制御パラメータは、前記エンジン制御パラメータと前記燃焼強度指標とのうちの少なくとも一方に基づく第1の燃料と第2の燃料との置換率を含み、前記置換率は前記第1の燃料と前記第2の燃料との合計に対する、前記第2の燃料の割合である
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の燃料はディーゼル燃料であり、前記第2の燃料は天然ガスである、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記燃焼強度指標は、前記筒内圧力センサのサンプリングと同じ燃焼サイクル内で計算される、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記圧力信号に基づいて、圧力指標、放熱指標、及びノック指標を計算するステップを備え、
前記燃焼強度指標は、前記圧力指標、前記放熱指標、及び前記ノック指標の関数である、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記放熱指標は、前記エンジンの気筒内における燃焼の断熱放熱速度を含む、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記圧力信号に基づいて、以下の燃焼指標:
ピーク筒内圧力;
前記ピーク筒内圧力のクランク角;
前記筒内圧力上昇率;
前記筒内圧力変動;
前記筒内圧力変動のクランク角;
前記燃焼期間;
前記放熱の勾配;
前記放熱の幾何中心のクランク角;及び
最大放熱速度のクランク角;
のうち少なくとも1つを計算するステップを備える、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記燃焼強度指標は、さらに:
前記ピーク筒内圧力のクランク角;
前記筒内圧力変動のクランク角;
前記放熱の幾何中心のクランク角;及び
前記最大放熱速度のクランク角;
のうち少なくとも1つの関数である、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記燃焼強度指標及び前記エンジン制御パラメータのうちの少なくとも一方に基づいて、前記エンジンの、燃料入力信号と、スロットル位置信号と、点火タイミング信号と、を特定するステップを備える、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
エンジンシステムの二元燃料内燃エンジンの運転を制御するコントローラであって、
前記エンジンシステムは、
前記エンジンの気筒内の圧力を測定して対応する圧力信号を生成するように構成された圧力センサと、
前記エンジンのクランク角を測定して対応するクランク角信号を生成するように構成されたクランク角センサとを備え、
前記コントローラは:
前記圧力センサと前記クランク角センサとに接続可能なプロセッサと;
前記コントローラの前記プロセッサに、以下を含む操作、すなわち:
(a) 前記圧力信号をサンプリングすること;
(b) 前記圧力信号に基づいて、制御されない燃焼状態への前記エンジンの近さの指針である燃焼強度指標を計算し、前記燃焼強度指標は、少なくとも、ピーク筒内圧力、筒内圧力上昇率、筒内圧力変動、燃焼期間、及び放熱の勾配、の関数であり、前記筒内圧力上昇率は燃焼中の最大圧力上昇率であること;
(c) 前記燃焼強度指標に基づいて、前記気筒に送られる、第1の燃料と第2の燃料との合計に対する前記第2の燃料の割合である置換率を特定すること;及び
(d) 前記置換率に基づいて前記二元燃料内燃エンジンを制御すること;
を実行させるように操作可能な命令を格納する少なくとも1つの非一時的なコンピュータ読み取り可能媒体と;を備える、
コントローラ。
【請求項11】
前記第1の燃料はディーゼル燃料であり、前記第2の燃料は天然ガスである、
請求項10に記載のコントローラ。
【請求項12】
項目(b)及び項目(c)が前記気筒の次のサイクル内で行われる、
請求項10に記載のコントローラ。
【請求項13】
前記命令は、前記圧力信号に基づいて、圧力指標、放熱指標、及びノック指標を計算するステップを含み、前記燃焼強度指標は、前記圧力指標、前記放熱指標、及び前記ノック指標の関数である、
請求項10に記載のコントローラ。
【請求項14】
前記放熱指標を計算するステップは、前記エンジンの気筒内における燃焼の断熱放熱速度を計算するステップを含む、
請求項13に記載のコントローラ。
【請求項15】
前記命令は、前記圧力信号に基づいて、以下の燃焼指標:
ピーク筒内圧力;
前記ピーク筒内圧力のクランク角;
前記筒内圧力上昇率;
前記筒内圧力変動;
筒内圧力変動の位置;
前記燃焼期間;
前記放熱の勾配;
前記放熱の幾何中心のクランク角;及び
最大放熱速度のクランク角;
のうち少なくとも1つを計算するステップを含む、
請求項10に記載のコントローラ。
【請求項16】
前記燃焼強度指標は、さらに:
前記ピーク筒内圧力のクランク角;
前記筒内圧力変動のクランク角;
前記放熱の幾何中心のクランク角;及び
前記最大放熱速度のクランク角;
のうち少なくとも1つの関数である、
請求項15に記載のコントローラ。
【請求項17】
前記命令は:
前記燃焼強度指標及び前記置換率のうちの少なくとも一方に基づいて、前記二元燃料内燃エンジンの、燃料入力信号と、スロットル位置信号と、点火タイミング信号とのうちの少なくとも1つを特定することと;
前記燃料入力信号と、前記スロットル位置信号と、前記点火タイミング信号とのうちの少なくとも1つを用いて、前記二元燃料内燃エンジンを制御することと;を含む、
請求項10に記載のコントローラ。
【請求項18】
エンジンシステムの内燃エンジンの運転を制御するコントローラであって、
前記エンジンシステムは、
前記エンジンの筒内圧力を測定して対応する圧力信号を生成するように構成された圧力センサと、
前記エンジンのクランク角を測定して対応するクランク角信号を生成するように構成されたクランク角センサとを備え、
前記コントローラは:
前記圧力センサと前記クランク角センサとに接続可能なプロセッサと;
前記コントローラの前記プロセッサに、以下を含む操作、すなわち:
(a) 前記圧力信号をサンプリングすること;
(b) 前記圧力信号に基づいて、制御されない燃焼状態への前記エンジンの近さの指針である燃焼強度指標を計算し、前記燃焼強度指標は、少なくとも、ピーク筒内圧力、筒内圧力上昇率、筒内圧力変動、燃焼期間、及び放熱の勾配、の関数であり、前記筒内圧力上昇率は燃焼中の最大圧力上昇率であること;
(c) 前記燃焼強度指標の関数として、エンジン制御パラメータを特定すること;及び
(d) 前記エンジン制御パラメータに基づいて前記エンジンを制御すること;
を実行させるように操作可能な命令を格納する少なくとも1つの非一時的なコンピュータ読み取り可能媒体と;を備える、
コントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2017年5月5日に出願された米国特許出願第62/502,285号に基づく優先権を主張し、当該米国特許出願のすべての記載内容を援用する。
【背景技術】
【0002】
通常、エンドガス(末端ガス)の急速燃焼により、短時間に大量のエネルギーが放出される、エンジンノックなどの、制御されない有害な燃焼は、急激な圧力上昇率を生じさせ、しばしばそれに続いて高周波数圧力振動を生じさせる。これらの強い圧力波はエンジンの構造部品に高い応力を与え、熱伝達率を劇的に高め、最終的にエンジンの損傷につながる。このような制御されない燃焼は様々な理由により発生すると推察され、その理由は、品質及び特性に劣る燃料、不均一な混合気、燃焼室内のホットスポット、堆積物、潤滑油の蒸発、気筒充填ガス中の未燃ガスの好ましくない圧力-時間履歴、充填ガスの気筒又は周期的変動、不適切な冷却などである。異常燃焼の予測は一般的に極めて困難であり、エンジン設計時に対処するのが普通である。
【発明の概要】
【0003】
ここでの概念に含まれるのは、エンジンが少なくとも1つの筒内圧力センサを含むこと、そして、以下の燃焼指標、すなわち、ピーク圧力、圧力上昇率、圧力変動、燃焼期間、及び放熱の変化速度、がエンジンの運転と同時に計算されること、場合によってはリアルタイムで計算されることである。これらの指標は、方程式/アルゴリズムを介して数学的に結ばれ、制御されない燃焼にエンジンがどれだけ近づいて作動しているかを特定する。そうすることで安全な運転を維持しながら、二元燃料運転において、より濃い(リッチな)混合気又はより高い置換率など、より激しい運転条件をエンジンに強いることができる。場合によっては、エンジンは2ストローク又は4ストロークエンジンであり、場合によっては、リアルタイムとは、燃焼指標が、次のサイクルの完了前に、又は、同じサイクル内(例えば、次の吸気前)で、又は、次の行程の完了前に、又は、同じ行程内で、計算されることを指す。
【0004】
実施によっては、ここでの概念には、サイクルごとに筒内の圧力情報と以下のアルゴリズムとを収集し、これを処理する機能が含まれる:
ピーク圧力-1つの事象における最大燃焼圧力
圧力上昇率-燃焼中の最大圧力上昇率
圧力変動-デルタPの合計
燃焼期間-CAx1とCAx2との間のクランク角度
放熱の変化-燃焼プロセス後半と比較した燃焼プロセス前半の特定
【0005】
本開示の特定の態様は、制御ループで用いられてエンジンを最大ガス置換まで安全に駆動させることができる燃焼強度数を、上記の燃焼指標を用いて特定することを含む。実施によっては、二元燃料エンジンで見られる多くの異なる場合に対応するために、これらすべての指標が必要となる。場合によっては、燃焼が加速する変曲点が正確に特定されるように、放熱の変化が静的又は動的に特定される。
【0006】
本開示の特定の態様において、制御されない燃焼(デトネーション:異常爆発)は、これまでのような時間に基づく周波数領域からではなく、代って実際のエンジン制限に基づく低速直接筒内圧力情報から見る。
【0007】
本開示の一つの例は、内燃エンジンにおける制御されない燃焼を検出する方法である。この方法は、エンジンの筒内圧力を測定し、対応する圧力信号を生成するように構成された筒内圧力センサをサンプリングするステップと、対応する圧力信号に基づいて燃焼強度指標を計算するステップと、燃焼強度指標に基づいて、制御されない燃焼状態にエンジンがどれだけ近づいているかを記述するパラメータを特定するステップとを含む。
【0008】
別の例は、二元燃料内燃エンジンであって、エンジンの筒内圧力を測定し、対応する圧力信号を生成するよう構成された筒内圧力センサと、エンジンのクランク角を測定し、対応するクランク角信号を生成するよう構成されたクランク角センサと、圧力センサとクランク角センサとに結合可能なエンジン制御ユニットとを含む。エンジン制御ユニットは、圧力信号をサンプリングし、対応する圧力信号に基づいて燃焼強度指標を計算し、制御されない燃焼状態にエンジンがどれだけ近づいているかを記述するパラメータを特定し、パラメータと燃焼強度指標とのうちの1つ以上に基づいて、気筒へ送られる第1の燃料と第2の燃料との置換率を制御する、ように構成されている。
【0009】
別の例は、内燃のエンジンにおける制御されない燃焼を検出する方法である。その方法は、筒内圧力センサから、前記エンジンの筒内の測定圧力を表す圧力信号をサンプリングするステップと;前記圧力信号に基づいて、制御されない燃焼状態への前記エンジンの近さの指針である燃焼強度指標を計算するステップと;前記燃焼強度指標の関数として、エンジン制御パラメータを特定するステップと;前記エンジン制御パラメータに基づいて、前記エンジンを制御するステップと;を含む。
【0010】
実施によっては、前記内燃のエンジンは二元燃料内燃エンジンを備え、前記エンジン制御パラメータは、前記パラメータと前記燃焼強度指標とのうちの少なくとも一方に基づく第1の燃料と第2の燃料との置換率を含む。
【0011】
実施によっては、前記第1の燃料はディーゼルであり、前記第2の燃料は天然ガスである。
【0012】
実施によっては、前記燃焼強度指標は、前記筒内圧力センサのサンプリングと同じ燃焼サイクル内で計算される。
【0013】
実施によっては、方法は、前記圧力信号に基づいて、圧力指標、放熱指標、及びノック指標を計算するステップを含み、前記燃焼強度指標は、前記圧力指標、前記放熱指標、及び前記ノック指標の関数である。実施によっては、前記放熱指標は、前記エンジンの気筒内における燃焼の断熱放熱速度を含む。
【0014】
実施によっては、方法は、前記圧力信号に基づいて、以下の燃焼指標:ピーク筒内圧力、前記ピーク筒内圧力のクランク角、筒内圧力上昇率、筒内圧力変動、前記筒内圧力変動のクランク角、燃焼期間、放熱の勾配、前記放熱の幾何中心のクランク角;及び最大放熱速度のクランク角、のうち少なくとも1つを計算するステップを含む。
【0015】
実施によっては、前記燃焼強度指標は:前記ピーク筒内圧力、前記ピーク筒内圧力のクランク角、前記筒内圧力上昇率、前記筒内圧力変動、筒内変動のクランク角、前記燃焼期間、前記放熱の勾配、前記放熱の幾何中心のクランク角、及び前記最大放熱速度のクランク角、のうち少なくとも1つの関数である。
【0016】
実施によっては、前記燃焼強度指標は、少なくとも、前記ピーク圧力、前記圧力上昇率、前記圧力変動、前記燃焼期間、及び前記放熱の勾配、の関数である。
【0017】
実施によっては、方法は、前記燃焼強度指標及び前記パラメータのうちの少なくとも一方に基づいて、前記エンジンの、燃料入力信号と、スロットル位置信号と、点火タイミング信号と、を特定するステップを含む。
【0018】
また、別の例は、エンジンシステムの二元燃料内燃エンジンの運転を制御するコントローラ(制御装置)であって、前記エンジンシステムは、前記エンジンの気筒内の圧力を測定して対応する圧力信号を生成するように構成された圧力センサと、前記エンジンのクランク角を測定して対応するクランク角信号を生成するように構成されたクランク角センサとを含む。前記コントローラは、前記圧力センサと前記クランク角センサとに接続可能なプロセッサと、前記コントローラの前記プロセッサに、以下を含む操作、すなわち、(a)前記圧力信号をサンプリングすること、(b)前記圧力信号に基づいて、制御されない燃焼状態への前記エンジンの近さの指針である燃焼強度指標を計算すること、(c)前記燃焼強度指標に基づいて、前記気筒に送られる、第1の燃料と第2の燃料との置換率を特定すること、及び(d)前記置換率に基づいて前記二元燃料内燃エンジンを制御すること、を実行させるように操作可能な命令を格納する少なくとも1つの非一時的なコンピュータ読み取り可能媒体と、を含む。
【0019】
実施によっては、前記第1の燃料はディーゼルであり、前記第2の燃料は天然ガスである。
【0020】
実施によっては、ステップ(b)及びステップ(c)が前記気筒の次のサイクル内で行われる。
【0021】
実施によっては、前記命令は、前記圧力信号に基づいて、圧力指標、放熱指標、及びノック指標を計算するステップを含み、前記燃焼強度指標は、前記圧力指標、前記放熱指標、及び前記ノック指標の関数である。
【0022】
実施によっては、前記放熱指標を計算するステップは、前記エンジンの気筒内における燃焼の断熱放熱速度を計算するステップを含む。
【0023】
実施によっては、前記命令は、前記圧力信号に基づいて、以下の燃焼指標:ピーク筒内圧力、前記ピーク筒内圧力のクランク角、筒内圧力上昇率、筒内圧力変動、筒内圧力変動のクランク角、燃焼期間、放熱の勾配、前記放熱の幾何中心のクランク角、及び最大放熱速度のクランク角、のうち少なくとも1つを計算するステップを含む
【0024】
実施によっては、前記燃焼強度指標は:前記ピーク筒内圧力、前記ピーク筒内圧力のクランク角、前記筒内圧力上昇率、前記筒内圧力変動、前記筒内変動のクランク角、前記燃焼期間、前記放熱の勾配、前記放熱の幾何中心のクランク角、及び前記最大放熱速度のクランク角、のうち少なくとも1つの関数である
【0025】
実施によっては、前記燃焼強度指標は、少なくとも、前記ピーク圧力、前記圧力上昇率、前記圧力変動、前記燃焼期間、及び前記放熱の勾配、の関数である。
【0026】
実施によっては、前記命令は:前記燃焼強度指標及び前記パラメータのうちの少なくとも一方に基づいて、前記二元燃料内燃エンジンの、燃料入力信号と、スロットル位置信号と、点火タイミング信号とのうちの少なくとも1つを特定することと;前記燃料入力信号と、前記スロットル位置信号と、前記点火タイミング信号とのうちの少なくとも1つを用いて、前記二元燃料内燃エンジンを制御することと;を含む。
【0027】
また、別の例は、エンジンシステムの内燃エンジンの運転を制御するコントローラであって、前記エンジンシステムは、前記エンジンの筒内圧力を測定して対応する圧力信号を生成するように構成された圧力センサと、前記エンジンのクランク角を測定して対応するクランク角信号を生成するように構成されたクランク角センサとを含む。前記コントローラは:前記圧力センサと前記クランク角センサとに接続可能なプロセッサと、前記コントローラの前記プロセッサに、以下を含む操作、すなわち:(a)前記圧力信号をサンプリングすること、(b)前記圧力信号に基づいて、制御されない燃焼状態への前記エンジンの近さの指針である燃焼強度指標を計算すること、(c)前記燃焼強度指標の関数として、エンジン制御パラメータを特定すること、及び(d)前記エンジン制御パラメータに基づいて前記エンジンを制御すること、を実行させるように操作可能な命令を格納する少なくとも1つの非一時的なコンピュータ読み取り可能媒体と、を含む。
【0028】
本開示の特定の態様は以下の利点を有する。すなわち、置換率の高い二元燃料エンジンの損傷リスクが軽減される。燃焼強度指標には既知の機械的エンジン制限が用いられるので、制御されない燃焼の検出に必要な較正にかかる努力は大幅に削減される。また、特定の態様では、安全余裕度を取り入れることなく、常に最大の置換制御によりエンジンを運転することができ、二元燃料エンジンオペレータに対して、はるかに優れた価値を提案することになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1A】エンジン制御システムを含む内燃エンジンの気筒の断面概略図である。
【0030】
図1B】エンジン制御システムの概略図である。
【0031】
図1C】プロセッサとメモリとを有する例示のエンジン制御システムのブロック図である。
【0032】
図2】ガス置換の関数としての、処理された加速度計検出の効果のグラフである。
【0033】
図3】ガス置換率0%、60%、及び90%における筒内圧力及び振動トレースのプロット図である。
【0034】
図4】ガス置換比に対する振動ノック強度及び圧力ノック強度のプロット図である。
【0035】
図5A】ガス置換に対する様々な速度における圧力ノック強度の2次元等高線プロット図である。
【0036】
図5B】ガス置換に対する様々な速度における振動ノック強度の2次元等高線プロット図である。
【0037】
図6】制御されない燃焼への近さの尺度として、及びガス置換の関数として、伝統的なノック強度指標に対する燃焼強度指標の効果を示すグラフである。
【0038】
図7】ガス置換率0%、60%、及び90%における平滑化された放熱トレースのプロット図である。
【0039】
図8】ガス置換に対する様々な速度における燃焼強度の2次元等高線プロット図である。
【0040】
図9】ガス置換に対する全放熱の10%(901)、50%(902)、及び90%(903)の角度位置のプロット図である。
【0041】
図10】クランク角に対するガス置換率0%、60%、及び90%における筒内圧力のプロット図である。
【0042】
図11】クランク角に対するガス置換率0%、60%、及び90%での平滑化された放熱トレースのプロット図である。
【0043】
図12】ガス置換率(GSR)に対する燃焼強度及びノック強度の指標のプロット図である。
【0044】
図13】GSR80%にて、プロパンガス置換率(PSR)0%、10%、及び15%における筒内圧力トレースのプロット図である。
【0045】
図14】GSR80%にて、プロパンガス置換率(PSR)0%、10%、及び15%における平滑化された放熱トレースのプロット図である。
【0046】
図15】GSR90%での、プロパンガス置換率(PSR)に対する燃焼強度及びノック強度の指標のプロット図である。
【0047】
図16】マニホールド空気温度(MAT)に対する燃焼強度及びノック強度の指標のプロット図である。
【0048】
図17A】時間に対するGSR及びPSRのプロット図である。
【0049】
図17B】CI指標の応答に与えるプロパン添加を伴う正弦波GSRコマンドの効果を示す、図17A中の、時間に対する燃焼強度のプロット図である。
【0050】
図18A】時間に対するマニホールド空気温度(MAT)のプロット図である。
【0051】
図18B】燃焼強度指標の応答に与えるMATの効果を示す、図18Aの、時間に対する燃焼強度のプロット図である。
【0052】
図19】本開示の例示の態様のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
制御されない燃焼を検出する新たなアプローチを開示する。すなわち、燃焼強度(CI)であり、それは、制御されない燃焼の始まりを精確に予測できる圧力及び放熱の指標の数学的組み合わせを監視する。火花点火エンジン及び二元燃料エンジンから得られるデータにおいて、ノック型振動周波数に基づく従来のアプローチの欠点が露わになる。この従来アプローチは、極端に急速なエンドガス燃焼及びそれに続く高周波振動を生ずる激しい条件下では最適に機能する。しかし、この技術は、特に二元燃料燃焼において、信号を曖昧にしてしまうディーゼル燃焼変動がある場合、及び、特定のモードで周波数成分が通常の検出閾値を下回って減少する場合には、不十分である。対照的に、ここで述べるCI指標の実施の形態は、全運転ポイントにわたってガス置換が増加すると共に、そしてガス品質、マニホールド空気温度、又は他のエンジン条件が変化した場合であっても、単調な傾向をもたらす。これにより、最終的な制御作用経路が提供され、場合によっては、これを燃焼強度の目標に設計できる。これらのフェーズで遭遇するガス置換率(GSR)と燃焼強度の厳しさとは、様々なエンジン構成によって異なる場合があるが、ここに開示する本質的な燃焼現象は普遍的に関連する。
【0054】
ガスエンジンをリーン(希薄)/低NOx及び高BMEP限界までもっていき、ガス-ディーゼル二元燃料エンジンを高い置換率までもっていくと、ノック等の、性能を制限する急激な制御されない燃焼につながることがよくある。進行する異常燃焼の認知及び検出はエンジン保護の要である。本開示の態様は、火花点火エンジン及び二元燃料エンジンの両方の筒内圧力を用いて、制御されない燃焼の進行を検出する能力を含む。ガスエンジンの場合、圧力に基づくノック検出はすべてのノックサイクルを取り込むが、振動に基づくノック検出はかなりの割合で失われてしまう。二元燃料エンジンの場合、周波数に基づいて検出する古典的なアプローチにおいて激しい燃焼事象を検出できるが、連続的に増加する良好な信号は提供されない。これにより、エンジン制御と較正が非常に難しくなるので、安全余裕度を維持するようにより低い置換率で運転するのが普通である。こうした挙動は、筒内圧力変動を生成するディーゼル燃焼プロセスによるものである。
【0055】
用語「ノック」は、歴史的に、火炎前端の外側での可燃性ガス混合気の圧縮及び加熱による「自己着火」現象に概ね関連する「制御されない燃焼」を意味するように広く用いられてきた。制御された燃焼は、火炎の伝播に関連する燃焼質量分率の規則的な進行として特徴付けられるだろう。古典的なノックは、火炎から生ずる圧力と温度に起因して火炎の前方のエンドガスが自己着火するときに発生するであろうが、これは火炎の中でのことではない。自己着火すると気筒全体に圧力波が送られ、これが高周波圧力振動及び潜在的な振動ノイズとして検出される。
【0056】
制御されない燃焼は、放熱速度の不連続な突然の増加により特徴付けることができ、この放熱速度の突然の増加は圧力のトレース形状に現れるが、高周波圧力振動を誘発する場合としない場合とがある。制御されない燃焼が発端から激しいノックまで漸進的に激しさを増し、制御作用に十分な時間がある、火花点火エンジンとは異なり、二元燃料エンジンでの「制御されない燃焼」の開始は突然であり単調ではない。この「制御されない燃焼」が生じたとき、手遅れになるまでずっと筒内圧力に基づく又は振動に基づくノックセンサ信号で高周波振動が観測される、とは限らない。
【0057】
置換率がある点を超えると共に、振動ノックの特徴(特徴的な性質)は減少していくことが分かった。エンジンが、過剰なガス置換率、ガス品質の変化、又は他の悪影響に抗する保護のためにノックに依存している場合、安全なエンジン運転を維持しつつ信号フィードバックを漸進的に増やして置換を最大化する堅牢な制御システムが必要である。
【0058】
これを達成するための、制御されない燃焼の進行を正確に予測できる圧力と放熱指標との数学的な組み合わせを監視し、最終的な制御作用経路を提供する、制御されない燃焼を検出する新たなアプローチについて述べる。このアプローチにより、置換率は最大化され、ディーゼル二元燃料エンジンを、望ましい安全余裕度に維持できる。
【0059】
様々な速度と負荷とで置換率を変える試験を実施し、ディーゼル二元燃料エンジンで見ることができる様々な燃焼モードを示すことができた。このデータを用いて、二元燃料エンジンの制御されない燃焼を検出する良好なアプローチを特定し、用語「燃焼強度(CI)」を提案する。ここで述べる燃焼強度指標は、燃焼サイクルと同時に筒内圧力の直接監視に基づいているので、燃焼状態の連続的に増加する測定値を配送して良好な制御性与える一方、制御されない燃焼に抗する保護を改善する。
【0060】
先に述べたように、二元燃料エンジンにおいて、従来の周波数に基づく検出アプローチは激しい燃焼事象を検出できるが、その激しさに相関する連続的に増加する良好な信号を提供しない。このことは、エンジン制御及び較正を非常に難しくし、通常は、より低い置換率を推して安全余裕度を維持する。ガス置換率が低い場合、ディーゼルの自己着火は筒内に圧力変動を生成するので、ディーゼル燃焼プロセスが支配的になる。ガスが新気に追加されると、ディーゼル発火燃焼の強度が増加する-ガスはディーゼル始動燃焼の効果を増幅する。ただし、置換率が特定点を超えると、燃焼によりモードが「ディーゼル様」から「予混合ガス様」へ移行するにつれて振動ノックの特性が減少し、ガス置換を追加すると周波数に基づく成分が減少し始める。エンジンが過剰なガス置換率、ガス品質の変化、又は他の悪影響に抗する保護のために振動に基づくノックセンサに依存している場合、安全なエンジン運転を維持しつつ置換を最大化するために信号フィードバックを連続的に増加させる堅牢な制御システムが必要である。この問題を解決するには、二元燃料エンジンの制御されない燃焼を検出する新しいアプローチが必要である。
【0061】
ここで述べる解決策の一例は、エンジンが少なくとも1つの筒内圧力センサを含み、以下の燃焼指標、すなわち、ピーク圧力、ピーク圧力の位置、圧力上昇率、圧力変動、変動の位置、燃焼期間、及び放熱の勾配、放熱速度の幾何中心の位置、最大放熱速度の位置、が、エンジンの運転と同時に、場合によっては、リアルタイムで計算される。場合によっては、これらの指標を一緒に用いて、制御されない燃焼にエンジンがどれだけ近いかを特定する。この特定に基づいて、安全な運転を維持しつつエンジンをより高い置換率に持っていくことが許容される。
【0062】
二元燃料ガス/ディーゼル燃焼での最たる要求は、ここでは、ガス燃料を既存のディーゼルエンジンに添加することであるが、今あるエンジンの圧縮比、弁タイミング、及びピストンは変更されず、この方法はマイクロパイロットを含むすべての二元燃料ガス/ディーゼルエンジンに適用される。ガスは、通常、天然ガス、プロパン、又はバイオガスで構成され、単一ポイント-このポイントでガスがいぶされて吸気システムに導入される-又は、吸気弁の近傍にポート噴射されて吸気システムに導入される。場合によっては、二元燃料とは、今あるディーゼルエンジンの燃焼室への天然ガスの連続的な添加を指すであろう。ガス置換率が増加すると、ディーゼルエンジンは目標負荷を維持するために、等しいエネルギー比でディーゼル燃料量を減らすことにより「支配」するであろう。
【0063】
先ず、図1Aを参照すると、本開示の態様で使用できる例示のエンジンシステム100が示されている。エンジンシステム100には、エンジン制御ユニット102、空気/燃料モジュール104、点火モジュール106、及びエンジン101(ここでは往復エンジンとして示されている)が含まれる。図1Aは、例えば内燃エンジン100を示す。本開示の目的のために、エンジンシステム100を、気体燃料の往復ピストンエンジンとして説明する。場合により、エンジンは天然ガス燃料で作動する。エンジンは、燃料の種類(気体、液体(例えば、ガソリン、ディーゼル、及び/又はその他)、同相若しくは混合相の多種燃料、及び/又は別の構成)、並びに、エンジンの物理的構成(往復、バンケルロータリ、及び/又はその他の構成)の両方において、任意の別の種類の燃焼エンジンであってもよい。エンジン制御ユニット102、空気/燃料モジュール104、及び点火モジュール106は別々に示されているが、モジュール102、104、106は、単一のモジュールに結合されても、他の入力及び出力を有するエンジンコントローラの一部であってもよい。
【0064】
往復動エンジン101は、エンジン気筒108、ピストン110、吸気弁112、及び排気弁114を含む。エンジン101は、1つ以上の気筒108(図1Aには1つのみ示す)を有するエンジンブロックを含む。エンジン100は、気筒108、ピストン110、及びヘッド130によって形成される燃焼室160を含む。スパークプラグ120又は直接燃料噴射装置又は予燃焼室はヘッド130内に配置され、このヘッド130は点火装置が可燃性混合気にアクセスできるようにしている。一般に、用語「スパークプラグ」は、直接燃料噴射装置及び/又はスパークプラグ又は予燃焼室内の他の点火装置を指すことがある。スパークプラグの場合、スパークプラグ120のスパークギャップ122は燃焼室160内に配置される。場合によっては、スパークギャップ122は、小さなスペースの間に2つ以上の電極を配列している。電流が電極の1つに印加されると、電極間の小さなスペース(つまり、スパークギャップ)を埋める電気アークが生成される。レーザ点火器(イグナイタ)、高温表面点火器、及び/又はさらに他の種類の点火器を含む、他の種類の点火器を用いることができる。各気筒108内のピストン110は、上死点(TDC)位置と下死点(BDC)位置との間を移動する。エンジン100は、ピストン108が各気筒108内のTDC位置とBDC位置との間を移動し、クランクシャフト140を回転させるように、各ピストン110に接続されたクランクシャフト140を含む。TDC位置は、燃焼室160が最小容積となるピストン110の位置(すなわち、スパークプラグ120及び燃焼室160の上部に最も近いピストン110の位置)であり、BDC位置は、燃焼室160が最大容積となるピストン110の位置(すなわち、スパークプラグ120及び燃焼室160の上部から最も遠いピストン110の位置)である。
【0065】
気筒ヘッド130は、吸気通路131及び排気通路132を画成する。吸気通路131は、空気又は空気と燃料との混合気を、吸気マニホールド116から燃焼室160に導入する。排気通路132は、燃焼室160からの排気ガスを排気マニホールド118に導入する。吸気マニホールド116は、吸気通路131及び吸気弁112を通って気筒108に連通する。排気マニホールド118は、排気弁114及び排気通路132を介して気筒108から排気ガスを受け容れる。吸気弁112及び排気弁114は、電子的、機械的、液(油)圧的、又は空圧的に制御される各気筒の弁駆動組立体を介して、又はカムシャフト(不図示)を介して制御される場合がある。
【0066】
各気筒108内のTDC位置とBDC位置との間のピストン110の動きが、吸気行程、圧縮行程、燃焼又は動力行程、及び排気行程を画成する。吸気行程は、吸気弁112が開いていて、燃料/空気混合気が吸気通路131を介して燃焼室160に引き込まれている状態を伴う、スパークプラグ120から離れるピストン110の動きである。圧縮行程は、燃焼室160内に空気/燃料混合気があって吸気弁112及び排気弁114の両方が閉じられている状態でピストン110がスパークプラグ120へ向けて動くものであり、これによりピストン110の動きが燃焼室160内の燃料/空気混合気の圧縮を可能にする。燃焼又は動力行程は、燃焼行程後にスパークプラグ120がスパークギャップ122にアークを生成することにより燃焼室内の圧縮燃料/空気混合気に点火したときに生じる、ピストン110がスパークプラグ120から離れる動きである。点火された燃料/空気混合気は燃焼し、燃焼室160内の圧力を急速に上昇させ、ピストン110がスパークプラグ120から離れる動きに膨張力を加える。排気行程は、燃焼行程の後、ピストン110が排気通路118を介して燃焼ガスを排気マニホールド118へ排出できるように排気弁114が開いた状態で、スパークプラグ120へ向けてピストン110が動くものである。
【0067】
エンジン100は、燃料を吸気マニホールド116へ又は直接に燃焼室160へ向けるための、燃料噴射器、ガス混合器、他の燃料供給装置などの燃料供給装置124を含む。場合によっては、エンジン100は、燃焼室160への2つの燃料源を有する二元燃料エンジンである。
【0068】
場合によっては、エンジンシステム100は、ピストン/気筒を持たない別の種類の内燃エンジン101、例えばバンケルエンジン(つまり、燃焼室内のロータ)、を含むことができるだろう。場合によっては、エンジン101は、各燃焼室160に2つ以上のスパークプラグ120を含む。
【0069】
エンジン運転中、すなわち、燃焼室160での燃焼事象の間、空気/燃料モジュール104は、吸気マニホールド内の流入空気の流れに、燃焼室160へ入れる前に、燃料を供給する。スパークモジュール106は、スパークギャップ122のアーク生成のタイミングを調整することにより、燃焼室160内の空気/燃料の点火を制御する。スパークギャップ122のアークは、ピストン110の連続する各圧縮行程と燃焼行程との間の一連の点火事象の間に燃焼室160内の燃料/空気混合気の燃焼を開始する。各点火事象中に、スパークモジュール106は、点火タイミングを制御し、スパークプラグ120の一次点火コイルに電力を供給する。空気/燃料モジュール104は、燃料噴射装置124を制御し、場合によってはスロットル弁126を制御して、目標比の空気と燃料をエンジン気筒108へ送る。空気/燃料モジュール104は、エンジン制御モジュール102からフィードバックを受け、空燃比を調整する。スパークモジュール106は、スパークプラグと電気的に結合されて電源から電流が供給される点火コイルの作動を制御することによって、スパークプラグ120を制御する。ECU102は、以下に開示する本システムの態様に加えて、エンジン速度及び負荷に基づいてスパークモジュール106の作動を調整する。
【0070】
場合によっては、ECU102は、ECU102のプロセッサによって実行される統合ソフトウェアアルゴリズムとしてスパークモジュール106及び燃料/空気モジュール104を含み、それによって、エンジン全体に配置できる1つ以上のセンサ(不図示)から受信した入力に応じて、単一のハードウェアモジュールとして、エンジンを運転する。場合によっては、ECU102は、燃料/空気モジュール104及びスパークモジュール106の前述した運転に対応する別々のソフトウェアアルゴリズムを含む。場合によっては、ECU102は、燃料/空気モジュール104及びスパークモジュール106の前述した機能の実施又は制御を支援する個々のハードウェアモジュールを含む。例えば、ECU102のスパークモジュール106は、スパークプラグ120の点火コイルへの配電を調整するためのASICを含むかもしれない。エンジン100の運転パラメータを監視するための複数のセンサシステムがあり、これらセンサシステムには、例えば、クランクシャフトセンサ、エンジン速度センサ、エンジン負荷センサ、吸気マニホールド圧力センサ、筒内圧力センサなどを含んでもよい。一般に、これらのセンサは、エンジンの運転パラメータに応じて信号を生成する。例えば、クランクシャフトセンサ171はクランクシャフト140の角度位置を読み取り、これを示す信号を生成する。例示の実施の形態では、高速圧力センサ172は、エンジン100の運転中に筒内圧力を測定する。センサ171、172は、感知を促進するためにECU102へ直接に接続するかもしれないし、又は、場合によっては、1つ以上のセンサから高速データを取得するように構成されたリアルタイム燃焼診断及び制御(RT-CDC)ユニットに統合され、低速データ出力をECU102へ提供する。場合によっては、ここで述べる点火制御は、ECU102及びスパークモジュール106の作動を提供するスタンドアロン点火制御システムである。センサは、ECU102又はRT-CDCなどの制御モジュールの1つに統合することができる。他のセンサも可能であり、ここで述べたシステムは、上記のエンジン運転パラメータの感知を容易にするために、複数のそのようなセンサを含んでもよい。
【0071】
図1Bは、図1Aに示すエンジンシステム100のエンジン制御システム200の概略図である。図1Bは、エンジン101を制御するように構成された、エンジン制御システム200内のECU102を示す。上述のように、高速圧力データ272は複数の圧力センサ172によって生成され、複数の圧力センサ172は燃焼室へ直接アクセスするようそれぞれ取り付けられている。圧力信号272は、高いクランク同期速度で、例えば、0.25度の分解能又はエンジン101のサイクルあたり2880サンプルで、取り込まれる。この合成クランク角信号は、低分解能のクランク位置信号から生成される。例えば、典型的なクランク角エンコーダ171は、クランクを備えていて回転するディスク上の歯のエッジの通過を感知することによりクランク角信号215を生成し、クランク位置の分解能は歯の数に基づく。典型的な60-2歯ホイールの分解能は6度である。ただし、場合によっては、補間法を用いてエッジ間のスペースでクランク角を特定する。したがって、エッジ間の間隔は、以前に観察された歯の周期を、望ましい角度サンプリング分解能を達成するために必要なエッジの数で除したものを用いる。平均エンジン速度が一定の場合であっても見られるクランク歯間のわずかな変動を考慮して、エンコーダシステムは各エッジで再同期される。
【0072】
場合によっては、結果として得られた高分解能圧力信号272は、リアルタイム燃焼診断及び制御(RT-CDC)211モジュールの燃焼診断ルーチンに用いられ、以下詳細に検討するように、気筒ごと、サイクルごと、例えばIMEP、Pmax、CA50、燃焼品質、及び燃焼強度における燃焼診断218を生成する。その後、指標218は、フィードバック信号としてECU102に用いられてエンジン制御アクチュエータ設定219を調節することによって主要な燃焼性能特性を調整する。
【0073】
図1Cは、ここに開示するシステム及び方法の態様を有するように構成された例示のエンジン制御ユニット102のブロック図である。例示のエンジン制御ユニット102は、プロセッサ191と、メモリ192と、記憶デバイス193と、1つ以上の入力/出力インタフェースデバイス194とを含む。構成要素191、192、193、及び194のそれぞれを、例えばシステムバス195を用いて相互接続することができる。
【0074】
プロセッサ191は、エンジン制御ユニット102内で実行する命令を処理することができる。ここで用いる用語「実行」は、プログラムコードによってプロセッサが1つ以上のプロセッサ命令を実行する技術を指す。実施によっては、プロセッサ191はシングルスレッドプロセッサである。実施によっては、プロセッサ191はマルチスレッドプロセッサである。プロセッサ191は、メモリ192又は記憶デバイス193に格納された命令を処理することができる。プロセッサ191は、燃焼強度の計算などの操作を実行するかもしれない。
【0075】
メモリ192は、エンジン制御ユニット102内で情報を格納する。実施によっては、メモリ192はコンピュータ読み取り可能媒体である。実施によっては、メモリ192は揮発性メモリユニットである。実施によっては、メモリ192は不揮発性メモリユニットである。
【0076】
記憶デバイス193は、エンジン制御ユニット102に大記憶容量を提供できる。実施によっては、記憶デバイス193は、非一時的なコンピュータ読み取り可能媒体である。様々な異なる実装において、記憶デバイス193は、例えば、ハードディスクデバイス、光ディスクデバイス、ソリッドステートドライブ、フラッシュドライブ、磁気テープ、又は他の何らかの大容量記憶デバイスを含むことができる。入力/出力インタフェースデバイス194は、エンジン制御ユニット102に入力/出力操作を提供する。実施によっては、入力/出力インタフェースデバイス194は、筒内圧力センサ172、クランク角センサ171、又は他のエンジンセンサを含むことができる。
【0077】
実施例によっては、エンジン制御ユニット102は単一の集積回路パッケージ内に含まれている。この種のエンジン制御ユニット102は、プロセッサ191と1つ以上の他のコンポーネントとの両方が単一の集積回路パッケージ内に含まれている、及び/又は単一の集積回路として製造されており、マイクロコントローラと呼ばれることもある。実施によっては、集積回路パッケージは、入力/出力ポートに対応するピン、例えば、1つ以上の入力/出力インタフェースデバイス194との間で信号を通信するために用いることができるピン、を含む。
【0078】
ここで述べる概念の特定の態様は、サイクルごとの筒内の圧力情報も、以下のアルゴリズムも、収集及び処理する機能を包含する。
(I) ピーク圧力-1つの事象中の最大燃焼圧力
(II) 圧力上昇率-燃焼中の最大圧力上昇率
(III) 圧力変動-デルタPの合計、「圧力ベースのノック指数」としても既知である
(IV) 燃焼期間-CAx1とCAx2との間のクランク角度
(V) 放熱の勾配-燃焼プロセスの後半と比較した前半の燃焼プロセスの特定
(VI) ピーク圧の位置
(VII) 変動の位置
(VIII) 放熱速度の幾何中心の位置
(IX) 最大放熱速度の位置
【0079】
本開示の特定の態様では、エンジンを最大ガス置換まで安全に運転するために制御ループで用いることができる燃焼強度の数値を特定するために、上記に挙げた燃焼指標を用いる。二元燃料エンジンで見られる多くの異なるケースに対応するために、これらすべての指標が必要である。
【0080】
ここで開示する実現可能技術の一例は、放熱変化アルゴリズムであり、燃焼期間でもある。放熱の変化は、燃焼が加速する変曲点を正確に特定できるように、静的又は動的に特定できる。
【0081】
以前は、二元燃料エンジンでは、振動センサが用いられていたが、これらのセンサが検出できるのは、極端な自己着火に起因する激しいノックだけであった。従来の解決策では、デトネーション(異常爆発)を検出するために、加速度計を用いて周波数と振幅を特定していた。しかし、従来の解決策は、二元燃料エンジンではうまく機能しない。これは置換率が高くなると信号が減少するからである。そのため、制御されない燃焼への近さを把握することが非常に難しくなる。より高い置換率が要求される場合、コントローラが働き出すための閾値は、通常の二元燃料燃焼中の最高信号よりも大きくなければならない。安全なエンジン運転を維持するために、ノックの閾値は最高強度よりも低くすべきだが、図2に示すように許容置換率が制限されることになる。図2は、以下でより詳細に検討するように、例示のエンジンにおけるガス置換の関数として処理された加速度計の検出結果のプロット図である。この技術は、特定の二元燃料モードでディーゼル燃焼変動が信号をわかりにくくするため、また、後に高GSRですべての周波数成分が消失する場合に、特に二元燃料燃焼では機能せず、制御されない燃焼に対する安全余裕度の明確な指示を提供しない。燃焼状態を取り込むことができる、より堅牢な検出方法が必要である。これを念頭に置いて、燃焼強度(CI)指標を策定した。
【0082】
本開示の特定の態様は、置換率が増加し続けるにつれて、増加する検出信号を与えるように特定の組み合わせで用いることができるエンジン指標を計算するための直接筒内圧力計測方法の使用に関する。これにより、エンジンが、制御されない燃焼にどれだけ近いかを把握しながら、エンジンコントローラが最大限の置換を実現し、安全なエンジン運転を維持できる。CI指標の一例は、放熱速度及び圧力上昇率の指標の加重和で表されるが、圧力変動やピーク圧力などの古典的な指標も含まれる。場合によっては、CIは、多項式、加重和、指数若しくはべき法則の合計、又は非線形関数、CI=関数(ピーク圧力、圧力上昇率、圧力変動、燃焼期間、放熱の変化速度、ノック指数)など、上記で特定したパラメータのいずれかの数学的な組み合わせである場合がある。
【0083】
一例の燃焼強度指標は、以下の式1に示すようなパラメータの線形和として表される。
【0084】
式1:
CI=(a1・ピーク圧力)+(a2・圧力上昇率)+(a3・圧力変動)+(a3・燃焼期間)+(a4・放熱の変化速度)+(a5・ノック指数)
【0085】
このCI指標は、圧力に基づく情報及び放熱情報を用いるので、従来の振動に基づく検出の制限はない。場合によっては、CI指標は、圧力指標、放熱指標、及び古典的なノック指標の合計である。
【0086】
場合によっては、CI指標には、エンジンの機械的制限の知見を用いて簡単に調整できる実用的なエンジン制限が組み込まれている。場合によっては、このCI指標には、二次的な安全対策を講じるために、古典的なノック検出とピーク圧力制限も組み込まれている。CI指標は、実験室での較正中に圧力トレースで観察できる燃焼の定性的な感覚と良く相関する。図6に示す燃焼強度指標は、ガス置換の増加につれて、30%から94%まで徐々に増加する。以下の実施例1でより詳細に検討する図6は、ガス置換の関数として燃焼強度指標の結果を示し、制御されない燃焼への近さの尺度として燃焼強度指標対古典的ノック強度指標を示す。明確な線形制御作用経路を設定して、制御されない燃焼から望ましい安全余裕度を維持しながらガス置換を最大化するようにコントローラを目標にすることができる。場合によっては、燃焼強度指標は、制御されない燃焼にエンジンがどれほど近くで作動しているかを記述する(又は特定するために用いられる)。これにより、例えば、制御されない燃焼を起こさずに燃焼強度指標を用いてGSRの増加を制御することによって安全なエンジン運転を維持しながらGSRを増加させることによって、安全な運転を維持しながらエンジンをより高い置換率へ持っていくことができる。燃焼強度指標は、制御されない燃焼の可能性と共にCI指標が増加するため、例えば、現在の燃焼状態のより正確な「画像」を提供することにより、この安全な増加を可能にする。したがって、エンジン制御でCI指標を用いると、例えば、目標CI値を選択し、制御ループでCI指標を用いて目標CI内のGSRを最大化できる。場合によっては、CI指標は較正要件を軽減する。
【0087】
本開示の態様により、制御されない燃焼(デトネーション)は、従来の時間に基づく周波数領域においてもはや考慮されなくなるが、代わりに、実際のエンジン制限に基づく直接的な筒内圧力情報から考慮される。各態様により、置換率の高い二元燃料エンジンが損傷するリスクを軽減できる。燃焼強度指標が既知の機械的エンジン制限を用いるので、制御されない燃焼を検出するための較正努力は大幅に削減される。また、例示の実施では、安全余裕度を取り入れることなく、常に最大の置換制御によりエンジンを運転することができるので、二元燃料エンジンオペレータに対して、はるかに優れた価値を提案することになる。
【0088】
振動に基づく検出による例示の改善は、燃焼と同時に発生する放熱を取り込むことである。以下の実施例1で詳しく検討するが、図7に示す、ガス置換率(GSR)0%、60%、及び90%の平滑化された放熱トレースのプロット図に見られるように、これが天然ガスを添加する主たる効果である。天然ガスが添加されると、従来のディーゼル予混合スパイクが減少し、その後、60%では非常に活動的な放熱速度に進む。これを監視して燃焼強度の現在の状態を把握することができる。GSRが90%以上になると、燃焼は完全にガス支配となり、エンジンは火花点火エンジン又はマイクロパイロット着火ガスエンジンのように振舞う。
【0089】
CI指標は、以下の実施例に見られるように、燃焼状態の進行尺度であり、かつ、制御されない燃焼への近さを表す良好な指針である。
【0090】
実施例1
【0091】
ディーゼルと天然ガスの二元燃料エンジンの元であるディーゼル燃焼特性に対するガス添加の影響に関して研究を行い、元であるディーゼルエンジンの元からのエンジンの圧縮比は変更しなかった。この研究で用いた二元燃料エンジンの仕様を表1に示す。ウッドワード(Woodward)ノックセンサ(WLEKS)及びキスラー(Kistler)6058A圧電式筒内圧力センサを用いて、200kHzでサンプリングしたデュートロン(Dewetron)燃焼アナライザで、制御されない燃焼を記録した。化学エネルギー分割計算を用いてディーゼルの代わりにガスを用いる前に、エンジンはIMEP及びMATの100%ディーゼルを目標とする設定値で常に安定した運転状態になった。エンジンが作動している速度負荷マップの位置に応じて、ディーゼル燃料を上死点の前に2度から8度の間で噴射した。ガス置換率(GSR)を10%刻みで増やし、異なる速度と負荷ポイントで繰り返した。以下の図(図2乃至図11)に示すデータは、300燃焼サイクルにわたって平均化されている。この研究で用いた天然ガスのメタン価は約82で、メタンが84%、エタンが9%、プロパンが1%であった。
【表1】
【0092】
図3に、10bar(1MPa)のIMEP及び1400rpmで取り込まれた生の筒内圧力及び振動ノックのトレースの例をプロットする。図3は、1400rpm及び10barのIMEPでの、0%のガス置換率301(GSR)、60%のガス置換率302(GSR)、及び90%のガス置換率303(GSR)での筒内圧力及び振動トレースのプロット図である。図3では、0%ガス(100%ディーゼル)運転で、目に見える圧力変動(ディーゼル燃焼)が見られる。ガスがGSR0%から30%に増加すると(不図示)、全体的な燃焼は初期では落ち着いているが、ディーゼル燃焼が依然として支配的である。さらに60%まで増加したものが(第2の曲線)、振動センサ及び筒内圧力センサの両方で検出されるノック周波数成分の増加と共に、ノイズの多いディーゼル・ガス燃焼のゾーンが示されている。これは図2で見ることができ、圧力と振動のノック強度は60%GSRで最大に達する。GSR90%の場合、振動信号は最も落ち着いている(第3の曲線)。
【0093】
図4は、ガス置換比に対する振動及び圧力ノック強度のプロット図である。図3及び図4は課題を示している。すなわち、この運転ポイントでは、振動ノックの特性の強度はGSR0%から60%において増加し、これも図4に捉えられている。しかしその後、逆に、置換90%で最低値まで減少する-その直前には非常に激しい燃焼ノックを見て取れる(及び図2に示されているが、300サイクル以上は記録不能)。ガス置換が60%から85%にまで増加すると、燃焼後半ではガス燃焼がますます支配的になる。このフェーズでは、図4に見られるように、すべての周波数成分が消える。圧力変動又はノックのスペクトル成分の古典的な取り組みでは、ノック又は制御されない燃焼への接近を検出することが困難である。このことにより、制御されない燃焼の近くでエンジンが作動する場合、閉ループ制御を正確に実行することが困難であるので、エンジンコントローラにとって非常に難しい制御課題が生じる。これは、振動に基づくノックを軽度、中度、重度のノックとして検出でき、重度/激しいノックが発生する前にコントローラがエンジンパラメータを調整できる、火花点火ガスエンジンとは異なる。二元燃料エンジンでは振動センサを用いることができるが、極端な自己着火が存在することに起因する激しいノックをコントローラが検出できるだけである。ノックレベルを単調な範囲に保つために、オープンループテーブル又は、はるかに低い許容GSRを用いるのが賢明であろう。より高い置換率が要求される場合、コントローラが働き出すための閾値は、通常の二元燃料燃焼中の最高信号よりも大きくなければならない。安全なエンジン運転を維持するために、ノックの閾値は最高強度よりも低くすべきだが、図2に示すように許容置換率が制限されるだろう。
【0094】
図5Aは、ガス置換に対する様々な速度での圧力ノック強度の2次元等高線図であり、図5Bは、ガス置換に対する様々な速度での振動ノック強度の2次元等高線図である。図5A及び図5Bは、非単調かつ非線形傾向を示す。このことから、全体に行き渡る堅牢な制御を設計するのが難しいことが分かる。圧力ノック強度及び振動ノック強度の技術は、特定の二元燃料モードでディーゼル燃焼変動が信号をわかりにくくするため、また、後に高GSRですべての周波数成分が消失する場合に、二元燃料燃焼では機能せず、制御されない燃焼に対する安全余裕度の指示を明らかにしない。
【0095】
図6は、制御されない燃焼への近さの尺度として、及びガス置換の関数として、古典的なノック強度指標に対する燃焼強度(CI)の効果を示すグラフである。本開示のCI指標は、燃焼状態を捉えることのできる堅牢な検出方法である。図6は、CI指標が制御されない燃焼への近さを表す良い指針を提供することを示しており、場合によっては、CI指標は燃焼状態の進行尺度である。CI指標には、エンジンの機械的制限の知見を用いて調整できる実用的なエンジン制限が組み込まれている。実施によっては、上述の式1に示すように、CIは圧力変動やピーク圧力などの古典的な指標を含むことに加えて、放熱速度及び圧力上昇率の指標の加重合計である。場合によっては、このCI指標は、圧力ベースの情報と放熱情報とを用いるので、従来の振動に基づく検出の制限はない。場合によっては、このCI指標には、二次的な安全対策を講じるために、古典的なノック検出及びピーク圧力制限も組み込まれている。実施によっては、CI指標は、実験室での較正中に圧力トレースで観察できる燃焼の定性的な感覚と良く相関する。
【0096】
図7は、ガス置換率0%(701)、60%(702)、及び90%(703)での平滑化された放熱トレースのプロット図である。振動に基づく検出からの主な改善としては、リアルタイムでの放熱の取り込みである。図7に示すガス置換率(GSR)0%、60%、及び90%の平滑化された放熱トレースのプロット図に見られるように、これが天然ガスを添加する主な効果である。天然ガスが添加されると、従来のディーゼル予混合スパイクは減少し、その後、60%では非常に活発な結合放熱速度に向かって進む。これを監視して燃焼強度の現在の状態を知ることができる。GSRが90%以上で、燃焼は完全なガス支配となり、エンジンは火花点火エンジン又はマイクロパイロット着火ガスエンジンのように振舞う。
【0097】
再び図6を参照すると、ガス置換が30%から94%まで増加すると共に、CI指標は次第に増加する。明確な線形制御作用経路を設定して、制御されない燃焼に由来する望ましい安全余裕度を維持しながらガス置換を最大化するためにコントローラを標的にすることができる。この線形性は、図8に示される燃焼強度の2次元等高線図でも見られ、すべての速度にわたり単調な傾向がある。この指標の線形化に役立つCI計算の指標の1つは放熱速度である。というのは、図9に示すように、ガスがより多く添加されるにつれて燃焼期間後半の燃焼が速くなるからである。
【0098】
図9は、ガス置換に対する全放熱の10%(901)、50%(902)、及び90%(903)の角度位置のプロット図である。図9には、全放熱の10%、50%、及び90%のクランク角位置が示されている。これは、燃焼位相、着火遅延、燃焼割合を知ることに役立つ。ディーゼルがガスに置き換えられたため、噴射開始(SOI)とCA50はこの運転ポイントでは影響を受けず、燃焼位相があまり変化しなかったことを示している。CA90とCA50の間の角度間隔は、GSRが増加するにつれて急激に減少し、エンドガスのより速い燃焼を示している。さらに、GSRが0%から70%に増加すると、CA10はわずかに増加して着火遅れが大きくなった。気体が空気に取って代わると酸素濃度が低くなるので、混合気はより濃くなり、着火遅れは長くなる。それに対応して、ガス/空気混合気が濃くなると、エンドガスの自己着火の条件のように非常に短い燃焼期間がはっきりするまで継続して、火炎速度は連続的に増加する。上に示す運転ポイントでは、エンドガスの自己着火条件に達せず、GSRは94%に持っていかれ、この時点でディーゼル噴射装置の供給限界に達する。
【0099】
GSRを増加させると、図10及び図11の圧力と放熱速度のトレースに示すように、圧力に大きな変動があるエンドガスの自己着火につながる。図10は、クランク角に対するガス置換率0%(1001)、60%(1002)及び90%(1003)での筒内圧力のプロット図、図11は、クランク角に対するガス置換率0%(1101)、60%(1102)、及び90%(1103)での平滑化された放熱トレースのプロット図である。図12はガス置換率(GSR)に対する燃焼強度及びノック強度の指標のプロット図であり、激しいエンドガスノックが存在する場合、圧力と振動との両方のノック強度指標が燃焼強度と共に急激に増加することを示す。したがって、振動や圧力変動のスペクトル成分などの周波数に基づく検出技術は、強いノックが発生するまではっきりとは見えないようである。低負荷では、これらの振動又は圧力技術は、傾向が単調ではないため、ノックへの余裕度を明確に特定するのに不十分である。単純な閾値に基づく激しさを特定する場合、この実施例は、高い閾値レベルは、突然発生する可能性のある激しいエンジン損傷ノックの事象のみを捉えるであろうことを示す。激しさを定量化するために低い閾値レベルを用いたとしても、エンジンを、ガス置換50%~60%を超えるところまで持っていくべきではない。対照的に、現在のCI指標は、制御されない燃焼に対する保護を改善しながら、燃焼状態の連続的に増加する尺度を提供して制御性を高め、最大安全なガス置換(例えば、最大95%のガス置換)の増加をもたらす。
【0100】
実施例2
【0101】
実施例2では、天然ガスの代わりにプロパンを用いて、ガス品質の影響をシミュレートした。図13は圧力1301、1302、1303のトレース図、図14はは平滑化された放熱速度1401、1402、1403のトレース図であり、共に1800rpm、16bar(1.6MPa)のIMEP、及び固定の(全体の)ガス置換率80%にて、プロパン置換率(PSR)を0%から15%に増加したときのものである。このテストでのディーゼルの寄与は20%に維持され、プロパンは化学エネルギー分割計算を用いて5%のPSR単位で天然ガスの代わりに用いられた。プロット図は、プロパンのわずかな割合でさえ、目に見える大きな圧力振動を伴う急激な放熱と圧力上昇率を引き起こしたことを示している。図15は、プロパンガス置換率(PSR)に対するCI(1503)及びノック強度指標(1501、1502)のグラフであり、プロパンが添加されて非常に不安定な燃焼を示すにもかかわらず、CI指標は依然として信頼性があることを示している。
【0102】
図16は、マニホールド空気温度(MAT)に対する燃焼強度(1603)及びノック強度の指標(1601、1601)のプロット図である。図16は、制御されない燃焼への近さの検出における給気の温度又は密度の影響を示す。給気温度の上昇は、着火遅延、筒内温度上昇率、及びエンジンの自己着火傾向に影響を及ぼす可能性がある。1800rpm、16barのIMEPで、マニホールドの空気温度(MAT)が40℃から60℃まで上昇するときの各指標が比較されている。その結果、CI指標のみがMATに比例して増加し、制御されない燃焼の近さとして確実に用いることができるのに対し、他のノック強度指標は明確な傾向を提供しないことが示されている。
【0103】
実施例3及び実施例4
【0104】
ウッドワードの大型エンジン制御モジュール(LECM)を用いて、実際に組み込まれたECUでCI指標をテストし、AUX(補助の)モジュールを用いてリアルタイムでの燃焼フィードバックを実行できるようにした。燃焼の変化を検出するCI指標の感度を示すために、2つのケースがテストされた。図17A及び図17Bは最初のテストケースを示し、図17Aに示すように、50%のオフセット及び20%の振幅でGSR(1701)に対して正弦波が指令された。図17Bは、CI指標が強度0%から90%になったときにCI指標が変化によく応答したことを示している。その後、振幅は10%に減少し、CI指標はピークで50%の強度を示した。次に、正弦波が依然として指令されている間に、ガス品質の変化をシミュレートするために10%プロパン(1702)を天然ガスに置き換えた。CI指標(1701)は、より高い強度を示すことで変化を検出したことが分かる。
【0105】
第2のケースでは、図18Aに示すように、マニホールドの空気温度(MAT)を約55℃まで上げ、その後に急冷した。図18Bは、予想通り、MATが増加するにつれてCI指標が増加したことを示している。その結果、CI指標が外乱を非常によく検出することを示している。場合によっては、CI指標を用いて、定義された制限にエンジンを制御する。ここで開示するCI指標の態様は、較正の量も、二元燃料エンジンに対して考慮する安全余裕度の量も、大幅に減らすことができる。この検出方法により、より高い置換率を達成できるはずである。
【0106】
図19は、本開示の例示の態様のフローチャート1900である。エンジンコントローラ(ECU102など)は、筒内圧力センサから圧力信号をサンプリングし(ステップ1910)、圧力信号に基づいて、制御されない燃焼状態へのエンジンの近さの指針である燃焼強度指標を計算し(ステップ1920)、燃焼強度指標の関数としてエンジン制御パラメータを特定し(ステップ1930)、エンジン制御パラメータに基づいてエンジンを制御する(ステップ1940)。
【0107】
燃焼強度指標の計算など、本明細書で述べる主題の実施を、1つ以上のコンピュータプログラム製品、すなわち、有形のプログラム担持体へ、エンコードされたコンピュータプログラム命令の1つ以上のモジュールとして実装することができ、有形のプログラム担持体は、例えば、処理システムによる実行のための、又は、処理システムの操作を制御するためのコンピュータ読み取り可能媒体である。コンピュータ読み取り可能媒体は、機械読み取り可能記憶装置、機械読み取り可能記憶基板、メモリデバイス、又はそれらの1つ以上の組み合わせであり得る。
【0108】
用語「エンジン制御ユニット」は、例として、プログラム可能なプロセッサ、コンピュータ、又は複数のプロセッサ若しくはコンピュータを含む、データを処理するためのすべての装置、デバイス、及び機械を含んでもよい。処理システムには、ハードウェアに加えて、対象となるコンピュータプログラムの実行環境を作成するコード、例えば、プロセッサファームウェア、プロトコルスタック、データベース管理システム、オペレーティングシステム、又はこれらの組み合わせの1つ以上を構成するコードを含むことができる。
【0109】
コンピュータプログラム(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、スクリプト、実行可能ロジック、又はコードとしても既知)は、コンパイル若しくはインタプリタ言語、又は宣言型若しくは手続き型言語を含む、あらゆる形式のプログラミング言語で書くことができ、スタンドアロンプログラムとして、あるいはモジュール、構成要素、サブルーチン、又はコンピューティング環境での使用に適したその他のユニットなどとして、任意の形式で展開できる。コンピュータプログラムは、必ずしもファイルシステム内のファイルに対応する必要はない。プログラムは、他のプログラム又はデータを保持するファイルの一部(例えば、マークアップ言語の文書に格納されている1つ以上のスクリプト)、対象のプログラム専用の単一ファイル、又は複数の調整されたファイル(例えば、1つ以上のモジュール、サブプログラム、又はコードの一部を格納するファイル)に格納することができる。コンピュータプログラムは、1つのコンピュータ上で、又は1つのサイトに配置されているか若しくは複数のサイトにわたって分散されていて通信ネットワークによって相互接続されている複数のコンピュータ上で、実行されるように展開できる。
【0110】
コンピュータプログラムの命令及びデータを格納するのに適したコンピュータ読み取り可能媒体には、不揮発性又は揮発性メモリ、媒体及びメモリデバイスのあらゆる形式を含み、例として半導体メモリデバイス、例えば、EPROM、EEPROM、フラッシュメモリデバイス;磁気ディスク、例えば、内蔵ハードディスク又はリムーバブルディスク又は磁気テープ;光磁気ディスク;並びにCD-ROM、DVD-ROM、及びBlu-Rayディスクが含まれる。プロセッサ及びメモリを、専用論理回路によって補完するか又は組み込むことができる。
【0111】
頭字語/略語:
ATDC=上死点後
BTDC=上死点前
CA50=50%の質量分率燃焼の位置(クランク角度ATDC)
CAN=コントローラエリアネットワーク
COV=変動係数
ECU=エンジン制御ユニット
EGR=排気ガス再循環
HCCI=均一予混合圧縮着火
IMEP=図示平均有効圧(bar)
IVC=吸気弁閉角度
LTC=低温燃焼
MAP=マニホールド絶対圧力(bar)
MAT=マニホールド絶対温度(K)
NOx=窒素酸化物
PCCI=予混合圧縮着火
Ploc=ピーク圧力の位置(クランク角度ATDC)
Pmax=最大筒内圧力(bar)
R&D=研究開発
RCCI=反応度制御圧縮着火
RPR=圧力上昇率(bar/クランク角度)
RT-CDC=リアルタイム燃焼診断及び制御
SOC=燃焼開始(クランク角度ATDC)
【0112】
多くの実施の形態について述べた。それにもかかわらず、様々な改変を行えるかもしれないことが分かるであろう。したがって、他の実施の形態は以下の特許請求の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0113】
100 エンジンシステム
101 エンジン
102 エンジン制御ユニット
171 クランクシャフトセンサ
172 圧力センサ
191 プロセッサ
192 メモリ
193 記憶デバイス
215 クランク角信号
218 指標
219 エンジン制御アクチュエータ設定
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18A
図18B
図19