(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】溶接金属
(51)【国際特許分類】
B23K 35/30 20060101AFI20230210BHJP
B23K 35/368 20060101ALI20230210BHJP
【FI】
B23K35/30 320B
B23K35/30 A
B23K35/368 B
(21)【出願番号】P 2020540660
(86)(22)【出願日】2018-10-04
(86)【国際出願番号】 AT2018000083
(87)【国際公開番号】W WO2019068118
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-06-04
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520119747
【氏名又は名称】フェーストアルピネ ブューラ ベルディンク オーストリア ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホリー、シルビア
(72)【発明者】
【氏名】グロス、フォルカー
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-028372(JP,A)
【文献】特開2012-055899(JP,A)
【文献】特開2008-260609(JP,A)
【文献】特開2016-183396(JP,A)
【文献】米国特許第04294614(US,A)
【文献】特開平10-128578(JP,A)
【文献】特開平08-267282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
B23K 35/368
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.15~0.25重量%、
Mn:8.5~10.0重量%、
Cr:15.5~16.0重量%、
Ni:12.5~13.5重量%、
W:2.0~3.0重量%、
Ti:0.07~0.15重量%、
を含み、残部が鉄である、溶接金属。
【請求項2】
前記溶接金属が、
Si:0.5~0.7重量%、
V:0.07~0.11重量%、
Co:0.08~0.16重量%、
Al:0.005~0.02重量%、
のうちの少なくとも1つを更に含む、請求項1に記載の溶接金属。
【請求項3】
C:0.2重量%、
Mn:9.0重量%、
Cr:15.6重量%、
Ni:12.8重量%、
W:2.2重量%、
Ti:0.08重量%、
を含み、残部が鉄である、請求項1に記載の溶接金属。
【請求項4】
前記溶接金属が、
Si:0.6重量%、
V:0.09重量%、
Co:0.09重量%、
Al:0.015重量%、
のうちの少なくとも1つを更に含む、請求項3に記載の溶接金属。
【請求項5】
前記溶接金属は、600MPaより大きい引張強さを有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶接金属。
【請求項6】
前記溶接金属は、605MPaより大きい引張強さを有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶接金属。
【請求項7】
前記溶接金属は、少なくとも610MPaの引張強さを有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶接金属。
【請求項8】
前記溶接金属は、+20℃で80Jより大きいノッチバー衝撃エネルギーを有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶接金属。
【請求項9】
前記溶接金属は、+20℃で90Jより大きいノッチバー衝撃エネルギーを有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶接金属。
【請求項10】
前記溶接金属は、+20℃で少なくとも100Jのノッチバー衝撃エネルギーを有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶接金属。
【請求項11】
前記溶接金属は、-196℃で50Jより大きいノッチバー衝撃エネルギーを有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の溶接金属。
【請求項12】
前記溶接金属は、-196℃で55Jより大きいノッチバー衝撃エネルギーを有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の溶接金属。
【請求項13】
前記溶接金属は、-196℃で少なくとも60Jのノッチバー衝撃エネルギーを有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の溶接金属。
【請求項14】
前記溶接金属は、30%を超える破断時の伸びA5を有することを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の溶接金属。
【請求項15】
前記溶接金属は、35%を超える破断時の伸びA5を有することを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の溶接金属。
【請求項16】
充填粉末と、前記充填粉末を封入するシースとを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の溶接金属を製造するためのルチルフラックス入りワイヤ電極であって、前記充填粉末は、0.1~2.0重量%の炭素と、30~40重量%のマンガンと、2.5~3.0重量%のクロムと、11~17重量%のニッケルと、6.5~8重量%のタングステンと、1~3重量%チタンと、20~30重量%のTiO
2とを含むことを特徴とするルチルフラックス入りワイヤ電極。
【請求項17】
前記充填粉末は、0.5~2重量%のケイ素、0.001~0.1重量%のリン、0.001~0.1重量%の硫黄、0.01~0.1重量%のモリブデン、0.5~2重量%のアルミニウム、3~6重量%の鉄、5~15μg/gのホウ素、および/または400~800μg/gのビスマスをさらに含むことを特徴とする、請求項16に記載のルチルフラックス入りワイヤ電極。
【請求項18】
前記充填粉末は、
C:0.8~1.2重量%、
Mn:33~37重量%、
Cr:2.6~2.9重量%、
Ni:13~15重量%、
W:7~7.5重量%、
Ti:1.5~2.5重量%、
TiO
2:22~28重量%、
を含むことを特徴とする、請求項16または17に記載のルチルフラックス入りワイヤ電極。
【請求項19】
前記充填粉末は、
Si:1~1.5重量%、
P:0.005~0.02重量%、
S:0.005~0.05重量%、
Mo:0.02~0.07重量%、
Al:1~1.5重量%、
B:8~12μg/g、
Fe:4~5重量%、
Bi:600~700μg/g
のうちの少なくとも1つを更に含む、請求項18に記載のルチルフラックス入りワイヤ電極。
【請求項20】
前記充填粉末のC、Mn、Ni、W、Ti、TiO
2
のうちの少なくとも1つが、
Cが1.0重量%、
Mnが35.90重量%、
Crが2.70重量%、
Niが14.20重量%、
Wが7.10重量%、
Tiが2.0重量%、
TiO
2が25重量
%
を満たす、請求項18に記載のルチルフラックス入りワイヤ電極。
【請求項21】
前記充填粉末のSi、P、S、Mo、Al、B、Fe、Biのうちの少なくとも1つが、
Siが1.20重量%、
Pが0.007重量%、
Sが0.010重量%、
Moが0.03重量%、
Alが1.20重量%、
Bが10μg/g、
Feが4.60重量%、
Biが625.5μg/
g
を満たす、請求項19に記載のルチルフラックス入りワイヤ電極。
【請求項22】
前記充填粉末は、電気アーク安定剤をさらに含むことを特徴とする、請求項16~21のいずれか一項に記載のルチルフラックス入りワイヤ電極。
【請求項23】
前記シースは、
C:0.001~0.015重量%、
Si:0.30~0.60重量%、
Mn:0.90~1.30重量%、
Cr:18.0~19.5重量%、
Ni:9.70~10.5重量%、
を含むことを特徴とする、請求項16~22のいずれか一項に記載のルチルフラックス入りワイヤ電極。
【請求項24】
前記シースは、
N:0.01~0.03重量%、
P:0.01~0.025重量%、
S:0.001~0.01重量%、
Mo:0.05~0.30重量%、
Cu:0.05~0.20重量%、
Al:0.01~0.03重量%、
Co:0.05~0.20重量%
のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項23に記載のルチルフラックス入りワイヤ電極。
【請求項25】
前記シースは、
C:0.008重量%、
Si:0.40重量%、
Mn:1.10重量%、
Cr:18.60重量%、
Ni:10.10重量%、
を含むことを特徴とする、請求項16~22のいずれか一項に記載のルチルフラックス入りワイヤ電極。
【請求項26】
前記シースは、
N:0.015重量%、
P:0.01~0.025重量%、
S:0.001~0.01重量%、
Mo:0.05~0.30重量%、
Cu:0.05~0.20重量%、
Al:0.01~0.03重量%、
Co:0.05~0.20重量%
のうちの少なくとも1つをさらに含むことを特徴とする、請求項25に記載のルチルフラックス入りワイヤ電極。
【請求項27】
前記充填粉末の重量は、前記フラックス入りワイヤ電極の重量の25~35%を構成することを特徴とする、請求項16~26のいずれか一項に記載のルチルフラックス入りワイヤ電極。
【請求項28】
前記充填粉末の重量は、前記フラックス入りワイヤ電極の重量の29%を構成することを特徴とする、請求項16~26のいずれか一項に記載のルチルフラックス入りワイヤ電極。
【請求項29】
前記シースは、閉じたストリップから構成されることを特徴とする、請求項16~28のいずれか一項に記載のルチルフラックス入りワイヤ電極。
【請求項30】
前記シースは、重なり合う、閉じたストリップから構成されることを特徴とする、請求項16~28のいずれか一項に記載のルチルフラックス入りワイヤ電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接金属、並びに充填粉末および充填粉末を封入するシースを備えた本発明に係る溶接金属を製造するためのルチルフラックス入りワイヤ電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体ガスの輸送および貯蔵容器の材料、例えばオーステナイト系CrNi鋼、特に溶接継手には、高圧および低温が発生するため、高度の要求が課されている。その結果、使用される材料は、この種の用途に適するために、適切な機械的特性、特に低温での十分な靭性を有する必要がある。
【0003】
従来技術から、溶接金属にニッケル系の添加剤を使用することが知られているが、これらは一方では、高価であり、他方では、母材とは異なる熱膨張係数を有し、望ましくない残留応力の増加につながるという欠点を有する。さらに、溶接金属の強度は母材の強度より低いため、溶接金属が容器の弱点となる。
【0004】
溶接金属を製造するために、例えば以下の合金元素:
C:0.2重量%、
Si:0.4重量%、
Mn:10.5重量%、
Cr:17.5重量%、
Ni:14.0重量%、
W:3.5重量%、
残部:Fe
のオーステナイト構造を含む、塊状ワイヤ電極が使用される。
【0005】
この塊状ワイヤ電極から生成される溶接金属は、以下の機械的特性を有する。
引張強さRm:600MPa
+20℃でのノッチバー衝撃エネルギーCV:80J
-196℃でのノッチバー衝撃エネルギーCV:50J
破断時の伸びA5:30%
【0006】
ニッケルおよびマンガンは、オーステナイト/フェライト相転移温度の低下を引き起こす。これにより、特に低温で、ノッチバー衝撃エネルギー/温度曲線の過程が低温に移行し、溶接金属の靭性が増加する。タングステンは強力な特別な炭化物形成剤であり、溶接金属の靭性がさらに増加するように微細な粒子の形成を促進する。
【0007】
塊状ワイヤ電極は、特に、溶接作業中に支持スラグが形成されないので、位置溶接性に欠けるという欠点を有する。
【0008】
この問題を解決するために、溶接金属を製造するためのルチルフラックス入りワイヤ電極が知られている。ルチルフラックス入りワイヤ電極の充填材は、一般的に、ルチル(TiO2)、SiO2と鉄粉の混合物、および部分的にチタンやホウ素などのマイクロ合金元素で構成される。充填粉末はシースに入れられ、これによって溶接ワイヤが形成される。
【0009】
ルチルフラックス入りワイヤ電極は、とりわけ、高い溶接速度および高い溶着性能を提供しながら、同時に優れたシーム品質を確保する。スラグはシーム表面を酸化から保護し、さらに、拘束された位置の溶接、特に垂直溶接シームで支持効果を提供する。急速に凝固するルチルスラグにより、良好な支持効果が保証され、位置溶接でより高速の溶接速度を使用できるようになる。その上、スラグの除去性は非常に良好であり、スラグは部分的に自己分離することさえある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
既知のルチルフラックス入りワイヤ電極は、塊状ワイヤ電極とは異なり、機械的特性がより低く、特に低温でよりノッチバー衝撃エネルギーが低いという溶接金属の欠点を有する。
【0011】
したがって、本発明は、上で特定された欠点が回避または低減されるように溶接金属を改善することを目的とする。特に、良好な機械的特性を示す溶接金属、とりわけ低温での高いノッチバー衝撃作用と良好な位置溶接性が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するために、第1の態様に係る本発明は、以下の参照解析を含む最初に定義された種類の溶接金属を提供する。
C:0.15~0.25重量%、
Mn:8.5~10.0重量%、
Cr:15.5~16.0重量%、
Ni:12.5~13.5重量%、
W:2.0~3.0重量%、
Ti:0.07~0.15重量%、
任意選択で追加の成分、特に、
Si:0.5~0.7重量%、
V:0.07~0.11重量%、
Co:0.08~0.16重量%、
Al:0.005~0.02重量%、
残部:鉄。
【0013】
以下の参照解析を含む溶接金属が特に好ましい。
C:0.2重量%、
Mn:9.0重量%、
Cr:15.6重量%、
Ni:12.8重量%、
W:2.2重量%、
Ti:0.08重量%、
任意選択で追加の成分、特に、
Si:0.6重量%、
V:0.09重量%、
Co:0.09重量%、
Al:0.015重量%、
残部:鉄。
【0014】
この参照解析に対応する溶接金属は、特に良好な機械的特性、特に低温での高いノッチバー衝撃強さを有し、さらに良好な溶接特性、特に良好な位置溶接性を示すことが判明した。
【0015】
好ましくは、溶接金属はオーステナイト構造を有する。
【0016】
特に好ましくは、溶接金属が、600MPaより大きい、好ましくは605MPaより大きい、特に好ましくは少なくとも610MPaより大きい引張強さ(EN ISO 6892-1による引張試験で測定)を有することが提供される。
【0017】
さらに、溶接金属は、+20℃で80Jより大きい、好ましくは90Jより大きい、特に好ましくは少なくとも100Jのノッチバー衝撃エネルギーを有することが好ましくは提供される。
【0018】
溶接金属は、-196℃で、50Jを超える、好ましくは55Jを超える、特に好ましくは少なくとも60Jのノッチバー衝撃エネルギーを有することが好ましくは提供される。
【0019】
この場合のノッチバー衝撃エネルギーは、DIN EN ISO 148-1によるノッチバー衝撃曲げ試験で決定される。
【0020】
溶接金属は、30%を超える、好ましくは35%を超える破断時の伸びA5を有することが好ましい。破断時の伸びは、EN ISO 6892-1による引張試験で決定され、この場合、試験片の元の測定長さL0と元の直径d0の比は5である。
【0021】
第2の態様によれば、本発明は、充填粉末と、充填粉末を封入するシースとを含む、本発明による溶接金属を製造するためのルチルフラックス入りワイヤ電極であって、充填粉末は、0.1~2.0重量%の炭素と、30~40重量%のマンガンと、2.5~3.0重量%のクロムと、11~17重量%のニッケルと、6.5~8重量%のタングステンと、1~3重量%チタンと、20~30重量%のTiO2とを含むルチルフラックス入りワイヤ電極を提供する。このようなフラックス入りワイヤ電極は、特に良好な機械的技術特性を示し、同時に良好な溶接性を提供する上記の溶接金属の製造を可能にする。
【0022】
充填粉末は、0.5~2重量%のケイ素、0.001~0.1重量%のリン、0.001~0.1重量%の硫黄、0.01~0.1重量%のモリブデン、0.5~2重量%のアルミニウム、3~6重量%の鉄、5~15μg/gのホウ素、および/または400~800μg/gのビスマスをさらに含むことが好ましい。これにより、溶接金属の機械的特性をさらに向上させることができる。
【0023】
特に好ましくは、充填粉末は、以下の参照解析を有する。
C:0.8~1.2重量%、特に1.0重量%、
Mn:33~37重量%、特に35.90重量%、
Cr:2.6~2.9重量%、特に2.70重量%、
Ni:13~15重量%、特に14.20重量%、
W:7~7.5重量%、特に7.10重量%、
Ti:1.5~2.5重量%、特に2.0重量%、
TiO2:22~28重量%、特に25重量%、
任意選択で、
Si:1~1.5重量%、特に1.20重量%、
P:0.005~0.02重量%、特に0.007重量%、
S:0.005~0.05重量%、特に0.010重量%、
Mo:0.02~0.07重量%、特に0.03重量%、
Al:1~1.5重量%、特に1.20重量%、
B:8~12μg/g、特に10μg/g、
Fe:4~5重量%、特に4.60重量%、
Bi:600~700μg/g、特に625.5μg/g。
【0024】
フラックス入りワイヤ電極の溶接特性をさらに改善するために、充填粉末が電気アーク安定剤をさらに含むことが好ましい。
【0025】
特に好ましくは、以下の参照解析を含むシースが提供される。
C:0.001~0.015重量%、
Si:0.30~0.60重量%、
Mn:0.90~1.30重量%、
Cr:18.0~19.5重量%、
Ni:9.70~10.5重量%、
任意選択で、
N:0.01~0.03重量%、
P:0.01~0.025重量%、
S:0.001~0.01重量%、
Mo:0.05~0.30重量%、
Cu:0.05~0.20重量%、
Al:0.01~0.03重量%、
Co:0.05~0.20重量%。
【0026】
P、S、Mo、Cu、Co、およびAlについては、可能な限り低い値を到達すべきである。
【0027】
特に良好な溶接特性は、以下の参照解析を含むシースで達成される。
C:0.008重量%、
Si:0.40重量%、
Mn:1.10重量%、
Cr:18.60重量%、
Ni:10.10重量%、
任意選択で、
N:0.015重量%、
P:0.01~0.025重量%、
S:0.001~0.01重量%、
Mo:0.05~0.30重量%、
Cu:0.05~0.20重量%、
Al:0.01~0.03重量%、
Co:0.05~0.20重量%。
【0028】
さらに、充填粉末の重量は、フラックス入りワイヤ電極の重量の25~35%、好ましくは29%を構成することが好ましい。この値は、充填率とも呼ばれる。
【0029】
充填率は、好ましくは、フラックス入りワイヤ電極が本発明の第1の態様に係る溶接金属を堆積するように選択される。
【0030】
シース内の充填粉末の安全な保持を確実にするために、シースは、好ましくは重なり合う、閉じたストリップから構成されることが提供される。これにより、充填粉末を計量して成形ストリップとし、続いて成形ストリップを閉じることにより、シースの簡単で効率的な製造が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下では、本発明を、例示的な実施形態によってより詳細に説明する。そこでは、シースおよび充填粉末を含むルチルフラックス入りワイヤ電極が、溶接金属を製造するために使用された。充填粉末は、次の参照解析を有する。
C:1.0重量%、
Mn:35.90重量%、
Cr:2.70重量%、
Ni:14.20重量%、
W:7.10重量%、
Ti:2.0重量%、
TiO2:25重量%、
Si:1.20重量%、
P:0.007重量%、
S:0.010重量%、
Mo:0.03重量%、
Al:1.20重量%、
B:10μg/g、
Bi:625.5μg/g、
残部:鉄。
【0032】
シースは、次の参照解析を有する。
C:0.008重量%、
Si:0.40重量%、
Mn:1.10重量%、
Cr:18.60重量%、
Ni:10.10重量%、
N:0.015重量%。
【0033】
溶接金属はそれぞれ、オーステナイト系CrNi鋼の2つのプレートをそれぞれ1.2mmの溶接ワイヤ直径により接続するための不活性ガス溶接プロセスによって製造され、以下の溶接パラメータが適用された。
溶接電圧:23~29V
溶接ワイヤ送り速度:7~10m/分
【実施例】
【0034】
実施例1
第1の例示的な実施形態では、以下の参照解析を有する溶接金属が、上記のルチルフラックス入りワイヤ電極を使用して生成された。本実施例のフラックス入りワイヤ電極の充填率は29%である。
C:0.20重量%
Mn:9.3重量%
Cr:16.0重量%
Ni:12.7重量%
W:2.2重量%
Ti:0.10重量%
Si:0.7重量%
V:0.10重量%
Co:0.10重量%
Al:0.011重量%
残部:鉄。
【0035】
純粋な溶接金属の以下の材料特性が、すなわち、母材、例えば熱影響ゾーンの影響なしに測定された。
引張強さRm:613MPa
+20℃でのノッチバー衝撃エネルギーCV:104J
-196℃でのノッチバー衝撃エネルギーCV:60J
破断時の伸びA5:36%
【0036】
実施例2
第2の例示的な実施形態では、以下の参照解析を有する溶接金属が、上記のルチルフラックス入りワイヤ電極を使用して生成された。実施例1と比較して、充填粉末は、Mn、Ni、Al、およびWの重量%の値が減少し、CoおよびTiの値が増加している。代わりに、電気アーク安定剤とスラグ形成成分が変更された。本実施例のフラックス入りワイヤ電極の充填率は29%である。
C:0.20重量%
Mn:8.8重量%
Cr:16.0重量%
Ni:12.6重量%
W:2.0重量%
Ti:0.15重量%
Si:0.7重量%
V:0.10重量%
Co:0.12重量%
Al:0.007重量%
残部:鉄。
【0037】
溶接金属の以下の材料特性が測定された。
引張強さRm:610MPa
+20℃でのノッチバー衝撃エネルギーCV:106J
-196℃でのノッチバー衝撃エネルギーCV:62J
破断時の伸びA5:41%。
【0038】
実施例3
第3の例示的な実施形態では、以下の参照解析を有する溶接金属が、上記のルチルフラックス入りワイヤ電極を使用して生成された。実施例1と比較して、充填粉末は、MnおよびWの重量%の値が減少し、Niの値が増加している。さらに、実施例1とは異なり、Si、V、Co、およびAlは充填粉末に含まれていない。代わりに、電気アーク安定剤およびスラグ形成成分が変更された。本実施例のフラックス入りワイヤ電極の充填率は29%である。
C:0.18重量%
Mn:9.2重量%
Cr:15.8重量%
Ni:12.9重量%
W:2.15重量%
Ti:0.1重量%
残部:鉄。
【0039】
溶接金属の以下の材料特性が測定された。
引張強さRm:625MPa
+20℃でのノッチバー衝撃エネルギーCV:90J
-196℃でのノッチバー衝撃エネルギーCV:50J
破断時の伸びA5:35%
【0040】
比較例
比較例として、先行技術から既知のフラックス入りワイヤ電極を使用して、以下の参照解析を有する溶接金属が生成された。
C:0.14重量%
Mn:8.3重量%
Cr:15.6重量%
Mo:0.11重量%
V:0.07重量%
Co:0.08重量%
Al:0.0001重量%
Ni:12.4重量%
W:1.9重量%
Ti:0.2重量%
残部:鉄。
【0041】
溶接金属の以下の材料特性が測定された。
引張強さRm:567MPa
+20℃でのノッチバー衝撃エネルギーCV:73J
-196℃でのノッチバー衝撃エネルギーCV:37J
破断時の伸びA5:35%
【0042】
したがって、本発明による3つの例示的な実施形態では、従来技術によるフラックス入りワイヤ電極(比較例)よりも優れた機械的特性が達成されている。