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特許72243765つの異なるタイプの銅化合物を含む抗菌および/または殺生物活性を有する微細構造のマルチコンポジット銅微粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】5つの異なるタイプの銅化合物を含む抗菌および/または殺生物活性を有する微細構造のマルチコンポジット銅微粒子
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/20 20060101AFI20230210BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20230210BHJP
   A01N 25/12 20060101ALI20230210BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230210BHJP
   C01G 3/10 20060101ALI20230210BHJP
   C08K 3/105 20180101ALI20230210BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20230210BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230210BHJP
【FI】
A01N59/20 Z
A01N25/10
A01N25/12 101
A01P3/00
C01G3/10
C08K3/105
C08K3/30
C08L101/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020567150
(86)(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 IB2018053819
(87)【国際公開番号】W WO2019229495
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】520465633
【氏名又は名称】コッパープロテック エセペア.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラビン カラスコ、ハビエル イグナシオ
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0003635(US,A1)
【文献】国際公開第2017/113033(WO,A1)
【文献】特表2005-516982(JP,A)
【文献】特表2008-534708(JP,A)
【文献】国際公開第2007/010787(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/20
A01N 25/10
A01N 25/12
C01G 3/10
C08K 3/10
C08K 3/30
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌および/または殺生物活性を有する銅微粒子であって、各微粒子が、5つの異なる銅化合物、すなわち、アントレライトCu +2(SO)(OH)、ブロシャン銅鉱Cu +2SO(OH)、胆礬(Chalcantite)Cu+2SO・5HO、ナトロカルサイトNaCu +2(SOOH・HOおよび水和硫酸銅水酸化物Cu(SO(OH)・4HO/2CuSO・Cu(OH)を含む規則的な結晶性の微細構造組成を有することを特徴とするものであり、前記微粒子のサイズが5~50μmである、銅微粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の抗菌および/または殺生物活性を有する銅微粒子であって、前記微粒子のサイズが5~50μmであることを特徴とする、銅微粒子。
【請求項3】
請求項1に記載の抗菌および/または殺生物活性を有する銅微粒子であって、前記微粒子のサイズが10~15μmであることを特徴とする、銅微粒子。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の抗菌および/または殺生物活性を有する銅微粒子であって、他の金属および非金属抗菌化合物を更に含み得ることを特徴とする、銅微粒子。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の抗菌および/または殺生物活性を有する銅微粒子を調製するためのプロセスであって、
a)可溶化硫酸銅を蒸留水中に1:10w/wの比率にて溶かして溶液を調製するステップと、
b)ステップa)で得られた前記溶液に、10%w/vの水酸化ナトリウム溶液および蒸留水を添加して、pH4~6の溶液を得るステップと、
c)24時間後に、上澄みと水酸化銅ゲルである沈殿物とを分離するステップと、
d)ステップc)で得られたゲル状態の前記沈殿物を、蒸留水中に1:5w/vの比率にて溶かして調製された硫酸銅溶液に乳化してエマルジョンを得るステップと、
e)ステップd)で得られた前記エマルジョンを入口温度220℃~280℃、および出口温度80℃~100℃にて噴霧乾燥機を用いて乾燥プロセスに供するステップと、
を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項6】
抗菌および/または殺生物活性を有する濃縮高分子組成物(マスターバッチ)であって、請求項1~4の何れか1項に記載の銅微粒子と少なくとも1つのポリマーもしくは樹脂とを含むことを特徴とする、濃縮高分子組成物(マスターバッチ)。
【請求項7】
前記ポリマーまたは樹脂が、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン-酢酸ビニル(EVAゴム)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、メタクリレート(PMMA)、ポリエステル、脂肪族ポリアミド、ポリテレフタラミド、アラミド(芳香族ポリアミド)、剛性および可撓性のポリエチレン、またはシリコーンである、請求項6に記載の濃縮高分子組成物(マスターバッチ)。
【請求項8】
請求項6または7に記載する濃縮高分子組成物(マスターバッチ)を、前記ポリマーまたは樹脂の押し出し成型プロセス中に組み込んで、前記ポリマーまたは樹脂を溶融して成形される、繊維、フィラメントまたはシート。
【請求項9】
請求項1~4の何れか1項に記載の銅微粒子を含有する少なくとも1つのポリマーもしくは樹脂を含む、繊維、フィラメントまたはシート。
【請求項10】
請求項1~4の何れか1項に記載の抗菌および/または殺生物活性を有する銅微粒子の、接触した際に抗菌および/または殺生物活性を発揮してその効果を持続させる材料を調製するための使用。
【請求項11】
請求項6または7に記載の抗菌および/または殺生物活性を有する濃縮高分子組成物(マスターバッチ)の、接触した際に抗菌活性を発揮してその効果を持続させる材料を調製するための使用。
【請求項12】
請求項6または7に記載の抗菌および/または殺生物活性を有する濃縮高分子組成物(マスターバッチ)の、接触した際に抗菌活性を発揮してその効果を持続させる多層シートを調製するための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌および/または殺生物活性を有する微細構造化されたマルチコンポジット銅微粒子で、該微粒子の構造内に5つの異なるタイプの銅化合物:アントレライトCu +2(SO)(OH)、ブロシャン銅鉱Cu +2SO(OH)、胆礬(Chalcantite)Cu+2SO・5HO、ナトロカルサイトNaCu +2(SOOH・HO、硫酸銅水酸化物Cu(SO(OH)・4HO/2CuSO・Cu(OH)を含み、該銅化合物が全て規則的且つ結晶性であり、微粒子の有利な構造特性を説明するものである、該マルチコンポジット銅微粒子に関する。微細構造化されたマルチコンポジット微粒子の均一な組成により、5つの異なる各銅化合物の異なる放出速度特性を材料全体にわたって均一にすることを可能としている。本材料において、微粒子構造が存在する全ての場所で同時に、各銅化合物の抗菌および/または殺生物効果が個別に履行される。これらの化合物が均質に且つ均一に分布している理由は、同じ微細構造の微粒子に5つの銅化合物が含まれていることに起因している。また、これにより、用量が少量で済むようになり、材料の半透明特性にも寄与している。
【0002】
微細構造のマルチコンポジット微粒子の製造プロセスは、ゲル状態の水酸化銅の分散液を調製することと、この分散液を、溶媒として硫酸銅の水溶液で乳化することと、この分散液/溶液の直後に、熱風流での噴霧乾燥プロセスを行うことと、からなる。
【0003】
また、抗菌および/または殺生物活性を有する材料の製造における微粒子の使用も、開示されている。
【0004】
また、本発明の範囲は、濃縮高分子組成物(マスターバッチ)を含み、このマスターバッチは、記載の微細構造のマルチコンポジット銅微粒子とポリマーもしくは樹脂とで構成されている。これらは、他の/様々な材料中に配合することによって、該材料に対し抗菌および/または殺生物活性を付与することを可能としている。マスターバッチは、特に、抗菌および/または殺生物活性を有する多層シートの構造化に利用される場合がある。
【背景技術】
【0005】
成長増殖の制御を目的とした、ポリマーおよび樹脂における銅塩および銅微粒子の適用
多剤耐性微生物の出現は、現在使用されている薬剤の場合と同様、耐性を獲得することなしに細菌増殖に対抗し得る、新規な化合物の探索を誘発してきた(Betancourt et al.2016)。
【0006】
ナノテクノロジーの発達によって、寸法マイクロメートルからナノメートル程度であり得る材料、すなわち抗菌剤として極めて有望な特性を呈する材料を作製することが可能となってきた(Chatterjee et al.2014)。ナノ粒子およびマイクロ粒子は、独立に、または他の分子のトランスポーターとして機能する能力があり、表面積、体積、および構造の特性によって生物学的応答を誘発し得る(Chatterjee et al.2014)。
【0007】
ナノ粒子およびマイクロ粒子を形成するのに使用される化学元素の1つが、銅である。銅の化合物および複合体は、液体、固体、および人体組織の消毒用の製剤および製品に使用されてきた(Delgado et al.2011)。
【0008】
先行技術とは異なる文書には、抗菌性および/または殺生物特性を有する製品を製造する目的で、銅化合物および銅ナノ/微粒子を固体に組み込むことが記載されてきた。
【0009】
織物タイプの材料および繊維の事例では、米国特許第8183167号(B1)号という文献に、抗菌活性を示す銅および/または銀ナノ粒子と共有結合している布地基材が開示されている。
【0010】
米国特許第5458906(A)号という文献には、生分解性基質を抗菌性化合物、とりわけ銅で処理する方法が提示されている。米国特許第7754625(B2)号には、抗菌剤と接合されている1つ以上の天然もしくは合成繊維またはフィラメントであって、前記抗菌剤が、優勢な量の水溶性亜鉛塩と、少なくとも1つの抗菌性銀イオン源および少なくとも1つの銅イオン源と組み合わせて含む、該繊維またはフィラメントを含む、抗菌織物について記載されている。
【0011】
米国特許第7169402(B2)号という文献には、イオン性銅の微細粒子をカプセル化した抗菌性および抗ウイルス性の高分子材料であって、形成対象となる製品の表面に該微細粒子が含まれる、該高分子材料が提示されている。
【0012】
CL201300332号、すなわち国際公開第2014117286(A1)号という文献には、植物、動物、合成由来、またはそれらの様々な比率の混合物からなる堅固なマトリックスであって、CuSO(OH)に対応する抗菌化合物が含有されている該マトリックスが、開示されている。
【0013】
CL201500921号という文献には、銅化合物、混合銅微粒子またはナノ粒子に対応する抗菌剤を組み込んだセルロースベースの材料が、開示されている。銅微粒子またはナノ粒子を添加するためのステップを含む、セルロースベースの材料を製造するための方法が、収録されている。
【0014】
一方、CL201503652号という文献には、表面保護抗菌活性を呈する半透明の接着フィルム、銅、キトサン、ゼラチン、およびグルタルアルデヒドのナノ粒子を含む接着フィルムが、提示されている。
【0015】
特に食品産業向けに、食品をパッケージングするための様々な材料が開発されてきた。国際公開第2014001541(A1)号、国際公開第2012127326(A1)号、および国際公開第2000053413(A1)号という文献には、抗菌性および/または殺生物特性を有する食品パッケージングに用いることを用途とする銅粒子含有の高分子材料の製造に関して記載されている。これらの文献において想定されている材料としては、銅化合物または銅粒子が挙げられ、銅粒子のなかでも主要とされているのが、酸化銅である。
【0016】
抗菌特性を付与するためのマトリックスおよび高分子材料における異なるタイプの担体またはそれらの混合物上に支持された銅化合物および銅微粒子の添加に関して、過去の前例がいくつかあるが、この提案は銅の酸化状態に関して異なる。銅の酸化状態は、銅の種類の溶解度に影響を及ぼし、結果として、高分子材料からの銅の放出挙動にも影響を及ぼす。更には、使用された種々の担体は、必要不可欠な粒子を嵩張らせる傾向がある。
【0017】
パッケージングまたは容器用の抗菌性および/または殺生物特性材料に関しては、容器にて迅速且つ瞬時に放出することによって、食品上の微生物(RAM細菌)がパッケージング時に存在していて、表面成長により劣化を引き起こすのを抑制する必要がある。また、中期的放出も必要とされる理由は、とりわけ、各操作の特定の取り扱い、温度変化、および保管によって引き起こされるアウトブレイク(outbreak)を防止する目的からである。したがって、事実上、材料に含まれる銅微粒子は、抗菌および/または殺生物効果を可能にする銅濃度を維持しながら、即時的、継続的、および経時的な残留放出を可能にする溶解度(Kps)を有していることだけでなく、この化合物に関連する毒性または接触している食品への過剰な移動を回避することを可能にする銅濃度を有していることも必要とされる。言い換えれば、銅濃度を低下させた場合でも、抗菌および/または殺生物効果に改良の施されたことが認められる材料が、必要とされる。
【発明の概要】
【0018】
本発明の微粒子の特定の組成物は、半透明性材料の作製を可能にしており、この能力は、食品パッケージング材料の場合、重要な特性とされる。なぜなら、粒子を支持し嵩張らせる担体が皆無である場合、材料に対し半透明性が付与されるからである。
【0019】
本発明の事例では、5種類の銅化合物からなる銅微粒子であって、各タイプの銅化合物の溶解度(Kps)がそれぞれ異なる該銅微粒子を製造することが、提案されている。一方で、水分と接触すると瞬時に解離する硫酸銅化合物、すなわち速放性銅化合物(Kps=4×10-36)を存在させることによって、該銅化合物が配合された材料において直接的且つ即時的な抗菌および/または殺生物効果をもたらすことを可能としている。他方、低溶解度の化合物である水酸化銅化合物(Kps=2.2×10-14)を存在させることによって、殺菌および/または殺生物効果が付与され、この効果が経時的に持続することになる。本微粒子は、5つの異なる銅化合物を独自の非転写性品質で提供できるという利点を有し、この利点は、最終的なポリマーに導入されたとき、またはそれらが配置された場所にて、同じ場所もしくは物理的空間にて提供されるものである。
同じ場所および物理的空間にて、個々の各化合物の全ての品質および利点を同時に提供することは、用量を低く抑えることが必要とされる場合に不可欠な条件とされ、この目的は、抗菌および/または殺生物効果を損なうことなしに、接触している製品に渡される可能性のある銅が放出されるのを回避すると共に、半透明性が失われるのを回避すること、ならびに、時間が経過しても、全て同じ場所において、均質な形態にて、高レベルの自由循環銅イオンを要さない食品または他のタイプの製品もしくは表面に接触した際にも、効果を維持することにある。したがって、5つの各銅化合物の抗菌および/または殺生物効果は、本発明による微粒子の特定の組成に起因して、均質に且つ低用量にて提供することを可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の銅微粒子の標本の走査型電子顕微鏡画像である。a)10.00 KX倍率にて得られた画像。b)2.50 K X倍率の画像。c)500X y倍率の画像。d)100X倍率にて得られた画像である。
図2】EDS検出器と走査型電子顕微鏡とを併用して判別された、本発明の銅微粒子の元素組成である。a)微粒子を構成する元素炭素、酸素、硫黄、および銅のマッピングの結果が、提示されている。b)本発明の銅微粒子の元素組成の図を示す。
図3】本発明の銅微粒子の試料のX線回折パターンである。■により表されるディフラクトグラムは、アントレライトCu +2(SO)(OH)に対応し、◆はブロシャン銅鉱Cu +2SO(OH)に対応し、●は胆礬(Chalcantite)Cu+2SO・5HOに対応し、▲はナトロカルサイトNaCu +2(SOOH・HOに対応し、且つ▼は水和硫酸銅水酸化物Cu(SO(OH)・4HO/2CuSO・Cu(OH)に対応している。
【発明を実施するための形態概要】
【0021】
発明の詳細な説明
本発明は、微細構造化されたマルチコンポジット銅微粒子で、その組成に5つの異なるタイプの銅化合物:アントレライトCu +2(SO)(OH)、ブロシャン銅鉱Cu +2SO(OH)、胆礬(Chalcantite)Cu+2SO・5HO、ナトロカルサイトNaCu +2(SOOH・HO、および水和硫酸銅水酸化物Cu(SO(OH)・4HO/2CuSO・Cu(OH)・4HOを含み、該銅化合物が全て規則的且つ結晶性であり、微粒子の有利な構造特性を与えるものである、該マルチコンポジット銅微粒子に関する。本発明の範囲の一部である微粒子は、サイズが5~50μm、特に10~40μm、より具体的には10~15μmと定義されている。
【0022】
上記の微粒子は、下記のステップ:
a)可溶化硫酸銅を蒸留水中に1:10w/wの比率にて溶かして溶液を調製することと、
b)ステップa)で得られた溶液に、10%w/vの水酸化ナトリウム溶液および蒸留水を添加して、pH4~6の溶液を得ることと、
c)24時間後に、上澄みと水酸化銅ゲルである沈殿物とを分離することと、
d)ステップc)で得られたゲル状態の沈殿物を、蒸留水中に1:5w/vの比率にて溶かして調製された硫酸銅溶液に乳化することと、
e)ステップd)で得られたエマルジョンを、好ましくは入口温度220℃~280℃、および好ましくは出口温度80℃~100℃にて噴霧乾燥機を用いて乾燥プロセスに供することと、を含む方法により生成される。
【0023】
指示された範囲の温度でタイプの噴霧乾燥機の乾燥機を使用してステップd)を実行する際に、生成された微粒子の各々には、下記5種類の銅化合物:アントレライトCu +2(SO)(OH)、ブロシャン銅鉱Cu +2SO(OH)、胆礬(Chalcantite)Cu+2SO・5HO、ナトロカルサイトNaCu +2(SOOH・HO、および水和硫酸銅水酸化物Cu(SO(OH)・4HO/2CuSO・Cu(OH)・4HOが含有されており、該銅化合物は、成分の混合物またはその凝集体とは同等でないが、寧ろ、逆に、5つの化合物を含む単一の微細構造微粒子である。
【0024】
本発明の範囲は、プラスチック業界または他の材料(呼称:マスターバッチ)において使用するための濃縮高分子複合材料であって、材料中に配合することによって、抗菌および/または殺生物活性を付与し得る、記載の銅微粒子とポリマーもしくは樹脂とを備える、該濃縮高分子複合材料を含む。マスターバッチは、特に但し排他的にではなく、抗菌および/または殺生物活性を有する多層シートの形成に、利用される場合がある。
【0025】
本発明が解決しようとする技術的問題は、5種類の銅からなる新規なタイプの微粒子を提供することにある。本微粒子の規則的で結晶性の微細構造の組成物は、銅イオンの制御放出を可能にし、抗菌性および/または殺生物特性を付与するものである。
微粒子に含まれる5つの異なる銅化合物の放出差の動力学は、接触した際の一次的な抗菌および/または殺生物効果、ならびに該微粒子中に存在する他の種類の銅が二次的におよび引き続き放出されることに起因して、抗菌および/または殺生物効果を経時的に持続させることを可能にしている。他方、これらの特性を備えた銅微粒子は、微粒子を組み込み、上記の技術的特徴および利点を備えた抗菌および/もしくは殺生物活性を有するフィルム、シート、または構造を製造することを目的に、押し出しプロセス中に、剛性鋳型、繊維、フィラメント、およびシートを形成する用途に使用される溶融ポリマー中に組み込み得る濃縮高分子組成物またはマスターバッチの一部を形成することを可能としている。
【0026】
また、この構造化微粒子は、直接または混合して使用することによって、該微粒子の配置された場所で抗菌および/または殺生物効果を発揮することも可能としている。
【0027】
5種類の銅を全く同一の微粒子の一部として標的化しプレースメント(placement)することによって、該微粒子の解離度および放出度に関して実質的な技術的利点がもたらされる。更に、この複数の組成物を構成する本銅微粒子を添加することによって、微粒子の分散が改善される。なぜなら、アントレライトCu +2(SO)(OH)、ブロシャン銅鉱Cu +2SO(OH)、胆礬(Chalcantite)Cu+2SO・5HO、ナトロカルサイトNaCu +2(SOOH・HO、および水和硫酸銅水酸化物Cu(SO(OH)・4HO/2CuSO・Cu(OH)・4HOは、材料全体にわたって同じ比率にて存在することから、該5種類を均質に分布させ、有利にも極めて少量にて抗菌および/または殺生物活性を達成することを可能としているだけでなく、本微粒子の配合される材料、とりわけ、パッケージング、カバーフィルムもしくは剛性鋳型などの、半透明性にもまた寄与するものである。加えて、本微粒子に含まれる全ての化合物は結晶形であり、規則的な非アモルファス構造を維持することによって、特定の特性を有する特定の一般構造を定義することを可能にしている。
【0028】
本発明はまた、銅微粒子および濃縮高分子組成物(マスターバッチ)の使用を提供する。このマスターバッチは、接触した際に抗菌および/または殺生物活性を発揮してその効果を持続させる材料を調製するうえで有用とされる。微粒子に含まれる成分の微細構造構成により、材料を細菌および/または病原体と接触した場合、同時に銅化合物と直接接触して、接触した際に即時的な抗菌および/または殺生物効果を発揮する。また、5つの異なる銅化合物が存在し、該銅化合物の溶解度および/または解離度がそれぞれ異なることから、本開示の微粒子の抗菌および/または殺生物活性の効果を持続させることも可能となっている。
【0029】
本発明において、その材料が「殺生物活性」を有することが指摘されている場合、この殺生物活性とは、微粒子が細菌および真菌の発生ならびに成長を阻害できることを意味する。
【0030】
材料に「抗菌作用」がある旨が陳述されている場合、微粒子が細菌の増殖を阻害または妨害するものであることを意味する。
【0031】
本発明において、「微細構造化」という用語は、材料(この場合は微粒子)が、該材料を形成する一組の相または成分からなることを意味する。材料科学の分野では、材料の微細構造がその特性を決定すると言われている。
【0032】
本発明において、「マルチコンポジット」という用語は、本微粒子が同時に、或る特定の異なる化合物群を含むことを意味する。
【0033】
「マスターバッチ」という用語は、製造される材料に組み込まれる要素の予備混合物を含んだ、濃縮高分子組成物を指す。
【0034】
本発明の範囲に含まれる材料としては、限定されるものではないが、とりわけ、ポリマー、繊維、布地、ガラスの種類、樹脂を挙げることができる。ポリマー類としては、限定されるものではないが、とりわけ、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン酢酸ビニル(EVAゴム)が挙げられる。
【0035】
本発明の一実施形態では、抗菌作用を有する他の金属および非金属化合物を、更に微粒子中に含める場合がある。これらの化合物としては、限定されるものではないが、とりわけ、亜鉛化合物、鉛化合物、カドミウム化合物、銀化合物が挙げられる。
【0036】
以下に提示されている例示的な用途は、その範囲を限定することなしに、本発明の一実施形態を例証したものである。
【実施例
【0037】
例示的な用途
実施例1:銅微粒子の生産
100g/lの5水和硫酸銅を含有の硫酸銅溶液をアルカリ化して、微粒子を構成する水酸化銅を、調製する。これにより完全に溶解する溶液が生成される。次いで、水酸化ナトリウムまたは別のアルカリをOH塩基で希釈して10%水溶液とする必要がある。この溶液をゆっくりと攪拌しながら、pHが4~6に達するまで調製済み硫酸銅溶液に添加して、後続の反応を発生させる。
CuSO4(ac)+2Na(OH)(ac)・Cu(OH)2(s)+NaSO4(ac)
【0038】
この反応により、ゲル状態の溶液中に水酸化銅の沈殿物が生成され、24時間後に上澄みが除去される。
【0039】
結果として得られた水酸化銅含有の沈殿物を、硫酸銅溶液に1:5の比率で乳化させる。硫酸銅の可溶化イオン相と水酸化銅などのゲル形態の別の懸濁液を含有する本懸濁液を、入口温度220~280℃、および出口温度80℃~100℃にて、噴霧乾燥機を使用して、乾燥プロセスに供する。
【0040】
実施例2:銅微粒子の特性評価
実施例1に記載されているプロトコールを使用して、生成された銅微粒子の構造、サイズ、および分布を特性評価する目的で、走査型電子顕微鏡(SEM)分析を実施した。
【0041】
走査型電子顕微鏡(SEM)、Penta FET Precision検出器、Oxford InstrumentsX-actにてEDSモードを用いたZeissモデルEVOMA10を使用して、SEM分析を実施した。この分析は、(固体)銅微粒子粉末の代表的な標本をスキャンすることと、代表的なエリアを選択し、微粒子の元素組成を判別することと、から構成されていた。
【0042】
SEM画像の倍率を変えることにより観察されたように、本粒子は規則的な球形状および不均質なサイズ分布を有する(図1a~図1d)。顕微鏡と結合されたEDS検出器によって、微粒子の元素組成を判別し、銅、硫黄、および酸素の元素で構成されていることを確認した(図2a~図2d)。
【0043】
粒子のサイズに関して、粒子の2つの独立した標本から撮影された画像の4つの独立した代表的な領域を、評価した。粒子のマイクロメートルサイズを、7~22マイクロメートルとして算定した(表1を参照)。
【表1】
【0044】
微粒子の特定の化学組成を判別し、含有されている銅の種類の酸化状態を判別することを目的に、X線回折分析を実施した。この分析に基づき、様々な化合物を存在させることによって、X線回折パターンを判別した(図3)。
【0045】
微粒子中に存在する化合物を定義する目的から、結晶性粉末PDF-2データベースを参照し、得られたパターンと比較した。本発明の微粒子が、5種類の銅化合物:アントレライト、ブロシャン銅鉱、胆礬(Chalcantite)、ナトロカルサイト、および水和硫酸銅水酸化物(表2)からなることが判別された。
【表2】
【0046】
実施例3:マスターバッチの調製
多層ポリマーシートに対する銅微粒子の添加
実施例2に記載の微粒子は、異なる高分子材料および樹脂に配合することで、多層繊維とシートの形成を可能としている。本実施例には、濃縮高分子組成物(マスターバッチ)を調製する際に従うプロトコール、およびそのマスターバッチを、樹脂およびポリマー中に配合するための条件が、記載されている。
【0047】
a)濃縮高分子組成物(マスターバッチ)の調製
マスターバッチを調製するため、高分子材料および微粒子の予混合物を調製する。この目的に合わせて、樹脂または高分子材料を、ミルで粉砕し、次いで微粒子と冷間混合する。
【0048】
予混合物を、樹脂またはポリマーのタイプに応じて、120~250℃の温度で溶融する。ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、PET、EVAゴムをペレット押出機に通して、マスターバッチと呼称されるペレットを生成する。
【0049】
b)多層材料形成用の溶融ポリマー押し出しプロセスに対するマスターバッチの取り込み
マスターバッチを、使用する溶融ポリマーの押し出しプロセスに加えることによって、繊維、フィラメントおよびシートのような剛性もしくは可撓性のポリマーを形成する場合もある。この手順によって製造されるシートの場合、各シートが厚さ5~120μm、より具体的には5~30μmの多層構造に対応することができる。つまり、PE、PA、PPおよび/またはPETなどの高分子樹脂のこれらの層を2、3、更には5つ収容し得る最終材料を形成することを可能としている。
【0050】
実施例4:微細構造の銅微粒子を備える多層高分子材料の抗菌および/または殺生物効果
微細構造の銅微粒子を含む多層材料の抗菌および/または殺生物効果を評価するため、異なるポリマーで構成された多層材料の表面で以前に増殖させた細菌培養物の添加からなる試験を実施した。大腸菌(Escherichia coli)および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する抗菌および/または殺生物効果を評価した。
【0051】
多層材料を、細菌の増殖に必要な温度で24時間インキュベートした。インキュベーション期間が経過すると、材料上のコロニー形成単位の計数が実行された。これを、銅の微粒子を含まない材料と比較した。マスターバッチに添加されたポリマーのタイプに応じて、2種類のシーティング:1)ポリプロピレンおよび銅微粒子で作られたシーティング(マスターバッチに2%w/wを添加);および2)マスターバッチに微細構造の銅微粒子が添加されたエチレン酢酸ビニル(EVAゴム)製シーティングを試験した。
【0052】
結果から示唆されるように、ポリプロピレンと微細構造銅微粒子(マスターバッチに2%w/wを添加)で構成されるシーティングのコロニー形成単位(CFU)数を、マスターバッチのコンポーネントを含まない対照シーティングと比較すると、銅微粒子は、CFUの量が99%減少し、細菌数が3桁減少した(表3)。エチレン酢酸ビニル(EVAゴム)と銅微粒子で構成されたシーティングの場合、対照材料と比較してマスターバッチを構成するシーティングで試験された細菌のCFU数の減少を反映して、同等の現象が観察された(表4)。
【表3】

【表4】

図1
図2
図3