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特許7224466アラミドナノ繊維を含む高分子複合素材およびその製造方法
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  • 特許-アラミドナノ繊維を含む高分子複合素材およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】アラミドナノ繊維を含む高分子複合素材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/38 20060101AFI20230210BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20230210BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20230210BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20230210BHJP
   C08L 71/10 20060101ALI20230210BHJP
   C08L 77/10 20060101ALI20230210BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20230210BHJP
【FI】
C08G65/38
C08G73/10
C08J3/20 B CEZ
C08K7/02
C08L71/10
C08L77/10
C08L79/08 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021532933
(86)(22)【出願日】2020-09-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 KR2020013175
(87)【国際公開番号】W WO2021066438
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】10-2019-0122224
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0124387
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】305026873
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティテュート オブ ケミカル テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ファン スン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク ジェユン
(72)【発明者】
【氏名】オ ドン ヨプ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ヒョン ヨル
(72)【発明者】
【氏名】パク スル ア
(72)【発明者】
【氏名】オム ユン ホ
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-073766(JP,A)
【文献】特開昭63-235520(JP,A)
【文献】特開2009-051890(JP,A)
【文献】特開昭62-240351(JP,A)
【文献】特表2016-510829(JP,A)
【文献】国際公開第2014/138967(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/38
C08G 73/10
C08J 3/20
C08K 7/02
C08L 71/10
C08L 77/10
C08L 79/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性非プロトン性溶媒にアラミドナノ繊維が分散したナノ繊維分散液に、アリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子を投入し、溶解するステップを含む溶液ブレンド法、または
極性非プロトン性溶媒にアラミドナノ繊維が分散したナノ繊維分散液に、アリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子を製造するための単量体を混合し、重合するステップを含むin-situ法
から選択される、高分子複合素材の製造方法であって、
前記高分子複合素材は、下記計算式1による引張強度の増加率が110%以上であり、下記計算式2による引張伸びの増加率が110%以上であり、
[計算式1]
【数1】
前記TS は、アラミドナノ繊維を含んでいないアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張強度(MPa)であり、前記TS は、アラミドナノ繊維を含む複合素材の引張強度(MPa)である。前記引張強度は、ASTM D638に準じて測定される。
[計算式2]
【数2】
前記Te は、アラミドナノ繊維が含まれていないアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張伸び(%)であり、前記Te は、アラミドナノ繊維が含まれた複合素材の引張伸び(%)である。前記引張伸びは、ASTM D638に準じて測定される。
前記アリレンエーテル系高分子は、下記の化学式1~7のいずれか一つの繰り返し単位を含有し、
[化学式1]
【化1】
[化学式2]
【化2】
[化学式3]
【化3】
[化学式4]
【化4】
[化学式5]
【化5】
[化学式6]
【化6】
[化学式7]
【化7】
前記アリレンエーテルイミド系高分子は、下記の化学式8~9のいずれか一つの繰り返し単位を含有する、高分子複合素材の製造方法。
[化学式8]
【化8】
[化学式9]
【化9】
【請求項2】
前記極性非プロトン性溶媒は、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルピロリドン、スルホランおよびN-シクロヘキシル-2-ピロリドンからなる群から選択されるいずれか一つまたは二つ以上の混合物である、請求項1に記載の高分子複合素材の製造方法。
【請求項3】
前記アラミドナノ繊維の平均直径は3~100nmであり、平均長さが0.1~100μmである、請求項1に記載の高分子複合素材の製造方法。
【請求項4】
前記アラミドナノ繊維は、複合素材を構成する高分子100重量部に対して、0.01~2重量部含まれる、請求項1に記載の高分子複合素材の製造方法。
【請求項5】
前記ナノ繊維分散液は、芳香族ポリアミド系重合体を塩基物質および非プロトン性極性溶媒を含む溶液に溶解または分散するとともにナノ繊維を誘導するように撹拌するステップを含んで製造されている、請求項1に記載の高分子複合素材の製造方法。
【請求項6】
前記撹拌は、50℃以下の温度で行う、請求項5に記載の高分子複合素材の製造方法。
【請求項7】
前記アリレンエーテル系高分子は、下記の化学式2の繰り返し単位を含有し、
[化学式2]
【化10】
前記アリレンエーテルイミド系高分子は、下記の化学式8の繰り返し単位を含有する、請求項1に記載の高分子複合素材の製造方法。
[化学式8]
【化11】
【請求項8】
アリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子から選択される高分子にアラミドナノ繊維を含有する複合素材であって、
前記複合素材は、下記計算式1による引張強度の増加率が110%以上であり、下記計算式2による引張伸びの増加率が110%以上であり、
[計算式1]
【数3】
前記TSは、アラミドナノ繊維を含んでいないアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張強度(MPa)であり、前記TSは、アラミドナノ繊維を含む複合素材の引張強度(MPa)である。前記引張強度は、ASTM D638に準じて測定される。
[計算式2]
【数4】
前記Teは、アラミドナノ繊維が含まれていないアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張伸び(%)であり、前記Teは、アラミドナノ繊維が含まれた複合素材の引張伸び(%)である。前記引張伸びは、ASTM D638に準じて測定される。
前記アリレンエーテル系高分子は、下記の化学式1~7のいずれか一つの繰り返し単位を含有し、
[化学式1]
【化12】
[化学式2]
【化13】
[化学式3]
【化14】
[化学式4]
【化15】
[化学式5]
【化16】
[化学式6]
【化17】
[化学式7]
【化18】
前記アリレンエーテルイミド系高分子は、下記の化学式8~9のいずれか一つの繰り返し単位を含有する、高分子複合素材。
[化学式8]
【化19】
[化学式9]
【化20】
【請求項9】
前記アラミドナノ繊維は、複合素材を構成する高分子100重量部に対して、0.01~2重量部含まれる、請求項8に記載の高分子複合素材。
【請求項10】
引張強度の増加率が130%以上、引張伸びの増加率が140%以上である、請求項8に記載の高分子複合素材。
【請求項11】
前記アリレンエーテル系高分子は、下記の化学式2の繰り返し単位を含有し、
[化学式2]
【化21】
前記アリレンエーテルイミド系高分子は、下記の化学式8の繰り返し単位を含有する、請求項8に記載の高分子複合素材。
[化学式8]
【化22】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミドナノ繊維(ANF)を含む高分子複合素材およびその製造方法に関する。より具体的には、アラミドナノ繊維を含むアリレンエーテル系高分子複合素材またはアリレンエーテルイミド系高分子複合素材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子は、難燃性、耐熱性および耐薬品性に優れたものと知られており、電子機器のソケット、エンジン部品、航空素材、軍事素材およびメンブレンのような箇所に適用されている。
【0003】
かかるアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子が先端産業用プラスチックに適用されるためには、軽いとともに高耐熱、高い機械的強度を有すべきであり、このために、アリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系高分子をガラス繊維や炭素繊維などのナノフィラーとともに複合素材に製造している。
【0004】
しかし、ガラス繊維や炭素繊維を使用してアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子複合素材を製造する場合、十分な機械的強度を与えるためには、ガラス繊維や炭素繊維を必要以上の含量で使用する必要があり、その場合、強度は向上することがあっても、加工性、表面平滑性などに関する問題が生じる。
【0005】
また、硫酸溶液でドーパントを製造し紡糸して製造されたアラミドバルク繊維を高分子と混合する場合には、期待した物性の向上を図りにくいという問題があり、これを解決するための研究が行われ続けている。
【0006】
さらに、従来の繊維を混合する場合、引張強度は増加するものの引張伸びは低くなるという欠点があった。
【0007】
したがって、繊維を添加して複合材料を製造するにもかかわらず、従来得ることができなかった引張強度の増加とともに引張伸びも増加する新たな高分子複合素材を開発する必要があり、さらに、引張強度と引張伸びの増加率がさらに著しく増加する複合素材の開発が求められている。
【0008】
従来、繊維複合化によって引張強度が改善する場合、引張伸びが低くなる問題を解決することが困難であったが、引張強度および引張伸びのような逆の特性を示す両物性のいずれも高い物性を有する高分子複合素材の製造方法に関する開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、繊維複合化によって引張強度の増加だけでなく、引張伸びも同時に増加する複合素材を提供することを一課題とする。
【0010】
また、繊維複合化によって引張強度の増加率および引張伸びの増加率がより著しく増加する新たな複合素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、本発明者らは、アラミドナノ繊維が分散した極性非プロトン性溶液にアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子を投入し、溶液ブレンドを行って複合素材を製造するか、単量体を投入しin-situ法で複合素材を製造することで、著しく少ない量のアラミドナノ繊維を使用するにもかかわらず、例えば、全体の複合素材に対して0.01~2wt%の含量で使用するにもかかわらず、機械的物性を著しく上昇させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに具体的には、引張強度の増加だけでなく、繊維複合化によって低くなる引張伸びも同時に増加する複合素材を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本出願人が既に出願した韓国特許出願番号10-2018-0057585(2018.05.21)のアラミドナノ繊維分散液の製造方法によって製造したアラミドナノ繊維が分散した極性非プロトン性溶液にアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子を溶解して製造するか、前記アラミドナノ繊維が分散した溶液に単量体を投入しin-situ法で複合素材を製造することで、予想できないほど機械的物性が著しく向上したアラミドナノ繊維-アリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系高分子複合素材を製造することになった。
【0013】
前記目的を達成するための本発明の一様態は、極性非プロトン性溶媒にアラミドナノ繊維が分散したナノ繊維分散液に、アリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子を投入して溶解するステップを含む溶液ブレンド法により高分子複合素材を製造する方法である。
【0014】
本発明の他の様態は、極性非プロトン性溶媒にアラミドナノ繊維が分散したナノ繊維分散液に、アリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子を製造するための単量体を混合し、重合してin-situ法で高分子複合素材を製造する方法である。
【0015】
本発明のさらに他の様態は、アリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子から選択される高分子にアラミドナノ繊維を含有する複合素材であって、前記複合素材は、下記計算式1による引張強度の増加率が110%以上であり、下記計算式2による引張伸びの増加率が110%以上の高分子複合素材である。
[計算式1]
【数1】
前記TSは、アラミドナノ繊維を含んでいないアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張強度(MPa)であり、前記TSは、アラミドナノ繊維を含む複合素材の引張強度(MPa)である。前記引張強度は、ASTM D638に準じて測定される。
[計算式2]
【数2】
前記Teは、アラミドナノ繊維が含まれていないアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張伸び(%)であり、前記Teは、アラミドナノ繊維が含まれた複合素材の引張伸び(%)である。前記引張伸びは、ASTM D638に準じて測定される。
【発明の効果】
【0016】
本発明による高分子複合素材は、アラミドナノ繊維が均一に分散し、引張強度だけでなく、引張伸びも同時に増加するという効果を奏する。
【0017】
具体的には、引張強度の増加率が110%以上、120%以上、130%以上、好ましくは170%以上、より好ましくは200%以上が増加し、且つ、引張伸びの増加率が110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、150%以上、さらに好ましくは200%以上を達成することができる複合素材を提供することができる。
【0018】
通常、繊維分散複合素材の場合、引張強度は増加するが、引張伸びが低くなるのに対し、本発明では、極性非プロトン性溶媒にアラミドナノ繊維が分散したナノ繊維分散液を用いて複合素材を製造することで、引張強度と引張伸びが同時に増加するという効果を奏することができる。また、その増加する程度が非常に著しいという効果がある。
【0019】
例えば、in-situ法で製造したアリレンエーテル系複合素材の引張伸びの増加率は、150%以上、好ましくは170%以上、さらに好ましくは200%以上の優れた機械的物性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】アラミドナノ繊維の物性強化効果を比較するための、比較例1および実施例5で得られたアリレンエーテル系高分子試験片の引張グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を含む具体例または実施例により、本発明をより詳細に説明する。ただし、下記実施例は、本発明を詳細に説明するための参照であって、本発明はこれに制限されるものではなく、様々な形態で具現され得る。
【0022】
また、他に定義されない限り、すべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者の一人によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本願において説明に使用される用語は、単に特定の実施例を効果的に記述するためのものであって、本発明を制限することを意図しない。
【0023】
本発明において、ある部分がある構成要素を「含む」とした時、これは、特別に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0024】
また、明細書および添付の特許請求の範囲で使用される単数形態は、文脈で特別な指示がない限り、複数形態も含むことを意図し得る。
【0025】
本発明の一様態は、極性非プロトン性溶媒にアラミドナノ繊維が分散したナノ繊維分散液に、アリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子を投入して溶解するステップを含む溶液ブレンド法により高分子複合素材を製造する方法を提供するものである。
【0026】
本発明の他の様態は、極性非プロトン性溶媒にアラミドナノ繊維が分散したナノ繊維分散液に、アリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子を製造するための単量体を混合し、重合するステップを含むin-situ法により高分子複合素材を製造する方法を提供するものである。
【0027】
また、本発明の一様態は、アリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子から選択される高分子にアラミドナノ繊維を含有する複合素材であって、前記複合素材は、引張強度および引張伸びのいずれも前記アラミドナノ繊維を含有しない高分子に比べて110%以上増加する高分子複合素材を提供するものである。具体的には、前記複合素材は、下記計算式1による引張強度の増加率が110%以上であり、下記計算式2による引張伸びの増加率が110%以上である高分子複合素材である。
【0028】
[計算式1]
【数3】
【0029】
前記TSは、アラミドナノ繊維を含んでいないアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張強度(MPa)であり、前記TSは、アラミドナノ繊維を含む複合素材の引張強度(MPa)である。前記引張強度は、ASTM D638に準じて測定される。
【0030】
[計算式2]
【数4】
【0031】
前記Teは、アラミドナノ繊維が含まれていないアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張伸び(%)であり、前記Teは、アラミドナノ繊維が含まれた複合素材の引張伸び(%)である。前記引張伸びは、ASTM D638に準じて測定される。
【0032】
一様態として、前記高分子複合素材は、高分子100重量部に対して、アラミドナノ繊維を0.01~2重量部含んでもよい。
【0033】
一様態において、前記高分子複合素材は、前記引張強度の増加率が130%以上であるとともに引張伸びの増加率が140%以上であってもよい。
【0034】
以下、本発明の各構成について、より具体的に説明する。
【0035】
[ナノ繊維分散液]
本発明の一様態において、前記ナノ繊維分散液は、極性非プロトン性溶媒にアラミドバルク繊維、例えば、ケブラー繊維を分散したものであってもよい。より具体的には、極性非プロトン性溶媒にアラミドバルク繊維および塩基物質を混合した状態で撹拌することで、アラミドナノ繊維が分散した分散液を製造することができる。
【0036】
前記非プロトン性極性溶媒は、具体的には、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ヘキサメチルホスホアミド(HMPA)、N,N,N´,N´-テトラメチル尿素(TMU)およびN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などから選択されるいずれか一つまたは二つ以上の混合溶媒であってもよい。
【0037】
前記塩基物質は、具体的には、例えば、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムなどの強塩基であってもよく、これに制限されるものではない。
【0038】
本発明のさらに他の様態において、前記ナノ繊維分散液は、本出願人が既に出願した韓国特許出願番号10-2018-0057585(2018.05.21)のアラミドナノ繊維分散液の製造方法により製造したものであってもよい。より具体的には、芳香族ポリアミド系重合体を塩基物質および非プロトン性極性溶媒を含む溶液に溶解または分散するとともにナノ繊維を誘導するように撹拌するステップを含んで製造されてもよい。
【0039】
さらに具体的には、前記アラミドナノ繊維分散液の製造方法は、芳香族ポリアミド系重合体を塩基物質および非プロトン性極性溶媒を含む溶液に溶解または分散するとともにナノ繊維を誘導するように撹拌するステップを含んでもよい。一実施形態によるアラミドナノ繊維は、前記製造方法で製造されたアラミドナノ繊維分散液を濾過して取得し、平均直径が1~100nmであり、平均長さが0.1~100μmであってもよい。また、表面が負電荷に帯電されてもよく、電界紡糸によって製造されるナノ繊維とは区別される。
【0040】
前記「芳香族ポリアミド系重合体」は、重合体の製造時に反応原料として使用される有機溶媒および副反応物を除去した精製された重合体であるか、または有機溶媒および副反応物を除去していない混合組成物であり得る。前記混合組成物内に含まれた有機溶媒は、アラミドナノ繊維分散液の製造時に共溶媒として使用され得る。
【0041】
一様態によるアラミドナノ繊維分散液の製造方法は、芳香族ポリアミド系重合体を塩基物質および非プロトン性極性溶媒を含む溶液に完全に溶解または分散するまで撹拌しながらナノ繊維を製造し得る。
【0042】
さらに具体的には、芳香族ポリアミド系重合体を塩基物質および非プロトン性極性溶媒を含む溶液に溶解または分散するとともにナノ繊維を誘導するように撹拌するステップを含み得る。この際、前記溶解または分散する過程で自己組立によってナノ繊維が形成され得、ナノ繊維が生成されるための十分な時間が必要であり得る。より具体的には、前記芳香族ポリアミド系重合体が肉眼で見えないときまで完全に溶解し、自己組立によってナノ繊維が生成されて溶液内の分散し得る。また、前記自己組立可能な時間を与えるが、かかる時間が最小化したことを特徴とする。
【0043】
また、自己組立という用語は、芳香族ポリアミド系重合体を溶媒内に溶解または分散することでナノ繊維が形成される現象を包括的に表現する用語である。
【0044】
前記芳香族ポリアミド系重合体を溶解してナノ繊維を製造するために使用される前記非プロトン性極性溶媒は、具体的には、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ヘキサメチルホスホアミド(HMPA)、N,N,N´,N´-テトラメチル尿素(TMU)およびN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などから選択されるいずれか一つまたは二つ以上の混合溶媒であってもよい。さらに具体的には、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)を単独で使用するか、ジメチルスルホキシド(DMSO)とN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ヘキサメチルホスホアミド(HMPA)、N,N,N´,N´-テトラメチル尿素(TMU)およびN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などから選択されるいずれか一つまたは二つ以上の共溶媒を混合して使用してもよい。前記共溶媒を混合して使用することで、ジメチルスルホキシド(DMSO)を単独で使用することに比べて、ナノ繊維の製造にかかる時間、すなわち、前記芳香族ポリアミド系重合体が肉眼で見えないときまで溶解するのにかかる時間がより短縮され得る。
【0045】
前記塩基物質は、具体的には、例えば、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムなどの強塩基であってもよく、これに制限されるものではない。
【0046】
前記芳香族ポリアミド系重合体がさらによく溶解されるようにするために撹拌を行ってもよく、前記撹拌は、50℃以下の温度で行ってもよく、より具体的には10~50℃、さらに具体的には20~30℃の温度で行ってもよい。また、前記撹拌時に窒素、アルゴンなどの不活性気体雰囲気下で撹拌してもよいが、これに制限されるものではない。また、前記撹拌は、10~1000rpm、具体的には50~800rpm、より具体的には100~500rpmで行われてもよいが、これに制限されるものではない。
【0047】
前記芳香族ポリアミド系重合体は、繊維形態に紡糸されていない固体形態の重合体を意味する。より具体的には、単一繊維基準10デニール以下の繊維形態に加工されていない無形状の固体形態であってもよい。
【0048】
前記芳香族ポリアミド系重合体の一様態は、有機溶媒、芳香族ジアミンおよび芳香族二酸系化合物を含む重合組成物を重合した後、フィルタおよび精製したものであってもよい。
【0049】
[アリレンエーテル系高分子]
本発明の一様態において、前記アリレンエーテル系高分子は、アリレンエーテル構造を有する高分子であれば、特に限定されず、例えば、非制限的に下記の化学式1~7の繰り返し単位を含有する高分子を例として挙げることができる。
【0050】
[化学式1]
【化1】
【0051】
[化学式2]
【化2】
【0052】
[化学式3]
【化3】
【0053】
[化学式4]
【化4】
【0054】
[化学式5]
【化5】
【0055】
[化学式6]
【化6】
【0056】
[化学式7]
【化7】
【0057】
一様態において、前記アリレンエーテル系高分子の分子量は、特に制限されないが、具体的には、例えば、重量平均分子量が10,000~300,000g/molであってもよい。前記のような範囲の重量平均分子量を有する高分子の場合、アラミドナノ繊維と複合素材に製造した時に、引張強度および伸びを著しく向上させることができる。
【0058】
[アリレンエーテルイミド系高分子]
本発明の一様態において、前記アリレンエーテルイミド系高分子は、アリレンエーテルイミド系構造を有する高分子であれば、特に制限されないが、例えば、非制限的に下記の化学式8~9の繰り返し単位を含有する重合体を例として挙げることができる。
【0059】
[化学式8]
【化8】
【0060】
[化学式9]
【化9】
【0061】
一様態において、前記アリレンエーテルイミド系高分子の分子量は、特に制限されないが、具体的には、例えば、重量平均分子量が10,000~300,000g/molであってもよい。前記のような範囲の重量平均分子量を有する高分子の場合、アラミドナノ繊維と複合素材に製造した時に、引張強度および伸びを著しく向上させることができる。
【0062】
[溶液ブレンド法]
本発明の一様態において、溶液ブレンド法により高分子複合素材を製造する方法は、
a)極性非プロトン性溶媒にアラミドナノ繊維が分散したナノ繊維分散液にアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子を投入して溶解するステップと、
b)前記溶媒を乾燥するステップと、
を含んでもよい。
【0063】
前記溶媒を乾燥することで、固体パウダー状態の複合素材を取得することができ、これを溶融および成形をする過程をさらに含んでもよい。
【0064】
前記a)ステップにおいて、前記ナノ繊維分散液にアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子を溶解する方法は、特に制限されるものではないが、例えば、混合および分散時に超音波分散および機械的撹拌などの方法を用いてもよい。
【0065】
一様態として、前記a)ステップにおいて、ナノ繊維分散液の固形分含量が0.1~1重量%であってもよい。また前記ナノ繊維分散液は、前記高分子100重量部に対して10~50重量部使用されてもよく、分散性をさらに向上させるために、さらなる極性非プロトン性溶媒を500~1500重量部さらに追加して混合してもよい。
【0066】
一様態において、前記溶液ブレンド法で製造されたアリレンエーテル系複合素材は、下記計算式1による引張強度の増加率が110%以上、好ましくは120%以上、さらに好ましくは140%以上であり、下記計算式2による引張伸びの増加率が110%以上、好ましくは120%以上、さらに好ましくは130%以上の高い増加効果を同時に有することができる。
【0067】
[計算式1]
【数5】
【0068】
前記TSは、アラミドナノ繊維を含んでいないアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張強度(MPa)であり、前記TSは、アラミドナノ繊維を含む複合素材の引張強度(MPa)である。前記引張強度は、ASTM D638に準じて測定される。
【0069】
[計算式2]
【数6】
【0070】
前記Teは、アラミドナノ繊維が含まれていないアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張伸び(%)であり、前記Teは、アラミドナノ繊維が含まれた複合素材の引張伸び(%)である。前記引張伸びは、ASTM D638に準じて測定される。
【0071】
一様態において、前記極性非プロトン性溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルピロリドン(NMP)、スルホラン(Sulfolane)およびN-シクロヘキシル-2-ピロリドン(N-cyclohexyl-2-pyrrolidone)などからなる群から選択されるいずれか一つまたは二つ以上の混合物であってもよく、これに制限されるものではない。
【0072】
一様態において、前記アラミドナノ繊維は、特に制限されるものではないが、平均直径が1~200nmであり、より好ましくは3~100nmであってもよい。また、平均長さが0.05~200μm、より好ましくは0.1~100μmである繊維であってもよく、これに制限されるものではない。前記範囲のアラミドナノ繊維を含む場合、分散性に優れ、これによってアリレンエーテル系高分子と複合素材に製造されたときに、機械的物性、特に、引張強度および引張伸びの上昇効果が著しく、好ましい。
【0073】
一様態において、前記アラミドナノ繊維は、前記高分子100重量部に対して、0.0001~10重量部含まれてもよい。好ましくは0.001~5重量部含まれてもよく、さらに好ましくは0.01~2重量部含まれてもよい。
【0074】
本発明において、アラミドナノ繊維は、従来の硫酸法で製造したバルク繊維をアルカリ金属塩基性化合物を含む極性非プロトン性溶媒でナノサイズに製造されたナノ繊維であるか、または本発明者が既に出願した韓国出願番号10-2018-0057585に記載の方法で製造されたアラミドナノ繊維を使用することができる。本発明では、前記のいずれの方法で製造されてもよいが、本発明者らが発明した重合体からすぐアラミドナノ繊維を製造する場合、多量のアラミドナノ繊維を短時間で得ることができ、それ自体のアラミドナノ繊維製造溶液をアリレンエーテル系高分子と溶液ブレンドに使用することができる。
【0075】
[in-situ法]
本発明の他の様態は、アラミドナノ繊維が分散した極性非プロトン性溶液にアリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系重合単量体を混合し、重合してin-situ法で製造するステップを含むアリレンエーテル系高分子複合素材の製造方法を提供するものである。前記in-situ法で複合素材を製造する場合について説明すると、アラミドナノ繊維が分散した極性非プロトン性溶液にアリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系重合単量体を混合する過程を経て、重合して複合素材を製造する過程を言い、別に重合された高分子を溶解する必要がなく、簡単に複合素材を製造することができる。
【0076】
より具体的には、
i)極性非プロトン性溶媒にアラミドナノ繊維が分散したナノ繊維分散液にアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子を製造するための単量体を混合した混合物を製造するステップと、
ii)前記混合物を重合するステップと、
を含んでもよい。
【0077】
一様態において、前記i)ステップの単量体は、アリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子を製造するための単量体であれば、制限なく使用可能である。具体的には、例えば、前記アリレンエーテル系高分子を製造するための単量体としては、ビスフェノール-Aおよび4,4´-ジフルオロジフェニルスルホンを例として挙げることができ、これに制限されるものではない。前記アリレンエーテルイミド系高分子を製造するための単量体としては、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパンジアンハイドライドおよび1,4-フェニレンジアミンを例として挙げることができ、これに制限されるものではない。
【0078】
一様態として、前記i)ステップにおいて、ナノ繊維分散液の固形分含量が0.1~1重量%であってもよい。また、前記ナノ繊維分散液は、前記単量体の全含量100重量部に対して、10~50重量部使用されてもよく、分散性をさらに向上させるために、さらなる極性非プロトン性溶媒を500~1500重量部をさらに追加して混合してもよい。
【0079】
一様態において、前記極性非プロトン性溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルピロリドン(NMP)、スルホラン(Sulfolane)およびN-シクロヘキシル-2-ピロリドン(N-cyclohexyl-2-pyrrolidone)などからなる群から選択されるいずれか一つまたは二つ以上の混合物であってもよく、これに制限されるものではない。
【0080】
前記ii)ステップにおいて、混合物の重合前に超音波処理を施すことで、分散性をさらに向上させてもよい。
【0081】
前記重合は、通常の重合方法により行われ得る。
【0082】
前記in-situ法で製造された複合素材は、下記計算式1による引張強度の増加率が120%以上、好ましくは160%以上、さらに好ましくは200%以上であり、下記計算式2による引張伸びの増加率が150%以上、好ましくは170%以上、さらに好ましくは230%以上の驚くべき増加効果を有し得る。
【0083】
[計算式1]
【数7】
【0084】
前記TSは、アラミドナノ繊維を含んでいないアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張強度(MPa)であり、前記TSは、アラミドナノ繊維を含む複合素材の引張強度(MPa)である。前記引張強度は、ASTM D638に準じて測定される。
【0085】
[計算式2]
【数8】
【0086】
前記Teは、アラミドナノ繊維が含まれていないアリレンエーテル系高分子またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張伸び(%)であり、前記Teは、アラミドナノ繊維が含まれた複合素材の引張伸び(%)である。前記引張伸びは、ASTM D638に準じて測定される。
【0087】
一様態において、前記アラミドナノ繊維は、特に制限されるものではないが、平均直径が1~200nmであり、より好ましくは3~100nmであってもよい。また、平均長さが0.05~200μm、より好ましくは0.1~100μmである繊維であってもよく、これに制限されるものではない。前記範囲のアラミドナノ繊維を含む場合、分散性に優れ、これにより、アリレンエーテル系高分子と複合素材に製造されたときに、機械的物性、特に、引張強度および引張伸びの上昇効果が著しく、好ましい。
【0088】
一様態において、前記アラミドナノ繊維は、前記高分子100重量部に対して、0.0001~10重量部含まれてもよい。好ましくは0.001~5重量部含まれてもよく、さらに好ましくは0.01~2重量部含まれてもよい。
【0089】
本発明では、前記いずれの方法で製造されてもよいが、本発明者らが発明した重合体からすぐアラミドナノ繊維を製造する場合、多量のアラミドナノ繊維を短時間で得ることができ、それ自体のアラミドナノ繊維製造溶液をアリレンエーテル系高分子と溶液ブレンドに使用することができ、また、この溶液にアリレンエーテル単量体を投入し、溶解して、すぐin-situ法で複合素材を製造することができ、より好ましい。
【0090】
本発明の他の様態である、in-situ法でアラミドナノ繊維が分散した極性非プロトン性溶液にアリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系重合単量体を混合し、重合して複合素材を製造することができ、また、予め製造されたアラミドナノ繊維をアリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系単量体が混合された溶液に分散して複合素材を製造することもできる。
【0091】
本発明の他の様態である、アラミドナノ繊維が分散した極性非プロトン性溶液にin-situ法でアリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系複合素材を製造する場合、前記アリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系高分子の分子量は、特に制限されないが、具体的には、例えば、重量平均分子量が10,000~300,000g/molを満たすことができるが、これに制限されるものではない。前記のような極性非プロトン性溶液にアラミドナノ繊維分散液とアリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系重合単量体を混合し、重合するステップを含む方法で製造された複合素材が、前記のような範囲の重量平均分子量を含む場合、複合素材の引張強度および伸びを著しく向上させることができる。
【0092】
前記In-situ法でアリレンエーテル系複合素材を製造する場合、引張強度の増加率が120%以上を満たすことができる。さらに、アラミドナノ繊維が分散した極性非プロトン性溶液にアリレンエーテル系単量体を混合し重合してアリレンエーテル系複合素材に製造する場合、160%以上、好ましくは200%以上を満たすことができ、さらに好ましい。
【0093】
また、引張強度の増加と同時に、引張伸びが、好ましくは140%以上、160%以上、好ましくは200%以上を満たすことができ、さらに好ましい。
【0094】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより詳細に説明する。ただし、下記の実施例および比較例は、本発明をより詳細に説明するための一つの例示であって、本発明は、下記の実施例および比較例によって制限されるものではない。
【0095】
[物性測定方法]
(1)引張強度、引張伸び
製造した高分子複合素材は、ASTM D638-Type 1規格のダンベル状(Dumbell-shape)で溶融射出した後、UTM 5942(INSTRON社製)を使用してASTM D638に準じて引張試験を行った。結果値は、4回以上測定した値の平均を使用した。
【0096】
引張強度の増加率(%)は、下記計算式1により、比較例1に相当するアリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張強度に対する増加率を計算した。
【0097】
[計算式1]
【数9】
【0098】
前記式1中、
前記TSは、アラミドナノ繊維を含んでいないアリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張強度(MPa)であり、前記TSは、アラミドナノ繊維が分散した極性非プロトン性溶液にアリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系高分子を投入して製造された複合素材の引張強度(MPa)である。
【0099】
引張伸びの増加率(%)は、下記計算式2により、比較例1に相当するアリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張伸びに対する増加率を計算した。
【0100】
[計算式2]
【数10】
【0101】
前記式2中、
前記Teは、アラミドナノ繊維が含まれていないアリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系高分子の引張伸び(%)であり、前記Teは、アラミドナノ繊維が含まれたアリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系高分子複合素材の引張伸び(%)である。
【0102】
(2)重量平均分子量および分子量分布
重量平均分子量は、溶媒としてクロロホルム(chloroform)を使用して屈折率感知装置が取り付けられたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の分子量値および分子量分布を求めた。
【0103】
GPC装備:Waters社製のACQUITY APC
カラム:Waters社製のACQUITY APCTM
カラム温度:30℃
投入量:50μl
流量:0.62ml/min
【0104】
[製造例1]ナノ繊維分散液の製造
2500mLの乾燥した硝子にアラミドバルク繊維(ケブラー)2g、KOH3gおよびジメチルスルホキシド(Dimethylsulfoxide、DMSO)1000gを入れ、25℃で180時間撹拌した。アラミドナノ繊維が0.2重量%分散したナノ繊維分散液が製造された。製造されたナノ繊維分散液内のアラミドナノ繊維は、平均直径が20nmであり、平均長さが30μmであった。
【0105】
[製造例2]アラミドナノ繊維固状パウダーの製造
製造例1のアラミドナノ繊維分散液をメタノールに沈殿し、フィルタおよび真空乾燥してアラミドナノ繊維固状パウダーを得た。
【0106】
[製造例3]アリレンエーテル系高分子の製造
機械式撹拌機およびディーン-スターク(Dean-Stark)装置が取り付けられたガラスフラスコにビスフェノール-A(Bisphenol-A)51.6g(0.226mol)、4,4´-ジフルオロメチルフェニルスルホン(4,4´-Difluorodiphenyl sulfone)57.5g(0.226mol)および炭酸カリウム(Potassium carbonate)44.5g(0.0322mol)を添加した。次いで、ビスフェノール-Aに対する0.05モル当量の18-クラウン-6(18-crown-6)3.0gおよびジメチルスルホキシド(DMSO)350gを投入した後、窒素パージした。反応混合物を10分間超音波処理した後、窒素雰囲気下で155℃で4時間加熱した。重合後、反応混合物をDMSO200mLで希釈し、室温で冷却し、酢酸100mLを含有する水/メタノール混合物1L(50/50vol%)に沈殿した。残留添加剤を除去するために、固体を濾過し、N,N´-ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解した後、再沈殿した。沈殿した重合体を濾過し、脱イオン水およびメタノールで洗浄し、80℃で12時間真空乾燥した。重量平均分子量は122,000g/molであり、分子量分布は2.02であった。
【0107】
前記製造したアリレンエーテル系高分子の機械的物性を測定するために製造した高分子を270℃で8分間溶融した後、HaakeTM Minijet(Thermo Scientific社製)を使用して、長さ、幅および厚さがそれぞれ63.50mm、9.53mmおよび3.18mmであるダンベル状の試験片を成形した。シリンダ温度300℃、射出圧力500bar、充電時間15秒、金型温度は230℃であった。物性測定結果を表1に示した。
【0108】
[製造例4]アリレンエーテルイミド系高分子の製造
還流装置を有する撹拌反応器に2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパンジアンハイドライド117.6g(0.226mol)、1,4-フェニレンジアミン(1,4-フェニレンジアミン)24.4g(0.226mol)およびN-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone、NMP)410gおよびクロロベンゼン(chlorobenzene)10mLを窒素雰囲気下で添加した。
【0109】
反応混合物を窒素雰囲気下で、190℃で8時間加熱した。クロロベンゼン(chlorobenzene)は周期的にディーン・スタークトラップ(Dean-stark trap)で除去され、さらなるドライクロロベンゼン(dry chlorobenzene)を投入して脱水環化(cyclodehydration)反応を促進した。重合後、反応混合物をNMP200mLで希釈し、室温で冷却し、酢酸100mLを含有する水/メタノール混合物10L(50/50vol%)に沈殿した。沈殿した重合体を濾過し、脱イオン水およびメタノールで洗浄し、80℃で12時間真空乾燥した。重量平均分子量は62,000g/molであり、分子量分布は2.01である。
【0110】
製造したアリレンエーテルイミド系高分子の機械的物性を測定するために、前記得られた重合体を370℃で8分間溶解した後、HaakeTM Minijet(Thermo Scientific社製)を使用して、長さ、幅および厚さがそれぞれ63.50mm、9.53mmおよび3.18mmであるダンベル状の試験片に成形した。シリンダ温度400℃、射出圧力500bar、充電時間15秒、金型温度は280℃であった。物性測定結果を表2に示した。
【0111】
[比較例1]
製造例2の固状のアラミドナノ繊維0.05g、製造例3で製造したアリレンエーテル系高分子100g、ジオクチルテレフタレート(Dioctylterephthalate)10gをジメチルアセトアミド(DMAc)1000gに溶解および分散した。次いで、各溶液を100℃の対流オーブンで3日間乾燥した。乾燥した固体パウダーを製造例3に記載の試験片の製造条件と同様に製造して物性を測定し、表1に示した。
【0112】
[実施例1]
高分子100重量部に対して、アラミドナノ繊維が0.05重量部含まれるアリレンエーテル系複合素材を下記のように溶液ブレンド法(solution blending method)で製造した。
【0113】
製造例3のアリレンエーテル系高分子100g、ジオクチルテレフタレート(Dioctylterephthalate)10g、製造例1のナノ繊維分散液25g(アラミドナノ繊維が0.05g分散している)をジメチルアセトアミド(DMAc)1000gに溶解した。次いで、各溶液を100℃の対流オーブンで3日間乾燥した。前記製造したアリレンエーテル系複合素材の機械的物性を測定するために、270℃で8分間溶融した後、HaakeTM Minijet(Thermo Scientific社製)を使用して長さ、幅および厚さがそれぞれ63.50mm、9.53mmおよび3.18mmのダンベル状の試験片を成形した。シリンダ温度300℃、射出圧力500bar、充電時間15秒、金型温度は230℃であった。前記試験片を用いて物性を測定し、表1に示した。
【0114】
[実施例2]
前記実施例1と同様に製造するが、高分子100重量部に対して、アラミドナノ繊維が0.2重量部含まれた複合素材を製造した。前記実施例1と同じ条件で試験片を製造して物性を測定し、表1に示した。
【0115】
[実施例3]
前記実施例1と同様に製造するが、高分子100重量部に対して、アラミドナノ繊維が1重量部含まれた複合素材を製造し、前記実施例1と同じ条件で試験片を製造して物性を測定し、表1に示した。
【0116】
[実施例4]
高分子100重量部に対して、アラミドナノ繊維が0.05重量部含まれるアリレンエーテル系複合素材をin-situ法で製造した。
【0117】
溶媒として、ジメチルスルホキシド(DMSO)350gの代わりに、製造例1のナノ繊維分散液25g(アラミドナノ繊維が0.05g分散している)とジメチルスルホキシド(DMSO)325gの混合溶媒を重合溶媒として使用した以外は、前記製造例3と同様に重合過程を行って複合素材を製造した。この際、重合体は、重量平均分子量110,000g/mol、分子量分布1.98であった。
【0118】
前記複合素材を乾燥した後、製造例3の溶融射出条件にしたがって機械的物性測定のための試験片を製造した。試験片の製造時にジオクチルテレフタレート(Dioctylterephthalate)可塑剤を乾燥した複合素材固体パウダー重量に対して10wt%追加した。前記試験片を用いて物性を測定し、表1に示した。
【0119】
[実施例5]
前記実施例4と同様に重合するが、高分子100重量部に対して、アラミドナノ繊維が0.2重量部含まれた複合素材を製造した(重量平均分子量:100,500g/mol、分子量分布:1.92)。実施例4と同様に試験片を製造して物性を測定し、表1に示した。
【0120】
[実施例6]
前記実施例4と同様に重合するが、高分子100重量部に対して、アラミドナノ繊維が1重量部含まれた複合素材を製造した(重量平均分子量:100,200g/mol、分子量分布:1.88)。実施例4と同様に試験片を製造して物性を測定し、表1に示した。
【0121】
[実施例7]
高分子100重量部に対して、アラミドナノ繊維が0.05重量部含まれるアリレンエーテルイミド系複合素材を下記のように溶液ブレンド法(solution blending method)で製造した。
【0122】
製造例4で製造したアリレンエーテルイミド系高分子100g、ジオクチルテレフタレート(Dioctylterephthalate)10gおよび製造例1のナノ繊維分散液25g(アラミドナノ繊維は0.05g分散している)をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)1000gに溶解した。次いで、前記溶液を150℃の対流オーブンで3日間乾燥した。乾燥した固体パウダーを製造例4の試験片製造条件と同様に試験片を製造し、分析してその結果を表2に示した。
【0123】
[実施例8]
高分子100重量部に対して、アラミドナノ繊維が0.05重量部含まれたアリレンエーテルイミド系複合素材を下記のようなin-situ法で製造した。
【0124】
製造例4のアリレンエーテルイミド系高分子合成過程に従うが、重合溶媒N-メチル-2-ピロリドン(NMP)410gの代わりに、製造例1のナノ繊維分散液25g(アラミドナノ繊維は0.05g分散)とN-メチル-2-ピロリドン(NMP)385gの混合溶媒を重合溶媒として、同じ重合過程を行った(重量平均分子量:58,000g/mol、分子量分布:1.98)
【0125】
乾燥した複合素材固体パウダーを製造例4の試験片の製造条件と同様にして試験片を製造し、物性を測定して表2に示した。ジオクチルテレフタレート可塑剤が乾燥した複合素材固体パウダー重量に対して10wt%追加された。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
前記表1および2に示されているように、本発明によるアラミドナノ繊維を含むアリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系高分子複合素材の引張強度および引張伸びが同時に増加することが分かり、また、アラミドナノ繊維を含んでいない高分子に対して、著しく増加することを確認することができる。さらに、複合素材のうちアリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系高分子100重量部に対して、アラミドナノ繊維の含量を0.05~1重量部含むときに、より優れた機械的物性の相乗効果を奏することができることを確認することができる。
【0129】
また、本発明によるアラミドナノ繊維が分散している溶液にアリレンエーテル系高分子を溶液ブレンドするか、in-situ法で複合素材を製造した場合、本発明で製造したアラミドナノ繊維パウダーにマスターバッチ複合体を溶融混錬して複合素材を製造した場合よりも引張強度および引張伸びのような機械的物性がはるかに高いことを確認することができる。
【0130】
さらに、本発明によるアラミドナノ繊維が分散している溶液を重合溶媒として、単量体からin-situ法でアリレンエーテル系またはアリレンエーテルイミド系マスターバッチ複合体を製造した場合、溶液ブレンド法でマスターバッチ複合体を製造することよりもより優れた機械的物性の相乗効果を奏することができることを確認することができる。
【0131】
上述の本発明は、例示的なものに過ぎず、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、これより様々な変形および均等な他の実施例が可能であるという点をよく知ることができる。したがって、本発明は、前記の詳細な説明で言及している形態にのみ限定されるものではないことをよく理解することができる。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は、添付の特許請求の範囲の技術的思想によって定められなければならない。
【0132】
したがって、本発明の思想は、上述の実施例に限定して定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等または等価的な変形があるすべてのものなどは本発明の思想の範疇に属すると言える。
図1