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特許7224497燃料電池装置の凍結起動条件下での起動方法、燃料電池装置および自動車
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  • 特許-燃料電池装置の凍結起動条件下での起動方法、燃料電池装置および自動車 図1
  • 特許-燃料電池装置の凍結起動条件下での起動方法、燃料電池装置および自動車 図2
  • 特許-燃料電池装置の凍結起動条件下での起動方法、燃料電池装置および自動車 図3
  • 特許-燃料電池装置の凍結起動条件下での起動方法、燃料電池装置および自動車 図4
  • 特許-燃料電池装置の凍結起動条件下での起動方法、燃料電池装置および自動車 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】燃料電池装置の凍結起動条件下での起動方法、燃料電池装置および自動車
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04302 20160101AFI20230210BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20230210BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20230210BHJP
   H01M 8/04089 20160101ALI20230210BHJP
   B60L 58/31 20190101ALI20230210BHJP
   B60L 50/70 20190101ALI20230210BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230210BHJP
【FI】
H01M8/04302
H01M8/04746
H01M8/04858
H01M8/04089
B60L58/31
B60L50/70
H01M8/10 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021564243
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 EP2020052215
(87)【国際公開番号】W WO2020221480
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】102019206119.2
(32)【優先日】2019-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591006586
【氏名又は名称】アウディ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】AUDI AG
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】リファルト,レオナルト
(72)【発明者】
【氏名】ディソン,セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】末松 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルブエナ エンシナス,フランシスコ ハビエル
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-191430(JP,A)
【文献】国際公開第2012/172678(WO,A1)
【文献】特開2006-73501(JP,A)
【文献】特開2005-93282(JP,A)
【文献】特開2009-158398(JP,A)
【文献】特開2009-54465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料セル(2)を有する燃料電池装置の凍結起動条件下での起動方法であって、
- 燃料電池装置の凍結起動条件の存在を判定し、
- 水素含有反応物をアノード側に供給し、かつ、酸素欠乏を伴う準化学量論比で、酸素含有反応物をカソード側に供給し、
- 所定の時間間隔の間、準化学量論比での前記反応物の供給を維持し、
- 前記時間間隔の経過後、放電段階(3)において燃料セル(2)の完全な放電を実行し、
- その後、前記燃料電池装置を、所定の動作状態の要件と性能要件に従って前記反応物を供給する通常モード(4)に移行する、
ステップを備えた、燃料電池装置の凍結起動条件下での起動方法。
【請求項2】
燃料セル(2)の完全な放電が、反応物源からの酸素含有反応物の供給を停止させ、燃料セル(2)内の全ての酸素を消費させることによって実行されることを特徴とする請求項1に記載の起動方法。
【請求項3】
酸素含有反応物が再循環され、その間に、酸素が徐々に消費されることを特徴とする請求項2に記載の起動方法。
【請求項4】
反応物の供給経路および反応経路の氷による閉塞が前記時間間隔の終わりに解消されるように、前記時間間隔が、所定の凍結起動条件の関数として規定されることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の起動方法。
【請求項5】
酸素含有反応物として空気を使用し、空気の質量流量(1)を減少させることによって酸素含有反応物を準化学量論比で供給することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の起動方法。
【請求項6】
放電段階(3)は、全ての燃料セル(2)が共通の電位を有し、通常モード(4)において同じ目標電圧を有するまで維持されることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の起動方法。
【請求項7】
放電段階(3)の開始および終了のための制御ユニットが提供されることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の起動方法を実施するための、燃料電池装置。
【請求項8】
前記制御ユニットが装置制御部に統合されることを特徴とする請求項7に記載の燃料電池装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載の燃料電池装置を備えた自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の燃料セルを有する燃料電池装置の凍結起動条件下での起動方法によって形成され、燃料電池装置の凍結起動条件の存在を判定し、水素含有反応物をアノード側に供給し、かつ、酸素欠乏を伴う準化学量論比(substoichiometric ratio)で酸素含有反応物をカソード側に供給し、所定の時間間隔の間、準化学量論比で反応物の供給を維持し、その時間間隔の経過後、放電段階において燃料セルを完全に放電し、その後、燃料電池装置を、所定の動作状態の要件と性能要件に従って反応物を供給する通常モードに移行する、ステップを備える。本発明はまた、燃料電池装置および自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池装置は、特に自動車などの可動式装置で使用される場合、様々な周囲条件にさらされる可能性があり、特に周囲温度は、その起動および停止を含む燃料電池装置の動作にとって重要である。燃料電池装置の起動時に凍結状態が発生した場合、または燃料電池装置のスイッチが切られた後の起動時に凍結状態が予想される場合、氷による閉塞が、反応物の供給、すなわち水素含有燃料および酸素含有ガス、特に空気の供給を損なうか、または完全に遮断する可能性があるため、複数の燃料セルによって形成された燃料電池スタックにおける氷による閉塞を防ぐために適切な対策を講じる必要がある。氷による閉塞を防ぐために、燃料電池装置のスイッチが切られたときに燃料電池スタックを乾燥させることを含む、適切な方法のステップが知られている。しかしながら、燃料電池装置の起動時に結果として生じる水が凍結した場合にも、氷の詰まりが発生する可能性がある。適切な凍結起動戦略を適用することにより結果として生じる水が凍結するのを防ぐために、この目的のための適切な手段も知られている。
【0003】
氷の詰まりを解消するための1つの可能性は、少量の電力しか生成されない場合に、特に燃料電池装置自体によって十分な加熱電力を供給することによって提供される。これは、空気からの酸素の通常の供給により空気の質量流量が減少するという点で、燃料電池の効率が低いことによって達成することができる。その結果、図5に示すように、電流-電圧図の輸送抵抗が支配的な範囲は、オーム範囲が支配的な低電流にシフトする。
【0004】
空気質量流量の減少は、特許文献1に開示されており、低温での起動では、圧縮機の絞りにより空気の供給が減少し、バルブを開くことにより、空気の少ない代替ガス流が利用できるようになる点が記載されている。
【0005】
特許文献2は、空気/空気起動の手順に関し、その起動方法では、最初は完全に空気で満たされ、次に燃料が濃縮されたアノード流れ場排気ガスの再循環も提供される。
【0006】
効率を低下させるために空気質量流量を減少させた凍結起動条件下で燃料電池装置を起動する場合には問題があり、すなわち、質量および体積流量が少なく、カソードのガスチャネルから水を排出できないという問題がある。したがって、液体の水がそこに集まり、ガスチャネル内のガス分布を損ない、それにより、電気化学的効果に起因して、個々のセル電圧が非常に高くまたは非常に低くなり、特にセル電圧が高いと電極の劣化に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第10038205号明細書
【文献】独国特許第10297626号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は、凍結起動条件下で燃料電池装置を起動するための方法において、燃料装置の個々のセルにおける望ましくない電圧差を低減または防止するという目的に基づいている。さらなる目的は、改良された燃料電池装置および改良された自動車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この方法に関連する目的の部分は、請求項1に記載の特徴を有する方法によって達成され、燃料電池装置に関連する目的の部分は、請求項7に記載の特徴を有する燃料電池装置によって達成され、自動車に関連する目的の部分は、請求項9に記載の特徴を有する自動車によって達成される。本発明の便宜的な改良を有する有利な実施形態は、従属請求項に明記されている。
【0010】
複数の燃料セルを有する燃料電池装置を凍結起動条件下で起動する方法では、燃料電池装置の凍結起動条件の存在が最初に判定される、すなわち、加熱された燃料電池装置を備えた自動車が一時的に停止するだけの場合、0℃未満の外気温でも必ずしも必要のない凍結起動条件を確認するように、内部または外部パラメータが使用されるかどうかを決定するためのチェックが行われる。凍結起動条件が存在する場合、低い発熱効率で燃料電池装置を作動させるために、水素含有反応物がアノード側に供給され、かつ、酸素欠乏を伴う準化学量論比(substoichiometric ratio)で、酸素含有反応物がカソード側に供給される。これに続いて、所定の時間間隔の間、準化学量論比で反応物の供給を維持し、その時間間隔が経過した後、放電段階(discharge phase)で燃料電池の完全な放電を行なう。次に、燃料電池装置は、所定の動作状態の要件および性能要件に従って反応物を供給する通常モードに移行する。放電段階により、燃料電池装置のすべての個々のセルが共通の電位に設定されるため、通常モードでは、均一な酸素供給により、すべての個々のセルのセル電圧が一致する。
【0011】
燃料電池の完全な放電は、好ましくは、反応物源からの酸素含有反応物の供給が停止されて、燃料電池内のすべての酸素が消費され、場合によっては、酸素含有反応物が再循環されて、その間、酸素が徐々に消費されるという点において行なわれる。
【0012】
共通のセルポテンシャルを提供する放電段階の後、ガスチャネルの閉塞によって新たな問題が発生しない、つまり加熱が十分に進行していることが重要である。これは、反応物の供給経路および反応経路の閉塞が時間間隔の終わりに解消されるように、特定の所与の凍結起動条件の関数として時間間隔を規定することによって保証される。
【0013】
この新しい方法では、酸素含有反応物として空気を使用し、空気の質量流量を減らすことによって酸素含有反応物を準化学量論比で供給することにより、放電段階の前に燃料電池装置の加熱を促進する可能性もある。
【0014】
すべての燃料セルが共通の電位を有し、通常モードでは同じ目標電圧を有するまで放電段階が維持されることはさらに有利であり、その結果、放電段階の継続時間を決定するための基準も存在する。
【0015】
この方法を実行するための改良された燃料電池装置は、放電段階の開始および終了のための制御装置が設けられ、この制御装置を装置制御部に統合することも可能であるという特徴がある。
【0016】
本発明の方法に従って作動することが可能な改良された燃料電池装置を備えた新しい自動車は、全体的に損傷または劣化が少なく、効率が向上する。
【0017】
本発明のさらなる利点、特徴、および詳細は、特許請求の範囲、好ましい実施形態の以下の説明、および図面から生じる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】放電段階を含む負荷の変化が必要な、凍結起動条件下での燃料電池装置の起動の時間依存表現(時間t)であり、縦座標上に破線を使用して凍結起動操作をBTFとして示し、通常動作をBTNとして示し、スイッチオフされた燃料電池装置をBToffとして示す図である。
図2】放電段階の終了後、および通常モードへの移行後の、すべての単一セル(Cell)のセル電圧図であり、縦座標上に開回路電圧をOCVとして示し、目標電圧をVZとして示す図である。
図3図1に従う、従来技術による周知の方法に関する図である。
図4図2に従う、負荷変化中のセル電圧図である。
図5】凍結起動時の空気流量(air mass)の不足の影響の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
燃料電池装置は、一般に、直列に接続された複数の燃料セルを有する燃料セルスタックを備える。
【0020】
各燃料セルは、アノードと、カソードと、アノードをカソードから分離するプロトン伝導性膜と、を備える。膜は、イオノマ、好ましくはスルホン化テトラフルオロエチレンポリマ(PTFE)または過フッ素化スルホン酸(PFSA)のポリマから形成される。あるいは、膜は、スルホン化炭化水素膜として形成することができる。
【0021】
触媒をアノードおよび/またはカソードに添加することもでき、膜は、好ましくは、それらの第1の面および/またはそれらの第2の面を、白金、パラジウム、ルテニウムなどの貴金属または貴金属を備えた混合物から作成された触媒層で被覆され、それらは、燃料セルの反応中に反応促進剤として機能する。
【0022】
燃料(水素など)は、燃料電池スタック内のアノード空間を介してアノードに供給される。高分子電解質膜燃料電池(PEM燃料電池)では、燃料または燃料分子はアノードでプロトンと電子とに分離される。膜はプロトン(例えば、H+)を通過させるが、電子(e-)は通さない。この場合、次の反応がアノードで生じる:2H2→4H++4e-(酸化/電子供与)。プロトンが膜を通過してカソードに到達する間、電子は外部電源回路を介してカソードまたはエネルギーアキュムレータに伝達される。カソードガス(例えば、酸素、または酸素を含有する空気)は、燃料電池スタック内のカソード空間を介してカソードに供給され、カソード側で次の反応が生じる:O2+4H++4e-→2H2O(還元/電子の取り込み)。
【0023】
燃料電池装置の起動時に凍結起動状態になると、複数の燃料セルによって形成された燃料電池スタック内の反応物を供給するためのチャネルが氷によって塞がれるおそれがあり、この氷は、燃料電池装置のスイッチが切られたときの燃料電池スタックの不十分な乾燥、または燃料電池装置が起動される時に形成される水の凍結によって生じる。アノード側に閉塞があると、水素の枯渇が発生し、極性が大きく反転し、炭素腐食により膜電極アセンブリに不可逆的な損傷が発生する。
【0024】
既存の閉塞は、燃料電池装置を介して十分な加熱電力を提供することによって解消することができ、燃料電池装置は、この目的のために大量の熱を生成することを目的としており、電力をほとんど供給しない必要がある。これは、効率の低下した動作に対応しており、これは、酸素含有反応物として空気を使用し、空気の質量流量1を減らす(図5を参照)ことによって酸素含有反応物を準化学量論比(substoichiometric ratio)で供給する場合に達成することができる。
【0025】
図3および4に示されるこのプロセスの不利な結果である、強く変動する個々のセル電圧2は、複数の燃料セルを備えた燃料電池装置を凍結起動条件下で起動する本発明の方法を使用することによって防止され、この方法は、燃料電池装置の凍結起動条件の存在を判定し、水素含有反応物をアノード側に供給し、かつ、酸素欠乏を伴う準化学量論比で、酸素含有反応物をカソード側に供給し、所定の時間間隔の間、準化学量論比で反応物の供給を維持し、その時間間隔の経過後、放電段階3において燃料セルを完全に放電し、その後、燃料電池装置を、所定の動作状態の要件と性能要件に従って反応物を供給する通常モード4に移行する、ステップを備える。
【0026】
この場合、個々の燃料セル2の完全な放電は、好ましくは、反応物源からの酸素含有反応物の供給が停止され、燃料電池内のすべての酸素が消費されるという点において達成され、あるいは、酸素含有反応物が再循環され、その間、酸素が徐々に消費されるという点において達成される。
【0027】
通常モード4への移行中に氷による閉塞が発生しないようにするために、時間間隔の終わりに反応物の供給および反応経路の閉塞が解消され、特にすべての個々のセル2が共通の電位を有し、通常モード4では同じ目標電圧を有するように、特定の凍結起動条件に応じた時間間隔を規定する必要がある。
【0028】
この方法を実行するための改良された燃料電池装置は、放電段階の開始および終了のための制御ユニットが提供されるという特徴があり、この制御ユニットを装置制御部に統合することも可能である。
【符号の説明】
【0029】
1…空気の質量流量の低下
2…個別のセル/燃料セル
3…放電段階(discharge phase)
4…通常モード(normal mode)
図1
図2
図3
図4
図5