(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】炭素質被覆黒鉛粒子、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
C01B 32/20 20170101AFI20230210BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230210BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230210BHJP
【FI】
C01B32/20
H01M4/36 A
H01M4/36 C
H01M4/587
(21)【出願番号】P 2022569481
(86)(22)【出願日】2022-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2022029179
【審査請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2021132738
(32)【優先日】2021-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】須藤 幹人
(72)【発明者】
【氏名】伏脇 祐介
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 晃
(72)【発明者】
【氏名】山地 遼太
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 隆太
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/043375(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/013487(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/052452(WO,A1)
【文献】特開2011-029408(JP,A)
【文献】特開2019-019048(JP,A)
【文献】特開平10-012241(JP,A)
【文献】国際公開第2013/125710(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/20
H01M 4/36
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粒子と、前記黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を被覆する炭素質被覆と、を備え、
最大粒径が、30.0~90.0μmであり、
細孔径が7.8~36.0nmの細孔に対応する細孔容積V
Sが、0.009~0.164cm
3/gであり、
横軸に細孔径、縦軸に細孔容積を細孔径で微分した値であるdV/dPをプロットした細孔径分布図において、前記dV/dPが最大となる細孔径P
maxが、2.5~5.5nmである、炭素質被覆黒鉛粒子。
【請求項2】
X線CTを用いて得られる一次粒子の粒度分布において、球相当直径が0.8μm以下である一次粒子の体積比率が、3.0~21.0%であり、
X線CTを用いて得られる二次粒子の粒子形状分布において、棒状である二次粒子の体積比率が、2.6~65.0%である、請求項1に記載の炭素質被覆黒鉛粒子。
【請求項3】
前記炭素質被覆の含有量が、前記黒鉛粒子100質量部に対して、0.1~15.0質量部である、請求項
1に記載の炭素質被覆黒鉛粒子。
【請求項4】
リチウムイオン二次電池の負極材料である、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素質被覆黒鉛粒子。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素質被覆黒鉛粒子を含有する、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
請求項5に記載の負極を有する、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質被覆黒鉛粒子、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池の負極材料として、黒鉛が使用される場合がある。
特許文献1には、「黒鉛粉末と、固体のノボラック樹脂とを混合したのち、前記ノボラック樹脂を軟化させるとともに、剪断力を加え前記黒鉛粉末に前記ノボラック樹脂を被覆し造粒粉を形成する被覆工程と、前記造粒粉を酸素含有雰囲気下で熱処理し熱処理粉を得る熱処理工程と、前記熱処理粉を、不活性ガス雰囲気下で焼成し、負極活物質用炭素材料を得る焼成工程と、からなることを特徴とする負極活物質用炭素材料の製造方法。」が開示されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、従来の方法によって製造した炭素質被覆黒鉛粒子を、リチウムイオン二次電池の負極材料として用いた。その結果、電池特性(出力特性)が不十分な場合があることを見出した。
【0005】
そこで、本発明は、リチウムイオン二次電池の負極材料として用いた場合に出力特性に優れる炭素質被覆黒鉛粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供する。
[1]黒鉛粒子と、上記黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を被覆する炭素質被覆と、を備え、最大粒径が、30.0~90.0μmであり、細孔径が7.8~36.0nmの細孔に対応する細孔容積VSが、0.009~0.164cm3/gであり、横軸に細孔径、縦軸に細孔容積を細孔径で微分した値であるdV/dPをプロットした細孔径分布図において、上記dV/dPが最大となる細孔径Pmaxが、2.5~5.5nmである、炭素質被覆黒鉛粒子。
[2]X線CTを用いて得られる一次粒子の粒度分布において、球相当直径が0.8μm以下である一次粒子の体積比率が、3.0~21.0%であり、X線CTを用いて得られる二次粒子の粒子形状分布において、棒状である二次粒子の体積比率が、2.6~65.0%である、上記[1]に記載の炭素質被覆黒鉛粒子。
[3]上記炭素質被覆の含有量が、上記黒鉛粒子100質量部に対して、0.1~15.0質量部である、上記[1]または[2]に記載の炭素質被覆黒鉛粒子。
[4]リチウムイオン二次電池の負極材料である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の炭素質被覆黒鉛粒子。
[5]上記[1]~[3]のいずれかに記載の炭素質被覆黒鉛粒子を含有する、リチウムイオン二次電池用負極。
[6]上記[5]に記載の負極を有する、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池の負極材料として用いた場合に出力特性に優れる炭素質被覆黒鉛粒子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1B】
図1Aとは異なる角度から観察された球状粒子の3次元画像である。
【
図1C】
図1A~Bとは異なる角度から観察された球状粒子の3次元画像である。
【
図1D】
図1A~Cとは異なる角度から観察された球状粒子の3次元画像である。
【
図2B】
図2Aとは異なる角度から観察された棒状粒子の3次元画像である。
【
図2C】
図2A~Bとは異なる角度から観察された棒状粒子の3次元画像である。
【
図2D】
図2A~Cとは異なる角度から観察された棒状粒子の3次元画像である。
【
図3B】
図3Aとは異なる角度から観察されたその他の二次粒子の3次元画像である。
【
図3C】
図3A~Bとは異なる角度から観察されたその他の二次粒子の3次元画像である。
【
図3D】
図3A~Cとは異なる角度から観察されたその他の二次粒子の3次元画像である。
【
図4】実施例および比較例において電池特性を評価するために作製した評価電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、範囲を「~」を用いて表示した場合、その範囲は「~」の両端を含む。例えば、A~Bという範囲は、AおよびBを含む。
【0011】
[炭素質被覆黒鉛粒子]
本発明の炭素質被覆黒鉛粒子は、黒鉛粒子と、上記黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を被覆する炭素質被覆と、を備え、最大粒径が、30.0~90.0μmであり、細孔径が7.8~36.0nmの細孔に対応する細孔容積VSが、0.009~0.164cm3/gであり、横軸に細孔径、縦軸に細孔容積を細孔径で微分した値であるdV/dPをプロットした細孔径分布図において、上記dV/dPが最大となる細孔径Pmaxが、2.5~5.5nmである。
本発明の炭素質被覆黒鉛粒子をリチウムイオン二次電池の負極材料として用いた場合に、出力特性に優れる。
【0012】
〈最大粒径〉
本発明の炭素質被覆黒鉛粒子の最大粒径は、電解質との反応を抑えて出力特性が優れるという理由から、90.0μm以下であり、この効果がより優れるという理由から、80.0μm以下が好ましく、70.0μm以下がより好ましく、65.0μm以下が更に好ましい。
一方、この最大粒径は、同様の理由から、30.0μm以上であり、50.0μm以上が好ましく、60.0μm以上がより好ましい。
最大粒径は、レーザー回折式粒度分布計(セイシン企業社製、LMS2000e)を用いて求める粒度分布の最大値である。
【0013】
〈細孔容積VS〉
本発明者らは、炭素質被覆黒鉛粒子における出力特性と相関する指標として、窒素吸着等温線からDFT(Density Functional Theory)法により算出される細孔容積に注目した。
そのうえで、本発明者らは、細孔径が7.8~36.0nmの細孔に対応する細孔容積が出力特性と相関する良い指標であることを明らかにした。
具体的には、出力特性がより優れるという理由から、本発明の炭素質被覆黒鉛粒子において、細孔径が7.8~36.0nmの細孔に対応する細孔容積VSは、0.009cm3/g以上であり、0.010cm3/g以上が好ましく、0.030cm3/g以上がより好ましい。
同様の理由から、本発明の炭素質被覆黒鉛粒子の細孔容積VSは、0.164cm3/g以下であり、0.160cm3/g以下が好ましく、0.158cm3/g以下がより好ましく、0.100cm3/g以下が更に好ましく、0.050cm3/g以下が特に好ましい。
DFT法による細孔容積の測定は、JIS Z 8831-2(ガス吸着によるメソ細孔及びマクロ細孔の測定方法)およびJIS Z 8831-3(ガス吸着によるミクロ細孔の測定方法)に基づいて求める。このとき、相対圧5×10-2Paから、細孔容積の測定を開始する。
【0014】
〈細孔径Pmax〉
更に、本発明者らは、細孔径が7.8nm未満の細孔は非晶質炭素に由来し、横軸に細孔径、縦軸に細孔容積を細孔径で微分した値(dV/dP)をプロットした細孔径分布図において、dV/dPが最大となる細孔径Pmaxが出力特性と相関する良い指標であることを明らかにした。
具体的には、出力特性がより優れるという理由から、本発明の炭素質被覆黒鉛粒子の細孔径Pmaxは、5.5nm以下であり、4.5nm以下が好ましい。
同様の理由から、本発明の炭素質被覆黒鉛粒子の細孔径Pmaxは、2.5nm以上であり、3.5nm以上が好ましい。
【0015】
細孔径分布は、全自動ガス吸着量測定装置As-iQ(Quantachrome社製)を用いて、測定する。具体的には、炭素質被覆黒鉛粒子について、測定セルに入れて300℃で2時間真空脱気する前処理を実施したうえで、以下の条件で、吸着等温線測定を実施する。
・吸着ガス:窒素ガス
・測定温度:77.3K
・セルサイズ:ペレットセル(1.5cm
3)
・測定相対圧:1×10
-2~1Pa
細孔形状をスリットポアと仮定し、NLDFT(Non-Local Density Functional Theory)法によって、得られた吸着等温線に対してフィッティングを実施する。これにより、細孔径P(単位:nm)と、各Pにおける細孔容積V(単位:cm
3/g)とを算出し、横軸に細孔径、縦軸に細孔容積を細孔径で微分した値(dV/dP)をプロットした細孔径分布図を得る。
図5に細孔径分布図の一例を示す。
【0016】
〈微粒の体積比率〉
本発明の炭素質被覆黒鉛粒子は、X線CTを用いて得られる一次粒子の粒度分布において、球相当直径が0.8μm以下である一次粒子(便宜的に「微粒」ともいう)の体積比率が、3.0~21.0%であることが好ましい。これにより、出力特性がより優れる。
出力特性が更に優れるという理由から、微粒の体積比率は、18.0%以下がより好ましく、10.0%以下が更に好ましい。
一方、微粒の体積比率は、同様の理由から、3.2%以上がより好ましく、3.5%以上が更に好ましい。
【0017】
《一次粒子の粒度分布》
炭素質被覆黒鉛粒子を構成する一次粒子の粒度分布を求める方法を説明する。
一次粒子の大きさを把握するには、炭素質被覆黒鉛粒子を非破壊および高分解能で可視化することを要する。そこで、放射光源を利用したX線CT(コンピュータ断層撮影)により、炭素質被覆黒鉛粒子を観察する。より詳細には、SPring-8のビームライン(BL24XU)にて、結像型X線CTを、以下の条件で実施する。
・X線エネルギー:8keV
・画像解像度:1248(H)×2048(W)ピクセル
・実行画素サイズ:68nm/ピクセル
・露光時間:0.5秒
・投影像の撮影枚数:1200枚
・Deforcus:0.3mm
試料である炭素質被覆黒鉛粒子は、石英ガラスキャピラリ(内径:約0.1mm)に充填し、X線CTに供する。
炭素質被覆黒鉛粒子の投影像を撮影した後、断面スライス像に再構成する。次いで、市販の画像解析ソフトであるExFact VR(日本ビジュアルサイエンス社製)のWatershed Analysis機能を用いて、隣接する一次粒子どうしを分割して個別に認識し、各一次粒子の体積を算出する。更に、各一次粒子について、得られた体積から、球相当直径を求める。各一次粒子のデータをグラフ(横軸:球相当直径、縦軸:各一次粒子の総体積に対する体積比率)にプロットすることにより、一次粒子の粒度分布を求める。
【0018】
〈棒状粒子の体積比率〉
本発明の炭素質被覆黒鉛粒子は、X線CTを用いて得られる二次粒子の粒子形状分布において、棒状である二次粒子(便宜的に「棒状粒子」ともいう)の体積比率が、2.6~65.0%であることが好ましい。これにより、出力特性がより優れる。
出力特性が更に優れるという理由から、棒状粒子の体積比率は、5.0%以上がより好ましく、10.0%以上が更に好ましく、15.0%以上がより更に好ましく、20.0%以上が特に好ましく、35.0%以上が最も好ましい。
一方、棒状粒子の体積比率は、同様の理由から、59.0%以下がより好ましく、55.0%以下が更に好ましく、50.0%以下がより更に好ましく、40.0%以下が特に好ましく、36.0%以下が最も好ましい。
【0019】
《二次粒子の粒子形状分布》
炭素質被覆黒鉛粒子を構成する二次粒子の粒子形状分布を求める方法を説明する。
二次粒子の形状を把握するには、炭素質被覆黒鉛粒子を非破壊および高分解能で可視化することを要する。そこで、放射光源を利用したX線CTにより、炭素質被覆黒鉛粒子を観察する。より詳細には、SPring-8のビームライン(BL24XU)にて、投影型X線CTを、以下の条件で実施する。
・X線エネルギー:20keV
・画像解像度:2048(H)×2048(W)ピクセル
・実行画素サイズ:325nm/ピクセル
・露光時間:0.1秒
・投影像の撮影枚数:1800枚
・試料と検出器との間の距離:10mm
試料である炭素質被覆黒鉛粒子は、ボロシリケートガラスキャピラリ(内径:約0.6mm)に充填し、X線CTに供する。
炭素質被覆黒鉛粒子の投影像を撮影した後、断面スライス像に再構成する。次いで、市販の画像解析ソフトであるExFact VR(日本ビジュアルサイエンス社製)のWatershed Analysis機能を用いて、隣接する二次粒子どうしを分割して個別に認識し、各二次粒子の体積を算出する。
次に、各二次粒子について、互いに直交する慣性主軸を3軸設定し、それぞれの重心モーメントを求める。3つの重心モーメントのうち、最大のものをL、最小のものをS、中間のものをMとする。以下の定義に従い、各二次粒子の粒子形状を、球状、棒状およびその他に分類する。
球状:S/L≧0.5、かつ、M/L≧0.5
棒状:S/L<0.5、かつ、M/L<0.5
各二次粒子の総体積に対する、球状に分類された二次粒子(球状粒子)の体積比率、および、棒状に分類された二次粒子(棒状粒子)の体積比率を求める。こうして、二次粒子の形状分布を求める。
【0020】
ここで、二次粒子のX線CTデータを画像解析して得られる3次元画像の例を示す。
図1A~Dは、球状粒子(S/L=0.79、M/L=0.91)の3次元画像である。
図2A~Dは、棒状粒子(S/L=0.11、M/L=0.19)の3次元画像である。
図3A~Dは、その他の二次粒子(楕円体状の粒子)(S/L=0.22、M/L=0.88)の3次元画像である。
図1A~Dにおいては、同じ1つの二次粒子を観察しており、観察角度が、それぞれに異なる。これは、
図2A~Dおよび
図3A~Dにおいても同様である。
【0021】
〈炭素質被膜の含有量〉
炭素質被膜の含有量は、細孔容積と相関し、出力特性がより優れるという理由から、黒鉛粒子100質量部に対して、例えば0.1質量部以上であり、0.3質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上が更に好ましく、2.0質量部以上が特に好ましく、4.0質量部以上が最も好ましい。
一方、炭素質被膜の含有量は、同様の理由から、黒鉛粒子100質量部に対して、15.0質量部以下が好ましく、13.0質量部以下がより好ましく、11.0質量部以下が更に好ましく、8.0質量部以下が特に好ましく、6.0質量部以下が最も好ましい。
【0022】
炭素質被覆黒鉛粒子における炭素質被膜の含有量は、次のように求める。
まず、炭素質被膜の前駆体(例えば、後述するノボラック型フェノール樹脂)の残炭率を求める。残炭率は、前駆体のみに炭素質被覆黒鉛粒子と同じ熱履歴を付与して炭素質被膜とした場合における、仕込み量に対する残量の割合(単位:質量%)である。
求めた前駆体の残炭率と、後述する添加量とから、炭素質被膜の含有量を求める。
例えば、残炭率が「34質量%」である前駆体の添加量が、黒鉛粒子100質量部に対して「8.0質量部」である場合を考える。この場合、得られる炭素質被覆黒鉛粒子における炭素質被膜の含有量は、黒鉛粒子100質量部に対して「2.7質量部」(=8.0×0.34)となる。
【0023】
[炭素質被覆黒鉛粒子の製造方法]
次に、上述した本発明の炭素質被覆黒鉛粒子を製造する方法の一例(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう)を説明する。
本発明の製造方法では、まず、黒鉛粒子に、ノボラック型フェノール樹脂を付着させることにより、樹脂付着黒鉛粒子を得る。次いで、樹脂付着黒鉛粒子を、非酸化性雰囲気下、900~1500℃で加熱して、ノボラック型フェノール樹脂を炭化させる。これにより、黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を炭素質被膜で被覆する。
【0024】
〈黒鉛粒子〉
本発明に用いる黒鉛粒子としては、特に限定されないが、例えば、原料を球状に加工する方法により得られる黒鉛粒子(球状化黒鉛)が好適に挙げられる。
ここで、原料は、球状(楕円体状を含む)以外の形状を有する黒鉛、例えば、鱗片状の黒鉛である。黒鉛は、天然黒鉛および人造黒鉛のどちらでもよいが、結晶性が高い等の理由から、天然黒鉛が好ましい。
球状化する方法は、より具体的には、例えば、接着剤や樹脂などの造粒助剤の共存下で原料を混合する方法;造粒助剤を用いずに原料に機械的外力を加える方法;両者を併用する方法;等が挙げられる。
これらのうち、造粒助剤を用いずに原料に機械的外力を加える方法が好ましい。以下、この方法を、より詳細に説明する。
【0025】
より詳細には、原料(例えば、鱗片状の黒鉛)を、粉砕装置を用いて機械的外力を加えることにより、粉砕および造粒する。こうして、原料を球状化して、球状化黒鉛を得る。
粉砕装置としては、例えば、回転ボールミル、カウンタジェットミル(ホソカワミクロン社製)、カレントジェット(日清エンジニアリング社製)、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製)、CFミル(宇部興産社製)、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)、シータコンポーザ(徳寿工作所社製)等が挙げられ、なかでも、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製)が好ましい。
【0026】
本発明においては、複数台の粉砕装置を直列に配置したうえで、これら複数台の粉砕装置を、原料が連続的に通過することが好ましい。すなわち、原料が1台の粉砕装置を通過した後、直ちに、次の粉砕装置で粉砕および造粒が行なわれるように、複数台の粉砕装置を直列に配置することが好ましい。
【0027】
《粉砕装置の台数》
このとき、粉砕装置の台数は、例えば2台以上であり、3台以上が好ましく、4台以上がより好ましく、5台以上が更に好ましく、6台以上が特に好ましい。
一方、粉砕装置の台数は、10台以下が好ましく、8台以下がより好ましく、7台以下が更に好ましい。
【0028】
《粉砕時間》
1台の粉砕装置において、原料を粉砕および造粒する時間(便宜的に「粉砕時間」という)は、8分/台以上が好ましく、13分/台以上がより好ましく、18分/台以上が更に好ましい。
一方、1台の粉砕装置における粉砕時間は、60分/台以下が好ましく、50分/台以下がより好ましく、40分/台以下が更に好ましい。
【0029】
《合計粉砕時間》
粉砕装置の台数と、1台の粉砕装置における粉砕時間との積(便宜的に「合計粉砕時間」という)は、30分以上が好ましく、50分以上がより好ましく、90分以上が更に好ましい。
一方、合計粉砕時間は、180分以下が好ましく、160分以下がより好ましい。
【0030】
《ローターの周速度》
粉砕装置は、通常、ローターを内蔵する。
各粉砕装置におけるローターの周速度は、30m/秒以上が好ましく、40m/秒以上がより好ましく、60m/秒以上が更に好ましい。
一方、各粉砕装置におけるローターの周速度は、180m/秒以下が好ましく、100m/秒以下がより好ましく、80m/秒以下が更に好ましい。
【0031】
《合計粉砕時間×ローターの周速度》
合計粉砕時間(単位:秒)とローターの周速度(単位:m/秒)との積(単位:m)は、75,000m以上が好ましく、80,000m以上がより好ましく、85,000m以上が更に好ましい。
一方、この積は、460,000m以下が好ましく、430,000m以下がより好ましく、400,000m以下が更に好ましい。
【0032】
せん断力および圧縮力を原料に付与しやすくするために、各粉砕装置に充填する原料の量は、少ない方が好ましい。
【0033】
〈ノボラック型フェノール樹脂〉
本発明に用いるノボラック型フェノール樹脂は、下記式(1)で表されることが好ましい。
【0034】
【0035】
式(1)中、Pはヒドロキシ基を有するアリーレン基を表し、mは1以上の整数を表す。
式(1)中のPが表すヒドロキシ基を有するアリーレン基としては、例えば、フェノール類から誘導される2価の基(すなわち、フェノール類を構成する芳香環から2個の水素原子を除いた残基)が挙げられる。
ここで、フェノール類の具体例としては、特に限定されないが、フェノール;o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、キシレノール、p-t-ブチルフェノールなどのアルキル置換フェノール;p-フェニルフェノールなどの芳香族置換フェノール;カテコール、レゾルシノールなどの2価フェノール;α-ナフトール、β-ナフトールなどのナフトール;等が挙げられ、なかでも、フェノールが好ましい。
式(1)中のmが表す1以上の整数は、特に限定されず、例えば、式(1)で表されるノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量(Mw)などに応じて、適宜選択される。
【0036】
《重量平均分子量》
ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、本発明の炭素質被覆黒鉛粒子を得やすいという理由から、500~100,000が好ましく、600~100,000がより好ましく、700~80,000が更に好ましく、1,000~50,000が特に好ましい。
重量平均分子量は、以下の条件で、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定することにより求める。
【0037】
(測定条件)
・装置本体:TOSOH社製「HLC-8220」
・検出器:波長280nmにセットしたTOSOH社製「UV-8220」
・分析用カラム:TOSOH社製「TSK-GELSuperHZ2000」、「TSK-GELSuperHZ3000」、「TSK-GELSuperHZM-M」をそれぞれ使用
・溶出溶媒:テトラヒドロフラン
・カラム温度:40℃
【0038】
〈樹脂付着黒鉛粒子〉
本発明の製造方法においては、まず、黒鉛粒子に、ノボラック型フェノール樹脂を付着させる。これにより、黒鉛粒子の表面にノボラック型フェノール樹脂が付着した樹脂付着黒鉛粒子を得る。
【0039】
《混合》
黒鉛粒子にノボラック型フェノール樹脂を付着させる方法としては、例えば、黒鉛粒子とノボラック型フェノール樹脂とを混合する方法が挙げられる。
混合の方法としては、特に限定されず、例えば、黒鉛粒子と、粉末状または加熱溶融して液状にしたノボラック型フェノール樹脂とを、混錬機などを用いて混合する方法が挙げられる。このとき、分散媒に黒鉛粒子を分散させた分散液を用いてもよい。混練機としては、例えば、加圧ニーダー、二本ロールなどを用いてもよい。
ノボラック型フェノール樹脂は、黒鉛粒子の表面に広がりやすくするため、粉末状が好ましい。粉末状のノボラック型フェノール樹脂の平均粒子径(D50)は、特に限定されないが、例えば、1~50μmである。
【0040】
《添加量》
ノボラック型フェノール樹脂の残炭率にもよるが、ノボラック型フェノール樹脂の添加量は、例えば、以下に示す添加量が好適に挙げられる。
すなわち、ノボラック型フェノール樹脂の添加量は、黒鉛粒子100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上が更に好ましい。
一方、ノボラック型フェノール樹脂の添加量は、黒鉛粒子100質量部に対して、30.0質量部以下が好ましく、15.0質量部以下がより好ましく、10.0質量部以下が更に好ましく、5.0質量部以下が特に好ましい。
【0041】
〈樹脂付着黒鉛粒子の加熱〉
次に、樹脂付着黒鉛粒子を、非酸化性雰囲気下、900~1500℃で加熱する。これにより、ノボラック型フェノール樹脂を、炭化させて、炭素質(炭素質被膜)とする。こうして、黒鉛粒子の表面の少なくとも一部が炭素質被膜によって被覆された炭素質被覆黒鉛粒子を得る。
加熱温度は、炭素質被膜の不可逆容量が大きくなることが抑制されるという理由から、900℃以上であり、950℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましい。
一方、加熱温度は、炭素質被膜の結晶性が上がるという理由から、1500℃以下であり、1300℃以下が好ましく、1200℃以下がより好ましい。
加熱時間は、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。加熱時間の上限は、特に限定されないが、例えば、30時間である。
加熱する際の雰囲気は、非酸化性雰囲気である。酸化性雰囲気では、炭素質被膜が燃焼して消失するからである。非酸化性雰囲気としては、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気、真空雰囲気などが挙げられる。自らが酸化するコークスブリーズなどを配置して雰囲気の酸素濃度を下げて、実質的に非酸化性雰囲気としてもよい。
【0042】
以下、本発明の炭素質被覆黒鉛粒子を「本発明の負極材料」と称する場合がある。
【0043】
[リチウムイオン二次電池用負極(負極)]
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、本発明の負極材料を含有する。リチウムイオン二次電池用負極を単に「負極」ともいう。
【0044】
本発明の負極は、通常の負極に準じて作製される。
負極の作製時には、本発明の負極材料に結合剤を加えて予め調製した負極合剤を用いることが好ましい。負極合剤には、本発明の負極材料以外の活物質や導電材が含まれていてもよい。
結合剤としては、電解質に対して、化学的および電気化学的に安定性を示すものが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂;ポリエチレン、ポリビニルアルコール、スチレンブタジエンゴムなどの樹脂;カルボキシメチルセルロース;等が用いられ、これらを2種以上併用することもできる。
結合剤は、通常、負極合剤の全量中の1~20質量%程度の割合で用いられる。
【0045】
より具体的には、まず、任意で、本発明の負極材料を分級などにより所望の粒度に調整する。その後、本発明の負極材料を結合剤と混合し、得られた混合物を溶剤に分散させて、ペースト状の負極合剤を調製する。溶剤としては、水、イソピロピルアルコール、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。混合や分散には、公知の攪拌機、混合機、混練機、ニーダーなどが用いられる。
【0046】
調製したペーストを、集電体の片面または両面に塗布し、乾燥する。こうして、集電体に均一かつ強固に密着した負極合剤層(負極)が得られる。負極合剤層の厚さは、10~200μmが好ましく、20~100μmがより好ましい。
負極合剤層を形成した後、プレス加圧などの圧着を行なうことにより、負極合剤層(負極)と集電体との密着強度をより高めることができる。
集電体の形状は、特に限定されないが、例えば、箔状、メッシュ、エキスパンドメタルなどの網状などである。集電体の材質としては、銅、ステンレス、ニッケルなどが好ましい。集電体の厚さは、箔状の場合で5~20μm程度が好ましい。
【0047】
〈塗工電極密度〉
本発明の負極において、塗工電極密度は、1.10g/cm3以上が好ましく、1.20g/cm3以上がより好ましく、一方、2.00g/cm3以下が好ましく、1.90g/cm3以下がより好ましい。
負極の塗工電極密度は、次のように求める。
一定の面積に打ち抜いた負極の質量(電子天秤を使用)および厚さ(マイクロメーターを使用)を測定する。次に、同じ面積に打ち抜いた集電体10枚の質量を測定し、その平均値を集電体の質量とする。更に、集電体の金属の密度から、集電体の厚さを求める。そして、下記式より、負極の塗工電極密度を求める。
負極の塗工電極密度=(負極の質量-集電体の質量)/{(負極の厚さ-集電体の厚さ)×(打ち抜き面積)}
【0048】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の負極を有する。
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の負極のほかに、更に、正極および非水電解質などを有する。本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、負極、非水電解質および正極が、この順で積層されて、外装材内に収容されることにより構成される。
本発明のリチウムイオン二次電池の型式は、用途、搭載機器、要求される充放電容量などに応じて、円筒型、角型、コイン型、ボタン型などの中から任意に選択できる。
【0049】
〈正極〉
正極の材料(正極活物質)は、充分量のリチウムを吸蔵/離脱し得るものを選択するのが好ましい。正極活物質としては、リチウムのほか、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物およびそのリチウム化合物などのリチウム含有化合物;一般式MXMo6S8-Y(式中Mは少なくとも一種の遷移金属元素であり、Xは0≦X≦4、Yは0≦Y≦1の範囲の数値である)で表されるシェブレル相化合物;活性炭;活性炭素繊維;等が挙げられる。バナジウム酸化物は、V2O5、V6O13、V2O4、V3O8で示される。
【0050】
リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属との複合酸化物であり、リチウムと2種類以上の遷移金属とを固溶したものであってもよい。複合酸化物は単独で使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
リチウム含有遷移金属酸化物は、具体的には、LiM1
1-XM2
XO2(式中M1、M2は少なくとも一種の遷移金属元素であり、Xは0≦X≦1の範囲の数値である)、または、LiM1
1-YM2
YO4(式中M1、M2は少なくとも一種の遷移金属元素であり、Yは0≦Y≦1の範囲の数値である)で示される。
M1、M2で示される遷移金属元素は、Co、Ni、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Zn、Al、In、Snなどであり、好ましいのはCo、Ni、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Alなどである。好ましい具体例は、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi0.9Co0.1O2、LiNi0.5Co0.5O2などである。
リチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、リチウム、遷移金属の酸化物、水酸化物、塩類等を出発原料とし、これら出発原料を所望の金属酸化物の組成に応じて混合し、酸素雰囲気下600~1000℃の温度で焼成することにより得られる。
【0051】
正極活物質は、上述した化合物を単独で使用しても2種類以上併用してもよい。例えば、正極中に炭酸リチウム等の炭素塩を添加できる。正極を形成するに際しては、従来公知の導電剤や結着剤などの各種添加剤を適宜に使用できる。
【0052】
正極は、例えば、正極活物質と、結合剤と、正極に導電性を付与するための導電剤とからなる正極合剤を、集電体の両面に塗布して正極合剤層を形成して作製される。
結合剤としては、負極の作製に使用される結合剤を使用できる。
導電剤としては、黒鉛化物、カーボンブラックなどの公知の導電剤が使用される。
集電体の形状は特に限定されないが、箔状または網状等が挙げられる。集電体の材質は、アルミニウム、ステンレス、ニッケル等である。集電体の厚さは、10~40μmが好ましい。
正極も、負極と同様に、ペースト状の正極合剤を、集電体に塗布、乾燥し、その後、プレス加圧等の圧着を行なってもよい。
【0053】
〈非水電解質〉
非水電解質は、液状の非水電解質(非水電解質液)であってもよく、固体電解質またはゲル電解質などの高分子電解質であってもよい。
【0054】
非水電解質としては、通常の非水電解質液に使用される電解質塩である、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiB(C6H5)、LiCl、LiBr、LiCF3SO3、LiCH3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3CH2OSO2)2、LiN(CF3CF2OSO2)2、LiN(HCF2CF2CH2OSO2)2、LiN((CF3)2CHOSO2)2、LiB[{C6H3(CF3)2}]4、LiAlCl4、LiSiF6などのリチウム塩が用いられる。酸化安定性の点からは、LiPF6、LiBF4が好ましい。
非水電解質液中の電解質塩の濃度は、0.1~5.0モル/Lが好ましく、0.5~3.0モル/Lがより好ましい。
【0055】
非水電解質液を調製するための溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート;1、1-または1、2-ジメトキシエタン、1、2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、1、3-ジオキソラン、4-メチル-1、3-ジオキソラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル;スルホラン、メチルスルホランなどのチオエーテル;アセトニトリル、クロロニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル;ホウ酸トリメチル、ケイ酸テトラメチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、酢酸エチル、トリメチルオルトホルメート、ニトロベンゼン、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、3-メチル-2-オキサゾリドン、エチレングリコール、ジメチルサルファイトなどの非プロトン性有機溶媒;等が挙げられる。
【0056】
非水電解質が、固体電解質またはゲル電解質などの高分子電解質である場合、マトリックスとして可塑剤(非水電解質液)でゲル化された高分子を用いることが好ましい。
マトリックスを構成する高分子としては、ポリエチレンオキサイド、その架橋体などのエーテル系高分子化合物;ポリ(メタ)アクリレート系高分子化合物;ポリビニリデンフルオライド、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物;等が好適に用いられる。
可塑剤である非水電解質液中の電解質塩の濃度は、0.1~5.0モル/Lが好ましく、0.5~2.0モル/Lがより好ましい。
高分子電解質において、可塑剤の割合は、10~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましい。
【0057】
〈セパレータ〉
本発明のリチウムイオン二次電池においては、セパレータも使用できる。
セパレータは、その材質は特に限定されないが、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜などが用いられる。これらのうち、合成樹脂製微多孔膜が好ましく、なかでも、ポリオレフィン系微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面でより好ましい。ポリオレフィン系微多孔膜としては、ポリエチレン製微多孔膜、ポリプロピレン製微多孔膜、これらを複合した微多孔膜などが好適に挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施例に限定されない。
【0059】
〈被覆剤の調製〉
以下のようにして、黒鉛粒子を被覆する被覆剤として、ノボラック型フェノール樹脂A~Cを調製した。
【0060】
《ノボラック型フェノール樹脂A》
o-クレゾールとs-トリオキサンとを、1/1のモル比(o-クレゾール/s-トリオキサン)で混合して、混合物a1を得た。
混合物a1に酢酸を加えて、窒素下で80℃に加熱し、これに硫酸と酢酸との混合液を徐々に滴下し、混合物a2を得た。
混合物a2を110℃で3時間攪拌し、その後、冷却して、反応混合物a3を得た。
反応混合物a3を、5質量%炭酸水素ナトリウム水溶液中に投入して、樹脂を生成させ、沈殿させた。沈殿物を濾別し、温水で洗浄後、風乾し、更に110℃で16時間減圧乾燥し、次いで、打撃式粉砕機を用いて粉砕した。
こうして、粉末状のノボラック型フェノール樹脂A(粒子径D50:34μm、重量平均分子量:2800、残炭率:34質量%)を得た。
【0061】
《ノボラック型フェノール樹脂B》
p-クレゾールとs-トリオキサンとを、1/1のモル比(p-クレゾール/s-トリオキサン)で混合して、混合物b1を得た。
混合物b1に酢酸を加えて、窒素下で80℃に加熱し、これに硫酸と酢酸との混合液を徐々に滴下し、混合物b2を得た。
混合物b2を110℃で3時間攪拌し、その後、冷却して、反応混合物b3を得た。
反応混合物b3を、5質量%炭酸水素ナトリウム水溶液中に投入して、樹脂を生成させ、沈殿させた。沈殿物を濾別し、温水で洗浄後、風乾し、更に110℃で16時間減圧乾燥し、次いで、打撃式粉砕機を用いて粉砕した。
こうして、粉末状のノボラック型フェノール樹脂B(粒子径D50:30μm、重量平均分子量:1550、残炭率:23質量%)を得た。
【0062】
《ノボラック型フェノール樹脂C》
o-クレゾールとs-トリオキサンとを、1/1.2のモル比(o-クレゾール/s-トリオキサン)で混合して、混合物c1を得た。
混合物c1に酢酸を加えて、窒素下で80℃に加熱し、これに硫酸と酢酸との混合液を徐々に滴下し、混合物c2を得た。
混合物c2を110℃で3時間攪拌し、その後、冷却して、反応混合物c3を得た。
反応混合物c3を、5質量%炭酸水素ナトリウム水溶液中に投入して、樹脂を生成させ、沈殿させた。沈殿物を濾別し、温水で洗浄後、風乾し、更に110℃で16時間減圧乾燥し、次いで、打撃式粉砕機を用いて粉砕した。
こうして、粉末状のノボラック型フェノール樹脂C(粒子径D50:28μm、重量平均分子量:3800、残炭率:38質量%)を得た。
【0063】
〈実施例1〉
以下のように、炭素質被覆黒鉛粒子を調製し、評価した。
【0064】
《黒鉛粒子の調製》
原料を下記表1に示す条件(粉砕条件)で粉砕および造粒することにより、黒鉛粒子を得た。より詳細には、原料である鱗片状の天然黒鉛(平均粒子径:8μm)を、直列に配置された4台の粉砕装置(奈良機械製作所社製、ハイブリダイゼーションシステム)に連続的に通過させた。各粉砕装置において、粉砕時間は10分、ローターの周速度は60m/秒とした。
【0065】
《炭素質被覆黒鉛粒子の調製》
黒鉛粒子100質量部に、3.7質量部のノボラック型フェノール樹脂Aを添加して、ドラム型のミキサーを用いて、25℃で15分間混合し、樹脂付着黒鉛粒子を得た。
得られた樹脂付着黒鉛粒子を、黒鉛製の蓋付き容器に入れて、管状炉を用いて、窒素2L/min流通下(非酸化性雰囲中)、1200℃で3時間加熱し、炭素質被覆黒鉛粒子を得た。
得られた炭素質被覆黒鉛粒子の各物性を、上述した方法により求めた。結果を下記表1に示す。
【0066】
《負極の作製》
炭素質被覆黒鉛粒子(負極材料)98質量部、カルボキシメチルセルロース(結合剤)1質量部およびスチレンブタジエンゴム(結合剤)1質量部を、水に入れ、攪拌することにより、負極合剤ペーストを調製した。
調製した負極合剤ペーストを、銅箔の上に均一な厚さで塗布し、更に、真空中90℃で乾燥し、負極合剤層を形成した。次に、この負極合剤層を、ハンドプレスによって120MPaの圧力で加圧した。その後、銅箔および負極合剤層を、直径15.5mmの円形状に打ち抜いた。こうして、銅箔からなる集電体に密着した負極(塗工電極密度:1.50g/cm3)を作製した。
【0067】
《正極の作製》
LiCoO2(93質量%)、導電剤(4質量%)および結合剤(3質量%)からなる正極を用いた。導電剤としては鱗片状黒鉛粒子を、結合剤としてはスチレンブタジエンゴムを用いた。
【0068】
《評価電池の作製》
評価電池として、
図4に示すボタン型二次電池を作製した。
図4は、ボタン型二次電池を示す断面図である。
図4に示すボタン型二次電池は、外装カップ1と外装缶3との周縁部が絶縁ガスケット6を介してかしめられ、密閉構造が形成されている。密閉構造の内部には、外装缶3の内面から外装カップ1の内面に向けて順に、集電体7a、正極4、セパレータ5、負極2、および、集電体7bが積層されている。
【0069】
図4に示すボタン型二次電池を、次のように作製した。
まず、エチレンカーボネート(33体積%)とメチルエチルカーボネート(67体積%)との混合溶媒に、LiPF
6を1モル/Lとなる濃度で溶解させることにより、非水電解質液を調製した。得られた非水電解質液を、ポリプロピレン多孔質体(厚さ:20μm)に含浸させることにより、非水電解質液が含浸したセパレータ5を作製した。
次に、作製したセパレータ5を、銅箔からなる集電体7bに密着した負極2と、ニッケルネットからなる集電体7aに密着した正極4との間に挟んで積層した。その後、集電体7bおよび負極2を外装カップ1の内部に収容し、集電体7aおよび正極4を外装缶3の内部に収容し、外装カップ1と外装缶3とを合わせた。更に、外装カップ1と外装缶3との周縁部を、絶縁ガスケット6を介在させて、かしめて密閉した。このようにして、ボタン型二次電池を作製した。
【0070】
作製したボタン型二次電池(評価電池)を用いて、以下に説明する充放電試験により、電池特性を評価した。結果を下記表1に示す。
以下の充放電試験においては、リチウムイオンを負極材料に吸蔵する過程を充電とし、負極材料からリチウムイオンが脱離する過程を放電とした。
【0071】
《初期放電容量》
回路電圧が0mVに達するまで0.9mAの定電流充電を行ない、回路電圧が0mVに達した時点で定電圧充電に切り替え、更に、電流値が20μAになるまで充電を続けた。その後、120分間休止した。次に、0.9mAの電流値で回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行ない、この間の通電量から、単位質量当たりの放電容量(単位:mAh/g)を、初期放電容量として求めた。結果を下記表1に示す。
【0072】
《充放電試験:25℃出力抵抗率》
25℃の温度雰囲気下で、回路電圧が3.82Vに達するまで1.0Cの定電流充電を行なった。その後、0℃の温度雰囲気に調整し、3時間休止した。
次に、0.5Cで10秒間放電後、10分間休止し、0.5Cで10秒間充電後、10分間休止した。
次に、1.0Cで10秒間放電後、10分間休止し、0.5Cで、20秒でSOC(State of Charge:充電率)50%に充電を行ない、10分間休止した。
次に、1.5Cで10秒間放電後、10分間休止し、0.5Cで、30秒でSOC50%に充電を行ない、10分間休止した。
次に、2.0Cで10秒間放電後、10分間休止し、0.5Cで、40秒でSOC50%に充電を行ない、10分間休止した。
試験後、上記で求めた放電容量(単位:mAh)と、各Cレート(0.5C、1.0C、1.5C、2.0C)とを掛けて、電流値を算出した。また、そのCレートで放電を行なった際の電圧(10秒値)をそれぞれ求めた。
各Cレートでの結果を、電流値をx座標、電圧をy座標としてプロットし、それらの線形近似直線の傾きを最小二乗法から算出した。この傾きを出力抵抗(単位:Ω)とした。この値が小さいほど、出力特性に優れると評価できる。
更に、下記式から、各例(実施例および比較例)の25℃出力抵抗率(単位:%)を求めた。結果を下記表1に示す。
25℃出力抵抗率[%]=(各例の出力抵抗/実施例1の出力抵抗)×100
【0073】
〈実施例2〉
黒鉛粒子100質量部に、13.0質量部のノボラック型フェノール樹脂Bを添加した。それ以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を調製し、評価した。結果を下記表1に示す。
【0074】
〈実施例3〉
黒鉛粒子100質量部に、3.9質量部のノボラック型フェノール樹脂Cを添加した。それ以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を調製し、評価した。結果を下記表1に示す。
【0075】
〈実施例4〉
黒鉛粒子100質量部に、13.7質量部のノボラック型フェノール樹脂Cを添加した。それ以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を調製し、評価した。結果を下記表1に示す。
【0076】
〈実施例5〉
原料を通過させる各粉砕装置のローターの周速度を150m/秒とし、黒鉛粒子100質量部に16.5質量部のノボラック型フェノール樹脂Aを添加した。それ以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を調製し、評価した。結果を下記表1に示す。
【0077】
〈実施例6〉
原料を通過させる粉砕装置の台数を3台とし、各粉砕装置においてローターの周速度を50m/秒とし、黒鉛粒子100質量部に9.9質量部のノボラック型フェノール樹脂Aを添加した。それ以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を調製し、評価した。結果を下記表1に示す。
【0078】
〈実施例7〉
原料を通過させる粉砕装置の台数を2台とし、各粉砕装置において、粉砕時間を7分、ローターの周速度を100m/秒とし、黒鉛粒子100質量部に9.9質量部のノボラック型フェノール樹脂Aを添加した。それ以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を調製し、評価した。結果を下記表1に示す。
【0079】
〈比較例1〉
原料を通過させる粉砕装置の台数を1台とし、各粉砕装置においてローターの周速度を70m/秒とし、黒鉛粒子100質量部に5.7質量部のノボラック型フェノール樹脂Bを添加した。それ以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を調製し、評価した。結果を下記表1に示す。
【0080】
〈比較例2〉
原料を通過させる粉砕装置の台数を8台とし、かつ、各粉砕装置においてローターの周速度を100m/秒とし、黒鉛粒子100質量部に9.9質量部のノボラック型フェノール樹脂Aを添加した。それ以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を調製し、評価した。結果を下記表1に示す。
【0081】
〈比較例3〉
原料を通過させる粉砕装置の台数を3台とし、かつ、各粉砕装置においてローターの周速度を40m/秒とし、黒鉛粒子100質量部に9.9質量部のノボラック型フェノール樹脂Aを添加した。それ以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を調製し、評価した。結果を下記表1に示す。
【0082】
〈比較例4〉
黒鉛粒子100質量部に、15.0質量部のコールタールピッチを添加して、二軸ニーダーを用いて50℃に加熱して30分間混合し、その後、管状炉を用いて、窒素5L/min流通下(非酸化性雰囲中)、1100℃で10時間加熱して、炭素質被覆黒鉛粒子を得た。それ以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を評価した。結果を下記表1に示す。
【0083】
〈比較例5〉
原料を通過させる粉砕装置の台数を1台とし、かつ、各粉砕装置においてローターの周速度を70m/秒とし、黒鉛粒子100質量部に20.0質量部のノボラック型フェノール樹脂Aを添加した。それ以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を調製し、評価した。結果を下記表1に示す。
【0084】
【0085】
〈評価結果まとめ〉
上記表1に示すように、最大粒径が30.0~90.0μmであり、細孔容積VSが0.009~0.164cm3/gであり、かつ、細孔径Pmaxが、2.5~5.5nmである実施例1~7は、これらの少なくともいずれかを満たさない比較例1~5よりも、出力特性が良好であった。
【符号の説明】
【0086】
1:外装カップ
2:負極
3:外装缶
4:正極
5:セパレータ
6:絶縁ガスケット
7a:集電体
7b:集電体
【要約】
リチウムイオン二次電池の負極材料として用いた場合に出力特性に優れる炭素質被覆黒鉛粒子を提供する。上記炭素質被覆黒鉛粒子は、黒鉛粒子と、上記黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を被覆する炭素質被覆と、を備え、最大粒径が、30.0~90.0μmであり、細孔径が7.8~36.0nmの細孔に対応する細孔容積VSが、0.009~0.164cm3/gであり、横軸に細孔径、縦軸に細孔容積を細孔径で微分した値であるdV/dPをプロットした細孔径分布図において、上記dV/dPが最大となる細孔径Pmaxが、2.5~5.5nmである。