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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】免疫力の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20230213BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230213BHJP
   G01N 33/74 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
G01N33/50 Q
G01N33/68
G01N33/74
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019002621
(22)【出願日】2019-01-10
(65)【公開番号】P2020112407
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松本 知大
(72)【発明者】
【氏名】高木 寛
(72)【発明者】
【氏名】井上 悠
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/145333(WO,A1)
【文献】特開2010-145205(JP,A)
【文献】特開2016-069285(JP,A)
【文献】国際公開第2014/132982(WO,A1)
【文献】特開2007-189951(JP,A)
【文献】特開2004-307425(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0054265(US,A1)
【文献】免疫力測定評価基準,2016年10月23日,http://web.archive.org/web/20161023165211/http://h-ls.jp/check13.html
【文献】田中喜秀,薬学領域におけるストレス研究の最前線,ライフサポート,2010年,Vol.22 No.3,Page.90-95
【文献】永田頌史,ストレスによる免疫能の変化と脳・免疫連関,産業医科大学雑誌,1993年,Vol.15 No.2,Page.161-171
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50
G01N 33/68
G01N 33/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液中ナチュラルキラー(NK)細胞活性を推定するための指標を得る方法であって、血液中ナチュラルキラー(NK)細胞活性を推定するための指標として、顔面頬部の肌の角層水分量を測定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔面頬部の肌の乾燥、疲労感あるいは唾液中ストレス因子を測定することで、身体全体の免疫力を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
身体全体の免疫力を評価する方法は、採血した血液中のナチュラルキラー(NK)細胞活性、免疫細胞(NK細胞、T細胞、B細胞、ナイーブT細胞、キラーT細胞など)の数、あるいはそれらを比率に応じて判定する免疫力スコア(特許文献1)など、複数の方法が知られている。しかしながら、評価する際に、採血という身体を侵襲する行為により、痛みなどの苦痛を伴い、また、検査料が高額であるという課題もある。身体全体の免疫力を、身体に苦痛を与えず、さらに簡便に評価することができれば、健康の保持・増進に極めて有用な方法となり得る。
【0003】
本発明は、採血という身体を侵襲する行為をすることなく、身体全体の免疫力を簡便に評価することを目的とし、健康の保持・増進を目指すための健康食品の有効性評価や健康食品の提案に使用することができる発明である。なお、本発明の目的は、あくまで健康の保持・増進のために身体全体の免疫力を評価することであり、疾病の診断をはじめとする医療目的の発明ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-069285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、顔面頬部の肌の乾燥(角層水分量、経表皮水分蒸散量など)、疲労感あるいは唾液中ストレス因子を測定することで、身体全体の免疫力を評価する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討を行った結果、顔面頬部の肌の乾燥(角層水分量、経表皮水分蒸散量など)、疲労感あるいは唾液中ストレス因子を測定することで、身体全体の免疫力を評価する方法を発明するに至った。
【0007】
本発明における身体全体の免疫力を評価する方法は、顔面頬部の肌の乾燥(角層水分量、経表皮水分蒸散量など)、疲労感、唾液中ストレス因子などの測定値から、採血することなしに、身体全体の免疫力を評価できるものである。これは、発明者らが、顔面頬部の肌の角層水分量と血液中NK細胞活性の関係を鋭意、検討したところ、顔面頬部の肌の角層水分量が高い人ほど、血液中NK細胞活性が高いという相関関係を見出し、そのことから、顔面頬部の肌の角層水分量を測定することで、血液中NK細胞活性すなわち、身体全体の免疫力を評価する方法を見出すに至ったものである。同様に、顔面頬部の肌の経表皮水分蒸散量と血液中NK細胞活性については、顔面頬部の肌の経表皮水分蒸散量が低い人ほど、血液中NK細胞活性が高いという相関関係を見出したことで、顔面頬部の肌の経表皮水分蒸散量を測定することで、血液中NK細胞活性すなわち、身体全体の免疫力を評価する方法を見出すに至った。また、疲労感と血液中NK細胞活性との相関関係、唾液中ストレス因子と唾液中免疫グロブリンAとの相関関係を見出すことで本発明を完成するに至った。以上の因子の相関関係を明らかにすることで、発明者らは、肌の乾燥、疲労感、唾液中ストレス因子を測定することで、採血という身体を侵襲する行為なくして、身体全体の免疫力を評価できる方法を、初めて見出すに至った。
【0008】
本発明における身体全体の免疫力を評価する指標としては、血液中NK細胞活性、唾液中免疫グロブリンAなどが挙げられる。
【0009】
本発明における、血液中NK細胞活性は、血液中のNK細胞の活性であり、癌細胞やウイルス感染細胞などを排除する働きを示すものである。NK細胞は、自然免疫の主要因子として働く細胞傷害性リンパ球の1種であり、抗原による感作がなされずとも癌細胞やウイルス感染細胞などを排除する働きを有している。そのため、NK細胞活性は、感染症や発癌を予防する上で極めて重要な指標と考えられている。血液中のNK細胞活性は、被験者から採血した末梢血を遠心分離して得た末梢血単核細胞を癌細胞と接触させ、癌細胞に対する細胞傷害性を細胞内に取り込ませた51Crなどの放射性物質の遊離をもって測定できることが知られている。
【0010】
本発明における顔面頬部の肌の乾燥は、肌のトラブルの一種であって、肌の水分や皮脂が不足し、肌荒れ、かさつき、しわ、粉ふきが生じている、あるいは自覚している状態を示す。顔面頬部の肌の乾燥を測定する方法は、被験者の自覚症状、医師の診断、肌測定用機器による測定などが挙げられる。中でも、肌測定用機器で角層水分量や経表皮水分蒸散量を測定する方法が好ましい。角層水分量は、各社から販売されているインピーダンスメーターなどの測定機器を用いて測定することができる。経表皮水分蒸散量は、各社から販売されている水分蒸散量測定機器を用いて測定することができる。
【0011】
本発明における、疲労感の測定は、様々な方法で測定することができるが、最も一般的に使用される方法は、日本疲労学会で推奨される100mm線分を利用したVAS(Visual Analogue Scale)法である。
【0012】
本発明における、唾液中ストレス因子は、唾液中アミラーゼ、唾液中コルチゾールなどが挙げられる。唾液中のストレス因子は、採取した唾液を用いて、アミラーゼの酵素活性あるいは抗体を使った免疫抗体法などの方法で測定することができる。
【0013】
本発明は、顔面頬部の肌の角層水分量、顔面頬部の肌の経表皮水分蒸散量、疲労感、唾液中のストレス因子である唾液中コルチゾールや唾液中アミラーゼを測定することで、身体全体の免疫力を評価する方法である。本発明において、例えば、顔面頬部の肌の角層水分量という一つの因子を測定することで、身体全体の免疫力である血液中NK細胞活性を評価できることを示すものであるが、顔面頬部の肌の角層水分量および顔面頬部の肌の経表皮水分蒸散量で例示される二つの因子を測定することで、さらに精度良く身体全体の免疫力を評価することも可能である。また、二つ以上の因子を測定することで、身体全体の免疫力を評価することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の実施例は例示のために説明するものであり、本発明の特許請求の範囲はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
実施例1 顔面頬部の肌の角層水分量、経表皮水分蒸散量、疲労感の測定と、血液中NK細胞活性の測定と、それらの因子の相関の検討
健康な成人18名を対象として、顔面頬部の肌の角層水分量はコルネオメーター(Courage+Khazaka社)で、顔面頬部の肌の経表皮水分蒸散量はテヴァメーター(Courage+Khazaka社)で、疲労感はVAS法(日本疲労学会の疲労感VAS検査用紙)で測定した。血液中のNK細胞活性は、採血で得た末梢血を用いて、放射性物質51Crを使用した、51Cr遊離法で測定した。測定項目間の統計解析は、積率相関係数および無相関検定p値(*p<0.05)を算出することで行った。
【0016】
顔面頬部の肌の角層水分量と血液中NK細胞活性の相関を検討したところ、正の相関が認められ、顔面頬部の肌の角層水分量が高いと、血液中NK細胞活性が高いことが判った(図1)。よって、顔面頬部の角層水分量を測定することで、血液中NK細胞活性、すなわち身体全体の免疫力を評価できることが明らかとなった。
【0017】
顔面頬部の肌の経表皮水分蒸散量と血液中NK細胞活性の相関を検討したところ、負の相関が認められ、顔面頬部の肌の経表皮水分蒸散量が低いと、血液中NK細胞活性が高いことが判った(図2)。よって、顔面頬部の経表皮水分蒸散量を測定することで、血液中NK細胞活性、すなわち身体全体の免疫力を評価できることが明らかとなった。
【0018】
疲労感と血液中NK細胞活性の相関を検討したところ、負の相関が認められ、疲労感が低いと、血液中NK細胞活性が高いことが判った(図3)。よって、疲労感を測定することで、血液中NK細胞活性、すなわち身体全体の免疫力を評価できることが明らかとなった。
【0019】
顔面頬部の肌の角層水分量と疲労感の相関を検討したところ、負の相関が認められ、顔面頬部の肌の角層水分量が高いと、疲労感が低いことが判った(図4)。
【実施例2】
【0020】
実施例2 唾液中コルチゾールおよびアミラーゼの測定と、唾液中免疫グロブリンAの測定と、それらの因子の相関の検討
健康な成人18名を対象として、唾液を採取し、唾液中のストレス因子を測定した。唾液中アミラーゼ(α-アミラーゼ)は酵素活性測定キット(サリメトリクス社)で、唾液中コルチゾールおよび唾液中免疫グロブリンAはELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)で測定した。測定項目間の統計解析は、積率相関係数および無相関検定p値(*p<0.05)を算出することで行った。
【0021】
唾液中コルチゾールと唾液中免疫グロブリンAの相関を検討したところ、正の相関が認められ、唾液中コルチゾールが高いと、唾液中免疫グロブリンAが高いことが判った(図5)。よって、唾液中コルチゾールを測定することで、唾液中免疫グロブリンA、すなわち身体全体の免疫力を評価できることが明らかとなった。
【0022】
唾液中アミラーゼ(α-アミラーゼ)と唾液中免疫グロブリンAの相関を検討したところ、正の相関が認められ、唾液中アミラーゼが高いと、唾液中免疫グロブリンAが高いことが判った(図6)。よって、唾液中アミラーゼを測定することで、唾液中免疫グロブリンA、すなわち身体全体の免疫力を評価できることが明らかとなった。
【実施例3】
【0023】
実施例3 血液中NK細胞活性の季節変動の検討
健康な成人18名を対象として、季節ごと「春(5月)、夏(8月)、秋(11月)、冬(2月)」の血液中NK細胞活性の測定を行った。血液中のNK細胞活性は、採血で得た末梢血を用いて、放射性物質51Crを使用した、51Cr遊離法で測定した。
【0024】
その結果、血液中NK細胞活性は、春(5月)、夏(8月)、冬(2月)に低値を示し、秋(11月)は他の季節と比較すると高値を示した。これにより、秋に血液中NK細胞活性を測定し、低値を示した方に対して免疫賦活剤を提供することにより、より効率的で高い効果性が期待でき、季節に応じた免疫賦活剤を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、身体を侵襲する採血を行わず、血液中NK細胞活性など身体全体の免疫力を評価する方法である。本発明によると、顔面頬部の肌の乾燥を角層水分量や経表皮水分蒸散量を測定することによって、血液中NK細胞活性などで表される身体全体の免疫力を評価することができる。また、疲労感を測定することによって、血液中NK細胞活性などで表される身体全体の免疫力を評価することができる。また、唾液中コルチゾールやアミラーゼを測定することによって、唾液中免疫グロブリンAなどで表される身体全体の免疫力を評価できる。本発明は、健康の保持・増進を目指すための健康食品の有効性評価や健康食品の提案に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】顔面頬部の肌の角層水分量と血液中NK細胞活性の相関を示したグラフ。
図2】顔面頬部の肌の経表皮水分蒸散量と血液中NK細胞活性の相関を示したグラフ。
図3】疲労感と血液中NK細胞活性の相関を示したグラフ。
図4】顔面頬部の肌の角層水分量と疲労感の相関を示したグラフ。
図5】唾液中コルチゾールと唾液中免疫グロブリンAの相関を示したグラフ。
図6】唾液中α-アミラーゼと唾液中免疫グロブリンAの相関を示したグラフ。
図7】血液中NK細胞活性の季節変動を示したグラフ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7