(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】成形吸着体および成形吸着体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/20 20060101AFI20230213BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
B01J20/20 E
B01J20/30
(21)【出願番号】P 2019005119
(22)【出願日】2019-01-16
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】592243553
【氏名又は名称】株式会社タカギ
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】松尾 陽
(72)【発明者】
【氏名】池成 亮
【審査官】谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-306710(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0207611(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/34
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄水器に使用される成形吸着体であって、
湿式成形により作製されたものであり、活性炭と、繊維状バインダーとを含有
し、
前記成形吸着体の形状が、楕円柱状または略楕円柱状であり、
成形吸着体内部に、長手方向に貫通する貫通孔を2以上有
し、
前記成形吸着体の長手方向に直交する断面において、各貫通孔の中心を結んだ直線方向と、成形吸着体の長径方向とが一致しており、
前記貫通孔の長手方向をz方向とし、前記成形吸着体の断面において、前記2以上の貫通孔が並ぶ方向をx方向、このx方向に直交する方向をy方向としたとき、前記成形吸着体を、それぞれの貫通孔の中心を通るyz平面で切断した時、x方向の最も外側に設けられた貫通孔の外方の部分の平均密度(D
out
)と貫通孔間の部分の平均密度(D
in
)との比(D
in
/D
out
)が、0.98以上であることを特徴とする成形吸着体。
【請求項2】
前記成形吸着体の断面において、成形吸着体の長径と短径との比(長径/短径)が、1.25~2である請求項1に記載の成形吸着体。
【請求項3】
前記成形吸着体は、外表面に、長手方向に延びる溝を有し、
前記溝の断面形状の最深部が、隣り合う貫通孔の間隔の中央に位置している
請求項1または2に記載の成形吸着体。
【請求項4】
前記成形吸着体の断面において、外表面の各地点から貫通孔までの最短距離をろ層厚さとしたとき、
ろ層厚さの最大値(T
max)とろ層厚さの最小値(T
min)との比(T
max/T
min)が2.0以下である
請求項1~3のいずれか一項に記載の成形吸着体。
【請求項5】
浄水器に使用される成形吸着体であり、活性炭と繊維状バインダーとを含有し、
前記成形吸着体の形状が楕円柱状または略楕円柱状であり、成形吸着体内部に長手方向に貫通する貫通孔を2以上有
し、前記成形吸着体の長手方向に直交する断面において各貫通孔の中心を結んだ直線方向と成形吸着体の長径方向とが一致しており、前記貫通孔の長手方向をz方向とし、前記成形吸着体の断面において、前記2以上の貫通孔が並ぶ方向をx方向、このx方向に直交する方向をy方向としたとき、前記成形吸着体を、それぞれの貫通孔の中心を通るyz平面で切断した時、x方向の最も外側に設けられた貫通孔の外方の部分の平均密度(D
out
)と貫通孔間の部分の平均密度(D
in
)との比(D
in
/D
out
)が、0.98以上である成形吸着体の製造方法であって、
活性炭と繊維状バインダーと水とを混合して材料スラリーを調製する第1工程、
前記材料スラリーを用いて、2以上の軸部材を用いた湿式成形により、前駆体を作製
し、前記前駆体全体に、圧縮を施す第2工程、および、
前記前駆体を乾燥して成形吸着体を得る第3工程を有することを特徴とする成形吸着体の製造方法。
【請求項6】
前記第2工程において、前記前駆体表面に、隣り合う軸部材の軸間の中央に、長手方向に延びる溝を形成する
請求項5に記載の成形吸着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着体として活性炭を含む成形吸着体、および、この成形吸着体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、浄水器に用いられる吸着体として、吸着材に活性炭を用いた成形吸着体が提案されている。このような成形吸着体において、蛇口一体型(水栓一体型)の浄水器に使用されるものとして、断面形状が円形状である成形吸着体が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また、近年、蛇口のデザインの多様化により、断面形状が円形でない蛇口が提案されており、これに伴い成形吸着体についても断面形状が円形でないものも必要とされている。例えば、特許文献3には、浄水器に用いられるフィルタ成形体の製造方法において、浄水材及び結合材を内部空間の横断面が円形の第1金型内に配置し、加熱及び加圧を行った後、冷却により硬化させることで多孔質でかつ横断面が円形の基体を成形する成形工程と、前記成形工程の後、前記基体を加熱により軟化させた状態で内部空間の横断面が仮想楕円を基本として前記仮想楕円の短軸の両端以外の部分に前記仮想楕円の内側に突出した凸部を有する略楕円形の第2金型内に配置し、加圧を行った後、冷却により硬化させることで、前記基体の横断面を円形から略楕円形に変形させる変形工程と、を備えたことを特徴とするフィルタ成形体の製造方法が記載されている(特許文献3(請求項1)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-112518号公報
【文献】特開2016-059826号公報
【文献】特開2016-036788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、断面形状が楕円形または略楕円形であり、かつ、長手方向に貫通する複数の貫通孔を有する成形吸着体を提供することを目的とする。本発明は、湿式成形により、断面形状が楕円形または略楕円形である成形吸着体を製造することができる吸着体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の成形吸着体は、活性炭と、繊維状バインダーとを含有する成形吸着体であって、前記成形吸着体の形状が、楕円柱状または略楕円柱状であり、成形吸着体内部に、長手方向に貫通する貫通孔を2以上有することを特徴とする。
【0007】
本発明の成形吸着体の製造方法は、活性炭と繊維状バインダーとを含有し、成形吸着体内部に長手方向に貫通する貫通孔を2以上有する成形吸着体の製造方法であって、活性炭と繊維状バインダーと水とを混合して材料スラリーを調製する第1工程、前記材料スラリーを用いて、2以上の軸部材を用いた湿式成形により、前駆体を作製する第2工程、および、前記前駆体を乾燥して成形吸着体を得る第3工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、断面形状が楕円形または略楕円形であり、かつ、長手方向に貫通する複数の貫通孔を有する成形吸着体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図10】浄水カートリッジを内蔵した浄水器の一例を示す側面図。
【
図11】密度測定における成形吸着体の切断位置を示す側面図。
【
図12】密度測定における成形吸着体の切断位置を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[成形吸着体]
本発明の成形吸着体は、活性炭と、繊維状バインダーとを含有する成形吸着体であって、前記成形吸着体の形状が、楕円柱状または略楕円柱状であり、成形吸着体内部に、長手方向に貫通する貫通孔を2以上有することを特徴とする。
【0011】
(形状)
前記成形吸着体は、楕円柱状または略楕円柱状である。前記成形吸着体の断面形状は楕円形または略楕円形である。前記断面形状の寸法は適宜調整すればよいが、浄水カートリッジとして使用する場合、断面形状の長径は11mm~100mmが好ましく、より好ましくは20mm~50mmであり、短径は10mm~90mmが好ましく、より好ましくは15mm~30mmである。前記長径と短径との比(長径/短径)は1.25以上が好ましく、より好ましくは1.50以上であり、2以下が好ましく、より好ましくは1.85以下である。前記成形吸着体の長さは適宜調整すればよいが、浄水カートリッジとして使用する場合、長さは40mm~200mmが好ましい。前記成形吸着体の形状は、断面形状が一定の柱状であってもよいし、断面形状が変化する略柱状であってもよい。前記成形吸着体の形状は、柱状が好ましい。
【0012】
前記成形吸着体は、成形吸着体内部に、長手方向に貫通する貫通孔を2以上有する。これらの貫通孔は、成形吸着体を浄水カートリッジなどに使用した際に、原水または浄水の流路となる。前記貫通孔の断面形状は、特に限定されず、円形状、略円形状、楕円形状、略楕円形状、多角形状、角丸多角形状が挙げられ、円形状が好ましい。
前記貫通孔の個数は、成形吸着体の断面積および貫通孔の断面積に応じて適宜調整すればよいが、5個以下が好ましく、より好ましくは3個以下、さらに好ましくは2個である。
前記2以上の貫通孔は、それぞれ異なる断面形状を有していてもよいが、断面形状が全て同一であることが好ましい。
【0013】
前記貫通孔の断面形状は、最大径(外接円の直径)が3mm~40mmであることが好ましい。前記貫通孔の断面形状の最大径と前記成形吸着体の断面形状の短径との比(成形吸着体の短径/貫通孔の最大径)は1.25以上が好ましく、より好ましくは2.0以上であり、4.0以下が好ましく、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3.0以下である。
【0014】
前記成形吸着体の断面積における前記貫通孔の断面積の合計が占める割合は、10.0面積%以上が好ましく、より好ましくは14.0面積%以上であり、56.0面積%以下が好ましく、より好ましくは30.0面積%以下である。
前記成形吸着体の断面において、外表面の各地点から貫通孔までの最短距離をろ層厚さとしたとき、ろ層厚さは3.5mm以上が好ましく、より好ましくは4.0mm以上であり、38.5mm以下が好ましく、より好ましくは30mm以下、さらに好ましくは10mm以下、特に好ましくは8.0mm以下である。
前記貫通孔の間隔(隣り合う貫通孔の最短距離)(di)は、1.0mm以上が好ましく、より好ましくは2.5mm以上、さらに好ましくは5.0mm以上であり、10mm以下が好ましい。
【0015】
前記2以上の貫通孔の位置は特に限定されないが、成形吸着体の長径方向に並んでいることが好ましい。つまり、各貫通孔の中心を結んだ直線方向と、成形吸着体の長径方向とが一致していることが好ましい。
【0016】
前記成形吸着体は、外表面に、長手方向に延びる溝を有することが好ましい。また、前記溝は、隣り合う貫通孔の中心を結んだ直線方向をx方向(貫通孔が並ぶ方向)としたとき、このx方向において、断面形状の最深部が、隣り合う貫通孔の間隔の中央に位置していることが好ましい。このような溝を有することにより、成形吸着体の外表面から貫通孔までの距離が均一化できる。
前記溝の断面形状は特に限定されないが、三角形状、略三角形状が好ましい。前記溝の最大深さ(de)は、1.0mm以上が好ましく、より好ましくは2.0mm以上であり、20mm以下が好ましく、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは3.0mm以下である。
前記溝の最大深さと前記成形吸着体の断面形状の短径との比(溝深さ/成形吸着体の短径)は0.05以上が好ましく、より好ましくは0.10以上であり、1.40以下が好ましく、より好ましくは1.20以下、さらに好ましくは0.50以下である。
【0017】
前記成形吸着体の断面において、外表面の各地点から貫通孔までの最短距離をろ層厚さとしたとき、ろ層厚さの最大値(Tmax)とろ層厚さの最小値(Tmin)との比(Tmax/Tmin)は2.0以下であることが好ましく、より好ましくは1.4以下、さらに好ましくは1.2以下である。
前記ろ層厚さの最大値(Tmax)とろ層厚さの最小値(Tmin)との差(Tmax-Tmin)は、10.0mm以下が好ましく、より好ましくは7.0mm以下、さらに好ましくは4.0mm以下、特に好ましくは2.0mm以下である。
【0018】
前記成形吸着体の全体の密度は、0.25g/mL以上が好ましく、より好ましくは035g/mL以上であり、0.60g/mL以下が好ましく、より好ましくは0.50g/mL以下である。
また、前記貫通孔の長手方向をz方向とし、前記成形吸着体の断面において、前記2以上の貫通孔が並ぶ方向をx方向、このx方向に直交する方向をy方向としたとき、前記成形吸着体を、それぞれの貫通孔の中心を通るyz平面で切断した時、x方向の最も外側に設けられた貫通孔の外方の部分の平均密度(Dout)と貫通孔間の部分の平均密度(Din)との比(Din/Dout)は、0.98以上であることが好ましく、より好ましくは0.99以上、さらに好ましくは1.00以上である。
前記貫通孔の外方の部分の平均密度(Dout)と貫通孔間の部分の平均密度(Din)との差(Dout-Din)は、0.025g/mL以下が好ましく、より好ましくは0.020g/mL以下である。
【0019】
貫通孔が2つの場合、貫通孔の中心を通るyz平面で切断すると成形吸着体は3つに分けられ、x方向中央部分が貫通孔間の部分であり、x方向両側部分が貫通孔の外方の部分となる。
【0020】
貫通孔が3つの場合、貫通孔の中心を通るyz平面で切断すると成形吸着体は4つに分けられる。3つの貫通孔をx方向の一方端から順に第1貫通孔、第2貫通孔、第3貫通孔とすると、第1貫通孔と第2貫通孔の間の部分、および、第2貫通孔と第3貫通孔との間の部分が貫通孔間の部分であり、第1貫通孔または第3貫通孔の外側部分が貫通孔の外方の部分となる。
【0021】
前記成形吸着体の形状の具体例の一例を
図1~6を参照して説明する。
図1は、成形吸着体の一例を示す斜視図である。
図2は、
図1の成形吸着体のI-I線断面図である。
図3は、
図1の成形吸着体のII-II線断面図である。
図4は、成形吸着体の他の例を示す斜視図である。
図5は、
図4の成形吸着体のI-I線断面図である。
図6は、
図4の成形吸着体のII-II線断面図である。各図において、X方向が断面形状の長径方向、Y方向が断面形状の短径方向、Z方向が成形吸着体の長手方向を示す。
【0022】
図1に示す成形吸着体1は、略楕円柱状であり、成形吸着体内部に長手方向に貫通する貫通孔2を2つ有する。この成形吸着体1の断面形状は一定であり、その長径は35.5mm、短径は19.5mm、長径と短径との比(長径/短径)は1.82である。
図2に示すように、貫通孔2の断面形状は円形であり、直径は8.0mmである。貫通孔2は、成形吸着体の断面形状の長径方向Xに並んでいる。つまり、各貫通孔2の中心を結んだ直線の方向xは、前記方向Xと一致している。また、2つの貫通孔2の間隔(di)は8.0mmである。ろ層厚さの最大値(T
max)とろ層厚さの最小値(T
min)との比(T
max/T
min)は1.50である。
図3に示すように、貫通孔2の長手方向zは、成形吸着体1の長手方向Zと一致している。
【0023】
図4に示す成形吸着体1は、略楕円柱状であり、成形吸着体内部に長手方向に貫通する貫通孔2を2つ有する。この成形吸着体1の断面形状は一定であり、その長径は35.5mm、短径は19.5mm、長径と短径との比(長径/短径)は1.82である。
図5に示すように、貫通孔2の断面形状は円形であり、直径は8.0mmである。貫通孔2は、成形吸着体の断面形状の長径方向Xに並んでいる。つまり、各貫通孔2の中心を結んだ直線の方向xは、前記方向Xと一致している。また、2つの貫通孔2の間隔(di)は8.0mmである。
図4、5に示すように、成形吸着体1は、外表面に、長手方向に延びる溝3を有する。この溝3は、x方向(貫通孔が並ぶ方向)において、断面形状の最深部が、隣り合う貫通孔の間隔の中央に位置している。前記溝の断面形状は略三角形状であり、溝の深さ(de)は、2.4mmである。ろ層厚さの最大値(T
max)とろ層厚さの最小値(T
min)との比(T
max/T
min)は1.11である。
図6に示すように、貫通孔2の長手方向zは、成形吸着体1の長手方向Zと一致している。
【0024】
(材質)
前記成形吸着体は、活性炭と繊維状バインダーとを含有する。前記活性炭は吸着材であり、前記吸着材は、物理吸着性能および化学吸着性能を有する。活性炭とは、比表面積が800m2/g以上の炭素物質である。前記活性炭は、粒子状活性炭を含有することが好ましい。
【0025】
前記粒子状活性炭の体積基準の中心粒子径(小径側を0とした体積累積分布における累積50%に対応する粒子径)は、20μm以上が好ましく、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは35μm以上であり、100μm以下が好ましく、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。中心粒子径が20μm以上であれば、成形吸着体を成形した際に活性炭粒子間に適度に空隙が形成されるため、通水圧力損失を低減することができる。中心粒子径が100μm以下であれば、活性炭の単位質量当たりの吸着性能が高くなり、成形吸着体の吸着性能がより向上する。本発明において、体積基準の中心粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックベル社製、MT3000)により測定する。
【0026】
前記粒子状活性炭の体積基準の10%粒子径(小径側を0とした体積累積分布における累積10%に対応する粒子径)は、5μm以上が好ましく、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上であり、50μm以下が好ましく、より好ましくは40μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。本発明において、体積基準の10%粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置により測定する。
【0027】
前記粒子状活性炭の粒子径が10μm以下の粒子の含有率は、2.0体積%以下が好ましく、より好ましくは1.5体積%以下、さらに好ましくは1.0体積%以下である。粒子径が10μm以下の粒子の含有率が2.0体積%以下であれば、成形吸着体を成形した際に、活性炭粒子間に適度に空隙が形成されるため、通水圧力損失を一層低減することができる。なお、粒子径が10μm以下の粒子の含有率の下限は0体積%である。粒子径が10μm以下の粒子の含有率は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置により測定した体積累積分布から求めることができる。
【0028】
前記粒子状活性炭の比表面積(BET法)は、900m2/g以上が好ましく、より好ましくは950m2/g以上、さらに好ましくは1000m2/g以上であり、1200m2/g以下が好ましく、より好ましくは1150m2/g以下、さらに好ましくは1100m2/g以下である。比表面積が900m2/g以上であれば、活性炭自体の吸着性能が高く、得られる成形吸着体の吸着性能がより向上する。比表面積が1200m2/g以下であれば、細孔径が比較的大きく、除去対象物質を素早く吸着できるため、得られる成形吸着体の吸着性能がより向上する。
【0029】
前記粒子状活性炭の細孔容積(BET法)は、0.40ml/g以上が好ましく、より好ましくは0.45ml/g以上、さらに好ましくは0.50ml/g以上であり、0.70ml/g以下が好ましく、より好ましくは0.65ml/g以下、さらに好ましくは0.60ml/g以下である。細孔容積が0.40ml/g以上であれば、クロロホルム等の揮発性有機化合物を吸着し得る容量が大きくなり、得られる成形吸着体の吸着性能がより向上する。細孔容積が0.70ml/g以下であれば、成形吸着体の密度が高くなり、活性炭単位質量当たりの吸着性能が向上する。
【0030】
前記粒子状活性炭の平均細孔径(BJH法)は、1.0nm以上が好ましく、より好ましくは1.3nm以上、さらに好ましくは1.5nm以上であり、2.5nm以下が好ましく、より好ましくは2.2nm以下、さらに好ましくは2.0nm以下である。平均細孔径(BJH法)が1.0nm以上であれば、除去対象物質が細孔内に拡散しやすくなり、吸着速度がより向上し、2.5nm以下であれば、除去対象物質と細孔内壁との距離が近くなり、分子間力が強くなるため、吸着力がより高くなる。
【0031】
前記粒子状活性炭の体積基準の中心粒子径、10%粒子径、粒子径が10μm以下の粒子の含有率は、活性炭の粉砕、分級によって調整できる。粉砕方法は、特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、スタンプミルなどが挙げられる。分級方法は、特に限定されず、気流分級、篩による分級などが挙げられる。また、粒子状活性炭の比表面積、細孔容積、平均細孔径は、活性炭製造時の賦活条件、粒子径分布などによって調整できる。
【0032】
前記活性炭は、粒子状活性炭のほかに繊維状活性炭を含有してもよい。この場合、全活性炭中の粒子状活性炭の含有率は、85質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。本発明の成形吸着体は、活性炭として、前記粒子状活性炭のみを含有することも好ましい。なお、本発明において、活性炭粒子のアスペクト比(長径/短径)が3以下のものを粒子状活性炭、アスペクト比が3超のものを繊維状活性炭とする。
【0033】
前記活性炭として、表面に銀が添着された銀添着活性炭を用いてもよい。銀添着活性炭を使用することで、成形吸着体に抗菌性能を付与できる。銀添着活性炭としては、銀添着粒子状活性炭、銀添着繊維状活性炭のいずれも使用できる。
【0034】
前記活性炭は、炭素原料を炭化した後、水蒸気賦活、アルカリ賦活することで得られる。炭素原料としては、フェノール樹脂などの合成樹脂、ヤシ殻、木質、もみ殻、石炭などを用いることができる。これらの中でも、成形した際の充填密度を高くできることから、合成樹脂、ヤシ殻、石炭が好ましい。特に、不純物が少なく、粉砕後にも良好な吸着性能を有することからフェノール樹脂などの合成樹脂やヤシ殻が好ましい。
【0035】
前記粒子状活性炭としては、市販のものも使用することができる。市販の粒子状活性炭としては、味の素ファインテクノ社製のホクエツ;クラレケミカル社製のクラレコール(登録商標);クレハ社製のBAC(登録商標);日本エンバイロケミカルズ社製の粒状白鷺(登録商標);MCエバテック社製のアマソーブ(登録商標);UES社製の活力炭(登録商標)などが挙げられる。
【0036】
本発明の成形吸着体は、吸着材として、前記活性炭の他に、ゼオライト、珪酸チタニウム、チタン酸ナトリウム、アルミノ珪酸塩、酸化チタン、イオン交換樹脂、キレート樹脂、イオン交換繊維、キレート繊維などを含有してもよい。この場合、吸着材中の活性炭の含有率は、85質量%以上が好ましく、より好ましくは87質量%以上、さらに好ましくは89質量%以上である。
【0037】
上記活性炭以外の吸着材において、イオン交換繊維、キレート繊維のような繊維状物質を配合すると、成形吸着体中に適度に空隙を形成することができ、また、繊維状物質が粒子状活性炭と絡み合うことで成形吸着体の機械的強度も高めることができる。
【0038】
前記成形吸着体中の吸着材の含有率は、90質量%以上が好ましく、より好ましくは91質量%以上、さらに好ましくは92質量%以上であり、97質量%以下が好ましく、より好ましくは95質量%以下である。吸着材の含有率が90質量%以上であれば、成形吸着体の吸着性能が向上し、97質量%以下であれば、相対的に繊維状バインダーの含有量が増加し、成形吸着体の機械的強度が向上する。
【0039】
本発明の成形吸着体は、繊維状バインダーを含有する。繊維状バインダーは、粒子状活性炭などの吸着材に絡み合うことで保持するため、活性炭の吸着性能を維持したまま成形できる。繊維状バインダーとしては、アクリル繊維、セルロース繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維などが挙げられる。これらの中でも、吸着材を保持しやすいことからアクリル繊維、セルロース繊維が好ましく、特に成形吸着体の機械的強度を向上できることからアクリル繊維が好適である。
【0040】
前記繊維状バインダーとしては、フィブリル化繊維が好ましい。フィブリル化繊維とは、摩擦作用などによって、繊維内部に存在するフィブリル(小繊維)を繊維表面に現させ、繊維表面を毛羽立ちささくれさせた繊維である。繊維状バインダーのフィブリル化は、リファイナー処理、ビーティング処理により行うことができる。
【0041】
前記繊維状バインダーの濾水度は、20ml以上が好ましく、より好ましくは60ml以上、さらに好ましくは110ml以上、特に好ましくは150ml以上であり、250ml以下が好ましく、より好ましくは240ml以下、さらに好ましくは230ml以下である。繊維状バインダーの濾水度が20ml以上であれば、成形吸着体の通水圧力損失を低減できる。特に、本発明で使用する特定の粒子径分布を有する粒子状活性炭では、濾水度が110ml以上の繊維状バインダーを用いると、成形吸着体の通水圧力損失を一層低減できる。なお、繊維状バインダーの濾水度とは、成形吸着体の作製に使用される繊維状バインダーの濾水度を指す。具体的には、成形吸着体の製造に使用するスラリーに含まれる繊維状バインダーの濾水度である。
【0042】
前記繊維状バインダーの含有量は、前記吸着材100質量部に対して1質量部以上が好ましく、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上であり、20質量部以下が好ましく、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。繊維状バインダーの含有量が1質量部以上であれば、成形吸着体の機械的強度が向上し、20質量部以下であれば、成形吸着体の通水圧力損失がより低減される。
【0043】
前記成形吸着体は、湿式成形により作製されたものが好ましい。湿式成形を採用することで、貫通孔を複数有する成形吸着体が容易に作製できる。
【0044】
[成形吸着体の製造方法]
本発明の成形吸着体の製造方法は、活性炭と繊維状バインダーと水とを混合して材料スラリーを調製する第1工程、前記材料スラリーを用いて、2以上の軸部材を用いた湿式成形により、前駆体を作製する第2工程、および、前記前駆体を乾燥して成形吸着体を得る第3工程を有する。
【0045】
(スラリー調整)
前記第1工程では、活性炭および繊維状バインダーを含有する混合材料を水に分散させてスラリーを調製する。混合材料を分散させる方法は特に限定されないが、例えば、ビーターを用いることができる。なお、スラリーの調製は、活性炭、繊維状バインダー等の材料を別々に水に投入した後、混合してもよい。スラリーを調製する際、水の使用量は、混合材料100質量部に対して、2000質量部以上が好ましく、より好ましくは3000質量部以上、さらに好ましくは4000質量部以上であり、10000質量部以下が好ましく、より好ましくは9000質量部以下、さらに好ましくは8000質量部以下である。
【0046】
(吸引成形)
前記第2工程では、吸引用成形型として2以上の軸部材をスラリー中に浸漬し、ポンプを用いてスラリーを吸引し、軸部材の表面に混合材料を堆積させる。混合材料が堆積した軸部材を引き上げ、成形吸着体の前駆体を得る。前記軸部材は、スラリーを吸引できるように吸引用の貫通孔が形成されており、この貫通孔に連通するノズルにポンプを接続する。なお、前記軸部材の貫通孔は、材料スラリー中の固形分を通過させないように構成されている。
【0047】
軸部材の間隔(隣り合う軸部材の断面中心の間隔)は、使用する軸部材の本数や所望とする成形吸着体の断面形状に応じて適宜調整すればよい。例えば、軸部材を2本とする場合は、軸部材の間隔は1.0mm以上が好ましく、より好ましくは2.5mm以上であり、38.5mm以下が好ましく、より好ましくは30.0mm以下である。
【0048】
スラリーを吸引する時間(成形時間)は、特に限定されないが、50秒以下が好ましく、より好ましくは40秒以下、さらに好ましくは35秒以下である。成形時間が短いほど生産性が向上する。成形時間の下限は特に限定されないが、通常5秒程度である。
【0049】
前記軸部材の断面形状は、成形吸着体の貫通孔の断面形状に応じて適宜選択すればよい。例えば、成形吸着体の貫通孔の断面形状を円形とする場合、軸部材として断面形状が円形のものを使用すればよい。前記軸部材は、第2工程後に前駆体から取り外してもよいし、取り外さなくてもよい。
【0050】
(溝形成)
前記第2工程では、前記前駆体表面に、隣り合う軸部材の軸間の中央に、軸方向に延びる溝を形成することが好ましい。乾燥前の前駆体は柔軟であるため、容易に溝を形成できる。また、前記溝は、前記前駆体に型を押圧することにより形成することが好ましい。2本以上の軸部材を用いた湿式成形では、軸間部の密度が低くなる傾向がある。しかしながら、型を押圧することにより溝を形成すれば、軸間部の前駆体が圧縮され、軸間部の密度を高めることができる。
【0051】
(圧縮)
前記第2工程では、前記前駆体全体に、圧縮を施すことが好ましい。圧縮工程を有することで、最終的に得られる成形吸着体の密度をより高めることができ、一層吸着性能に優れた成形吸着体が得られる。前駆体の圧縮率は、最終的に得られる成形吸着体の密度に応じて適宜調節すればよい。
【0052】
なお、前記溝形成および圧縮は、いずれか一方のみ行ってもよいし、両方を行ってもよい。前記溝形成および圧縮の両方を行う場合、溝を形成した後に圧縮を施してもよいし、圧縮を施した後に溝を形成してもよい。また、溝形成と圧縮とを同時に行ってもよい。
【0053】
溝形成と圧縮とを同時に行う場合は、圧縮型を用いることが好ましい。前記圧縮型としては、例えば、
図7、8に示す圧縮型が使用できる。
図7は圧縮型の一例を示す斜視図である。
図8は、
図7の圧縮型のIII-III線断面図である。
【0054】
図7、8に示した圧縮型10は、上型11と下型12で一対となっている。上型11および下型12には、互いに対向する側に、断面形状が半楕円形の凹部11a、12aが形成されている。これらの上型11および下型12を合わせることで、凹部11aと凹部12aによって楕円柱状の空間が形成される。なお、凹部11a、12aの寸法は、乾燥後の成形吸着体の寸法に応じて適宜調整すればよい。
【0055】
また、上下型11、12は、それぞれ凹部の幅方向中央部に、長手方向に延びる凸条11b、12bがそれぞれ形成されている。これらの凸条11b、12bの断面形状は角丸三角形状であり、頂部が前駆体の幅方向中央部に位置している。なお、前記凸条11b、12bの頂部は、2本の軸部材(2点鎖線で示す部分)の軸間の中央部と一致するように形成されている。
【0056】
前記成形吸着体の前駆体を、圧縮型10の上型11および下型12で挟み込むことにより、前駆体の圧縮と溝の形成を同時に行うことができる。なお、前駆体の寸法を調整することで、圧縮時の圧縮率を制御することができる。また、溝の形成や圧縮を行う際は、各軸部材の両端にポンプに接続されたチューブを接続しておき、ポンプを駆動して吸引しながら(成形吸着体を脱水しながら)行うことが好ましい。
【0057】
(乾燥)
前記第3工程では、前記前駆体を乾燥して成形吸着体を得る。乾燥温度は100℃~120℃、乾燥時間は4時間~6時間が好ましい。なお、軸部材は取り外してもよいし、このまま使用してもよい。例えば、軸部材として浄水カートリッジとして使用できるものを用いていれば、前駆体を乾燥すれば、浄水カートリッジが得られる。
【0058】
なお、繊維状バインダーの種類や堆積物の乾燥条件によっては、乾燥工程において繊維状バインダーが溶融又は変形する場合がある。繊維状バインダーの変形等の程度が大きくなると、成形吸着体中の空隙の体積が縮小し、浄水カートリッジの通水圧力損失が高くなったり、寸法安定性が低下したりする傾向がある。そのため、繊維状バインダーの種類に応じて堆積物の乾燥条件を選択することが好ましく、特に乾燥温度を低く設定することがより好ましい。
【0059】
[浄水カートリッジ]
本発明の成形吸着体は、浄水器に用いられる浄水カートリッジに好適に使用できる。浄水カートリッジの構成としては、例えば、2以上の筒状の軸部材と、この軸部材の外表面に積層された成形吸着材とを備える構成が挙げられる。軸部材を有することにより、成形吸着体の機械的強度を高めることができる。前記軸部材としては、貫通孔を有する多孔性筒部材が好ましい。多孔性筒部材の形状は特に限定されず、円筒状、多角柱状が挙げられる。多孔性筒部材の材質としては樹脂、金属などが使用できる。また、活性炭粒子が軸部材内部へ入り込むことを防止できることから、軸部材としては、外表面に不織布を巻き付けた多孔性筒部材が好ましい。
【0060】
浄水カートリッジの具体的な構成の一例を、
図9を参照して説明する。なお、浄水カートリッジは、
図9に記載された態様に限定されるものではない。浄水カートリッジ20は、筒状の軸部材21と、この軸部材21の外表面に積層された成形吸着材1と、前記軸部材21の一方の端部に取り付けられた接続部材22と、前記軸部材21の他方の端部に取り付けられたカバー23とを有する。前記軸部材21は、円筒状であり、複数の貫通孔21aが形成されている。軸部材21の外表面には、不織布24が巻き付けられている。接続部材22は、浄水器本体に接続可能に形成されている。また、前記成形吸着体1の周囲には、成形吸着体1を保護する不織布25が巻き付けられている。
【0061】
図9に示した浄水カートリッジ20は、成形吸着体1の外側を原水流路とする。原水は成形吸着体1を通過し、軸部材21の内部に流入する。この際、成形吸着体1に含まれる吸着材(図示せず)により浄化され、浄水となる。得られた浄水は、接続部22から排出される。
【0062】
本発明の成形吸着体が使用される浄水器は、前記浄水カートリッジを用いたものであれば特に限定されない。浄水器としては、例えば、水道の蛇口の先端に直接取り付ける蛇口直結型;蛇口または蛇口に設けた分岐水栓からホースまたは配管などで接続して、蛇口近傍に設置する据え置き型;蛇口に浄水カートリッジが組み込まれた蛇口一体型(水栓一体型);シンクの下に設置するアンダーシンク型などが挙げられる。
【0063】
図10は、浄水器の好ましい態様を示す側面図である。浄水器30は、蛇口内部に浄水カートリッジ20が交換可能に内蔵された水栓一体型浄水器である。浄水器30は、分離可能な頭部31と胴部32とを有する。頭部31と胴部32とを分離して、浄水器30の内部に浄水カートリッジ1を装着する。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0065】
1.評価方法
[中心粒子径]
粒子状活性炭の中心粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(日機装社製、マイクロトラック、型式「MT3300」)を用いて測定した。粒子径分布は、粒子径0.021μm~2000μmの範囲を対数スケールで132分割して、各区間の粒子径を有する活性炭粒子の体積を計測した。
【0066】
[密度]
成形吸着体(軸部材を除く。)の全体寸法を測定した。次に、カッターナイフを用いて成形吸着体を幅方向に3分割し、軸部材を取り除いた。具体的には、
図11および
図12の一点鎖線A、Bで示すように、成形吸着体の断面において、厚さ方向に延び、かつ、各軸部材の中心を通る直線(YZ平面(Y方向は断面形状の短径方向、Z方向は成形吸着体の長手方向))で切断した。切断後のパーツは第1軸外部1a、軸間部1b、および、第2軸外部1cとし、それぞれ乾燥後に質量を測定した。また、全体寸法から各パーツの3Dモデルを作成し、各パーツの体積を算出した。最後に、成形吸着体全体および各パーツの密度を算出した。
【0067】
[初流水濁度]
成形吸着体を用いて浄水カートリッジを作製し、この浄水カートリッジを蛇口に取り付けた。静水圧0.75MPaに設定し、浄水に切り替えた状態で蛇口を全開にした。なお、水温は20±15℃とした。メスシリンダーを用いて、初期通水300mLを採水し、この初期通水の濁度を測定した。濁度は、濁度計(WTW社製、「Turb 430T」)を用いて測定した。
【0068】
[浄水ろ過流量測定]
成形吸着体を用いて浄水カートリッジを製作し、この浄水カートリッジを蛇口に取り付けた。JIS S 3201(2017) 「家庭用浄水器試験方法」に基づき動水圧0.1MPa時の浄水流量を測定した。
【0069】
2.成形吸着体の製造(密度評価)
(1)成形吸着体No.1~5
(スラリー調整)
吸着材として、粒子状活性炭(中心粒子径:30.4μm)を89.8質量%、他の吸着材を5.2質量%、繊維状バインダーとしてアクリル繊維(ビーターにより濾水度を120~220mLに調製したもの)を5.0質量%含有する混合材料を調製した。この混合材料100質量部を、5000質量部の水に分散させてスラリーを調整した。
【0070】
(湿式成形)
前記スラリーを用いて湿式成形により成形吸着体の前駆体を成形した。具体的には、2本の軸部材のそれぞれの両端に、ポンプに接続されたチューブを接続した。このチューブを接続した軸部材を、スラリーを満たしたタンクに浸漬した後、ポンプを駆動してスラリーを吸引し、軸部材の表面に混合材料を堆積させた。
【0071】
軸部材には、いずれも樹脂製多孔性円筒部材の外表面に不織布を巻き付けたもの(内径:5.5mm、外径:8.0mm、全長:87mm)を使用した。また、軸部材の外表面に形成する成形吸着体の形状はいずれも、断面形状が楕円形状(長径が35.5mm以上、短径が19.5mm以上(見かけ体積43~50mL))の楕円柱(貫通孔が2つ)となるように調整した。
【0072】
前記2本の軸部材は、互いに平行となるように配置し、軸間距離(各軸部材の断面中心部の距離)を16.0mmとした。この際、軸部材の表面の混合材料の堆積量が5.75mm以上となるようにポンプの駆動時間を調整した。なお、混合材料の堆積量は、成形吸着体の前駆体の横断面において、各軸部材の外方側(2本の軸部材の対向しない側)の堆積量を測定した。
【0073】
(圧縮)
圧縮には圧縮型を用いた。圧縮型は、上型と下型で一対である。各型には断面形状が半楕円形の凹部が形成されており、上下型を合わせると楕円柱状の空間が形成される。なお、上下型を合わせた際に形成される楕円柱状の空間は厚さ方向の長さが19.3mm、幅方向の長さが35.3mm、長手方向の長さが85.0mmである。また、上下型は、半楕円形の凹部の幅方向中央部に、長手方向に延びる凸条が形成されている。凸条の断面形状は角丸三角形状であり、高さが2.6mm、底辺の長さが7.2mmである。前記凸条は、頂部が成形吸着体の幅方向中央部(2本の軸部材の軸間の中央部)と一致するように形成されている。
【0074】
圧縮は、前記成形吸着体の前駆体に、圧縮型を押し当てることにより行った。前記成形吸着体に圧縮型を押し当てる時間は60秒とした。また、各軸部材の両端にポンプに接続されたチューブを接続しておき、ポンプを駆動して吸引しながら(成形吸着体を脱水しながら)、圧縮型を押し当て、所定時間経過後、圧縮型を外した。
【0075】
圧縮後の前駆体には、軸方向と平行に、前駆体の全体にわたって溝が形成された。前記溝は、断面が三角形状であり、頂点が2本の軸部材の中間と一致するように形成された。前記溝の先端の深さは2.4mm、溝の幅(最も浅い部分の幅)は7.0mmとなった。
【0076】
[乾燥]
溝が形成された前駆体を、120℃で4時間乾燥させ、軸部材の外表面に吸着材が積層した成形吸着体No.1~5を得た。
【0077】
(2)成形吸着体No.6~9
前記成形吸着体No.1~5の製造方法において、圧縮を行わなかった点以外は成形吸着体No.1~5と同様にして、成形吸着体No.6~9を作製した。
【0078】
得られた成形吸着体No.1~9について、成形吸着体全体、ならびに、第1軸外部、軸間部、および、第2軸外部の密度を算出した。結果を表1に示した。
【0079】
【0080】
成形吸着体No.6~9は、湿式成形後に圧縮を行うことなく乾燥を行っている。これらの成形吸着体No.6~9では、軸外部の平均密度と軸間部の密度との比(軸間部/軸外部平均)が0.97以下である。つまり、軸外部の密度と軸間部の密度との差が大きくなっている。これは、2本の軸部材を用いた湿式成形では、スラリー吸引時、軸間部分では、吸着材が双方の軸部材によって取り合いとなってしまうため、軸間部の密度が低くなると考えられる。
【0081】
成形吸着体No.1~5は、湿式成形後、乾燥前に、圧縮型を用いた圧縮が施されており、特に圧縮型内面の凸条によって軸間部が大きく圧縮されている。そのため、これらの成形吸着体No.1~5では、軸外部の平均密度と軸間部の密度との比(軸間部/軸外部平均)が0.99以上である。つまり、軸外部の密度と軸間部の密度との差が小さくなっている。
【0082】
3.成形吸着体の製造(初流水濁度評価)
(1)成形吸着体No.21、22
(スラリー調整)
吸着材として、粒子状活性炭(中心粒子径:30.4μm)を89.8質量%、他の吸着材を5.2質量%、繊維状バインダーとしてアクリル繊維(ビーターにより濾水度を120~220mLに調製したもの)を5.0質量%含有する混合材料を調製した。この混合材料100質量部を、5000質量部の水に分散させてスラリーを調整した。
【0083】
(湿式成形)
前記スラリーを用いて湿式成形により成形吸着体の前駆体を成形した。具体的には、2本の軸部材のそれぞれの両端に、ポンプに接続されたチューブを接続した。このチューブを接続した軸部材を、スラリーを満たしたタンクに浸漬した後、ポンプを駆動してスラリーを吸引し、軸部材の表面に混合材料を堆積させた。
【0084】
軸部材には、いずれも樹脂製多孔性円筒部材の外表面に不織布を巻き付けたもの(内径:5.5mm、外径:8.0mm、全長:87mm)を使用した。また、軸部材の外表面に形成する成形吸着体の形状はいずれも、断面形状が楕円形状(長径が35.5mm以上、短径が19.5mm以上(見かけ体積43~50mL))の楕円柱(貫通孔が2つ)となるように調整した。
【0085】
前記2本の軸部材は、互いに平行となるように配置し、軸間距離(各軸部材の断面中心部の距離)を16.0mmとした。この際、軸部材の表面の混合材料の堆積量が5.75mm以上となるようにポンプの駆動時間を調整した。なお、混合材料の堆積量は、成形吸着体の前駆体の横断面において、各軸部材の外方側(2本の軸部材の対向しない側)の堆積量を測定した。
【0086】
(圧縮)
圧縮には圧縮型を用いた。圧縮型は、上型と下型で一対である。各型には断面形状が半楕円形の凹部が形成されており、上下型を合わせると楕円柱状の空間が形成される。なお、上下型を合わせた際に形成される楕円柱状の空間は厚さ方向の長さが19.3mm、幅方向の長さが35.3mm、長手方向の長さが85.0mmである。
【0087】
圧縮は、前記成形吸着体の前駆体に、圧縮型を押し当てることにより行った。前記成形吸着体に圧縮型を押し当てる時間は60秒とした。また、各軸部材の両端にポンプに接続されたチューブを接続しておき、ポンプを駆動して吸引しながら(成形吸着体を脱水しながら)、圧縮型を押し当て、所定時間経過後、圧縮型を外した。
【0088】
(乾燥)
圧縮後の前駆体を、120℃で4時間乾燥させ、軸部材の外表面に吸着材が積層した成形吸着体No.21、22を得た。
【0089】
(2)成形吸着体No.23、24
前記成形吸着体No.21、22の製造方法において、圧縮を行わなかった点以外は成形吸着体No.21、22と同様にして、成形吸着体No.23、24を作製した。
【0090】
得られた成形吸着体No.21~24について、成形吸着体全体の質量、密度、初流水濁度を評価した。結果を表2に示した。
【0091】
【0092】
成形吸着体No.23、24は、湿式成形後に圧縮を行うことなく乾燥を行っている。これらの成形吸着体No.23、24では、初流水の濁度が高くなっている。圧縮を施さない場合、軸間部の密度が低く、空隙が多くなる。そのため、この軸間部の活性炭の微粒子が浄水とともに流出していると考えられる。
【0093】
成形吸着体No.21、22は、湿式成形後、乾燥前に、圧縮型を用いた圧縮が施されている。これらの成形吸着体No.21、22では、成形吸着体No.23、24に比べて、初流水の濁度が低くなっている。これは、圧縮を施すことで成形吸着体内部の空隙を低減することができ、活性炭の微粒子が浄水とともに流出することが抑制されたためと考えられる。
【0094】
4.成形吸着体の製造(溝深さ評価)
(1)成形吸着体No.25~28
(スラリー調整)
吸着材として、粒子状活性炭(中心粒子径:30.4μm)を89.8質量%、他の吸着材を5.2質量%、繊維状バインダーとしてアクリル繊維(ビーターにより濾水度を120~220mLに調製したもの)を5.0質量%含有する混合材料を調製した。この混合材料100質量部を、5000質量部の水に分散させてスラリーを調整した。
【0095】
(湿式成形)
前記スラリーを用いて湿式成形により成形吸着体の前駆体を成形した。具体的には、2本の軸部材のそれぞれの両端に、ポンプに接続されたチューブを接続した。このチューブを接続した軸部材を、スラリーを満たしたタンクに浸漬した後、ポンプを駆動してスラリーを吸引し、軸部材の表面に混合材料を堆積させた。
【0096】
軸部材には、いずれも樹脂製多孔性円筒部材の外表面に不織布を巻き付けたもの(内径:5.5mm、外径:8.0mm、全長:87mm)を使用した。また、軸部材の外表面に形成する成形吸着体の形状はいずれも、断面形状が楕円形状(長径が35.5mm以上、短径が19.5mm以上(見かけ体積43~50mL))の楕円柱(貫通孔が2つ)となるように調整した。
【0097】
前記2本の軸部材は、互いに平行となるように配置し、軸間距離(各軸部材の断面中心部の距離)を16.0mmとした。この際、軸部材の表面の混合材料の堆積量が5.75mm以上となるようにポンプの駆動時間を調整した。なお、混合材料の堆積量は、成形吸着体の前駆体の横断面において、各軸部材の外方側(2本の軸部材の対向しない側)の堆積量を測定した。
【0098】
(圧縮)
圧縮には圧縮型を用いた。圧縮型は、上型と下型で一対である。各型には断面形状が半楕円形の凹部が形成されており、上下型を合わせると楕円柱状の空間が形成される。なお、上下型を合わせた際に形成される楕円柱状の空間は厚さ方向の長さが19.3mm、幅方向の長さが35.3mm、長手方向の長さが85.0mmである。
【0099】
成形吸着体No.25~28では、異なる圧縮型を用いた。
成形吸着体No.25では、上下型の凹部に凸条を有さないものを用いた。
成形吸着体No.26~28で用いた上下型は、半楕円形の凹部の幅方向中央部に、長手方向に延びる凸条が形成されている。凸条の断面形状は角丸三角形状である。前記凸条は、頂部が成形吸着体の幅方向中央部(2本の軸部材の軸間の中央部)と一致するように形成されている。そして、前記凸条の断面形状の寸法は、成形吸着体No.26では、高さが2.0mm、底辺の長さが5.6mmとした。成形吸着体No.27では、高さが2.6mm、底辺の長さが7.2mmとした。成形吸着体No.28では、高さが3.2mm、底辺の長さが11.4mmとした。
【0100】
圧縮は、前記成形吸着体の前駆体に、圧縮型を押し当てることにより行った。前記成形吸着体に圧縮型を押し当てる時間は60秒とした。また、各軸部材の両端にポンプに接続されたチューブを接続しておき、ポンプを駆動して吸引しながら(成形吸着体を脱水しながら)、圧縮型を押し当て、所定時間経過後、圧縮型を外した。
【0101】
成形吸着体No.26~28では、圧縮後の前駆体には、軸方向と平行に、前駆体の全体にわたって溝が形成された。前記溝は、断面が三角形状であり、頂点が2本の軸部材の中間と一致するように形成された。
【0102】
(乾燥)
圧縮後の前駆体を、120℃で4時間乾燥させ、軸部材の外表面に吸着材が積層した成形吸着体No.25~28を得た。なお、成形吸着体No.28は、乾燥後に溝に沿って亀裂が生じた。
【0103】
得られた成形吸着体No.25~27について、成形吸着体全体の質量、密度、浄水ろ過流量を評価した。結果を表3に示した。
【0104】
【0105】
表3に示したように、頂点が2本の軸部材の間隔の中央と一致するように溝を形成することで、浄水ろ過流量が向上している。これは2本の軸部材間の中央に溝を形成することで、軸間部における成形吸着体表面から軸部材までの距離(ろ層厚さ)が短くなったためと考えられる。2本の軸部材を用いた場合、成形吸着体の断面形状を楕円形状とすると、軸外部のろ層に対して、軸間部のろ層が厚くなる。この場合、原水が軸外部を流通するようになり、軸間部が活用されにくくなる。しかし、溝を形成して軸間部のろ総を薄くすることで、原水が軸間部も流通しやすくなり、浄水ろ過流量が向上したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の成形吸着体は、浄水器の吸着材として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0107】
1:成形吸着体、2:貫通孔、3:溝、10:圧縮型、11:上型、12:下型、20:浄水カートリッジ、21:軸部材、22:接続部材、23:カバー、24:不織布、25:不織布、30:浄水器、31:頭部、32:胴部