(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】河川構造
(51)【国際特許分類】
E02B 3/04 20060101AFI20230213BHJP
【FI】
E02B3/04
(21)【出願番号】P 2020034478
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】594026251
【氏名又は名称】田中鉄筋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111349
【氏名又は名称】久留 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 進
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-038749(JP,A)
【文献】特開昭46-000136(JP,A)
【文献】特開平09-151443(JP,A)
【文献】特開平02-197611(JP,A)
【文献】特開平02-183005(JP,A)
【文献】特開2015-169204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04
E02B 5/02
E02B 8/08
E02C 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
川底よりも高い位置に設けられ、増水した河川の水を通すことのできる溝体と、
当該溝体の上流側端部であって川底よりも高い位置に設けられ、左右方向の水を前記溝体に集めるためのテーパー部と、
を設けるようにしたことを特徴とする河川構造。
【請求項2】
前記溝体が、川底に立設された柱状体に支持されるように取り付けられるものである請求項1に記載の河川構造。
【請求項3】
前記溝体が、河川上方から吊り下げられるものである請求項1に記載の河川構造。
【請求項4】
前記溝体が、独立した溝体要素から構成されるものであり、互いにオーバーラップした状態で設けられるものである請求項1に記載の河川構造。
【請求項5】
前記溝体が、上流側の内幅を大きく、下流側の内幅を小さくし
た複数の独立した溝体要素を連結させてなるものであり、下流側の溝体要素の上流側端部に上流側の溝体要素の下流側端部をオーバーラップさせて設けられるものである請求項1に記載の河川構造。
【請求項6】
前記溝体が、上流側の内幅を大きく、下流側の内幅を小さくし
た複数の独立した溝体要素を連結させてなるものであり、
前記溝体要素が、プラスチックで構成するようにした請求項1に記載の河川構造。
【請求項7】
さらに、前記テーパー部の上流側に、当該テーパー部に流木が入り込むことを防止する流木防止手段を設けるようにした請求項1に記載の河川構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増水時における河川の氾濫を防止できるようにした河川構造に関するものであって、より詳しくは、氾濫しやすい箇所における堤防の決壊を防止できるようにした河川構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の影響などにより、都市部などにおけるゲリラ豪雨が多発するようになってきており、また、河川敷の堤防工事などによって、河川が天井川状態となり、河川の氾濫による被害に拍車を掛けるようになってきている。
【0003】
このような河川の氾濫を防止するには、河川敷の堤防をさらに高くする方法や、川底の土砂を削り取って川底を深くする方法などが行われるが、このような方法は、中長期的な公共事業工事において対策が行われるため、これらの対策を講じるには時間がかかるばかりでなく、膨大な費用が発生してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、河川が氾濫する場合、比較的水が集中しやすい箇所や堤防の弱い箇所から部分的に堤防が削り取られてしまい、そこから水が徐々に外側に流れ出て行く際に、堤防が大きく削り取られてしまい、最終的には、大きな氾濫被害を生じさせてしまうことが知られている。
【0006】
このため、堤防を大幅に工事するのではなく、氾濫を生じさせやすい箇所における初期状態の決壊を防止することができれば、大幅な河川の氾濫被害を防止することができると考えられる。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を解決するために、河川の氾濫を生じさせやすい箇所における堤防の初期状態の決壊を防止できるようにした河川構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、川底よりも高い位置に設けられ、増水した河川の水を通すことのできる溝体と、当該溝体の上流側端部であって川底よりも高い位置に設けられ、左右方向の水を前記溝体に集めるテーパー部を設けるようにしたものである。
【0009】
このように構成すれば、水位が低い状態である場合には、溝体の下方で水を流すことができるとともに、増水して溝体よりも上方に水位がきた場合にのみ、テーパー部によって堤防側の水を中央の溝体に集めることができ、堤防に当たる水の量を少なくして、堤防の初期状態における決壊を防止することができるようになる。
【0010】
また、このような発明において、前記溝体を、川底に立設された柱状体に支持させるようにする。
【0011】
このように構成すれば、溝体に掛かる大きな荷重を柱状体で支持させることができるようになる。
【0012】
もしくは、前記溝体を、河川の上方から吊り下げるようにして支持する。
【0013】
このように構成すれば、川底の工事などを行うことなく、簡単に溝体を設置することができるようになる。
【0014】
さらに、前記溝体を、独立した溝体要素から構成し、互いにオーバーラップさせるようにして連結する。
【0015】
このように構成すれば、溝体の長さを任意に変えることができるとともに、設置時における運搬や設置作業を容易にすることができるようになる。
【0016】
また、前記溝体を、上流側の内幅を大きく、下流側の内幅を小さくした複数の独立した溝体要素を連結させて構成し、下流側の溝体要素の上流側端部に上流側の溝体要素の下流側端部をオーバーラップさせるように連結する。
【0017】
このように構成すれば、溝体要素を流れる水が、溝体要素の連結部分から漏れることがなくなるとともに、簡単に溝体要素を連結させることができるようになる。
【0018】
また、前記溝体要素を、プラスチックで構成する。
【0019】
このように構成すれば、溝体要素を軽量化することができるとともに、例えば、廃材のプラスチックを用いることにより、ゴミの再利用を図って、環境問題に対応することもできるようになる。
【0020】
また、前記テーパー部の上流側に、当該テーパー部に流木が入り込むことを防止する流木防止手段を設けるようにする。
【0021】
このように構成すれば、溝体に流木が入り込むことを防止することができ、溝体に掛かる負荷を低減させることができるようになる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、川底よりも高い位置に設けられ、増水した河川の水を通すことのできる溝体と、当該溝体の上流側端部であって川底よりも高い位置に設けられ、左右方向の水を前記溝体に集めるためのテーパー部とを設けるようにしたので、水位が低い状態である場合には、溝体の下方で水を流すことができるとともに、増水して溝体よりも上方に水位がきた場合にのみ、テーパー部によって堤防側の水を中央の溝体に集めることができる。これにより、堤防に当たる水の量を少なくして、堤防の初期状態における決壊を防止することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施の形態を示す河川構造を示す図(低水位状態)
【
図5】同形態における増水状態を流れ方向から見た図
【
図6】同形態における流木防止手段の別の例を示す図
【
図8】同形態における溝体要素の別の連結方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
この実施の形態における河川構造1は、増水した河川の上層の水を堤防62側から中央側に寄せて、堤防62に当たる水の量を少なくできるようにしたものであって、
図1に示すように、川底61よりも浮かせた状態に設けられる溝体2と、その溝体2の上流側の端部(
図2参照)に設けられ、堤防62側の水を中央側の溝体2に集めるテーパー部3とを設けるようにしたものである。そして、このように構成することによって、水位が低い状態の場合(
図1の状態)には、溝体2の下方側で水を流すとともに、増水して水位が上昇した場合(
図5の状態)には、堤防62側の水を中央側に集めて溝体2に水を流し、これによって、堤防62の初期状態における決壊を防止して、河川の氾濫を防止できるようにしたものである。以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
まず、溝体2は、複数の溝体要素21を連結して設けられるものであって、
図1や
図2などに示すように、例えば、幅2mの底部22と高さ2mの側壁23などを設けて構成されている。この側壁23は、
図2に示すように、例えば、上流側(前端側)の内側開口幅を広くしておくとともに、下流側(後端側)の内側開口幅を相対的に狭く構成されている。そして、これらの溝体要素21を連結させる際には、下流側の溝体要素21の前端部25に、上から上流側の溝体要素21の後端部26を載せていき、これによって、互いにオーバーラップさせた状態で溝体要素21を連結していく。また、この溝体要素21の側壁23の上縁部には、側壁23を屈曲させたフランジ部24が設けられており、このフランジ部24の穴部27にワイヤーなどの吊下体42(
図7参照)などを取り付けられるようにしている。なお、このような溝体要素21は、金属板や木板などの他、プラスチック、強化発砲スチロール、軽量コンクリートなどで構成されるが、特に、プラスチックで溝体要素21を構成した場合は、軽量化を図ることで、運搬や設置などを容易に行わせることができるとともに、廃材のプラスチックを用いた場合は、ゴミの再利用を図ることで環境問題に貢献することができるというメリットもある。
【0027】
このような溝体2は、支持体4によって川底61から浮かした状態であって、危険水位よりも0.5mから2mほど低い位置に底部22が位置するように取り付けられる。このような支持体4に固定する場合、第一の方法では、
図1に示すように、川底61に立設された柱状体41に溝体2を取り付ける方法を用いる。このような柱状体41は、川底61に沿って一定間隔毎に設けられ、その上面に溝体要素21を載せた状態で、アンカーボルトで固定させるようにしておく。
【0028】
また、第二の方法としては、
図7に示すように、河川の上方からワイヤーなどの吊下体42で溝体要素21を吊り下げて支持させることもできる。このような吊下体42で溝体要素21を支持する場合、河川の幅方向に沿ったワイヤーなどの金属体43に吊下体42で吊り下げて支持できるようにする。このような吊下体42で溝体要素21を支持する際、フランジ部24に設けられた穴部27にワイヤーを取り付けて垂下させるようにする。
【0029】
このように構成された溝体2の前端部25には、
図2に示すようなテーパー部3が設けられる。
【0030】
このテーパー部3は、溝体2の前方で上流からの水を堤防62側から中央方向に寄せられるようにしたものであって、溝体2と同様に、金属板や木板、プラスチックなどで構成される。そして、溝体2と同様に、川底61に立設された柱状体41などの支持体4によって支持させるようにしておく。なお、このテーパー部3の左右両端部は、堤防62に密着させるように設けてもよく、もしくは、堤防62から少し離れた位置に設けるようにしてもよい。このとき、堤防62から少し離れた位置に設けるようにすれば、流れてきた木やゴミを、そのテーパー部3と堤防62との間に流すことができ、堤防62を補強することができる。
【0031】
また、このように溝体2やテーパー部3を設けた場合、上流から流れてきた流木が当たってしまい、その荷重や水の抵抗に耐えられなくなってしまう。そこで、ここでは、
図2に示すように、テーパー部3の上流側に、流木をテーパー部3に入り込ませないようにするための流木防止手段5が設けている。
【0032】
この流木防止手段5としては、第一の例では、
図2に示すように、上流側に金属で構成されたメッシュ体51を流れ方向と垂直に設けおき、そこに流木を当てて堰き止めるようにする方法が考えられる。あるいは、第二の例である
図6に示すように、流木を堤防62側に寄せるようにするための逆テーパー部3を設けるようにすることもできる。このような逆テーパー部3を設けると、河川の水が堤防62側に寄せられてしまうため、堤防62を削り取って河川の氾濫を生じさせてしまう可能性がある。そのため、逆テーパー部3についても、メッシュ体52で構成しておき、水を流れ方向に通すとともに、流木やゴミなどを堤防62側に寄せるようにしておく。
【0033】
次に、このように構成された河川構造1の作用について説明する。
【0034】
まず、水位が低い状態で流れている場合は、溝体2の下方を水が流れるようになる。
【0035】
一方、急激な増水によって、水位が溝体2の底部22を超えた場合、
図4や
図5に示すように、テーパー部3によって堤防62側の水が中央川の溝体2に寄せられ、その水が溝体2を通るようになる。このとき、溝体2に左右方向からの水が集中するため、溝体2の側壁23の高さをテーパー部3で寄せられる水に対応させるような高さに設定しておく。
【0036】
また、上流側に流木防止手段5が設けられている場合、その流木防止手段5によって、流木やゴミなどが遮断され、また、垂直に起立したメッシュ体51(
図4)や逆テーパー部3のメッシュ体52(
図6)によって、流木やゴミが堤防62側に寄せられる。この逆テーパー部3で流木を堤防62側に寄せて、テーパー部3の先端と堤防62の隙間に通すことができれば、その流木などによって堤防62を補強することができるようになる。
【0037】
そして、このように流木を排除した状態で、本来堤防62に沿って流れる水を、溝体2に通し、氾濫を生じる可能性がなくなった箇所で、その水を溝体2から元の河川に戻すようにする。
【0038】
このように上記実施の形態によれば、川底61よりも高い位置に設けられ、増水した河川の水を通すことのできる溝体2と、当該溝体2の上流側端部であって川底61よりも高い位置に設けられ、左右方向の水を前記溝体2に集めるためのテーパー部3とを設けるようにしたので、水位が低い状態である場合には、溝体2の下方で水を流すことができるとともに、増水して溝体2よりも上方に水位がきた場合にのみ、テーパー部3によって堤防62側の水を中央の溝体2に集めることができる。これにより、堤防62に当たる水の量を少なくして、堤防62の初期状態における決壊を防止することができるようになる。
【0039】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。
【0040】
例えば、上記実施の形態では、河川の流れ方向にのみ溝体要素21を連結させるようにしたが、
図8に示すように、河川の幅方向にも溝体要素21を連結させるようにしてもよい。このように構成すれば、大きな幅の河川に対応して、水を溝体2に寄せることができるようになる。なお、このような溝体要素21を幅方向に連結させる際には、フランジ部24に設けられた穴部27にボルトを通して連結させるようにするとよい。
【0041】
また、上記実施の形態では、溝体要素21を、前端部25の開口幅を広くするとともに、後端部26の開口幅を狭くするようにしたが、それぞれの開口幅を同じに設定してもよい。この際、連結部分で隙間を生じて水漏れを生じてしまうため、その境界部分である隙間を埋めるためのプレートなどを取り付けるようにするとよい。
【符号の説明】
【0042】
1・・・河川構造
2・・・溝体
21・・・溝体要素
22・・・底部
23・・・側壁
24・・・フランジ部
25・・・前端部
26・・・後端部
27・・・穴部
3・・・テーパー部
31・・・前端部
4・・・支持体
41・・・柱状体
42・・・吊下体
43・・・金属体
5・・・流木防止手段
51・・・メッシュ体
52・・・メッシュ体
61・・・川底
62・・・堤防