(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】誘導結合型プラズマ処理装置の防着板
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20230213BHJP
C23F 4/00 20060101ALI20230213BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
H05H1/46 L
C23F4/00 A
H01L21/302 101C
(21)【出願番号】P 2018197905
(22)【出願日】2018-10-19
【審査請求日】2021-05-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】392022570
【氏名又は名称】サムコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 知行
(72)【発明者】
【氏名】内田 聡充
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-029119(JP,A)
【文献】特開2004-356311(JP,A)
【文献】特開平10-229056(JP,A)
【文献】特表2004-523894(JP,A)
【文献】特開2000-150487(JP,A)
【文献】米国特許第06254737(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
C23F 4/00
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原子を含む加工対象物が載置される加工対象物載置台を備えた処理室と、該処理室外に配置された、高周波電磁界を生成するコイル電極と、前記加工対象物載置台と前記コイル電極の間に設けられた誘電体窓と、を備えた誘導結合型プラズマ処理装置において、
前記誘電体窓と前記加工対象物載置台の間に設けられた板であって、基板と、該基板の前記加工対象物載置台側の表面に設けられたパーティクル捕捉層を有し、前記コイル電極により誘導される誘導電流を阻止するスリットを有する防着板を備え、
前記パーティクル捕捉層
が金属層であ
って、前記加工対象物に含まれる金属原子と同種の金属層であることを特徴とする誘導結合型プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記基板が、石英製、セラミック製又は金属製であることを特徴とする請求項1に記載の誘導結合型プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記基板が石英製であって、
前記パーティクル捕捉層が、金属を二層以上積層したものであり、該パーティクル捕捉層の前記基板側が、ニッケル又はクロムの金属層からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の誘導結合型プラズマ処理装置。
【請求項4】
前記防着板が、前記基板と前記パーティクル捕捉層を一体として形成した
、前記加工対象物に含まれる金属原子と同種の1枚の金属製の板であることを特徴とする請求項1又は2に記載の誘導結合型プラズマ処理装置。
【請求項5】
前記
パーティクル捕捉層が、前記基板の前記加工対象物載置台側の表面に設けられた蒸着膜、スパッタ膜又はメッキ膜であることを特徴とする請求項1
~3のいずれかに記載の誘導結合型プラズマ処理装置。
【請求項6】
前記防着板が、前記誘電体窓から微小間隔だけ離して配置されていることを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載の誘導結合型プラズマ処理装置。
【請求項7】
前記防着板が、前記誘電体窓と同形の板に、前記コイル電極の中心軸から放射状に延在する複数のスリットを形成した構成を有することを特徴とする請求項1~
6のいずれかに記載の誘導結合型プラズマ処理装置。
【請求項8】
前記防着板が、前記誘電体窓と同形の板に、前記コイル電極の中心軸に関して放射渦巻状に配置された複数本のスリットを有し、いずれのスリットも他のスリットと同一の直線上に位置しないような形態となっていることを特徴とする請求項1~
7のいずれかに記載の誘導結合型プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導結合型プラズマ処理装置の防着板に関する。
【背景技術】
【0002】
加工対象物の表面に微細加工を施す方法としてスパッタエッチング法が従来より知られている。この方法では、加工パターンのマスクを被加工面に形成した加工対象物を気密な処理室内部に収納し、該処理室内を低圧に維持しつつ、処理室内に処理ガス(Ar、Cl2等)を供給し、処理室内に高周波電磁界を発生させることにより処理ガスをプラズマ化する。このプラズマに含まれるイオンをバイアス電圧で加速し、加工対象物の被加工面に衝突させることにより、被加工面のマスクされていない部分を削り取る。
【0003】
上記のような処理を行うための装置の一つとして誘導結合型プラズマ(ICP)処理装置が知られている。ICP処理装置は、一般的に、加工対象物にプラズマ処理を行う処理室、該処理室内にプラズマ生成用高周波電力を供給するための、該処理室外に設けられたコイル電極、該コイル電極で発生された高周波電磁界を該処理室内に導入するための電磁界導入口となる窓、そして、該コイル電極に高周波電圧を印加するための高周波電源を備えている。窓は高周波電磁界を通さねばならないことから、一般に石英のような誘電体で構成されており、誘電体窓と呼ばれている。
【0004】
ICP処理装置を用いた微細加工では、金属(例えば、プラチナ(Pt)、イリジウム(Ir)、ニッケル(Ni))又は金属酸化物(例えば、酸化イリジウム、酸化スズ等)を含む基板、薄膜等を加工対象物とすることが多い。このような金属系の加工対象物(金属原子を含む加工対象物)を多数又は長時間にわたって加工すると、プラズマイオンによりスパッタされて加工対象物から飛散した金属が誘電体窓の表面に徐々に付着し、そこに導電性膜を形成する。このように誘電体窓の表面に導電性膜が形成されると、コイル電極の発生する高周波電磁界のうちの磁界により導電性膜に誘導電流が誘起され、この誘導電流によって高周波電力が消費されるため、処理室内への高周波電力の供給が阻害される。
【0005】
そこで、誘電体窓(第1誘電板)の下(加工対象物側)に着脱が容易な第2誘電板を設け、加工対象物からの飛散物がそちらに方に付着するようにして、付着後はそれを交換することによりメンテナンス時間を短縮する方法が考案されている(特許文献1)。
【0006】
また、その交換の時間(周期)を長くするために、誘電体窓の下に設ける防着板(前記第2誘電板に相当)として、該誘電体窓とほぼ同じ大きさの円板状の部材にその中心から放射状に延在する直線状のスリットを形成して構成したものが考案されている(特許文献2)。ICP処理装置の場合、コイル電極は通常、その中心軸が誘電体窓に垂直となるように設置されるため、誘電体窓等の表面に形成された導電性膜に生ずる誘導電流は、コイル電極の巻線にほぼ沿った方向に流れる。そこで防着板にこのような中心から放射状に延在する直線状のスリットを形成することにより、防着板及び誘電体窓の下面に形成された導電性膜のいずれにも誘導電流が生ずることを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-068252号公報
【文献】特開2001-254188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のような防着板を設けることにより、誘電体窓に誘導電流が生起されることを防止し、長時間に亘ってコイル電極から処理室内に高周波電力を投入し続けることができる。
【0009】
しかし、導電性膜が付着することによる問題は、そのような高周波電力の減衰という問題ばかりではなく、誘電体窓に付着することにより形成された導電性物体(多くの場合、小さなパーティクル状のもの)が剥離して加工対象物に落下するという問題もある。高周波電力の減衰は処理効率の低下につながるものの、製品の品質に影響することは少ない。しかし、落下したパーティクル等が加工対象物に付着した場合、その加工対象物は不良品となる。1つの加工対象物から多くの製品が製造される半導体デバイス等の場合、その影響は大きい。
【0010】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、誘電体窓の表面に形成された導電性パーティクルの落下をできるだけ防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明は、加工対象物載置台を備える処理室と、該処理室外に配置された、高周波電磁界を生成するコイル電極と、前記加工対象物載置台と前記コイル電極の間に設けられた誘電体窓と、を備えた誘導結合型プラズマ処理装置において、
前記誘電体窓と前記加工対象物載置台の間に設けられた板であって、基板と、該基板の前記加工対象物載置台側の表面に設けられたパーティクル捕捉層を有し、前記コイル電極により誘導される誘導電流を阻止するスリットを有する防着板を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る誘導結合型プラズマ処理装置は、誘電体窓と加工対象物載置台の間に防着板を備えており、その防着板には、その防着板が導電性である場合、或いは、その基板に導電性の層を設けた場合に、前記コイル電極により誘導される誘導電流を阻止するようなスリットが設けられている。この防着板は基板と、該基板の前記加工対象物載置台側の表面に設けられたパーティクル捕捉層を有する。
【0013】
基板としては、交換の際等に取り扱いが容易であり、また、プラズマ処理の際の熱等により変形等しないように、金属やセラミック、ガラス、石英等の十分な剛性を有するものを使用することが望ましい。
【0014】
パーティクル捕捉層は、加工対象物から放出された飛散物が一旦付着すると容易に剥離しにくいような素材で形成する。例えば、加工対象物がシリコンを主体とするものであり、主としてシリコンが付着すると想定される場合には、パーティクル捕捉層としてはシリコンよりも硬度が低いニッケル、クロムまたはチタンのような金属を使用することができる。基板との密着強度がより高くなる点でパーティクル捕捉層は種類の異なる金属を二層以上積層することが好ましい。例えば、基板が石英の場合は、石英との密着強度が高いニッケルやクロムを積層した後にさらにニッケルを積層することが好ましい。一方、加工対象物が金属を主体とするものである場合には、パーティクル捕捉層は該加工対象物と同種金属、又は異種であっても該加工対象物の金属より硬度が低い金属を素材とすることが望ましい。パーティクル捕捉層として金属を用いる場合、基板も同種金属とすることができる。すなわち、この場合には、基板とパーティクル捕捉層を一体として形成し、スリットを有する1枚の金属板として防着板を構成することができる。他の材料を素材とする場合についても同様である。なお、インジウムリン(InP)、ガリウムヒ素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)または炭化ケイ素(SiC)などの化合物半導体のような様々な素材から成るパーティクルを捕捉するためには捕捉層を樹脂とすることも有効であるが、この場合、防着板全体を樹脂とすると強度(特に、高温時の強度)に問題が生じる可能性があるので、基板としてはより剛性の高い石英や金属、セラミック等を用いることが望ましい。
【0015】
パーティクル捕捉層を金属とする場合には、メッキ法、真空蒸着法またはスパッタ法で形成することができる。一方、パーティクル捕捉層を樹脂とする場合には、塗布で形成するのが簡便である。
【0016】
本発明に係る誘導結合型プラズマ処理装置で、前記加工対象物載置台に金属原子を含む加工対象物を載置し、プラズマ処理した場合、該加工対象物から金属原子を含む物質が飛散し、誘電体窓の方にも向かう。しかし、本発明に係る誘導結合型プラズマ処理装置では加工対象物載置台と誘電体窓の間に防着板が設けられているため、誘電体窓に金属原子を含む物質が付着して導電性膜を形成するということが少ない。
【0017】
加工対象物から飛散した金属原子を含む物質は、主に防着板の加工対象物載置台側の表面に付着する。しかし、この防着板にはコイル電極により誘導される誘導電流を阻止するスリットが設けられているため、防着板にも誘導電流が生成されることがない。これらにより、本発明に係る誘導結合型プラズマ処理装置では、長時間に亘って減衰することの少ない高周波電力を処理室内に導入し続けることができる。
【0018】
そして、防着板の加工対象物載置台側の表面にはパーティクル捕捉層が設けられているため、加工対象物から飛散した金属原子を含む物質は、従来の誘電体製の防着板と比較して、より強くこの防着板に付着し、捕捉される。このため、防着板から金属原子を含む物質が剥離、落下し、パーティクルとして加工対象物に付着するということが少なくなる。
【0019】
前記防着板は、前記誘電体窓(及び前記コイル電極)の形状を考慮して形成される。例えば、誘電体窓が円板状である場合、防着板は、該誘電体窓とほぼ同じ大きさの円板に、その中心(すなわち、コイル電極の中心軸)から放射状に延在する複数のスリットを形成した構成とすることができる。
【0020】
この防着板を誘電体窓に密着させた場合、例えば、スリットの内周壁面に金属膜が形成されると、それにより防着板の下面(加工対象物側の面)に形成された金属膜と誘電体窓の下面に付着した金属膜とが短絡し、上述のような誘導電流阻止作用が損なわれる恐れがある。このような事態を防止するため、上記防着板は誘電体窓から微小間隔だけ離して配置することが好ましい。このようにすると、防着板と誘電体窓との間の絶縁がより確実になる。なお、前記間隔が小さ過ぎると、誘電体窓の下面に形成される金属膜の縁部により防着板と誘電体窓との間の隙間が閉塞されてしまう恐れがある一方、同間隔が大きすぎると、スリットを通過した金属原子が防着板の裏面に回り込み、誘電体窓の下面に広く付着する恐れがある。このような問題は、例えば、防着板と誘電体窓との間の間隔を0.1~0.5mmとすることにより解決することができる。
【0021】
防着板が前記形態の場合、前記複数のスリットは前記コイル電極の中心軸に関して放射渦巻状に配置されており、いずれのスリットも他のスリットと同一の直線上に位置しないような形態としておくことが望ましい。
【0022】
防着板の形態は上記のようなスリットを有するものに限られない。例えば、中心から外へ放射状に延在する複数の腕を有する星状(アスタリスク形状)の防着板を用いても、上記のような誘導電流阻止効果が得られる。
【0023】
また、誘電体窓が円筒状又は釣鐘状である場合、その内壁面を隠蔽するような略円筒状の防着板を作成するとともに、その防着板には円筒の母線に略平行な複数のスリットを設けることにより、コイル電極の巻線に沿った誘導電流の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る誘導結合型プラズマ処理装置で金属原子を含む加工対象物がプラズマ処理された場合、該加工対象物から金属原子を含む物質が飛散し、誘電体窓の方にも向かう。しかし、本発明に係る誘導結合型プラズマ処理装置では加工対象物載置台(すなわち、それに載置された加工対象物)と誘電体窓の間に防着板が設けられているため、誘電体窓に金属原子を含む物質が付着して導電性膜を形成するということが少ない。
【0025】
加工対象物から飛散した金属原子を含む物質は、主に防着板の加工対象物載置台側の表面に付着する。しかし、この防着板にはコイル電極により誘導される誘導電流を阻止するスリットが設けられているため、防着板にも誘導電流が生成されることがない。これらにより、本発明に係る誘導結合型プラズマ処理装置では、長時間に亘って減衰することの少ない高周波電力を処理室内に導入し続けることができる。
【0026】
そして、防着板の加工対象物載置台側の表面にはパーティクル捕捉層が設けられているため、加工対象物から飛散した金属原子等を含む物質は、従来の誘電体製の防着板と比較して、より強くこのパーティクル捕捉層に付着する。このため、防着板から金属原子等を含む物質が剥離、落下し、パーティクルとして加工対象物に付着するということが少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明を実施したICP処理装置の概略構成図。
【
図2】前記ICP処理装置の防着板の第1の形態のものを下から見た図(a)、そのIIb-IIb線の断面図(b)、及びそのIIc部分の拡大図(c)。
【
図3】ICP処理装置で処理対象物に対してプラズマエッチング処理を行う場合の誘電体窓の表面及び防着板の表面での金属膜の形成過程を説明する説明図であり、(a)は従来のICP処理装置によるもの、(b)は本発明の実施形態であるICP処理装置によるもの、そして、(c)は(b)のIIIcの部分の拡大図である。
【
図4】防着板の第2形態のものを下から見た図(a)、及びその取り付け部分の拡大図(b)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明が実施されたICP処理装置の概略構成図である。このICP処理装置1は、加工対象物10を収納する密閉可能な処理室20を有する。処理室20の上部には処理ガス通路21が接続されており、これを通じて処理ガス供給部22からプラズマエッチング処理用のガスが処理室20の内部に供給される。処理室20内部の圧力は、ロータリポンプ(RP)31、ターボ分子ポンプ(TMP)32、弁33及び圧力制御器34を含む圧力制御機構により低圧に制御される。
【0029】
処理室20の下部には、加工対象物10を載置するための下部電極23が備えられている。下部電極23は第1整合回路35を介して第1高周波(RF)発生器36に接続されている。第1RF発生器36は、処理室20内に発生するプラズマイオンを加工対象物10へ向けて加速するためのバイアス電圧を下部電極23に印加する。この下部電極23が、本発明の加工対象物載置台に相当する。
【0030】
処理室20の上壁面(天井)201には開口を有する円形の窓板受け部202が設けられており、ここに誘電体から成る円板状の窓板25が置かれている。窓板受け部202は、それに取り付けられる窓板25の中心が、前記下部電極23の中心と略一致するように設定されている。窓板25の内面(加工対象物10側の面)は交換板27(
図2(b))で覆われており、更にその交換板27の下面に防着板50が装着されている。この窓板25と交換板27を合わせたものが本発明の誘電体窓に相当する。窓板25は処理室20に取り付けた状態で長期間使用するのに対し、交換板27はそれよりも短い適宜の期間で防着板50と共に交換するものであるため、窓板25よりも安価であり、交換も容易となっている。防着板50については後述する。
【0031】
窓板25の上面には渦巻き状のコイル電極26が配置されている。コイル電極26は、その中心軸が前記窓板25に対してほぼ垂直、且つ、その中心と略一致するように配置されている。従って、コイル電極26の中心軸は下部電極23の略中心を通過することになる。コイル電極26は第2整合回路37を介して第2RF発生器38に接続されている。第2RF発生器38は、高周波磁界をコイル電極26から発生させるための高周波電圧をコイル電極26に印加する。
【0032】
防着板50の構造を
図2に示す。
図2において、(a)は処理室20内(加工対象物10側)から見た防着板50を示す。(b)は(a)のIIb-IIb線における防着板50の断面(但し、両側部分は省略している。)を示し、(c)はそのIIcの部分の拡大図である。窓板受け部202に形成された円形の開口203の周囲に、リング状の防着板支持具52が複数のネジ51により固定され、防着板50はこの防着板支持具52によって支持され、交換板27の下に固定されている。防着板50の上面(正しく取り付けられたときに交換板27側となる面)には円周に沿って段部501が形成されており、これにより交換板27と防着板50の間に隙間502が形成されている。また、防着板50の段部501より内側には、中心から放射状に延びる直線状のスリット503が複数本形成されている。
【0033】
本実施形態において、防着板50の本体(基板)は石英製、セラミック製又は金属製であり、その下面(正しく取り付けられたときに加工対象物10側となる面)にはメッキにより金属層505、または樹脂層505が設けられている。防着板50本体の材料のセラミックとしては、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、石英を用いることができ、金属としては、アルミニウム、ステンレス、または、後述する金属層505の材料と同じ素材を用いることができる。また、金属層505の材料としては、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)チタン(Ti)等を用いることができ、樹脂層505の材料としては、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)等の耐熱性樹脂を用いることができる。金属層505は、メッキや蒸着等により本体(基板)の下面に形成することができる。樹脂層505は、樹脂を本体(基板)の下面に塗布した後に硬化させて設けることができる。
【0034】
なお、防着板は、全体を金属製とすることもできる。この場合、防着板自体の下面の部分の表面が本発明のパーティクル捕捉層の役割を果たす。
【0035】
本実施形態のICP処理装置で、金属又は金属酸化物から成る物質を含む(すなわち、金属原子を含む)加工対象物10に対してプラズマエッチング処理を行う場合の、処理の進行に伴う誘電体窓の表面(詳しくは、交換板27の表面)及び防着板50の表面での金属膜の形成過程について
図3(a)及び(b)を参照しながら説明する。
図3(c)は(b)のIIIcの部分の拡大図である。
【0036】
コイル電極26から窓板25及び交換板27を通じて処理室20内に高周波電力(RF)が供給されると、処理室20内の処理ガスがプラズマ化する。このプラズマ中に含まれるイオンは、下部電極23に印加されたバイアス電圧による電界により加速され、加工対象物10の上面に衝突する。このイオン衝突により、加工対象物10の上面から金属又は金属酸化物が削り取られ、処理室20内に飛散する(スパッタリング。
図3(a))。スパッタされた金属原子等の一部は防着板50の下面に徐々に堆積して金属膜551を形成するが、スリット503の部分には金属原子等は堆積しない。この結果、金属膜551は、複数のスリット状の穴が放射状に開口された円形状となる。一方、スパッタされた金属原子等の他の一部は防着板50のスリット503を通過して交換板27へ到達し、そこにスリット503と略同一の形状及び寸法を有する金属膜552を形成する(
図3(b)及び(c))。このように、防着板50及び交換板27の表面に別々に金属膜551及び552が形成されるため、コイル電極26の巻線の方向に沿った誘導電流はいずれにも発生せず、高周波電力RFの処理室20内への供給が困難となることはない。
【0037】
また、防着板50の下面には金属層505又は樹脂層505が設けられているため、加工対象物10からスパッタされ、防着板50の下面に徐々に堆積する金属原子又は金属酸化物は、防着板50の下面の金属層505又は樹脂層505へ高い付着力で付着するため、剥離することがない。従って、加工対象物10が、防着板50から落下するパーティクルにより汚染するということが防止される。
【0038】
図4(a)及び(b)は防着板の別の形態を示す図である。
図4の防着板60は、中心から外へ放射状に延びる8本の腕601から成るアスタリスク形状を持つ。各腕601の先端の背面(上側の面)には段部603が形成されており、これにより、防着板60と交換板27との間に隙間602が形成されている。この防着板60も、本体は石英製であり、下面に金属層605がメッキ又は蒸着により、又は樹脂層505が塗布により形成されている。このような防着板60を用いても、上記防着板50で得られたのと同様の効果が得られる。
【0039】
防着板の更に他の形態のものを
図5~
図7に示す。
図5の防着板70及び
図6の防着板80は、第1の実施形態の防着板50のスリットの角度を変え、各防着板70、80のいずれのスリット71、81も他のスリット71、81と同一の直線上に位置しないようにしたものである。こうすることにより、スリット71、81の端同士の間の本体部分に応力が集中することを防止し、スリット71、81の端部から亀裂が発生することを抑えることができる。また、仮にスリット71、81の端から亀裂が発生しても、その亀裂が他のスリット71、81の端に発生した亀裂と結合し難いため、防着板70、80の大きな破損を招くことを抑えることができる。
図7の防着板90は、スリット91の数を9本とし、それらを正9角形状に放射状に配置したものである。このようなスリット配置によっても、前記効果が得られる。もちろんこのような構成は、スリットの本数nを3以上の奇数とすることにより、他の正多角形に一般化することができる。なお、いずれの防着板70、80、90の下面にも、前記のような金属層又は樹脂層が設けられている。
【符号の説明】
【0040】
1…ICP処理装置
10…加工対象物
20…処理室
23…下部電極
25…窓板
26…コイル電極
27…交換板
50…防着板
501…段部
502…隙間
503…スリット
505…金属層、樹脂層
52…防着板支持具
551…金属膜
552…金属膜
60、70、80、90…防着板
71、81、91…スリット