(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】薬物代謝機能測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20230213BHJP
C12Q 1/26 20060101ALI20230213BHJP
G01N 33/60 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
G01N33/48 Z
C12Q1/26
G01N33/60 Z
(21)【出願番号】P 2019026657
(22)【出願日】2019-02-18
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川井 惠一
(72)【発明者】
【氏名】小林 正和
(72)【発明者】
【氏名】水谷 明日香
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-81430(JP,A)
【文献】特開2016-69311(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0133769(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0274624(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0138375(US,A1)
【文献】カーディオライト 第一,2022年
【文献】Kodai Nishi,In vivo radioactive metabolite analysis for individualized medicine: A basic study of a new method of CYP activity assay using 123I-IMP,Nuclear Medicine and Biology,2015年,Vol.42,Page.171-176
【文献】Kathryn M Field,Part II: Liver function in oncology: towards safer chemotherapy use,Lancet Oncol,2008年,Vol.9,Page.1181-1190
【文献】Lazarowski Alberto,Multidrug Resistance (MDR) Proteins Develops Refractory Epilepsy Phenotype. Clinical and Experimental Evidence,Current Drug Therapy,2006年,Vol.1 No.3,Page.291-309
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48
G01N 33/60
C12Q 1/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-メトキシイソブチルイソニトリルの放射性標識体を投与された被検者の試料に含まれる前記放射性標識体の放射性代謝物を分析することを含む薬物代謝機能の測定方法。
【請求項2】
薬物代謝機能がシトクロムP450による薬物代謝機能である請求項1記載の方法。
【請求項3】
シトクロムP450がCYP3A4である請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記放射性標識体が2-メトキシイソブチルイソニトリルと放射性金属との錯体である請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
2-メトキシイソブチルイソニトリルと放射性金属との錯体がヘキサキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(
99mTc)である請求項4記載の方法。
【請求項6】
薬物の適正投与量を決定するために行う請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
被検者の代謝異常を検査するために行う請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
被検者の試料が血液、血清又は血漿から得られる試料である請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
2-メトキシイソブチルイソニトリルの放射性標識体を含有するシトクロムP450による薬物代謝機能を測定するための検査薬。
【請求項10】
シトクロムP450がCYP3A4である請求項9記載の検査薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
薬物等の代謝物を利用した薬物代謝機能測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物は生体内で吸収(absorption)・分布(distribution)・代謝(metabolism)・排泄(excretion)と、それぞれの頭文字からADMEと呼ばれる動態を示す。中でも、薬物代謝は生体にとって異物である医薬品を体外に排出しやすくする重要な機能である。医薬品の代謝は、生体内の様々な薬物代謝酵素によって進行する。薬物代謝酵素の活性は個人差があり、活性の高低によって代謝反応の程度が変化する。そのため、医薬品を同量投与した場合でもその薬効や副作用の発現は個々人で異なる。よって、患者個々の薬物代謝酵素の活性を定量した上で医薬品の投与量を決定することができれば、薬物療法の個別化におけるEBM(evidence based medicine)の観点から非常に有用である。現在、遺伝子多型として薬物代謝酵素の欠損や機能低下が存在することが知られており、遺伝子検査によって診断することができる。しかし、遺伝子検査によって判定できるのはあくまで個人が生来持っている個体差のみの評価である。薬物代謝酵素活性の個人差は遺伝子多型のみを要因とするものではない。ひとつの薬物代謝酵素に対してその基質となる医薬品は多数存在するため、特定の薬物代謝酵素に対してその基質となる医薬品が同時に2種類以上存在した場合、競合して代謝の阻害が起こる。このような多剤併用による薬物相互作用もまた、薬物代謝酵素の活性の個体差要因となりえる。
【0003】
一般に放射性医薬品は、標的組織における滞留機序としての代謝以外には代謝反応を受けないことを前提に設計されている。心筋血流製剤であるヘキサキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)(99mTc-MIBI)は、2-メトキシイソブチルイソニトリルと放射性金属との錯体の1種であるが、当該化合物も生体内では分解されず、未変化体として腎尿路系及び肝胆道系によって排泄されると考えられている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】カーディオライト 第一 添付文書 2018年10月改訂 (第11版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、簡便な手段により、薬物代謝機能を測定できる薬物代謝機能測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)2-メトキシイソブチルイソニトリルの放射性標識体を投与された被検者の試料に含まれる前記放射性標識体の放射性代謝物を分析することを含む薬物代謝機能の測定方法。
(2)薬物代謝機能がシトクロムP450による薬物代謝機能である前記(1)に記載の方法。
(3)シトクロムP450がCYP3A4である前記(2)に記載の方法。
(4)前記放射性標識体が2-メトキシイソブチルイソニトリルと放射性金属との錯体である前記(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)2-メトキシイソブチルイソニトリルと放射性金属との錯体がヘキサキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)である前記(4)に記載の方法。
(6)薬物の適正投与量を決定するために行う前記(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)被検者の代謝異常を検査するために行う前記(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(8)被検者の試料が血液、血清又は血漿から得られる試料である前記(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9)2-メトキシイソブチルイソニトリルの放射性標識体を含有するシトクロムP450による薬物代謝機能を測定するための検査薬。
(10)シトクロムP450がCYP3A4である前記(9)に記載の検査薬。
【発明の効果】
【0007】
本発明の薬物代謝機能測定方法は、代謝物の構造等が不明であっても適用でき、かつ適用範囲が広い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は医薬品の代謝に関与する各CYP分子種の割合を示す。
【
図2】
図2はヒト肝ミクロゾーム中での
99mTc-MIBI代謝実験の結果を示す。
【
図3】
図3はヒト肝ミクロゾーム中の
99mTc-MIBI放射性代謝物TLC分析における未変化体と代謝物の経時変化を示す。
【
図4】
図4はヒト肝ミクロゾームを用いた
99mTc-MIBI代謝実験における各種阻害剤負荷時の未変化体及び放射性代謝物の生成量の変化を示す(左:15分、右:60分)。
【
図5】
図5はCYP3A4特異的阻害剤ketoconazole負荷濃度における代謝物の生成量変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の薬物代謝機能の測定方法に用いる放射性標識体としては、2-メトキシイソブチルイソニトリルの放射性標識体であれば、特に制限はなく、例えば、シトクロムP450により代謝され、放射性代謝物を生じるもの、好ましくは、CYP3A4により代謝され、放射性代謝物を生じるものが挙げられる。
【0010】
CYP3A4により代謝され、放射性代謝物を生じる放射性標識体としては、例えば、2-メトキシイソブチルイソニトリルと放射性金属との錯体、2-メトキシイソブチルイソニトリルに放射性核種を導入した放射性標識体が挙げられる。
【0011】
前記2-メトキシイソブチルイソニトリルと放射性金属との錯体の製造に用いる放射性金属としては、例えば51Cr、59Fe、62Cu、64Cu、67Cu、67Ga、68Ga、47Sc、88Y、86Y、90Y、81Rb、89Sr、97Ru、99mTc、103Ru、105Rh、109Pd、111In、117mSn、141Ce、140La、149Pm、153Sm、161Tb、165Dy、166Dy、166Ho、167Tm、168Yb、175Yb、177Lu、186Re、188Re、198Au、199Au、201Tl、203Pb、211Bi、212Bi、213Bi、214Bi及び225Acが挙げられる。
【0012】
前記錯体以外の放射性標識体を合成するために用いる放射性核種としては、例えば3H、11C、14C、15O、18F、32P、81mKr、123I、125I、131I、133Xe及び211Atが挙げられる。
【0013】
本発明に用いる放射性標識体としては、心筋疾患診断薬等として市販されており、安全性が確認されている点から、ヘキサキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)が好ましい。
【0014】
本発明の薬物代謝機能の測定方法においては、目的に応じて、基質となる放射性標識体を1種又は2種以上を用いる。
【0015】
分析対象物である放射性代謝物の形態としては、有機物、無機物、イオンのいずれでもよいが、分析の容易性の点で有機物が好ましい。
【0016】
本発明における放射性標識体の投与経路としては、静脈内、皮内、皮下、経口、経粘膜、及び直腸投与などが挙げられる。被検者の試料としては、例えば血液、血清、血漿、尿、唾液又はその他体液、好ましくは血液、血清、血漿が挙げられる。
【0017】
放射性標識体の投与形態としては、投与経路に適した剤形であれば、注射剤、液剤、錠剤等から適宜選択すればよく、本発明の作用及び効果を損なわない限り、薬学的に許容される担体、又は剤形によって当該技術分野において一般的に使用される添加剤を更に含んでもよい。添加剤として、例えば、着色剤、保存剤、風味剤、香り改善剤、呈味改善剤、甘味剤、又は安定剤、その他薬学的に許容される添加剤を含有することができる。
【0018】
放射性標識体の投与量は、投与方法、投与する化合物ならびに患者の年齢、性別及び体重によって、適宜決定すればよい。
【0019】
本発明の測定方法においては、放射性標識体を投与した被検者の試料に含まれる前記放射性標識体の放射性代謝物を分析する。前記放射性代謝物の分析は、例えば、親化合物(未変化体)の放射性標識体と前記放射性代謝物とを分離して、前記放射性代謝物の放射能を測定することにより行うことができる。
【0020】
脂溶性の放射性標識体は、代謝されることにより水溶性の放射性代謝物を生じることが多く、このような場合には、例えばオクタノール抽出法により親化合物(未変化体)の放射性標識体と前記放射性代謝物とを分離することができる。また、薄層クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー等によっても、親化合物(未変化体)の放射性標識体と前記放射性代謝物とを分離することができる。
【0021】
本発明の測定方法によれば、一般的な放射性診断薬においては夾雑物とされている放射性代謝物を解析することにより、各種代謝異常、例えばCYP、特にCYP3A4の異常を見つけることができ、また、代謝物を見ることにより、CYP分子種ごとの遺伝子を調べることなく、CYPファミリー全体として代謝プロファイルができ、また薬物の適正投与量を決定できる。
【0022】
本発明の測定方法は、放射性代謝物を分析するので、非標識代謝物を分析する場合に比較して、非常に低い投与量でも十分な効果を発揮することができ、更に、内因性の代謝物と容易に区別することもできる。
【0023】
本発明に用いる放射性標識体はCYP3A4により選択的に代謝される。したがって、本発明に用いる放射性標識体は、CYP、特にCYP3A4による薬物代謝機能を測定するための検査薬として用いることができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
I.実験材料と方法
(A)ヒト肝ミクロゾーム中での99mTc-MIBI代謝実験
グルコース-6-リン酸(ナカライテスク)及びβ-NADP+(ナカライテスク)を、精製水にそれぞれ133.3mM、12.2mMとなるように溶解した。MgCl2(ナカライテスク)を1.0Mに調整した。グルコース-6-リン酸水溶液536μL、β-NADP+水溶液482.4μLを混合し、1.0M MgCl2 53.6μL及びグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(ナカライテスク)10.72μLを添加した。これらをNADPH生成系とし、混和後は使用まで氷冷した。NADPHはCYPによる代謝のエネルギー源となるため、NADPH生成系添加の有無により代謝物のNADPH依存性を判断することで、代謝反応のCYPの関与を明らかにできる。
【0026】
100mMリン酸緩衝液(pH7.4)、ヒト肝ミクロゾーム(50-donor pool, BD Biosciences)、NADPH生成系、精製水を表1に示した組成に調整してよく混和し、NADPH生成系を添加したものをNADPH(+)サンプルとした。一方、NADPH生成系を加えず、精製水で置き換えたサンプルを同様に用意し、NADPH(-)サンプルとした。それぞれに1.5MBq/10μLとなるように調整した99mTc-MIBI(日本メジフィジックス)を加えた後、37℃で加温して反応させた。反応時間は、5、15、30、60分とし、エタノール50μLを加えて反応を停止させた。
【0027】
各サンプルを15000rpm、4℃で5分遠心分離し、その上清を分取した。この上清をtotal countsが等しくなるように固定相:シリカゲル薄層板(Silica gel 60 RP-18 F254s, Merck)、移動相:アセトニトリル:メタノール:0.5M酢酸アンモニウム:THF=4:3:2:1でTLC(薄層クロマトグラフィー)により分析した。また、あらかじめ、エタノールを添加して酵素を失活させたサンプルに99mTc-MIBIとその標識原料である99mTcO4
-を同様にTLC分析したものを標準としてRf値を比較した。
【0028】
【0029】
(B)ヒト肝ミクロゾーム中での
99mTc-MIBI代謝阻害実験
図1に医薬品の代謝に関与する各CYP分子種の割合を示す(文献2:Williams JA, Hyland R, Jones BC, et al: Drug-drug interactions for UDP-glucuronosyltransferase substrates: a pharmacokinetic explanation for typically observed low exposure (AUCi/AUC) ratios. Drug Metab Dispos 32 (11): 1201-1208, 2004)。本実験では、現在臨床利用されている医薬品の8割以上の代謝に関わるCYP分子種50種類以上存在する中でも、
図1に示す医薬品代謝の9割以上を占めるCYP分子種6種類の評価を行った。それぞれのCYP分子種に対する特異的阻害剤を表2に示す。各種阻害剤は10μM(ジメチルスルホキシド0.8%v/v終濃度)になるようにそれぞれ調整した(文献3-11)。また、CYP3A4阻害剤であるketoconazoleは0.1、1μL(ジメチルスルホキシド0.8%v/v終濃度)となるように別に調製した。
【0030】
100mMリン酸緩衝液(pH7.4)、ヒト肝ミクロゾーム、NADPH生成系、精製水、阻害剤溶液を表1に示した組成に調整してよく混和し、1.5MBq/10μLとなるように調整した99mTc-MIBIを添加した後、37℃で加温して反応させた。反応時間は、15、60分とし、エタノール50μLを加えて反応を停止させた。
【0031】
各サンプルを15000rpm、4℃で5分遠心分離し、その上清を分取した。この上清を前記(A)と同様の条件でTLC分析した。
【0032】
【0033】
文献3-11:
3) Kim MJ, Kim H, Cha IJ, et al: High-throughput screening of inhibitory potential of nine cytochrome P450 enzymes in vitro using liquid chromatography/tandem mass spectrometry. Rapid Commun Mass Spectrom 19 (18): 2651-2658, 2005.
4) Bourrie M, Meunier V, Berger Y, et al: Role of cytochrome P-450 2C9 in irbesartan oxidation by human liver microsomes. Drug Metab Dispos 27 (2): 288-296, 1999.
5) Dinger J, Meyer MR, Maurer HH: Development of an in vitro cytochrome P450 cocktail inhibition assay for assessing the inhibition risk of drugs of abuse. Toxicol Lett 230 (1): 28-35, 2014.
6) Xu C, Desta Z: In vitro analysis and quantitative prediction of efavirenz inhibition of eight cytochrome P450 (CYP) enzymes: major effects on CYPs 2B6, 2C8, 2C9 and 2C19. Drug Metab Pharmacokinet 28 (4): 362-371, 2013.
7) Turpeinen M, Uusitalo J, Jalonen J, et al: Multiple P450 substrates in a single run: rapid and comprehensive in vitro interaction assay. Eur J Pharm Sci 24 (1): 123-132, 2005.
8) Zhao XJ, Koyama E, Ishizaki T: An in vitro study on the metabolism and possible drug interactions of rokitamycin, a macrolide antibiotic, using human liver microsomes. Drug Metab Dispos 27 (7): 776-785, 1999.
9) Cho DY, Bae SH, Lee JK, et al: Selective inhibition of cytochrome P450 2D6 by Sarpogrelate and its active metabolite, M-1, in human liver microsomes. Drug Metab Dispos 42 (1): 33-39, 2014.
10) Wang L, Zhang D, Raghavan N, et al: In vitro assessment of metabolic drug-drug interaction potential of apixaban through cytochrome P450 phenotyping, inhibition, and induction studies. Drug Metab Dispos 38 (3): 448-458, 2010.
11) Zhou XW, Ma Z, Geng T, et al: Evaluation of in vitro inhibition and induction of cytochrome P450 activities by hydrolyzed ginkgolides. J Ethnopharmacol 158PtA: 132-139, 2014.
【0034】
II.結果と考察
(A)ヒト肝ミクロゾーム中での
99mTc-MIBI代謝実験
15、60分反応させたNADPH(+)サンプル及びNADPH(-)サンプルをTLC分析した結果をそれぞれ
図2(a)、(b)に示す。
99mTc-MIBI、
99mTcO
4
-のRf値確認のために標準サンプルを展開した結果、Rf値はそれぞれ0.25~0.30、0.90~0.95であった。
図2(a)より、反応15分ではRf値0.40~0.55と0.60~0.75に放射性代謝物の画分が確認できた。60分ではRf値0.60~0.80に放射性代謝物の画分が確認できた。代謝物のうち、Rf値が0.5付近の画分をM1、0.7付近の画分をM2と呼ぶこととする。また
図2(b)より、NADPH(-)サンプルでは代謝物の画分は確認できなかった。以上の結果から
99mTc-MIBIの代謝物生成にはNADPH依存性があることから、
99mTc-MIBIの代謝にCYPの関与が確認された。未変化体と代謝物の経時変化を
図3に示す。一度生成されたM1が15分を境に減少するとともにM2は時間経過に伴い増加することから、
99mTc-MIBIの代謝反応が1段階目にM1へと代謝され、2段階目にM2へと代謝される直列型であることが推測された。
【0035】
(B)ヒト肝ミクロゾーム中での
99mTc-MIBI代謝阻害実験
ヒト肝ミクロゾームを用いた
99mTc-MIBI代謝実験における各種阻害剤負荷時の未変化体及び放射性代謝物の生成量の変化を
図4に示す。NADPH(-)、CYP3A4特異的阻害剤であるketoconazole負荷の両サンプルにおいて代謝物生成が有意水準0.01で有意に減少していることが確認できた。更に、
図3で示した代謝物M1生成量が最大の15分においても前記2サンプルは代謝阻害効果が顕著である。代謝終期の60分においても同様に非常に顕著な阻害効果が確認できた。従って、直列型であると推測された
99mTc-MIBIの代謝においてCYP3A4は代謝第1段階の
99mTc-MIBIからM1への代謝に関与していることが考えられた。
【0036】
CYP3A4特異的阻害剤であるketoconazole負荷における代謝阻害効果が確認できたため、各負荷濃度における放射性代謝物の生成量の変化を検討し、
図5に示した。ketoconazole負荷濃度の増加に伴って
99mTc-MIBIの放射性代謝物生成が減少していることが確認できた。本実験において、CYPによる代謝を受けた
99mTc-MIBIの放射性代謝物は、CYP3A4の特異的阻害剤であるketoconazoleを負荷することで代謝阻害を受けることが明らかとなった。更に、
99mTc-MIBIの代謝物の生成量がCYP3A4活性に依存していることから、
99mTc-MIBIの放射性代謝物量を定量することで、CYP3A4活性を評価できると考えられた。
【0037】
III.結語
99mTc-MIBIを用いたin vitro代謝物分析の結果、ヒト肝ミクロゾーム中においてNADPH依存性の放射性代謝物の生成が確認されたため、99mTc-MIBIはCYPによって代謝を受けることが明らかとなった。更に、CYP分子種に対する特異的阻害剤負荷実験を行った結果、CYP3A4特異的阻害剤であるketoconazole負荷によって99mTc-MIBIの代謝反応が抑制されたため、99mTc-MIBIの代謝第1反応がCYP3A4特異的に行われていることが明らかになった。
【0038】
従って、99mTc-MIBIにおける代謝物の排泄経路を確認すると共に、その代謝物生成量を簡便に定量する手法を確立することで(文献12:Nishi K, Mizutani A, Shikano N, et al: In vivo radioactive metabolite analysis for individualized medicine: A basic study of a new method of CYP activity assay using 123I-IMP. Nuclear Medicine and Biology 42 (2): 171-176, 2015)、
図1に示す通り医薬品代謝のおよそ半数を占めるCYP3A4活性を評価できる可能性が示された。