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特許7224647PVT解推定を用いたGNSSなりすまし信号の検出と除去
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  • 特許-PVT解推定を用いたGNSSなりすまし信号の検出と除去 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】PVT解推定を用いたGNSSなりすまし信号の検出と除去
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/21 20100101AFI20230213BHJP
   G01S 19/26 20100101ALI20230213BHJP
【FI】
G01S19/21
G01S19/26
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019532919
(86)(22)【出願日】2017-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 IB2017058091
(87)【国際公開番号】W WO2018116141
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】62/436,323
(32)【優先日】2016-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501141253
【氏名又は名称】マゼランシステムズジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】リュ―シン,セルゲイ
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-514597(JP,A)
【文献】米国特許第09094392(US,B1)
【文献】国際公開第2016/067279(WO,A1)
【文献】米国特許第7764224(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00-19/55
H04L 9/00- 9/40
G09C 1/00- 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PVT解を用いてGNSSなりすまし信号を検出し除去するための方法であって、前記方法は、
選択されたGNSS衛星からの複数のターゲットGNSS信号を捕捉し追尾することであって、前記複数のターゲットGNSS信号を捕捉し追尾することは、
対応するGNSS衛星に関する支援情報に基づいて、各ターゲットGNSS信号についての探索領域を決定することと、
前記対応するGNSS衛星からのターゲットGNSS信号について、前記探索領域を探索することと、
前記ターゲットGNSS信号に対応する最初の候補GNSS信号を捕捉した後、前記探索領域の全体が探索されるまで前記探索領域を探索することを継続し、それによって前記ターゲットGNSS信号に対応する追加の候補GNSS信号を捕捉することと、
前記選択されたGNSS衛星からの複数のターゲットGNSS信号の各々について、捕捉された1つ以上の候補GNSS信号を追尾することと、
を含むことと、
複数の捕捉された候補GNSS信号についての利用可能な認証情報に基づいて、前記複数の捕捉された候補GNSS信号の各々を、真正、未検証、あるいは偽造として識別することと、
真正あるいは未検証として識別された候補GNSS信号を追尾してさらに処理することを続行しつつ、偽造として識別された候補GNSS信号を追尾及びさらなる処理から取り除くことと、
真正と識別された候補GNSS信号(真正GNSS信号)の第1のリストと、未検証と識別された候補GNSS信号(未検証GNSS信号)の第2のリストとを生成し記憶することと、
各セットについて前記第1のリスト及び前記第2のリストの中から少なくとも4つのGNSS信号を選択することによって、複数のGNSS信号のセットを生成することであって、各セットは、前記第1のリスト上の真正GNSS信号のすべてと、前記第2のリストからの少なくとも1つの未検証GNSS信号とを含んでいることと、
前記複数のGNSS信号のセットの各々について、そのセット中のGNSS信号に基づいて、位置、速度、及び時刻(PVT)解及びポストフィット残差を計算し、それにより前記複数のGNSS信号のセットに対応する複数の推定PVT解を得ることと、
各未検証GNSS信号について、対応する未検証GNSS信号を含む各々のセットから得られた複数の推定PVT解を分析することによって、各セットに含まれる未検証GNSS信号の各々の真正性を推定することと、
そこから前記PVT解及びポストフィット残差が計算される対応するセット内の少なくとも1つの未検証GNSS信号の推定された真正性に基づいて、前記複数の推定PVT解のそれぞれの真正性及び正確性を推定することと、
そのそれぞれの真正性を伴う捕捉されたGNSS信号のすべてのリストと、そのそれぞれの真正性及び正確性を伴うすべての可能なPVT解のリストとを生成して出力することと、
を備える、方法。
【請求項2】
前記探索領域は、遅延時間探索範囲及び周波数探索範囲を含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記選択されたGNSS衛星は、異なるGNSSのものからの衛星を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記GNSS信号は、異なる周波数帯域にあるGNSS信号を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記認証情報は、
前記捕捉された候補GNSS信号に含まれるセキュリティコードと、
ターゲットGNSS信号に対応する候補GNSS信号の真正性を検証するための情報と、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記PVT解を計算することは、
少なくとも1つのセンサから位置情報を得ること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのセンサは、光学センサ及び慣性センサのうちの少なくとも1つを含む、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記位置情報は、GNSS受信機の軌道を含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
最も高い真正性及び正確性を有するPVT解をGNSS受信機出力として出力すること
をさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記捕捉された候補GNSS信号は、前記捕捉された候補GNSS信号についていかなる認証情報も利用可能でない場合に、未検証として識別される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
実行可能なプログラムがその上に格納されている非一時的コンピュータ可読記憶媒体であって、前記プログラムは、請求項1乃至10の何れか一項に記載の方法を実行するようにマイクロプロセッサに命令する、非一時的コンピュータ可読記録媒体。
【請求項12】
請求項1乃至10の何れか一項に記載の方法を実行するように構成されたGNSS受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2016年12月19日に出願された米国仮特許出願番号62/436,323について優先権を主張し、その開示が参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明はGNSS受信機及びGNSS信号処理に関する。より具体的には、本発明は、GNSS受信機におけるGNSSなりすまし信号の検出及び除去、ならびにPVT(位置、速度、及び時刻)解の推定に関する。
【背景技術】
【0003】
今日利用可能な全地球航法衛星システム(GNSS)として、米国全地球測位システム(GPS)、ロシア全地球軌道航法衛星システム(GLONASS)、欧州連合のガリレオ(Galileo)、中国の地域ベイドゥー(BeiDou)衛星航法システム(BDS、以前はコンパス(Compass)として知られていた)、及び日本の準天頂衛星システム(QZSS)がある。
【0004】
GNSSなりすまし信号とは、疑いを持たないGNSS受信機にとって本物の信号に見えるほど十分にGNSS仕様に近い、一種の構造的な干渉・妨害信号である。意図的ななりすまし者は、そのターゲットとなるGNSS受信機のPVT(位置、速度、及び時刻)の読み出し情報を意図的に操作しようとする。例えば、GNSSなりすまし攻撃は、通常のGNSS信号に似るように構成された不正なGNSS信号のセットを発信するか、あるいは他の場所又は異なる時点で獲得された真正なGNSS信号を再発信することによってGNSS受信機を欺こうとする。これらの偽装された信号は、GNSS受信機がその位置を推定する場合にGNSS受信機が実際に存在している場所ではなく攻撃者が決定した位置を推定するように、あるいは実際の位置において、正しい時刻ではなく攻撃者が決定した異なる時刻を推定するように、改変されている。一般にキャリーオフ攻撃と呼ばれるGNSSなりすまし攻撃の一般的な形態としては、まず始めにターゲットのGNSS受信機によって観測される本物のGNSS信号と同期した信号を発信し、そして、偽造GNSS信号の強度を徐々に増幅させることにより、本物のGNSS信号から引き離すのが一例である。
【0005】
低コストの既製ソフトウェア無線機、低コストのGNSS信号シミュレータ、及び記録再生装置などが利用可能となり、有能なプログラマが本物そっくりの民間GNSS信号を生成できるようになるにつれ、なりすましがより一般的な関心事となってきた。交通機関、位置情報サービス、通信、金融、配電、その他の用途における、民間GNSSへの経済的及び実際的な依存が高まるにつれて、GNSSなりすましにより引き起こされる結果はさらに深刻なものとなる。従って、GNSS受信機における効果的ななりすまし対策を見つけることは緊急の課題の1つである。
【発明の概要】
【0006】
本発明の実施形態は、PVT解を用いてGNSSなりすまし信号を検出し除去するための方法を提供する。この方法は、(a)選択されたGNSS衛星からの複数のGNSS信号を捕捉し追尾することと、(b)捕捉されたGNSS信号についての利用可能な認証情報に基づいて、捕捉されたGNSS信号の各々を認証し、それによって捕捉されたGNSS信号の各々が真正、未検証、あるいは偽造であると識別することと、(c)真正であると識別されたGNSS信号の第1のリストと、未検証であるとして識別されたGNSS信号の第2のリストとを生成して記憶することと、(d)真正信号及び未検証信号の追尾及びさらなる処理を続行するとともに、偽造であるとして識別されたGNSS信号を追尾及びさらなる処理から削除することと、(e)第1のリスト及び第2のリストの中から少なくとも4つのGNSS信号を選択することによって複数のGNSS信号セットを生成することであって、各セットは、第1のリスト上のすべての真正信号と、第2のリストからの少なくとも1つの未検証信号とを含んでいることと、(f)複数のGNSS信号セットの各々において、そのセット中のGNSS信号に基づいて、位置、速度、及び時刻(PVT)解及びポストフィット残差を計算することと、(g)各未検証信号について、対応する未検証信号を含むセットから得られたPVT解及びポストフィット残差を分析することによって、その未検証信号の真正性を推定することと、(h)未検証信号の推定された真正性に基づいて、各PVT解の真正性及び正確性を推定することと、(i)すべての捕捉されたGNSS信号及びその真正性のリストと、すべての可能なPVT解とその真正性及び正確性のリストとを生成して出力することと、を含む。
【0007】
前記複数のGNSS信号を捕捉し追尾することは、(a1)各GNSS信号について、対応するGNSS衛星に関する支援情報に基づいて、GNSS信号の探索領域を決定すること、(a2)対応するGNSS衛星からのターゲットGNSS信号について、その探索領域を探索すること、(a3)ターゲットGNSS信号を捕捉した後、探索領域の全体が探索されるまで探索領域の探索を継続し、それによってターゲットGNSS信号に対応する追加のGNSS信号(追加GNSS信号)があれば、それを捕捉すること、(a4)選択されたGNSS衛星の各々について、ターゲットGNSS信号及び追加GNSS信号を追尾すること、を含んでもよい。
【0008】
前記探索領域は、遅延時間探索範囲及び周波数探索範囲を含むことができる。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、選択されたGNSS衛星は、異なるGNSSシステムの衛星を含むことができる。また前記GNSS信号は、異なる周波数帯域のGNSS信号を含み得る。
【0010】
前記認証情報は、捕捉したGNSS信号に含まれるセキュリティコードと、GNSS信号とは別に取得された、GNSS信号の真正性を検証するための情報と、を含んでいてもよい。
【0011】
前記PVT解の計算は、少なくとも1つのセンサから位置情報を取得することを含み得る。前記少なくとも1つのセンサは、光学センサ及び慣性センサのうちの少なくとも1つを含み得、前記位置情報は、GNSS受信機の軌道を含み得る。
【0012】
GNSS受信機は、GNSS受信機出力として、最も高い真正性及び正確性を有するPVT解を出力することができる。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、本発明は、実行可能なプログラムが格納された、コンピュータにより読み取り可能な非遷移的な記録媒体として実施することができ、そのプログラムは上述のPVT解を用いてGNSSなりすまし信号を検出し除去する方法をマイクロプロセッサに実行させることができる。
【0014】
本発明は、添付の図面において、限定としてではなく例として示されており、同様の参照番号は同様の構成要素を指している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態による、GNSSなりすまし信号を検出及び除去し、PVT解を得る方法を概略的に示すブロック図である。
図2】異なるGNSSシステム(GPS、GLONASS、Galileo、BeiDou、及びQZSS)からの、現在利用可能なGNSS信号とその周波数範囲の例を示す表である。
図3】本発明の一実施形態による、捕捉及び追尾処理の詳細を示すフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態による、信号認証及び/又は削除(放棄)処理と、リスト及び捕捉されたGNSS信号の複数のセットの作成の詳細を概略的に示す図である。
図5】GNSS受信機のM個の推定位置をプロットする例を概略的かつ概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、GNSS受信機におけるGNSSなりすまし信号の検出及び除去を、推定されたPVT解と共に提供する。この発明は、このようなGNSS受信機をなりすまし攻撃から保護する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態によるGNSSなりすまし信号の検出及び除去と、PVT解の取得を行う方法を概略的に示すブロック図である。この方法は、ナビゲーション装置等のためのGNSS受信機100において実施することができる。図1における機能ブロックは、GNSS受信機100の概略的な構造に対応する。本発明を実施するGNSS受信機100は、CPU、メモリ(RAM、ROM)等を含むコンピュータとして、記載された機能ブロックを有するように構成されてもよい。これらの機能ブロックは、各々の機能を実現するソフトウェア/コンピュータプログラムによって実現されてもよいが、その一部又は全部はハードウェアによって実現されてもよい。
【0018】
GNSS受信機100は、そのアンテナ102で、複数のGNSS衛星20(20a、20b…)からのGNSS信号10(10a、10b…)を受信する。GNSS受信機100は、なりすまし装置40から偽造信号(GNSSなりすまし信号)30をも受信する。
【0019】
図2は、異なるGNSSシステム(GPS、GLONASS、Galileo、BeiDou、及びQZSS)からの、現在利用可能なGNSS信号及びそれらの周波数帯域の例を示している。各GNSSシステムは3つ以上の周波数帯域を有する。GNSS受信機100は、現在利用可能なGNSS衛星、例えば、GNSS受信機の近似的な位置及び時刻刻における視野内に存在するGNSS衛星に関する支援情報50を取得することができる。そのような支援情報は、GNSS受信機100のメモリに格納され、あるいはインターネット又は無線通信などの接続リンクを介して取得することができる。支援情報50は、基地局(サーバ)からGNSS受信機100(クライアント受信機)に送信することができる。支援情報50は、GNSS信号の周波数及びタイミング情報、各GNSS衛星からの航法データビットのシーケンス、GNSS衛星の位置を決定するためのエフェメリス情報などを含み得る。
【0020】
利用可能な支援情報50に基づいて、捕捉及び追尾すべき複数のGNSS衛星が選択される(104)。例えば、GNSS受信機100から見える全てのGNSS衛星を選択することができる。
【0021】
選択されたGNSS衛星20からの利用可能なGNSS信号10のうち、GNSS受信機100が受信可能である全ての信号を捕捉及び追尾用として受信することができる(106)。選択されたGNSS衛星20は、例えばGPS、GLONASS、Galileo、QZSSなどを含む異なるGNSSシステムからの複数の衛星を含むことができる。また、選択されたGNSS衛星20は、同じGNSSシステム、例えばGPSの複数の衛星とすることもできる。複数のGNSS信号10は、GNSS受信機100の受信帯域幅に応じて、異なる周波数帯域のGNSS信号を含んでいてもよく、あるいは全て同じ周波数帯域であってもよい。追尾に使用されるGNSS信号10は、処理の複雑さを軽減するために、異なる帯域幅のフィルタを用いて前処理することができる。
【0022】
図3は、捕捉及び追尾処理106の詳細を示している。図3に示すように、各GNSS信号10のための探索領域は、例えば支援情報50から得られた、対応するGNSS衛星及びそのGNSS信号に関する情報に基づいて決定される(302)。探索領域は、周波数遅延領域において定義されることができる。信号捕捉のために探索される周波数の範囲は、GNSS信号10の周波数情報の正確さ、GNSS受信機100の局部発振器における周波数の不確定性、ならびに他の周波数に関連した誤差及び不確定性等に基づいて決定することができる。信号捕捉のために探索されるべき遅延時間の範囲は、GNSS信号10のタイミング情報の正確さ、GNSS受信機100側の遅延時間の不確定性、及び他の時刻に関連した誤差及び不確定性等に基づいて決定することができる。周波数の探索範囲及び遅延時間の探索範囲は、GNSS衛星(ターゲットGNSS衛星)からの各GNSS信号10(ターゲットGNSS信号)の各々について、その探索領域として定義することができる。
【0023】
各探索領域は、対応するターゲットGNSS信号を捕捉するために探索される(304)。この探索は、ターゲットGNSS信号が捕捉された後も、その全領域が探索されるまで続けられるので、もしターゲットGNSS信号に対応する追加のGNSS信号が存在すれば、その追加のGNSS信号も捕捉することができる(任意の追加GNSS信号)。これは、上述のように、なりすまし装置40が偽装したGNSS信号をGNSS受信機100に送信することがあるからである。そして、選択されたGNSS衛星の各々について、捕捉されたGNSS信号を追尾する(306)。ここで、捕捉されたGNSS信号は、ターゲットGNSS信号及び任意の追加GNSS信号を含んでいる。これらのターゲット信号に対応するGNSS信号は、捕捉された時点ではその真偽が判定されていないので、候補GNSS信号と呼ぶことができる。また、所定の閾値以上のエネルギーを有するGNSS信号のみを、さらなる追尾のために選択することができる。
【0024】
図1に戻って、捕捉されたGNSS信号202の各々を、その捕捉されたGNSS信号について利用可能な認証情報60に基づいて認証することにより(108)、捕捉されたGNSS信号の各々が、真正(検証済)、未検証(疑わしい)、あるいは偽造/なりすましであるとして判定される。例えば、捕捉されたGNSS信号202のうちの1つ又は以上は、セキュリティコードをその中に含むセキュリティ強化GNSS信号であり得る。そのようなセキュリティコードは、そのシンボルの一部又は全部がなりすましをしようとする者にとって予測不可能であるように完全に暗号化されているか、又は定期的な認証コードを含んでいるかもしれない。そのようなセキュリティコードは認証情報60として他のリンクから取得することができ、そのセキュリティコードシーケンスと相関処理することにより、捕捉したGNSS信号202を検証することができる。このようなセキュリティコードは、デジタルキーとして事前に取得されてもよく、又は通信リンクなどによってリアルタイムで送信されてもよい。その他の任意の認証情報も認証処理108に使用することができる。
【0025】
図4は、図1における信号認証及び/又は削除処理(108)、信号セットの作成処理(110)、及び各信号セットのPVT計算処理(112)の詳細を示している。図4に示されるように、捕捉されたGNSS信号202には認証/検証処理402が施される。検証されたGNSS信号は「真正」信号として識別されてラベル付け(フラグ付け)され(404)、そのような検証/認証に失敗したGNSS信号は「偽造」又は「なりすまし」としてラベル付け(フラグ付け)される(406)。例えば、ターゲットGNSS信号について真正信号が探索領域内で見つかった場合、同じ探索領域内で捕捉された他のGNSS信号はターゲットGNSS信号の偽造信号とみなせるであろう。もし、捕捉されたGNSS信号が対応する検証又は認証プロセスに失敗した場合も、そのようなGNSS信号は偽造であると判断される。捕捉されたGNSS信号について、認証情報が利用可能でないか、又は認証プロセスが実行されていない場合は、捕捉されたGNSS信号は「未検証」としてラベル付け(フラグ付け)される(408)。偽造又はなりすまし信号として判定されたGNSS信号は、例えばその偽造信号の追尾を停止することによって、廃棄されるか、又はさらなる処理から除去される。
【0026】
認証及び/又は削除処理の結果として、フラグ付きGNSS信号404及び408から2つのリストが生成される。すなわち、真正GNSS信号Aiの第1のリスト410及び未検証GNSS信号Ujの第2のリスト420が生成される。生成されたリスト410及び420は、GNSS受信機100のメモリ(図示せず)に格納することができ、さらなる処理は、これらのリスト上にある真正及び未検証GNSS信号に対して実行される。
【0027】
図1に戻って、第1及び第2のリスト上のGNSS信号204(404、408)のから少なくとも4つのGNSS信号を選択することにより、複数のGNSS信号セットを作成する(110)。ここで、少なくとも4つのGNSS信号は、各信号セットが、第1のリスト410上の全てのGNSS信号(すなわち、すべての真正信号Ai)と、第2のリスト420からの少なくとも1つのGNSS信号(すなわち、少なくとも1つの未検証信号Uj)とを含むように選択される。
【0028】
例えば、4つ以上の真正GNSS信号Aiがある場合、真正信号のみを含む第1セットを作成することにより、位置、速度、及び時刻(PVT)についての真正なナビゲーション解を計算することが可能である。そのような場合、第1セットの真正信号Aiは最も信頼性の高いPVT解を生成することができるので、他の信号セットを生成することはPVT解を得るためには必要ではないかもしれない。しかし、なりすましの可能性があるために、そのようななりすまし信号を検出する目的で他のGNSS信号セット作成し、以下に記載するような方法でPVT解を計算することができる。
【0029】
真正信号Aiの数が3以下であり、残りの信号がすべて未検証(疑わしい)信号Ujである場合、複数(M個)の信号セット430が作成され(図1の112)、各信号セットについて、PVT解及びポストフィット残差440が計算される(図1の114)。
【0030】
例えば、3つの真正GNSS信号A1、A2、A3とm個の未検証GNSS信号U1、U2…Umが捕捉され追尾されている場合、各セットが3つの真正信号A1、A2、A3、及び1つの未検証信号Uj(j=1、2、…m)を含むようにすることで、m個の捕捉されたGNSS信号のセット(すなわちM=m)を作成することができる。PVT解及びポストフィット残差は、mセットのGNSS信号の各々について計算される。例えば、計算されたPVT解及びポストフィット残差からGNSS受信機100のm個の推定位置を得ることができる。このm個の推定位置を、例えば、座標平面又は東距―北距平面上にプロットして分析することにより、1つ又は以上の位置が統計的に予想される値より大きくずれていることがわかるかもしれない。その場合、大きくずれた位置に対応する信号セットにはなりすましGNSS信号が含まれていることが示唆される。
【0031】
2つの真正GNSS信号A1及びA2があり、m個の未検証GNSS信号U1、U2…Umとが捕捉され追尾されている場合、各信号セットに2つの真正信号A1及びA2、ならびに2つの未検証信号Uj及びUk(j=1、2、…m、k=1、2、…m、j<k)を含むようにすることにより、捕捉されたGNSS信号からmC2=m(m-1)/2個の信号セットを作成することが可能である。完全な分析のために、m(m-1)/2個のGNSS信号セットの各々についてPVT解及びポストフィット残差が計算され、例えばm(m-1)/2個のGNSS受信機100の推定位置及びポストフィット残差が生成される。
【0032】
信号セットの数Mは必ずしもm(m-1)/2である必要はなく、数mが大きい場合、及び/又はなりすまし信号の数が1であると仮定することができる場合には、信号セットの数Mを減らすことができる。例えば、単にm個のGNSS信号セットを生成し、各信号セットが真正GNSS信号A1及びA2、ならびに未検証GNSS信号Uj及びUk(j=1、2、…m、k=1、2、…m、ここでj<mの場合はk=j+1、j=mの場合はk=1)を含むようにしてもよい。未検証のGNSS信号Usがなりすまし信号であった場合、Usを含む2つの信号セット(j=s及びj+1=sの場合)から生成されたPVT解は、他のPVT解と比較して大きく離れることになる。なりすまし信号の決定においては、任意の統計的閾値を使用することができる。また、計算されたPVT解から未検証のGNSS信号の真正性を推定し評価するために、他の任意の統計的方法を使用することができる。
【0033】
ただ1つの真正GNSS信号A1及びm個の未検証GNSS信号U1、U2…Umが捕捉され追尾されている場合、各信号セットが真正信号A1及び3つの未検証信号Uj、Uk、及びUl(j=1,2,...m、k=1,2,...m、l=1,2,...,m,ただしj<k<l)を含むようにすることで、mC3=m(m-1)(m-2)/6個の捕捉されたGNSS信号セットを作成することが可能である。完全な分析のために、m(m-1)(m-2)/6個のGNSS信号セットの各々についてPVT解及びポストフィット残差が計算すると、例えばM=m(m-1)(m-2)/6個のGNSS受信機100の推定位置及びポストフィット残差が生成される。しかしながら、信号セットの数M、すなわち推定PVT解の数は、上記と同様の方法により、又は任意の統計的方法又は方式を使用することにより、減らすことができる。さらに、信号セット内の捕捉されたGNSS信号の数は4つに限定されず、各信号セットが5つ以上の捕捉されたGNSS信号を含む場合にも同様の統計的手法を用いることができる。
【0034】
図5は、GNSS受信機のM個の推定位置のプロットを概略的かつ概念的に示している。統計的偏差と比較した偏差の程度に基づいて、各未検証GNSS信号Ujの真正性を推定することができる。他のPVT解、すなわち速度及び時刻も計算することができ、各未検証GNSS信号Ujの真正性を位置、速度、及び/又は時刻の任意の組み合わせに基づいて推定することができる。
【0035】
さらに、図1に示されるように、少なくとも1つのセンサ70から得られる他の情報又はデータも、PVT解の計算及びポストフィット残差の計算に使用することができる。例えば、GNSS受信機の位置(座標)が計算されるとき、GNSS受信機の軌道を取得するために光学センサ及び/又は慣性センサが使用されてもよい。本発明の一実施形態によれば、座標及びポストフィット残差は、カルマンフィルタを使用して時間的に連続して計算することができる。
【0036】
最後に、各PVT解の真正性及び正確性が、GNSS信号の推定された真正性に基づいて推定される(114)。例えば、以下の情報が出力される:受信した全GNSS信号のリスト、受信されたGNSS信号の各々について検証又は推定された真正性(低い真正性はなりすまし攻撃の可能性を示す)、全ての可能なPVT解のリスト、そして各PVT解について推定された真正性及び正確性。
【0037】
さらに、最も高い真正性及び正確性を有するPVT解は、GNSS受信機出力210として出力されてもよい。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、上述の方法は、実行可能なプログラムを格納した非一時的コンピュータ可読記憶媒体として実施することができ、このプログラムがマイクロプロセッサに上述の方法を実行するように命令する。
【0039】
本発明をいくつかの好ましい実施形態によって説明してきたが、代替物、置換物、修正物、及び様々な代用物があり、それらは本発明の範囲内である。また、本発明の方法及び装置を実施する多くの代替な方法があることにも留意すべきである。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の主旨及び範囲内に含まれるものとして、そのようなすべての代替形態、置換形態、及び様々な代替均等物を含むと解釈されることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5