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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】局所注射用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/575 20060101AFI20230213BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230213BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230213BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230213BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
A61K31/575
A61K9/14
A61K47/26
A61P3/04
A61P43/00 111
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021524005
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 KR2020001686
(87)【国際公開番号】W WO2020162685
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-04-28
(31)【優先権主張番号】10-2019-0015232
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521186007
【氏名又は名称】ジェテマ・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JETEMA CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジェヨン
(72)【発明者】
【氏名】ナム,ジョンソン
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1865562(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射用水に溶解したとき、pHが7.4から7.9であり、デオキシコール酸を主成分として含む、注射用乾燥粉末製剤。
【請求項2】
賦形剤として糖または糖アルコールを含むことを特徴とする請求項1に記載の注射用乾燥粉末製剤。
【請求項3】
保存剤を含有しなくてもよいことを特徴とする請求項1に記載の注射用乾燥粉末製剤。
【請求項4】
脂肪分解の誘導または肥満関連疾患製剤の製造に用いるための請求項1~3のいずれか一項に記載の注射用乾燥粉末製剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互引用
本出願は、2019年2月8日付の大韓民国特許出願第10-2019-0015232号に基づいた優先権の利益を主張し、当該大韓民国特許出願文献に開始された全ての内容は、この明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、デオキシコール酸を含む注射用組成物に関する。具体的に、局所的に沈着した脂肪を有する者に、非手術的に痛み、むくみ、またはその他の副作用を最小化するとともに、脂肪の除去に卓越した効果のある注射剤に用いる乾燥粉末製剤の組成に関する。
【背景技術】
【0003】
[脂肪除去施術]
顔等の身体に局所的に沈着した脂肪は、美容の観点から好ましくない。例えば、二重顎や頬脂肪体があれば、顔が大きく見えやすい。
【0004】
このような局所部位の脂肪沈着は、老化、生活習慣、または遺伝的要因によって発生する。これを克服するための運動療法と食事療法が様々であるが、効果は制限的である。このため、局所脂肪の減少のための手術的療法が登場した。
【0005】
脂肪吸引術、脂肪成形術、脂肪片吸引切開術等が、外科的に広く用いられている手術的療法である。しかしながら、手術的療法は、治癒過程に数週間の時間がかかり、糖尿病患者のような特定の患者は、その治癒期間がさらに遅延され、大量出血、内臓損傷、細菌感染、傷跡、痛みのような副作用の危険性も内在しており、限界があった。
【0006】
[PPC成分の脂肪除去注射剤]
それで、手術的療法の代案として、局所脂肪減少用注射剤が台頭した。局所脂肪減少用注射剤は、脂肪細胞を分解させる成分で構成され、皮下脂肪層に薬物を注入する方式で用いられる。局所脂肪減少用注射剤の代表例としては、PPCとDCAが混合したリポスタビルがある。
【0007】
PPCは、必須リン脂質として細胞膜の主な成分である。PPCは、1988年、イタリアのセルジオ・マジオリ博士により、まぶたに黄色く脂肪が沈着する疾患である眼瞼黄色腫の治療に効果があることが報告され、1990年半ば、パトリシア・リッテス博士により、目の下の脂肪取りの際に用いてもよいことが発表されながら、局所脂肪分解施術法において脚光を浴び始めた。
【0008】
一方、注射剤として用いるときは、成分を小さな粒径で分散させなければならない。もし、可溶化されず、沈殿が形成され易い成分を注射すれば、大きな粒子が血管を塞ぎ、詰まった血管周囲の組織血流に悪影響を及ぼし、または組織に損傷や刺激を与えて、かゆみ、痛み等を引き起こし得る。ところで、PPCは、ワックスの性状の固形物質であり、水溶性の注射用水において可溶化され難い成分であった。
【0009】
ここに、PPCを10nm以下の粒径で分散させるために、DCAが可溶化剤として用いられた。DCAは、胆汁酸の一つである。
【0010】
[DCA成分の脂肪除去注射剤]
PPCとDCAが混合したリポスタビルを局所脂肪減少用とした適応外(Off-label)使用の過程において、痛み、局所的なむくみ、紅斑、硬化、感覚異常、かゆみの症状、灼熱感等の副作用がある。
【0011】
特許文献1は、PPCによる上記副作用の発生を主張し、さらには、胆汁酸塩だけでも、局所的な脂肪のエマルジョン化が可能であるとし、PPCの量を減少させまたは除去したDCAナトリウム注射剤を提案した。
【0012】
また、2015年4月頃、キーセラが、二重顎治療用注射剤として、カイベラをアメリカ食品医薬品局から承認され、現在、カイベラは、ボトックス、ナトレル、ジュビダームに引き続き、外科手術無しで、注射だけで、美容を改善することができる専門医薬品として認められ、顔面部位美容整形分野において大きな期待を受けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】大韓民国登録特許公報第1217497号
【文献】大韓民国登録特許公報第1751585号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
DCA成分の脂肪除去注射剤であるカイベラは、8.2を超えるpH環境からなっている。特許文献2は、その理由として、カイベラをアルカリ環境にした場合のDCAの沈殿現象について言及している。すなわち、特許文献2によれば、DCAは、pH7.56~8.09の範囲では、わずか4週間で沈殿が形成されるので、長期的な流通ができなければならない注射剤として用いることができず、pHを8.21~8.55に合わせなければ、沈殿に対して安定的ではないことを明らかにした。
【0015】
しかしながら、注射剤のpH及び浸透圧が、人体のpH及び浸透圧と異なると、痛みが発生するというのは、周知の常識である。すなわち、人体のpHは、通常、7.4~7.5程度であるが、注射剤のpHが8.21以上を超えると、痛みが引き起こされてしまう。しかし、カイベラは、このような事実を認知しながらも、DCAの沈殿のため痛みが引き起こされる範囲に不可避にpH環境を調整したものである。
【0016】
本発明者は、注射の痛みを低減させるように、人体のpHにさらに近接したpH環境からなる、DCA成分の注射用組成物を開発しようとした。すなわち、注射するとき、DCA成分が沈殿されずに十分に可溶化されており、pHが人体のpHに近接して、痛みが少なく、長期間の流通が可能である、注射用組成物の開発が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、以下の手段により、上述した課題を解決することができた。本発明の特徴は、DCAまたはその塩を、従来市販されていない新たな剤形である乾燥粉末製剤によって具現したという点である。
【0018】
1.DCAまたはその塩を含む注射用乾燥粉末製剤。
【0019】
2.pHが8.2以下であることを特徴とする前記1に記載の注射用乾燥粉末製剤。
【0020】
3.pHが8.0以下であることを特徴とする前記1~2に記載の注射用乾燥粉末製剤。
【0021】
4.pHが7.4~7.9であることを特徴とする前記1~3のいずれか一つに記載の注射用乾燥粉末製剤。
【0022】
5.賦形剤として糖または糖アルコールを含むことを特徴とする前記1~4のいずれか一つに記載の注射用乾燥粉末製剤。
【0023】
6.糖または糖アルコールがマンニトールであることを特徴とする前記5に記載の注射用乾燥粉末製剤。
【0024】
7.保存剤を含有しなくてもよい前記1~6のいずれか一つに記載の注射用乾燥粉末製剤。
【0025】
8.脂肪分解の誘導または肥満関連疾患製剤の製造に用いるための前記1~7のいずれか一つに記載の注射用乾燥粉末製剤の使用。
【0026】
9.脂肪分解の誘導または肥満関連疾患の治療のための前記1~7のいずれか一つに記載の注射用乾燥粉末製剤の使用。
【0027】
10.前記1~7のいずれか一つに記載の注射用乾燥粉末製剤を、治療学的に有効な量で、人間を含めた哺乳類に投与する段階を含む脂肪分解の誘導方法、若しくは肥満関連疾患の予防または治療方法。
【0028】
前記8~10の方法において、前記肥満は、局所肥満であってもよく、これに制限されるのではない。
【0029】
前記8の方法において、肥満関連疾患製剤の製造のための本発明に係る注射用乾燥粉末製剤は、許容される担体等を混合してもよく、他の作動薬をさらに追加して含んでもよい。
【0030】
前記10において、用語の治療学的に有効な量とは、肥満関連疾患の治療に有効な量であり、例えば、生物学的個体に投与される注射用乾燥粉末製剤の量として、肥満関連疾患の発生または再発を予防し、または症状を緩和させ、または直接若しくは間接的な病理学的結果を阻害させ、または転移を予防し、または進行速度を減少させ、または状態を軽減または一時的に緩和させ、または予後を改善させる注射用乾燥粉末製剤の量を全て含むことができる。すなわち、前記治療学的に有効な量は、前記注射用乾燥粉末製剤により肥満関連疾患の症状が好転しまたは完治される全ての用量を包括するものと解析され得る。
【0031】
前記肥満関連疾患の予防または治療方法は、注射用乾燥粉末製剤を投与することにより、徴候の発現前、疾病それ自体を取り扱うだけでなく、その徴候を阻害しまたは避けることをさらに含む。疾患の管理において、特定の活性成分の予防的または治療学的な用量は、疾病または状態の特質と深刻度、また活性成分が投与される経路により様々であろう。用量及び用量の頻度は、個別患者の年齢、体重及び反応に応じて様々であろう。適合した用量・用法は、この分野における通常の知識を有する者によって、このような因子を当然考慮して容易に選択され得る。また、本発明の治療方法は、注射用乾燥粉末製剤と一緒に、肥満関連疾患の治療に役立つ追加の活性製剤の治療学的に有効な量の投与をさらに含むことができる。追加の活性製剤は、注射用乾燥粉末製剤と一緒に相乗効果または相加的効果を示すことができる。
【0032】
前記人間を含めた哺乳類は、人間、サル、牛、馬、犬、猫、ウサギ、ねずみ等の哺乳類を含む。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、少なくとも製造日から30か月は安定であり、それ以上の長期間の間も貯蔵安定性に優れる。注射するために注射用水に溶解したとき、pHが8.2以下であるので、従来の製剤よりも注射時の痛みが少なく、注射用水に溶解したとき、DCAが沈殿されずに透明に溶解されている。
【0034】
また、本発明は、注射用水に溶解するとき、特別な撹拌器具がなくても、溶解速度が速く、容易に溶解されるので、使用上の不便さが少ない。
【0035】
併せて、本発明は、乾燥粉末製剤を製造するとき、ケーキが形成され易いことなど、製造上の利点も存在する。
【0036】
さらに、本発明は、特に人体に有害であり得る保存剤を含有しなくても、生物学的汚染等において許可基準上の問題とならない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】pH7.0の注射用水で、DCA原料自体(左)及び本発明に係るDCA乾燥粉末製剤(右)を溶解した結果である。上からそれぞれの写真は、溶解前、溶解10秒後、溶解30秒後を示す。
図2】pH7.8の注射用水で、DCA原料自体(左)及び本発明に係るDCA乾燥粉末製剤(右)を溶解した結果である。上からそれぞれの写真は、溶解前、溶解10秒後、溶解30秒後を示す。
図3】本発明の実施例により製造したDCA乾燥粉末製剤の性状である。左から右に順に実施例1、実施例2、実施例3に該当する。
図4】注射用水を用いて、本発明に係るDCA乾燥粉末製剤を溶解した結果である。上からそれぞれの写真は、溶解前、溶解10秒後、溶解30秒後、溶解8時間後を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
この明細書において、DCAとは、デオキシコール酸を意味し、これは、場合によって、デオキシコール酸またはその薬学的な塩を全部含む意味として解析される。
【0039】
この明細書において、PPCとは、ホスファチジルコリンを意味する。
【0040】
この明細書において、乾燥粉末製剤とは、本発明者が創案したDCAの新規な剤形であって、注射用水中での再構成に適したサイズに粉砕されている固形の製剤をいう。
【0041】
顎下の脂肪があれば、顔面が均衡及び調和が取れた外貌となり難く、実際よりも太くて老けて見られるようになる。これは、体重とは関係なく現れ、外見コンプレックスを引き起こす要因の一つとして認められ、情緒的にも悪い影響を大きく及ぼしている。よって、二重顎の改善を切望する需要者が多かったが、非外科的治療としての代案がなかった。
【0042】
以降、2015年4月頃、キーセラ(KYTHERA Biopharmaceuticals,Inc.)が、二重顎治療用注射剤のカイベラ(Kybella、コード名:ATX-101)の販売をアメリカ食品医薬品局(FDA)から承認された。カイベラは、ボトックス、ナトレル、ジュビダームに引き続き、外科手術なしで、注射だけで美容を改善することができる専門医薬品であって、顔面部位美容整形医薬品の分野において大きな期待を受けている。北アメリカで行われた第III相臨床試験によれば、ATX-101投与群の68.2%が、見た目が改善したことに同意し、20.5%が、心理的影響が減少したと答えて、ATX-101の投与により、被験者の幸福感と自尊感情が向上し、老けてまたは太っていると感じることがかなり解消したことが確認された。
【0043】
カイベラは、デオキシコール酸(DCA)を活性成分とする。DCAは、消化管内で脂肪細胞を破壊する胆汁の一形態である。本来、DCAは、脂肪を溶かす脂質成分であるホスファチジルコリン(PPC)注射において、難溶性のPPCの可溶化剤として用いられた添加剤であった。2000年代は、適応外(Off-label)使用において、PPC注射が腹部、顎下、太もも、腕等に蓄積された皮下脂肪の減少に用いられた。以後、PPC成分ではなく、PPC注射の可溶化剤として用いたDCAが、脂肪細胞(fat cells)の細胞膜を物理的に破壊して、脂肪細胞分解(adipocytolysis)を誘導することが認められることにより、キーセラが、DCAを主成分として、中等症乃至重症の、膨らんだり丸々と太ったりした顎下の脂肪を有する者における見た目を穏やかに改善するための細胞溶解剤を開発したものである。
【0044】
但し、カイベラは、副作用として注射部位の痛みが伴われることがある。これは、pHが過度にアルカリ性であるからである。
【0045】
キーセラは、1% w/v濃度のDCAが、pH8.2~8.5では、沈殿を形成することなく安定しているが、人体のpHに近いpHでは、沈殿が形成され、可溶化が困難であることが分かった。注射剤は、成分が沈殿を形成すれば、血管を塞ぎ、問題を引き起こすので、成分を均一に分散させて可溶化することが必須である。よって、キーセラは、DCAの沈殿抑制のために、pHを約8.2以上のアルカリ性の環境に構成することが避けられなかった。そのため、カイベラは、注射時に痛みを伴う製剤となってしまった。
【0046】
しかしながら、本発明者は、注射の痛みを低減することができる方案を悩んだ。すなわち、pH値を下げる方法を模索した。そして、驚くべきことに、乾燥粉末製剤でDCAを構成すれば、人体のpHに近いpHでも、沈殿を形成することなくて注射することができることを実験で明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0047】
本発明は、乾燥粉末製剤であることを特徴とする。これは、市販されていないDCAに関する新規な剤形である。本発明の注射用乾燥粉末製剤は、流通過程では、通常、粉末と称されるサイズに粉砕された固体状態であり、注射時は、注射用水に溶解して使う。本発明の粒径は、注射用水に迅速に溶解されるサイズであればよく、特に特定のサイズに制限されない。
【0048】
本発明の乾燥粉末製剤は、pHが8.2以下である。好ましくはpH8.0以下であり、より好ましくは、pH7.4~7.9である。本発明の乾燥粉末製剤は、注射するために一般の中性の注射用水に溶解すれば、pHが同様に8.2以下となり、好ましくはpHが8.0以下であり、より好ましくはpH7.4~7.9である。したがって、従来の製品よりも人体のpHに近いpHの環境をなすので、注射時、痛みがかなり低減したことを特徴とする。
【0049】
実際に、本発明者も、pH8.2以下では、DCAが沈殿を形成することを確認した。実は、原料自体が沈殿を形成する性質を有すれば、その剤形を変えることだけでは、その性質が変わらず、同様に沈殿を形成するものである。そこで、本発明者が知る限りでは、従来の技術者がDCAの剤形を変えようとする試みをしたことがないと分かっている。特に、乾燥粉末製剤で製造すれば、注射剤として使うとき、注射用水に溶解しなければならないという煩わしさが加重されるため、DCAを固形として、その剤形を変えようとする試みは一般的なものではなかった。
【0050】
しかしながら、正確な原理は分からないが、DCAの場合、pH8.2以下で、原料自体は不安定に沈殿を形成するが、乾燥粉末製剤で剤形化したものは、注射用水と再構成したとき、沈殿が形成されなかった。詳細な内容は、以下の実施例において説明する。
【0051】
本発明に係る乾燥粉末製剤は、主成分、賦形剤、及びpH調節剤を含む。もちろん、本発明の効果を阻害しない範囲内で、その他の添加剤を含んでもよい。
【0052】
本発明における主成分は、DCAまたはその塩を制限なしに用いてもよい。例えば、本発明の一具現例では、DCAを用いる。
【0053】
主成分の含量は、全体の乾燥粉末製剤の乾燥重量に対して5~50%で配合することが再構成の観点で好ましい。特に、全体の乾燥粉末製剤の乾燥重量に対して、10~20%がさらに好ましい。
【0054】
本発明において賦形剤は、特に制限されず、等張性を調節し、長期間保存安定性が保障され、注射用水と再構成するときの迅速な溶解を鑑みて、糖または糖アルコールを用いてもよい。糖または糖アルコールとしては、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、マルトース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、またはエリスリトール等が挙げられる。
【0055】
賦形剤は、全体の乾燥粉末製剤の乾燥重量に対して40~90%で配合することが、適切な乾燥粉末ケーキの形成において好ましい。特に、全体の乾燥粉末製剤の乾燥重量に対して、70~80%がさらに好ましい。
【0056】
乾燥粉末製剤は、注射用水と再構成する段階が必要である。若し、再構成段階が複雑であり、特殊な撹拌器具で長時間撹拌しなければ、透明な溶解が行われない場合であれば、実際の使用において不便さがかなり大きくなることがある。
【0057】
これと関連して、本発明に係るDCA乾燥粉末製剤は、注射用水に溶解するとき、特別な撹拌器具なしにも簡単に溶解することができるので、使用上の煩わしさが少ないが、特に、賦形剤としてマンニトールを用いれば、注射用水における溶解速度及び溶解便宜性がさらに増進された。
【0058】
併せて、マンニトールは、乾燥粉末製剤を製造するとき、ケーキの形成においてさらに有利であった。
【0059】
本発明において、pH調節剤は、pHを8.2以下とする成分であれば、特に制限されない。pH調節剤としては、例えば、塩酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酢酸、リン酸、酒石酸、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、または水酸化ナトリウム等を用いてもよい。好ましくは、水酸化ナトリウムと塩酸を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
含量は、目的とするpHの範囲によって決まる。
【0061】
本発明は、それ以外に、乾燥粉末製剤において用いるその他の添加剤を一般の含量で含んでもよい。例えば、本発明は、注射用乾燥粉末製剤においてよく用いるアミノ酸やキレート剤等の安定化剤(または界面活性剤)やプロピレングリコールのような溶解補助剤を含むことを排除しない。
【0062】
但し、本発明の乾燥粉末製剤は、別途の安定化剤や溶解補助剤を含まなくても、DCAが沈殿されず、透明に溶解されるという効果がある。すなわち、本発明では、上記した安定化剤や溶解補助剤を配合しなくても、乾燥粉末製剤を製造するとき、及び注射用水と再構成するとき、混濁せず、主成分のDCAが透明に溶解される。
【0063】
本発明は、一般に注射剤に含有される保存剤を含有しなくても、生物学的汚染等において許可基準上の問題とならない。例えば、従来製品の場合は、保存剤を必須成分として含有するが、本発明は、保存剤を含有しなくてもよいという利点がある。参考として、保存剤は過多投与すれば、人体に有害であることがよく知られており、使用を減らすことができれば減らすことが好ましい。
【0064】
本発明におけるDCAの新規な剤形である乾燥粉末製剤は、次のように製造することができる。
【0065】
先ず、注射用水に賦形剤を溶かした後、主成分のDCAを入れて懸濁させる。溶液が透明になるまで、塩基性のpH調節剤をゆっくり入れる。約pH10以上になるほどにpH調節剤を投入してもよい。完全に溶解すると、溶解したDCA溶液に酸性のpH調節剤をゆっくり添加して、pHを8.2以下に調節する。最終体積に標線をつけ、次いで、粉末の乾燥を行う。乾燥粉末は、通常の機械で常法により乾燥し、粉砕して製造することができる。
【0066】
製造した乾燥粉末製剤は、注射剤として用いるとき、注射用水に溶解させて用いればよい。注射用水は、通常の中性の滅菌注射用水を用いてもよい。市中に流通する一般の注射用水のpHは、7.0~7.8程度である。
【0067】
このとき、乾燥粉末製剤の量は、従来の製品であるカイベラと等しくしてもよい。例えば、活性成分が、身体における蓄積した脂肪の除去に効果的であると報告された0.4%w/v乃至2%w/vの濃度で配合されてもよい。好ましくは、0.5%w/v乃至1%w/vの濃度で配合してもよい。
【0068】
以下、実施例に基づき、本発明について詳述する。但し、本発明の範疇が実施例に制限して解釈されてはならないであろう。
【0069】
[実施例]
下記の表1の組成により、次のように乾燥粉末製剤を製造した(実施例1)。
【0070】
【表1】
【0071】
1.最終体積の70%の注射用水にD-マンニトールを溶かした後、デオキシコール酸を入れて懸濁させる。
【0072】
2.溶液が透明になるまで10M水酸化ナトリウムをゆっくり入れる(最終pH約10以上)。
【0073】
3.完全に溶解されたデオキシコール酸溶液に、1M塩酸をゆっくり添加して、pH7.8に調整する。
【0074】
4.最終体積(5mL)に標線をつける。
【0075】
5.粉末の乾燥を行う。実施例1は、pH7.8である。
【0076】
[沈殿実験]
DCA原料自体(比較例)と、本発明により製造したDCAの新規な剤形である乾燥粉末製剤(実施例1)とを、pH7.0及びpH7.8の注射用水に溶解させた。一般に、病院で乾燥粉末製剤を注射するために注射用水に溶解する場合と同様に、別途の器具なしで、手で簡単に撹拌した。
【0077】
その結果、図1及び図2のように、DCA原料自体は、溶解され難く、沈殿物も形成されたが、DCA乾燥粉末製剤は、30秒で十分に溶解され、沈殿物も生じなかった。類似したpH環境であるにもかかわらず、原料自体と、本発明に係る乾燥粉末製剤との溶解程度が著しく異なった。
【0078】
図1は、pH7.0の注射用水に溶解した場合であり、図2は、pH7.8の注射用水に溶解した場合であって、図1及び図2は、上からそれぞれ溶解前、溶解10秒後、溶解30秒後の写真を示すものである。
【0079】
特に、DCA乾燥粉末製剤は、pHが7.8程度であるので、pH7.0とpH7.8の注射用水に再構成するために溶解しても、pHが8.2以下を維持するようになる。従来の認識とは異なり、DCAの沈殿が発生せず、速く溶解が行われた。
【0080】
[安定性に関する実験]
下記の条件で、本発明により製造したDCAの新規な剤形である乾燥粉末製剤(実施例1)の安定性を実験した。
【0081】
【表2】
【0082】
その結果、次のように本発明による実施例1は、長期保存条件と加速条件でも、類縁物質の発生量がなく、pH変動性も殆どなかった。また、一部の固形製剤においてたまに発生する外観の変化も認められなかった。
【0083】
【表3】
【0084】
[溶解速度及び製造容易性に関する実験]
賦形剤の種類による再構成後及び製造後の外観を比較した。
【0085】
実施例1と同じ条件で製造し、単に賦形剤を乳糖(実施例2)又は果糖(実施例3)に変えた乾燥粉末製剤を製造した。
【0086】
その結果、いずれの場合も、乾燥粉末製剤が製造されたが、特に実施例1のマンニトールが、製造後、最も安定した外観を示した(図3参照)。すなわち、図3に示すように、左から順にマンニトール(実施例1)、乳糖(実施例2)、果糖(実施例3)を用いた場合であり、全て問題なく、ケーキの形成が可能であったが、特にマンニトールを用いた場合が、ケーキの形成程度が最も優秀であった。これにより、マンニトールを用いたとき、製造が最も優れていることが確認された。
【0087】
再構成時における溶解速度及び溶解後の沈殿形成の有無を確認した。
【0088】
実施例1、2及び3に、それぞれ注射用水を添加し、5秒間かき混ぜた後、経時による溶解程度を確認し、常温で8時間の間放置して、沈殿物形成の有無を観察した。
【0089】
その結果、実施例1乃至3はいずれも、30秒以内で完全に溶解され、特に、実施例1のマンニトールを用いたときが、最も迅速かつ完全に溶解されたことが確認され、実施例1、2及び3はいずれも、8時間の間沈殿が発生しなかった(図4参照)。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、DCAまたはその塩を含む注射用乾燥粉末製剤に関する。具体的に、局所的に沈着した脂肪を有する者に、非手術的に痛み、むくみ、またはその他の副作用を最小化するとともに、脂肪の除去に卓越した効果のある注射剤に用いる乾燥粉末製剤の組成に関する。
【0091】
本発明に係るDCAまたはその塩を含む注射用乾燥粉末製剤は、少なくとも製造日から30か月は安定であり、それ以上の長期間の間も貯蔵安定性に優れる。注射するために注射用水に溶解したとき、pHが8.2以下であるので、従来の製剤よりも注射時の痛みが少なく、注射用水に溶解したとき、DCAが沈殿されずに透明に溶解されている。
図1
図2
図3
図4