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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02B 75/32 20060101AFI20230213BHJP
   F16C 3/06 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
F02B75/32 A
F16C3/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022149603
(22)【出願日】2022-09-20
【審査請求日】2022-09-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508251450
【氏名又は名称】中山 善隆
(74)【代理人】
【識別番号】100157428
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 聞平
(72)【発明者】
【氏名】中山 善▲隆▼
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-027362(JP,A)
【文献】特開2008-196358(JP,A)
【文献】特開2000-080901(JP,A)
【文献】特開2008-151152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/32
F16C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を往復運動するピストンと、
一端部が前記ピストンに回転自在に連結されたコンロッドと、
前記コンロッドの他端部が連結されて、前記ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランク機構と、
前記クランク機構によって変換された回転運動による動力で回転する出力軸とを備え、
前記クランク機構は、
クランクピンを有するクランクと、
前記コンロッドの他端部に可動に連結され、且つ、前記クランクピンに回転自在に連結された可動部材と、
前記可動部材に固定された固定歯車を含み、前記固定歯車を介して前記クランクの回転力を前記可動部材に伝達することにより、前記コンロッドに対し前記可動部材を動かし、且つ、前記クランクに対し前記可動部材を回転させる伝達機構とを有し、
記可動部材として第2クランクが設けられ、前記第2クランクは、前記クランクピンに対する回転軸としての親軸と、前記コンロッドの他端部に対する回転軸としての子軸とを有し、上死点において、前記クランクの回転軸から前記第2クランクの子軸に向かって延びる直線に対し、前記コンロッドがなす角度が、90°±70°の角度範囲にあり、
前記ピストンが往復動するためのシリンダの軸心と、前記クランクピンの回転移動の中心との距離は、前記回転移動の中心と前記クランクピンの軸心との距離よりも長い、内燃機関。
【請求項2】
記クランクを第1クランクとし、
前記固定歯車は、前記第2クランクの親軸と同軸に前記第2クランクに固定され、
前記伝達機構は、前記第1クランクと前記第2クランクとが同じ回転数で且つ反対方向に回転するように前記第1クランクと前記第2クランクを係合させる、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
シリンダ内を往復運動するピストンと、
一端部が前記ピストンに回転自在に連結されたコンロッドと、
前記コンロッドの他端部が連結されて、前記ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランク機構と、
前記クランク機構によって変換された回転運動による動力で回転する出力軸とを備え、
前記クランク機構は、
クランクピンを有するクランクと、
前記コンロッドの他端部に可動に連結され、且つ、前記クランクピンに回転自在に連結された可動部材と、
前記可動部材に固定された固定歯車を含み、前記固定歯車を介して前記クランクの回転力を前記可動部材に伝達することにより、前記コンロッドに対し前記可動部材を動かし、且つ、前記クランクに対し前記可動部材を回転させる伝達機構とを有し、
前記可動部材として第2クランクが設けられ、前記第2クランクは、前記クランクピンに対する回転軸としての親軸と、前記コンロッドの他端部に対する回転軸としての子軸とを有し、上死点において、前記クランクの回転軸から前記第2クランクの子軸に向かって延びる直線に対し、前記コンロッドがなす角度が、90°±70°の角度範囲にあり、
前記クランクを第1クランクとし、
前記固定歯車は、前記第2クランクの親軸と同軸に前記第2クランクに固定され、
前記伝達機構は、前記第1クランクと前記第2クランクとが同じ回転数で且つ反対方向に回転するように前記第1クランクと前記第2クランクを係合させ、
前記伝達機構は、前記固定歯車に噛み合う歯車を含む複数の歯車を介して、エンジンブロックに固定された歯車に対し、前記第2クランクの回転トルクが伝達されるように構成され、
前記複数の歯車のうち互いに噛み合う一組の歯車は、互いに同じ回転数となるように噛み合う非円形歯車であり、
前記第2クランクの長さは、前記1クランクの長さよりも長く、
前記コンロッドの他端部の中心軸が8の字状の軌跡を描く、内燃機関。
【請求項4】
シリンダ内を往復運動するピストンと、
一端部が前記ピストンに回転自在に連結されたコンロッドと、
前記コンロッドの他端部が連結されて、前記ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランク機構と、
前記クランク機構によって変換された回転運動による動力で回転する出力軸とを備え、
前記クランク機構は、
クランクピンを有するクランクと、
前記コンロッドの他端部に可動に連結され、且つ、前記クランクピンに回転自在に連結された可動部材と、
前記可動部材に固定された固定歯車を含み、前記固定歯車を介して前記クランクの回転力を前記可動部材に伝達することにより、前記コンロッドに対し前記可動部材を動かし、且つ、前記クランクに対し前記可動部材を回転させる伝達機構とを有し、
前記可動部材として第2クランクが設けられ、前記第2クランクは、前記クランクピンに対する回転軸としての親軸と、前記コンロッドの他端部に対する回転軸としての子軸とを有し、上死点において、前記クランクの回転軸から前記第2クランクの子軸に向かって延びる直線に対し、前記コンロッドがなす角度が、90°±70°の角度範囲にあり、
前記クランクを第1クランクとし、
前記固定歯車は、前記第2クランクの親軸と同軸に前記第2クランクに固定され、
前記伝達機構は、前記第1クランクと前記第2クランクとが同じ回転数で且つ反対方向に回転するように前記第1クランクと前記第2クランクを係合させ、
前記伝達機構は、前記固定歯車に噛み合う歯車を含む複数の歯車を介して、エンジンブロックに固定された歯車に対し、前記第2クランクの回転トルクが伝達されるように構成され、
前記エンジンブロックに固定された歯車は、内歯車であり、
前記複数の歯車のうち前記内歯車に噛み合う歯車は、非円形歯車であり、
前記非円形歯車においてその回転軸から前記内歯車に噛み合う接合点までの距離の変化に応じて、前記内歯車の内周面が凹凸に波打つように形成することで、前記内歯車が前記非円形歯車に噛み合い、
前記第2クランクの長さは、前記1クランクの長さよりも長く、
前記コンロッドの他端部の中心軸が8の字状の軌跡を描く、内燃機関。
【請求項5】
シリンダ内を往復運動するピストンと、
一端部が前記ピストンに回転自在に連結されたコンロッドと、
前記コンロッドの他端部が連結されて、前記ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランク機構と、
前記クランク機構によって変換された回転運動による動力で回転する出力軸とを備え、
前記クランク機構は、
クランクピンを有するクランクと、
前記コンロッドの他端部に可動に連結され、且つ、前記クランクピンに回転自在に連結された可動部材と、
前記可動部材に固定された固定歯車を含み、前記固定歯車を介して前記クランクの回転力を前記可動部材に伝達することにより、前記コンロッドに対し前記可動部材を動かし、且つ、前記クランクに対し前記可動部材を回転させる伝達機構とを有し、
前記可動部材として第2クランクが設けられ、前記第2クランクは、前記クランクピンに対する回転軸としての親軸と、前記コンロッドの他端部に対する回転軸としての子軸とを有し、上死点において、前記クランクの回転軸から前記第2クランクの子軸に向かって延びる直線に対し、前記コンロッドがなす角度が、90°±70°の角度範囲にあり、
前記クランクを第1クランクとし、
前記固定歯車は、前記第2クランクの親軸と同軸に前記第2クランクに固定され、
前記伝達機構は、前記第1クランクと前記第2クランクとが同じ回転数で且つ反対方向に回転するように前記第1クランクと前記第2クランクを係合させ、
前記伝達機構は、前記固定歯車に噛み合う歯車を含む複数の歯車を介して、エンジンブロックに固定された歯車に対し、前記第2クランクの回転トルクが伝達されるように構成され、
前記複数の歯車のうち互いに噛み合う一組の歯車は、互いに同じ回転数となるように噛み合う非円形歯車であり、一方の歯車がエンジンブロックに固定され、
前記第2クランクの長さは、前記1クランクの長さよりも長く、
前記一方の歯車の外周のうち回転軸に対して最も遠い部位が、前記一組の歯車のうち他方の歯車の外周のうち回転軸に対して最も近い部位と噛み合う状態の前記第1クランクのクランク角は、前記ピストンが下死点における前記第1クランクのクランク角に対し、これらの両クランク角が一致する場合に比べてコンロッドの軸線とシリンダ軸との角度が小さくなる方向にずれている、内燃機関。
【請求項6】
前記固定歯車が前記可動部材に固定され、
前記クランク機構は、
前記固定歯車に噛み合い、前記第1クランクの回転軸に回転自在に支持された中央側歯車と、
前記中央側歯車に噛み合い、前記中央側歯車を挟んで前記固定歯車とは反対側の位置で、前記第1クランクの延長部材に回転自在に支持された対極歯車とを備えている、請求項に記載の内燃機関。
【請求項7】
前記シリンダ内の燃焼室において上死点手前で着火がなされる場合に、前記ピストンの上死点側への移動を補助する補助機構を備え、
前記補助機構は、
前記第1クランクの回転軸の回転トルクが伝達されてそれぞれ回転する第3クランク及び第4クランクと、
前記第3クランクのクランクピンと前記第4クランクのクランクピンとに回転自在に支持されて、前記第3クランクと前記第4クランクとを連結する連結部材と、
前記第4クランクのクランクピンに固定された第2固定歯車と、
前記第2固定歯車に噛み合い、前記連結部材に回転自在に支持された遠位側歯車と、
前記遠位側歯車と噛み合う歯車を含む複数の歯車を有し、該複数の歯車の各々が前記連結部材に回転自在に支持された中継歯車機構と、
前記中継歯車機構の複数の歯車のうち、前記第3クランク側に設けられた近位側歯車に噛み合い、前記近位側歯車を公転させると共に、自らは前記第1クランクの2倍速で回転し、エンジンブロックに回転自在に支持される2倍速歯車と、
前記第1クランクと前記第2クランクとが同じ回転数にて反対方向に回転するように、前記2倍速歯車の回転トルクを前記対極歯車に伝達させる歯車とを備えている、請求項6に記載の内燃機関。
【請求項8】
前記第2固定歯車と前記遠位側歯車とは、互いに同じ回転数となるように噛み合う非円形歯車であり、
前記第2固定歯車の外周のうち回転軸に対して最も遠い部位が、前記遠位側歯車の外周のうち回転軸に対して最も近い部位と噛み合う状態の前記第1クランクのクランク角は、前記ピストンが下死点における前記第1クランクのクランク角に対し、これらの両クランク角が一致する場合に比べてコンロッドの軸線とシリンダ軸との角度が小さくなる方向にずれている、請求項7に記載の内燃機関。
【請求項9】
前記固定歯車が前記第2クランクに前記親軸と同軸に固定されており、
前記固定歯車と同一歯数で、前記固定歯車に噛み合う第2固定歯車と、
前記第2固定歯車が固定されたクランプピンを有する第4クランクとをさらに備え、
前記クランクと前記第4クランクとは、クランク長が等しく、前記固定歯車及び前記第2固定歯車を介して係合されて、同位相で同期して回転し、
前記第4クランクの回転軸が前記出力軸により構成されている、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項10】
シリンダ内を往復運動するピストンと、
一端部が前記ピストンに回転自在に連結されたコンロッドと、
前記コンロッドの他端部が連結されて、前記ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランク機構と、
前記クランク機構によって変換された回転運動による動力で回転する出力軸とを備え、
前記クランク機構は、
クランクピンを有するクランクと、
前記コンロッドの他端部に可動に連結され、且つ、前記クランクピンに回転自在に連結された可動部材と、
前記クランクピンに固定された固定歯車を含み、前記固定歯車を介して前記クランクの回転力を前記可動部材に伝達することにより、前記コンロッドに対し前記可動部材を動かし、且つ、前記クランクに対し前記可動部材を回転させる伝達機構とを有し、
前記可動部材として前記コンロッドに対しスライド自在に連結されたスライド部材が設けられ、上死点において、前記コンロッドと前記クランクのなす角度が、90°±70°の角度範囲にある、内燃機関。
【請求項11】
記可動部材が前記コンロッドの他端部にスライド自在に連結されることで、前記コンロッドと前記可動部材は、伸縮可能な伸縮部材を構成し、
前記ピストンが上死点の手前から上死点に近づくに従って、前記クランクの回転力を利用して前記伸縮部材を伸長させる伸縮機構をさらに備えている、請求項10に記載の内燃機関。
【請求項12】
前記伸縮機構は、
前記可動部材に回転自在に支持されて、前記固定歯車と噛み合う伸縮用歯車と、
前記伸縮用歯車の回転軸と同軸の主軸と、該主軸から偏心した位置の副軸とを有し、前記伸縮用歯車の回転に伴って前記主軸を中心に回転移動する伸縮用クランクと、
前記伸縮用クランクの副軸に回転自在に支持されると共に、前記コンロッドにも回転自在に支持されて、前記伸縮用歯車の回転移動に伴って揺動して、前記可動部材に対し前記コンロッドを進退させる揺動部材とを備えている、請求項11に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシプロタイプの内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レシプロタイプの内燃機関が知られている。特許文献1の図1には、この種の内燃機関として、図における上下方向にシリンダとクランク機構が並ぶ内燃機関が記載されている。この内燃機関は、第1歯車と第2歯車と中間歯車を有する。第1歯車は、クランクジャーナルに同軸をなすように配置され、クランクケースの側に固定されている。第2歯車は、伝動媒体としての中間歯車を介して第1歯車と連動可能に接続され、クランクピンに同軸的に枢支される。第2歯車には、コンロッドの大端部を枢支する偏心ピンが固着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-27362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の内燃機関は、シリンダ軸(シリンダの軸心)と出力軸とが直線上に並ぶ。そして、ピストンが燃焼上死点のタイミングでは、ピストンピンとクランクピンと出力軸とが直線上に並び、クランクピンの運動方向は、ピストンの往復方向に直交する。そのため、燃焼圧が最大となる上死点とその直後で、出力軸の回転出力は、ゼロ又は限りなくゼロに近い。また、出力軸の回転出力が発生し始めるタイミングでは、ピストンの下降により燃焼圧は大きく低下している(例えば、1/2~1/3程度に低下している)。従来の内燃機関では、ピストンが受ける燃焼圧をクランクの出力軸に回転出力として効率的に伝達できているとは言い難い。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ピストンからクランク機構の出力軸に対しトルクを効率的に伝達することが可能な内燃機関を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するべく、第1の発明は、シリンダ内を往復運動するピストンと、一端部がピストンに回転自在に連結されたコンロッドと、コンロッドの他端部が連結されて、ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランク機構と、クランク機構によって変換された回転運動による動力で回転する出力軸とを備え、クランク機構は、クランクピンを有するクランクと、コンロッドの他端部に可動に連結され、且つ、クランクピンに回転自在に連結された可動部材と、可動部材又はクランクピンに固定された固定歯車を含み、固定歯車を介してクランクの回転力を可動部材に伝達することにより、コンロッドに対し可動部材を動かし、且つ、クランクに対し可動部材を回転させる伝達機構とを有し、固定歯車が可動部材に固定されている場合は、可動部材として第2クランクが設けられ、第2クランクは、クランクピンに対する回転軸としての親軸と、コンロッドの他端部に対する回転軸としての子軸とを有し、上死点において、クランクの回転軸から第2クランクの子軸に向かって延びる直線に対し、コンロッドがなす角度が、90°±70°の角度範囲にあり、固定歯車がクランクピンに固定されている場合は、可動部材としてコンロッドに対しスライド自在に連結されたスライド部材が設けられ、上死点において、コンロッドとクランクのなす角度が、90°±70°の角度範囲にある、内燃機関である。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、固定歯車が可動部材に固定され、クランクを第1クランクとした場合に、可動部材は、第2クランクを構成し、固定歯車は、第2クランクの親軸と同軸に第2クランクに固定され、伝達機構は、第1クランクと第2クランクとが同じ回転数で且つ反対方向に回転するように第1クランクと第2クランクを係合させる。
【0008】
第3の発明は、伝達機構は、固定歯車に噛み合う歯車を含む複数の歯車を介して、エンジンブロックに固定された歯車に対し、第2クランクの回転トルクが伝達されるように構成され、複数の歯車のうち互いに噛み合う一組の歯車は、互いに同じ回転数となるように噛み合う非円形歯車であり、第2クランクの長さは、1クランクの長さよりも長く、コンロッドの他端部の中心軸が8の字状の軌跡を描く。
【0009】
第4の発明は、第2の発明において、伝達機構は、固定歯車に噛み合う歯車を含む複数の歯車を介して、エンジンブロックに固定された歯車に対し、第2クランクの回転トルクが伝達されるように構成され、エンジンブロックに固定された歯車は、内歯車であり、複数の歯車のうち内歯車に噛み合う歯車は、非円形歯車であり、非円形歯車においてその回転軸から内歯車に噛み合う接合点までの距離の変化に応じて、内歯車の内周面が凹凸に波打つように形成することで、内歯車が非円形歯車に噛み合い、第2クランクの長さは、1クランクの長さよりも長く、コンロッドの他端部の中心軸が8の字状の軌跡を描く。
【0010】
第5の発明は、第2の発明において、伝達機構は、固定歯車に噛み合う歯車を含む複数の歯車を介して、エンジンブロックに固定された歯車に対し、第2クランクの回転トルクが伝達されるように構成され、複数の歯車のうち互いに噛み合う一組の歯車は、互いに同じ回転数となるように噛み合う非円形歯車であり、一方の歯車がエンジンブロックに固定され、第2クランクの長さは、1クランクの長さよりも長く、一方の歯車の外周のうち回転軸に対して最も遠い部位が、一組の歯車のうち他方の歯車の外周のうち回転軸に対して最も近い部位と噛み合う状態の第1クランクのクランク角は、ピストンが下死点における第1クランクのクランク角に対し、これらの両クランク角が一致する場合に比べてコンロッドの軸線とシリンダ軸との角度が小さくなる方向にずれている。
【0011】
第6の発明は、第1の発明において、固定歯車が可動部材に固定され、クランク機構は、固定歯車に噛み合い、第1クランクの回転軸に回転自在に支持された中央側歯車と、中央側歯車に噛み合い、中央側歯車を挟んで固定歯車とは反対側の位置で、第1クランクの延長部材に回転自在に支持された対極歯車とを備えている。
【0012】
第7の発明は、第6の発明において、シリンダ内の燃焼室において上死点手前で着火がなされる場合に、ピストンの上死点側への移動を補助する補助機構を備え、補助機構は、第1クランクの回転軸の回転トルクが伝達されてそれぞれ回転する第3クランク及び第4クランクと、第3クランクのクランクピンと第4クランクのクランクピンとに回転自在に支持されて、第3クランクと第4クランクとを連結する連結部材と、第4クランクのクランクピンに固定された第2固定歯車と、第2固定歯車に噛み合い、連結部材に回転自在に支持された遠位側歯車と、遠位側歯車と噛み合う歯車を含む複数の歯車を有し、該複数の歯車の各々が連結部材に回転自在に支持された中継歯車機構と、中継歯車機構の複数の歯車のうち、第3クランク側に設けられた近位側歯車に噛み合い、近位側歯車を公転させると共に、自らは第1クランクの2倍速で回転し、エンジンブロックに回転自在に支持される2倍速歯車と、第1クランクと第2クランクとが同じ回転数にて反対方向に回転するように、2倍速歯車の回転トルクを対極歯車に伝達させる歯車とを備えている。
【0013】
第8の発明は、第7の発明において、第2固定歯車と遠位側歯車とは、互いに同じ回転数となるように噛み合う非円形歯車であり、第2固定歯車の外周のうち回転軸に対して最も遠い部位が、遠位側歯車の外周のうち回転軸に対して最も近い部位と噛み合う状態の第1クランクのクランク角は、ピストンが下死点における第1クランクのクランク角に対し、これらの両クランク角が一致する場合に比べてコンロッドの軸線とシリンダ軸との角度が小さくなる方向にずれている。
【0014】
第9の発明は、第1の発明において、固定歯車が第2クランクに親軸と同軸に固定されており、固定歯車と同一歯数で、固定歯車に噛み合う第2固定歯車と、第2固定歯車が固定されたクランプピンを有する第4クランクとをさらに備え、クランクと第4クランクとは、クランク長が等しく、固定歯車及び第2固定歯車を介して係合されて、同位相で同期して回転し、第4クランクの回転軸が出力軸により構成されている。
【0015】
第10の発明は、第1の発明において、固定歯車がクランクピンに固定され、可動部材がコンロッドの他端部にスライド自在に連結されることで、コンロッドと可動部材は、伸縮可能な伸縮部材を構成し、ピストンが上死点の手前から上死点に近づくに従って、クランクの回転力を利用して伸縮部材を伸長させる伸縮機構をさらに備えている。
【0016】
第11の発明は、第10の発明において、伸縮機構は、可動部材に回転自在に支持されて、固定歯車と噛み合う伸縮用歯車と、伸縮用歯車の回転軸と同軸の主軸と、該主軸から偏心した位置の副軸とを有し、伸縮用歯車の回転に伴って主軸を中心に回転移動する伸縮用クランクと、伸縮用クランクの副軸に回転自在に支持されると共に、コンロッドにも回転自在に支持されて、伸縮用歯車の回転移動に伴って揺動して、可動部材に対しコンロッドを進退させる揺動部材とを備えている。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、固定歯車が可動部材に固定されている場合は、可動部材として第2クランクが設けられ、上死点において、クランクの回転軸から第2クランクの子軸に向かって延びる直線に対し、コンロッドがなす角度(例えば、図4(d)、図11(b)参照)が、90°±70°の角度範囲にある。この場合、従来の内燃機関に比べて、上死点におけるクランクピンの運動方向がシリンダ軸の方向に近くなる。従って、ピストンから、第1クランクへのトルクの伝達率が向上し、出力軸へのトルクの伝達率も向上する。
【0018】
なお、例えば、後述する実施形態では、ピストンが図4(d)に示す上死点の位置から図4(f)の位置に至るまでの期間に、クランクピンは約90°回転するが、ピストンの下降は小さい。そのため、この期間における内燃機関の燃焼圧の低下量は小さい。既存の内燃機関では、上死点からクランクピンが90°回転すると燃焼圧が5分の1近くに低下するところ、後述する実施形態では、上死点燃焼圧の2分の1以下とはならないため、高い燃焼圧を高伝達率にて出力軸の出力動力に変換することができる。
【0019】
また、本発明では、固定歯車がクランクピンに固定されている場合は、可動部材としてコンロッドに対しスライド自在に連結されたスライド部材が設けられ、上死点において、コンロッドとクランクのなす角度が、90°±70°の角度範囲(例えば、図23(a)の実線参照)にある。この場合も、従来の内燃機関に比べて、上死点におけるクランクピンの運動方向がシリンダ軸の方向に近くなる。従って、ピストンから、第1クランクへのトルクの伝達率が向上し、出力軸へのトルクの伝達率も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1(a)は、実施形態に係る内燃機関を出力軸の軸方向に見た概略構成図であり、図1(b)は、図1(a)とは直交する方向の側方から見た内燃機関の概略構成図である。
図2図2(a)は、実施形態に係る内燃機関における歯車の構成を説明するための概略図であり、図2(b)は、図2(a)の歯車のうち一対の偏心歯車の拡大図であり、図2(c)は、図2(b)とは別の噛み合い状態の一対の偏心歯車の拡大図である。
図3図3は、実施形態に係る内燃機関の動作のうち上死点に近づく動作を説明するための概略図である。
図4図4は、実施形態に係る内燃機関の動作のうち上死点付近の動作を説明するための概略図である。
図5図5は、実施形態に係る内燃機関の動作のうち下死点に近づく動作を説明するための概略図である。
図6図6は、大端部中心軸の軌跡の長手方向とシリンダ軸とがなす角度の変化に対する、ピストンから出力軸に伝達される仕事量の変化を表す図表である。
図7図7は、実施形態の変形例1に係る内燃機関について、図1(b)と同一方向から、内燃機関を見た概略構成図である。
図8図8は、実施形態の変形例2に係る内燃機関について、図1(b)と同一方向から、内燃機関を見た概略構成図である。
図9図9は、実施形態の変形例3に係る内燃機関について、図1(b)と同一方向から、内燃機関を見た概略構成図である。
図10図10(a)は、実施形態の変形例4に係る内燃機関を出力軸の軸方向に見た概略構成図であり、図10(b)は、図10(a)とは直交する方向の側方から見た内燃機関の概略構成図である。
図11図11は、実施形態の変形例4に係る内燃機関の動作のうち上死点付近の動作を説明するための概略図である。
図12図12は、実施形態の変形例4に係る内燃機関の動作のうち下死点に近づく動作を説明するための概略図である。
図13図13は、実施形態の変形例4に係る内燃機関の動作のうち上死点に近づく動作を説明するための概略図である。
図14図14は、実施形態の変形例4に係る内燃機関の補助機構の動作を説明するための概略図である。
図15図15は、実施形態の変形例4に係る内燃機関の第2増幅部を説明するための概略図である。
図16図16(a)は、下死点より45°進角したタイミングで第1噛み合わせ状態になる内燃機関を示す図であり図16(b)は、下死点のタイミングで第1噛み合わせ状態になる内燃機関を示す図である。
図17図17は、下死点手前45°のタイミングで第1噛み合わせ状態になる内燃機関である。
図18図18(a)は、実施形態の変形例5に係る内燃機関を出力軸の軸方向に見た概略構成図であり、図18(b)は、図18(a)とは直交する方向の側方から見た内燃機関の概略構成図である。
図19図19は、実施形態の変形例5に係る内燃機関の動作のうち上死点付近の動作を説明するための概略図である。
図20図20は、実施形態の変形例5に係る内燃機関の動作のうち下死点に近づく動作を説明するための概略図である。
図21図21は、実施形態の変形例5に係る内燃機関の動作のうち上死点に近づく動作を説明するための概略図である。
図22図22(a)は、実施形態の変形例6に係る内燃機関を出力軸の軸方向に見た概略構成図であり、図22(b)は、図22(a)とは直交する方向の側方から見た内燃機関の概略構成図である。
図23図23(a)は、実施形態の変形例6に係る内燃機関について、上死点の手前と上死点のそれぞれでのピストンの位置等を表す概略構成図であり、図23(b)は、上死点の手前での伸縮機構の状態を表す概略構成図であり、図23(c)は、上死点での伸縮機構の状態を表す概略構成図である。
図24図24(a)は、実施形態の変形例7に係る内燃機関について、上死点の手前での伸縮機構の状態を表す概略構成図であり、図24(b)は、上死点での伸縮機構の状態を表す概略構成図である。
図25図25は、実施形態の変形例8に係る内燃機関について、上死点と上死点45°後のそれぞれでのピストンの位置等を表す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0022】
各実施形態に係る内燃機関10は、レシプロタイプの単気筒又は多気筒エンジンである。内燃機関10は、例えば、自動車や船などの移動体か、固定発電機などの動力源として用いられる。以下では、単気筒内燃機関10の場合を例にして説明を行う。
【0023】
[内燃機関の構成について]
本実施形態に係る内燃機関10は、図1(a)及び図1(b)に示すように、略円筒状のシリンダ11と、シリンダ11内を往復運動する略円柱状のピストン12と、ピストン12に回転自在に連結されたコンロッド13と、コンロッド13が回転自在に連結されてピストン12の往復運動を回転運動に変換するクランク機構14と、内燃機関10の設置箇所に固定されたエンジンブロック(クランクケースを含む固定部分)16とを備えている。シリンダ11内には、ピストン12により燃焼室5が区画形成される。また、クランク機構14により変換された回転運動は、出力軸15から動力として出力される。エンジンブロック16には、出力軸15と同軸に設けられたシャフト17が固定されている。
【0024】
なお、内燃機関10における燃焼室5の天井面には、吸気弁により開閉される吸気ポートと、排気弁により開閉される排気ポートが形成されているが、図示は省略する。
【0025】
コンロッド13は、一端側に設けられた小端部13aと、他端側に設けられた大端部13bと、小端部13aと大端部13bを接続するロッド部13cとを備えている。コンロッド13では、一端側のリング状の小端部13aに、ピストン12のピストンピン12aが回転自在に挿通され、他端側のリング状の大端部13bに、後述する第2クランク22が回転自在に挿通されている。なお、本実施形態では、コンロッド13において小端部13aの軸心と大端部13bの軸心とを結ぶ軸線13Xが、シリンダ軸(シリンダ11の軸心)CAとなす角度(コンロッド13の傾斜角θb)の最大値が、90°弱となり比較的大きい(図3(a)参照)。そのため、シリンダ11のスカート部には、コンロッド13との接触を避けるための切れ込み(図示省略)を設ける。図1(a)において、小端部13aの軸心はピストンピン12aの軸心に一致し、大端部13bの軸心は第2クランク22の子軸A3(後述)に一致する。
【0026】
クランク機構14は、出力軸15と、出力軸15の軸心A1を中心に回転移動するクランクピン28を有する第1クランク21と、親軸A2及び子軸A3を有する第2クランク22とを備えている。第2クランク22は、クランクピン28に回転自在に連結され、且つ、コンロッド13の大端部13bに回転自在に連結されている。第2クランク22は、コンロッド13の他端部13bに可動に連結され、且つ、クランクピン28に回転自在に連結された可動部材に相当する。第2クランク22では、コンロッドの大端部13bが、親軸A2から離間した子軸A3を中心に回転自在に連結されている。以下では、出力軸15の径方向において、出力軸15側を「内側」、その反対側を「外側」と言う場合がある(図1(b)参照)。
【0027】
第1クランク21は、出力軸15と同軸のシャフト17に回転自在に支持されている。第1クランク21は、上述の出力軸15及びクランクピン28に加え、シャフト17とクランクピン28間を延びる第1アーム26と、出力軸15とクランクピン28間を延びる第2アーム27とを備えている。第1クランク21では、クランクピン28が、出力軸15の外側の位置で出力軸15に平行に設けられている。第1クランク21では出力軸15、第1アーム26、第2アーム27及びクランクピン28が一体化されており、シャフト17を中心に第1アーム26、第2アーム27、クランクピン28及び出力軸15が一体で回転する。
【0028】
第1アーム26は、シャフト17に垂直に設けられている。第1アーム26は、シャフト17を回転自在に支持する第1軸受部26aと、後述する第2歯車32のシャフト18を回転自在に支持する第2軸受部26bとを有する。第2軸受部26bは、第1アーム26において第1軸受部26aとクランクピン28の固定箇所との間に位置している。図1(a)において、第2歯車32のシャフト18の軸心は、シャフト17の軸心A1とクランクピン28の軸心A2とを結ぶ直線上か、或いは、これらの軸心A1,A2と三角形をなす。
【0029】
第2アーム27は、出力軸15に垂直に設けられている。第2アーム27は、クランクピン28を介して第1アーム26に一体化されている。第2アーム27は、第1アーム26と平行に設けられている。第2アーム27の内側部分は、出力軸15に一体化されている。クランクピン28は、真っすぐな棒材である。第1クランク21では、出力軸15の軸心A1から、クランクピン28の軸心A2までの距離L1が、クランク長(以下、「第1クランク長」と言う。)となる。符号21Xは、出力軸15の軸心A1とクランクピン28の軸心A2とを結ぶ直線(第1クランク21のクランク線)を表す(図1(a)参照)。
【0030】
第2クランク22は、クランクピン28を中心に偏心回転する円盤状の部品(例えば円形の板材)である。第2クランク22は、コンロッド13の大端部13bの内側に、回転自在に挿通されている(図1(a)参照)。第2クランク22では、コンロッド13の大端部13bに対する回転軸が子軸A3に相当する。子軸A3は、第2クランク22の中心に位置する。また、第2クランク22では、その中心の子軸A3から偏心した位置に、円形穴により構成されてクランクピン28が挿通されたピン軸受部22aが形成されている。第2クランク22は、ピン軸受部22aでクランクピン28に回転自在に支持される。第2クランク22では、クランクピン28に対する回転軸が親軸A2に相当する。親軸A2は、ピン軸受部22aの軸心に位置する。第2クランク22では、ピン軸受部22aの軸心(親軸)A2から第2クランク22の中心(子軸)A3までの距離L2が、クランク長(以下、「第2クランク長」と言う。)となる。符号22Xは、親軸A2と子軸A3とを結ぶ直線(第2クランク22のクランク線)を表す(図1(a)参照)。第2クランク長L2は、第1クランク長L1よりも長くてもよい。なお、第2クランク22は、第1クランク21のような門型形状に形成されてもよい。
【0031】
クランク機構14は、第2クランク22に固定されて第2クランク22の親軸A2を中心に第2クランク22と共に回転する第1歯車31と、第1クランク21に回転自在に支持されて第1歯車31と噛み合う第2歯車32と、第2歯車32に一体化されて第2歯車32と共通の回転軸を中心に回転する第3歯車33と、シャフト17に一体化されて第3歯車33と噛み合う第4歯車34とを、さらに備えている(図1(b)参照)。各歯車31~34の回転軸は、出力軸15に平行である。クランク機構14は、第1歯車31、第2歯車32、第3歯車33及び第4歯車34を介して、ピストン12のトルクを出力軸15に伝達する。本実施形態では、第2~第4歯車32~34は、第1クランク21の内側(第1アーム26と第2アーム27の間)に配置されている。
【0032】
クランク機構14は、可動部材22に固定された固定歯車31を含む複数の歯車31~34を介して、第1クランク21の回転力を可動部材22に伝達することにより、コンロッド13に対し可動部材22を動かし、且つ、第1クランク21に対し可動部材22を回転させる伝達機構に相当する。この点は、後述する変形例1等も同様である。また、伝達機構14は、第1クランク21と第2クランク22とが同じ回転数で且つ反対方向に回転するように第1クランク21と第2クランク22を係合させる。この点は、後述する変形例1-3も同様である。
【0033】
第1歯車(固定歯車)31は、第2クランク22の親軸A2と同軸に配置されて第2クランク22に一体化されている。第1歯車31は、第2クランク22とともに、クランクピン28に対し回転自在に支持されている。第1歯車31は、自転しながら出力軸15回りを公転(回転移動)する遊星歯車である。第1歯車31は、例えば円形歯車である。
【0034】
第2歯車32は、第1クランク21の第2軸受部26bに回転自在に支持されたシャフト18に固定されている。第2歯車32は、自転をしながら出力軸15回りを公転する遊星歯車である。第2歯車32は、第1歯車31と同一歯数の円形歯車である。第2歯車32は、例えば第1歯車31と同じ大きさである。第1歯車31が1回転すると、第2歯車32もちょうど1回転するように設計されている。
【0035】
第3歯車33は、シャフト18に固定されて、第2歯車32に一体化されている。第3歯車33は、第2歯車32と同様に、自転をしながら出力軸15回りを公転する遊星歯車である。
【0036】
第4歯車34は、シャフト17を介してエンジンブロックに固定された太陽外歯車である。第4歯車34の歯数は、第3歯車33の歯数と同一である。シャフト17は、エンジンブロック16に固定されており、第4歯車34は回転不能である。本実施形態では、第1歯車31に対し第2歯車32を噛み合わせ、太陽外歯車34に対し第3歯車33を噛み合わせることで、第1クランク21の角度(以下、「クランク角」と言う。)に対応する第2クランク22の角度が特定される。
【0037】
第3歯車33と第4歯車34の各々は、図2に示すように、周方向に回転軸GA1,GA2から外周までの距離が変化する非円形歯車である。第3歯車33と第4歯車34とは、第3歯車33が1回転すると、第4歯車34もちょうど1回転するように設計されている。第3歯車33及び第4歯車34の1回転中に、第3歯車33と第4歯車34とが噛み合う接合点Cから第3歯車33の回転軸GA1までの距離X1と、接合点Cから第4歯車34の回転軸GA2までの距離X2とは、それぞれ変化するが、距離X1と距離X2の合計長さは一定である。
【0038】
第3歯車33及び第4歯車34の一例について説明を行う。第3歯車33は、外周形状が略楕円形の偏心歯車である。第3歯車33の回転軸GA1は、楕円の焦点の位置にある。第4歯車34も外周形状が略楕円形の偏心歯車である。第4歯車34は、第3歯車33と同一形状である。第4歯車34の外周長は、第3歯車33の外周長に等しい。第4歯車34の回転軸GA2は、楕円の焦点の位置にある。なお、図2(b)~(c)において符号GC1は第3歯車33の中心を表し、符号GC2は第4歯車34の中心を表す。
【0039】
ここで、出力軸15及び第1クランク21が1回転すると、第4歯車34と同一歯数の第3歯車33と、第3歯車33に一体化された第2歯車32と、第2歯車32と同一歯数の第1歯車31とは、何れも1回転し、ピストン12は1往復する。その間、第1クランク21の回転速度が一定の場合でも、第3歯車33の回転速度は、距離X1と距離X2の変化に伴って変化する。そして、この変化に伴って、第2クランク22の回転速度も同様に変化する。本実施形態では、ピストン12の1往復期間に、第1クランク21の回転速度に対する第2クランク22の回転速度が変化する。これにより、第2クランク22が連結されたコンロッド13の大端部13bの回転軸(中心)A3の軌跡(「大端部中心の軌跡」と言う)Kcは、図1(a)に示すように、8の字を描く。
【0040】
また、クランクピン28がシリンダ軸CAから最も離れるタイミング(図3(a)のタイミング)では、図2(b)に示すように、第3歯車33の外周のうち回転軸GA1に対して近い側(図2(b)において符号Cの引き出し線が指す側)が、第4歯車34の外周のうち回転軸GA2に対して遠い側(図2(b)において符号Cの引き出し線が指す側)と噛み合う。第3歯車33の距離X1は、その変化範囲の中で下限側の値となり、第3歯車33の距離X2は、その変化範囲の中で上限側の値となる。このタイミングでは、ピストン12が下死点付近にあり、第3歯車33の回転速度は、ピストン12の1往復期間において相対的に大きくなり、第1クランク21の回転速度に対する第2クランク22の回転速度もこの1往復期間において相対的に大きくなる。
【0041】
一方、クランクピン28がシリンダ11軸CAに最も近づくタイミング(図4(e)のタイミング)では、図2(c)に示すように、第3歯車33の外周のうち回転軸GA1に対して遠い側(図2(c)において符号Cの引き出し線が指す側)が、第4歯車34の外周のうち回転軸GA2に対して近い側(図2(c)において符号Cの引き出し線が指す側)と噛み合う。第3歯車33の距離X1は、その変化範囲の中で上限側の値となり、第4歯車34の距離X2は、その変化範囲の中で下限側の値となる。このタイミングでは、ピストン12が上死点後45°付近にあり、第3歯車33の回転速度は、ピストン12の1往復期間において相対的に小さくなり、第1クランク21の回転速度に対する第2クランク22の回転速度もこの1往復期間において相対的に小さくなる。
【0042】
本実施形態では、ピストン12の1往復の期間に、ピストン12の上死点側で第3歯車33の回転速度が低下し、下死点側で第3歯車33の回転速度が増加するように第3歯車33と第4歯車34とが噛み合わされている。そのため、ピストン12の1往復期間に、第1クランク21の回転速度を定速とみなした場合、第1クランク21の回転速度に対する第2クランク22の回転速度が、上死点側より下死点側の方が大きくなる。
【0043】
[内燃機関の動作について]
図3図5を参照しながら、内燃機関10の動作について説明を行う。内燃機関10では、ピストン12の1往復期間に、第1クランク21及び第2クランク22がそれぞれ1回転し、コンロッド13が1往復する。図3図5では、コンロッド13、第1クランク21及び第2クランク22の各動作は、対応する直線13X,21X,22Xにより表す。なお、図3(a)~図5(i)は、内燃機関10の動作の状態について、ピストンの1往復期間をクランク角45°ピッチで示す。図3図5に記載の矢印は、第1クランク21の回転方向を表す。図3図5において、第1クランク21のクランクピン28は、出力軸15を中心とする円形の軌跡K1上を時計回りに回転移動する。また、図3図5には吸排気ポートや吸排気バルブを図示しないが、図3(a)~図5(i)に示すピストンの1往復期間には、圧縮行程から爆発行程(又は、排気工程から吸気工程)が行われるものとする。以下では、図3図5における向きにて「左」、「右」を用いる。
【0044】
図3(a)の状態では、ピストン12が下死点に位置している。クランクピン28は、出力軸15の左側に位置している。第2クランク22は子軸A3が親軸A2の左側に位置するように偏心し、大端部13bの中心A3はクランクピン28の左側に位置している。
【0045】
図3(a)の状態から第1クランク21が時計回りに移動すると、第4歯車34により第2歯車32及び第3歯車33が時計回りに回転し、この回転に伴って第1歯車31及び第2クランク22が反時計回りに回転する。これにより、コンロッド13の大端部13bが、回転軸A3を中心に反時計回りに移動しながら、シリンダ軸CAに対するコンロッド13の傾斜角θbは小さくなってゆき、ピストン12が上死点に近づいてゆく。なお、図3(a)等において円K2は、第2歯車32の軸心の移動軌跡を表す。
【0046】
そして、図3(a)の状態から第1クランク21が時計回りに135°回転した状態(図4(d)の状態)で、コンロッド13の軸線13Xが、大端部中心の軌跡Kcの接線に鉛直になり、シリンダ軸CAに対するコンロッド13の傾斜角θbはゼロになり、ピストン12が上死点に到達する。
【0047】
図4(d)の状態から第1クランク21が時計回りに45°回転すると、図4(e)に示すように、コンロッド13がシリンダ軸CAに対して右側に振れる。図4(e)の状態では、クランクピン28が出力軸15の右側に位置している。また、第2クランク22は子軸A3が親軸A2の右側に位置するように偏心し、大端部13bの中心A3はクランクピン28の右側に位置している。コンロッド13は、図3(a)の状態から図4(e)の状態までの期間は、回転軸A3を中心に反時計回りに移動する。
【0048】
図4(e)の状態から第1クランク21が時計回りにさらに回転すると、図3(a)の状態から図4(e)の状態までの期間と同様に、第2歯車32及び第3歯車33は時計回りに回転し、第1歯車31及び第2クランク22は反時計回りに回転するが、コンロッド13は、回転軸A3を中心に時計回りに移動する。
【0049】
図4(f)の状態では、コンロッド13の軸線13Xが、大端部中心の軌跡Kcの接線に鉛直になり、シリンダ軸CAに対するコンロッド13の傾斜角θbはゼロになり、そして、図4(f)の状態から第1クランク21が時計回りにさらに回転すると、コンロッド13がシリンダ軸CAに対して左側に振れる。そして、第1クランク21の回転に伴って、シリンダ軸CAに対するコンロッド13の傾斜角θbは大きくなってゆき、ピストン12は下死点に近づいてゆく。
【0050】
なお、本実施形態では、コンロッド13の軸線13Xがシリンダ軸CAに平行になるタイミング(図4(d)、図4(f)のタイミング)のコンロッド13の軸線13Xが、大端部中心の軌跡Kcに交差する位置で、軌跡Kcの接線に直交するように、軌跡Kcの形状が設計されている。
【0051】
[本実施形態の効果等]
本実施形態では、第1クランク21と第2クランク22とが同じ回転数で且つ反対方向に回転するように、第2クランク22が、歯車31~34を介して第1クランク21に係合し、第1クランク21と第2クランク22の各回転は互いに拘束される。そのため、コンロッド13に子軸A3で連結された第2クランク22と共に第1クランク21が、ピストン12の往復運動に伴って回転し、第1クランク21の回転に伴って出力軸15が回転する。本実施形態では、ピストン12の往復運動が、第1クランク21及び第2クランク22の回転運動に変換されて、各クランク21,22の回転トルクが出力軸に伝達される。
【0052】
また、本実施形態では、図1(a)の正面図においてピストン12の真下にクランク機構14が位置しておらず、シリンダ軸CAと出力軸15の軸心A1との距離が、少なくとも第1クランク長L1よりも長く、第1クランク長L1と第2クランク長L2との合計長さよりも短い。そして、クランクピン28がシリンダ軸CAから最も離れるタイミング(図3(a)のタイミング)では、大端部13bの中心A3がクランクピン28の左側に位置し、クランクピン28がシリンダ軸CAに最も近づくタイミング(図4(e)のタイミング)では、大端部13bの中心A3がクランクピン28の右側に位置する。
【0053】
そのため、コンロッド13の大端部13bの中心A3は、ピストン12が1往復する間に、図3(a)のタイミングにおける大端部13bの中心A3と、図4(e)のタイミングにおける大端部13bの中心A3とを結ぶ線が長軸となる形状の軌跡(大端部中心の軌跡)Kcを描く。大端部中心の軌跡Kcの長手方向は、ピストン12の往復方向(シリンダ軸CAの方向)に対し傾斜又は直交している。そして、この傾斜又は直交に伴って、上死点のタイミング(図4(d))における第1クランク21の回転軸A1(出力軸15の軸心A1)から第2クランク22の子軸A3に向かって延びる直線L3は、シリンダ軸CAの方向に対し傾斜又は直交する。また、上死点のタイミングにおいて、直線L3に対しコンロッド13のロッド部13cがなす角度θ(例えば、図4(d)参照)が、略90°であり、90°±70°(好ましくは、90°±50°)の角度範囲にある。
【0054】
この場合、従来の内燃機関に比べて、上死点におけるクランクピン28の運動方向がシリンダ軸CAの方向に近くなる。従って、ピストン12から、第1クランク21及び第2クランク22へのトルクの伝達率が向上し、出力軸15へのトルクの伝達率も向上する。特に本実施形態のようにθ=略90°の場合、ピストン12に対しその往復方向(運動方向)に伝達される燃焼圧のうち、第2クランク22の子軸A3が出力軸15の軸心A1を回転させる分圧が、限りなく10割に近づき、ピストン12から出力軸15に対しトルクを効率よく伝達することができる。
【0055】
なお、大端部中心の軌跡Kcの長手方向とシリンダ軸CAがなす角度のうち、ピストン12側で且つ出力軸15側の角度(図1において左上の角度θa)は、本実施形態のように45°以上の角度(θa=90°)にしてもよいが、20°<θa<160°の関係を満たせばよい。また、角度θaを90°よりもさらに大きくした場合、ピストン12から出力軸15へのトルクの伝達率は徐々に小さくなるが、ピストン12のストロークが徐々に大きくなる。そのため、ピストン12から出力軸15へのトルク伝達率は、図6に示すように、130°付近のピークまで増加し、そのピークから急に減少する。図6に基づいて設計を行う場合、角度θaは、90°以上150°以下の範囲から選択することができ、110°以上140°以下が好ましく、120°以上130°以下がさらに好ましい。
【0056】
また、本実施形態では、第1クランク長L1よりも第2クランク長L2が長い。そのため、図4(d)から図4(f)までの期間では、ピストン12が上死点からほとんど離れておらず、上死点のクランクピン28の位置から第1クランク21が90°進む期間(図4(d)から図4(f)までの期間)は、第1クランク21のクランク角の変化量に対するピストン12の移動量が小さい。従って、ピストン12に作用する燃焼圧が大きい上死点直後の燃焼圧低下の抑制により、出力軸15の回転運動に変換できる動力が多くなる。本実施形態によれば、第2クランク22が無いエンジンよりも少ない排気量で、多くの動力を出すことができる。なお、ピストン12のストロークに対し、上死点直後におけるピストン12の移動量が小さいほど、定量燃料に対する出力量は大きくなる。
【0057】
また、本実施形態では、角度θaが90°であり、下死点における角度θb(図3(a)参照)は90°に近い値となり、ピストン12が下死点から上死点に向かい始める時に、シリンダ11に対しピストン12が直角に押す大きな分圧が発生する。しかし、大端部中心の軌跡Kcが8の字を描くように構成されている。そのため、ピストン12が下死点から上死点に向かい始める時に、コンロッド13の大端部13bの中心が、ピストンピン12a及び小端部13aを中心に反時計回りに大きく回転し(図3(a)~(b))、尚且つピストン12が下死点から上死点に向かい始める移動距離は少なく、角度θbを減少させるように、大端部中心の軌跡Kcが描かれ始め、上述の分圧が小さくなる。従って、シリンダ11とピストン12が受けるダメージを低減することができる。なお、大端部中心の軌跡Kcを8の字状とする以外に、コンロッド13を長くしたり、角度θaを90°よりも大きくしたりすることによっても、シリンダ11とピストン12が受けるダメージを低減することができる。
【0058】
なお、本実施形態では、第3歯車33と第4歯車34に非円形歯車を用いたが、円形歯車を用いてもよい。円形歯車の第3歯車33と第4歯車34の各々では、中心に回転軸がある。この場合、大端部中心の軌跡Kcの形状は、本実施形態とは異なり8の字状にはならないが、8の字状に起因する効果以外の効果は、本実施形態と同様に得られる。
【0059】
本実施形態において、内燃機関10に接続された2次熱機関を設けてもよい。この場合に、内燃機関10の燃焼室5と2次熱機関の燃焼室とをつなぐ接続経路に、制御弁を設ける。制御弁は、ピストン12からクランクピン28及び出力軸15に動力を効率的に伝達できる期間(例えば、上死点+45°までの期間)が終わって、動力伝達効率が低下し始める時に、開弁するように制御される。内燃機関10では、上述の動力を効率的に伝達できる期間の終了時に、動力が出力軸15に十分に伝達されているにも拘わらず、燃焼室5は高圧状態である。この変形例は、その高圧を2次熱機関で有効利用するものである。2次熱機関は、燃料を燃焼させることなく、内燃機関10から供給された高圧ガスを2サイクルとして利用する。また、本段落の2次熱機関は、後述する変形例に係る内燃機関10でも利用することができる。
【0060】
<実施形態の変形例1>
本変形例は、上述の実施形態の変形例である。本変形例では、クランク機構14における歯車の配置が、上述の実施形態とは異なる。以下では、実施形態とは異なる点を中心に説明を行う。
【0061】
本変形例では、図7に示すように、第1クランク21の回転範囲外に、第2歯車32と共通のシャフト18に固定された第3歯車33と、第3歯車33と噛み合う第4歯車34とが配置されている。第4歯車34は、エンジンブロック16に固定されている。また、エンジンブロック16内には、シャフト17を回転自在に支持する軸受部16aが設けられている。本変形例では、シャフト17も出力軸として機能するため、本変形例に係る内燃機関10を多気筒エンジンに利用することができる。
【0062】
<実施形態の変形例2>
本変形例は、上述の実施形態の変形例である。本変形例では、クランク機構14における歯車の配置及び個数が、上述の実施形態とは異なる。以下では、実施形態とは異なる点を中心に説明を行う。
【0063】
本変形例では、図8に示すように、第2歯車32と第3歯車33とが、シャフト17に回転自在に支持されている。シャフト17は、第1アーム26と一体化されて、出力軸15と一体で回転する。また、第3歯車33に噛み合う第4歯車34が、第1クランク21のクランクピン28に回転自在に支持されている。
【0064】
また、クランク機構14は、第4歯車34に一体化されてクランクピン28に回転自在に支持された第5歯車35と、第5歯車35に噛み合う第6歯車36とをさらに備えている。第6歯車36は、筒体の内周面に歯が形成された太陽内歯車である。第6歯車36は、クランクピン28の回転外の位置に配置されて、エンジンブロック16に固定されている。
【0065】
クランク機構14は、固定歯車31を含む複数の歯車31~36を介して、第1クランク21の回転力を可動部材22に伝達することにより、コンロッド13に対し可動部材22を動かし、且つ、第1クランク21に対し可動部材22を回転させる伝達機構に相当する。この点は、変形例3も同様である。
【0066】
第5歯車35は、第1クランク21の回転数の自然数倍(例えば、2倍又は3倍)の回転数で回転する非円形歯車である。第5歯車35においてその回転軸から第6歯車36に噛み合う接合点までの距離の変化に応じて、第6歯車36の内周面が凹凸に波打つように形成することで、第6歯車36は第5歯車35に噛み合う。
【0067】
また、本変形例では、第3歯車33に対する第4歯車34のギア比と、第6歯車36に対する第5歯車35のギア比とが等しくなるように設計されている。そのため、第1クランク21と第2クランク22とは、エンジンブロック16に対して同一回転数で、互いに反対方向に回転する。例えば、第1クランク21と第2クランク22とは、ピストン12の1往復期間に1回転する。
【0068】
<実施形態の変形例3>
本変形例は、上述の実施形態の変形例である。本変形例では、第4歯車34と第5歯車35が、変形例2と同様に第1クランク21に回転自在に支持されているが、変形例2とは第1クランク21において支持されている箇所が異なる。
【0069】
本変形例では、図9に示すように、第1アーム26が、シャフト17とクランクピン28の間に形成された第1軸受部26aと、クランクピン28よりも外側に形成された第2軸受部26bとを有する。第1軸受部26aは、第2歯車32と第3歯車33に共通のシャフト18を回転自在に支持している。第2軸受部26bは、第4歯車34と第5歯車35に共通のシャフト19を回転自在に支持している。
【0070】
第5歯車35は、変形例2と同様に、第1クランク21の回転数の自然数倍(例えば、2倍又は3倍)の回転数で回転する非円形歯車である。第6歯車36は、クランクピン28の回転外の位置に配置された太陽内歯車である。第5歯車35においてその回転軸から第6歯車36に噛み合う接合点までの距離の変化に応じて、第6歯車36の内周面が凹凸に波打つように形成することで、第6歯車36は第5歯車35に噛み合う。
【0071】
また、変形例2と同様に、第3歯車33に対する第4歯車34のギア比と、第6歯車36に対する第5歯車35のギア比とが等しくなるように設計されている。そのため、第1クランク21と第2クランク22とは、エンジンブロック16に対して同一回転数で、互いに反対方向に回転する。例えば、第1クランク21と第2クランク22とは、ピストン12の1往復期間に1回転する。
【0072】
<実施形態の変形例4>
本変形例は、上述の実施形態の変形例である。本変形例は、ピストン12が上死点に達する前に燃焼室5で着火がなされる場合(以下、「上死点前着火」と言う場合がある。)に、ピストン12の上死点側への移動を補助する力が得られるように構成されている。なお、上死点前着火の場合、ピストン12が着火時点から上死点に至るまでの間、ピストン12には、移動方向とは反対方向に燃焼圧が作用する。
【0073】
本変形例に係る内燃機関100は、図10に示すように、略円筒状のシリンダ11と、シリンダ11内を往復運動する略円柱状のピストン12と、ピストン12に回転自在に連結されたコンロッド13と、コンロッド13の他端部が回転自在に連結されてピストン12の往復運動を回転運動に変換するクランク機構91と、上死点前着火の場合にピストン12の上死点側への移動を補助する補助機構92とを備えている。なお、本変形例では、後述するように一部の歯車に非円形の歯車が使用される。
【0074】
クランク機構91は、第1クランクピン128を有する第1クランク101と、親軸A2及び子軸A3を有する第2クランク(可動部材)102とを備えている。第2クランク102は、図10(b)に示すように門型形状のクランクである。第2クランク102は、第1クランクピン128に回転自在に連結され、コンロッド13の大端部(他端部)13bに回転自在に連結されている。第1クランクピン128に対する回転軸が親軸A2に相当し、コンロッド13の大端部13bに対する回転軸が子軸A3に相当する。親軸A2は、第1クランクピン128を回転自在に支持するピン軸受部102aの軸心に位置する。子軸A3は、大端部13bの中心に位置する。ピストン12の往復運動は、第1及び第2クランク101,102の回転運動に変換される。また、クランク機構91は、第1固定歯車131、歯車(中央側歯車)118、歯車部117及び歯車部116を有する伝達機構191をさらに備えている。なお、本変形例では、複数の歯車により構成された部分を「歯車部」と言う。歯車部には2段歯車などを用いることができる。
【0075】
伝達機構191は、歯車116-118,131を介して第1クランク101の回転力を可動部材102に伝達することにより、コンロッド13に対し可動部材102を動かし、且つ、第1クランク101に対し可動部材102を回転させる。また、伝達機構191は、第1クランク101と第2クランク102とが同じ回転数で且つ反対方向に回転するように第1クランク101と第2クランク102を係合させる。
【0076】
第1固定歯車131は、第2クランク102の親軸A2と同軸に第2クランク102に固定されている。第1固定歯車131は、第1クランク101の一端(図10(b)において上端)から延びる第1クランク101の第1クランクピン128に回転自在に支持され、第1クランク101の回転に従って回転移動するように第1クランク101に係合している。
【0077】
歯車118は、第1クランク101の第1回転軸141に回転自在に支持され、第1固定歯車131に噛み合う。歯車118は、第1クランク101の2本のクランクアームの内側(第1クランク101の回転範囲内)に配置されている(図10(b)参照)。歯車部117は、第1回転軸141から第1クランク101とは反対方向に延びる延長部材105に回転自在に支持され、歯車118に噛み合う歯車117aと、後述する歯車116aに噛み合う歯車117bとを備えている。歯車117aは、歯車118を挟んで第1固定歯車131とは反対側の位置で、第1クランク101に一体化された延長部材105に回転自在に支持された対極歯車に相当する。歯車117aと歯車117bとは、互いに同軸に設けられ、延長部材105に回転自在に支持されたシャフトを介して一体化されている。歯車部117は、第1固定歯車131と同様に、第1クランク101の回転に従って回転移動するように第1クランク101に係合している。本変形例では、第1クランク101及び第2クランク102が同じ回転数で且つ反対方向に回転するように、第1固定歯車131が、歯車118、歯車部117及び延長部材105を介して第1クランク101に係合し、第1クランク101と第2クランク102の各回転は互いに拘束される。なお、図10(a)などにおいて、符号101Xは、第1回転軸141の軸心A1と第1クランクピン128の軸心A2とを結ぶ直線(第1クランク101のクランク線)を表し、符号102Xは、親軸A2と子軸A3とを結ぶ直線(第2クランク102のクランク線)を表し、符号105Xは、第1回転軸141の軸心A1と歯車部117の回転軸とを結ぶ直線を表す。また、図10(b)では歯車同士の噛み合い箇所をギザギザ線で表している。
【0078】
歯車部116は、第1クランク101の2本のクランクアームの外側(第1クランクの回転範囲外)に配置されている。歯車部116は、第1クランク101と後述する第3クランク103との間で、第1回転軸141に回転自在に支持されている。歯車部116は、歯車117bに噛み合う歯車116aと、歯車116aと一体化された歯車116bとを備えている。歯車116aと歯車116bとは、互いに同軸に設けられている。歯車部116には、歯車118及び歯車部117を介して、第1固定歯車131の回転トルクが伝達される。
【0079】
クランク機構91では、歯車部116が、第1クランク101の2倍速にて同じ方向に回転する。歯車117は、第1クランク101の回転範囲外の歯車部116から、回転範囲内の歯車118へ動力を伝達する中継歯車として機能する。歯車118は、中継歯車117を介して歯車116と同じ回転数かつ同じ方向に回転する。第1固定歯車131は、歯車118と同じ径で同一歯数の歯車であり、歯車118とは反対方向に回転する。これらの構成により、クランク機構91は、エンジンブロック16に対して第1クランク101及び第2クランク102を、同じ回転数かつ反対方向に回転させて、一体のクランクとして機能させる。本変形例のクランク機構91は、上述の実施形態のようにエンジンブロック16に固定した太陽歯車を使うことなく、第1クランク101及び第2クランク102を一体のクランクとして機能させる。
【0080】
また、クランク機構91は、第1回転軸141に固定された第1伝達歯車120と、出力軸15に固定された第2伝達歯車121とを備えている。第1伝達歯車120と第2伝達歯車121とは互いに噛み合う。これにより、第1クランク101の回転トルクが、第1伝達歯車120及び第2伝達歯車121を介して、出力軸15に伝達される。なお、第1回転軸141及び出力軸15は、エンジンブロック16に回転自在にそれぞれ支持されている。
【0081】
補助機構92は、第1回転軸141の回転トルクが伝達されてそれぞれ回転する第3クランク103及び第4クランク104を備えている。本実施形態では、第3クランク103が、第1回転軸141に固定されている。第4クランク104には、第4クランク104の第4クランクピン104aと同軸に、第2固定歯車132が固定されている。第2固定歯車132は、第4クランク104の回転軸142を中心に公転する。
【0082】
第4クランク104は、複数の歯車120~122を介して第1回転軸141の回転トルクが伝達される。歯車122は、歯車120と同じ径で同一歯数であり、第2回転軸142に固定されている。第3クランク103のクランク長(第1回転軸141の軸心A1から第3クランクピン103aの軸心までの距離)は、第4クランク104のクランク長(第2回転軸142の軸心A4から第4クランクピン104aの軸心までの距離)に等しい(図10(b)参照)。なお、第2回転軸142は、エンジンブロック16に回転自在に支持されている。図10(a)などにおいて、符号103Xは、第1回転軸141の軸心A1と第3クランクピン103aの軸心とを結ぶ直線(第3クランク103のクランク線)を表し、符号104Xは、第2回転軸142の軸心A4と第4クランクピン104aの軸心とを結ぶ直線(第4クランク104のクランク線)を表す。
【0083】
補助機構92は、第1クランク101(或いは、第3クランク103、第4クランク104)の回転速度に対し2倍速の回転速度を持つ歯車部114と、歯車部114に対してクランク機構91の歯車部116を接続する歯車115をさらに備えている。歯車115は、エンジンブロック16に回転自在に支持され、歯車116bに噛み合う。歯車部114は、歯車115に噛み合う歯車114aと、エンジンブロック16に回転自在に支持されたシャフトを介して歯車114aと一体化された歯車114bとを備えている。歯車114aと歯車114bとは、互いに同軸に設けられている。歯車114bは、近位側歯車に相当する歯車113aと噛み合い、歯車113aを公転させる2倍速歯車に相当する。歯車114bは、複数の歯車を介して第1固定歯車131と繋がっており、第1固定歯車131と同じ回転数で、且つ、第1固定歯車131とは反対方向に回転する。歯車115は、歯車114a、歯車部116及び歯車117bと共に、第1クランク101と第2クランク102とが同じ回転数にて反対方向に回転するように、2倍速歯車に相当する歯車114bの回転トルクを対極歯車117aに伝達させる歯車を構成している。
【0084】
補助機構92は、第3クランク103と第4クランク104とを連結する連結ロッド(連結部材)130と、連結ロッド130に回転自在に支持されて第2固定歯車132に噛み合う歯車111(遠位側歯車)と、歯車111の回転トルクを第1クランク101側に伝達させる中継歯車機構140とをさらに備えている。連結ロッド130は、第3クランク103の第3クランクピン103aと第4クランク104の第4クランクピン104aとの各々に回転自在に支持されている。第3クランク103と第4クランク104は、回転角度位置が常に同じになる。歯車111は、連結ロッド130に回転自在に支持され、後述する歯車112及び第2固定歯車132にそれぞれ噛み合う。なお、図10(a)などにおいて、符号130Xは、第3クランクピン103aの軸心と第4クランクピン104aの軸心とを結ぶ直線(連結ロッド130の軸線)を表す。
【0085】
中継歯車機構140は、クランク機構91の歯車114bに噛み合う歯車部113と、歯車部113と歯車111にそれぞれ噛み合う歯車112とを備えている。歯車部113は、歯車114bに噛み合う歯車113aと、連結ロッド130に回転自在に支持されたシャフトを介して歯車113aと一体化された歯車113bとを備えている。歯車113aと歯車113bとは、互いに同軸に設けられている。歯車113aは、歯車114bと同じ径で同一歯数である。また、歯車113aの回転軸と歯車114bの回転軸の距離は、第3クランク103(或いは第4クランク104)の半径に等しい。歯車113bは、第2固定歯車132と同一歯数である。歯車部113は、連結ロッド130の移動に伴って、歯車部114の回転軸を中心にして第3クランク103(或いは第4クランク104)と同じ方向に公転しながら、公転方向とは反対方向に自転する。歯車部114と歯車部113の回転数の比率は、2:1となる。歯車部114は、歯車部113の公転と自転の合算により、第3クランク103(或いは第4クランク104)の回転速度(歯車部113の公転速度)の2倍の速度で回転する。
【0086】
歯車112は、連結ロッド130に回転自在に支持され、歯車111と歯車113bに噛み合う。これらの構成により、補助機構92は、第2固定歯車132の公転によって歯車111に回転力を発生させてその回転力を第2クランク102側に伝達させる。歯車111における回転力の発生は、公転する第2固定歯車132に遊星歯車の様に噛み合うことで発生する。また歯車111は、連結ロッド130の移動に伴って第2固定歯車132と共に公転すると共に、第2固定歯車132が1回公転すると1回自転する。
【0087】
[内燃機構の動作について]
図11図13を参照しながら、内燃機関100の動作について説明を行う。内燃機関100では、ピストン12の1往復期間に、第1-4クランク101~104がそれぞれ1回転し、コンロッド13が1往復する。図11図13では、コンロッド13、第1クランク101、第2クランク102、第3クランク103、第4クランク104、延長部材105及び連結ロッド130の各動作は、対応する直線13X,101X,102X,103X,104X,105X,130Xにより表す。その際、第1クランク101に連結された歯車120の回転トルクが、歯車121を介して出力軸15に伝達される。なお、図11図13は、内燃機関100の動作の状態について、ピストンの1往復期間をクランク角45°ピッチで示す。図11図13に記載の矢印は、各クランク或いは各歯車の回転方向、又は、コンロッド或いはピストンの移動方向を表す。また、図11図13には吸排気ポートや吸排気バルブを図示しないが、図11(a)~図13(i)に示すピストンの1往復期間には、圧縮行程から爆発行程(又は、排気工程から吸気工程)が行われるものとする。
【0088】
<<第1-2クランク、コンロッド、ピストンの動作>>
図11(a)は、上死点前45°の着火点のタイミングにおける内燃機関100の状態を表す。上述したように、本変形例では、燃焼室5において上死点の手前で着火される。この状態から第1クランク101が時計回りに回転すると、第1固定歯車131が公転(回転移動)し、その公転に伴って第2クランク102が反時計回りに回転する。これにより、コンロッド13の大端部13bが子軸A3を中心に反時計回りに移動しながら、ピストン12が上死点に近づいてゆく。なお、図11図13では、図11(a)及び図13(g)を除き、クランク角45°手前のピストン12を破線で表している。
【0089】
図11(b)は、ピストン12が上死点に位置する状態を表す。この状態から第1クランク101が時計回りに回転すると、第2クランク102は反時計回りに回転し続けるが、コンロッド13の大端部13bは、図11(b)のタイミング付近で、移動方向が切り替わり、子軸A3を中心に時計回りに回転し始める。ピストン12は、図11(b)の状態から図12(f)の状態まで、下死点に近づいてゆく。図12(f)は、ピストン12が下死点に位置する状態を表す。そして、コンロッド13の大端部13bは、図12(f)のタイミング付近で、移動方向が切り替わり、子軸A3を中心に反時計回りに移動し始め、ピストン12が上死点に近づいてゆく。
【0090】
なお、第1クランク101の一端側から延びる第1クランクピン128は、第2クランク102に固定された第1固定歯車131の内側に挿通されているため、第1クランク101及び第2クランク102は、伝達機構191により、互いの回転トルクと回転タイミングが作用し合う関係にあり、第1クランク101及び第2クランク102は、同期して回転する。そして、第1クランク101の回転軸A1から第2クランク102の子軸A3に向かって延びる直線L3に対し、コンロッド13のロッド部13cがなす角度θ(図11(b)参照)が、上死点において、90°±70°の角度範囲(好ましくは、90°±45°の角度範囲)にあることで、ピストン12から第1クランク101の回転軸に対しトルクを効率よく伝達することができ、それにより出力軸15に対してもトルクを効率よく伝達することができる。なお、図11(b)では、上死点において、コンロッド13の大端部13bの中心とピストンピン12aを結ぶ線が、シリンダ中心軸CAと一致しているが、必ずしも一致するとは限らない。
【0091】
<<第3-第4クランクの動作>>
第3クランク103は、第1クランク101と同じ回転軸141に連結されているため(図10(b)参照)、第1クランク101と同じ方向に同じ回転数で回転する。つまり、第3クランク103は、図11図13において時計回りに回転する。
【0092】
他方、第4クランク104には、第1クランク101に連結された歯車120の回転トルクが歯車121及び歯車122を介して伝達される。そして、歯車120と歯車122は、歯数が互いに等しい。そのため、第4クランク104も、第1クランク101と同じ方向に同じ回転数で回転する。つまり、第4クランク104は、図11図13において時計回りに回転する。
【0093】
第3クランク103及び第4クランク104の回転に伴って、両方のクランクピン103a,104a(図10(b)参照)に相対的に同じ位相位置関係に、回転自在に連結された連結ロッド130は回転移動する。第3クランク103及び第4クランク104は、連結ロッド130で連結されているため、互いの回転トルクと回転タイミングが同期し合う関係にある。
【0094】
<<補助機構の動作>>
上述したように、上死点前着火の場合、ピストン12が着火時点から上死点に至るまでの間、ピストン12には、移動方向とは反対方向に燃焼圧が作用する。補助機構92は、ピストン12の往復運動を妨げる上死点前着火による燃焼圧を、ピストン12の上死点側への移動を補助する力に変換する機構である。
【0095】
図14は、上死点手前で着火がなされた状態(図11(a)と図11(b)の間の状態)を表す。着火後燃焼圧が発生し、上死点に向かうピストン12は、燃焼圧により下死点側に押される。ピストン12には、燃焼圧に起因して、移動方向とは反対方向の力P1(以下、「移動抵抗力」と言う)が作用する。
【0096】
着火時から上死点到達時までのコンロッド13は、移動抵抗力P1により矢印Yの方向に力を受ける。そして、第2クランク102は、その回転方向R2とは反対方向(以下、「反回転方向」と言う。)に力を受ける。すなわち、移動抵抗力P1は、第2クランク102のクランク線102Xを、親軸A2を中心として回転方向R2とは反対方向に回そうとする。第2クランク102には第1固定歯車131が一体化されているため、移動抵抗力P1は、第1固定歯車131、歯車118、歯車117a,117b、歯車116a,116b、歯車115、歯車114a,114b、歯車113a,113b及び歯車112を介して、歯車111に伝達される。この時、移動抵抗力P1は、歯車118、歯車116a,116b、歯車114a,114b及び歯車112を反時計回りに回転させようとし、歯車117a,117b、歯車115、歯車113a,113b、歯車111を時計回りに回転させようとする。本変形例では、時計回りに第1固定歯車131を回転させようとする燃焼圧が、第2固定歯車の132の手前の歯車111が時計回りに回転するように伝達される。なお、図14において、各歯車に付された矢印は、移動抵抗力P1が回転させようとする方向を表す。
【0097】
図14の場合、移動抵抗力P1による矢印Yの方向の力は、歯車111と第2固定歯車132との噛み合い点Bでは、矢印Zの方向に力が作用して、第4クランク104を時計回り、つまりエンジン(内燃機関)の回転方向に回転させようとする。その結果、連結ロッド130と歯車120~122を介して、第3クランク103及び第1クランク101も、エンジンの回転方向に力を受けることになり、上死点方向にピストン12を押し上げる力となる。そのため、ピストン12は、上死点に到達するまで燃焼圧を受けるものの、ノッキングが生じることなく、出力を発生させながら円滑に上死点を乗り越える。
【0098】
ここで、第3クランク103の回転軸(第1回転軸141の軸心A1)と第4クランク104の回転軸(第2回転軸142の軸心A4)とを結ぶ直線G(図14参照)に対し、第4クランク104の回転軸A4において垂直に交差する線を「基準線S」とした場合に、噛み合い点Bが、第3クランク103側から見て基準線Sを超えた位置にある第1期間(図13(i)の直後の状態から図12(e)の直前の状態までの期間)は、移動抵抗力P1による噛み合い点Bにおける力の作用方向(矢印Zの方向)は、第4クランク104をエンジンの実際の回転方向に回転させようとする方向である(図14参照)。つまり、補助機構92は、ピストン12の上死点側への移動を補助する機構として働く。それに対し、噛み合い点Bが基準線S上にある時は、補助機構92としての働きはなされず、噛み合い点Bが基準線Sと第3クランク103の間にある第2期間(図12(e)の直前状態から図13(i)の直後の状態までの期間)は、第4クランク104の回転を妨げる方向にトルクが働く。しかし、第2期間は、下死点に向かうピストン12に対し移動抵抗力P1が作用するものの、燃焼室5において排気弁が開いており、移動抵抗力P1は極めて小さくキャンセルされる。従って、移動抵抗力P1による影響は軽微であり、ピストン12は円滑に往復運動を行う。
【0099】
また、本変形例では、補助機構92などにより第2クランク102から第4クランク104に伝達されるトルクが、第1増幅部として、「第2クランク102の半径を歯車111の半径により除した値」に比例して増幅される。また、第2クランク102から第4クランク104に伝達されるトルクは、第2増幅部として、「基準線Sと噛み合い点Bとの距離h2(図15(a)参照)を歯車111の半径h1により除した値」に比例して増幅される。第2増幅部は、第4クランク104の回転に伴う距離h2の変化に伴って、増幅率が変化する。第2増幅部の増幅率は、連結ロッド30が第4クランク104の軸上を通る状態(図15(a)の状態)で最大となる。なお、第4クランク104の直径に対する、歯車111及び第2固定歯車132の直径の比率を小さくすることで、第2増幅部の増幅率を大きくすることができる。図15(a)の増幅率は2である。図15(b)の増幅率は1である。第2クランク102から第4クランク104までの合計増幅率は、上死点手前においては第2増幅率と第1増幅率との差になり、上死点以降においては第1増幅率と第2増幅率との和となる。なお、図15では、便宜的に歯車112などの記載を省略している。
【0100】
本変形例では、上死点に対し数十度手前における着火燃焼においても、次の式1に示す値Xがゼロ以上の時に、ピストン12が上死点を乗り越えるまでピストン12を押し上げる。その時にも、内燃機関100において動力が発生する。
式1:X=RT2-RT1
RT1:第1回転軸141(A1)(図10参照)を支点として子軸A3に受ける燃焼圧による、上述の一体のクランクとしての回転トルク
RT2:T2×(h2÷h1)×(L2÷h1)
T2:親軸A2を支点として子軸A3に受ける燃焼圧による第2クランク102の回転トルク
h1:歯車111の半径
h2:基準線Sと噛み合い点Bとの距離
L2:第2クランク102のクランク長
【0101】
なお、本変形例について、第2固定歯車132~歯車113bまでを同径とする構成1、歯車114aと歯車116bを同径とする構成2、又は、歯車116a~歯車117bを同径とする構成3とした場合に、構成1~3の何れか1つを選択してもよく、そして、選択した構成において、互いに噛み合う各歯車に非円形の歯車を用いてもよい。
【0102】
<<コンロッドの大端部の回転軸の軌跡>>
本変形例では、上述の構成1を構成する第2固定歯車132、歯車111、歯車112、及び歯車113bの各回転軸が、自身の中心に対し偏心している。歯車111、歯車112、及び歯車113bは、偏心回転する。なお、本変形例では、これらの歯車111~113b,132に非円形の歯車を用いてもよい。互いに噛み合う非円形の歯車としては、図2(b)と同じ構成を用いることができる。
【0103】
これらの歯車111~113,132の噛み合せについて、下死点側で、第2固定歯車132の外周のうち第4クランク104のクランクピン104aに対して最も遠い部位が、歯車111の外周のうち回転軸に対して最も近い部位と噛み合い、歯車111の外周のうち回転軸に対して最も遠い部位が、歯車112の外周のうち回転軸に対して最も近い部位と噛み合い、歯車112の外周のうち回転軸に対して最も遠い部位が、歯車113bの外周のうち回転軸に対して最も近い部位と噛み合う第1噛合せ状態(図12(f)の状態)となる。本変形例では、下死点で第1噛合せ状態になるが、下死点の手前(例えば下死点手前45°までの範囲)で第1噛合せ状態になってもよいし、下死点の後(例えば下死点後45°までの範囲)に第1噛合せ状態になってもよい。一方、上死点側では、第2固定歯車132の外周のうち第4クランク104のクランクピン104aに対して最も近い部位が、歯車111の外周のうち回転軸に対して最も遠い部位と噛み合い、歯車111の外周のうち回転軸に対して最も近い部位が、歯車112の外周のうち回転軸に対して最も遠い部位と噛み合い、歯車112の外周のうち回転軸に対して最も近い部位が、歯車113bの外周のうち回転軸に対して最も遠い部位と噛み合う第2噛合せ状態(図11(b)の状態)となる。本変形例では、上死点で第2噛合せ状態になるが、上死点の手前(例えば上死点手前45°までの範囲)で第2噛合せ状態になってもよいし、上死点の後(例えば上死点後45°までの範囲)に第2噛合せ状態になってもよい。
【0104】
そのため、第4クランク104が定速回転をする時に、歯車111の回転速度は増減を繰り返し、第2クランク102の回転速度も同期して増減する。具体的に、上死点側で第2クランク102の回転速度は遅くなり、下死点側で第2クランク102の回転速度は速くなる。そのため、コンロッド103の大端部13bの回転軸(中心)の軌跡Kcは、下死点側で輪が大きく上死点側で輪が小さくなる8の字状を描く(図16(a)参照)。なお、本変形例でも、第2クランク長は第1クランク長よりも長い。
【0105】
本変形例では、第1噛合せ状態の第1クランク101のクランク角が、下死点の第1クランク101のクランク角と一致する。すなわち、下死点で、第2クランク102の回転速度が最速となる。
【0106】
この点について、第1噛合せ状態の第1クランク101のクランク角が、下死点の第1クランク101のクランク角に対し、これらの両クランク角が一致する場合に比べてコンロッド13の軸線13Xとシリンダ軸CAとの角度θbが小さくなる方向にずれるように、歯車111~113,132を噛み合わせてもよい。図16(a)は、下死点より45°進角したタイミングで第1噛み合わせ状態になる内燃機関100Aについて、下死点の状態を表す。また、図16(b)は、下死点のタイミングで第1噛み合わせ状態になる内燃機関100Bについて、下死点の状態を表す。ここで、図16(b)の内燃機関100Bでは、第1クランク101に対する第2クランク102の相対回転速度(以下、単に「相対回転速度」と言う。)が最速になるタイミングが、下死点のタイミングと一致する。この場合、大端部中心の軌跡Kcは、図16(b)に示すように、長軸が真っすぐ8の字になる。それに対し、図16(a)の内燃機関100Aでは、相対回転速度が最速になるタイミングが下死点よりも後になる。この場合、大端部中心の軌跡Kcのうち、下死点側に対応する大きな輪が、コンロッド13の軸線13Xとシリンダ軸CAとの角度θbが小さくなる方向に折れ曲がる。これにより、下死点でシリンダ11に対しピストン12が直角に押す大きな分圧を小さくすることができ、構造的に無理のない内燃機関を実現することができる。なお、図17の内燃機関100Cで、第1クランク101、第3クランク103及び第4クランク104が時計回りに回転し、第2クランク102が半時計周りに回転する場合は、第1噛み合せ状態が下死点よりも前に生じるように、歯車111~113,132を噛み合わせることで、大端部中心の軌跡Kcのうち、下死点側に対応する大きな輪が、角度θbが小さくなる方向に折れ曲がる。図17は、下死点手前45°のタイミングで第1噛み合わせ状態になる内燃機関100Cである。図16(a)の場合も図17の場合も、下死点の第1クランク101のクランク角に対する、第1噛み合せ状態の第1クランク101のクランク角のずれ(ずれ角度)は、5°以上にすることができ、170°以下にすることができる。
【0107】
なお、下死点の第1クランクのクランク角に対し、第1噛合せ状態の第1クランクのクランク角をずらすこと(第1噛み合せ状態が下死点の前後に生じるようにする)について、上述の実施形態に適用する場合は、非円形歯車を用いた一対の歯車33,34(図1参照)において、エンジンブロック16に固定された第4歯車34の外周のうち回転軸に対して最も遠い部位が、第3歯車33の外周のうち回転軸に対して最も近い部位と噛み合う状態の第1クランク21のクランク角が、下死点の第1クランク21のクランク角に対し、5°以上170°以下ずれるようにする。この場合、第2クランク22における親軸A2と子軸A3を結ぶ直線22Xに対し、コンロッド13の軸線13Xがなす角度が、90°±70°の角度範囲に入るようにする。また、本変形例の場合も上述の実施形態の場合も、第1クランク21,101のクランク角のずれ(ずれ角度)は、15°以上120°以下が好ましく、30°以上100°以下がさらに好ましい。このように、角度θbが小さくなる方向に相対回転速度が最速となるタイミングを下死点からずらすことにより、子軸A3の軌跡Kcは折れ曲がり、ピストン12が下死点から立ち上がる時に、シリンダ11の内壁に対し直角に押す分圧を少なくすることができ、シリンダ11及びピストン12のダメージを減少させることができ、上死点のポジション設定に役立つ。また、このクランク角をずらすことを適用せずに、クランクピン128(A2)或いは子軸A3が、下死点から180°回転した位置、又は、下死点からは対極の位置で、第2噛合せ状態となり、下死点で第2噛合せ状態となるように構成してもよく、この場合は、軌跡Kcは8の字状を描くものの折れ曲がることない。
【0108】
<実施形態の変形例5>
[内燃機関の構成について]
本変形例は、内燃機関200(図18(a)参照)が、第1クランク201及び第2クランク202に加えて、回転軸が出力軸15により構成された第4クランク204を備えている。
【0109】
具体的に、本変形例に係る内燃機関200は、図18に示すように、略円筒状のシリンダ11と、シリンダ11内を往復運動する略円柱状のピストン12と、ピストン12に回転自在に連結されたコンロッド13と、コンロッド13の大端部(他端部)13bが回転自在に連結されてピストン12の往復運動を回転運動に変換するクランク機構230と、クランク機構230によって変換された回転運動による動力で回転する出力軸15とを備えている。
【0110】
クランク機構230は、第1クランクピン228を有する第1クランク201と、親軸A2及び子軸A3を有する第2クランク(可動部材)202と、第4クランクピン204aを有する第4クランク204とを備えている。第1クランク201と第4クランク204は、同じ方向に同じ回転数で回転し、回転角度位置が同期し常に同じになる。また、第2クランク202は、第1クランクピン228に回転自在に連結され、コンロッド13の大端部13bに回転自在に連結されている。第1クランクピン228に対する回転軸が親軸A2に相当し、コンロッド13の大端部13bに対する回転軸が子軸A3に相当する。親軸A2は、第1クランクピン228を回転自在に支持するピン軸受部202aの軸心に位置する。子軸A3は、第2クランク202の中心(大端部13bの中心)に位置する。
【0111】
クランク機構230は、第1固定歯車231、第2固定歯車232、第1駆動歯車220、中継歯車221及び第2駆動歯車222を有する伝達機構240をさらに備えている。伝達機構240は、歯車220,221,222,231,232を介して第1クランク201及び第4クランク204の回転力を可動部材202に伝達することにより、コンロッド13に対し可動部材202を動かし、且つ、第1クランク201に対し可動部材202を回転させる。また、伝達機構240は、第1クランク201と第2クランク202とが同じ回転数で且つ反対方向に回転するように第1クランク201と第2クランク202を係合させる。
【0112】
第1固定歯車231は、第1クランクピン228と同軸に第2クランク202に固定されている。第2固定歯車232は、第4クランクピン204aと同軸に第4クランク204に固定されている。第2固定歯車232は、第1固定歯車231と噛み合う。第1固定歯車231と第2固定歯車232は、同一歯数で同じ大きさの円形歯車である。
【0113】
第1駆動歯車220は、第1クランク201の第1回転軸241に一体化され、第1回転軸241を中心に回転する。第2駆動歯車222は、第4クランク204の回転軸15(出力軸)に一体化され、出力軸15を中心に回転する。中継歯車221は、エンジンブロック16に回転自在に支持され、第1駆動歯車220と第2駆動歯車222のそれぞれに噛み合うように設けられている。第1駆動歯車220と第2駆動歯車222は、同一歯数で同じ大きさの円形歯車である。
【0114】
なお、図18(a)などにおいて、符号201Xは、第1回転軸241の軸心A1と第1クランクピン228の軸心A2とを結ぶ直線(第1クランク201のクランク線)を表し、符号202Xは、親軸A2と子軸A3とを結ぶ直線(第2クランク202のクランク線)を表し、符号204Xは、出力軸15の軸心A4と第4クランクピン204aの軸心とを結ぶ直線(第4クランク204のクランク線)を表す。
【0115】
[内燃機構の動作について]
図19図21を参照しながら、内燃機関200の動作について説明を行う。内燃機関200では、ピストン12の1往復期間に、第1クランク201及び第4クランク204がそれぞれ1回転し、コンロッド13が1往復する。図19図21では、コンロッド13、第1クランク201、第2クランク202、及び第4クランク204の各動作は、対応する直線13X,201X,202X,204Xにより表す。なお、図19図21は、内燃機関200の動作の状態について、ピストンの1往復期間をクランク角45°ピッチで示す。図19(a)に記載の矢印は、各クランク201,202,204の軸線201X,202X,204Xの回転方向を表す。また、図19図21には吸排気ポートや吸排気バルブを図示しないが、図19(a)~図21(i)に示すピストンの1往復期間には、圧縮行程から爆発行程(又は、排気工程から吸気工程)が行われるものとする。
【0116】
図19(a)は、上死点前45°のタイミングにおける内燃機関200の状態を表す。この状態から第1クランク201及び第4クランク204が時計回りに回転すると、これらのクランク201,204の回転に伴って、第1固定歯車231及び第2固定歯車212がそれぞれ回転移動し、その回転移動に伴って第2クランク202の軸線202Xが反時計回りに回転する。これにより、コンロッド13の大端部13bが、子軸A3を中心に反時計回りに回転しながら、ピストン12が上死点に近づいてゆく。
【0117】
図19(b)は、上死点の着火タイミングにおける状態を表す。この状態から第1クランク201及び第4クランク204がさらに時計回りに回転すると、第2クランク202の軸線X2は反時計回りに回転し続けるが、コンロッド13の大端部13bは、図19(c)のタイミング付近で、回転方向が切り替わり、時計回りに回転し始める。ピストン12は、図19(b)の状態から図21(g)の状態まで、下死点に近づいてゆく。図21(g)は、ピストン12が下死点に位置する状態を表す。そして、コンロッド13の大端部13bは、図21(g)のタイミング付近で、回転方向が切り替わり、反時計回りに回転し始め、ピストン12が上死点に近づいてゆく。なお、本変形例では、第1クランク201のクランク長が第2クランク202のクランク長よりも短く、コンロッド13の他端部13bの回転軸A3の軌跡Kcは、図18(a)に示すようになる。
【0118】
本変形例では、第1クランク201の第1回転軸241の軸心A1から第2クランク102の子軸A3に向かって延びる直線L3に対し、コンロッド13のロッド部13cがなす角度θ(図19(b)参照)が、上死点において、90°±70°の角度範囲(好ましくは、90°±45°の角度範囲)にあることで、ピストン12から第1クランク201の第1回転軸241に対しトルクを効率よく伝達することができ、それにより出力軸15に対してもトルクを効率よく伝達することができる。
【0119】
本変形例では、第1固定歯車231と第2固定歯車232が、互いに同径の円形歯車であるが、第1固定歯車231と第2固定歯車232は、上述の実施形態の第3歯車33と第4歯車34のように非円形歯車としてもよい。この場合、下死点において、第1固定歯車231の外周のうち回転軸A2に対して最も近い部位が、第2固定歯車232の外周のうち回転軸(第4クランクピン204aの軸心)A4に対して最も遠い部位と噛み合う状態の第1クランク201のクランク角が、軸心A1と回転軸A4とを結ぶ線Gからずらす。これにより、コンロッド13の他端部13bの回転軸A3の軌跡Kcは、図17と同様に、8の字となり折れ曲がる。
【0120】
<実施形態の変形例6>
[内燃機関の構成について]
本変形例に係る内燃機関10(図22参照)は、棒状の可動部材93がコンロッド13にスライド自在に連結され、コンロッド13及び可動部材93により構成された伸縮部材13,93が伸縮可能に構成されている。内燃機関10は、図22(a)及び図22(b)に示すように、略円筒状のシリンダ11と、シリンダ11内を往復運動する略円柱状のピストン12と、一端部13aがピストン12に回転自在に連結されたコンロッド13と、コンロッド13の他端部13bが可動に連結されてピストン12の往復運動を回転運動に変換するクランク機構20とを備えている。
【0121】
クランク機構20は、クランク21に加え、コンロッド13の他端部13bにスライド自在に連結され、クランク21のクランクピン28に回転自在に連結された可動部材93を備えている。クランク21は、クランク機構20により変換される回転運動を動力として出力する出力軸15と、出力軸15の軸心A1を中心に回転移動するクランクピン28を有する。クランクピン28には、可動部材93の大端部93bが回転自在に連結されている。内燃機関10では、出力軸15の回転に伴ってクランクピン28が回転移動し、ピストン12が往復運動する。
【0122】
本変形例では、コンロッド13及び可動部材93が、互いに同一方向に伸びており、長さ方向に伸縮可能な伸縮部材を構成している。内燃機関10は、クランク角に応じて伸縮部材13,93を伸縮させる伸縮機構50をさらに備えている。伸縮機構50は、図23に示すように、ピストン12が上死点の手前から上死点に近づくに従って(例えば、クランクピン28が燃焼室5の天井面5aに最も近づいた状態(図23(a)において破線の状態)の手前から、クランク角が進むに従って)、クランク21の回転力を利用して伸縮部材13,93を伸長させる。伸縮機構50は、例えば、出力軸15の軸心とクランクピン28の軸心を結ぶ直線がコンロッド13と一直線になった状態(以下、図23(a)の破線の状態であり、「クランク-コンロッド直線状態」と言う。)から、上死点までの期間に、伸縮部材13,93を伸長させる。なお、伸縮機構50は、ピストン12が上死点の手前から上死点に近づくに従って、クランク21の回転力を利用して伸縮部材13,93を短縮させるように構成してもよい。
【0123】
具体的に、コンロッド13は、ピストン12に回転自在に連結された小端部13aを有する。可動部材93は、クランクピン28に回転自在に連結された大端部93bを有する(図22(b)参照)。コンロッド13は、可動部材93に対し、コンロッド13の軸方向(長さ方向)にスライド可能に取り付けられている。例えば、コンロッド13における棒状の他端部13bは、可動部材93に設けられたスライド溝80(図23参照)に嵌め込まれ、スライド溝80に沿って可動部材93に対しスライド自在になっている。
【0124】
伸縮機構50(図23参照)は、クランク21のクランクピン28に固定されてクランク21と共に出力軸15を中心に回転移動する固定歯車61と、可動部材93に回転自在に支持されて固定歯車61と噛み合う伸縮用歯車62と、伸縮用歯車62の回転軸62aを中心に回転移動する円形の第1ピン71と、コンロッド13のクランクピン28側(他端部13b)に一体化された円形の第2ピン72と、第1ピン71と第2ピン72とにそれぞれ連結されて第1ピン71の回転移動に伴って揺動して可動部材93に対しコンロッド13を進退させる揺動部材75とを備えている。伸縮機構50は、コンロッド13に対し可動部材93を動かし、且つ、クランク21に対し可動部材93を回転させる伝達機構に相当する。伝達機構は、固定歯車61を伸縮用歯車62に噛み合せることにより揺動部材75を揺動させることで、クランク21の回転力を可動部材93に伝達させる。
【0125】
固定歯車61は、クランクピン28と同軸になるようにクランク21に固定されている。固定歯車61は、自転をすることなく、出力軸15回りを公転する歯車である。伸縮用歯車62は、固定歯車61と同一歯数の歯車である。固定歯車61が1回転すると、伸縮用歯車62もちょうど1回転するように設計されている。伸縮用歯車62の回転軸62aは、固定歯車61の軸心61aと、第2ピン72の軸心とを通る直線上、又は、この直線上以外に配置することができる。
【0126】
第1ピンは、伸縮用歯車62とは軸心が一致しないように、伸縮用歯車62に一体化されたピン部材(円柱状の部材)である。第1ピン71は、伸縮用歯車62の回転軸62aと同軸の主軸71aと、主軸71aから離れた位置の副軸71bとを有する。副軸71bは、第1ピン71の中心に位置する。第1ピン71の副軸(中心)71bは、伸縮用歯車62の中心62aから見て偏心した位置にある。第1ピン71は、伸縮用歯車62の回転に伴って、主軸71aを中心に回転移動する。
【0127】
揺動部材75は、例えば、伸縮部材13,93の機能部品である。揺動部材75は、第1ピン71と第2ピン72の各々に回転自在に支持されている。揺動部材75では、クランクピン28側の貫通孔75aに第1ピン71が、ピストン12側の貫通孔75bに第2ピン72がそれぞれ回転自在に挿通されている。
【0128】
なお。本変形例では、固定歯車61と伸縮用歯車62が、同回転数にて噛み合う円形歯車であるが、複数倍回転数にて噛み合う円形歯車であってもよいし、同回転数又は複数倍回転数にて噛み合う非円形歯車であってもよい。
【0129】
[内燃機関の動作について]
図23(a)においてピストン12が破線の位置にあるタイミングでは、伸縮機構50等が、図23(b)に示す状態となる。この状態から、クランクピン28が時計回りに回転移動すると、固定歯車61も回転移動し、その回転移動に伴って伸縮用歯車62が反時計回りに回転する。これにより、図23(c)に示すように、第1ピン71の副軸71bは、主軸71aを中心に反時計回りに回転移動する。そして、この回転移動に伴って、第2ピン72及びコンロッド13がピストン12側に移動し、伸縮部材13,93が伸びる。
【0130】
本変形例では、第1ピン71の副軸71bが、コンロッド13の軸線Xs上の、固定歯車61側の位置から、軸線Xs上の、第2ピン72側の位置まで移動する期間に、コンロッド13は伸びる。一方、第1ピン71の副軸71bが、コンロッド13の軸線Xs上の、第2ピン72側の位置から、軸線Xs上の、固定歯車61側の位置まで移動する期間に、伸縮部材13,93は縮む。
【0131】
ここで、図23(a)における破線の状態からクランク角が進むと、伸縮部材13,93が伸びる一方で、クランクピン28及び可動部材93の大端部93bは、燃焼室5の天井面5aから遠ざかる。本変形例では、伸縮部材13,93が伸びる途中に、ピストン12は上死点となる。そして、ピストン12が上死点から下死点に向かう期間の前半にも、伸縮部材13,93が伸びる。そのため、上死点後にピストン12の下降速度を減少させることができる。
【0132】
[本変形例の効果等]
本変形例では、クランク-コンロッド直線状態から上死点までの期間に、伸縮部材13,93が伸長する。ここで、伸縮部材13,93が伸長せずにクランク-コンロッド直線状態で上死点となる場合、上死点で、ピストンピンとコンロッドの大端部と出力軸が直線上に並び、燃焼圧の回転出力への伝達率は、限りなくゼロに近くなる。また、上死点以後、クランク角が20°から30°進む期間も、回転出力への伝達率は極めて小さくなる。そして、回転出力への伝達率の有効化が始まる頃には、燃焼圧が着火燃焼圧から大きく低下している。
【0133】
それに対し、本変形例では、伸縮部材13,93が伸長するため、上死点のタイミングにおけるクランクピン28の運動方向は、シリンダ軸CAの方向に近づく。本変形例では、上死点において、コンロッド13と可動部材93のなす角度θ’(図23(a)参照)が、90°±70°の角度範囲(好ましくは、90°±45°の角度範囲)にある。そのため、上死点における燃焼圧の回転出力への伝達率は改善される。さらに、上死点以後も、回転出力への伝達率が改善される。例えば、上死点からクランク角が20°から30°進む期間、伝達率は限りなく10割に近づく。本変形例によれば、ピストン12からクランクピン28に対しトルクを効率的に伝達することができる。
【0134】
<実施形態の変形例7>
本変形例は、変形例6の変形例である。本変形例では、図24(a)及び図24(b)に示すように、第2歯車62から突出する突出部81が設けられ、第1ピン71の副軸71bが突出部81に設けられている。第1ピン71の主軸71aは、変形例5と同様に、伸縮用歯車62の回転軸62aと同軸である。また、揺動部材75では、クランクピン28側の貫通孔75aに第1ピン71の副軸(ピン)71bが、ピストン12側の貫通孔75bに第2ピン72がそれぞれ回転自在に挿通されている。
【0135】
本変形例でも、第1ピン71の副軸71bが、コンロッド13の軸線Xs上における固定歯車61側に最も近い第1位置から、軸線Xs上における第2ピン72側に最も遠い第2位置まで移動する期間に、伸縮部材13,93は伸びる。一方、第1ピン71の副軸71bがコンロッド13の軸線Xs上における第2位置から第1位置まで移動する期間に、伸縮部材13,93は縮む。
【0136】
<実施形態の変形例8>
変形例6-7の伸縮機構50は、実施形態及びその変形例1-5に適用してもよい。この場合、固定歯車61は、第2クランク22の子軸A3に固定される。つまり、固定歯車61は、第2クランク22の中心A3と同軸となるように第2クランク22に固定される。伸縮機構50は、図25に示すように、ピストン12が上死点の手前から上死点に近づくに従って、第2クランク22の回転力を利用して伸縮部材13,93を短縮させる。なお、伸縮機構50は、ピストン12が上死点の手前から上死点に近づくに従って、第2クランク22の回転力を利用して伸縮部材13,93を伸長させるように構成してもよい。
【0137】
本変形例では、伸縮部材13,93の伸縮量、伸縮部材13,93の伸縮タイミング、歯車(例えば非円形歯車)61,62の形状、及び、各歯車61,62の大きさの最適化により、大端部中心の軌跡Kcの接線との鉛直方向に束縛されず、シリンダ軸CAの傾斜角θa(図1参照)を最適化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明は、レシプロタイプの内燃機関又は圧縮機等に適用可能である。
【符号の説明】
【0139】
10,100 内燃機関
11 シリンダ
12 ピストン
13 コンロッド
14 クランク機構
15 出力軸
21,101 第1クランク
22,102 第2クランク
31,131 第1歯車(固定歯車)
32 第2歯車
【要約】
【課題】ピストンからクランク機構の出力軸に対しトルクを効率的に伝達することが可能な内燃機関を実現する。
【解決手段】内燃機関10のクランク機構14は、クランクピン28を有するクランク21と、コンロッド13の他端部に可動に連結され、且つ、クランクピン28に回転自在に連結された可動部材22と、可動部材22に固定された固定歯車31を含み、固定歯車31を介してクランク21の回転力を可動部材22に伝達することにより、コンロッド13に対し可動部材22を動かし、且つ、クランク21に対し可動部材22を回転させる伝達機構14とを有する。可動部材22として第2クランク22が設けられ、第2クランク22は、コンロッド13の他端部13bに対する回転軸としての子軸A3とを有し、上死点において、クランク21の回転軸A1から子軸A3に向かって延びる直線L3に対し、コンロッド13がなす角度が、90°±70°の角度範囲にある。
【選択図】図1
図1
図2
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