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  • 特許-舌小帯形成手術用舌圧排子 図1
  • 特許-舌小帯形成手術用舌圧排子 図2
  • 特許-舌小帯形成手術用舌圧排子 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】舌小帯形成手術用舌圧排子
(51)【国際特許分類】
   A61B 13/00 20060101AFI20230213BHJP
【FI】
A61B13/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021119376
(22)【出願日】2021-07-20
【基礎とした実用新案登録】
【原出願日】2019-10-14
(65)【公開番号】P2022002703
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】519322923
【氏名又は名称】伊藤 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101384
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 成夫
(74)【代理人】
【識別番号】100113804
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 敏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰雄
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第202027721(CN,U)
【文献】中国実用新案第205286361(CN,U)
【文献】特開平05-176934(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02567739(GB,A)
【文献】カナダ国特許出願公開第02738921(CA,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B13/00-18/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略長円形の板状をなし、長手方向の一端が二股に先割れした舌小帯挿入溝部を備え、
その舌小帯挿入溝部を形成する二股先端部は、平面形状を曲線で形成し、
前記の舌小帯挿入溝部から反対側の端部に向かう部位である操作部と、
その操作部と前記の二股先端部との間に、側面視で二股先端部側が凹、操作部側が凸となる二箇所の屈曲部と、を備え、その二股先端部側が凹、操作部側が凸となる側の面が患者の舌の裏側面に接する接触面となり、
前記の屈曲部によって患者の舌の裏面側に接触する接触面および前記の操作部の厚さ方向寸法にクリアランスが生ずるように形成した
舌小帯形成手術用舌圧排子。
【請求項2】
前記の二股先端部には、前記の舌小帯挿入溝部の溝深さを示す目盛りを備えた
請求項1に記載の舌小帯形成手術用舌圧排子。
【請求項3】
透明な素材で形成することとした
請求項1又は2に記載の舌小帯形成手術用舌圧排子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳児や幼児の「舌小帯」に異常が見られる場合に施術される舌小帯形成手術
にて用いる舌上げ具(舌挙上用の舌圧排子、舌圧排鈎、舌レトラクター)に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の舌は、「舌小帯」という粘膜ヒダによって下顎の口腔底とつながっている。この
「舌小帯」が、先天的に舌の先端付近から歯茎にまで達していることがある。この場合、
舌の可動域が制限されるため、哺乳や構音などの動作に支障を来す。そうした支障を来す
状態を「舌小帯短縮症」と呼ぶ。
【0003】
「舌小帯短縮症」の乳児は、口の浅い部分までしか母親の乳首を咥えることができない
ために、哺乳が十分に行えない。その結果、哺乳時に乳首を離してしまったり、一回に飲
める量が減ったり、哺乳時間が長くなったり、哺乳回数が増えたりする。そのため、不機
嫌な状態が長く続く、体重が増えない、といった問題を引き起こす。
【0004】
「舌小帯短縮症」の乳児では、舌や唇が十分に乳首を包み込むことができないため乳首
が歯茎で嚼まれたような状態となり、母親は乳首に痛みを感じる。また、一回に乳児が飲
む量が減るために乳腺が詰まりやすくなったり、乳腺炎を起こしたり、乳汁の分泌量が減
少したりする。哺乳回数が増えることで、母親や家族の不眠やストレスの原因にもなる。
【0005】
「舌小帯短縮症」は、「舌小帯」の舌先端部から舌根部までを切開するという比較的単
純な手術によって症状は改善する。手術の当日に授乳を再開できるので、患者が乳児であ
っても、乳児およびその母親への負担は大きくない。また、術後に創が「再癒着」を起こ
して手術前の状態に戻ってしまうという問題点については、舌のストレッチなどの術後の
ケアで予防できる。
【0006】
舌の可動域が制限される「舌小帯短縮症」の発生頻度は、検査方法やどの程度から異常
とみなすかによって異なるが、新生児の4~10%と言われる。いずれにしても、手術対
象となる患者は、乳幼児の10~20人に一人ほどであり、少なくない。
【0007】
ところが、日本小児科学学会において、「舌小帯短縮症」を原因とする呼吸困難となっ
た症例が少なかった、「舌小帯短縮症」と哺乳(動作)には関連がない、という内容を記
載した倫理委員会報告書が2001年に発表された。この報告書による影響は大きく、そ
のために、多くの小児科医は、未だに手術が必要な「舌小帯短縮症」は稀である、と考え
ているのが現状である。
【0008】
小児科では「舌小帯短縮症」の手術をおこなうことはほとんどなく、口腔外科での手術
の多くは全身麻酔による年長児や成人である。そのために、手術対象者は多いにもかかわ
らず乳幼児期に「舌小帯短縮症」の手術をする医師は少なく、患者家族は困惑している。
【0009】
手術数が少ないこともあり、「舌小帯短縮症」の手術に最適化された専用の器具が存在
せず、執刀医は舌圧子を代用している。すなわち、舌を下顎側へ押し付けるために用いる
舌圧子を、患者の舌を上顎側へ持ち上げるために用いている。
【0010】
特許文献1には、喉の診察や口腔内で治療行為をする際に、口腔内に損傷を与えたり不
快感を与えたりしないよう工夫された「舌圧排子」が開示されている。名称は舌圧排子で
あるが特許文献2と同様、舌を口腔底に押し付けるのが目的の舌圧子である。
【0011】
特許文献2には、口腔内の診察に際して、患者の舌を押さえながら口腔内を照らし、光
量も十分に確保できる舌圧子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2009-22702号公報
【文献】実開平6-68719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
舌小帯短縮症の手術では、切開すべき舌小帯が舌の裏側の中央正中に存在するため、執
刀医が舌を持ち上げる操作の際に舌圧排子は舌の左右方向のいずれかに偏った動作になっ
てしまう。
【0014】
また、執刀医が片手で舌を持ち上げる動作をしつつ、もう片方の手で操作する切開具(
鋏類)にて切開を実行しなければならない。舌の左右方向のいずれかに偏った部位を持ち
上げた状態で切開を実行するのは困難を伴うこととなる。
【0015】
本願発明の目的は、舌小帯短縮症の手術を実行しやすい舌上げ具(舌挙上用の舌圧排子
、舌圧排鈎、舌レトラクター)を提供ことにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(第一の発明)
本願における第一の発明は、略長円形の板状をなし、長手方向の一端が二股に先割れし
た舌小帯挿入溝部(14)を備え、
その舌小帯挿入溝部(14)を形成する二股先端部(13)は、その平面形状を曲線で
形成した舌圧排子(10,10A)に係る(図1~3参照)。
【0017】
(用語説明)
舌圧排子(10,10A)は、患者の舌を上顎側へ持ち上げるための医療器具である。
手術後に手術箇所が癒着しないように術後ケアのツールとしても用いることができる。全
体の大きさは、患者によって適切な大きさが異なる。後述する実施形態においては、乳幼
児用(図1および図2)、成人用(図3)二種類を説明している。
素材としては、ステンレス鋼、抗菌性のある熱可塑性樹脂などが採用される。
【0018】
(作用)
手術時には、治療者(執刀医師または手術助手)が片手に本願に係る舌圧排子(10,
10A)を持ち、舌小帯挿入溝部(14)を患者の舌の裏側中央にある舌小帯へ挿入し、
患者の舌を持ち上げる。二股先端部(13)の平面形状は、曲線で形成しているので、患
者の舌を傷つけにくい。
舌の左右をバランスよく持ち上げるのに熟練は要しない。そして、治療者が患者の舌に
沿って舌小帯を真直ぐに切断することを可能にする。
【0019】
手術後には、患者の親族などが、手術箇所に癒着が生じないようにするため、この舌圧
排子(10,10A)を用いて、一日に何度か患者の舌を持ち上げるストレッチを行う際
にも利用できる。
【0020】
前記の二股先端部(13)には、前記の舌小帯挿入溝部(14)の溝の深さを示す目盛
り(16)を備えると、より好ましい。
前記の目盛り(16)は、患者の舌へ接触させない方の凸面(図1の側面図では紙面の
左側)に備えるのが合理的である。
【0021】
(バリエーション1)
前記の二股先端部(13)には、前記の舌小帯挿入溝部(14)の溝の深さを示す目盛
り(16)を備えると、より好ましい。
前記の目盛り(16)は、患者の舌へ接触させない方の凸面(図1(a)では接触面1
5の反対面、すなわち紙面の左側)に備えるのが合理的である。
目盛り(16)は、切断する長さを測定することを可能にしたり、手術前の診察におい
て手術の必要性を判断したりするのに便利である。
【0022】
(バリエーション2)
前記の舌小帯挿入溝部(14)から反対側の端部に向かう部位である操作部(12)と

その操作部(12)と前記の二股先端部(13)との間に二箇所の屈曲部(12A,1
3A)と、を備え、
前記の屈曲部(12A,13A)によって患者の舌に接触する接触面(15)および前
記の操作部(12)の厚さ方向寸法にクリアランス(15)が生ずるように形成すると、
より好ましい(図1(a)参照)。
切開に用いる場合に、切開具と操作部(12)との間にクリアランス(17)が確保さ
れるため、切開操作をしやすくなるからである。
【0023】
(バリエーション3)
舌圧排子(10,10A)を透明な素材(例えば、ABS樹脂、PET)で形成するこ
ととしてもよい。
舌を押さえる場合に押さえた部位を目視することができるため、検査や手術が容易にな
る。
【発明の効果】
【0024】
第一の発明によれば、舌の裏側と口腔底の間の手術視野を広げ、舌小帯短縮症の手術を
実行しやすくする舌圧排子(舌上げ具、舌圧排鈎)を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第一の実施形態に係る乳幼児用の舌圧排子(舌上げ具)を示す正面図および側面図である。
図2】第二の実施形態に係る乳幼児用の舌圧排子(舌上げ具)を示す正面図および側面図である。
図3】第三の実施形態に係る大人用の舌圧排子(舌上げ具)を示す正面図および側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1
図1は、乳幼児用の舌圧排子(舌上げ具)10を示す。
図1(b)に示すように、全体としては、略長円形の板状をなすとともに、長手方向の
一端が二股に先割れした舌小帯挿入溝部14を備えている。舌小帯挿入溝部14の形状は
、ほぼ長円形としている。
【0027】
その舌小帯挿入溝部14を形成する二股先端部(13)は、その平面形状を曲線で形成
している。患者の舌および舌裏へ接触する部位なので、接触した部位が傷付かないように
するためである。
【0028】
舌小帯挿入溝部13から反対側の端部に向かって、幅方向の寸法が細くなるように形成
した操作部12を備えている。この操作部12は、手術の際に、治療者(執刀医師または
手術助者)が片手に舌圧排子10を持った場合に、親指および人差し指で挟む部位となる
【0029】
操作部12から二股先端部13とは反対側へ向かって、幅方向寸法は再び大きくなった
後に再び細くなる。その細くなった部位を把持部11としている。この把持部11は、治
療者(執刀医師または手術助手)における手の甲へ接する部位となる。
【0030】
図1(a)の側面図にて示しているが、操作部12および二股先端部13の間には、二
つの屈曲部12A,13Aを備えている。屈曲部12Aは、操作部12に近い側の折り曲
げ部位であり、屈曲部13Aは、二股先端部13に近い側の折り曲げ部位である。
【0031】
屈曲部13Aが凹、屈曲部12Aが凸となる側の面が舌圧排子10における接触面15
となり、患者の舌の裏側面に接することとなる。
【0032】
二つの屈曲部12A,13Aを備えた舌圧排子10の接触面15を患者の舌の裏側面へ
、治療者(執刀医師または手術助手)が接触させて舌を持ち上げる動作をしつつ、執刀医
師が切開具(鋏類)にて切開をする場合、二つの屈曲部12A,13Aが形成するクリア
ランスの分だけ、舌圧排子10の操作部12および把持部11は、切開具から離れること
となる。そのため、執刀医師としては、切開の動作がやりやすい。
【0033】
二股先端部13には、舌小帯挿入溝部14の溝深さを示す目盛り16を、接触面15と
は反対側の面に備えている。目盛り16は、切断長さを決定する目安になったり、手術前
の診察において手術の必要性を判断したりするのに用いられる。
【0034】
前述してきた幼児用の舌圧排子10は、ステンレス鋼を切り出し、削ったり面取りした
りして形成している。
【0035】
図2
図2に示す実施形態は、図1に示す実施形態と、側面形状を異ならせている。
すなわち、図2(a)で示しているが、厚さ方向は概ね緩やかな「S字形」となるよう
に形成している。より詳細には、操作部12および把持部11の境目付近で二次曲線の頂
点となるような形状である。このような形状をなしているのは、操作部12および把持部
11が治療者(執刀医師または手術助手)による操作のしやすさのために、経験的に決定
したものである。
【0036】
ステンレス鋼を採用している場合、治療者の好みや患者の具合などに応じて、治療者が
曲がり具合を適宜変更することも可能である。また、予め平板状で提供してもよい(図3
(a)参照)。
【0037】
舌圧排子10を形成するための素材は、ステンレス鋼に限られない。たとえば、熱可塑
性樹脂製(たとえば、ABS樹脂)でもよい。
熱可塑性樹脂を採用すると、強度がステンレス鋼よりも劣るために、厚さ方向寸法が大
きくなる。そのため、口の中に入れることを考慮すると不利である。しかし、舌圧排子1
0の製造者としては、加工がステンレス鋼よりも容易となるので、舌小帯挿入溝部14、
二股先端部13、操作部12、把持部11などの形状を複雑にすることが可能となる。熱
可塑性樹脂を採用した舌圧排子10の場合、特に、術後の口腔ケア用には適している。ま
た、目盛り16の刻印も容易である。
また、目盛り16の刻印も、ステンレス鋼の場合に比べて容易である。
【0038】
ABS樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)や特殊ガラスなどを採用すること
で舌圧排子10を透明に形成した場合、舌を押さえる場合に押さえた部位を目視すること
ができるため、検査や手術が容易になるなどの利点もある。
【0039】
図3
図3では、成人用の舌圧排鈎(舌圧排子)10Aを示す。
図1および図2に示した幼児用の舌圧排子10との相違点は、長手方向の寸法が大きい
こと、側面形状で示しているように平板状としていることである。
である。
【0040】
図示を省略しているが、二股先端部13には、舌小帯挿入溝部14の溝深さを示す目盛
り16を備えていてもよい。目盛り16は、両面に備えても良いが、製造コスト削減など
の理由で片面にのみ備える場合には、患者の舌へ接触しない面になるようにする。
【0041】
平板状に形成しているのは、手術担当者が折り曲げて使うことを前提として、舌圧排子
10Aの製造者から提供することとしたのである。
【0042】
図1から図3に示した舌圧排子10、10Aは、治療者(執刀医師または手術助者)が
舌小帯短縮症の手術の際に用いるのが第一であるが、手術の要不要を診断する際に用いる
こともできる。
また、手術後には、患者の親族が、この舌圧排子10,10Aを入手して用いることに
よって、一日に何度か患者の舌を持ち上げるようにする(3週間程度)。手術箇所に癒着
が生じないようにするためである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、医療器具の製造業、医療器具のレンタル業、医療関係の情報サービス業など
において、利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0044】
10 ;舌圧排子(乳幼児用) 10A;舌圧排子(成人用)
11 ;把持部
12 ;操作部 12A;屈曲部
13 ;二股先端部 13A;屈曲部
14 ;舌小帯挿入溝部 15 ;接触面
16 ;目盛り 17 ;クリアランス
図1
図2
図3