(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】軸受装置および波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20230213BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20230213BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20230213BHJP
F16H 1/32 20060101ALI20230213BHJP
G01L 3/10 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C19/36
F16C19/16
F16H1/32 B
G01L3/10 311
(21)【出願番号】P 2021535141
(86)(22)【出願日】2020-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2020018040
(87)【国際公開番号】W WO2021220375
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】オルソン ダグラス
(72)【発明者】
【氏名】コイン ブライアン
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/151210(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 41/00
F16H 1/32
G01L 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性の内歯歯車(31)と、
可撓性の外歯歯車(32)と、
前記外歯歯車(32)を非円形に撓めて前記内歯歯車(31)に対して部分的にかみ合わせる波動発生器(33)と、
前記内歯歯車(31)および前記外歯歯車(32)を相対回転自在に支持している軸受装置(41)と、
を備えており、
前記外歯歯車(32)は、円筒状胴部(32a)と、この一端から半径方向の外方に広がるダイヤフラム(32b)と、当該ダイヤフラム(32b)の外周縁に一体形成した剛体である円環状のボス(32c)とを備えており、前記円筒状胴部(32a)の外周面には外歯(32d)が形成されており、
前記波動発生器(33)は回転入力部材であり、前記外歯歯車(32)は固定側部材であり、前記内歯歯車(31)は回転側部材であり、
前記軸受装置(41)は、軸受(42)および起歪体(46)を備えており、
前記軸受(42)は、外輪(43)、内輪(44)および、これらの間に転動自在の状態で挿入された複数個の転動体(45)を備えており、
前記外輪(43)は、固定側部材である前記外歯歯車(32)
の前記ボス(32c)に同軸に固定されており、
前記起歪体(46)は、
第1円環部(47)と、
前記第1円環部(47)の内側に同心状に配置された第2円環部(48)と、
前記第1円環部(47)の円形内周面と前記第2円環部(48)の円形外周面との間を連結している起歪部としての複数本のリブ(49)と、
を備えており、
前記第1円環部(47)には、前記内歯歯車(31)および前記内輪(44)が一体形成されており、
前記第1円環部(47)の前記円形外周面には、前記内輪(44)の軌道溝(44a)が形成されており、
前記第1円環部(47)の前記円形内周面において、中心軸線(30a)の方向における一方の端の側の部位
には前記リブ(49)が繋がっており、他方の端の側の部位には、前記内歯歯車(31)の内歯(31d)が形成されており、
前記内歯(31d)には、内側から、前記円筒状胴部(32a)に形成した前記外歯(32d)が対峙しており、
前記外歯(32d)が形成されている前記円筒状胴部(32a)の部位が波動発生器(33)によって非円形に撓められて、前記外歯(32d)が前記内歯(31d)に部分的にかみ合っており、
前記第2円環部(48)の円環状端面(48b)は、負荷側部材が同軸に固定される負荷取付け面となっていることを特徴とする波動歯車装置(30)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク検出用の起歪体を備えた軸受装置および当該軸受装置が組み込まれた波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
起歪体を備えたトルク検出器においては、所定の弾性特性を備えた起歪体を、例えば、回転軸と負荷側部材との間に架け渡し、起歪体に生じる歪を歪ゲージ等の検出素子によって測定し、負荷側部材から回転軸に加わるトルクを検出している。このようなトルク検出器は公知であり、特許文献1(特開2009-288198号公報)、特許文献2(特開2018-132154号公報)に記載されている。
【0003】
特許文献2に記載のトルクセンサは、電動機付き減速機に組み込まれている。減速機には波動歯車が用いられており、内歯歯車と外歯歯車とが、クロスローラベアリングによって、相対回転可能に支持されている。トルクセンサの起歪体は、固定側部材である内歯歯車と装置ハウジングとの間に取り付けられている。内歯歯車に加わるトルクによる内歯歯車の円周方向への変位によって起歪体に歪を発生させ、この歪を歪ゲージによって検出している。内歯歯車に取り付けた円環状の固定部材と、装置ハウジングとの間に起歪体が挟み込まれ、この状態で、内歯歯車、固定部材、起歪体および装置ハウジングが、締結用のボルトによって締結固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-288198号公報
【文献】特開2018-132154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来において、起歪体構造のトルク検出器を、モータ、減速機、回転アクチュエータ等の回転型駆動装置に組み付けるためには、起歪体を取り付ける取付部分を装置ハウジング、歯車等の回転部材に加工する必要があり、また、取付け用の追加部品、ボルト・ネジ等の締結金具が必要である。装置の軽量化、コンパクト化および部品点数の削減を図るためには、起歪体構造のトルク検出部を取り付けるためのスペースが少なくて済み、取付け用の追加部品を削減できることが望ましい。
【0006】
本発明の目的は、モータ、減速機、回転アクチュエータ等の回転型駆動装置に組み込まれる軸受に着目し、トルク検出器の起歪体が、設置スペースが少なく、コンパクトな形態で組み付けられた軌道輪を備えた軸受装置を提供することにある。また、本発明の目的は、この軸受装置が組み込まれた波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の軸受装置は、
外輪、内輪、および前記外輪と前記内輪の間に形成される軌道に転動可能に挿入された複数個の転動体を備えた軸受と、
第1円環部、前記第1円環部に対して同軸に配置された第2円環部、および前記第1円環部と前記第2円環部との間を連結している起歪部を備えた起歪体と、
を有しており、
前記内輪および前記外輪のうちの一方は、前記起歪体の前記第1円環部に一体形成され、または、当該第1円環部に同軸に固定されていることを特徴としている。
【0008】
モータ、減速機、回転アクチュエータ等の回転型駆動装置において、その回転軸を回転自在の状態で支持するための軸受として、本発明の軸受装置を組み付ける。回転軸を支持する軸受装置における一方の軌道輪がトルク検出用の起歪体と一体化され、あるいは当該起歪体に固定されている。装置内において、トルク検出用の起歪体を組み込むためのスペースを別途、確保する必要がない。また、起歪体を組み付けるための取付け用部品、締結金具も不要である。よって、起歪体を備えたトルク検出部を、設置スペースが少なく、コンパクトな形態で、装置に組み付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明を適用した軸受装置を示す斜視図および斜視断面図である。
【
図2】
図1の軸受装置の改変例を示す斜視図および斜視断面図である。
【
図3】本発明を適用した軸受装置の更に別の例を示す斜視断面図である。
【
図4】本発明を適用した軸受装置が組み込まれた波動歯車装置の一例を示す断面図および斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した軸受装置および波動歯車装置の実施の形態を説明する。なお、本発明は実施の形態の構造に限定されるものではない。
【0011】
図1(a)は本発明を適用した軸受装置の一例を示す斜視図であり、
図1(b)はその斜視断面図である。軸受装置1は、モータ、減速機、回転アクチュエータ等の回転型駆動装置(図示せず)において、例えば、回転軸(図示せず)と装置ハウジング(図示せず)との間に装着され、回転軸を回転自在の状態で支持する。回転軸の出力回転によって負荷側部材(図示せず)が回転駆動される。
【0012】
軸受装置1は、クロスローラベアリング2と、トルク検出用の起歪体6とを備えている。クロスローラベアリング2は、外輪3、内輪4および、これらの間に転動自在の状態で挿入された複数個の円筒コロ5を備えている。例えば、回転型駆動装置において、外輪3は固定側部材である装置ハウジングに固定され、クロスローラベアリング2の内輪4は回転軸に同軸に固定される。外輪3の内周面に形成したV形状の軌道溝3aと内輪4の外周面に形成したV形状の軌道溝4aとによって矩形断面の円環状の軌道が形成され、ここに、円筒コロ5が転動自在の状態で挿入されている。
【0013】
本例では、内輪4とトルク検出用の起歪体6とが一体形成されている。換言すると、これらが単一部品として製作されている。起歪体6は、第1円環部7と、第1円環部7の内側に同心状に配置された第2円環部8と、第1円環部7の円形内周面4bと第2円環部8の円形外周面8aとの間を連結している起歪部としての複数本のリブ9とを備えている。第1円環部7の円形外周面には軌道溝4aが形成されており、第1円環部7は内輪4として機能する。リブ9は、円周方向に沿って等角度間隔に形成されている。第2円環部8の円環状端面8bは、負荷側部材が同軸に固定される負荷取付け面となっており、ここには、負荷側部材を締結するための複数個のボルト穴8cが形成されている。
【0014】
回転型駆動装置の回転軸に取り付ける内輪4として機能する第1円環部7、および負荷側部材に取り付ける第2円環部8は、それぞれ剛体である。これに対して、リブ9は、予め設定した弾性特性を備えている。負荷側部材から回転軸に作用するトルクは起歪体6を介して伝達される。リブ9の弾性特性を適切に設定しておくことで、伝達トルクの大きさに応じた変形がリブ9に生じる。リブ9の表面には、歪ゲージ10等の歪検出素子が貼り付けられる。歪ゲージ10から出力される検出信号に基づきトルクが検出される。
【0015】
従来において、モータ、減速機、回転アクチュエータ等の回転型駆動装置にトルク検出用の起歪体を組み込む場合には、回転軸等の部材の周囲に、起歪体を取り付けるためのスペースを確保し、また、取付け用の追加部品、ボルト・ネジ等の締結金具が必要である。本例の軸受装置1を用いれば、起歪体6を取り付けるためのスペースを別途、確保する必要がなく、また、追加部品、締結金具も不要である。よって、装置の小型、コンパクト、軽量化に有利である。
【0016】
さらに、起歪体6と内輪4とが一体化されているので、起歪体6の組付け精度が低下する等の弊害も生じない。また、材料の違いによって生じる部品間の熱的な歪も発生しない。よって、トルク検出精度の向上が期待される。
【0017】
ここで、上記の軸受装置1では、起歪体6と内輪4とを単一部材として製作している。起歪体6と内輪4とを別部材として製作し、起歪体6の第1円環部7に、内輪4が締結固定された構造とすることもできる。この場合の軸受装置1Aを
図2に示す。
【0018】
図2(a)は軸受装置1Aの斜視図であり、
図2(b)はその斜視断面図である。軸受装置1Aの基本構成は上記の軸受装置1と同一であるので、対応する部位には同一の符号を使用し、それらの説明を省略する。本例の軸受装置1Aでは、内輪4の円環状端面4cの内周側の部分に、予め、起歪体取付け部4dが形成されている。起歪体取付け部4dは、一定深さの円環状の段部と、段部の底を規定する端面において円周方向に沿って等角度間隔で形成した複数個のボルト穴とを備えている。内輪4の起歪体取付け部4dに、起歪体6の外周側の第1円環部7が同軸に装着され、締結ボルト6aによって締結固定されている。
【0019】
図3は本発明を適用した軸受装置の別の例を示す斜視断面図である。軸受装置11においては、外輪と起歪体とが単一部品として製作されている。軸受装置11は、モータ、減速機、回転アクチュエータ等の回転型駆動装置(図示せず)において、その回転側部材(図示せず)と固定側部材(図示せず)との間に装着され、回転側部材を回転自在の状態で支持する。回転側部材の出力回転によって、負荷側部材(図示せず)が回転駆動される。
【0020】
軸受装置11は、ボールベアリング12と、トルク検出用の起歪体16とを備えている。ボールベアリング12の内輪14は固定側部材(図示せず)に固定される。ボールベアリング12の外輪13には負荷側部材(図示せず)が同軸に固定される。外輪13の内周面に形成した軌道溝13aと内輪14の外周面に形成した軌道溝14aとによって円環状の軌道が形成され、ここには、ボール15が転動自在の状態で挿入されている。
【0021】
本例では、外輪13と起歪体16とが一体形成されている。換言すると、これらが単一部品として製作されている。起歪体16は、外輪13として機能する第1円環部17と、第1円環部17の外側に同心状に配置された第2円環部18と、第1円環部17の円形外周面13b(17b)と第2円環部18の円形内周面18aとの間を連結している起歪部としての複数本のリブ19とを備えている。第1円環部17の円形内周面13a(17a)には軌道溝13aが形成されている。リブ19は、円周方向に沿って等角度間隔に形成されている。第1円環部17(外輪13)の円環状端面13c(17c)には負荷側部材が取り付けられる。第2円環部18の円環状端面18bは回転側部材が同軸に固定される。
【0022】
負荷側部材に取り付ける第1円環部17(外輪13)、および回転側部材に取り付ける第2円環部18は、それぞれ剛体である。リブ19は、予め設定した弾性特性を備えている。負荷側部材から回転側部材に作用するトルクは起歪体16を介して伝達される。リブ19の弾性特性を適切に設定しておくことで、伝達トルクの大きさに応じた歪がリブ19に生じる。リブ19の表面には、歪ゲージ等の歪検出素子(図示せず)が貼り付けられる。歪ゲージから出力される検出信号に基づきトルクが検出される。
【0023】
図4(a)は本発明を適用した軸受装置が組み込まれた波動歯車装置の一例を示す断面図であり、
図4(b)はその斜視断面図である。
【0024】
波動歯車装置30は、円環形状をした剛性の内歯歯車31と、シルクハット形状をした可撓性の外歯歯車32と、外歯歯車32を非円形に撓めて内歯歯車31に対して部分的にかみ合わせる波動発生器33と、内歯歯車31と外歯歯車32とを相対回転自在に支持している軸受装置41とを備えている。例えば、波動発生器33は回転入力部材であり、モータ等の回転軸34から回転が入力される。外歯歯車32が固定側部材であり、内歯歯車31が回転側部材である。内歯歯車31からの出力回転によって、負荷側部材35が回転駆動される。なお、
図4(b)においては波動発生器33を省略してある。
【0025】
外歯歯車32は、円筒状胴部32aと、この一端から半径方向の外方に広がるダイヤフラム32bと、ダイヤフラム32bの外周縁に一体形成した剛体である円環状のボス32cとを備えている。円筒状胴部32aの外周面には外歯32dが形成されている。外歯32dが形成されている部位が波動発生器33によって非円形、例えば楕円状に撓められて、内歯歯車31の内歯31dに部分的にかみ合っている。
【0026】
軸受装置41は、クロスローラベアリング42と起歪体46とを備えている。クロスローラベアリング42は、外輪43、内輪44および、これらの間に転動自在の状態で挿入された複数個の円筒コロ45を備えている。外輪43は、固定側部材である外歯歯車32の円環状のボス32cに同軸に固定される。外輪43の内周面に形成したV形状の軌道溝43aと内輪44の外周面に形成したV形状の軌道溝44aとによって矩形断面の円環状軌道が形成され、ここには、円筒コロ45が転動自在の状態で挿入されている。
【0027】
起歪体46は、第1円環部47と、第1円環部47の内側に同心状に配置された第2円環部48と、第1円環部47の円形内周面と第2円環部48の円形外周面との間を連結している起歪部としての複数本のリブ49とを備えている。リブ49は、円周方向に沿って等角度間隔に形成されている。第2円環部48の円環状端面48bは負荷側部材35が同軸に固定される負荷取付け面となっており、負荷側部材締結用のボルト穴が形成されている。
【0028】
ここで、内歯歯車31と、内輪44と、起歪体46の第1円環部47とが、一体形成されている。換言すると、これら3部材が単一部品として製作されている。すなわち、起歪体46の第1円環部47の円形外周面には内輪44の軌道溝44aが形成されており、第1円環部47の円形内周面において、中心軸線30aの方向における一方の端の側の部位はリブ49が繋がっており、他方の端の側の部位には、内歯31dが形成されている。
【0029】
回転側部材である内歯歯車31および内輪44として機能する第1円環部47、および負荷側部材に取り付ける第2円環部48は、それぞれ剛体である。これに対して、リブ49は、予め設定した弾性特性を備えている。負荷側部材から内歯歯車31に作用するトルクは起歪体46を介して伝達される。リブ49の弾性特性を適切に設定しておくことで、伝達トルクの大きさに応じた歪がリブ49に生じる。リブ49の表面には、歪ゲージ50等の歪検出素子が貼り付けられる。歪ゲージ50から出力される検出信号に基づきトルクが検出される。
【0030】
このように、本例の波動歯車装置30においては、起歪体46の内周側の部位である第1円環部47は、円形外周面にV形の軌道溝44aが形成された内輪44であると共に、円形内周面に内歯31dが形成された内歯歯車31でもある。起歪体46と内輪44と内歯歯車31の3部材が、単一部品として製作されている。
【0031】
したがって、本例の軸受装置41を用いれば、起歪体46を取り付けるためのスペースを別途、確保する必要がない。また、起歪体46、内輪44、および内歯歯車31が一体化されているので、起歪体46を組み込むための追加部品、締結金具も不要になる。よって、装置の小型、コンパクト、軽量化に有利である。
【0032】
さらに、起歪体46、内輪44、および内歯歯車31が単一部品として製作されているので、3部品を組み付ける場合に生じる組付け精度の低下等の弊害を回避できる。また、材料の違いによって生じる部品間の熱的な歪もなくなる。よって、トルク検出精度の向上を期待できる。