(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】高脂肪ヒト乳製品を使用する気管支肺異形成症の予防及び治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/20 20060101AFI20230213BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
A61K35/20
A61P11/00
(21)【出願番号】P 2017534789
(86)(22)【出願日】2015-12-30
(86)【国際出願番号】 US2015068050
(87)【国際公開番号】W WO2016109659
(87)【国際公開日】2016-07-07
【審査請求日】2018-12-20
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-27
(32)【優先日】2014-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509056489
【氏名又は名称】プロラクタ バイオサイエンス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】リー,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】エルスター,スコット
(72)【発明者】
【氏名】フォーネル,ジョセフ
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】鳥居 敬司
【審判官】原田 隆興
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5340603号明細書(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0272027号明細書(US,A1)
【文献】特表2010-502186号公報(JP,A)
【文献】特開2010-126495号公報(JP,A)
【文献】メルクマニュアル 第18版 日本語版, 日経BP社,2007年4月25日,初版第3刷,p.2441-2442
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
CAPlus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気管支肺異形成症(BPD)
と診断された乳児における1つ以上の臨床転帰
を改善するためのヒト乳組成物であって、前記ヒト乳組成物が、低温殺菌ヒト乳クリーム組成物で強化されており、前記低温殺菌ヒト乳クリーム組成物が、2.0kcal/mL~3.0kcal/mLを含み、前記
強化したヒト乳組成物が、1.08kcal/mL~1.35kcal/mLを含む、ヒト乳組成物。
【請求項2】
前記低温殺菌ヒト乳クリーム組成物が、25%の脂肪および2.5kcal/mLを含む、請求項1に記載のヒト乳組成物。
【請求項3】
前記低温殺菌ヒト乳クリーム組成物で強化したヒト乳組成物が、経腸的に投与される、請求項1に記載のヒト乳組成物。
【請求項4】
前記改善された臨床転帰が、病院でのより短い入院期間および/または退院時におけるより早い月経後年齢である、請求項1に記載のヒト乳組成物。
【請求項5】
気管支肺異形成症(BPD)
と診断された乳児における1つ以上の臨床転帰
を改善するための標準化高脂肪ヒト乳組成物であって、前記標準化高脂肪ヒト乳組成物が、1.5g/100kcal~3.0g/100kcalのタンパク質対エネルギー比を含み、前記標準化高脂肪ヒト乳組成物が、1.08kcal/mL~1.35kcal/mLを含む、標準化高脂肪ヒト乳組成物。
【請求項6】
前記標準化高脂肪ヒト乳組成物が、1.8g/100kcal~2.8g/100kcalのタンパク質対エネルギー比を含む、請求項5に記載の標準化高脂肪ヒト乳組成物。
【請求項7】
前記標準化高脂肪ヒト乳組成物が、経腸的に投与される、請求項5に記載の標準化高脂肪ヒト乳組成物。
【請求項8】
前記改善された臨床転帰が、病院でのより短い入院期間および/または退院時におけるより早い月経後年齢である、請求項5に記載の標準化高脂肪ヒト乳組成物。
【請求項9】
気管支肺異形成症(BPD)
と診断された乳児に栄養源を提供するための標準化高脂肪ヒト乳組成物であって、1.5g/100kcal~3.0g/100kcalのタンパク質対エネルギー比を含み、前記標準化高脂肪ヒト乳組成物が、1.08kcal/mL~1.35kcal/mLを含む、標準化高脂肪ヒト乳組成物。
【請求項10】
1.8g/100kcalのタンパク質対エネルギー比を含む、請求項9に記載の標準化高脂肪ヒト乳組成物。
【請求項11】
1.28kcal/mL、23mg/mLのヒト乳タンパク質及び97mg/mLのヒト乳脂肪を含む、請求項10に記載の標準化高脂肪ヒト乳組成物。
【請求項12】
2.34g/100kcalのタンパク質対エネルギー比を含む、請求項9に記載の標準化高脂肪ヒト乳組成物。
【請求項13】
1.28kcal/mL、30mg/mLのヒト乳タンパク質及び94mg/mLのヒト乳脂肪を含む、請求項12に記載の標準化高脂肪ヒト乳組成物。
【請求項14】
2.16g/100kcalのタンパク質対エネルギー比を含む、請求項9に記載の標準化高脂肪ヒト乳組成物。
【請求項15】
1.08kcal/mL、23mg/mLのヒト乳タンパク質及び74mg/mLのヒト乳脂肪を含む、請求項14に記載の標準化高脂肪ヒト乳組成物。
【請求項16】
2.77g/100kcalのタンパク質対エネルギー比を含む、請求項9に記載の標準化高脂肪ヒト乳組成物。
【請求項17】
1.08kcal/mL、30mg/mLのヒト乳タンパク質及び71mg/mLのヒト乳脂肪を含む、請求項16に記載の標準化高脂肪ヒト乳組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年12月30日出願の米国仮特許出願第62/098,151号の優先権を主張し、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
技術分野
【0002】
本開示は、概して、標準化ヒトクリーム組成物等の高脂肪ヒト乳製品、該組成物の生産方法、及び該組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒト乳は、未熟児のための理想的な栄養源であり、宿主防御、消化管成熟、感染率、神経発達転帰、及び長期心血管及び代謝疾患において利点を提供する(Schanler,R.J.,Outcomes of human milk-fed premature infants.Semin Perinatol,2011.35(1):p.29-33)。専用ヒト乳(HM)ベースのダイエットは、壊死性腸炎(NEC)、敗血症、非経口栄養の日数、及び死亡の割合を著しく減少させる(Sullivan,S.,et al.,An exclusively human milk-based diet is associated with a lower rate of necrotizing enterocolitis than a diet of human milk and bovine milk-based products.J Pediatr,2010.156(4):p.562-567.e1、Cristofalo,E.A.,et al.,Randomized trial of exclusive human milk versus preterm formula diets in extremely premature infants.The Journal of Pediatrics,2013(163):p.1592-1595、Abrams,S.A.,et al.,Greater Mortality and Morbidity in Extremely Preterm Infants Fed a Diet Containing Cow Milk Protein Products.Breastfeeding Medicine,2014.9(6):p.281-285)。米国小児科学会は、母乳またはドナーヒト乳が、全ての極低出生体重(VLBW)児(1250g未満)のための経腸栄養の基礎として使用されるべきであると推奨している(Breastfeeding,A.A.o.P.S.o.,Breastfeeding and the use of human milk.Pediatrics,2012.129(3):p.e827-e841)。そのような乳児のための専用HMベースのダイエットには、母乳、ドナーHM、及び低温殺菌ドナーHM由来強化剤(Prolact+H2MF,Prolacta Bioscience,Industry,CA)が含まれる。
【0004】
気管支肺異形成症(BPD)は、主に未熟児に影響を及ぼし、成長障害及び死亡につながり得る疾患である。毒性酸素レベル、人工呼吸器誘発肺損傷、ならびに炎症性サイトカイン及び細胞毒性酵素、例えば、プロテアーゼ及びエラスターゼの放出を含む、複数の因子がBPDの病態生理学に関与する。肺の早期発達における傷害は、肺胞及び血管成長の停止につながり、より少なく大きい肺胞及びより少ない末梢血管をもたらす。BPDと闘うための療法には、薬理学的治療、肺保護的人工呼吸器戦略、及び栄養介入が含まれる。しかし、BPDを緩和するための戦略もまた、望まれない副作用を創出し得る。酸素、利尿剤、気管支拡張剤、及びステロイド等の薬理学的治療は、一時的な利点をもたらすに過ぎず、より長期の入院、電解質平衡異常、頻脈、及び高血糖を含む、許容されない結果を有し得る(Baveja,R.and Christou,H.Pharmacological Strategies in the Prevention and Management of Bronchopulmonary Dysplasia.Seminars in Perinatology,2006.30:209-218)。
【0005】
BPDを有する乳児における成長障害は、そのような乳児が、肺憎悪中に授乳レジメンの中断を経験する場合が多いため、主に栄養失調に起因する(Biniwale,M.A.and R.A.Ehrenkranz,The Role of Nutrition in the Prevention and Management of Bronchopulmonary Dysplasia.Seminars in Perinatology,2006.30(4):p.200-208)。該乳児は、体温調節及び身体活動を維持する一方で、呼吸仕事量を促進し、増幅した代謝率を支持し、新たな組織を生成するために、増加したエネルギー消費も経験する(Theile,A.,et al.,Nutritional Strategies and Growth in Extremely Low Birth Weight Infants with Bronchopulmonary Dysplasia Over the Past 10 years.Journal of Perinatology,2012.32:p.117-122)。したがって、BPDを発症する乳児は、同年齢対照より20~40%多くのカロリーを必要とし得る。故に、最適な栄養を提供することが、BPD集団に有効な療法の一部として必須である。
【0006】
強化していないヒト乳は、低出生体重(LBW)または極低出生体重(VLBW)児、特にBPDを有するか、またはBPDを発症する危険性のある乳児の栄養必要量を満たさない。最近のデータは、ヒト乳のエネルギー含有量が、多くの場合、20kcal/ozの一般に許容される値を下回ることを示した(Wojcik,K.Y.,et al.,Macronutrient analysis of a nationwide sample of donor breast milk.Journal of the American Dietetic Association,2009.109(1):p.137-140、Vieira,A.A.,et al.,Analysis of the influence of pasteurization,freezing/thawing,and offer processes on human milk’s macronutrient concentrations.Early Human Development,2011.87(8):p.577-580)。結果として、予想されるエネルギー及び栄養素含有量は、その期間を占めるかなりの割合で達成されない。一般的なVLBW児集団と比較して、BPD児集団の増加したエネルギー及び多量栄養素要件に起因して、BPD児の余剰カロリーを提供する能力は、この肺疾患の管理における治療的介入に対する重要なステップとなる。
【0007】
ヒト乳のカロリー含有量を増加させる以前の努力は、増加したタンパク質含有量に焦点を当ててきたが(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第8,545,920号を参照されたい)、タンパク質濃縮を通じてカロリー含有量を増加させることは、費用と時間のかかるプロセスである。故に、大量のヒト乳タンパク質を精製及び濃縮するために時間と費用をかける必要なく、増加したカロリー濃度を有するヒト乳製剤の必要性が存在する。
【0008】
さらに、水分制限は、肺浮腫を発症する素質に起因して、VLBW児の管理において特に重要である(例えば、Binwale and Ehrenkranz(2006)Semin Perinatol.,30:200-9を参照されたい)。より高い水分摂取は、出生後に細胞外液濃縮のプロセスを阻害し、減少した肺コンプライアンスをもたらし、さらなる人工呼吸器補助を必要とすることで、肺組織を損傷し、疾患を引き起こし得ると仮定されてきた(Oh,et al.J.Pediatr.,147:786-90)。このようにして、生後10日間のより多い水分摂取及びより少ない体重減少が、乳児がBPDを発症する危険性を増加させることが示されてきた。(Wemhonor,et al.,2011)BMC Pulmonary Medicine,11:7)
【0009】
故に、増加した水分摂取に関連する望まれない負の効果を回避する一方で、BPDの発生/重症度を予防及び/または低減するために、VLBW児における栄養失調の問題を解決するために、費用効果のある解決策が必要とされる。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、経腸的に投与され得、ヒト乳のカロリー含有量を増加させることができるが、BPDを有するか、またはBPDを発症する危険性のあるVLBW児に授乳される総量を実質的に増加させない、低温殺菌、高脂肪ヒト乳製品を提供することによって、その問題を解決する。本発明は、乳児、特にBPDを有するか、またはBPDを発症する危険性のあるLBW児及びVLBW児が、増加した成長メトリクス、BPDの発生及び/または重症度の減少、病院での減少した入院期間(LOS)、及びより早い退院時月経後年齢等の改善した臨床転帰を有するのを可能にする。
【0011】
一態様において、本開示は、気管支肺異形成症(BPD)を有するか、またはBPDを発症する危険性のある乳児における、1つ以上の臨床転帰の改善方法を特徴とし、低温殺菌ヒト乳クリーム組成物で強化したヒト乳組成物または乳児用調合乳を、該乳児に投与することを含み、このクリーム組成物は、約2.0kcal/mL~約3.0kcal/mLを含む。一実施形態において、クリーム組成物は、約2.5kcal/mLを含む。一実施形態において、クリーム組成物は、約25%の脂肪を含む。別の実施形態において、クリーム組成物は、ヒト脱脂乳透過液を含む。さらに別の実施形態において、クリーム組成物は、脱イオン水を含む。一実施形態において、BPDを有するか、またはBPDを発症する危険性のある乳児における1つ以上の臨床転帰の改善方法は、強化したヒト乳組成物を経腸的に投与することをさらに含む。
【0012】
一実施形態において、低温殺菌ヒトクリーム組成物で強化したヒト乳組成物は、乳児の母親に由来する。別の実施形態において、強化されるべきヒト乳組成物は、ドナー乳である。別の実施形態において、強化されるべきヒト乳組成物は、調乳済み標準化ヒト乳製剤である。一実施形態において、調乳済み標準化ヒト乳製剤は、Prolact HM(商標)またはPremieLact(商標)である。さらに別の実施形態において、低温殺菌ヒトクリーム製剤で強化されるべきヒト乳組成物は、タンパク質含有強化剤でも強化される。一実施形態において、高タンパク質強化剤は、Prolact+(商標)ヒト乳強化剤である。
【0013】
一実施形態において、低温殺菌ヒトクリーム組成物で強化したヒト乳組成物は、約30~約40Cal/ozを含む混合組成物をもたらす。一実施形態において、混合ヒト乳組成物は、約32Cal/ozを含む。別の実施形態において、混合ヒト乳組成物は、約38Cal/ozを含む。一実施形態において、混合ヒト乳組成物は、約32Cal/ozを含み、約2.16gタンパク質/100kcalのタンパク質対エネルギー(PE)比を有する。一実施形態において、約2.16g/100kcalのPE比を有する32Cal/ozの混合ヒト乳組成物は、約23mg/mLのタンパク質、80mg/mLの炭水化物、及び74mg/mLの脂肪を含む。一実施形態において、混合ヒト乳組成物は、約32Cal/ozを含み、約2.8g/100kcalのPE比を有する。一実施形態において、約2.8g/100kcalのPE比を有する32Cal/ozの混合ヒト乳組成物は、約30mg/mLのタンパク質、80mg/mLの炭水化物、及び約71mg/mLの脂肪を含む。一実施形態において、混合ヒト乳組成物は、約38Cal/ozを含み、約1.8g/100kcalのPE比を有する。一実施形態において、38Cal/oz及び約1.8g/100kcalのPE比を含む混合ヒト乳組成物は、約23mg/mLのタンパク質、80mg/mLの炭水化物、及び約97mg/mLの脂肪を含む。一実施形態において、38Cal/ozを含む混合ヒト乳組成物は、約2.3g/100kcalのPE比を有する。一実施形態において、38Cal/ozを含み、約2.3g/100kcalのPE比を有する混合ヒト乳組成物は、約30mg/mLのタンパク質、80mg/mLの炭水化物、及び約94mg/mLの脂肪を含む。
【0014】
一態様において、ヒト乳組成物は、約30~約40Cal/ozを含む、調乳済み標準化高脂肪ヒト乳組成物として製剤化されてもよい。一実施形態において、ヒト乳組成物は、約32Cal/ozを含む。別の実施形態において、標準化高脂肪ヒト乳組成物は、約38Cal/ozを含む。一実施形態において、標準化高脂肪ヒト乳組成物は、約32Cal/ozを含み、約2.16gタンパク質/100kcalのタンパク質対エネルギー(PE)比を有する。一実施形態において、約2.16g/100kcalのPE比を有する32Cal/ozの標準化高脂肪ヒト乳組成物は、約23mg/mLのタンパク質、80mg/mLの炭水化物、及び74mg/mLの脂肪を含む。一実施形態において、標準化高脂肪ヒト乳組成物は、約32Cal/ozを含み、約2.8g/100kcalのPE比を有する。一実施形態において、約2.8g/100kcalのPE比を有する32Cal/ozの標準化高脂肪ヒト乳組成物は、約30mg/mLのタンパク質、80mg/mLの炭水化物、及び約71mg/mLの脂肪を含む。一実施形態において、標準化高脂肪ヒト乳組成物は、約38Cal/ozを含み、約1.8g/100kcalのPE比を有する。一実施形態において、38Cal/oz及び約1.8g/100kcalのPE比を含む標準化高脂肪ヒト乳組成物は、約23mg/mLのタンパク質、80mg/mLの炭水化物、及び約97mg/mLの脂肪を含む。一実施形態において、標準化高脂肪ヒト乳組成物は、約38Cal/ozを含み、約2.3g/100kcalのPE比を有する。一実施形態において、38Cal/ozを含み、約2.3g/100kcalのPE比を有する標準化高脂肪ヒト乳組成物は、約30mg/mLのタンパク質、80mg/mLの炭水化物、及び約94mg/mLの脂肪を含む。
【0015】
一部の実施形態において、標準化高脂肪ヒト乳組成物は、カルシウム、塩化物、銅、鉄、マグネシウム、マンガン、リン、カリウム、セレニウム、ナトリウム、及び亜鉛からなる群から選択される1つ以上の構成要素をさらに含んでもよい。
【0016】
一態様において、強化したヒト乳組成物を投与された、PBDを有するか、またはBPDを発症する危険性のある乳児の改善された臨床転帰は、病院でのより短い入院期間である。一実施形態において、病院での入院期間は、低温殺菌ヒトクリーム組成物で強化したヒト乳組成物を投与された乳児において、少なくとも約5日短い。別の実施形態において、入院期間は、少なくとも約10日短い。別の実施形態において、入院期間は、低温殺菌ヒトクリーム組成物で強化したヒト乳組成物を投与された乳児において、少なくとも約15日短い。さらに別の実施形態において、入院期間は、低温殺菌ヒトクリーム組成物で強化したヒト乳組成物を投与された乳児において、少なくとも約20日短い。
【0017】
別の実施形態において、強化したヒト乳組成物を投与された、PBDを有するか、またはBPDを発症する危険性のある乳児の改善された臨床転帰は、退院時におけるより早い月経後年齢である。一実施形態において、退院時月経後年齢は、低温殺菌ヒトクリーム組成物で強化したヒト乳組成物を投与された乳児において、少なくとも約1週間早い。別の実施形態において、退院時月経後年齢は、低温殺菌ヒトクリーム組成物で強化したヒト乳組成物を投与された乳児において、少なくとも約3週間早い。別の実施形態において、退院時月経後年齢は、低温殺菌ヒトクリーム組成物で強化したヒト乳組成物を投与された乳児において、少なくとも約6週間早い。
【0018】
別の実施形態において、改善した臨床転帰は、成長メトリクスの増加である。一実施形態において、増加した成長メトリクスは、体長の増加である。別の実施形態において、増加した成長メトリクスは、体重の増加であり、これは体重が標準を下回る場合に特に重要である。別の実施形態において、増加した成長メトリクスは、頭囲の増加である。一実施形態において、増加した成長メトリクスは、体長及び体重両方の増加である。別の実施形態において、増加した成長メトリクスは、体長及び頭囲両方の増加である。一実施形態において、増加した成長メトリクスは、体重及び頭囲両方の増加である。一実施形態において、増加した成長メトリクスは、体長、体重、及び頭囲の3つ全ての増加である。
【0019】
一部の実施形態において、本発明の組成物は、BPDを発症する危険性のある乳児において、BPDを予防する際に有用である。一部の実施形態において、BPDを発症する危険性のある乳児は、低出生体重児である。一部の実施形態において、BPDを発症する危険性のある乳児は、極低出生体重児である。一部の実施形態において、本発明の組成物は、BPDを診断された乳児において、PBDの期間及び/または重症度を減少させるのに有用である。一部の実施形態において、BPDを有する乳児の特定/診断方法、さらに本明細書に記載される高脂肪組成物を乳児に与えることによる、BPDの期間及び/または重症度の減少方法が提供される。一部の実施形態において、BPDの期間及び/または重症度の減少は、改善した臨床転帰に関連する。一部の実施形態において、改善した臨床転帰は、病院での減少した入院期間である。一部の実施形態において、改善した臨床転帰は、退院時におけるより早い月経後年齢である。一部の実施形態において、改善した臨床転帰は、増加した体重、体長、または頭囲のうちの1つ以上である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
「未熟」、「早産」、及び「低出生体重(LBW)」児という用語は、同義的に使用され、妊娠37週未満及び/または2500g未満の出生体重で産まれた乳児を指す。具体的に、「極低出生体重(VLBW)」児は、出生体重が1250g以下の乳児を指す。したがって、「LBW児」という用語は、VLBW児を含む。
【0022】
「全乳」という用語は、脂肪が除去されていない乳を指す。
【0023】
「バイオバーデン」とは、乳中に存在し得る微生物学的汚染物質及び病原体(一般に生きている)、例えば、ウイルス、細菌、カビ、真菌等を意味する。
【0024】
「気管支肺異形成症」または「BPD」という用語は、低出生体重児が、肺組織の異常発達を伴う危険性のある病態を指す。それは、肺内の炎症及び瘢痕を特徴とする。BPDを有する乳児は、酸素療法を必要とする場合があり、典型的に、成長を維持及び/または増加させるために、BPDのないVLBW乳児より多くのカロリーを必要とする。
【0025】
「脳室内出血」または「IVH」という用語は、脳室または水分で満たされた領域への出血を指す。この病態は、未熟で産まれた乳児において最も頻繁に起こる。
【0026】
「壊死性腸炎」または「NEC」という用語は、未熟児の間で一般かつ深刻な腸疾患を指す。NECは、小腸または大腸内の組織が損傷されるか、または死滅し始めるときに起こり、恐らくは、出生時の腸への過小な酸素または血流、未発達の腸、腸内壁への損傷、腸内細菌の重成長、及び人工栄養等の原因に起因する。一旦損傷されると、腸が老廃物を保持できず、細菌及び他の老廃物の、乳児の血流または腹腔への漏出、ならびに考えられる後次感染につながり得る。
【0027】
「動脈管開存」または「PDA」は、出生前に血液が乳児の肺を周回するのを可能にする血管である、動脈管が閉じない病態である。通常、それは乳児の肺が空気で満たされる出生後約数日は閉じている。PDAは、血液を心臓から運ぶ2つの主要な血管である、大動脈と肺動脈との間に異常な血流を引き起こす。
【0028】
「月経後年齢」または「PMA」という用語は、最後の月経期間の最初の日と出産との間に経過した期間(妊娠期間)プラス出産後に経過した期間(暦年齢)である。
【0029】
「呼吸窮迫症候群」または「RDS」は、乳児が呼吸するのを困難にする病態を指す。この呼吸困難は、未発達の肺に起因し得る。未発達の肺は、界面活性物資を欠乏し得る。界面活性物資は、肺を空気で満たし、気嚢の収縮を防ぐのを助ける滑りやすい物質である。
【0030】
「敗血症」という用語は、感染の潜在的に生命を脅かす合併症を指す。敗血症は、感染と闘うために血流に放出された化学物質が、身体全体にわたって炎症応答を誘発するときに起こる。この炎症は、多臓器系を損傷し得、それらの不全を引き起こす一連の変化を誘発し得る。
【0031】
「混合ヒト乳組成物」または「混合組成物」または「混合製剤」または「混合」として示される任意のヒト乳製品は、乳児への授乳において使用するために、強化剤(例えば、ヒトクリーム強化剤)が別個の乳製剤と混合された組成物を意味する。一部の実施形態において、本明細書に記載される強化剤は、乳児の母乳、ドナー乳、標準化調乳済みヒト乳製剤、または他のヒトもしくは非ヒト乳もしくは乳児用調合乳と混合されてもよい。したがって、「混合組成物」は、調乳済み組成物である。
【0032】
本明細書で使用される場合、「調乳済み」という用語は、ヒト乳製剤/組成物を説明するために使用されるとき、乳児に授乳する準備ができている乳を指す(すなわち、強化剤ではない)。一部の実施形態において、調乳済み組成物は、強化剤をドナー乳、母乳、または他の標準化乳製剤と混合することによって作製される。一部の実施形態において、調乳済み組成物は、貯留されたヒト乳提供物から直接製剤化され、追加の混合なく授乳する準備ができている形態で乳児に提供される。貯留されたヒト乳提供物から直接製剤化されたかかる調乳済み製剤は、「標準化ヒト乳製剤」とも称される。これらの製剤は、特定(すなわち、標準化)レベルの構成要素(すなわち、脂肪、タンパク質、及び炭水化物)を含有するため、「標準化」される。故に、本明細書で使用される場合、「標準化高脂肪ヒト乳製剤」または「高脂肪標準化ヒト乳製剤」は、その製剤をヒト乳提供物から生産することによって直接作製された調乳済み製剤である。「調乳済み高脂肪製剤」は、高脂肪強化剤を調乳済み乳(母乳、ドナー乳、または他の標準化乳製剤)と混合することから作製されるか、またはヒト乳提供物から直接作製されるかのいずれかである。
【0033】
本明細書で使用される場合、「強化剤」は、調乳済み製剤になるように別の乳製剤(ヒトまたは他)に添加される任意のヒト乳組成物を意味する。
【0034】
本明細書で引用される全ての特許、特許出願、及び参考文献は、参照によりそれら全体が組み込まれる。別途定義されない限り、本明細書で使用される技術的及び科学的用語は、当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0035】
本明細書で注目される組成物及び方法は、ヒト乳クリーム製品に関する。ヒト乳(例えば、母親またはドナー)を補充することの理論的根拠は、著しく早まって出産した母親からの乳が、正期産児に対して、そのような乳児の増加した代謝及び成長の必要性を完全に満たすために適切な栄養素含有量を有しないという発見に由来する(Hawthorne et al.,Minerva Pediatr,56:359-372,2004、Lawrence and Lawrence,Breastfeeding:A Guide for the Medical Profession,6th edition.Philadelphia:Elsevier Mosby,2005、及びZiegler,Human Milk for the Preterm Infant,International Congress of the Human Milk Banking Association of North America.Alexandria,VA,2005)。
【0036】
興味深いことに、いわゆる「早産乳」は、正期に出産した母親からの乳より高いレベルのタンパク質を含有し得る(Hawthorne et al.,Minerva Pediatr,56:359-372,2004、Lawrence and Lawrence,Breastfeeding:A Guide for the Medical Profession,6th edition.Philadelphia:Elsevier Mosby,2005、及びZiegler,Human Milk for the Preterm Infant,International Congress of the Human Milk Banking Association of North America.Alexandria,VA,2005)。しかし、これらのレベルは、特に新生児集中治療前の数日間に生存しないと定められる大きさの乳児において、適切な初期レベル以上の成長及び発達を保証するには依然として不適切である。これらの上昇した栄養レベルが、比較的短命であり、「早産乳」が、直ぐに正期乳と区別がつかなくなる場合もある。故に、そのような乳児の1日の授乳量の栄養素含有量が、カロリー及びタンパク質等の主要成分の許容されるレベルを満たすことが重要である。
【0037】
しかしながら、乳児に供給されるヒト乳のカロリー含有量は、めったに測定されない。Wocjikらによって行われた研究(J Am Diet Assoc,109:137-140,2009)により示されるように、LBW児及びVLBW児に供給されるヒト乳が、多くの場合、早産児の栄養必要量を満たすのに十分な量のカロリーを提供しない可能性が高い。Wocjikら(2009)は、ドナー母乳の全国試料の平均エネルギー含有量が、19kcal/ozであり、試料の25%が、17.3kcal/ozを下回り、試料の65%が、20kcal/ozを下回ったことを見出した。ドナー乳及び母乳の両方に関する別の同様の解析は、多くの試料が、早産乳組成物に推奨される値を下回る栄養素含有量を有していたことを示し、79%が4g/dL未満の脂肪含有量を有し、56%が1.5g/dL未満のタンパク質含有量を有し、67%が67kcal/dL未満のエネルギー密度を有していたことを示した(De Halleux V,Rigo J.Variability in human milk composition:benefit of individualized fortification in very-low-birth-weight infants.Am J Clin Nutr 2013;98:529S-35S)。さらに、強化していないヒト乳のミネラル含有量は、多くの場合、未熟児のより高い栄養素必要量を満たすには不十分である(Schanler,2011)。本明細書に記載される高脂肪ヒト乳組成物は、この問題に対する解決策を提供し、例えば、乳児、例えば、BPDを有するLBW児に授乳される量を増加させることなく、カロリー含有量を所望のレベルまで増加させるために、ヒト乳を補充するように使用され得る。これは、増加したタンパク質含有量ではなく、増加したカロリー摂取が、必要な全てである場合に特に有用である。本発明の組成物は、タンパク質を増加させることなく、カロリーを増加させることによってこの問題を解決し、したがって、この問題に対する費用効果の高い解決策を提供する。
【0038】
代替的に、高脂肪標準化ヒト乳組成物は、貯留されたドナー乳から加工された調乳済み製剤として作製されてもよく、故に、母乳、ドナー乳、及び/または他の標準化乳製剤との精密な混合の要件を打ち消す。これらの高脂肪調乳済みヒト乳組成物は、そのような乳児に授乳される脂肪、タンパク質、炭水化物の量及び水分量を厳密に制御することができる。
【0039】
栄養を静脈内提供し、消化管路をバイパスするプロセスである総非経口栄養(TPN)が、LBW児に授乳するために使用される場合が多い。しかしながら、TPNは、例えば、高血糖、低血糖、脂質生成、肝臓合併症(例えば、脂肪肝及び胆汁うっ滞)、敗血症、ならびに血栓を含む、いくつかの潜在的合併症に関連する。具体的に、LBW児の高脂肪及び高タンパク質要件は、栄養が非経口的に受容される場合、肝機能不全をもたらす傾向がある。したがって、TPNに関連する負の効果を回避するために、TPNではなく経腸栄養をできる限り早く乳児に提供することが望ましい。本明細書に記載される高脂肪ヒト乳組成物を使用して、ヒト乳のカロリー含有量及び脂肪含有量を増加させることができ、それにより、ヒト乳脂肪の経腸送達のための手段を提供する。完全ヒト乳に基づくダイエットを維持することは、壊死性腸炎等の合併症の発生を低減し、したがって、高脂肪ヒト乳製品で補充したヒト乳の経腸授乳が、TPNの代わりに使用され得ることが企図される。
【0040】
気管支肺異形成症(BPD)は、肺組織の異常発達を伴う。それは、肺内の炎症及び瘢痕を特徴とする。未熟に生まれた故に未発達の肺を有するか、または生後間もなく呼吸器系の問題を経験する赤ん坊は、時に慢性肺疾患と呼ばれる気管支肺異形成症(BPD)の危険性がある。BPDを有する乳児の成長障害は、主に栄養失調に起因する。BPDを発症する乳児は、同年齢対照より20~40%多くのカロリーを必要とする(Binwale and Ehrenkranz,2006及びTheile et al,2012)。増加したカロリー必要量にも関わらず、BPD等の併存症を有する乳児は、より重篤な病状に起因して、生後7日間に健康な比較対象より多くの水分及び少ないエネルギーを受容する(Ehrenkranz RA.Ongoing issues in the intensive care for the periviable infant-Nutritional management and prevention of bronchopulmonary dysplasia and nosocomial infections.Semin Perinatol 2014;38:25-30)。この傾向は、生後少なくとも5週間まで延長することが示されてきた(Ehrenkranz RA.Early,Aggressive Nutritional Management for Very Low Birth Weight Infants:what is the Evidence?Semin Perinatol 2007;31:48-55)。次いで、この疾患を管理するための水分制限、利尿剤、及び出生後ステロイドの必要性によって、その後の栄養及び成長がさらに損なわれ(Theile et al,2012)、授乳のエネルギー密度を最も重要にする。
【0041】
ヒトクリーム組成物
本明細書に記載される高脂肪ヒト乳強化剤組成物、またはヒトクリーム強化剤組成物は、ヒト全乳から生産される。一実施形態において、ヒトクリーム組成物は、1mL当たり約2.0kcal~約3.0kcal以上を含む。好ましい実施形態において、ヒトクリーム組成物は、約2.5kcal/mLを含む。ヒトクリーム組成物は、約18%~約30%以上の脂肪(すなわち、脂質)を含み得ることが企図される。一実施形態において、ヒトクリーム組成物は、約25%の脂肪を含む。
【0042】
本明細書に記載されるヒトクリーム組成物は、所望のカロリー含有量及び/または所望の含脂率を有するために、1つ以上の追加の成分を含んでよいことが企図される。したがって、一実施形態において、ヒトクリーム組成物は、添加されたヒト脱脂乳透過液を含む。脱脂乳透過液(「透過液」)は、ヒト脱脂乳の超濾過によって生成された液体である。透過液は、貴重なヒト乳オリゴ糖を含有する。ヒトクリーム組成物に添加される透過液は、濃縮され得るか、希釈され得るか、または未希釈のままであり得る。別の実施形態において、ヒトクリーム組成物は、高脂肪ヒト乳に加えて、脱イオン(DI)水を含む。
【0043】
一般に、ヒトクリーム組成物は、保管及び/または出荷のために冷凍され、使用前に解凍される。
【0044】
一部の実施形態において、ヒトクリーム強化剤は、母乳、ドナーヒト乳、または標準化ヒトもしくは非ヒト乳と混合されて、約30~約40Cal/ozを送達することができる混合組成物を生成する。一部の実施形態において、混合組成物は、約32Cal/ozを送達し、約2.16g/100kcalのタンパク質対エネルギー比を有する。かかる実施形態において、混合ヒト乳組成物は、およそ23mg/mLのタンパク質及び約74mg/mLの脂肪を送達する。別の実施形態において、混合組成物は、約32Cal/ozを送達し、約2.77g/100kcalのタンパク質対エネルギー比を有する。かかる実施形態において、混合ヒト乳組成物は、およそ30mg/mLのタンパク質及び約71mg/mLの脂肪を送達する。別の実施形態において、混合組成物は、約38Cal/ozを送達し、約1.82g/kcalのタンパク質対エネルギー比を有する。かかる実施形態において、混合ヒト乳組成物は、約23mg/mLのタンパク質及び約97mg/mLの脂肪を送達する。別の実施形態において、混合組成物は、約38Cal/ozを送達し、約2.34g/kcalのタンパク質対エネルギー比を有する。かかる実施形態において、混合ヒト乳組成物は、約30mg/mLのタンパク質及び約94mg/mLの脂肪を送達する。
【0045】
一部の実施形態において、本発明のヒトクリーム強化剤を混合することに加えて、上記の混合組成物になるように、US8,545,920に記載されるもの等のヒト乳強化剤が、母乳、ドナー乳、または他の標準化ヒトもしくは非ヒト調合乳と混合されてもよい。
【0046】
高脂肪標準化ヒト乳組成物
本発明に従い、正常なタンパク質強化レベルを超えてタンパク質含有量を実質的に増加させることなく、高レベルのヒト脂肪、したがって総カロリーを送達するように製剤化される、標準化ヒト乳組成物も提供される。これらの標準化ヒト乳製剤は、貯留されたヒト乳から作製され、一般に30~40Cal/ozを送達し、約1.5g/100kcal~約3.0g/100kcalの範囲のタンパク質対エネルギー比を有する。より具体的には、PE比は、約1.8g/100kcal~2.8g/100kcalの範囲である。ある特定の実施形態において、標準化ヒト乳組成物は、約70~約100mg/mLの脂肪、及び約20~約30mg/mLのタンパク質を送達する。これらの実施形態において、標準化ヒト乳組成物は、およそ80mg/mLの炭水化物も送達する。例示的な標準化ヒト乳組成物を表1に提供する。
表1:例示的な標準化ヒト乳組成物
【表1】
【0047】
注目される組成物の特定成分
本明細書で注目される乳組成物の1つの成分は、タンパク質である。体内で、タンパク質は、成長、酵素及びホルモンの合成、ならびに皮膚、尿、及び便から失われたタンパク質の置換に必要とされる。これらの代謝プロセスは、授乳中のタンパク質の総量及び特定アミノ酸の相対量両方の必要性を決定する。被検体のための授乳中のタンパク質の量及び種類の適切性は、成長、窒素吸収及び保持、血漿アミノ酸、ある特定の血液検体、ならびに代謝応答を測定することによって決定される。
【0048】
本明細書に記載される乳組成物の別の構成要素は、脂肪である。脂肪は、一般に、その高カロリー密度だけでなく、溶液中のその低浸透圧活性のために、被検体のためのエネルギー源である。
【0049】
ビタミン及びミネラルは、被検体の適切な栄養及び発達に重要である。被検体は、成長のため、及び酸-塩基均衡のために、電解質、例えば、ナトリウム、カリウム、及び塩化物を必要とする。これらの電解質の十分な摂取は、尿及び便中、ならびに皮膚からの喪失の置換にも必要とされる。カルシウム、リン、及びマグネシウムは、適切な骨石灰化及び成長に必要とされる。
【0050】
微量元素は、細胞分裂、免疫機能、及び成長に関連する。結果として、十分な量の微量元素は、被検体の成長及び発達に必要とされる。重要ないくつかの微量元素には、例えば、銅、マグネシウム、及び鉄(例えば、ヘモグロビン、ミオグロビン、及び鉄含有酵素の合成に重要である)が含まれる。亜鉛は、例えば、成長のため、多くの酵素の活性のため、ならびにDNA、RNA、及びタンパク質の合成のために必要とされる。銅は、例えば、いくつかの重要な酵素の活性に必須である。マンガンは、例えば、骨及び軟骨の発達に必要であり、多糖類及び糖タンパク質の合成において重要である。したがって、本発明のヒト乳製剤及び組成物は、本明細書に記載されるように、ビタミン及びミネラルで補充され得る。
【0051】
ビタミンAは、例えば、成長、細胞分裂、視力、及び免疫系の適切な機能に必須の脂溶性ビタミンである。ビタミンDは、例えば、カルシウム、及びより低い程度でリンの吸収のため、ならびに骨の発達のために重要である。ビタミンE(トコフェロール)は、細胞内の多価不飽和脂肪酸の過酸化を防止し、故に組織損傷を防止する。葉酸は、例えば、アミノ酸及びヌクレオチド代謝において役割を果たす。
【0052】
上記のように、ヒト乳ビタミン及びミネラル濃度の変化性は、子供がビタミン及びミネラルの適正量を受容することを保証するために、いくらかの強化を必要とする場合が多い。本明細書で注目されるヒト乳組成物に添加され得るビタミン及びミネラルの例には、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビオチン、葉酸、パントテン酸、ナイアシン、m-イノシトール、カルシウム、リン、マグネシウム、亜鉛、マンガネーゼ、銅、セレニウム、ナトリウム、カリウム、塩化物、鉄、及びセレニウムが含まれる。これらの組成物はまた、クロミウム、モリブデン、ヨード、タウリン、カルニチン、及びコリンで補充され得、補充を必要とする場合もある。
【0053】
本明細書で注目される標準化ヒト乳製剤の浸透圧は、組成物の吸着、吸収、及び消化に影響を及ぼし得る。例えば、約400mOsm/Kg H2Oを上回る高い浸透圧は、新生児に影響を及ぼす消化管疾患である、壊死性腸炎(NEC)の増加した割合と関連付けられてきた(例えば、Srinivasan et al.,Arch.Dis.Child Fetal Neonatal Ed.89:514-17,2004)。本開示のヒト乳組成物の浸透圧は、典型的に、約400mOsm/Kg H2O未満である。浸透圧は、当該技術分野において既知の方法によって調整され得る。
【0054】
ヒトクリーム組成物及び高脂肪標準化ヒト乳組成物の作製方法
本明細書に記載されるヒトクリーム組成物及び標準化高脂肪標準化ヒト乳組成物は、ヒト全乳から生産される。ヒト乳は、乳児の母親から、または1人以上のドナーから入手され得る。ある特定の実施形態において、ヒト乳は、ヒト乳の貯留物を提供するために貯留される。例えば、ヒト乳の貯留物は、2人以上(例えば、10人以上)のドナーからの乳を含む。別の例として、ヒト乳の貯留物は、1人のドナーからの2回以上の提供物を含む。
【0055】
ドナー乳の入手
一般に、ヒト乳は、ドナーによって提供され、ドナーは、いかなる乳も加工される前にプレスクリーニングされ、承認される。様々な技法を使用して、好適なドナーを特定及び承認する。潜在的ドナーは、承認プロセスの一部として、自身の担当医及び子供の小児科医からリリースを得なければならない。これは、特に、ドナーが慢性疾患でないこと、及び子供が提供(複数可)の結果として罹患しないであろうことを保証するのを助ける。乳の回収及び分配を承認及び監視するための方法及びシステムは、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許出願第12/728,811号(US2010/0268658)に記載されている。ドナーは、提供に対して補償されてもされなくてもよい。
【0056】
通常、ドナーのスクリーニングには、処方薬及び非処方薬の評価、薬物乱用の検査、及びある特定の病原体に関する検査を含む、包括的ライフスタイル及び病歴質問票が含まれる。ドナー乳または母乳は、例えば、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)、HIV-2、ヒトT-リンホトロピックウイルス1型(HTLV-I)、HTLV-II、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、及び梅毒に関してスクリーニングされ得る。これらの例は、スクリーニングされる全ての考えられる病原体の網羅的一覧であることを意味しない。
【0057】
ドナーは、定期的に再承認され得る。例えば、ドナーが提供を継続することを望む場合、ドナーは、最初の承認において使用されたプロトコルによって、4ヶ月毎にスクリーニングを受ける必要がある。再承認されないか、または承認不合格であるドナーは、承認されるときまで保留されるか、または再承認スクリーニングの結果によって保証される場合は永久に保留される。後者の状況において、そのドナーによって提供された全ての残りの乳は、インベントリーから除去され、破棄されるか、または研究目的でのみ使用される。
【0058】
ドナーは、指定された施設(例えば、母乳バンクオフィス)で提供するか、または好ましい実施形態において、自宅で搾乳することができる。ドナーが自宅で搾乳する場合、例えば、供給された温度計で冷凍庫内の温度を測定して、承認されるために、ヒト乳を保管するのに十分冷たいことを確認する。
【0059】
ドナー識別検査
一旦ドナーが承認されると、乳がドナーにより自宅で搾乳され、母乳バンク施設で収集されない場合があるため、提供されたヒト乳に対してドナー識別マッチングを行ってもよい。特定の実施形態において、各ドナーの乳は、遺伝子マーカー、例えば、DNAマーカーに対してサンプリングされ、乳が真に承認されたドナーからのものであることを保証することができる。かかる被検体識別技法は、当該技術分野において既知である(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、国際出願第PCT/US2006/36827号を参照されたい)。乳は、検査結果を受領するまで保管され(例えば、-20℃以下)、隔離され得る。
【0060】
例えば、本明細書で注目される方法は、潜在的ヒト母乳ドナーから生物学的標準試料を入手するためのステップを含み得る。チークスワブ細胞試料、または採血試料、乳、唾液、毛根、または他の便宜的組織等であるが、これらに限定されないかかる試料は、当該技術分野において既知の方法によって入手され得る。標準ドナー核酸(例えば、ゲノムDNA)の試料は、乳、唾液、頬細胞、毛根、血液、及びインタクトな中間期核または中期細胞を有する任意の他の好適な細胞または組織試料が含まれるが、これらに限定されない任意の便宜的生物試料から単離され得る。試料は、固有の参照番号で標識される。試料は、試料を入手した時点、またはその頃に潜在的ドナーを識別することができる1つ以上のマーカーに関して解析され得る。解析結果は、例えば、コンピュータ可読媒体上に保管され得る。代替的に、または追加的に、後でマーカーを識別するために、試料を保管し、解析することができる。
【0061】
生物学的標準試料は、STR遺伝子座のSTR解析、HLA遺伝子座のHLA解析、または個々の遺伝子/対立遺伝子の複数遺伝子解析等の当該技術分野において既知の方法によって分類されたDNAであり得ることが企図される。標準試料のDNA型プロファイルは、例えば、コンピュータ可読媒体上に記録され、保管される。
【0062】
生物学的標準試料は、当該技術分野において既知の抗体または他の方法を使用して、自己抗原について検査し、自己抗原プロファイルを決定することができることがさらに企図される。抗原(または別のペプチド)プロファイルは、例えば、コンピュータ可読媒体上に記録され、保管され得る。
【0063】
ヒト乳の検査試料を、1つ以上の識別マーカーの識別のために採取する。提供されたヒト乳の試料を、ドナーの標準試料と同じマーカー(複数可)について解析する。生物学的標準試料及び提供された乳のマーカープロファイルを比較する。マーカー間のマッチ(及び任意の追加のマッチしないマーカーの欠失)は、提供された乳が、標準試料を提供した者と同じ個体に由来することを示す。マッチの欠失(または追加のマッチしないマーカーの存在)は、提供された乳が、未検査のドナーに由来するか、または未検査のドナーからの水分で汚染されているかのいずれかであることを示す。
【0064】
提供されたヒト乳試料及び提供された生物学的標準試料は、1つを超えるマーカーについて検査され得る。例えば、各試料は、複数のDNAマーカー及び/またはペプチドマーカーについて検査され得る。しかしながら、両方の試料は、各試料からのマーカーを比較するために、同じマーカーの少なくとも一部について検査される必要がある。
【0065】
故に、標準試料及び提供されたヒト乳試料は、異なる識別マーカープロファイルの存在について検査されてもよい。予想される被検体からの識別マーカープロファイル以外の識別マーカープロファイルが存在しない場合、一般に、提供されたヒト乳を汚染する他のヒトまたは動物からの水分(例えば、乳)が存在しなかったことを示す。該被検体に対して予想されるシグナル以外のシグナルが存在する場合、結果は、汚染を示す。かかる汚染は、その乳を検査不合格にする。
【0066】
標準試料及び提供されたヒト乳の検査は、提供施設及び/または乳加工施設で実行され得る。標準試料検査の結果は保管され、同じドナーによる今後のいかなる提供物に対しても比較され得る。
【0067】
汚染物質のスクリーニング
次いで、乳を病原体について検査する。この乳は、例えば、HIV-1、HBV、及びHCV等のウイルスを識別するために、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、遺伝学的にスクリーニングされ得る。様々な細菌種、真菌、及びカビについて培養を介してスクリーニングする微生物パネルを使用して、汚染物質を検出することもできる。例えば、微生物パネルは、好気性菌数、Bacillius cereus、Escherichia coli、Salmonella、Pseudomonas、大腸菌群、Staphylococcus aureus、酵母、及びカビについて検査することができる。具体的に、B.cereusは、低温殺菌を通じて除去することができない病原性細菌である。病原体のスクリーニングは、低温殺菌前及び低温殺菌後の両方に行われ得る。
【0068】
病原体のスクリーニングに加えて、ドナー乳は、薬物乱用(例えば、コカイン、アヘン、合成オピオイド(例えば、オキシコドン/オキシモルホン)、メタンフェタミン、ベンゾジアゼピン、アンフェタミン、及びTHC)ならびに/または非ヒトタンパク質等の混和物について検査されてもよい。例えば、ELISAを使用して、ウシタンパク質等の非ヒトタンパク質について乳を検査して、例えば、牛乳または牛乳乳児用調合乳が、例えば、ドナーが提供物に対して補償されるときに、提供量を増加させるためにヒト乳に添加されていないことを保証することができる。
【0069】
ドナー乳は、1つ以上の混和物についてスクリーニングすることもできる。混和物には、ヒト乳提供物に添加されて、それにより、提供物がもはや非混和の純粋なヒト乳でなくなる任意の非ヒト乳液または充填剤を含む。スクリーニングされる特定の混和物には、非ヒト乳及び乳児用調合乳が含まれる。本明細書で使用される場合、「非ヒト乳」は、動物、植物、及び合成的に誘導された乳を指す。非ヒト動物乳の例には、バッファロー乳、ラクダ乳、牛乳、ロバ乳、ヤギ乳、ウマ乳、トナカイ乳、ヒツジ乳、及びヤク乳が含まれるが、これらに限定されない。非ヒト植物由来乳の例には、アーモンドミルク、ココナッツミルク、ヘンプミルク、オーツミルク、ライスミルク、及び豆乳が含まれるが、これらに限定されない。乳児用調合乳の例には、牛乳調合乳、大豆調合乳、加水分解物調合乳(例えば、部分的に加水分解された調合乳または全体的に加水分解された調合乳)、及びアミノ酸または元素調合乳が含まれる。牛乳調合乳は、乳製品ベースの調合乳とも称され得る。特定の実施形態において、スクリーニング対象の混和物には、牛乳、牛乳調合乳、ヤギ乳、豆乳、及び大豆調合乳が含まれる。
【0070】
ヒト乳試料中の非ヒト乳タンパク質、例えば、牛乳及び大豆タンパク質を検出するために、当該技術分野において既知の方法が適応され得る。具体的に、ヒト乳中に見出されない、混和物中に見出されるタンパク質に特異的な抗体を用いるイムノアッセイを使用して、ヒト乳試料中のタンパク質の存在を検出することができる。例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、例えばサンドイッチELISAを使用して、ヒト乳試料中の混和物の存在を検出することができる。ELISAは、手動で行われ得るか、または自動化され得る。別の一般的なタンパク質検出アッセイは、ウェスタンブロットまたはイムノブロットである。フローサイトメトリーは、ヒト乳試料中の混和物を検出するために使用され得る、別のイムノアッセイ技法である。ELISA、ウェスタンブロット、及びフローサイトメトリープロトコルは、当該技術分野において周知であり、関連キットが商業的に入手可能である。ヒト乳中の混和物を検出するための別の有用な方法は、赤外線分光分析、具体的には、ミッドレンジフーリエ変換赤外線分光分析(FTIR)である。
【0071】
ヒト乳は、スクリーニング前に貯留され得る。一実施形態において、ヒト乳は、同じ個人からの1つを超える提供物から貯留される。別の実施形態において、ヒト乳は、2人以上、3人以上、4人以上、5人以上、6人以上、7人以上、8人以上、9人以上、または10人以上の個人から貯留される。特定の実施形態において、ヒト乳は、10人以上の個人から貯留される。ヒト乳は、2人以上の個人からのヒト乳を混合することによって、試料を入手する前に貯留されてもよい。代替的に、ヒト乳試料は、それらが入手された後に貯留されてもよく、それにより各提供物の残りを別個に保持する。
【0072】
スクリーニングステップは、混和物が、乳提供物の総量の約20%以上、約15%以上、約10%以上、約5%以上、約4%以上、約3%以上、約2%以上、約1%以上、または約0.5%以上でヒト乳試料中に存在する場合、陽性結果を生じることになる。
【0073】
提供されたヒト乳の、1つ以上の混和物についてのスクリーニングは、提供施設及び/または乳加工施設で実行され得る。
【0074】
混和物を含まないことが決定されたか、または混和物について陰性であると見出されたヒト乳が選択され、保管され、かつ/またはさらに加工され得る。混和物を含有するヒト乳は、破棄されることになり、ドナーは不適格とされ得る。例えば、同じドナーからの1つ以上のヒト乳試料中で混和物が見出される場合、ドナーは不適格とされる。一部の実施形態において、同じドナーからの2つ以上のヒト乳試料中で混和物が見出される場合、ドナーは不適格とされる。
【0075】
ヒト乳の加工
一旦ヒト乳がスクリーニングされると、高脂肪製品、例えば、ヒトクリーム強化剤組成物または高脂肪標準化ヒト乳組成物を生産するために加工される。提供施設及び乳加工施設は、同じかまたは異なる施設であり得る。乳の加工は、大量のヒト乳、例えば、約75リットル/ロット~約10,000リットル/ロットの出発物質(例えば、約2,500リットル/ロット、または約2,700リットル/ロット、または約3,000リットル/ロット、または約5,000リットル/ロット、または約7,000リットル/ロット、または約7,500リットル/ロット、または約10,000リットル/ロット)で実行され得る。
【0076】
患者に栄養を提供するために、ヒト乳からの脂質を含む組成物の入手方法は、2007年12月10日出願のPCT出願第PCT/US07/86973号(WO2008/073888)に記載され、その内容全体が本明細書に組み込まれる。
【0077】
識別目的及び上記の汚染を回避する目的の両方で、ヒト乳が慎重に解析された後、次いでその乳は、例えば、約200ミクロンフィルターによる濾過及び熱処理を受ける。例えば、組成物は、約63℃以上で約30分間以上処理され得る。次に、乳を分離器、例えば、遠心分離器に移し、上澄みからクリーム(すなわち、脂肪部分)を分離する。この上澄みは、濾過ステップまで、約2~8℃で維持される第2の加工タンクに移され得る。任意に、上澄みから分離したクリームを再度分離にかけて、さらなる上澄みを除去することができる。
【0078】
クリームと上澄みとの分離に続いて、上澄み部分を、さらなる濾過、例えば、超濾過に供する。このプロセスは、水を濾過して除くことによって、脱脂乳中の栄養素を濃縮する。濃縮中に得られた水は、透過液と称される。結果として得られる上澄み部分をさらに加工して、ヒト乳強化剤及び/または標準化ヒト乳製剤を生産することができる。
【0079】
ヒト乳強化剤(例えば、ヒト乳から生産され、様々な濃度の栄養成分を含有する、PROLACTPLUS(商標)ヒト乳強化剤(例えば、PROLACT+4(登録商標)、PROLACT+6(登録商標)、PROLACT+8(登録商標)、及び/またはPROLACT+10(登録商標))及び強化剤の組成物を得るためのヒト乳の加工は、2007年11月29日出願の米国特許出願第11/947,580号(US2008/0124430)に記載され、その内容全体が本明細書に組み込まれる。これらの強化剤を、授乳中の母親の乳に添加して、例えば、早産児のための乳の栄養素含有量を強化することができる。
【0080】
標準化ヒト乳製剤(PROLACT20(商標)、及び/またはPROLACT24(商標)によって例示される)ならびに製剤自体の入手方法もまた、2007年11月29日出願の米国特許出願第11/947,580号(US2008/0124430)において考察され、その内容全体が本明細書に組み込まれる。これらの標準化ヒト乳製剤を使用して、例えば、乳児に授乳することができる。それらは、栄養のあるヒト由来製剤を提供し、母乳の代替となり得る。同様に、そこに記載される標準化ヒト乳製剤の入手方法を使用して、本発明の高脂肪標準化ヒト乳組成物を生産することができる。
【0081】
ヒトクリーム組成物の製剤化
一旦クリーム部分が上澄み部分から分離されると、クリーム部分のカロリー含有量が測定される。好ましい一実施形態において、クリーム部分のカロリー含有量または含脂率は、所望のレベルを上回り、上澄み部分の超濾過からの透過液の量をクリーム部分に添加してもよく、それにより、所望のカロリー含有量を有する調合ヒトクリーム組成物を提供する。代替的に、別の好ましい実施形態において、製剤化ヒトクリーム組成物を提供するために、脱イオン水をクリーム部分に添加してもよい。例えば、ヒトクリーム組成物の所望のカロリー含有量は、1mL当たり約2.0kcal~約3.0kcal以上である。好ましい実施形態において、所望のカロリー含有量は、約2.5kcal/mLである。別の実施例において、ヒトクリーム組成物の所望の含脂率は、約20%~約30%以上の脂質である。ある特定の実施形態において、所望の含脂率は、約25%の脂質である。
【0082】
包装及び低温殺菌
透過液または脱イオン水をクリームに任意に添加した後、クリーム組成物を低温殺菌に供する。例えば、この組成物を、白金硬化シラスチック管を介して高温短時間(HTST)低温殺菌装置に接続された加工タンクに置くことができる。低温殺菌後、クリーム組成物を第2の加工タンクに収集し、冷却することができる。当該技術分野において既知の他の低温殺菌方法が使用され得る。例えば、静止低温殺菌において、タンク内のクリーム組成物を最低63℃に加熱し、最低30分間はその温度で保持する。クリーム組成物の上の空気は、クリーム組成物の温度より少なくとも3℃上に蒸気加熱される。一実施形態において、製品温度は、約66℃以上であり、製品の上の空気温度は、約69℃以上であり、製品は、約30分間以上低温殺菌される。別の実施形態において、HTST及び静止低温殺菌の両方が行われる。
【0083】
低温殺菌されたクリーム組成物は、一般に、無菌で加工される。約2~8℃に冷却した後、製品を所望の容量の容器に充填し、栄養及びバイオバーデン解析のためにクリーム組成物の様々な試料を採取する。栄養解析は、クリーム組成物の適切なカロリー及び脂肪含有量を保証する。栄養解析を反映するラベルが、各容器に生成される。バイオバーデン解析は、微生物汚染物質の存在、例えば、総好気性菌数、B.cereus、E.coli、大腸菌群、Pseudomonas、Salmonella、Staphylococcus、酵母、及び/またはカビについて検査する。バイオバーデン検査は、遺伝子検査であり得る。一旦解析が完了し、所望の結果が得られると、製品は包装され、出荷される。
【0084】
一実施形態において、結果として得られるヒトクリーム組成物は、1mL当たり約2.0kcal~約3.0kcal以上を含む。好ましい実施形態において、ヒトクリーム組成物は、約2.5kcal/mLを含む。結果として得られるヒトクリーム組成物は、約20%~約30%以上の脂肪を含むことが企図される。一実施形態において、ヒトクリーム組成物は、約25%の脂肪を含む。
【0085】
ヒトクリーム組成物及び高脂肪標準化ヒト乳組成物の使用
本明細書に記載されるヒトクリーム組成物は、補助栄養として使用されてもよい。したがって、本明細書に記載されるヒトクリーム組成物は、経腸的または経口的に投与されてもよい(例えば、哺乳瓶授乳)。非経口栄養のためのヒト脂質の使用、経静脈栄養(例えば、総非経口栄養)の実施は、それを必要とする患者について、2007年12月10日出願のPCT出願第PCT/US07/86973号(WO2008/073888)に記載され、その内容全体が本明細書に組み込まれる。
【0086】
開示されるヒトクリーム組成物は、ヒト乳のカロリー含有量を所望のレベルに上昇させるために、乳児、特にBPDを有するLBW児、またはBPDを発症する危険性の高い乳児のためのヒト乳を補充するのに特に有用である。同様に、本明細書に記載される高脂肪標準化ヒト乳組成物は、強化剤を母乳または別のドナー乳/標準化乳製剤と混合する追加のステップなく、VLB児に必要なカロリー含有量を送達するために、BPDを有するか、またはBPDを発症する危険性のあるLBW児に授乳するための調乳済み製剤としても特に有用である。ヒト乳は、NICUの早産児に経腸的に投与される場合が多い。経腸栄養は、経管栄養、例えば、経鼻胃、経口胃、経幽門、及び経皮の実施である。ヒト乳(例えば、母乳またはドナー)は、LBW児のカロリー要件を満たさない場合が多い(Wocjik et al.J Am Diet Assoc,109:137-140,2009)。したがって、一実施形態において、本発明のヒトクリーム組成物が、ヒト乳に添加され、それにより、カロリー含有量を増加させる一方で、乳児の全体的ヒト乳ダイエットを維持し、TPNに関連する合併症を回避する。同様に、クリーム強化乳を模倣する調乳済みヒト乳組成物は、ドナー乳から生産され、それにより、ヒトクリーム強化剤を母乳と混合する必要を回避することができるか、または母乳またはドナー乳が入手可能でない場合にドナー乳から生産され得る。一実施形態において、ヒトクリーム組成物または標準化高脂肪ヒト乳組成物を含む経腸栄養は、早産児またはLBW児用である。別の実施形態において、ヒトクリーム組成物または標準化高脂肪ヒト乳組成物を含む経腸栄養は、気管支肺異形成症(BPD)を有する早産児またはLBW児用である。
【0087】
本明細書に記載されるヒトクリーム組成物及び高脂肪標準化ヒト乳組成物を使用して、BPDを有するか、またはBPDを発症する危険性のある乳児に授乳することができる。一実施形態において、これらの授乳は、改善した臨床転帰をもたらす。一実施形態において、改善した臨床転帰は、低温殺菌ヒト乳クリーム組成物で強化したヒト乳組成物を投与されたBPDを有するか、またはBPDを発症する危険性のある乳児の、病院でのより短い入院期間である。一実施形態において、BPDを有するか、またはBPDを発症する危険性のある乳児の入院期間は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20日以上である。別の実施形態において、改善した臨床転帰は、低温殺菌ヒト乳クリーム組成物で強化したヒト乳組成物を投与されたBPDを有するか、またはBPDを発症する危険性のある乳児の、退院時におけるより早い月経後年齢である。一実施形態において、BPDを有するか、またはBPDを発症する危険性のある乳児の退院時月経後年齢は、少なくとも1、2、3、4、5、または6週間以上である。一実施形態において、本発明のヒトクリーム組成物または高脂肪標準化ヒト乳組成物の送達に関連する改善した臨床転帰は、体長、体重、及び/または頭囲を含む成長メトリクスの増加である。
【0088】
一実施形態において、本発明のヒトクリーム組成物または高脂肪標準化ヒト乳組成物の送達に関連する改善した臨床転帰は、BPDの発生率及び/または重症度の減少である。
【0089】
一実施形態において、ヒト乳のカロリー含有量を所望のカロリーレベルに増加させる方法が提供される。この方法は、ヒト乳の試料(例えば、母親またはドナーまたは母親及び/もしくはドナー由来の乳貯留物)を入手するステップと、ヒト乳のカロリー含有量を測定するステップと、ヒト乳のカロリー含有量を所望のカロリー含有量レベルに上昇させるために必要なヒト乳クリーム組成物の量を決定するステップと、ヒト乳クリーム組成物の量をヒト乳の容器に添加するステップとを含む。例えば、所望のカロリー含有量は、20kcal/oz以上である。別の実施形態において、所望のカロリー目標は、24kcal/oz以上である。別の実施形態において、所望のカロリー目標は、26kcal/oz以上である。別の実施形態において、所望のカロリー目標は、28kcal/oz以上である。別の実施形態において、所望のカロリー目標は、30kcal/oz以上である。別の実施形態において、所望のカロリー目標は、32kcal/oz以上である。別の実施形態において、所望のカロリー目標は、34kcal/oz以上である。別の実施形態において、所望のカロリー目標は、36kcal/oz以上である。別の実施形態において、所望のカロリー目標は、38kcal/oz以上である。別の実施形態において、所望のカロリー目標は、40kcal/oz以上である。ヒト乳のカロリー含有量を増加させるために使用されるヒト乳クリーム組成物は、例えば、約2.5kcal/mL及び/または約25%の脂肪を含み得る。
【0090】
ある特定の例において、ヒト乳強化剤を含有するタンパク質でヒト乳組成物を強化するためにも必須であり得る。特に好ましいヒト乳強化剤には、例えば、米国特許第8,545,920号に記載される、Prolact+(商標)ラインの強化剤が含まれる。
【0091】
一部の例において、授乳されるべき乳児の母親の母乳が入手可能でない。かかる例において、本発明の方法に従い、ドナー乳が使用されてもよい。代替的に、ヒト乳の標準化調乳済み製剤、例えば、PROLACT20(商標)またはProlact24+(商標)が使用されてもよい。稀な例において、ヒト乳が全く入手可能でない場合があり、かかる例では、本発明の方法に従い、乳児用調合乳及び非ヒト乳強化剤が使用されてもよい。
【0092】
一部の例において、その乳児に投与または授乳される総量を保持するために、ヒトクリーム組成物が添加されるヒト乳の量を低減することが望ましい場合がある。例えば、クリーム組成物の添加前に、等量のヒト乳が除去されてもよい。
【0093】
本明細書で引用される全ての文書は、あらゆる目的で、参照によりそれら全体が明示的に組み込まれる。
【実施例】
【0094】
以下の実施例は、本開示を例証することが意図され、限定するものではない。
【0095】
実施例1
ヒト乳クリーム強化剤製品
著しい容積量を添加することなく、母乳またはドナー乳に所望量のカロリーを添加することができる栄養補助を提供するために、経腸的に送達され得、それによりTPNに関連する負の効果を回避する、ヒトクリーム強化剤組成物を生産した。以前にスクリーニングされ、承認されたドナーからのヒト乳を一緒に混合して、ドナー乳の貯留物を生成した。清潔な室内環境において、ドナー乳の貯留物を、特定の病原体及びウシタンパク質についてさらに検査した。具体的に、PCR検査を使用して、乳中のHIV-1、HBV、及びHCVの存在についてスクリーニングした。好気性菌数、Bacillius cereus、Escherichia coli、Salmonella、Pseudomonas、大腸菌群、Staphylococcus aureus、酵母、及びカビについて検査する、微生物パネルも行った。
【0096】
ドナー乳の貯留物を超遠心分離して、クリーム部分及び脱脂乳部分を生成した。次いで、特定の脂肪及びカロリー仕様を満たすように、ヒト脱脂乳超濾過透過液である、上澄み部分から超濾過されたある量の水を添加することによってクリーム部分を製剤化した。具体的に、このクリーム部分は、25%の脂質に標準化され、約2.5kcal/mLを含有していた。
【0097】
次いで、FDAの低温殺菌乳条例に記載されるガイダンスに従い、標準化クリーム組成物を低温殺菌した。低温殺菌に続いて、次いで標準化クリーム組成物を、高密度ポリエチレン瓶に充填し、冷凍した。瓶を計量して、意図される量が瓶に充填されたことを保証した。次いで、微生物パネルからの全てのデータを検討し、全栄養解析が行われるまで、瓶詰めされたクリーム組成物を隔離した。
【0098】
瓶詰めされたクリーム組成物に、ロット特異的「使用期限」の日付及び製品ロット番号をラベル付けした。次いで、クリーム製品を、目的地、例えば、病院にドライアイスを詰めた保冷器に入れて冷凍出荷した。
【0099】
実施例2
標準化高脂肪ヒト乳組成物
著しい容積量を添加することなく、高レベルのカロリーを送達することができる標準化調乳済み製剤を提供するために、経腸的に送達され得、それによりTPNに関連する負の効果を回避する、高脂肪ヒト乳ヒト組成物を生産する。以前にスクリーニングされ、承認されたドナーからのヒト乳を一緒に混合して、ドナー乳の貯留物を生成する。清潔な室内環境において、ドナー乳の貯留物を、特定の病原体及びウシタンパク質についてさらに検査する。具体的に、PCR検査を使用して、乳中のHIV-1、HBV、及びHCVの存在についてスクリーニングする。好気性菌数、Bacillius cereus、Escherichia coli、Salmonella、Pseudomonas、大腸菌群、Staphylococcus aureus、酵母、及びカビについて検査する、微生物パネルも行う。
【0100】
図1は、ヒト乳強化剤を生成する実施形態を示すチャートである。スクリーニングされ、貯留された乳を、例えば、約200ミクロンフィルターによる濾過(ステップ2)、及び熱処理(ステップ3)に供する。例えば、組成物は、約63℃以上で約30分間以上処理され得る。ステップ4において、乳を分離器、例えば、遠心分離器に移し、上澄みからクリームを分離する。この上澄みは、濾過ステップまで、約2~8℃で維持される第2の加工タンクに移され得る(ステップ5)。
【0101】
任意に、ステップ4において上澄みから分離されたクリームを再度分離に供して、さらなる上澄みを得ることができる。
【0102】
クリーム及び上澄みの分離(ステップ4)に続いて、所望量のクリームを上澄みに添加し、組成物を、さらなる濾過(ステップ5)、例えば、超濾過に供する。このプロセスは、水を濾過して除くことによって、脱脂乳中の栄養素を濃縮する。濃縮中に得られた水は、透過液と称される。超濾過中に使用されるフィルターを後洗浄し、結果として生じる溶液を上澄みに添加して、得られる栄養素の量を最大化することができる。次いで、上澄みをクリームとブレンドし(ステップ6)、試料を解析のために採取する。プロセス中のこの時点で、組成物は、一般に、約8.5%~9.5%の脂肪、約3.5%~約4.3%のタンパク質、及び約8%~10.5%の炭水化物、例えば、ラクトースを含有する。
【0103】
ステップ4におけるクリームと上澄みとの分離後に、クリームは、保持タンク、例えば、ステンレス鋼容器に流入する。クリームを、そのカロリー、タンパク質、及び脂肪含有量について解析することができる。クリームの栄養成分含有量が既知である場合、クリームの一部分を、濾過、例えば、超濾過を経た上澄みに添加して(ステップ5)、作製される特定の製品に必要なカロリー、タンパク質、及び脂肪含有量を達成する。低温殺菌前にミネラルを乳に添加することができる。
【0104】
この時点で、加工組成物を、ミネラルの添加前に冷凍し、さらなる加工のために後に解凍することができる。使用しなかった余剰のクリームを、保管、例えば、冷凍することもできる。任意に、加工組成物を冷凍する前に、ミネラル解析のために試料を採取する。一旦加工乳のミネラル含有量が判明すると、組成物を解凍することができ(冷凍されていた場合)、所望量のミネラルを添加して、標的値を達成することができる。
【0105】
ステップ6及び/または任意の冷凍及び/またはミネラル添加後に、組成物を低温殺菌に供する(ステップ7)。例えば、この組成物を、白金硬化シラスチック管を介して高温短時間(HTST)低温殺菌装置に接続された加工タンクに入れることができる。低温殺菌後に、乳を第2の加工タンクに収集し、冷却することができる。当該技術分野において既知の他の低温殺菌方法が使用され得る。例えば、静止低温殺菌において、タンク内の乳を最低63℃に加熱し、最低30分間はその温度で保持する。乳の上の空気は、乳の温度より少なくとも3℃上に蒸気加熱される。一実施形態において、製品温度は、約66℃以上であり、製品の上の空気温度は、約69℃以上であり、製品は、約30分間以上低温殺菌される。別の実施形態において、HTST及び静止低温殺菌の両方が行われる。
【0106】
結果として得られる高脂肪標準化ヒト乳組成物は、一般に無菌で加工される。約2~8℃に冷却した後、製品を所望の容量の容器に充填し、栄養及びバイオバーデン解析のために強化剤の様々な試料を採取する。栄養解析は、組成物の適切な含有量を保証する。栄養解析を反映するラベルが、各容器に生成される。バイオバーデン解析は、汚染物質の存在、例えば、総好気性菌数、B.cereus、E.coli、Coliform、Pseudomonas、Salmonella、Staphylococcus、酵母、及び/またはカビについて検査する。バイオバーデン検査は、遺伝子検査であり得る。
【0107】
実施例3
極早産児に対するヒト乳クリーム製品の使用はより短い入院期間をもたらす
多施設治験において、調査場所の標準授乳プロトコルに従い、乳児に専用のヒト乳ダイエットを授乳した。このダイエットには、低温殺菌ドナーHM由来強化剤、Prolact+H2MF(Prolacta Bioscience,Industry,California)で強化した母乳または低温殺菌ドナーヒト乳が含まれていた。インフォームドコンセントが得られた後に、4つのブロックによって乳児を2つの群にランダム化し、そのサイズは盲検であった。研究群のマスキングは、論理的理由に起因して、研究場所のうちの1つにおいて得られただけであった。
【0108】
一旦乳児が強化した経腸授乳(およそ100cc/kg/d)を耐容し始めると、近赤外線乳解析器(Spectrastar 2400RTW;Unity Scientific,Brookfield Connecticut)による乳解析を開始した。対照群における乳児のベース乳供給は、調査場所における標準実施に従い、解析しなかった。クリーム群にランダム化された乳児は、母乳またはドナー乳が20kcal/ozを下回ることが見出される度にクリームで補充した。Hairらによって概説された手順を介して、クリームを添加した(Hair,A.B.,et al.,Randomized Trial of Human Milk Cream as a Supplement to Standard Fortification of an Exclusive Human Milk-Based Diet in Infants 750-1250g Birth Weight.The Journal of pediatrics,2014.165(5):p.915-920)。
【0109】
新生児の人口統計的特性及び臨床経過を、医療記録から入手した。記録された転帰変数には、医療的(インドメタシンもしくはイブプロフェン経過)または外科的に管理された動脈管開存症(PDA)、血液培養検証済み敗血症、壊死性腸炎(修正されたベル基準(Walsh 1986)によってステージ2以降のNECとして定義される))、BPD(適切な範囲の酸素飽和を維持するための、月経後年齢(PMA)36週における酸素療法の必要性を特徴とする)、脂肪率、入院期間、退院時のPMA、及び成長パラメータ(体重、体長、及び頭囲)が含まれる。全ての成長パラメータを、オルセン曲線上にプロットして(Olsen IE,Groveman SA,Lawson L,Clark RH,Zemel BS.New Intrauterine Growth Curves Based on United States Data.Pediatrics 2010:125;e214)、成長パーセンタイルを得た。
【0110】
BPDを発症した乳児を、この集団の特定の栄養ニーズに起因して、下位群解析のために選択した。BPDを有する対照乳児と、BPDを有する介入群との比較を行った。
【0111】
定量的データにはウィルコクソン順位和検定を使用し、カテゴリーデータにはフィッシャーの直接検定またはその多項等式を使用して、一変量統計解析を行った。クリーム群対対照群における乳児のカテゴリー臨床転帰は、カイ二乗検定を使用して均一性について解析した。LOS及び退院時PMAについての解析には、妊娠期間、出生体重、及びBPDの存在について、BPDとクリーム使用との相互作用と共に、研究群の主要な効果として制御された線形モデルを用い、BPDは、それら2つの相乗交互作用によって表される非線形成分を有し得た。
【0112】
出生時に750~1250gの体重であった合計78人の乳児を、治験においてランダム化し、該乳児のうちの3人を解析から除外した(1人は敗血症及び乳解析の開始前の後次腸閉塞に起因し、1人は臨床的に深刻な先天性心疾患及び染色体異常に起因し、1人は、強化した授乳の開始前の腸穿孔に起因する)。故に、除外基準を適用した後、75人の乳児(対照n=37、クリームn=38)を解析に含めた。
【0113】
研究登録の時点で対照群及びクリーム介入群の乳児特性に有意差はなかった(表2)。21人のBPDを有する乳児も、下位群解析において評価した。BPDを有する乳児の下位群は、ベースライン特性の有意差を全く示さなかった(表3)。
表2.乳児の人口統計及び特性(平均±標準偏差)
【表2】
表3.BPD下位群の人口統計
【表3】
注記:この表におけるカテゴリーデータの全ての解析は、フィッシャーの直接検定またはその多項等式を使用した。
【0114】
臨床転帰を表4に列挙する。これらの転帰は、上記の線形調節モデルを用いた後、対照群と比較して(86±39日)、クリーム群におけるより短い入院期間(LOS)(74±22日)に対する傾向について顕著であり、p値は0.05であった。この傾向は、クリームを受けた乳児の退院時PMAにおいても認められ、クリームを受けなかった乳児より平均1.7週早い退院時PMAを有する(クリーム群の場合、38.2±2.7週、対照群の場合、39.9±4.8週、p=0.03、同じく線形調節モデルを使用する)。同様に、対照群と比較して、クリーム群において増加した体重増加、増加した体長成長、ならびに頭囲の増加の傾向が認められた(体重増加:対照群の場合、12.4g/kg/日±3.9、クリーム群の場合、14.0g/kg/日±2.5;体長:対照群の場合、0.83cm/週±0.41、クリーム群の場合、10.3cm/週±0.33;頭囲:対照群の場合、0.84cm/週±0.22、クリーム群の場合、0.90cm/週±0.19)。これらの転帰は、BPDの存在に関連していた(表5)。驚くべきことに、このサブセットにおいて、クリームを受けた乳児は、対照群より平均17日早く退院したことが認められた(LOSクリーム群の場合、104±23日、対照群の場合、121±49日、p=0.08)。同様に、クリームを受けたBPDを有する乳児の退院時PMAは、BPDを有する対照群より平均3.1週早かった(退院時PMAクリーム群の場合、41.3±2.7週、対照群の場合、44.2±6.1週、p=0.08)。
表4.研究乳児の臨床転帰
【表4】
表5.BPDを有する乳児の臨床転帰
【表5】
【0115】
2つの群間で介入を要する敗血症またはPDAの割合に有意差は認められなかった。同様に、36週での妊娠期間に対して小さいと認められた乳児の割合(オルセン曲線上で10パーセンタイル未満)は、対照群と介入群との間で著しく異ならなかった。この研究において、記録された死亡または壊死性腸炎のエピソードがなかったことは記録に値する。
【0116】
標準強化レジメンに対するアジュバントとして新規のヒト乳由来クリーム補助を受けた早産児は、クリーム補助を受けなかった乳児と比較して、より短いLOS及びより早い退院時PMAを有していたことが見出された。際立ったことに、クリーム補助を受けたBPDを有する乳児はまた、クリーム補助を受けなかったBPD対照と比較して、著しく短いLOS及びより早い退院時PMAを有していた。
【0117】
クリーム群における乳児のより早い退院は、この集団の複数の臨床適応症を有し得る。費用抑制は、最も明らかな利点として存在する。2001 Nationwide Inpatient Sample from the Healthcare Cost and Utilization Projectを解析することによって、Russellらは(Russell RB,et al.Cost of Hospitalization for Preterm and Low Birth Weight Infants in the United States.Pediatrics 2007;120:e1-e9.)、未熟児または低出生体重児の診断が、乳児入院のわずか8%を表す一方で、これらの診断が、費用の47%を占める(およそ58億ドル)ことを見出した。未熟児の一般的な併存症のうち、BPDは、最高額の疾患関連費用に関連することが示され、費用は、BPDを有しない乳児と同じ妊娠期間にわたってケアすることが必要とされる量の2.3倍に達する(Johnson TJ,Patel Al,Jegier BJ,Engstrom JL,Meier PP.Cost of morbidities in very low birth weight infants.J Pediatr 2013;162:243-9)。
【0118】
BPDを有する乳児のサブセットに対して認められた特定の利点は、適切な栄養が、肺の成長及び発達において果たす重要な役割に寄与し得る(Jobe AH.Let′s feed the preterm lung.J Pediatr(Rio J)2006;82(3):165-6、Wemhoner A.et al.Nutrition of preterm infants in relation to bronchopulmonary dysplasia.BMC Pulmonary Medicine 2011;11:7)。複数の動物モデルは、肺構造に対する栄養失調の悪影響を示してきた。Matalounらは、30%のカロリー制限が、早産ウサギの肺の肺胞数及びコラーゲン沈着を著しく低減したことを示した(Mataloun MM,Rebello CM,Mascaretti RS,Dohlnikoff M,Leone CR.Pulmonary responses to nutritional restriction and hyperoxia in premature rabbits.J Pediatr(Rio J)2006;82:179-85)。同様に、Massaroらが、成体ラットの摂取を制限した場合、肺胞数は55%減少し、肺胞表面積は、5%低減した(Massaro GD et al.Lung alveoli:endogenous programmed destruction and regeneration.Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2002;283:L305-9.)。これらの変化は、飢餓のヒトモデル、例えば、第二次世界大戦中にワルシャワゲットーの捕虜において検死で認められた気腫性変化(Massaro D,Massaro GD.Hunger Disease and Pulmonary Alveoli.Am J Respir Crit Care Med 2004;170:723-4)、及び拒食症を有する若い女性においてCT走査で認められた気腫性変化(Coxson HO et al.Early Emphysema in Patients with Anorexia Nervosa.Am J Respir Crit Care Med 2004;170:748-752)において確証された。故に、我々の研究における対照被検体の減少したカロリー摂取は、出生後期間における肺発達を継続する能力を干渉した可能性がある。この栄養不良は、次に肺機能を低下させた可能性があり(Binwale and Ehrenkranz,2006)、さらなる合併症をもたらし、それが入院を長引かせる。
【0119】
介入群の授乳において提供される増加したヒト乳脂肪及び脂質含有量もまた、BPDを有する者に明確な影響を及ぼし得る。増加した含脂量は、ビタミンA等の脂溶性ビタミンのバイオアベイラビリティを改善し(Binwale and Ehrenkranz,2006)、独立して、BPDの発生を低減することが示された(Ehrenkranz 2014;Atkinson SA.Special Nutritional Needs of Infants for Prevention of and Recovery from Bronchopulmonary Dysplasia.J Nutr 2001;131:942S-46S)。BPDを有する乳児の増加したカロリー必要量を満たすために追加の脂質を送達することもまた(Binwale and Ehrenkranz,2006 and Theile et al,2012)、脂肪の代謝が、炭水化物より少ない二酸化炭素を生成するため有利であり得る(Binwale and Ehrenkranz,2006)。さらに、ヒト乳において見出された特定の脂質が、全体臨床的利点をもたらすのを助けた可能性がある。例えば、イノシトールは、肺界面活性物資の合成及び分泌を促進することが示唆される、ヒト乳において発生するリン脂質である(Atkinson,2001)。Rudigerら(Rudiger M,et al.Preterm infants with high polyunsaturated fatty acid and plasmalogen content in tracheal aspirates develop bronchopulmonary dysplasia less often.Pediatr Crit Care Med.2000;28:1572-77)もまた、気管吸引物中に高濃度の多価不飽和脂肪酸を有する早産児が、BPDを発症する可能性が低かったことを示した。
【0120】
さらに、このクリーム製剤は、2.5kcal/mLで、総授乳量の大幅な増加なしに、相当量のカロリーが添加されるのを可能にする。水分制限は、肺浮腫を発症する素質に起因して、VLBW児の管理において特に重要である(Biniwale and Ehrenkranz,2006)。対応して、生後10日間のより多い水分摂取及びより少ない体重減少が、乳児がBPDを発症する危険性を増加させることが示されてきた(Oh W,et al.Association Between Fluid Intake and Weight Loss during the First Ten Days of Life and Risk of Bronchopulmonary Dysplasia in Extremely Low Birth Weight Infants.J Pediatr 2005;147:786-90.)。実際に、Wemhonerら(Wemhoner et al 2011)は、生後14日間に推奨される1840mL/kgより多くの水分を受けた研究における全ての乳児が、BPDを発症したことを見出した。より高い水分摂取は、出生後の細胞外液濃縮のプロセスを阻害し、減少した肺コンプライアンスをもたらし、より高い人工呼吸器補助を必要とすることで、肺組織を損傷し、疾患を引き起こし得ると仮定されてきた(Oh et al 2005)。故に、安全な高カロリーの授乳を提供するための機序の改善は、この集団にとって最も重要である。水分摂取におけるこの高カロリー製品及びその他の有効性、ならびに併存症の後次発達に関するさらなる研究が行われるべきである。
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まとめると、本発明のクリーム補助を受ける乳児は、より短い入院期間及びより早い退院時PMAを有していた。この傾向は、BPDを有する乳児のサブセットに特に影響すると思われた。この見出は、医療費の減少、個々の強化戦略の改善、及び早産児の全体栄養の増強において大きな意味を持つ。適切な栄養は、クリーム補助の添加と共に、専用ヒト乳ダイエットを使用して、または標準化高脂肪ヒト乳製剤を使用することから得ることができる。